説明

農用作業車

【課題】走行車体の前側から後側にエンジン、冷却ファン、ラジエータ及びラジエータネットを配設した農用作業車において、ラジエータネットへのダストの付着を効果的に防止し、ラジエータのメンテナンス回数を少なくする。
【解決手段】走行車体2の前側から後側にエンジンE、冷却ファン21、ラジエータ22及びラジエータネット23、ハンドル7を配設し、冷却ファン21により冷却風をラジエータネット23、ラジエータ22及びエンジンEを経由して後側から前側に流れるようにした農用作業車において、ラジエータネット23をラジエータ22の後側に配設するにあたり、ラジエータネット22の左右方向中心部で後側に離れ、左右両側へ向かうに従って順次接近するように傾斜状に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農用作業車に関し、特にラジエータの冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
農用作業車におけるラジエータの冷却装置において、エンジンルーム内に前側から後側にエンジン、冷却ファン、ラジエータを設け、エンジンルームの左右両側に設けた左右吸気用サイドカバーから吸入した空気をラジエータ、エンジンを経由して前方に排出しながらラジエータを冷却するものは、公知である(特許文献1)。
【0003】
また、農用作業車において、エンジンの排気をパイプによりラジエータに送り、ラジエータの防塵ネットに付着した塵埃類を除去するものは、公知である(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−326985公報
【特許文献2】特開2008−29305公報(3頁〜4頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のものは、エンジンルームにおける左右両側の左右吸気用サイドカバーから空気を吸入し、迂回しながらラジエータ、エンジンを経由して前方に排出する構成であるので、冷却風の流れが複雑になり、また、左右吸気用サイドカバーを左右に膨出状に構成し、構成が複雑になりコスト高となる不具合がある。
【0006】
また、特許文献2のものは、エンジンの排気でラジエータの防塵ネットの塵埃類を除去するので、熱い排気によりラジエータの冷却を阻害する不具合が発生する。
そこで、本発明はこのような不具合を解消し、ラジエータの後側にラジエータネットを配設する簡単な構成でありながら、ラジエータネットへのダストの付着を低減しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、このような不具合を解消するために、次のような技術的手段を講じた。
請求項1の発明は、走行車体(2)の前側から後側にエンジン(E)、冷却ファン(21)、ラジエータ(22)及びラジエータネット(23)を配設し、冷却ファン(21)により冷却風をラジエータネット(23)、ラジエータ(22)及びエンジン(E)を経由して後側から前側に流れる農用作業車において、前記ラジエータネット(23)をラジエータ(22)の後側に配設するにあたり、ラジエータネット(22)の左右方向中央部で後側に離れ、左右両側へ向かうに従って順次接近するように平面視傾斜状に構成したことを特徴とする農用作業車とする。
【0008】
請求項2の発明は、前記ラジエータネット(22)の上下方向の全幅にわたって、左右方向中央部で後側に離れ、左右両側へ向かうに従って順次接近するように平面視傾斜状に構成したことを特徴とする請求項1記載の農用作業車とする。
【0009】
請求項3の発明は、前記ラジエータ(22)の左右両側部に左右ホルダ(25,25)を設け、該左右ホルダ(25,25)における平面視で左右方向に沿わせた凹状部(25a)で前記ラジエータネット(23)の左右両側の左右方向に沿った左右支持部(23a),(23a)を支持するように構成したことを特徴とする農用作業車とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によると、ラジエータ(22)の後側に配設するラジエータネット(23)を、ラジエータネット(22)の左右方向中央部を後側に離れ、左右両側へ向かうに従って順次接近するように平面視傾斜状に構成したことにより、ラジエータネット(23)のメッシュの目合いを左右方向に沿わせたものに比較して狭くすることができ、ラジエータネット(23)のダストの付着率を向上させ、また、ラジエータネット(23)後側面の左右方向中央部に付着したダストが左右両側に流れやすくなり、ラジエータ(22)へのダストの付着を抑制し、作業時におけるラジエータ(22)のメンテナンス回数を少なくすることができる。
【0011】
請求項2の発明によると、請求項1の発明の前記効果に加えて、ラジエータネット(23)の上下方向全幅にわたり、ラジエータネット(22)の左右方向中央部を後側に離れ、左右両側へ向かうに従って順次接近するように平面視傾斜状に構成したことにより、ラジエータネット(23)の全面の除塵効果を高めることができる。
【0012】
請求項3の発明によると、請求項1又は請求項2の発明の前記効果に加えて、左右ホルダ(25,25)における平面視で左右方向に沿わせた凹状部(25a)でラジエータネット(23)の左右両側の左右方向に沿った左右支持部23a,23aを支持するようにしたので、ラジエータ(22)の左右方向に沿わせた左右平行型のラジエータネット(23)も取り付けることができ、部品を共用化しコストの低減を図りながら型式の複数化に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】農用作業車の側面図。
【図2】農用作業車の正面図。
【図3】農用作業車の前側部の一部省略した側面図。
【図4】農用作業車の前側部の一部省略した平面図。
【図5】農用作業車の前側部の一部省略した側面図。
【図6】農用作業車の前側部の一部省略した平面図。
【図7】農用作業車の前側部の一部省略した側面図。
【図8】農用作業車の前側部の一部省略した平面図。
【図9】農用作業車の前側部の一部省略した側面図。
【図10】農用作業車の前側部の一部省略した側面図。
【図11】農用作業車の前側部の一部省略した側面図。
【図12】農用作業車の前側部の一部省略した側面図。
【図13】農用作業車の前側部の一部省略した側面図。
【図14】農用作業車の前側部の一部省略した側面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、図1及び図2に基づき本発明を備えた薬液を散布する散布作業車1について説明する。
散布作業車1の走行車体2には略等径の左右前輪3,3、左右後輪4,4が設けられていて、車体2の前側部には防除散布装置11を取り付けている。走行車体2の左右前輪3,3間上方にはエンジンEを搭載し、エンジンE回りをボンネット5で被覆している。左右前輪3,3と左右後輪4,4間上方には操縦席6を設け、操縦席6の前方にステアリングハンドル7を設けている。ステアリングハンドル7を左右に操舵すると、左右前輪3,3及び左右後輪4,4が同時に関連的に操舵され小回り走行のできる四輪操舵構成としている。また、操縦席6の回りを取り囲むように薬液タンク9を着脱自在に設け、その下方に防除ポンプ10を設けている。
【0015】
防除散布装置11は機体前方に位置するセンター散布ブーム11aと、センター散布ブーム11aの左右両側に設けた左右散布ブーム11b,11bとで構成している。また、防除散布装置11を昇降シリンダ15により昇降調節可能に構成し、また、開閉シリンダ17により左右散布ブーム11b,11bを左右に突出した散布作業状態としたり、あるいは、走行車体2の側方に沿わせた収納状態に移動できるように構成している。
【0016】
しかして、薬液タンク9の薬液は防除ポンプ10から調圧制御弁(図示省略)、流量制御弁(図示省略)を経由して高圧ホースを経由して防除散布装置11に送られ、センター散布ブーム11a及び左右散布ブーム11b,11bの散布ノズル14,…から散布される。
【0017】
次に、図3及び図4に基づきエンジンEの冷却構成について説明する。
走行車体2の前側部にはエンジンEを搭載し、エンジンEの後側部に冷却ファン21を設け、冷却ファン21の後方にラジエータ22を設け、ラジエータ22の後側にラジエータネット23を設け、この後方に前記ステアリングハンドル7を設けている。しかして、冷却ファン21が回転すると、ラジエータネット23を通過して冷却風が後方から前方に向かって流れ、ラジエータ22を通過し、エンジンEの周辺を通りボンネット8の左右両側から機外へ排出される。
【0018】
ラジエータネット23は、ラジエータ22の左右方向中心で後側に離れ、左右両側へ向かに従ってラジエータ22に順次接近するように平面視傾斜状に構成している。
ラジエータ22とラジエータネット23とを左右方向に平行に配置した構成であると、ラジエータネット23の網部からダストが通過し易く、ラジエータネット23の中央部にダストが詰まり、エンジンEがオーバーヒートしやすくなる。
【0019】
しかし、前記構成によると、ラジエータネット23に平面視で傾斜角度をつけることにより、メッシュの目合いが同じものを採用しても目合いが狭くなり、ダストのラジエータネット23への付着率が向上し、また、ラジエータネット23の中央部に付着したダストが左右両側に流れやすくなり、ラジエータ22へのダストの付着を抑制し、作業時におけるラジエータ22のメンテナンス回数を少なくすることができる。
【0020】
また、ラジエータネット23におけるラジエータ22の左右方向中央部で後側に離れ、左右両側へ向かうに従って接近するように平面視傾斜状に構成するにあたり、ラジエータネット23の上下方向高さの全域にあたり平面視傾斜状に構成することにより、ラジエータネット23の除塵効果を高めることができる。
【0021】
また、ラジエータ22の左右両側に設けた左右ホルダ25,25により、ラジエータネット23の左右両側部の左右方向に沿った左右支持部23a,23aを支持している。この左右ホルダ25,25には平面視で凹状部25aを構成し、この凹状部25aをラジエータ22の配設方向である左右方向に沿わせ略平行に構成している。
【0022】
前記構成によると、左右ホルダ25,25の凹状部25aを平面視左右方向に沿わせ略平行状に設定しているので、ラジエータ22に平行な平行型ラジエータネット23の左右部、及び、平面視で前記傾斜状のラジエータネット23の左右支持部23a,23aのいずれでも取り付けることがで、部品を共用化しコストの低減を図ることができる。
【0023】
次に、図5及び図6に基づき他の実施例について説明する。
ラジエータ22の後方に配設したラジエータネット23を、前記実施例と同様に、ラジエータ22の左右方向中央部では後側に離れ、左右両側へ向かうに従って順次接近するように平面視傾斜状に構成している。そして、ラジエータネット23の下端前側部に前方へ突出するブラシ27を左右全幅に設け、ブラシ27の前側端部がラジエータ22の後側面に接触するように構成している。
【0024】
ブラシ27はブラシフレーム部27aと、ブラシ部27b,…とで構成している。このブラシフレーム部27aをラジエータネット23の前側面に密着するように、ラジエータ22の左右方向中央部では後側に離れ、左右両側へ向か順次接近する平面視傾斜状に構成している。ブラシフレーム部27aの前側面にブラシ部27b,…の後側端部を直角状に取り付け、ブラシ部27b,…の前端部をラジエータ22の後側面に接触するように構成している。
【0025】
前記構成によると、ラジエータネット23を上下方向移動させてブラシ27を上下方向移動すると、ラジエータ22の後側面に付着しているダストを除去することができる。また、ブラシ27のブラシ部27b,…の前側端部がラジエータ22の後側面に平面視で斜め方向に傾斜した状態で接触するので、ラジエータネット23を上下方向に移動させる際に、ダストの除去が促進され円滑に除塵することができる。
【0026】
次に、図7及び図8に基づき他の実施例について説明する。
ラジエータ22の後方に近接してラジエータネット23を配設し、このラジエータネット23全幅の下端前側部にブラシ27を取り付けている。このブラシ27は、ブラシフレーム部27aと、ブラシ部27b,…とで構成している。このブラシフレーム部27aを平面視で左右方向直線状に構成し、ラジエータネット23全幅の下端前側面に沿うように取り付け、このブラシフレーム部27aの前側面にブラシ部27b,…の後側端部を直角状に前側に突出するように取り付け、ブラシ部27b,…の前端部をラジエータ22の後側面に接触するように構成している。
【0027】
防除散布装置11を備えた散布作業車2におけるエンジンE冷却用のラジエータ22構成であって、稲作水田を走行しながら防除散布作業をする場合には、稲の花粉が冷却ファン21の冷却風の流れに乗ってラジエータ22に吸い込まれる。花粉の大部分はラジエータネット23の後側面に引っ掛かり除去されるが、ラジエータネット23をすり抜けた一部の花粉がラジエータ22に付着する。そして、花粉の付着が多くなると、ラジエータ22の性能が低下し、オーバーヒートの原因となる。この実施例はこのような不具合を解消しようとするものである。
【0028】
前記構成によると、ラジエータネット23を上下方向に往復移動することにより、ブラシ27によりラジエータ22の後側面に引っ掛かっている花粉を容易に除去し、ラジエータ22の後側面の清掃をすることができる。また、上方へ移動したラジエータネット23の前後両面から花粉を除去し、ラジエータネット23の清掃を同時に行い、ラジエータ22の清掃を効率的にすることができる。
【0029】
また、ラジエータ22の左右方向全幅にわたるブラシ27をラジエータネット23に取り付けているので、ラジエータネット23の上下移動により、ラジエータ22の左右上下全幅の清掃をし、効率的に清掃作業をすることができる。
【0030】
また、ラジエータ22の後側面にブラシ部27bの前側端部を接触させた状態で上下移動をすることができるので、ラジエータネット23の上下移動によりラジエータ22の後側面を効率的に清掃作業をすることができる。
【0031】
また、ブラシ27のブラシ部27bを耐熱性材で構成すると、ブラシ部27bの変形を防止し、耐久性を高めることができる。
また、図9に示すように、ラジエータネット23のブラシ27の取り付け部下方にダスト受け部29を左右全幅にわたって設けるとよい。このように構成すると、ラジエータネット23を上方へ移動する際に、ブラシ27で擦られて落下したダストを全幅にわたりダスト受け部29で回収することができ、清掃ダストのラジエータ22側への流れを防止することができる。また、清掃したダストが機体下部に堆積することもなく、堆積による不具合を防止することができる。
【0032】
また、ラジエータネット23のダスト受け部29と走行車体2との間に空間部30を形成すると、ダストの下方への落下を促進し、ダストが機体下部に堆積することもなく、堆積による不具合を防止することができる。
【0033】
また、図13に示すように、ラジエータネット23のブラシ27の取り付け部下方部位にダスト受け部29を左右全幅にわたって設け、ラジエータネット23の下端後側部に後側ダスト受け部29aを左右方向全幅にわたって設けてもよい。このように構成すると、ラジエータネット23の後側面に衝突した比重の重いダストが落下したのを後側ダスト受け部29aで受け回収することができる。
【0034】
次に、図10について説明する。ラジエータネット23の左右両側端部に目合いの細かな左右サイドネット31,31を設け、ラジエータ22とラジエータネット23との左右間隙部を閉鎖している。前記構成によると、ラジエータ22とラジエータネット23との左右間隔部から空気を吸入しながら左右サイドネット31,31によりダストの吸入を防止し、ラジエータ22の性能低下を防止することができる。
【0035】
次に、図11について説明する。
ラジエータ22とラジエータネット23との間隙部に風速センサ33を設けている。しかして、薬液の散布作業中にラジエータ22の通過風量を測定し、検出風量が下限基準値を下回った場合に警報灯(図示省略)で点灯表示すると、オペレータはラジエータ22の冷却性能を迅速に知ることができ、エンジンEのオーバーヒートを防止することができる。
【0036】
また、風速センサ33をラジエータ22の左右方向中央部に対向して配置すると、ラジエータ22のダストの最も早く詰る部位の風速を検出することができ、エンジンEのオーバーヒートを確実に防止することができる。
【0037】
また、図12に示すように、上下に風速センサ33,33をそれぞれ配置すると、ラジエータ22の全域にわたっての風速を検出することができ、エンジンEのオーバーヒートを確実に防止することができる。
【0038】
また、図14に示すように、冷却ファン21とラジエータ22との間における上部左右中央部に風速センサ33を設けてもよい。
【符号の説明】
【0039】
2 走行車体
3 前輪
4 後輪
7 ステアリングハンドル
9 薬液タンク
21 冷却ファン
22 ラジエータ
23 ラジエータネット
23a 支持部
25 ホルダ
25a 凹状部
E エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体(2)の前側から後側にエンジン(E)、冷却ファン(21)、ラジエータ(22)及びラジエータネット(23)を配設し、冷却ファン(21)により冷却風をラジエータネット(23)、ラジエータ(22)及びエンジン(E)を経由して後側から前側に流れる農用作業車において、前記ラジエータネット(23)をラジエータ(22)の後側に配設するにあたり、ラジエータネット(22)の左右方向中央部で後側に離れ、左右両側へ向かうに従って順次接近するように平面視傾斜状に構成したことを特徴とする農用作業車。
【請求項2】
前記ラジエータネット(22)の上下方向の全幅にわたって、左右方向中央部で後側に離れ、左右両側へ向かうに従って順次接近するように平面視傾斜状に構成したことを特徴とする請求項1記載の農用作業車。
【請求項3】
前記ラジエータ(22)の左右両側部に左右ホルダ(25,25)を設け、該左右ホルダ(25,25)における平面視で左右方向に沿わせた凹状部(25a)で前記ラジエータネット(23)の左右両側の左右方向に沿った左右支持部(23a),(23a)を支持するように構成したことを特徴とする農用作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−6558(P2012−6558A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146520(P2010−146520)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】