説明

送液装置、バイオセンサー、及び、送液方法

【課題】 ピペットを用いて流路内に試料を送液する際に、送液圧力の変動を抑制可能な送液装置、この送液装置を備えたバイオセンサー、及び、送液方法を提供する。
【解決手段】 吐出ポンプ27と吸引ポンプ28との間の単位時間あたりの吐出量と吸引量との差分Sと、この差分Sをキャンセルするための吐出ポンプ27及び吸引ポンプ28の動作速度α、β(補正後動作速度α、β)を記憶しておき、吐出ポンプ27、吸引ポンプ28の駆動時には、補正後動作速度α、βをメモリから読み出して、この補正後動作速度α、βで吐出ポンプ27、吸引ポンプ28を駆動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピペットを用いて流路内に試料を送液する送液装置と、その送液方法、及びこの送液装置を備えたバイオセンサーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンパク質やDNAなどの生化学物質間における相互作用の測定や、薬品のスクリーニングなどを行う際に、全反射減衰を利用して試料の反応を測定するバイオセンサーが知られている。例えば、特許文献1などで知られるSPR測定装置では、透明な誘電体上に形成された金属膜の表面をセンサ面として、このセンサ面上へ試料を供給して反応させた後、プリズムを介してセンサ面の裏面側から全反射条件を満たすように金属膜を照射し、その反射光を測定している。
【0003】
このようなバイオセンサーの場合、センサ面上に試料を供給する必要があるが、特許文献1に記載の技術では、ポンプやバルブなどに接続された配管(チューブ)を介して、試料を保管する容器から直接流路に試料を送り込むようにしている。この方法では、配管内に付着した試料が後に注入する試料に混入してしまう、いわゆるコンタミネーションが生じやすいという問題があった。
【0004】
そこで、1のピペットを用いて流路の入口から試料を注入すると共に、他のピペット用いて流路の出口から試料を吸引することにより試料をセンサ面へ供給することが考えられる。この方法によれば、ピペットチップを交換することにより前述のコンタミネーションの問題は解消するが、ピペットからの吐出量とピペットへの吸引量とが異なると、送液圧力が変動し、送液不良の原因となることがある。
【特許文献1】特許第3294605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事実を考慮してなされたものであり、ピペットを用いて流路内に試料を送液する際に、送液圧力の変動を抑制可能な送液装置、この送液装置を備えたバイオセンサー、及び、送液方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様の送液装置は、供給口及び排出口を有する流路と、前記流路中に露出され試料の反応を検出するためのセンサ面と、を有する測定ユニットの、前記センサ面へ前記試料を送液する送液装置であって、前記供給口及び排出口の各々へ挿入されるピペット対と、前記ピペット対のうちの一方のピペットから試料を吐出させる吐出ポンプと、前記ピペット対のうちの他方のピペットへ試料を吸引させる吸引ポンプと、前記吐出ポンプによる前記ピペットからの単位時間あたりの吐出量と、前記吸引ポンプによる前記ピペットからの単位時間あたりの吸引量と、の差分がキャンセルされるように前記吐出ポンプ及び前記吸引ポンプの動作速度を制御する動作速度制御手段と、を備えている。
【0007】
上記送液装置では、測定ユニットの供給口及び排出口へピペットを挿入して、一方のピペットから試料を吐出すると共に、他方のピペットへ試料を吸引することにより、流路へ試料を送液する。ピペット対のうちの一方のピペットは、吐出ポンプによってピペット内の試料が吐出され、ピペット対のうちの他方のピペットは、吸引ポンプによってピペット内へと試料が吸引される。
【0008】
ここで、本願においての吐出・吸引とは、その時々の動作が吐出・吸引であるということを意味し、必ずしもピペットやポンプが、それぞれ吐出専用や吸引専用に設けられているということには限定されない。
【0009】
ところで、吐出ポンプと吸引ポンプは、送液圧力を一定にするために、単位時間あたりの吐出・吸引量を同一にする必要がある。しかしながら、各ポンプによる送液量には、ケーシングサイズの誤差等により、誤差が発生してしまうことがある。
【0010】
そこで、上記送液装置の動作速度制御手段で、吐出ポンプによるピペットからの単位時間あたりの吐出量と、吸引ポンプによるピペットからの単位時間あたりの吸引量と、の差分がキャンセルされるように、吐出ポンプ及び吸引ポンプの動作速度を制御する。例えば、吐出ポンプによる吐出量が吸引ポンプによる吸引量よりも多い場合には、規定の動作速度よりも吐出ポンプの動作速度が遅く、または、吸引ポンプの動作速度が速くなるように、各々のポンプを制御する。
【0011】
このように、動作速度で吐出量・吸引量を調整して、各ポンプの吐出量・吸引量の誤差を補正することにより、送液圧力の変動を抑制することができる。
【0012】
なお、第1の形態の送液装置の前記動作速度制御手段は、前記吐出量と前記吸引量の差分をキャンセルするための前記吐出ポンプ及び前記吸引ポンプの少なくとも一方の補正後動作速度を記憶する記憶手段と、前記補正後動作速度で前記吐出ポンプ及び前記吸引ポンプを駆動させるポンプドライバと、を含んで構成することができる。
【0013】
記憶手段に記憶する補正後動作速度は、吐出ポンプの動作速度でも、吸引ポンプの動作速度でも、その両者であってもよい。補正後動作速度で前記吐出ポンプ及び前記吸引ポンプを駆動させることにより、1のピペットチップからの吐出量と、他のピペットチップへの吸引量との誤差調整を行うことができる。
【0014】
また、第1の形態の送液装置が、前記ピペット対を複数有し、前記動作速度制御手段は、複数の前記ピペット対の各々について前記吐出量と前記吸引量の差分をキャンセルするための前記吸引ポンプの各々の補正後動作速度、を記憶する記憶手段と、前記補正後動作速度で前記吸引ポンプを駆動させるポンプドライバと、を含んで構成することもできる。
【0015】
このように、ピペット対を複数有するマルチチャンネルの送液装置の場合には、吸引ポンプ側のみ補正後動作速度で駆動させることにより、簡単に誤差調整を行うことができる。
【0016】
本発明の第2の態様のバイオセンサーは、光の全反射減衰を利用して試料の反応状態を測定するバイオセンサーであって、供給口及び排出口を有する流路と、前記流路中に露出され平坦な金属膜上にリガンドが固定されたセンサ面と、を有する測定ユニットと、前記測定ユニットの前記センサ面へ前記試料を送液する請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の送液装置と、前記センサーチップの前記金属膜へ向かって光を出射する光学部材と、前記金属膜で反射された前記光を受光する受光部材と、を備えている。
【0017】
上記バイオセンサーによれば、送液装置での送液圧力の変動が抑制されているので、送液不良が生じにくく、信頼性の高いバイオセンサーを得ることができる。
【0018】
本発明の第3の形態の送液方法は、供給口及び排出口を有する流路と、前記流路中に露出され試料の反応を検出するためのセンサ面と、を有する測定ユニットの、前記センサ面へ前記試料を送液する送液方法であって、前記供給口及び排出口の各々へピペット対を挿入し、前記ピペット対のうちの一方のピペットから試料を吐出させる吐出ポンプによる単位時間あたりの吐出量と、前記ピペット対のうちの他方のピペットへ試料を吸引させる吸引ポンプによる単位時間あたりの吸引量と、の差分がキャンセルされるように前記吐出ポンプ及び前記吸引ポンプの動作速度を制御するものである。
【0019】
上記送液方法によれば、吐出ポンプ及び吸引ポンプの動作速度で各々の吐出量・吸引量の誤差を補正することにより、送液圧力の変動を抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は上記構成としたので、送液圧力の変動を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0022】
本発明のバイオセンサー10は、金属膜の表面に発生する表面プラズモン共鳴を利用して、リガンドDとアナライトAとの相互作用を測定する、いわゆる表面プラズモンセンサーである。
【0023】
図1に示すように、バイオセンサー10は、トレイ保持部12、搬送部14、容器載置台16、液体吸排部20、光学測定部54、及び、制御部60を備えている。
【0024】
トレイ保持部12は、載置台12A、及び、ベルト12Bを含んで構成されている。載置台12Aは、矢印Y方向に架け渡されたベルト12Bに取り付けられており、ベルト12Bの回転により矢印Y方向に移動可能とされている。載置台12A上には、トレイTが載置される。トレイTには、センサースティック40が収納されている。センサースティック40は、リガンドDの固定されるチップであり、詳細については後述する。載置台12Aの下には、センサースティック40を後述するスティック保持部材14Cの位置まで押し上げる、押上機構12Dが配置されている。
【0025】
センサースティック40は、図2及び図3に示すように、誘電体ブロック42、流路部材44、保持部材46、接着部材48、及び、蒸発防止部材49、で構成されている。
【0026】
誘電体ブロック42は、光ビームに対して透明な透明樹脂等で構成されており、断面が台形の棒状とされたプリズム部42A、及び、プリズム部42Aの両端部にプリズム部42Aと一体的に形成された被保持部42Bを備えている。プリズム部42Aの互いに平行な2面の内の広い側の上面には、図4にも示すように金属膜50が形成されている。この金属膜50上に、バイオセンサー10で解析するリガンドDが固定される。誘電体ブロック42は、いわゆるプリズムとして機能し、バイオセンサー10での測定の際には、プリズム部42Aの対向する互いに平行でない2つの側面の内の一方から光ビームが入射され、他方から金属膜50との界面で全反射された光ビームが出射される。
【0027】
金属膜50の表面には、図4に示すように、リンカー層50Aが形成されている。リンカー層50Aは、リガンドDを金属膜50上に固定化するための層である。リンカー層50A上には、リガンドDが固定されアナライトAとリガンドDとの反応が生じる測定領域(E1)と、リガンドDが固定されず、前記測定領域E1の信号測定に際しての参照信号を得るための参照領域(E2)とが形成される。この参照領域E2は、上述したリンカー層50Aを製膜する際に形成される。形成方法としては、例えば、リンカー層50Aに対して表面処理を施して、リガンドDと結合する結合基を失活させる。これにより、リンカー層50Aの半分が測定領域E1となり、残りの半分が参照領域E2となる。このように、結合基を失活させるためには、上記、ブロッキングに用いたエタノールアミン−ヒドロクロライドを用いることができる。参照領域E2の別の構成方法としては、参照領域E2にカルボキシルメチルデキストランの代わりに、例えば、アルキルチオールを配するようにすれば、アルキル基を表面に配することが出来、アルキル基は、アミノカップリング法でリガンド結合させることは出来ないので、参照領域E2として使うことができる。
【0028】
図5にも示すように、液体流路45に露出されたリンカー層50Aの、参照領域E2以外の部分には、リガンドDが固定されている。参照領域E2にはリガンドDは固定されていない。参照領域E2、及び、参照領域E2よりも上流側に位置する測定領域E1には、各々光ビームL2、L1が入射される。参照領域E2は、リガンドDの固定された測定領域E1から得られるデータを補正するために設けられた領域である。
【0029】
プリズム部42Aの両側面には、上側の端辺に沿って保持部材52と係合される係合凸部42Cが、下側の端辺に沿ってプリズム部42Aの上面と垂直な仮想面の延長上に構成される垂直凸部42Dが、各々7箇所に形成されている。また、誘電体ブロック42の下面の長手方向に沿った中央部には、係合溝42Eが形成されている。
【0030】
流路部材44は、誘電体ブロック42よりもわずかに狭幅の直方体状とされ、図3に示すように、誘電体ブロック42の金属膜50上に6個並べて配置されている。各々の流路部材44の下面には流路溝44Aが形成されており、上面に形成された供給口45A及び排出口45Bと連通されて、金属膜50との間に、液体流路45が構成される。したがって、1本のセンサースティック40には、独立した6個の液体流路45が構成される。流路部材44の側壁には、保持部材46の内側の図示しない凹部に圧入されて保持部材46との密着性を確保するための凸部44Bが形成されている。
【0031】
なお、液体流路45には、蛋白質を含む液体が供給されることが想定されるので、流路部材44への蛋白質の固着を防止するため、流路部材44の材料としては、蛋白質に対する非特異吸着性を有しないことが好ましい。
【0032】
保持部材46は、長尺とされ、上面板46A及び2枚の側面板46Bで構成されている。側面板46Bには、誘電体ブロック42の係合凸部42Cと係合される係合孔46Cが形成されている。保持部材46は、6個の流路部材44を間に挟んで係合孔46Cと係合凸部42Cとが係合されて、誘電体ブロック42に取り付けられる。これにより、流路部材44は、誘電体ブロック42に取り付けられる。上面板46Aには、流路部材44の供給口45A及び排出口45Bと対向する位置に、流路部材44に向けて狭くなるテーパー状のピペット挿入孔46Dが形成されている。また、隣り合うピペット挿入孔46Dとピペット挿入孔46Dとの間には、位置決め用のボス46Eが形成されている。
【0033】
保持部材46の上面には、蒸発防止部材49が接着部材48を介して接着されている。接着部材48のピペット挿入孔46Dと対向する位置にはピペット挿入用の孔48Dが形成され、ボス46Eと対向する位置には位置決め用の孔48Eが形成されている。また、蒸発防止部材49のピペット挿入孔46Dと対向する位置には十字状の切り込みであるスリット49Dが形成され、ボス46Eと対向する位置には位置決め用の孔49Eが形成されている。ボス46Eを孔48E及び49Eに挿通させて、蒸発防止部材49を保持部材52の上面に接着することにより、蒸発防止部材49のスリット49Dと流路部材44の供給口45A及び排出口45Bとが対向するように構成される。ピペットチップCPの非挿入時には、スリット49D部分が供給口45Aを覆い、液体流路45に供給されている液体の蒸発が防止される。
【0034】
図1に示すように、バイオセンサー10の搬送部14は、上部ガイドレール14A、下部ガイドレール14B、及び、スティック保持部材14C、を含んで構成されている。上部ガイドレール14A及び下部ガイドレール14Bは、トレイ保持部12及び光学測定部54の上部で、矢印Y方向と直交する矢印X方向に水平に配置されている。上部ガイドレール14Aには、スティック保持部材14Cが取り付けられている。スティック保持部材14Cは、センサースティック40の両端部の被保持部42Bを保持可能とされていると共に、上部ガイドレール14Aに沿って移動可能とされている。スティック保持部材14Cに保持されたセンサースティック40の係合溝42Eと下部ガイドレール14Bとが係合され、スティック保持部材14Cが矢印X方向に移動することにより、センサースティック40が光学測定部54上の測定部56に搬送される。また、測定部56には、測定時にセンサースティック40を押さえる押さえ部材58が備えられている。押さえ部材58は、図示しない駆動機構によりZ方向に移動可能とされ、測定部56に配置されたセンサースティック40を上側から押圧する。
【0035】
容器載置台16には、アナライト溶液プレート17、バッファー液ストック容器18、廃液容器19が載置されている。アナライト溶液プレート17は、マトリクス状に区画されており、各種のアナライト溶液がストックされている。バッファー液ストック容器18は、容器18A〜18Eで構成されており、各種のバッファ液がストックされている。容器18A〜18Eには、後述するピペットチップCPを挿入可能な開口Kが形成されている。廃液容器19は、複数の容器19A〜19Eで構成されており、バッファー液ストック容器と同様にピペットチップCPを挿入可能な開口Kが形成されている。
【0036】
液体吸排部20は、ヘッド24、及び、吸排駆動部26を含んで構成されている。ヘッド24は、図示しない搬送レールに沿って矢印Y方向に移動可能とされている。また、ヘッド24は、ヘッド24内部の図示しない駆動機構により、鉛直方向(矢印Z方向)にも移動可能とされている。ヘッド24は、図6に示すように、一対のピペット部24A、24Bを備えている。ピペット部24A、24Bには、先端部にピペットチップCPが取り付けられ、個々にZ方向の長さを調整可能とされている。ピペットチップCPは、図示しないピペットチップストッカーに多数ストックされており、必要に応じて交換可能とされている。
【0037】
吸排駆動部26は、吐出ポンプ27、吸引ポンプ28で構成されている。吐出ポンプ27は、シリンジポンプで構成されており、吐出シリンダ27A、吐出ピストン27B、及び、吐出ピストン27Bを駆動させる吐出モータ27Cを備えている。また、吸引ポンプ28も、シリンジポンプで構成されており、吸引シリンダ28A、吸引ピストン28B、及び、吸引ピストン28Bを駆動させる吸引モータ28Cを備えている。吐出モータ27C及び吸引モータ28Cは、後述する制御部60内の吐出用ドライバ60D、吸引用ドライバ60Eと接続されている。
【0038】
光学測定部54は、図7に示すように、光源54A、第1光学系54B、第2光学系54C、受光部54D、信号処理部54E、を含んで構成されている。光源54Aからは、発散状態の光ビームLが出射される。光ビームLは、第1光学系54Bを介して、2本の光ビームL1、L2となり、測定部56に配置された誘電体ブロック42の測定領域E1と参照領域E2に入射される。測定領域E1及び参照領域E2において、光ビームL1、L2は、金属膜50と誘電体ブロック42との界面に対して種々の入射角成分を含み、かつ全反射角以上の角度で入射される。光ビームL1、L2は、誘電体ブロック42と金属膜50との界面で全反射される。全反射された光ビームL1、L2も、種々の反射角成分をもって反射される。この全反射された光ビームL1、L2は、第2光学系54Cを経て受光部54Dで受光されて、各々光電変換され、光検出信号が信号処理部54Eへ出力される。信号処理部54Eでは、入力された光検出信号に基づいて所定の処理が行なわれ、測定領域E1及び参照領域E2の全反射減衰角のデータ(以下「全反射減衰角データ」という)が求められる。この全反射減衰角データが制御部60へ出力される。
【0039】
制御部60は、バイオセンサー10の全体を制御する機能を有し、図7に示すように、光源54A、信号処理部54E、及び、バイオセンサー10の図示しない駆動系と接続されている。
【0040】
また、制御部60は、図8に示すように、CPU60A、ROM60B、RAM60C、吐出用ドライバ60D、吸引用ドライバ60E、メモリ60F、インターフェース60H、60I、60Jを備え、これらは、バス60Gで互いに接続されている。吐出用ドライバ60Dは吐出モータ27Cと接続され、吸引用ドライバ60Eは吸引モータ28Cと接続されている。制御部60には、インターフェース60Hを介して、各種の情報を表示する表示部62、各種の指示、情報を入力するための入力部64と接続され、インターフェース60Iを介して、信号処理部54E、光源54Aが接続され、インターフェース60Jを介してヘッド24が接続されている。ROM60Bには、ヘッド24、吐出ポンプ27、及び、吸引ポンプ28の制御用プログラム等が格納されている。
【0041】
メモリ60Fには、図9に示すように、吐出ポンプ27と吸引ポンプ28との間の単位時間あたりの吐出量と吸引量との差分Sと、この差分Sをキャンセルするための吐出ポンプ27及び吸引ポンプ28の動作速度α、β(補正後動作速度α、β)が対応づけられた補正テーブルTが記憶されている。ここでの差分Sは、シリンジポンプのシリンダの内径の誤差に起因するものである。また、補正後動作速度α、βは、必ずしも速度そのものである必要はなく、パルスモータのパルス数や、速度の増減割合であってもよい。また、吐出ポンプ27または吸引ポンプ28のいずれかのみの補正後動作速度のみであってもよい。本実施形態のバイオセンサー10での差分Sは、予め測定により求められており、採用する動作速度α、βは選択されている。各々の値を、S1、α1、β1とする。
【0042】
次に、バイオセンサー10での、測定について説明する。
【0043】
バイオセンサー10の載置台12Aには、リガンドDが固定化され、液体流路45に保存液Cが充填されたセンサースティック40入りのトレイがセットされている。また、アナライト溶液プレート17には、所定のアナライト溶液がセットされている。
【0044】
まず、押上機構12Dにより、1のセンサースティック40がスティック保持部材14Cの位置まで押し上げられ、スティック保持部材14Cにより保持される。そして、スティック保持部材14Cは、センサースティック40を保持したまま下部ガイドレール14Bに沿って移動して、センサースティック40を測定部56へ搬送する。測定部56へ搬送されたセンサースティック40は、所定の測定位置に位置決めされて押さえ部材58により、上部から押圧され固定される。
【0045】
入力部64から測定開始の指示が入力されると、制御部60では、図10に示す測定処理が実行される。
【0046】
まず、ステップS12で、光源54Aへ光ビームLの出射指示信号を出力する。これにより、光源54Aから光ビームLが出射される。出射された光ビームLは、第1光学系54Bで2本の光ビームL1、L2となり、液体流路45の測定領域E1、参照領域E2へ各々入射される。また、ステップS14で、受光部54D及び信号処理部54Eへ、作動指示信号を出力する。これにより、測定領域E1、参照領域E2で全反射され第2光学系54Cを経た光ビームL1、L2は、受光部54Dで受光され、受光された光は、測定領域E1、参照領域E2毎に光電変換されて光検出信号が信号処理部54Eへ出力される。信号処理部54Eでは、光検出信号に所定の処理が加えられ、全反射減衰角データが生成され、制御部60へ出力される。
【0047】
制御部60では、ステップS16で、所定時間経過したかどうかを判断し、所定時間の経過後、ステップS18で、入力された全反射減衰角データをメモリ60Fへ記憶する。そして、ステップS20で、測定領域E1からの光検出信号により得られる全反射減衰角データを、参照領域E2からの光検出信号により得られる全反射減衰角データで補正して、リガンドDとアナライト溶液YA中のアナライトAとの結合状態を示す結合状態データを生成する。そして、ステップS22で、結合状態データを表示部62へ出力する。これにより、所定時間毎の結合状態データがメモリ60Fへ記憶されると共に、表示部62へ表示される。表示部62へは、時間毎の結合状態データがグラフ化されて出力される。この測定処理は、測定処理終了信号を受けるまで継続される。
【0048】
一方、入力部64からアナライト供給開始の指示が入力されると、制御部60では、図11に示すアナライト供給処理が実行される。
【0049】
まず、ステップS30で、アナライト溶液YAをピペットチップCPAへ吸引することにより、アナライト溶液YAを取得する。すなわち、ヘッド24をアナライト溶液YAのセットされたアナライト溶液プレート17の上部に移動させ、ピペット部24Aを下側に下降させて、ピペット部24Aに取り付けられているピペットチップCPAの先端のみをアナライト溶液YAが貯留されたセルへ挿入する。そして、吐出モータ27Cにより吐出ピストン27Bを吐出シリンダ27A内が負圧になるように駆動させ、ピペットチップCPA内にアナライト溶液YAを吸引する。
【0050】
次に、ステップS31で、ヘッド24をセンサースティック40上へ移動させ、ステップS32で、ピペットチップCPAを供給口45Aへ挿入し、ピペットチップCPBを排出口45Bへ挿入する。
【0051】
ステップS33で、メモリ60Fから補正後動作速度α1、β1を読み出し、ステップS34で、補正後動作速度α1、β1で吐出モータ27C、吸引モータ28Cが駆動されるように吐出用ドライバ60D、吸引用ドライバ60Eへ指示を出力する。これにより、吐出ポンプ27、吸引ポンプ28が駆動されて、ピペットチップCPAからアナライト溶液YAが吐出されて液体流路45内へ注入され、ピペットチップCPBへ液体流路45に充填されていたバッファー液が吸引される。
【0052】
ステップS35で、所定量のアナライト溶液YAを供給するための所定時間が経過するまで待機し、所定時間経過後に、ステップS36で、吐出ポンプ27、吸引ポンプ28を停止させる。
【0053】
ステップS37で、ピペットチップCPA、ピペットチップCPBを、供給口45A、排出口45Bから抜き出し、ステップS38で、ピペットチップCPBへ吸引したバッファー液を、廃液容器19へ排出して、本アナライト供給処理が終了する。
【0054】
一方、測定処理も、測定終了指示信号を受けて終了される。
【0055】
本実施形態では、液体流路45へのアナライト溶液YAの送液を、補正後動作速度α1、β1で吐出ポンプ27、吸引ポンプ28を駆動させて行うので、単位時間あたりの液体流路45への吐出量と液体流路45からの吸引量との誤差がキャンセルされ、送液圧力の変動を抑制することができる。そして、送液圧力の変動が抑制されるので、送液不良が生じにくくなり、バイオセンサー10の信頼性を高くすることができる。
【0056】
なお、本実施形態では、アナライト溶液YAの送液時における排出ポンプ27、吸引ポンプ28の動作速度の補正について説明したが、その他の液体、例えば、バッファー液や洗浄液などの送液の場合でも、同様に制御を行うことにより、送液圧力の変動を抑制することができる。
【0057】
なお、本実施形態では、ヘッド24に一対のピペット部24A、24Bが設けられた例について説明したが、複数対のピペット部を設け、一度に複数の液体流路45へ送液するマルチチャネル構成としてもよい。この場合には、例えば、図12に示すように、ヘッド74に6対、12本のピペット部74A〜Lを設ける。そして、供給口45Aへ挿入する側のピペット部74A、74C、74E、74G、74I、74K、の各吐出ポンプ27を1つの吐出用ドライバ60Dで駆動させる。一方、排出口45Bへ挿入する側のピペット部74B、74D、74F、74H、74J、74L、の各吸引ポンプ28は、各々に対応する吸引用ドライバ60Eで駆動させる。
【0058】
吐出量と吸引量との差分Sをキャンセルするための補正後動作速度については、図13に示すように、ピペット対ごとに、吸引ポンプ28の補正後動作速度βのみを記憶しておき、対応する各吸引用ドライバ60Eを用いて各吸引ポンプ28を各々の補正後動作速度βで駆動させる。
【0059】
マルチチャネル構成の場合には、上記のように、吸引ポンプ28側の動作速度のみを調整することにより、簡易な構成で吐出量と吸引量の誤差をキャンセルすることができる。
【0060】
また、本実施形態では、液体流路45への各種液体の供給を、液体をピペットチップCPA側から吐出させピペットチップCPB側で吸引することにより行ったが、所望により液体をピペットチップCPB側からピペットチップCPA側へ逆流できる構成としてもよい。この場合には、吐出ポンプ27には吸引動作、吸引ポンプ28には吐出動作を行わせ、各々の補正後動作速度α、βとして、前述の補正テーブルTの負の値を採用することにより、逆流時にも誤差を補正して送液圧力の変動を抑制することができる。
【0061】
また、本実施形態では、バイオセンサーとして、表面プラズモンセンサーを一例として説明したが、バイオセンサーとしては、表面プラズモンセンサーに限定されるものではない。その他の例えば、水晶発振子マイクロバランス(QCM)測定技術、金のコロイド粒子から超微粒子までの機能化表面を使用した光学的測定技術など、あらゆるバイオセンサーを用いてのアナライトの回収に本発明は適用することができる。
【0062】
また、全反射減衰を利用する他のバイオセンサーとしては、漏洩モード検出器をあげることができる。漏洩モードセンサは、誘電体と、この上に順に層設されたクラッド層と光導波層とによって構成された薄膜とからなり、この薄膜の一方の面がセンサ面となり、他方の面が光入射面となる。光入射面に全反射条件を満たすように光を入射させると、その一部が前記クラッド層を透過して前記光導波層に取り込まれる。そして、この光導波層において、導波モードが励起されると、前記光入射面における反射光が大きく減衰する。導波モードが励起される入射角は、表面プラズモン共鳴角と同様に、センサ面上の媒質の屈折率に応じて変化する。この反射光の減衰を検出することにより、前記センサ面上の反応を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本実施形態のバイオセンサーの全体斜視図である。
【図2】本実施形態のセンサースティックの斜視図である。
【図3】本実施形態のセンサースティックの分解斜視図である。
【図4】本実施形態のセンサースティックの1の液体流路部分の断面図である。
【図5】本実施形態のセンサースティックの測定領域及び参照領域へ光ビームが入射している状態を示す図である。
【図6】本実施形態の液体吸排部の概略構成図である。
【図7】本実施形態のバイオセンサーの光学測定部付近の概略図である。
【図8】本実施形態の制御部とその周辺の概略ブロック図である。
【図9】本実施形態の補正テーブルである。
【図10】本実施形態の測定処理のフローチャートである。
【図11】本実施形態のアナライト供給処理のフローチャートである。
【図12】本実施形態の液体吸排部の変形例を示す概略構成図である。
【図13】本実施形態の補正テーブルの変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
10 バイオセンサー
20 液体吸排部
24A ピペット部
24B ピペット部
24 ヘッド
26 吸排駆動部
27 吐出ポンプ
28 吸引ポンプ
40 センサースティック
44 流路部材
45 液体流路
45A 供給口
45B 排出口
60F メモリ
60E 吸引用ドライバ
60 制御部
60D 吐出用ドライバ
74A ピペット部
74B ピペット部
74 ヘッド
CPA ピペットチップ
CPB ピペットチップ
S 差分
T 補正テーブル
α 補正後動作速度
β 補正後動作速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給口及び排出口を有する流路と、前記流路中に露出され試料の反応を検出するためのセンサ面と、を有する測定ユニットの、前記センサ面へ前記試料を送液する送液装置であって、
前記供給口及び排出口の各々へ挿入されるピペット対と、
前記ピペット対のうちの一方のピペットから試料を吐出させる吐出ポンプと、
前記ピペット対のうちの他方のピペットへ試料を吸引させる吸引ポンプと、
前記吐出ポンプによる前記ピペットからの単位時間あたりの吐出量と、前記吸引ポンプによる前記ピペットからの単位時間あたりの吸引量と、の差分がキャンセルされるように前記吐出ポンプ及び前記吸引ポンプの動作速度を制御する動作速度制御手段と、
を備えた送液装置。
【請求項2】
前記動作速度制御手段は、前記吐出量と前記吸引量の差分をキャンセルするための前記吐出ポンプ及び前記吸引ポンプの少なくとも一方の補正後動作速度、を記憶する記憶手段と、前記補正後動作速度で前記吐出ポンプ及び前記吸引ポンプを駆動させるポンプドライバと、を含んで構成されていること、を特徴とする請求項1に記載の送液装置。
【請求項3】
前記ピペット対を複数有し、
前記動作速度制御手段は、複数の前記ピペット対の各々について前記吐出量と前記吸引量の差分をキャンセルするための前記吸引ポンプの各々の補正後動作速度、を記憶する記憶手段と、前記補正後動作速度で前記吸引ポンプを駆動させるポンプドライバと、を含んで構成されていること、を特徴とする請求項1に記載の送液装置。
【請求項4】
光の全反射減衰を利用して試料の反応状態を測定するバイオセンサーであって、
供給口及び排出口を有する流路と、前記流路中に露出され平坦な金属膜上にリガンドが固定されたセンサ面と、を有する測定ユニットと、
前記測定ユニットの前記センサ面へ前記試料を送液する請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の送液装置と、
前記センサーチップの前記金属膜へ向かって光を出射する光学部材と、
前記金属膜で反射された前記光を受光する受光部材と、
を備えた、バイオセンサー。
【請求項5】
供給口及び排出口を有する流路と、前記流路中に露出され試料の反応を検出するためのセンサ面と、を有する測定ユニットの、前記センサ面へ前記試料を送液する送液方法であって、
前記供給口及び排出口の各々へピペット対を挿入し、
前記ピペット対のうちの一方のピペットから試料を吐出させる吐出ポンプによる単位時間あたりの吐出量と、前記ピペット対のうちの他方のピペットへ試料を吸引させる吸引ポンプによる単位時間あたりの吸引量と、の差分がキャンセルされるように前記吐出ポンプ及び前記吸引ポンプの動作速度を制御する、
送液方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−93444(P2007−93444A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284529(P2005−284529)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】