説明

透明導電性フィルム、透明導電性フィルム用下地フィルムおよびタッチパネル

【課題】透明導電層がパターニングされた透明導電性フィルムにおいて、透明導電層のパターンが視えることであり、このパターンが視えない透明導電性フィルムを提供する。
【解決手段】少なくとも基材フィルムと反射調整層からなる下地フィルム上に、パターニングされた透明導電層を有する透明導電性フィルムであって、該透明導電層の屈折率が下地フィルム表層の屈折率よりも高い透明導電性フィルムにおいて、透明導電性フィルムの透明導電層がパターニングされた部分の反射光のY値をYα、透明導電層がパターニングされていない部分の反射光のY値をYβとしたとき、−2≦(Yα−Yβ)≦2であり、更に透明導電層が設けられた部分の反射光のb*値をb*α、透明導電層が設けられていない部分の反射光のb*値をb*βとしたとき、−5.5≦(b*α−b*β)≦5.5である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
タッチパネルに用いられる透明導電性フィルムは、(i)主として抵抗膜方式タッチパネルにおいて用いられる透明導電層が動作領域全面を覆うものと、(ii)主として静電容量方式タッチパネルにおいて用いられる、透明導電層がストライプ状やひし形等の特定形状であるものに大別することができる。本発明は後者即ち透明導電層が特定形状である透明導電性フィルムに関する。またこのフィルムに用いられる下地フィルムおよびタッチパネルに関する。
尚、本明細書においては「透明導電層をストライプ状やひし形等の、特定形状に設ける」ことを「透明導電層をパターニングする」といい、ストライプ状やひし形等の特定形状のことを「パターン」と称す。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルは、通常、CRT、LCDあるいはプラズマディスプレー等の表示装置と一体化して用いられる。そのためタッチパネルに使用される透明導電性フィルムには、低反射性能、高透明性能等、様々な機能が求められている。例えば抵抗膜方式によるタッチパネルは、二つの透明導電性フィルムの間に、これらのフィルムとは屈折率が大きく異なる空気層を含んでいるため、透明導電性フィルムと空気層との界面で多くの光が反射され、光線透過率が低くなりやすいため、ここで用いられる透明導電性フィルムには低反射性能が求められている。
一方、静電容量方式によるタッチパネルは、空気層を持たないため抵抗膜方式よりも光の反射が小さい。よって静電容量方式に用いられる透明導電性フィルムは、抵抗膜方式に用いられる透明導電性フィルムより光線反射率が多少高くても許容される。しかしながら静電容量方式に用いられる透明導電性フィルムには、透明導電層がパターニングされているため、表示装置が映し出す画像の上に格子状やダイヤモンド型の透明導電層パターンが浮き出て、タッチパネル使用者に煩わしさを感じさせてしまうことがある。よって静電容量方式に用いられる透明導電性フィルムには、透明導電層のパターンを視えにくくする性能が求められている。
【0003】
特許文献1の発明は、透明導電層がパターニングされた透明導電性フィルムに係る発明であり、導電面と絶縁面との視認性の差を抑制することを目的とし、絶縁色差調整層を設けることが記載されている。特許文献1請求項2記載の透明導電性フィルムは、導電面と絶縁面のL*a*b*表色系における反射色差△E*a*b*が0〜10に抑えられている。そのため導電面と絶縁面との色相が似通い、透明導電層のパターニングは視え難くなるが、十分とは言えないものであった。例え反射光の色相が似通っていても、反射光の強さが大きく相違していれば、導電面と絶縁面との視認性に差が生じ、使用者に透明導電層のパターンが視え、表示装置が映し出す画像が視えにくくなる。
【0004】
特許文献2の発明も、透明導電層がパターニングされた透明導電性フィルムに関する発明であり、透明導電性フィルムの外観を良好にすることを課題とし、アンダーコート層が採用されている。具体的には、基材フィルム(PET)上に屈折率が1.54の第一層目のアンダーコート層を設け、さらに必要に応じて屈折率1.46の第二層目のアンダーコート層を設けて下地フィルムを調整した後、この下地フィルム上にITO膜を形成し、ITO膜のみ、あるいはITO膜と第二層目のアンダーコート層をエッチングすることにより得られる透明導電性フィルムが記載されている。この透明導電性フィルムはパターン部と非パターン部の450〜650nmにおける平均反射率差が0.6〜2.1であり、尚且つY値差が0.5〜2.1であり、透明導電層のパターンが多少視えにくくはなっているものの、十分とは言えないものであった。△反射率と△Y値が十分に小さくても、パターン部と非パターン部との視認性に差があり、パターンが視えることがある。以下に、その理由を説明する。
【0005】
一般に、透明導電層の屈折率が下地フィルムの表層(即ち、透明導電層が接している層)の屈折率よりも高い場合、反射光を調整する層(以下、「反射調整層」と称す)を採用しないと、透明導電層がパターニングされた面(以下、「パターン面」と称す)の分光反射スペクトルは、480nm以下の低波長領域において急激に上昇する。図3に両面にハードコート層を有するポリエチレンテレフタレートフィルムの分光反射スペクトル(実線)と、このポリエチレンテレフタレートフィルム上に透明導電層(ITO膜)を設けた透明導電性フィルムの分光反射スペクトル(破線)を示す。破線で示す分光反射スペクトルは、反射調整層を採用しない透明導電性フィルムのパターン面の分光反射スペクトルに相当するが、該スペクトルの低波長領域での反射率の上昇は、反射調整層を採用しても完全に抑えることは難しい。そのため、480nm以下の低波長領域において、パターン面の反射率と透明導電層がパターニングされずに下地が露出している面(以下、「下地露出面」と称す)との反射率との差は大きくなりやすい。
低波長領域の反射光は人の目に視えにくい為、多少の差であればパターンが視えることはないが、図3に示す程大きな差であれば、例え低波長領域の光であっても使用者に視えてしまう。そして、このような低波長領域での視認性の差は、450〜650nmにおける平均反射率差との相関では確認することができず、またY値差との相関によっても確認できなかった。これはY値を算出するための「等色関数」(図4に示す)が低波長領域において非常に小さい為である。そのため450〜650nmにおける△反射率が小さく、さらに△Y値も小さい透明導電性フィルムであっても、パターン面と下地露出面との視認性に差があり、透明導電層のパターンが視えてしまう場合が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−182528号
【特許文献2】特開2009−76432号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
透明導電層がパターニングされた透明導電性フィルムにおいて、パターン面と下地露出面との視認性を近似させるためには、380〜780nmの可視光領域の各波長において、パターン面と下地露出面の反射率を完全に一致させることが理想である。しかしながらこのような性能を発揮しうる反射調整層を設計することは非常に困難であり、仮に設計できたとしても、層構成が複雑であったり、層厚や屈折率の許容範囲が狭くなったりするという問題があった。このような状況に鑑み、本発明者らは効果的に視認性を類似させ、使用者に透明導電層のパターンが視えなくなる方法を鋭意検討した。
【0008】
そして反射調整層として屈折率1.75を超える高屈折率層を用いた場合、パターン面のY値と下地露出面のY値を十分に近似させたにもかかわらず、透明導電層のパターンは視えることが分かった。これはパターン面と下地露出面の反射率が、低波長領域で大きく異なっていたためと推察される。
また反射調整層として屈折率1.35〜1.45の低屈折層を用いた場合、透明導電層を設ける前の下地フィルムのY値を十分に低くしたにもかかわらず、透明導電層のパターニングは視えることが分かった。これは透明導電性フィルムの下地露出面のY値は十分に低下したものの、パターン面のY値が低下していなかったためと推察される。
また従来、抵抗膜方式において採用されている反射調整層、即ち高屈折率層と低屈折率層からなる反射調整層についてもその効果を確認し、パターンが視えることが明らかとなった。この現象は、反射調整層が透明導電層を有するパターン面のY値を低く抑えることができたものの、透明導電層を有さない下地露出面のY値を抑えることはできなかったため、透明導電層のパターンが視えてしまったものと推察される。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、透明導電層がパターニングされた透明導電性フィルムにおいて、透明導電層のパターンが視え、表示装置が映し出す画像が視えにくくなるという問題を解決することであり、本発明はこのパターンが視えない透明導電性フィルムを提供することを目的とする。またこの透明導電性フィルムに用いられる下地フィルム(即ち、透明導電層がパターニングされる前のフィルム)およびタッチパネルを提供することも同時にその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、反射調整層によって、パターン面の反射光におけるY値と下地露出面の反射光におけるY値とを近似させるとともに、透明導電層によって変化する色相である「b*」の値を近似させることにより、透明導電層のパターンを視えなくできることを見出し本発明に至った。
【0011】
即ち、本発明は前記課題を解決するために、少なくとも基材フィルムと反射調整層からなる下地フィルム上に、パターニングされた透明導電層を有する透明導電性フィルムであって、透明導電層の屈折率が下地フィルム表層の屈折率よりも高い透明導電性フィルムにおいて、パターン面の反射光のY値をYα、下地露出面の反射光のY値をYβとしたとき、−2≦(Yα−Yβ)≦2であり、更に透明導電層が設けられた部分の反射光のb*値をb*α、透明導電層が設けられていない部分の反射光のb*値をb*βとしたとき、−5.5≦(b*α−b*β)≦5.5である透明導電性フィルムを提供し、
また当該透明導電性フィルムにおいて前記Yαと前記Yβが、共に12以下であるもの、
b*αとb*βが、共に−4.0以上、1.5以下であるものを提供する。
【0012】
また前記透明導電性フィルムにおいて、基材フィルムは、その屈折率が1.53〜1.65、層厚が30〜250μmで、透明導電層は、その屈折率が1.70〜2.30、層厚が10〜40nmであり、反射調整層は、その屈折率が1.55〜1.75、層厚が10〜110nmの中屈折率層であるもの、
基材フィルムは、その屈折率が1.53〜1.65、層厚が30〜250μmで、透明導電層は、その屈折率が1.70〜2.30、層厚が10〜40nmであり、反射調整層は中屈折率層と低屈折率層とからなり、前記中屈折率層は、その屈折率が1.55〜1.75、層厚が10〜110nmで、前記低屈折率層は、その屈折率が1.35〜1.45、層厚が20〜140nmであるものを提供する。
【0013】
更にハードコート層を有する前記各透明導電性フィルム、
及び、前記各透明導電性フィルムに用いられる下地フィルムであって、基材フィルム及び反射調整層、或いは、基材フィルム、反射調整層及びハードコート層からなる透明導電性フィルム用下地フィルムを提供し、
加えて前記透明導電性フィルムを用いた静電容量方式によるタッチパネルを提供するものである。
【0014】
尚、上述したY値はJIS Z8722に準拠し、透明導電層側から標準の光D65を照射し、2度視野角の条件で分光反射率を測定して算出する。またb*はJIS Z8729に準拠して算出する。
【発明の効果】
【0015】
本発明による透明導電性フィルムは、透明導電層がパターニングされているにもかかわらず、その透明導電層のパターンが使用者に視えないので、このフィルムをタッチパネルに使用すると、表示装置が映し出す画像の上に格子状やダイヤモンド型の透明導電層パターンが浮き出ることがなく、タッチパネル使用者に煩わしい印象を与えることがないという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の透明導電性フィルムの異なる実施形態の概念的断面図(A)〜(C)である。
【図2】ハードコート層を有する異なる実施形態の概念的断面図(D)〜(F)である。
【図3】反射調整層を採用していない透明導電性フィルムの分光反射光スペクトルである。
【図4】「XYZ表色系における三刺激値」のY値を求めるための等色関数である。
【図5】実施例4の透明導電性フィルムの分光反射スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の透明導電性フィルムは、少なくとも基材フィルムと反射調整層からなる下地フィルム上に、パターニングされた透明導電層を有する。尚、本発明は透明導電層の屈折率が、下地フィルム表層(即ち透明導電層が接している層)の屈折率よりも高い場合に適用される。透明導電層の屈折率が下地フィルム表層の屈折率よりも低い場合、低波長領域においてパターン面と下地露出面との屈折率差が大きくなるという問題がなくなるため、反射調整層に求められる機能が本発明と異なってくる。
【0018】
本発明の反射調整層はパターン面αの反射光におけるY値(以下、Yαと称す)と、下地露出面βの反射光におけるY値(以下、Yβと称す)との差、即ち(Yα−Yβ)(以下、△Y値と称す)を−2〜2、好ましくは−1〜1に調整し、更にパターン面αの反射光のb*値(以下、b*αと称す)と下地露出面βの反射光のb*値(以下、b*βと称す)との差、即ち(b*α−b*β)(以下、△b*と称す)を−5.5〜5.5、好ましくは−4.5〜4.5に調整する。△Y値、△b*がともに上記範囲内であれば、パターン面αと下地露出面βの視認性は近似し、透明導電層のパターンが視えない。
【0019】
透明導電性フィルムの△Y値、△b*を上記範囲内にするには、反射調整層の屈折率、層厚、層構成を適宜調整するとよく、これらの値は、光学シミュレーションソフトを用いて決定できる。本発明者らは、裏面反射を考慮したシミュレーションソフトに基材の屈折率および透明導電層の屈折率と層厚を入力し、更に反射調整層の屈折率と層厚として様々な値を入力し、パターン面αのYαおよびb*αと、下地露出面βのYβおよびb*βを求め、YαとYβおよびb*αとb*βが近似した際の屈折率、層厚を、反射調整層の好適な値として採用した。
【0020】
また透明導電性フィルムの光線透過率を高めるためには、YαとYβは共に12以内であることが望ましく、特に10以内であることが望ましい。Y値が12を超える透明導電性フィルムは、反射率が高くタッチパネル用途として適さない。また、b*αとb*βは共に−4.0〜1.5であることが望ましく、特に−3.5〜1.0であることが望ましい。b*の値が−4.0〜1.5でない透明導電性フィルムは、透明性が低くタッチパネル用途に適さない。尚、プラスチックフィルムは劣化すると黄色味を帯びる(即ち、b*がプラスの方向に変化する)ため、b*α及びb*βはプラスであると透明導電性フィルムに劣化した印象を与える。そのためb*α、b*βは共にマイナス方向への許容範囲は広いが、プラス方向への許容範囲は狭い。
【0021】
次に、△Y値を−2〜2、△b*を−5.5〜5.5に調整する反射調整層と、この反射調整層が採用された本発明の透明導電性フィルムを、図1、図2に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
また以下、主として基材フィルムの屈折率がポリエチレンテレフタレートフィルムの一般的な値である1.53〜1.65である場合について、透明導電層の屈折率、膜厚がITO膜の一般的な値である屈折率1.70〜2.30、膜厚10〜40nmの場合について検討するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
図1(A)は反射調整層として屈折率が1.55〜1.75の中屈折率層を用いた透明導電性フィルムであり、層構成は「基材フィルム11/反射調整層(中屈折率層)12/透明導電層13」である。基材フィルム11が屈折率1.53〜1.65、透明導電層13が屈折率1.70〜2.30、膜厚10〜40nmの場合、反射調整層は例えば屈折率1.55〜1.75、層厚10〜110nmが好ましい。以下、屈折率1.55〜1.75のことを中屈折率と称す。この透明導電性フィルムは、一層の反射調整層によりパターン面と下地露出面の視認性を類似させることができ、経済性に優れる。
図1(B)は反射調整層として中屈折率層と屈折率1.35〜1.45の低屈折率層を採用した透明導電性フィルムであり、層構成は「基材フィルム11/反射調整層(中屈折率層)12−1/反射調整層(低屈折率層)12−2/透明導電層13」である。尚、反射調整層12−2は屈折率1.35〜1.45、膜厚20〜140nmが好ましい。以下、屈折率1.35〜1.45のことを低屈折率と称す。この透明導電性フィルムは△Y値、△b*が共に本発明の範囲内であるのでパターンが視えにくく、更にYα、Yβの値が共に低く、光線透過率が高い為、表示装置の映し出す画像が鮮明に見える。
図1(C)も反射調整層として中屈折率層と低屈折率層を採用した透明導電性フィルムであるが、層構成は「反射調整層12−2(低屈折率層)/基材フィルム11/反射調整層12−1(中屈折率層)/透明導電層13」である。この透明導電性フィルムは、基材フィルムの両面に反射調整層が設けられているので、加工時の熱により基材フィルム表面が白化する現象を抑制することができる。
【0023】
図1に示した層構成を持つ透明導電性フィルム(A)(B)(C)についてYα、Yβ、△Y値、b*α、b*β、△b*を算出した。積層体(A)〜(C)の各層の屈折率および層厚と併せて表1に記す。
尚、透明導電性フィルム(A)の層構成は図1(A)に示す層構成、即ち「基材フィルム11/反射調整層(中屈折率層)12/透明導電層13」であり、透明導電性フィルム(B)の層構成は図1(B)に示す層構成、即ち「基材フィルム11/反射調整層12−1(中屈折率層)/反射調整層12−2(低屈折率層)/透明導電層13」であり、透明導電性フィルム(C)の層構成は図1(C)に示す層構成、即ち「反射調整層12−2(低屈折率層)/基材フィルム11/反射調整層12−1(中屈折率層)/透明導電層13」である。
【0024】
【表1】

【0025】
図2の透明導電性フィルム2はハードコート層(以下、HC層と称す)24を有する。本発明の透明導電性フィルムは、必要に応じて、基材フィルム21と反射調整層22(22−1、22−2、22−2’)の間、もしくは基材フィルム21の裏面側(透明導電層が設けられない側)にHC層24(24−1、24−2)を有していてもよい。HC層を採用すると、透明導電性フィルムの耐擦傷性が向上する。また、図1(C)に示すように、基材フィルムの両面に反射調整層が設けられていると、基材フィルムの白化を抑制することができるが、基材フィルムの両面にHC層24を設けるとより確実に白化を抑制することができる。
【0026】
図2(D)はHC層として一般的な屈折率1.45〜1.52のHC層を採用し、反射調整層として中屈折率層と低屈折率層を採用した透明導電性フィルムであり、層構成は「HC層24/基材フィルム21/HC層24/反射調整層(中屈折率層)22−1/反射調整層(低屈折率層)22−2/透明導電層23」である。この透明導電性フィルムは、Yα、Yβ、b*α、b*βが低く抑えられているので、低反射、高透明な透明導電性フィルムとなる。
図2(E)はHC層として屈折率が1.55〜1.75の中屈折率HC層を採用し、反射調整層として低屈折率層を採用した透明導電性フィルムであり、層構成は、「反射調整層22−2’(低屈折率層)/基材フィルム21/HC層24−2(中屈折率HC層)/反射調整層22−2(低屈折率層)/透明導電層23」である。以下、屈折率が1.55〜1.75の屈折率のHC層を、中屈折率HCと称す。この透明導電性フィルムは、基材フィルムの裏面に低屈折率層が設けられており、図2(D)に示す透明導電性フィルムよりも反射率が更に低くなる。
図2(F)はHC層として、一般的な屈折率1.45〜1.52のHC層と中屈折率HC層を採用し、反射調整層として低屈折率層を採用した透明導電性フィルムであり、層構成は「HC層24−1/基材フィルム21/HC層24−2(中屈折率HC層)/反射調整層22−2(低屈折率層)/透明導電層23」である。
【0027】
尚、図2(E)(F)に示す透明導電性フィルムは、図2(D)の反射調整層22−1(中屈折率層)とこれに接するHC層24の機能を、中屈折率HC層24−2にて発揮させたものであり、図2(D)の透明導電性フィルムと同程度、或いはそれ以下の反射率を、図2(D)の透明導電性フィルムより1層少ない構成にて達成している。しかしながら基材フィルム21がPETの場合、しばしばフィルム表面に屈折率の低い易接着層が設けられており、このような場合に中屈折率のHC層24−2を採用すると、易接着層と中屈折率HC層との屈折率の差やHC層の層厚によっては、干渉縞が発生する。このような場合は、中屈折率のHC層24−2は採用せず、図2(D)の透明導電性フィルムのように屈折率が1.45〜1.52のHC層と中屈折率の反射調整層を採用するとよい。
【0028】
図2に示した層構成を持つ透明導電性フィルム(D)(E)(F)について、Yα、Yβ、△Y値、b*α、b*β、△b*を算出した。積層体(D)〜(F)の各層の屈折率および層厚と併せて表2に記す。
尚、透明導電性フィルム(D)の層構成は図2(D)に示す層構成、即ち「HC層24/基材フィルム21/HC層24/反射調整層(中屈折率層)22−1/反射調整層(低屈折率層)22−2/透明導電層23」、透明導電性フィルム(E)の層構成は図2(E)に示す層構成、即ち「反射調整層22−2’(低屈折率層)/基材フィルム21/HC層24−2(中屈折率HC層)/反射調整層22−2(低屈折率層)/透明導電層23」、透明導電性フィルム(F)の層構成は図2(F)に示す層構成、即ち「HC層24−1/基材フィルム21/HC層24−2(中屈折率HC層)/反射調整層22−2(低屈折率層)/透明導電層23」である。
【0029】
【表2】

【0030】
本発明の透明導電性フィルムの基材フィルムは、透明性に優れるフィルムであれば特に限定なく用いることができ、例えばトリアセチルセルロースフィルム、ジアセチルセルロースフィルム、アセテートブチレートセルロースフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリアクリルフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリウレタンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスルホンフィルム、環状ポリオレフィンフィルム、トリメチルペンテンフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、(メタ)アクリロニトリルフィルム等を用いることができるが、透明性や屈折率等の光学特性並びに経済性を考慮するとポリエチレンテレフタレートフィルムを好適に用いることができる。基材フィルムの厚さは特に限定されるものではないが、薄くなりすぎると加工適性や強度が不足し、厚くなりすぎるとタッチパネルの感度低下につながるため、30〜250μmが好ましく、特に50〜200μmが好ましい。
【0031】
本発明の透明導電層は、屈折率が下地フィルム表層の屈折率よりも高ければ、特に限定なく用いることができ、例えばインジウム、スズ、亜鉛、ガリウム、アンチモン、チタン、珪素、ジルコニウム、マグネシウム、アルミニウム、パラジウム、タングステンからなる群より選択される少なくとも一種の金属の酸化物や、金、銀、銅を用いることができる。これらの金属酸化物は、必要に応じて、さらに上記群に示された金属原子を含んでいてもよく、例えば酸化スズを含有する酸化インジウム(ITO)が好ましく用いられる。透明導電層の厚さは特に限定されないが、10〜40nmが好ましく、特に15〜30nmが好ましい。透明導電層の厚さが10nm未満では抵抗値の経時安定性に劣る傾向があり、40nmを超えると反射調整層を設けたとしても反射率を抑えることが難しくなる。尚、透明導電層が前述したITOの場合、屈折率は1.80〜2.20という高い値を示す。
【0032】
反射調整層は、従来から透明フィルムの屈折率を調整するために用いられていた材料を適宜用いることができる。例えば屈折率が1.55〜1.75の中屈折率層は、熱硬化性樹脂及び/または電離放射線硬化型樹脂に、ZrO、TiO、CeO、Sb、ITO、Y、La、SiO、ZrO、Al等の微粒子から選択した添加剤を、適宜組み合わせて配合し、所望の屈折率に調節した塗工液をコーティングすることによって形成される。また、例えばAl、CeF等を用いて真空製膜プロセスにて薄膜を形成し、これを中屈折率層としてもよい。
屈折率が1.35〜1.45の低屈折率層は、例えば熱硬化性樹脂及び/または電離放射線硬化型樹脂にSiO、中空シリカ、MgF等の無機微粒子を、適宜組み合わせて配合し、所望の屈折率に調整した塗工液をコーティングすることによって形成される。また、例えばSiO、MgF等を用いて真空製膜プロセスにて薄膜を形成し、これを低屈折率層としてもよい。
【0033】
また、HC層は硬化させた際に良好な硬度を発現し得るものであれば特に限定されず、例えばメラミン系樹脂、ウレタン系樹脂、アルキッド系樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、アクリルシリコン系樹脂等の有機系樹脂や、オルガノアルコキシシラン系、ケイ酸塩系などの無機系バインダーから適宜選択し、使用することができる。中でも、基材フィルムに熱履歴を与えない、常温で塗膜を硬化できるアクリル系の紫外線硬化性樹脂が好適に用いられる。アクリル系の紫外線硬化性樹脂としては、例えば、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、シリコーンアクリレート、アルキルアクリレート等を挙げることができる。また屈折率の調整が必要な場合は、これらの樹脂に各種無機粒子を加えるとよい。また必要に応じ、光開始剤、分散剤などを添加することもできる。
【0034】
次に、本発明の透明導電性フィルムの製造方法について説明する。
本発明の透明導電性フィルムは、基材フィルムに必要に応じてHC層を設けた後、反射調整層を設け、更に透明導電層をパターニングすることによって製造される。基材フィルムにHC層、反射調整層を設ける方法は、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法等の各種真空製膜プロセスや、ロールコーター法、バーコーター法、ダイコーター法等のコーター法等を採用することができるが、生産効率を考慮すると、ロールコーター法、バーコーター法、ダイコーター法等のコーター法を用いることが好ましく、特にダイコーター法が好ましい。
反射調整層上に透明導電層をパターニングする方法は、初めに真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、溶液塗布法等により、透明導電層を反射調整層上に均一に形成した後、透明導電膜が必要な部分にマスキングを施し、マスキングされていない部分の透明導電層をエッチングし、最後にマスキングを取り除く方法が一般的であるが、他の任意の手段を用いることもできる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
また「視認性テスト」は、透明導電性フィルムを目視にて確認し、透明導電層のパターンが視えなかったものは○、不明瞭なパターンが視えたものには△、明らかにパターンが視えたものは×とした。
【0036】
[実施例1]
基材フィルムとして、屈折率1.58、層厚75μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、基材フィルムの両面に、屈折率1.52のハードコート剤を塗布してHC層を形成した。次いで、一方のHC層上に屈折率1.66の紫外線硬化性樹脂を塗布し、反射調整層を形成し、透明導電性フィルム用下地フィルムを得た。尚、HC層、反射調整層は共にダイコーター法にて形成した。またHC層の層厚は5700nm、反射調整層の層厚は98nmであった。
次いで、得られた透明導電性フィルム用下地フィルムに、酸化インジウムと酸化スズの焼結体材料を用い反応性スパッタリング法により、厚さ25nmのITO膜を設けた。尚、ITO膜の屈折率は1.85であった。最後に透明導電層をエッチングし、透明導電層がひし形にパターニングされた実施例1の透明導電性フィルムを得た。
【0037】
[実施例2〜5、比較例1〜3]
基材フィルム、HC層、反射調整層の屈折率、層厚を、表3に示すように変化させた以外は、実施例1と同様にして、透明導電層がひし形にパターニングされた透明導電性フィルムを得た。尚、実施例4、5、比較例3の透明導電性フィルムは反射調整層を2層有し、比較例1の透明導電性フィルムは反射調整層を持たない。
【0038】
【表3】

【0039】
実施例1〜5、比較例1〜3の透明導電性フィルムについて、パターン面と下地露出面のY値、b*を測定し、更に視認性テストを行った。結果を表4に示す。また、実施例4の透明導電性フィルムの分光反射スペクトルを図5に示す。尚、図5の破線はパターン面、実線は下地露出面の分光反射スペクトルである。
【0040】
【表4】

【0041】
実施例1〜5の透明導電性フィルムは、△Y値の値が−2〜2であり、更に△b*の値が−5.5〜5.5であり、視認性に優れるものであった。また反射調整層が中屈折率層と低屈折率層からなる実施例4、5の透明導電性フィルムはパターン面、下地露出面共にY値が低く、光線透過率に優れるものであった。また実施例2、4、5の透明導電性フィルムは、黄色味がなく劣化した印象を与えなかった。
反射調整層を持たない比較例1の透明導電性フィルムは、不明瞭なパターンが視えた。比較例2の透明導電性フィルムは、反射調整層が屈折率1.78の高屈折率層であるが、パターン面の反射率が高く、パターンが視えた。比較例3の透明導電性フィルムは、抵抗膜方式のタッチパネル用透明導電性フィルムに用いられる反射調整層、即ち高屈折率層と低屈折率層からなる反射調整層を採用したものであり、パターン面の反射率は低く抑えられているが、下地露出面の反射率が高く、やはりパターンは視えた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の透明導電性フィルムは、透明導電層がパターニングされる静電容量方式のタッチパネルに好適に用いられる。
またHC層が設けられていない透明導電性フィルムであっても、指や特殊ペン等による加圧を必要としない静電容量方式用としては十分な耐擦傷性を有しており、コストパフォーマンスに優れる。
【符号の説明】
【0043】
1 2 透明導電性フィルム
11 21 基材フィルム
12 12−1 22−1 反射調整層(中屈折率層)
12−2 22−2 22−2’ 反射調整層(低屈折率層)
13 23 透明導電層
24 24−1 HC層
24−2 HC層(中屈折率)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材フィルムと反射調整層とを有する下地フィルム上に、パターニングされた透明導電層が形成された透明導電性フィルムであって、前記透明導電層の屈折率が下地フィルム表層の屈折率よりも高い透明導電性フィルムにおいて、
パターン面の反射光のY値をYα、下地露出面の反射光のY値をYβとしたとき、−2≦(Yα−Yβ)≦2であり、
更にパターン面の反射光のb*値をb*α、下地露出面の反射光のb*値をb*βとしたとき、−5.5≦(b*α−b*β)≦5.5であることを特徴とする透明導電性フィルム。
【請求項2】
前記Yαと前記Yβが、共に12以下であることを特徴とする請求項1記載の透明導電性フィルム。
【請求項3】
前記b*αと前記b*βが、共に−4.0以上、1.5以下であることを特徴とする請求項1または2記載の透明導電性フィルム。
【請求項4】
基材フィルムは、その屈折率が1.53〜1.65、層厚が30〜250μmで、
透明導電層は、その屈折率が1.70〜2.30、層厚が10〜40nmであり、
反射調整層は、その屈折率が1.55〜1.75、層厚が10〜110nmの中屈折率層であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の透明導電性フィルム。
【請求項5】
基材フィルムは、その屈折率が1.53〜1.65、層厚が30〜250μmで、
透明導電層は、その屈折率が1.70〜2.30、層厚が10〜40nmであり、
反射調整層は中屈折率層と低屈折率層とからなり、
前記中屈折率層は、その屈折率が1.55〜1.75、層厚が10〜110nmで、
前記低屈折率層は、その屈折率が1.35〜1.45、層厚が20〜140nmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の透明導電性フィルム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の透明導電性フィルムにおいて、更にハードコート層を有することを特徴とする透明導電性フィルム。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の透明導電性フィルムに用いられる下地フィルムであって、基材フィルム及び反射調整層、或いは、基材フィルム、反射調整層及びハードコート層からなることを特徴とする透明導電性フィルム用下地フィルム。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の透明導電性フィルムを用いたことを特徴とする静電容量方式によるタッチパネル。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−103968(P2012−103968A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252984(P2010−252984)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000206473)大倉工業株式会社 (124)
【Fターム(参考)】