説明

近接場光発生層及び熱膨張突出層を備えた薄膜磁気ヘッド

【課題】近接場光発生手段から発生した近接場光が、記録媒体の記録層部分に十分に到達し、書き込み時において記録層部分の保磁力を十分に低下させ得る薄膜磁気ヘッドを提供する。
【解決手段】媒体対向面及びこの媒体対向面に垂直な素子形成面を有する基板と、この素子形成面に形成されており、書き込み用の電磁コイル素子と、近接場光を発生させて書き込みの際に磁気記録媒体の書き込み部分を加熱するための近接場光発生層と、電磁コイル素子及び近接場光発生層を覆うように素子形成面上に形成された被覆層とを備えた薄膜磁気ヘッドであって、近接場光発生層が、媒体対向面側のヘッド端面に向かって先細りした形状を有していて、このヘッド端面に達した先端を含む近接場光発生部を備えており、さらに、被覆層を構成する材料よりも熱膨張率の高い材料からなる熱膨張突出層が、近接場光発生部に近接して設けられている薄膜磁気ヘッドが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号磁界の書き込み及び読み出しを行う薄膜磁気ヘッド、この薄膜磁気ヘッドを備えたヘッドジンバルアセンブリ(HGA)及びこのHGAを備えた磁気ディスク装置に関する。特に、本発明は、近接場光を利用して熱アシスト磁気記録方式により信号の書き込みを行う垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッド、この薄膜磁気ヘッドを備えたHGA及びこのHGAを備えた磁気ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置の高記録密度化に伴い、薄膜磁気ヘッドのさらなる性能の向上が要求されている。薄膜磁気ヘッドとしては、読み出し用の磁気抵抗(MR)効果素子と書き込み用の電磁コイル素子とを積層した構造である複合型薄膜磁気ヘッドが広く用いられており、これらの素子によって磁気記録媒体である磁気ディスクに信号データが読み書きされる。
【0003】
磁気記録媒体は、いわば、磁性微粒子が集合した不連続体であり、それぞれの磁性微粒子は単磁区構造となっている。ここで、1つの記録ビットは、複数の磁性微粒子から構成されている。従って、記録密度を高めるためには、磁性微粒子を小さくして、記録ビットの境界の凹凸を減少させなければならない。しかし、磁性微粒子を小さくすると、体積減少に伴う磁化の熱安定性の低下が問題となる。
【0004】
磁化の熱安定性の目安は、KV/kTで与えられる。ここで、Kは磁性微粒子の磁気異方性エネルギー、Vは1つの磁性微粒子の体積、kはボルツマン定数、Tは絶対温度である。磁性微粒子を小さくするということは、まさにVを小さくすることであり、そのままではKV/kTが小さくなって熱安定性が損なわれる。この対策として、同時にKを大きくすることが考えられるが、このKの増加は、媒体の保磁力の増加をもたらす。これに対して、磁気ヘッドによる書き込み磁界強度は、ヘッド内の磁極を構成する軟磁性材料の飽和磁束密度でほぼ決定されてしまう。従って、保持力が、この書き込み磁界強度の限界から決まる許容値を超えると書き込みが不可能となってしまう。
【0005】
この磁化の熱安定性の問題を解決する第1の方法として、面内磁気記録方式から垂直磁気記録方式への移行が考えられる。垂直磁気記録媒体では記録層厚をより大きくすることが可能であり、結果として、Vを大きくして熱安定性を向上させることができる。第2の方法として、パターンドメディアの使用が考えられる。通常の磁気記録では、上述したように1つの記録ビットをN個の磁性微粒子によって構成して記録しているが、パターンドメディアを用いて、1つの記録ビットを体積NVの1つの領域とすることによって、熱安定性の指標がKNV/kTとなり飛躍的に向上する。
【0006】
熱安定性の問題を解決する第3の方法として、Kの大きな磁性材料を用いるが、書き込み磁界印加の直前に、媒体に熱を加えることによって、保磁力を小さくして書き込みを行う、いわゆる熱アシスト磁気記録方式が提案されている。この方式は光磁気記録方式とよく似ているが、光磁気記録方式は空間分解能を光に持たせているのに対し、熱アシスト磁気記録方式は空間分解能を磁界に持たせている。
【0007】
従来、提案されている熱アシスト磁気記録方式として、例えば、特許文献1においては、基板上に形成された円錐体等の形状をした金属の散乱体と、その散乱体の周辺に形成された誘電体等の膜とを備えた近接場光プローブを用いる光記録方式に関する技術が開示されている。また、特許文献2においては、記録再生装置において固体イマージョン・レンズを用いたヘッドを利用し、光磁気ディスクに超微細な光ビームスポットで超微細な磁区信号を記録する技術が開示されている。また、特許文献3においては、斜めに切断した光ファイバ等の端面に、ピンホールが形成された金属膜を設けた構成が開示されている。さらに、特許文献4においては、内蔵したレーザ素子部からの光を、媒体に対向した微小光学開口に照射して熱アシストを行う技術が開示されている。さらに、特許文献5には、近接場光プローブを構成する散乱体を、その照射される面が記録媒体に垂直となるように、垂直磁気記録用単磁極書き込みヘッドの主磁極に接して形成された構成が開示されている。さらにまた、非特許文献1には、水晶のスライダ上に形成されたU字状の近接場光プローブを用いて近接場光と磁界とを発生させ、70nm程度のトラック幅を有する記録パターンを形成する技術が開示されている。
【0008】
これらの技術の中でも、近接場光プローブ、微小開口又は散乱体にレーザを照射することにより近接場光を発生させて、この近接場光によって媒体を加熱する方法は、所望の近接場光を比較的容易に得られることから非常に有望と考えられる。
【0009】
【特許文献1】特開2001−255254号公報
【特許文献2】特開平10−162444号公報
【特許文献3】特開2000−173093号公報
【特許文献4】特開2001−283404号公報
【特許文献5】特開2004−158067号公報
【非特許文献1】Shintaro Miyanishi等 ”Near-field Assisted Magnetic Recording” IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, VOL.41,NO.10, 第2817頁〜第2821頁, 2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、これらの文献に記載されたような従来技術においては、近接場光による記録媒体の記録層部分の加熱が十分に行われない場合が発生し得るという問題が生じていた。
【0011】
近接場光は、一般に、近接場光プローブ、微小開口又は散乱体の極近傍にのみ存在し、その実質的な存在範囲は、おおよそ、プローブ若しくは散乱体の層厚若しくは先端幅、又は開口径程度の大きさである。すなわち、近接場光の電界強度は、この実質的な存在範囲から磁気ディスクに向かって急速に減衰する。従って、ヘッドの浮上量が10nm又はそれ以下であって非常に小さい現状においても、場合によっては、近接場光が記録媒体の記録層部分に十分に到達することができない。その結果、記録層部分の保磁力が、書き込み時において十分に低下せず、書き込みエラーが発生し得る。
【0012】
従って、本発明の目的は、近接場光発生手段から発生した近接場光が、記録媒体の記録層部分に十分に到達し、書き込み時において記録層部分の保磁力を十分に低下させ得る薄膜磁気ヘッド、この薄膜磁気ヘッドを備えたHGA及びこのHGAを備えた磁気ディスク装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明について説明する前に、明細書において使用される用語の定義を行う。基板の素子形成面に形成された磁気ヘッド素子の積層構造において、基準となる層よりも基板側にある構成要素を、基準となる層の「下」又は「下方」にあるとし、基準となる層よりも積層される方向側にある構成要素を、基準となる層の「上」又は「上方」にあるとする。
【0014】
本発明によれば、媒体対向面及びこの媒体対向面に垂直な素子形成面を有する基板と、この素子形成面に形成されており、主磁極層、補助磁極層及びコイル層を有する書き込み用の電磁コイル素子と、近接場光を発生させて書き込みの際に磁気記録媒体の書き込み部分を加熱するための近接場光発生層と、電磁コイル素子及び近接場光発生層を覆うように素子形成面上に形成された被覆層とを備えた薄膜磁気ヘッドであって、近接場光発生層が、媒体対向面側のヘッド端面に向かって先細りした形状を有していて、媒体対向面側のヘッド端面に達した先端を含む近接場光発生部を備えており、さらに、被覆層を構成する材料よりも熱膨張率の高い材料からなる熱膨張突出層が、近接場光発生部に近接して設けられている薄膜磁気ヘッドが提供される。ここで、この熱膨張突出層を構成する材料が、非磁性金属材料であることが好ましい。
【0015】
近接場光発生層がレーザ光を受けると、その先端付近から近接場光が発生し、その近接場光の一部は、近接する熱膨張突出層を加熱する。ここで、熱膨張突出層は、より大きな熱膨張率を有しているので、この加熱によって大きく膨張して磁気ディスク方向に大きく突出する。この突出に引きずられて、又は自らも膨張することによって、近接場光発生層の先端及び主磁極層の端もまた、磁気ディスク方向に大きく突出する。このように、近接場光発生層の先端が大きく突出することによって、近接場光が磁気ディスクの記録層部分に十分に到達して、書き込み時に記録層部分の保磁力が十分に必要なだけ低下する。これにより、安定した書き込みが実現する。また、主磁極層の端が大きく突出することによって、この端と磁気ディスク表面との磁気的な実効距離であるマグネティックスペーシングが十分に小さくなる。これにより、書き込み磁界が磁気ディスクの記録層部分に十分に到達するので、書き込み効率が向上する。
【0016】
近接場光発生部が、素子形成面に対して媒体対向面側が上がる又は下がる形で傾いていて、媒体対向面とは反対側のヘッド端面から入射した光が少なくとも一部に照射され得る受光面を有していることが好ましい。また、主磁極層が、この受光面とは反対側に位置しており、熱膨張突出層が、近接場光発生層の近接場光発生部と主磁極層の媒体対向面側の端部との間に位置していて主磁極層の媒体対向面側の端部にも接している又は近接していることが好ましい。
【0017】
さらに、主磁極層が、この受光面の側に位置しており、主磁極層及び近接場光発生層が、主磁極層の媒体対向面側の端と近接場光発生層の媒体対向面側のヘッド端面に達した先端とにおいてのみ、互いに接して又は近接しており、熱膨張突出層が、近接場光発生部の主磁極層とは反対側に位置していることもまた好ましい。
【0018】
このような構成によって、近接場光発生層、熱膨張突出層及び主磁極層が、同一トラックの方向に重なって並んでいることになるので、磁気ディスクの記録層の書き込もうとしている部分が確実に加熱可能となる。さらに、熱膨張突出層、さらには主磁極層が、近接場光発生部自身の過度の温度上昇を防止するヒートシンクとしての役割をも果たす。
【0019】
近接場光発生層が、近接場光発生部の媒体対向面とは反対側に、素子形成面と平行な反射面を有する反射部をさらに備えていることも好ましい。このような反射面は、ヘッド端面を介して入射したレーザ光の一部を反射させて、受光面に向けさせることによって、受光面の受光量を補う役割を果たす。これにより、近接場光の発生効率が向上する。
【0020】
被覆層のうち、媒体対向面とは反対側のヘッド端面から入射した光の受光面までの光路を含む領域が、SiO又は少なくとも1つの添加元素が添加されたSiOによって形成されていることが好ましい。
【0021】
本発明によれば、さらに、上述した薄膜磁気ヘッドと、この薄膜磁気ヘッドを支持する支持機構と、書き込み用の電磁コイル素子のための信号線と、この薄膜磁気ヘッドが読み出し用の磁気抵抗効果素子を備えている場合はこの磁気抵抗効果素子のための信号線とを備えており、薄膜磁気ヘッドの媒体対向面とは反対側のヘッド端面から光を入射させるための光ファイバをさらに備えているHGAが提供される。
【0022】
本発明によれば、さらにまた、上述したHGAを少なくとも1つ備えており、少なくとも1つの磁気ディスクと、光ファイバに光を供給するための光源と、この少なくとも1つの磁気ディスクに対して薄膜磁気ヘッドが行う書き込み及び読み出し動作を制御するとともに、光源の発光動作を制御するための記録再生及び発光制御回路とをさらに備えている磁気ディスク装置が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明による薄膜磁気ヘッド、この薄膜磁気ヘッドを備えたHGA及びこのHGAを備えた磁気ディスク装置によれば、近接場光発生層から発生した近接場光が、記録媒体の記録層部分に十分に到達するので、書き込み時において記録層部分の保磁力が十分に必要なだけ低下する。これにより、例えば、垂直磁気記録用の薄膜磁気ヘッドにおいても、安定した書き込みが可能であって書き込み効率も高い熱アシスト磁気記録を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において、同一の要素は、同一の参照番号を用いて示されている。また、図面中の構成要素内及び構成要素間の寸法比は、図面の見易さのため、それぞれ任意となっている。
【0025】
図1は、本発明による磁気ディスク装置の一実施形態における要部の構成を概略的に示す斜視図である。
【0026】
同図において、10はスピンドルモータ11の回転軸の回りを回転する複数の垂直磁気記録用の磁気記録媒体である磁気ディスク、12は垂直磁気記録用の薄膜磁気ヘッド(スライダ)21をトラック上に位置決めするためのアセンブリキャリッジ装置、13は、この薄膜磁気ヘッド21の書き込み及び読み出し動作を制御し、さらに後に詳述する熱アシスト用のレーザ光を発生させる光源である半導体レーザ18を制御するための記録再生及び発光制御回路をそれぞれ示している。
【0027】
アセンブリキャリッジ装置12には、複数の駆動アーム14が設けられている。これらの駆動アーム14は、ボイスコイルモータ(VCM)15によってピボットベアリング軸16を中心にして角揺動可能であり、この軸16に沿った方向にスタックされている。各駆動アーム14の先端部には、HGA17が取り付けられている。各HGA17には、スライダ21が、各磁気ディスク10の表面に対向するように設けられている。磁気ディスク10、駆動アーム14、HGA17及びスライダ21は、単数であってもよい。
【0028】
半導体レーザ18は、光ファイバ26にレーザ光を供給するものであり、自身の活性層の位置に、第1のファイバホルダ19によって光ファイバ26の端断面が接続されている。発振レーザの波長は、例えば、800nmである。
【0029】
図2は、本発明によるHGAの一実施形態を示す斜視図である。ここで、図2(A)は、HGA17の磁気ディスクに対向する側の構成を示しており、図2(B)は、HGA17の磁気ディスクに対向する側とは反対側の構成を示している。
【0030】
図2(A)によれば、HGA17は、サスペンション20の先端部に、磁気ヘッド素子を有するスライダ21を固着し、さらにそのスライダ21の端子電極に配線部材25の一端を電気的に接続して構成される。
【0031】
サスペンション20は、ロードビーム22と、このロードビーム22上に固着され支持された弾性を有するフレクシャ23と、ロードビーム22の基部に設けられたベースプレート24と、フレクシャ23上に設けられておりリード導体及びその両端に電気的に接続された接続パッドからなる配線部材25とから主として構成されている。
【0032】
図2(B)によれば、HGA17は、後に詳述するように、薄膜磁気ヘッド21のヘッド端面からレーザ光を入射させるための光ファイバ26をさらに備えている。光ファイバ26の出光側の端部は、フレクシャ23に設けられた第2のファイバホルダ27によって、レーザ光が薄膜磁気ヘッド21の所定のヘッド端面から入射可能となる位置に固定される。ここで、光ファイバ26の出光側の端部の直径は、約5.0μm〜約500μmであり、放射されるレーザ光のビーム径もまた、約5.0μm〜約500μmである。
【0033】
なお、本発明のHGA17におけるサスペンションの構造は、以上述べた構造に限定されるものではないことは明らかである。なお、図示されていないが、サスペンション20の途中にヘッド駆動用ICチップ又は光ファイバ26にレーザ光を供給するための半導体レーザを装着してもよい。
【0034】
図3(A)は、図2に示すHGAの先端部に装着されている、本発明による薄膜磁気ヘッド(スライダ)の一実施形態を示す斜視図である。また、図3(B)は、この薄膜磁気ヘッドにおける磁気ヘッド素子部分の構成を示す平面図である。
【0035】
図3(A)によれば、本実施形態における薄膜磁気ヘッド21は、適切な浮上量を得るように加工された媒体対向面である浮上面(ABS)30を有するスライダ基板210と、スライダ基板210のABS30に垂直な素子形成面31上に形成された磁気ヘッド素子32と、熱アシスト磁気記録のための近接場光を発生させる近接場光発生層35と、図示されていないが、磁気ヘッド素子32及び近接場光発生層35の間に形成された熱膨張突出層と、素子形成面31上に形成された被覆層40の層面から露出した合計4つの信号端子電極36及び37とを備えている。信号端子電極36及び37は、磁気ヘッド素子32が備えている読み出し用のMR効果素子及び書き込み用の電磁コイル素子にそれぞれ接続されている。なお、これらの信号端子電極の数及び位置は、図3(A)の形態に限定されるものではない。同図において端子電極は4つであるが、例えば、電極を3つとした上でグランドをスライダ基板に接地した形態でもよい。
【0036】
ここで、光ファイバ26からの光は、ABS30側にあって同じく磁気ディスクに対向する面となっているヘッド端面300とは反対側のヘッド端面301から、近接場光発生層35に向けて入射される。
【0037】
図3(B)によれば、磁気ヘッド素子32は、読み出し用のMR効果素子33と、書き込み用の電磁コイル素子34とを備えている。MR効果素子33及び電磁コイル素子34の一端は、ヘッド端面300に達している。書き込み又は読み出し動作時には、薄膜磁気ヘッド21が回転する磁気ディスク表面上において流体力学的に所定の浮上量をもって浮上する。この際、これらの素子端が磁気ディスクと対向することによって、信号磁界の感受による読み出しと信号磁界の印加による書き込みとが行われる。
【0038】
近接場光発生層35は、本実施形態において、電磁コイル素子34上に設けられており、磁気ディスクに対向する面であるヘッド端面300に向かって先細りした形状を有している。ここで、近接場光発生層35は、光ファイバ26からレーザ光を受けることにより近接場光を発生させる近接場光発生部350と、光ファイバ26からのレーザ光を近接場光発生部350に向けるための反射面351aを有する反射部351とを備えている。
【0039】
近接場光発生部350は、ヘッド端面300に達した先端を含んでいて、例えば、2等辺三角形の形状を有しており、さらに、受光面350aを有している。光ファイバ26からのレーザ光がこの受光面350aに照射されると、後に詳述するように、近接場光発生部350のヘッド端面300に達した先端から非常に強い電界強度を有する近接場光が発生する。この近接場光を用いて熱アシスト動作が行われる。
【0040】
図4(A)は、図3に示した薄膜磁気ヘッドの要部の構成を概略的に示す図3(A)のA−A線断面図である。なお、同図におけるコイル層の巻き数は図を簡略化するため、実際の巻き数より少なく表されている。
【0041】
図4(A)によれば、MR効果素子33は、MR効果積層体332と、この積層体を挟む位置に配置されている下部電極層330及び上部電極層334とを備えている。MR効果積層体332は、磁化自由層と磁化固定層とがトンネルバリア層を挟んで積層されたトンネル磁気抵抗(TMR)効果多層膜、垂直通電型巨大磁気抵抗(CPP(Current Perpendicular to Plain)−GMR)効果多層膜、及び面内通電型巨大磁気抵抗(CIP(Current In Plain)−GMR)効果多層膜のうちのいずれか1つを備えている。いずれであっても、非常に高い感度で磁気ディスクからの信号磁界を感受して読み出しを行う。なお、MR効果積層体332がCIP−GMR多層膜を備えている場合、上下部電極層334及び330の代わりに、MR効果積層体との間にシールドギャップ層を介する上下部シールド層がそれぞれ設けられ、さらにMR効果積層体にセンス電流を供給するための素子リード導体層が設けられることになる。
【0042】
下部シールド層330は、アルティック(Al−TiC)等からなるスライダ基板210の素子形成面31に積層されており、例えば、厚さ約0.3μm〜約3μmのNiFe、NiFeCo、CoFe、FeN又はFeZrN等から形成されている。上部シールド層334は、例えば、厚さ約0.3μm〜約4μmのNiFe、NiFeCo、CoFe、FeN又はFeZrN等から形成されている。なお、上下部シールド層334及び330の間隔である再生ギャップ長は、約0.02μm〜約1μmである。
【0043】
電磁コイル素子34は、垂直磁気記録用であり、補助磁極層340、コイル層341、コイル絶縁層342、ギャップ層343及び主磁極層344を備えている。主磁極層344は、コイル層341によって誘導された磁束を、書き込みがなされる磁気ディスクの記録層まで収束させながら導くための導磁路である。ここで、主磁極層344のヘッド端面300側の端部344aの層厚方向の長さ(厚さ)は、他の部分に比べて小さくなっている。この結果、高記録密度化に対応した微細な書き込み磁界が発生可能となる。
【0044】
ここで、補助磁極層340は、例えば、厚さ約0.5μm〜約5μmのNi、Fe及びCoのうちいずれか2つ若しくは3つからなる合金、又はこれらを主成分として所定の元素が添加された合金等から形成されている。コイル層341は、例えば厚さ約0.5μm〜約3μmのCu等から形成されている。コイル絶縁層342は、例えば、厚さ約0.1μm〜約5μmの熱硬化されたレジスト層等から形成されている。ギャップ層343は、例えば、厚さ約0.01μm〜約0.5μmのAl又はDLC等から形成されている。主磁極層344は、例えば、ABS側の端部での全厚が約0.01μm〜約0.5μmであって、この端部以外での全厚が約0.5μm〜約3.0μmのNi、Fe及びCoのうちいずれか2つ若しくは3つからなる合金、又はこれらを主成分として所定の元素が添加された合金等から形成されている。
【0045】
なお、MR効果素子33と電磁コイル素子34との間に、さらに、素子間シールド層及び/又はバッキングコイルが形成されていてもよい。バッキングコイルは、電磁コイル素子34から発生してMR効果素子33の上下部電極層を経由する磁束ループを打ち消す磁束を発生させて、磁気ディスクへの不要な書き込み又は消去動作である広域隣接トラック消去(WATE)現象の抑制を図っている。なお、コイル層341は、図4(A)において1層であるが、2層以上又はヘリカルコイルでもよい。
【0046】
また、同じく図4(A)において、近接場光発生層35は、Au、Pd、Pt、Rh若しくはIr、若しくはこれらのうちのいくつかの組合せからなる合金、又はAl、Cu等が添加されたこれらの合金等からなる近接場光発生部350及び反射部351を備えている。近接場光発生部350が有する受光面350aは、素子形成面31に対してヘッド端面300側が上がる形で傾いていて、光ファイバ26からヘッド端面301を介して入射したレーザ光が少なくとも一部に照射され得る位置に形成されている。実際の熱アシスト動作においては、コヒーレントなレーザ光が、光ファイバ26からヘッド端面301を介して近接場光発生部350の受光面350aに照射されると、Au等の内部の自由電子がレーザ光の電界によって一様に強制振動させられることによりプラズモンが励起される。このプラズモンは、近接場光発生部350の、ヘッド端面300側の頂点である先端35aに向かって伝播し、この先端35aの近傍に非常に強い電界強度を有する近接場光を発生させる。この近接場光によって磁気ディスク表面の対向する局所部分が加熱される。これにより、この局所部分の保磁力が、書き込み磁界による書き込みが可能な大きさまでに低下するので、高密度記録用の高保磁力の磁気ディスクを使用しても、電磁コイル素子34による書き込みが可能となる。
【0047】
実際には、このような熱アシスト磁気記録方式を適用することにより、高保磁力の磁気ディスクに垂直磁気記録用の薄膜磁気ヘッドを用いて書き込みを行い、記録ビットを極微細化することによって、1Tbits/in級の記録密度を達成することが可能となる。
【0048】
反射部351は、近接場光発生部350のヘッド端面300とは反対側に設けられており、素子形成面31と平行な反射面351aを有する。反射面351aは、光ファイバ26からヘッド端面301を介して入射したレーザ光の一部を反射させて、受光面350aに向けさせることによって、受光面350aの受光量を補う役割を果たす。これにより、近接場光の発生効率が向上する。
【0049】
なお、近接場光発生層35は、上述したように、Au等から形成されているが、層厚は、例えば、約50nm〜約500nmである。また、ヘッド端面300から反対側の端までの距離は、例えば、約10μm〜約500μmである。また、反射部351でのトラック幅方向の幅は、例えば、約20μm〜約500μmである。さらに、先端35aの幅は、約15nm〜約40nmである。このような近接場光発生層の先端35aからは、上記の層厚又は先端の幅程度の幅の近接場光が発生する。この近接場光の電界強度は、この幅以上の領域では指数関数的に減衰するので、非常に局所的に記録層部分を加熱することができる。また、近接場光は、先端から磁気ディスク方向に向かって、同じく上記の層厚又は先端の幅程度までの領域に存在する。従って、10nm又はそれ以下の浮上量である現状において、近接場光は、十分に記録層部分に到達する。
【0050】
被覆層40は、MR効果素子33、電磁コイル素子34及び近接場光発生層35を覆うように、素子形成面31上に形成されている。この被覆層40は、積層方向(素子形成面31に垂直である方向)において、素子形成面から主磁極層344の端部344aを除く上面までの領域を占める第1の被覆層400と、この上面から近接場光発生部よりも上方までの領域を占める第2の被覆層401と、この領域上の領域を占める第3の被覆層402との積層構造となっている。
【0051】
ここで、第2の被覆層401は、ヘッド端面301から入射した光の受光面350aまでの光路をすべて含んでおり、半導体レーザ18(図1)から発生するレーザ光の透過率が十分に高い、SiO又はSiOを主成分とする酸化物によって形成されている。これにより、薄膜磁気ヘッドに入射したレーザ光の減衰をできるだけ小さくすることができるので、結果として受光面350aが受ける光量が増加して近接場光発生効率が向上する。なお、第1及び第3の被覆層400及び402は、被覆用として通常用いられるAlから形成されている。なお、第2の被覆層401は、受光面350aまでの光路を含んでおればよいので、例えば、この光路を含む所定のトラック幅方向の幅を有する層であってもよい。この場合、この層のトラック幅方向の両側に、Alからなる層を形成することにより、この層を挟む第1及び第3の被覆層間の密着強度が高まり、被覆層の機械的強度を十分に維持することができる。
【0052】
熱膨張突出層41は、近接場光発生層35の近接場光発生部350と主磁極層344の端部344aとの間に位置していて、近接場光発生部350とは、厚さ約3nm〜約20nmのSiO、Al等からなる絶縁層42を介して近接しており、主磁極層344の端部344aとは直接、接している。ここで、本実施形態において、主磁極層344は、近接場光発生層35の受光面350aとは反対側に位置していて、近接場光発生層35のリーディング側に設けられている。さらに、熱膨張突出層41は、被覆層40を構成するAl、SiO等の絶縁材料よりも熱膨張率の高い、Al、Cu、Au、Ti、Ta、Mo、W若しくはRu、又はこれらの元素のうちの幾つかからなる合金等の非磁性金属材料から構成されている。なお、熱膨張突出層41と主磁極層の端部344aとの間に絶縁層が設けられていてもよい。
【0053】
図4(B)は、近接場光発生層35、熱膨張突出層41及び主磁極層344の端部の構成を示す斜視図である。
【0054】
同図によれば、レーザ光43を受けることにより近接場光発生層35に発生した近接場光の一部は、近接する熱膨張突出層41を加熱する。熱膨張突出層41は、上述したように大きな熱膨張率を有しているので、この加熱によって大きく膨張し、特に、ヘッド端面300となっている端面は、磁気ディスク方向に大きく突出する。この突出に引きずられて、又は自らも膨張することによって、近接場光発生層35の先端及び主磁極層344の端もまた、磁気ディスク方向に大きく突出する。近接場光発生層35の先端が大きく突出することによって、近接場光が磁気ディスクの記録層部分に十分に到達して、書き込み時に記録層部分の保磁力が十分に必要なだけ低下する。また、主磁極層344の端が大きく突出することによって、この端と磁気ディスク表面との磁気的な実効距離であるマグネティックスペーシングが十分に小さくなる。これにより、書き込み磁界が磁気ディスクの記録層部分に十分に到達するので、書き込み効率が向上する。
【0055】
また、近接場光発生層35、熱膨張突出層41及び主磁極層344が、同一トラックの方向に並んで重なっているので、磁気ディスクの記録層の書き込もうとしている部分(トラック)が確実に加熱可能となる。さらに、熱膨張突出層41、さらには主磁極層344が、近接場光発生部350自身の過度の温度上昇を防止するヒートシンクとしての役割をも果たす。
【0056】
なお、本実施形態においては、書き込み磁界の主要発生箇所である主磁極層344の端部344aが、近接場光の主要発生箇所である近接場光発生部350の先端35aのリーディング側に位置しているので、熱アシスト動作と書き込み動作をほぼ同時に行うか、又は熱アシスト作用を受けた記録層部分が少なくとも1回転してヘッド位置に戻った後、書き込み動作を行うことになる。
【0057】
さらに、近接場光発生部350は、上述したように、素子形成面31に対してヘッド端面300側が上がる形で傾いている。この傾きをθとすると、近接場光発生部350の熱アシスト作用による磁気ディスクの記録層部分の温度上昇分は、傾きθが大きくなるに従って、受光面による受光量が増加するので大きくなる。これに対して、傾きθが大きくなるほど、近接場光発生部350の先端と主磁極層344の端との間の距離が大きくなり、加熱及び突出部分と書き込み磁界発生部分とのずれが大きくなり得る。このずれが大きくなると、特にスキューが大きい場合に、加熱及び突出動作によっても書き込みが安定せず、さらに書き込み効率も向上しない可能性があり、好ましくない。すなわち、傾きθの値は、記録層の保磁力を熱アシストによって十分に低減させる条件と、加熱突出部分と書き込み部分とを一致させる条件との間で、ある程度の幅を持って選択可能である。なお、θ値の設計の際、フレクシャの振動等によって光ファイバからのレーザ光が所定範囲内で変動しても、近接場光発生層の受光面が、ある程度のマージンを持って確実に必要な量を受光可能とするように、θ値をある程度大きくすることも考慮される。なお、図4の実施形態において、θは、約40度〜約50度である。
【0058】
図5は、本発明による薄膜磁気ヘッドが備えている近接場光発生層及び熱膨張突出層についての種々の実施形態を示す断面図である。
【0059】
図5(A)によれば、熱膨張突出層52は、図4(A)と同じく、近接場光発生層51の近接場光発生部510と主磁極層50の端部50aとの間に位置しており、近接場光発生部510とは絶縁層53を介して近接している。しかしながら、本実施形態では、主磁極層50の端部50aは、図4(A)の端部344aよりも近接場光発生部510寄りに形成されており、端部50aの上面が主磁極層50の上面と一致している。これにより、ヘッド端面300における加熱突出部分と書き込み部分との距離がより小さくなり、書き込みの安定性及び書き込み効率がより向上する。
【0060】
図5(B)によれば、熱膨張突出層56は、図4(A)と同じく、近接場光発生層55の近接場光発生部550と主磁極層54の端部54aとの間に位置しており、近接場光発生部550とは絶縁層57を介して近接している。しかしながら、本実施形態では、近接場光発生部550のヘッド端面300側の部分が、他の部分から折れ曲がっており、素子形成面31と平行になっている。その結果、近接場光発生部550において、受光面550aの面積を十分に確保することによって必要な近接場光を発生させた上で、ヘッド端面300における加熱突出部分と書き込み部分との距離がさほど大きくならないので、書き込みの安定性及び書き込み効率がより向上する。
【0061】
図5(C)によれば、近接場光発生層59の近接場光発生部590が有する受光面590aは、素子形成面31に対してヘッド端面300側が下がる形で傾いていて、ヘッド端面301を介して入射したレーザ光が少なくとも一部に照射され得る位置に形成されている。また、主磁極層58が、近接場光発生層59の受光面590aの側であってリーディング側に位置している。さらに、主磁極層58及び近接場光発生層59が、主磁極層58のヘッド端面300側の端58bと近接場光発生層59のヘッド端面300側の先端59aとにおいてのみ、互いに接して又は近接している。さらに、熱膨張突出層60は、近接場光発生部590の主磁極層58とは反対側において、近接場光発生部590に絶縁層61を介して近接した位置に設けられている。以上に述べた構成により、近接場光発生部590の先端59a近傍から発生する近接場光によって、磁気ディスクの記録層部分が、熱アシスト作用を確実に受けることができる。その上、熱膨張突出層60による突出の中心が、近接場光発生層の先端59a及び主磁極層の端部58aの両方に近い位置となるので、これら先端59a及び端部58aを十分に突出させることが可能となり、書き込みの安定性及び書き込み効率がより確実に向上する。
【0062】
なお、本実施形態においては、光ファイバ26からの光は、主磁極層58及び近接場光発生層59の反射部591の間の領域に向けて放射されることになる。この際、反射面591aのみならず、主磁極層58の上面が、入射した光の一部を反射させて、受光面590aに向けさせることによって、受光面590aの受光量を補う役割を果たす。また、主磁極層58とは独立して、Au、Al、Cu又はそれらのうちのいくつかの組合せの合金等からなる反射層が、主磁極層58の上面に接して又は上方に設けてもよい。
【0063】
また、以上に示した図5(A)〜(C)の実施形態の変更態様として、主磁極層が、補助磁極層の下側(リーディング側)に設けられていて、さらに、近接場光発生層が、主磁極層の下側(リーディング側)に設けられていてもよい。このような変更態様においても上述した実施形態の効果と同様の効果が得られることは明らかである。この変更態様の場合、実際の書き込みにおいて、書き込まれるべき記録層部分が熱アシスト作用を受けた直後に、書き込み動作が、同部分に安定して書き込み効率良く行われることになる。
【0064】
図6は、熱膨張突出層及び素子形成面に対して傾いている近接場光発生部の形成方法の一実施形態を説明する断面図である。具体的には、図6(A)〜(C)において、図4(A)に示した薄膜磁気ヘッドの製造工程のうち、熱膨張突出層52及び近接場光発生部350の形成工程部分を順次示している。
【0065】
図6(A)において、最初に、主磁極主要膜80を形成し、次いで、主磁極補助膜81を形成する。ここで、主磁極主要膜80の端部が、後に主磁極層のヘッド端面側の端部となる。その後、主磁極補助膜81上に、リフトオフ用のレジストパターン82を形成し、その後、スパッタリング法等を用いて、Al、Cu、Au、Ti、Ta、Mo、W若しくはRu、又はこれらの元素のうちの幾つかからなる合金等の非磁性金属膜を成膜して、傾斜した側面を有する熱膨張突出膜83を形成する。この後、レジストパターン82及びその上の非磁性金属膜が、いわゆるリフトオフにより除去される。
【0066】
次いで、図6(B)に示すように、主磁極補助膜81及び熱膨張突出膜83上に、SiO、Al等からなる絶縁膜84と、近接場光発生層となるべき、Au、Pd、Pt、Rh若しくはIr、若しくはこれらのうちのいくつかの組合せからなる合金、又はAl、Cu等が添加されたこれらの合金等の近接場光発生膜85とを形成する。さらに、それらの上に、被覆層となるべき誘電体膜86を成膜する。
【0067】
以上の形成工程を含む、薄膜磁気ヘッドのウエハ基板工程が終了した後、形成工程が終了したウエハ基板を切断して複数の磁気ヘッド素子が一列状に並んだバー部材を形成する。次いで、このバー部材を研磨することによって所望のMRハイトを得るべく、MRハイト加工を行う。その後、MRハイト加工が施されたバー部材を個々のスライダ(薄膜磁気ヘッド)に切断分離することによって薄膜磁気ヘッドの製造工程が終了する。
【0068】
ここで、図6(C)によれば、上述のMRハイト加工によって、主磁極主要膜80、熱膨張突出膜83、絶縁膜84、近接場光発生膜85及び誘電体膜86が研削されることにより、主磁極層344、熱膨張突出層41、絶縁層42、近接場光発生層35及び被覆層40が完成される。ここで、近接場光発生部350は、熱膨張突出膜83の傾斜した側面上に形成されていた結果として、素子形成面に対して傾いている。
【0069】
図7は、図1に示した磁気ディスク装置の記録再生及び発光制御回路13の回路構成を示すブロック図である。
【0070】
図7において、90は制御LSI、91は、制御LSI90から記録データを受け取るライトゲート、92はライト回路、93は、半導体レーザ18に供給する動作電流値の制御用テーブル等を格納するROM、95は、MR効果素子33へセンス電流を供給する定電流回路、96は、MR効果素子33の出力電圧を増幅する増幅器、97は、制御LSI90に対して再生データを出力する復調回路、98は温度検出器、99は、半導体レーザ18の制御回路をそれぞれ示している。
【0071】
制御LSI90から出力される記録データは、ライトゲート91に供給される。ライトゲート91は、制御LSI90から出力される記録制御信号が書き込み動作を指示するときのみ、記録データをライト回路92へ供給する。ライト回路92は、この記録データに従ってコイル層341に書き込み電流を流し、電磁コイル素子34により磁気ディスク上に書き込みを行う。
【0072】
制御LSI90から出力される再生制御信号が読み出し動作を指示するときのみ、定電流回路95からMR積層体332に定電流が流れる。このMR効果素子33により再生された信号は増幅器96で増幅された後、復調回路97で復調され、得られた再生データが制御LSI90に出力される。
【0073】
レーザ制御回路99は、制御LSI90から出力されるレーザON/OFF信号及び動作電流制御信号を受け取る。このレーザON/OFF信号がオン動作指示である場合、発振しきい値以上の動作電流が半導体レーザに印加される。この際の動作電流値は、動作電流制御信号に応じた値に制御される。制御LSI90は、記録再生動作とのタイミングに応じてレーザON/OFF信号を発生させ、磁気ディスクの記録層及び半導体レーザ18の、温度検出器98による温度測定値等を考慮し、ROM93内の制御テーブルに基づいて、動作電流値制御信号の値を決定する。この際、近接場光発生層35からの近接場光による熱膨張突出層41の突出、さらにこれに伴う近接場光発生層35及び主磁極層344の突出は、レーザ照射開始に対して若干のタイムラグを有することが考慮される。具体的には、レーザ照射後、オーバーライト特性が十分に回復するだけの小さなマグネティックスペーシングが確保された後、書き込みが開始される。
【0074】
ここで、制御テーブルは、発振しきい値及び光出力−動作電流特性の温度依存性のみならず、動作電流値と、熱膨張突出層41による近接場光発生層35及び主磁極層344の突出量並びに熱アシスト作用を受けた記録層の温度上昇分との関係、さらには保磁力の温度依存性についてのデータを含んでもよい。
【0075】
このように、記録/再生動作制御信号系とは独立して、レーザON/OFF信号及び動作電流値制御信号系を設けることによって、単純に記録動作に連動した半導体レーザへの通電のみならず、より多様な通電モードを実現することができる。なお、記録再生及び発光制御回路13の回路構成は、図7に示したものに限定されるものでないことは明らかである。記録制御信号及び再生制御信号以外の信号で書き込み動作及び読み出し動作を特定してもよい。また、少なくとも書き込み動作時又はその直前において半導体レーザ18に通電することが望ましいが、書き込み動作及び読み出し動作のシーケンスにおいて、所定の期間だけ通電することも可能である。
【0076】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明による磁気ディスク装置の一実施形態における要部の構成を概略的に示す斜視図である。
【図2】本発明によるHGAの一実施形態を示す斜視図である。
【図3】図2に示すHGAの先端部に装着されている、本発明による薄膜磁気ヘッドの一実施形態を示す斜視図、及びこの薄膜磁気ヘッドにおける磁気ヘッド素子部分の構成を示す平面図である。
【図4】図3に示した薄膜磁気ヘッドの要部の構成を概略的に示す図3(A)のA−A線断面図、及び近接場光発生層、熱膨張突出層及び主磁極層の端部の構成を示す斜視図である。
【図5】本発明による薄膜磁気ヘッドが備えている近接場光発生層及び熱膨張突出層についての種々の実施形態を示す断面図である。
【図6】熱膨張突出層及び素子形成面に対して傾いている近接場光発生部の形成方法の一実施形態を説明する断面図である。
【図7】図1に示した磁気ディスク装置の記録再生及び発光制御回路の回路構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0078】
10 磁気ディスク
11 スピンドルモータ
12 アセンブリキャリッジ装置
13 記録再生及び発光制御回路
14 駆動アーム
15 ボイスコイルモータ(VCM)
16 ピボットベアリング軸
17 ヘッドジンバルアセンブリ(HGA)
18 半導体レーザ
19、27 ファイバホルダ
20 サスペンション
21 スライダ
210 スライダ基板
22 ロードビーム
23 フレクシャ
24 ベースプレート
25 配線部材
26 光ファイバ
30 浮上面(ABS)
300、301 ヘッド端面
31 素子形成面
32 磁気ヘッド素子
33 MR効果素子
330 下部電極層
332 MR効果積層体
334 上部電極層
34 電磁コイル素子
340、710 補助磁極層
341 コイル層
342 コイル絶縁層
343 ギャップ層
344、50、54、58 主磁極層
344a、50a、54a、58a 端部
35、51、55、59 近接場光発生層
35a、59a 先端
350、510、550、590 近接場光発生部
350a、550a、590a 受光面
351、591 反射部
351a 反射面
36、37 信号端子電極
40、400、401、402 被覆層
41、52、56、60 熱膨張突出層
42、53、57、61 絶縁層
43 レーザ光
58b 端
80 主磁極主要膜
81 主磁極補助層
82 レジストパターン
83 熱膨張突出膜
84 絶縁膜
85 近接場光発生膜
86 誘電体膜
90 制御LSI
91 ライトゲート
92 ライト回路
93 ROM
95 定電流回路
96 増幅器
97 復調回路
98 温度検出器
99 レーザ制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体対向面及び該媒体対向面に垂直な素子形成面を有する基板と、該素子形成面に形成されており、主磁極層、補助磁極層及びコイル層を有する書き込み用の電磁コイル素子と、近接場光を発生させて書き込みの際に磁気記録媒体の書き込み部分を加熱するための近接場光発生層と、該電磁コイル素子及び該近接場光発生層を覆うように該素子形成面上に形成された被覆層とを備えた薄膜磁気ヘッドであって、
前記近接場光発生層が、媒体対向面側のヘッド端面に向かって先細りした形状を有していて、該媒体対向面側のヘッド端面に達した先端を含む近接場光発生部を備えており、
前記被覆層を構成する材料よりも熱膨張率の高い材料からなる熱膨張突出層が、前記近接場光発生部に近接して設けられていることを特徴とする薄膜磁気ヘッド。
【請求項2】
前記近接場光発生部が、前記素子形成面に対して媒体対向面側が上がる又は下がる形で傾いていて、媒体対向面とは反対側のヘッド端面から入射した光が少なくとも一部に照射され得る受光面を有していることを特徴とする請求項1に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項3】
前記主磁極層が、前記近接場光発生層の前記受光面とは反対側に位置しており、前記熱膨張突出層が、該近接場光発生層の近接場光発生部と該主磁極層の媒体対向面側の端部との間に位置していて該主磁極層の媒体対向面側の端部にも接している又は近接していることを特徴とする請求項2に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項4】
前記主磁極層が、前記近接場光発生層の前記受光面の側に位置しており、該主磁極層及び該近接場光発生層が、該主磁極層の媒体対向面側の端と該近接場光発生層の媒体対向面側のヘッド端面に達した先端とにおいてのみ、互いに接して又は近接しており、前記熱膨張突出層が、該近接場光発生部の該主磁極層とは反対側に位置していることを特徴とする請求項2に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項5】
前記近接場光発生層が、前記近接場光発生部の前記媒体対向面とは反対側に、前記素子形成面と平行な反射面を有する反射部をさらに備えていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項6】
前記熱膨張突出層を構成する材料が、非磁性金属材料であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項7】
前記被覆層のうち、前記媒体対向面とは反対側のヘッド端面から入射した光の前記受光面までの光路を含む領域が、SiO又は少なくとも1つの添加元素が添加されたSiOによって形成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の薄膜磁気ヘッドと、該薄膜磁気ヘッドを支持する支持機構と、書き込み用の前記電磁コイル素子のための信号線と、該薄膜磁気ヘッドが読み出し用の磁気抵抗効果素子を備えている場合は該磁気抵抗効果素子のための信号線とを備えており、前記薄膜磁気ヘッドの媒体対向面とは反対側のヘッド端面から光を入射させるための光ファイバをさらに備えていることを特徴とするヘッドジンバルアセンブリ。
【請求項9】
請求項8に記載のヘッドジンバルアセンブリを少なくとも1つ備えており、少なくとも1つの磁気ディスクと、前記光ファイバに光を供給するための光源と、該少なくとも1つの磁気ディスクに対して前記薄膜磁気ヘッドが行う書き込み及び読み出し動作を制御するとともに、前記光源の発光動作を制御するための記録再生及び発光制御回路とをさらに備えていることを特徴とする磁気ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−193906(P2007−193906A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12323(P2006−12323)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】