説明

透明ヘアワックス

【課題】整髪保持力(セット力)があり、フレーキング(整髪成分の剥離)がなく、自然で油っぽくない艶を付与する外観が透明なヘアワックスを提供する。
【解決手段】水酸基価から算出した平均重合度3〜20のポリグリセリンと、炭素数8〜22の分枝及び/又は不飽和脂肪酸と炭素数2〜10の二塩基酸から成る混合脂肪酸とのエステル化反応生成物である透明粘性油を1.0〜30.0重量%配合する外観が透明なヘアワックスを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明ヘアワックスに関し、更に詳しくは、整髪保持力(セット力)があり、フレーキング(整髪成分の剥離)がなく、自然で油っぽくない艶を付与する外観が透明なヘアワックスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、整髪料として、ヘアリキッド、ヘアミルク、ヘアクリーム、ヘアワックス、ヘアチック、ポマード、ブローローション、ヘアムース、ヘアスプレー等が用いられ、その整髪成分として皮膜形成性成分や油性成分が用いられてきた。特許文献1には、被膜形成性成分を用いたものとして、アニオン性高分子化合物とカチオン性高分子化合物の組合せによる整髪料が開示されている。また、特許文献2には、アクリル系樹脂とソルビット脂肪酸エステル酸化エチレン付加物等の可塑剤を配合する技術が開示されている。しかしながら、これら被膜形成性成分である水溶性高分子を用いた整髪料は、髪の整髪保持力(セット力)には優れているが、髪表面を接着してしまう為、髪の感触がごわついたり、指や櫛を通すとフレーキング(整髪成分の剥離)を起こすばかりでなく、再整髪が出来ない等の欠点を有していた。一方、整髪成分に油性成分を用いたものは、再整髪性に優れるものの、使用時にべたつく、油っぽい不自然な艶(テカリ)がある等の欠点があった。これらの問題点を解決する方法として、特許文献3には、グリセリンと特定の脂肪酸及び二塩基酸を二段反応させたエステル化物が報告されている。これをヘアワックスに配合し評価したが、整髪保持力(セット力)及び毛髪に対する艶が不十分であった。また、整髪成分に用いる油性成分の多くは、常温で白色の半固体から固体状を呈している為、これらを配合した場合、外観が透明なヘアワックスの開発は困難であった。この事から、整髪保持力(セット力)があり、フレーキング(整髪成分の剥離)がなく、自然で油っぽくない艶を付与する、外観が透明なヘアワックスの開発が望まれていた。
【特許文献1】特公昭62−7164号公報
【特許文献2】特開昭53−99338号公報
【特許文献3】特開2000−204060号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題は、整髪保持力(セット力)があり、フレーキング(整髪成分の剥離)がなく、自然で油っぽくない艶を付与する外観が透明なヘアワックスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定のポリグリセリンと、特定の分枝及び/又は不飽和脂肪酸及と二塩基酸から成る混合脂肪酸とのエステル化反応生成物である透明粘性油を配合する透明ヘアワックスが、上記課題を解決し得ることを見出だし、本発明を完成するに至った。即ち、水酸基価から算出した平均重合度3〜20のポリグリセリンと、炭素数8〜22の分枝及び/又は不飽和脂肪酸と炭素数2〜10の二塩基酸から成る混合脂肪酸とを、エステル化率が70%以上でエステル化反応させたエステル化反応生成物であり、且つ以下の(1)及び(2)の範囲に含まれるエステル化反応生成物である透明粘性油を、1.0〜30.0重量%配合する透明ヘアワックス。
(1)炭素数2〜10の二塩基酸に対する、炭素数8〜22の分枝及び/又は不飽和脂肪酸のモル比が2.0〜5.0の範囲のもの。
(2)水酸基価から算出した平均重合度3〜20のポリグリセリン1モルに対して、炭素数2〜10の二塩基酸のモル比が0.5〜1.5の範囲のもの。
【発明の効果】
【0005】
本発明の透明ヘアワックスは、整髪保持力(セット力)があり、フレーキング(整髪成分の剥離)がなく、自然で油っぽくない艶を付与するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を詳細にする。
【0007】
発明で使用する平均重合度3〜20のポリグリセリンは、水酸基価から算出した平均重合度で3〜20、好ましくは4〜10のポリグリセリンである。平均重合度が3未満では、整髪保持力(セット力)及び毛髪に対する艶が不十分となり、好ましくない。また、平均重合度が20を超えると反応が困難となり好ましくない。
【0008】
本発明で使用する分枝及び/又は不飽和脂肪酸は、炭素数8〜22のものであり、より好ましくは、動物由来の原料を敬遠気味の化粧品原料としては、由来が植物性である炭素数18のイソステアリン酸及び/又はオレイン酸、炭素数22のエルカ酸等が挙げられる。炭素数8〜22の分枝及び/又は不飽和脂肪酸であれば、一種又は二種以上用いても良い。
【0009】
また、本発明で使用する二塩基酸は、炭素数2〜10のものであり、より好ましくは、入手が容易で植物由来である、炭素数10のセバシン酸である。炭素数2〜10の二塩基酸であれば、一種又は二種以上用いても良い。
【0010】
本発明で使用する透明粘性油は、上記ポリグリセリンと分枝及び/又は不飽和脂肪酸と二塩基酸とから成る混合脂肪酸とを、エステル化率が70%以上でエステル化反応させたエステル化反応生成物である。尚、ここで言うエステル化率について以下に述べる。ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化反応により得たエステル化反応生成物について、そのケン化価(SV)、酸価(AV)、水酸基価(OHV)を「基準油脂物性試験法」(日本油化学協会制定)により測定する。エステル化率とは、エステル化された水酸基を含む、エステル化反応生成物中の全水酸基数からエステル化された水酸基数を除したものであり、次式より算出した。
エステル化率(%)={(SV−AV)×100}/(OHV+SV−AV)
SV:ケン化価、AV:酸価、OHV:水酸基価を表す。
本発明では、ポリグリセリンと分枝及び/又は不飽和脂肪酸と二塩基酸とから成る混合脂肪酸とのエステル化率が70%以上である。エステル化率が70%未満では、自然で油っぽくない艶を付与する事が出来ない。
【0011】
また、上記条件と共に、以下の(1)及び(2)の条件を同時に満たすことが必要である。
(1)炭素数2〜10の二塩基酸に対する炭素数8〜22の分枝及び/又は不飽和脂肪酸のモル比が2.0〜5.0のものであり、より好ましくは3.0〜4.0のものであること。ここでモル比が2.0未満のものでは、反応の制御が困難となり、他の化粧品油剤に対して相溶性の悪いゲル化物が生成し、目的物を得る事が出来ない。また、モル比が5.0を超えるものでは、目的とする粘度(1〜10万mPa・s、20℃)のものが得られない。
(2)水酸基価から算出した平均重合度3〜20のポリグリセリン1モルに対して、炭素数2〜10の二塩基酸のモル比が0.5〜1.5のものであり、より好ましくは0.7〜1.2のものであること。ここでモル比が0.5未満のものでは、目的とする粘度のものが得られない。また、モル比が1.5を超えるものでは、反応の制御が困難となり、他の化粧品油剤に対して相溶性の悪いゲル化物が生成し、目的物を得る事が出来ない。
【0012】
本発明に使用する透明粘性油の製造方法は、以下の方法で行うことが出来る。
ポリグリセリンと、(1)及び(2)の条件を満たす様に混合した、分枝及び/又は不飽和脂肪酸と二塩基酸とから成る混合脂肪酸を仕込み、水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒を加えた後、常圧もしくは減圧下において、常法に従ってエステル化反応を行う。
【0013】
本発明では、上記透明粘性油を1.0〜30.0重量%、透明ヘアワックスに配合する。1.0重量%未満では、本発明の効果(整髪保持力(セット力)や、自然で油っぽくない艶の付与)が発現しない。逆に、30.0重量%を超えて配合すると、使用時に強いべたつきが生じたり、髪へ油っぽい不自然な艶(テカリ)を付与する等の問題が発生し好ましくない。
【0014】
本発明の透明ヘアワックスには、発明の効果を損なわない範囲で通常のヘアワックス、ヘアクリーム等に使用される成分、例えば、スクワラン、流動パラフィン、ミリスチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、トリオクタン酸グリセリル、ジメチルポリシロキサン、ワセリン、ヤシ硬化油、ホホバ油、オリブ油、セタノール、ステアリルアルコール、ラウリン酸、ステアリン酸等の油類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の界面活性剤類、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシビニルポリマー等の水溶性高分子類、各種ビタミン、アミノ酸、生薬、消炎剤、細胞賦活剤、色素、防腐剤、香料等を適宜配合することができる。
【0015】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0016】
<実施例1>
エステル化生成物は以下のように合成した。
ヘキサグリセリン(阪本薬品工業(株)製、ポリグリセリン#500を使用)100.0gとイソステアリン酸241.0g、セバシン酸45.5gを反応容器に入れ、0.2gの水酸化ナトリウムを加えた後、窒素気流下において250℃、4時間の条件下で反応を行い、透明粘性油336.0gを得た。
(エステル化率:79%、炭素数2〜10の二塩基酸に対する炭素数8〜22の分枝及び/又は不飽和脂肪酸のモル比:3.7、ポリグリセリン1モルに対する炭素数2〜10の二塩基酸のモル比:1.0)
【0017】
<実施例2>
テトラグリセリン(阪本薬品工業(株)製、ポリグリセリン#310を使用)100.0gとオクチル酸101.0g、アジピン酸46.5gを反応容器に入れ、0.2gの水酸化ナトリウムを加えた後、窒素気流下において250℃、4時間の条件下で反応を行い、透明粘性油306.0gを得た。
(エステル化率:70%、炭素数2〜10の二塩基酸に対する炭素数8〜22の分枝及び/又は不飽和脂肪酸のモル比:2.5、ポリグリセリン1モルに対する炭素数2〜10の二塩基酸のモル比:1.0)
【0018】
<実施例3>
デカグリセリン(阪本薬品工業(株)製、ポリグリセリン#750を使用)100.0gとオレイン酸240.0g、セバシン酸37.3gを反応容器に入れ、0.2gの水酸化ナトリウムを加えた後、窒素気流下において250℃、4時間の条件下で反応を行い、透明粘性油340.0gを得た。
(エステル化率:83%、炭素数2〜10の二塩基酸に対する炭素数8〜22の分枝及び/又は不飽和脂肪酸のモル比:4.7、ポリグリセリン1モルに対する炭素数2〜10の二塩基酸のモル比:1.4)
【0019】
<比較例1>
ヘキサグリセリン(阪本薬品工業(株)製、ポリグリセリン#500を使用)100.0gとステアリン酸241.0g、セバシン酸45.5gを反応容器に入れ、0.2gの水酸化ナトリウムを加えた後、窒素気流下において250℃、4時間の条件下で反応を行い、エステル化物332.0gを得た。
(エステル化率:79%、炭素数2〜10の二塩基酸に対するステアリン酸のモル比:3.7、ポリグリセリン1モルに対する炭素数2〜10の二塩基酸のモル比:1.0)
【0020】
<比較例2>
グリセリン(阪本薬品工業(株)製、化粧品用濃グリセリンを使用)100.0gとイソステアリン酸648.0g、セバシン酸66.0gを反応容器に入れ、0.2gの水酸化ナトリウムを加えた後、窒素気流下において250℃、4時間の条件下で反応を行い、エステル化物720.0gを得た。
(エステル化率:97%、炭素数2〜10の二塩基酸に対する炭素数8〜22の分枝及び/又は不飽和脂肪酸のモル比:6.9、グリセリン1モルに対する炭素数2〜10の二塩基酸のモル比:0.3)
【0021】
<比較例3>
ヘキサグリセリン(阪本薬品工業(株)製、ポリグリセリン#500を使用)100.0gとイソステアリン酸184.0g、クエン酸45.0gを反応容器に入れ、0.2gの水酸化ナトリウムを加えた後、窒素気流下において250℃、4時間の条件下で反応を行ったが、反応途中でゲル化し反応を中断した。
(エステル化率:−%、炭素数2〜10の三塩基酸に対する炭素数8〜22の分枝及び/又は不飽和脂肪酸のモル比:3.2、ポリグリセリン1モルに対する炭素数2〜10の三塩基酸のモル比:1.0)
【0022】
<実施例4〜6、比較例4〜5>
実施例1〜3及び比較例1〜2で得られたエステル化反応生成物を下記処方に配合し、健常者パネラー20名に使用させ、「整髪保持力(セット力)」、「フレーキング(整髪成分の剥離)のなさ」、「艶(自然で油っぽくない艶)」等、使用感について官能評価した。評価は下記の絶対評価基準に従い、5段階評価し、評点の平均値を4段階判定基準を用いて判定した。
その結果を表1に示す。
・絶対評価基準 ・4段階判定基準
(評点) : (評価) (評点の平均点) :(判定)
5点 : 非常に良好 4.5点以上 : ◎
4点 : 良好 4.0点以上4.5点未満: ○
3点 : 普通 3.0点以上4.0点未満: △
2点 : やや不良 3.0点未満 : ×
1点 : 不良
また、外観の透明性は、以下の評価基準に従い目視にて評価した。その結果を表1に示す。
・評価基準
透明である : ○
ほぼ透明である : △
白濁している等透明性がない : ×
・ヘアワックス処方
A相
ポリオキシエチレン(20)オクチルドデシルエーテル:25.0%
グリセリン :15.0%
精製水 :15.0%
B相
ミリスチン酸イソプロピル :30.0%
環状シリコーン : 5.0%
実施例及び比較例で得たエステル化反応生成物 :10.0%
(調製法)
A相を70℃にて加熱溶解し、そこへB相を徐々に添加する。
【0023】
【表1】

【0024】
実施例1〜3で得た透明粘性油を配合したヘアワックスは、「整髪保持力(セット力)」、「フレーキング(整髪成分の剥離)のなさ」、「艶(自然で油っぽくない艶)」等の使用性は優れ、また外観も透明性のあるものであった。一方、比較例1〜2で得たエステル化反応生成物を配合したヘアワックスは、使用性や透明性において満足するものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のヘアワックスは、整髪保持力(セット力)があり、フレーキング(整髪成分の剥離)がなく、自然で油っぽくない艶を付与する、外観が透明なヘアワックスに利用可能なものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基価から算出した平均重合度3〜20のポリグリセリンと、炭素数8〜22の分枝及び/又は不飽和脂肪酸と炭素数2〜10の二塩基酸から成る混合脂肪酸とを、エステル化率が70%以上でエステル化反応させたエステル化反応生成物であり、且つ以下の(1)及び(2)の範囲に含まれるエステル化反応生成物である透明粘性油を、1.0〜30.0重量%配合する透明ヘアワックス。
(1)炭素数2〜10の二塩基酸に対する、炭素数8〜22の分枝及び/又は不飽和脂肪酸のモル比が2.0〜5.0の範囲のもの。
(2)水酸基価から算出した平均重合度3〜20のポリグリセリン1モルに対して、炭素数2〜10の二塩基酸のモル比が0.5〜1.5の範囲のもの。

【公開番号】特開2007−169219(P2007−169219A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369598(P2005−369598)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】