説明

送液装置及びそれを有する分析装置

【課題】
高圧送液が可能で、且つ、一定流量での安定した送液が可能な送液装置を提供する。
【解決手段】
送液装置において、複数のポンプ室内部をそれぞれ往復運動するプランジャと、これらのプランジャを往復運動させるモータと、モータの動作を制御する制御部と、前記ポンプ室の内、溶離液吸入側のポンプ室の溶離液吸入口と溶離液吐出口にそれぞれ設けた弁と、プランジャが受ける荷重値を測定する第1のセンサと、溶離液吐出側のポンプ室から吐出した溶離液の圧力を測定する第2のセンサとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を送液する送液装置に関し、特に液体クロマトグラフなどの分析装置において、溶離液を送液する送液装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフにおいて、送液装置は、常に一定流量で送液するのが理想的である。一定流量でないと、分析精度が低下する。しかし、一般に送液装置では流量が周期的に変動してしまう現象(この現象を以下、脈流と呼称する)が発生している。
【0003】
脈流の低減を試みた従来技術として、例えば特許第3709409号公報(特許文献1)に記載のものがある。この技術では、液体クロマトグラフなどの分析装置に用いられる送液装置としては超高圧下での送液に課題があった。それは圧力センサを設けたことにより、圧縮対象となる溶離液の容積が増加することである。この容積が大きいと溶離液を圧縮し切れず、一定流量で送液できない。ここで超高圧とは溶離液の圧縮が課題となる領域のことである。例えば、溶離液がメタノールであり、60MPaで送液を行う場合、メタノールの容積は圧縮前の圧力と比較すると6.4%減少する。
【0004】
特開2001−254683号公報(特許文献2)に記載のものでは、荷重センサを用いることにより容積を小さくしており、圧縮対象となる溶離液の容積が小さい。しかし、荷重センサで測定した荷重値と溶離液の圧力との関係付けが無く、脈流の低減に寄与しない。
【0005】
【特許文献1】特許第3709409号公報
【特許文献2】特開2001−254683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、高圧送液が可能で、且つ、一定流量での安定した送液が可能な送液装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの特徴は、複数のポンプ室内部をそれぞれ往復運動するプランジャと、これらのプランジャを往復運動させるモータと、モータの動作を制御する制御部と、前記ポンプ室の内、溶離液吸入側のポンプ室の溶離液吸入口と溶離液吐出口にそれぞれ設けた弁と、プランジャが受ける荷重値を測定する第1のセンサと、溶離液吐出側のポンプ室から吐出した溶離液の圧力を測定する第2のセンサとを有する送液装置である。
【0008】
本発明の他の特徴は、前記第1のセンサと前記第2のセンサの出力信号に基づいて、溶離液の吐出量を制御することにある。
【0009】
本発明のその他の特徴は、前記第1のセンサと前記第2のセンサの出力信号に基づいて、前記モータを制御することにある。
【0010】
本発明の更にその他の特徴は、前記第1のセンサと前記第2のセンサの出力信号に基づいて、前記モータを制御することにある。
【0011】
本発明の上記特徴及び上記以外の特徴は、本明細書・図面により、説明される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の1つの実施形態によれば、超高圧下での送液が可能で、且つ、一定流量での安定した送液が可能な送液装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図2に、発明の実施の形態に用いる液体クロマトグラフの例を示す。溶離液41を送液装置42により分離カラム43に送液する。試料を試料導入装置44により分離カラム43に導入し、試料が分離カラム43を通過する間に試料を構成する成分は互いに分離し、分離した試料成分は検出器45で検出する。検出した試料成分の信号はデータ処理装置46に伝達し、必要な処理を行う。送液装置42は、分析に応じてある圧力を溶離液に加え、溶離液を吐出して送液するものである。溶離液の吐出圧力が一定である場合は流量も一定となる。送液装置42は、常に一定流量で送液するのが理想的である。一定流量でないと、分析精度が低下する。一般に送液装置では流量が周期的に変動してしまう現象(この現象を以下、脈流と呼称する)が発生してしまう。脈流に関する課題を解決する送液装置について次に説明する。
【0014】
図1に本発明の送液装置の実施例を示す。回転軸16にカム17a,17bを設け、回転軸16の端にプーリ12を設ける。モータ10の回転運動はモータ10に固定したプーリ11からベルト13とプーリ12を介して回転軸16に伝達する。また、回転軸16にはスリット15を設けた円板部材14を固定しており、カム位置検出センサ18によりスリット15を検出してカム17a,17bのカム位置を検出する。
【0015】
カム17aにはスライダ6aの基端部が接触して往復運動し、スライダ6aの他端に荷重センサ9を設け、荷重センサ9の荷重を検知する面に対して垂直にプランジャ2aの非接液端部を設けている。カム17bにはスライダ6bの基端部が接触して往復運動し、スライダ6bのカム17bの反対側にはプランジャ2bを設けている。
【0016】
プランジャポンプ1aのポンプヘッド3aの入口と出口に逆止弁4,5を設け、ポンプヘッド3a内部のポンプ室7aにプランジャ2aを設ける。プランジャ2a,2bに、液漏れ防止用のプランジャシール30a,30bを設けている。プランジャ2aで往復運動を行い、プランジャ2aの接液端部をカム17a側へ移動すると、溶離液22を逆止弁4からポンプ室7aへと吸入する。次にプランジャ2aの接液端部がポンプヘッド3a側へ移動すると溶離液22をポンプ室7aで圧縮し、逆止弁5から吐出する。逆止弁4,5は入口側と出口側の溶離液の圧力が等しくなるまで弁は開かないので、圧縮した溶離液22を常に一定方向で送液できる。
【0017】
プランジャポンプ1bのポンプヘッド3b内部のポンプ室7bにプランジャ2bを設ける。プランジャ2bで往復運動を行い、プランジャ2bの接液端部をカム17b側へ移動すると溶離液22をポンプヘッド3a側からポンプ室7bへと吸入する。次にプランジャ2bの接液端部をポンプヘッド3b側へ移動すると、溶離液22をポンプ室7bで圧縮し、圧力センサ8側へと吐出する。溶離液22は逆止弁5により常に一定方向で送液できる。
【0018】
圧力センサ8でポンプ室7bから送液した溶離液22の圧力値を常時測定し、圧力値を電気信号に変換してモータ駆動を制御する制御回路21へ伝達する。荷重センサ9でプランジャ2aに作用する荷重値を常時測定し、荷重値を電気信号に変換して制御回路21へ伝達する。制御回路21には、操作指令や必要な情報などを入力するための入力部20が、接続される。
【0019】
図3に、プランジャの往復運動の例を示す。図3では逆止弁4及び5の開閉と、プランジャポンプ1a及び1bの吸入及び吐出の流量と、送液装置全体の吐出流量と、モータ回転数の関係を示し、プランジャの1往復分の送液は3つのフェーズに分けられる。
【0020】
フェーズ1は、逆止弁4を開き、逆止弁5を閉じ、プランジャポンプ1aで溶離液22の吸入を行い、プランジャポンプ1bのみで溶離液22を吐出する。
【0021】
フェーズ2は、圧縮区間Rでは、逆止弁4,5を閉じ、プランジャポンプ1aで吸入した溶離液22を圧縮し、その間、プランジャポンプ1bのみで溶離液22の吐出を行う。プランジャポンプ1aで吸入した溶離液22を圧縮し、吐出圧力に等しくなると、逆止弁4を閉じ、逆止弁5を開き、プランジャポンプ1aと1bの両方で溶離液22を吐出する。
【0022】
フェーズ3は、逆止弁4を閉じ、逆止弁5を開き、プランジャポンプ1aのみで溶離液22を吐出し、プランジャポンプ1bはプランジャポンプ1aで吐出した溶離液22を吸入するフェーズである。
【0023】
送液装置の吐出圧力に応じてフェーズ2の溶離液22の圧縮区間Rの長さを変える。送液時の圧力が高ければ圧縮区間Rを長くし、送液時の圧力が低ければ圧縮区間Rを短くする。
【0024】
送液する溶離液22の単位時間当たりの流量をQと設定した場合の圧縮区間Rについて述べる。圧縮区間Rは逆止弁5が閉じ、プランジャポンプ1bのみで吐出流量Qにて送液を行い、プランジャポンプ1aでは吸入した溶離液を圧縮する区間である。圧縮区間Rではプランジャポンプ1bの吐出流量をQから低減した吐出流量、Q/2で送液を行うようなカム曲線にし、モータ10の回転速度Nを2倍にして、一時的にプランジャポンプ1bの吐出流量をQにする。これは圧縮区間Rの間はプランジャポンプ1aによる吐出がなく、プランジャ2bのみからの吐出となり、合計流量がQ/2になってしまうため、モータ10の回転速度Nを2倍にして流量をQに保つためである。圧縮区間Rを終了するとモータ10の回転速度2Nを通常送液時の回転速度Nに戻す。
【0025】
圧縮区間Rが終了して逆止弁5が開いている間の荷重センサ9の荷重値を制御回路21で記憶する。次周以降のプランジャ往復運動で荷重センサ9の荷重値が、制御回路21に記憶された荷重センサ9の荷重値に達すると圧縮区間Rを終了し、制御回路21によりモータ10の回転速度2NからNへと戻す。それによって、荷重センサは圧力センサにより校正されるので、逆止弁5を開くと同時に圧縮区間Rを正確に終了できるため、脈流無く送液を行える。
【0026】
送液動作1周目で脈流が発生した場合は、圧力センサ8で測定した圧力値と設定圧力値の差分だけモータ10の回転速度を補正して圧力一定を保ち、次に逆止弁5を開いた間の荷重値を荷重センサ9で測定し、制御回路21で記憶させ、圧縮区間Rの終了を計る荷重値とする。この場合も荷重センサは圧力センサによって校正されるので、逆止弁5を開くと同時に圧縮区間Rを正確に終了できるため、脈流無く送液を行える。
【0027】
送液中に設定流量が時間と共に変化する流量グラジエントの場合について述べる。設定流量を変化すると圧力センサ8で常時測定する圧力値を元に、圧力値を一定に保つために制御回路21によりモータ10の回転速度を変化する。モータ10の回転速度が変化すると逆止弁5を開いた間の荷重センサ9の荷重値も変化する。そこで、逆止弁5を開いた間の荷重センサ9の荷重値を制御回路21に記憶し直す。次周以降の送液で、荷重センサ9の荷重値が制御回路21に記憶し直した荷重センサ9の荷重値に達したときに圧縮区間Rを終了とするので、逆止弁5が開くと同時に圧縮区間Rは終了し、脈流無く送液が行える。圧縮区間Rの長さは流量及び吐出圧力を元に計算を行い、決定される場合もある。このようにして流量グラジエント送液を行う。
【0028】
図3の例では、フェーズ1では、逆止弁4を開き、逆止弁5を閉じ、プランジャポンプ1aで溶離液22を、流量3Qにて、吸入を行い、プランジャポンプ1bのみで溶離液22を、流量Qにて、吐出する。
【0029】
フェーズ2では、圧縮区間Rでは、逆止弁4を閉じ、逆止弁5を閉じ、プランジャポンプ1aで吸入した溶離液22を圧縮し、その間、プランジャポンプ1bのみで溶離液22の吐出を流量Qにて行う。プランジャポンプ1aで吸入した溶離液22を圧縮し、吐出圧力に等しくなる(圧縮区間R終了)と、逆止弁4を閉じ、逆止弁5を開き、プランジャポンプ1aと1bの両方で、それぞれ吐出流量、Q/2にて吐出する。
【0030】
フェーズ3では、逆止弁4を閉じ、逆止弁5を開き、プランジャポンプ1aのみで溶離液22を吐出流量、3Q/2+Qにて吐出し、プランジャポンプ1bはプランジャポンプ1aで吐出した溶離液22を流量、3Q/2にて吸入するフェーズである。
【0031】
本発明の実施例では、荷重センサを用いることでプランジャポンプ1aからプランジャポンプ1bの間に圧力センサを必要としないため、圧縮対象となる容積を低減できるので超高圧下での送液を行うことが可能となる。
【0032】
また、一般に荷重センサからの信号には様々な摩擦による誤差が含まれるが、プランジャの1往復動作毎に圧力センサを基準とした校正を行うため、正確な送液が可能となる。
【0033】
以上の通り、高圧送液が可能で、且つ、一定流量での安定した送液が可能な送液装置を提供するために本発明では、圧力センサと荷重センサを用いた以下の手段により課題を解決する。圧力センサで吐出側ポンプ室から吐出する溶離液の圧力値を常時測定し、圧力値を制御回路に伝え、前記圧力値を元に吐出する溶離液の圧力値を常時一定になるよう、制御回路によりプランジャの往復運動速度を制御する。荷重センサで吸入側ポンプ室内部のプランジャに作用する荷重値を常時測定し、その荷重値を制御回路に伝える。吐出圧力を一定に制御するためには、吸入側ポンプ室へ溶離液を吸入後、圧縮が完了し、吸入側ポンプ室の圧力が吐出圧力に達したことを確認してモータの回転を制御する。前記出口側逆止弁が開いている間は、吸入側ポンプ室内の圧力と吐出圧力が等しい。吐出圧力から得られる前記圧力センサの信号を基準として、前記荷重センサから得られる信号を校正する。校正された信号を用いて前記モータの回転を制御する。しかし、本願発明の技術思想の範囲内で種々変形・応用が可能である。例えば、本発明の実施例の送液装置を組み込んだ液体クロマトグラフや分光光度計などの分析装置へ適用しても良く、分析精度の向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明を適用した送液装置の一実施例を概略的に示す図である。
【図2】本発明を適用した送液装置を用いた液体クロマトグラフの一実施例を概略的に示す図である。
【図3】本発明を適用した送液装置により送液を行う場合の、逆止弁の開閉,ポンプの流量,合計吐出量,モータ回転数を送液サイクル毎に示したグラフの一例である。
【符号の説明】
【0035】
1a,1b プランジャポンプ
2a,2b プランジャ
3a,3b ポンプヘッド
4,5 逆止弁
6a,6b スライダ
7a,7b ポンプ室
8 圧力センサ
9 荷重センサ
10 モータ
11,12 プーリ
13 ベルト
14 円板部材
15 スリット
16 回転軸
17a,17b カム
18 カム位置検出センサ
20 入力部
21 制御回路
22,41 溶離液
30a,30b プランジャシール
42 送液装置
43 分離カラム
44 試料導入装置
45 検出器
46 データ処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のポンプ室内部をそれぞれ往復運動するプランジャと、これらのプランジャを往復運動させるモータと、モータの動作を制御する制御部と、前記ポンプ室の内、溶離液吸入側のポンプ室の溶離液吸入口と溶離液吐出口にそれぞれ設けた弁と、プランジャが受ける荷重値を測定する第1のセンサと、溶離液吐出側のポンプ室から吐出した溶離液の圧力を測定する第2のセンサとを有することを特徴とする送液装置。
【請求項2】
請求項1において、前記第1のセンサと前記第2のセンサの出力信号に基づいて、溶離液の吐出量を制御することを特徴とする送液装置。
【請求項3】
請求項1において、前記第1のセンサと前記第2のセンサの出力信号でそれぞれのセンサの校正を行うことを特徴とする送液装置。
【請求項4】
請求項2において、溶離液吸入側のポンプ室の出口側逆止弁が開いている間の前記第1のセンサの信号値と、前記吸入側ポンプ室の内部で溶離液を圧縮する間の前記第1のセンサの信号値が所定の関係になった時点で、溶離液の圧縮を終了することを特徴とする送液装置。
【請求項5】
請求項1記載の送液装置と、
試料導入装置と、
検出器とを有し、
前記送液装置からの送液により、試料導入装置から検出器へ試料を直接又は間接に移動させることを特徴とする分析装置。
【請求項6】
請求項1記載の送液装置と、
試料導入装置と、
分離カラムと、
検出器と、
データ処理装置とを有し、
溶離液を前記送液装置により前記分離カラムへ送液し、試料を前記試料導入装置により前記分離カラムに導入し、前記分離カラムにおいて前記試料を構成する成分が互いに分離し、分離した試料成分を前記検出器で検出し、検出した試料成分の信号は前記データ処理装置において、所定の処理を行うことを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項7】
請求項1において、前記第1のセンサと前記第2のセンサの出力信号に基づいて、前記モータを制御することを特徴とする送液装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−180617(P2009−180617A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20043(P2008−20043)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】