説明

農薬監視装置及び農薬監視機能を有する水処理装置

【課題】水中に混入して低濃度で慢性的に流入する可能性があり、原体化合物が数百種類存在する農薬を適確にとらえて監視する農薬監視装置及び農薬監視機能を備えた水処理装置を提供する。
【解決手段】水中に混入した農薬を検出して監視する農薬監視装置2で、農薬のある種類に対して特異的に作用する検出素子を有する反応セル8を、検出対象となる農薬の種類に対応して複数個設け、これら複数の反応セル8毎に反応状態を電気的に検出する検出器9を設、各検出器9による検出値を判定手段11にそれぞれ入力し、その検出値から前記混入農薬の種類及びその量または濃度を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に混入した農薬を検出する農薬監視装置及び農薬監視機能を有する水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上水原水への異物混入の検出に関しては、従来から水槽内で魚を飼育し、魚の行動・生死を監視することが行われてきた。しかし、昨今テロ等の不安が高まり、より高感度な検出技術が求められていることから、微生物の呼吸活性を指標としたセンサが開発された(例えば、特許文献1参照)。すなわち、微生物を固定した膜を酸素電極上に固定し、毒物による微生物の酸素消費量の変化をモニタリングするものである。これにより、生物に対し悪影響を及ぼす化学物質の総合的な検出・監視が行われるようになった。
【0003】
また、農薬に関する検出技術としては、ガスクロマトグラフィー(以下、GC)や液相クロマトグラフィー(以下、LC)の検出器にマススペクトル(以下、MS)を搭載した装置による、分析技術が代表的である。上水分野に関しては、農薬は平成16年4月から、水質管理目標設定項目と定められた。分析の公定法はGC/MSおよびLC/MSを使用するが、分析対象は、原水ではなく浄水である。
【特許文献1】特開平11−37969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上水原水への異物や農薬の検出技術そのものは、上記のようにいくつかの形態で存在していた。しかし、魚類の監視技術は、魚の種類や体重などの個体差により応答感度が変化する難点があった。また、全体として応答感度はそれほど高くなく、農薬の監視に関して十分な感度があるとは言いがたい。
【0005】
微生物の呼吸活性を指標とするものに関しては、シアンの流出事故など、突発的な急性毒性に関する総体的な毒性評価は得意であるが、農薬の監視には不向きである。すなわち、農薬は薄い濃度で比較的慢性的に流入することが多く、例えば、装置が警報を出したからと言って、シアン等の場合のように直ちに取水を停止するような性質のものではない。一般的には、活性炭の注入による吸着処理により農薬を除去することで対応している。
【0006】
このように、農薬は流入することを前提として考えなければならないものであり、呼吸活性の閾値一点での判断では、慢性的な異物混入を検出するということは実運用が難しいこととなる。すなわち、微生物の呼吸活性を指標とするものでは、酸素の消費量をモニタリングしてある程度消費できなくなったら警告を発するものであり、閾値を越えれば警報を発するように構成している。したがって、事故等により、シアンが流入し閾値を越えれば直ちに警報を発して取水を止めるように対処できる。
【0007】
これに対し農薬は種類が多く(全体で300種程度)、混入判定の基準も各種ある。しかも薄い濃度で混入してくるので検出が難しく、また、検出した場合でも、しばらく様子を見て、水質基準を越えるようであれば除去するように対応する。したがって、単に一点の閾値を設けて判断をするような方法では対応が難しい。
【0008】
また、GC/MSやLC/MSは、高価であること、及び連続的な運用が難しいことが障害となる。すなわち、農薬が混入した原水は何時取水されるか解らないので、連続的な運用が必須である。このことから、原水から試料水をサンプリングしてバッチ的に処理する方法は適用困難である。さらに、高感度・高性能な分析装置である反面、運用には相当の技術が必要であり、どの浄水場でも容易に導入できるものではない。
【0009】
また、リスク管理の側面からみると、農薬は、前述のように原体化合物が数百種類存在し、慢性的に流入するため、現状では必要十分に管理されているとは言いがたい。現状では、農薬の散布情報を浄水場において事前に入手し、経験的に流入が予想される日には、実際の流入の有無に関わらず、活性炭を注入し続けるという手法が一般的であった。しかし、流入状況の正確な把握ができないため、処置と実態が必ずしも一致しない可能性がある。
【0010】
本発明の目的は、水中に混入して低濃度で慢性的に流入する可能性があり、原体化合物が多種類存在する農薬を確実にとらえて監視する農薬監視装置及び農薬監視機能を備えた水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の農薬監視装置は水中に混入した農薬を検出するもので、前記農薬のある種類に対して特異的に作用する検出素子を有し、検出対象となる農薬の種類に対応して複数個設けられた反応セルと、これら複数の反応セル毎に設けられ、対応する反応セルでの反応状態を電気的に検出する検出器と、前記各検出器による検出値をそれぞれ入力し、その検出値から前記混入農薬の種類及びその量または濃度を判定する判定手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明では、検出素子として、ある種類の農薬に対して特異的に作用する酵素、抗体、脂質膜、膜蛋白のいずれか一つ以上を用いる。
【0013】
また、本発明では、反応セルより前段の流路に、水中の濁質成分を除去する前処理装置が配置され、この前処理装置により濁質を除去された試料水が反応セルに供給されるように構成するとよい。
【0014】
また、本発明では、反応セルより前段側の流路に、これら反応セルに供給される試料水へ緩衝液を供給して混合させ、水素イオン濃度を調整するための混合配管を連結するとよい。
【0015】
また、本発明では、反応セル及びこの反応セルより前段の流路における使用水の水温を、前記反応セルにおける反応に適した温度に調節する温度調節器を有する構成にするとよい。
【0016】
また、本発明では、判定手段は、混入農薬の量または濃度が予め設定した閾値を越えると、特定の信号を発する構成にするとよい。
【0017】
また、本発明の農薬監視機能を有する水処理装置は、原水中に混入した農薬を検出するもので、前記農薬のある種類に対して特異的に作用する検出素子を有し、検出対象となる農薬の種類に対応して複数個設けられた反応セルと、これら複数の反応セル毎に設けられ、対応する前記反応セルでの反応状態を電気的に検出する検出器と、前記各検出器による検出値をそれぞれ入力し、その検出値から前記混入農薬の種類及びその量または濃度を判定する判定手段と、前記原水の浄水工程に設けられ、前記判定手段が閾値を越える混入農薬の量または濃度を検出すると、前記原水に対して、活性炭、オゾン、次亜塩素酸の、少なくとも一つ以上を注入する農薬処理装置とを備えたことを特徴とする。
【0018】
本発明の農薬監視機能を有する水処理装置では、互いに異なる場所において、原水中に混入した農薬を検出すべく、反応セル、検出器、判定手段をそれぞれ設け、これら判定手段からの判定情報を信号伝送手段により入手して遠隔監視する監視制御装置を設けてもよい。
【0019】
また、本発明の農薬監視機能を有する水処理装置では、各判定手段から監視制御装置へ情報を伝送する手段として、テレメータ、ローカルエリアネットワーク、インターネット、携帯電話回線、PHS回線、eメールのうちのいずれか一つ以上を用いた構成にするとよい。
【0020】
さらに、本発明の農薬監視機能を有する水処理装置では、監視制御装置は、反応セル、検出器、判定手段を含む原水の取水場及びこれら取水場から導水路を介して導水する浄水場からなる浄水場管理区域ごとに設けられ、各浄水場管理区域に設けられた監視制御装置は通信回線を介して情報を共有し、広域的な常時遠隔監視を可能とした。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、水中に混入した低濃度の農薬の種類およびその量または濃度を、連続的な運用により確実に捉えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明による農薬監視装置及び農薬監視機能を有する水処理装置の一実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0023】
図1はこの実施の形態における農薬監視装置を示している。図1において、1は河川などの水源で、図示しないサンプリングポンプ等により原水が採水される。2は農薬監視装置で、水源1から採水された原水を取り込み、原水中への農薬の混入を検出し、監視する。3は前処理装置で、農薬監視装置2へ取り込まれた原水から濁質を除去しサンプル水としてサンプル水容器5に供給する。4は緩衝液容器で、サンプル水の水素イオン濃度を調整するための緩衝液を貯留する。この緩衝液容器4は、サンプル水容器5より後段の配管に、混合配管6を介して連結し、後述する反応セル8へ送水されるサンプル水に緩衝液を混合させ、その水素イオン濃度を調整する。7は温度調節器で、サンプル水の温度を、後段の反応もしくは検出に適した温度に調節する。また、これらサンプル水には、必要に応じて反応基質10が添加され、前述の反応セル8へ送水される。
【0024】
反応セル8は、監視対象である農薬のある種類に対して特異的に作用する検出素子を有する。これら反応セル8は、検出対象となる農薬の種類に対応して複数個(図の例では8a,8b,8cの3個)設けられる。また、これら複数の反応セル8a,8b,8c毎に検出器9a,9b,9cが設けられ、対応する反応セル8a,8b,8cにおける反応状態を電気的に検出する。
【0025】
11は判定手段としても機能するプログラムコントローラで、各検出器9a,9b,9cによる検出値をそれぞれ入力し、その検出値から、サンプル水に混入した農薬の種類及びその量または濃度を判定する。すなわち、各検出器9a,9b,9cからの信号は、プログラマブルコントローラ(PLC)11へ送信される。PLC11では、予め搭載されたプログラムに従い、異常の有無(農薬の混入有無)が判定される。
【0026】
なお、各検出器9a,9b,9cからPLC11への信号の伝達のために、必要に応じて信号変換器を介してもよい。
【0027】
PLC11での異常判定結果は表示器12に表示され、必要に応じて設けられる記録計13にて記録される。さらに、必要に応じて設けられた外部出力端子14から外部に出力される。
【0028】
上記構成において、河川などの水源1から取水された原水は、農薬監視装置2に導入され、まず、前処理装置3で濁質の除去が行われる。前処理装置3には、ディスクフィルタ、プリーツフィルタ、中空糸フィルタ、金属フィルタ、セラミックフィルタ、遠心分離などの、粒子を物理的に除去する手段が設置されており、これらにより原水中の濁質を除去する。このように、濁質を除去することで、後段の配管やセルの汚染や閉塞を防止し、さらには光学的手段を用いた検出に関して高感度化を図ることができる。すなわち、農薬検出装置2内に前処理装置3を組み込むことで、濁質を除去したサンプル水を提供することができる。
【0029】
この後、サンプル水容器5から供給されるサンプル水に対し、混合配管6によって緩衝液が混合される。サンプル水は緩衝液が混合されることで緩衝作用が与えられ、水素イオン濃度が整えられ、原水水質の変動による応答感度の変化を抑制することができる。例えば、原水のpHが通常の値(pH5〜8程度)であれば、緩衝液としてリン酸、クエン酸、炭酸などを原水量に対して所定の割合で混合させることにより、サンプル水のpHをある一定の範囲に安定化させることができる。さらに、酸性原水、塩基性原水に対しても、緩衝液のpHを調整することで対応できる。後段における反応セル8での検出素子(具体例は後述する)は、一般に活性のpH依存性が高いものであるため、緩衝性の付与による安定化効果は重要である。
【0030】
また、反応セル8およびその前段の配管中を、温度調整器7を用いて一定温度とすることで、原水温度の日変動や季節変動による検出感度変化を抑制することができる。反応セル8における検出素子は、一般に活性の温度依存性が高いものであるため、温度調整による安定化効果は重要である。サンプル水の温度は、反応させる物質によって異なるが、20℃〜40℃の範囲に保つとよい。例えば、検出素子として酵素を用い、これを後述するように基質と反応させる場合は、37℃程度が好ましい。
【0031】
反応セル8内における反応は、検出素子として検出対象農薬に特異的な酵素、抗体、脂質膜あるいは膜タンパクのうちの一種類以上を用いることで特異的な検出が可能となる。これは、農薬が本質的に生体を構成する要素に対して特異的に働くことを目的としていたものであることを利用している。更に、作用機作が同一な似通った構造の農薬は、同一の生物材料で検出することができ、効率的である。
【0032】
例えば、反応基質10を加えたサンプル水が、反応セル8において検出素子である酵素と混合されると、酵素と基質が反応し所定の色の生成物が生じ、サンプル水は生成物により着色される。これに対し、反応基質10を加えたサンプル水に農薬が混入していると、反応セル8において検出素子である酵素と混合されても、農薬の存在により酵素と基質との反応が進まず、着色生成物が生じない。したがって、サンプル水は透明のままである。このため、このサンプル水の着色状況を検出器(例えば、吸光度計)9により測定することで着色の有無、すなわち農薬混入の有無、及びその混入量を検出し、電気信号として出力することができる。
【0033】
なお、検出素子として、基質との反応により蛍光物質が生じるものを用いた場合は、検出器9として蛍光光度計を用いるなど、使用される検出素子および基質との関係で検出器9を選定する。
【0034】
また、基質10を加えない場合の反応セル8としては、検出素子として膜(水は通すが、溶けている物質は通さないような膜)を設け、その膜の表面側と裏面側に電極を配置し、測定器9により、この電極間の電位差を測定するように構成してもよい。この場合、サンプル水に農薬が混入していると、農薬は前記膜により捕捉されるので、前記電極間の電位差が変化する。この電位差の変化により農薬の混入有無及び混入量を検出することができる。
【0035】
ここで、検出手段として反応セル8及び検出器9を、それぞれ複数(8a,8b,8c及び9a,9b,9c)設けることで、複数種類の農薬を同時に検出対象とすることができる。検出手段は、検出対象とする農薬の、化学構造や作用機作に特異的な反応を反応セル8内で行わせる。すなわち、検出しようとする農薬の種類に対応して、酵素などの検出素子を選定することで、対応する農薬に反応した結果の生成物や状態変化を検出器9により検出するものである。このように、異なる特異的反応を用いた検出手段を複数系列備えることで、流入した農薬の化学構造もしくは作用機作が想定され、流入農薬の種類を把握できる。したがって、農薬除去処理手段の選択において効果がある。
【0036】
農薬流入の判定は、各検出器9からの信号を受けたPLC11が、予め設定された閾値との比較にて行う。すなわち、閾値を超える農薬が検出された場合には、表示器12へ予め設定された信号、例えば、注意報、警報を出力する。これにより、農薬の流入が水質監視員に通知される。閾値は検出器9ごとに設定される。また、検出器9当り複数設定することで、段階的な信号出力も可能となり、詳細な監視が可能となる。さらに、外部出力端子14を通じて、外部への信号出力を行うこともできる。
【0037】
このように構成された農薬監視装置2では、PLC11に予め設定された測定タイミングにより、連続あるいは半連続の流入農薬測定を行う。
【0038】
また、このような農薬監視装置2を用いた水処理装置としてみると、図2で示すように、取水口17を介して河川などの水源1より原水を採取するが、その際、農薬監視装置2へサンプリング水を送水し、農薬の混入を判定する。判定結果は図1で示した外部出力端子14から浄水場などに設けられる監視制御装置15へ送信される。農薬混入時は、必要に応じて農薬処理装置である活性炭注入機16を動作させる。活性炭が注入されると、現水中に混入した農薬は吸着除去され、沈砂池18など、後段の設備への農薬混入を阻止する。
【0039】
このように、農薬監視装置2が発する信号に基づき、活性炭注入機16を操作することにより、実測に基づいた活性炭注入を行い、更に注入量も必要十分に行うことができる。農薬監視装置2を設置した浄水場の浄水処理方式が、オゾンを用いた高度処理である場合、農薬処理装置としては、上記の活性炭注入と同様に、農薬監視装置2の発する信号に基づいてオゾン注入量を制御することにより、効率的な農薬除去が可能となる。さらには、検出された農薬が、消毒工程において注入される次亜塩素酸により分解される種類のものである場合は、農薬処理装置は、次亜塩素酸の注入量を制御することにより効率的な農薬の除去が可能となる。
【0040】
次に、図3および図4に示す実施の形態を説明する。これらの図において、浄水場23の水源は、一つとは限らない。例えば、A河川19およびB河川20の両者を水源とし、A1取水場21からはA1導水路24を介し、A2取水場22からはA2導水路25を介し、それぞれ浄水場23へ送水するような場合がある。この場合、農薬流入時の被害を最小限に抑える観点からすると、リスク管理は各水源21,22単位で行うのが望ましい。すなわち、A1取水場21とA2取水場22のそれぞれに、農薬監視装置2を設置する。そして、取水場21,22単位で農薬監視装置2の発する信号情報を処理し、前述した活性炭などの注入制御を行ってもよい。
【0041】
この場合、監視制御装置15を取水場21,22毎に設けると、監視制御装置15が二箇所に設置されることになり、初期投資および管理維持コストがかさむ。そこで、図4のように、それぞれの取水場21,22毎に設けた農薬監視装置2の外部出力端子から、浄水場23内に設置した監視制御装置15へ、信号伝送経路26を通じて信号を伝送することで、浄水場23にて二箇所の取水場21,22を一括監視するように構成する。このように構成すると、監視制御装置15を一台にまとめることができ、効率化を図ることができる。
【0042】
すなわち、監視制御装置15は、反応セル8、検出器9、判定手段11を含む農薬監視装置2が設けられた原水の取水場21,22及びこれら取水場21,22から導水路24,25を介して導水する浄水場23からなる浄水場管理区域ごとに設け、この浄水場管理区域内を一括して監視する。
【0043】
前記信号伝送経路26は、農薬監視装置2と監視制御装置15との間で信号の送受信を行うための経路であり、両者の物理的距離が近い場合には、信号伝送経路26にローカルエリアネットワーク(LAN)もしくは無線LANを用いることができる。しかしながら、農薬監視装置2と監視制御装置15との物理的距離は、両者を同一の取水場もしくは浄水場内に設置しない限り、一般には少なくとも数百メートルは離れてしまう。例えば、図4に示したように、取水場21,22に農薬監視装置2を設置し、浄水場23に監視制御装置15を設置した場合は、数百メートルから数キロに及ぶ場合もある。このような場合、信号伝送経路は、図5で示すように構成する。農薬監視装置2の外部出力端子14から発せられた信号は、A伝送経路28を通じて取水場21,22内の信号伝送装置27aへ送信される。信号伝送装置27aは、B伝送経路29を通じて浄水場23内の信号伝送装置27bへ信号を伝送する。浄水場23内の信号伝送装置27bは、C伝送経路30を通じて監視制御装置15へ信号を伝送する。
【0044】
ここで、伝送経路29を例えば4−20mAのアナログ信号で通信する場合、信号伝送装置27a,27bにはテレメータを用いることができる。外部出力端子14は、やはり4−20mAのアナログ出力端子とする。伝送経路29にインターネット回線を用いる場合は、信号伝送装置27aもしくは27bの一方にHTTPサーバー機能を、もう一方にクライアント機能を持たせることで、リモート監視が可能である。このとき、HTTPサーバー機能は、農薬監視装置2に内蔵されていてもよい。さらに、インターネット回線の接続には、PHSによるダイヤルアップ接続を用いることもできる。PHSの使用により、固定電話回線などのインターネット接続に利用できるインフラがない場合にも、特別の工事等が必要なく、インターネット接続による農薬流入状況の遠隔監視が可能となる。
【0045】
浄水場23内の監視制御装置15は、農薬監視装置2からの信号を表示し、前述した活性炭などの各種注入制御を行うが、制御開始のきっかけは、信号入力による自動立ち上げとしてもよいし、表示を確認した監視員もしくは作業員が手動で行ってもよい。
【0046】
農薬監視装置2がLANもしくはインターネットに接続されている場合、ネットワーク内にメールサーバーを設置し、信号伝送装置27aにe−メール送信機能を持たせることで、監視員もしくは作業員などの関係者が所持する携帯電話に、警報等の信号を送信することができ、関係者への迅速な連絡を行い、素早い処置をとることができる。
【0047】
ここまでは一浄水場管理区域内のリスク管理に関する効果を述べたが、複数の浄水場を含むより広範囲のリスク管理を行うように構成してもよい。図6は、図3で示した一つの浄水場管理区域に対し、下流域に設けられたB取水場31およびB浄水場32からなる他の浄水場管理区域を加え、これら浄水場23,32間を情報伝送経路(通信回線)33で接続したものである。B取水場31にも農薬監視装置2を設置し、B浄水場32にて監視制御を行っているものとする。
【0048】
この場合、A1取水場21にて農薬流入が検出された場合、A浄水場23の監視制御装置15へ農薬を検出した旨の信号が伝送される。その際、情報伝送経路33を通じて下流にあるB浄水場32へも同時に信号を伝送できるので、B浄水場32では、流入前に監視強化を行うことができ、より効果的なリスク管理が可能となる。また、B取水場31にて農薬が検出された場合、上流のA浄水場23における検出結果と整合することで、流出箇所の早期特定が可能となる。これは河川流域の広域的なリスク管理方法であり、一浄水場における監視活動よりも大きな効果を得られるものである。なお、情報伝送経路33に関しては、インターネット回線を用いてもよい。
【0049】
このように、各浄水場管理区域に設けられた監視制御装置は、通信回線33を介して情報を共有できるので、広域的な常時遠隔監視が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明による農薬監視装置の一実施の形態を示すブロック図である。
【図2】本発明による農薬監視機能を有する水処理装置の一実施の形態を示す概念ブロック図である。
【図3】本発明による農薬監視機能を有する水処理装置の他の実施の形態を示す系統図である。
【図4】図3で示した実施の形態における信号系を示すブロック図である。
【図5】本発明による農薬監視機能を有する水処理装置の別の実施の形態での信号系を示すブロック図である。
【図6】本発明による農薬監視機能を有する水処理装置の更に他の実施の形態を示す系統図である。
【符号の説明】
【0051】
1 水源
2 農薬監視装置
3 前処理装置
4 緩衝液容器
5 サンプル水容器
6 混合配管
7 温度調節器
8 反応セル
9 検出器
10 反応基質
11 判定手段としても機能するプログラマぶるコントローラ
15 監視制御装置
16 農薬処理装置として用いられる活性炭注入機
21,22 取水場
23 浄水場
24,25 導水路
26 信号伝送経路
33 通信回線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に混入した農薬を検出する農薬監視装置であって、
前記農薬のある種類に対して特異的に作用する検出素子を有し、検出対象となる農薬の種類に対応して複数個設けられた反応セルと、
これら複数の反応セル毎に設けられ、対応する反応セルでの反応状態を電気的に検出する検出器と、
前記各検出器による検出値をそれぞれ入力し、その検出値から前記混入農薬の種類及びその量または濃度を判定する判定手段と、
を備えたことを特徴とする農薬監視装置。
【請求項2】
検出素子として、ある種類の農薬に対して特異的に作用する酵素、抗体、脂質膜、膜蛋白のいずれか一つ以上を用いることを特徴とする請求項1に記載の農薬監視装置。
【請求項3】
反応セルより前段の流路に、水中の濁質成分を除去する前処理装置が配置され、この前処理装置により濁質を除去された試料水が反応セルに供給されるように構成された請求項1または請求項2に記載の農薬監視装置。
【請求項4】
反応セルより前段側の流路に、これら反応セルに供給される試料水へ緩衝液を供給して混合させ、水素イオン濃度を調整するための混合配管を連結したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の農薬監視装置。
【請求項5】
反応セル及びこの反応セルより前段の流路における使用水の水温を、前記反応セルにおける反応に適した温度に調節する温度調節器を有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の農薬監視装置。
【請求項6】
判定手段は、混入農薬の量または濃度が予め設定した閾値を越えると、特定の信号を発することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の農薬監視装置。
【請求項7】
原水中に混入した農薬を検出する農薬監視機能を有する水処理装置であって、
前記農薬のある種類に対して特異的に作用する検出素子を有し、検出対象となる農薬の種類に対応して複数個設けられた反応セルと、
これら複数の反応セル毎に設けられ、対応する前記反応セルでの反応状態を電気的に検出する検出器と、
前記各検出器による検出値をそれぞれ入力し、その検出値から前記混入農薬の種類及びその量または濃度を判定する判定手段と、
前記原水の浄水工程に設けられ、前記判定手段が閾値を越える混入農薬の量または濃度を検出すると、前記原水に対して、活性炭、オゾン、次亜塩素酸の、少なくとも一つ以上を注入する農薬処理装置と、
を備えたことを特徴とする水処理装置。
【請求項8】
互いに異なる場所において、原水中に混入した農薬を検出すべく、反応セル、検出器、判定手段をそれぞれ設け、これら判定手段からの判定情報を信号伝送手段により入手して遠隔監視する監視制御装置を設けたことを特徴とする請求項7に記載の水処理装置。
【請求項9】
各判定手段から監視制御装置へ情報を伝送する手段として、テレメータ、ローカルエリアネットワーク、インターネット、携帯電話回線、PHS回線、eメールのうちのいずれか一つ以上を用いたことを特徴とする請求項8に記載の水処理装置。
【請求項10】
監視制御装置は、反応セル、検出器、判定手段を含む原水の取水場及びこれら取水場から導水路を介して導水する浄水場からなる浄水場管理区域ごとに設けられ、各浄水場管理区域に設けられた監視制御装置は通信回線を介して情報を共有し、広域的な常時遠隔監視を可能としたことを特徴とする請求項8または請求項9に記載の水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−164343(P2008−164343A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351789(P2006−351789)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】