説明

転がり軸受

【課題】低コストであり、入り組んだ位置にあっても焼付きの兆候を発見可能な転がり軸受を提供する。
【解決手段】外輪2と、内輪1と、外輪2と内輪1の間で転動するボール3と、外輪2と内輪1の間を密封する環状のシール部材5とを有する転がり軸受において、外輪2と内輪1とシール部材5のうちの少なくとも1つの部材の軸方向端面に、温度に応じて色が変化する塗料を塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、焼付きの兆候を視認可能とした転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械の回転部材は、一般に、転がり軸受で支持される。この転がり軸受は、軸受内のグリースの消耗や、軸受内への塵芥の侵入などによって焼付きを生じることがあり、軸受が焼き付くと、機械の運転が停止し、重大な損害が発生するおそれがある。
【0003】
そこで、転がり軸受の焼付きが生じる前に、焼付きの兆候を発見するため、熱電対などの温度センサを軸受に取り付け、その温度センサからの検知信号に基づいて、回転中の軸受の温度を監視する方法が行なわれているが、この方法では、温度センサの電気配線を行なう必要があり、コスト高である。
【0004】
ところで、電気配線を行なわずに、軸受の温度を監視可能な転がり軸受として、転がり軸受の表面に凹部を形成し、その凹部内に有色液を収容させ、その凹部をヒューズ部材で密封したものが提案されている(特許文献1)。
【0005】
この転がり軸受は、軸受内のグリースの消耗などによって、軸受の温度が異常に上昇すると、ヒューズ部材が溶融して凹部から有色液が流出し、その有色液を視認することによって、焼付きの兆候を知ることができる。
【特許文献1】特開平9−236496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記転がり軸受は、有色液を収容する凹部を軸受に形成し、さらに、その凹部をヒューズ部材で密封する必要があるので、軸受の製造コストが高い。
【0007】
また、回転中の転がり軸受の温度を、赤外線による非接触式温度センサで測定する方法も考えられるが、この方法では、転がり軸受が入り組んだ位置にある場合、非接触式温度センサの視野内に軸受を入れるのが難しく、軸受の温度を測ることが難しかった。
【0008】
この発明が解決しようとする課題は、低コストであり、入り組んだ位置にあっても焼付きの兆候を発見可能な転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、外輪と、内輪と、前記外輪と前記内輪の間で転動する転動体と、前記外輪と前記内輪の間を密封する環状のシール部材とを有する転がり軸受において、前記外輪と前記内輪と前記シール部材のうちの少なくとも1つの部材の軸方向端面に、温度に応じて色が変化する塗料を塗布した。このようにすると、塗料の色に基づいて、軸受の温度の異常上昇を知ることができ、焼付きの兆候を発見することができる。
【0010】
また、この発明の発明者は、転がり軸受の温度が上昇するときに、前記外輪の軸方向端面と前記内輪の軸方向端面と前記シール部材の軸方向端面のうちの内輪の軸方向端面が最も温度上昇を生じやすく、内輪の軸方向端面に前記塗料を塗布すると、より確実に焼付きの兆候を発見可能であることを見出した。
【発明の効果】
【0011】
この発明の転がり軸受は、軸受に塗料を塗布するだけで製造可能なので、低コストである。また、この転がり軸受は、入り組んだ位置にあっても、ミラー等を用いて塗料の色を識別することにより、焼付きの兆候を発見することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1に、この発明の実施形態の転がり軸受を示す。この転がり軸受は、内輪1と、外輪2と、内輪1と外輪2の間に組み込まれたボール3と、ボール3を保持する保持器4と、シール部材5とからなる。
【0013】
内輪1の外周と外輪2の内周にはそれぞれ、周方向に連続する断面円弧状の軌道面6、7が形成されており、この軌道面6,7をボール3が転がることにより、内輪1と外輪2が相対回転する。
【0014】
外輪2は、軌道面7を挟む両側に、周方向に連続するシール溝8が形成され、そのシール溝8で、環状のシール部材5を保持している。シール部材は、内輪1と外輪2の間に形成される環状空間9を密封し、内輪1と外輪2の間にグリースを保持している。
【0015】
内輪1の軸方向端面10には、温度に応じて色が変化する塗料が塗布されている。
【0016】
この転がり軸受は、たとえば次のようにして使用する。まず、図1に示すように、内輪1内に回転軸Aを嵌め合わせるとともに、外輪2を固定部材B内に嵌め合わせる。その状態で、回転軸Aが回転すると、回転軸Aと内輪1が一体に回転し、ボール3が軌道面6,7を転がる。このとき、内輪1と外輪2の間に保持されたグリースは、ボール3と内輪1の接触面、ボール3と外輪2の接触面、ボール3と保持器4の接触面をそれぞれ潤滑するが、グリースの消耗や、軸受内に侵入した塵芥によって、各接触面の摩擦が大きくなると、内輪1、外輪2、シール部材5の温度が異常に上昇し、内輪1の軸方向端面10の塗料の色が変化する。
【0017】
このように、この転がり軸受は、シール部材5の温度が異常に上昇すると、内輪1の軸方向端面10の塗料の色が変化するので、その塗料の色に基づいて、軸受の温度の異常上昇を知ることができ、焼付きの兆候を発見することができる。たとえば、内輪1と外輪2が軸受鋼からなる場合、軸受鋼の使用温度の上限は120℃なので、90℃で色が変化する塗料を内輪1の軸方向端面10に塗布しておけば、塗料の色に基づいて、軸受の焼付きの兆候を発見することができる。
【0018】
また、この転がり軸受は、内輪1の軸方向端面10に塗料を塗布するだけで製造可能なので、有色液を収容する凹部を内輪1に形成したり、その凹部をヒューズ部材で密封したりする必要がなく、低コストである。また、この転がり軸受は、入り組んだ位置にあっても、ミラー等を用いて内輪1の軸方向端面10を視認して、塗料の色を識別することにより、焼付きの兆候を発見することができる。
【0019】
また、この転がり軸受は、転がり軸受の流通過程において、内輪1の軸方向端面10に熱を加えたときに塗料の色が変化するか否かを判別することにより、軸受が真正品か模造品かを識別することができる。そのため、従来のように、軸受が真正品か模造品かを識別するために、軸受の加工精度を計測したり、特開2004−263724号公報に記載された転がり弾軸受のように軸受にICタグを埋め込んだりする必要がなく、真正品か模造品かの判別作業を低コストで簡単に行なうことができる。この場合、温度に応じて色が変化する塗料は、温度が変化しても色が変化しない塗料と併用することにより、温度が上昇したときに、識別マークが浮き出すようにすると好ましい。
【0020】
温度に応じて色が変化する塗料は、内輪1の軸方向端面10にかえて、外輪2の軸方向端面11に塗布してもよく、また、シール部材5の軸方向端面12に塗布するようにしてもよい。
【0021】
ところで、転がり軸受の温度上昇は、主として、ボール3と内外輪1,2との間の摩擦によって生じ、その摩擦により発生した熱は、主として、内外輪1,2を通じて回転軸Aと固定部材Bに放出されるが、外輪2の外径側に配置される固定部材Bは、熱を拡散しやすいのに対して、内輪1の内径側に配置される回転軸Aは、熱がこもりやすい。
【0022】
そのため、内輪1の軸方向端面10と外輪2の軸方向端面11とシール部材5の軸方向端面12のうちの内輪1の軸方向端面10が最も温度上昇を生じやすく、上記実施形態に示すように、内輪1の軸方向端面10に塗料を塗布すると、より確実に焼付きの兆候を発見することができる。
【0023】
上記実施形態では、深溝玉軸受を例に挙げているが、この発明は、アンギュラ玉軸受や、自動調心玉軸受、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受など、他の形式の転がり軸受にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施形態の転がり軸受を示す断面図
【符号の説明】
【0025】
1 内輪
2 外輪
3 ボール
5 シール部材
10,11,12 軸方向端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪(2)と、内輪(1)と、前記外輪(2)と前記内輪(1)の間で転動する転動体(3)と、前記外輪(2)と前記内輪(1)の間を密封する環状のシール部材(5)とを有する転がり軸受において、前記外輪(2)と前記内輪(1)と前記シール部材(5)のうちの少なくとも1つの部材の軸方向端面に、温度に応じて色が変化する塗料を塗布したことを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記内輪(1)の軸方向端面(10)に前記塗料が塗布されていることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。

【図1】
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【公開番号】特開2008−261354(P2008−261354A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102510(P2007−102510)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】