説明

農作業車の姿勢制御装置

【課題】本発明では、圃場の小さな凹凸による揺れ程度では走行機体又は作業機の傾き修正をゆっくりと行い、大きな凹凸による傾きに対しては走行機体又は作業機の傾き修正を迅速に行うことで姿勢変動の少ない安定した農作業車の姿勢制御装置を提供することを課題とする。
【解決手段】走行機体又は作業機の絶対傾斜角を検出する傾斜センサと傾斜角の速さから傾斜角を検出する角速度センサを設け、該角速度センサが検出する傾斜角が所定値以下の場合には傾斜センサが検出する絶対傾斜角を傾斜目標角とし、角速度センサが検出する傾斜角が所定値を超えると、このときの走行機体又は作業機の絶対傾斜角に角速度センサが検出した傾斜角を加算して新たな傾斜目標角として走行機体又は作業機の姿勢を修正制御すべく構成したことを特徴とする農作業車の姿勢制御装置の構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トラクタ、管理機、移植機、収穫機等の農作業車において、作業走行中に機体や作業機を水平姿勢に制御したり水平に対する一定傾き状態に制御したりする姿勢制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
農作業機には走行機体或は作業機に機体の傾きを検出する傾斜角検出手段を設け、この傾斜角検出手段で検出する機体傾斜角に基づいて作業機の水平に対する傾きを一定に維持するように制御する姿勢制御装置を設けている。
【0003】
機体の傾きを検出する傾斜角検出手段として、水平方向に対する傾きすなわち絶対傾斜角を検出する重力式の傾斜センサと走行機体或は作業機の傾く動きを検出してどの程度傾くかすなわち相対傾斜角を予測する角速度センサが有る。
【0004】
例えば、特許第3568597号公報や特許第3763835号公報には、角速度センサの検出する相対傾斜角が零状態での傾斜センサの絶対傾斜角を基準傾斜角として角速度センサが変動時に検出する相対傾斜角を前記基準傾斜角に加算して走行機体或は作業機の傾斜角とする傾斜角検出手段が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3568597号公報
【特許文献2】特許第3763835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来の傾斜角検出手段を用いた姿勢制御装置では、凹凸の有る圃場を走行する農作業時には走行機体が常に揺れているために角速度センサの相対傾斜角が零状態になることが無いために、角速度センサが常時検出する相対傾斜角が機体の傾斜角として姿勢制御を行うことになる。このために、機体の傾きで敏感に変動する相対傾斜角によって走行機体或は作業機の姿勢変更が常に行われる状態となって凹凸の少ない圃場を走行しても安定しない。
【0007】
そこで、本発明では、圃場の小さな凹凸による揺れ程度では走行機体或は作業機の傾き修正をゆっくりと行い、大きな凹凸による傾きに対しては走行機体或は作業機の傾き修正を迅速に行うことで姿勢変動の少ない安定した農作業車の姿勢制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記本発明の課題は、次の解決手段により解決される。
即ち、請求項1に記載の発明は、走行機体(1)又は作業機(13)の絶対傾斜角(θs)を検出する傾斜センサ(23)と傾斜角の速さから傾斜角(θk)を検出する角速度センサ(24)を設け、該角速度センサ(24)が検出する傾斜角(θk)が所定値以下の場合には傾斜センサ(23)が検出する絶対傾斜角(θs)を傾斜目標角(θt)とし、角速度センサ(24)が検出する傾斜角(θk)が所定値を超えると、このときの走行機体(1)又は作業機(13)の絶対傾斜角(θs)に角速度センサ(24)が検出した傾斜角(θk)を加算して新たな傾斜目標角(θt)として走行機体(1)又は作業機(13)の姿勢を修正制御すべく構成したことを特徴とする農作業車の姿勢制御装置としたものである。
【0009】
この構成により、走行機体(1)又は作業機(13)が地面の細かな凹凸で揺れる場合は検出速度の遅い傾斜センサ(23)の検出する絶対傾斜角(θs)を傾斜目標角(θt)として姿勢制御を行うので、走行機体(1)の姿勢変更がゆっくりと行われる。走行機体(1)又は作業機(13)が大きく傾く場合には、角速度センサ(24)が検出する傾斜角(θk)に現在の走行機体(1)又は作業機(13)の絶対傾斜角(θs)を加算して新たな傾斜目標角(θt)として迅速に姿勢の修正制御が行われる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、圃場の細かい凹凸による走行機体(1)又は作業機(13)の姿勢制御が絶対傾斜角(θs)を傾斜目標角(θt)としてゆっくりと行われるので、頻繁な姿勢制御が行われることがなく機体のハンチングを防止できる。また、圃場の大きな凹凸による走行機体(1)又は作業機(13)の傾きの修正制御は、現在の走行機体(1)又は作業機(13)の絶対傾斜角(θs)と角速度センサによる傾斜角(θk)を加算した新たな傾斜目標角(θt)で迅速に姿勢の修整制御をするので、過剰な姿勢制御による走行機体(1)又は作業機(13)の揺れが少なくなり、大きな機体の傾きも迅速に修正される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】農作業車の実施例として示すトラクタの全体側面図である。
【図2】一部の拡大側面図である。
【図3】別実施例の一部拡大側面図である。
【図4】一部の拡大側断面図である。
【図5】制御ブロック図である。
【図6】制御フローチャート図である。
【図7】制御フローチャート図である。
【図8】制御フローチャート図である。
【図9】制御フローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に示す実施例に基づいて、本発明の実施例を説明する。
本実施例に示す農作業機はトラクタであって、走行機体1前部にエンジン2を搭載し、このエンジン2の回転動力をミッションケース3内の変速装置に伝え、この変速装置で減速された回転動力をPTO軸4と前輪5と後輪6とに伝えるようにしている。走行機体1のミッションケース3上は、前側のエンジン2を内装するボンネット7とオペレータが着座する座席8と操縦ハンドル9を設けている。操縦ハンドル9の近傍には、上下に倒すことで作業機13を昇降させるワンタッチ昇降レバー37を設けている。
【0013】
ミッションケース3の上部には油圧シリンダケース11が搭載され、この油圧シリンダケース11の左右両側にリフトアーム12,12を回動自由に枢着している。油圧シリンダケース11内の油圧シリンダ40内に作動油が供給されるとリフトアーム12,12が上昇回動し、反対に作動油が排出されるとリフトアーム12,12は下降するように構成している。
【0014】
作業機13は、耕耘爪14を回転駆動して土壌面を耕耘するロータリ耕運機で、トップリンク16とロワーリンク17で走行機体1に装着する。前記左右のリフトアーム12,12と左右のロワーリンク17,17とはリフトロッド18と油圧水平シリンダ19で相互に連結され、このうち片側(右側)の油圧水平シリンダ19は複動式の油圧シリンダで構成され、この油圧水平シリンダ19が伸縮することで作業機13の左右傾きが変更される。油圧シリンダ19の横にはシリンダロッドの伸縮長さを検出するストロークセンサ15(図5)が取り付けられている。
【0015】
前記ロータリ耕耘機13は耕耘爪14とこの耕耘爪14の上方を覆うロータリカバー20と、ロータリカバー20の後部に枢着されたリヤカバー21等からなり、走行機体1側のPTO軸4から動力を受けて耕耘軸22を回転させ、耕耘軸22に取り付けられた複数個の耕耘爪14によって土壌を耕起する。
【0016】
油圧シリンダケース11には走行機体1の左右方向の傾斜角度を検出する傾斜センサ23(図2)を取り付け、走行機体1の左右方向への傾き速度を検出する角速度センサ24(図5)をフロアパネル27に取り付けている。後述するようにこの傾斜センサ23と角速度センサ24の傾斜検出値と前記ストロークセンサ15の伸び検出値と傾き調整ダイヤル25(図5)の設定値とから作業機13の左右傾斜制御量が算出され、コントローラ30からの指示により油圧シリンダ19を作動して作業機13を設定された左右傾斜角度に維持するようにローリング制御している。
【0017】
なお、この実施例では、作業機13としてロータリ耕耘機を例に挙げているが、ロータリ耕耘機以外の、例えば畦塗機や薬剤散布機等の農作業機であってもよい。
走行機体1に取り付ける角速度センサ24は、エンジン2の振動を拾い難い位置に取り付ける。例えば、図2に示す実施例では、座席8の側部でフロアパネル27の立ち上げ屈曲部29に第一センサブラケット28で取り付けている。図3に示す実施例では、フロアパネル27の立ち上げ屈曲部29に第二センサブラケット38で囲んだ閉空間を形成し、その内部に角速度センサ24を取り付けている。図4に示す実施例では、フロアパネル27の四隅をミッションケース3に支持するマウントゴム39上の支脚43に第三センサブラケット44で角速度センサ24を取り付けている。
【0018】
次に、図5に示す制御ブロック図について説明する。
作業機13の昇降制御及びローリング制御を司るコントローラ30の入力側には、重力式で水平方向からの傾き角度すなわち絶対傾斜角度を検出する傾斜センサ23と走行機体1が傾く加速度と時間で予測する傾き角度すなわち相対傾斜角度を算出して検出する角速度センサ24から走行機体1の左右相対傾斜角度が入力し、ストロークセンサ15から油圧シリンダ19の伸び位置信号が入力し、傾き調整ダイヤル25から走行機体1に対する作業機13の傾き設定値が入力し、水平/平行切換スイッチ26から水平制御あるいは平行制御の切り替え信号が入力される。
【0019】
水平/平行切換スイッチ26を「水平」位置にセットすると傾斜センサ23と角速度センサ24の検出値に応じて作業機13を水平に維持する水平制御となり、水平/平行切換スイッチ26を「平行」位置にセットすると走行機体1に対する作業機13の左右姿勢が平行状態となるように左右のリフトロッド18と油圧水平シリンダ19の長さが一致する状態となる。
【0020】
なお、「平行」位置は更に2位置の設定が可能で「固定位置」にすると作業機13は走行機体1に対して常に平行になり、「揺動」の位置にすると走行機体1の傾きに関わらず作業機13を平行状態に維持するように傾斜センサ23と角速度センサ24の検出値に応じて作業機13をローリングする制御が加わるようにしている。
【0021】
また、走行機体1の走行速度が車速センサ41から、操縦ハンドル9の操向切れ角が切れ角センサ42から、作業機13の昇降位置信号がリフトアームセンサ36から、それぞれコントローラ30に入力する。
【0022】
コントローラ30の出力側からは、油圧水平シリンダ19を伸ばす水平伸び出力31と縮める水平縮み出力32が出力される。この水平伸び出力31と水平縮み出力32は、油圧水平シリンダ19を制御する電磁切換え弁へのオン・オフ信号として出力されるが、エンジン2の回転数が低いと油圧水平シリンダ19に作用するオイルの油圧も低下するので、電磁切換弁へのオン割合すなわちデュティー比を高くして出力する。
【0023】
このように、エンジン回転が高い場合にはデュティー比を低くエンジン回転が低い場合にはデュティー比を高くすることで、油圧水平シリンダ19の作動速度をエンジン2の回転変化にかかわらず一定速度となるようにしている。
【0024】
図6は、作業機13を水平に維持する水平制御における傾斜センサ23と角速度センサ24による作業機13の作業機傾斜目標角度の設定制御である。例えば、圃場の凹凸によって走行機体1が左にθ°傾くと作業機13を右にθ°傾けることで、走行機体1が傾いても作業機13が水平になるようにするのである。
【0025】
ステップS1で傾斜センサ23の絶対傾斜角θsと角速度センサ24による傾斜角θkをコントローラ30に読み込み、ステップS2で傾斜角θkが所定傾斜角θaより小さいかを判定する。
【0026】
そして、ステップS2の判定がNOならば、ステップS4で現在の絶対傾斜角θsに角速度センサ24の傾斜角θkを加算して新たな作業機傾斜目標角θtとしてリターンし、 ステップS2の判定がYESならば、ステップS3で傾斜センサ23の絶対傾斜角θsを作業機傾斜目標角θtとしてリターンする。
【0027】
なお、ステップS4で作業機傾斜目標角θtが零ならば、傾斜角θkが新たな作業機傾斜目標角θtとなる。
図7は、角速度センサ24の傾斜角θkが変化する場合の制御で、ステップS20で角速度センサ24の傾斜角θkが出力されたか判定し、出力されればステップS21で作業機傾斜目標角θtに角速度センサ24の傾斜角θkを加算し、出力されなければステップS22で作業機傾斜目標角θtを零にしてリターンする。傾斜角θkが出力されないことは、走行機体1が停止しているか平坦な圃場面を走行していることであって、この時の絶対傾斜角θsが新たな作業機傾斜目標角θtとなる。
【0028】
図8は、作業機13が作業機傾斜目標角θtの姿勢に達するまでに角速度センサ24から次の修正傾斜角が入力した場合の制御である。
ステップS30で傾斜センサ23の絶対傾斜角θsと角速度センサ24の傾斜角θkをコントローラ30に読み込み、ステップS31で角速度センサ24からの出力が有ったかの判定を行う。出力が有ればステップS32で作業機傾斜目標角θtに傾く傾斜制御を規定時間行ったかの判定を行い、規定時間経過していればステップS33で作業機傾斜目標角θtに達しているかを判定し、作業機傾斜目標角θtに達していなければステップS34で未到達傾斜角θmを算出し、ステップS35で現在の作業機傾斜目標角θtから未到達傾斜角θmを減算して新たな作業機傾斜目標角θtとしてリターンする。
【0029】
なお、ステップS31で角速度センサ24からの出力が無ければ直ちにリターンし、ステップS32での判定がNOであったりステップS33の判定がYESであったりするとステップS36で作業機傾斜目標角θtを角速度センサ24の傾斜角θkに変更してリターンする。
【0030】
作業機13が作業機傾斜目標角θtに達していれば絶対傾斜角θsのハンチングによる揺り戻しを防ぐために傾斜角θkを新たな作業機傾斜目標角θtに設定する構成としている。
【0031】
図9は、角速度センサ24の傾斜角θkが所定傾斜角θaより小さい状態が長く続いた場合の水平制御である。
ステップS40で傾斜センサ23の絶対傾斜角θsと角速度センサ24の相対傾斜角θkをコントローラ30に読み込み、ステップS41で角速度センサ24からの出力が有ったかの判定を行う。
【0032】
そして、出力が有ればステップS42で作業機傾斜目標角θtに傾く傾斜制御に移行後であるかの判定を行い、NOであればステップS43で角速度センサカウントをカウントアップし、ステップS44の角速度センサカウントが例えば5に達したかの判定を行い、YESであればステップS45で傾斜センサ23の絶対傾斜角θsによる傾斜制御に移行する。ステップS44の判定がNOであればステップS47の角速度センサ24の相対傾斜角θkによる傾斜制御に移行する。
【0033】
なお、ステップS41で角速度センサ24からの出力が無ければ直ちにリターンし、ステップS42の判定で傾斜制御に移行後でなければ、ステップS46で角速度センサカウントをリセットし、ステップS47の角速度センサ24の相対傾斜角θkによる傾斜制御に移行する。
【0034】
この制御は、絶対傾斜角θsに相対傾斜角θkをたびたび加算することによって作業機傾斜目標角θtが作業機13の実際傾斜角からずれてくるのを例えば6回目の制御の際にリセットして修正するのである。
【0035】
なお、角速度センサ24の相対傾斜角θkは、傾斜加速度を積分して算出するが、油圧水平シリンダ19の作動に対してメカ的な誤差が生じるので、適宜に各製品における補正係数で相対傾斜角θkを修正するようにする。この補正係数は電源を切っても記憶が保持されるEEPROMに記憶し、マイコンチェッカ或いは操作パネルに設けるスイッチ類を操作して調整モードに移行して修正可能にする。
【符号の説明】
【0036】
1 走行機体
13 作業機
23 傾斜センサ
24 角速度センサ
θk 傾斜角
θs 絶対傾斜角
θt 傾斜目標角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体(1)又は作業機(13)の絶対傾斜角(θs)を検出する傾斜センサ(23)と傾斜角の速さから傾斜角(θk)を検出する角速度センサ(24)を設け、該角速度センサ(24)が検出する傾斜角(θk)が所定値以下の場合には傾斜センサ(23)が検出する絶対傾斜角(θs)を傾斜目標角(θt)とし、角速度センサ(24)が検出する傾斜角(θk)が所定値を超えると、このときの走行機体(1)又は作業機(13)の絶対傾斜角(θs)に角速度センサ(24)が検出した傾斜角(θk)を加算して新たな傾斜目標角(θt)として走行機体(1)又は作業機(13)の姿勢を修正制御すべく構成したことを特徴とする農作業車の姿勢制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−220518(P2010−220518A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70131(P2009−70131)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】