説明

転写シート

【課題】シャープな図柄等を精度よく、クラック等の欠陥なく容易に布帛等上に転写でき、しかも色移りがなく、ごわごわ感のない転写シートを提供する。
【解決手段】接着層側表面がポリオレフィン系樹脂層である基材上に、接着層(A)、白色隠蔽層(B)、インク受理層(C)の順に積層されてなる転写シート、及び接着層側表面がポリオレフィン系樹脂層である基材上に、接着層(A)、バリア層(D)、白色隠蔽層(B)、インク受理層(C)の順に積層されてなる転写シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Tシャツ、ジャージ、ユニフォーム、運動シューズ等(以下、布帛等という)に図柄、文字、数字、ロゴ、商号、各種マーク(以下、図柄等という)を転写(いわゆる写し絵)するために用いられる転写シートに関するもので、さらに詳しくは、インクジェットプリンターやカラーコピー機を用いて印刷された図柄や文字を、その輪郭線に沿ってハーフカットし、不要部分を取り除いた後アプリケーションフィルムを用いて図柄等を移し取り、これを布帛等に転写する転写方法において有用に用いられる転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、布帛等に図柄等を貼り付ける方法として、ホットメルト樹脂を、フェルト等の布地に含浸或いは積層したものが知られており、これらを所定形状に切断した後、布帛等の所定位置に載置し、熱圧プレスすることによって固定する方法が行われていた。
近年インクジェットプリンターやカラーコピー機の普及により、例えば、基材上に、接着層、白色隠蔽層を積層した構成の転写シートといわれる画像受理メディアにカラー画像を印刷し、これを画像の輪郭線で離型シートのみを残して切断(以下、ハーフカットと略称することがある)し、不要な部分を取り除き、図柄等のみを布帛等に貼り付ける画像転写技術が普及しつつある。なお、画像の印刷や、輪郭線でハーフカットに用いられる機器としては、例えば、ローランド社製のCAMM−1SERVO GX−24や、ミマキエンジニアリング社製のCGシリーズ、CFシリーズがある。
【0003】
このようにしてハーフカットされ、不要部を取り除いた図柄等を布帛等に転写するには、図柄等の面にアプリケーションフィルム(リタックシート(登録商標)、リタックフィルムともいう)と呼ばれる粘着力を持ったシートを貼付し、図柄等を転写シートの基材からアプリケーションフィルム側へ移し取り、次いでこれを布帛等の所望の位置に載置し、アプリケーションシート側から熱圧プレスし、しかる後にアプリケーションシートを取り除くという方法がとられる(特許文献1、2参照)。
【0004】
この様な方法により、たとえ少量であっても安価に、簡便にシャープで鮮明な図柄を布帛等に転写することが可能となった。しかしながら、例えば、インクジェットプリンターやカラーコピー機を用いてカラー画像を印刷した場合に、印刷が鮮明でないという問題や、転写シートから図柄等をアプリケーションフィルムに移し取る際に、図柄等をうまく移し取れないという問題、或いは印刷後に図柄等にクラックを生じるという問題があった。
また、布帛等が濃色の染料で染色されたものであった場合、布帛等に用いられていた染料が熱圧プレス時に昇華して、接着層、白色隠蔽層にまで到達してしまい、図柄等が本来有していた色調を失ってしまう(以下、「色移り」や「色移り性」と称することがある)という問題もあった。
この「色移り」の問題については、着色層(白色隠蔽層)と熱溶融性接着剤(接着層)の間にバリア層を設けること(特許文献3、4参照)が提案されている。しかしながら、単に、先行文献に例示されているバリア層を設けてもその効果は十分なものとはいえなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平2−250797号公報
【特許文献2】特開平4−27992号公報
【特許文献3】特開平7−26479号公報
【特許文献4】特開平8−134783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、インクジェットプリンターやカラーコピー機を用いて転写シートに印刷された図柄等を、その輪郭線に沿ってハーフカットし、不要な部分を除去した後、アプリケーションフィルムを用いて、図柄等を移し取り、これを布帛等に熱圧プレスすることにより転写する方法において用いられる転写シートに、
第1に、鮮明な印刷が可能な転写シートを提供することを目的とするものであり、
第2に、布帛等に用いられていた染料が熱圧プレス時に昇華して、接着層、白色隠蔽層にまで到達する、所謂「色移り」が防止された転写シートを提供することを目的とすることであり、
第3に、図柄等に印刷を施しても図柄面にクラックが入ることのない転写シートを提供することを目的とするものであり、
第4に、図柄等を効率よく、容易に移し取ることができる転写シートを提供することを目的とするものであり、
第5に、転写後の図柄層が柔軟で、ごわごわした感じのしない転写シートを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記した課題を解決するため鋭意研究を行った結果、本発明に到達した。即ち本発明は、
(1)接着層側表面がポリオレフィン系樹脂層である基材上に、接着層(A)、白色隠蔽層(B)、インク受理層(C)の順に積層されてなる転写シート。
(2)接着層側表面がポリオレフィン系樹脂層である基材上に、接着層(A)、バリア層(D)、白色隠蔽層(B)、インク受理層(C)の順に積層されてなる転写シート。
(3)接着層(A)が熱可塑性ポリウレタン樹脂からなることを特徴とする(1)又は(2)に記載の転写シート。
(4)白色隠蔽層(B)が、ポリウレタン樹脂に白色顔料を配合したものであることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の転写シート。
(5)白色隠蔽層(B)が発泡剤を含むものであることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の転写シート。
(6)インク受理層(C)がポリウレタン樹脂からなることを特徴とする(1)乃至(5)のいずれかに記載の転写シート。
(7)バリア層(D)がエチレン・ビニルアルコール共重合体からなることを特徴とする(2)乃至(6)のいずれかに記載の転写シート。
(8)基材と接着層(A)との剥離強度が10〜45g/15mm巾であることを特徴とする(1)乃至(7)のいずれかに記載の転写シート。
【発明の効果】
【0008】
本発明の転写シートは、
第一に、白色隠蔽層(B)を有しているので、被転写材の色合いに影響されることなく図柄等の本来の色合いが損なわれることがない。また、白色隠蔽層(B)としてポリウレタン樹脂をマトリクスとし、白色顔料を配合分散させたものとした場合には、合成樹脂に充填剤を配合しているにもかかわらず、柔軟性の低下を最小限にとどめることができるという効果を付加することができる。
更に、白色隠蔽層(B)に発泡剤を含有させた場合は、前記効果に加えて熱圧プレス時に白色隠蔽層(B)が発泡し、図柄等に立体感を与えることができるという効果を付加することができる。
第二に、白色隠蔽層(B)の表面にインク受理層(C)を設けているのでインクジェットによる印刷をより鮮明に施すことができる。特に、インク受理層(C)をポリウレタン樹脂とした場合は、印刷インクの吸い込みがよく鮮明な図柄とすることができると共に転写後の布帛の柔軟な触感が保たれるという効果を付加することができる。
【0009】
第三に、接着層(A)と白色隠蔽層(B)の間にバリア層(D)を配した場合は、色移りがなく図柄等が本来有していた色相を失うことがない。更に、バリア層(D)として、エチレン・ビニルアルコール共重合体を使用した場合には、従来公知のバリア層にはない「色移り」防止効果を有しているので、被転写材の色合いに影響されることなく図柄等の本来の色合いが損なわれることがないという効果を有している。
第四に、接着層(A)として熱可塑性ポリウレタン樹脂を使用した場合は布帛等への接着が良好であるのみならず、柔軟な触感が保たれるという効果を有している。
第五に、基材の接着層側表面をポリオレフィン系樹脂層とすることで、基材と接着層(A)との剥離強度を微妙に調節することができ、特に、接着層(A)との剥離強度を10〜45g/15mm巾とした場合は、図柄等をアプリケーションフィルムに移し取る際、基材と接着層(A)を剥離させる作業性が良好であり、図柄等にクラックが入るのを防止できるという効果を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
まず、本発明の転写シートは、基材上に、接着層(A)、白色隠蔽層(B)、インク受理層(C)の順に積層されてなる構成、若しくは基材上に、接着層(A)、バリア層(D)、白色隠蔽層(B)、インク受理層(C)の順に積層されてなる構成を有するものである。ここで、「順に積層されてなる」なる用語は、各層が上述した順序でという意味であって、各層の間にその他の層を設けた場合も本発明の転写シートに含まれる。
【0011】
[基材]
基材は、転写シートを用いて布帛等に図柄等を転写するまでの間、転写シート全体を保持すると共に接着層(A)を保護し、転写の際には接着層(A)から剥離除去されるものである。
本発明の転写シートにおける基材は、接着層側表面(接着剤層(A)と接する層)がポリオレフィン系樹脂層であることを必須要件とするものであり、例えば、紙、合成紙、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン等から選ばれる基材本体にポリオレフィン系樹脂が積層されたもの、或いは全体がポリオレフィン系樹脂からなるものがあげられる。接着層側表面に配するポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリメチルペンテン、エチレン・プロピレン共重合体の他、エチレンとビニルエステルとの共重合体、エチレンと(メタ)アクリル酸との共重合体、エチレンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体、エチレンと無水マレイン酸との共重合体等が挙げられる。
【0012】
上記した中でも、エチレンとビニルエステルとの共重合体、特に、エチレン・酢酸ビニル共重合体を用いた場合に接着層(A)と適度な接着強度で接着させることができるので好ましい。接着強度はエチレン・酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含量を変えることで調節することができ、好ましい酢酸ビニル含量は7〜35重量%、より好ましくは10〜25重量%である。なお酢酸ビニル含量は、酢酸ビニル含量の異なる樹脂をブレンドすること、或いはエチレン・酢酸ビニル共重合体と低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレンとをブレンドすることで調整することができる。
本発明の転写シートにおいて最も好ましい基材は基材本体に紙を使用して、紙に低密度ポリエチレン及びエチレン・酢酸ビニル共重合体をこの順序で積層したものである。また、基材全体の厚みは30〜500μm、より好ましくは50〜200μmである。
【0013】
[接着層]
接着層(A)は、基材表面のポリオレフィン系樹脂層と隣接するものであり、図柄等を布帛等に貼り付けるためのいわばホットメルト系接着剤の役割を担う層である。接着層(A)は公知のホットメルト接着剤から選ばれるものであり、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、スチレン・エラストマー系、ウレタン系、ポリアミド系等が挙げられる。
【0014】
これらの中でも本発明において推奨されるものは、流動開始温度が80〜150℃、より好ましくは90〜120℃である熱可塑性ポリウレタン樹脂である。なお、ここで流動開始温度とは、JIS K7210に記載されている高化式フローテスターを用いて、荷重10kg、ダイ孔径1mm、孔長1mm、昇温速度3℃/分、測定間隔2℃の条件のもとで、昇温法によりフローレート値を測定した際、昇温に伴い試料が膨張してピストンが上昇するためフローレート値が検出できない範囲を過ぎて、ピストンが降下し、フローレート値が初めて検出される時の温度をいう。尚、フローレート値(Q)は次の式で表される。
Q=(X/10)×(A/T)(cm3/sec)
T:計測時間(sec)
X:計測時間Tに対するピストンの移動量 (mm)
A:ピストンの断面積(cm2
なお、接着層(A)の厚みは5〜50μm、より好ましくは10〜35μmとするのがよい。
【0015】
[バリア層]
バリア層(D)は、濃色に染色された布帛等へ図柄等を転写する際、布帛を染色している染料が熱圧プレスにより昇華して後述する白色隠蔽層(B)や、インク受理層(C)にまで達し、図柄等が本来有している色調を損じさせるのを防止する機能を有している。
そのような機能を有するバリア層を構成する合成樹脂としては、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン、エチレン・ビニルアルコール共重合体等が挙げられるが、中でもポリ塩化ビニリデンとエチレン・ビニルアルコール共重合体がバリア性、取り扱いの容易さから好ましく、特にエチレン・ビニルアルコール共重合体が最適である。
さらにエチレン・ビニルアルコール共重合体としてはエチレン含有量25〜50モル%、ケン化度が80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上のものが好適に用いられる。バリア層の厚みは用いる合成樹脂の種類により異なるが、前述のエチレン・ビニルアルコール共重合体を用いる場合、その厚みは5〜50μm、より好ましくは10〜30μmである。
【0016】
[白色隠蔽層]
白色隠蔽層(B)は布帛等の色が透けて印刷した図柄等の色合いに影響を与えるのを防止するためのものである。白色隠蔽層(B)は合成樹脂に白色顔料を配合して隠蔽性を付与したものであり、合成樹脂としては特に限定されるものでなく、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。また白色顔料としては、亜鉛華、酸化チタン、硫化亜鉛、チタン酸鉛、酸化ジルコニウム等が挙げられる。
上記したうち本発明において特に推奨される組み合わせは、ポリウレタン樹脂、特に熱可塑性ポリウレタン樹脂と酸化チタン(ルチル型)である。なお、白色隠蔽層(B)の厚みは5〜100μm、さらに好ましくは10〜50μmである。
【0017】
さらに本発明においては、白色隠蔽層(B)に発泡剤を配合しておくこともできる。こうしておけば、布帛に図柄等を転写する際、熱により白色隠蔽層(B)が盛り上がり、図柄等に立体感を付与することができる。発泡剤としては熱分解型ものが好ましく、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、N−N−ジニトロペンタメチレンテトラミン、4,4−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジット、ブタン等があり、中でもADCA、N−N−ジニトロペンタメチレンテトラミンが好しい。これら発泡剤の配合量は、使用するプラスチックス素材、配合剤、発泡倍率等により適宜決定されるが、一般的には白色隠蔽層に用いる樹脂100重量部に対し1〜25重量部、より好しくは2〜15重量部である。
【0018】
また、バリア層(D)を設けた場合は、白色隠蔽層(B)の間に、バリア層を保護するための保護層(E)を設けることが好ましい。保護層(E)に用いられる合成樹脂としては、特に限定するものではなくポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂等が挙げられるが、柔軟性に優れ、白色隠蔽層(B)との接着性にも優れている熱可塑性ポリウレタン樹脂が最適である。また、保護層(E)の厚みは5〜50μm、とりわけ10〜30μmとするのが好ましい。
【0019】
[インク受理層]
インク受理層(C)はインクジェットプリンターやカラーコピー機によって吐き出されるインクを受理し、定着させる役割を担っていて、本発明の転写フィルムにおいては最外層に位置するものである。これまでは白色隠蔽層(B)がインク受理層を兼ねるのが一般的であるが、本発明ではこのインク受理層(C)を必須とする。これは白色隠蔽層に直接印刷を施した場合、白色隠蔽層に配合されている酸化チタン等の顔料の影響でインクが滲みやすくシャープな画像が得られにくいという問題を避ける目的で設けるのである。インク受理層(C)を構成する樹脂としては特に限定するものではないが、印刷した際に、インクの吸い込みがよく、滲みやハジキのない合成樹脂を選択するのが好ましく、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、各種エラストマーが挙げられる。それらの中でもポリウレタン樹脂が柔軟性と対摩耗性の観点から好ましい。また、インク受理層(C)の厚みは5〜50μm、より好ましくは10〜30μmである。
なお、インク受理層(C)は基本的に染料、顔料等を含有していない透明なものであるが、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、熱安定剤など公知の添加剤を含んでいてもよい。特に紫外線吸収剤は、配合しておくのが望ましく、中でもベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤を同層の合成樹脂成分100重量部あたり.0.1〜3重量部、さらには0.1〜1重量部配合するのが望ましい。さらにユーザの求めによっては、各種着色剤、金属粉を配合してもよい。
【0020】
更に、本発明の転写シートにおいては基材と接着層(A)の剥離強度が10〜45g/15mm巾となるようにすることが望ましい。なお、この基材と接着層(A)との剥離強度は、接着層(A)に使用する合成樹脂を適宜選択することによって調節することが可能である。
すなわち、本発明の転写フィルムに図柄等を印刷した後、図柄等をアプリケーションフィルムに移し取る際に、基材と接着層(A)の剥離強度が40g/15mm巾を超えるとアプリケーションシートを用いた図柄の移し取りが困難となる。
【0021】
一方、基材と接着層(A)の剥離強度が10g/15mm巾未満の場合には、写し取りは容易であるが、インク受理層(C)の表面に溶剤型インクで図柄等を印刷した場合、転写フィルムに印刷インクで膨潤するタイプの合成樹脂、例えば、熱可塑性ポリウレタン樹脂を使用した場合、図柄表面にクラックが生じるという問題が生じる。この理由は定かではないが、図柄等を印刷した場合に、溶剤系インクに含まれる溶剤はインク受理層(C)のみならず白色隠蔽層(B)、接着層(A)に浸透してそれらを膨潤させるが、基材のポリオレフィン系樹脂層は膨潤しない。この際に、基材と接着層(A)との剥離強度が10g/15mm巾以上あれば、接着層(A)は基材に拘束されているのでそれらの層の膨潤が抑制され、また、その後の乾燥に伴う収縮も少なくクラックの発生は防止される。一方、剥離強度が10g/15mm巾未満の場合は、上述した膨潤による力で基材と接着層(A)との界面が一部剥離して、それらの膨潤・収縮が起こる。その結果、クラックが発生するものと、本発明者らは推測している。
【0022】
上述した構成を有する本発明の転写フィルムは、例えば共押出法、ドライラミネーション法、押出ラミネーション法等の積層技術や、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースコーティング法、バーコート法、ロールコーター法等の溶液や懸濁液から層を形成する技術を適用、組み合わせて製造することができる。
【0023】
例えば、紙/低密度ポリエチレン/エチレン・酢酸ビニル共重合体(以下、EVAと称することがある。)の構成を有する基材のEVA面に、各々が熱可塑性ポリウレタン樹脂からなる接着層(A)、白色隠蔽層(B)、インク受理層(C)を積層した構成の転写シートは、
まず、共押出法によって接着層(A)を構成する熱可塑性ポリウレタン樹脂とEVAが積層されたフィルムを形成し、次いで得られたフィルムと紙とを低密度ポリエチレンを介して押出ラミネーション法にて紙/低密度ポリエチレン/EVA/接着層(A)の構成を有するフィルムとする。
しかる後に、押出ラミネーション法、或いはコーティング法によって接着層(A)の表面に熱可塑性ポリウレタン樹脂と白色顔料からなる白色隠蔽層(B)を形成し、次いで白色隠蔽層(B)の表面にも同様にして熱可塑性ポリウレタン樹脂からなるインク受理層(C)を形成することにより本発明の転写シートを得ることができる。
【0024】
また、例えば、紙/低密度ポリエチレン/エチレン・酢酸ビニル共重合体(以下、EVAと称することがある。)の構成を有する基材のEVA面に、上記構成に加えて接着層(A)と白色隠蔽層(B)の間にバリア層(D)及び保護層(E)を設けた構成の転写シートは、
まず、共押出法によって接着層(A)を構成する熱可塑性ポリウレタン樹脂とEVAが積層されたフィルムを形成し、次いで得られたフィルムと紙とを低密度ポリエチレンを介して押出ラミネーション法にて紙/低密度ポリエチレン/EVA/接着層(A)の構成を有するフィルムとする。
しかる後に、アクリル系或いはウレタン系の接着剤を用いてドライラミネート法によってエチレン・ビニルアルコール共重合体フィルムからなるバリア層(D)及び熱可塑性ポリウレタン樹脂からなる保護層(E)を積層する。その後、押出ラミネーション法、或いはコーティング法によって保護層(A)の表面に熱可塑性ポリウレタン樹脂と白色顔料からなる白色隠蔽層(B)を形成し、次いで白色隠蔽層(B)の表面にも同様にして熱可塑性ポリウレタン樹脂からなるインク受理層(C)を形成することにより紙/低密度ポリエチレン/EVA/接着層(A)/バリア層(D)/保護層(E)/白色隠蔽層(B)/インク受理層(C)の構成を有する本発明の転写シートを得ることができる。
【実施例】
【0025】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、本実施例において用いる合成樹脂を以下のごとく略称する。
・熱可塑性ポリウレタン樹脂:TPU
・低密度ポリエチレン:LDPE
・エチレン・酢酸ビニル共重合体:EVA
・エチレン・ビニルアルコール共重合体:EVOH
【0026】
本発明の転写フィルムの評価は以下の方法で行った。
[柔軟性]
転写フィルムを用いて市販のTシャツの胸部分に図柄等を転写し、着心地、ごわごわ感を評価した。
◎:柔軟性があり、ごわごわ感がない。
×:ごわごわ感がある。
[層間剥離強度]
転写フィルムから試験片(試料幅は15mm)を切り出して、23℃、50%RHの雰囲気で、基材と、接着層(A)との層間の180度剥離強度を測定した。
なお、試験条件は、引張速度:300mm/min、チャック間隔:50mmとした。
【0027】
[移し取り性]
転写シートのインク受理層(C)表面に、インクジェットプリンターを用いて溶剤系インクで図柄を印刷した後、図柄の輪郭に合わせて基材シートの手前までハーフカットし、不要部を取り除いた。しかる後に、市販のアプリケーションフィルムを用いて基材層から図柄部分を移し取ることができるかどうかで評価した。
◎:スムーズに移し取りができた。
○:移し取りができた
×:移し取りができない
[印画性]
インクジェットプリンターを用いて8ポイント程度の大きさの文字を印刷した際に、その文字を正確に読みとれるか否かで判断した。
◎:シャープに印刷されていて読みとれた。
×:滲みが見られ読みとれないところがあった。
[クラック発生度合]
転写後の図柄表面のクラックの発生度合を目視により評価した。
◎:クラックの発生はなかった。
○:クラックの発生はほぼなかった。
×:細かいクラックが多数入っていた。
[色移り性]
濃紺のTシャツへ図柄を転写した24時間後、図柄の色相の変化を目視により評価した。
◎:色移りなし
○…色移り殆どなし
△…やや色移り有り
×…色移りあり
【0028】
[実施例1〜8]
TPU(流動開始温度:120℃、ポリエステル系熱可塑性ポリウレタン樹脂)を外層に、表1に示す酢酸ビニル含有量を有するEVAを中間層に、そして、LDPEを内層にするように、3台の押出機と3種3層のサーキュラーダイを用いて、インフレーション方式によりTPU/EVA/LDPE構成を有する多層フィルムを得た。得られたフィルムの厚み構成は、TPUが30μm、EVAが5μm、LDPEが35μmであった。次いで、LDPE側表面にLDPEを押出コートしてクラフト紙(100μm)を積層させて、紙/LDPE/EVA/TPUの構成を有する多層フィルムを得た。次いで得られたフィルムのTPU側表面に、溶剤中に熱可塑性ポリウレタン樹脂を5重量%、酸化チタンを50重量%溶解分散させたコーティング液を硬化後の厚みが20μmとなるようにコーティングした後、乾燥して白色隠蔽層(B)を形成した。
更に、白色隠蔽層(B)の上に、熱可塑性ポリウレタン樹脂の透明溶液を厚みが10μmとなるようコーティングした後、乾燥してインク受理層(C)を形成し、本発明の転写シートを得た。
【0029】
得られた転写シートにインクジェットプリンターによりカラーグラデーションをつけて「A」の文字を印刷した。また8ポイントの大きさで「漢字印刷」と印刷した。なお、インクは溶剤型のものを用いた。次いで図柄の輪郭に合わせてローランド社製のカッティングプロッターを用い基材シートの手前までハーフカットした。そして不要部を取り除き、市販のアプリケーションフィルム(中川ケミカル社製、リタックシート(登録商標))を用いて基材層から図柄部分をアプリケーションフィルムに移し取った。
その後アプリケーションフィルムに移し取った図柄を白地のTシャツに当接し表面温度が150℃に設定されたアイロンで熱圧プレスし、その後アプリケーションフィルムを剥離させた。
得られた転写シートの層間剥離強度、及び移し取り性、印画性、クラックの発生状態を同じく表1に示す。
【0030】
[比較例1]
インク受理層を設けなかった以外は実施例5と同様にして転写シートを得た。得られた転写シートの諸特性を同じく表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1からも明らかなように白色隠蔽層(B)の上にインク受理層(C)を設けた本発明の転写シートは何れも優れた印画性を示し、インクの滲みによる不鮮明さのないものであった。また、実施例にかかる本発明の転写シートは転写に寄与する全ての構成層が熱可塑性ポリウレタン樹脂であるため柔軟性に優れ、Tシャツに転写した場合でもごわごわ感がなく、しかも通気性にも優れているので着心地のよいものであった。
特に、基材のオレフィン系樹脂層に特定の酢酸ビニル含有量のEVAを使用した実施例2〜7の転写シートは基材と接着層(A)の剥離強度が適当であるため、移し取り性が良好で、クラックの発生もない優れたものであった。とりわけ剥離強度が18〜25g/15mm巾の範囲内である実施例4の転写シートは全ての特性において優れた性質を示した。
【0033】
[比較例2]
紙/接着層(EVA)/白色隠蔽層(EVA)の構成を有する市販の転写シートの表面に図柄を印刷し、ハーフカットした後、アプリケーションフィルムに図柄を写し取ってTシャツに転写したが、Tシャツの図柄の部分がごわごわして着心地が悪かった。また、インク受理層が設けられていないので印画性がよくなかった。
【0034】
[実施例9]
白色隠蔽層に使用したコーティング液に液中の樹脂分100重量部に対しに発泡剤(アゾジカルボンアミド)3重量部を加えた以外は、実施例5と同様にして本発明の転写シートを得た。
得られた転写シートの層間剥離強度は、20g/15mm巾であった。この転写シートを用いて実施例5と同様にして白字のTシャツに図柄を転写した。この結果、図柄に立体感が付与され、商品価値が向上した。なお、移し取り性は良好であり、外観は図柄が鮮明に保たれて良好であった。
【0035】
[実施例10〜14]
TPU(流動開始温度:120℃、ポリエステル系熱可塑性ポリウレタン樹脂)を外層に、表1に示す酢酸ビニル含有量を有するEVAを中間層に、そして、LDPEを内層にするように、3台の押出機と3種3層のサーキュラーダイを用いて、インフレーション方式によりTPU(接着層(A))/EVA/LDPE構成を有する多層フィルムを得た。得られたフィルムの厚み構成は、TPUが30μm、EVAが5μm、LDPEが35μmであった。次いで、LDPE側表面にLDPEを押出コートしてクラフト紙(100μm)を積層させて、紙/LDPE/EVA/TPU(接着層(A))の構成を有する多層フィルムを得た。次いで得られたフィルムのTPU側表面にドライラミネート法にて表2に示すバリアフィルム(バリア層(D)、厚み:12μm)をアクリル系接着剤を用いて積層し、その上に接着層(A)に使用したのと同じTPU(保護層(E)、厚み:30μm)を同じくドライラミネート法にてアクリル系接着剤を用いて積層した。
しかる後に、保護層(E)の表面に溶剤中に熱可塑性ポリウレタン樹脂を5重量%、酸化チタンを50重量%溶解分散させたコーティング液を硬化後の厚みが20μmとなるようにコートティングした後、乾燥して白色隠蔽層(B)を形成した。
更に、白色隠蔽層(B)の上に、熱可塑性ポリウレタン樹脂の透明溶液を厚みが10μmとなるようコーティングした後、乾燥してインク受理層(C)を形成し、本発明の転写シートを得た。
【0036】
得られた転写シートにインクジェットプリンターによりカラーグラデーションをつけて「A」の文字を印刷した。また8ポイントの大きさで「漢字印刷」と印刷した。なお、インクは溶剤型のものを用いた。次いで図柄の輪郭に合わせてローランド社製のカッティングプロッターを用い基材シートの手前までハーフカットした。そして不要部を取り除き、市販のアプリケーションフィルム(中川ケミカル社製、リタックシート(登録商標))を用いて基材層から図柄部分をアプリケーションフィルムに移し取った。
その後アプリケーションフィルムに移し取った図柄を濃紺のTシャツに当接し表面温度が150℃に設定されたアイロンで熱圧プレスし、その後アプリケーションフィルムを剥離させた。
得られた転写シートの層間剥離強度、及び移し取り性、印画性、色移り性を同じく表2に示す。
なお、本実施例で得られた転写フィルムはバリア層(D)を有している関係上、クラックの発生はなかった。
【0037】
【表2】

【0038】
表2からも明らかなように、バリア層(D)を配した実施例10〜14の転写シートは下地の濃紺が図柄側に色移りすることが防止できた。特にバリア層(D)にEVOHを使用した場合は全く色移りすることがなく極めて意匠性の高いTシャツを作成することができた。一方、バリア層(D)を配していない実施例5の転写フィルムでは全層がTPUで構成されているため色移りが大きく、このようなTシャツへの使用は困難であった。また、実施例10〜14の転写フィルムは何れも移し取り性、印画性にも優れたものであり、EVOHからなるバリア層(D)は有するものの他の層がTPUとなっているため柔軟性も充分あった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の転写シートは上述したような優れた性質を有しているのでTシャツ、ジャージ、ユニフォーム、運動シューズ等に図柄、文字、数字、ロゴ、商号、各種マークを転写に好適に使用できる。特に、インクジェットプリンターやカラーコピー機を用いて転写シートに印刷することに対応しているので少量の注文にも対応できるという利点を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着層側表面がポリオレフィン系樹脂層である基材上に、接着層(A)、白色隠蔽層(B)、インク受理層(C)の順に積層されてなる転写シート。
【請求項2】
接着層側表面がポリオレフィン系樹脂層である基材上に、接着層(A)、バリア層(D)、白色隠蔽層(B)、インク受理層(C)の順に積層されてなる転写シート。
【請求項3】
接着層(A)が熱可塑性ポリウレタン樹脂からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の転写シート。
【請求項4】
白色隠蔽層(B)が、ポリウレタン樹脂に白色顔料を配合したものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の転写シート。
【請求項5】
白色隠蔽層(B)が発泡剤を含むものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の転写シート。
【請求項6】
インク受理層(C)がポリウレタン樹脂からなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の転写シート。
【請求項7】
バリア層(D)がエチレン・ビニルアルコール共重合体からなることを特徴とする請求項2乃至6のいずれかに記載の転写シート。
【請求項8】
基材と接着層(A)との剥離強度が10〜45g/15mm巾であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の転写シート。

【公開番号】特開2008−162106(P2008−162106A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−353590(P2006−353590)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000206473)大倉工業株式会社 (124)
【Fターム(参考)】