説明

透明な滑り止めマット

【課題】本発明は、建築物や鉄道車両、バス等の乗物の出入口部に敷設する滑り止めマットにおいて、敷き替えのときに、被着体に糊残りのないメンテナンス性に優れたオレフィン系樹脂製の透明な滑り止めマットを提供することを目的とする。
【解決手段】オレフィン系樹脂組成物からなる基材層に粘着剤層が積層されてなる滑り止めマットにおいて、基材層の粘着剤層を積層する面に梨地状の凹凸加工(凹凸差5〜15μm)を施すことによって、透明性を維持した状態で粘着剤層の基材層に対する接着力を向上させ、滑り止めマットを剥がすときに、粘着剤層は、滑り止めマット側に付き被着体には残らないで剥がすことができることを見出し本発明に到達した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建築物や、鉄道車両、バス等の乗物の出入口部で使用される透明な滑り止めマットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、建築物や、鉄道車両、バス等の乗物の出入口部には、凹凸の表面形状をした塩化ビニル樹脂(PVC)や加硫ゴムからなる滑り止めマットが多く採用されている。これらは、一定の性能を発揮するうえに、加工が容易で経済的にも優れた床材とされている。
【0003】
しかしながら、PVC製の床材は火災時において、多量の発煙と共に塩化水素等の有毒ガスを発生することから、火災にみまわれた避難者がこれら有毒ガス等を吸引し、生命の危機にさらされてしまう等の問題や、また廃棄時に焼却する場合には、その強い酸化作用によって、焼却施設の損傷を早めてしまうだけでなく、適切でない焼却処理によっては、有害なダイオキシンを発生させ環境汚染をもたらすという問題があった。
【0004】
そこで、近年ではPVC材料に代えて、燃焼時に有毒ガスの発生が少ない、エチレンー酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、ポリエステル樹脂等のポリオレフィン系樹脂製の床材が多く使われるようになっている。
【0005】
また、加硫ゴムからなる滑り止めマットも、滑り止めとしては確かな性能を発揮するものではあるが、汚れ易くまた汚れが取れにくいことから、濃色に着色せざるをえず、意匠的に限定され好ましいものではなかった。
【0006】
特許文献1においては、滑り抵抗係数の異なる2種類の樹脂を混合し、表面に現われる露出割合を略一定として、表面が平坦で清掃性に優れた防滑性床材を開示している。また、凹凸形状のある床材として特許文献2では、任意の帯状模様の表面上のみに凹凸模様を施した装飾性、意匠性に優れた床材が提案されている。しかしながら、いずれの発明も、敷き替え時のメンテナンス性については述べておらず、本発明のように、滑り止めマットの敷き替えのときに、被着体に糊残りがなくメンテナンス性に優れ、マットの透明性を維持したオレフィン系樹脂製の滑り止めマットについては、未だ提案されていない。
【特許文献1】特開2001−254504号報
【特許文献2】特開平6−171056号報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、建築物や、鉄道車両、バス等の乗物の出入口部に敷設する透明な滑り止めマットにおいて、敷き替えのときに、被着体に糊残りのないメンテナンス性に優れたオレフィン系樹脂製の透明な滑り止めマットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0009】
[1]オレフィン系樹脂組成物からなる基材層に粘着剤層が積層されてなる透明な滑り止めマットにおいて、基材層の粘着剤層を積層する面に梨地状の凹凸加工が施されてなることを特徴とする透明な滑り止めマット。
【0010】
[2]前記梨地状の凹凸加工の凸部と凹部の高さの差が5〜15μmであることを特徴とする前項1に記載の透明な滑り止めマット。
【0011】
[3]前記粘着剤層の厚みが100〜200μmであることを特徴とする前項1又は2に記載の透明な滑り止めマット。
【0012】
[4]前記滑り止めマットを剥がすとき、剥離強度が20N/25mm以上で、被着体に糊残りのないことを特徴とする前項1乃至3のいずれかに記載の透明な滑り止めマット。
【発明の効果】
【0013】
本発明の透明な滑り止めマットは、オレフィン系樹脂組成物からなる滑り止めマットであるので、燃焼時有害ガスの発生がなく、しかも汚れにくくので長く使用することができ、廃棄時は安全に焼却処分することができる。また、透明であるので、滑り止めマットの下側の床材の意匠をそのまま生かすことができる。さらに基材層の粘着剤層を積層する面に、透明性を維持した状態で梨地状の凹凸形状の加工が施されているので、粘着剤層の接着する表面積が大きくなり基材層側の接着力が増し、滑り止めマットを剥がすときに、粘着剤層は、滑り止めマット側に付き被着体には残らないで剥がすことができる。被着体に粘着剤層が残らないので、滑り止めマットの敷き替えがやり易い。
【0014】
また、前記梨地状の凹凸加工の凸部と凹部の高さの差が5〜15μmであるので、基材層の透明性を維持したままの状態で粘着剤層は基材層と確実に強く接着することから、滑り止めマットを剥がすときに、粘着剤層は、滑り止めマット側に付き被着体には残らないで剥がすことができる。
【0015】
さらに前記粘着剤層の厚みが100〜200μmであるので、基材層の透明性を維持した状態でオレフィン系樹脂組成物からなる滑り止めマットの基材層に強く接着することができ、粘着剤層内で材料破壊することもなく、被着体となる床材とも十分な接着力を得ることができる。
【0016】
滑り止めマットを剥がすとき、剥離強度が20N/25mm以上であるので、被着体となる床材と十分な接着力を得ることができる。また被着体に糊残りがないので、被着体となる床材の清掃も簡単で敷き替えがし易い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して更に詳しく説明する。図1は、本発明の一実施形態を示す滑り止めマットを示す模式的断面図であり、2は基材層、3は粘着剤層、4は粘着剤層を保護するために積層する離型材層を示している。本発明の滑り止めマットはオレフィン系樹脂組成物からなっており、透明で、基材層表面には巾方向に平行に直線的に連続した凹凸形状(凹凸差0.3〜2.0mm)の加工が施されていたり、ランダム方向に凹凸形状の加工が施されて一定以上の滑り抵抗値を有する滑り止めマットとしている。オレフィン系樹脂組成物の樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリブテン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンメチルアクリレート、ポリスチレン樹脂等を例示できる。中でもポリプロピレン樹脂を主成分とするのが汚れにくく加工性もよく好適である。凹凸の形状としては特に限定しないが、矩形であったり、畝状やノコギリ状であってもかまわない。また、谷に溜まった土や砂などの汚れを端まで移動して取り除きやすくするには、凹凸形状の谷と山の高さは一定で巾方向に平行で直線的に連続しているのが好ましい。
【0018】
本発明の滑り止めマットの凹凸の付け方は、基材層表面の滑り抵抗値を上げる凹凸加工の場合は、オレフィン系樹脂組成物の樹脂板から削り出したり、加熱したエンボスロールを加圧して作ってもよいが、加熱したオレフィン系樹脂組成物をエンボスロールと加圧ロールの間を通過させ冷却する方法が効率的で好ましい。
【0019】
基材層の接着性向上のために、コロナ処理やプライマー処理をして基材層の表面改質する方法も有効な方法であるが、本発明においては、基材層表面に凹凸形状を作るのと同時に、基材層の裏面(粘着剤の塗布される面)に梨地のエンボスロールを加圧して作る方法が効率的で好ましい。この場合は、基材層裏面の梨地状の凹凸加工の凸部と凹部の高さの差が5〜15μmであるのが好適である。15μmを超えると、基材層と粘着剤層の接着強度は向上するが基材層の透明性が失われることとなり、また、接着剤が多く必要となることから経済的にも好ましくない。また、凸部と凹部の高さの差が5μmを下回ると基材層と粘着剤層の接着力が弱くなり、被着体に糊残りが発生するようになり好ましくない。
【0020】
滑り止めマットを構成するオレフィン系樹脂の主成分として、ポリプロピレン樹脂50〜80重量%とするのが好ましい。50重量%を下回ると、汚染性、耐磨耗性に問題が発現する。80重量%を超えると滑り止めマットは硬くなり施工がし難くなる。より好ましくは60〜75重量%がよい。また、前記オレフィン系樹脂組成物には、柔軟性を付与して施工性のよい滑り止めマットとするために、オレフィン系熱可塑性エラストマー系相容化樹脂を20〜50重量%添加している。より好ましくは25〜40重量%がよい。オレフィン系熱可塑性エラストマー系相容化樹脂としては、ポリプロピレン樹脂に微分散するエチレン・プロピレン共重合体の樹脂を挙げる事が出来る。
【0021】
また、加工性を向上させるために、石油樹脂系の低分子量域の樹脂や熱可塑性オリゴマーや天然系樹脂を0〜10重量%まで添加してもよい。石油樹脂系の低分子量域の樹脂としてはC系石油樹脂、天然系樹脂としてはテルペン樹脂を挙げる事が出来る。
【0022】
またその他顔料、染料などの着色剤や帯電防止剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの薬剤を、本発明の効果をそこなわない範囲で添加することができる。
【0023】
また、本発明の粘着剤層を形成する粘着剤は、特に限定されるものではなく、耐候性や透明性に優れるアクリル樹脂系粘着剤が好ましく用いられる。粘着剤を基材層の裏面に積層する方法は、予め離型材に粘着剤を塗ったものに、基材層を積層してもよいし、基材層の裏面に粘着剤を塗布し、離型材を貼ってもよい。また、粘着剤としては2液架橋型のものが、接着力が強く、また凝集力も強くベタツキも少なく好ましい。塗布量としては100〜200g/m(乾燥時)が好ましい。本発明の滑り止めマットを床材に貼着し、剥がすときの剥離強度としては、20N/25mm以上あり、被着体に糊残りのないことが望ましい。
【0024】
粘着剤層の厚みは、100〜200μmであることが好ましい。100μmを下回ると粘着力が弱く、使用中に剥がれてしまうことがある。200μmを超えると、粘着力は良好であるが剥がすときに粘着剤層内の破壊が起こり、糊残りとなることから好ましくない。
【実施例】
【0025】
次に、この発明の具体的実施例について説明する。
<実施例1>
ポリプロピレン樹脂65重量%、EPDM(エチレンプロピレンジエン三元共重合体)樹脂30重量%(オレフィン系熱可塑性エラストマー系相容化樹脂)、テルペン樹脂(天然樹脂系の低分子量域の樹脂)5重量%を混合し、加熱溶融してカレンダー機にて1.4mm厚のシートにした後直ぐに、表面が凹凸形状となるエンボスロールと、裏面に梨地状の凹凸を付ける加圧ロールの間を通過させ、基材層表面の凹部の巾は2.5mm、凸部の巾が2.5mmで凹凸の高さの差が1.0mmで、基材層裏面に梨地状の凹凸形状(凹凸差7μm)の付いた基材層を得た。さらに別の工程でアクリル系粘着剤(2液架橋型)を離型紙にナイフコーターで150g/m(乾燥時)塗布した後に乾燥し、粘着剤層の厚みが150μmの離型紙付き粘着剤層を得た。次に、前記基材層と離型紙付き粘着剤層を貼り合わせた後、マットの形状に裁断し滑り止めマットを作製した。該滑り止めマットの透明性は十分で、剥離試験では、剥離強度は35N/25mmであった。また、粘着剤層は、基材層裏面に着いて剥離され、被着体にほとんど残らないものであった。
【0026】
<実施例2>
実施例1において、基材層の裏面に梨地状の凹凸を付ける加圧ロールを別の梨地状の加圧ロールとした以外は実施例1と同様にして滑り止めマットを得た。基材層裏面の梨地状凹凸形状の凹凸差は、10μmであった。該滑り止めマットの透明性は実施例1よりやや劣るが透明性は確保されており、剥離試験では、剥離強度は35N/25mmであった。また、粘着剤層は、実施例1と同様に基材層裏面に着いて剥離され、被着体には全く残らないものであった。
【0027】
<実施例3>
実施例1において、離型紙にナイフコーターで120g/m(乾燥時)塗布した後に乾燥し粘着剤層の厚みが120μmの離型紙付き粘着剤層を得た以外は実施例1と同様にして滑り止めマットを得た。該滑り止めマットの透明性は実施例1よりわずかに良好で、剥離試験では、剥離強度は28N/25mmであった。また、粘着剤層は、基材層裏面に着いて剥離され、被着体に全く残らないものであった。
【0028】
<実施例4>
別工程で作成した実施例1の樹脂配合の0.7mm厚のシートを二枚重ねて1.4mm厚の基材層とし、さらに前記二枚重ねのシートの下側に、別工程で作成した0.4mm厚で凹凸差7μmの梨地状の凹凸形状のあるシートを、梨地状の凹凸形状のある面を前記基材層の下側に重ね、100℃に加熱してから実施例1と同様な表面が凹凸形状となるエンボスロールと鏡面加圧ロールの間を通過させた後、前記別工程で作成した0.4mm厚で凹凸差7μmの梨地状の凹凸形状のあるシートを剥がして、基材層表面の凹部の巾が2.5mm、凸部の巾が2.5mmで凹凸の高さの差が1.0mmで、基材層裏面に梨地状の凹凸形状(凹凸差7μm)の付いた基材層を得た。その後は、実施例1と同様にして離型紙付き粘着剤層を貼り合わせた後、マットの形状に裁断し滑り止めマットを作製した。該滑り止めマットの透明性は実施例1とほぼ同等で、剥離強度は35N/25mmで、粘着剤層は、基材層裏面に着いて剥離され、被着体にほとんど残らないものであった。
【0029】
なお、実施例1を燃焼させ、燃焼ガスを採取し、ガスクロマトグラフィーで定性分析したところ、塩素ガスや塩化水素ガスは検出されなかった。
【0030】
<比較例1>
実施例1において、基材層の裏面に浅い凹凸を付ける加圧ロールを、凹凸の無い鏡面仕上の加圧ロールとした以外は実施例1と同様にして滑り止めマットを得た。該滑り止めマットの透明性は良好であったが、剥離強度は35N/25mmで、粘着剤層は、被着体に半分以上残り、清掃除去しなければ、次の張り替え用のマットが貼れない状態であった。
【0031】
<比較例2>
実施例1において、基材層の裏面に梨地状の凹凸を付ける加圧ロールを交換し、基材層裏面の梨地状凹凸形状の凹凸差を30μmとした以外は実施例1と同様にして滑り止めマットを得た。剥離試験では、剥離強度は35N/25mmであった。また、粘着剤層は、基材層裏面に着いて剥離され、被着体に残らないものであったが、透明さに欠けるものとなっていた。
【0032】
<参考例>
実施例1において、離型紙にナイフコーターで210g/m(乾燥時)塗布した後に乾燥し粘着剤層の厚みが210μmの離型紙付き粘着剤層を得た以外は実施例1と同様にして滑り止めマットを得た。剥離試験では、剥離強度は40N/25mmであったが、粘着剤層は、基材層裏面と被着体にそれぞれ残って剥離された。
【0033】
<剥離強度の評価方法>
JIS A 5536に準拠し、剥離強度の測定をした。20N/25mm以上を合格とした。
【0034】
<糊残り性評価方法>
剥離強度の測定時に、粘着剤層が被着体にほとんど残らないものを合格とした。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 滑り止めマット
2 基材層
3 粘着剤層
4 離型材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系樹脂組成物からなる基材層に粘着剤層が積層されてなる透明な滑り止めマットにおいて、基材層の粘着剤層を積層する面に梨地状の凹凸加工が施されてなることを特徴とする透明な滑り止めマット。
【請求項2】
前記梨地状の凹凸加工の凸部と凹部の高さの差が5〜15μmであることを特徴とする請求項1に記載の透明な滑り止めマット。
【請求項3】
前記粘着剤層の厚みが100〜200μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の透明な滑り止めマット。
【請求項4】
前記滑り止めマットを剥がすとき、剥離強度が20N/25mm以上で、被着体に糊残りのないことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の透明な滑り止めマット。

【図1】
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【公開番号】特開2008−297740(P2008−297740A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−142993(P2007−142993)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(390014487)住江織物株式会社 (294)
【Fターム(参考)】