説明

近赤外線カットガラス

【課題】所定の透過率特性(可視光線透過率が高く、近赤外線の透過率が低い)を発揮し、しかも優れた化学的耐久性を有する近赤外線カットガラスを提供する。
【解決手段】ガラス全体量を100重量%とし、酸化物組成として、
(1)P25:51〜60重量%、
(2)ZnO:17〜33重量%、
(3)Al23:1〜6重量%、
(4)Li2O:0〜5重量%、Na2O:0〜10重量%及びK2O:0〜15重量%であって、Li2O、Na2O及びK2Oの合計量として5〜17重量%、
(5)MgO:0〜7重量%及びCaO:0〜7重量%であって、MgO及びCaOの合計量として1〜12重量%、
(6)B23:0〜5重量%
(7)Y23、La23、Ta25及びWO3からなる群から選択された少なくとも1種:0〜10重量%、並びに
(8)CuO:0.2〜8重量%
を含有するリン酸塩系ガラスからなる近赤外線カットガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線カットガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
写真撮影用カメラ、VTRカメラ等に使用される撮像素子の分光感度は、可視光域から近赤外域にわたる広い範囲に存在している。このため、800〜1000nmの近赤外域の光を吸収し、400〜600nmの可視光域の光を透過して分光感度を人間の視感度に近似補正する近赤外線カットフィルターは、必要不可欠な光学部品となっている。
【0003】
近赤外線カットフィルターとしては、従来、800nm以上の波長域(近赤外域)における吸収係数が大きく、400〜600nmの波長域(可視光域)において高い透過性を有するガラスが用いられている。そして、このような特性を有するガラスとしては、CuOを添加したリン酸塩系ガラスが一般に用いられている(特許文献1〜3等)。
【0004】
CuOを添加したリン酸塩系ガラスは、P25を主成分とするガラス網目構造中に2価の銅が存在することにより青緑色を呈し、それにより、800〜1000nmの波長域の光を吸収するとともに、波長500nmを中心とした可視光域の光を透過するという特性を発揮する。
【0005】
しかしながら、このようなリン酸塩系ガラスからなる近赤外線カットフィルターは、主成分として吸湿性の高いP25を含んでいるため、耐水性、耐候性等の化学的耐久性が十分でなく、長期間使用するとガラス表面が変質し、所定の光学的特性が劣化するという問題がある。
【0006】
かかる問題点を改善するため、例えば、特許文献4では、P25とともにリン酸塩系ガラスの網目構造を形成するAl23の含有量を高めて網目構造を強化するとともに、SiO2、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の含有量を低く設定する方策が提案されている。また、特許文献5では、ガラス網目構造を形成するP25の含有量を50重量%以下に低く設定する方策が提案されている。
【0007】
しかしながら、これらの方策に拠っても、透過率特性及び化学的耐久性の両方を十分に満足する近赤外線カットフィルターは未だ得られておらず、さらなる改善の余地がある。特に、Al23の含有量を高める方策では、ガラス原料の溶融温度が上昇するため、近赤外線の吸収に有効な2価の銅が還元されて紫外域に吸収特性を有する1価の銅がガラス中に多く存在し易くなり、400nm付近の可視光線の透過率が低下するという問題が生じる。また、溶融温度の上昇により、ガラス原料が揮発し易くなり、得られるガラスの組成の均質性が損なわれる場合がある。他方、P25含有量を低く設定する方策では、近赤外線カットフィルターは、近赤外線の吸収特性が不十分である。
【特許文献1】特開平3−16933号公報
【特許文献2】特開平5−78148号公報
【特許文献3】特開平6−107428号公報
【特許文献4】特開平1−242440号公報
【特許文献5】特開平9−100136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、所定の透過率特性(可視光線透過率が高く、近赤外線の透過率が低い)を発揮し、しかも優れた化学的耐久性を有する近赤外線カットガラスを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、酸化物組成において、特にP25の含有量を51〜60重量%に設定し、ZnOの含有量を17〜33重量%に設定し、且つ、Al23の含有量を1〜6重量%に設定した所定のガラス組成を有するリン酸塩系ガラスが上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の近赤外線カットガラスに係る。
1.ガラス全体量を100重量%とし、酸化物組成として、
(1)P25:51〜60重量%、
(2)ZnO:17〜33重量%、
(3)Al23:1〜6重量%、
(4)Li2O:0〜5重量%、Na2O:0〜10重量%及びK2O:0〜15重量%であって、Li2O、Na2O及びK2Oの合計量として5〜17重量%、
(5)MgO:0〜7重量%及びCaO:0〜7重量%であって、MgO及びCaOの合計量として1〜12重量%、
(6)B23:0〜5重量%
(7)Y23、La23、Ta25及びWO3からなる群から選択された少なくとも1種:0〜10重量%、並びに
(8)CuO:0.2〜8重量%
を含有するリン酸塩系ガラスからなる近赤外線カットガラス。
2.SrO、BaO、Gd23、Nb25、TiO2、ZrO2及びSiO2からなる群から選択された少なくとも1種をさらに0〜5重量%含有する上記項1記載の近赤外線カットガラス。
3.上記項1又は2記載の近赤外線カットガラスからなる近赤外線カットフィルター。

以下、本発明の近赤外線カットガラスについて詳細に説明する。
【0011】
本発明の近赤外線カットガラスは、ガラス全体量を100重量%とし、酸化物組成として、
(1)P25:51〜60重量%、
(2)ZnO:17〜33重量%、
(3)Al23:1〜6重量%、
(4)Li2O:0〜5重量%、Na2O:0〜10重量%及びK2O:0〜15重量%であって、Li2O、Na2O及びK2Oの合計量として5〜17重量%、
(5)MgO:0〜7重量%及びCaO:0〜7重量%であって、MgO及びCaOの合計量として1〜12重量%、
(6)B23:0〜5重量%
(7)Y23、La23、Ta25及びWO3からなる群から選択された少なくとも1種:0〜10重量%、並びに
(8)CuO:0.2〜8重量%
を含有するリン酸塩系ガラスからなることを特徴とする。なお、上記酸化物組成は、ガラスを構成する各元素の含有量を、酸化物量として換算して表したものである。
【0012】
本発明の近赤外線カットガラスは、特にP25の含有量を51〜60重量%に設定し、ZnOの含有量を17〜33重量%に設定し、且つ、Al23の含有量を1〜6重量%に設定しているため、所定の透過率特性及び優れた化学的耐久性を発揮する。
【0013】
本発明の近赤外線カットガラスは、Al23の含有量が1〜6重量%と低いため、原料溶融時に、溶融物中の2価の銅が1価の銅に還元され難い程度の、低い溶融温度で処理することができる。低い溶融温度であれば、ガラス原料の揮発を抑制できるため、組成の均質性が高いガラスが得られる。
【0014】
また、本発明の近赤外線カットガラスは、化学的耐久性の向上に有効なZnOを17〜33重量%と多く含有しているため、吸湿性の高いP25を主成分として含むにも関わらず、優れた化学的耐久性を発揮する。
【0015】
さらに、このような含有量のAl23及びZnOと組み合わせて、P25を51〜60重量%含有しているため、特定量の該3成分の組み合わせによる相乗的効果として、該3成分を含むガラス全体で、所定の透過率特性を発揮するとともに、優れた化学的耐久性も発揮する。
【0016】
以下、本発明の近赤外線カットガラスにおける構成成分の含有量について説明する。
【0017】
25は、ガラス網目構造を形成する主成分である。含有量は51〜60重量%であればよく、特に52〜57重量%が好ましい。含有量が51重量%未満の場合には、近赤外域での十分な吸収特性が得られ難い。含有量が60重量%を超える場合には、ガラスの化学的耐久性が劣化し易くなる。
【0018】
ZnOは、ガラスの化学的耐久性を高めるために有効であり、またガラス原料の溶融性改善にも寄与する。含有量は17〜33重量%であればよく、特に20〜30重量%が好ましい。含有量が17重量%未満の場合には、化学的耐久性を高める効果が得られ難い。含有量が33重量%を超える場合には、ガラスが失透し易くなるとともに、400nm付近の可視光線の透過率が低下し易い。
【0019】
Al23は、ガラスの化学的耐久性を高めるために有効であるが、含有量が多い場合には、ガラス原料の溶融温度が上昇するため、ガラス網目構造中に2価の銅イオンが得られ難くなる、ガラス原料が溶融時に揮発し易くなりガラスの均質性を保持し難くなる等の問題が生じる。その他、ガラスの結晶化傾向が高まるという問題もある。そのため、本発明では、Al23の含有量の上限を6重量%とすることにより、溶融温度上昇を回避しつつ、化学的耐久性の向上効果を得ている。また、1重量%未満の場合には、化学的耐久性の向上効果が得られ難いため、1重量%を下限としている。即ち、Al23の含有量は、1〜6重量%であればよく、特に1〜4.5重量%が好ましい。
【0020】
Li2O、Na2O及びK2Oで示されるアルカリ成分は、ガラスの耐失透性及び溶融性を改善する効果を有する。各々の含有量はLi2O:0〜5重量%、Na2O:0〜10重量%、及びK2O:0〜15重量%であればよく、特にLi2O:0〜3重量%、Na2O:0〜8重量%及びK2O:0〜12重量%が好ましい。3成分の合計量としては、5〜17重量%であればよく、特に6〜15重量%が好ましい。これらの成分は、過剰に加えた場合には、化学的耐久性が劣化するおそれがある。好ましい範囲内に設定した場合には、特に優れた耐失透性及びガラス溶融性が得られる。
【0021】
MgO及びCaOで示されるアルカリ土類金属酸化物は、少量の添加で化学的耐久性を高める効果を有する。MgOの含有量は0〜7重量%であればよく、特に3〜6重量%が好ましい。また、CaOの含有量は0〜7重量%であればよく、特に2〜5重量%が好ましい。これらの含有量が各々7重量%を超える場合には、ガラスの溶融性、耐失透性が悪化するおそれがある。MgO及びCaOの合計量としては、1〜12重量%であればよく、特に3〜10重量%が好ましい。好ましい範囲内に設定することにより、ガラス原料の溶融性が特に良好となるため、ガラスが失透し難くなる。
【0022】
23は、ガラスの耐失透性を高めるために有効である。B23の含有量は0〜5重量%であればよく、特に1〜4重量%が好ましい。含有量が5重量%を超える場合には、化学的耐久性が劣化するおそれがある。
【0023】
23、La23、Ta25及びWO3は、ガラスの化学的耐久性を高め、失透防止に有効である。Y23、La23、Ta25及びWO3からなる群から選択された少なくとも1種は0〜10重量%含まれていればよく、確実に効果を得るたには、1重量%以上含有することが好ましい。なお、10重量%を超えると、失透し易くなるとともに原料の溶融温度が高くなる傾向がある。
【0024】
CuOは、0.2〜8重量%含まれていればよく、特に1〜5重量%含まれることが好ましい。CuOの銅成分はP25からなるガラス網目構造中において実質的に2価の銅として存在し、これにより、ガラスが青緑色を呈して近赤外線吸収(カット)特性が発揮される。銅成分は、1価の銅の状態でも存在し得るが、1価の銅の含有量が多くなると400nm付近の透過率が低下するため、できる限り1価の銅は含まれていないことが好ましい。0.2重量%未満では、上記効果が得られない場合があり、8重量%を超える場合には、可視光線の透過率が低下するおそれがある。
【0025】
本発明の近赤外線カットガラスには、特性をより改善するために、各種酸化物をさらに含有してもよい。例えば、ガラスの化学的耐久性、原料の溶融性改善等を目的として、SrO、BaO、Gd23、Nb25、TiO2、ZrO2、SiO2等をさらに含有できる。これらの添加剤は、1種又は2種以上を含有できる。
【0026】
添加剤の含有量は特に限定されず、特性改善の程度、添加剤の種類等に応じて適宜設定できるが、特にガラスの化学的耐久性、ガラス原料の溶融性改善等を目的とする場合には、ガラス全体量を100重量%とし、酸化物組成として、SrO、BaO、Gd23、Nb25、TiO2、ZrO2及びSiO2からなる群から選択された少なくとも1種をさらに0〜5重量%、特に0.5〜2重量%含有することが好ましい。
【0027】
本発明の近赤外線カットガラスの製造方法は特に限定されず、所定の組成を有するリン酸塩系ガラスが得られるようにガラス原料を配合し、従来行われているガラス製造方法に従って処理すればよい。例えば、得られるリン酸塩系ガラスが、ガラス全体量を100重量%とし、酸化物組成として、
(1)P25:51〜60重量%、
(2)ZnO:17〜33重量%、
(3)Al23:1〜6重量%、
(4)Li2O:0〜5重量%、Na2O:0〜10重量%及びK2O:0〜15重量%であって、Li2O、Na2O及びK2Oの合計量として5〜17重量%、
(5)MgO:0〜7重量%及びCaO:0〜7重量%であって、MgO及びCaOの合計量として1〜12重量%、
(6)B23:0〜5重量%
(7)Y23、La23、Ta25及びWO3からなる群から選択された少なくとも1種:0〜10重量%、並びに
(8)CuO:0.2〜8重量%
を含有するようにガラス原料を混合し、該混合物を900〜1300℃で溶融後、冷却することにより製造できる。なお、ガラスを構成する各成分の好ましい含有量は、上記で説明した通りである。
【0028】
ガラス中の各成分の原料(ガラス原料)としては特に限定されないが、一般に下記のものが使用できる。
【0029】
25の原料としては、例えば、正リン酸水溶液、リン酸アルミニウム等の複合塩が使用できる。
【0030】
ZnOの原料としては、例えば、酸化亜鉛等が使用できる。
【0031】
Al23の原料としては、例えば、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム等が使用できる。
【0032】
Li2O、Na2O、K2O、MgO及びCaOで示されるアルカリ成分の原料としては、例えば、各金属の炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、水酸化物等が使用できる。この中でも、金属の硫酸塩及び硝酸塩の少なくとも1種が好ましい。金属の硫酸塩及び硝酸塩の少なくとも1種を用いる場合には、原料溶融時に原料溶融物が酸化性雰囲気になり易く、原料溶融物中の2価の銅が1価の銅に還元されるのを効果的に抑制できる。
【0033】
23の原料としては、例えば、ホウ酸、ホウ砂等が使用できる。
【0034】
23の原料としては、例えば、酸化イットリウム等が使用できる。
【0035】
La23の原料としては、例えば、酸化ランタン等が使用できる。
【0036】
Ta25の原料としては、例えば、酸化タンタル等が使用できる。
【0037】
WO3の原料としては、例えば、酸化タングステン等が使用できる。
【0038】
CuOの原料としては、例えば、酸化第二銅、硝酸銅、硫酸銅等が使用できる。
【0039】
本発明の製造方法では、ガラス原料は900〜1300℃、好ましくは1000〜1200℃程度の溶融温度で溶融できる。本発明のガラスでは、Al23の含有量を1〜6重量%と低く抑えているため、所定のガラスを得るためのガラス原料溶融温度は上記の通り低く抑えられている。このような温度域では、溶融物中に存在する銅成分は還元され難く、2価の銅の状態を維持し易い。また、上記温度域では、ガラス原料の揮発も十分に抑制できるため、得られるガラス組成の均質性も確保し易い。
【0040】
溶融雰囲気は特に限定されないが、酸化性雰囲気が好ましく、通常は空気中で処理すればよい。
【0041】
溶融時間は特に限定されないが、ガラス原料が全て溶融する時間であればよい。ガラス原料の溶融物は十分に撹拌することが好ましい。これにより、均質化の図られたガラスが得られる。
【0042】
本発明の製造方法では、清澄剤をガラス原料中に加えておいてもよい。清澄剤としては特に限定されず、従来公知のものを使用できる。例えば、As23、Sb23;KF等のフッ化物;NaCl等の塩化物などが挙げられる。
【0043】
清澄剤の添加量は特に限定されないが、ガラス100重量部に対して、通常0〜1重量部、好ましくは0.2〜0.6重量部程度である。
【0044】
溶融後は、溶融物を冷却してガラス化する。冷却速度はガラスに熱的歪みが生じない範囲内であれば特に限定されないが、通常10〜50℃/時間、好ましくは10〜30℃/時間程度のゆっくりとした速度で徐冷することが好ましい。
【0045】
このような製造方法により製造された本発明の近赤外線カットガラスは、可視光線を十分に透過し、近赤外線を十分に吸収するという特性を有する。具体的には、400nmでの透過率は78%以上、好ましくは80%以上である。550nmでの透過率は80%以上、好ましくは81%以上である。また、650nmでの透過率は50%以下、好ましくは45%以下である。
【0046】
本発明の近赤外線カットガラスの用途は特に限定されず、近赤外線を吸収(カット)する特性を活かせる用途であれば幅広く適用できる。例えば、近赤外線カットフィルターとして使用できる。具体的には、写真撮影用カメラ、VTR用カメラ等に使用される撮像素子、受光素子等の分光感度を人間の視感度に近似補正するために用いる、近赤外線カットフィルターとして好適に使用できる。
【0047】
近赤外線カットフィルターとして用いる場合には、本発明の近赤外線カットガラスを所望の寸法となるように切断し、研磨することにより作製できる。フィルターの形状、寸法等については、個々の撮像素子の種類、大きさ等に応じて適宜設定できる。
【発明の効果】
【0048】
本発明の近赤外線カットガラスは、Al23の含有量が1〜6重量%と低いため、原料溶融時に、溶融物中の2価の銅が1価の銅に還元され難い程度の、低い溶融温度で処理することができる。また、かかる溶融温度であれば、ガラス原料の揮発を抑制できるため、組成の均質性が高いガラスが得られる。また、本発明の近赤外線カットガラスは、化学的耐久性の向上に有効なZnOを17〜33重量%と多く含有しているため、吸湿性の高いP25を主成分として含むにも関わらず、優れた化学的耐久性を発揮する。さらに、このようなAl23及びZnOの含有量と組み合わせて、P25の含有量を51〜60重量%に設定しているため、特定量の該3成分の組み合わせによる相乗的効果として、該3成分を含むガラス全体で、優れた透過率特性を発揮するとともに、優れた化学的耐久性も発揮する。
【0049】
このような本発明の近赤外線カットガラスは、写真撮影用カメラ、VTR用カメラに使用される撮像素子、受光素子等の分光感度を人間の視感度に近似補正するために用いる、近赤外線カットフィルターとして好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。但し、本発明は実施例の記載に限定されない。
【0051】
実施例1〜6及び比較例1〜3
下記表1に示す組成を有するリン酸塩系ガラスを調製した。
【0052】
調製に際しては、先ず必要なガラス原料を白金ルツボに入れて電気炉に収容した。次いで、空気中においてガラス原料を撹拌しながら加熱して溶融・撹拌・清澄を行った。溶融温度は1000〜1200℃程度であった。
【0053】
次いで、脱泡後の溶融物を500℃に余熱したカーボン金型に流し込み、徐冷してガラス硬化体を得た。冷却速度は20℃/時間程度とした。
【0054】
得られたガラス硬化体を切断・両面研磨して10mm角×0.4mm厚のサンプルを作製した。サンプルは実施例1〜6及び比較例1〜3で用いる9種類を作製した。
【0055】
9種類のサンプルの透過率を測定した。透過率は、400nm、550nm及び650nmの3つにおいて測定した。実施例1〜6で作製したサンプルは、いずれも良好な近赤外線吸収特性を示した。9種類のサンプルの透過率測定結果を表1に併せて示す。
【0056】
サンプル9種に対して、耐候性試験を行った。耐候性試験では、サンプルの400nmの透過率を測定後、温度60℃、湿度90%の環境下に500時間保持し、保持後に再度400nmの透過率を測定し、保持前後に測定した各透過率の相互の偏差%(ΔT)を耐候性の指標とした。ΔTの数値を表1に併せて示す。ΔTの数値(絶対値)が小さい程、優れた耐候性を示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1の結果からは、実施例1〜6で得られたガラス硬化体サンプルが、所定の透過率特性(可視光線透過率が高く、近赤外線の透過率が低い)を具備しつつ、しかも優れた化学的耐久性を有することが分かる。
【0059】
一方、比較例1で得られたサンプルは、Al23を含有しないため化学的耐久性が劣ることが分かる。比較例2で得られたサンプルは、P25含有量が多く、且つ、ZnO含有量が少ないため化学的耐久性が劣ることが分かる。また、比較例3で得られたサンプルは、P25含有量が少ないため、特に近赤外域における吸収特性が実施例1〜6で得られたサンプルと比較して不十分であることが分かる。参考のため、実施例1及び比較例3で得られたサンプルの透過率特性を示すグラフを図1に示す。図1中、実線グラフが実施例1、破線グラフが比較例3に対応する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例1及び比較例3で作製したガラス硬化体サンプルの透過率特性を示すグラフである。実線グラフが実施例1、破線グラフが比較例3に対応する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス全体量を100重量%とし、酸化物組成として、
(1)P25:51〜60重量%、
(2)ZnO:17〜33重量%、
(3)Al23:1〜6重量%、
(4)Li2O:0〜5重量%、Na2O:0〜10重量%及びK2O:0〜15重量%であって、Li2O、Na2O及びK2Oの合計量として5〜17重量%、
(5)MgO:0〜7重量%及びCaO:0〜7重量%であって、MgO及びCaOの合計量として1〜12重量%、
(6)B23:0〜5重量%
(7)Y23、La23、Ta25及びWO3からなる群から選択された少なくとも1種:0〜10重量%、並びに
(8)CuO:0.2〜8重量%
を含有するリン酸塩系ガラスからなる近赤外線カットガラス。
【請求項2】
SrO、BaO、Gd23、Nb25、TiO2、ZrO2及びSiO2からなる群から選択された少なくとも1種をさらに0〜5重量%含有する請求項1記載の近赤外線カットガラス。
【請求項3】
請求項1又は2記載の近赤外線カットガラスからなる近赤外線カットフィルター。


【図1】
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【公開番号】特開2006−1808(P2006−1808A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−181276(P2004−181276)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(591110654)五鈴精工硝子株式会社 (19)
【Fターム(参考)】