説明

転写部材および画像形成装置

【課題】 高い転写性を長期間保持することのできる転写部材および画像形成装置を提供すること。
【解決手段】 2次転写ローラ115は,弾性層115bの表面に表面層115cが形成された導電性ローラである。弾性層115bは,ゴム等の弾性材料に導電材料を添加することにより導電性を具備させたものである。表面層115cは,大気圧プラズマCVD法により薄膜形成された無機酸化物である。例えば,珪素酸化物,アルミ酸化物,チタン酸化物,亜鉛酸化物が挙げられる。表面層115cに先端圧子を押し込んで測定した2次転写ローラ115の硬度は,ユニバーサル硬度で規定した硬度が0.15〜0.45GPaの範囲内であり,ナノインデンテーション法により測定した硬度が1.5〜3.0GPaの範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,転写部材および画像形成装置に関する。さらに詳細には,高い転写性を長期間保持することのできる転写部材およびそれを用いた画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置は,像担持体上に形成した静電潜像にトナーを付与して現像し,そのトナー像を記録媒体に転写して定着することにより画像を得るものである。この転写を行うに際して,中間転写ベルト等の中間転写体を採用した画像形成装置がある。また,中間転写体を用いない画像形成装置もある。
【0003】
中間転写体を採用する画像形成装置では,1次転写部材により転写された中間転写体上のトナー像は,2次転写部材により記録媒体に転写される。2次転写部材として,2次転写ローラを用いるローラ方式のものが特許文献1(特許文献1の図1参照)に,2次転写ベルトを用いるベルト方式のものが特許文献2(特許文献2の図1参照)に,それぞれ開示されている。
【0004】
このような中間転写体や1次転写部材,2次転写部材等の転写部材は,それらの表面が汚れることにより転写性や通紙性が低下する。これらは画像ノイズの原因となりうる。その汚れの原因として,非通紙部分のカブリトナーや用紙の裏面からの紙粉などが挙げられる。また,汚れが画像ノイズの原因となる点に関しては,中間転写体を用いない画像形成装置においても同様の問題が生ずる。
【0005】
そのため,特許文献3のように2次転写部材にクリーニング装置が設けられることがある(特許文献3の図2参照)。さらにそのクリーニング装置に,特許文献4のように潤滑剤を2次転写部材の表面に塗布する装置が設けられることがある(特許文献4の段落[0042]および図3参照)。そしてその他に,転写部材そのものに表面離型性成分を含有させることにより,トナーの離型性を改善し,転写部材を汚れにくくするものが特許文献5に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−139749号公報
【特許文献2】特開2009−156980号公報
【特許文献3】特開2005−292416号公報
【特許文献4】特開2008−276103号公報
【特許文献5】特開2007−206435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし,特許文献3のようにクリーニング装置を用いても,トナーなどに起因する汚れを完全に除去できるわけではない。したがって,クリーニング後に残ったトナーの蓄積によって画像品質が低下するおそれがある。また,特許文献4のように2次転写部材の表面に潤滑剤を塗布する装置を用いた場合には,クリーニング装置が大型化してしまう。そして,特許文献5のように2次転写部材に表面離型性成分の含有量を増加させると離型性成分がブリードアウトしてしまい,結果的に転写ベルトや感光体を汚染してしまうこととなる。
【0008】
本発明は,前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,高い転写性を長期間保持することのできる転写部材および画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の転写部材は,基材層と表面層とを有する転写部材において,表面層は,セラミック材の層であり,表面層に先端圧子を基材層に向かう向きに押し込むことで測定される転写部材の硬度が,ユニバーサル硬度で規定される値にて0.15〜0.45GPaの範囲内であり,ナノインデンテーション法による測定値にて1.5〜3.0GPaの範囲内であるものである。かかる転写部材は,その表面のクリーニング性に優れている。すなわち,転写部材の表面から転写残トナー等の汚れが落ちやすい。そのため,本発明に係る転写部材は,その転写性や通紙性が低下しにくい。
【0010】
上記に記載の転写部材において,表面層が,珪素,アルミニウム,チタン,亜鉛からなる群のうちのいずれか1または2以上の元素の酸化物の層であり,大気圧プラズマCVD法により形成したものであるとよい。表面層の硬度を適度な硬さとすることができるためである。
【0011】
上記に記載の転写部材において,基材層の硬度が,マイクロゴム硬度計MD−1(タイプA)による測定値が70以上であり,φ13の測定子を基材層に向かって0.5mm押し込んだときの力が10N以上であるとなおよい。基材層が変形しにくいからである。したがって,基材層の変形により表面層にダメージを与えることを回避できるからである。
【0012】
本発明は,上記に記載の転写部材を有する画像形成装置にも及ぶ。
【0013】
また,本発明は,基材層と表面層とを有する転写部材の製造方法において,大気圧プラズマCVD法により基材層の表面にセラミックを形成することにより,表面層を形成するものである。かかる転写部材の製造方法により製造された転写部材は,その表面層の硬度が適度に高い。そのため,その表面のクリーニング性に優れている。
【0014】
上記に記載の転写部材の製造方法において,表面層は,珪素,アルミニウム,チタン,亜鉛からなる群のうちのいずれかを酸化した酸化物の層であるとよい。表面層の硬度を適度な硬さとすることができるためである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば,高い転写性を長期間保持することのできる転写部材および画像形成装置が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る画像形成装置を説明するための概略構成図である。
【図2】本発明に係る画像形成装置における2次転写ローラの周囲を拡大した拡大図である。
【図3】本発明に係る2次転写ローラを説明するための斜視図である。
【図4】本発明に係る画像形成装置における2次転写ベルトの周囲を拡大した拡大図である。
【図5】本発明に係る2次転写ベルトを説明するための斜視図である。
【図6】本発明に係る画像形成装置における別の2次転写ベルトを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0018】
1.画像形成装置
本形態の画像形成装置100は,図1にその概略構成を示すように,中間転写ベルト101を有する,いわゆるタンデム方式のカラーコピー機である。中間転写ベルト101は,無端状ベルト部材であり,その図中両端部がローラ102,103によって支持され,図中矢印Aの向きに回転するようになっている。中間転写ベルト101の図中下部に沿って,イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C),ブラック(K)の各色の画像形成部1Y,1M,1C,1Kが配置されている。
【0019】
各色の画像形成部1Y,1M,1C,1Kはいずれも同様の構成である。それぞれ,感光体ユニット20と,露光装置30と,現像ユニット10とを有している。感光体ユニット20は,静電潜像を担持する感光体ドラム21を有している。露光装置30は,感光体ドラム21に静電潜像を描きこむためのものである。現像ユニット10は,感光体ドラム21の静電潜像にトナーを付与して現像するためのものである。また,中間転写ベルト101を挟んで感光体ドラム21に対向する位置に,1次転写ローラ111が配置されている。図1中では画像形成部1Yによって代表してこれらの各装置の符号を示している。
【0020】
図1中で下方に配置されているのは,用紙Pを収容する給紙装置112である。給紙装置112の上部には,用紙Pを送り出す給紙ローラ113が設けられている。用紙Pは,給紙装置112から用紙搬送経路114に沿って上方へ送られる。用紙搬送経路114を挟んで,ローラ103と対面する位置に,2次転写ローラ115が配置されている。2次転写ローラ115の,ローラ103の反対側の位置には,2次転写ローラ115をクリーニングするクリーニング装置140が配置されている。さらにその下流側(図中上方)には,定着装置130が配置されている。定着装置130は,加圧ローラ131,定着ローラ132のローラ対を有している。
【0021】
定着装置130より用紙搬送経路114のさらに下流側には,排紙ローラ116および排紙トレイ117が配置されている。排紙ローラ116のさらに上方には,折り返し用ローラ119および折り返し用トレイ120が配置されている。そして,折り返し用ローラ119は,用紙搬送経路114の他に用紙搬送経路118ともつながっている。用紙搬送経路118は,両面印刷を行う場合に用いられる搬送経路である。
【0022】
次に,本形態の画像形成装置100の基本的な動作を簡単に説明する。この画像形成装置100は,画像形成の指示を受けると,その画像信号から各色の画像データを生成する。生成された各色の画像データは,対応する画像形成部1Y,1M,1C,1Kにそれぞれ送出される。各色の画像形成部1Y,1M,1C,1Kは,画像データに基づいて,静電潜像を形成する。さらに,形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する。
【0023】
形成されたトナー像は,順次,1次転写ローラ111によって中間転写ベルト101に転写され,重ね合わせられる。中間転写ベルト101に重ね合わせられたトナー像は,2次転写ローラ115によって用紙Pに転写される。2次転写ローラ115は,クリーニング装置140により,ローラ表面を拭き取られる。これにより,転写残トナーは回収される。
【0024】
トナー像を担持した用紙Pは,さらに搬送されて定着装置130に至り,定着装置130によって加熱されるとともに加圧される。これによりトナー像が用紙Pに定着される。トナー像が定着された用紙Pは,排紙ローラ116によって排紙トレイ117に排出される。以上が,画像形成装置100の基本的な動作である。
【0025】
2.2次転写ローラとその製造方法
本形態の画像形成装置100における2次転写ローラ115の周辺を拡大した拡大図を図2に示す。中間転写ベルト101の回転方向Bは,図1の矢印Aと同じ方向である。2次転写ローラ115は,図2中の矢印Cの向きに回転する。そして,2次転写ローラ115上の転写残トナー等に起因する汚れは,矢印Dの向きに回転するクリーニング部材141と,矢印Eの向きに回転するクリーニング部材142とにより拭き取られる。
【0026】
本形態の2次転写ローラ115は,図3に示すように,芯金115aと,弾性層115bと,表面層115cとを有する導電性ローラである。弾性層115bは,ゴム等の弾性材料に導電材料を添加することにより導電性を具備させた基材層である。
【0027】
弾性層115bとして,例えば,NBRゴムとヒドリンゴムとを混合したものに導電材を混合したものが挙げられる。また,弾性材料としてNBRゴムとヒドリンゴムとのブレンド品に限らず,シリコンゴム等その他の材料を用いることもできる。これらの材料の配合比率,或いはその他の製造条件を変更することにより,硬度の異なる複数種類のローラを製造することができる。導電材料としては,イオン導電剤やカーボンブラック,金属酸化物その他の一般的な導電材料を用いることができる。これにより,ローラの電気抵抗率を調整することができる。
【0028】
表面層115cの厚みは,数百ナノメートル程度である。そしてその表面層115cはセラミックである。ここでセラミックとは,無機酸化物をはじめ無機窒化物,無機炭化物,無機ホウ化物を含む無機化合物とする。無機酸化物とは,例えば,珪素酸化物,アルミ酸化物,亜鉛酸化物,チタン酸化物である。無機窒化物とは,例えば,珪素窒化物,アルミ窒化物,亜鉛窒化物,チタン窒化物である。
【0029】
表面層115cの硬度は,ナノインデンテーション法で測定した値が1.5〜3.0GPaの範囲内にあり,ユニバーサル硬度で0.15〜0.45GPaの範囲内にある。この表面層は,後述するように,大気圧プラズマCVD法により形成したものである。
【0030】
本形態の2次転写ローラは,従来の2次転写ローラに比べて表面層115cの硬度が高い。そのため,ローラ表面のクリーニング性に優れている。すなわち,ローラ表面から転写残トナーを回収しやすい。したがって,長期間使用しても,2次転写ローラに汚れが蓄積されにくい。その結果,2次転写ローラの表面の汚れに起因する画像ノイズの発生が抑制される。
【0031】
弾性層115bはある程度硬いとよい。弾性層115bが柔らかすぎると,2次転写ローラ115の表面層115cが変形してしまうためである。弾性層115bの硬さは,マイクロゴム硬度計MD−1(タイプA)による測定値が70以上であり,φ13の測定子を軸方向に向かって0.5mm押し込んだときの力が10N以上であるとよい。
【0032】
続いて,本形態の2次転写ローラ115の製造方法について説明する。まず,導電材料であるカーボンブラックとイオン導電剤とを混合する。次に,混合した導電材料とNBRゴムとヒドリンゴムとを混合する。続いて,混合した材料を金型に流し込む。そして,金型により圧縮成形することにより,硬化した2次転写ローラの弾性層115bが形成される。なお,前述のように,導電材料とゴムとの混合比率を変化させることにより,電気抵抗率を調整することができる。また,NBRゴムやヒドリンゴム以外のゴムを用いることもできる。
【0033】
次に,上記により得られたローラの表面に,プラズマCVD法を用いて無機酸化物を形成する。プラズマCVD法は,放電ガスと反応性ガスとを用いて基材表面に薄膜を形成する方法である。本形態では,その際の雰囲気の圧力がほぼ大気圧に等しい大気圧プラズマCVD法を用いる。
【0034】
大気圧プラズマCVD法は,高周波電圧により励起したガスに基材を曝すことにより,基材上に薄膜を形成する技術である(例えば,特開2004−10958号公報)。そのために,大気圧近傍の圧力下の反応容器の内部に対向して配置された電極間に,基材を配置するとともに,放電ガスおよび反応性ガスを供給するものである。本形態では,ローラの表面に薄膜を形成するため,反応容器内でローラを一定の角速度で回転させながら薄膜形成を行う。これにより,ローラ表面に厚みの均一な薄膜が形成される。
【0035】
また,反応性ガスを適宜選択することにより,所望の無機酸化物の薄膜をローラの表面に形成することができる。例えば,珪素酸化物,チタン酸化物,アルミ酸化物,亜鉛酸化物等である。そして,印加する高周波電圧の振幅や周波数,処理時間,処理温度,ガス流量等を適宜調整することにより,所望の表面層115cを有する2次転写ローラが得られる。その詳細は公知である(例えば,特開2004−10958号公報)。
【0036】
大気圧プラズマCVD法において反応性ガスの材料である珪素化合物として,例えば,ジメチルシラン,テトラメチルシランなどの有機化合物,モノシラン,ジシランなどの金属水素化合物,二塩化シラン,三塩化シランなどの金属ハロゲン化合物,テトラメトキシシラン,テトラエトキシシラン,ジメチルジエトキシシランなどのアルコキシシランなどを用いることができる(特開2004−10958号公報の段落[0087]参照)。また,その他のものを用いることもできる(例えば,再公表特許WO2007/046218号公報参照)。
【0037】
チタン化合物として,例えば,テトラジメチルアミノチタンなどの有機金属化合物,モノチタン,ジチタンなどの金属水素化合物,二塩化チタン,三塩化チタン,四塩化チタンなどの金属ハロゲン化合物,テトラエトキシチタン,テトライソプロポキシチタン,テトラブトキシチタンなどの金属アルコキシドなどを用いることができる(特開2004−10958号公報の段落[0089]参照)。また,その他のものを用いることもできる。
【0038】
その他,アルミ酸化物,亜鉛酸化物を形成するに際しても,上記のような有機金属化合物などを用いることにより,2次転写ローラの表面層115cとしてアルミ酸化物もしくは亜鉛酸化物を形成することができる。
【0039】
なお,表面層として,無機酸化物の代わりに,無機窒化物を形成することとしてもよい。このようにしても,表面層の硬度を高めることができるからである。また,表面層として,無機酸化物と無機窒化物とを混合したものを形成してもよい。
【0040】
3.2次転写ベルトとその製造方法
2次転写部材として,前述した2次転写ローラの他に,2次転写ベルトがある。2次転写ベルトの表面層に前述の酸化物を形成してもよい。本形態の2次転写ベルト215を有する画像形成装置における2次転写ベルト215の箇所を拡大した図を図4に示す。
【0041】
図4に示すように,中間転写ベルト101は,図4中の矢印Fの向きに回転する。この矢印Fの向きは,図1中の矢印Aの向きと同じである。2次転写ベルト215は,図4に示すように,ローラ216およびローラ217に支持されている。2次転写ベルト215は,図4中の矢印Gの向きに回転するようになっている。
【0042】
本形態の2次転写ベルト215は,導電性を有する無端状のベルト部材である。2次転写ベルト215は,図5に示すように,基材層215aと表面層215bとを有するものである。基材層215aは,PVDF(ポリビニリデンフルオライド)やNBRゴム等の樹脂からなるものである。表面層215bの厚みは,数百ナノメートル程度である。そしてその表面層215bはセラミックである。
【0043】
表面層215bの硬度は,ナノインデンテーション法で測定した値が1.5〜3.0GPaの範囲内にあり,ユニバーサル硬度で0.15〜0.45GPaの範囲内にある。この表面層は,後述するように,大気圧プラズマCVD法により形成したものである。
【0044】
本形態の2次転写ベルトは,従来の2次転写ベルトに比べて表面層の硬度が高い。そのため,表面のクリーニング性に優れている。すなわち,ベルト表面から転写残トナーを回収しやすい。したがって,長期間使用しても,2次転写ベルトに汚れが蓄積されにくい。その結果,2次転写ローラの表面の汚れに起因する画像ノイズの発生が抑制される。
【0045】
ローラ216は,芯金216aの周囲に弾性層216bが形成されたものである。弾性層216bはある程度硬いとよい。弾性層216bが柔らかすぎると,2次転写ベルト215の表面層215bが変形してしまうためである。弾性層216bの硬さは,マイクロゴム硬度計MD−1(タイプA)による測定値が70以上であり,φ13の測定子を0.5mm押し込んだときの力が10N以上であるとよい。ローラ217についても同様である。
【0046】
ここで,本形態の2次転写ベルト215の製造方法について説明する。まず,イオン導電剤とPVDF(ポリビニリデンフルオライド)とを混合させる。次に,その混合させた材料を,射出成形によりベルト形状とする。その際,ギャップを100μm程度に調整する。
【0047】
次に,上記により得られたベルトの表面に,プラズマCVD法を用いて無機酸化物の薄膜を形成する。2次転写ベルトの製造においても,その際の雰囲気の圧力は,ほぼ大気圧に等しい大気圧プラズマCVD法を用いる。反応性ガスとして用いる珪素化合物等は,前述したとおりである。そして,印加する高周波電圧の振幅や周波数,処理時間,処理温度,ガス流量等を適宜調整することにより,所望の表面層215bを有する転写ベルトが得られる。
【0048】
なお,イオン導電剤とPVDFとの配合比率を調整することにより,電気抵抗値を調整することができる。なお,PVDF以外の樹脂を用いてベルトを製造することとしてもよい。例えば,PI(ポリイミド)に,イオン導電剤を混合したものを用いることができる。また,NBRゴムを用いてもよい。
【0049】
なお,表面層として,無機酸化物の代わりに,無機窒化物を形成することとしてもよい。このようにしても,表面層の硬度を高めることができるからである。また,表面層として,無機酸化物と無機窒化物とを混合したものを形成してもよい。
【0050】
また,図6に示すような,中間転写ベルト101の上流側ローラ316と下流側ローラ317とローラ318とにより支持された2次転写ベルト315を用いるようにしてもよい。
【0051】
4.まとめ
以上,詳細に説明したように,本実施の形態に係る2次転写部材は,その表面をセラミックで覆うようにした。これにより,長期間にわたって良好な転写性を保持する2次転写部材およびそれを備えた画像形成装置が実現されている。
【0052】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,中間転写ベルトなどの中間転写体や1次転写ローラなどの1次転写部材にも適用できる。また,中間転写体を有さない画像形成装置における転写部材に用いることもできる。
【0053】
また,現像剤の種類に限らない。また,画像形成装置は,カラーコピー機に限らない。すなわち,カラーに限らない。またコピー機に限らない。プリンタ,FAX,その他の画像を形成する装置に適用することができる。
【実施例】
【0054】
1.試験の概要
2次転写部材について行った画像の耐久試験の結果について説明する。本試験の評価機は,コニカミノルタ製bizhub(登録商標)C650を2次転写部材の箇所について改造したものである。後述するように,種々の2次転写ベルトを評価機に交換して取り付けて耐久試験を行った。その構成は,図4に示したものと同様である。本試験は,指定画像を10,000枚プリントアウトした後の画像にノイズが現れるか否かにより,2次転写ベルトの耐久性を調べたものである。
【0055】
本試験に際して,2次転写ベルトを巻きかけるローラ(図4のローラ216,217に相当)として,硬度の異なるローラA,Bを用いた。本試験に用いたローラA,Bについて,表1により説明する。表1には,各ローラのMD−1硬度計により測定した硬度と,φ13硬度とが記されている。
【0056】
ここで,MD−1硬度計は,原理的にはJIS K6253に記載のタイプAデュロメータに準ずるものである。MD−1硬度計によるローラの硬度の測定は,大気圧プラズマCVD法による表面層を形成する前に測定することができる。また,表面層を剥離して基材層を露出させた後に測定してもよい。もしくは,ローラの断面を測定対象としてもよい。φ13硬度とは,プッシュプルゲージによりφ13の測定子を0.5mm押し込んだときの力の値のことである。
【0057】
表1にあるように,ローラAは,MD−1硬度計の値が80であり,φ13硬度が15Nである。ローラBは,MD−1硬度計の値が75であり,φ13硬度が13Nである。つまり,ローラAは,ローラBよりも硬度が高い。
【0058】
【表1】

【0059】
本耐久試験の結果を表2に示す。本発明に係る2次転写ベルトを用いた実施例1〜4と,その他の2次転写ベルトを用いた比較例1〜6とを示す。本試験に係る2次転写ベルトの材料として,NBRゴムやPVDF(ポリビニリデンフルオライド)やPI(ポリイミド)を用いた。
【0060】
そして,これらの材料に前述の大気圧プラズマCVD法を用いることにより,最表面層に珪素酸化物,アルミ酸化物,亜鉛酸化物,チタン酸化物を形成した。このように製造した2次転写ローラおよび2次転写ベルトの表面層の硬度を,ナノインデンテーション法およびユニバーサル硬度(DIN 50359)により測定した。
【0061】
ナノインデンテーション法による硬度の測定方法は,微小なダイヤモンド圧子を固定した測定対象物に押し込み,その荷重と押し込み深さとの関係から硬さを算出する方法である。また,測定に際して基材の影響を受けにくいという特徴を有している。したがって,ナノインデンテーション法により測定された硬度は,実質的に2次転写ベルトの表面層の硬度を表しているということができる(再公表特許WO2007/046218号公報の段落[0069],図3等参照)。
【0062】
ナノインデンテーション法による測定には,測定装置としてHYSITRON社製のTRIBOINDENTERを用い,先端圧子として先端稜角が90°のキューブコーナー型先端圧子(cube corner tip)を用いた。
【0063】
ユニバーサル硬度は,荷重をかけながら圧子を測定対象物に押し込むことにより,次式により求められる。
ユニバーサル硬度=(試験荷重)/(接触表面積)………(1)
接触表面積:試験荷重下での圧子の測定対象物との接触表面積
なお,単位はMPa(N/mm)である。
【0064】
ユニバーサル硬度の測定は,市販の硬度測定装置を用いて行うことができる。例えば,測定装置として超微小硬度計「H−100V」(フィッシャーインストルメント社製)が挙げられる。この測定装置では,四角錐或いは三角錐形状の圧子を,試験荷重をかけながら被測定物に押し込み,所望の深さに達した時点でのその深さから圧子が被測定物と接触している表面積を求める。そして,前述の式(1)により,ユニバーサル硬度を算出するのである。
【0065】
2.実施例および比較例
1)実施例1
実施例1は,基材層としてNBRゴムを用い,表面層として珪素酸化物を形成した2次転写ベルトを用いた結果である。表2中では,「NBR」と表記している。以下,同様である。ナノインデンテーション法により測定した硬度は,1.8GPaであった。ユニバーサル硬度により規定される硬度は,0.25GPaであった。2次転写ベルトを支持するローラとして,ローラAを用いた。
【0066】
2)実施例2
実施例2は,基材層としてNBRゴムを用い,表面層としてアルミ酸化物を形成した2次転写ベルトを用いた結果である。ナノインデンテーション法により測定した硬度は,2.5GPaであった。ユニバーサル硬度により規定される硬度は,0.4GPaであった。2次転写ベルトを支持するローラとして,ローラAを用いた。
【0067】
3)実施例3
実施例3は,基材層としてPVDFを用い,表面層として亜鉛酸化物を形成した2次転写ベルトを用いた結果である。ナノインデンテーション法により測定した硬度は,1.7GPaであった。ユニバーサル硬度により規定される硬度は,0.2GPaであった。2次転写ベルトを支持するローラとして,ローラBを用いた。
【0068】
4)実施例4
実施例4は,基材層としてPVDFを用い,表面層としてチタン酸化物を形成した2次転写ベルトを用いた結果である。ナノインデンテーション法により測定した硬度は,2GPaであった。ユニバーサル硬度により規定される硬度は,0.3GPaであった。2次転写ベルトを支持するローラとして,ローラBを用いた。
【0069】
5)比較例1
比較例1は,基材層としてNBRゴムを用い,表面層を形成しなかった2次転写ベルトを用いた結果である。すなわち,本発明に係る2次転写ベルトのように,セラミックの表面層が形成されていない。ナノインデンテーション法により測定した硬度は,1MPaであった。ユニバーサル硬度により規定される硬度は,1MPaであった。2次転写ベルトを支持するローラとして,ローラBを用いた。
【0070】
6)比較例2
比較例2は,基材層としてPVDFを用い,表面層を形成しなかった2次転写ベルトを用いた結果である。すなわち,本発明に係る2次転写ベルトのように,セラミックの表面層が形成されていない。ナノインデンテーション法により測定した硬度は,2Mpaであった。ユニバーサル硬度により規定される硬度は,1.5MPaであった。2次転写ベルトを支持するローラとして,ローラBを用いた。
【0071】
7)比較例3
比較例3は,基材層としてNBRゴムを用い,表面層として珪素酸化物を形成した2次転写ベルトを用いた結果である。ナノインデンテーション法により測定した硬度は,0.5GPaであった。ユニバーサル硬度により規定される硬度は,0.05GPaであった。すなわち,ナノインデンテーション法により測定した硬度およびユニバーサル硬度が,本発明に係る2次転写ベルトの硬度よりも低いのである。2次転写ベルトを支持するローラとして,ローラBを用いた。
【0072】
8)比較例4
比較例4は,基材層としてPVDFを用い,表面層としてアルミ酸化物を形成した2次転写ベルトを用いた結果である。ナノインデンテーション法により測定した硬度は,1GPaであった。ユニバーサル硬度により規定される硬度は,0.1GPaであった。すなわち,ナノインデンテーション法により測定した硬度およびユニバーサル硬度が,本発明に係る2次転写ベルトの硬度よりも低いのである。2次転写ベルトを支持するローラとして,ローラBを用いた。
【0073】
9)比較例5
比較例5は,基材層としてNBRゴムを用い,表面層として珪素酸化物を形成した2次転写ベルトを用いた結果である。ナノインデンテーション法により測定した硬度は,5GPaであった。ユニバーサル硬度により規定される硬度は,0.5GPaであった。すなわち,ナノインデンテーション法により測定した硬度およびユニバーサル硬度が,本発明に係る2次転写ベルトの硬度よりも高いのである。2次転写ベルトを支持するローラとして,ローラBを用いた。大気圧プラズマCVD法による膜形成の際にガスの圧力等を変えることで,物性の異なる表面層が形成される。したがって,比較例3の2次転写ベルトと比べて,硬度が大きく異なっている。
【0074】
10)比較例6
比較例6は,基材層としてPI(ポリイミド)を用い,表面層としてアルミ酸化物を形成した2次転写ベルトを用いた結果である。ナノインデンテーション法により測定した硬度は,6GPaであった。ユニバーサル硬度により規定される硬度は,0.8GPaであった。すなわち,ナノインデンテーション法により測定した硬度およびユニバーサル硬度が,本発明に係る2次転写ベルトの硬度よりも高いのである。2次転写ベルトを支持するローラとして,ローラBを用いた。
【0075】
3.結果
表2に,結果を示す。表2において,指定画像を10,000枚プリントアウトしたあとの画像にノイズが発生していないものを「○」で表し,ノイズが発生しているものを「×」で表している。実施例1〜4の場合には,画像ノイズが発生しなかった。比較例1〜6の場合には,画像ノイズが発生した。表2より,画像におけるノイズの有無,すなわち2次転写部材の転写性の耐久性は,表面層の酸化物の種類によらない。
【0076】
一方,表面層の硬度を表す,ナノインデンテーション法により測定した硬度,およびユニバーサル硬度の値により,2次転写部材の耐久性は異なっていることが表2より分かる。つまり,ナノインデンテーション法により測定した硬度が,1.5〜3.0GPaの範囲内にあり,ユニバーサル硬度により規定される硬度が,0.15〜0.45GPaの範囲内にあれば,10,000枚プリントアウトした後であっても,画像ノイズが発生しない。
【0077】
【表2】

【0078】
なお,本試験では,2次転写ベルトについて耐久性を調べた。しかし,2次転写ローラについても同様である。
【0079】
以上,詳細に説明したように,本実施例に係る2次転写部材は,その表面を無機酸化物で覆うようにした。これにより,長期間にわたって良好な転写性を保持する2次転写部材およびそれを備えた画像形成装置が実現されている。
【0080】
なお,本実施例は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,中間転写ベルトなどの中間転写体や1次転写ローラなどの1次転写部材にも適用できる。また,中間転写体を有さない画像形成装置における転写部材に用いることもできる。
【0081】
また,現像剤の種類に限らない。また,画像形成装置は,カラーコピー機に限らない。すなわち,カラーに限らない。またコピー機に限らない。プリンタ,FAX,その他の画像を形成する装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0082】
100…画像形成装置
101…中間転写ベルト
115…2次転写ローラ
115a…芯金
115b…弾性層
115c…表面層
215…2次転写ベルト
215a…基材層
215b…表面層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と表面層とを有する転写部材において,
前記表面層は,
セラミック材の層であり,
前記表面層に先端圧子を前記基材層に向かう向きに押し込むことで測定される前記転写部材の硬度が,
ユニバーサル硬度で規定される値にて0.15〜0.45GPaの範囲内であり,
ナノインデンテーション法による測定値にて1.5〜3.0GPaの範囲内であることを特徴とする転写部材。
【請求項2】
請求項1に記載の転写部材において,
前記表面層が,
珪素,アルミニウム,チタン,亜鉛からなる群のうちのいずれか1または2以上の元素の酸化物の層であり,
大気圧プラズマCVD法により形成したものであることを特徴とする転写部材。
【請求項3】
請求項2に記載の転写部材において,
前記基材層の硬度が,
マイクロゴム硬度計MD−1(タイプA)による測定値が70以上であり,
φ13の測定子を前記基材層に向かって0.5mm押し込んだときの力が10N以上であることを特徴とする転写部材。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の転写部材を有する画像形成装置。
【請求項5】
基材層と表面層とを有する転写部材の製造方法において,
大気圧プラズマCVD法により前記基材層の表面にセラミックを形成することにより,前記表面層を形成することを特徴とする転写部材の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の転写部材の製造方法において,
前記表面層は,
珪素,アルミニウム,チタン,亜鉛からなる群のうちのいずれかを酸化した酸化物の層であることを特徴とする転写部材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−59220(P2011−59220A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206670(P2009−206670)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】