説明

連続式熱処理炉

【課題】熱処理炉の水平方向に対する長さを伸ばすことなく、また、熱処理炉外での搬送速度を変更することなく、熱処理炉内での滞留時間を長くして比較的長時間の熱処理を大量に行うことを可能にする連続式熱処理炉を提供する。
【解決手段】板状被処理物を横にして炉1外から炉1内に順次、搬入する搬入部(搬入コンベア15)と、炉内に搬入された板状被処理物100を順次受け取って横にした状態で上下方向に多段に保持しつつ炉内で上方または下方に搬送する上下搬送路(炉内搬送手段5)と、上下搬送路によって搬送されつつ熱処理される板状被処理物100を搬送方向における上方位置または下方位置で順次受け取って前記処理室外に順次、搬出する搬出部(搬出コンベア16)とを備えることで炉長の長大化を招くことなく、長時間の熱処理を効率よく行うことを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、板状の被処理物を搬送しつつ連続的に熱処理する連続式熱処理炉に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池、導電性酸化物、高温超伝導材料などに代表される機能性酸化物薄膜の製造では、大気中もしくは制御雰囲気中での熱処理は必須であり、従来の熱処理装置に関しては様々なものが提案されてきている。その熱処理炉は方式によって一般にバッチ式と連続式の2種類に大別されるが、熱処理の対象製品を大量生産する場合は、一旦、雰囲気や温度を開放せずに連続して炉内に製品を搬入、搬出できる連続式の方が効率がよい。実際に連続式の熱処理炉(特許文献1参照)は実用化されており、自動車部品などの熱処理に用いられている。
【0003】
図5は、従来の一般的な連続式熱処理装置を示す正面断面図である。
該熱処理装置は、熱処理炉21を有しており、該熱処理炉21の内部にヒータ22が配置されている。熱処理炉21の長手方向両端には、搬入口23および図示しない搬出口が設けられている。該熱処理炉21内には、搬入口23および搬出口を通して熱処理炉21の外方両側に伸長する搬送コンベア24が設置されており、該搬送コンベア24によって被処理物25が搬送される。
熱処理炉21では、被処理物25が搬送コンベア24によって熱処理炉21の炉外から炉内へと搬入され、搬送コンベア24で搬送され搬送口から炉外へと搬出される。この際に熱処理炉21内はヒータ22により加熱され、炉内に入った被処理物25は搬送中に加熱されて熱処理が行われる。これにより、被処理物25を連続して熱処理することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−120894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記で説明した従来の連続式熱処理装置は、被処理物を搬送しつつ熱処理するので熱処理時間が比較的短時間なものに適しており、熱処理時間が長時間なものには不向きである。例えば、炉内での滞留時間を増やして熱処理時間を長くするためには、その分、熱処理炉の長さを伸ばさなければならず、装置が大型になってしまう。また、搬送速度を遅くすることで滞留時間を増やすことができるが、時間当たりに処理できる被処理物の量が少なくなってしまい処理効率が悪くなるという問題がある。
【0006】
本発明は上記事情を背景としてなされたものであり、熱処理炉の長さを格別に伸ばすことなく、比較的長時間の熱処理に際しても被処理物を大量に処理することが可能な連続式熱処理炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の連続式熱処理炉のうち、第1の本発明は、板状被処理物を横にして炉外から炉内に順次、搬入する搬入部と、
炉内に搬入された前記板状被処理物を順次受け取って横にした状態で上下方向に多段に保持しつつ前記炉内で上方または下方に搬送する上下搬送路と、
前記上下搬送路によって搬送されつつ熱処理される前記板状被処理物を搬送方向における上方位置または下方位置で順次受け取って前記処理室外に順次、搬出する搬出部とを備えることを特徴とする。
【0008】
第1の本発明によれば、炉内に順次搬入された板状被処理物は、横にした状態で上下方向に多段に保持されつつ上方または下方に搬送される。このとき、板状被処理物の高さは材料の幅に比べて十分に小さいので、水平方向へ搬送しつつ熱処理を行う横型連続式熱処理炉の場合に比べて、より多くの被処理物を搬送しつつ熱処理を行うことができ、熱処理炉を長くしたり、処理量を少なくすることなく熱処理時間を長くすることができる。なお、本発明では、上下方向の搬送時間を短くすることで熱処理時間を長くできるが、搬入、搬出の速度は従来と同程度にすることができる。
【0009】
第2の本発明の連続式熱処理炉は、前記第1の本発明において、前記上下搬送路は、搬送方向に回転するエンドレスベルトを有し、該エンドレスベルトに、周方向に間隔を置いて複数の被処理物保持部が設けられていることを特徴とする。
【0010】
第2の本発明によれば、上下搬送路はエンドレスベルトによって循環回転し、該エンドレスベルトに設けられた被処理物保持部で次々と搬送されて熱処理される。その結果、炉の大きさをよりコンパクトにすることができる。なお、被処理物保持部間の間隔は、本発明としては特に限定されるものではないが、熱処理や搬入、搬出に支障がない距離で、できるだけ小さなものにするのが望ましい。これにより、より多くの被処理物を同時に熱処理することができる。
【0011】
第3の本発明の連続式熱処理炉は、前記第1または第2の本発明において、複数の前記板状被処理物を並列配置して、前記板状被処理物とともに前記搬入、搬送および搬出が行われる被処理物配置台を有することを特徴とする。
【0012】
第3の本発明によれば、小さいサイズの板状被処理物を複数並列させて熱処理することができ、処理効率が向上する。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明の連続式熱処理炉によれば、板状被処理物を横にして炉外から炉内に順次、搬入する搬入部と、
炉内に搬入された前記板状被処理物を順次受け取って横にした状態で上下方向に多段に保持しつつ前記炉内で上方または下方に搬送する上下搬送路と、
前記上下搬送路によって搬送されつつ熱処理される前記板状被処理物を搬送方向における上方位置または下方位置で順次受け取って前記処理室外に順次、搬出する搬出部とを備えるので、熱処理炉の長さを伸ばすことなく、また、熱処理炉外での搬送速度を遅くすることなく、比較的長時間の熱処理を大量の板状被処理物を対象にして行うことを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態の連続式熱処理炉の概略を示す正面断面図である。
【図2】同じく、板状被処理物の受け渡し搬送を説明する平面図である。
【図3】同じく、板状被処理物の取出し搬送を説明する平面図である。
【図4】同じく、熱処理される被処理物の例を示す斜視図である。
【図5】従来の連続式熱処理装置の一部を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態1)
以下に、本発明の連続式熱処理炉の一実施形態を図1〜図3に基づいて説明する。
連続式熱処理炉1は、炉壁2の下方側に搬入口3、上方側に搬出口4が設けられており、それぞれが同じ側面側に設けられている。
搬入口3には、炉外から炉内に亘って被処理物を搬入する搬入用コンベア15が配置され、搬出口4には、炉内から炉外に亘って被処理物を搬出する搬出用コンベア16が配置されている。搬入用コンベア15および搬出用コンベア16は、搬出入される板状被処理物100の幅よりも小さな幅で構成されている。搬入用コンベア15は本発明の搬入部に相当し、搬出用コンベア16は本発明の搬出部に相当する。
この実施形態では板状被処理物100は、機能性酸化物薄膜が形成された基板により構成されている。ただし、本発明としては、板状被処理物の種別がこれに限定されるものではなく、種々の板状被処理物を対象にすることができる。また、板状であれば、そのサイズ、厚さも特に限定されるものではない。
【0016】
上記搬入用コンベア15の搬送先端側の炉内には、本発明の上下搬送路に相当する炉内搬送手段5が配置されている。該炉内搬送手段5は、上下垂直位置に配置された上部ローラ6と下部ローラ7とに架け渡すようにエンドレスベルト8が設けられており、下部ローラ7は搬入用コンベア15の高さ位置付近にあり、上部ローラ6は、搬出用コンベア16の高さ位置付近にある。なお、この実施形態では、エンドレスベルトが上下垂直位置にあるローラ間に架け渡されており、これによりエンドレスベルトが垂直方向に回転移動するが、本発明としては、垂直回転が必要とされるものではなく、板状被処理物を上下に搬送できるものであればよい。
【0017】
エンドレスベルト8は、一側方のベルト面が搬入用コンベア15の搬送先端側に面して位置しており、搬入用コンベア15に面したベルト面が上方に移動するように回転(図1示反時計方向)駆動される。
また、エンドレスベルト8のベルト面には、横方向に間隔を置いて保持用フォーク9a、9bが突出して設けられている。該保持用フォーク9a、9bは、搬送する被処理物の幅よりも間隔が小さく、かつ前記搬入用コンベア15の幅よりも間隔が大きくなっており、エンドレスベルト8の回転によって搬入用コンベア15の両側方を通過するように位置している。
該保持用フォーク9a、9bは、エンドレスベルト8の周方向に等間隔をおいて複数組み設けられている。
【0018】
また、炉内搬送手段5の上方側では、前記搬出用コンベア16の後方端が前記保持用フォーク9a、9bの回転域近傍に臨むように位置しており、前記搬入用コンベア15に面しているエンドレスベルト8の一側方が搬出用コンベア16の後方端に面している。
また、炉内搬送手段5の上方には、被処理物取り出し部10が配置されている。該被処理物取り出し部10は、前記エンドレスベルト8と同方向(図1示反時計回り)に回転する取出し用ベルト11を有している。該取出し用ベルト11面に外方に突き出す複数の被処理物押出板12が周方向に等間隔を置いて設けられている。該被処理物押出板12は、前記保持用フォーク9a、9b間の距離よりも小さい幅を有しており、該保持用フォーク9a、9bと干渉することなく回転することができる。被処理物押出板12は、保持用フォーク9a、9bに保持されて搬送されている板状被処理物100を後方側から搬出用コンベア16側に押し出して保持用フォーク9a、9bから搬出用コンベア16に受け渡すものである。
【0019】
次に、上記連続式熱処理炉1の動作について説明する。
板状被処理物100は横にした状態(この実施形態では水平状態)で搬入用コンベア15に載置されて、順次炉外から連続式熱処理炉1内へと搬入される。このとき、前記説明および図2(a)に示すように、搬入用コンベア15の幅は板状被処理物100の幅より狭くなっており、板状被処理物100の両側面が幅方向にはみ出た状態で搬入用コンベア15上を搬送される。炉内に搬入された板状被処理物100は、搬入用コンベア15の先端側で、エンドレスベルト8によって回転する保持用フォーク9a、9bで下面両側を支持され、そのままの姿勢で受け渡し搬送され、エンドレスベルト8の回転に伴って上方側に搬送される。
各保持用フォーク9a、9bは、周方向において各組みが板状被処理物100の厚さを越え、かつ各板状被処理物の熱処理に支障のない間隙で設けられている。該間隙は、搬入用コンベア15における搬入間隔よりも相当小さい間隔になっており、エンドレスベルト8の回転速度を相当に遅くしても、搬入用コンベアの搬送ピッチを遅くすることなく処理することができる。
板状被処理物100は、保持用フォーク9a、9bで保持されつつエンドレスベルト8でゆっくりと上昇することで長い時間をかけて良好な熱処理を行うことができる。
【0020】
保持用フォーク9a、9bで保持された板状被処理物100は、炉内搬送手段5の上端側まで搬送されると、被処理物取り出し部10によって搬出用コンベア16に受け渡される。すなわち、被処理物取り出し部10では、取出し用ベルト11が図示反時計回りに回転しており、取出し用ベルト11に突設された被処理物押出板12は取出し用ベルト11の下面側で搬出用コンベア16側に移動して、上昇してくる板状被処理物100の後方面側から該板状被処理物100を前方に押し出して搬出用コンベア16上に取り出し搬送する。搬出用コンベア16上に移動した板状被処理物100は、該搬出用コンベア16によって板状被処理物100が搬入された側と同じ側の炉外に搬出される。
なお、上記実施形態では、板状被処理物を搬入した側と同じ側に熱処理した板状被処理物を搬出するものとして説明したが、搬入側と反対の側などに搬出するものであってもよい。
また、上記実施形態では、熱処理炉の下方側から板状被処理物を搬入し、熱処理炉の上方側から搬出するものとして説明したが、これと逆に熱処理炉の上方側から板状被処理物を搬入し、板状被処理物を上下搬送路で下方に搬送して熱処理炉の下方側から搬出するものとしてもよい。さらには、熱処理炉の下方側または上方側から板状被処理物を搬入し、上下両方向に搬送し、搬入と同じ側である下方側または上方側から搬出するものとしてもよい。
また、上下搬送路は、上記構成の炉内搬送手段に限定されるものではなく、板状被処理物を横にした状態で上下方向に多段に保持しつつ前記炉内で上方または下方に搬送できるものであればよい。
【0021】
次に、上記実施形態では、図4(a)に示すように、板状被処理物100を一枚ずつ搬送するものとして説明したが、複数の板状被処理物を一度に搬送しつつ処理することも可能である。この場合には、図4(b)に示すように耐熱性の被処理物トレイ120上に複数の板状被処理物110を載置し、被処理物トレイ120ごと複数の板状被処理物を搬送して熱処理することができる。被処理物トレイ120は本発明の被処理物配置台に相当する。
【0022】
以上、本発明について上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明は上記説明の内容に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りは適宜の変更が可能である。
【実施例1】
【0023】
図1に示す連続式熱処理炉を用いて以下の条件で熱処理を行った。
a)板状被処理物材料サイズ:幅500mm×長さ500mm×厚さ1mm
b)熱処理条件:大気中 500℃/2時間(昇温時間含む)
c)搬入用コンベアの移動速度:510mm/分
d)搬入時の材料の間隔:10mmとし、1分おきに炉内へ搬入
e)炉内搬送手段の上昇移動速度:10mm/分
f)炉内搬送手段の保持用フォーク間上下距離:10mm
【0024】
上記条件で板状被処理物の搬送及び熱処理を行う場合、炉内搬送手段の高さは、およそ、10mm/分×120分=1.2mとなり、炉内では、2時間の熱処理において1時間あたり60個の材料を熱処理することが可能であった。
【0025】
(比較例1)
図5に示す、従来の横型連続式熱処理炉を用いて以下の条件で熱処理を行った。
a)材料サイズ:幅500mm×長さ500mm×厚さ1mm
b)熱処理条件:大気中 500℃/2時間(昇温時間含む)
c)搬送コンベアの移動速度:510mm/分
d)炉内へ搬入する際の材料の間隔:10mmとし、1分おきに炉内へ搬入
【0026】
この熱処理炉において、上記本発明例と同じ処理能力(1時間あたり60個の材料を熱処理)を得るために、炉の長さを、510mm/分×120分=61.2mとすることが必要であり、炉の全長が非常に長くなり製造コストが高価になる。
【0027】
(比較例2)
図5に示す、従来の横型連続式熱処理炉を用いて以下の条件で熱処理を行った。
a)材料サイズ:幅500mm×長さ500mm×厚さ1mm
b)熱処理条件:大気中 500℃/2時間(昇温時間含む)
c)搬送コンベアの移動速度:110mm/分
d)炉内へ搬入する際の材料の間隔:10mmとし、1分おきに炉内へ搬入
【0028】
このとき、横型連続式熱処理炉の長さを、110mm/分×120分=13.2mとすることで上記した熱処理時間を確保することができ、炉の長さも比較例1よりも短くなるものの、熱処理能力は1時間あたり13個となり、処理能力が大幅に劣っている。
【符号の説明】
【0029】
1 連続式熱処理炉
5 炉内搬送手段
8 エンドレスベルト
9a 保持用フォーク
9b 保持用フォーク
10 被処理物取り出し部
11 取出し用ベルト
12 被処理物押出板
15 搬入用コンベア
16 搬出用コンベア
100 板状被処理物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状被処理物を横にして炉外から炉内に順次、搬入する搬入部と、
炉内に搬入された前記板状被処理物を順次受け取って横にした状態で上下方向に多段に保持しつつ前記炉内で上方または下方に搬送する上下搬送路と、
前記上下搬送路によって搬送されつつ熱処理される前記板状被処理物を搬送方向における上方位置または下方位置で順次受け取って前記処理室外に順次、搬出する搬出部とを備えることを特徴とする連続式熱処理炉。
【請求項2】
前記上下搬送路は、搬送方向に回転するエンドレスベルトを有し、該エンドレスベルトに、周方向に間隔を置いて複数の被処理物保持部が設けられていることを特徴とする請求項1記載の連続式熱処理炉。
【請求項3】
複数の前記板状被処理物を並列配置して、前記板状被処理物とともに前記搬入、搬送および搬出が行われる被処理物配置台を有することを特徴とする請求項1または2に記載の連続式熱処理炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−78005(P2012−78005A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223536(P2010−223536)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】