説明

農業用繊維資材

【課題】 銀イオンの抗菌機能を利用することにより、水伝搬性病原菌や衛生微生物の増殖を防止して、農作物の病害を防除又は抑制して減農薬栽培を可能にし、また施設栽培における野菜生産の安全性を確保し得る農業用繊維資材を提供することを課題とする。
【解決手段】 銀を略均一に被覆した有機繊維を混合して成り、銀被覆有機繊維の混合割合が1〜50重量%の範囲、好ましくは1〜15重量%の範囲であり、また銀の被覆量が有機繊維の繊維重量に対して5〜40重量%の範囲である構成にして成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用繊維資材に関し、詳しくは銀イオンの抗菌機能を利用した農業用繊維資材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、内張り被覆、底面給水、培地等に用いられている農業用繊維資材は、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の石油化学製品である。例えば、農業用不織布シートとして、ポリプロピレンフィラメントを用いたストランド不織布からなるもの(特許文献1)や、農園芸用給水不織布マットとして、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維などの疎水性繊維と親水剤と接着用樹脂バインダーとから構成したものがある(特許文献2)。
【特許文献1】特開平11−113423号公報
【特許文献2】特開平9−275827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に、農業用繊維資材は多湿条件下で使用される。よって、従来技術のものは、石油化学製品からなるため、水伝搬性を有する病原菌が短期間で増殖したり、衛生微生物が資材表面にバイオフィルムを形成することがあり、病原菌の増殖や農作物の病害の温床になり易かった。特に、施設栽培に用いられた場合、生産環境における衛生微生物の増加による農作物の病害や生食用野菜への食性病原菌の付着による食中毒が問題になっている。
【0004】
そこで、本発明は、銀イオンの抗菌機能を利用することにより、水伝搬性病原菌や衛生微生物の増殖を防止して、農作物の病害を防除又は抑制して減農薬栽培を可能にし、また施設栽培における野菜生産の安全性を確保し得る農業用繊維資材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の農業用繊維資材は、銀を略均一に被覆した有機繊維を混合して成ることを特徴とする(請求項1)。ここで、銀を略均一に被覆したとは、銀が繊維表面を完全に被覆したものだけでなく、多少のピンホールを有するものも含むことを意味する。
【0006】
本発明において、銀被覆有機繊維の混合割合は、1〜50重量%の範囲である構成(請求項2)が好適である。というのは、混合割合が1重量%未満になると抗菌機能が発現せず、50重量%を越えると銀イオン放出濃度が1ppmを越える傾向になり植物に有害になるだけでなく、給水マットや培地等に使用した場合、植物の根が銀被覆繊維に接触し易くなり、農作物の発育阻害が発生する恐れが生じるからである。コスト面を考慮すると、銀被覆有機繊維のより好ましい混合割合は、1〜15重量%の範囲である。
【0007】
また、有機繊維に対する銀の被覆量は、繊維重量に対して5〜40重量%の範囲である構成(請求項3)が好適である。というのは、銀の被覆量が5重量%未満になると銀イオン放出の持続性が乏しくなる傾向になり、40重量%を越えると繊維の屈曲性が無くなり加工性が低下するだけでなく、被覆した銀が剥離する可能性が生ずるからである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の農業用繊維資材は、銀被覆有機繊維から放出する銀イオンが抗菌機能を発揮するから、衛生微生物や水伝搬性病原菌の増殖を防止することができ、農作物の病害防除はもとより、病害発生の抑制による減農薬栽培や施設栽培での野菜生産の安全性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いる有機繊維としては、銀被覆可能な繊維であればよく、特に限定されるものではない。しかし、コスト面を考慮すると、合成有機繊維(ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等)や天然有機繊維(綿、麻、再生セルロース等)から選ばれる少なくとも1種の繊維であるのが好ましい。
【0010】
有機繊維の繊維径は、繊維資材の用途に応じて適宜選択する。ただし、抗菌機能は水中或いは空気中の水滴中に銀イオンを放出することにより発揮するため、繊維径の決定に際しては、有機繊維表面積の変化による銀イオン放出速度を考慮する必要がある。
【0011】
有機繊維への銀被覆手段としては、無電解メッキ法又は真空蒸着法のいずれでもよいが、銀被覆量の調整や銀被覆有機繊維の生産性を考慮すると、無電解メッキ法が好ましい。
【0012】
上記銀被覆有機繊維は、これに用いた有機繊維と同種又は異種の有機繊維に混合して、例えば、不織布、織物、編物、網類、紐類等の抗菌性を有する繊維資材を製造することができる。また、これらのうちシート状の繊維資材と、他の農業用の繊維資材、フィルム資材、発泡資材との積層体を製造することもできるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
これらの繊維資材は、通常の製造法によって製造することができる。例えば、不織布は、乾式、気流式、湿式法のウェブ形成法によりウェブを形成し、繊維用接着剤、添加剤による処理、ニードルパンチや流体パンチ等の機械的絡合法により、あるいはその後の乾燥、熱処理により製造することができる。さらに、得られた農業用繊維資材は、用途に応じて、コーティング、貼り合わせ等の後加工の併用を行っても差し支えない。
【0014】
本発明に係る抗菌性を有する農業用繊維資材は、その用途に応じて、マット状、シート状、ネット状、紐状、ロープ状、テープ状等所望の形状に加工して使用することができる。具体的には、底面給水栽培や水耕栽培に用いる底面給水マット、カイワレ大根・もやし・ブロッコリー等のスプラウト栽培用マット、保温・防草・遮光等の内張りシート、防虫・防霜・防風・農作物保管用の各種シート、防鳥・防風・つる・い草の倒伏防止用の各種網類、ピーマン等の吊り紐、煙草乾燥用ロープ等を挙げることができる。
【実施例】
【0015】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0016】
有機繊維として、繊維径が2.2dtexである、アクリル繊維とポリエステル繊維とを用い、次の無電解メッキ法により、繊維重量に対して15重量の銀をそれぞれ被覆して銀被覆有機繊維を作製した。
【0017】
上記無電解メッキは、有機繊維を精練剤に浸漬、水洗後、塩化第一スズ10g/L、塩酸20mL/Lを含有する水溶液に浸漬、水洗して、無電解銀メッキに対する触媒性を付与した後、エチレンジアミン4醋酸四ナトリウム200g/2Lと水酸化ナトリウム50g/2Lとホルマリン100mL/2Lとの混合液と、硝酸銀31.6g/Lとアンモニア水100mL/2L組成のアンモニア性硝酸銀溶液とを25℃において滴下させて銀を有機繊維表面に無電解で析出させて被覆したものである。なお、メッキ液中の銀イオンは、全て還元析出されるから、繊維に対する銀の被覆量は正確に規定することができる。
【0018】
次に、作製した銀被覆有機繊維を4重量%、8重量%の2水準と、その他はポリエステル繊維(繊維径3.3dtex)とをそれぞれ配合してカード工程を経てウェブ形成を行った。その後、ニードルパンチにて機械的絡合を行い、目付200g/m2 、厚み2mmの底面給水栽培用の二種類の底面給水マットを作製した。
【0019】
上記二種類の底面給水マットのサンプルA、Bを用いてテストした結果、抗菌性と植物への影響は次のとおりであった。
(1)抗菌性
サンプルA、Bを、園芸試験場標準処方に係る下記成分組成による水耕培養液(1単位pH6.5)に浸漬し、培養液の抗菌活性を評価したところ、サンプルA、Bとも、16時間では抗菌活性は認められなかった。しかし、24時間経過後から活性が認められ、48時間では103 cfu/mlの病原菌(Pythium aphanidermatum)の遊走子を100%殺菌することができた。
(水耕培養液の成分組成)
硝酸カリウム 808g/L
硝酸カルシウム4水塩 944g/L
硝酸マグネシウム7水塩 492g/L
リン酸第1アンモニウム 152g/L
微量要素;商品名大塚ハウス5号を50g/1t(水耕培養液中にマンガン0.77ppm、ホウ素0.32ppm、鉄2.85ppm、銅0.03ppm、亜鉛0.04ppm、モリブデン0.02ppmを含有して成る。)
(2)発病抑制効果
底面給水栽培において、底面給水栽培のベットにサンプルA、Bを敷き、その上にホウレンソウ子苗を移植したプラグ苗トレイを置いて栽培し、培養液から上記病原菌の接種試験を行ったところ、サンプルA、Bとも上記病原菌による根腐病の発生が認められなかった。
(3)生育障害
底面給水栽培におけるホウレンソウの草丈の伸長は、サンプルBではサンプルAに比較して7%程度低くなったが、根に対する障害等の生育障害は、サンプルA、Bとも認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀を略均一に被覆した有機繊維を混合して成ることを特徴とする農業用繊維資材。
【請求項2】
銀被覆有機繊維の混合割合が1〜50重量%の範囲である請求項1に記載の農業用繊維資材。
【請求項3】
銀の被覆量が繊維重量に対して5〜40重量%の範囲である請求項1に記載の農業用繊維資材。

【公開番号】特開2006−25719(P2006−25719A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−210875(P2004−210875)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000163774)金井重要工業株式会社 (12)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【Fターム(参考)】