説明

通信システム

【課題】故障発生時における通信の継続性を確保可能な通信システムを提供する。
【解決手段】マスターユニットと複数のスレーブユニットで構成され、前記複数のスレーブユニットは所定処理の処理結果を前記マスターユニットに送信する通信システムにおいて、少なくとも1つのスレーブユニットから前記マスターユニットへの前記処理結果の送信を他のスレーブユニットが監視し、前記他のスレーブユニットは、前記処理結果の送信が一定期間確認されなかった場合に、各々のタイマに基づいて前記所定処理によって得られた処理結果を前記マスターユニットに送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、電気自動車やハイブリッド自動車などの車両には、動力源となるモータと、該モータに電力を供給する高電圧・大容量のバッテリが搭載されている。このバッテリは、リチウムイオン電池或いは水素ニッケル電池等からなる電池セルを直列に複数接続して構成されるものである。従来では、バッテリを安全に利用するために、各電池セルのセル電圧を監視し、過充電及び過放電を防止するための制御を行っている。
【0003】
一般的に、バッテリーを構成する各セルのセル電圧を監視するためには、数セル分のセル電圧を同時に計測可能(厳密には例えば12セル全ての電圧計測結果(デジタル値)を得るまでに100μs程度は必要)な計測ユニットをセルの総数に応じて複数用意すれば良いが、計測ユニット間でセル電圧の計測タイミングにズレが生じると、各セルの状態(過充電状態か過放電状態か)を正確に把握することができず、適切なバッテリ制御を行うことが困難となる。
【0004】
例えば、下記特許文献1に記載された技術では、数セル分のセル電圧を計測可能な監視装置を複数設け、各監視装置がそれぞれ一定時間(数十ms)経過する毎にセル電圧の計測を行うことにより、監視装置間のセル電圧計測タイミングを同期化(一致)させている。また、この特許文献1の技術では、監視装置を、システムコントローラからクロック信号を受けるマスター監視装置と、該マスター監視装置からクロック信号を受けるスレーブ監視装置とに分け、各装置が上記クロック信号に同期して通信を行うことにより、各装置間の通信の同期化を図っている。
【0005】
さらに、この特許文献1の技術では、各監視装置に、クロック信号の供給が一定時間ない場合に動作停止状態に切り換わる機能を設け、バッテリに異常が発生した場合に、システムコントローラからマスター監視装置へのクロック信号の供給を停止させて、マスター監視装置、ひいてはスレーブ監視装置を動作停止状態に切り換えることにより、無駄な電力消費を抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−354697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、バッテリに異常が発生していなくとも、マスター監視装置が故障してスレーブ監視装置へのクロック信号の供給が停止した場合にスレーブ監視装置が動作停止状態に切り換わるため、スレーブ監視装置は正常であるにも関わらず、スレーブ監視装置がセル電圧を計測し、そのセル電圧計測結果をシステムコントローラへ送信することが不可能となる(故障発生時には通信の継続が困難)。
【0008】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、故障発生時における通信の継続性を確保可能な通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、通信システムに係る第1の解決手段として、マスターユニットと複数のスレーブユニットで構成され、前記複数のスレーブユニットは所定処理の処理結果を前記マスターユニットに送信する通信システムにおいて、少なくとも1つのスレーブユニットから前記マスターユニットへの前記処理結果の送信を他のスレーブユニットが監視し、前記他のスレーブユニットは、前記処理結果の送信が一定期間確認されなかった場合に、各々のタイマに基づいて前記所定処理によって得られた処理結果を前記マスターユニットに送信することを特徴とする。
【0010】
また、本発明では、通信システムに係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記少なくとも1つのスレーブユニットは、第1周期で前記所定処理を行うと共に、前記第1周期より短い第2周期で前記所定処理の処理結果を分割して前記マスターユニットに送信し、前記他のスレーブユニットは、前記少なくとも1つのスレーブユニットから前記マスターユニットへの前記処理結果の送信が一定期間確認されなかった場合に、各々のタイマに基づく第3周期で前記所定処理を行うと共に、前記第3周期より短い第4周期で前記所定処理の処理結果を分割して前記マスターユニットに送信することを特徴とする。
【0011】
また、本発明では、通信システムに係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、前記マスターユニットと前記複数のスレーブユニットとは、CANバスを介して接続されていることを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明では、通信システムに係る第4の解決手段として、上記第1〜第3のいずれか1つの解決手段において、前記マスターユニットは、バッテリの充放電を管理するバッテリ制御ユニットであり、前記スレーブユニットは、前記バッテリを構成するセルの電圧計測を前記所定処理として行い、その電圧計測結果を前記処理結果として前記バッテリ制御ユニットに送信するセル電圧センサユニットであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、前記もう1つのスレーブユニットが故障して前記マスターユニットへの前記処理結果の送信を実施できなくても、他のスレーブユニットは、それぞれ前記所定処理によって得られた処理結果を前記マスターユニットに送信できるため、故障発生時における通信の継続性を確保することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態におけるバッテリ管理システム(通信システム)の構成概略図である。
【図2】メインセンサユニットSU1の通信動作を表すフローチャートである。
【図3】サブセンサユニットSU2〜SU4の通信動作を表す第1フローチャートである。
【図4】サブセンサユニットSU2〜SU4の通信動作を表す第2フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下では、本発明に係る通信システムの一実施形態として、電気自動車やハイブリッド自動車などの車両に搭載されるバッテリの充放電を管理するバッテリ管理システムを例示する。このバッテリ管理システムは、図1に示すように、バッテリBTと、バッテリ制御ユニットMUと、4つのセル電圧センサユニットSU1〜SU4とから概略構成されている。
【0016】
バッテリBTは、4つのセルモジュールM1〜M4を直列に接続して構成されている。また、各セルモジュールM1〜M4は、それぞれリチウムイオン電池或いは水素ニッケル電池等からなる電池セル(以下、セルと略す)を直列に12個接続して構成されている。つまり、バッテリBTは、合計48個のセルを直列に接続して構成されている。
【0017】
なお、図1では、セルモジュールM1を構成する各セルの符号をC1_M1〜C12_M1とし、セルモジュールM2を構成する各セルの符号をC1_M2〜C12_M2とし、セルモジュールM3を構成する各セルの符号をC1_M3〜C12_M3とし、セルモジュールM4を構成する各セルの符号をC1_M4〜C12_M4とする。
【0018】
バッテリ制御ユニットMUと各セル電圧センサユニットSU1〜SU4は、2本の通信線(ツイストペア線)からなる通信バスBS(CANバス)を介して接続されている。CAN(Controller Area Network)通信は、通信バスBSを構成する2本の通信線に電圧差があるか否かによって「0」または「1」のデータを送信する差動電圧通信方式を採用しているため、耐ノイズ性が高く、車載ユニット間の通信に好適である。
【0019】
セル電圧センサユニットSU1は、セルモジュールM1を構成する各セルC1_M1〜C12_M1の端子間電圧(セル電圧)を計測するために、13本の配線で各セルC1_M1〜C12_M1の両端子(正極端子、負極端子)と接続されている。
セル電圧センサユニットSU2は、セルモジュールM2を構成する各セルC1_M2〜C12_M2のセル電圧を計測するために、13本の配線で各セルC1_M2〜C12_M2の両端子と接続されている。
セル電圧センサユニットSU3は、セルモジュールM3を構成する各セルC1_M3〜C12_M3のセル電圧を計測するために、13本の配線で各セルC1_M3〜C12_M3の両端子と接続されている。
セル電圧センサユニットSU4は、セルモジュールM4を構成する各セルC1_M4〜C12_M4のセル電圧を計測するために、13本の配線で各セルC1_M4〜C12_M4の両端子と接続されている。
【0020】
セル電圧センサユニットSU1は、第1周期でセルモジュールM1を構成する各セルC1_M1〜C12_M1のセル電圧計測を行うと共に、第1周期よりも短い第2周期でセル電圧計測結果を分割してバッテリ制御ユニットMUへCAN送信する。ここで、CAN送信とは、CANプロトコルに規定されたデータフレームのデータフィールドにセル電圧計測結果(デジタルデータ)をセットすることで送信用のデータフレーム(以下、送信フレームと称す)を作成し、この送信フレームを差動電圧通信方式によって送信することを指す。
【0021】
上記の第1周期及び第2周期は、1セル当りのセル電圧計測結果のビット長に応じて適宜設定すれば良い。例えば、1セル当りのセル電圧計測結果のビット長を16ビットと仮定すると、CANプロトコルに規定されたデータフレームのデータフィールドにセットできる最大ビット長は64ビットであるので、1回のCAN送信で4セル分のセル電圧計測結果しか送信できない。そのため、1セル当りのセル電圧計測結果のビット長が16ビットの場合、12セル分のセル電圧計測結果を3回に分割して送信する必要がある。
【0022】
この場合、例えば第1周期を60ms、第2周期を20msとすると、セル電圧センサユニットSU1は、60ms周期でセルモジュールM1を構成する12個のセルC1_M1〜C12_M1のセル電圧を同時に計測する。なお、厳密には、セル電圧センサユニットSU1は、セルC1_M1から順番にセル電圧を計測(A/D変換)するため、12セル全てのセル電圧計測結果(16ビットデータ×12)を得るまでに100μs程度は必要である。なお、この12セル全てのセル電圧計測に要する時間としての100μsは、実用上、セル電圧計測タイミングの同時性を保証し得る値である。
【0023】
また、セル電圧センサユニットSU1は、上記のように60ms周期で取得した12セル分のセル電圧計測結果を、セルC1_M1〜セルC4_M1のセル電圧計測結果を含む第1グループと、セルC5_M1〜セルC8_M1のセル電圧計測結果を含む第2グループと、セルC9_M1〜セルC12_M1のセル電圧計測結果を含む第3グループとの3つのグループに分割し、20ms周期で各グループに属するセル電圧計測結果を順番にデータフレームにセットして送信する。この結果、60msの間に、12セル全てのセル電圧計測結果がバッテリ制御ユニットMUに送信されることになる。
なお、以下では説明の便宜上、上記のような機能を有するセル電圧センサユニットSU1をメインセンサユニットと言い換える。
【0024】
一方、セル電圧センサユニットSU2は、メインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの送信フレームの送信を監視し、初回の送信フレームの送信が確認された時点でセルモジュールM2を構成する各セルC1_M2〜C12_M2のセル電圧計測を行うと共に、第2周期でセル電圧計測結果を分割してバッテリ制御ユニットMUへCAN送信する。
【0025】
このセル電圧センサユニットSU2の第2周期は、メインセンサユニットSU1の第2周期と同じ値に設定される。つまり、第2周期を20msとすると、セル電圧センサユニットSU2は、メインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの初回の送信フレームの送信が確認された時点(初回の送信フレームの送信は60ms周期で確認される)で、セルモジュールM2を構成する12個のセルC1_M2〜C12_M2のセル電圧を同時に計測する。なお、厳密には、12セル全てのセル電圧計測結果を得るまでに100μs程度は必要であるが、セル電圧計測タイミングの同時性は保証される。
【0026】
また、セル電圧センサユニットSU2は、上記のように取得した12セル分のセル電圧計測結果を、セルC1_M2〜セルC4_M2のセル電圧計測結果を含む第1グループと、セルC5_M2〜セルC8_M2のセル電圧計測結果を含む第2グループと、セルC9_M2〜セルC12_M2のセル電圧計測結果を含む第3グループとの3つのグループに分割し、20ms周期で各グループに属するセル電圧計測結果を順番にデータフレームにセットして送信する。この結果、次に、メインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの初回の送信フレームの送信が確認されるまでの間、つまり、60msの間に、セルモジュールM2を構成する12セル全てのセル電圧計測結果がバッテリ制御ユニットMUに送信されることになる。
【0027】
さらに、セル電圧センサユニットSU2は、メインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの送信フレームの送信が一定期間確認されなかった場合に、タイマに基づく第3周期でセルモジュールM2を構成する各セルC1_M2〜C12_M2のセル電圧計測を行うと共に、第3周期より短い第4周期でセル電圧計測結果を分割してバッテリ制御ユニットMUへCAN送信する。本実施形態において、第3周期は第1周期(60ms)と同じ値に、第4周期は第2周期(20ms)と同じ値に設定されているが、異なる値にしても良い。
【0028】
同様に、セル電圧センサユニットSU3は、メインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの送信フレームの送信を監視し、初回の送信フレームの送信が確認された時点でセルモジュールM3を構成する各セルC1_M3〜C12_M3のセル電圧計測を行うと共に、第2周期でセル電圧計測結果を分割してバッテリ制御ユニットMUへCAN送信する。
【0029】
つまり、セル電圧センサユニットSU3は、メインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの初回の送信フレームの送信が確認された時点で、セルモジュールM3を構成する12個のセルC1_M3〜C12_M3のセル電圧を同時に計測する。なお、厳密には、12セル全てのセル電圧計測結果を得るまでに100μs程度は必要であるが、セル電圧計測タイミングの同時性は保証される。
【0030】
また、セル電圧センサユニットSU3は、上記のように取得した12セル分のセル電圧計測結果を、セルC1_M3〜セルC4_M3のセル電圧計測結果を含む第1グループと、セルC5_M3〜セルC8_M3のセル電圧計測結果を含む第2グループと、セルC9_M3〜セルC12_M3のセル電圧計測結果を含む第3グループとの3つのグループに分割し、20ms周期で各グループに属するセル電圧計測結果を順番にデータフレームにセットして送信する。この結果、次に、メインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの初回の送信フレームの送信が確認されるまでの間、つまり、60msの間に、セルモジュールM3を構成する12セル全てのセル電圧計測結果がバッテリ制御ユニットMUに送信されることになる。
【0031】
さらに、セル電圧センサユニットSU3は、メインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの送信フレームの送信が一定期間確認されなかった場合に、タイマに基づく第3周期でセルモジュールM3を構成する各セルC1_M3〜C12_M3のセル電圧計測を行うと共に、第3周期より短い第4周期でセル電圧計測結果を分割してバッテリ制御ユニットMUへCAN送信する。
【0032】
同様に、セル電圧センサユニットSU4は、メインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの送信フレームの送信を監視し、初回の送信フレームの送信が確認された時点でセルモジュールM4を構成する各セルC1_M4〜C12_M4のセル電圧計測を行うと共に、第2周期でセル電圧計測結果を分割してバッテリ制御ユニットMUへCAN送信する。
【0033】
つまり、セル電圧センサユニットSU4は、メインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの初回の送信フレームの送信が確認された時点で、セルモジュールM4を構成する12個のセルC1_M4〜C12_M4のセル電圧を同時に計測する。なお、厳密には、12セル全てのセル電圧計測結果を得るまでに100μs程度は必要であるが、セル電圧計測タイミングの同時性は保証される。
【0034】
また、セル電圧センサユニットSU4は、上記のように取得した12セル分のセル電圧計測結果を、セルC1_M4〜セルC4_M4のセル電圧計測結果を含む第1グループと、セルC5_M4〜セルC8_M4のセル電圧計測結果を含む第2グループと、セルC9_M4〜セルC12_M4のセル電圧計測結果を含む第3グループとの3つのグループに分割し、20ms周期で各グループに属するセル電圧計測結果を順番にデータフレームにセットして送信する。この結果、次に、メインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの初回の送信フレームの送信が確認されるまでの間、つまり、60msの間に、セルモジュールM4を構成する12セル全てのセル電圧計測結果がバッテリ制御ユニットMUに送信されることになる。
【0035】
さらに、セル電圧センサユニットSU4は、メインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの送信フレームの送信が一定期間確認されなかった場合に、タイマに基づく第3周期でセルモジュールM4を構成する各セルC1_M4〜C12_M4のセル電圧計測を行うと共に、第3周期より短い第4周期でセル電圧計測結果を分割してバッテリ制御ユニットMUへCAN送信する。
なお、以下では説明の便宜上、上記のような同じ機能を有するセル電圧センサユニットSU2〜SU4をサブセンサユニットと言い換える。
【0036】
このように構成された本バッテリ管理システムにおいて、バッテリ制御ユニットMUは本発明における「マスターユニット」に相当し、セル電圧センサユニットSU1〜SU4は「スレーブユニット」に相当する。また、メインセンサユニットSU1は「少なくとも1つのスレーブユニット」に相当し、サブセンサユニットSU2〜SU4は「他のスレーブユニット」に相当する。
【0037】
なお、メインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへ送信フレームが送信されると、通信バスBSにはその送信フレームに応じた差動電圧が発生するため、各サブセンサユニットSU2〜SU4も送信フレームを受信することができる。従って、各サブセンサユニットSU2〜SU4は、通信バスBSから取り込んだ差動電圧に基づいて、メインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの送信フレームの送信を監視する。
【0038】
また、周知のように、CANプロトコルに規定されたデータフレームには、通信調停の優先順位を決定付ける情報(「ID」)が含まれているため、各サブセンサユニットSU2〜SU4から同時にバッテリ制御ユニットMUへのCAN送信(送信フレームの送信)が行われた場合でも、優先順位の高いユニットの送信フレームから順番に送信されることになるため、データの衝突は発生しない。
【0039】
次に、上記のように構成された本バッテリ管理システムの通信動作について詳細に説明する。図2は、メインセンサユニットSU1の通信動作を表すフローチャートである。メインセンサユニットSU1は、60ms周期で図2(a)に示す60ms周期処理を実行する。この図2(a)に示すように、メインセンサユニットSU1は、60ms周期処理の開始と同時に20ms周期タイマをスタートさせる(ステップS1)。
【0040】
続いて、メインセンサユニットSU1は、セルモジュールM1を構成する各セルC1_M1〜C12_M1のセル電圧を計測(A/D変換)し、12セル分のセル電圧計測結果(16ビットデータ×12)を得る(ステップS2)。なお、上述したように、12セル全てのセル電圧計測結果を得るまでに100μs程度は必要であるが、セル電圧計測タイミングの同時性は保証される。そして、メインセンサユニットSU1は、処理回数カウンタaを「0」にリセットし(ステップS3)、図2(b)に示す20ms周期処理を起動する(ステップS4)。
【0041】
20ms周期処理の起動後、メインセンサユニットSU1は、図2(b)に示すように、処理回数カウンタaが「3」未満か否かを判定し(ステップS4a)、「No」の場合(a≧3の場合)には20ms周期処理を終了する。一方、メインセンサユニットSU1は、上記ステップS4aにおいて「Yes」の場合(a<3の場合)、12セル分のセル電圧計測結果からセルC(a×4+1)_M1〜セルC(a×4+4)_M1のセル電圧計測結果を含む第(a+1)グループを抽出する(ステップS4b)。
【0042】
ここで、初回の20ms周期処理の場合、処理回数カウンタa=0であるため、ステップS4bにおいて、12セル分のセル電圧計測結果からセルC1_M1〜セルC4_M1のセル電圧計測結果を含む第1グループ(64ビットデータ)が抽出される。
【0043】
続いて、メインセンサユニットSU1は、第(a+1)グループに属するセル電圧計測結果をデータフレームのデータフィールドにセットして送信フレームF(a+1)を作成し(ステップS4c)、当該作成した送信フレームF(a+1)をバッテリ制御ユニットMUにCAN送信する(ステップS4d)。ここで、例えば処理回数カウンタa=0の場合、送信フレームF(1)となるが、これは1回目に送信される送信フレームを意味する。
【0044】
そして、メインセンサユニットSU1は、処理回数カウンタaをインクリメントし(ステップS4e)、20ms周期タイマが20msの計時を終了するタイミング(次周期の20msの計時が開始されるタイミング)で上述した20ms周期処理を実行する(ステップS4f)。
【0045】
つまり、2回目に20ms周期処理が実行される場合、処理回数カウンタa=1になっているため、上記ステップS4bにおいて、12セル分のセル電圧計測結果からセルC5_M1〜セルC8_M1のセル電圧計測結果を含む第2グループが抽出され、上記ステップS4dにおいて、第2グループに属するセル電圧計測結果を含む送信フレームF(2)がバッテリ制御ユニットMUにCAN送信される。
【0046】
さらに、3回目に20ms周期処理が実行される場合、処理回数カウンタa=2になっているため、上記ステップS4bにおいて、12セル分のセル電圧計測結果からセルC9_M1〜セルC12_M1のセル電圧計測結果を含む第3グループが抽出され、上記ステップS4dにおいて、第3グループに属するセル電圧計測結果を含む送信フレームF(3)がバッテリ制御ユニットMUにCAN送信される。
【0047】
以上のようなメインセンサユニットSU1の通信動作によって、60ms周期でモジュールM1を構成する12セル分のセル電圧計測結果が得られると共に、その60msの間に、20ms周期で12セル全てのセル電圧計測結果が3分割されてバッテリ制御ユニットMUに送信されることになる。
【0048】
図3及び図4は、サブセンサユニットSU2〜SU4の通信動作を表すフローチャートである。なお、図3及び図4に示す通信動作は各サブセンサユニットSU2〜SU4で共通であるため、以下ではサブセンサユニットSU2を代表的に用いて説明する。
【0049】
上述したように、メインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへ送信フレームF(a+1)が送信されると、通信バスBSにはその送信フレームに応じた差動電圧が発生するため、サブセンサユニットSU2も送信フレームF(a+1)を受信することができる。従って、サブセンサユニットSU2は、通信バスBSから取り込んだ差動電圧に基づいて、図3に示すCAN受信監視処理を実行する。
【0050】
この図3に示すように、サブセンサユニットSU2は、通信バスBSから取り込んだ差動電圧に基づいて、メインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの送信フレームF(a+1)の送信が一定期間確認されなかった(差動電圧に一定期間変化がなかった)か否かを判定する(ステップS11)。
【0051】
サブセンサユニットSU2は、上記ステップS11において「Yes」の場合、60ms周期タイマをスタートさせ(ステップS12)、同時にメインセンサユニットSU1と同様の60ms周期処理を起動する(ステップS13)。つまり、サブセンサユニットSU2は、メインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの送信フレームF(a+1)の送信が一定期間確認されなかった場合、60ms周期でセルモジュールM2を構成する12セル分のセル電圧計測を行うと共に、20ms周期でセル電圧計測結果を分割してバッテリ制御ユニットMUへCAN送信する。
【0052】
これにより、メインセンサユニットSU1が故障してバッテリ制御ユニットMUへの送信フレームF(a+1)の送信が実施できなくとも、サブセンサユニットSU2はセルモジュールM2を構成する12セル分のセル電圧の計測及びバッテリ制御ユニットMUへのセル電圧計測結果の送信を継続して行うことができる。
【0053】
一方、上記ステップS11において「No」の場合、メインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの送信フレームF(a+1)の送信が一定期間内に確認された(送信フレームF(a+1)を受信した)場合、サブセンサユニットSU2は、送信フレームF(a+1)を受信したタイミングで、割込み処理として図4(a)に示すCAN受信割込み処理を実行する。
【0054】
この図4(a)に示すように、サブセンサユニットSU2は、送信フレームF(a+1)を受信してCAN受信割込み処理を開始すると、その受信した送信フレームF(a+1)のチェック処理を行い(ステップS21)、正常に受信したか否かを判定する(ステップS22)。
【0055】
サブセンサユニットSU2は、上記ステップS22において「Yes」の場合(正常受信の場合)、受信した送信フレームF(a+1)がメインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへ送信された初回(1回目)の送信フレームか否かを判定する(ステップS23)。
【0056】
サブセンサユニットSU2は、上記ステップS23において「Yes」の場合、つまりメインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの初回の送信フレームF(1)の送信が確認された場合、20ms周期タイマをスタートさせ(ステップS14)、セルモジュールM2を構成する各セルC1_M2〜C12_M2のセル電圧を計測し、12セル分のセル電圧計測結果を得る(ステップS25)。
【0057】
そして、サブセンサユニットSU2は、処理回数カウンタbを「0」にリセットし(ステップS26)、図4(b)に示す20ms周期処理を起動する(ステップS27)。なお、サブセンサユニットSU2は、上記ステップS22において「No」の場合(異常受信の場合)、予め規定された受信データエラー処理を実行する(ステップS28)。
【0058】
20ms周期処理の起動後、サブセンサユニットSU2は、図4(b)に示すように、処理回数カウンタbが「3」未満か否かを判定し(ステップS27a)、「No」の場合(b≧3の場合)には20ms周期処理を終了する。一方、サブセンサユニットSU2は、上記ステップS27aにおいて「Yes」の場合(b<3の場合)、12セル分のセル電圧計測結果からセルC(b×4+1)_M2〜セルC(b×4+4)_M2のセル電圧計測結果を含む第(b+1)グループを抽出する(ステップS27b)。
【0059】
ここで、初回の20ms周期処理の場合、処理回数カウンタb=0であるため、ステップS27bにおいて、12セル分のセル電圧計測結果からセルC1_M2〜セルC4_M2のセル電圧計測結果を含む第1グループ(64ビットデータ)が抽出される。続いて、サブセンサユニットSU2は、第(b+1)グループに属するセル電圧計測結果をデータフレームのデータフィールドにセットして送信フレームF(b+1)を作成し(ステップS27c)、当該作成した送信フレームF(b+1)をバッテリ制御ユニットMUにCAN送信する(ステップS27d)。
【0060】
そして、サブセンサユニットSU2は、処理回数カウンタbをインクリメントし(ステップS27e)、20ms周期タイマが20msの計時を終了するタイミング(次周期の20msの計時が開始されるタイミング)で上述した20ms周期処理を実行する(ステップS27f)。
【0061】
つまり、2回目に20ms周期処理が実行される場合、処理回数カウンタb=1になっているため、上記ステップS27bにおいて、12セル分のセル電圧計測結果からセルC5_M2〜セルC8_M2のセル電圧計測結果を含む第2グループが抽出され、上記ステップS27dにおいて、第2グループに属するセル電圧計測結果を含む送信フレームF(2)がバッテリ制御ユニットMUにCAN送信される。
【0062】
さらに、3回目に20ms周期処理が実行される場合、処理回数カウンタb=2になっているため、上記ステップS27bにおいて、12セル分のセル電圧計測結果からセルC9_M2〜セルC12_M2のセル電圧計測結果を含む第3グループが抽出され、上記ステップS27dにおいて、第3グループに属するセル電圧計測結果を含む送信フレームF(3)がバッテリ制御ユニットMUにCAN送信される。
【0063】
以上のようなサブセンサユニットSU2の通信動作によって、メインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの初回の送信フレームの送信が確認された時点でモジュールM2を構成する12セル分のセル電圧計測結果が得られると共に、次にメインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの初回の送信フレームの送信が確認されるまでの間に、20ms周期で12セル全てのセル電圧計測結果が3分割されてバッテリ制御ユニットMUに送信されることになる。
【0064】
また、メインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの初回の送信フレームの送信が確認されなかった場合、つまり、メインセンサユニットSU1が故障してバッテリ制御ユニットMUへの送信フレームF(a+1)の送信が実施できなかった場合でも、60ms周期でモジュールM2を構成する12セル分のセル電圧計測結果が得られると共に、20ms周期で12セル全てのセル電圧計測結果が3分割されてバッテリ制御ユニットMUに送信されることになる。
【0065】
サブセンサユニットSU3及びSU4もサブセンサユニットSU2と同じ通信動作を行うため、結果的に、メインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの初回の送信フレームの送信が確認された時点でモジュールM2〜M4を構成する36セル分のセル電圧計測結果が同時に得られると共に、次にメインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの初回の送信フレームの送信が確認されるまでの間に、20ms周期で36セル全てのセル電圧計測結果が3分割されてバッテリ制御ユニットMUに送信されることになる。
【0066】
また、メインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの初回の送信フレームの送信が確認されなかった場合でも、60ms周期でモジュールM2〜M4を構成する36セル分のセル電圧計測結果が得られると共に、20ms周期で36セル全てのセル電圧計測結果が3分割されてバッテリ制御ユニットMUに送信されることになる。
【0067】
以上のように、本実施形態によれば、メインセンサユニットSU1が故障してバッテリ制御ユニットMUへの送信フレームの送信を実施できなくても、他のサブセンサユニットSU2〜SU4は、それぞれ12セル分のセル電圧計測によって得られたセル電圧計測結果をバッテリ制御ユニットMUに送信できるため、故障発生時における通信の継続性を確保することが可能である。
【0068】
なお、本実施形態では、サブセンサユニットSU2〜SU4間のセル電圧計測タイミングにズレはない(同期している)が、メインセンサユニットSU1とサブセンサユニットSU2〜SU4との間ではセル電圧計測タイミングにズレが生じる。しかしながら、このズレは、実用上、許容できるレベルであるので、システム全体としてセル電圧センサユニットSU1〜SU4間のセル電圧計測タイミングは同期していると看做せる。
【0069】
また、本発明は上記実施形態に限定されず、以下のような変形例が挙げられる。
(1)上記実施形態では、セル電圧センサユニットSU1〜SU4のそれぞれが、12セル分のセル電圧計測結果を3分割してバッテリ制御ユニットMUに送信する場合を例示したが、1セルモジュール当りのセル数が少ない場合や、1セル当りのセル電圧計測結果のビット長が短い場合など、1セルモジュール分のセル電圧計測結果を1回でCAN送信できる場合には、わざわざ分割送信する必要はない。
【0070】
このように分割送信をしない場合、メインセンサユニットSU1は、一定周期でセルモジュールM1を構成する12セル分のセル電圧計測を行うと共に、そのセル電圧計測結果を含む送信フレームをバッテリ制御ユニットMUに送信する。一方、各サブセンサユニットSU2〜SU4は、メインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの送信フレームの送信が確認された時点でモジュールM2〜M4を構成する36セル分のセル電圧計測結果を取得し、それらのセル電圧計測結果を含む送信フレームをバッテリ制御ユニットMUに送信する。また、各サブセンサユニットSU2〜SU4は、メインセンサユニットSU1からバッテリ制御ユニットMUへの送信フレームの送信が一定期間確認されなかった場合、60ms周期でモジュールM2〜M4を構成する36セル分のセル電圧計測結果を取得し、それらのセル電圧計測結果を含む送信フレームをバッテリ制御ユニットMUに送信する。
【0071】
(2)上記実施形態では、本発明に係る通信システムとして、電気自動車やハイブリッド自動車などの車両に搭載されるバッテリの充放電を管理するバッテリ管理システムを例示して説明したが、本発明はこれに限らず、マスターユニットと複数のスレーブユニットで構成され、複数のスレーブユニットは所定処理の処理結果をマスターユニットに送信する通信システムに広く適用することができる。
【0072】
(3)上記実施形態では、4つのセル電圧センサユニットSU1〜SU4を備えるバッテリ管理システムを例示したが、セル電圧センサユニット(スレーブユニット)の個数はこれに限定されず、2個以上あれば良い。また、バッテリBTを構成するセルモジュールの数も4つに限定されず、セルモジュールを構成するセルの数も12個に限定されない。
【符号の説明】
【0073】
BT…バッテリ、MU…バッテリ制御ユニット(マスターユニット)、SU1〜SU4…セル電圧センサユニット(スレーブユニット)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスターユニットと複数のスレーブユニットで構成され、前記複数のスレーブユニットは所定処理の処理結果を前記マスターユニットに送信する通信システムにおいて、
少なくとも1つのスレーブユニットから前記マスターユニットへの前記処理結果の送信を他のスレーブユニットが監視し、前記他のスレーブユニットは、前記処理結果の送信が一定期間確認されなかった場合に、各々のタイマに基づいて前記所定処理によって得られた処理結果を前記マスターユニットに送信することを特徴とする通信システム。
【請求項2】
前記少なくとも1つのスレーブユニットは、第1周期で前記所定処理を行うと共に、前記第1周期より短い第2周期で前記所定処理の処理結果を分割して前記マスターユニットに送信し、
前記他のスレーブユニットは、前記少なくとも1つのスレーブユニットから前記マスターユニットへの前記処理結果の送信が一定期間確認されなかった場合に、各々のタイマに基づく第3周期で前記所定処理を行うと共に、前記第3周期より短い第4周期で前記所定処理の処理結果を分割して前記マスターユニットに送信することを特徴とする請求項1に記載の通信システム。
【請求項3】
前記マスターユニットと前記複数のスレーブユニットとは、CANバスを介して接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載の通信システム。
【請求項4】
前記マスターユニットは、バッテリの充放電を管理するバッテリ制御ユニットであり、
前記スレーブユニットは、前記バッテリを構成するセルの電圧計測を前記所定処理として行い、その電圧計測結果を前記処理結果として前記バッテリ制御ユニットに送信するセル電圧センサユニットであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−103839(P2012−103839A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250695(P2010−250695)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000141901)株式会社ケーヒン (1,140)
【Fターム(参考)】