説明

透明導電性フィルム、その製造方法、電子デバイス用部材及び電子デバイス

【課題】
優れたガスバリア性と透明導電性を有し、高温高湿度環境下においてもシート抵抗値が低く、耐折り曲げ性及び導電性に優れる透明導電性フィルム、その製造方法、この透明導電性フィルムからなる電子デバイス用部材、並びに電子デバイスを提供する。
【解決手段】
基材層、ガスバリア層及び透明導電体層を有する透明導電性フィルムであって、前記ガスバリア層が、少なくとも、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子を含む材料から構成されてなり、表面から深さ方向に向かって、層中における酸素原子の存在割合が漸次減少し、炭素原子の存在割合が漸次増加する領域(A)を有し、前記領域(A)が、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在量全体に対する、酸素原子の存在割合が20〜55%、炭素原子の存在割合が25〜70%、ケイ素原子の存在割合が5〜20%である部分領域(A1)と、酸素原子の存在割合が1〜15%、炭素原子の存在割合が72〜87%、ケイ素原子の存在割合が7〜18%である部分領域(A2)とを含むものであることを特徴とする透明導電性フィルム;その製造方法;この透明導電性フィルムからなる電子デバイス用部材;並びに電子デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性フィルム、その製造方法、この透明導電性フィルムからなる電子デバイス用部材、及びこの電子デバイス用部材を備える電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明プラスチックからなる基板上に透明導電体層を有する透明導電性フィルムが知られている。かかる透明導電性フィルムの透明導電体層形成材料としては、錫ドープ酸化インジウム(ITO)が主に用いられているが、インジウムは希少金属であるため、近年ITO代替透明導電材料として、酸化亜鉛系導電材料が提案されている。しかしながら、酸化亜鉛系導電材料には、ITOと比較して高温高湿度条件下でシート抵抗値が劣化し易いという問題があった。
【0003】
この問題を解決すべく、特許文献1には、プラスチック基材上に設けられたハードコート層上に、ケイ素をドープした酸化亜鉛皮膜を形成した透明導電体が開示されている。しかし、このような透明導電体は、導電材料の結晶性が低下して導電性が損なわれる場合があった。
【0004】
特許文献2には、亜鉛に対して特定量のガリウムを含有させる等により耐熱性を向上させた透明導電膜を有する透明発熱体が開示されている。しかし、この透明発熱体の透明導電膜を形成するには、亜鉛にガリウムを特殊な条件で含有させなければならず、製造条件が制限されるという問題があった。
【0005】
特許文献3には、酸化度を増した耐熱導電性層を設けることで耐熱性を向上させた透明導電膜付基板が提案されている。しかしながら、高温高湿度環境下でのシート抵抗値制御には至っていない。
【0006】
また、非特許文献1には、酸化ガリウム−酸化亜鉛系透明導電体において、酸化ガリウムのドーピング量を非常に多くし、かつ厚みを400nmにすることにより、高温高湿度環境下でのシート抵抗値を制御する技術が記載されている。しかしながら、この文献に記載された方法では、透明導電体を400nm成膜するため生産性が著しく劣り、さらにドーピングする酸化ガリウム量が非常に多く原材料のコスト面からも現実的でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−45352号公報
【特許文献2】特開平6−187833号公報
【特許文献3】特開2009−199812号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】APPLIED PHYSICS LETTERS 89,091904(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術に鑑みてなされたものであり、優れたガスバリア性と透明導電性を有し、さらに高温高湿度環境下においてもシート抵抗値が低く、耐折り曲げ性及び導電性に優れる透明導電性フィルム、その製造方法、この透明導電性フィルムからなる電子デバイス用部材、及び、この電子デバイス用部材を備える電子デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、基材層、ガスバリア層及び透明導電体層を有する透明導電性フィルムであって、前記ガスバリア層が、少なくとも、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子を含む材料から構成されてなり、表面から深さ方向に向かって、層中における酸素原子の存在割合が漸次減少し、炭素原子の存在割合が漸次増加する領域(A)を有し、前記領域(A)が、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子を特定の割合で含む、少なくとも2種類の部分領域を有するものである透明導電性フィルムは、優れたガスバリア性と透明導電性を有し、また、高温高湿度環境下においてもシート抵抗値が低く、導電性に優れることを見出した。さらに、このような透明導電性フィルムのガスバリア層は、ポリシラン化合物を含む層に、イオンを注入することにより、簡便かつ効率よく形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
かくして本発明によれば、下記(1)〜(9)の透明導電性フィルム、(10)〜(12)の透明導電性フィルムの製造方法、(13)の電子デバイス用部材、及び(14)の電子デバイスが提供される。
【0012】
(1)基材層、ガスバリア層及び透明導電体層を有する透明導電性フィルムであって、
前記ガスバリア層が、少なくとも、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子を含む材料から構成されてなり、表面から深さ方向に向かって、層中における酸素原子の存在割合が漸次減少し、炭素原子の存在割合が漸次増加する領域(A)を有し、
前記領域(A)が、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在量全体に対する、酸素原子の存在割合が20〜55%、炭素原子の存在割合が25〜70%、ケイ素原子の存在割合が5〜20%である部分領域(A1)と、
酸素原子の存在割合が1〜15%、炭素原子の存在割合が72〜87%、ケイ素原子の存在割合が7〜18%である部分領域(A2)とを含むものである
ことを特徴とする透明導電性フィルム。
【0013】
(2)前記領域(A)が、ポリシラン化合物を含む層の表層部に形成されていることを特徴とする(1)に記載の透明導電性フィルム。
(3)基材層、ガスバリア層及び透明導電体層を有する透明導電性フィルムであって、
前記ガスバリア層が、ポリシラン化合物を含む層に、イオンが注入されて得られる層であることを特徴とする(1)または(2)に記載の透明導電性フィルム。
(4)前記ポリシラン化合物が、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む化合物であることを特徴とする(2)又は(3)に記載の透明導電性フィルム。
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、R、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、シリル基、又はハロゲン原子を表し、複数のR、Rは、それぞれ同一であっても相異なっていてもよい。)
【0016】
(5)前記ガスバリア層が、ポリシラン化合物を含む層に、プラズマイオン注入法によりイオンが注入されて得られる層であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の透明導電性フィルム。
(6)前記イオンが、水素、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトン、ケイ素化合物及び炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも一種のガスがイオン化されたものであることを特徴とする(3)〜(5)のいずれかに記載の透明導電性フィルム。
【0017】
(7)前記透明導電体層が、導電性金属酸化物からなるものである(1)〜(6)のいずれかに記載の透明導電性フィルム。
(8)前記導電性金属酸化物が、亜鉛系酸化物であることを特徴とする(7)に記載の透明導電性フィルム。
【0018】
(9)40℃、相対湿度90%雰囲気下での水蒸気透過率が0.5g/m2/day未満であることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の透明導電性フィルム。
(10)(2)〜(9)のいずれかに記載の透明導電性フィルムの製造方法であって、ポリシラン化合物を含む層を表面部に有する成形物の、前記ポリシラン化合物を含む層に、イオンを注入する工程を有する透明導電性フィルムの製造方法。
【0019】
(11)前記イオンが、水素、酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、キセノン、クリプトン、ケイ素化合物、及び炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも一種のガスがイオン化されたものであることを特徴とする(10)に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
(12)前記イオンを注入する工程が、プラズマイオン注入法によりイオンを注入する工程であることを特徴とする(10)に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【0020】
(13)前記(1)〜(9)のいずれかに記載の透明導電性フィルムからなる電子デバイス用部材。
(14)前記(13)に記載の電子デバイス用部材を備える電子デバイス。
【発明の効果】
【0021】
本発明の透明導電性フィルムは、優れたガスバリア性透明導電性を有し、さらに高温高湿度環境下においてもシート抵抗値の変化が少なく、低い値を保ち、耐折り曲げ性及び導電性に優れる。
本発明の透明導電性フィルムは、フレキシブルなディスプレイや、太陽電池等の電子デバイス用部材として好適に用いることができる。
【0022】
本発明の製造方法によれば、優れたガスバリア性と透明導電性を有し、さらに高温高湿度環境下においてもシート抵抗値の変化が少なく、低い値を保ち、導電性に優れる本発明の透明導電性フィルムを、簡便かつ効率よく製造することができる。また、無機膜成膜に比して低コストにて容易に大面積化を図ることができる。
【0023】
本発明の電子デバイス用部材は、優れたガスバリア性と透明性を有し、さらに高温高湿度環境下においてもシート抵抗値が低く、導電性に優れるため、ディスプレイ、太陽電池等の電子デバイスに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の透明導電性フィルムの層構成を示す図である。
【図2】実施例1の透明導電性フィルム1のガスバリア層における、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在割合(%)を表す図である。
【図3】実施例2の透明導電性フィルム2のガスバリア層における、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在割合(%)を表す図である。
【図4】実施例3の透明導電性フィルム3のガスバリア層における、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在割合(%)を表す図である。
【図5】実施例4の透明導電性フィルム4のガスバリア層における、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在割合(%)を表す図である。
【図6】実施例5の透明導電性フィルム5のガスバリア層における、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在割合(%)を表す図である。
【図7】実施例6の透明導電性フィルム6のガスバリア層における、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在割合(%)を表す図である。
【図8】実施例7の透明導電性フィルム7のガスバリア層における、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在割合(%)を表す図である。
【図9】実施例8の透明導電性フィルム8のガスバリア層における、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在割合(%)を表す図である。
【図10】比較例2の透明導電性フィルム2rのガスバリア層における、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在割合(%)を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を、1)透明導電性フィルム、2)透明導電性フィルムの製造方法、並びに、3)電子デバイス用部材及び電子デバイスに項分けして詳細に説明する。
【0026】
1)透明導電性フィルム
本発明の透明導電性フィルムは、基材層、ガスバリア層及び透明導電体層を有する透明導電性フィルムであって、前記ガスバリア層が、少なくとも、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子を含む材料から構成されてなり、表面から深さ方向に向かって、層中における酸素原子の存在割合が漸次減少し、炭素原子の存在割合が漸次増加する領域(A)を有し、
前記領域(A)が、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在量全体に対する、酸素原子の存在割合が20〜55%、炭素原子の存在割合が25〜70%、ケイ素原子の存在割合が5〜20%である部分領域(A1)と、酸素原子の存在割合が1〜15%、炭素原子の存在割合が72〜87%、ケイ素原子の存在割合が7〜18%である部分領域(A2)とを含むことを特徴とする。
【0027】
(基材層)
本発明の透明導電性フィルムは基材層を有する。該基材層の素材としては、透明導電性フィルムの目的に合致するものであれば特に制限されない。例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、アクリル系樹脂、シクロオレフィン系ポリマー、芳香族系重合体等の合成樹脂が挙げられる。
【0028】
これらの中でも、透明性に優れ、汎用性があることから、ポリエステル、ポリアミド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、シクロオレフィン系ポリマーが好ましく、ポリエステル又はシクロオレフィン系ポリマーがより好ましい。
【0029】
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート等が挙げられる。
ポリアミドとしては、全芳香族ポリアミド、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン共重合体等が挙げられる。
【0030】
シクロオレフィン系ポリマーとしては、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、及びこれらの水素化物が挙げられる。その具体例としては、アペル(三井化学社製のエチレン−シクロオレフィン共重合体)、アートン(JSR社製のノルボルネン系重合体)、ゼオノア(日本ゼオン社製のノルボルネン系重合体)等が挙げられる。
【0031】
基材層の厚みとしては、特に限定されず、透明導電性フィルムの使用目的に合わせて決定すればよいが、通常0.5〜500μm、好ましくは10〜250μmである。
【0032】
(ガスバリア層)
本発明の透明導電性フィルムは、少なくとも、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子を含む材料から構成されてなり、表面から深さ方向に向かって、層中における酸素原子の存在割合が漸次減少し、炭素原子の存在割合が漸次増加する領域(A)を含むものであり、前記領域(A)が、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子を特定の割合で含む、少なくとも2種類の部分領域を有するガスバリア層を有する。
【0033】
ここで、「表面」には、透明導電性フィルムにおいて、ガスバリア層が透明導電性フィルムの最表面に存在する場合におけるガスバリア層の表面のみならず、ガスバリア層上に他の層が積層されている場合におけるガスバリア層と他の層との境界面も含む。
【0034】
また、前記ガスバリア層は、領域(A)のみからなるものであっても、領域(A)をガスバリア層の一部(好ましくは表層部)に有するものであってもよいが、製造容易性の観点から後者が好ましい。
前記領域(A)の厚さは、通常、5〜110nm、好ましくは10〜50nmである。
【0035】
本発明の透明導電性フィルムにおいて、領域(A)は、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在量全体に対する、酸素原子の存在割合が20〜55%、炭素原子の存在割合が25〜70%、ケイ素原子の存在割合が5〜20%である部分領域(A1)と、酸素原子の存在割合が1〜15%、炭素原子の存在割合が72〜87%、ケイ素原子の存在割合が7〜18%である部分領域(A2)とを含む。
【0036】
酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在割合の測定は、後述の実施例において説明する方法で行う。
部分領域(A1)と部分領域(A2)とを含む領域(A)を有する層は、優れたガスバリア性を有するガスバリア層となる。
【0037】
部分領域(A1)は、領域(A)内において、炭素原子の存在割合が最も小さく、酸素原子の存在割合が最も大きい領域であって、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在量全体に対する、酸素原子の存在割合が20〜55%、炭素原子の存在割合が25〜70%、ケイ素原子の存在割合が5〜20%である。通常、ガスバリア層の表面部に位置する。部分領域(A1)の厚さは、通常、1〜10nmである。
【0038】
部分領域(A2)は、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在量全体に対する、酸素原子の存在割合が1〜15%、炭素原子の存在割合が72〜87%、ケイ素原子の存在割合が7〜18%であり、部分領域(A2)は、通常、前記部分領域(A1)と隣接して存在する領域であり、部分領域(A1)の深さ方向に位置する領域である。
部分領域(A2)の厚さは、通常、5〜100nmである。
【0039】
領域(A)は、部分領域(A1)と部分領域(A2)とを含むものであり、かつ、表面から深さ方向に向かって、酸素原子の存在割合が漸次減少し、炭素原子の存在割合が漸次増加する。
【0040】
本発明の透明導電性フィルムのガスバリア層としては、例えば、ポリシラン化合物を含む層(以下、「ポリシラン化合物層」ということがある。)の表層部に領域(A)が形成されているものが挙げられる。より具体的には、後述するように、ポリシラン化合物を含む層にイオンが注入されて得られる層や、ポリシラン化合物層にプラズマ処理が施されて得られる層が挙げられる。
【0041】
また、本発明においては、前記領域(A)は、ポリシラン化合物層の表層部に形成されているのが好ましい。
なお、前記ポリシラン化合物は、後述する式(1)で表される構造単位から選択された少なくとも一種の繰り返し単位を有する化合物である。
【0042】
本発明の透明導電性フィルムは、基材層、ガスバリア層及び透明導電体層を有する透明導電性フィルムであって、前記ガスバリア層が、ポリシラン化合物層に、イオンが注入されて得られる層であってもよい。
【0043】
(ポリシラン化合物層)
本発明に用いるポリシラン化合物は、分子内に、(−Si−Si−)結合を含む繰り返し単位を有する高分子化合物である。かかるポリシラン化合物としては、下記式(1)で表される構造単位から選択された少なくとも一種の繰り返し単位を有する化合物が挙げられる。
【0044】
【化2】

【0045】
式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、シリル基、又はハロゲン原子を表す。複数のR、Rは、それぞれ同一であっても相異なっていてもよい。
【0046】
前記R及びRのアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−へキシル基等の炭素数1〜10のアルキル基が挙げられる。
アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基等の炭素数2〜10のアルケニル基が挙げられる。
【0047】
シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等の炭素数3〜10のシクロアルケニル基が挙げられる。
シクロアルケニル基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の炭素数4〜10のシクロアルケニル基が挙げられる。
アリール基としては、フェニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基等の炭素数6〜20のアリール基が挙げられる。
【0048】
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基が挙げられる。
シクロアルキルオキシ基としては、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の炭素数3〜10のシクロアルキルオキシ基が挙げられる。
【0049】
アリールオキシ基としては、フェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基等の炭素数6〜20のアリールオキシ基が挙げられる。
アラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基、フェニルプロピルオキシ基等の炭素数7〜20のアラルキルオキシ基が挙げられる。
置換基を有していてもよいアミノ基としては、アミノ基;炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基等で置換されたN−モノ又はN,N−ジ置換アミノ基等が挙げられる。
【0050】
シリル基としては、シリル基、ジシラニル基、トリシラニル基等のSi1−10シラニル基(好ましくはSi1−6シラニル基)、置換シリル基(例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基等で置換された置換シリル基)等が挙げられる。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0051】
また、R及びRで表される基がアルキル基又はアルケニル基である場合は、該アルキル基は、任意の位置に、フェニル基、4−メチルフェニル基等の置換基を有していてもよいアリール基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基等のアリールオキシ基;フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;ニトロ基;シアノ基;等の置換基を有していてもよい。
【0052】
また、R及びRで表される基がシクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基である場合は、これらの基は、任意の位置に、メチル基、エチル基等のアルキル基;フェニル基、4−メチルフェニル基等の置換基を有していてもよいアリール基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基等のアリールオキシ基;フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;ニトロ基;シアノ基;等の置換基を有していてもよい。
【0053】
本発明においては、用いるポリシラン化合物として、式(1)において、R及びRが、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アリール基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アミノ基又はシリル基である繰り返し単位を含むポリシラン化合物が好ましく、R及びRが、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基又はアリール基である繰り返し単位を含むポリシラン化合物がより好ましく、R及びRが、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基又はアリール基である繰り返し単位を含むポリシラン化合物が特に好ましい。
【0054】
用いるポリシラン化合物の形態は特に制限されず、非環状ポリシラン(直鎖状ポリシラン、分岐鎖状ポリシラン、網目状ポリシラン等)や、環状ポリシラン等の単独重合体であっても、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、くし型共重合体等の共重合体であってもよい。
前記ポリシラン化合物が非環状ポリシランである場合は、ポリシラン化合物の末端基(末端置換基)は、水素原子であっても、ハロゲン原子(塩素原子等)、アルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、シリル基等であってもよい。
【0055】
ポリシラン化合物の具体例としては、ポリジメチルシラン、ポリ(メチルプロピルシラン)、ポリ(メチルブチルシラン)、ポリ(メチルペンチルシラン)、ポリ(ジブチルシラン)、ポリ(ジヘキシルシラン)等のポリジアルキルシラン、ポリ(ジフェニルシラン)等のポリジアリールシラン、ポリ(メチルフェニルシラン)等のポリ(アルキルアリールシラン)等のホモポリマー;ジメチルシラン−メチルヘキシルシラン共重合体等のジアルキルシランと他のジアルキルシランとの共重合体、フェニルシラン−メチルフェニルシラン共重合体等のアリールシラン−アルキルアリールシラン共重合体、ジメチルシラン−メチルフェニルシラン共重合体、ジメチルシラン−フェニルヘキシルシラン共重合体、ジメチルシラン−メチルナフチルシラン共重合体、メチルプロピルシラン−メチルフェニルシラン共重合体等のジアルキルシラン−アルキルアリールシラン共重合体等のコポリマ;等が挙げられる。
これらのポリシラン化合物は一種単独で、あるいは二種以上組み合わせて使用することができる。
【0056】
ポリシラン化合物については、より詳しくは、R.D.Miller、J.Michl;Chemical Review、第89巻、1359頁(1989)、N.Matsumoto;Japanese Journal of Physics、第37巻、5425頁(1998)等に記載されている。本発明においては、これらの文献に記載されるポリシラン化合物を用いることができる。
【0057】
ポリシラン化合物の重量平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは300〜100,000、より好ましくは400〜50,000、さらに好ましくは500〜30,000である。
【0058】
ポリシラン化合物の多くは公知物質であり、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、マグネシウムを還元剤としてハロシラン類を脱ハロゲン縮重合させる方法(「マグネシウム還元法」、WO98/29476号公報等)、アルカリ金属の存在下でハロシラン類を脱ハロゲン縮重合させる方法(「キッピング法」、J.Am.Chem.Soc.,110,124(1988)、Macromolecules,23,3423(1990)等)、電極還元によりハロシラン類を脱ハロゲン縮重合させる方法(J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,1161(1990)、J.Chem.Soc.,Chem.Commun.897(1992)等)、特定の重合用金属触媒の存在下にヒドロシラン類を脱水素縮合させる方法(特開平4−334551号公報等)、ビフェニル等で架橋されたジシレンのアニオン重合による方法(Macromolecules,23,4494(1990)等)、環状シラン類の開環重合による方法等が挙げられる。
【0059】
ポリシラン化合物層は、ポリシラン化合物の他に、本発明の目的を阻害しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、架橋剤、硬化剤、他の高分子、老化防止剤、光安定剤、難燃剤等が挙げられる。
【0060】
ポリシラン化合物層中のポリシラン化合物の含有量は、優れたガスバリア性を有するイオン注入層を形成できる観点から、50重量%以上であるのが好ましく、70重量%以上であるのがより好ましい。
【0061】
ポリシラン化合物層を形成する方法は、特に制約はなく、例えば、ポリシラン化合物の少なくとも一種、所望により他の成分、及び溶剤等を含有する層形成用組成物を、例えば、前記基材層、又はその他の層上に塗布し、得られた塗膜を適度に乾燥して形成する方法が挙げられる。
【0062】
塗工装置としては、スピンコーター、ナイフコーター、グラビアコーター等の公知の装置を使用することができる。
【0063】
得られた塗膜の乾燥、透明導電性フィルムのガスバリア性向上のため、塗膜を加熱することが好ましい。加熱は80〜150℃で、数十秒から数十分行う。
【0064】
形成されるポリシラン化合物を含む層の厚みは、特に制限されないが、通常20nm〜1000nm、好ましくは30〜500nm、より好ましくは40〜200nmである。
本発明においては、ポリシラン化合物を含む層がナノオーダーであっても、充分なガスバリア性能を有する透明導電性フィルムを得ることができる。
【0065】
注入されるイオンとしては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等の希ガスのイオン;フルオロカーボン、水素、窒素、酸素、二酸化炭素、塩素、フッ素、硫黄、ケイ素化合物、炭化水素等のイオン;金、銀、銅、白金、ニッケル、パラジウム、クロム、チタン、モリブデン、ニオブ、タンタル、タングステン、アルミニウム等の金属のイオン;が挙げられる。
【0066】
なかでも、より簡便に注入することができ、特に優れたガスバリア性と透明性を有するイオン注入層が得られることから、水素、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトン、ケイ素化合物、及び炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも一種のイオンが好ましい。
【0067】
ケイ素化合物としては、シラン(SiH)及び有機ケイ素化合物が挙げられる。
有機ケイ素化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン;
ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン等の無置換若しくは置換基を有するアルキルアルコキシシラン;
【0068】
ジフェニルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のアリールアルコキシシラン;
ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)等のジシロキサン;
ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン、ビス(エチルアミノ)ジメチルシラン、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノジメチルシラン、テトラキスジメチルアミノシラン、トリス(ジメチルアミノ)シラン等のアミノシラン;
ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ヘプタメチルジシラザン、ノナメチルトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、テトラメチルジシラザン等のシラザン;
テトライソシアナートシラン等のシアナートシラン;
トリエトキシフルオロシラン等のハロゲノシラン;
ジアリルジメチルシラン、アリルトリメチルシラン等のアルケニルシラン;
ジ−t−ブチルシラン、1,3−ジシラブタン、ビス(トリメチルシリル)メタン、トリメチルシラン、テトラメチルシラン、トリス(トリメチルシリル)メタン、トリス(トリメチルシリル)シラン、ベンジルトリメチルシラン等の無置換若しくは置換基を有するアルキルシラン;
ビス(トリメチルシリル)アセチレン、トリメチルシリルアセチレン、1−(トリメチルシリル)−1−プロピン等のシリルアルキン;
【0069】
1,4−ビストリメチルシリル−1,3−ブタジイン、シクロペンタジエニルトリメチルシラン等のシリルアルケン;
フェニルジメチルシラン、フェニルトリメチルシラン等のアリールアルキルシラン;
プロパルギルトリメチルシラン等のアルキニルアルキルシラン;
ビニルトリメチルシラン等のアルケニルアルキルシラン;
ヘキサメチルジシラン等のジシラン;
オクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルシクロテトラシロキサン等のシロキサン;
N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド;
ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド;
等が挙げられる。
【0070】
炭化水素としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等のアルカン;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン等のアルケン;ペンタジエン、ブタジエン等のアルカジエン;アセチレン、メチルアセチレン等のアルキン;ベンゼン、トルエン、キシレン、インデン、ナフタレン、フェナントレン等の芳香族炭化水素;シクロプロパン、シクロヘキサン等のシクロアルカン;シクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロアルケン;等が挙げられる。
これらのイオンは一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
イオンの注入量は、形成する透明導電性フィルムの使用目的(必要なガスバリア性、透明性等)等に合わせて適宜決定すればよい。
【0072】
イオンを注入する方法としては、電界により加速されたイオン(イオンビーム)を照射する方法、プラズマ中のイオンを注入する方法(プラズマイオン注入法)等が挙げられる。なかでも、簡便に優れたガスバリア性等を有する透明導電性フィルムが得られることから、プラズマイオン注入法が好ましい。
【0073】
プラズマイオン注入法は、例えば、プラズマ生成ガスを含む雰囲気下でプラズマを発生させ、イオンを注入する層に負の高電圧パルスを印加することにより、該プラズマ中のイオン(陽イオン)を、イオンを注入する層の表面部に注入して行うことができる。
【0074】
イオンが注入される部分の厚みは、イオンの種類や印加電圧、処理時間等の注入条件により制御することができ、イオンを注入する層の厚み、透明導電性フィルムの使用目的等に応じて決定すればよいが、通常、10〜1000nmである。
【0075】
イオンが注入されたことは、X線光電子分光分析(XPS)を用いて、表面から10nm付近の元素分析測定を行うことによって確認することができる。
【0076】
(透明導電体層)
本発明の透明導電性フィルムは、さらに透明導電体層を有する。
透明導電体層を設けることにより、ガスバリアフィルムに電極としての機能を付与することができ、得られる透明導電性フィルムは、有機EL表示素子等に好適に使用することができる。
【0077】
透明導電体層を構成する材料としては、透明導電体層の550nmにおける可視光線透過率が70%以上になれば、特に制約はない。例えば、白金、金、銀、銅等の金属;グラフェン、カーボンナノチューブ等の炭素材料;ポリアリニン、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリピロール等の有機導電材料;ヨウ化銅、硫化銅等の無機導電性物質;カルコゲナイド、六ホウ化ランタン、窒化チタン、炭化チタン等の非酸化化合物;酸化亜鉛、二酸化亜鉛、ガリウムドープ酸化亜鉛、アルミニウムドープ酸化亜鉛、酸化亜鉛ドープ酸化インジウム(IZO:登録商標)、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、錫及びガリウムドープ酸化インジウム(IGZO)、フッ素ドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化錫、フッ素ドープ酸化錫(FTO)等の導電性金属酸化物;等が挙げられる。
【0078】
前記有機導電材料には、ドーパントとして、ヨウ素、五フッ化ヒ素、アルカリ金属、ポリアニオンポリ(スチレンスルホン酸塩)等を添加してもよい。具体的には、ポリエチレンジオキシチオフェン(スタルクヴィテック株式会社製、商品名「CLEVIOS P AI 4083」)が挙げられる。
【0079】
これらの中でも、透明導電体層を構成する材料としては、本発明が目的とする、優れた透明導電性を有する透明導電性フィルムをより簡便に得られることから、導電性金属酸化物が好ましい。これらの中でも、酸化亜鉛ドープ酸化インジウム(IZO:登録商標)、酸化インジウム、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、錫及びガリウムドープ酸化インジウム(IGZO)、フッ素ドープ酸化インジウム等の酸化インジウムを主成分とするインジウム系酸化物;酸化亜鉛、二酸化亜鉛、ガリウムドープ酸化亜鉛、アルミニウムドープ酸化亜鉛等の酸化亜鉛を主成分とする亜鉛系酸化物;及び、酸化錫、アンチモンドープ酸化錫、フッ素ドープ酸化錫(FTO)等の酸化第2錫を主成分とする錫系酸化物;がより好ましく、インジウム系酸化物及び亜鉛系酸化物がさらに好ましく、亜鉛系酸化物が特に好ましい。
【0080】
インジウム系酸化物は主成分として酸化インジウムを、亜鉛系酸化物は主成分として酸化亜鉛を、それぞれ90質量%以上含有するのが好ましい。
【0081】
主成分以外の組成は特に限定されない。例えば、抵抗率を低下させるために、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、ケイ素、スズ、ゲルマニウム、アンチモン、イリジウム、レニウム、セリウム、ジルコニウム、スカンジウム、イットリウム、亜鉛、インジウム及びこれらの酸化物が挙げられる。これらは、導電体層の抵抗率を低下させるために添加される。これらは1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。その添加量は、導電性と結晶性のバランスの観点から、透明導電体層全体に対して0.05〜10質量%未満であるのが好ましい。
【0082】
透明導電体層は、従来公知の方法により形成することができる。例えば、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法、化学気相成長法、バーコーターやマイクログラビアコーター等の塗布方法等が挙げられる。これらの中でも、簡便に透明導電体層が形成できることから、スパッタリング法が好ましい。
【0083】
透明導電材料を成膜する前においては、あらかじめ、透明導電材料を成膜する面に、真空もしくは大気圧下で加熱処理を施したり、プラズマ処理や紫外線照射処理を行う工程を設けてもよい。
【0084】
透明導電体層の厚さは、用途によっても異なるが、通常10nm〜5μm、好ましくは20nm〜1000nm、より好ましくは20nm〜500nmである。
【0085】
形成された透明導電体層には、必要に応じてパターニングを行ってもよい。パターニングする方法としては、フォトリソグラフィー等による化学的エッチング、レーザ等を用いた物理的エッチング等、マスクを用いた真空蒸着法やスパッタリング法、リフトオフ法、印刷法等が挙げられる。
【0086】
(透明導電性フィルム)
本発明の透明導電性フィルムは、基材層、ガスバリア層及び透明導電体層とを有する。
本発明の透明導電性フィルムは、前記基材層、ガスバリア層及び透明導電体層の各一層からなるものであってもよいし、各層を複数有するものであってもよいし、さらに他の層を含むものであってもよい。
【0087】
本発明の透明導電性フィルムにおいて、基材層、ガスバリア層及び透明導電体層の積層順は特に制約はない。
本発明の導電性フィルムの層構成の例を図1に示す。
【0088】
図1中、Sは基材層を表し、aはガスバリア層を表し、bは導電体層を表す。
図1(a)は基材層−ガスバリア層−導電体層からなる3層の層構成を、図1(b)は導電体層−基材層−ガスバリア層からなる3層の層構成を示す。これらの中でも、本発明の透明導電性フィルムにおいては、製造容易性の観点から、図1(a)に示す層構成を有するものが好ましい。
【0089】
なお、ガスバリア層aは、図1(c)、(d)に示すように、ガスバリア層表面部に、前記領域(A1)と領域(A2)とを含む領域(A)を有する層であってもよく、前記領域(A1)と領域(A2)とを含む領域(A)のみからなるものであってもよい。
【0090】
本発明の透明導電性フィルムが他の層を含む場合、他の層は単層であっても、同種又は異種の2層以上であってもよい。他の層の積層位置(積層順)は、特に制限されず、用いる他の層の設置目的等に合わせて、決定すればよい。
前記他の層としては、ハードコート層、無機化合物層、衝撃吸収層、プライマー層等が挙げられる。
【0091】
ハードコート層は、前記透明導電性フィルムの表面に傷がつかないようにするために設けられる。ハードコート層の形成材料としては、特に限定されず、エネルギー線硬化型樹脂や熱硬化型樹脂等が挙げられる。
ハードコート層の厚みは、通常0.1〜20μm、好ましくは1〜10μmである。
【0092】
無機化合物層は、ガスバリアバリア性を向上させる目的のために設けられる。無機化合物の一種又は二種以上からなる層である。無機化合物としては、一般的に真空成膜可能で、ガスバリア性を有するもの、例えば無機酸化物、無機窒化物、無機炭化物、無機硫化物、これらの複合体である無機酸化窒化物、無機酸化炭化物、無機窒化炭化物、無機酸化窒化炭化物等が挙げられる。
【0093】
無機化合物層の厚みは、通常10nm〜1000nm、好ましくは20〜500nm、より好ましくは20〜100nmの範囲である。
【0094】
衝撃吸収層は、ガスバリア層に衝撃が加わった時に、ガスバリア層を保護するためのものである。衝撃吸収層を形成する素材は、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、オレフィン系樹脂、ゴム系材料等が挙げられる。
また、粘着剤、コート剤、封止剤等として市販されているものを使用することもでき、特に、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤等の粘着剤が好ましい。
【0095】
衝撃吸収層の形成方法としては特に制限はなく、例えば、前記ケイ素系化合物を含む層の形成方法と同様に、前記衝撃吸収層を形成する素材(粘着剤等)、及び、所望により、溶剤等の他の成分を含む衝撃吸収層形成溶液を、積層すべき層上に塗布し、得られた塗膜を乾燥し、必要に応じて加熱等して形成する方法が挙げられる。
また、別途、剥離基材上に衝撃吸収層を成膜し、得られた膜を、積層すべき層上に転写して積層してもよい。
衝撃吸収層の厚みは、通常1〜100μm、好ましくは5〜50μmである。
【0096】
プライマー層は、基材層と、ガスバリア層又は透明導電体層との層間密着性を高める役割を果たす。プライマー層を設けることにより、層間密着性に極めて優れ、かつ、基材の凹凸を平滑化できることから、表面平滑性に極めて優れる透明導電性フィルムを得ることができる。
【0097】
プライマー層を構成する材料としては、特に限定されず、公知のものが使用できる。例えば、ケイ素含有化合物;光重合性モノマー及び/又は光重合性プレポリマーからなる光重合性化合物、及び少なくとも可視光域または紫外光域の光でラジカルを発生する重合開始剤を含む光重合性組成物;ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂(特にポリアクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等とイソシアネート化合物との2液硬化型樹脂)、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール系樹脂、ニトロセルロース系樹脂等の樹脂類;アルキルチタネート;エチレンイミン;等が挙げられる。これらの材料は一種単独で、或いは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0098】
プライマー層は、プライマー層を構成する材料を適当な溶剤に溶解又は分散してなるプライマー層形成用溶液を、基材層の片面又は両面に塗付し、得られた塗膜を乾燥させ、所望により加熱することより形成することができる。
【0099】
プライマー層形成用溶液を基材層に塗付する方法としては、通常の湿式コーティング方法を用いることができる。例えばディッピング法、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、エアナイフコート、ロールナイフコート、ダイコート、スクリーン印刷法、スプレーコート、グラビアオフセット法等が挙げられる。
【0100】
プライマー層形成用溶液の塗膜を乾燥する方法としては、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等、従来公知の乾燥方法が採用できる。プライマー層の厚みは、通常、10〜1000nmである。
【0101】
また、得られたプライマー層に、後述する、イオンを注入する方法と同様な方法によりイオン注入を行ってもよい。プライマー層にもイオン注入を行うことにより、より優れた透明導電性フィルムを得ることができる。
【0102】
本発明の透明導電性フィルムの厚みは、特に制限されず、目的とする電子デバイスの用途等によって適宜決定することができる。通常1〜1000μmである。
【0103】
本発明の透明導電性フィルムは、優れたガスバリア性と透明導電性を有し、さらに高温高湿度環境下においてもシート抵抗値が低い。
【0104】
本発明の透明導電性フィルムが優れたガスバリア性を有していることは、本発明の透明導電性フィルムの水蒸気等のガスの透過率が、格段に小さいことから確認することができる。例えば、水蒸気透過率は、40℃、相対湿度90%雰囲気下で、通常0.5g/m/day以下、好ましくは0.5g/m/day未満、より好ましくは0.35g/m/day以下である。なお、透明導電性フィルムの水蒸気等の透過率は、公知のガス透過率測定装置を使用して測定することができる。
【0105】
本発明の透明導電性フィルムが優れた透明性を有していることは、本発明の透明導電性フィルムの可視光線透過率が高いことから確認することができる。本発明の透明導電性フィルムの、波長550nmにおける可視光線透過率は、通常70%以上である。可視光線透過率は、公知の可視光透過率測定装置を使用して測定することができる。
【0106】
本発明の透明導電性フィルムが優れた導電性を有していることは、透明導電性フィルムのシート抵抗値(表面抵抗率)が低いことから確認することができる。本発明の透明導電性フィルムのシート抵抗値(表面抵抗率)は、通常1000Ω/□以下、好ましくは600Ω/□以下である。透明導電性フィルムのシート抵抗値は、公知の方法により測定することができる。
【0107】
本発明の透明導電性フィルムが高温高湿度環境下においてもシート抵抗値が低く、導電性に優れることは、例えば、下記に示すシート抵抗値の変化率T1、T2の値が小さいことから確認することができる。
【0108】
【数1】

【0109】
上記式中、R0は透明導電性フィルムの初期シート抵抗値、R1は、60℃の環境下に3日間置いた後のシート抵抗値、R2は、60℃90%RH環境下に3日間置いた後のシート抵抗値をそれぞれ示す。
【0110】
本発明の透明導電性フィルムにおいては、T1は通常1.0未満、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.05以下であり、T2は通常1.0以下、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.15以下である。
【0111】
2)透明導電性フィルムの製造方法
本発明の透明導電性フィルムの製造方法は、ポリシラン化合物層を表面部に有する成形物の、前記ポリシラン化合物層に、イオンを注入する工程を有することを特徴とする。
本発明の透明導電性フィルムの製造方法によれば、前記1)に記載した本発明の透明導電性フィルムを簡便且つ効率よく製造することができる。
【0112】
前記イオンを注入する工程において用いるイオンは、前記1)透明導電性フィルムの項で例示したのと同様のものが好ましい。また、イオンを注入する方法としては、プラズマイオン注入法が好ましい。
【0113】
プラズマイオン注入法は、プラズマ中に曝した、高分子層を表面に有する成形物に、負の高電圧パルスを印加することにより、プラズマ中のイオンを前記層の表面部に注入してイオンを注入する方法である。
【0114】
プラズマイオン注入法としては、(A)外部電界を用いて発生させたプラズマ中に存在するイオンを、前記層の表面部に注入する方法、又は(B)外部電界を用いることなく、前記層に印加する負の高電圧パルスによる電界のみで発生させたプラズマ中に存在するイオンを、前記層の表面部に注入する方法が好ましい。
【0115】
前記(A)の方法においては、イオン注入する際の圧力(プラズマイオン注入時の圧力)を0.01〜1Paとすることが好ましい。プラズマイオン注入時の圧力がこのような範囲にあるときに、簡便にかつ効率よく均一なイオン注入層を形成することができ、透明性、ガスバリア性を兼ね備えたイオン注入層を効率よく形成することができる。
【0116】
前記(B)の方法は、減圧度を高くする必要がなく、処理操作が簡便であり、処理時間も大幅に短縮することができる。また、前記層全体にわたって均一に処理することができ、負の高電圧パルス印加時にプラズマ中のイオンを高エネルギーで層の表面部に連続的に注入することができる。さらに、radio frequency(高周波、以下、「RF」と略す。)や、マイクロ波等の高周波電力源等の特別の他の手段を要することなく、層に負の高電圧パルスを印加するだけで、前記ポリシラン化合物層の表面部にイオンを均一に注入することができる。
【0117】
前記(A)及び(B)のいずれの方法においても、負の高電圧パルスを印加するとき、すなわちイオン注入するときのパルス幅は、1〜15μsecであるのが好ましい。パルス幅がこのような範囲にあるときに、均一にイオン注入をより簡便にかつ効率よく行なうことができる。
【0118】
また、プラズマを発生させるときの印加電圧は、好ましくは−1kV〜−50kV、より好ましくは−1kV〜−30kV、特に好ましくは−5kV〜−20kVである。印加電圧が−1kVより大きい値でイオン注入を行うと、イオン注入量(ドーズ量)が不十分となり、所望の性能が得られない。一方、−50kVより小さい値でイオン注入を行うと、イオン注入時に成形体が帯電し、また成形体への着色等の不具合が生じ、好ましくない。
【0119】
プラズマイオン注入するイオン種は、上述した通りである。より簡便にイオン注入することができ、透明で優れたガスバリア性を有する成形体を効率良く製造することができることから、水素、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトンが好ましく、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウムがより好ましい。
前記ポリシラン化合物層の表面部にプラズマ中のイオンを注入する際には、プラズマイオン注入装置を用いる。
プラズマイオン注入装置としては、具体的には、(α)高分子層(以下、「イオン注入する層」ということがある。)に負の高電圧パルスを印加するフィードスルーに高周波電力を重畳してイオン注入する層の周囲を均等にプラズマで囲み、プラズマ中のイオンを誘引、注入、衝突、堆積させる装置(特開2001−26887号公報)、(β)チャンバー内にアンテナを設け、高周波電力を与えてプラズマを発生させてイオン注入する層周囲にプラズマが到達後、イオン注入する層に正と負のパルスを交互に印加することで、正のパルスでプラズマ中の電子を誘引衝突させてイオン注入する層を加熱し、パルス定数を制御して温度制御を行いつつ、負のパルスを印加してプラズマ中のイオンを誘引、注入させる装置(特開2001−156013号公報)、(γ)マイクロ波等の高周波電力源等の外部電界を用いてプラズマを発生させ、高電圧パルスを印加してプラズマ中のイオンを誘引、注入させるプラズマイオン注入装置、(δ)外部電界を用いることなく高電圧パルスの印加により発生する電界のみで発生するプラズマ中のイオンを注入するプラズマイオン注入装置等が挙げられる。
【0120】
これらの中でも、処理操作が簡便であり、処理時間も大幅に短縮でき、連続使用に適していることから、(γ)又は(δ)のプラズマイオン注入装置を用いるのが好ましい。
前記(γ)及び(δ)のプラズマイオン注入装置を用いる方法について、国際公開WO2010/021326号公報に記載のものが挙げられる。
【0121】
前記(γ)及び(δ)のプラズマイオン注入装置では、プラズマを発生させるプラズマ発生手段を高電圧パルス電源によって兼用しているため、RFやマイクロ波等の高周波電力源等の特別の他の手段を要することなく、負の高電圧パルスを印加するだけで、プラズマを発生させ、前記ポリシラン化合物層の表面部にプラズマ中のイオンを注入し、イオンが注入されて得られる層を連続的に形成し、イオンが注入されて得られる層が形成された透明導電性フィルムを量産することができる。
【0122】
さらに、前記イオンを注入する工程は、表面にポリシラン化合物層が形成された長尺状の成形物を、一定方向に搬送しながら、前記ポリシラン化合物層の表面部に、イオンを注入する工程であるのが好ましい。この製造方法によれば、例えば、長尺の成形物を巻き出しロールから巻き出し、それを一定方向に搬送しながらイオンを注入し、巻き取りロールで巻き取ることができるので、イオン注入を連続的に行うことができる。
【0123】
前記長尺状の成形物は、表面部にポリシラン化合物層が形成されたものであれば、基材層とポリシラン化合物層からなるもの又はこれに他の層を含むものであってもよい。
成形物の厚さは、巻き出し、巻き取り及び搬送の操作性の観点から、1μm〜500μmが好ましく、5μm〜300μmがより好ましい。
【0124】
例えば、基材層、ガスバリア層及び透明導電体層がこの順に積層されてなる本発明の透明導電性フィルムは、以下のようにして製造することができる。
【0125】
先ず、基材層となる長尺状の基材の一方の面側にポリシラン化合物層を形成する。ポリシラン化合物層は、例えば、長尺状の基材を一定方向に搬送しながら、該基材の一面に、前記ポリシラン化合物層形成用溶液を前記塗工装置により塗布し、得られた塗膜を乾燥し、必要に応じて加熱等することにより形成することができる。
【0126】
次に、該ポリシラン化合物層に、上述のプラズマイオン注入装置を用いてプラズマイオン注入し、基材層上に、ガスバリア層が形成された長尺の成形物が得られる。
【0127】
次に、得られた長尺の成形物のガスバリア層上に、スパッタリング法により透明導電体層を形成する。
【0128】
以上のようにして、本発明の透明導電性フィルムを得ることができる。
このような本発明の製造方法によれば、本発明の透明導電性フィルムを簡便に製造することができる。
【0129】
3)電子デバイス用部材及び電子デバイス
本発明の電子デバイス用部材は、本発明の透明導電性フィルムからなることを特徴とする。従って、本発明の電子デバイス用部材は、優れたガスバリア性を有しているので、水蒸気等のガスによる素子の劣化を防ぐことができる。また、透明性に優れ、かつ、高温高湿度環境下においてもシート抵抗値の変化が少なく、低い値を保ち、導電性に優れるので、液晶ディスプレイ、ELディスプレイ等のディスプレイ部材等として好適である。
【0130】
本発明の電子デバイスは、本発明の電子デバイス用部材を備える。具体例としては、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、電子ペーパー、太陽電池等が挙げられる。
本発明の電子デバイスは、本発明の透明導電性フィルムからなる電子デバイス用部材を備えているので、優れたガスバリア性及び透明導電性を有する。
【実施例】
【0131】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例になんら限定されるものではない。
【0132】
用いたプラズマイオン注入装置、水蒸気透過率測定装置と測定条件、可視光線透過率測定装置と測定条件、シート抵抗値の測定装置、耐湿熱試験の方法、及びXPSによるガスバリア層の表層部の元素分析の測定装置は以下の通りである。
【0133】
(プラズマイオン注入装置)
RF電源:日本電子社製、型番号「RF」56000
高電圧パルス電源:栗田製作所社製、「PV−3−HSHV−0835」
【0134】
(水蒸気透過率測定装置と測定条件)
透明導電性フィルムの水蒸気透過率の測定は、下記の測定装置を使用して、相対湿度90%、40℃の条件下で折り曲げ試験前後で行った。
水蒸気透過率測定装置:水蒸気透過率が0.01g/m/day以上のとき、LYSSY社製、「L89−500」を用い、水蒸気透過率が0.01g/m/day未満のとき、TECHNOLOX社製、「deltaperm」を用いた。
【0135】
折り曲げ試験は、下記方法で行った。
得られた透明導電性フィルムの透明導電体層面を外側にし、中央部分で半分に折り曲げてラミネーター(フジプラ社製、「LAMIPACKER LPC1502」)の2本のロール間を、ラミネート速度5m/min、温度23℃の条件で通した。尚、透明導電性フィルムの内側に、1mm厚の台紙を介在させ上記折り曲げ試験を行なった。
【0136】
(可視光線透過率測定装置と測定条件)
透明導電性フィルムの可視光線透過率の測定は、下記の測定装置を使用して、測定波長550nmで行った。
可視光透過率測定装置:島津製作所社製、「UV−3101PC」
【0137】
(シート抵抗値の測定装置)
透明導電性フィルムのシート抵抗値は、下記の測定装置を使用して、相対湿度50%、23℃の条件下で透明導電体層の表面抵抗率の測定を行った。またプローブは、PROBE TYPE LSP」株式会社三菱化学アナリック社製を用いた。
シート抵抗値測定装置:三菱化学社製、「LORESTA―GP MCP−T600」
【0138】
(耐湿熱試験の方法)
透明導電性フィルムを、60℃及び60℃90%RH環境下にそれぞれ3日間置き、取り出し後、23℃50%RH環境下で1日調温・調湿を行い、シート抵抗値を測定した。
次に、下記に示す計算式により、シート抵抗値の変化率T1、T2を求めた。
投入前のシート抵抗値(初期抵抗値)R0、60℃3日間投入後のシート抵抗値R1、60℃90%RH3日間投入後のシート抵抗値R2とする。ここで、RHとは相対湿度のことをいう。
【0139】
【数2】

【0140】
(XPSによるガスバリア層の表層部の元素分析の測定装置)
下記に示す測定装置及び測定条件にて、透明導電性フィルムの透明導電体層のみをスパッタリングにより除去し、ガスバリア層の、透明導電体層側との境界部を露出させ、ガスバリア層の表層部の酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在割合を測定した。
X線光電子分光測定装置:「PHI Quantera SXM」、アルバックファイ社製
X線ビーム径:100μm
電力値:25W
電圧:15kV
取り出し角度:45°
スパッタリング条件
スパッタリングガス:アルゴン
引加電圧:−4kV
【0141】
なお、原子数比(xi)は、X線光電子分光測定により得られたガスバリア層の表層部における酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在割合を用いた。
【0142】
(実施例1)
基材層としてのポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績社製、「PET188 A−4300」、厚さ188μm、以下、「PETフィルム」という。)に、ポリシラン化合物として、前記式(1)においてR=C、R=CHである繰り返し単位を含むポリシラン化合物(大阪ガスケミカル社製、製品名「オグソールSI10」、Mw=22,100)をトルエン/エチルメチルケトン混合溶媒(トルエン:エチルメチルケトン=7:3、濃度5質量%)に溶解した溶液(以下「ポリシラン化合物層形成用溶液A」という。)を塗布し、120℃で1分間加熱してPETフィルム上に厚さ100nm(膜厚)のポリシラン化合物層を形成して成形物を得た。次いで、プラズマイオン注入装置を用いてポリシラン化合物層の表面に、プラズマ生成ガスとして、アルゴン(Ar)を用いて、プラズマイオン注入した。
【0143】
〈プラズマイオン注入の条件〉
・ガス流量:100sccm
・Duty比:1.0%
・繰り返し周波数:1000Hz
・印加電圧:−15kV
・RF電源:周波数 13.56MHz、印加電力 1000W
・チャンバー内圧:0.2Pa
・パルス幅:5μsec
・処理時間(イオン注入時間):5分間
・搬送速度:0.2m/分
【0144】
得られた成形物のイオンが注入された面側に、DCマグネトロンスパッタ法にてGaが5.7質量%含有された酸化亜鉛ターゲット材(住友金属鉱山社製)を用いて、膜厚が100nmになるよう透明導電体層を形成し、透明導電性フィルム1を作製した。
【0145】
スパッタリングの条件を以下に示す
・基板温度:室温
・DC出力:500W
・キャリアガス:アルゴンと酸素を100:1の流量比率になるように調整
・真空度:0.3〜0.8Paの範囲
【0146】
(実施例2)
実施例1において、プラズマ生成ガスとしてアルゴンに代えてヘリウム(He)を用いた以外は、実施例1と同様にして透明導電性フィルム2を作製した。
【0147】
(実施例3)
実施例1において、プラズマ生成ガスとしてアルゴンに代えて窒素(N)を用いた以外は、実施例1と同様にして透明導電性フィルム3を作製した。
【0148】
(実施例4)
実施例1において、プラズマ生成ガスとしてアルゴンに代えて窒素(O)を用いた以外は、実施例1と同様にして透明導電性フィルム4を作製した。
【0149】
(実施例5)
実施例1において、プラズマ生成ガスとしてアルゴンに代えてクリプトン(Kr)を用いた以外は、実施例1と同様にして透明導電性フィルム5を作製した。
【0150】
(実施例6)
実施例1において、印加電圧を−15kVとした以外は、実施例1と同様にして透明導電性フィルム6を作製した。
【0151】
(実施例7)
実施例1において、印加電圧を−20kVとした以外は、実施例1と同様にして透明導電性フィルム7を作製した。
【0152】
(実施例8)
実施例1において、ポリシラン化合物層形成用溶液Aの代わりに、ポリフェニルシラン骨格とポリアルキルシラン骨格を主骨格とするポリシラン化合物(Mw=1,300)に、架橋剤としてエポキシ樹脂を混合したもの(大阪ガスケミカル社製、製品名「オグソールSI−20−12」、以下「ポリシラン化合物層形成用溶液B」という。)を用いる以外は、実施例1と同様にして透明導電性フィルム8を作製した。
【0153】
(比較例1)
PETフィルム上に直接、実施例1と同様にして透明導電体層を形成し、比較例1の透明導電性フィルム1rとした。
【0154】
(比較例2)
実施例1において、プラズマイオン注入を行わない以外は、実施例1と同様にして、透明導電性フィルム2rを作製した。
【0155】
(比較例3)
PETフィルムに実施例1と同様にしてイオン注入し、次いで実施例1と同様にして、透明導電体層を形成し、透明導電性フィルム3rを製造した。
【0156】
(比較例4)
PETフィルム上に、スパッタリング法により、厚さ50nmの窒化ケイ素(SiN)の膜を成膜して、次いで、実施例1と同様にして透明導電体層を形成し、透明導電性フィルム4rを作製した。
【0157】
(比較例5)
実施例1において、ポリシラン化合物層を形成する代わりに、膜厚1μmのウレタンアクリレート層(ウレタンアクリレート575BC、荒川化学工業社製)を形成する以外は、実施例1と同様にして透明導電性フィルム5rを作製した。
【0158】
実施例1〜8、比較例1〜5において、ポリシラン化合物層形成用溶液の種類、用いたイオン注入ガス(プラズマ生成ガス)、イオン注入する際の印加電圧を第1表にまとめて示す。
【0159】
また、実施例1〜8及び比較例2につき、X線光電子分光分析(XPS)装置による元素分析測定を行い、ガスバリア層の表面から深さ方向に向かって、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在割合を分析した。深さ方向の各原子の存在割合は、アルゴンガスを用いてスパッタリングを行い、露出した面における存在割合を測定する操作を繰り返すことにより、深さ方向の存在割合を測定した。その結果を図2〜図10に示す。
ガスバリア層のイオン注入された面の表面(比較例2においては、ポリシラン化合物層の表面)における測定値を下記第1表に示す。
【0160】
図2〜10において、縦軸は、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在量の合計を100とした場合の原子の存在割合(%)を表し、横軸はスパッタリングの積算時間(Sputter Time、分)を表す。スパッタリングの速度は一定であるので、スパッタリングの積算時間(Sputter Time)は、深さに対応している。図2〜10において、四角プロット(C1s)は炭素原子の存在割合、丸プロット(O1s)は酸素原子の存在割合、三角プロット(Si2p)はケイ素原子の存在割合である。
【0161】
第1表、図2〜図10に示すように、実施例で得られた透明導電性フィルム1〜8は、ガスバリア層が、少なくとも、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子を含む材料から構成されてなり、表面から深さ方向に向かって、層中における酸素原子の存在割合が漸次減少し、炭素原子の存在割合が漸次増加する領域(A)を有し、前記領域(A)が、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在量全体に対する、酸素原子の存在割合が20〜55%、炭素原子の存在割合が25〜70%、ケイ素原子の存在割合が5〜20%である部分領域(A1)と、酸素原子の存在割合が1〜15%、炭素原子の存在割合が72〜87%、ケイ素原子の存在割合が7〜18%である部分領域(A2)とを含んでいることを確認した。
一方、比較例2で得られた透明導電性フィルム2rのガスバリア層は、上記のような領域Aが存在しなかった。
【0162】
【表1】

【0163】
次に、実施例1〜8、比較例1〜5で得られた透明導電性フィルム1〜8、1r〜5rのそれぞれについて、水蒸気透過率、波長550nmにおける可視光線透過率、シート抵抗値(R0)を測定した。測定結果を下記第2表に示す。
さらに、前記耐湿熱試験を行い、シート抵抗値R1、R2を測定し、シート抵抗値の変化率T1、T2を算出した。その結果を下記第2表に示す。
【0164】
【表2】

【0165】
第2表から、実施例1〜8の透明導電性フィルム1〜8は、折り曲げ前後の水蒸気透過率が小さく、高いガスバリア性を有していた。また、波長550nmにおける可視光線透過率が70%以上と高く、シート抵抗値が小さく、透明導電性に優れていた。
さらに、透明導電性フィルム1〜8は、耐湿熱試験後のシート抵抗値の変化率T1が0.03以下、T2が0.13以下と共に小さく、高温高湿度環境下においても、シート抵抗値が低く抑えられることがわかった。
【符号の説明】
【0166】
a・・・ガスバリア層
b・・・導電体層
S・・・基材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層、ガスバリア層及び透明導電体層を有する透明導電性フィルムであって、
前記ガスバリア層が、
少なくとも、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子を含む材料から構成されてなり、
表面から深さ方向に向かって、層中における酸素原子の存在割合が漸次減少し、炭素原子の存在割合が漸次増加する領域(A)を有し、
前記領域(A)が、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在量全体に対する、酸素原子の存在割合が20〜55%、炭素原子の存在割合が25〜70%、ケイ素原子の存在割合が5〜20%である部分領域(A1)と、酸素原子の存在割合が1〜15%、炭素原子の存在割合が72〜87%、ケイ素原子の存在割合が7〜18%である部分領域(A2)とを含むものである
ことを特徴とする透明導電性フィルム。
【請求項2】
前記領域(A)が、ポリシラン化合物を含む層の表層部に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の透明導電性フィルム。
【請求項3】
基材層、ガスバリア層及び透明導電体層を有する透明導電性フィルムであって、
前記ガスバリア層が、ポリシラン化合物を含む層に、イオンが注入されて得られる層であることを特徴とする透明導電性フィルム。
【請求項4】
前記ポリシラン化合物が、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む化合物であることを特徴とする請求項2又は3に記載の透明導電性フィルム。
【化1】

(式中、R、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、シリル基、又はハロゲン原子を表し、複数のR、Rは、それぞれ同一であっても相異なっていてもよい。)
【請求項5】
前記ガスバリア層が、ポリシラン化合物を含む層に、プラズマイオン注入法によりイオンが注入されて得られる層であることを特徴とする請求項3又は4に記載の透明導電性フィルム。
【請求項6】
前記イオンが、水素、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトン、ケイ素化合物及び炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも一種のガスがイオン化されたものであることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の透明導電性フィルム。
【請求項7】
前記透明導電体層が、導電性金属酸化物からなるものである請求項1〜6のいずれかに記載の透明導電性フィルム。
【請求項8】
前記導電性金属酸化物が、亜鉛系酸化物であることを特徴とする請求項7に記載の透明導電性フィルム。
【請求項9】
40℃、相対湿度90%雰囲気下での水蒸気透過率が0.5g/m2/day未満であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の透明導電性フィルム。
【請求項10】
請求項2〜9のいずれかに記載の透明導電性フィルムの製造方法であって、ポリシラン化合物を含む層を表面部に有する成形物の、前記ポリシラン化合物を含む層に、イオンを注入する工程を有する透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項11】
イオンを注入する工程において、前記イオンが、水素、酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、キセノン、クリプトン、ケイ素化合物、及び炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも一種のガスがイオン化されたものであることを特徴とする請求項10に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項12】
イオンを注入する工程が、プラズマイオン注入法によりイオンを注入する工程であることを特徴とする請求項10に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれかに記載の透明導電性フィルムからなる電子デバイス用部材。
【請求項14】
請求項13に記載の電子デバイス用部材を備える電子デバイス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−87326(P2012−87326A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232358(P2010−232358)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】