説明

輸送手段の位置、姿勢、および/または飛行方向を推定するシステムおよび方法

輸送手段の位置、姿勢、および飛行方向のうちの少なくとも1つを推定するシステムを開示する。このシステムは、輸送手段の3つの相互に直交する軸の回りの慣性角速度を示す信号を出力するように構成された少なくとも3つのジャイロスコープと、輸送手段の3つの相互に直交する軸に沿った加速度を示す信号を出力するように構成された少なくとも3つの加速度計とを含む。このシステムは、さらに、輸送手段の3つの相互に直交する軸への周囲磁場の射影を示す信号を出力するように構成された3軸磁力計を含む。このシステムは、輸送手段高度を示す信号を出力するように構成されたセンサと、輸送手段の対気速度を示す信号を出力するように構成された差圧センサとも含む。このシステムは、さらに、諸信号を受け取り、輸送手段の位置、姿勢、および飛行方向のうちの少なくとも1つを推定するように構成されたデバイスも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、米国特許法§119(e)の下で、その開示が参照によって本明細書に組み込まれている2004年6月2日出願の米国仮出願第60/576,021号の優先権の利益を主張するものである。
【0002】
本開示は、輸送手段の位置、姿勢、および/または飛行方向を推定するシステムおよび方法に関する。具体的には、本開示は、センサから受け取られた信号に基づいて空中輸送手段の位置、姿勢、および/または飛行方向を推定するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
高精度ストラップダウン(strapdown)慣性航法装置では、角速度センサ読みを使用して、輸送手段の姿勢を推定することができ、この姿勢は、通常、オイラー角の組(すなわち、ピッチ、ロール、および飛行方向)、四元数の組、および/または方向余弦行列のいずれかとして表される。慣性航法アルゴリズムを使用すると、次に、推定された姿勢情報を使用して、機体軸加速度計測定値を局所北、東、および下(NED)軸などのナビゲーション・フレーム(navigation frame)に変換することができる。結果の慣性加速度を積分して、推定慣性速度を判定することができ、この推定慣性速度を積分して、輸送手段の位置を推定することができる。
【0004】
慣性航法アルゴリズムは、たとえばジャイロスコープ(ジャイロ)などのセンサから導出された姿勢情報が適度に正確である場合に、十分に正確な結果をもたらすことができる。時々「タクティカルグレード(tactical−grade)」ジャイロと称する比較的安価なジャイロは、1時間あたり約1°のドリフト・レートを示す場合がある。そのようなジャイロは、通常、戦術ミサイルまたは、約数分という比較的短い飛行時間を通常有する他の精密誘導兵器の航行に使用することができる。さらに、現在の低コスト微細機械加工角速度センサは、しばしば、1時間あたり約300°を超えるドリフト・レートを示し、このドリフト・レートは、非常に不正確な姿勢のおよび/または飛行方向の推定をもたらす。その一方で、時々「ナビゲーション・ジャイロ(navigation gyro)」と呼ばれるかなりより正確なジャイロは、たとえば、大型旅客機、戦略ミサイル、および潜水艦などの航行に使用することができる。ナビゲーション・ジャイロは、1時間あたり約0.01°以下のドリフト・レートを示す場合がある。しかし、ナビゲーション・ジャイロは、しばしば、極端に高価であり、かつ/または多くの応用例に大きすぎ、複雑すぎる。
【0005】
慣性航法のはるかに安価ではるかに不正確な代替物を、時々「推測航法」アルゴリズムと称するものを使用することによって得ることができる。推測航法の背後にある原理は、輸送手段が進んでいる方向を推定する(たとえば、磁気コンパスまたは既知の星への方位を使用することによって)ことであり、輸送手段位置を得るために、輸送手段が進んでいる速度を推定して、速度ベクトルを判定し、速度ベクトルを経時的に積分する。
【0006】
飛行機などの空中輸送手段について、速度測定は、たとえば、ピトー圧力センサおよび周囲気温センサを介するなど、真対気速度測定によって判定することができる。対気速度は、非常に正確に、たとえば1時間あたり1マイル以内まで測定することができるが、対地速度は、風速および風向の知識と同程度に正確に測定することしかできない。いくつかの場合に、風速および風向は、たとえば気象通報を介して、地上からパイロットへの更新によって提供することができる。他の場合に、風速および風向は、飛行の一部の間に、たとえば全地球測位システム(GPS)などの航行援助を介して推定することができる。航行援助が存在しない場合に、風速および風向は、短い時間の間に適当に正確なままである可能性がある。低コスト戦術無人航空機が、GPSを備えている場合がある。しかし、GPSの使用が、たとえば厳しい環境でのジャミングに起因して、一時的に失われる場合がある。
【0007】
さらに、高価な慣性航法装置を備えていない輸送手段の姿勢および飛行方向の推定を、時々「AHRS」と称する姿勢方位基準装置(attitude−and−heading−reference−system)を使用して実行することができる。そのようなAHRSシステムは、一般に、機械的に回転するジャイロ(すなわち、姿勢推定用の垂直ジャイロおよび飛行方向推定用の方向ジャイロ)あるいは重力援助および/または運動学援助のいずれかを使用するストラップダウン・システムのいずれかを使用する。運動学援助は、必ず、輸送手段の運動学に関する仮定を設けることを必要とする。たとえば、固定翼航空機は、調整された飛行中の回転角速度(ターン・レート、turn rate)とバンク角との間の比較的単純な関係を有すると仮定することができる。しかし、この仮定は、たとえばヘリコプタなど、必ずしも協調的なターン(コーディネーテッド・ターン、coordinated turn)を行わない輸送手段については有効でないはずである。
【特許文献1】米国仮出願第60/576,021号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上で述べた短所の結果として、輸送手段の位置、姿勢、および飛行方向の推定に対する比較的低コストの解決策を提供するシステムおよび方法を提供することが望ましい可能性がある。輸送手段の位置、姿勢、および飛行方向を推定するのにGPSに頼らないシステムおよび方法を提供することも望ましい可能性がある。正確な位置、姿勢、および飛行方向の推定値を提供するために輸送手段の運動学に関する仮定を必要としないシステムおよび方法を提供することが、さらに望ましい可能性がある。
【0009】
上で述べた短所のうちの1つまたは複数を克服する願望が存在する可能性がある。開示される例示的なシステムおよび方法は、上で述べた短所のうちの1つまたは複数を満足することを試みるものとすることができる。本明細書で開示されるシステムおよび方法は、上で述べた短所のうちの1つまたは複数を除去することができるが、開示されるシステムおよび方法のいくつかの態様が、必ずしもこれらを除去しない場合があることを理解されたい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
次の説明では、いくつかの態様および実施形態が明白になる。本発明は、その最も広義の意味において、これらの態様および実施形態の1つまたは複数の特徴を有することなく実践できることを理解されたい。これらの態様および実施形態が、単に例示的であることを理解されたい。
【0011】
本明細書で実施され、あまねく説明される一態様で、本発明は、輸送手段の位置、姿勢、および飛行方向のうちの少なくとも1つを推定するシステムを含む。このシステムは、輸送手段の3つの相互に直交する軸の回りの慣性角速度を示す信号を出力するように構成された少なくとも3つのジャイロスコープと、輸送手段の3つの相互に直交する軸に沿った加速度を示す信号を出力するように構成された少なくとも3つの加速度計とを含む。このシステムは、さらに、輸送手段の3つの相互に直交する軸への周囲磁場の射影を示す信号を出力するように構成された3軸磁力計を含む。このシステムは、高度を示す信号を出力するように構成されたセンサと、輸送手段の対気速度を示す信号を出力するように構成された差圧センサとも含む。このシステムは、輸送手段の位置、姿勢、および飛行方向のうちの少なくとも1つを推定するために諸信号を受け取るように構成されたデバイスも含む。
【0012】
もう1つの態様によれば、輸送手段が、輸送手段の位置、姿勢、および飛行方向のうちの少なくとも1つを推定するシステムを含む。このシステムは、輸送手段の3つの相互に直交する軸の回りの慣性角速度を示す信号を出力するように構成された少なくとも3つのジャイロスコープと、輸送手段の3つの相互に直交する軸に沿った加速度を示す信号を出力するように構成された少なくとも3つの加速度計とを含む。このシステムは、さらに、輸送手段の3つの相互に直交する軸への周囲磁場の射影を示す信号を出力するように構成された3軸磁力計を含む。このシステムは、輸送手段高度を示す信号を出力するように構成されたセンサと、輸送手段の対気速度を示す信号を出力するように構成された差圧センサとをも含む。このシステムは、さらに、諸信号を受け取り、輸送手段の位置、姿勢、および飛行方向のうちの少なくとも1つを推定するように構成されたデバイスを含む。
【0013】
もう1つの態様によれば、輸送手段の位置、姿勢、および飛行方向のうちの少なくとも1つを推定する方法が、輸送手段の3つの相互に直交する軸の回りの慣性角速度と、輸送手段の3つの相互に直交する軸に沿った加速度と、輸送手段の3つの相互に直交する軸への周囲磁場の射影と、輸送手段高度と、輸送手段の対気速度とを示す信号を生成することを含む。この方法は、さらに、諸信号に基づいて、輸送手段の位置、姿勢、および飛行方向のうちの少なくとも1つを推定することを含む。
【0014】
上で示した構造的配置および手順配置の他に、本発明に、下で説明するものなど、多数の他の配置を含めることができる。前述の説明と以下の説明の両方が例示的であることを理解されたい。
【0015】
添付図面は、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する。図面は、本発明の例示的実施形態を示し、この説明と一緒に、本発明のいくつかの原理を説明するように働く。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
これから、本発明のいくつかの例示的実施形態を詳細に参照するが、本発明の例示的実施形態の例が、添付図面に示されている。可能な時には必ず、同一の符号が、図面および説明において、同一のまたは類似する部分を指すのに使用される。
【0017】
本明細書で説明する、空中輸送手段の位置、姿勢、および/または飛行方向を推定する例示的なシステムおよび方法は、例示的な推測航法航行アルゴリズムを使用する。これらのシステムおよび方法は、センサの比較的低コストのストラップダウン微細機械加工グループを提供することができる。
【0018】
現在、比較的低コストの微細機械加工角速度センサは、1時間あたり約300°を超えるドリフト・レートを示し、このドリフト・レートは、非常に不正確な姿勢のおよび/または飛行方向の推定をもたらす。非常に高いドリフト・レートを防ぎ、正確な姿勢のおよび/または飛行方向の推定を維持するために、追加情報を使用して、センサ情報を補足することができる。この情報は、他のセンサから得ることができ、例示的な推測航法アルゴリズムに入力することができる。いくつかの例示的実施形態によれば、これらのシステムおよび方法は、たとえば3軸磁力計、気圧高度計、および加速度計からの前加速度を含む測定値更新の組合せを使用して0ドリフト姿勢および飛行方向情報を提供する。いくつかの例示的なシステムおよび方法は、GPSシステムを使用して、輸送手段位置の更新された推定値を提供することができる。
【0019】
たとえば、図1に示された輸送手段10に、位置、姿勢、および/または飛行方向を推定する例示的なセンサ・システム12を含めることができる。図1に示された輸送手段10は、固定翼航空機であるが、輸送手段10は、たとえば、ダクト空中輸送手段(ducted aerial vehicle)、ミサイル、またはヘリコプタなどの空中輸送手段とすることができる。輸送手段10は、有人または無人とすることができる。
【0020】
センサ・システム12に、3つのジャイロ14、3つの加速度計16、3軸磁力計18、気圧高度計20、差圧センサ22、温度センサ24、および拡張カルマン・フィルタ(EKF)26を実施するCPUを含めることができる。ジャイロ14は、比較的低コストのジャイロとすることができ、3つの相互に直交する輸送手段軸の回りの慣性角速度を測定する。3つの加速度計16は、3つの相互に直交する輸送手段軸に沿った慣性加速度を測定する。3軸磁力計18は、3つの相互に直交する輸送手段軸への周囲磁場の射影を測定する。気圧高度計20は、絶対圧センサであり、周囲の静圧を測定し、差圧センサ22は、ピトー圧または指示対気速度を測定する。温度センサ24は、輸送手段の外側の気温を測定する。
【0021】
3つのジャイロ14、3つの加速度計16、3軸磁力計18、気圧高度計20、差圧センサ22、および温度センサ24からの情報は、EKF 26に入力され、カルマン・フィルタ・フレームワークで混合される。
【0022】
一般的な手持ちコンパスは、地球の磁北への方向を提供する。輸送手段位置がおおまかにわかっている場合に、「磁気偏差」と呼ばれる、輸送手段が進んでいる方向と磁北および真の北極との間の差を訂正することができる。多くの輸送手段オンボード・コンピュータは、地球磁場ベクトルの世界地図を格納するのに十分なメモリを有し、この地図は、そのような訂正に必要な情報を与えることができる。
【0023】
3軸磁力計18は、時々「機体軸」と称する輸送手段軸に射影された周囲磁場ベクトルの測定値を提供し、3つの回転軸(すなわち、ピッチ、ロール、およびヨー)のうちの2つの間接測定値を提供する(局所周囲場回りの回転を除く。この回転は、機体軸への場射影を変化させない)。
【0024】
気圧高度計20は、次の原理に基づいて、輸送手段姿勢推定誤差の間接測定値を提供する。現在の機体軸加速度計は、非常に正確であり、NED垂直軸への慣性加速度の射影は、姿勢推定の正確さによって決定される。測定された垂直加速度を、重力に起因する加速度に加算する。組み合わされた垂直加速度の積分が、垂直速度をもたらす。導出された垂直速度が、輸送手段が上昇しつつあることを示すが、正確な気圧高度計が、輸送手段が下降しつつあることを示す場合に、輸送手段姿勢の推定に誤差がある。下で説明する例示的な推測航法アルゴリズムは、気圧高度計20からの情報を輸送手段姿勢推定に数学的に組み込む。
【0025】
定常水平飛行中に、前加速度は、輸送手段ピッチ角に関する情報を提供する。しかし、横加速度は、必ずしもバンク角に関する情報を提供しない。具体的には、協調的なターン(コーディネーテッド・ターン)中の固定翼航空機は、大型旅客機上の乗客が、航空機が旋回するためにバンクしている時にシートで横に滑らないのと同一の形で、実質的に0の横加速度を有する。飛行機に関する加速度の横成分は、実質的に0のままであるが、地面に関する加速度は0ではない。
【0026】
次の議論では、本明細書で「0ドリフト姿勢および飛行方向推定アルゴリズム」と称する例示的アルゴリズムを説明する。
【0027】
EKF 26は、上で説明した例示的なセンサ・システム12から受け取った情報を混合して、最適の(最小誤差共分散の意味で)姿勢推定を作る。EKF 26の動作に、2つのステップすなわち、1)状態推定および誤差共分散の時間伝播と、2)測定値更新とが含まれる。
【0028】
航行ベクトルの時間伝播によれば、航行状態ベクトル推定値は、次の式によって与えられる。
【数1】

本明細書で使用される時に、
【数2】

は、重力慣性高度(バロイナーシャル・アルティチュード、baroinertial altitude)であり、
【数3】

は、クライム・レート(climb rate)または垂直速度であり、
【数4】

は、輸送手段姿勢を表す四元数を表し、
【数5】

は、ジャイロ・バイアス推定値のベクトルである。ハット記号(^)は、本願全体を通じて、推定値を表すのに使用される。航行状態ベクトルの伝播を記述した微分方程式(以下では「航行方程式」と称する)は、
【数6】

である。
【0029】
本明細書で使用される時に、
【数7】

は、四元数
【数8】

によって表される現在の姿勢推定値に対応する方向余弦行列の要素であり、a、a、およびaは、機体軸加速度計測定値であり、
【数9】

は、地球の回転速度に起因するナビゲーション・フレームのコリオリ加速を含む地球重力加速度推定値であり、Ωは、角速度測定値からなる4×4交代行列であり、
【数10】

は、ジャイロ・バイアス推定値からなる4×4交代行列である。式(2〜5)は、慣性センサ(たとえば、ジャイロ14および加速度計16)のサンプリング・レートと同一のレートで、ディジタル・コンピュータ内で離散化され、積分される。
【0030】
状態推定誤差は、次の形で定義される。X=[h V q ωが、真の(未知の)航行ベクトルであり、x=[δh δV φ μ]が、誤差ベクトルを表すものとする。本明細書で使用される時に、
【数11】


【数12】

である。姿勢誤差ベクトル(φ=[φ φ φ)は、次の形で定義される。
【数13】

【0031】
この定義が、方向余弦行列に基づく次の定義と同等であることを示すことができる。
【数14】

【0032】
ただし、同一の姿勢誤差ベクトルφが、3×3交代行列Φを構成するのに使用される。
【数15】

【0033】
式(7)は、定義された姿勢誤差ベクトル(φ)の便利な物理的解釈を提供する。φの要素が小さい時に、それらの要素は、真の姿勢に達するのに必要な、推定された機体軸の回りの回転を表す。さらに、式(7)を線形化することによって、
【数16】

が得られる。
【0034】
式(9)と方向余弦行列の微分方程式とを使用することによって、姿勢誤差ならびに誤差ベクトルの要素の残りに関する線形化された微分方程式を、次のように導出することができる。
【数17】

【0035】
ここで、
【数18】

は、現在のバイアス推定値地球自転速度
【数19】

を減算されたジャイロ測定値のベクトルであり、ηおよびγは、加速度計測定誤差およびジャイロ測定誤差のランダム雑音成分であり、μは、ランダムウォークとしてモデル化されたジャイロ・バイアス推定誤差のベクトルである。式(10〜12)は、誤差伝播の線形微分方程式を定義し、したがって、誤差共分散伝播の微分方程式を導出するのに使用される。
【0036】
3つの受感軸を有する磁力計の測定値式は、次の通りである。
【数20】

ここで、mは、磁力計測定値ベクトルである。残差ベクトルは、次の通りである。
【数21】

【0037】
ここで、bは、NEDフレーム内の既知の局所磁場ベクトルを表す。
この測定の測定値行列は、式(9)によって与えられる線形化された姿勢誤差表現を使用して、次のように導出することができる。
【数22】

ここで、Bは、局所地磁界ベクトルbの要素からなる3×3交代行列である。
全誤差ベクトルに関する結果の測定値行列は、
【数23】

である。
【0038】
磁力計更新の測定値共分散行列は、単位行列に定数
【数24】

を乗じたものである。この定数は、磁力計測定の相対的な正確さを反映したものである。
【0039】
X軸加速度計更新は、定常状態1g飛行運動学に基づき、測定された加速度が1gに近い時に限って使用される。この更新の測定値式は、次の通りである。
【数25】

【0040】
測定値行列の式は、この場合には行ベクトルであるが、次のように導出することができる。
【数26】

であることに留意されたい。したがって、
【数27】

である。したがって、
【数28】

である。
【0041】
まっすぐの水平飛行(1g状態である可能性が高い)では、測定誤差が、ほぼ−gφと等しく、これが、近似ピッチ角誤差である。たとえば、
【数29】

の場合に、φ<0である。したがって、推定された姿勢誤差を四元数推定値に組み込む間に、ピッチ姿勢が、φに比例する量だけ減らされる。比例係数は、カルマン・フィルタ利得の関数である。
【0042】
したがって、X軸加速度計更新の測定値ベクトルは、次のようになる。
【数30】

【0043】
ここで、式(19)に基づいて、
【数31】

である。
【0044】
この更新の測定値分散は、
【数32】

と表すことができ、ここで
【数33】

は、X加速度計測定値の相対的な正確さを反映する。
【0045】
高度更新は、気圧高度計によって提供することができるが、他のセンサによって提供することもできる(たとえば、GPS高度、動的立体視(dynamic stereo vision)、ソナー、レーダー、および/またはレーザー距離計)。圧力高度更新は、すべてのモードで行われる。測定値式は、次の通りである。
【数34】

【0046】
ただし、hは、高度測定値を表す。測定値行列(すなわち、行ベクトル)は、高度誤差に対応する単一の単位要素を有する。
【0047】
例示的実施形態によれば、GPSがない場合に、3タイプの測定値更新すなわち、3D磁力計更新、気圧高度計更新、およびX軸加速度計更新を、正確な姿勢推定を維持するのに使用することができる。これらの更新を与えられれば、姿勢誤差ベクトル(φ)および、したがって、ジャイロ・バイアス推定値誤差ベクトル(μ)は、ほとんどの定常状態飛行状態および動的飛行状態の下で可観測であり、長い時間期間にわたって持続可能である。
【0048】
姿勢誤差が小さく(姿勢誤差が可観測である時には安全な仮定である)、分析を線形の場合に限定できると仮定する。3D磁力計更新には、局所地磁界ベクトル回りの回転に関する情報が欠けている。というのは、そのような回転が、輸送手段機体軸への地磁界の射影を変化させないからである。これは、式(15)を与えられれば、3D磁力計残留誤差の式でベクトル積
【数35】

によって反映される。可観測性を示すためには、残りの2つの更新のうちの少なくとも1つが、地磁界ベクトル(b)の機体軸への射影
【数36】

に沿った姿勢誤差ベクトルφの成分を可観測にすることを保証しなければならない。
【0049】
X軸加速度計更新は、式(20)に基づいて、1g飛行に近い状態でのみ使用されるので、対応する姿勢測定値ベクトルを
【数37】

によって推定することができる(すなわち、機体Y軸回りの誤差回転(−φ)だけが観察される。1g飛行の場合に、これがほぼオイラー・ピッチ角誤差であることに留意されたい。数学的には、
【数38】


【数39】

に直交する場合に、可観測性が失われる。物理的には、これは、空中輸送手段が、Y機体軸がその局所地磁界ベクトルに直交する形で向けられていることを意味する。言い換えると、輸送手段が、まっすぐの水平飛行で正確に磁北または磁南に向いている場合に、可観測性が失われる。これは、直観的には明瞭であり、そのような状態では、ピッチ姿勢の変化が、機体のX軸およびZ軸への地磁界の射影の変化だけをもたらす。地磁界ベクトルは、これらの状態の下では、XZ機体平面内にあるので、X軸加速度計更新は、新しい情報を一切伝えず、ロール誤差とヨー誤差の線形組合せが存在し、これらの誤差は、磁力計測定値からは可観測ではない。
【0050】
高度測定値に関して、垂直速度誤差は、高度誤差の導関数であるが、測定値から可観測である。垂直速度誤差の微分方程式、たとえば式(11)に基づいて、まっすぐで水平の1g飛行では、姿勢誤差が、垂直速度測定値から可観測ではない。しかし、この状態は、航空機飛行方向が磁北または磁東に正確に合わされているという、どちらかといえば特異な場合を除いて、X軸加速度計更新によってよくカバーされる。
【0051】
定常状態の浅い協調的なターン(コーディネーテッド・ターン)での可観測性に関して、式(11)から、加速度計バイアス推定誤差を無視すると、
【数40】

である。したがって
【数41】

である。
【0052】
協調的なターン(コーディネーテッド・ターン)の前提の下で、a=0であり、したがって、この式は、さらに、
【数42】

に単純化される。
【0053】
さらに、方向余弦行列の推定された要素を、オイラー角の推定値を用いて次のように表すことができる。
【数43】

【0054】
加速度計測定値を、負荷率nおよび迎え角αの関数として記述することができる。
=ng sinα, a=−ng cosα (26)
ピッチ角推定値
【数44】

、ロール角推定値
【数45】

、および迎え角(α)について小さい角度の近似を使用すると、さらなる単純化は、次の通りである。
【数46】

【0055】
式(27)は、垂直チャネル測定値からの姿勢可観測性への分析的洞察をもたらす。迎え角αが全般的に小さいので、機体軸ヨー誤差(φ)は、可観測性が乏しい。定常レベル旋回
【数47】

では、機体軸ロール誤差(φ)だけが可観測である。航空機が、旋回中に上昇しているか下降している場合に、機体軸ロール誤差およびピッチ誤差の組合せが、可観測である。旋回中には、空中輸送手段が飛行方向を変更しつつあるので、この更新が3D磁力計を補足して、全姿勢可観測性を達成する。
【0056】
航空機が、定常状態で上昇しているか、下降しているか、水平飛行しており、一定の飛行方向が磁北または磁南のいずれかに合わされている場合に、可観測性が失われる。そのような条件が、姿勢解が発散するのに十分な持続時間にわたって永続することは、ありそうにない。
【0057】
一般性を制限せずに、対気速度を感知するピトー・プローブが、機体X軸に整列されている(そうでない場合に、角度オフセットを簡単に考慮に入れることができる)と仮定すると、対気速度測定値を、本明細書で前に導出した姿勢推定値および/または飛行方向推定値を使用して、機体軸から局所(NED)ナビゲーション・フレームに変換することができる。風ベクトル推定値が使用可能である場合に、真対気速度測定値の局所水平面への射影が、風について補償することができる。風補償された対気速度は、対地速度ベクトルの推定値をもたらし、この対地速度ベクトルの推定値を積分して、輸送手段位置の推定値を作ることができる。
【0058】
本開示の構造および方法論に対してさまざまな修正形態および変形形態を作ることができることは、当業者に明白であろう。したがって、本開示が、本明細書で議論された例に限定されないことを理解されたい。そうではなく、本開示は、修正形態および変形形態を含むことが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】輸送手段の位置、姿勢、および飛行方向を推定する例示的システムを含む輸送手段を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸送手段の位置、姿勢、および飛行方向のうちの少なくとも1つを推定するシステムであって、
前記輸送手段の3つの相互に直交する軸の回りの慣性角速度を示す信号を出力するように構成された少なくとも3つのジャイロスコープと、
前記輸送手段の3つの相互に直交する軸に沿った加速度を示す信号を出力するように構成された少なくとも3つの加速度計と、
前記輸送手段の3つの相互に直交する軸への周囲磁場の射影を示す信号を出力するように構成された3軸磁力計と、
輸送手段高度を示す信号を出力するように構成されたセンサと、
前記輸送手段の対気速度を示す信号を出力するように構成された差圧センサと、
前記輸送手段の前記位置、前記姿勢、および前記飛行方向のうちの少なくとも1つを推定するために前記諸信号を受け取るように構成されたデバイスと
を含むシステム。
【請求項2】
前記諸信号を受け取るように構成された前記デバイスが、カルマン・フィルタを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記諸信号を受け取るように構成された前記デバイスが、前記諸信号を受け取り、前記輸送手段の前記位置、前記姿勢、および前記飛行方向のうちの少なくとも1つを推定するように構成されたカルマン・フィルタ・アルゴリズムを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記アルゴリズムが、前記輸送手段の前記位置、前記姿勢、および前記飛行方向のうちの少なくとも1つを推定するように構成されたゼロドリフト・アルゴリズムを含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記アルゴリズムが、さらに、前記輸送手段の前記位置、前記姿勢、および前記飛行方向のうちの少なくとも1つを推定するように構成された推測航法アルゴリズムを含む、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記推測航法アルゴリズムが、前記輸送手段の対気速度を示す前記信号、風速推定値、ならびに前記推測航法アルゴリズムからの姿勢推定値および飛行方向推定値を受け取るように構成される、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記デバイスが、前記輸送手段の前記位置、前記姿勢、および前記飛行方向のうちの少なくとも1つの推定値を更新するために、前記3軸磁力計と、前記絶対圧センサと、前記加速度計のうちの少なくとも1つとのうちの少なくとも1つからの前記信号を使用するように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記少なくとも1つの加速度計が、前記輸送手段の前加速度を示す信号を出力するように構成される、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記輸送手段の前記位置を推定するように構成された全地球測位システムをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記少なくとも3つのジャイロスコープが、機械的に回転するジャイロスコープを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
輸送手段高度を示す信号を出力するように構成された前記センサが、絶対圧センサを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記輸送手段の外側の気温を示す信号を出力するように構成された温度センサをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
輸送手段の位置、姿勢、および飛行方向のうちの少なくとも1つを推定するシステムであって、
前記輸送手段の3つの相互に直交する軸の回りの慣性角速度を示す信号を出力するように構成された少なくとも3つのジャイロスコープと、
前記輸送手段の3つの相互に直交する軸に沿った加速度を示す信号を出力するように構成された少なくとも3つの加速度計と、
前記輸送手段の3つの相互に直交する軸への周囲磁場の射影を示す信号を出力するように構成された3軸磁力計と、
高度を示す信号を出力するように構成されたセンサと、
前記輸送手段の対気速度を示す信号を出力するように構成された差圧センサと、
前記輸送手段の前記位置、前記姿勢、および前記飛行方向のうちの少なくとも1つを推定するために前記諸信号を受け取るように構成されたデバイスと
を含むシステム
を含む、輸送手段。
【請求項14】
前記輸送手段が、固定翼空中輸送手段を含む、請求項13に記載の輸送手段。
【請求項15】
前記輸送手段が、ダクテッド・ファン空中輸送手段(ducted fan aerial vehicle)を含む、請求項13に記載の輸送手段。
【請求項16】
前記輸送手段が、無人空中輸送手段を含む、請求項13に記載の輸送手段。
【請求項17】
前記諸信号を受け取るように構成された前記デバイスが、カルマン・フィルタを含む、請求項13に記載の輸送手段。
【請求項18】
前記諸信号を受け取るように構成された前記デバイスが、前記諸信号を受け取り、前記輸送手段の前記位置、前記姿勢、および前記飛行方向のうちの少なくとも1つを推定するように構成されたアルゴリズムを含む、請求項13に記載の輸送手段。
【請求項19】
前記アルゴリズムが、前記輸送手段の前記位置、前記姿勢、および前記飛行方向のうちの少なくとも1つを推定するように構成されたゼロドリフト・アルゴリズムを含む、請求項18に記載の輸送手段。
【請求項20】
前記アルゴリズムが、さらに、前記輸送手段の前記位置、前記姿勢、および前記飛行方向のうちの少なくとも1つを推定するように構成された推測航法アルゴリズムを含む、請求項19に記載の輸送手段。
【請求項21】
前記推測航法アルゴリズムが、前記輸送手段の対気速度を示す前記信号、風速推定値、ならびに前記推測航法アルゴリズムからの姿勢推定値および飛行方向推定値を受け取るように構成される、請求項20に記載の輸送手段。
【請求項22】
前記デバイスが、前記輸送手段の前記位置、前記姿勢、および前記飛行方向のうちの少なくとも1つの推定値を更新するために、前記3軸磁力計と、前記絶対圧センサと、前記加速度計のうちの少なくとも1つとのうちの少なくとも1つからの前記信号を使用するように構成される、請求項13に記載の輸送手段。
【請求項23】
前記少なくとも1つの加速度計が、前記輸送手段の前加速度を示す信号を出力するように構成される、請求項22に記載の輸送手段。
【請求項24】
前記輸送手段の前記位置を推定するように構成された全地球測位システムをさらに含む、請求項13に記載の輸送手段。
【請求項25】
前記ジャイロスコープが、機械的に回転するジャイロスコープを含む、請求項13に記載の輸送手段。
【請求項26】
輸送手段高度を示す信号を出力するように構成された前記センサが、絶対圧センサを含む、請求項13に記載の輸送手段。
【請求項27】
前記輸送手段の外側の気温を示す信号を出力するように構成された温度センサをさらに含む、請求項13に記載の輸送手段。
【請求項28】
輸送手段の位置、姿勢、および飛行方向のうちの少なくとも1つを推定する方法であって、
前記輸送手段の3つの相互に直交する軸の回りの慣性角速度と、
前記輸送手段の3つの相互に直交する軸に沿った加速度と、
前記輸送手段の3つの相互に直交する軸への周囲磁場の射影と、
輸送手段高度と、
前記輸送手段の対気速度と、
前記輸送手段の外側の気温と
を示す信号を生成することと、
前記諸信号に基づいて、前記輸送手段の前記位置、前記姿勢、および前記飛行方向のうちの少なくとも1つを推定することと
を含む方法。
【請求項29】
前記輸送手段の前記位置、前記姿勢、および前記飛行方向のうちの少なくとも1つを推定することが、前記諸信号をカルマン・フィルタに入力することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記輸送手段の前記位置、前記姿勢、および前記飛行方向のうちの少なくとも1つを推定することが、前記諸信号を受け取り、前記輸送手段の前記位置、前記姿勢、および前記飛行方向のうちの少なくとも1つを推定するように構成されたアルゴリズムに前記諸信号を入力することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記輸送手段の前記位置、前記姿勢、および前記飛行方向のうちの少なくとも1つを推定することが、前記輸送手段の前記位置、前記姿勢、および前記飛行方向のうちの少なくとも1つを推定するように構成されたゼロドリフト・アルゴリズムに前記諸信号を入力することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記輸送手段の前記位置、前記姿勢、および前記飛行方向のうちの少なくとも1つを推定することが、前記輸送手段の前記位置、前記姿勢、および前記飛行方向のうちの少なくとも1つを推定するように構成された推測航法アルゴリズムに前記ゼロドリフト・アルゴリズムからの推定値を入力することを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記推測航法アルゴリズムに前記ゼロドリフト・アルゴリズムからの推定値を入力することが、前記輸送手段の真対気速度、風速推定値、ならびに前記推測航法アルゴリズムからの姿勢推定値および飛行方向推定値を示す信号を入力することを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記輸送手段の前記位置、前記姿勢、および前記飛行方向のうちの少なくとも1つを推定することが、前記3軸磁力計と、前記絶対圧センサと、前記加速度計のうちの少なくとも1つとのうちの少なくとも1つからの信号に基づいて、前記輸送手段の前記位置、前記姿勢、および前記飛行方向のうちの少なくとも1つの推定値を更新することを含む、請求項28に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−501571(P2008−501571A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515580(P2007−515580)
【出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【国際出願番号】PCT/US2005/019435
【国際公開番号】WO2005/119387
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(506400306)アテナ テクノロジーズ,インコーポレーテッド (4)
【Fターム(参考)】