説明

透明導電膜形成用基板、透明導電膜付き基板、透明導電膜の製造方法

【課題】高導電性と高透明性を両立した透明導電膜を簡易に形成することができる透明導電膜形成用基板を提供する。
【解決手段】基板4の表面に、ナノ粒子1を単分散状態で配置して付着させたことを特徴とする。ナノ粒子1をマスクとして基板4の表面に導電材料6を被覆した後にナノ粒子1を除去することによって、ナノ粒子1の除去跡が光が透過する開口部8となると共にこの開口部8以外の部分にメッシュ状の導電材料6の膜を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に透明導電膜を形成するための透明導電膜形成用基板、表面に透明導電膜を形成した透明導電膜付き基板、及び基板の表面に透明導電膜を形成する透明導電膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、透明な基板の表面に透明でかつ導電性を有する薄膜として形成されるものであり、電気を通す透明な膜という性質から、液晶パネルやタッチパネル、電子ペーパー、有機EL、太陽電池などの電極に広く使用されており、今後も需要拡大が期待されている。
【0003】
このような透明導電膜は、従来から主として、透明でかつ導電性のある材料であるITO(酸化インジウムスズ)などを、スパッタや真空蒸着といった真空プロセスを用いて成膜することによって形成されてきた。しかしながらITOなどで透明導電膜を形成する場合、希少金属Inの資源枯渇問題やそれに起因する製造コストの上昇の問題があり、また成膜プロセスは高温加熱の工程であるため、耐熱性のある基板を用いることが必要であるという問題があった。
【0004】
そこで、耐熱性の低いプラスチック基板に、低コストで簡易に透明導電膜を形成する手法として、導電性の金属微粒子や金属ワイヤを基板の表面にメッシュ状に設けることが提案されている。このものでは、金属微粒子や金属ワイヤで導電性を得ることができると共に、金属微粒子や金属ワイヤの間隙を通して透明性を得ることができるものである(非特許文献1、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、このように形成される透明導電膜は、透明性と導電性がトレードオフの関係にあり、両者を両立するような優れた透明導電膜を作製することは困難であった。すなわち、金属微粒子や金属ワイヤはそれ同士が接触することによって導電性が得られるものであるが、金属微粒子同士や金属ワイヤ同士の接触抵抗に起因して抵抗が増加することが避けられない。そして、仮に低抵抗にするために金属微粒子や金属ワイヤの含有量を多くすると、透明導電膜に占める金属微粒子や金属ワイヤの面積が大きくなり、金属の発色により透明導電膜の透明性が低下してしまうことになる。
【0006】
一方、ボトムアップによるナノオーダーの微細構造を形成するプロセスとしてシリカや金属のナノ粒子を配列制御する技術が提案されており(非特許文献2,3、特許文献2,3参照)、本出願人はこの技術に注目して、透明導電膜の形成に応用することを検討した。すなわち、これらの技術を用いると、ナノオーダーの粒子を線状に連結して配列させ、ナノオーダーの粒子でメッシュ構造を形成することができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2009−505358号公報
【特許文献2】特開2003−55397号公報
【特許文献3】特開2006−205302号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】プリンタブルエレクトロニクス関連市場の将来展望、株式会社富士経済、p155(2009)
【非特許文献2】深尾将士, 下嶋敦,大久保達也、ブロックコポリマーを用いた球状シリカナノ粒子の一次元配列, 化学工学会第40回秋季大会予稿集(2008)
【非特許文献3】菅原彩絵、下嶋敦, 大久保達也、界面制御による球状シリカナノ粒子の一次元配列, 化学工学会第74年会予稿集(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、シリカナノ粒子を用いた非特許文献2,3の場合は、シリカナノ粒子の線状構造がメッシュ状の微細なネットを形成しているものの、シリカに導電性がないことから透明導電膜とはならない。また、金属ナノ粒子を用いた特許文献2,3の場合は、導電性を発現させることはできるものの、線状構造のネットワーク化が不十分であるために、導電性を十分に得ることができないものである。さらに金属ナノ粒子の連結部分において上記の金属微粒子や金属ワイヤと同様な接触抵抗が発現してしまうため、透明導電膜として応用するには問題を有するものであった。
【0010】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、高導電性と高透明性を両立した透明導電膜を簡易に形成することができる透明導電膜形成用基板、透明導電膜付き基板、透明導電膜の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る透明導電膜形成用基板は、基板の表面に、ナノ粒子が単分散状態で配置されて付着して成ることを特徴とするものである。
【0012】
この発明によれば、基板の表面に単分散状態でナノ粒子が付着しているものであり、ナノ粒子をマスクとして基板の表面に導電材料を被覆させた後にナノ粒子を除去することによって、ナノ粒子の除去跡が光が透過する開口部となると共にこの開口部以外の部分にはメッシュ状の導電材料の膜を形成することができるものである。真空プロセスなどを用いる必要なく簡便に、導電材料のメッシュ膜で高導電性と高透明性を兼ね備えた透明導電膜を形成することができるものである。
【0013】
また本発明は、上記のナノ粒子が主にシリカからなることを特徴とするものである。
【0014】
シリカ粒子は粒子径や形状がナノサイズでそろったものが容易に得られ、さらに単分散状態が得られやすいことから、単分散状態のシリカナノ粒子を用いることによって、均一な透明性と導電性を有する透明導電膜を形成することができるものである。
【0015】
また本発明に係る透明導電膜付き基板は、上記の透明導電膜形成用基板の基板表面にナノ粒子以外の部分において導電材料が被覆されていると共に、基板の表面からナノ粒子が除去されており、導電材料の膜とナノ粒子の除去跡の開口部によって透明導電膜が形成されていることを特徴とするものである。
【0016】
この発明によれば、基板の表面に設けられた導電材料の膜は、単分散状態で基板の表面に配置されたナノ粒子以外の部分にメッシュ状に形成されていると共に、ナノ粒子が除去された部分に光が透過する開口部が形成されており、真空プロセスなどを用いる必要なく簡便に、導電材料のメッシュ膜で高導電性と高透明性を兼ね備えた透明導電膜を形成することができるものである。
【0017】
また本発明に係る透明導電膜付基板の製造方法は、ナノ粒子を液中で単分散させる工程、基板の表面にこの液を塗布してナノ粒子を単分散した状態で基板の表面に付着させる工程、単分散状態で付着したナノ粒子の上から基板の表面に導電材料を被覆させる工程、ナノ粒子を基板の表面から除去する工程、を有することを特徴とするものである。
【0018】
この発明によれば、ナノ粒子を単分散させた液を基板の表面に塗布することによって、基板の表面に単分散状態に配置してナノ粒子を付着させることができるものであり、このナノ粒子をマスクとして基板の表面に導電材料を被覆させた後にナノ粒子を除去することによって、ナノ粒子の除去跡が光が透過する開口部となると共にこの開口部以外の部分にメッシュ状の導電材料の膜を形成することができるものであり、真空プロセスなどを用いる必要なく簡便に、導電材料のメッシュ膜で高導電性と高透明性を兼ね備えた透明導電膜を形成することができるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、基板の表面に単分散状態で配置されたナノ粒子をマスクとして基板の表面に導電材料を被覆させた後にナノ粒子を除去することによって、ナノ粒子の除去跡が光が透過する開口部となると共にこの開口部以外の部分にメッシュ状の導電材料の膜を形成することができるものであり、真空プロセスなどを用いる必要なく簡便に、導電材料のメッシュ膜で高導電性と高透明性を兼ね備えた透明導電膜を形成することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の製造の工程を示すものであり(a)乃至(d)はそれぞれ概略図である。
【図2】SEM像をプリントした写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
まず、ナノ粒子を液中で単分散させる工程について説明する。この工程に適用される方法は特に限定されるものではないが、例えば、既述の非特許文献1,2に記載されたシリカナノ粒子を液中で単分散させる方法に準じて行なうことができる。本発明に用いるナノ粒子は、その材質は特に限定されるものではないが、ゾルゲル反応などによる合成手法で液中に分散したナノ粒子を得られやすい無機酸化物が好ましく、より好ましくはシリカである。シリカは、低コストで透明性が高く粒径制御可能なナノ粒子を得やすいので、ナノ粒子を形成する材料として適しているものである(Stober et al., J. Colloid lnterface Sci.,26, 62-69(1968)参照)。シリカナノ粒子1の原料としてはアルコキシシランを用いることができるものであり、このアルコキシシランとしては4官能のアルコキシシランを用いるのが好ましく、例えばテトラエトキシシランを使用することができる。
【0023】
シリカナノ粒子1を液中で調製するにあたっては、塩基性アミノ酸を溶解した溶液に、アルコキシシランを加え、これを加熱してアルコキシシランを加水分解・重縮合させることによって行なうことができる。塩基性アミノ酸の存在下でアルコキシシランが加水分解・重縮合して生成されたシリカは、ナノサイズの球状になり、シリカナノ粒子1が分散されたコロイド溶液2を調製することができる。
【0024】
シリカナノ粒子1が分散されたコロイド溶液2を調製するために用いる液体としては、特に限定されるものではないが、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、へキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭素類を挙げることができる。
【0025】
次に、上記のようにシリカナノ粒子1が分散されたコロイド溶液2に、ブロックコポリマーを添加して攪拌し、均一に溶解させる。ブロックコポリマーは、親水性と疎水性の相異なる性質を持つものであり、親水性のブロックと疎水性のブロックが交互に共重合したブロックコポリマーを用いることができる。例えば、疎水性であるポリプロピレンオキサイドブロックの両側に、親水性であるポリエチレンオキサイドブロックが共重合したトリブロックコポリマーを使用することができる。
【0026】
このようにコロイド溶液2にブロックコポリマーを溶解させた状態で、コロイド溶液2のpH調整を行なう。pH調整は塩酸などの酸を用いて行なうことができる。そしてpH調整を行なうことによって、コロイド溶液中でシリカナノ粒子1を単分散させることができるものである。すなわち、コロイド溶液のpHが小さくなるように調整すると、シリカナノ粒子1はコロイド溶液2中で線状に連結し、網状に連結したメッシュ構造体となる。これに対して、コロイド溶液のpHが大きくなるように調整すると、コロイド溶液2中のシリカナノ粒子1は、個々の粒子が均一の大きさで凝集することなく均一に分散された単分散の状態となる。図1(a)は、シリカナノ粒子1が単分散したコロイド溶液2を図示したものである。
【0027】
ここで、シリカナノ粒子1をコロイド溶液2中で単分散させる上記の工程について具体例を挙げる。塩基性アミノ酸であるリシン(L−lysine)の水溶液にテトラエトキシシラン(TEOS)を加え、60℃で24時間撹拌(500rpm)することにより、粒径約15nmのシリカナノ粒子1のコロイド溶液2を得ることができる。このときの原料モル比は、1(TEOS):154.4(HO):x(L−lysine)である。次に調製したコロイド溶液2にブロックコポリマーF127([化1]参照)を添加し、60℃で24時間撹拌してF127を溶解させた。F127の添加量は質量比で、コロイド溶液2中のシリカ量を基準として、SiO:F127=1:yとした。続いて、塩酸を用いてpH調整を行なった。さらに60℃で一定時間静置することにより、コロイド溶液2中でシリカナノ粒子1を分散させることができる。このときy=1、pH7.2でpH調整後、60℃で2週間静置したときに、x=0.01であれば、シリカナノ粒子1は単分散した。また、x=0.02、y=1としてpH調整後60℃で5日間静置した場合は、pH8でシリカナノ粒子1が単分散した。また粒子径30nmのシリカナノ粒子1においても同様に単分散が確認された。
【0028】
【化1】

【0029】
上記[化1]において、「EO」はエチレンオキサイドブロック、「PO」はプロピレンオキサイドブロックを意味し、その下の数字は繰り返し単位数、「MW]は重量平均分子量、「HLB」はHydrophile-Lipophile Balance、「CMC」は臨界ミセル濃度である。
【0030】
上記のようにして、コロイド溶液2中でシリカナノ粒子1を単分散させた後、次の工程で、基板4の表面にこのコロイド溶液2を塗布する。
【0031】
本発明において基板4としては、その形状、構造、大きさ等について、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。形状としては、例えば平板状、シート状、フィルム状などが挙げられ、また構造としては、例えば単層構造であってもよいし、積層構造であってもよく、適宜選択することができる。材料についても透明であれば特に制限はなく、無機材料及び有機材料のいずれであっても好適に用いることができる。基板4を形成する無機材料としては、例えば、ガラス、石英、シリコンなどが挙げられる。また有機材料としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)等のアセテート系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂;ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリノルボルネン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアクリル系樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
また本発明に使用する基板4としては、上記のような単体の基板4であってもよいが、基板4の表面に一層ないし複数層のハードコート層が形成されたものであってもよい。このように基板4がハードコート層を備える場合、透明導電膜7はハードコート層の上に形成されるものである。このハードコート層はモノマーを重合した樹脂で形成されていてもよく、この樹脂中に粒子等を含んでいてもよい。粒子としては樹脂より低い屈折率あるいは高い屈折率を有するもの、樹脂より高い硬度を有するもの、耐熱性が高いものなど、種々の機能を有するものを用いることができる。
【0033】
基板4の表面へのコロイド溶液2の塗布は、特に限定されるものではないが、例えば、刷毛塗り、スプレーコート、浸漬(ディッピング、ディップコート)、ロールコート、フローコート、カーテンコート、ナイフコート、スピンコート、テーブルコート、シートコート、枚葉コート、ダイコート、バーコート等の通常の各種塗装方法を選択することができる。また塗布膜を任意の形状に加工するために、切削やエッチングなどの方法を用いることもできる。
【0034】
このように基板4の表面にコロイド溶液2を塗布すると、コロイド溶液2中で単分散したシリカナノ粒子1が、単分散した状態のまま基板4の表面に付着することになる。シリカナノ粒子1はこのように単分散して、原則的に個々のシリカナノ粒子1は相互に接しない状態で基板4上に配置されているが、一部のシリカナノ粒子1において複数の粒子が接している部分があってもよい。また単分散状態のシリカナノ粒子1を基板4の表面の全面に付着させるようにしてもよく、一部に付着させるようにしてもよい。
【0035】
上記のように基板4の表面にコロイド溶液2を塗布して単分散状態のシリカナノ粒子1を基板4の表面に付着させるにあたって、シリカナノ粒子1以外の、例えばコロイド溶液2中の塩基性アミノ酸やブロックコポリマー等の有機成分など、他成分が基板4の表面に存在しないように除去することが好ましい。このように他の成分を除去する方法としては、基板4の耐久性を考慮する必要があるが、シリカナノ粒子1は溶解しないが除去する成分を溶解することができる液に基板4を浸漬する方法や、加熱処理、紫外線処理などをして、シリカナノ粒子1は基板4上に残存するが、他の成分は分解揮散して除去される方法が挙げられる。図1(b)は、基板4の表面にシリカナノ粒子1を単分散状態で付着させて形成される、本発明に係る透明導電膜形成用基板Aの一例を示す図である。
【0036】
このようにシリカナノ粒子1を単分散状態で基板4の表面に付着した後、次の工程で、シリカナノ粒子1を付着させた基板4の表面に、導電材料6を被覆する。導電材料6としては、特に限定されないが、Au,Ag,Cu,Alなどの金属、カーボンナノチューブなどの導電性カーボンといった導電率が高いものを用いるのが好ましい。導電性材料を被覆する方法としては、めっきなどの還元反応によるウエットプロセスや、スパッタや蒸着などのドライプロセスなど、任意の方法を採用することができる。還元反応による導電材料6の生成は、特に限定されないが、例えば還元剤の添加、電解めっき、無電解めっきなどが挙げられる。
【0037】
このように導電材料6を被覆すると、シリカナノ粒子1がマスクとなって、シリカナノ粒子1が付着している部分以外の基板4の露出した表面に、導電材料6を付着させることができるものである。図1(c)は、シリカナノ粒子1を単分散状態で付着させた基板4の表面に、導電材料6の膜が被覆されている状態を示す図である。
【0038】
次の工程で、基板4の表面からシリカナノ粒子1を除去する。シリカナノ粒子1を除去する方法としては、シリカナノ粒子1を溶出する方法や、物理的に取り除く方法などが挙げられる。シリカナノ粒子1は、熱的や機械的に強く、また有機溶媒などの薬品に対しても耐久性がある一方で、フッ酸などの酸や水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリといった一部の薬品には溶解しやすい。そこでシリカナノ粒子1を溶出する方法としては、この性質を利用して、導電材料6や基板4は溶解し難いが、シリカナノ粒子1は溶解する水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ溶液や、フッ化水素酸などの酸溶液で処理することによって行なうことができる。物理的にシリカナノ粒子1を取り除く方法としては、液中で基板4を超音波振動処理する方法が挙げられる。勿論、溶出する方法と物理的に取り除く方法を組み合わせてもよい。
【0039】
このように、導電材料6で被覆した基板4の表面からシリカナノ粒子1を除去すると、シリカナノ粒子1を除去した部分の基板4の表面が露出するように、導電材料6の膜に開口部8が形成される。そしてシリカナノ粒子1は基板4の表面に単分散状態で付着しているので、開口部8はシリカナノ粒子1の単分散と同じ分散状態で配置して形成され、またシリカナノ粒子1と同じナノレベルの大きさで形成されるものである。
【0040】
このとき、導電材料6は基板4の露出した表面だけでなく、シリカナノ粒子1にも付着するが、シリカナノ粒子1が基板4から除去される際に、同時にこの導電材料6も除去されるものである。このようにシリカナノ粒子1に付着した導電材料6が基板4から除去され易くするために、導電材料6がシリカナノ粒子1よりも基板4の表面に生成し易くして、基板4の露出した表面に導電材料6が選択的に付着するようにすることが好ましく、また導電材料6の基板4に対する接着力をシリカナノ粒子1に対する接着力よりも強くすることも好ましい。基板4の表面に官能基を形成することでこのような現象を起こすことが可能となる。例えば液体中において金イオンのようなカチオンはアミノ基に固定化される(電気化学会第76回大会講演要旨集p.194(2009)参照)。そこで、このような手法によりカチオンが基板4の表面近傍に固定化され、カチオンの還元によって効率的に基板4の表面に選択的に導電材料6を被覆することができ、また強固に接着させることができる。またチオール基は金ナノ粒子を吸着する効果があることから基板4の表面に導電材料6として金を吸着し易くすることができる(H.Shiigi, et al. J. Electrochem. Soc., 154 D462-D466 (2007)参照)。
【0041】
図1(d)は、基板4の表面に導電材料6を残して、シリカナノ粒子1を除去することによって得られる、本発明に係る透明導電膜付き基板Bの一例を示す図である。このように導電材料6の膜は単分散状態でシリカナノ粒子1が配置された以外の部分において基板4の表面に形成されている。またこの導電性材料6の膜のシリカナノ粒子1を除去した部分には、シリカナノ粒子1の単分散と同じ単分散配置で開口部8が形成されている。従って導電材料6の膜はメッシュ状に形成されるものであって、基板4の表面の面方向に導電性を有するものであり、また導電材料6の膜に形成される開口部8を光が透過するために、透光性を有するものであり、基板4の表面の導電材料6の膜を透明導電膜7として形成することができるものである。
【0042】
ここで、上記のように基板4の表面に形成される導電材料6の膜にあって、シリカナノ粒子1を除去することによって形成される開口部8は密に多数配置されており、基板4の表面に占める導電性材料6の面積に対して、開口部8の面積の総和の比率は大きなものになり、透明性の高い透明導電膜7を形成することができるものである。また、導電材料6はシリカナノ粒子1が単分散状態で配置される以外の部分において形成されるものであり、導電材料6は膜として連続している。従って、金属微粒子や金属ワイヤを接触させて導電性を得る場合のような接触抵抗がなく、電気抵抗が小さく導電性の高い透明導電膜7を形成することができるものである。このようにして、高い導電性と高い透明性を両立した透明導電膜7を形成することが可能になるものである。
【0043】
ここで、本発明において、ナノ粒子の大きさは、特に限定されるものではないが、10nm以上500nm以下の範囲が好ましく、より好適には10nm以上200nm以下である。ナノ粒子の粒径が10nm未満であると、ナノ粒子を除去した跡に形成される透明導電膜7の開口部8の径が小さくなり、透明性が不十分になるおそれがある。逆にナノ粒子の粒径が500nmを超えて大きいと、ナノ粒子を除去した跡に形成される開口部8の径が大きくなり過ぎ、透明導電膜7の非導電部となる部分の面積が大きくなって、基板4の面内での透明導電膜7の導電性が不均一になるおそれがある。
【0044】
さらに本発明において、基板とナノ粒子の密着を弱くしておいてもよい。基板とナノ粒子の密着を弱くしておくと、ナノ粒子を除去する工程が容易になる。その手法は特に限定されないが、基板がガラスなどのように表面が親水性の場合、ナノ粒子の表面をメチル基などで修飾し疎水化する手法が挙げられる。
【0045】
また基板4に形成する導電材料6の厚みは、特に限定されるものではないが、5〜200nm程度の範囲が好ましい。導電材料6の厚みが5nmより小さいと、導電材料6を均一に基板4に形成できないことがあって、透明導電膜7の導電性が不十分になる恐れがあり、逆に200nmよりも大きいと、透明導電膜7の透光性が不十分になる恐れがある。
【0046】
さらに、導電材料6のメッシュ膜で形成される透明導電膜7にあって、開口部8の面積は、透明導電膜7の面積の20〜95%の範囲であることが好ましい。またこの開口部8は個々の面積が小さいほど、非導電部の連続が少なくなるために導電膜として好ましく、さらに可視光波長に対して十分小さければ光の散乱の影響が小さくなることからより高透明になる。例えば、開口部8内の導電材料6のない部分に引ける1本の直線の長さが、透過させたい光の波長より小さいことが好ましく、さらにこのような開口部8が基板4の表面に多数存在するように透明導電膜7が形成されていれば、開口部8の総面積が大きくなって透明性が増すので、より好ましい。透明導電膜7において開口部8の配置はなるべく不規則であることが、構造の規則性に伴う光の回折による干渉色発現の影響を小さくできるためより好ましい。
【実施例】
【0047】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0048】
(実施例1)
水に塩基性アミノ酸としてリシン(L−lysine)を溶解させて水溶液を調製した。そしてこの塩基性アミノ酸水溶液にテトラエトキシシラン(TEOS)を添加し、60℃のウォーターバス中において、500rpmの回転速度で24時間攪拌することによって反応させ、シリカのコロイド溶液を作製した。原料モル比は1(TEOS):154.4(HO):0.02(L−lysine)であった。このようにして得られたコロイド溶液中には粒子径が約15nmのシリカナノ粒子が生成した。
【0049】
次にこのコロイド溶液に、[化1]に示すようなブロックコポリマーF127を添加し、60℃で24時間攪拌することによって、F127をコロイド溶液に完全に溶解した。F127の添加量はコロイド溶液中のシリカの質量を基準として、1:1に設定した。続いて塩酸を用いて、コロイド溶液のpHを8に調整し、3日間、60℃で静置してエージングした(図1(a)参照)。
【0050】
そしてこの溶液を水で4倍に希釈し、コーティング材とした。以上は非特許文献2,3に準じて実施したものである。
【0051】
次いで、このコーティング材をディップコートによってシリコン基板上に塗布して付着させた。続いてコーティング材の有機成分(リシン、F127)を取り除くため、UVオゾン処理を、紫外線波長172nm、圧力50Pa、照射時間30minの条件で行なった(図1(b)参照)。このように処理したシリコン基板の表面のSEM像を図2に示す。SEM像にみられるように、シリカナノ粒子はシリコン基板上で粒子同士の接合なく、単分散状態で配置していることが確認された。また基板を透明なガラス基板に変更して同様にディップコートして、シリカナノ粒子を付着させたものは、肉眼で観察すると透明であった。
【0052】
次に、シリカナノ粒子をガラス基板上にコートして分散配置したものを用い、また導電材料として白金を用い、このガラス基板に日立製作所製「E−1030」により白金をスパッタして約20nmの厚みで製膜した(図1(c)参照)。このように白金をスパッタした後、このガラス基板をフッ化アンモニウム水溶液中で30分間超音波処理することによって、シリカナノ粒子を除去し、透明導電膜付き基板を得た(図1(d)参照)。
【0053】
(比較例1)
シリカナノ粒子を付着させていないガラス基板に、白金を実施例1と同じ条件でスパッタして製膜し、透明導電膜付き基板を得た。
【0054】
(比較例2)
比較例1において、白金の製膜厚みを約5nmとした以外は、比較例1と同じ条件で、透明導電膜付き基板を得た。
【0055】
(比較例3)
実施例1において、コロイド溶液にブロックコポリマーF127を添加しないでコーティング材として用いるようにした。これ以外は実施例1と同じ条件で、透明導電膜付き基板を得た。
【0056】
上記のようにして得た、実施例1及び比較例1〜3の透明導電膜付き基板について、透過率と表面抵抗を測定した。ここで、透過率の測定は、分光光度計(日立ハイテク社製「U−4100」)を用いて波長500nmの透過率について行なった。表面抵抗の測定は、表面抵抗値計(三菱化学社製「HirestaIP (MCP−HT260)」)を使用して、JIS K7194に準拠して行なった。測定結果を表1に示した。
【0057】
【表1】

【0058】
表1にみられるように、実施例1のものは比較例1に比べて透過率が向上している。これは、実施例1においては白金膜に単分散状の開口部が形成されることによるものである。また比較例1よりも白金の膜厚を薄くて透過率を大きくした比較例2と比較しても、実施例1は透過率が高いものであり、表面抵抗は小さくなった。さらに比較例3では、単分散状態ではなく基板の全面に密にシリカナノ粒子が形成されたため、白金膜を基板に形成することができず、導電性を得ることができなかった。これらのことから実施例1は、透過率と導電性の両立した透明導電膜が形成されていることが確認された。
【符号の説明】
【0059】
1 シリカナノ粒子
2 コロイド溶液
4 基板
6 導電材料
7 透明導電膜
8 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に、ナノ粒子が単分散状態で配置されて付着して成ることを特徴とする透明導電膜形成用基板。
【請求項2】
ナノ粒子が、主としてシリカからなることを特徴とする請求項1に記載の透明導電膜形成用基板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の透明導電膜形成用基板の基板表面にナノ粒子以外の部分において導電材料が被覆されていると共に、基板の表面からナノ粒子が除去されており、導電材料の膜とナノ粒子の除去跡の開口部によって透明導電膜が形成されていることを特徴とする透明導電膜付き基板。
【請求項4】
ナノ粒子を液中で単分散させる工程、基板の表面にこの液を塗布してナノ粒子を単分散した状態で基板の表面に付着させる工程、単分散状態で付着したナノ粒子の上から基板の表面に導電材料を被覆させる工程、ナノ粒子を基板の表面から除去する工程、を有することを特徴とする透明導電膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−192397(P2011−192397A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54897(P2010−54897)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】