説明

転炉ガスの改質・回収方法およびそのシステム

【課題】高純度の一酸化炭素を比較的安価で効率的に得ることができ、化学原料として好適に用いることができる転炉ガスの改質・回収方法およびそのシステムを提供する。
【解決手段】転炉ガスの改質・回収方法は、製鋼用転炉装置の炉口とOGシステムの間の隙間を二酸化炭素ガスでシールするとともに、発生する転炉ガスを吸引し、または、製鋼用転炉装置の吹錬パターンの中で一酸化濃度が相対的に高い時間帯の発生転炉ガスを選択的に吸引し、転炉ガス中の二酸化炭素ガスを除去したのち、高濃度の一酸化炭素を含む改質転炉ガスを回収する。転炉ガスの改質・回収システム10は、シールガス供給部12または転炉ガス回収部と、転炉ガス改質・回収部14を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼用転炉ガスの改質・回収方法およびそのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
現代の化学工業で用いる原材料資源は、石油が主流を占めている。しかし、石油の枯渇・高騰問題や地球温暖化問題から、今後はカーボンニュートラルなバイオ原料や副生ガスを用いた化学プロセスが重要になると考えられる。特に製鉄プロセスで発生する副生ガスは莫大な量である。この副生ガスは、現在、そのほとんどが燃料として用いられている。
【0003】
銑鋼一貫製鉄所の製鉄工程では、高炉ガス、転炉ガスおよびコークス炉ガスの3種類の副生ガスが多量に発生する。これら3種類の副生ガスの一般的な組成は以下の通りであり、このうち、転炉ガスは一酸化炭素の含有率が最も高い。
副生ガスの組成
高炉ガス:一酸化炭素20〜25体積%、二酸化炭素20〜25体積%、窒素45〜55体積%
転炉ガス:一酸化炭素60〜80体積%、二酸化炭素10〜20体積%、窒素10〜20体積%
コークス炉ガス:水素50〜60体積%、メタン25〜30体積%、一酸化炭素5〜10体積%
【0004】
転炉ガスは、銅精錬用転炉ガス等の他の転炉ガスと区別するうえでは、正しくは製鋼用転炉ガスと表記すべきであるが、本明細書では、以下、製鋼用転炉ガスを単に転炉ガスと称す。転炉ガスは、転炉において銑鉄中に含まれる約4質量%程度の炭素を空気や酸素を主体とするガスを銑鉄に吹き付けて除去(脱炭)して鋼を生成する際に発生する上記組成のガスである。
【0005】
転炉ガスを燃料に用いる場合、燃焼によって多量の二酸化炭素を生成するにもかかわらず、その燃焼カロリーは約2000Kcal/Nmと比較的低い。
したがって、転炉ガスを燃料に代えて化学工業の原料に用いることは、この点においても有用であり、化学工業での原材料として利用が進めば、転炉ガスの効率的な利用および二酸化炭素排出量の削減の観点から大きな意義がある。
【0006】
一酸化炭素は、酢酸合成、メタノール合成およびアルデヒド合成等の化学プロセスで原料として大量に用いられている。例えば酢酸は、国内で毎年60万トン以上、世界的には500万トン以上が製造される重要な基礎化学品である。その製造方法はメタノールカルボニル化法が広く採用され原料として一酸化炭素とメタノールが用いられている。
一酸化炭素は、沸点が−192℃の化学反応性の高い毒性ガスである。一酸化炭素は輸送が煩雑であることから、例えば、酢酸合成を行うプラントに隣接した場所に一酸化炭素の製造設備を作り、製造される一酸化炭素を酢酸合成プラントへ供給している。
一酸化炭素の製造設備として、例えば、石炭やアスファルトを原料にし、酸素や水蒸気をガス化剤に用いるTexaco炉やShell炉のような大規模な高温高圧のガス化装置によって、一酸化炭素を高濃度に含むガスを得て、酢酸合成を行うプラントに供給することが行われている。
このガス化装置を用いた一酸化炭素製造に要する設備費、運転費および原材料費は莫大であり、酢酸合成プラントそのものの費用と比較しても多大な費用を要する。このため、一酸化炭素を安価に製造する技術のニーズは極めて高い。
【0007】
例えば、一酸化炭素を含有する、転炉ガスを含む各種の原料ガスとメタノールを接触反応させてギ酸メチルを生成させ、ギ酸メチルを凝縮分離したのち異性化させる酢酸の製造方法が開示されている(特許文献1)。
また、例えば、転炉ガスを化学合成設備に供給する方法が開示されている(特許文献2)。
【0008】
また、例えば、転炉ガス中の一酸化炭素を吸着して分離回収し、化学合成用原料として使用する方法として、圧力スイング吸着法を用いるものや、天然ゼオライトや合成ゼオライトにハロゲン化第二銅を担持後活性化した吸着剤を用いる方法が開示されている(特許文献3、4)。
【0009】
また、例えば、一酸化炭素源として転炉ガス(製鋼炉ガス)を用い、転炉ガスをアルカリ物質と接触させて後、ニッケル触媒の存在下でメタノールと反応させて、酢酸や酢酸メチルを製造する技術が開示されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭61―140538号公報
【特許文献2】特開2000−283658号公報
【特許文献3】特開昭61−146705号公報
【特許文献4】特開昭61−181891号公報
【特許文献5】特開2003−113124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
解決しようとする問題点は、転炉ガスを化学原料として利用する従来の技術では、一酸化炭素の純度が化学原料としては必ずしも十分高くない転炉ガスをそのまま化学原料に用いるために化学合成プロセスの生産効率が高くなく、または、転炉ガスの改質プロセスに多額の費用を必要とする点である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る転炉ガスの改質・回収方法は、製鋼用転炉装置の炉口とOGシステムの間の隙間を二酸化炭素ガスでシールするとともに、発生する転炉ガスを吸引し、該転炉ガス中の二酸化炭素ガスを除去したのち回収することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る転炉ガスの改質・回収方法は、製鋼用転炉装置の吹錬パターンの中で一酸化濃度が相対的に高い時間帯の発生転炉ガスを選択的に吸引し、該転炉ガス中の二酸化炭素ガスを除去したのち回収することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る転炉ガスの改質・回収方法は、好ましくは、前記転炉ガスを、有機アミンを含有する二酸化炭素吸収液に吸収させて二酸化炭素を分離除去することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る転炉ガスの改質・回収方法は、好ましくは、前記有機アミンを含有する二酸化炭素吸収液が、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-ヒドロエチルシクロヘキシルアミン、N−ヒドロキシエチルイソプロピルアミンまたはN,N−ジヒドロキシエチルイソプロピルアミンのいずれか1種または2種以上の混合物の水溶液であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る転炉ガスの改質・回収方法は、好ましくは、前記二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液を加熱して二酸化炭素を二酸化炭素吸収液から脱離し、脱離した二酸化炭素を前記シール用に用いることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る転炉ガスの改質・回収システムは、製鋼用転炉装置の炉口とOGシステムの間の隙間を二酸化炭素ガスでシールするシールガス供給部と、発生する転炉ガスを吸引し、該転炉ガス中の二酸化炭素ガスを除去したのち回収する転炉ガス改質・回収部を有することを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る転炉ガスの改質・回収システムは、製鋼用転炉装置の吹錬パターンの中で一酸化濃度が相対的に高い時間帯の発生転炉ガスを選択的に吸引する転炉ガス選択回収部と、該転炉ガス中の二酸化炭素ガスを除去したのち回収する転炉ガス改質・回収部を有することを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る転炉ガスの改質・回収システムは、好ましくは、前記転炉ガス改質・回収部で除去した二酸化炭素ガスをシールガス供給部に循環する二酸化炭素循環部をさらに有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る転炉ガスの改質・回収方法は、製鋼用転炉装置の炉口とOGシステムの間の隙間を二酸化炭素ガスでシールするとともに、発生する転炉ガスを吸引し、または、製鋼用転炉装置の吹錬パターンの中で一酸化濃度が相対的に高い時間帯の発生転炉ガスを選択的に吸引し、吸引した転炉ガス中の二酸化炭素ガスを除去したのち回収するため、高純度の一酸化炭素を比較的安価で効率的に得ることができので、化学原料として好適に用いることができる。
また、本発明に係る転炉ガスの改質・回収システムは、一酸化炭素濃度の高い転炉ガスを吸引するためのシールガス供給部または転炉ガス選択回収部と、転炉ガス中の二酸化炭素ガスを除去したのち回収する転炉ガス改質・回収部を有するため、上記本発明に係る転炉ガスの改質・回収方法を好適に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は本実施の形態例に係る転炉ガスの改質・回収システムの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態(以下、本実施の形態例という。)について、以下に説明する。
【0023】
転炉ガス中には、前述したように、60〜80%を占める一酸化炭素とともに窒素と二酸化炭素がそれぞれ10%〜20%含まれる。この転炉ガスを化学用の原料として使用するためには、転炉ガス中の一酸化炭素の濃度を90体積%(以下、他の成分を含め、質量%との区別が明確である限り、全て、単に%と表示する)以上、望ましくは95%以上と高純度化する改質を行うことが望ましい。高純度の一酸化炭素を得るためには、発生する転炉ガスに含まれる窒素ガスの濃度を10%以下、好ましくは5%以下に低減することが望ましい。なお、本明細書では、窒素と窒素ガス、一酸化炭素と一酸化炭素ガス等、同一成分の表現を使い分けているが、後者については、プロセス中でその成分が液体状ではなく気体(ガス)状であることを明確にする意であり、それ以外に両者に実質的な差異はない。また、このため、例えば、ガス状の成分について、文脈上、ガスの文言を省略する場合がある。
転炉ガスに窒素ガスが含まれる1つの理由として、転炉やOGシステム(Oxygen Converter Gas Recovery System)中でのガス爆発を防ぐための置換用のガスとして、または、転炉中の溶鉄の攪拌に使用する不活性ガスとして窒素ガスを使用されている点が挙げられる。
また、転炉炉口とOGシステムの隙間に空気が漏れこむことも、転炉ガスに窒素ガスが含まれる他の理由である。
【0024】
空気の漏れこみによる転炉ガス中への窒素ガスの混入を防止するには、正圧条件下で転炉を操業すればよい。しかし、このような操業を行うと、転炉口部での転炉スラグの噴出しや地金の生成により転炉の傷みが激しく、操業に支障をきたすことが考えられる。
【0025】
そこで、本実施の形態例に係る転炉ガスの改質・回収方法は、製鋼用転炉装置の炉口とOGシステムの間の隙間を二酸化炭素ガスでシールする。例えば、開口部に二酸化炭素ガスを吹き付けて充満させることで開口部を二酸化炭素ガスでシールする。また、開口部に二酸化炭素ガスのカーテンを設けて開口部を二酸化炭素ガスでシールしてもよい。
これにより、空気の漏れこみによる転炉ガス中への窒素ガスの混入を軽減し、さらには防止することができ、転炉から発生する転炉ガス中の窒素(窒素ガス)の濃度を低下させて一酸化炭素(一酸化炭素ガス)の純度(濃度)を高めることができる。
このとき、空気の漏れこみをより確実に防止するために、転炉開口部とOGとの隙間はできるだけ小さくすることが好ましく、30mm〜100mmに調整されていることが望ましい。
転炉の操業条件によって異なるものの、上記の対応によって、例えば、漏れこみ空気量を転炉ガス量の14%未満に下げることができれば、発生する転炉ガス中の窒素濃度は10%に満たない。
【0026】
転炉操業はバッチ操作であり、転炉ガスの組成は、転炉や回収装置の運転条件に大きく左右され、また、吹練(銑鉄から炭素を除く工程)時間の間にも変動する。
したがって、本実施の形態例に係る転炉ガスの改質・回収方法の他の例として、転炉ガス回収系統を分岐して、製鋼用転炉装置の例えば20分間程度かけて行う吹錬パターンの中で一酸化濃度が相対的に高い、例えば、吹錬初期と吹錬終期の時間を除く7〜8分間程度の時間帯の発生転炉ガスを選択的に吸引する設備を設け、転炉ガス成分計(一酸化炭素、二酸化炭素濃度計)により選択回収のタイミングを計り、窒素濃度10%以下の高濃度一酸化炭素のみを回収する。
転炉ガスは、転炉から流出する際の圧力が20mmAq〜200mmAq程度で、温度が1200〜1500℃程度である。本実施の形態例では、既設のOGシステムを介して圧力を−5mmAq〜5mmAq程度に調整したものを吸引し、爾後の処理を行う。
【0027】
本実施の形態例に係る転炉ガスの改質・回収方法は、さらに、発生する転炉ガスを吸引し、転炉ガス中の二酸化炭素ガスを除去したのち、高純度の一酸化炭素を含む改質された転炉ガスを回収する。
【0028】
転炉ガス中の二酸化炭素ガスの除去は、例えば圧力スイング吸着法その他の適宜の方法を用いてもよいが、転炉ガスを、有機アミンを含有する二酸化炭素吸収液に吸収させて二酸化炭素を分離除去する方法を用いることが、大量の転炉ガスを安価に処理するうえで、好ましい。
有機アミンは、二酸化炭素を吸収し、且つ、加熱により容易に二酸化炭素を放出する塩基性化合物である。
有機アミンを含有する二酸化炭素吸収液は、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-ヒドロエチルシクロヘキシルアミン、N−ヒドロキシエチルイソプロピルアミンまたはN,N−ジヒドロキシエチルイソプロピルアミンのいずれか1種または2種以上の混合物の水溶液であることが好ましい。
二酸化炭素吸収液中の有機アミンの濃度は、水溶液の粘度により決まるが、好ましくは10質量%〜80質量%、より好ましくは20質量%〜50質量%である。
【0029】
二酸化炭素吸収液中へ二酸化炭素ガスを吸収する処理は、例えば、40〜50℃の温度に保持された二酸化炭素吸収液に、気液比10〜15の条件で、あるいは気体の液体中での滞留時間4〜6秒の条件で行うことが好ましい。
【0030】
二酸化炭素吸収液に吸収した二酸化炭素を分離除去する処理は、例えば、二酸化炭素吸収液を70〜130℃の温度に加熱することで、二酸化炭素を二酸化炭素吸収液から容易に脱離、放出することができる。
二酸化炭素吸収液から脱離した二酸化炭素は、前記した製鋼用転炉装置の炉口とOGシステムの間の隙間を二酸化炭素ガスでシールするシールガスとして循環利用することが好ましい。このとき、二酸化炭素吸収液から脱離した二酸化炭素に同伴する水分を除去しておくことが好ましい。
本実施の形態例に係る転炉ガスの改質・回収方法によれば、濃度が90%以上の高純度の一酸化炭素を含む改質転炉ガスを回収することができる。改質転炉ガスは、例えば 酢酸、メタノール等の化学品原料として好適に用いることができる。
【0031】
つぎに、本実施の形態例に係る転炉ガスの改質・回収システムについて、図1を参照して説明する。
図1に示す本実施の形態例に係る転炉ガスの改質・回収システム10は、シールガス供給部12と、転炉ガス改質・回収部14を有する。なお、図1中、参照符号Aは転炉を、参照符号BはOGシステムを、それぞれ示す。
シールガス供給部12は、製鋼用転炉装置の転炉Aの炉内部および発生する転炉ガスの吸引部(OGシステムB)と、大気が連通する開口部を二酸化炭素ガスでシールするものであり、例えば、二酸化炭素噴出口を備えたリング状のヘッダーであって、炉口部周囲を網羅する噴出口から二酸化炭素ガスを開口部に吹き付けて充満させることで、あるいはまた、開口部に二酸化炭素ガスのカーテンを設けて開口部を二酸化炭素ガスでシールする。ここでシールに用いる二酸化炭素ガスは、後述する転炉ガス改質・回収部14で転炉ガスより吸収分離した二酸化炭素の一部をリサイクル使用することが好ましい。
転炉ガス改質・回収部14は、発生する転炉ガスを吸引し、転炉ガス中の二酸化炭素ガスを除去したのち回収する、いわゆる化学吸収設備である。例えば、吸収塔と脱着塔の2塔から成り、吸収塔では、有機アミン類を含む吸収液と二酸化炭素を含む転炉ガスとが交流接触することで、吸収液中のアミン類との炭酸塩を形成し、水溶液中に二酸化炭素が吸収される。転炉ガス中の二酸化炭素は分離除去され、高純度の一酸化炭素を含む改質転炉ガスを回収する。二酸化炭素を吸収した吸収液は続いて脱着塔へ送られ、加熱源との接触により昇温され、アミン類から脱着した二酸化炭素は脱着塔から排出される。二酸化炭素を放出した吸収液は、再度、吸収塔へと供給される。
このとき、図1では、OGシステムで回収した発生転炉ガスの全部または一部を転炉ガス改質・回収部14に導入する構成としているが、シールガス供給部12に代えて、OGシステムより発生転炉ガスを部分的に回収する転炉ガス選択回収装置(転炉ガス選択回収部)を設けてもよい。これにより、例えば、転炉吹錬時間の中で発生する転炉ガスの一酸化濃度が高い時間帯のみのガスを、転炉ガス選択回収装置を介して転炉ガス改質・回収部14に導入することができる。
なお、転炉ガスの改質・回収システム10は、OGシステムで回収した発生転炉ガスを一旦貯留した後に転炉ガス改質・回収部14に導入するための転炉ガスホルダ16や、回収した高純度の一酸化炭素を含む改質転炉ガスを化学原料として搬出するまでの間貯留するための回収ガスホルダ18を設けておくことは、好ましい実施態様である。転炉ガスホルダ16を設けて発生転炉ガスを貯留することで、例えば、転炉ガスの改質・回収システム10で処理する転炉ガスの量や成分の変化を平準化することができる。
また、同様に、転炉吹錬時間の中で発生する一酸化濃度が高い転炉ガスのみを選択回収した高一酸化炭素濃度転炉ガス専用のホルダーを別途設置して、ホルダーに貯留した高一酸化炭素濃度転炉ガスを転炉ガス改質・回収部14に導入することもできる。
【0032】
転炉ガスの改質・回収システム10は、転炉ガス改質・回収部14で除去した二酸化炭素ガスを転炉ガス改質・回収部14から放出し、シールガス供給部12に循環する二酸化炭素循環部20をさらに設けることが好ましい。二酸化炭素循環部20は、放出した二酸化炭素ガスに同伴する水分を除去する、例えばミストキャッチャー等の水分除去装置を有することが好ましい、
【0033】
本実施の形態例に係る転炉ガスの改質・回収システム10によれば、濃度が90%以上の高純度の一酸化炭素を含む改質転炉ガスを回収することができる。改質転炉ガスは、例えば 酢酸、メタノール等の化学品原料として好適に用いることができる。
【0034】
以下に本発明のシミュレーション例を述べる。
【0035】
(漏れこみ空気量のモデル化)
転炉口とOGシステムの隙間から流入する空気の量を推定するため、転炉操業時の温度条件および発生ガスの流速を再現した実験を行い、隙間より流入する空気量を測定して、転炉操業時の転炉開口部とOGの隙間より混入する空気量をモデル化した。モデル炉口径と隙間の比率は、転炉径と炉口−OG間の隙間の比に合わせ、モデル装置での空気混入割合は、実炉における数値に近い値を示した(モデル1)。
つぎに、この流入状態を基本に、隙間部に設けたシールガス吹き込み口よりシールガス(ここでは窒素を使用した)を吹き込み、隙間部より流入するシールガス、空気量をそれぞれ測定した(モデル2〜4)。
結果を表1に示す。表1中、空気遮断効率は、モデル1における混入空気をシールガスにより置換した割合により定義した値である。例えば、モデル2の場合、シールガス流量50m3/hでは、酸素濃度は、モデル1(シールガス無し)における4.9%から3.8%に減少した。すなわちガス中に空気が占める割合は、下記の算出式に示すように、23.3%から18.1%に減少した。このときの空気遮断効率は、下記の計算式に示すように、22.3%である。
モデル1における空気の割合 4.9/0.21=23.3%
モデル2における空気の割合 3.8/0.21=18.1%
シールガスによる空気遮断効率 (23.3−18.1)/23.3×100
=22.3%
モデル4の場合、シールガス流量200m3/hでは、酸素濃度は、モデル1(シールガス無し)における4.9%から1.6%に減少した、すなわちガス中に空気が占める割合は、下記の算出式に示すように、23.3%から7.6%に減少した。このときの空気遮断率は、下記の算出式に示すように、67.3%であり、十分低い窒素濃度を達成できた。
モデル4における空気の割合 1.6/0.21=7.6%
シールガスによる空気遮断効率 (23.3−7.6)/23.3×100
=67.3%
モデル2〜4では、シールガス流量を増加するにつれて、良好に空気が遮断されていることが分かる。
【0036】
【表1】

【0037】
(本発明の二酸化炭素吸収シミュレーション)
モノエタノールアミン30%水溶液に二酸化炭素を20%含むモデルガスをバブリングさせ、二酸化炭素を吸収除去した後のモデルガス中の二酸化炭素濃度は、1.1%であった。
モデル4(シールガス流量が200m3/h)において、流入空気遮断効率が67.3%であることから、転炉ガス組成の代表値(一酸化炭素70%、二酸化炭素15%、窒素15%)を用いたときの二酸化炭素吸収除去後の一酸化炭素濃度は、以下の算出式に示すように、91.8%である。
モノエタノールアミンによる二酸化炭素吸収率:
(20−1.1)/20×100=94.5%
二酸化炭素による空気遮断後の窒素濃度: 15×(1−0.673)=4.9%
二酸化炭素による空気遮断後の二酸化炭素濃度: 15+(15−4.9)
=25.1%
二酸化炭素吸収除去後の一酸化炭素濃度:
70/(70+4.9+25.1×(1−0.945))×100=91.8%

【0038】
(参考)
上記転炉ガス組成の代表値を用い、空気遮断を行うことなく、二酸化炭素吸収のみを行ったときの、二酸化炭素吸収除去後の一酸化炭素濃度は、下記の算出式に示すように、81.6%である。
二酸化炭素吸収除去後の一酸化炭素濃度:
70/(70+15+15×(1−0.945))×100=81.6%
【符号の説明】
【0039】
10 転炉ガスの改質・回収システム
12 シールガス供給部
14 転炉ガス改質・回収部
16 転炉ガスホルダ
18 回収ガスホルダ
20 二酸化炭素循環部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼用転炉装置の炉口とOGシステムの間の隙間を二酸化炭素ガスでシールするとともに、発生する転炉ガスを吸引し、該転炉ガス中の二酸化炭素ガスを除去したのち回収することを特徴とする転炉ガスの改質・回収方法。
【請求項2】
製鋼用転炉装置の吹錬パターンの中で一酸化濃度が相対的に高い時間帯の発生転炉ガスを選択的に吸引し、該転炉ガス中の二酸化炭素ガスを除去したのち回収することを特徴とする転炉ガスの改質・回収方法。
【請求項3】
前記転炉ガスを、有機アミンを含有する二酸化炭素吸収液に吸収させて二酸化炭素を分離除去することを特徴とする請求項1または2に記載の転炉ガスの改質・回収方法。
【請求項4】
前記有機アミンを含有する二酸化炭素吸収液が、N-ヒドロエチルシクロヘキシルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−ヒドロキシエチルイソプロピルアミンまたはN,N−ジヒドロキシエチルイソプロピルアミンのいずれか1種または2種以上の混合物の水溶液であることを特徴とする請求項3記載の転炉ガスの改質・回収方法。
【請求項5】
前記二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液を加熱して二酸化炭素を二酸化炭素吸収液から脱離し、脱離した二酸化炭素を前記シール用に用いることを特徴とする請求項1記載の転炉ガスの改質・回収方法。
【請求項6】
製鋼用転炉装置の炉口とOGシステムの間の隙間を二酸化炭素ガスでシールするシールガス供給部と、発生する転炉ガスを吸引し、該転炉ガス中の二酸化炭素ガスを除去したのち回収する転炉ガス改質・回収部を有することを特徴とする転炉ガスの改質・回収システム。
【請求項7】
製鋼用転炉装置の吹錬パターンの中で一酸化濃度が相対的に高い時間帯の発生転炉ガスを選択的に吸引する転炉ガス選択回収部と、該転炉ガス中の二酸化炭素ガスを除去したのち回収する転炉ガス改質・回収部を有することを特徴とする転炉ガスの改質・回収システム。
【請求項8】
前記転炉ガス改質・回収部で除去した二酸化炭素ガスをシールガス供給部に循環する二酸化炭素循環部をさらに有することを特徴とする請求項6または7に記載の転炉ガスの改質・回収システム。


【図1】
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【公開番号】特開2013−23749(P2013−23749A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161855(P2011−161855)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、グリーンサスティナブルケミカルプロセス基盤技術開発/化学品原料の転換・多様化を可能とする革新グリーン技術の開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000006644)新日鉄住金化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】