説明

転がり軸受装置

【課題】タイヤ空気圧を調整する装置に使用する密封装置の構造の簡素化を図り、摩擦トルクを低減させて、燃費悪化を防止する転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】タイヤ空気室5bへの圧縮流体供給源9を備えた車両用タイヤ圧調整装置に使用され、内輪2bと外輪2aと転動体2cと、を備える転がり軸受装置1であって、内輪2bと外輪2aとの間の環状空間室2f内に、前記外輪2a内周の全周から一体形成され、前記内輪2b側へ突出される環状の突条壁2a2の突出端面と内輪2bの外周面との間に装着されるシール部材11と、圧縮流体流路の一部として外輪2a内部に形成された外輪流通孔2a1と連通形成された突条壁2a2内部の突条壁流通孔2a3と、内輪2b内部に形成された内輪流通孔2b1と、を備え、前記シール部材11の間を密封させて接続空間Sを形成し、前記突条壁流通孔2a3と内輪流通孔2b1とを連通させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のタイヤ空気圧を調整するシステムに使用可能な転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
路面状況や走行速度などの諸条件に対応して、自動車の走行を良好にするためのシステムとして、自動車の走行中にタイヤ空気圧を調整可能となしたものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−255228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このタイヤ空気圧調整システムは、車両側の圧縮エア供給源をエア流路によってタイヤに接続している。このエア流路は、タイヤを取り付けるハブベアリングを通って設けられている。このハブベアリングは、タイヤを取り付けるハブを内輪で回転自在に支持し、かつナックルに固定される外輪を備えている。そして、このハブベアリングの内外輪間の空間を利用してエア流路が形成されている。この空間のエア流路は、内外輪の相対回転を許容するシール材によって気密に保たれている。
【0005】
このシール材は、図5に示すように、外輪Aの内周側に嵌合する芯金Bに加硫接着させるゴム状弾性体からなるシールリップCを備え、該シールリップCには内輪Dの外周側に所望する緊迫力によって接触させるように環状スプリングEが設けられている。このため、エア給排気以外で、ハブベアリングの内外輪間の空間が加圧されていないとき(大気開放)でも、この緊迫力が維持されるようになっている。このため、緊迫力に応じた摩擦トルクにより燃費が悪化する課題を有している。
【0006】
本発明の課題は、タイヤ空気圧を調整する装置に使用する密封構造の簡略化を図りながら、摩擦トルクを低減させて、燃費悪化を防止するようにした転がり軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の転がり軸受装置は、ホイールに装着されたタイヤ内のタイヤ空気室に、圧縮流体流路を介して圧縮流体が供給可能な圧縮流体供給源を備えた車両用タイヤ圧調整装置に使用され、車両固定部材に接続される外輪と、前記タイヤに接続される内輪と、前記内輪と前記外輪との間に介在される転動体と、を備える転がり軸受装置であって、前記内輪と前記外輪との間の密封される環状空間室内に、前記外輪内周の全周から一体形成され、前記内輪側へ突出される環状の突条壁と、前記突条壁の突出端面と内輪の外周面との間に保持されるように装着されるシール部材と、前記圧縮流体流路の一部として外輪内部に形成された外輪流通孔と、該外輪流通孔と連通形成された前記突条壁内部の突条壁流通孔と、前記内輪内部に形成された前記圧縮流体流路の一部としての内輪流通孔と、を備え、前記シール部材は、一対をなして前記外輪の軸方向で並列配置され、このシール部材の間を密封させて接続空間を形成し、この接続空間によって、前記突条壁流通孔と前記内輪流通孔とを連通させつつ密封させることを特徴とする。
【0008】
上記構成とすることにより、突条壁と内輪との間の接続空間は環状となるため、シール部材としてリング状のものが使用できる。このリング状のシール部材は汎用性が高く、その装着構造も、突条壁若しくは内輪の一方に溝を形成することで対応できるので、密封構造の簡略化を図ることができる。また、リング状のシール部材は圧縮流体による圧力変化による変形は少なく、シール力(緊迫力)の増加による摩擦トルクに与える影響を小さくできる。また、背景技術のように外輪に嵌合する際は、位置決めに手間を必要としていたが、本発明は、一体形成される突条壁であるため、内輪とのシール位置に手間をかけずに位置決めするように組み立てできる。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の転がり軸受装置の前記シール部材はリング状に形成され、前記突条壁の突出端面に装着されたことを特徴とすることにより、シール部材の装着は内周装着であるため、装着時の作業性を簡易にでき、しかも、リング状のシール部材は、Oリング、Xリング、Tリング、Dリングなどの多種類のものから選択することが可能となる。また、このようなリング状のシール部材は圧縮流体による圧力による変形は少なく、シール力(緊迫力)の増加による摩擦トルクに与える影響を小さくできる。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の転がり軸受装置の前記シール部材は低摩擦材からなることを特徴とすることにより、摩擦トルクに与える影響をさらに少なくすることができ、しかも、シール部材自体の磨耗による耐久性も向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態につき図面に示す実施例を参照して説明する。図1は、本発明に係る転がり軸受装置の取付状態の断面図である。図1において、転がり軸受装置1は、固定輪としての外輪2aと、回転輪としての内輪2bと、該内輪2bと外輪2aとの間に介在される複数列で配列される転動体2cから構成される転がり軸受2を備えている。
【0012】
また、内輪2bは図示のごとく一体形成されたものであるか、軸方向Zで分割された2体の別体からなる分割体であるか、さらには車両アウター側の分割体と後述するハブ4の圧入軸部4bとを一体化させるようにするかは限定されない。また、環状空間室2f内にはグリースが封入される。
【0013】
この転がり軸受2には、外輪2aと内輪2bとの間の環状空間室2fを外部から密封するための密封装置2gが設けられる。該密封装置2gは転がり軸受2の軸方向Zの両端側に設けられる。
【0014】
転がり軸受2は車両における懸架装置の車両インナー側のナックル、アクスルハウジングなどの車両固定部材3の取付口3aに接続される。この接続は転がり軸受2の外輪2aを取付口3a内に挿入して嵌装するとともに、外輪2aから外方へ突設されるフランジ部2dをボルト・ナットなどの締結部材2eを介して車両固定部材3の取付口3aの周辺面(車両アウター側)に固定させている。
【0015】
転がり軸受2の内輪2bはハブ4と接続されている。ハブ4は車両アウター側に車輪5を装着するためのハブボルト4aを有している。この車輪5はホイール5aに装着されてタイヤ空気室5bを形成するタイヤ5cを備えている。
【0016】
ハブ4の車両インナー側には、転がり軸受2の内輪2bに圧入嵌装される圧入軸部4bを有しており、該圧入軸部4bを内輪2bに圧入してハブ4を内輪2bとともに回転可能に設けている。ハブ4は、ドライブシャフト6に対しスプライン結合され、ドライブシャフト6の一端側をハブ4の圧入軸部4bに形成される挿通孔4cに通し、この端部にナット7を螺合することにより固定されている。
【0017】
この転がり軸受装置1を用いる懸架装置には、図4に示すように、車輪5のタイヤ空気室5b内の空気圧を調整するための車両用タイヤ圧調整装置8が設けられている。この車両用タイヤ圧調整装置8は、車両側に装備される圧縮流体を蓄圧するアキュムレータや、圧縮流体を発生させるコンプレッサーなどの圧縮流体供給源9と、この圧縮流体供給源9の圧縮流体をタイヤ空気室5bに供給するための圧縮流体流路10とを備えている。
【0018】
圧縮流体流路10は、図1、4に示すように、転がり軸受装置1が車両固定部材3に取付られ、車輪5が装着された状態で、車両固定部材3内部に形成された固定部材流通孔3bと、外輪2a内部に形成された外輪流通孔2a1と、外輪2aと内輪2bの間における環状空間室2f内に設けられる軸受流路部2d1と、内輪2b内部に形成された内輪流通孔2b1と、ハブ4内部に形成されたハブ流通孔4eと、ホイール5a内部に形成されたホイール流通孔5a1とが連続して連通するように接続されている。
【0019】
軸受流路部2d1は複列に配設される転動体2c間に設けられる。転動体2c間の環状空間室2f内には、前記外輪2a内周の全周から一体形成され、軸方向Zに所定幅を有する環状の突条壁2a2が内輪2b側へ突出されている。この突条壁2a2内部には、外輪流通孔2a1と連通形成された突条壁流通孔2a3が設けられる。
【0020】
この突条壁流通孔2a3と内輪流通孔2b1とを連通接続している。この接続箇所にはリング状の一対のシール部材11が設けられている。このシール部材11は突条壁流通孔2a3の開口側である突条壁2a2の突出端面に装着されている。具体的には、突条壁2a2の内周側で突条壁流通孔2a3の開口部を間にして、その開口部の両側(軸方向Z)に並列形成されるシール装着溝2a4内に2体のシール部材11を装着している。そして、この2体のシール部材11は内輪2bの円状の外周面に接触され、シール部材11の間を密封するようにして接続空間Sを形成している。この接続空間Sによって、突条壁流通孔2a3と内輪流通孔2b1とを連通させている。
【0021】
このシール部材11としては、Oリング以外には、図3(a)に示すような断面X字状のXリング、図3(b)に示すような断面T字状のTリング、図3(c)に示すような断面D字状のDリングなどが挙げられる。また、シール部材11の材質は、ゴム状弾性体からなる低摩擦性能を備えるものとして、例えばシール部材11の少なくともその表面部位を低摩擦材としてのフッソ樹脂で被覆したものや、全体を低摩擦材で形成することができる。
【0022】
このように構成された転がり軸受装置1は、例えばタイヤ空気室5bのタイヤ圧を高く調整する場合には、圧縮流体供給源9の圧縮流体を、圧縮流体流路10を介してタイヤ空気室5b内に送るようにする。なお、例えば圧縮流体流路10のハブ流通孔4eを外部に開放することにより、転がり軸受装置1自体を圧縮空気によって冷却するように使用することも可能となり、転がり軸受装置の長寿命化を図ることができる。
【0023】
この圧縮流体の加圧供給時にあっては、圧縮流体流路10の一部を構成する軸受流路部2d1も加圧状態となっている。この状態における軸受流路部2d1を密封するシール部材11は、自身が所定のつぶし代によって弾性変形することによるシール力(緊迫力)で圧縮空気の漏れを防止している。しかも、このシール部材11は軸受流路部2d1内の圧縮流体による圧力による変形は少なく、シール力の増加による摩擦トルクに与える影響を小さくすることができる。また、シール部材11が低摩擦機能を備えたものである場合には、摩擦トルクに与える影響をさらに少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る転がり軸受装置の取付状態の断面図。
【図2】転がり軸受装置の部分拡大図。
【図3】シール部材の他の例を示す部分断面図。
【図4】圧縮流体経路の系統概略図。
【図5】背景技術のシール材を示す図。
【符号の説明】
【0025】
1 転がり軸受装置
2a 外輪
2a1 外輪流通孔
2a2 突条壁
2a3 突条壁流通孔
2b 内輪
2b1 内輪流通孔
2c 転動体
2d1 軸受流路部
2f 環状空間室
5a ホイール
5b タイヤ空気室
5c タイヤ
8 車両用タイヤ圧調整装置
9 圧縮流体供給源
10 圧縮流体流路
11 シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイールに装着されたタイヤ内のタイヤ空気室に、圧縮流体流路を介して圧縮流体が供給可能な圧縮流体供給源を備えた車両用タイヤ圧調整装置に使用され、車両固定部材に接続される外輪と、前記タイヤに接続される内輪と、前記内輪と前記外輪との間に介在される転動体と、を備える転がり軸受装置であって、
前記内輪と前記外輪との間の密封される環状空間室内に、前記外輪内周の全周から一体形成され、前記内輪側へ突出される環状の突条壁と、
前記突条壁の突出端面と内輪の外周面との間に保持されるように装着されるシール部材と、
前記圧縮流体流路の一部として外輪内部に形成された外輪流通孔と、
該外輪流通孔と連通形成された前記突条壁内部の突条壁流通孔と、
前記内輪内部に形成された前記圧縮流体流路の一部としての内輪流通孔と、
を備え、
前記シール部材は、一対をなして前記外輪の軸方向で並列配置され、このシール部材の間を密封させて接続空間を形成し、この接続空間によって前記突条壁流通孔と前記内輪流通孔とを連通させることを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
前記シール部材はリング状に形成され、前記突条壁の突出端面に装着されたことを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受装置。
【請求項3】
前記シール部材は低摩擦材からなることを特徴とする請求項1、又は2に記載の転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−286309(P2009−286309A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142363(P2008−142363)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】