説明

透明電極の製造方法及び有機電子素子

【課題】透明ガラス基板上に、金属ナノ粒子インクを用いて細線パターンを印刷する場合に、インクのハジキや液寄りがなく、表面凹凸の少ない細線パターンを得る。特に、スクリーン印刷において、高精細な細線パターンを得る。さらに、細線パターン上に、ポリマー導電層を積層することで、導電性、透明性、導電性の面均一性に優れた透明電極を実現する。
【解決手段】透明ガラス基板11上に、金属ナノ粒子を含む金属インクを用いて、金属細線パターンからなる金属導電層12を形成し、該金属導電層12の上に、導電性ポリマーからなるポリマー導電層13を積層する透明電極の製造方法において、該透明ガラス基板11の2次元表面エネルギーの分散項γdが、γd≧30mN/mであることを特徴とする透明電極14の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明電極の製造方法に関し、更には、該製造法により製造された透明電極を用いた有機電子素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL素子や有機太陽電池といった有機電子素子が注目されており、このような素子においいて、透明電極は必須の構成技術となっている。従来、透明電極は、透明基板上に、インジウム−スズの複合酸化物(ITO)膜を真空蒸着法やスパッタリング法で製膜したITO透明電極が、その導電性や透明性といった性能の点から、主に使用されてきた。しかし、真空蒸着法やスパッタリング法を用いた透明電極は生産性が悪いため製造コストが高いことや、可撓性に劣るためフレキシブル性が求められる素子用途には適用できないことが問題であった。さらに、近年、有機電子素子に使用される透明電極には、大面積かつ低抵抗値が要求されており、ITO透明電極の抵抗値では不十分となってきている。
【0003】
これに対して、金属粒子からなる細線パターンを有する透明電極が提案されている。このような細線パターンは、金属粒子を含むインクを用い、グラビア、フレキソ、スクリーンあるいはインクジェット印刷といった方法で作成することができる。特に、支持体にガラス基板を使用でき、かつ生産性の点から、スクリーン印刷が最適である。しかし、通常のスクリーン印刷で形成された細線パターンは、その構成成分である金属粒子のため、細線の表面が粗く、また粗大粒子が形成されることもある。さらに、高濃度、高粘度のインクが用いられるため、細線の高さが高くなる。このため、このような透明電極を有機電子素子に使用した際は、電流リークや整流比低下の要因となる。
【0004】
このような細線表面の凹凸を低減し、細線高さを低くする方法として、金属ナノ粒子からなるインクを用いる方法がある。しかし、このようなインクは低濃度、低粘度であるため、ガラス基板表面でインクのハジキ、液寄りが発生し、細線パターンの幅、高さにムラを生じ、さらに、細線が途中で断線するといった問題があり、透明電極の表面抵抗に分布を生じ、有機電子素子の機能低下の要因となる。
【0005】
これに対して、樹脂フィルム基板を用い、ハジキを低減する方法がある。しかし、金属粒子からなるインクは、焼成処理が必要であるが、樹脂フィルムでは高温処理ができないため、有機電子素子用の電極に使用することができない。
【0006】
高粘度インクの塗布性を向上させる方法として、ポリシロキサン類を用いた表面の部分親水化処理が提案されている(例えば特許文献1参照)。表面処理(疎水性表面)後、紫外線等で分解して親水性部分をパターニングする方法で親水性部分に半導体塗布液が選択的に塗布できる。しかしこの方法は、不要部分の除去に関しては、基板に結合したシランカップリング剤の、光照射による解反応を用いた親水化処理であり、かつ分解・除去に紫外線、アルカリ等を必要とするなど、処理が煩雑となる。さらに基板表面を親水化するこの方法では、本発明の金属インクを用いた際は、インクの液寄り、ハジキが著しく劣化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−142085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、透明ガラス基板上に、金属ナノ粒子を含むインクを用いて細線パターンを印刷する場合に、インクのハジキや液寄りがなく、表面凹凸の少ない細線パターンを得ることにあり、特に、スクリーン印刷において、高精細な細線パターンを得ることにあり、さらに、該細線パターンからなる金属電極上に、ポリマー導電層を積層することで、導電性、透明性、導電性の面均一性に優れた透明電極を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は以下の手段によって達成される。
【0010】
1.透明ガラス基板上に、金属ナノ粒子を含む金属インクを用いて、金属細線パターンからなる金属導電層を形成し、該金属導電層の上に、導電性ポリマーを含有するポリマー導電層を積層する透明電極の製造方法において、該透明ガラス基板の2次元表面エネルギーの分散項γdが、
γd≧30mN/m
であることを特徴とする透明電極の製造方法。
【0011】
2.前記金属導電層を形成する前に、前記透明ガラス基板をノニオン系界面活性剤にて処理することを特徴とする前記1に記載の透明電極の製造方法。
【0012】
3.前記金属インクの金属細線パターン印刷を、スクリーン印刷で形成することを特徴とする前記1または2に記載の透明電極の製造方法。
【0013】
4.前記ポリマー導電層が、構造単位(I)を有するポリマー(A)と、該構造単位(I)と構造単位(II)を有するポリマー(B)の、少なくとも一方のポリマーを含むことを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の透明電極の製造方法。
【0014】
【化1】

【0015】
〔式中、Rは水素原子、メチル基を表し、Qは−C(=O)O−、−C(=O)NRa−を表す。Raは水素原子、アルキル基またはNと共にモルホリン基を形成するための原子団を表し、Aは置換或いは無置換アルキレン基、−(CHCHRbO)−(CHCHRb)−を表し、Rbは水素原子、アルキル基を表す。xは平均繰り返しユニット数で1〜100の数である。yは0、1を表す。Zは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、モルホリノ基、−O−C(=O)−Rc、−O−SO−Rd、または−O−SiReを表す。Rc、Rd、Reはアルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基を表す。但し、Qがモルホリノ基を有する場合、yは0であり、且つZは存在しない。〕
5.前記1〜4のいずれか1項に記載の透明電極の製造方法を用い製造されたことを特徴とする有機電子素子。
【0016】
6.前記5に記載の有機電子素子が、有機エレクトロルミネッセンス素子または有機太陽電池素子であることを特徴とする有機電子素子。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、透明ガラス基板上に、金属ナノ粒子インクを用いて、高精細の金属細線パターンを形成することができる。さらにこれを用いて、導電性、透明性、導電性の面均一性に優れた透明電極を提供することができる。さらに、本発明の透明電極を用いることで、電流リークによる電界集中が無く、寿命及び整流特性に優れた有機電子素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る透明電極を用いた有機電子素子の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の係る透明電極の金属導電層の細線パターンの例を示す図である。
【図3】本発明の透明電極及び有機EL素子の形成方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0020】
本発明は、透明ガラス基板上に、金属ナノ粒子を含む金属インクを用いて、金属細線パターンからなる金属導電層を形成し、該金属導電層の上に、導電性ポリマーを含有するポリマー導電層を積層する透明電極の製造方法において、透明ガラス基板上に、金属ナノ粒子を含む金属インクを用いて、金属細線パターンを形成する際に、透明ガラス基板の2次元表面エネルギーの分散項γdが、
γd≧30mN/m
であることを特徴とするものである。
【0021】
一般に固体表面の2次元表面(自由)エネルギーは、γS=γd+γpで表される。ここにおいて、γd,γpは、それぞれYoung−Fowkes式に基づく固体表面の表面自由エネルギーの非極性成分(分散項)、極性成分(極性項)を表す。
【0022】
本発明においては、この表面自由エネルギーのうち、分散力に基づく非極性成分(分散項)γdの大きさが上記の値を有するガラス基板表面とすることで、金属ナノ粒子を含む金属インクのガラス基板表面でのハジキ、液寄りの発生を抑え、細線パターンの幅や高さ等のムラや、極端な場合には断線等をなくし、高精細の金属細線パターンを形成することができる。
【0023】
(測定或いは算出方法)
本発明でいうガラス基板(固体)表面の二次元表面自由エネルギーは、以下の方法により測定することができる。
【0024】
即ち、表面自由エネルギー既知の2種の標準液体、例えば、ヨウ化メチレン、水と、被測定固体表面とのそれぞれの接触角を、協和界面科学株式会社製:接触角計CA−Vによりそれぞれ5回測定し、測定値を平均し、それぞれ平均接触角を得る。測定は20℃、50%RHの環境下で測定する。
【0025】
次に、以下のYoung−Dupreの式及び拡張Fowkesの式に基づき、前記固体表面の表面自由エネルギーの2成分γd及びγpを算出することができる。
【0026】
Young−Dupreの式
WSL=γL(1+cosθ)
WSL:液体/固体間の付着エネルギー
γL:液体の表面自由エネルギー
θ:液体/固体の接触角
拡張Fowkesの式
WSL=2{(γSd・γLd)1/2+(γSp・γLp)1/2
γL=γLd+γLp:液体の表面自由エネルギー
γS=γSd+γSp:固体の表面自由エネルギー
γd、γp:表面自由エネルギーの分散、極性成分
従って、
γL(1+cosθ)=2{(γSdγLd)1/2+(γSpγLp)1/2
として、既知の液体の表面エネルギー(以下)の各項の値を用いて、固体表面の表面エネルギーを算出できる。
n−ヘキサン;γLd=18.4mN/m、γLp=0
沃化メチレン;γLd=46.8mN/m、γLp=4.0mN/m
水 ;γLd=29.1mN/m、γLp=43.7mN/m
本発明においては、沃化メチレン、水の接触角を測定することで、本発明の2次元表面エネルギーの分散項γd(上記γSdがこれに相当する)がこれから求まる。
【0027】
この様にして、固体の表面自由エネルギーについて、2種の溶媒の既知の表面自由エネルギー値、およびそれぞれの接触角から求めることができる。必ずしも沃化メチレン、水の組み合わせに限定することはなく、他の組み合わせを選んでもよい。
【0028】
これら溶媒の表面自由エネルギーは、文献から参照することができる。例えば、「塗れ技術ハンドブック −基礎・測定評価データ−石井淑夫、小石眞純、角田光雄 33頁」また、「コーティングの基礎科学 原崎勇次著 槇書店 176−177頁」等に記載されたデータを用いることができる。
【0029】
金属ナノ粒子からなる金属インクは、その分散安定性を保つため、有機溶媒や有機分散剤が含まれている。そのため、インクの表面エネルギー自体はガラス基板に対して低いものの、2次元表面エネルギーとしては、分散項成分が大部分を占め、極性成分の比率が高いガラス基板への濡れ性が悪いと考えられる。そのため、ガラス基板の2次元表面エネルギーの分散力に基づく非極性成分(分散項)γdを、γd≧30mN/mとすることで、疎水性の高い金属インクを、液寄り、ハジキを起こすことなく、高精細に印刷することができる。
【0030】
基板表面の2次元表面エネルギーの分散項γdを、前記の数値以上とするために、本発明の態様の一つは、金属インクを用いて、金属細線パターンを形成する前に、ガラス基板を、表面処理によって、疎水化処理することを特徴とする。
【0031】
このため本発明においては、金属細線パターンを形成する前に、ガラス基板を、表面処理することを特徴とする。表面処理としては、シランカップリング剤やノニオン系界面活性剤による処理を行う事ができ、金属パターン形成後、容易に除去可能なことから、ノニオン系界面活性剤による処理が好ましい。
【0032】
ノニオン活性剤による処理は、ノニオン系界面活性剤を含有する塗布液を塗布、乾燥することで行うことができる。ガラス基板表面は、シラノール基や吸着水のため、高表面エネルギーかつ高親水性となっている。そのため、ノニオン系界面活性剤は、親水性基側をガラス表面に吸着し、疎水基側をガラス表面に配向させ、表面を疎水化し、表面エネルギーの非極性成分を前記の値以上とすると考えられる。
【0033】
本発明においては、金属インクのパターン形成に、スクリーン印刷を用いることが好ましい。
【0034】
スクリーン印刷を用いることで、ガラス基板上に、有機電子素子に必要かつ十分な量の金属インクを堆積することができ、細線パターンの高精細性、表面の平滑性及び表面抵抗を同時に満たすことができる。
【0035】
本発明は、金属細線パターンからなる金属導電層を形成した上に、導電性ポリマーを含有するポリマー導電層を積層することを特徴とする。
【0036】
ノニオン系界面活性剤による表面処理は金属細線パターン形成後には洗浄により除去、また、金属細線パターンの焼成によっても分解または燃焼し除去されるので、ポリマー導電層の積層時に、細線パターン部やガラス基板の非パターン部が疎水性であることによるハジキや液よれ等を起こさないので、好ましい。また、界面活性剤(低分子物質成分)のポリマー導電層中への拡散もなく透明電極の特性のバラツキも起こしにくい。例えばアニオン系活性剤等では焼成によってもナトリウム等のアニオンに由来する成分が残り有機電子素子の電極としては好ましくない。
【0037】
これにより、金属細線パターン表面の凹凸が更に平滑化され、電流リークが抑制される。また、金属に比べ導電性が低いポリマー導電層に、高導電性である金属導電層を積層することで、電極全体として、高い導電性と導電性の面均一性を得ることができ、この上に形成される有機電子素子の有機機能層等へ電極面全体に亘り過不足無く電流を供給できる。
【0038】
また、ポリマー導電層が、ヒドロキシ基含有ポリマーとして、ヒドロキシ基を有する前記構造単位(I)からなるポリマー(A)と、前記構造単位(I)とヒドロキシ基を有せずかつエステル又はアミド結合を有する前記構造単位(II)とからなるポリマー(B)の少なくとも一方のポリマーを含むことにより、ポリマー導電層の導電性を更に向上することができ、導電性ポリマーの必要量を低減することができる。結果、高い導電性と透明性を両立した透明電極を得ることができる。
【0039】
さらに、前記ポリマー(A)と前記ポリマー(B)の少なくとも一方を含むことで、ポリマー導電層の膜強度及び耐水性、耐溶媒性が向上し、有機電子素子の製造工程における透明電極の損傷、性能劣化を抑制することができる。さらに、この透明電極を用いることにより、有機電気素子の性能、特に寿命を向上することができる。
【0040】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様等について詳細に説明をする。
【0041】
《表面処理》
本発明の表面処理は、基板の2次元表面エネルギーの分散項γdを30mN/m以上にできる処理であれば、特に制限はなく、シランカップリング剤やノニオン系界面活性剤による処理を行う事ができる。特に、金属パターン形成後、容易に除去可能なことから、ノニオン系界面活性剤による処理が好ましい。
【0042】
《ノニオン系界面活性剤》
ノニオン系界面活性剤による処理は、ノニオン系界面活性剤の溶液をガラス基板上に塗布、乾燥することで行うことができる。塗布方法は、特に制限はなく、前述のグラビア、フレキソ、スクリーン印刷法等の印刷方法に加えて、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ダイコート法、ブレードコート法、バーコート法、グラビアコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ドクターコート法、インクジェット法等の塗布法を用いることができる。乾燥は、ノニオン系界面活性剤が変性、熱分解しない温度であれば、特に制限はないが、50℃から150℃が好ましい。
【0043】
また、金属細線パターン形成後、非細線パターン部及び/または及び細線パターン部に存在するノニオン系界面活性剤については除去することができる。除去方法としては、ノニオン系界面活性剤を溶解可能な溶媒に浸漬、洗浄する方法や、熱処理により分解、気化する方法を行うことができる。溶媒としては、水を使用することが、生産性の面から好ましい。また、熱処理は、金属細線パターンの性能が向上することから、150℃以上350℃以下で行うことが好ましい。
【0044】
ノニオン系界面活性剤として、特に制限はないが、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、ポリプロピレングリコールポリオキシエチレン付加体、脂肪酸ポリグリセリンエステル、アセチレンアルコール、アセチレングリコール、高級2級アルコールポリオキシエチレン付加体等を用いることができ、特に、基板の2次元表面エネルギーの分散項γdを増加させる観点から、直鎖アルキルを有するポリオキシエチレンアルキルエーテル、アセチレングリコール、高級2級アルコールポリオキシエチレン付加体が好ましい。
【0045】
また、金属細線パターン形成後に、非細線パターン部及び/または細線パターン部に存在するノニオン系界面活性剤を除去するため、溶解性及び熱分解性の高いものが、好ましい。
【0046】
ノニオン系界面活性剤を用いる方法では、金属細線パターン形成後に、非細線パターン部及び/又は細線パターン部から、これを洗浄或いは焼成等の処理によって除去することができ、非細線パターン部及び/又は細線パターン部表面の二次元表面自由エネルギーの分散項γdについてこれを再び低下させることができることが特徴である。これにより、金属細線パターン形成後にポリマー導電層を塗布・積層形成するとき、ハジキ、液より等の塗布不良が発生することがない。
【0047】
《シランカップリング剤》
シランカップリング剤による処理は、前述のノニオン系界面活性剤による処理同様、シランカップリング剤溶液を塗布することが好ましい。
【0048】
シランカップリング剤としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、グリシドキシトリメチルシラン、グリシドキシトリエチルシラン、p−スチリルトリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。特に、本発明では、基板の2次元表面エネルギーの分散項γdを増加させる観点から、末端基が疎水性の高いものが好ましく、特に、炭素数5〜15の直鎖アルキル基を含むシランカップリング剤が好ましい。
【0049】
シランカップリング剤溶液を作製するための溶剤としては、前記シランカップリング剤を溶解させるものであればよく、例えば、水や、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのグリコールアルキルエーテルやグリコールアルキルエステル類などが上げられる。
【0050】
シランカップリング剤の濃度としては、0.01%〜10%の範囲が好ましく、これより薄すぎると処理の効果が低下し、濃すぎると基板表面のシランカップリング剤の量が過剰になってしまい、無用なコストがかかることとなる。
【0051】
ガラス基板にシランカップリング剤を塗布する方法は特に制限はないが、ディップ法や、スピン、ダイ、グラビア、マイクログラビアによるコート法や、スクリーン印刷やインクジェット、スプレー塗布等の塗布方法が挙げられる。また、シランカップリング剤溶液を塗布後、乾燥、加熱により、溶剤の除去、シランカップリグ剤の反応を促進することができる。
【0052】
シランカップリング剤による表面処理の場合には、金属細線パターン形成後に、非細線パターン部及び/または細線パターン部からの除去自体は、紫外線処理等の工程を経ないと難しいが、シランカップリング剤はガラス基板と結合を形成しているため、低分子量成分がないため、低分子量成分によるポリマー導電層塗布への影響や、低分子量成分の層内への拡散による特性への影響を回避でき好ましい。
【0053】
《金属導電層》
本発明の金属導電層は、金属微粒子を含有し、透明ガラス基板上にパターン状に形成されることを特徴とする。これにより金属微粒子を含有する光不透過性の導電部と透光性窓部を併せもつ透明基板となり、透明性、導電性に優れた透明電極を作製できる。金属微粒子は、導電性に優れていれば特に制限はなく、例えば、金、銀、銅、鉄、ニッケル、クロム等の金属の他に合金でもよい。特に、後述のようにパターンの形成のしやすさの観点から金属材料の形状は、金属ナノ粒子または金属ナノワイヤであることが好ましく、金属微粒子は導電性及び安定性の観点から銀であることが好ましい。
【0054】
パターン形状には特に制限はないが、例えば、導電部がストライプ状、あるいはメッシュ状がよいが、開口率は透明性の観点から80%以上であることが好ましい。開口率とは、光不透過の導電部が全体に占める割合である。例えば、導電部がストライプ状あるいはメッシュ状であるとき、線幅100μm、線間隔1mmのストライプ状パターンの開口率は、およそ90%である。パターンの線幅は、10〜200μmが好ましい。当該範囲であれば、所望の導電性及び透明性を得ることができる。細線の高さは、0.2〜2.0μmが好ましい。当該範囲であれば、所望の導電性を得ることができる。
【0055】
導電部がストライプ状またはメッシュ状の電極を形成する方法としては、金属微粒子を含有するインク(金属インク)をグラビア、フレキソ、スクリーン印刷といったパターン様版を用い所望の形状に印刷する方法がある。細線描画性、生産性の観点から、スクリーン印刷が好ましい。
【0056】
また、金属導電層は透明基板にダメージを与えない範囲で加熱処理を施すことが好ましい。これにより、金属微粒子同士の融着が進み、金属導電層の高導電化するため、特に好ましい。
【0057】
(金属インク)
金属インク(金属微粒子含有インク)は公知のものを利用できる。金属微粒子としては、例えば、銀、金、銅、パラジウム、白金、アルミニウム及びニッケルなどのいずれかを含有する金属微粒子、または、この金属を含む合金の微粒子を挙げることができる。
【0058】
これらの金属微粒子には、分散性を向上させるために表面に有機物などの被膜(コーティング材)がコーティングされている。
【0059】
金属微粒子の粒径は1nm以上1μm以下の金属ナノ粒子であることが好ましく、0.1μm以下であることがより好ましい。1μmをこえると金属細線パターン部の凹凸が大きく、リークに不利になる。0.1μm以下とすることで低温の焼成でも粒子間の融着が進み、高い導電性が得られる。また、特開2008−91250号公報に記載のような0.1μm以下の粒子と0.1μm以上の粒子を併用することも好ましい。
【0060】
0.1μm以下の金属微粒子を用いるには、有機保護コロイドで被覆した状態で使用することが好ましい。この有機保護コロイドとしては、分解温度あるいは沸点が70〜250℃の範囲のものを用いるものである。この分解温度あるいは沸点とは、分解温度と沸点のうち低い方の温度をいうものである。そして有機保護コロイドの分解温度あるいは沸点が250℃を超えないものであると、低温の熱処理で有機保護コロイドを分解あるいは蒸発でき、低温焼成をおこなうことができる。また有機保護コロイドの分解温度あるいは沸点が70℃未満の場合には、例えば銀ペーストを保存する間に有機保護コロイドが分解あるいは蒸発するおそれがあり、銀ペーストの保存安定性に問題が生じる。
【0061】
また有機保護コロイドとしては、炭素数3〜18の炭化水素類を用いるのが好ましい。炭素数が18以下であると、分解温度あるいは沸点が高くなりすぎず、低温の熱処理で有機保護コロイドを分解あるいは蒸発させることができる。しかし炭素数が2以下であると、分解温度あるいは沸点が低くなり過ぎて、銀ペーストの保存安定性に問題が生じるおそれがある。
【0062】
上記のような条件満たす有機保護コロイドとしては、特に限定されるものではないが、オクチルアミン(沸点178〜179℃)、6−メチル−2−ヘプチルアミン(沸点154〜156℃)、ジブチルアミン(沸点160〜162℃)、ヘキシルアミン(沸点130〜132℃)、ステアリン酸(沸点232℃;19.95hPa)、ミラウリン酸(沸点131℃;1.3hPa)、オクタン酸(沸点238℃)、ヘキサン酸(沸点206℃)、酪酸(沸点162〜165℃)、オクタデカジエン酸(229〜230℃)などを例示することができ、これらを一種単独で用いるほか、二種以上を併用することもできるものである。
【0063】
これらのなかでも、有機保護コロイドとしては、アミン(アミノ基)を含むものが特に好ましい。アミン類を含むことによって、有機保護コロイドで金属ナノ粒子を保護する効果を高く得ることができ、また焼成の際に有機保護コロイドが残留することがなくなり、有機物残渣で比抵抗に悪影響を及ぼすことを防ぐことができるものである。
【0064】
有機保護コロイドで金属ナノ粒子の表面を被覆する方法は、任意の方法を採用することができるが、例えば、金属ナノ粒子を調製する際に有機保護コロイドを共存させることによって、金属ナノ粒子の表面を有機保護コロイドで容易に被覆することができるものである。また有機保護コロイドによる金属ナノ粒子の被覆量は、特に限定されるものではないが、金属ナノ粒子100質量部に対して1〜40質量部の範囲に設定するのが望ましい。
【0065】
分散媒についても、分解温度あるいは沸点が70〜250℃の範囲のものを用いるものであり、この分解温度あるいは沸点とは、分解温度と沸点のうち低いほうの温度をいうものである。そして分散媒の分解温度あるいは沸点が250℃を超えるものであると、低温の熱処理で分散媒を分解あるいは蒸発させることができず、低温焼成をおこなうことができない。また分散媒の分解温度あるいは沸点が70℃未満のものであると、銀ペーストを保存する間に分散媒が分解あるいは蒸発するおそれがあり、銀ペーストの保存安定性に問題が生じる。
【0066】
また分散媒としては、炭素数3〜18の炭化水素類を用いるのが好ましい。炭素数が18以下であると、分解温度あるいは沸点が高くなりすぎず、低温の熱処理で分散媒を分解あるいは蒸発させることができる。炭素数が2以下であると、分解温度あるいは沸点が低くなり過ぎて、銀ペーストの保存安定性に問題が生じるおそれがある。
【0067】
このような分散媒としては、特に限定されるものではないが、ミリスチルアルコール(沸点167℃;20hPa)、ラウリルアルコール(沸点258〜265℃)、ウンデカノール(沸点129〜131℃;16hPa)、デカノール(沸点220〜235℃)、ノナノール(沸点214〜216℃)、オクタノール(沸点188〜198℃)などを例示することができ、これらを一種単独で用いる他、二種以上を併用することもできるものである。
【0068】
これらの中でも、分散媒としてデカノールを用いることが特に好ましい。分散媒としてデカノールを用いることによって、スクリーン印刷等で描画するのに適した銀ペーストを得ることができるものである。
【0069】
上記の有機保護コロイドで覆われた金属ナノ粒子、銀フィラー、分散媒を配合して混合することによって、本発明に係る金属インク、例えば銀ペーストを調製することができるものである。金属ナノ粒子を被覆する有機保護コロイドはバインダーとしての役割も果たすので、バインダーを配合することは不要であり、従って、金属ナノ粒子、銀フィラー、分散媒の3成分のみで銀ペーストを調製することができるものである。
【0070】
銀ペースト中の分散媒の量は、銀ペーストの塗布方法によって異なるものであり、塗布方法に応じた粘度や流動性を得ることができるように、適宜設定されるものである。
【0071】
そしてこのようにして調製した銀ペーストは、前記グラビア、フレキソ、スクリーン印刷といったパターン様版を用い基板等の表面に印刷することができる。上記のように金属ナノ粒子を被覆する有機保護コロイドがバインダーとしての役割も果たすので、バインダーを配合する必要なく、銀ペーストの印刷によって塗布膜を形成することができるものである。
【0072】
前記金属微粒子を分散媒に分散する場合の分散質濃度は1質量%以上80質量%以下であることが好ましく、所望の導電膜の膜厚に応じて調整することができる。80質量%を超えると凝集をおこしやすくなり、均一な膜が得にくい。
【0073】
別な方法としては、例えば、特表2009−505358号公報に記載のような、金属ナノワイヤを含有する塗布液を塗布乾燥することで、金属ナノワイヤのランダムな網目構造を形成させる方法を利用できる。
【0074】
金属ナノワイヤとは、金属元素を主要な構成要素とする繊維状構造体のことをいう。特に、本発明における金属ナノワイヤとは、原子スケールからnmサイズの短径を有する多数の繊維状構造体を意味する。
【0075】
金属ナノワイヤとしては、1つの金属ナノワイヤで長い導電パスを形成するために、平均長さが3μm以上であることが好ましく、さらには3〜500μmが好ましく、特に3〜300μmであることが好ましい。併せて、長さの相対標準偏差は40%以下であることが好ましい。また、平均短径には特に制限はないが、透明性の観点からは小さいことが好ましく、一方で、導電性の観点からは大きい方が好ましい。金属ナノワイヤの平均短径として10〜300nmが好ましく、30〜200nmであることがより好ましい。併せて、短径の相対標準偏差は20%以下であることが好ましい。金属ナノワイヤの目付け量は0.005〜0.5g/mが好ましく、0.01〜0.2g/mがより好ましい。
【0076】
金属ナノワイヤに用いられる金属としては、銅、鉄、コバルト、金、銀等を用いることができるが、導電性の観点から銀が好ましい。
【0077】
金属ナノワイヤの製造方法には特に制限はなく、例えば、液相法や気相法等の公知の手段を用いることができる。また、具体的な製造方法にも特に制限はなく、公知の製造方法を用いることができる。例えば、銀ナノワイヤの製造方法としては、Adv.Mater.,2002,14,833〜837、Chem.Mater.,2002,14,4736〜4745、金ナノワイヤの製造方法としては特開2006−233252号公報等、銅ナノワイヤの製造方法としては特開2002−266007号公報等、コバルトナノワイヤの製造方法としては特開2004−149871号公報等を参考にすることができる。特に、上述した銀ナノワイヤの製造方法は、水溶液中で簡便に銀ナノワイヤを製造することができ、また銀の導電率は金属中で最大であることから、好ましく適用することができる。
【0078】
また、第1導電層の細線部の表面比抵抗は、100Ω/□以下であることが好ましく、大面積化するには20Ω/□以下であることがより好ましい。表面比抵抗は、例えば、JIS K6911、ASTM D257等に準拠して測定することができ、また市販の表面抵抗率計を用いて簡便に測定することができる。
【0079】
また、第1導電層はフィルム基板にダメージを与えない範囲で加熱処理を施すことが好ましい。これにより、金属微粒子や金属ナノワイヤ同士の融着が進み、第1導電層の高導電化するため、特に好ましい。
【0080】
《ポリマー導電層》
本発明のポリマー導電層は、金属細線パターンからなる金属導電層に積層する。これにより、電極面全体で均一な導電性を得ることができ、さらに金属導電層上の凹凸を平滑化し、素子の電流リークを抑制できる。
【0081】
〈導電性ポリマー〉
本発明では、ポリマー導電層は導電性ポリマーを含有する。
【0082】
本発明に係る導電性ポリマーは、π共役系導電性高分子とポリ陰イオンとを有してなる導電性ポリマーである。こうした導電性ポリマーは、後述するπ共役系導電性高分子を形成する前駆体モノマーを、適切な酸化剤と酸化触媒と後述のポリ陰イオンの存在下で化学酸化重合することによって容易に製造できる。
【0083】
(π共役系導電性高分子)
本発明に用いるπ共役系導電性高分子としては、特に限定されず、ポリチオフェン(基本のポリチオフェンを含む、以下同様)類、ポリピロール類、ポリインドール類、ポリカルバゾール類、ポリアニリン類、ポリアセチレン類、ポリフラン類、ポリパラフェニレンビニレン類、ポリアズレン類、ポリパラフェニレン類、ポリパラフェニレンサルファイド類、ポリイソチアナフテン類、ポリチアジル類、の鎖状導電性ポリマーを利用することができる。中でも、導電性、透明性、安定性等の観点からポリチオフェン類やポリアニリン類が好ましい。ポリエチレンジオキシチオフェンであることが最も好ましい。
【0084】
(π共役系導電性高分子前駆体モノマー)
π共役系導電性高分子の形成に用いられる前駆体モノマーは、分子内にπ共役系を有し、適切な酸化剤の作用によって高分子化した際にもその主鎖にπ共役系が形成されるものである。例えば、ピロール類及びその誘導体、チオフェン類及びその誘導体、アニリン類及びその誘導体等が挙げられる。
【0085】
前駆体モノマーの具体例としては、ピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−n−プロピルピロール、3−ブチルピロール、3−オクチルピロール、3−デシルピロール、3−ドデシルピロール、3,4−ジメチルピロール、3,4−ジブチルピロール、3−カルボキシルピロール、3−メチル−4−カルボキシルピロール、3−メチル−4−カルボキシエチルピロール、3−メチル−4−カルボキシブチルピロール、3−ヒドロキシピロール、3−メトキシピロール、3−エトキシピロール、3−ブトキシピロール、3−ヘキシルオキシピロール、3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール、チオフェン、3−メチルチオフェン、3−エチルチオフェン、3−プロピルチオフェン、3−ブチルチオフェン、3−ヘキシルチオフェン、3−ヘプチルチオフェン、3−オクチルチオフェン、3−デシルチオフェン、3−ドデシルチオフェン、3−オクタデシルチオフェン、3−ブロモチオフェン、3−クロロチオフェン、3−ヨードチオフェン、3−シアノチオフェン、3−フェニルチオフェン、3,4−ジメチルチオフェン、3,4−ジブチルチオフェン、3−ヒドロキシチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−エトキシチオフェン、3−ブトキシチオフェン、3−ヘキシルオキシチオフェン、3−ヘプチルオキシチオフェン、3−オクチルオキシチオフェン、3−デシルオキシチオフェン、3−ドデシルオキシチオフェン、3−オクタデシルオキシチオフェン、3,4−ジヒドロキシチオフェン、3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェン、3,4−ジプロポキシチオフェン、3,4−ジブトキシチオフェン、3,4−ジヘキシルオキシチオフェン、3,4−ジヘプチルオキシチオフェン、3,4−ジオクチルオキシチオフェン、3,4−ジデシルオキシチオフェン、3,4−ジドデシルオキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3,4−プロピレンジオキシチオフェン、3,4−ブテンジオキシチオフェン、3−メチル−4−メトキシチオフェン、3−メチル−4−エトキシチオフェン、3−カルボキシチオフェン、3−メチル−4−カルボキシチオフェン、3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン、3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン、アニリン、2−メチルアニリン、3−イソブチルアニリン、2−アニリンスルホン酸、3−アニリンスルホン酸等が挙げられる。
【0086】
(ポリ陰イオン)
本発明に用いられるポリ陰イオンは、置換もしくは未置換のポリアルキレン、置換もしくは未置換のポリアルケニレン、置換もしくは未置換のポリイミド、置換もしくは未置換のポリアミド、置換もしくは未置換のポリエステル及びこれらの共重合体であって、アニオン基を有する構成単位とアニオン基を有さない構成単位とからなるものである。
【0087】
このポリ陰イオンは、π共役系導電性高分子を溶媒に可溶化させる可溶化高分子である。また、ポリ陰イオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性と耐熱性を向上させる。
【0088】
ポリ陰イオンのアニオン基としては、π共役系導電性高分子への化学酸化ドープが起こりうる官能基であればよいが、中でも、製造の容易さ及び安定性の観点からは、一置換硫酸エステル基、一置換リン酸エステル基、リン酸基、カルボキシ基、スルホ基等が好ましい。さらに、官能基のπ共役系導電性高分子へのドープ効果の観点より、スルホ基、一置換硫酸エステル基、カルボキシ基がより好ましい。
【0089】
ポリ陰イオンの具体例としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、二種以上の共重合体であってもよい。
【0090】
また、化合物内にさらにF(フッ素原子)を有するポリ陰イオンであっても良い。具体的には、パーフルオロスルホン酸基を含有するナフィオン(Dupont社製)、カルボン酸基を含有するパーフルオロ型ビニルエーテルからなるフレミオン(旭硝子社製)等を挙げることができる。
【0091】
ポリ陰イオンがスルホン酸を有する化合物である場合、後述するヒドロキシ基含有ポリマーの縮合による架橋反応を促進するため、好ましい。
【0092】
さらに、これらの中でも、ポリスチレンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸が好ましい。これらのポリ陰イオンは、ヒドロキシ基含有ポリマーとの相溶性が高く、また、得られる導電性ポリマーの導電性をより高くできる。
【0093】
ポリ陰イオンの重合度は、モノマー単位が10〜100000個の範囲であることが好ましく、溶媒溶解性及び導電性の点からは、50〜10000個の範囲がより好ましい。
【0094】
ポリ陰イオンの製造方法としては、例えば、酸を用いてアニオン基を有さないポリマーにアニオン基を直接導入する方法、アニオン基を有さないポリマーをスルホ化剤によりスルホン酸化する方法、アニオン基含有重合性モノマーの重合により製造する方法が挙げられる。
【0095】
アニオン基含有重合性モノマーの重合により製造する方法は、溶媒中、アニオン基含有重合性モノマーを、酸化剤及び/または重合触媒の存在下で、酸化重合またはラジカル重合によって製造する方法が挙げられる。具体的には、所定量のアニオン基含有重合性モノマーを溶媒に溶解させて、一定温度に保ち、該溶媒中に予め溶媒に所定量の酸化剤及び/または重合触媒を溶解した溶液を添加し、所定時間で反応させる。その反応により得られたポリマーは溶媒によって一定の濃度に調整される。この製造方法において、アニオン基含有重合性モノマーにアニオン基を有さない重合性モノマーを共重合させてもよい。
【0096】
アニオン基含有重合性モノマーの重合に際して使用する酸化剤、酸化触媒及び溶媒は、π共役系導電性高分子を形成する前駆体モノマーを重合する際に使用するものと同様である。
【0097】
得られたポリマーがポリ陰イオン塩である場合には、ポリ陰イオン酸に変質させることが好ましい。アニオン酸に変質させる方法としては、イオン交換樹脂を用いたイオン交換法、透析法、限外ろ過法等が挙げられ、これらの中でも、作業が容易な点から限外ろ過法が好ましい。
【0098】
導電性ポリマーに含まれるπ共役系導電性高分子とポリ陰イオンの比率は、「π共役系導電性高分子」:「ポリ陰イオン」の質量比で1:1〜20が好ましい。導電性、分散性の観点からより好ましくは1:2〜10の範囲である。
【0099】
π共役系導電性高分子を形成する前駆体モノマーをポリ陰イオンの存在下で化学酸化重合して、本発明に係る導電性ポリマーを得る際に使用される酸化剤は、例えばJ.Am.Soc.,85、454(1963)に記載されるピロールの酸化重合に適する、いずれかの酸化剤である。実際的な理由のために、安価でかつ取扱い易い酸化剤例えば鉄(III)塩、例えばFeCl、Fe(ClO、有機酸及び有機残基を含む無機酸の鉄(III)塩、または過酸化水素、重クロム酸カリウム、過硫酸アルカリ(例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム)またはアンモニウム、過ホウ酸アルカリ、過マンガン酸カリウム及び銅塩例えば四フッ化ホウ酸銅を用いることが好ましい。加えて、酸化剤として随時触媒量の金属イオン例えば鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン及びバナジウムイオンの存在下における空気及び酸素も使用することができる。過硫酸塩並びに有機酸及び有機残基を含む無機酸の鉄(III)塩の使用が腐食性でないために大きな応用上の利点を有する。
【0100】
有機残基を含む無機酸の鉄(III)塩の例としては炭素数1〜20のアルカノールの硫酸半エステルの鉄(III)塩、例えばラウリル硫酸;炭素数1〜20のアルキルスルホン酸、例えばメタンまたはドデカンスルホン酸;脂肪族炭素数1〜20のカルボン酸、例えば2−エチルヘキシルカルボン酸;脂肪族パーフルオロカルボン酸、例えばトリフルオロ酢酸及びパーフルオロオクタノン酸;脂肪族ジカルボン酸、例えばシュウ酸並びに殊に芳香族の、随時炭素数1〜20のアルキル置換されたスルホン酸、例えばベンゼセンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸及びドデシルベンゼンスルホン酸のFe(III)塩が挙げられる。
【0101】
こうした導電性ポリマーは、市販の材料も好ましく利用できる。例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸からなる導電性ポリマー(PEDOT−PSSと略す)が、H.C.Starck社からCleviosシリーズとして、Aldrich社からPEDOT−PSSの483095、560596として、Nagase Chemtex社からDenatronシリーズとして市販されている。また、ポリアニリンが、日産化学社からORMECONシリーズとして市販されている。本発明において、こうした剤も好ましく用いることができる。
【0102】
第2ドーパントとして水溶性有機化合物を含有してもよい。本発明で用いることができる水溶性有機化合物には特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、酸素含有化合物が好適に挙げられる。前記酸素含有化合物としては、酸素を含有する限り特に制限はなく、例えば、ヒドロキシ基含有化合物、カルボニル基含有化合物、エーテル基含有化合物、スルホキシド基含有化合物等が挙げられる。前記ヒドロキシ基含有化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、グリセリン等が挙げられ、これらの中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコールが好ましい。前記カルボニル基含有化合物としては、例えば、イソホロン、プロピレンカーボネート、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。前記エーテル基含有化合物としては、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、等が挙げられる。前記スルホキシド基含有化合物としては、例えば、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよいが、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、ジエチレングリコールから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0103】
(ヒドロキシ基含有ポリマー)
ポリマー導電層は、少なくとも導電性ポリマーとヒドロキシ基含有ポリマーを含有することが好ましく、これらを含有する分散液を、絶縁層を含む金属導電層上に塗布、乾燥して形成される。ヒドロキシ基含有ポリマーは、ヒドロキシ基を有する前記構造単位(I)を有するポリマー(A)、又は、前記構造単位(I)とヒドロキシ基を有せずかつエステル又はアミド結合を有する前記構造単位(II)とからなるポリマー(B)の少なくとも一方のポリマーを含むことが好ましい。
【0104】
前記構造単位(I)、(II)において、Rは水素原子またはメチル基を表し、Qは−C(=O)O−または−C(=O)NRa−を表す。Raは水素原子、アルキル基またはNと共にモルホリン基を形成するための原子団を表し、Aは置換もしくは無置換アルキレン基、または−(CHCHRbO)−(CHCHRb)−を表し、Rbは水素原子またはアルキル基を表す。xは平均繰り返しユニット数で1〜100の数である。yは0または1を表す。Zは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、モルホリノ基、−O−C(=O)−Rc、−O−SO−Rdまたは−O−SiReを表す。Rc、Rd、Reはアルキル基、パーフルオロアルキル基またはアリール基を表す。但し、Qがモルホリン基を有する場合、yは0であり、且つZは存在しない。
【0105】
Ra、Rb、Z、Rc、Rd、Reで表されるアルキル基は、例えば炭素原子数1〜5の直鎖、あるいは分岐アルキル基が好ましく、より好ましくはメチル基である。また、これらのアルキル基は置換基で置換されていてもよい。これら置換基の例としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロシクロアルキル基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルキルカルボンアミド基、アリールカルボンアミド基、アルキルスルホンアミド基、アリールスルホンアミド基、ウレイド基、アラルキル基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アルキルカルバモイル基、アリールカルバモイル基、アルキルスルファモイル基、アリールスルファモイル基、アシルオキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルオキシスルホニル基、アリールオキシスルホニル基、アルキルスルホニルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基等で置換されてもよい。これらのうち好ましくは、ヒドロキシ基、アルキルオキシ基である。
【0106】
上記アルキル基は分岐を有していてもよく、炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜8であることがさらに好ましい。アルキル基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等が含まれる。
【0107】
上記シクロアルキル基の炭素原子数は、3〜20であることが好ましく、3〜12であることがより好ましく、3〜8であることがさらに好ましい。シクロアルキル基の例には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基が含まれる。上記アルコキシ基は、分岐を有していてもよく、炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましく、1〜4であることが最も好ましい。アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−メトキシ−2−エトキシエトキシ基、ブチルオキシ基、ヘキシルオキシ基及びオクチルオキシ基が含まれ、好ましくはエトキシ基である。上記アルキルチオ基の炭素数は、分岐を有していてもよく、炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましく、1〜4であることが最も好ましい。アルキルチオ基の例としては、メチルチオ基、エチルチオ基等が含まれる。上記アリールチオ基の炭素数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。アリールチオ基の例にはフェニルチオ基及びナフチルチオ基等が含まれる。上記シクロアルコキシ基の炭素原子数は、3〜12であることが好ましく、より好ましくは3〜8である。シクロアルコキシ基の例には、シクロプロポキシ基、シクロブチロキシ基、シクロペンチロキシ基及びシクロヘキシロキシ基が含まれる。上記アリール基の炭素原子数は6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。アリール基の例にはフェニル基及びナフチル基が含まれる。上記アリールオキシ基の炭素原子数は6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。アリールオキシ基の例にはフェノキシ基及びナフトキシ基が含まれる。上記ヘテロシクロアルキル基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましく、3〜5であることがさらに好ましい。ヘテロシクロアルキル基の例にはピペリジノ基、ジオキサニル基及び2−モルホリニル基が含まれる。上記ヘテロアリール基の炭素原子数は、3〜20であることが好ましく、3〜10であることがさらに好ましい。ヘテロアリール基の例にはチエニル基、ピリジル基が含まれる。上記アシル基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。アシル基の例にはホルミル基、アセチル基及びベンゾイル基が含まれる。上記アルキルカルボンアミド基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。アルキルカルボンアミド基の例にはアセトアミド基等が含まれる。上記アリールカルボンアミド基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。アリールカルボンアミド基の例にはベンズアミド基等が含まれる。上記アルキルスルホンアミド基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。スルホンアミド基の例にはメタンスルホンアミド基等が含まれる上記アリールスルホンアミド基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。アリールスルホンアミド基の例には、ベンゼンスルホンアミド基及びp−トルエンスルホンアミドが基含まれる。上記アラルキル基の炭素原子数は7〜20であることが好ましく、7〜12であることがさらに好ましい。アラルキル基の例にはベンジル基、フェネチル基及びナフチルメチル基が含まれる。上記アルコキシカルボニル基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アルコキシカルボニル基の例にはメトキシカルボニル基が含まれる。上記アリールオキシカルボニル基の炭素原子数は7〜20であることが好ましく、7〜12であることがさらに好ましい。アリールオキシカルボニル基の例にはフェノキシカルボニル基が含まれる。上記アラルキルオキシカルボニル基の炭素原子数は8〜20であることが好ましく、8〜12であることがさらに好ましい。アラルキルオキシカルボニル基の例にはベンジルオキシカルボニル基が含まれる。上記アシルオキシ基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アシルオキシ基の例にはアセトキシ基及びベンゾイルオキシ基が含まれる。上記アルケニル基の炭素原子数は2〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アルケニル基の例に、ビニル基、アリル基及びイソプロペニル基が含まれる。上記アルキニル基の炭素原子数は2〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アルキニル基の例にはエチニル基が含まれる。上記アルキルスルホニル基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。アルキルスルホニル基の例に、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基が含まれる。上記アリールスルホニル基の炭素原子数は6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。アリールスルホニル基の例に、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基が含まれる。上記アルキルオキシスルホニル基の炭素原子数は1〜20あることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。アルキルオキシスルホニル基の例に、メトキシスルホニル基、エトキシスルホニル基が含まれる。上記アリールオキシスルホニル基の炭素原子数は6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。アリールオキシスルホニル基の例に、フェノキシスルホニル基、ナフトキシスルホニル基が含まれる。上記アルキルスルホニルオキシ基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。アルキルスルホニルオキシ基の例に、メチルスルホニルオキシ基、エチルスルホニルオキシ基が含まれる。
【0108】
上記アリールスルホニルオキシ基の炭素原子数は6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。アリールスルホニルオキシ基の例に、フェニルスルホニルオキシ基、ナフチルスルホニルオキシ基が含まれる。置換基は同一でも異なっていても良く、これら置換基がさらに置換されてもよい。
【0109】
構造単位(I)において、Aは置換あるいは無置換アルキレン基、−(CHCHRbO)−(CHCHRb)−を表すが、アルキレン基は、例えば炭素原子数1〜5が好ましく、より好ましくはエチレン基、プロピレン基である。これらのアルキレン基は前述した置換基で置換されていてもよい。また、Rbは水素原子、アルキル基を表す。また、これらのアルキル基は前述の置換基で置換されていてもよい。さらに、xは平均繰り返しユニット数を表し、1〜100が好ましく、より好ましくは1〜10である。繰り返しユニット数は分布を有しており、表記は平均値を示し、小数点以下1桁で表記してもよい。
【0110】
構造単位(II)において、Zは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、モルホリノ基、−O−C(=O)−Rc、−O−SO−Rd、−O−SiReを表す。これらのアルキル基は前述した置換基で置換されてもよい。Rc、Rd、Reはアルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基を表す。これらのアルキル基は前述した置換基で置換されてもよい。パーフルオロアルキル基は、例えば炭素原子数1〜8が好ましく、より好ましくはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基で、さらに好ましくはトリフルオロメチル基である。アリール基は、例えばフェニル基、トルイル基が好ましく、より好ましくはトルイル基である。さらに、これらのアルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基は前述した置換基で置換されてもよい。
【0111】
また、構造単位(I)、(II)において、Rは水素原子またはメチル基を表し、Qは−C(=O)O−または−C(=O)NRa−を表す。Raは水素原子、アルキル基またはNと共にモルホリン基を形成するための原子団を表す。但し、Qがモルホリン基を有する場合、yは0であり、且つZは存在しない。
【0112】
以下に、構造単位(I)、(II)で表される構造単位の代表的具体例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0113】
【化2】

【0114】
【化3】

【0115】
【化4】

【0116】
本発明に係るポリマー(A)とポリマー(B)は、構造単位(I)、(II)で表される構造単位以外に構造単位を含有していてもよい。
【0117】
本発明に係るポリマー(A)とポリマー(B)は、汎用的な重合触媒を用いたラジカル重合により得ることができる。重合様式としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等が挙げられ、好ましくは溶液重合である。重合温度は、使用する開始剤によって異なるが、一般に−10〜250℃、好ましくは0〜200℃、より好ましくは10〜100℃で実施される。
【0118】
本発明に係るポリマー(A)とポリマー(B)の分子量は3,000〜2,000,000の範囲が好ましく、より好ましくは4,000〜500,000、さらに好ましくは5000〜100000の範囲内である。
【0119】
本発明に係るポリマー(A)とポリマー(B)の数平均分子量、分子量分布の測定は、一般的に知られているゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により行うことができる。使用する溶媒は、バインダー樹脂が溶解すれば特に限りはなく、THF(テトラヒドロフラン)、DMF(ジメチルホルムアミド)、CHClが好ましく、より好ましくはTHF、DMFであり、更に好ましくはDMFである。また、測定温度も特に制限はないが40℃が好ましい。
【0120】
ポリマー導電層の塗布は、前述のグラビア印刷法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法等の印刷方法に加えて、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ダイコート法、ブレードコート法、バーコート法、グラビアコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ドクターコート法、インクジェット法等の塗布法を用いることができる。
【0121】
ポリマー導電層は、ヒドロキシ基含有ポリマーとして、前述のポリマー(A)またはポリマー(B)の少なくとも一方を含むことで、導電性ポリマーの導電性が増強され、高い導電性を得ることができる。また、ポリマー導電層は、金属導電層上に積層され、金属導電層を平滑化する機能も有するが、ヒドロキシ基含有ポリマーの高い透明性により、導電性ポリマー単独では得られない、高い透明性と導電層表面の高い平滑性を両立できる。さらに、ヒドロキシ基含有ポリマー間で、脱水縮合により架橋するため、耐水性、耐溶媒性など膜強度が向上する。
【0122】
ポリマー導電層の導電性ポリマーとヒドロキシ基含有ポリマーとの比率は、導電性ポリマーを100質量部とした時、ヒドロキシ基含有ポリマーが30質量部から900質量部であることが好ましく、電流リーク防止、ヒドロキシ基含有ポリマーの導電性増強効果、透明性の観点から、ヒドロキシ基含有ポリマーが100質量部以上であることがより好ましい。ポリマー導電層の乾燥膜厚は30〜2000nmであることが好ましい。導電性の点から、100nm以上であることがより好ましく、電極の表面平滑性の点から、200nm以上であることがさらに好ましい。また、透明性の点から、1000nm以下であることがより好ましい。
【0123】
ポリマー導電層を塗布した後、適宜乾燥処理を施すことができる。乾燥処理の条件として特に制限はないが、基材や導電層が損傷しない範囲の温度で乾燥処理することが好ましい。例えば、80〜120℃で10秒から10分の乾燥処理をすることができる。
【0124】
本発明において、酸触媒を用いてヒドロキシ基含有ポリマーの架橋反応を促進、完了させることができる。酸触媒としては、塩酸、硫酸や硫酸アンモニウムを用いることができる。また導電性ポリマーにドーパントとして用いるポリアニオンにおいて、スルホ基含有ポリアニオンを使用することで、ドーパントと触媒を兼用することができる。
【0125】
本発明の導電性ポリマー及びヒドロキシ基含有ポリマーを含む分散液は、導電層の導電性、透明性、平滑性を同時に満たす範囲において、さらに他の透明なポリマーや添加剤や架橋剤を含有してもよい。
【0126】
透明なポリマーとしては、天然高分子樹脂または合成高分子樹脂から広く選択して使用することができ、水溶性高分子または水性高分子エマルジョンが特に好ましい。水溶性高分子としては、天然高分子のデンプン、ゼラチン、寒天等、半合成高分子のヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、合成高分子のポリビニルアルコール、ポリアクリル酸系高分子、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン等が、水性高分子エマルションとしては、アクリル系樹脂(アクリルシリコン変性樹脂、フッ素変性アクリル樹脂、ウレタン変性アクリル樹脂、エポキシ変性アクリル樹脂等)、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂等が、使用することができる。
【0127】
また、合成高分子樹脂としては、透明な熱可塑性樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、フッ化ビニリデン)や、熱・光・電子線・放射線で硬化する透明硬化性樹脂(例えば、メラミンアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル変性シリケート等のシリコン樹脂)を使用することができる。
【0128】
添加剤としては、可塑剤、酸化防止剤や硫化防止剤等の安定剤、界面活性剤、溶解促進剤、重合禁止剤、染料や顔料等の着色剤等が挙げられる。さらに、塗布性等の作業性を高める観点から、溶媒(例えば、水や、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、ケトン類、エステル類、エーテル類、アミド類、炭化水素類等の有機溶媒)を含んでいてもよい。
【0129】
ヒドロキシ基含有ポリマーの架橋剤としては、例えばオキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、メラミン系架橋剤、正孔ムアルデヒド系架橋剤等を単独あるいは複数併用して用いることができる。
【0130】
〈有機電子素子の構成〉
本発明に係る透明電極を用いた有機電子素子の構成を、図1を用いて説明する。
【0131】
透明ガラス基板11の上に本発明に係る透明電極14とこれに対向する対電極16を有し、透明電極14と対電極16の両電極間に少なくとも1層の有機機能層15を有している。本発明において透明電極14は、例えば、金属粒子の細線パターンからなる金属導電層12と、導電性ポリマーを含有するポリマー導電層13を含んでおり、ポリマー導電層13が、金属導電層12を被覆している。
【0132】
図2は本発明の金属導電層の細線パターンの一例を示す。これらは、後述する適当な方法により作製される。(a)にストライプ状パターンを(b)に格子状パターンの例を示す。
【0133】
例えば、細線パターンの線幅10〜200μm、また、線間隔が200から3000μmのストライプや格子状をあげることができる。
【0134】
細線の線幅を10μm以上とすることで所望の導電性が得られ、また200μm以下とすることで透明性が向上する。細線の高さは0.2〜2.0μmが好ましい。細線の高さを0.2μm以上とすることで所望の導電性が得られ、また2.0μm以下とすることで有機電子デバイスの形成において、電流リークや機能層の膜厚分布不良の要因となるのを防止できる。
【0135】
また、細線パターンとして、ここには挙げないが、金属ナノワイヤによるランダムな網目構造も利用できる。
【0136】
図3には、本発明に係る透明電極を用いた有機EL素子の断面図と、その形成過程を模式的に示した。透明ガラス基板31上に、ITOを蒸着し、フォトリソ法により図3(a)のパターニングを行い、取出電極32を形成する。取出電極32と一部が重なるように配置し、金属導電層33をパターニング形成する(図3(b))。金属導電層33の上に、ポリマー導電層34を形成する(図3(c))。こうして形成した透明電極35上に、次いで、正孔輸送層、発光層、正孔ブロック層、電子輸送層等からなる有機機能層36を形成する(図3(d))。次いで、対電極37を形成し(図3(e))、透明電極35、有機機能層36を完全に被覆するように封止部材38にて素子を封止する(図3(f))。
【0137】
《有機電子素子》
本発明の透明電極は各種有機電子素子に用いることができる。有機電子素子とは支持体上にアノード電極と、カソード電極を有し、電極間に少なくとも1層の有機機能層を有する。有機機能層としては、前記有機EL素子の場合のように有機発光層、また、有機光電変換層、液晶ポリマー層等が挙げられるが、特に限定されない。本発明は、機能層が薄膜でかつ電流駆動系の素子である有機発光層、有機光電変換層である場合に特に有効で、有機EL素子、太陽電池等の有機電子素子に適用することができる。
【実施例】
【0138】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量%」を表す。
【0139】
実施例1
〈ヒドロキシ基含有ポリマーの合成〉
(開始剤1:メトキシキャップされたオリゴエチレングリコールメタクリレートの合成)
50ml三口フラスコに2−ブロモイソブチリルブロミド(7.3g、35mmol)とトリエチルアミン(2.48g、35mmol)及びTHF(20ml)を加え、アイスバスにより内温を0℃に保持した。この溶液内にオリゴエチレングリコール(10g、23mmol、エチレングリコールユニット7〜8、Laporte Specialties社製)の33%THF溶液30mlを滴下した。30分攪拌後、溶液を室温にし、さらに4時間攪拌した。THFをロータリーエバポレーターにより減圧除去後、残渣をジエチルエーテルに溶解し、分液ロートに移した。水を加えエーテル層を3回洗浄後、エーテル層をMgSOにより乾燥させた。エーテルをロータリーエバポレーターにより減圧留去し、開始剤1を8.2g(収率73%)得た。
【0140】
(リビング重合(ATRP法)によるヒドロキシ基含有ポリマーの合成)
開始剤1(500mg、1.02mmol)、2−ヒドロキシエチルアクリレート(4.64g、40mmol、東京化成社製)、50:50v/v%メタノール/水混合溶媒5mlをシュレンク管に投入し、減圧下液体窒素に10分間シュレンク管を浸した。シュレンク管を液体窒素から出し、5分後に窒素置換を行った。この操作を3回行った後、窒素下で、ビピリジン(400mg、2.56mmol)、CuBr(147mg、1.02mmol)を加え、20℃で攪拌した。30分後、ろ紙とシリカを敷いた4cm桐山ロート上に反応溶液を滴下し、減圧で反応溶液を回収した。ロータリーエバポレーターにより溶媒を減圧留去後、50℃で3時間減圧乾燥した。その結果、数平均分子量13100、分子量分布1.17、数平均分子量<1000の成分の含量0%のヒドロキシ基含有ポリマー、ポリ(2−ヒドロキシエチルアクリレート)を2.60g(収率84%)得た。構造、分子量は各々H−NMR(400MHz、日本電子社製)、GPC(Waters2695、Waters社製)で測定した。
【0141】
(GPC測定条件)
装置:Wagers2695(Separations Module)
検出器:Waters 2414 (Refractive Index Detector)
カラム:Shodex Asahipak GF−7M HQ
溶離液:ジメチルホルムアミド(20mM LiBr)
流速:1.0ml/min
温度:40℃
以下の方法で取り出し電極を形成した。
【0142】
(取り出し電極の作製)
ガラス基板上に、ITOを平均膜厚150nmで蒸着した後、フォトリソ法により図3(a)のパターニングを行った後、2−プロパノールに基板を浸漬し、超音波洗浄器ブランソニック3510J−MT(日本エマソン社製)により10分間の超音波洗浄処理を施して、取りだし電極の作成を行った(図3(a))。
【0143】
《透明電極の作製》
上記で得られた透明電極用の透明ガラス基板上のITOを形成した面に、以下の方法により、表面処理を行った後、金属導電層及びポリマー導電層を積層し、透明電極を作製した。
【0144】
〈ガラス基板の表面処理〉
以下の方法にて、表面処理を行った。
【0145】
(基板−1、2の作成)
上記取りだし電極を形成した0.1mm厚のガラス基板を、純水中で10分間超音波洗浄を行った後、150℃で2分乾燥し、基板−1を作成した。同様に0.7mm厚のガラス基板を用いて、基板−2を作成した。
【0146】
(基板−3、4の作成)
基板−1、2の作成において、純水をクリンスルーKS3030[花王社製]の10倍希釈液に変更し、10分間の超音波洗浄を行った後、さらに純水中で5分間の超音波洗浄を2回行った。これを150℃で2分乾燥し、基板−3、4を作成した。
【0147】
(基板−5の作成)
基板−4を用い、さらに、セミコクリーン56[フルウチ化学社製]中で10分間超音波洗浄を行った後、純水中で5分間の超音波洗浄を2回行った。これを150℃2分乾燥し、基板−5を作成した。
【0148】
(基板−6〜11の作成)
基板−1に、活性剤1(エマルゲン409P/ポリオキシエチレンアルキルエーテル型花王社製)0.1%水溶液をスピンコート後、120℃で2分乾燥し、基板−6を作成した。同様に、活性剤を活性剤2(ソフタノール70/高級2級アルコールポリオキシエチレン付加体 日本触媒社製)の0.1%水溶液に変更し、基板−8を作成した。また、活性剤3(サーフィノール465/アセチレングリコール型 日信化学工業社製)の0.1%水溶液に変更し、基板−10を作成した。
【0149】
更に、基板−1を基板−2に変更し、それぞれ活性剤1、2、3を用いて同様の処理を行い、基板−7、9、11を作成した。
【0150】
(基板−12、13の作成)
基板−3に、シランカップリング剤として、ヘキシルトリエトキシシラン0.1%メチルエチルケトン溶液をスピンコート後、120℃で10分熱処理し、基板−12を作製した。同様に、シランカップリング剤を、n−プロピルトリエトキシシラン0.5%メチルエチルケトン溶液に変更し、基板−13を作製した。
【0151】
〈金属導電層の形成〉
以下の方法にて、金属導電層を形成した。
【0152】
前述のガラス基板に、表2記載のように、金属インク(表1に記載)及び印刷方法用いて、金属細線のパターン印刷を行い、図3(b)のように金属導電層33の格子パターンを作成後、110℃、5分の乾燥処理を行い、さらに250℃、5分の焼成を行い、金属導電層を形成した。なお、グラビアオフセット、及びフレキソ印刷は、グラビア印刷機(RKプリントコートインスツルメンツ社製;K303マルチコータ)を用いて、スクリーン印刷は、SERIA STF−150E(東海商事社製)を用いて、パターン印刷を行った。また、それぞれの版パターンは、線幅50μ、間隔1.0mmの格子パターンを用い、特に、スクリーン印刷においては、730メッシュスクリーンを用いた。
【0153】
金属インク(銀ナノインク(銀粒子−平均粒径:20〜50nm))
【0154】
【表1】

【0155】
〈ポリマー導電層の形成〉
パターン形成された金属導電層上に、ポリマー導電層として、下記の導電性ポリマー及びヒドロキシ基含有ポリマーからなる塗布液を、図3(c)のポリマー導電層34の領域にアプリケーターにより塗設し、さらに110℃で10分加熱乾燥処理し、表2記載の金属導電層及びポリマー導電層からなる透明電極101〜113を作製した。
【0156】
(塗布液)
PEDOT−PSS CLEVIOS PH510(H.C.Starck社製)
1.59g
ポリ(2−ヒドロキシエチルアクリレート)(固形分20%水溶液) 0.35g
ジメチルスルホキシド 0.08g
《透明電極の評価》
得られた各透明電極について下記方法で、金属細線パターンの描画性を評価した。
【0157】
(細線描画性)
非接触表面粗さ計WYKO NT9100(Veeco社製)にて、細線パターンの形状を測定し、細線の長手方向1mmにおける細線の線幅及び線高さの分布をその標準偏差にて評価した。
【0158】
評価 線幅の標準偏差(σ)
◎ :2未満
○ :2以上、5未満
△ :5以上、10未満
× :10以上、20未満
××:20以上
線高さの標準偏差(σ)
◎ :0.05未満
○ :0.05以上、0.1未満
△ :0.1以上、0.2未満
× :0.2以上、0.5未満
××:0.5以上
評価の結果を表2に示す。
【0159】
【表2】

【0160】
表2から、本発明の製造方法で作製した透明電極は、線幅及び線高さの標準偏差が小さく、金属パターンの細線描画性に優れることが分かる。
【0161】
実施例2
《有機EL素子の作製》
実施例1にて作製した、透明電極101〜113を用い、以下の方法でそれぞれ対応する有機EL素子201〜213を作製した。なお実施例で用いた化合物を以下に示す。
【0162】
【化5】

【0163】
〈有機機能層の形成〉
上記透明電極を形成した基板上に、下記のようにして、有機機能層(正孔輸送層、発光層、正孔ブロック層、電子輸送層)を形成した。
【0164】
なお、正孔輸送層以降は蒸着により形成した。市販の真空蒸着装置内の蒸着用るつぼの各々に、各層の構成材料を各々素子作製に最適の量を充填した。蒸着用るつぼは、モリブデン製またはタングステン製の抵抗加熱用材料で作製されたものを用いた。
【0165】
(正孔輸送層の形成)
真空度1×10−4Paまで減圧した後、化合物1の入った前記蒸着用るつぼに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で透明電極35上の図3(d)の有機機能層36の領域に蒸着し、30nmの正孔輸送層を設けた。
【0166】
(発光層の形成)
次に、以下の手順で発光層を設けた。
【0167】
形成した正孔輸送層上に、化合物2が13質量%、化合物3が3.7質量%、化合物5が83.3質量%の濃度になるように、化合物2、化合物3及び化合物5を蒸着速度0.1nm/秒で図3(d)の有機機能層36の領域に共蒸着し、発光極大波長が622nm、厚さ10nmの緑赤色燐光発光層を形成した。
【0168】
次いで、化合物4が10.0質量%、化合物5が90.0質量%の濃度になるように、化合物4及び化合物5を蒸着速度0.1nm/秒で同じ領域に共蒸着し、発光極大波長が471nm、厚さ15nmの青色燐光発光層を形成した。
【0169】
(正孔ブロック層の形成)
さらに、形成した発光層上に、化合物6を膜厚5nmに蒸着し正孔阻止層を形成した。
【0170】
(電子輸送層の形成)
引き続き、形成した正孔阻止層上に、CsFを膜厚比で10%になるように化合物6と共蒸着し、厚さ45nmの電子輸送層を形成した。
【0171】
(第2電極の形成)
形成した電子輸送層の上に、Alを5×10−4Paの真空下にて図3(e)の対電極37の領域に蒸着し、厚さ100nmのカソード電極を形成した。
【0172】
(封止膜の形成)
形成した電子輸送層の上に、ポリエチレンテレフタレートを基材とし、Alを厚さ300nmで蒸着した可撓性封止部材を使用した。接着剤を塗り、可撓性封止部材を図3(f)のように、有機機能層36を完全に被覆するように貼合した後、熱処理で接着剤を硬化させて封止した。封止部材の外に出たITO及びAlをそれぞれ第1電極(アノード)及び第2電極(カソード)の外部取り出し端子とし、有機EL素子を作製した。
【0173】
《有機EL素子の評価》
得られた、各有機EL素子について、KEITHLEY製ソースメジャーユニット2400型を用いて、直流電圧を印加して1000cd/mで発光させた。各基板について5個作製し評価した。
【0174】
(発光ムラ)
発光ムラは、KEITHLEY製ソースメジャーユニット2400型を用いて、各有機EL素子に直流電圧を印加して輝度が1000cd/mになるよう発光させ、発光状態を下記基準で目視評価し、下記基準で評価した。
【0175】
◎ :完全に均一発光しており、申し分ない
○ :殆ど均一発光しており、問題ない
△ :部分的に若干発光ムラが見られるが、許容できる
× :全面に渡って発光ムラが見られ、許容できない
××:発光しない
(寿命)
得られた有機EL素子の、初期の輝度を5000cd/mで連続発光させて、電圧を固定して、輝度が半減するまでの時間を求めた。アノード電極をITOとした有機EL素子を上記と同様の方法で作製し、これに対する比率を求め、下記基準で評価した。
【0176】
◎:150%以上
○:100%以上、150%未満
△:80%以上、100%未満
×:80%未満
××:発光しない、またはフィルムが変形し有機EL素子を作製できない。
【0177】
(整流比)
得られた有機EL素子に、低電圧電源(KEITHLEY製ソースメジャーユニット2400型)にて+5V(正方向)、−5V(逆方向)を印加しその時の電流値を測定し、正逆電流値の比(正方向電流値÷逆方向電流値=整流比)を算出した。
【0178】
◎:500以上
○:100以上500未満
△:50以上100未満
×:10以上50未満
××:1以上10未満
評価の結果を表3に示す。
【0179】
【表3】

【0180】
表3から、本発明の透明電極の製造方法により作成した透明電極を用いることにより、有機EL素子の発光分布特性が高く、寿命を向上できることが分かる。
【符号の説明】
【0181】
11、31 透明ガラス基板
12、33 金属導電層
13、34 ポリマー導電層
14、35 透明電極
15、36 有機機能層
16、37 対電極
32 取出電極
38 封止部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明ガラス基板上に、金属ナノ粒子を含む金属インクを用いて、金属細線パターンからなる金属導電層を形成し、該金属導電層の上に、導電性ポリマーを含有するポリマー導電層を積層する透明電極の製造方法において、該透明ガラス基板の2次元表面エネルギーの分散項γdが、
γd≧30mN/m
であることを特徴とする透明電極の製造方法。
【請求項2】
前記金属導電層を形成する前に、前記透明ガラス基板をノニオン系界面活性剤にて処理することを特徴とする請求項1に記載の透明電極の製造方法。
【請求項3】
前記金属インクの金属細線パターン印刷を、スクリーン印刷で形成することを特徴とする請求項1または2に記載の透明電極の製造方法。
【請求項4】
前記ポリマー導電層が、構造単位(I)を有するポリマー(A)と、該構造単位(I)と構造単位(II)を有するポリマー(B)の、少なくとも一方のポリマーを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明電極の製造方法。
【化1】

〔式中、Rは水素原子、メチル基を表し、Qは−C(=O)O−、−C(=O)NRa−を表す。Raは水素原子、アルキル基またはNと共にモルホリン基を形成するための原子団を表し、Aは置換或いは無置換アルキレン基、−(CHCHRbO)−(CHCHRb)−を表し、Rbは水素原子、アルキル基を表す。xは平均繰り返しユニット数で1〜100の数である。yは0、1を表す。Zは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、モルホリノ基、−O−C(=O)−Rc、−O−SO−Rd、または−O−SiReを表す。Rc、Rd、Reはアルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基を表す。但し、Qがモルホリノ基を有する場合、yは0であり、且つZは存在しない。〕
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の透明電極の製造方法を用い製造されたことを特徴とする有機電子素子。
【請求項6】
請求項5に記載の有機電子素子が、有機エレクトロルミネッセンス素子または有機太陽電池素子であることを特徴とする有機電子素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−216449(P2012−216449A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81531(P2011−81531)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】