説明

軸流圧縮機及びその改造方法

【課題】単一段の可変静翼を有する軸流圧縮機から可変静翼を複数段に容易に改造することができる。
【解決手段】圧縮機の径方向に延びる自己の回転軸2周りに回転し翼角度が調整可能な可変静翼3からなる複数段の静翼翼列1と、複数段の静翼翼列1にそれぞれ連結され、対応する静翼翼列1の可変静翼3をそれぞれ回転駆動させる複数のリング11a,11bと、複数のリング11a,11bのそれぞれに対応して設けた複数のレバー12a,12bと、複数のレバー12a,12bを回動可能に支持するとともに、圧縮機軸の延在方向に延び当該複数のレバー12a,12bを固定的に連結して一体化する回転軸13と、複数のリング11a,11bとこれらに各々対応するレバー12a,12bとを連結する複数の連結棒14a,14bと、複数のレバー12a,12bのうち初段の静翼翼列1に対応するものに連結したシリンダ15とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービン等に用いられる軸流圧縮機及びその改造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガスタービンの高性能化のために軸流圧縮機が高圧力比のものに改造されるケースが増えてきている。ガスタービン等に用いられる軸流圧縮機の可変静翼は単一段である場合が通常であったが、高圧力比の軸流圧縮機では一般に複数段の可変静翼が備わっている(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−322456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
可変静翼は、その角度を変化させるために可変静翼駆動装置を要するが、可変静翼を単一段から複数段に改造するにあたっては、製造効率面及びコスト面を考慮して、可変静翼駆動装置の改造はなるべく少なく抑えたい。
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、単一段の可変静翼を有する軸流圧縮機から可変静翼を複数段に容易に改造することができる軸流圧縮機及びその改造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、圧縮機の径方向に延びる自己の回転軸周りに回転し翼角度が調整可能な可変静翼からなる複数段の静翼翼列と、これら複数段の静翼翼列にそれぞれ連結され、対応する静翼翼列の前記可変静翼をそれぞれ回転駆動させる複数のリングと、これら複数のリングのそれぞれに対応して設けた複数のレバーと、これら複数のレバーを回動可能に支持するとともに、圧縮機軸の延在方向に延び当該複数のレバーを固定的に連結して一体化する回転軸と、前記複数のリングと当該複数のリングに各々対応する前記レバーとを連結する複数の連結棒と、前記複数のレバーのうち初段の静翼翼列に対応するものに連結したシリンダとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、単一段の可変静翼を有する軸流圧縮機から可変静翼を複数段に容易に改造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る軸流圧縮機の側面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る軸流圧縮機に備えられた可変静翼駆動機構を抜き出して表した側面図である。
【図3】図2中の矢印IIIによる矢視正面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る可変静翼駆動機構に備えられたレバーのモデル図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る可変静翼駆動機構に備えられたレバーにおける回転軸から2つの球面軸受までの距離の比とシリンダの所要出力及び所要ストロークとの関係を表した図である。
【図6】単一段の可変静翼を有する既存の軸流圧縮機の側面図である。
【図7】既存の軸流圧縮機に備えられた単一段の可変静翼駆動機構を抜き出して表した側面図である。
【図8】図7中の矢印VIIIによる矢視正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0010】
図1は本発明の一実施形態に係る軸流圧縮機の側面図である。
【0011】
軸流圧縮機100は大気を吸い込んで圧縮するものであり、図1に示したものはガスタービンに適用した例である。すなわち、軸流圧縮機100で圧縮した圧縮空気を燃焼器200で燃料とともに燃焼し、その燃焼ガスでタービン(図示せず)を駆動する。タービンの回転動力は、発電機やポンプ等といった負荷機器の駆動力となる。
【0012】
本実施形態の軸流圧縮機100は、複数段の静翼翼列(初段及び第2段落のみ図示)と、各段落において静翼翼列の下流側に位置する複数段の動翼翼列(図示せず)を外周部に備えた圧縮機ロータ(図示せず)とを備えている。各段落の静翼及び動翼の翼列は、それぞれ放射状に延びる複数の静翼(初段及び第2段落のものを各1つのみ図示)及び動翼(図示せず)が環状に配置して構成したものである。
【0013】
本実施形態の軸流圧縮機において、全段落のうち初段を含んで吸気の流れ方向の上流側(以下、単に上流側という)の複数段の静翼翼列1は、圧縮機の径方向に延びる自己の回転軸2周りに回転し吸気の流れに対する翼角度が調整可能な複数の可変静翼3からなっている。なお、こうした可変静翼3で構成される一群の静翼翼列1の吸気の流れ方向の下流側(以下、単に下流側という)に固定型の静翼(図示せず)で構成される一段又は複数段の静翼翼列(図示せず)が設置される場合もあるが、軸流圧縮機1の全段落の静翼翼列1が可変静翼3で構成される場合(固定型の静翼が使用されない場合)もある。固定型の静翼で構成される静翼翼列を設ける場合、それら静翼は一端がケーシング4の内周面に固定され、他端がロータの軸部に対向することとなる。なお、軸流圧縮機1の中間段には抽気配管5が設けられている。抽気配管5は、ガスタービンの所望の箇所に冷却空気やシール空気として供給される圧縮途中の空気の一部を抽気するものである。
【0014】
静翼翼列1の各可変静翼3は、ケーシング4の内側に配置されたプロフィル部(翼部)6からその回転軸2がケーシング4を貫通している。ケーシング4の外周側に突出した回転軸2の先端部にはレバー7が固定されており、各静翼翼列1の各可変静翼3の回転軸2のレバー7が、各可変静翼3の翼角度を同時に変更する可変静翼駆動機構10に連結されている。
【0015】
図2は可変静翼駆動機構10を抜き出して表した側面図、図3は図2中の矢印IIIによる矢視正面図である。
【0016】
図2及び図3に示したように、可変静翼駆動機構10は、可変静翼3(図1参照)を回転駆動させる複数のリング11と、これら複数のリング11に対応して設けた複数のレバー12と、これら複数のレバー12を回動可能に支持する回転軸13と、複数のリング11とこれら複数のリング11に各々対応するレバー12とを連結する複数の連結棒14と、複数のレバー12のうち初段の静翼翼列1に対応するものに連結したシリンダ15とを備えている。なお、本実施形態では可変静翼3からなる静翼翼列1を2段設けた場合を例示しているので、リング11、レバー12、連結棒14は各2つずつであり、以降、初段のリング11、レバー12、連結棒14にはそれぞれ添え字aを、第2段落のリング11、レバー12、連結棒14にはそれぞれ添え字bを付する。
【0017】
初段のリング11aは、初段の静翼翼列1の各可変静翼3の回転軸2のレバー7(図1参照)に連結されている。各レバー7はリング11aに対し、対応する可変静翼3の回転軸2と平行な軸(図示せず)を介して回動可能に連結されている。同様に、第2段落のリング11bも、第2段落の静翼翼列1の各可変静翼3の回転軸2のレバー7(図1参照)の回動動作を許容するように、それらレバー7と連結されている。本実施形態では特に図示していないが、これらリング11a,11bの外周部には、軸流圧縮機100のケーシング4の外周部を覆う圧縮機車室(外ケーシング)又は基礎に設けた3つ以上のローラが転接しており、これらローラによってリング11a,11bが、図3に矢印Bで示したように自転することができるように支持されている。リング11a,11bの回転中心は、製作誤差は許容するが、設計上は基本的に圧縮機ロータの回転中心に一致している。
【0018】
レバー12a,12bは、上記回転軸13に対して回転しないように連結されて回転軸13を介して一体化されており、回転軸13を支点にして互いに一体となって回動するように構成されている。レバー12a,12bにおける連結棒14a,14bとの連結部には球面軸受16a,16bが、初段のレバー12aにおけるシリンダ15との連結部には球面軸受17がそれぞれ使用されている。すなわち、レバー12aは連結棒14a及びシリンダ15に対してそれぞれ球面軸受16a,17を介して連結されており、レバー12bは連結棒14aに対して球面軸受16bを介して連結されている。
【0019】
回転軸13は、圧縮機軸の延在方向に延びており、前述の通りレバー12a,12bを固定的に連結して一体化している。回転軸13の両端は前述した圧縮機車室又は基礎に支持された球面軸受18によって支持されている。
【0020】
連結棒14a,14bは、それぞれリング11a,11bの外周部に突設されたレバー19a,19bに対して一端が球面軸受20a,20bを介して連結されている。他端は前述した通り球面軸受16a,16bを介してレバー12a,12bに連結されている。また、シリンダ15は、一端が前述した通り球面軸受17を介してレバー12aに連結されており、他端が圧縮機車室又は基礎に対して球面軸受21を介して連結されている。これら連結棒14a,14b及びシリンダ15は、例えば軸流圧縮機100が定格運転に移行した際に、図2に示したように圧縮機軸に直交する面に沿って配置されている。この場合、連結棒14a,14b及びシリンダ15は、運転開始後にケーシング4と圧縮機車室(図示せず)等との熱伸び差が生じると圧縮機軸に直交する面に沿うように、運転開始前の段階では、図2において圧縮機軸方向に若干傾斜している。さらに、連結棒14a,14b及びシリンダ15が、図3に示した状態及び図3に示した状態からシリンダ15が伸張した状態においても、リング11a,11bの接線に沿うように、シリンダ15の長さ及びストロークに応じて、球面軸受16a,16b,17,20a,20b,21の配置、連結棒14a,14bの長さ、及びレバー19a,19b,12a,12bのサイズ等が設定されている。なお、本実施形態では、シリンダ15は鉛直に配置されている。
【0021】
ここで、以上の本実施形態の軸流圧縮機100の構成は、初段のみの単一段が複数の可変静翼3からなる静翼翼列1である既存の軸流タービンを基礎とし、複数の可変静翼3からなる静翼翼列1を容易に増設し軸流圧縮機を高性能化するのに好適である。こうした改造方法について次に簡単に説明する。
【0022】
図6は単一段の可変静翼を有する既存の軸流圧縮機の側面図、図7は既存の軸流圧縮機の単一段の可変静翼駆動機構を抜き出して表した側面図、図8は図7中の矢印VIIIによる矢視正面図である。これらの図において、図1−図3と同様の部分には図1−図3と同符号を付して説明を省略する。
【0023】
図6に示した既存の軸流圧縮機100’は、初段の静翼翼列1のみが可変静翼3からなっており、第2段落以降の静翼翼列(図示せず)は固定型のものである。そして、初段の静翼6を動かすリング11aが既存の可変静翼駆動機構10’に連結されている。
【0024】
図6−図8に示したように、既存の可変静翼駆動機構10’は、リング11aと、このリング11aを自転させるシリンダ15とを有している。シリンダ15は、リング11aに突設されたレバー19aに対して一端がピン17’(図8参照)を介して連結されている。シリンダ15の他端は、圧縮機車室又は基礎に対して軸受21’を介して連結されている。
【0025】
このような既存の軸流圧縮機100’を改造して図1−図3に示した本実施形態の軸流圧縮機100を構築する場合、まず、軸流圧縮機100’の第2段落(可変静翼3を3段以上に設置する場合には、第2段落を含む複数の段落)の固定型の静翼を新たな可変静翼3に交換する。そして、既存の固定型の静翼に置き換えた新たな可変静翼3からなる静翼翼列1に、当該静翼翼列1の可変静翼3を回転駆動させる新たなリング11bを連結する。
【0026】
続いて、既存の初段のリング11a及び新たに追加したリング11bのそれぞれに対応する複数のレバー12a,12bと、これら複数のレバー12a,12bを回動可能に支持するとともに一体化する回転軸13と、複数のリング11a,11bと当該複数のリング11a,11bに各々対応するレバー12a,12bとを連結する複数の連結棒14a,14bとを追加する。
【0027】
そして、既存の軸流圧縮機100’に設置されていた既存のシリンダ15(又はこれと同クラスの別のシリンダでも良い)を複数のレバー12a,12bのうち初段の静翼翼列1に対応するレバー12aに連結する。
【0028】
以上の手順によって、図6−図8に示した既存の軸流圧縮機100’を基礎にして本実施形態の軸流圧縮機100を構築することができる。
【0029】
次に、本実施形態の軸流圧縮機100の可変静翼3の翼角度変更に係る動作と作用効果とを順次説明する。
【0030】
図示しない操作手段を操作してシリンダ15を伸縮させると、レバー12a及びこれに回転軸13を介して一体化されたレバー12bが回転軸13を支点にして図3中に矢印Aで示したように回動し、同時に、レバー12a,12bと連結棒14a,14bで連結されたリング11a,11bが図3中に矢印Bで示したように回転する。リング11a,11bが回動すると、それぞれ初段及び第2段落の静翼翼列1の各可変静翼3のレバー7が動かされ、初段及び第2段落の静翼翼列1の各可変静翼3が各回転軸2を中心にして回転駆動し、各可変静翼3の翼角度が変化する。
【0031】
以上、本実施形態によれば、既存の軸流圧縮機100’を基礎として、元から存在する静翼翼列1やリング11a、シリンダ15を流用し、固定型の静翼を新たな可変静翼3に交換するとともに、リング11bと、レバー12a,12b及び回転軸13からなる構造物と、この構造物を支持する球面軸受18と、連結棒14a,14bとを追加することで、複数段の可変静翼3を有する軸流圧縮機100を構築することができる。既存の軸流圧縮機100’の主な構成要素として流用しないのは、交換せざるを得ない固定型の静翼とシリンダ15の両端を支持していたピン17’,21’程度であり、その他の主たる構成要素については多く活用することができる。シリンダ15の設置位置も既存の軸流圧縮機100’と共通である。
【0032】
また、複数の可変静翼3を有する軸流圧縮機100を構築するに当たって、初段の可変静翼3は、他の段落の可変静翼3と比較しても翼の体格が大きく流体から受ける力が最も大きいため、可変静翼3を回転させるための所要動力も最大である。したがって、複数段の可変静翼3を駆動する可変翼駆動機構10に要求される所要動力は、主に初段の可変静翼3を回転させるために必要な力で決まる。そこで、初段のリング11aに対応する位置にシリンダ15を設置し、連結棒14a及びレバー12aを介して初段のリング11aにシリンダ15の出力が直接伝わる構成とし、初段の可変静翼3の所要動力を考慮した構成としてある。
【0033】
加えて、軸流圧縮機は、本実施形態のようにガスタービンに適用するものに限らず、起動負荷を抑えるために主流路から抽気する抽気管(本実施形態では抽気管5)を中間段に有するのが通常である。したがって、中間段にシリンダ15を設置すると、抽気管5との間のスペースの余裕がなくなるため作業効率が低下し得るところ、本実施形態では、初段のリング11aに対応する位置にシリンダ15を設置したことにより、抽気管5との間に作業スペースを広く採ることができ、作業効率を確保することができる。
【0034】
以上のことから、本実施形態によれば、既存の軸流圧縮機100’の構造を多く活用し可変静翼駆動装置の改造を小改造に抑えることができ、製造効率も高く低コストで改造することができる。したがって、単一段の可変静翼3を有する既存の軸流圧縮機100’から複数段の可変静翼3を有する軸流圧縮機100に容易に改造することができる。
【0035】
ここで、レバー12a,12bにおける回転軸13と球面軸受16a,17との距離関係について検討する。
【0036】
図4はレバー12aのモデル図、図5は回転軸13から球面軸受16a,17までの距離の比とシリンダ15の所要出力及び所要ストロークとの関係を表した図である。
【0037】
ここでは、図4に示したように、圧縮機軸方向から見て、レバー12a及び連結棒14aの連結部(すなわち球面軸受16a)の中心から回転軸13の中心までの距離をA、レバー12a及びシリンダ15の連結部(すなわち球面軸受17)の中心から回転軸13の中心までの距離をBとする。A/Bの実用上の設定範囲をシリンダ15の所要出力F及び所要ストロークSとの関係から検討する。(A/B)min及び(A/B)maxは、ケーシング4と車室との間の空間の制約上、物理的に採り得るA/Bの最小値及び最大値である。
【0038】
図5のシリンダ15の所要出力FとA/Bとの関係(同図の上図)から判るように、A/Bの値が大きくなるに連れて、リング11a,11bを自転させて全ての可変静翼3を動かすのに必要なシリンダ15の所要出力は比例的に増していく。しかしながら、シリンダ15に既存のものを用いる場合、その最大出力Fmaxは決まっているので、既存のシリンダ15の最大出力Fmax以下の出力で可変静翼3を動かせなければならないので、図5の上図からA/Bの実用上の設定範囲の上限値は(A/B)2となる((A/B)min<(A/B)2<(A/B)max)。
【0039】
一方、可変静翼3の可動範囲(回転角)を必要量確保するには、初段の可変静翼3の既存のレバー7の長さを基本とした場合、リング11a,11bの必要な自転角度が決まる。しかしながら、図5のシリンダ15の所要ストロークSとA/Bとの関係(同図の下図)から判るように、A/Bの値が小さくなれば、それだけリング11a,11bを必要角度だけ自転させるのに必要なシリンダ15の所要ストロークが長くなる。シリンダ15に既存のものを用いる場合には、その最大ストロークSmaxは決まっている。すなわち、既存のシリンダ15の最大ストロークSmax以下のストロークでリング11a,11bを必要角度だけ自転させることができなければならないので、図5の下図からA/Bの実用上の設定範囲の下限値は(A/B)1となる((A/B)min<(A/B)1<(A/B)2<(A/B)max)。
【0040】
以上の結果から、例えば既存のシリンダ15の最大出力Fmaxが比較的低い場合やなるべく小さな出力で可変静翼3を動かせるようにする場合には、(A/B)minを下回らない範囲で距離Bに対する距離Aの値が小さくなるようにレバー12aを製作するのが有利である。反対に、例えば既存のシリンダ15の最大ストロークSmaxが比較的短い場合やなるべく短いストロークで可変静翼3を動かせるようにする場合には、(A/B)maxを超えない範囲で距離Bに対する距離Aの値が大きくなるようにレバー12aを製作するのが有利である。A,Bの設定の一好適例としては、可変静翼3を駆動するのに必要な力が最も大きいのは最も長翼である初段であることから、シリンダ15の出力がほぼそのまま初段の可変静翼3を駆動する力として伝わるように距離Aを距離Bに合わせ、A=B若しくはA≒Bとすることが考えられる。
【0041】
このように、可変静翼3を回転させるのに必要な所要駆動力が最も大きいことに鑑み、初段の距離A,Bが同程度となるようにレバー12aを構成し、シリンダ15の駆動力が初段の可変静翼3を回転させる力としてほぼそのまま伝わるようにしたことにより、既存のシリンダ15を有効に活用して複数段の可変静翼3を有する本実施形態の軸流圧縮機100を構築することができる。そして、このように駆動力の伝達効率を工夫することにより、1本のシリンダ15で複数段の可変静翼3を動かすことができる。
【0042】
また、圧縮機軸方向から見て、リング11aの概ね接線方向にシリンダ15及び連結棒14a,14bが動作する構成としているので、この点もシリンダ15の出力をリング11a,11bの駆動力に効率的に変換するのに役立つ。
【0043】
さらに、仮にリング11a,11b、連結棒14a,14b、レバー12a,12b、シリンダ15間の連結部を通常の軸受で連結する構成とすると、運転中のケーシング4と車室との熱伸び差等に起因してリング11a,11bとシリンダ15の軸方向位置がずれた場合に連結棒14a,14bや回転軸13等が傾くため、連結部に摩擦が生じてしまいシリンダ15の出力の伝達効率が低下する。加えて、リング11a,11b等も複数段に亘って存在し、構成要素間の連結部位が多いことから、ケーシング4と車室との熱伸び差が甚だしい場合には、摩擦抵抗の著しい増加によって、リング11a,11bを回転させられなくなる状態にも陥り得る。
【0044】
そこで本実施形態では、球面軸受16a,16b,17,20a,20b,21を用い、リング11a,11b、連結棒14a,14b、レバー12a,12b、シリンダ15間の連結部を全て球面軸受で連結することにより、ケーシング4の熱伸び等に起因するシリンダ15の出力の損失やリング11a,11bが動作不能に陥ることを抑制することができる。
【0045】
また、連結棒14a,14b及びシリンダ15は、運転開始前の段階では、圧縮機軸に直交する面に対して傾斜させておくことによって、軸流圧縮機100の運転中に図2に示したように圧縮機軸に直交する面に沿う姿勢に移行させることができる。この点も、シリンダ15の出力をリング11a,11bの駆動力に効率的に変換するのに有用である。
【符号の説明】
【0046】
1 静翼翼列
2 回転軸
3 可変静翼
11a,b リング
12a,b レバー
13 回転軸
14a,b 連結棒
15 シリンダ
16a,b 球面軸受
17 球面軸受
20a,b 球面軸受
21 球面軸受
100 軸流圧縮機
100’ 既存の軸流圧縮機
A レバー及び連結棒の連結部からレバーの回転軸までの距離
B レバー及びシリンダの連結部からレバーの回転軸までの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
初段の静翼翼列のみが圧縮機の径方向に延びる自己の回転軸周りに回転し翼角度が調整可能な可変静翼からなる既存の軸流圧縮機を基礎にして、
前記既存の軸流圧縮機の少なくとも第二段落の静翼を新たな可変静翼に交換し、
前記新たな可変静翼からなる静翼翼列に、当該静翼翼列の前記可変静翼を回転駆動させる新たなリングを連結し、
初段のリング及び前記新たなリングのそれぞれに対応する複数のレバーと、これら複数のレバーを回動可能に支持するとともに圧縮機軸の延在方向に延び当該複数のレバーを固定的に連結して一体化する回転軸と、前記複数のリングと当該複数のリングに各々対応する前記レバーとを連結する複数の連結棒とを追加し、
前記既存の軸流圧縮機に設置されていたシリンダ又はこれと同クラスの別のシリンダを、前記複数のレバーのうち初段の静翼翼列に対応するものに連結した
ことを特徴とする軸流圧縮機。
【請求項2】
請求項1の軸流圧縮機において、前記レバー及び前記連結棒の連結部から前記レバーの回転軸までの距離が、前記レバー及び前記シリンダの連結部から前記レバーの回転軸までの距離に合わせてあることを特徴とする軸流圧縮機。
【請求項3】
請求項1の軸流圧縮機において、前記連結棒及び前記シリンダは、圧縮機軸に直交する面に沿って配置されていることを特徴とする軸流圧縮機。
【請求項4】
請求項3の軸流圧縮機において、前記連結棒及び前記シリンダは、前記リングの接線に沿って配置されていることを特徴とする軸流圧縮機。
【請求項5】
請求項1の軸流圧縮機において、前記リングと前記連結棒、前記連結棒と前記レバー、及び前記レバーと前記シリンダが、いずれも球面軸受を介して連結されていることを特徴とする軸流圧縮機。
【請求項6】
圧縮機の径方向に延びる自己の回転軸周りに回転し翼角度が調整可能な可変静翼からなる複数段の静翼翼列と、
これら複数段の静翼翼列にそれぞれ連結され、対応する静翼翼列の前記可変静翼をそれぞれ回転駆動させる複数のリングと、
これら複数のリングのそれぞれに対応して設けた複数のレバーと、
これら複数のレバーを回動可能に支持するとともに、圧縮機軸の延在方向に延び当該複数のレバーを固定的に連結して一体化する回転軸と、
前記複数のリングと当該複数のリングに各々対応する前記レバーとを連結する複数の連結棒と、
前記複数のレバーのうち初段の静翼翼列に対応するものに連結したシリンダと
を備えたことを特徴とする軸流圧縮機。
【請求項7】
初段の静翼翼列のみが圧縮機の径方向に延びる自己の回転軸周りに回転し翼角度が調整可能な可変静翼からなる既存の軸流圧縮機を基礎にして、
前記既存の軸流圧縮機の少なくとも第二段落の静翼を新たな可変静翼に交換し、
前記新たな可変静翼からなる静翼翼列に、当該静翼翼列の前記可変静翼を回転駆動させる新たなリングを連結し、
初段のリング及び前記新たなリングのそれぞれに対応する複数のレバーと、これら複数のレバーを回動可能に支持するとともに圧縮機軸の延在方向に延び当該複数のレバーを固定的に連結して一体化する回転軸と、前記複数のリングと当該複数のリングに各々対応する前記レバーとを連結する複数の連結棒とを追加し、
前記既存の軸流圧縮機に設置されていたシリンダ又はこれと同クラスの別のシリンダを、前記複数のレバーのうち初段の静翼翼列に対応するものに連結する
ことを特徴とする軸流圧縮機の改造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−184714(P2012−184714A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48566(P2011−48566)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】