説明

透明導電性薄膜およびその製造方法

【課題】界面活性剤を使わず、また化学修飾を行なわずに、凝集体が少なく薄膜化できる技術を完成させる必要がある。
【解決手段】
本発明は、単層カーボンナノチューブ粉末を、エタノール溶液に加え濃度を10mg/lとして、超音波処理分散させた後、直ちに分散溶液をポリスチレンディッシュに滴下した。その後エタノールを乾燥させ、カーボンナノチューブが薄膜化したポリスチレンディッシュを得ることにより、透過性能と導電性の優れた薄膜である。。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性薄膜およびその製造方法に関するものであり、カーボンナノチューブを分散させて成るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、透明導電性の薄膜を得る方法として、例えばカーボンナノチューブを界面活性剤により分散させる方法や、あるいはカーボンナノチューブ自身を化学修飾することにより分散させ、薄膜化させたいものの表面に添加し乾燥させる方法が知られている。(特許文献1)
然しながら、上記文献1には、透明性は期待できず、電子放出源としての利用である。
また、炭素繊維などの極細導電繊維の量を少なくしても良好な導電性を持った導電層を有する成形体であり、該導電層はその内部で細かい導電繊維は分散されて、少なくとも繊維のある部分が基材に固定され、少なくとも繊維のある部分が導電層の最表面から突出して、前記繊維がお互いに電気的に接触して配列しているものである。これにより光線透過率が50%以上を完成するものであ。(特許文献2)
さらに、カーボンナノチューブの高導電性や半導体特性を維持しながら、溶剤への分散性に優れたカーボンナノチューブ分散体が知られている。これは化学修飾によるものであり、透明との記述があるが、その程度は不明であり、専らカーボンナノチューブからの電界放出による発光体の作製を目的としている。(特許文献3)
また、多層カーボンナノチューブの先行技術として、特開2005−255985号公報があるが、多層カーボンナノチューブをエポキシやウレタンのような樹脂中で8分間超音波処理して、ガラスまたはポリカーボネートなどの処理基板上にキャストしたものが示されている。この先行文献の表1から明らかなように、全光透過率は高い値(92%、85.5%、94.4%)を示しているが、表面抵抗が1.0×1011Ω/□と極めて大きな値である。表面抵抗が3.25×10Ω/□の場合には、全光透過率が5.4%である。(特許文献4)
【0003】
【特許文献1】特開2007−112133号公報
【特許文献2】特開2003−59391号公報
【特許文献3】特開2005−89738号公報
【特許文献4】特開2005−255985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カーボンナノチューブは強い凝集性を持つため、薄膜化のためには一度分散させる必要がある。そのために、一般に界面活性剤の使用や化学修飾が行われてきた。
然しながら、これらの薄膜化法には以下の問題点がある。
▲1▼界面活性剤が必要である。
▲2▼界面活性剤がカーボンナノチューブの表面に強固に付着し、カーボンナノチューブの表面性状を変えてしまう可能性がある。
▲3▼残留した界面活性剤は多くの場合、細胞毒性を持つ。
▲4▼修飾することによるコストがかかる。
▲5▼化学修飾によりカーボンナノチューブ構造にダメージを与え、カーボンナノチューブが本来持つ性能を低下させてします。
▲6▼それに伴い表面性状も変化する。
以上のような課題が有り、このことによりカーボンナノチューブの薄膜化では、界面活性剤を使わず、また化学修飾を行なわずに、凝集体が少なく薄膜化できる技術を完成させる必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、かかる従来の薄膜化の課題を解決するとともに、表面抵抗は極めて小さく、透明化をも完成させたものである。これにより透過率が80%以上の透明導電性薄膜を安価に提供することを目的にするものである。
本発明により提供される透明導電性薄膜は、カーボンナノチューブをエタノール等有機溶剤中で超音波処理かけた直後に、基板へ塗布することにより形成する透明導電膜とその作製方法であり、
界面活性剤の使用や化学修飾せずに透明導電性薄膜を提供するものである。
【0006】
さらには、1本ないしは、数本から数十本集まったバンドル状のカーボンナノチューブが十分にほぐれかつ、適度なネットワークを形成することにより、透過性と導電性を有する透明導電性薄膜を提供するものである。
【0007】
本発明を実施例に従って説明すると、単層カーボンナノチューブ粉末(1mg)を、エタノール溶液(100ml)に加え濃度を10mg/lとして、超音波処理(35kHz)を30分間行い分散させた後、直ちに分散溶液を50μl取り、直径5cmポリスチレンディッシュ(コーニング社製)に滴下した。その後エタノールを乾燥させ、カーボンナノチューブが薄膜化したポリスチレンディッシュを得た。上記の滴下によって得られた薄膜の観察を走査電子顕微鏡(SEM:ScanningElectronMicroscope)によって行った。(図3、図4)。図に示したように、単層カーボンナノチューブはバンドル単位で比較的均一に分散していることがわかる。また、ポリスチレンディッシュ表面に吸着している。さらには極めて僅かな単層カーボンナノチューブの量でネットワークを形成している。
【0008】
薄膜の厚さは、分散液の濃度または滴下と乾燥を繰り返し行なう事により調整することが可能である。
【0009】
また、カーボンナノチューブ分散液を、20μg/dish(0.96μg/cm)となるよう滴下と乾燥を40回繰り返し薄膜化した。これは5mg/100ml分散液を用いれば、8回繰り返す場合と略同一の結果を得ることができる。
【0010】
上記条件での実験結果は、光線透過率は、光の波長が390nm〜790nmの範囲において略83.7%(図2)であり、またシート抵抗も3.1×1000〜4.8×1000Ω/□であった。(図1)
【0011】
ここで単層カーボンナノチューブとして説明したが、多層カーボンナノチューブも含むカーボンナノチューブであり、少なくとも単層カーボンナノチューブが存在していればよいものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば超音波処理時間等)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えばエタノール溶液濃度等)は、当該分野における当業者の設計事項として変更可能であり、発明を限定するものではない。
【0013】
本発明は、H、Arの混合ガス雰囲気中でFe単体を触媒としてグラファイト棒に配合した陽極と陰極との間にアーク放電を発生させ、陽極からカーボンを蒸発させ、単層カーボンナノチューブを含む綿状堆積物として陰極と真空チャンバ内壁を結ぶ空間に堆積した単層カーボンナノチューブ精製・乾燥させてなる粉末を、エタノール溶液に加え濃度を10mg/lとして、超音波処理(35kHz)を30分間行い分散させた後、直ちに分散溶液を50μl取り、6cmポリスチレンディッシュに滴下した。その後エタノールを乾燥させ、カーボンナノチューブが薄膜化したポリスチレンディッシュを得た。
【0014】
また、単層カーボンナノチューブの作製方法として、Heガス雰囲気中で、Ni及びYを触媒として、グラファイト棒に配合した陽極と陰極との間にアーク放電を発生させ、陽極からカーボンを蒸発させた単層カーボンナノチューブを使用しても良い。
【0015】
上記触媒には、Feの酸化物や炭化物等から製造された粒径10nm以下の超微粒状のFe単体が好適である。H−Arの混合ガスは、Ar含有量を20〜80体積%(好ましくは、40〜60体積%)の範囲に調整する。
【0016】
本発明においての塗布方法は、スプレー、スピンコート、ディッシュコーティングの方法がとられるものであり、単なる適下でもよい。また、薄膜の厚さは、分散液の濃度または滴下と乾燥を繰り返し行なう事により調整することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、カーボンナノチューブを界面活性剤により分散させる方法や、あるいはカーボンナノチューブ自身を化学修飾することにより分散させ、薄膜化させたいものの表面に添加し乾燥させる方法が知られているが、これら欠点を解消した安価で容易に作製できるものであり、所望の光線透過性能を得ながら、抵抗値の極めて有益なる導電性を得ることが出来るものである。
【0018】
以上説明したように本発明は、上記機能を利用した導電性薄膜分野、電磁波の遮断、再生医療における細胞培養担体や新機能を期待するコーティング剤として利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】 本発明のシート抵抗及び500nmにおける透過率(%)を示す表である。
【図2】 本発明の透過率を示す表である。
【図3】 本発明の単層カーボンナノチューブを薄膜化したポリスチレンディッシュ表面の弱拡大(6.00K)走査電子顕微鏡写真である。
【図4】 同上の強拡大(30.0K)の走査電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層カーボンナノチューブ粉末が、超音波処理によりエタノール溶液中に分散し、処理基板上に形成させたことを特徴とする透明導電性薄膜。
【請求項2】
、Arの混合ガス雰囲気中でFe単体を触媒として、グラファイト棒に配合した陽極と陰極との間にアーク放電を発生させ、陽極からカーボンを蒸発させた単層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1記載の透明導電性薄膜。
【請求項3】
Heガス雰囲気中で、Ni及びYを触媒として、グラファイト棒に配合した陽極と陰極との間にアーク放電を発生させ、陽極からカーボンを蒸発させた単層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1記載の透明導電性薄膜。
【請求項4】
単層カーボンナノチューブ粉末を、エタノール溶液に加えた後、超音波処理を行い分散させた後、直ちに分散溶液を処理基板上に、滴下等の皮膜処理を行った後、エタノールを乾燥させ、カーボンナノチューブが薄膜状に被覆してなることを特徴とする透明導電性薄膜の製造方法。
【請求項5】
、Arの混合ガス雰囲気中でFe単体を触媒としてグラファイト棒に配合した陽極と陰極との間にアーク放電を発生させ、陽極からカーボンを蒸発させた作製された単層カーボンナノチューブ粉末を、エタノール溶液に加えた時の単層カーボンナノチューブの濃度が1〜100mg/lである請求項2記載のカーボンナノチューブが薄膜状に被覆してなることを特徴とする透明導電性薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−16326(P2009−16326A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202344(P2007−202344)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(507046521)株式会社名城ナノカーボン (9)
【Fターム(参考)】