透明導電膜
【課題】実用可能な耐湿性と、透明導電膜として必要な特性を備え、しかも経済性に優れた、ZnO系の透明導電膜を提供する。
【解決手段】ZnOにIII族元素酸化物をドーピングして基体上に成長させた透明導電膜において、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上であるようにする。
III族元素酸化物のドーピング量を、透明導電膜中のIII族元素酸化物の割合が7〜40重量%となるように、ZnOにIII族元素酸化物をドープさせる。
透明導電膜を、SiNx薄膜を介して、基体上に形成する。
基体にバイアス電圧を印加しながら、薄膜形成方法により基体上に透明導電膜を形成する。
【解決手段】ZnOにIII族元素酸化物をドーピングして基体上に成長させた透明導電膜において、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上であるようにする。
III族元素酸化物のドーピング量を、透明導電膜中のIII族元素酸化物の割合が7〜40重量%となるように、ZnOにIII族元素酸化物をドープさせる。
透明導電膜を、SiNx薄膜を介して、基体上に形成する。
基体にバイアス電圧を印加しながら、薄膜形成方法により基体上に透明導電膜を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、透明導電膜に関し、詳しくは、酸化亜鉛(ZnO)を主たる成分とする透明導電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットパネルディスプレイや太陽電池などに透明電極が広く用いられるようになっている。そして、透明電極の材料として、ITO(スズ添加インジウム酸化物)が広く用いられている。
【0003】
しかしながら、インジウム(In)は高価で、資源の枯渇も懸念される物質であることから、他の材料を用いた透明電極への要求が高まっている。そして、Inを用いない透明電極として、低価格で、安定供給が可能な亜鉛(Zn)の酸化物(ZnO)を用いたZnO系透明電極の開発が進められている。
【0004】
なお、ZnOは、化学量論組成では絶縁体であるが、酸素欠損起因の余剰電子、およびZnサイトへの元素置換(ドーピング)によって導電性を付与することが可能である。そして、このようなZnOを主成分として用いた透明電極としては、現状でも、抵抗率ρが10-4Ωcm台のものを作製することができるようになっている。
【0005】
しかしながら、ZnO系透明導電膜は、実用性の面から見ると耐湿性が不十分であるという問題点がある。すなわち、従来のZnO系透明導電膜中には多くの酸素欠損が含まれており、湿度の高い環境下に放置すると酸素欠損への水分吸着(再酸化)によりキャリアが減少して高抵抗化を招くという問題点がある。ITOを用いた透明電極における耐湿性の目安の一つとしては、85℃、85%RH雰囲気にて720h経過後の抵抗変化率が±10%とされているが、ZnO系透明導電膜で、この要件を満たすものは得られていない。
【0006】
さらに、今後用途の拡大が予測される、フレキシブル基板上にZnO系透明導電膜を形成した場合、フレキシブル基板が水分を透過させるため、透明導電膜の表面からのみではなく、フレキシブル基板を透過した水分の影響により、透明導電膜の劣化がさらに大きくなるという問題点がある。
【0007】
このような問題点を解消すべく、ZnO系透明導電膜の耐湿性を向上させるための方法が種々検討されており、その方法は、
(1)SiNバリア膜を設けて基板側からの水分透過を抑制する方法、
(2)加熱成膜などによって、ZnOの膜質(結晶性)を改善する方法
の二つの方法に大別される。
しかしながら、現在のところ実用可能な耐湿性を備えたZnO系透明導電膜を得ることができていないのが実情である。
【0008】
なお、ZnOに元素をドーピングして導電性を付与することに関する技術としては、例えば、以下に示すようなものが提案されている。
【0009】
(a)ZnOの分子線、またはZnおよびOの分子線を用いてZnO膜を作製する際に、IA族(H)、IIIA族(B、Al、Ga、In)、またはVII族(F、Cl、I、Br)のいずれかの原子の分子線を用いてZnO膜中に不純物をドーピングすることにより、制御性良く電気抵抗を低減化させる方法(特許文献1参照)。
【0010】
(b)周期律表VB族又はVIB族の元素がドープされた酸化亜鉛からなる透明導電体であって、上記元素を元素原子と亜鉛原子との合計原子数に対して0.1〜10原子%含有する透明導電膜を、基材上に積層した透明導電体(特許文献2参照)。
【0011】
(c)基板上に陽電極と、陰電極と、これらの電極間に挟まれた有機層とを備え、陽電極として、Ir,Mo,Mn,Nb,Os,Re,Ru,Rh,Cr,Fe,Pt,Ti,WおよびVの酸化物を1種または2種以上含有する材料からなるものを用いた透明導電膜である有機EL素子(特許文献3参照)。
【0012】
(d)II族元素若しくはVII族元素若しくはI族元素若しくはV族元素のいずれかをドープし、またはドープしない導電性ZnO等の透明導電性材料を用いたトランジスタ(特許文献4参照)。
【0013】
(e)酸化亜鉛薄膜のc軸:a軸の配向性の比が100:1以上であり、且つ、アルミニウム、ガリウム、ホウ素などIII族およびVII族化合物のうち少なくとも1種類ドーピングされた透明導電膜(特許文献5参照)。
【0014】
(f)一般式(ZnO)m・In2O3(m=2〜20)で表わされる六方晶層状化合物のInまたはZnの元素を、Sn、Y、Ho、Pb、Bi、Li、Al、Ga、Sb、Si、Cd、Mg、Co、Ni、Zr、Hf、Sc、Yb、Lu、Fe、Nb、Ta、W、Te、Au、PtおよびGeよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換した六方晶層状化合物であって、平均厚さが0.001μm〜0.3μm、平均アスペクト比(平均長径/平均厚さ)が3〜1000であるインジウム亜鉛酸化物系六方晶層状化合物(特許文献6参照)。
【0015】
そして、これらのZnO系透明導電膜も、耐湿性に関し、上述のような問題点を包含している。
【特許文献1】特開平7−106615号公報
【特許文献2】特開平8−050815号公報
【特許文献3】特開平11−067459号公報
【特許文献4】特開2000−150900号公報
【特許文献5】特開2000−276943号公報
【特許文献6】国際公開第2001/056927号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本願発明は、上記課題を解決するものであり、実用可能な耐湿性と、透明導電膜として必要な特性を備え、しかも経済性に優れた、ZnO系の透明導電膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本願発明(請求項1)の透明導電膜は、
酸化亜鉛(ZnO)にIII族元素をドーピングして基体上に成長させた透明導電膜であって、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上であることを特徴としている。
【0018】
また、請求項2の透明導電膜は、請求項1の発明の構成において、前記透明導電膜が、前記基体にバイアス電圧を印加しながら薄膜形成することにより形成されたものであることを特徴としている。
【0019】
また、請求項3の透明導電膜は、請求項2の発明の構成において、前記薄膜形成が、スパッタリング法、蒸着法、蒸着イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、およびアークプラズマ蒸着法からなる群より選ばれる1種の方法によるものであることを特徴としている。
【0020】
また、請求項4の透明導電膜は、請求項1〜3のいずれかの発明の構成において、酸化亜鉛(ZnO)を主成分とし、III族元素酸化物を7〜40重量%の割合で含有するものであることを特徴としている。
【0021】
また、請求項5の透明導電膜は、請求項1〜4のいずれかの発明の構成において、前記透明導電膜が、SiNx薄膜を介して、基体上に形成されていることを特徴としている。
【0022】
また、請求項6の透明導電膜は、請求項1〜5のいずれかの発明の構成において、前記基体が、ガラス、水晶、サファイヤ、Si、SiC、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリイミド、シクロオレフィン系ポリマー、およびポリカーボネイトからなる群より選ばれる少なくとも1種を主たる成分とするものであることを特徴としている。
【0023】
また、請求項7の透明導電膜は、請求項1〜6のいずれかの発明の構成において、前記III族元素が、Ga、Al、およびInからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴としている。
【0024】
本発明の透明導電膜は、酸化亜鉛(ZnO)とIII族元素酸化物とを含有する原料を用い、III族元素酸化物のドープ量が7〜40重量%の範囲になるように、薄膜形成方法により基体上に成膜することにより、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上である透明導電膜を基体上に形成する方法により製造することができる。
【0025】
また、本発明の透明導電膜は、酸化亜鉛(ZnO)とIII族元素酸化物とを含有する組成物からなる焼結体ターゲットを用い、III族元素酸化物のドープ量が7〜40重量%の範囲になるように、スパッタリング法、蒸着法、蒸着イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、およびアークプラズマ蒸着法からなる群より選ばれる1種の方法により基体上に成膜することにより、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上である透明導電膜を基体上に形成する方法により製造することができる。
【0026】
また、上述の方法で本発明の透明導電膜を製造するにあたっては、薄膜形成方法により成膜することにより前記透明導電膜が形成される基体の温度と前記III族元素酸化物のドープ量の関係を、図4の点a,b,cで規定される範囲内の関係とすることが望ましい。
【0027】
また、前記スパッタリング法、蒸着法、蒸着イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、およびアークプラズマ蒸着法からなる群より選ばれる1種の方法により成膜するにあたっては、前記基体にバイアス電圧を印加しながら成膜を行うことが望ましい。
【0028】
また、前記薄膜形成方法による成膜を、背圧を1×10-4Pa以下にした真空チャンバ内で行うことが望ましい。
【発明の効果】
【0029】
本願発明(請求項1)の透明導電膜は、酸化亜鉛(ZnO)にIII族元素をドーピングして基体上に成長させた透明導電膜であって、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上であり、c軸が同一方向に向く度合いが低いため、酸素欠損の再酸化を抑制することが可能になり、実用レベルの耐湿性を備え、かつ、経済性にも優れたZnO系の透明導電膜を提供することが可能になる。
なお、本願発明において、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上であることを要件としたのは、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上のZnO膜においては、c軸が同一方向に向く度合いが、酸素欠損の再酸化を抑制、防止できる程度にまで十分に低くなることによる。
【0030】
また、請求項2の透明導電膜のように、請求項1の発明の構成において、透明導電膜が、基体にバイアス電圧を印加しながら薄膜形成することにより形成されたものである場合、III族元素酸化物のドープ量を少なく抑えつつ、耐湿性を向上させることが可能になり、低抵抗で耐湿性に優れた透明導電膜を製造することが可能になる。
【0031】
また、請求項3の透明導電膜のように、請求項2の発明の構成において、前記薄膜形成が、スパッタリング法、蒸着法、蒸着イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、アークプラズマ蒸着法からなる群より選ばれる1種の方法によるものである場合、さらに効率よく、低抵抗で耐湿性に優れた透明導電膜を製造することが可能になる。
【0032】
また、請求項4の透明導電膜のように、請求項1〜3のいずれかの発明の構成において、酸化亜鉛(ZnO)を主成分とし、III族元素酸化物を7〜40重量%の割合で含有するようにした場合、c軸が互いに異なる複数の方向に向いた結晶構造を有する領域を備えた透明導電膜、あるいは、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上である透明導電膜を効率よく形成することが可能になり、本願発明をより実効あらしめることが可能になる。
なお、III族元素酸化物のドープ量を7〜40重量%の範囲としたのは、ドープ量が7重量%未満になると、c軸が互いに異なる複数の方向に向いた結晶構造を有する領域を備えた透明導電膜、または、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上である透明導電膜を効率よく形成することが困難になり、また、ドープ量が40重量%を超えると、実用可能な低抵抗率の透明電極を得ることが困難になることによる。
【0033】
また、請求項5の透明導電膜のように、請求項1〜4のいずれかの発明の構成において、透明導電膜を、SiNx薄膜を介して、基体上に形成するようにした場合、例えば、基体が樹脂材料からなるフレキシブル基板のような、水分を通過させるものである場合にも、フレキシブル基板(基体)を通過した水分が透明導電膜にまで達することを効率よく抑制、防止して、十分な耐湿性を確保することが可能になり、本願発明をさらに実効あらしめることができる。
【0034】
また、本願発明においては、請求項6のように、基体として、ガラス、水晶、サファイヤ、Si、SiC、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリイミド、シクロオレフィン系ポリマーおよびポリカーボネイトからなる群より選ばれる少なくとも1種を主たる成分とするものを用いることが可能であり、本願発明によれば、これらの材料からなる基体上に、実用レベルの耐湿性を備え、かつ、経済性にも優れたZnO系の透明導電膜を得ることが可能になる。
【0035】
また、請求項7の透明導電膜のように、請求項1〜6のいずれかの発明の構成において、III族元素として、Ga、AlおよびInからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることにより、実用レベルの耐湿性を備え、かつ、経済性にも優れたZnO系の透明導電膜をより確実に得ることが可能になる。
なお、III族元素(ドープ元素)の種類としては、十分な低抵抗化を実現する観点からは、Gaを用いることが最も好ましいが、その他のIII族元素であるAlあるいはInを用いた場合も、Gaを用いた場合に準じる効果を得ることができる。
なお、上述のように、Inは高価な物質であるが、添加物(ドーパント)として用いられるものであることから、従来のように主成分として用いる場合に比べて、コストを大幅に低減することができる。
【0036】
また、酸化亜鉛(ZnO)とIII族元素酸化物とを含有する原料を用い、III族元素酸化物のドープ量が7〜40重量%の範囲になるように、薄膜形成方法により基体上に成膜することにより、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上である透明導電膜を形成する方法で本発明の透明導電膜を製造するようにした場合、特に複雑な工程を必要とすることなく、容易かつ確実に、c軸が互いに異なる複数の方向に向いた結晶構造を有する領域を備えた透明導電膜を基体上に形成することができる。
【0037】
また、酸化亜鉛(ZnO)とIII族元素とを含有する透明導電膜を製造するに際し、酸化亜鉛(ZnO)とIII族元素酸化物とを含有する組成物からなる焼結体ターゲットを用い、III族元素酸化物のドープ量が7〜40重量%の範囲になるように、スパッタリング法、蒸着法、蒸着イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、アークプラズマ蒸着法からなる群より選ばれる1種の方法により基体上に成膜することにより、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上である透明導電膜を基体上に形成する方法で本発明の透明導電膜を製造するようにした場合、上記薄膜形成方法を実施するための通常の装置と基本的に同じ構成の装置を用いて、実用レベルの耐湿性を備えたZnO系の透明導電膜を、効率よく、しかも経済的に製造することが可能になる。
【0038】
また、薄膜形成方法により成膜を行うことにより透明導電膜が形成される基体の温度とIII族元素酸化物のドープ量の関係を、図4の点a,b,cで規定される範囲内の関係とすることにより、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上である透明導電膜を効率よく形成することが可能になる。
すなわち、上記薄膜形成方法による成膜を行って透明導電膜を形成する際の、基体の温度を、III族元素酸化物のドープ量に応じて、図4の点a,b,cで規定される範囲で制御することにより、ZnO膜(透明導電膜)の結晶状態を制御して、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上である透明導電膜を効率よく形成することが可能になり、本願発明をより実効あらしめることが可能になる。
なお、図4の点aとbを結ぶ線の傾きは、成膜条件に応じて調整する(変化させる)ことが可能であり、かつ、適宜、点aとbを結ぶ線の傾きを調整することにより、さらに効率よくZnO膜の結晶状態を制御して、特性の良好な透明導電膜を得ることができる。
【0039】
また、前記スパッタリング法、蒸着法、蒸着イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、アークプラズマ蒸着法からなる群より選ばれる1種の方法により成膜するにあたって、前記基体にバイアス電圧を印加しながら成膜を行うようにした場合、III族元素酸化物のドープ量を少なく抑えつつ、耐湿性を向上させることが可能になり、低抵抗で耐湿性に優れた透明導電膜を確実に製造することが可能になる。
【0040】
また、薄膜形成方法による成膜を、背圧を1×10-4Pa以下にした真空チャンバ内で行うことにより、実用レベルの抵抗率と耐湿性とを兼ね備えたZnO系の透明導電膜を、より確実に製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】ZnO膜(透明導電膜)における、Ga2O3のドープ濃度と抵抗率などの関係を示す図である。
【図2】従来のZnO膜(透明導電膜)について耐湿性試験(85℃、85%RH)を行った場合の、経過時間と抵抗変化率の関係を示す図である。
【図3】本願発明のZnO膜(透明導電膜)について、耐湿性試験(85℃、85%RH)を行った場合の、経過時間と抵抗変化率の関係を示す図である。
【図4】本願発明の透明導電膜を製造する場合における、III族元素酸化物ドープ濃度と加熱温度の関係を示す図である。
【図5】ZnO膜(透明導電膜)へのGa2O3ドープ濃度とc軸配向性の関係を示す線図である。
【図6】本願発明の範囲外の、Ga2O3ドープ濃度4.1重量%のサンプルの透過電子顕微鏡像を示す図である。
【図7】本願発明の範囲内の、Ga2O3ドープ濃度22.8重量%のサンプルの透過電子顕微鏡像を示す図である。
【図8】本願発明の範囲外の、Ga2O3ドープ濃度4.1重量%のサンプルの結晶構造を模式的に示す図である。
【図9】本願発明の範囲内の、Ga2O3ドープ濃度22.8重量%のサンプルの結晶構造を模式的に示す図である。
【図10】本願発明の範囲外の、Ga2O3ドープ濃度4.1重量%のサンプルの表面状態を示す原子間力顕微鏡写真を示すものである。
【図11】本願発明の範囲内の、Ga2O3ドープ濃度22.8重量%のサンプルの表面状態を示す原子間力顕微鏡写真を示すものである。
【図12】本願発明の範囲外の、Ga2O3ドープ濃度4.1重量%のサンプルについての、X線回折のZnO(002)入射極点図である。
【図13】本願発明の範囲内の、Ga2O3ドープ濃度12.6重量%のサンプルについての、X線回折のZnO(002)入射極点図である。
【図14】本願発明の範囲内の、Ga2O3ドープ濃度22.8重量%のサンプルについての、X線回折のZnO(002)入射極点図である。
【図15】ZnO膜(透明導電膜)へのGa2O3ドープ濃度とZnO(002)ロッキングカーブ半値幅の関係を示す図である。
【図16】本願発明の実施例2において、フレキシブル基板(PEN基板)上に形成したZnO膜(透明導電膜)について、耐湿性試験(85℃、85%RH)を行った場合の、経過時間と抵抗変化率の関係を示す図である。
【図17】本願発明の実施例4において、フレキシブル基板(PEN基板)上に形成したZnO膜(透明導電膜)について、耐湿性試験(85℃、85%RH)を行った場合の、経過時間と抵抗変化率の関係を示す図である。
【図18】基板へのバイアス電圧と、ZnO膜(透明導電膜)のc軸配向性の関係を示す線図である。
【図19】(a)〜(d)は、基板に−80V〜+40vの各バイアス電圧を印加しつつ作製したZnO膜についての、X線回折のZnO(002)入射極点図である。
【図20】本願発明の実施例4の方法で作製した透明導電膜の透過電子顕微鏡像を示す図である。
【図21】基板へのバイアス電圧と、抵抗率およびGa2O3のドープ濃度の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
B 粒界
G グレイン
R 領域
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下に本願発明の実施例を示して、本願発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【0044】
酸化亜鉛(ZnO)にIII族元素酸化物をドーピングして基体上に成長させた本願発明の透明導電膜において、ZnOへのドーパント(III族元素)としては、Ga、Al、Inが代表的なものである。
【0045】
これらのIII族元素(III族元素酸化物)をZnOにドープすると、2価のZnサイトが3価の陽イオンで置換されるため、余剰電子がキャリアとなってn型の導電性を示すようになる。さらにスパッタリング法、蒸着法、蒸着イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、アークプラズマ蒸着法、CVD法、ゾルゲル法などの成膜法を用いて酸素供給が化学量論比を下回るような条件で成長させると、形成される膜中に酸素欠損を生じ、電子がキャリアとなってやはりn型の導電性を示す。
したがって、III族元素をドープしたZnOは、サイト置換起因によるドナータイプの不純物添加と、酸素欠損起因による電子発生の両方を、キャリアの供給源としたn型の半導体である。
【0046】
また、酸化亜鉛(ZnO)にIII族元素をドーピングした導電体において、例えば、Gaをドーパントとした場合、ドープ量と物性の関係は文献:「南 内嗣他,J.Vac.Soc.(真空),Vo1.47,No.10,(2004)734.」で報告されており、図1のようにGa2O3換算で、ドープ量が2〜4重量%のときに最も低い抵抗率となる。従って透明導電膜としての応用を考えると、トープ量を、低抵抗率のZnO膜を得ることが可能な、この2〜4重量%の範囲とすることが有利になる。
なお、ドープ量を増やすと相対的に抵抗率が増大するため、ドープ量の範囲を広げたとしても、適用可能な範囲は通常、2〜6重量%程度までである。これは、透明導電膜としての応用を考えると、なるべく抵抗率が低くなるようにすることが有利であり、わざわざドープ量を多くして抵抗率を高くする必要がないことによる。
【0047】
しかしながら、ドープ量を少なくしたZnO膜は、耐湿試験で著しい劣化を伴うことが確認されている。例えば、前述の文献に基づいて、Ga2O3換算濃度2〜4重量%のZnO膜について耐湿性試験(85℃、85%RH)を行ったところ、200時間経過後にガラス基板上に形成されたZnO膜では約30%、プラスチックの1種であるPEN(ポリエチレンナフタレート)を用いたフレキシブル基板上に形成されたZnO膜では約60%の抵抗変化(抵抗率の増大)が生じることが確認された(図2)。このような抵抗率の劣化レベルは、実用化不可能な劣化レベルである。
【0048】
また、発明者等は、ZnO膜の耐湿試験による抵抗率の劣化(抵抗率の増大)の原因が酸素欠損の化学的不安定さにある可能性が高いことを考慮し、
(1)真空チャンバ内に水を意図的に導入して酸素欠損を終端する方法、
(2)基板を加熱して結晶化を促進する方法
などの対策を講じてみた。しかしながら、いずれの方法でも十分な効果を得ることはできなかった。
【0049】
そこで、発明者等は、さらに、実験、検討を行い、III族元素のドーピング量を従来のドーピング量に比べて大幅に増やしたところ、ZnO膜の耐湿試験による抵抗率の劣化(抵抗率の増大)が著しく抑制されることを知り、さらに、実験、検討を繰り返し、本願発明を完成するに至った。
【0050】
前述のように、ZnOのキャリア供給にはサイト置換と酸素欠損の両方が寄与しているが、それぞれの寄与の度合いを定量的に分析することは技術的に困難である。しかしながら、定性的に見て、酸素欠損の寄与を可能な限り減らしてサイト置換の寄与の割合を支配的にすることにより、化学的不安定さを緩和することが可能であると考え、III族元素のドーピング量を従来のドーピング量に比べて大幅に増やす、高濃度ドープを行い、得られるZnO膜の特性を調べた。
【0051】
すなわち、ノンドープZnOスパッタリングターゲットと、その上に配置するGa2O3ペレットを用意し、ノンドープZnOスパッタリングターゲット上に配置するGa2O3ペレットの数によりドープ濃度を調整してスパッタリングを行うことにより、ガラス基板上に、Ga2O3がドープされたZnO膜を形成し、Ga2O3ペレット数とGa2O3ドープ濃度の関係を、ICP組成分析で定量評価した。
その結果、Ga2O3ペレット数と、Ga2O3ドープ濃度の関係は以下のような関係になることが確認された。
(1)Ga2O3ペレット数1個 :Ga2O3ドープ濃度4.1重量%、
(2)Ga2O3ペレット数1.5個:Ga2O3ドープ濃度6.5重量%、
(3)Ga2O3ペレット数2個 :Ga2O3ドープ濃度8.1重量%、
(4)Ga2O3ペレット数2.5個:Ga2O3ドープ濃度10.8重量%、
(5)Ga2O3ペレット数3個 :Ga2O3ドープ濃度12.6重量%、
(6)Ga2O3ペレット数5個 :Ga2O3ドープ濃度22.8重量%
【0052】
このようにして作製した、Gaのドープ濃度が4.1〜22.8重量%の範囲にあるサンプルについて、耐湿性試験(85℃、85%RH)を行ったところ、図3に示すように、Ga2O3のドープ濃度が8.1重量%以上のサンプルの場合、200時間後も抵抗率の大幅な劣化(抵抗変化率の大幅な増大)は認められなかった。これに対し、ドープ濃度が本願発明の下限側の範囲である7.0重量%を下回る4.1重量%および6.5重量%の場合、24時間後の抵抗変化率が約13%、200時間後の抵抗変化率が20%以上になること、すなわち、抵抗率の劣化が大きくなり、実用レベルのZnO膜を得ることができなくなることが確認された。
また、同様にして、PEN(ポリエチレンナフタレート)を用いたフレキシブル基板上にZnO膜を形成した場合にも、Ga2O3のドープ濃度が7.0重量%以上になると200時間後も抵抗の大幅な劣化は認められなかったが、Ga2O3のドープ濃度が7.0重量%を下回ると、抵抗変化率が大きくなり、好ましくない結果となることが確認された。
以下に、具体的な実施例を示して、本願発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0053】
基体として、無アルカリガラス(コーニング7059)からなるガラス基板を用意した。そして、このガラス基板をイソプロピルアルコールおよびUV照射によって洗浄することにより清浄表面を得た。
【0054】
また、スパッタリングターゲットとして、焼結密度が80%以上の、直径6インチのZnO焼結体ターゲットを用意した。
【0055】
さらに、ドーピング用に、Ga酸化物(Ga2O3)からなる直径が10mmのペレット(Ga2O3ペレット)を用意した。
【0056】
そして、この実施例1では、Ga2O3ペレットを上述のZnO焼結体ターゲット上のエロージョン領域に配置し、スパッタリングを行うことにより、Ga2O3がドープされたZnO膜を基体上に形成した。
なお、Ga2O3のドープ量は、上述のGa2O3ペレットの数を調整することにより調整した。
【0057】
スパッタリングを行うにあたっては、ガラス基板をスパッタリング装置の真空チャンバにセッティングし、5×10-5Paまで真空吸引を行った後、ガラス基板(基体)を加熱することなくスパッタリングを行った。
【0058】
また、この実施例1では、スパッタガスとして、高純度Arガスを用い、真空チャンバ内の圧力が1Paになるまでスパッタガスを導入した。
【0059】
なお、本願発明の透明導電膜の製造方法においては、基体を加熱することにより、形成されるZnO膜の結晶構造を制御することが可能であるが、その場合には、基体の温度とIII族元素酸化物のドープ量の関係を、図4の点a,b,cにより規定される三角形状の領域Rの範囲内の関係とすることが望ましい。その場合、点aとbを結ぶ線の傾きを、成膜条件に応じて調整することにより、効率よくZnO膜の結晶状態を制御して、より特性の良好な透明導電膜を得ることが可能になる。
【0060】
そして、RF電力500Wの条件でスパッタリングを開始して成膜を行い、所定の膜厚を有し、Gaが所定の割合でドープされたZnO膜(透明導電膜)を形成した。なお、成膜されるZnO膜の設定膜厚は400nmとした。
そして、成膜されたZnO膜にウェットエッチングによるパターニングを行った後、膜厚が設定膜厚に対して±15%となっていることを触針式段差計を用いて確認した。
【0061】
上記のサンプルについて、4探針測定で求めた抵抗率は、
(1)Ga2O3ペレットの数を1個とした場合、5.9×10-4Ωcm、
(2)Ga2O3ペレットの数を3個とした場合、9.1×10-4Ωcm、
(3)Ga2O3ペレットの数を5個とした場合、4.8×10-3Ωcm
であった。
【0062】
また、シート抵抗は、
(1)Ga2O3ペレットの数を1個とした場合、13Ω/□、
(2)Ga2O3ペレットの数を3個とした場合、22Ω/□、
(3)Ga2O3ペレットの数を5個とした場合、116Ω/□
であった。
【0063】
また、可視領域での光透過率は、Ga2O3ペレットの数を1個、3個、および5個とした場合のいずれの場合も80%以上を達成した。
【0064】
また、成膜されたZnO膜の表面粗さ(Rms)は、
(1)Ga2O3ペレットの数を1個とした場合、6.969nm(1回目)、7.437nm(2回目)、
(2)Ga2O3ペレットの数を3個とした場合、4.062nm(1回目)、4.834nm(2回目)
(3)Ga2O3ペレットの数を5個とした場合、4.091nm(1回目)、4.235nm(2回目)
であった。この結果から、ドープ濃度の上昇とともに、粒成長が抑制され、ZnO膜の表面が平坦になっていることがわかる。
【0065】
なお、Ga2O3ペレット数と、Ga2O3ドープ濃度の関係は、発明を実施するための最良の形態の欄でも述べたように、以下のような関係となる。
(1)Ga2O3ペレット数1個 :Ga2O3ドープ濃度4.1重量%、
(2)Ga2O3ペレット数1.5個:Ga2O3ドープ濃度6.5重量%、
(3)Ga2O3ペレット数2個 :Ga2O3ドープ濃度8.1重量%、
(4)Ga2O3ペレット数2.5個:Ga2O3ドープ濃度10.8重量%、
(5)Ga2O3ペレット数3個 :Ga2O3ドープ濃度12.6重量%、
(6)Ga2O3ペレット数5個 :Ga2O3ドープ濃度22.8重量%
【0066】
また、これらのサンプルについては、発明を実施するための最良の形態の欄でも述べたように、ガラス基板上ではGa2O3ペレット数が2個(すなわち、Ga2O3ドープ濃度8.1重量%)以上の条件の場合、200時間後においても抵抗の大幅な劣化(抵抗変化率の大幅な増大)は認められなかった(図3参照)。
ただし、Ga2O3ペレット数が1個(Ga2O3ドープ濃度4.1重量%)および1.5個(Ga2O3ドープ濃度6.5重量%)の場合には、時間の経過とともに抵抗変化率が増大し、24時間後の抵抗変化率が約13%、200時間後の抵抗変化率が20%以上になることが確認された。
【0067】
また、図5は、上記(1)のGa2O3ドープ濃度4.1重量%のサンプルと、上記(5)のGa2O3ドープ濃度12.6重量%のサンプルと、上記(6)のGa2O3ドープ濃度22.8重量%のサンプルの、X線回折法によるθ−2θスキャンのチャートを示す図である。
図5に示すように、Ga2O3ドープ濃度4.1重量%のサンプルではc軸ピークが大きく現れているが、Ga2O3ドープ濃度12.6重量%のサンプルでは、c軸ピークが著しく小さくなっており、さらに、Ga2O3ドープ濃度22.8重量%のサンプルではc軸ピークが全く認められなくなっており、Ga2O3ドープ濃度が高くなるに伴って、c軸配向の度合いが弱まっていることがわかる。
このことからも、本願発明のZnO膜において、耐湿性が向上するのは、Ga2O3ドープ濃度が高くなってc軸配向が弱まることにより、酸素欠損の再酸化が抑制されることによるものと考えられる。
【0068】
また、図6は、本願発明の範囲外の、Ga2O3ドープ濃度4.1重量%のサンプルの透過電子顕微鏡像を示す図であり、図7は、本願発明の範囲内の、Ga2O3ドープ濃度22.8重量%のサンプルの透過電子顕微鏡像を示す図である。
また、図8は、本願発明の範囲外の、Ga2O3ドープ濃度4.1重量%のサンプルの結晶構造を模式的に示す図であり、図9は、本願発明の範囲内の、Ga2O3ドープ濃度22.8重量%のサンプルの結晶構造を模式的に示す図である。
なお、図8および図9において、グレインG内の複数の平行な線は、格子間隔を模式的に表している。
【0069】
図6および図8に示すように、Ga2O3ドープ濃度が4.1重量%と低い、本願発明の範囲外のZnO膜の場合、基板法線方向へのc軸配向が支配的であり、c軸の向きがそろっていること、グレインGが柱状で、典型的な柱状成長となっていることがわかる。
【0070】
これに対し、Ga2O3ドープ濃度が22.8重量%と高い、本願発明の範囲内の、ZnO膜の場合には、図7および図9に示すように、c軸が互いに異なる複数の方向に向いていること(図7)、グレインGが柱状ではないこと(図9)がわかる。なお、粒界Bには、アモルファスや、アモルファスと結晶質の中間のような、いわゆる準結晶構造を有する領域などが存在しているのではないかと推測される。
そして、本願発明の範囲内のZnO膜の結晶構造を示す図7および図9は、c軸が互いに異なる複数の方向に向いている場合には、酸素欠損が再酸化されにくくなり、耐湿性が向上するという本願発明の考え方を裏付けるものであるということができる。
【0071】
また、図10は本願発明の範囲外の、Ga2O3ドープ濃度4.1重量%のサンプルの表面状態を示す原子間力顕微鏡写真を示すものであり、図11は、本願発明の範囲内の、Ga2O3ドープ濃度22.8重量%のサンプルの表面状態を示す原子間力顕微鏡写真を示すものである。
【0072】
本願発明の範囲外の、Ga2O3ドープ濃度4.1重量%のサンプルの場合、図10に示すように、表面に、c軸の向きがそろった結晶による凹凸(つぶつぶ)が認められるが、本願発明の範囲内の、Ga2O3ドープ濃度22.8重量%のサンプルの場合、c軸が互いに異なる複数の方向に向いているため、表面に結晶による凹凸や粒界が明瞭に認められず、平坦な状態になっていることがわかる。
この図10および図11も、c軸が互いに異なる複数の方向に向いている場合には、酸素欠損が再酸化されにくくなり、耐湿性が向上するという本願発明の考え方を裏付けるものであるということができる。
【0073】
また、図12は、本願発明の範囲外の、Ga2O3ドープ濃度4.1重量%のサンプルについての、X線回折のZnO(002)入射極点図であり、図13および図14は、本願発明の範囲内の、Ga2O3ドープ濃度12.6重量%、および22.8重量%の各サンプルについての、X線回折のZnO(002)入射極点図である。
【0074】
図12より、Ga2O3ドープ濃度が4.1重量%と低い、本願発明の範囲外のサンプルの場合、c軸が基板法線方向にそろっていることがわかる。
【0075】
これに対し、本願発明の範囲内の、Ga2O3ドープ濃度が12.6重量%のサンプルの場合、図13に示すように、図12の本願発明の範囲外のサンプルに比べてc軸の方向がそろっている度合いが極めて低くなっていることが分かる。
【0076】
さらに、図14の本願発明の範囲内の、Ga2O3ドープ濃度が22.8重量%のサンプルの場合、本願発明の範囲外の図12のサンプルに比べてc軸の方向がそろっている度合いが極めて低くなっていることが分かる。
したがって、この図12,図13、および図14も、c軸が互いに異なる複数の方向に向いている場合には、酸素欠損が再酸化されにくくなり、耐湿性が向上するという本願発明の考え方を裏付けるものであるということができる。
【0077】
また、図15は、Ga2O3ドープ濃度とZnO(002)ロッキングカーブ半値幅の関係を示す図である。
図15に示すように、Ga2O3ドープ濃度が7重量%以上になると、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上になることがわかる。このように、ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上になると、ZnO膜のc軸配向の度合いが弱くなり、耐湿性が向上する。
【0078】
この実施例1により、汎用性のあるガラス基板上に、実用可能な耐湿性を備えた透明導電膜を形成することが可能であることが確認された。
【0079】
また、III族元素(ドープ元素)の種類としては、十分な低抵抗化を実現する観点からは、Gaを用いることが最も好ましいが、その他のIII族元素であるAlあるいはInを用いた場合も、Gaを用いた場合に準じる効果を得ることが可能である。
【0080】
また、III族元素であるGaと、AlおよびInの少なくとも一方の、少なくとも2種類のIII族元素をドープした場合にも同様の効果を得ることが可能である。
さらに、III族元素であるGa以外に、III族元素以外の他のドーパントを共に添加した場合も本願発明の基本的な効果を得ることが可能である。
【実施例2】
【0081】
上記の実施例1では、透明導電膜が形成される基体がガラス基板である場合について説明したが、この実施例2では、透明導電膜が形成される基体として、PEN(ポリエチレンナフタレート)からなる基板(フレキシブル基板)を用い、上記実施例1の場合と同様の方法で、基板の前処理を行った。
【0082】
それから、上記実施例1の場合と同様に、スパッタリングターゲットとして、焼結密度が80%以上の、直径6インチのZnO焼結体ターゲットを用意した。
【0083】
さらに、上記実施例1の場合と同様に、Ga酸化物(Ga2O3)からなる直径が10mmのドーピング用のペレット(Ga2O3ペレット)を用意した。
【0084】
また、この実施例2でも、Ga2O3のドープ量は、上述のGa2O3ペレットの数を調整することにより調整した。
【0085】
そして、上記実施例1の場合と同じスパッタリング装置を用い、同じ方法、同じ条件でスパッタリングを行い、GaがドープされたZnO膜(透明導電膜)をPEN基板(フレキシブル基板)上に成膜した。
【0086】
そして、成膜されたZnO膜にウェットエッチングによるパターニングを行った後、触針式段差計を用いて設定膜厚になっていることを確認した。
【0087】
上記のサンプルについて、4探針測定で求めた抵抗率は、
(1)Ga2O3ペレットの数を1個とした場合、6.7×10-4Ωcm、
(2)Ga2O3ペレットの数を3個とした場合、8.1×10-4Ωcm、
(3)Ga2O3ペレットの数を5個とした場合、3.4×10-3Ωcm
であった。
【0088】
また、シート抵抗は、
(1)Ga2O3ペレットの数を1個とした場合、15Ω/□、
(2)Ga2O3ペレットの数を3個とした場合、20Ω/□、
(3)Ga2O3ペレットの数を5個とした場合、77Ω/□
であった。
【0089】
また、可視領域での光透過率は、Ga2O3ペレットの数を1個、3個、および5個とした場合のいずれの場合も80%以上を達成した。
【0090】
さらに、ICP組成分析で定量評価した結果、実施例2の場合にも、Ga2O3ペレット数と、Ga2O3ドープ濃度の関係は、以下のような関係になることが確認された。
(1)Ga2O3ペレット数1個の場合、Ga2O3ドープ濃度5.5重量%、
(2)Ga2O3ペレット数3個の場合、Ga2O3ドープ濃度14.8重量%、
(3)Ga2O3ペレット数5個の場合、Ga2O3ドープ濃度28.5重量%
【0091】
さらに、この実施例2で作製したサンプルについて、高温高湿の耐湿性試験を行ったところ、図16に示すように、Ga2O3ペレット数が1個で、Ga2O3ドープ濃度が5.5重量%の場合には、時間の経過とともに抵抗が著しく増大したが、Ga2O3ペレット数が3個で、Ga2O3ドープ濃度が14.8重量%の場合には、200時間経過後の抵抗の変化率(増大率)が8.8%となり、Ga2O3ペレット数が5個で、Ga2O3ドープ濃度が28.5重量%の場合には、200時間経過後の抵抗の変化率(増大率)が7.8%となっており、Ga2O3ペレット数1個(Ga2O3ドープ濃度5.5重量%)の場合に比べて著しく耐湿性が向上することが確認された。
【0092】
この実施例2により、本願発明の方法により製造されるZnO系の透明導電膜は、PENからなるフレキシブル基板を用いた、いわゆるフレキシブルデバイスにも応用することが可能であることが確認された。
【実施例3】
【0093】
上記実施例2において用いた、PEN(ポリエチレンナフタレート)からなる基板(フレキシブル基板)に代えて、PET(ポリエチレンテレフタレート)からなる基板(フレキシブル基板)を用い、上記実施例2の場合と同じ方法および条件でスパッタリングを行い、GaがドープされたZnO膜(透明導電膜)を形成した。
【0094】
そして、得られたZnO膜(透明導電膜)について、同様の条件で特性を測定したところ、上記実施例2の場合と同様の特性を有するZnO膜(透明導電膜)が得られることが確認された。
これにより、汎用性のあるPET(ポリエチレンテレフタレート)からなる基板(フレキシブル基板)上にも、実用可能な透明導電膜を形成することが可能であることが確認された。
【実施例4】
【0095】
基体として、無アルカリガラス(コーニング1737)からなるガラス基板を用意した。そして、このガラス基板(基体)をイソプロピルアルコールおよびUV照射によって洗浄することにより清浄表面を得た。
また、スパッタリングターゲットとして、焼結密度が80%以上の、直径4インチのZnO焼結体ターゲットを用意した。
【0096】
さらに、ドーピング用に、Ga酸化物(Ga2O3)からなる直径が10mmのペレット(Ga2O3ペレット)を用意した。
【0097】
そして、この実施例4では、Ga2O3ペレットを上述のZnO焼結体ターゲット上のエロージョン領域に配置し、スパッタリングを行うことにより、Ga2O3がドープされたZnO膜を基体上に形成した。
なお、Ga2O3のドープ量は、上述のGa2O3ペレットの数を調整することにより調整した。
【0098】
スパッタリングを行うにあたっては、ガラス基板をスパッタリング装置の真空チャンバにセッティングし、5×10-5Paまで真空吸引を行った後、ガラス基板を加熱することなく、基体にバイアス電圧−80Vを印加してスパッタリングを行った。
【0099】
また、この実施例4では、スパッタガスとして、高純度Arガスを用い、真空チャンバ内の圧力が1Paになるまでスパッタガスを導入した。
【0100】
そして、RF電力250Wの条件でスパッタリングを開始して成膜を行い、所定の膜厚を有し、Gaが所定の割合でドープされたZnO膜(透明導電膜)を形成した。なお、成膜されるZnO膜の設定膜厚は400nmとした。
そして、成膜されたZnO膜にウェットエッチングによるパターニングを行った後、膜厚が設定膜厚に対して±15%となっていることを触針式段差計を用いて確認した。
【0101】
成膜されたZnO膜のGaのドープ濃度は4.5重量%であり、抵抗率は8.3x10-4Ωcmであった。
また、このZnO膜について、85℃、85%RHの耐湿試験を実施したところ、図17に示すように1000時間経過後の抵抗変化率は+10%と良好な結果が得られた。なお、図17には、ガラス基板(基体)へのバイアス電圧を−80Vとした場合の抵抗変化率のデータとともに、ガラス基板へのバイアス電圧を−40V、0V、+40Vとして作製したサンプル(透明導電膜)について測定した抵抗変化率のデータを併せて示している。
【0102】
上述のように、ガラス基板(基体)にバイアス電圧−80Vを印加してスパッタリングを行うことにより成膜したZnO膜は、耐湿性が著しく向上し、1000時間経過後の抵抗変化率は+10%と良好であることが確認された。この原因を探るため、ガラス基板(基体)へのバイアス電圧を変化させて透明導電膜を作製し、構造解析を行った。
図18は、基体へのバイアス電圧を、それぞれ−80V、0V、+40Vとして作製したサンプルについての、X線回折法によるθ−2θスキャンのチャートを示す図である。
【0103】
図18に示すように、プラスバイアス電圧を印加した場合およびバイアス電圧を印加していない場合に比べて、マイナスバイアス電圧を印加した場合には、c軸ピークが弱くなる傾向が認められ、−80Vのバイアス電圧を印加すると、c軸ピークがほぼ消失することが確認された。
【0104】
また、図19(a),(b),(c),(d)は、基体へのバイアス電圧を、−80V、−40V、0V、+40Vとして作製した透明導電膜についての、X線回折のZnO(002)入射極点図である。図19(a)に示すように、ガラス基板へのバイアス電圧を−80Vとして作製した透明導電膜においては、c軸の乱れが生じていることが明瞭に確認された。
【0105】
また、図20は、ガラス基板へのバイアス電圧を−80Vとして作製した透明導電膜の透過電子顕微鏡像を示す図である。図20より、−80Vのバイアス電圧を印加したZnO膜の場合、c軸が傾いて成長しており、高濃度ドープ膜と同様の結晶構造をもって成長していることがわかる。
【0106】
上記実施例1〜3のように、III族元素(Ga)を高濃度でドープさせた場合に耐水性が向上するのは、III族元素(Ga)の高濃度ドープによるc軸柱状構造の乱れが、H2O拡散の活性化エネルギーを増大させるというメカニズムに基づくものと推定したが、ガラス基板にバイアス電圧を印加しつつスパッタリングした場合にZnO膜の耐水性が向上するのは、Ar+イオンによるボンバード効果や、Ar+イオンの膜中への取り込みにより、c軸柱状成長が抑制されたことによるものと考えられる。
なお、表1は、ZnO膜中のAr含有量をWDX(波長分散型X線元素分析)により分析した結果を示している。
【0107】
【表1】
【0108】
表1に示すように、負バイアス電圧の絶対値が大きくなるにともなって、Arの取り込み量が増えていることがわかる。
【0109】
また、図21は、ガラス基板へのバイアス電圧と、抵抗率およびGa2O3のドープ濃度の関係を示す図である。
図21より、ガラス基板へのバイアス電圧の印加は、抵抗率にほとんど影響しないことがわかる。したがって、ガラス基板にバイアス電圧を印加しつつ成膜を行うことにより、低抵抗化と高耐湿化の両方を実現することが可能になる。
【0110】
なお、この実施例4の、ガラス基板にバイアス電圧を印加しつつ透明導電膜を成膜する方法の場合にも、ドープ元素の種類としては、低抵抗化を図る観点からはGaが最も好ましいが、III族元素であるAl、あるいはInを用いた場合にも同様の効果が見込まれる。また、GaにさらにAlあるいはInを加えた場合にも同様の効果が見込まれる。
【0111】
また、実施例4では、基体に負のバイアス電圧を印加しながら薄膜形成を行うことにより、耐湿性の良好な透明導電膜を得ることができたが、基体に印加するバイアス電圧の正負や、バイアス電圧の値(絶対値)などは、III族元素の種類やドープ濃度などの条件に応じて、最適な条件を設定することが望ましく、場合によっては、上記実施例4の場合とは異なる値(絶対値)の、正のバイアス電圧を印加しながら薄膜形成を行うことが望ましい場合もありうる。
【実施例5】
【0112】
上記実施例4において用いた、無アルカリガラスからなる基板(基体)に代えて、PET(ポリエチレンテレフタレート)からなる基板(フレキシブル基板)を用い、上記実施例4の場合と同じ方法および条件で、このフレキシブル基板にバイアス電圧を印加しつつ、スパッタリングを行い、GaがドープされたZnO膜(透明導電膜)を形成した。
【0113】
そして、得られたZnO膜(透明導電膜)について、同様の条件で特性を測定したところ、上記実施例4の場合と同様の特性を有するZnO膜(透明導電膜)が得られることが確認された。
これにより、汎用性のあるPET(ポリエチレンテレフタレート)からなる基板(フレキシブル基板)上にも、実用可能な透明導電膜を形成することが可能であることが確認された。
【0114】
なお、上記実施例1〜5では、ガラス基板、PEN基板、およびPET基板にZnO膜(透明導電膜)を形成したが、ガラス、水晶、サファイヤ、Siなどの単結晶基板にも形成することが可能であり、その場合にも上述のガラス基板上に形成した場合と同様の効果を得ることが可能である。
【0115】
また、上記実施例1〜5では、基体上に直接にZnO膜(透明導電膜)を形成するようにした場合について説明したが、フレキシブル基板のように水分を透過させる基板上にZnO膜(透明導電膜)を形成する場合には、SiNx薄膜を介して、基体上にZnO膜(透明導電膜)を形成することにより、透明導電膜の耐湿性をさらに向上させることが可能になり、耐湿試験における1000時間経過後の抵抗変化率を0にすることも可能である。
【0116】
本願発明はさらにその他の点においても上記の各実施例に限定されるものではなく、透明導電膜が形成される基体の形状や構成材料の種類、III族元素の種類やドープ量、透明導電膜の具体的な成膜条件などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0117】
上述のように、本願発明によれば、実用可能な耐湿性と、透明導電膜として必要な特性を備え、しかも経済性に優れた、ZnO系の透明導電膜を効率よくしかも確実に製造することが可能になる。
したがって、本願発明は、フラットパネルディスプレイや太陽電池の透明電極など、種々の用途に広く適用することが可能である。
【技術分野】
【0001】
本願発明は、透明導電膜に関し、詳しくは、酸化亜鉛(ZnO)を主たる成分とする透明導電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットパネルディスプレイや太陽電池などに透明電極が広く用いられるようになっている。そして、透明電極の材料として、ITO(スズ添加インジウム酸化物)が広く用いられている。
【0003】
しかしながら、インジウム(In)は高価で、資源の枯渇も懸念される物質であることから、他の材料を用いた透明電極への要求が高まっている。そして、Inを用いない透明電極として、低価格で、安定供給が可能な亜鉛(Zn)の酸化物(ZnO)を用いたZnO系透明電極の開発が進められている。
【0004】
なお、ZnOは、化学量論組成では絶縁体であるが、酸素欠損起因の余剰電子、およびZnサイトへの元素置換(ドーピング)によって導電性を付与することが可能である。そして、このようなZnOを主成分として用いた透明電極としては、現状でも、抵抗率ρが10-4Ωcm台のものを作製することができるようになっている。
【0005】
しかしながら、ZnO系透明導電膜は、実用性の面から見ると耐湿性が不十分であるという問題点がある。すなわち、従来のZnO系透明導電膜中には多くの酸素欠損が含まれており、湿度の高い環境下に放置すると酸素欠損への水分吸着(再酸化)によりキャリアが減少して高抵抗化を招くという問題点がある。ITOを用いた透明電極における耐湿性の目安の一つとしては、85℃、85%RH雰囲気にて720h経過後の抵抗変化率が±10%とされているが、ZnO系透明導電膜で、この要件を満たすものは得られていない。
【0006】
さらに、今後用途の拡大が予測される、フレキシブル基板上にZnO系透明導電膜を形成した場合、フレキシブル基板が水分を透過させるため、透明導電膜の表面からのみではなく、フレキシブル基板を透過した水分の影響により、透明導電膜の劣化がさらに大きくなるという問題点がある。
【0007】
このような問題点を解消すべく、ZnO系透明導電膜の耐湿性を向上させるための方法が種々検討されており、その方法は、
(1)SiNバリア膜を設けて基板側からの水分透過を抑制する方法、
(2)加熱成膜などによって、ZnOの膜質(結晶性)を改善する方法
の二つの方法に大別される。
しかしながら、現在のところ実用可能な耐湿性を備えたZnO系透明導電膜を得ることができていないのが実情である。
【0008】
なお、ZnOに元素をドーピングして導電性を付与することに関する技術としては、例えば、以下に示すようなものが提案されている。
【0009】
(a)ZnOの分子線、またはZnおよびOの分子線を用いてZnO膜を作製する際に、IA族(H)、IIIA族(B、Al、Ga、In)、またはVII族(F、Cl、I、Br)のいずれかの原子の分子線を用いてZnO膜中に不純物をドーピングすることにより、制御性良く電気抵抗を低減化させる方法(特許文献1参照)。
【0010】
(b)周期律表VB族又はVIB族の元素がドープされた酸化亜鉛からなる透明導電体であって、上記元素を元素原子と亜鉛原子との合計原子数に対して0.1〜10原子%含有する透明導電膜を、基材上に積層した透明導電体(特許文献2参照)。
【0011】
(c)基板上に陽電極と、陰電極と、これらの電極間に挟まれた有機層とを備え、陽電極として、Ir,Mo,Mn,Nb,Os,Re,Ru,Rh,Cr,Fe,Pt,Ti,WおよびVの酸化物を1種または2種以上含有する材料からなるものを用いた透明導電膜である有機EL素子(特許文献3参照)。
【0012】
(d)II族元素若しくはVII族元素若しくはI族元素若しくはV族元素のいずれかをドープし、またはドープしない導電性ZnO等の透明導電性材料を用いたトランジスタ(特許文献4参照)。
【0013】
(e)酸化亜鉛薄膜のc軸:a軸の配向性の比が100:1以上であり、且つ、アルミニウム、ガリウム、ホウ素などIII族およびVII族化合物のうち少なくとも1種類ドーピングされた透明導電膜(特許文献5参照)。
【0014】
(f)一般式(ZnO)m・In2O3(m=2〜20)で表わされる六方晶層状化合物のInまたはZnの元素を、Sn、Y、Ho、Pb、Bi、Li、Al、Ga、Sb、Si、Cd、Mg、Co、Ni、Zr、Hf、Sc、Yb、Lu、Fe、Nb、Ta、W、Te、Au、PtおよびGeよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素で置換した六方晶層状化合物であって、平均厚さが0.001μm〜0.3μm、平均アスペクト比(平均長径/平均厚さ)が3〜1000であるインジウム亜鉛酸化物系六方晶層状化合物(特許文献6参照)。
【0015】
そして、これらのZnO系透明導電膜も、耐湿性に関し、上述のような問題点を包含している。
【特許文献1】特開平7−106615号公報
【特許文献2】特開平8−050815号公報
【特許文献3】特開平11−067459号公報
【特許文献4】特開2000−150900号公報
【特許文献5】特開2000−276943号公報
【特許文献6】国際公開第2001/056927号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本願発明は、上記課題を解決するものであり、実用可能な耐湿性と、透明導電膜として必要な特性を備え、しかも経済性に優れた、ZnO系の透明導電膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本願発明(請求項1)の透明導電膜は、
酸化亜鉛(ZnO)にIII族元素をドーピングして基体上に成長させた透明導電膜であって、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上であることを特徴としている。
【0018】
また、請求項2の透明導電膜は、請求項1の発明の構成において、前記透明導電膜が、前記基体にバイアス電圧を印加しながら薄膜形成することにより形成されたものであることを特徴としている。
【0019】
また、請求項3の透明導電膜は、請求項2の発明の構成において、前記薄膜形成が、スパッタリング法、蒸着法、蒸着イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、およびアークプラズマ蒸着法からなる群より選ばれる1種の方法によるものであることを特徴としている。
【0020】
また、請求項4の透明導電膜は、請求項1〜3のいずれかの発明の構成において、酸化亜鉛(ZnO)を主成分とし、III族元素酸化物を7〜40重量%の割合で含有するものであることを特徴としている。
【0021】
また、請求項5の透明導電膜は、請求項1〜4のいずれかの発明の構成において、前記透明導電膜が、SiNx薄膜を介して、基体上に形成されていることを特徴としている。
【0022】
また、請求項6の透明導電膜は、請求項1〜5のいずれかの発明の構成において、前記基体が、ガラス、水晶、サファイヤ、Si、SiC、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリイミド、シクロオレフィン系ポリマー、およびポリカーボネイトからなる群より選ばれる少なくとも1種を主たる成分とするものであることを特徴としている。
【0023】
また、請求項7の透明導電膜は、請求項1〜6のいずれかの発明の構成において、前記III族元素が、Ga、Al、およびInからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴としている。
【0024】
本発明の透明導電膜は、酸化亜鉛(ZnO)とIII族元素酸化物とを含有する原料を用い、III族元素酸化物のドープ量が7〜40重量%の範囲になるように、薄膜形成方法により基体上に成膜することにより、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上である透明導電膜を基体上に形成する方法により製造することができる。
【0025】
また、本発明の透明導電膜は、酸化亜鉛(ZnO)とIII族元素酸化物とを含有する組成物からなる焼結体ターゲットを用い、III族元素酸化物のドープ量が7〜40重量%の範囲になるように、スパッタリング法、蒸着法、蒸着イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、およびアークプラズマ蒸着法からなる群より選ばれる1種の方法により基体上に成膜することにより、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上である透明導電膜を基体上に形成する方法により製造することができる。
【0026】
また、上述の方法で本発明の透明導電膜を製造するにあたっては、薄膜形成方法により成膜することにより前記透明導電膜が形成される基体の温度と前記III族元素酸化物のドープ量の関係を、図4の点a,b,cで規定される範囲内の関係とすることが望ましい。
【0027】
また、前記スパッタリング法、蒸着法、蒸着イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、およびアークプラズマ蒸着法からなる群より選ばれる1種の方法により成膜するにあたっては、前記基体にバイアス電圧を印加しながら成膜を行うことが望ましい。
【0028】
また、前記薄膜形成方法による成膜を、背圧を1×10-4Pa以下にした真空チャンバ内で行うことが望ましい。
【発明の効果】
【0029】
本願発明(請求項1)の透明導電膜は、酸化亜鉛(ZnO)にIII族元素をドーピングして基体上に成長させた透明導電膜であって、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上であり、c軸が同一方向に向く度合いが低いため、酸素欠損の再酸化を抑制することが可能になり、実用レベルの耐湿性を備え、かつ、経済性にも優れたZnO系の透明導電膜を提供することが可能になる。
なお、本願発明において、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上であることを要件としたのは、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上のZnO膜においては、c軸が同一方向に向く度合いが、酸素欠損の再酸化を抑制、防止できる程度にまで十分に低くなることによる。
【0030】
また、請求項2の透明導電膜のように、請求項1の発明の構成において、透明導電膜が、基体にバイアス電圧を印加しながら薄膜形成することにより形成されたものである場合、III族元素酸化物のドープ量を少なく抑えつつ、耐湿性を向上させることが可能になり、低抵抗で耐湿性に優れた透明導電膜を製造することが可能になる。
【0031】
また、請求項3の透明導電膜のように、請求項2の発明の構成において、前記薄膜形成が、スパッタリング法、蒸着法、蒸着イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、アークプラズマ蒸着法からなる群より選ばれる1種の方法によるものである場合、さらに効率よく、低抵抗で耐湿性に優れた透明導電膜を製造することが可能になる。
【0032】
また、請求項4の透明導電膜のように、請求項1〜3のいずれかの発明の構成において、酸化亜鉛(ZnO)を主成分とし、III族元素酸化物を7〜40重量%の割合で含有するようにした場合、c軸が互いに異なる複数の方向に向いた結晶構造を有する領域を備えた透明導電膜、あるいは、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上である透明導電膜を効率よく形成することが可能になり、本願発明をより実効あらしめることが可能になる。
なお、III族元素酸化物のドープ量を7〜40重量%の範囲としたのは、ドープ量が7重量%未満になると、c軸が互いに異なる複数の方向に向いた結晶構造を有する領域を備えた透明導電膜、または、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上である透明導電膜を効率よく形成することが困難になり、また、ドープ量が40重量%を超えると、実用可能な低抵抗率の透明電極を得ることが困難になることによる。
【0033】
また、請求項5の透明導電膜のように、請求項1〜4のいずれかの発明の構成において、透明導電膜を、SiNx薄膜を介して、基体上に形成するようにした場合、例えば、基体が樹脂材料からなるフレキシブル基板のような、水分を通過させるものである場合にも、フレキシブル基板(基体)を通過した水分が透明導電膜にまで達することを効率よく抑制、防止して、十分な耐湿性を確保することが可能になり、本願発明をさらに実効あらしめることができる。
【0034】
また、本願発明においては、請求項6のように、基体として、ガラス、水晶、サファイヤ、Si、SiC、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリイミド、シクロオレフィン系ポリマーおよびポリカーボネイトからなる群より選ばれる少なくとも1種を主たる成分とするものを用いることが可能であり、本願発明によれば、これらの材料からなる基体上に、実用レベルの耐湿性を備え、かつ、経済性にも優れたZnO系の透明導電膜を得ることが可能になる。
【0035】
また、請求項7の透明導電膜のように、請求項1〜6のいずれかの発明の構成において、III族元素として、Ga、AlおよびInからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることにより、実用レベルの耐湿性を備え、かつ、経済性にも優れたZnO系の透明導電膜をより確実に得ることが可能になる。
なお、III族元素(ドープ元素)の種類としては、十分な低抵抗化を実現する観点からは、Gaを用いることが最も好ましいが、その他のIII族元素であるAlあるいはInを用いた場合も、Gaを用いた場合に準じる効果を得ることができる。
なお、上述のように、Inは高価な物質であるが、添加物(ドーパント)として用いられるものであることから、従来のように主成分として用いる場合に比べて、コストを大幅に低減することができる。
【0036】
また、酸化亜鉛(ZnO)とIII族元素酸化物とを含有する原料を用い、III族元素酸化物のドープ量が7〜40重量%の範囲になるように、薄膜形成方法により基体上に成膜することにより、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上である透明導電膜を形成する方法で本発明の透明導電膜を製造するようにした場合、特に複雑な工程を必要とすることなく、容易かつ確実に、c軸が互いに異なる複数の方向に向いた結晶構造を有する領域を備えた透明導電膜を基体上に形成することができる。
【0037】
また、酸化亜鉛(ZnO)とIII族元素とを含有する透明導電膜を製造するに際し、酸化亜鉛(ZnO)とIII族元素酸化物とを含有する組成物からなる焼結体ターゲットを用い、III族元素酸化物のドープ量が7〜40重量%の範囲になるように、スパッタリング法、蒸着法、蒸着イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、アークプラズマ蒸着法からなる群より選ばれる1種の方法により基体上に成膜することにより、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上である透明導電膜を基体上に形成する方法で本発明の透明導電膜を製造するようにした場合、上記薄膜形成方法を実施するための通常の装置と基本的に同じ構成の装置を用いて、実用レベルの耐湿性を備えたZnO系の透明導電膜を、効率よく、しかも経済的に製造することが可能になる。
【0038】
また、薄膜形成方法により成膜を行うことにより透明導電膜が形成される基体の温度とIII族元素酸化物のドープ量の関係を、図4の点a,b,cで規定される範囲内の関係とすることにより、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上である透明導電膜を効率よく形成することが可能になる。
すなわち、上記薄膜形成方法による成膜を行って透明導電膜を形成する際の、基体の温度を、III族元素酸化物のドープ量に応じて、図4の点a,b,cで規定される範囲で制御することにより、ZnO膜(透明導電膜)の結晶状態を制御して、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上である透明導電膜を効率よく形成することが可能になり、本願発明をより実効あらしめることが可能になる。
なお、図4の点aとbを結ぶ線の傾きは、成膜条件に応じて調整する(変化させる)ことが可能であり、かつ、適宜、点aとbを結ぶ線の傾きを調整することにより、さらに効率よくZnO膜の結晶状態を制御して、特性の良好な透明導電膜を得ることができる。
【0039】
また、前記スパッタリング法、蒸着法、蒸着イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、アークプラズマ蒸着法からなる群より選ばれる1種の方法により成膜するにあたって、前記基体にバイアス電圧を印加しながら成膜を行うようにした場合、III族元素酸化物のドープ量を少なく抑えつつ、耐湿性を向上させることが可能になり、低抵抗で耐湿性に優れた透明導電膜を確実に製造することが可能になる。
【0040】
また、薄膜形成方法による成膜を、背圧を1×10-4Pa以下にした真空チャンバ内で行うことにより、実用レベルの抵抗率と耐湿性とを兼ね備えたZnO系の透明導電膜を、より確実に製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】ZnO膜(透明導電膜)における、Ga2O3のドープ濃度と抵抗率などの関係を示す図である。
【図2】従来のZnO膜(透明導電膜)について耐湿性試験(85℃、85%RH)を行った場合の、経過時間と抵抗変化率の関係を示す図である。
【図3】本願発明のZnO膜(透明導電膜)について、耐湿性試験(85℃、85%RH)を行った場合の、経過時間と抵抗変化率の関係を示す図である。
【図4】本願発明の透明導電膜を製造する場合における、III族元素酸化物ドープ濃度と加熱温度の関係を示す図である。
【図5】ZnO膜(透明導電膜)へのGa2O3ドープ濃度とc軸配向性の関係を示す線図である。
【図6】本願発明の範囲外の、Ga2O3ドープ濃度4.1重量%のサンプルの透過電子顕微鏡像を示す図である。
【図7】本願発明の範囲内の、Ga2O3ドープ濃度22.8重量%のサンプルの透過電子顕微鏡像を示す図である。
【図8】本願発明の範囲外の、Ga2O3ドープ濃度4.1重量%のサンプルの結晶構造を模式的に示す図である。
【図9】本願発明の範囲内の、Ga2O3ドープ濃度22.8重量%のサンプルの結晶構造を模式的に示す図である。
【図10】本願発明の範囲外の、Ga2O3ドープ濃度4.1重量%のサンプルの表面状態を示す原子間力顕微鏡写真を示すものである。
【図11】本願発明の範囲内の、Ga2O3ドープ濃度22.8重量%のサンプルの表面状態を示す原子間力顕微鏡写真を示すものである。
【図12】本願発明の範囲外の、Ga2O3ドープ濃度4.1重量%のサンプルについての、X線回折のZnO(002)入射極点図である。
【図13】本願発明の範囲内の、Ga2O3ドープ濃度12.6重量%のサンプルについての、X線回折のZnO(002)入射極点図である。
【図14】本願発明の範囲内の、Ga2O3ドープ濃度22.8重量%のサンプルについての、X線回折のZnO(002)入射極点図である。
【図15】ZnO膜(透明導電膜)へのGa2O3ドープ濃度とZnO(002)ロッキングカーブ半値幅の関係を示す図である。
【図16】本願発明の実施例2において、フレキシブル基板(PEN基板)上に形成したZnO膜(透明導電膜)について、耐湿性試験(85℃、85%RH)を行った場合の、経過時間と抵抗変化率の関係を示す図である。
【図17】本願発明の実施例4において、フレキシブル基板(PEN基板)上に形成したZnO膜(透明導電膜)について、耐湿性試験(85℃、85%RH)を行った場合の、経過時間と抵抗変化率の関係を示す図である。
【図18】基板へのバイアス電圧と、ZnO膜(透明導電膜)のc軸配向性の関係を示す線図である。
【図19】(a)〜(d)は、基板に−80V〜+40vの各バイアス電圧を印加しつつ作製したZnO膜についての、X線回折のZnO(002)入射極点図である。
【図20】本願発明の実施例4の方法で作製した透明導電膜の透過電子顕微鏡像を示す図である。
【図21】基板へのバイアス電圧と、抵抗率およびGa2O3のドープ濃度の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
B 粒界
G グレイン
R 領域
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下に本願発明の実施例を示して、本願発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【0044】
酸化亜鉛(ZnO)にIII族元素酸化物をドーピングして基体上に成長させた本願発明の透明導電膜において、ZnOへのドーパント(III族元素)としては、Ga、Al、Inが代表的なものである。
【0045】
これらのIII族元素(III族元素酸化物)をZnOにドープすると、2価のZnサイトが3価の陽イオンで置換されるため、余剰電子がキャリアとなってn型の導電性を示すようになる。さらにスパッタリング法、蒸着法、蒸着イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、アークプラズマ蒸着法、CVD法、ゾルゲル法などの成膜法を用いて酸素供給が化学量論比を下回るような条件で成長させると、形成される膜中に酸素欠損を生じ、電子がキャリアとなってやはりn型の導電性を示す。
したがって、III族元素をドープしたZnOは、サイト置換起因によるドナータイプの不純物添加と、酸素欠損起因による電子発生の両方を、キャリアの供給源としたn型の半導体である。
【0046】
また、酸化亜鉛(ZnO)にIII族元素をドーピングした導電体において、例えば、Gaをドーパントとした場合、ドープ量と物性の関係は文献:「南 内嗣他,J.Vac.Soc.(真空),Vo1.47,No.10,(2004)734.」で報告されており、図1のようにGa2O3換算で、ドープ量が2〜4重量%のときに最も低い抵抗率となる。従って透明導電膜としての応用を考えると、トープ量を、低抵抗率のZnO膜を得ることが可能な、この2〜4重量%の範囲とすることが有利になる。
なお、ドープ量を増やすと相対的に抵抗率が増大するため、ドープ量の範囲を広げたとしても、適用可能な範囲は通常、2〜6重量%程度までである。これは、透明導電膜としての応用を考えると、なるべく抵抗率が低くなるようにすることが有利であり、わざわざドープ量を多くして抵抗率を高くする必要がないことによる。
【0047】
しかしながら、ドープ量を少なくしたZnO膜は、耐湿試験で著しい劣化を伴うことが確認されている。例えば、前述の文献に基づいて、Ga2O3換算濃度2〜4重量%のZnO膜について耐湿性試験(85℃、85%RH)を行ったところ、200時間経過後にガラス基板上に形成されたZnO膜では約30%、プラスチックの1種であるPEN(ポリエチレンナフタレート)を用いたフレキシブル基板上に形成されたZnO膜では約60%の抵抗変化(抵抗率の増大)が生じることが確認された(図2)。このような抵抗率の劣化レベルは、実用化不可能な劣化レベルである。
【0048】
また、発明者等は、ZnO膜の耐湿試験による抵抗率の劣化(抵抗率の増大)の原因が酸素欠損の化学的不安定さにある可能性が高いことを考慮し、
(1)真空チャンバ内に水を意図的に導入して酸素欠損を終端する方法、
(2)基板を加熱して結晶化を促進する方法
などの対策を講じてみた。しかしながら、いずれの方法でも十分な効果を得ることはできなかった。
【0049】
そこで、発明者等は、さらに、実験、検討を行い、III族元素のドーピング量を従来のドーピング量に比べて大幅に増やしたところ、ZnO膜の耐湿試験による抵抗率の劣化(抵抗率の増大)が著しく抑制されることを知り、さらに、実験、検討を繰り返し、本願発明を完成するに至った。
【0050】
前述のように、ZnOのキャリア供給にはサイト置換と酸素欠損の両方が寄与しているが、それぞれの寄与の度合いを定量的に分析することは技術的に困難である。しかしながら、定性的に見て、酸素欠損の寄与を可能な限り減らしてサイト置換の寄与の割合を支配的にすることにより、化学的不安定さを緩和することが可能であると考え、III族元素のドーピング量を従来のドーピング量に比べて大幅に増やす、高濃度ドープを行い、得られるZnO膜の特性を調べた。
【0051】
すなわち、ノンドープZnOスパッタリングターゲットと、その上に配置するGa2O3ペレットを用意し、ノンドープZnOスパッタリングターゲット上に配置するGa2O3ペレットの数によりドープ濃度を調整してスパッタリングを行うことにより、ガラス基板上に、Ga2O3がドープされたZnO膜を形成し、Ga2O3ペレット数とGa2O3ドープ濃度の関係を、ICP組成分析で定量評価した。
その結果、Ga2O3ペレット数と、Ga2O3ドープ濃度の関係は以下のような関係になることが確認された。
(1)Ga2O3ペレット数1個 :Ga2O3ドープ濃度4.1重量%、
(2)Ga2O3ペレット数1.5個:Ga2O3ドープ濃度6.5重量%、
(3)Ga2O3ペレット数2個 :Ga2O3ドープ濃度8.1重量%、
(4)Ga2O3ペレット数2.5個:Ga2O3ドープ濃度10.8重量%、
(5)Ga2O3ペレット数3個 :Ga2O3ドープ濃度12.6重量%、
(6)Ga2O3ペレット数5個 :Ga2O3ドープ濃度22.8重量%
【0052】
このようにして作製した、Gaのドープ濃度が4.1〜22.8重量%の範囲にあるサンプルについて、耐湿性試験(85℃、85%RH)を行ったところ、図3に示すように、Ga2O3のドープ濃度が8.1重量%以上のサンプルの場合、200時間後も抵抗率の大幅な劣化(抵抗変化率の大幅な増大)は認められなかった。これに対し、ドープ濃度が本願発明の下限側の範囲である7.0重量%を下回る4.1重量%および6.5重量%の場合、24時間後の抵抗変化率が約13%、200時間後の抵抗変化率が20%以上になること、すなわち、抵抗率の劣化が大きくなり、実用レベルのZnO膜を得ることができなくなることが確認された。
また、同様にして、PEN(ポリエチレンナフタレート)を用いたフレキシブル基板上にZnO膜を形成した場合にも、Ga2O3のドープ濃度が7.0重量%以上になると200時間後も抵抗の大幅な劣化は認められなかったが、Ga2O3のドープ濃度が7.0重量%を下回ると、抵抗変化率が大きくなり、好ましくない結果となることが確認された。
以下に、具体的な実施例を示して、本願発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0053】
基体として、無アルカリガラス(コーニング7059)からなるガラス基板を用意した。そして、このガラス基板をイソプロピルアルコールおよびUV照射によって洗浄することにより清浄表面を得た。
【0054】
また、スパッタリングターゲットとして、焼結密度が80%以上の、直径6インチのZnO焼結体ターゲットを用意した。
【0055】
さらに、ドーピング用に、Ga酸化物(Ga2O3)からなる直径が10mmのペレット(Ga2O3ペレット)を用意した。
【0056】
そして、この実施例1では、Ga2O3ペレットを上述のZnO焼結体ターゲット上のエロージョン領域に配置し、スパッタリングを行うことにより、Ga2O3がドープされたZnO膜を基体上に形成した。
なお、Ga2O3のドープ量は、上述のGa2O3ペレットの数を調整することにより調整した。
【0057】
スパッタリングを行うにあたっては、ガラス基板をスパッタリング装置の真空チャンバにセッティングし、5×10-5Paまで真空吸引を行った後、ガラス基板(基体)を加熱することなくスパッタリングを行った。
【0058】
また、この実施例1では、スパッタガスとして、高純度Arガスを用い、真空チャンバ内の圧力が1Paになるまでスパッタガスを導入した。
【0059】
なお、本願発明の透明導電膜の製造方法においては、基体を加熱することにより、形成されるZnO膜の結晶構造を制御することが可能であるが、その場合には、基体の温度とIII族元素酸化物のドープ量の関係を、図4の点a,b,cにより規定される三角形状の領域Rの範囲内の関係とすることが望ましい。その場合、点aとbを結ぶ線の傾きを、成膜条件に応じて調整することにより、効率よくZnO膜の結晶状態を制御して、より特性の良好な透明導電膜を得ることが可能になる。
【0060】
そして、RF電力500Wの条件でスパッタリングを開始して成膜を行い、所定の膜厚を有し、Gaが所定の割合でドープされたZnO膜(透明導電膜)を形成した。なお、成膜されるZnO膜の設定膜厚は400nmとした。
そして、成膜されたZnO膜にウェットエッチングによるパターニングを行った後、膜厚が設定膜厚に対して±15%となっていることを触針式段差計を用いて確認した。
【0061】
上記のサンプルについて、4探針測定で求めた抵抗率は、
(1)Ga2O3ペレットの数を1個とした場合、5.9×10-4Ωcm、
(2)Ga2O3ペレットの数を3個とした場合、9.1×10-4Ωcm、
(3)Ga2O3ペレットの数を5個とした場合、4.8×10-3Ωcm
であった。
【0062】
また、シート抵抗は、
(1)Ga2O3ペレットの数を1個とした場合、13Ω/□、
(2)Ga2O3ペレットの数を3個とした場合、22Ω/□、
(3)Ga2O3ペレットの数を5個とした場合、116Ω/□
であった。
【0063】
また、可視領域での光透過率は、Ga2O3ペレットの数を1個、3個、および5個とした場合のいずれの場合も80%以上を達成した。
【0064】
また、成膜されたZnO膜の表面粗さ(Rms)は、
(1)Ga2O3ペレットの数を1個とした場合、6.969nm(1回目)、7.437nm(2回目)、
(2)Ga2O3ペレットの数を3個とした場合、4.062nm(1回目)、4.834nm(2回目)
(3)Ga2O3ペレットの数を5個とした場合、4.091nm(1回目)、4.235nm(2回目)
であった。この結果から、ドープ濃度の上昇とともに、粒成長が抑制され、ZnO膜の表面が平坦になっていることがわかる。
【0065】
なお、Ga2O3ペレット数と、Ga2O3ドープ濃度の関係は、発明を実施するための最良の形態の欄でも述べたように、以下のような関係となる。
(1)Ga2O3ペレット数1個 :Ga2O3ドープ濃度4.1重量%、
(2)Ga2O3ペレット数1.5個:Ga2O3ドープ濃度6.5重量%、
(3)Ga2O3ペレット数2個 :Ga2O3ドープ濃度8.1重量%、
(4)Ga2O3ペレット数2.5個:Ga2O3ドープ濃度10.8重量%、
(5)Ga2O3ペレット数3個 :Ga2O3ドープ濃度12.6重量%、
(6)Ga2O3ペレット数5個 :Ga2O3ドープ濃度22.8重量%
【0066】
また、これらのサンプルについては、発明を実施するための最良の形態の欄でも述べたように、ガラス基板上ではGa2O3ペレット数が2個(すなわち、Ga2O3ドープ濃度8.1重量%)以上の条件の場合、200時間後においても抵抗の大幅な劣化(抵抗変化率の大幅な増大)は認められなかった(図3参照)。
ただし、Ga2O3ペレット数が1個(Ga2O3ドープ濃度4.1重量%)および1.5個(Ga2O3ドープ濃度6.5重量%)の場合には、時間の経過とともに抵抗変化率が増大し、24時間後の抵抗変化率が約13%、200時間後の抵抗変化率が20%以上になることが確認された。
【0067】
また、図5は、上記(1)のGa2O3ドープ濃度4.1重量%のサンプルと、上記(5)のGa2O3ドープ濃度12.6重量%のサンプルと、上記(6)のGa2O3ドープ濃度22.8重量%のサンプルの、X線回折法によるθ−2θスキャンのチャートを示す図である。
図5に示すように、Ga2O3ドープ濃度4.1重量%のサンプルではc軸ピークが大きく現れているが、Ga2O3ドープ濃度12.6重量%のサンプルでは、c軸ピークが著しく小さくなっており、さらに、Ga2O3ドープ濃度22.8重量%のサンプルではc軸ピークが全く認められなくなっており、Ga2O3ドープ濃度が高くなるに伴って、c軸配向の度合いが弱まっていることがわかる。
このことからも、本願発明のZnO膜において、耐湿性が向上するのは、Ga2O3ドープ濃度が高くなってc軸配向が弱まることにより、酸素欠損の再酸化が抑制されることによるものと考えられる。
【0068】
また、図6は、本願発明の範囲外の、Ga2O3ドープ濃度4.1重量%のサンプルの透過電子顕微鏡像を示す図であり、図7は、本願発明の範囲内の、Ga2O3ドープ濃度22.8重量%のサンプルの透過電子顕微鏡像を示す図である。
また、図8は、本願発明の範囲外の、Ga2O3ドープ濃度4.1重量%のサンプルの結晶構造を模式的に示す図であり、図9は、本願発明の範囲内の、Ga2O3ドープ濃度22.8重量%のサンプルの結晶構造を模式的に示す図である。
なお、図8および図9において、グレインG内の複数の平行な線は、格子間隔を模式的に表している。
【0069】
図6および図8に示すように、Ga2O3ドープ濃度が4.1重量%と低い、本願発明の範囲外のZnO膜の場合、基板法線方向へのc軸配向が支配的であり、c軸の向きがそろっていること、グレインGが柱状で、典型的な柱状成長となっていることがわかる。
【0070】
これに対し、Ga2O3ドープ濃度が22.8重量%と高い、本願発明の範囲内の、ZnO膜の場合には、図7および図9に示すように、c軸が互いに異なる複数の方向に向いていること(図7)、グレインGが柱状ではないこと(図9)がわかる。なお、粒界Bには、アモルファスや、アモルファスと結晶質の中間のような、いわゆる準結晶構造を有する領域などが存在しているのではないかと推測される。
そして、本願発明の範囲内のZnO膜の結晶構造を示す図7および図9は、c軸が互いに異なる複数の方向に向いている場合には、酸素欠損が再酸化されにくくなり、耐湿性が向上するという本願発明の考え方を裏付けるものであるということができる。
【0071】
また、図10は本願発明の範囲外の、Ga2O3ドープ濃度4.1重量%のサンプルの表面状態を示す原子間力顕微鏡写真を示すものであり、図11は、本願発明の範囲内の、Ga2O3ドープ濃度22.8重量%のサンプルの表面状態を示す原子間力顕微鏡写真を示すものである。
【0072】
本願発明の範囲外の、Ga2O3ドープ濃度4.1重量%のサンプルの場合、図10に示すように、表面に、c軸の向きがそろった結晶による凹凸(つぶつぶ)が認められるが、本願発明の範囲内の、Ga2O3ドープ濃度22.8重量%のサンプルの場合、c軸が互いに異なる複数の方向に向いているため、表面に結晶による凹凸や粒界が明瞭に認められず、平坦な状態になっていることがわかる。
この図10および図11も、c軸が互いに異なる複数の方向に向いている場合には、酸素欠損が再酸化されにくくなり、耐湿性が向上するという本願発明の考え方を裏付けるものであるということができる。
【0073】
また、図12は、本願発明の範囲外の、Ga2O3ドープ濃度4.1重量%のサンプルについての、X線回折のZnO(002)入射極点図であり、図13および図14は、本願発明の範囲内の、Ga2O3ドープ濃度12.6重量%、および22.8重量%の各サンプルについての、X線回折のZnO(002)入射極点図である。
【0074】
図12より、Ga2O3ドープ濃度が4.1重量%と低い、本願発明の範囲外のサンプルの場合、c軸が基板法線方向にそろっていることがわかる。
【0075】
これに対し、本願発明の範囲内の、Ga2O3ドープ濃度が12.6重量%のサンプルの場合、図13に示すように、図12の本願発明の範囲外のサンプルに比べてc軸の方向がそろっている度合いが極めて低くなっていることが分かる。
【0076】
さらに、図14の本願発明の範囲内の、Ga2O3ドープ濃度が22.8重量%のサンプルの場合、本願発明の範囲外の図12のサンプルに比べてc軸の方向がそろっている度合いが極めて低くなっていることが分かる。
したがって、この図12,図13、および図14も、c軸が互いに異なる複数の方向に向いている場合には、酸素欠損が再酸化されにくくなり、耐湿性が向上するという本願発明の考え方を裏付けるものであるということができる。
【0077】
また、図15は、Ga2O3ドープ濃度とZnO(002)ロッキングカーブ半値幅の関係を示す図である。
図15に示すように、Ga2O3ドープ濃度が7重量%以上になると、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上になることがわかる。このように、ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上になると、ZnO膜のc軸配向の度合いが弱くなり、耐湿性が向上する。
【0078】
この実施例1により、汎用性のあるガラス基板上に、実用可能な耐湿性を備えた透明導電膜を形成することが可能であることが確認された。
【0079】
また、III族元素(ドープ元素)の種類としては、十分な低抵抗化を実現する観点からは、Gaを用いることが最も好ましいが、その他のIII族元素であるAlあるいはInを用いた場合も、Gaを用いた場合に準じる効果を得ることが可能である。
【0080】
また、III族元素であるGaと、AlおよびInの少なくとも一方の、少なくとも2種類のIII族元素をドープした場合にも同様の効果を得ることが可能である。
さらに、III族元素であるGa以外に、III族元素以外の他のドーパントを共に添加した場合も本願発明の基本的な効果を得ることが可能である。
【実施例2】
【0081】
上記の実施例1では、透明導電膜が形成される基体がガラス基板である場合について説明したが、この実施例2では、透明導電膜が形成される基体として、PEN(ポリエチレンナフタレート)からなる基板(フレキシブル基板)を用い、上記実施例1の場合と同様の方法で、基板の前処理を行った。
【0082】
それから、上記実施例1の場合と同様に、スパッタリングターゲットとして、焼結密度が80%以上の、直径6インチのZnO焼結体ターゲットを用意した。
【0083】
さらに、上記実施例1の場合と同様に、Ga酸化物(Ga2O3)からなる直径が10mmのドーピング用のペレット(Ga2O3ペレット)を用意した。
【0084】
また、この実施例2でも、Ga2O3のドープ量は、上述のGa2O3ペレットの数を調整することにより調整した。
【0085】
そして、上記実施例1の場合と同じスパッタリング装置を用い、同じ方法、同じ条件でスパッタリングを行い、GaがドープされたZnO膜(透明導電膜)をPEN基板(フレキシブル基板)上に成膜した。
【0086】
そして、成膜されたZnO膜にウェットエッチングによるパターニングを行った後、触針式段差計を用いて設定膜厚になっていることを確認した。
【0087】
上記のサンプルについて、4探針測定で求めた抵抗率は、
(1)Ga2O3ペレットの数を1個とした場合、6.7×10-4Ωcm、
(2)Ga2O3ペレットの数を3個とした場合、8.1×10-4Ωcm、
(3)Ga2O3ペレットの数を5個とした場合、3.4×10-3Ωcm
であった。
【0088】
また、シート抵抗は、
(1)Ga2O3ペレットの数を1個とした場合、15Ω/□、
(2)Ga2O3ペレットの数を3個とした場合、20Ω/□、
(3)Ga2O3ペレットの数を5個とした場合、77Ω/□
であった。
【0089】
また、可視領域での光透過率は、Ga2O3ペレットの数を1個、3個、および5個とした場合のいずれの場合も80%以上を達成した。
【0090】
さらに、ICP組成分析で定量評価した結果、実施例2の場合にも、Ga2O3ペレット数と、Ga2O3ドープ濃度の関係は、以下のような関係になることが確認された。
(1)Ga2O3ペレット数1個の場合、Ga2O3ドープ濃度5.5重量%、
(2)Ga2O3ペレット数3個の場合、Ga2O3ドープ濃度14.8重量%、
(3)Ga2O3ペレット数5個の場合、Ga2O3ドープ濃度28.5重量%
【0091】
さらに、この実施例2で作製したサンプルについて、高温高湿の耐湿性試験を行ったところ、図16に示すように、Ga2O3ペレット数が1個で、Ga2O3ドープ濃度が5.5重量%の場合には、時間の経過とともに抵抗が著しく増大したが、Ga2O3ペレット数が3個で、Ga2O3ドープ濃度が14.8重量%の場合には、200時間経過後の抵抗の変化率(増大率)が8.8%となり、Ga2O3ペレット数が5個で、Ga2O3ドープ濃度が28.5重量%の場合には、200時間経過後の抵抗の変化率(増大率)が7.8%となっており、Ga2O3ペレット数1個(Ga2O3ドープ濃度5.5重量%)の場合に比べて著しく耐湿性が向上することが確認された。
【0092】
この実施例2により、本願発明の方法により製造されるZnO系の透明導電膜は、PENからなるフレキシブル基板を用いた、いわゆるフレキシブルデバイスにも応用することが可能であることが確認された。
【実施例3】
【0093】
上記実施例2において用いた、PEN(ポリエチレンナフタレート)からなる基板(フレキシブル基板)に代えて、PET(ポリエチレンテレフタレート)からなる基板(フレキシブル基板)を用い、上記実施例2の場合と同じ方法および条件でスパッタリングを行い、GaがドープされたZnO膜(透明導電膜)を形成した。
【0094】
そして、得られたZnO膜(透明導電膜)について、同様の条件で特性を測定したところ、上記実施例2の場合と同様の特性を有するZnO膜(透明導電膜)が得られることが確認された。
これにより、汎用性のあるPET(ポリエチレンテレフタレート)からなる基板(フレキシブル基板)上にも、実用可能な透明導電膜を形成することが可能であることが確認された。
【実施例4】
【0095】
基体として、無アルカリガラス(コーニング1737)からなるガラス基板を用意した。そして、このガラス基板(基体)をイソプロピルアルコールおよびUV照射によって洗浄することにより清浄表面を得た。
また、スパッタリングターゲットとして、焼結密度が80%以上の、直径4インチのZnO焼結体ターゲットを用意した。
【0096】
さらに、ドーピング用に、Ga酸化物(Ga2O3)からなる直径が10mmのペレット(Ga2O3ペレット)を用意した。
【0097】
そして、この実施例4では、Ga2O3ペレットを上述のZnO焼結体ターゲット上のエロージョン領域に配置し、スパッタリングを行うことにより、Ga2O3がドープされたZnO膜を基体上に形成した。
なお、Ga2O3のドープ量は、上述のGa2O3ペレットの数を調整することにより調整した。
【0098】
スパッタリングを行うにあたっては、ガラス基板をスパッタリング装置の真空チャンバにセッティングし、5×10-5Paまで真空吸引を行った後、ガラス基板を加熱することなく、基体にバイアス電圧−80Vを印加してスパッタリングを行った。
【0099】
また、この実施例4では、スパッタガスとして、高純度Arガスを用い、真空チャンバ内の圧力が1Paになるまでスパッタガスを導入した。
【0100】
そして、RF電力250Wの条件でスパッタリングを開始して成膜を行い、所定の膜厚を有し、Gaが所定の割合でドープされたZnO膜(透明導電膜)を形成した。なお、成膜されるZnO膜の設定膜厚は400nmとした。
そして、成膜されたZnO膜にウェットエッチングによるパターニングを行った後、膜厚が設定膜厚に対して±15%となっていることを触針式段差計を用いて確認した。
【0101】
成膜されたZnO膜のGaのドープ濃度は4.5重量%であり、抵抗率は8.3x10-4Ωcmであった。
また、このZnO膜について、85℃、85%RHの耐湿試験を実施したところ、図17に示すように1000時間経過後の抵抗変化率は+10%と良好な結果が得られた。なお、図17には、ガラス基板(基体)へのバイアス電圧を−80Vとした場合の抵抗変化率のデータとともに、ガラス基板へのバイアス電圧を−40V、0V、+40Vとして作製したサンプル(透明導電膜)について測定した抵抗変化率のデータを併せて示している。
【0102】
上述のように、ガラス基板(基体)にバイアス電圧−80Vを印加してスパッタリングを行うことにより成膜したZnO膜は、耐湿性が著しく向上し、1000時間経過後の抵抗変化率は+10%と良好であることが確認された。この原因を探るため、ガラス基板(基体)へのバイアス電圧を変化させて透明導電膜を作製し、構造解析を行った。
図18は、基体へのバイアス電圧を、それぞれ−80V、0V、+40Vとして作製したサンプルについての、X線回折法によるθ−2θスキャンのチャートを示す図である。
【0103】
図18に示すように、プラスバイアス電圧を印加した場合およびバイアス電圧を印加していない場合に比べて、マイナスバイアス電圧を印加した場合には、c軸ピークが弱くなる傾向が認められ、−80Vのバイアス電圧を印加すると、c軸ピークがほぼ消失することが確認された。
【0104】
また、図19(a),(b),(c),(d)は、基体へのバイアス電圧を、−80V、−40V、0V、+40Vとして作製した透明導電膜についての、X線回折のZnO(002)入射極点図である。図19(a)に示すように、ガラス基板へのバイアス電圧を−80Vとして作製した透明導電膜においては、c軸の乱れが生じていることが明瞭に確認された。
【0105】
また、図20は、ガラス基板へのバイアス電圧を−80Vとして作製した透明導電膜の透過電子顕微鏡像を示す図である。図20より、−80Vのバイアス電圧を印加したZnO膜の場合、c軸が傾いて成長しており、高濃度ドープ膜と同様の結晶構造をもって成長していることがわかる。
【0106】
上記実施例1〜3のように、III族元素(Ga)を高濃度でドープさせた場合に耐水性が向上するのは、III族元素(Ga)の高濃度ドープによるc軸柱状構造の乱れが、H2O拡散の活性化エネルギーを増大させるというメカニズムに基づくものと推定したが、ガラス基板にバイアス電圧を印加しつつスパッタリングした場合にZnO膜の耐水性が向上するのは、Ar+イオンによるボンバード効果や、Ar+イオンの膜中への取り込みにより、c軸柱状成長が抑制されたことによるものと考えられる。
なお、表1は、ZnO膜中のAr含有量をWDX(波長分散型X線元素分析)により分析した結果を示している。
【0107】
【表1】
【0108】
表1に示すように、負バイアス電圧の絶対値が大きくなるにともなって、Arの取り込み量が増えていることがわかる。
【0109】
また、図21は、ガラス基板へのバイアス電圧と、抵抗率およびGa2O3のドープ濃度の関係を示す図である。
図21より、ガラス基板へのバイアス電圧の印加は、抵抗率にほとんど影響しないことがわかる。したがって、ガラス基板にバイアス電圧を印加しつつ成膜を行うことにより、低抵抗化と高耐湿化の両方を実現することが可能になる。
【0110】
なお、この実施例4の、ガラス基板にバイアス電圧を印加しつつ透明導電膜を成膜する方法の場合にも、ドープ元素の種類としては、低抵抗化を図る観点からはGaが最も好ましいが、III族元素であるAl、あるいはInを用いた場合にも同様の効果が見込まれる。また、GaにさらにAlあるいはInを加えた場合にも同様の効果が見込まれる。
【0111】
また、実施例4では、基体に負のバイアス電圧を印加しながら薄膜形成を行うことにより、耐湿性の良好な透明導電膜を得ることができたが、基体に印加するバイアス電圧の正負や、バイアス電圧の値(絶対値)などは、III族元素の種類やドープ濃度などの条件に応じて、最適な条件を設定することが望ましく、場合によっては、上記実施例4の場合とは異なる値(絶対値)の、正のバイアス電圧を印加しながら薄膜形成を行うことが望ましい場合もありうる。
【実施例5】
【0112】
上記実施例4において用いた、無アルカリガラスからなる基板(基体)に代えて、PET(ポリエチレンテレフタレート)からなる基板(フレキシブル基板)を用い、上記実施例4の場合と同じ方法および条件で、このフレキシブル基板にバイアス電圧を印加しつつ、スパッタリングを行い、GaがドープされたZnO膜(透明導電膜)を形成した。
【0113】
そして、得られたZnO膜(透明導電膜)について、同様の条件で特性を測定したところ、上記実施例4の場合と同様の特性を有するZnO膜(透明導電膜)が得られることが確認された。
これにより、汎用性のあるPET(ポリエチレンテレフタレート)からなる基板(フレキシブル基板)上にも、実用可能な透明導電膜を形成することが可能であることが確認された。
【0114】
なお、上記実施例1〜5では、ガラス基板、PEN基板、およびPET基板にZnO膜(透明導電膜)を形成したが、ガラス、水晶、サファイヤ、Siなどの単結晶基板にも形成することが可能であり、その場合にも上述のガラス基板上に形成した場合と同様の効果を得ることが可能である。
【0115】
また、上記実施例1〜5では、基体上に直接にZnO膜(透明導電膜)を形成するようにした場合について説明したが、フレキシブル基板のように水分を透過させる基板上にZnO膜(透明導電膜)を形成する場合には、SiNx薄膜を介して、基体上にZnO膜(透明導電膜)を形成することにより、透明導電膜の耐湿性をさらに向上させることが可能になり、耐湿試験における1000時間経過後の抵抗変化率を0にすることも可能である。
【0116】
本願発明はさらにその他の点においても上記の各実施例に限定されるものではなく、透明導電膜が形成される基体の形状や構成材料の種類、III族元素の種類やドープ量、透明導電膜の具体的な成膜条件などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0117】
上述のように、本願発明によれば、実用可能な耐湿性と、透明導電膜として必要な特性を備え、しかも経済性に優れた、ZnO系の透明導電膜を効率よくしかも確実に製造することが可能になる。
したがって、本願発明は、フラットパネルディスプレイや太陽電池の透明電極など、種々の用途に広く適用することが可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛(ZnO)にIII族元素をドーピングして基体上に成長させた透明導電膜であって、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上であることを特徴とする透明導電膜。
【請求項2】
前記透明導電膜が、前記基体にバイアス電圧を印加しながら薄膜形成することにより形成されたものであることを特徴とする請求項1記載の透明導電膜。
【請求項3】
前記薄膜形成が、スパッタリング法、蒸着法、蒸着イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、およびアークプラズマ蒸着法からなる群より選ばれる1種の方法によるものであることを特徴とする請求項2記載の透明導電膜。
【請求項4】
酸化亜鉛(ZnO)を主成分とし、III族元素酸化物を7〜40重量%の割合で含有するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の透明導電膜。
【請求項5】
前記透明導電膜が、SiNx薄膜を介して、基体上に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の透明導電膜。
【請求項6】
前記基体が、ガラス、水晶、サファイヤ、Si、SiC、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリイミド、シクロオレフィン系ポリマー、およびポリカーボネイトからなる群より選ばれる少なくとも1種を主たる成分とするものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の透明導電膜。
【請求項7】
前記III族元素が、Ga,Al、およびInからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の透明導電膜。
【請求項1】
酸化亜鉛(ZnO)にIII族元素をドーピングして基体上に成長させた透明導電膜であって、ZnO(002)ロッキングカーブ半値幅が13.5°以上であることを特徴とする透明導電膜。
【請求項2】
前記透明導電膜が、前記基体にバイアス電圧を印加しながら薄膜形成することにより形成されたものであることを特徴とする請求項1記載の透明導電膜。
【請求項3】
前記薄膜形成が、スパッタリング法、蒸着法、蒸着イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、およびアークプラズマ蒸着法からなる群より選ばれる1種の方法によるものであることを特徴とする請求項2記載の透明導電膜。
【請求項4】
酸化亜鉛(ZnO)を主成分とし、III族元素酸化物を7〜40重量%の割合で含有するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の透明導電膜。
【請求項5】
前記透明導電膜が、SiNx薄膜を介して、基体上に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の透明導電膜。
【請求項6】
前記基体が、ガラス、水晶、サファイヤ、Si、SiC、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリイミド、シクロオレフィン系ポリマー、およびポリカーボネイトからなる群より選ばれる少なくとも1種を主たる成分とするものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の透明導電膜。
【請求項7】
前記III族元素が、Ga,Al、およびInからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の透明導電膜。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2011−171304(P2011−171304A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69791(P2011−69791)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【分割の表示】特願2007−553854(P2007−553854)の分割
【原出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【分割の表示】特願2007−553854(P2007−553854)の分割
【原出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
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