説明

透明導電性薄膜の製造方法

【課題】 得られる結晶性透明導電性膜の抵抗値のばらつきを低減し、安定生産を可能とする透明導電性膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】 酸化インジウム・酸化スズを主成分とするターゲットを用いて、気相法により透明導電性薄膜を透明フィルム基材上に形成する透明導電性薄膜の製造方法であって、アルゴンガスと窒素ガスと水蒸気ガスとを含み、窒素ガスの含有量がアルゴンガスに対して2500ppm〜8500ppmの範囲内であり、かつ、水蒸気ガスの含有量がアルゴンガスに対して1450ppm〜13500ppmの範囲内であるアルゴン雰囲気中で成膜が行われる透明導電性薄膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性薄膜の製造方法に関する。前記透明導電性薄膜は、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイなどの新しいディスプレイ方式やタッチパネルなどの透明電極のほか、透明物品の帯電防止や電磁波遮断などのために用いられている。
【背景技術】
【0002】
従来より、透明導電性薄膜としては、透明性に優れていることから、酸化インジウム・酸化スズ(ITO)薄膜が用いられている。透明導電性薄膜は、上記用途に用いられるが、例えば、タッチパネル等に適用される場合には、位置検出精度の点から、抵抗値が高いことが望まれる場合がある。また、透明導電性薄膜は、上記用途に用いられることから、高温・高湿の環境下における信頼性(抵抗値の変化率が小さい方が信頼性が高い)を満足することが求められる。また、透明導電性薄膜は、信頼性を向上させるために、当該膜を形成したのち、当該膜を結晶化させることができる。
【0003】
しかし、酸化インジウム・酸化スズ薄膜を用いた透明導電性薄膜は、抵抗値が低く、また前記信頼性も十分でない。前記信頼性については、透明導電性薄膜の膜厚を厚くすることにより、改良することができるが、前記膜厚を厚くすると、透明性や抵抗値が低下するため好ましくない。また、酸化インジウム・酸化スズ薄膜における酸化スズの割合を多くすることで、透明導電性薄膜の前記信頼性を向上することができるが、酸化スズの割合を多くしすぎると、結晶化に要する時間が非常に長くなる点で好ましくない。
【0004】
上記問題に対して、酸化インジウム・酸化スズ薄膜に窒素をドーピングすることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。かかる特許文献1には、窒素を含有する透明導電性薄膜は、酸化インジウム・酸化スズに対して、窒素含有量で少なくとも0.25重量%以上含有させることで、透明導電性薄膜の抵抗値や前記信頼性を向上させる効果を有することが記載されている。しかし、特許文献1に記載されている透明導電性薄膜は、アモルファスなものであり、これを、結晶化して、前記信頼性をより向上させるための、結晶化に要する時間が非常に長い。
【0005】
そこで、従来、上記問題に対して、窒素ガスを0.45原子%以下の割合でドーピングした結晶性透明導電性膜が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2の結晶性透明導電性膜では、酸化インジウム・酸化スズに対する窒素の含有比率を0.45原子%以上にすることで、高抵抗を有し、且つ、高温・高湿の環境下における信頼性を良好としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−308612号公報
【特許文献2】特開2007−200823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載の結晶性透明導電性膜は、窒素ガスを、アルゴンガスと窒素ガスの合計に対して、3000ppm〜13000ppmの範囲で含むアルゴン雰囲気中において、酸化インジウムと酸化スズとの混合物の焼結体を透明導電性薄膜形成材料に用いて気相法により、酸化インジウムと酸化スズの合計に対して酸化スズを9重量%以下の割合で含有する酸化インジウム・酸化スズを成膜して形成している。しかしながら、特許文献2に記載の結晶性透明導電性膜の製造方法のように、アルゴン雰囲気中に窒素ガスを含有させると、得られる結晶性透明導電性膜の抵抗値にばらつきが発生する場合があるという新たな課題が生じ、安定生産の観点で改善の余地があった。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、得られる結晶性透明導電性膜の抵抗値のばらつきを低減し、安定生産を可能とする透明導電性膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上のような目的を達成するために、本発明者らは、透明導電性薄膜の製造方法について鋭意研究を行った。その結果、アルゴン雰囲気中に窒素を含有させる際、アルゴン雰囲気中の水蒸気ガスの含有量を特定の範囲内とすることにより、製造される結晶性透明導電性薄膜の抵抗値のばらつきが改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の透明導電性薄膜の製造方法は、酸化インジウム・酸化スズを主成分とするターゲットを用いて、気相法により透明導電性薄膜を透明フィルム基材上に形成する透明導電性薄膜の製造方法であって、アルゴンガスと窒素ガスと水蒸気ガスとを含み、前記窒素ガスの含有量がアルゴンガスに対して2500ppm〜8500ppmの範囲内であり、かつ、前記水蒸気ガスの含有量がアルゴンガスに対して1450ppm〜13500ppmの範囲内であるアルゴン雰囲気中で成膜が行われることを特徴とする。
【0011】
前記構成によれば、当該透明導電性薄膜を気相法で成膜するにあたり、窒素ガスをアルゴンガスに対して2500ppm〜8500ppmの範囲内で含有するアルゴン雰囲気中で行う。アルゴン雰囲気中における、窒素ガスの割合が2500ppm以上であるため、成膜される透明導電性薄膜に含有させる窒素量を充分とすることができ、抵抗値を向上させることができる。また高温・高湿の環境下における信頼性を充分なものとすることかできる。一方、アルゴン雰囲気中における、窒素ガスの割合が8500ppm以下であるため、透明導電性薄膜を結晶化させる際には、その工程を短時間とすることができ、製造効率を良好とすることができる。
【0012】
また、当該透明導電性薄膜を気相法で成膜するにあたり、水蒸気ガスをアルゴンガスに対して1450ppm〜13500ppmの範囲内で含有するアルゴン雰囲気中で行う。上述のように、高抵抗の透明導電性膜を得るために、成膜時のアルゴン雰囲気中に窒素ガスを添加する場合、成膜室内のアルゴン雰囲気中の水分量(水蒸気ガスの量)が少ないと、僅かにその水分量に変化があった場合でも、当該透明導電性薄膜を結晶化させることにより得られる結晶性透明導電性膜の抵抗値が大きく変化してしまう。一方、成膜室内のアルゴン雰囲気中の水分量を多くすると、前記結晶性透明導電性膜の抵抗値のばらつきは抑制されるが、加熱処理による結晶化が起こり難くなる。本発明では、アルゴン雰囲気中における、水蒸気ガスの割合が1450ppm以上であるため、当該透明導電性薄膜を結晶化させることにより得られる結晶性透明導電性膜の抵抗値のばらつきが低減され、安定生産が可能となる。一方、アルゴン雰囲気中における、水蒸気ガスの割合が13500ppm以下であるため、透明導電性薄膜を結晶化させる際には、その工程を短時間とすることができ、製造効率を良好とすることができる。
【0013】
前記構成において、前記ターゲットは、酸化インジウムと酸化スズの合計に対して酸化スズを1〜9重量%の範囲内で含有することが好ましい。酸化インジウムと酸化スズの合計に対して酸化スズを1〜9重量%の範囲内で含有する酸化インジウム・酸化スズを成膜し、酸化スズを含有させることによる抵抗値の低下が小さくなるように制御しているため、成膜される透明導電性薄膜の抵抗値を高くすることができる。
【0014】
また、本発明の結晶性透明導電性薄膜の製造方法は、前記に記載の透明導電性薄膜の製造方法により得られた透明導電性薄膜を加熱処理して結晶化する結晶化工程を有することを特徴とする。透明導電性薄膜に含有されている窒素ガス及び水蒸気ガスの割合が一定量以下であるため、その後に行われる結晶化工程を短時間とすることができ、製造効率を良好とすることができる。
【0015】
前記構成においては、前記結晶化工程における加熱処理条件が、120〜155℃で、2.5時間以下であることが好ましい。結晶化工程における加熱処理条件は、例えば、透明導電性薄膜を形成する透明フィルム基材として、プラスチック基材を用いる場合には、高温になると、フィルム基材の性能を損なうおそれがあること、一方、ある程度の加熱温度でないと、結晶化速度が遅くなり製造効率が低下することから、前記結晶化工程における加熱温度は、120〜155℃が好ましい。なお、本発明では、結晶化工程が施される透明導電性薄膜は窒素を含有しているものの、その含有量は微量であり、結晶化速度を損なわせるものではない。したがって、前記加熱温度の範囲であれば、結晶化工程を、好ましくは2.5時間以下で行うことができ、結晶化工程を効率よく行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態に係る透明導電性薄膜の製造方法では、まず、酸化インジウム・酸化スズを主成分とするターゲットを用い、アルゴンガスと窒素ガスと水蒸気ガスとを含み、前記窒素ガスの含有量がアルゴンガスに対して2500ppm〜8500ppmの範囲内であり、前記水蒸気ガスの含有量がアルゴンガスに対して1450ppm〜13500ppmの範囲内であるアルゴン雰囲気中において、気相法により成膜して、透明導電性薄膜を形成する。これにより、窒素が透明導電性薄膜中に含有される。
【0017】
また、本実施形態に係る透明導電性薄膜の製造方法では、酸化インジウム・酸化スズを主成分とするターゲットを用いるため、高温・高湿の環境下における信頼性を良好とすることができる。ターゲットには、酸化スズの割合が、酸化インジウムと酸化スズの合計に対して1〜9重量%の範囲内となるように混合し、焼結したものを用いるのが好ましい。前記酸化スズの前記割合は、2〜9重量%であるのが好ましく、3〜8重量%であることがより好ましい。酸化スズの前記割合を9重量%以下とすることにより、酸化スズを含有させることによる抵抗値の低下が抑制される。また、結晶化速度の低下を抑制することかできる。なお、一般的には、ターゲットにおける酸化インジウムと酸化スズとの比率は、形成される透明導電性薄膜中の組成比と略同一となる。前記ターゲットに含有される酸化インジウム・酸化スズ以外の副成分としては、例えば、チタン、亜鉛、銅、アンチモン、ツリウム、リチウム、マグネシウム等を挙げることができる。前記副成分の含有量としては、酸化インジウム・酸化スズに対して、1〜10重量%であることが好ましい。
【0018】
気相法としては、各種手段を採用できるが、例えば、電子ビーム蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等があげられる。これらのなかでも、均一な薄膜が得られる点から、スパッタ法が好ましい。スパッタ法を採用する場合には、DCマグネトロンスパッタ法を採用できる。
【0019】
アルゴン雰囲気における窒素ガスの含有量は、前記の通り、アルゴンガスに対して、容量比で、2500ppm〜8500ppmの範囲内であり、2500ppm〜8000ppmであることが好ましく、3000ppm〜6500ppmであることがより好ましい。アルゴン雰囲気中における、窒素ガスの割合が2500ppm以上であるため、成膜される透明導電性薄膜に含有させる窒素量を充分とすることができ、抵抗値を向上させることができる。また高温・高湿の環境下における信頼性を充分なものとすることができる。一方、アルゴン雰囲気中における、窒素ガスの割合が8500ppm以下であるため、透明導電性薄膜を結晶化させる際には、その工程を短時間とすることができ、製造効率を良好とすることができる。
【0020】
また、アルゴン雰囲気における水蒸気ガスの含有量は、前記の通り、アルゴンガスに対して、容量比で、1450ppm〜13500ppmの範囲内であり、1500ppm〜12000ppmであることが好ましく、2000ppm〜10000ppmであることがより好ましい。アルゴン雰囲気中における、水蒸気ガスの割合が1450ppm以上であるため、成膜される透明導電性薄膜の抵抗値のばらつきが低減され、安定生産が可能となる。特に、透明導電性薄膜をロールに巻取りながら連続的に製造する場合に、長尺の透明導電性薄膜全体での抵抗値のばらつきが低減され、安定生産が可能となる。一方、アルゴン雰囲気中における、水蒸気ガスの割合が13500ppm以下であるため、透明導電性薄膜を結晶化させる際には、その工程を短時間とすることができ、製造効率を良好とすることができる。
【0021】
アルゴン雰囲気における水蒸気ガスの前記含有量を1450ppm〜13500ppmの範囲内に制御する方法としては、例えば、従来公知の成膜装置(例えば、電子ビーム蒸着装置、スパッタリング装置、イオンプレーティング装置)にアルゴン雰囲気中の水蒸気ガスの含有量を制御する手段を採用することにより制御することができる。具体的には、成膜装置の成膜室内に水蒸気ガスを供給する水供給手段、及び、前記成膜室内の水蒸気ガスを排気する排気手段を設けるとともに、前記成膜室内の水蒸気ガスの濃度を測定する水蒸気ガス濃度測定装置を設ける。そして、水蒸気ガス濃度測定装置により得られた水蒸気ガスの濃度に基づいて、水供給手段により水蒸気ガスを供給、又は、排気手段により水蒸気ガスを排気する方法が挙げられる。このような制御は、CPU、RAM等を備える制御装置を用いて行うことができる。
【0022】
前記アルゴン雰囲気中には、窒素ガス及び水蒸気ガスの他に、酸素ガスを含有することができる。酸素ガスの含有量は、特に制限されないが、アルゴンガスに対して、容量比で、20000ppm以下、さらには3000ppm〜20000ppmである。酸素ガスの前記含有量を20000ppm以下とし、酸素ガスの割合が多くならないようにすることにより、後述の加熱処理による結晶化を良好とすることができる。
【0023】
形成する透明導電性薄膜の膜厚としては、通常10nm以上とすることができ、好ましくは10〜300nm、より好ましくは15〜100nm、さらに好ましくは20〜70nmである。前記膜厚を10nm以上とすることにより、表面電気抵抗が一定値以下(例えば、1×103Ω/□以下)となる良好な導電性を有する連続被膜を得やすい。一方、前記膜厚を300nm以下とすることにより、透明性を高く維持することかできる。
【0024】
本実施形態に係る透明導電性薄膜の製造方法では、次いで、前記透明導電性薄膜を加熱処理して結晶化する。前記結晶化工程における加熱処理条件は、120〜155℃で、2.5時間以下であることが好ましい。透明導電性薄膜を形成するフィルム基材として、プラスチック基材を用いる場合、高温になると、フィルム基材の性能を損なうおそれがある。一方、ある程度の加熱温度でないと、結晶化速度が遅くなり製造効率が低下する。そこで、前記結晶化工程における加熱温度は、120〜155℃が好ましく、より好ましくは、135〜155℃、さらに好ましくは140〜155℃である。また、結晶化工程が施される透明導電性薄膜は窒素を含有しているものの、その含有量は微量であり、結晶化速度を損なわせるものではない。したがって、前記加熱温度の範囲であれば、結晶化工程を、好ましくは2.5時間以下、より好ましくは2時間以下、さらに好ましくは1.5時間以下で行うことができ、結晶化工程を効率よく行うことができる。
【0025】
上記製造方法では、透明導電性薄膜中の結晶の割合は、50面積%以上とすることができる。前記結晶の割合を、50面積%以上とすることにより、高温・高湿の環境下における信頼性を高く維持することができる。前記結晶の割合は、70面積%以上であることが好ましく、80面積%以上であることがより好ましい。また、全て結晶とすることもできる。結晶化の確認方法としては、基材上にITO膜が形成された積層体を140℃の加熱オーブン中で90分間加熱し、取り出した積層体について、塩酸に浸漬後の抵抗値により結晶化の完了を判断することができる。
【0026】
また、上記製造方法では、透明導電性薄膜を形成する結晶の最大粒径は350nm以下とすることができる。前記最大粒径は250nm以下、さらには150nm以下であることが好ましい。また、前記結晶の最大粒径は、前記薄膜中に非結晶状態に類似した部分が多くなり、高温・高湿の環境下における信頼性が低下することを抑制する観点から、結晶粒径が極端に小さくなりすぎないようにするため、10nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましい。
【0027】
結晶の最大粒径および分布は、電界放出型透過型電子顕微鏡(FE−TEM)により導電性薄膜を表面観察することにより決定される。結晶の最大粒径は、観察される多角形状または長円形状の各領域における、対角線または直径の最大のものである。また、前記最大粒径を有する結晶の含有量は、具体的には、前記電子顕微鏡画像において単位面積(1.5μm×1.5μm)当たり、各粒径の結晶が占める面積である。
【0028】
上記製造方法により、各種基材上に、酸化インジウム・酸化スズを主成分とする透明導電性薄膜を形成することができる。例えば、透明フィルム基材の片面に、透明導電性薄膜を形成することができ、これにより透明導電性フィルムが得られる。
【0029】
前記透明フィルム基材は、その材質に特に限定はなく、適宜なものを使用することができる。具体的には、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂などが挙げられる。これらの中でも、特に好ましいものは、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などである。
【0030】
透明導電性フィルムに使用する透明フィルム基材としては、透明なフィルム状シートを1枚用いる、または、2枚以上の透明なフィルム状シートを、粘着剤層を介して貼り合わせた積層体を用いる。
【0031】
透明フィルム基材の厚みは、20〜300μm程度であることが好ましい。より好ましくは20〜200μmである。透明フィルム基材の厚みを20μm以上とすることにより、高温・高湿の環境下における信頼性や加工性を良好なものとすることができる。また、透明フィルム基材の厚みを300μm以下とすることにより、タッチパネルに採用する場合にタッチパネル部位を小さくすることができるとともに、タッチパネル入力特性として、軽加重とすることができる。
【0032】
また、透明フィルム基材が、2枚以上の透明なフィルム状シートの積層体である場合には、各フィルム状シートの厚さ、材料を適宜に選択することができるが、少なくとも一方は、20〜125μmであるのが好ましい。
【0033】
透明フィルム基材を、透明なフィルム状シートの積層体とする場合に用いる粘着剤層としては、透明性を有するものを特に制限なく使用できる。たとえば、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤などが用いられる。粘着剤層は、透明基体の接着後そのクッション効果により、フィルム状シートの一方の面に設けられた透明導電性薄膜の耐擦傷性やタッチパネル用としての打点特性を向上させる機能を有する。この機能をより良く発揮させる観点から、粘着剤層の弾性係数を1〜100N/cm2の範囲、厚さを1μm以上、通常5〜100μmの範囲に設定するのが好ましい。
【0034】
上記透明導電性薄膜は、アンカー層を介して、前記フィルム基材に設けられていてもよい。アンカー層は1層または2層以上設けることができる。アンカー層としては、無機物、有機物または無機物と有機物との混合物により形成する。アンカー層の形成は、フィルム基材と透明導電性薄膜との密着性を向上させるとともに、透明導電性薄膜の耐擦傷性や耐屈曲性を向上させ、タッチパネル用としての打点特性の向上に有効である。
【0035】
アンカー層を形成する無機材料としては、例えば、無機物として、SiO2、MgF2、A123などが好ましく用いられる。また有機物としてはアクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、シロキサン系ポリマーなどの有機物が挙げられる。特に、有機物としては、メラミン樹脂とアルキド樹脂と有機シラン縮合物の混合物からなる熱硬化型樹脂を使用するのが望ましい。
【0036】
アンカー層は、上記の材料を用いて、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーテフィング法、塗工法などにより形成できる。
【0037】
なお、透明導電性薄膜の付設に際しては、フィルム基材のフィルム表面にコロナ放電処理、紫外線照射処理、プラズマ処理、スパッタエッチング処理等の適宜な接着処理を施して、透明導電性薄膜との密着性を高めることもできる。
【0038】
上記フィルム基材において、透明導電性薄膜を設けない側の面には、ハードコート層を形成することができる。ハードコート処理は、例えばアクリルウレタン系樹脂やシロキサン系樹脂などの硬質樹脂を塗布して硬化処理する方法などにより行うことができる。ハードコート処理に際しては、前記アクリルウレタン系樹脂やシロキサン系樹脂などの硬質樹脂にシリコーン樹脂等を配合して表面を粗面化して、タッチパネル等として実用した際に鏡作用による写り込みを防止しうるノングレア面を同時に形成することもできる。またハードコート層上には防汚層を形成することもできる。
【0039】
ハードコート層を形成する際、厚さが薄いと硬度不足となり、一方厚すぎるとクラックが発生する場合がある。また、カールの防止特性等も考慮に入れると、好ましいハードコート層の厚さは0.1〜30μm程度であるのが好ましい。
【0040】
本実施形態に係る透明導電性フィルムの光透過率は86%以上であることが好ましい。より好ましくは88%以上である。透明導電性フィルムの光透過率を86%以上とすることにより、本実施形態の透明導電性フィルムを用いてタッチパネルを形成した場合、表示を明るくすることができ、光学特性が良好となる。
【0041】
本実施形態に係る透明導電性フィルムはタッチパネルのパネル板として好適に適用することができる。タッチパネルとしては、抵抗膜方式のタッチパネルや、静電容量方式のタッチパネル等を挙げることができる。すなわち、透明導電性薄膜を有する一対のパネル板を、互いに直交する縞状に形成した透明導電性薄膜同士が対向するように、スペーサを介して対向配置してなるタッチパネルにおいて、一方のパネル板として、上記透明導電性フィルムを用いることができる(通常、押圧する上側のパネル板)。このタッチパネルは、上側のパネル板側より、スペーサの弾性力に抗して押圧打点したとき、透明導電性薄膜同士が接触して、電気回路のON状態となり、上記押圧を解除すると、元のOFF状態に戻る、透明スイッチ構体として機能する。タッチパネルに用いるパネル板は、上下いずれか一方には、本実施形態の透明導電性フィルムを用いることができるが、他のパネル板は、プラスチックフィルムやガラス板などからなる透明基体に透明導電性薄膜を設けたものを用いることができる。上下いずれも、本実施形態に係る透明導電性フィルムを用いてもよい。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の実施例を、比較例と対比して記載し、より具体的に説明する。なお、以下において、部とあるのは重量部を意味するものとする。
【0043】
実施例1
(フィルム基材)
厚さが25μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、第1PETフィルムという)からなる透明なフィルム状シートを用いた。
【0044】
(アンカー層の形成)
上記第1PETフィルムの片面に、メラミン樹脂:アルキド樹脂:有機シラン縮合物=2:2:1(重量比)からなる熱硬化型樹脂組成物の硬化被膜(屈折率1.54,厚さ150nm)を形成した。
【0045】
(透明導電薄膜の形成)
上記アンカー層に、酸化インジウム・酸化スズ(酸化インジウム97重量%,酸化スズ3重量%)をターゲットとして用い、4×10-1Paのアルゴン雰囲気(アルゴンガス:酸素ガス=100:1(容量比),窒素ガスをアルゴンガスに対して6000ppm含有(容量比),水蒸気ガスをアルゴンガスに対して1500〜2000ppmの範囲内で含有(容量比))中で、スパッタリング法により、厚さが25nmの透明導電薄膜(ITO薄膜)を形成した。スパッタリング中の水蒸気ガス含有量の制御は、以下のように行った。すなわち、成膜装置の成膜室内に、水蒸気ガスを供給する水供給装置、及び、成膜室内の水蒸気ガスを排気する排気装置を設けるとともに、成膜室内の水蒸気ガスの濃度を測定する水蒸気ガス濃度測定装置を設けた。そして、水蒸気ガス濃度測定装置により得られた水蒸気ガスの濃度に基づいて、水供給装置により水蒸気ガスを供給したり、排気装置により水蒸気ガスを排気したりすることにより行った。
【0046】
次いで、150℃で1時間の結晶化速度で、加熱処理して、結晶性透明導電薄膜とし、透明導電性フィルムを得た。
【0047】
(ハードコート層の形成)
厚さ125μmのPETフィルム(以下、第2PETフィルムという)の一方の面に、アクリル・ウレタン系樹脂(大日本インキ化学工業社製の商品名「ユニディック17−806」)100部に、光重合開始剤としてヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャルティケミカルズ社製の商品名「イルガキュア184」)5部を加えて、50重量%の濃度に希釈したトルエン溶液を塗布し、100℃で3分乾燥後、直ちにオゾンタイプ高圧水銀灯(80W/cm,15cm集光型)2灯で紫外線照射を行い、厚さが5μmのハードコート層を形成した。
【0048】
(透明導電性積層体の作製)
次いで、上記第2PETフィルムのハードコート層とは他面に、弾性係数が10N/cm2に調整された透明なアクリル系粘着剤層(アクリル酸ブチル:アクリル酸:酢酸ビニルの重量比100:2:5の単量体混合物の共重合体100部に、イソシアネート系架橋剤を1部配合してなるアクリル系粘着剤)を、約20μmの厚さに形成した。さらにこの粘着剤層面に、上記透明導電性フィルムの第1PETフィルム側の面(ITO薄膜を形成しない面)を貼り合わせて、透明導電性積層体を作製した。
【0049】
実施例2〜5、比較例1〜5
実施例1の結晶性透明導電薄膜の形成において、アルゴン雰囲気における窒素ガスの割合、及び、水蒸気ガスの割合を表1に示すように変えたこと以外は、実施例1と同様にして、透明導電性積層体を作製した。
【0050】
上記の実施例および比較例で得られた透明導電性フィルムおよび透明導電性積層体について下記評価を行った。結果を表1に示す。
【0051】
<フィルム抵抗>
四端子法を用いて、透明導電性積層体の表面電気抵抗(Ω/□)を測定した。測定は、各透明導電性積層体についてランダムに5点行った。表1には、表面電気抵抗の最大値、最小値、平均値、及び、最大値と最小値との差を示した。
【0052】
<全光線透過率>
島津製作所製の分光分析装置UV−240を用いて、光波長550nmにおける可視光線透過率を測定した。
【0053】
<エッチング試験>
透明導電性積層体を5重量%の塩酸に15分間浸漬し、15mm離間した2点間の抵抗値(Ω)をテスター(カスタム社製、製品名「デジタルテスター(M−04)」、測定限界値2MΩ)にて測定し、結晶性透明導電薄膜が結晶化しているか否かの判定を行った。抵抗値が検出された場合、透明導電性積層体が結晶化していると判定した。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例では、300Ω/□以上の表面電気抵抗を有し、かつ抵抗値のばらつきの小さい(最大値と最小値の差が50Ω/□以下)結晶性透明導電性膜が得られた。一方、比較例では、上記特性を有する場合はない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化インジウム・酸化スズを主成分とするターゲットを用いて、気相法により透明導電性薄膜を透明フィルム基材上に形成する透明導電性薄膜の製造方法であって、
アルゴンガスと窒素ガスと水蒸気ガスとを含み、
前記窒素ガスの含有量がアルゴンガスに対して2500ppm〜8500ppmの範囲内であり、かつ、前記水蒸気ガスの含有量がアルゴンガスに対して1450ppm〜13500ppmの範囲内であるアルゴン雰囲気中で成膜が行われることを特徴とする透明導電性薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記ターゲットは、酸化インジウムと酸化スズの合計に対して酸化スズを1〜9重量%の範囲内で含有することを特徴とする請求項1に記載の透明導電性薄膜の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の透明導電性薄膜の製造方法により得られた透明導電性薄膜を加熱処理して結晶化する結晶化工程を有することを特徴とする結晶性透明導電性薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記結晶化工程における加熱処理条件が、120〜155℃で、2.5時間以下であることを特徴とする請求項3に記載の結晶性透明導電性薄膜の製造方法。


【公開番号】特開2012−52201(P2012−52201A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196878(P2010−196878)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】