説明

連続発酵による化学品の製造方法

【課題】 高い物質生産性を維持する連続発酵法による化学品の製造方法を提供する。
【解決手段】 発酵原料、化学品、微生物もしくは培養細胞を含む培養液を、分離膜で濾過し、濾液から化学品を回収し、さらに、未濾過液を培養液に保持または還流し、かつ、発酵原料を培養液に追加する連続発酵において、分離膜として、平均細孔径が0.02μm以上0.2μm以下、50kPa、25℃における純水透過性能が0.10m/m2・hr 以上2m/m2・hr以下、破断強度が6MPa以上、破断伸度が50%以上である多孔性中空糸膜を使用することを特徴とする連続発酵による化学品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続発酵による化学品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微生物や培養細胞の培養を伴う物質生産方法である発酵法は、大きく(1)回分発酵法(Batch発酵法)および流加発酵法(Fed-Batch or Semi-Batch発酵法)と(2)連続発酵法(Continuous発酵法)に分類することができる。回分および流加発酵法は、設備的には簡素であり、短時間で培養が終了し、純菌培養による生産物発酵の場合、培養に必要とした培養菌以外の雑菌による汚染が起きる可能性が低いというメリットがある。しかし、時間経過とともに培養液中の生産物濃度が高くなり、生産物阻害や浸透圧の上昇などの影響により生産性および収率が低下している。このため、長時間にわたり安定して高収率かつ高生産性を維持するのが困難である。
【0003】
連続発酵法は、発酵槽内で目的物質が蓄積するのを回避する事により、上述の回分および流加発酵法と比べ長時間にわたって高収率かつ高生産性を維持できる。従来の連続培養は、発酵槽へ新鮮培地を一定速度で供給し、これと同量の培養液を槽外へ排出することによって、発酵槽内の液量を常に一定に保つ培養法である。回分培養では初発基質濃度が消費されると培養が終了するが、連続培養では理論的には無限に培養を持続できる。すなわち、理論的には無限に発酵できる。
【0004】
しかし、従来の連続培養では培養液とともに微生物も槽外に排出され、発酵槽内の微生物濃度を高く維持することは難しい。そこで、発酵生産を行う場合には発酵を行う微生物を高濃度に保つことができれば、発酵容積当たりの発酵生産効率を向上させることができる。そのためには、微生物を発酵槽内に保持、あるいは還流させる必要がある。
【0005】
微生物を発酵槽内に保持あるいは還流させる方法としては、排出された培養液を重力、例えば遠心分離により固液分離し、沈殿物である微生物を発酵槽に返送する方法、ろ過することで固形分である微生物を分離し、培養液上清のみを槽外に排出する方法があげられる。しかし、遠心分離による方法は動力コストが高く現実的ではない。ろ過による方法は、前述のようにろ過するために高い圧力要することから、実験室レベルでの検討がほとんどであった。その一例として、L一グルタミン酸やL一リジンの発酵について連続培養法が開示されている(非特許文献1)。しかし、これらの例では、連続発酵は行なっているものの、培養液へ原料の連続的な供給を行うとともに、微生物や培養細胞を含んだ培養液も抜き出すために、培養液中の微生物や培養細胞が引き抜きおよび希釈され、発酵槽中の微生物濃度が低下することから、生産効率の向上は限定されたものであった。
【0006】
そこで、連続発酵法において、微生物や培養細胞を分離膜で分離・濾過し、濾液から生産物を回収すると同時に分離された微生物や培養細胞を培養液に保持または還流させることで、培養液中の微生物や細胞濃度を高く維持する方法が提案されている。例えば、セラミックス膜を用いた連続発酵装置において、膜分離連続発酵に関する技術が開示されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。これらの技術は、既存の連続発酵と比べ、膜分離による微生物および培養細胞濃度を高く維持するという、膜分離連続発酵の優位性を示したものの、しかし、開示された技術は、セラミックス膜の目詰りによる濾過流量や濾過効率の低下などの問題があり、詰まり防止のために、逆洗浄等を行っている。
【0007】
一方、近年では、分離膜を用いたコハク酸の製造方法も開示されている(特許文献4)。この技術では、上述のセラミック膜だけではなく有機膜の使用も採用され、連続発酵技術に適用可能な膜の範囲および種類を広げている。しかし、開示された技術では、膜分離において、高い濾過圧(約200kPa)や高速の膜面線速度(2m/s)が採用されている。高い濾過圧および高速の膜面線速度は、コスト的にも不利であるばかりでなく、濾過処理において微生物や培養細胞が高圧・高速によって物理的なダメージをうけること、さらに、圧力損失が起きやすい状況になり運転条件を維持することが難しくなることにより、微生物や培養細胞を連続的に培養液に戻す連続発酵法においては適切ではない。
【0008】
一方、分離膜は、上述したよう発酵分野への適用を含め、飲料水製造、浄水処理、排水処理などの水処理分野、食品工業分野等様々な方面で利用されている。飲料水製造、浄水処理、排水処理などの水処理分野においては、分離膜が従来の砂ろ過、凝集沈殿過程の代替として水中の不純物を除去するために用いられている。浄水処理や排水処理などの水処理分野においては、処理水量が大きいため、透水性能の向上が求められ、透水性能が優れている分離膜で膜面積を減らし、装置をコンパクト化する等によって設備費・膜交換費および設置面積の低減を試みている。このようなコストダウンの観点から、体積に対して濾過面積が広い中空糸膜が注目されている。しかし、中空糸濾過膜の場合、濾過面積を広くするためには糸の径を小さくする必要があり、糸の径が小さくなると強度が低下し中空糸膜糸が切れ、漏れが発生する問題があるため、優れた分離特性の上、物理的強度および透過性能が求められた。そこで、分離特性、透過性能および物理的強度を併せ有するポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いた分離膜が使用されるようになってきた。
【0009】
しかしながら、ポリフッ化ビニリデン系樹脂膜は、膜面が疎水性相互作用により汚染されやすいという欠点があった。特に、医薬品製造工程においてタンパク質等の生理活性物質の分離・精製等に使用された場合、膜面への吸着・変性が起き、膜孔の閉塞による濾過速度の急激な低下を引き起こす問題があった。そこで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂膜を親水化して、耐汚れ性を改善することが考えられた。
【0010】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂膜を親水化に対しては、例えば、特許文献5に記載の技術では、ポリエチレンイミンポリマー類を化学反応により導入し、疎水性樹脂膜を親水化している。しかし、導入した親水性高分子は荷電基を有するため、荷電を有する物質、特に両性電解質であるタンパク質や表流水中に存在するフミン質などを含む溶液に対してむしろ逆効果であった。
【0011】
また、ポリフッ化ビニリデン系樹脂と混和するポリ酢酸ビニルや酢酸セルロースに注目した方法も開示されている。特許文献6には、ポリ酢酸ビニルとポリフッ化ビニリデン系樹脂とをブレンドして膜を作製することが開示されている。しかし、親水性が発現される程度までポリ酢酸ビニルをブレンドした場合、酸、アルカリ、塩素等による薬液洗浄が行われると、物理的強度が低下してしまう恐れがあった。さらに、物理的強度を向上させるために膜を厚くすると、透水性能が低くなってしまう問題点があった。
【0012】
このため、ポリ酢酸ビニルの親水性を高める方法が開示されている。特許文献7には、まずポリ酢酸ビニルとポリフッ化ビニリデン系樹脂とをブレンドして膜を作製し、該膜中のポリ酢酸ビニルをアルカリ条件でけん化してポリビニルアルコールとしている。しかし、このようにして得られたポリビニルアルコールとポリフッ化ビニリデン系樹脂とのブレンド膜は、ポリビニルアルコールは親水性か強く、水溶性であるため、水系で使用すると徐々に溶解し、さらに、ポリビニルアルコールの溶解性は水温の上昇とともに大きくなるため、培養発酵液への適用は望ましくない。
【0013】
一方で、膜表面を平滑にし、さらに表面細孔を巧みに制御して耐汚れ性を付与した膜が特許文献8に記載されている。この膜は、物理的強度に優れた内層部の上に、分離機能を有する表層部を被覆してなる複合膜である。ごの膜の内層部や表層部は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂のみからなるので、薬液洗浄を行っても物理的強度は低下しない。しかし、ポリフッ化ビニリデン系樹脂が疎水性であるために、表流水中のフミン質などが吸着して濾過抵抗が上昇し、長期間安定して運転することが困難であった。
【0014】
このように、従来の膜分離連続発酵法には、適用した膜、発酵方式および濾過運転の方法に様々な問題があり、産業的応用が難しかった。すなわち、連続発酵法においては、微生物や培養細胞を分離膜で濾過し、濾液から生産物を回収すると同時に濾過された微生物や細胞を培養液に還流させ、培養液中の微生物や細胞濃度を向上させ、かっ、高く維持させることで高い物質生産性を得ることは、依然として困難であり、最適な膜の使用が技術の革新に大きく関わっている。既存水処理技術に求められた分離膜の性能は、設備コストを下げるため孔径が広く、純水透過性が高い分離膜を使用している。しかし、分離膜を用いた連続発酵では、上述の目的で開発された孔径が大きく純水透水性が高い分離膜を適用すると、タンパク質、発酵残留培地および発酵副産物により濾過運転が困難である。すなわち、膜分離発酵装置ではタンパク質、発酵残留培地および発酵副産物の付着が難しい低ファウリング性を持ち、かつ、発酵産物の透過性が高い分離膜の使用がが望まれている。
【特許文献1】:特開平5-95778号公報
【特許文献2】:特開昭62-138184号公報
【特許文献3】:特開平10-174594号公報
【特許文献4】:特開2005333886号公報
【特許文献5】:特開昭57-174104号公報
【特許文献6】:特開昭61-257203号公報
【特許文献7】:特開平2-78425号公報
【特許文献8】:国際公開第03/106545号パンフレット
【非特許文献1】:Toshihiko Hirao et.al.(ヒラノ・トシヒコら)、App1.Microbio1.Biotechnol.(アプライドマイクロバイアルアンドマイクロバイオロジー),32,269-273(1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、簡便な操作方法で、長時間にわたり安定して高生産性を維持する連続発酵法による化学品の製造方法を提供することにある。具体的に本発明の目的は、連続発酵法において、発酵液から微生物や培養細胞と発酵産物を最適に分離可能な分離膜を使用しで濾過し、濾液から生産物を回収すると同時に濾過された微生物や細胞を発酵培養液に還流させ、培養液中の微生物や細胞濃度を向上させ、かつ、高く維持させることで高い物質生産性を維持する連続発酵法による化学品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明は、下記(1)〜(7)の構成によって達成される。
【0017】
(1)発酵原料、化学品、微生物もしくは培養細胞を含む培養液を、分離膜で濾過し、濾液から化学品を回収し、さらに、未濾過液を培養液に保持または還流し、かつ、発酵原料を培養液に追加する連続発酵において、分離膜として、平均細孔径が0.02μm以上0.2μm以下、50kPa、25℃における純水透過性能が0.10m/m2・hr以上2m/m2・hr以下、破断強度が6MPa以上、破断伸度が50%以上である多孔性中空糸膜を使用することを特徴とする連続発酵による化学品の製造方法。
【0018】
(2)前記多孔性中空糸膜が、三次元網目構造および球状構造を有するフッ素樹脂系高分子分離膜であって、前記三次元網目構造がセルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも1種の親水性高分子を含有してなる(1)に記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【0019】
(3)前記親水性高分子が主にセルロースエステルおよび/または脂肪酸ビニルエステルである(2)に記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【0020】
(4)前記球状構造の平均直径が0.1μm以上5μm以下である(2)または(3)に記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【0021】
(5)最表層に三次元網目構造を有してなる(2)〜(4)のいずれかに記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【0022】
(6)前記発酵原料が、糖類を含む(1)〜(5)のいずれかに記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【0023】
(7)化学品が、有機酸またはアルコールまたは核酸である(1)〜(6)のいずれかに記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、球状構造を持つ上述の多孔性中空糸膜を使用することで、長時間にわたり安定して高生産性を維持する連続発酵が可能となり、広く発酵工業において、発酵生産物である化学品を低コストで安定に生産することが可能となる。
【0025】
球状構造は、膜全体の物理的強度が担われ、三次元網目構造中の該親水性高分子によって、表流水中のフミン質に代表される汚れ物質の吸着が抑制される。さらに、球状構造によって物理的強度が付与されているため、三次元網目構造を従来技術に記載された膜よりも薄くすることが可能となり、透水性能を高くすることができる。従って、得られた膜は、分離特性、透水性能、物理的強度、耐汚れ性、化学的強度(耐薬品性)の諸性能を従来膜より高い。この膜を用いることにより、濾過寿命が長くなり、コストの低減が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は、微生物もしくは培養細胞の培養液を、分離膜で濾過し、濾液から生産物を回収し、さらに、未濾過液を培養液に保持または還流し、かつ、発酵原料を培養液に追加する連続発酵において、分離膜として、平均細孔径が0.02μm以上0.2μm以下の細孔であり、50kPa、25℃における純水透過性能が0.10m/m2・hr以上2m/m2・hr以下であり、破断強度6MPa以上であり、破断伸度50%以上である多孔性中空糸膜を使用することを特徴とする連続発酵による化学品の製造方法である。
【0027】
本発明においての分離膜は、フッ素樹脂系高分子分離膜であり、三次元網目構造と球状構造の両方を有し、三次元網目構造中にセルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも1種を有する親水性高分子を含有させることが特徴である。ここで、三次元網目構造とは図1の表面ないし図2に示すように、固形分が三次元的に網目状に広がっている構造をいう。三次元網目構造は、網を形成する固形分に仕切られた細孔およびボイドを有する。
【0028】
また、ここで、球状構造とは、多数の球状もしくは略球状の固形分が、直接もしくは筋状の固形分を介して連結している構造のことをいう。
【0029】
また、球状構造層と三次元網目構造層の両方を有していれば特に限定されないが、球状構造層と三次元網目構造層とが積層されたものであることが好ましい。一般に層を多段に重ねると、各層の界面では層同士が互いに入り込むために緻密になり、透過性能が低下する。層同士が互いに入り込まない場合は、透過性能は低下しないが、界面の剥離強度が低下する。従って、各層の界面の剥離強度と透過性能を考慮すると、球状構造層と三次元網目構造層の積層数は少ない方が好ましく、球状構造層1層と三次元網目構造層1層の合計2層からなるようにすることが特に好ましい。また、球状構造層と三次元網目構造層以外の層、例えば多孔質基材などの支持体層を含んでいても良い。多孔質基材としては、有機材料、無機材料等、特に限定されないが、軽量化しやすい点から有機繊維が好ましい。さらに好ましくは、セルロース系繊維、酢酸セルロース系繊維、ポリエステル系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリエチレン系繊維などの有機繊維からなる織布や不織布である。
【0030】
三次元網目構造層と球状構造層の上下や内外の配置は、ろ過方式によって変えることができるが、三次元網目構造層が分離機能を担い、球状構造層が物理的強度を担うため、三次元網目構造層を分離対象側に配置することが好ましい。特に、汚れ物質の付着による透過性能の低下を抑制するためには、分離機能を担う三次元網目構造層を分離対象側の最表層に配置することが好ましい。
【0031】
三次元網目構造層と球状構造層の各厚みは、培養液の濾過に最適な耐汚れ性の各性能、分離特性、透水性能、物理的強度、化学的強度(耐薬品性)を考慮すべきである。三次元網目構造層が薄いと対汚れ性、分離特性および物理的強度が低く、厚いと透水性能が低くなる。従って、上述した各性能のバランスを考慮すると、三次元網目構造層の厚みは5μm以上50μm以下、より好ましくは10μm以上40μm以下が良く、球状構造層の厚みは100μm以上500μm以下、より好ましくは150μm以上300μm以下が良い。さらに、三次元網目構造層と球状構造層の厚みの比も上述した各性能にとって重要であり、三次元網目構造層の割合が大きくなると物理的強度が低下する。従って、三次元網目構造層の平均厚みの球状構造層の平均厚みに対する比は、0.03以上0.25以下が良く、より好ましくは0.05以上0.15以下が良い。
【0032】
なお、球状構造と三次元網目構造の界面は、両者が互いに入り組んだ構造をしている。本発明における球状構造層とは、高分子分離膜の断面を走査型電子顕微鏡を用いて3000倍で写真撮影した際に、球状構造が観察される範囲の層をいう。また、本発明における三次元網目構造層とは、高分子分離膜の断面を走査型電子顕微鏡を用いて3000倍で写真撮影した際に、球状構造が観察されない範囲の層をいう。
【0033】
また、球状構造の平均直径が大きくなると、空隙率が高くなり透水性が増大するが、物理的強度が低下する。一方、平均直径が小さくなると、空隙率が低くなり、物理的強度が増大するが、透水性が低下する。従って、球状構造の平均直径は0.1μm以上5μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以上4μm以下である。球状構造の平均直径は、高分子分離膜の断面を走査型電子顕微鏡を用いて10000倍で写真撮影し、10個以上、好ましくは20個以上の任意の球状構造の直径を測定し、数平均して求める。画像処理装置等を用いて、球状構造の直径の平均値を求め、等価円直径の平均孔径とすることも好ましく採用できる。
【0034】
三次元網目構造が分離対象側の最表層にある場合、最表層の表面をこの層の真上から観察すると、細孔が観察される。この三次元網目構造の表面の平均孔径の好ましい値は、微生物もしくは培養細胞が生産する化学品以外の物質、例えば、タンパク質、多糖類などの凝集しやすい物質や培養液中の微生物もしくは培養細胞の一部が死滅することで発生する細胞の破砕物によって多孔性中空糸膜の閉塞することから回避し、高い阻止性能と高い透水性能を両立するためには、三次元網目構造の表面の平均孔径は、0.02〜0.2μmの範囲が好ましく、0.02〜0.04μmの範囲がより好ましい。
【0035】
表面の平均孔径がこの範囲にあると、水中の汚れ物質が細孔に詰まりにくく、透水性能の低下が起こりにくいため、高分子分離膜をより長期間連続して使用することができる。また、詰まった場合でも、いわゆる逆洗や空洗によって汚れを除去することができる。ここで、汚れ物質とは、微生物やその死骸、発酵しきれなかった残存培地、発酵の副産物、発酵および培養によって発生したタンパク質などを挙げることができる。逆洗とは、通常のろ過と逆方向に透過水などを通す操作であり、空洗とは、空気を送って中空糸膜を揺らし膜表面に堆積した汚れ物質を除去する操作である。
【0036】
三次元網目構造の表面の平均孔径は、三次元網目構造の表面を、走査型電子顕微鏡を用いて60000倍で写真撮影し、10個以上、好ましくは20個以上の任意に選択した細孔の直径を測定し、数平均して求める。細孔が円状でない場合、画像処理装置等によって、細孔が有する面積と等しい面積を有する円(等価円)を求め、等価円直径を細孔の直径とする方法により求められる。
【0037】
本発明における高分子分離膜は、50kPa、25℃における純水透過性能が0.10m3/m2・hr以上2m3/m2・hr以下、破断強度力、6MPa以上、かつ、破断伸度が50%以上であることが好ましい。また、0.843μm径粒子の阻止率が90%以上であることが好ましい。純水透過性能は、より好ましくは0.30m3/m2・hr・50kPa・25℃以上1.5m3/m2・hr・50kPa・25℃以下である。破断強度は、より好ましくは7MPa以上である。破断伸度は、より好ましくは70%以上である。また、0.843μm径粒子の阻止率は、より好ましくは95%以上である。以上の条件を満たすことで、微生物および培養細胞の培養液濾過膜用途に十分な強度、透水性能を有する高分子分離膜である。
【0038】
純水透過性能と0.843μm径粒子の阻止率の測定は、中空糸膜4本からなる長さ200mmのミニチュアモジュールを作製して行った。温度25℃、ろ過差圧16kPaの条件下に、逆浸透膜ろ過水の外圧全ろ過を10分間行い、透過量(m3)を求めた。その透過量(m3)を単位時間(h)および有効膜面積(m2)あたりの値に換算し、さらに(50/16)倍することにより、圧力50kPaにおける値に換算することで純水透過性能を求めた。また、温度25℃、ろ過差圧16kPaの条件下に、平均粒径0.843μmのポリスチレンラテックス粒子(Seradyn社製)を分散させた逆浸透膜ろ過水の外圧全ろ過を10分間行った。原水中およびろ過水中のラテックス粒子の濃度を波長240nmの紫外吸光係数を測定して求め、それらの濃度比から阻止率を求めることができる。純水透過性能は、ポンプ等で加圧や吸引して得た値を換算して求めても良い。水温についても評価液体の粘性で換算しても良い。純水透過性能が0.10m3/m2・hr・50kPa・25℃未満の場合には、透水性能が低すぎ、連続発酵用分離膜として実用的でない。また、逆に純水透過性能が2m3/m2・hr・50kPa・25℃を超える場合には、分離膜の孔径が大きすぎて、発酵不純物の阻止性能が低くなり好ましくない。また、不純物の阻止性能については、0.843μmのポリスチレンラテックス粒子の阻止率を参考にすることができ、その阻止率が90%に満たない場合、不純物の阻止性能が低くなり好ましくない。
【0039】
破断強度と破断伸度の測定方法は、特に限定されるものではないが、例えば、引っ張り試験機を用い、測定長さ50mmの試料を引っ張り速度50mm/分で引っ張り試験を、試料を変えて5回以上行い、破断強度の平均値と破断伸度の平均値を求めることで測定することができる。破断強度6MPa未満、または破断伸度50%未満の場合には、高分子分離膜を扱う際のハンドリング性が悪くなり、かつ、ろ過時における膜の破断、糸切れおよび圧壊が生じやすくなるので好ましくない。一般に、破断強度や破断伸度が大きくなると、透過性能が低下する。従って、高分子分離膜の破断強度や破断伸度は、上述したハンドリング性とろ過時における物理的耐久性が達成される範囲であれば良く、透過性能とのバランスによって決定される。
【0040】
三次元網目構造と球状構造の両方を有するフッ素樹脂系高分子分離膜において、前記三次元網目構造がセルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも1種を有する親水性高分子を含有してなることを特徴とするが、本発明におけるフッ素樹脂系高分子とは、フッ化ビニリデンホモポリマーおよび/またはフッ化ビニリデン共重合体を含有する樹脂のことである。複数の種類のフッ化ビニリデン共重合体を含有していても良い。フッ化ビニリデン共重合体としては、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレンから選ばれる少なくとも1種とフッ化ビニリデンとの共重合体か挙げられる。
【0041】
また、フッ素樹脂系高分子の重量平均分子量は、要求される高分子分離膜の強度と透水性能によって適宜選択すれば良いが、重量平均分子量が大きくなると透水性能が低下し、重量平均分子量が小さくなると強度が低下する。このため、重量平均分子量は5万以上100万以下が好ましい。特に、運転により発酵液の濾過を行ない、分離膜に付着する汚れ物質を薬液洗浄によって除去し、再度発酵液の濾過を行なう必要がある場合、重量平均分子量は10万以上70万以下が好ましく、薬液洗浄を複数回行なう場合、さらに15万以上60万以下が好ましい。
【0042】
また、本発明におけるセルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン
、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも1種を有する親水
性高分子とは、主鎖および/または側鎖に分子ユニットとしてセルロースエステル、脂肪
酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドから
選ばれる少なくとも1種を有する(ここで、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドの場合は、それらをモノマーに用いて誘導される分子ユニットを有することを意味する)ものであれば特に限定されず、これら以外の分子ユニットが存在しても良い。セルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド以外の分子ユニットを構成するモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレンなどのアルケン、アセチレンなどのアルキン、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、メチルメタクリレート、メチルアタリレートなどが挙げられる。該親水性高分子は、フッ素樹脂系高分子とともに三次元網目構造を形成するために用いるので、フッ素樹脂系高分子と適当な条件で混和することが好ましい。さらには、フッ素樹脂系高分子の良溶媒に、該親水性高分子とフッ素樹脂系高分子が混和溶解する場合には、取り扱いが容易になるので特に好ましい。
【0043】
該親水性高分子のセルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドの含有率が高くなると、得られる高分子分離膜の親水性が増大し、透過性能や耐汚れ性が向上するので、フッ素樹脂系高分子との混和性を損なわない範囲であれば含有率は高いほうが好ましい。セルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドの該親水性高分子中の含有率は、フッ素樹脂系高分子との混和比や要求される高分子分離膜の性能に依るが、50モル%以上が好ましく、より好ましくは60モル%以上が良い。
【0044】
そして、三次元網目構造と球状構造の両方を有するフッ素樹脂系高分子分離膜において、前記三次元網目構造が主にセルロースエステルおよび/または脂肪酸ビニルエステルで構成される親水性高分子を含有することが特に好ましい。これは、主にセルロースエスチルおよび/または脂肪酸ビニルエステルで構成されると、フッ素樹脂系高分子との混和性を損なわない範囲においても、エステルの加水分解の程度を広範囲で調整可能であり、得られる高分子分離膜に親水性を付与しやすいからである。主にセルロースエステルおよび/または脂肪酸ビニルエステルで構成される親水性高分子とは、セルロースエステルまたは脂肪酸ビニルエステルの含有率が70モル%以上であるか、あるいはセルロースエステルの含有率と脂肪酸ビニルエステルの含有率の和が70モル%以上である親水性高分子のことであり、より好ましくは80モル%以上のものが良い。
【0045】
特に、セルロースエステルは、繰り返し単位中に3つのエステル基を有し、それらの加水分解の程度を調整することにより、フッ素樹脂系高分子との混和性と高分子分離膜の親水性をともに達成しやすいため好ましく用いられる。セルロースエステルとしては、セルロールアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートが挙げられる。
【0046】
脂肪酸ビニルエステルとしては、脂肪酸ビニルエステルのホモポリマー、脂肪酸ビニルエステルと他モノマーとの共重合体、脂肪酸ビニルエステルを他ポリマーにグラフト重合したものが挙げられる。脂肪酸ビニルエステルのホモポリマーとしては、ポリ酢酸ビニルが安価で取り扱いが容易なため好ましく用いられる。脂肪酸ビニルエステルと他モノマーとの共重合体としては、エチレンー酢酸ビニル共重合体が安価で取り扱いが容易なため好ましく用いられる。
【0047】
また、三次元網目構造および球状構造には、培養に阻害しない範囲で他の成分、例えば、有機物、無機物、高分子などが含まれていても良い。
【0048】
本発明で用いられる中空糸膜の作成法の概要について説明する。
【0049】
中空糸膜は、樹脂と溶媒からなる原液を二重管式口金の外側の管から吐出するとともに、中空部形成用流体を二重管式口金の内側の管から吐出して、冷却浴中で冷却固化して作製することができる。原液は、上述の平膜の作成法で述べた樹脂を20重量%以上60重量%以下の濃度で、上述の平膜の生成法で述べた溶媒に溶解させることで調整できる。また、中空部形成用流体には、通常気体もしくは液体を用いることができる。また、得られた中空糸膜の外表面に、新たな多孔性樹脂層をコーティング(積層)することもできる。積層は中空糸膜の性質、例えば、親水・疎水性、細孔径等を所望の性質に変化させるために行うことができる。積層される新たな多孔性樹脂層は、樹脂を溶媒に溶解させた原液を、非溶媒を含む凝固浴と接触させて樹脂を凝固させることによって作製できる。積層の方法は特に限定されず、原液に中空糸膜を浸漬してもよいし、中空糸膜の表面に原液を塗布してもよく、積層後、付着した原液の一部を掻き取ったり、エアナイフを用いて吹き飛ばしすることで積層量を調整することもできる。
【0050】
上述の高分子分離膜は、原液流入口や透過液流入口などを備えたケーシングに収容され膜モジュールとして使用される。膜モジュールは、中空糸膜を複数本束ねて円筒状の容器に納め、両端または片端をポリウレタンやエポキシ樹脂等で固定して、透過液を回収できるようにしたり、平板状に中空糸膜を固定して透過液を回収できるようにする。
【0051】
そして、膜モジュールは、少なくとも原液側に加圧手段または透過液側に吸引手段を設け、培養液などを分離する分離装置として用いられる。加圧手段としてはポンプを用いても良いし、水位差による圧力を利用してもよい。また、吸引手段としては、ポンプやサイフォンを利用すればよい。
【0052】
以上の膜を使用することにより、膜面洗浄に必要な動力を過度に必要としない運転が、より容易に、可能であることがわかった。三次元網目構造と球状構造を有するフッ素樹脂系高分子膜の平均細孔径を0.02μm以上とすることにより、微生物もしくは培養細胞の濾過において、膜表面で発生する勇断力を低下させることができ、微生物の破壊が抑制され、多孔性中空糸膜の目詰まりも抑制されることにより、長期間安定な濾過が、より容易に、可能になる。三次元網目構造と球状構造を有するフッ素樹脂系高分子膜の平均細孔径を0.2μm以下とすることにより、より低い膜間差圧で連続発酵が実施可能であり、膜が目詰まりした場合でも高い膜間差圧で運転した場合に比べて、洗浄回復性が良好であり、好ましい。
【0053】
本発明の化学品の製造方法は、膜間差圧を0.1から20kPaの範囲で濾過処理する。発酵培養液をろ過するために、20kPaより高い膜間差圧で濾過処理すると、圧力を加えるための動力が必要であり、化学品を製造するときの経済効果が低下する。20kPaより高い膜間差圧を加えることによって微生物あるいは培養細胞が破砕される場合があり、化学品を生産する能力が低下する。本発明の化学品の製造方法は、ろ過圧力である膜間差圧が0.1から20kPaの範囲であり、水頭差により膜間差圧を得られることから、特別に発酵槽内を加圧状態に保つ必要がなく、化学品を生産する能力が低下しない。また、特別に発酵槽内を加圧状態に保つ必要がないことから、多孔性中空糸膜を発酵槽内部に設置する様態も可能となり、発酵装置がコンパクト化できる利点も挙げられる。本発明の化学品の製造方法では、膜間差圧を、好ましくは、0.1から2kPaの範囲で濾過処理する。
【0054】
本発明の化学品の製造方法は、発酵原料を使用する。本発明で使用する発酵原料としては、培養する微生物の生育を促し、目的とする発酵生産物である化学品を良好に生産させうるものであればよい。
【0055】
本発明で使用する発酵原料は、炭素源、窒素源、無機塩類、及び必要に応じてアミノ酸、ビタミンなどの有機微量栄養素を適宜含有する通常の液体培地が良い。炭素源としては、グルコース、シュークロース、フラクトース、ガラクトース、ラクトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉糖化液、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ハイテストモラセス、酢酸等の有機酸、エタノールなどのアルコール類、グリセリンなどが使用される。窒素源としては、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティーブリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用される。無機塩類としては、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩等を適宜添加することができる。
【0056】
本発明に使用する微生物が生育のために特定の栄養素を必要とする場合には、その栄養物を標品もしくはそれを含有する天然物として添加する。また、消泡剤を必要に応じて使用する。本発明において、培養液とは、発酵原料に微生物または培養細胞が増殖した結果得られる液のことを言う。追加する発酵原料の組成は、目的とする化学品の生産性が高くなるように、培養開始時の発酵原料組成から適宜変更しても良い。
【0057】
本発明では、培養液中の糖類濃度は5g/L以下に保持されるのが好ましい。培養液中の糖類濃度は5g/L以下に保持することが好ましい理由は、培養液の引き抜きによる糖類の流失を最小限にするためである。
【0058】
微生物の培養は、通常、pH4-8、温度20-40℃の範囲で行われるが、一部の高温微生物を利用する場合には、温度40-60℃での培養も可能である。培養液のpHは、無機あるいは有機の酸、アルカリ性物質、さらには尿素、炭酸カルシウム、アンモニアガスなどによって、通常、pH4-8範囲内のあらかじめ定められた値に調節する。酸素の供給速度を上げる必要があれば、空気に酸素を加えて酸素濃度を21%以上に保つ、あるいは培養を加圧する、攪拌速度を上げる、通気量を上げるなどの手段を用いることができる。
本発明の化学品の製造方法では、培養初期にBatch培養またはFed-Batch培養を行って、微生物濃度を高くした後に、連続培養(引き抜き)を開始しても良い。本発明の化学品の製造方法では、微生物濃度を高くした後に、高濃度の菌体をシードし、培養開始とともに連続培養を行っても良い。本発明の化学品の製造方法では、適当な時期から原料培養液の供給及び培養物の引き抜きを行うことが可能である。原料培養液供給と培養物の引き抜きの開始時期は必ずしも同じである必要はない。また、原料培養液の供給と培養物の引き抜きは連続的であってもよいし、間欠的であってもよい。
【0059】
原料培養液には菌体増殖に必要な栄養素を添加し、菌体増殖が連続的に行われるようにすればよい。培養液中の微生物または培養細胞の濃度は、培養液の環境が微生物または培養細胞の増殖にとって不適切となって死滅する比率が高くならない範囲で、高い状態で維持することが、効率よい生産性を得るのに好ましい。培養液中の微生物または培養細胞の濃度は、一例として、乾燥重量として、5g/L以上に維持することで良好な生産効率が得られる。
【0060】
本発明の化学品の製造方法では、必要に応じて発酵槽内から微生物または培養細胞を引き抜くことができる。例えば、発酵槽内の微生物または培養細胞濃度が高くなりすぎると、分離膜の閉塞が発生しやすくなることから、引き抜くことで、閉塞から回避することができる。また、発酵槽内の微生物または培養細胞濃度によって化学品の生産性能が変化することがあり、生産性能を指標として微生物または培養細胞を引き抜くことで生産性能を維持させることも可能である。
【0061】
本発明の化学品の製造方法では、発酵生産能力のあるフレッシュな菌体を増殖させつつ行う連続培養操作は、菌体を増殖しつつ生産物を生成する連続培養法であれば、発酵槽の数は問わない。本発明の化学品の製造方法では、連続培養操作は、通常、単一の発酵槽で行うのが、培養管理上好ましい。発酵槽の容量が小さい等の理由から、複数の発酵槽を用いることも可能である。この場合、複数の発酵槽を配管で並列または直列に接続して連続培養を行っても発酵生産物の高生産性は得られる。
【0062】
本発明の化学品の製造方法に用いることができる微生物あるいは培養細胞について説明する。
【0063】
本発明の化学品の製造方法で使用される微生物や培養細胞については、制限はない。本発明で使用される微生物や培養細胞は、例えば、発酵工業においてよく使用されるパン酵母などの酵母、大腸菌、コリネ型細菌などのバクテリア、糸状菌、放線菌、動物細胞、昆虫細胞などが挙げられる。使用する微生物や細胞は、自然環境から単離されたものでもよく、また、突然変異や遺伝子組換えによって一部性質が改変されたものであってもよい。
【0064】
本発明の化学品の製造方法で製造される化学品としては、上記微生物や細胞が培養液中に生産する物質であれば制限はない。本発明の化学品の製造方法で製造される化学品は、アルコール、有機酸、核酸など発酵工業において大量生産されている物質を挙げることができる。例えば、アルコールとしては、エタノール、1,3一プロパンジオール、1,4一ブタンジオール、グリセロールなど、有機酸としては、酢酸、乳酸、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、イタコン酸、クエン酸、核酸であれば、イノシン、グアノシンなどのヌクレオシド、イノシン酸、グアニル酸などのヌクレオチド、またカダベリンなどのジアミン化合物を挙げることができる。また、本発明は、酵素、抗生物質、組換えタンパク質のような物質の生産に適用することも可能である。
【0065】
次に、本発明の化学品の製造方法に用いることができる微生物あるいは培養細胞について、具体的な化学品を例示しながら説明する。
本発明の化学品の製造方法において、L一乳酸の生産に用いることが出来る微生物あるいは培養細胞としてはし一乳酸を生産することが可能な微生物であれば制限はない。本発明の化学品の製造方法において、L一乳酸の生産に用いることが出来る微生物あるいは培養細胞としては、好ましくは乳酸菌を用いることができる。ここで乳酸菌とは、消費したグルコースに対して対糖収率として50%以上の乳酸を産生する原核微生物として定義することができる。好ましい乳酸菌としては、例えば、ラクトバシラス属(GenusLactobacillus)、ペディオコッカス属(GenusPediococcus)、テトラゲノコッカス属(GenusTetragenococcus)、カルノバクテリウム属(GenusCamobacterium)、バゴコッカス属(GenusVagococcus)、ロイコノストック属(GenusLeuconostoc)、オエノコッカス属(GenusOenococcus)、アトポビウム属(GenusAtopobium)、ストレプトコッカス属(GemsStreptococcus)、エンテロコッカス属(GenusEnterococcus)、ラクトバシラス属(GenusLactococcus)、およびバシラス属(GenusBacillus)に属する乳酸菌が挙げられる。それらの中でも、乳酸の対糖収率が高い乳酸菌を選択して乳酸の生産に好ましく用いることができる。
【0066】
本発明の化学品の製造方法においては、更に、乳酸の内でも、L一乳酸の対糖収率の高い乳酸菌を選択して乳酸の生産に好ましく用いることができる。L一乳酸とは、乳酸の光学異性体の一種であり、その鏡像体であるD一乳酸と明確に区別することができる。L一乳酸の対糖収率が高い乳酸菌としては、例えば、ラクトバシラス・ヤマナシエンシス(Lactobacillusyamanashiensis)、ラクトバシラス・アニマリス(Lactobacillusanimalis)、ラクトバシラス・アジリス(Lactobacillusagilis)、ラクトバシラス・アビアリエス(Lactobacillusaviaries)、ラクトバシラス・カゼイ(Lactobacilluscasei)、ラクトバシラス・デルブレッキ(Lactobacillusdelbruekii)、ラクトバシラス・パラカゼイ(Lactobacillusparacasei)、ラクトバシラス・ラムノサス(Lactobacillusrhamnosus)、ラクトバシラス・ルミニス(Lactobacillusruminis)、ラクトバシラス・サリバリス(Lactobacillussalivarius)、ラクトバシラス・シャーピイ(Lactobacillussharpeae)、ラクトバシラス・デクストリニクス(Pediococcusdextrinicus)、バシラス・コアグランス(Bacilluscoagulans)およびラクトバシラス・ラクティス(Lactococcuslactis)などが挙げられ、これらを選択して、L一乳酸の生産に用いることが可能である。
【0067】
本発明の化学品の製造方法でL一乳酸を製造する場合、人為的に乳酸生産能力を付与、あるいは増強した微生物または培養細胞を用いることができる。例えば、L一乳酸脱水素酵素遺伝子(以下、L-LDHと言うことがある)を導入して、L一乳酸生産能力を付与、あるいは増強した微生物または培養細胞を用いることができる。L一乳酸生産能力を付与、あるいは増強させる方法としては、従来知られている薬剤変異による方法も用いることができる。更に好ましくは、微生物がL-LDHを組み込むことによりし一乳酸生産能力が増強した組換え微生物が挙げられる。
【0068】
本発明の化学品の製造方法でL一乳酸を製造する場合、組換え微生物の宿主としては、原核細胞である大腸菌、乳酸菌、および真核細胞である酵母などが好ましく、特に好ましくは酵母である。酵母のうち好ましくはサッカロマイセス属(GenusSaccharomyces)に属する酵母であり、更に好ましくはサッカロマイセス・セレビセ(SaccharOmyCeSCereViSiae)である。
【0069】
本発明で使用するL-LDHとしては、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)とピルビン酸を、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)とし一乳酸に変換する活性を持つタンパク質をコードしていれば限定されない。例えば、L一乳酸の対糖収率の高い乳酸菌由来のL-LDHを用いることができる。好適にはほ乳類由来L-LDHを用いることができる。このうちホモ・サピエンス(Homosapiens)由来、およびカエル由来のL-LDHを用いることができる。カエルの中でもコモリガエル科(Pipidae)に属するカエル由来のL-LDHを用いることが好ましく、コモリガエル科に属するカエルの中でも、アフリカツメガエル(Xenopuslaevis)由来のL-LDHを好ましく用いることができる。
【0070】
本発明に用いられるヒトまたはカエル由来のL-LDHには、遺伝的多型性や、変異誘発などによる変異型の遺伝子も含まれる。遺伝的多型性とは、遺伝子上の自然突然変異により遺伝子の塩基配列が一部変化しているものである。また、変異誘発とは、人工的に遺伝子に変異を導入することをいう。変異誘発は、例えば、部位特異的変異導入用キット(Mutan-K(タカラバイオ社製))を用いる方法や、ランダム変異導入用キット(BDDiversifyPCRRandomMutagenesis(CLONTECH社製))を用いる方法などがある。また、本発明で使用するヒトまたはカエル由来のL-LDHは、NADHとピルビン酸をNAD+とし一乳酸に変換する活性を持つタンパク質をコードしているならば、塩基配列の一部に欠失または挿入が存在していても構わない。
【0071】
本発明の化学品の製造方法でL一乳酸を製造する場合、製造された濾過・分離発酵液に含まれるL一乳酸の分離・精製は、従来知られている濃縮、蒸留および晶析などの方法を組み合わせて行うことができる。例えば、濾過・分離発酵液のpHを1以下にしてからジエチルエーテルや酢酸エチル等で抽出する方法、イオン交換樹脂に吸着洗浄した後に溶出する方法、酸触媒の存在下でアルコールと反応させてエステルとし蒸留する方法、およびカルシウム塩やリチウム塩として晶析する方法などが挙げられる。好ましくは、濾過・分離発酵液の水分を蒸発させた濃縮L一乳酸溶液を蒸留操作にかけることができる。ここで、蒸留する際には、蒸留原液の水分濃度が一定になるように水分を供給しながら蒸留することが好ましい。L一乳酸水溶液の留出後は、水分を加熱蒸発することにより濃縮し、目的とする濃度の精製L一乳酸を得ることができる。留出液としてエタノールや酢酸等の低沸点成分を含むL一乳酸水溶液を得た場合は、低沸点成分をL一乳酸濃縮過程で除去することが好ましい態様である。蒸留操作後、留出液について必要に応じて、イオン交換樹脂、活性炭およびクロマト分離等による不純物除去を行い、さらに高純度のL一乳酸を得ることもできる。
【0072】
本発明の化学品の製造方法でD一乳酸を製造する場合、D一乳酸生産に用いることが出来る微生物あるいは培養細胞としてはD一乳酸を生産することが可能な微生物であれば制限はない。D一乳酸生産に用いることが出来る微生物あるいは培養細胞は、例えば、野生型株では、D一乳酸を合成する能力を有するラクトバシラス属(Lactobacillus)、バシラス属(Bacillus)属およびペディオコッカス(Pediococcus)に属する微生物が挙げられる。
【0073】
本発明の化学品の製造方法でD一乳酸を製造する場合、野生型株のD一乳酸デヒドロゲナーゼ(以下、D-LDHともいうことがある)の酵素活性を増強していることが好ましい。酵素活性を増強させる方法としては、従来知られている薬剤変異による方法も用いることができる。更に好ましくは、微生物がD一乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を組み込むことによりD一乳酸デヒドロゲナーゼの酵素活性を増強した組換え微生物が挙げられる。
【0074】
本発明の化学品の製造方法でD一乳酸を製造する場合、組換え微生物の宿主としては、原核細胞である大腸菌、乳酸菌、および真核細胞である酵母などが好ましく、特に好ましくは酵母である。
【0075】
本発明の化学品の製造方法でD一乳酸を製造する場合、D一乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillusplantarum)、およびペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcusacidilactici)、およびバシラス・ラエボラクティカス(Bacilluslaevolacticus)由来の遺伝子であることが好ましく、更に好ましくはバシラス・ラエボラクティカス(Bacilluslaevolacticus)由来の遺伝子である。
【0076】
本発明の化学品の製造方法でD一乳酸を製造する場合、濾過・分離発酵液に含まれるD一乳酸の分離・精製は、従来知られている濃縮、蒸留および晶析などの方法を組み合わせて行うことができる。例えば、濾過・分離発酵液のpHを1以下にしてからジエチルエーテルや酢酸エチル等で抽出する方法、イオン交換樹脂に吸着洗浄した後に溶出する方法、酸触媒の存在下でアルコールと反応させてエステルとし蒸留する方法、およびカルシウム塩やリチウム塩として晶析する方法などが挙げられる。
【0077】
本発明の化学品の製造方法でD一乳酸を製造する場合、好ましくは、濾過・分離発酵液の水分を蒸発させた濃縮D一乳酸溶液を蒸留操作にかけることができる。ここで、蒸留する際には、蒸留原液の水分濃度が一定になるように水分を供給しながら蒸留することが好ましい。D一乳酸水溶液の留出後は、水分を加熱蒸発することにより濃縮し、目的とする濃度の精製D一乳酸を得ることができる。留出液として低沸点成分(エタノール、酢酸等)を含むD一乳酸水溶液を得た場合は、低沸点成分をD一乳酸濃縮過程で除去することが好ましい態様である。蒸留操作後、留出液について必要に応じて、イオン交換樹脂、活性炭およびクロマト分離等による不純物除去を行い、さらに高純度のD一乳酸を得ることもできる。
【0078】
本発明の化学品の製造方法でエタノールを製造する場合、エタノールの生産に用いることが出来る微生物あるいは培養細胞としては、ピルビン酸を生産することが可能な微生物あるいは培養細胞であれば制限はない。エタノールの生産に用いることが出来る微生物あるいは培養細胞としては、例えば、サッカロミセス属(GenusSaccharomyces)、クルベロマイセス属(GenusKluyveromyces)、シゾサッカロミセス属(GenusSchizosaccharomyces)に属する酵母を用いることができる。このうちサッカロミセス・セレビセ(Saccharomycescere、dsiae)、クルベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyceslactis)、シゾサッカロミセス・ボンベ(Schizosaccharomycespombe)を好適に用いることができる。また、ラクトバチルス属(GenusLactobacillus)、ザイモモナス属(GenusZymomonas)に属する細菌も好ましく用いることができる。このうち、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillusbrevis)、ザイモモナス・モビリス(Zymomonasmobilis)を好適に用いることができる。
【0079】
本発明におけるエタノールの生産に用いることができる微生物あるいは培養細胞は人為的にエタノール生産能力を高めた微生物あるいは培養細胞であってもよい。本発明におけるエタノールの生産に用いることができる微生物あるいは培養細胞は、具体的には、突然変異や遺伝子組換えによって一部性質が改変されたものであってもよい。一部性質が改変されたものの一例としては、リゾパス属に属するカビのグルコアミラーゼ遺伝子を組み込み生でんぶんの資化能力を獲得した酵母を挙げることができる(微生物、3:555-564(1987))。また、本発明の製造方法により製造された濾過・分離発酵液に含まれるエタノールの分離・精製は、例えば、蒸留法による精製法や、NF、RO膜、あるいはゼオライト製の分離膜を用いた濃縮・精製法を好適に用いることができる。
【0080】
本発明の化学品の製造方法で核酸を製造する場合、核酸の生産に用いることが出来る微生物あるいは培養細胞としては核酸を生産することが可能な微生物であれば制限はない。核酸の生産に用いることが出来る微生物あるいは培養細胞は、元来核酸の生産能力が高いものを自然界から分離してもよいし、人為的に生産能力を高めた原核微生物であってもよい。具体的には、突然変異や遺伝子組換えによって一部性質が改変されたものであってもよい。
【0081】
ここで一部性質の改変に関して説明する。核酸を効率よく生産するためには、核酸を生合成して蓄積し、生体外に放出する必要がある。そのため、核酸の生合成系路に関与する酵素の増強、核酸の分解路に関与する酵素活性低下、また核酸を生体外放出に関わるタンパク質、あるいは生体膜組成等の改変など、微生物あるいは培養細胞の性質を変えることによって効率的に核酸を生産する微生物あるいは培養細胞を作出することができる。具体的には、一部性質の内、イノシンを生産する場合には、アデニロコハク酸シンテターゼ活性を持たないか、微弱であることが望ましい。
【0082】
また、イノシン酸デヒドロゲナーゼ活性を持たないか、微弱であることが望ましい。また、ヌクレオシダーゼ活性を持たないか、微弱であることが望ましい。グアノシンを生産する場合には、アデニロコハク酸シンテターゼ活性を持たないか、微弱であることが望ましい。また、グアニル酸レダクターゼ活性を持たないか、微弱であることが望ましい。また、ヌクレオシダーゼ活性を持たないか、微弱であることが望ましい。また、ヌクレオチダーゼ活性を持たないか、微弱であることが望ましい。ウリジンを生産する場合には、ウリジンホスホリラーゼ活性を持たないか、微弱であることが望ましい。シチジンを生産する場合には、シジチンデアミナーゼ活性を持たないか、微弱であることが望ましく、ホモセリンデヒドロゲナーゼ活性を持たないか、微弱であることが望ましい。
【0083】
本発明の化学品の製造方法で核酸を製造する場合、その微生物あるいは培養細胞のうちで更に好ましくはコリネ型細菌および枯草菌を用いることができる。例えば、イノシンを生産する場合には、コリネ型細菌として、コリネバクテリウム属(GenusCorynebacterium)に属する細菌が挙げられる。コリネバクテリウム属の中でも、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacteriumammoniagenes)、コリネバクテリウム・グアノファシエンス(Corynebacteriumguanofaciens)、およびコリネバクテリウム・ペトロフィリウム(Corynebacteriumpetrophilium)が好ましく用いられる。枯草菌として、バチルス属(GenusBacillus)に属する細菌が挙げられる。バチルス属の中でも、バチスル・サチルス(Bacillussubtilis)、バチスル・ライケニフォルミス(Bacillusliqueniformis)、およびバチスル・プミラス(Bacilluspum且us)が好ましく用いられる。
【0084】
また、グアノシンを生産する場合には、コリネ型細菌として、コリネバクテリウム属(GenusCorynebacterium)に属する細菌が挙げられる。コリネバクテリウム属の中でも、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium)が好ましく、枯草菌としては、例えば、バチルス属(GenusBacillus)に属する細菌が挙げられる。バチルス属の中でも、バチスル・サチルス(Bacillussubtilis)、バチスル・ライケニフォルミス(Bacillusliquenifomis)、バチスル・プミラス(Bacilluspumilus)が好ましく用いられる。
【0085】
また、ウリジンを生産する場合には、枯草菌を用いることができ、枯草菌の中でもバチルス属(GenusBacillus)に属する細菌が好ましく用いられる。バチルス属の中でも、バチスル・サチルス(Bacillussubtilis)が好ましく用いられる。シチジンを生産する場合には、枯草菌を用いることができ、枯草菌の中でもバチルス属(GenusBacillus)に属する細菌が好ましく用いられる。バチルス属の中でも、バチスル・サチルス(Bacillussubtilis)が好ましく用いられる。
【0086】
本発明の化学品の製造方法で核酸を製造する場合、濾過・分離発酵液に含まれる核酸の分離・精製は、好ましくは、イオン交換樹脂処理法、濃縮冷却晶析法、膜分離法およびその他の方法を組み合わせることにより行なわれる。不純物を除くためには、常法の活性炭吸着法および再結法を用いて精製してもよい。
【0087】
本発明の化学品の製造方法に従って、連続発酵をおこなった場合、従来の回分発酵と比較して、高い体積生産速度が得られ、極めて効率のよい発酵生産が可能となる。ここで、連続培養における生産速度は、次の式(1)で計算される。
【0088】
発酵生産速度(g/L/hr)=抜き取り液中の生産物濃度(g/L)×発酵液抜き取り速度(L/hr)÷装置の運転液量(L)…(式1)
また、回分培養での発酵生産速度は、原料炭素源をすべて消費した時点の生産物量(g)を、炭素源の消費に要した時間(h)とその時点の培養液量(L)で除して求められる。
【0089】
次に、本発明の連続発酵装置について説明する。本発明の連続発酵装置は、エタノール、1,3一プロパンジオール、1,4一ブタンジオール、グリセロールなどのアルコール、酢酸、乳酸、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、イタコン酸、クエン酸などの有機酸、L一スレオニン、L一リジン、L一グルタミン酸、L一トリプトファン、L一イソロイシン、L一グルタミン、L一アルギニン、L一アラニン、L一ヒスチジン、L一プロリン、L一フェニルアラニン、L一アスパラギン酸、L一チロシン、メチオニン、セリン、バリン、ロイシンなどのアミノ酸、イノシン、グアノシンなど核酸、カダベリンなどのジアミン化合物、酵素、抗生物質、組換えタンパク質の生産に適用することが可能である。
【0090】
本発明の連続発酵装置は、微生物もしくは培養細胞の発酵培養液を分離膜で濾過し、濾液から生産物を回収するとともに未濾過液を前記の発酵培養液に保持または還流し、かつ、発酵原料を前記の発酵培養液に追加する連続発酵による化学品の製造装置である。
【0091】
本発明の化学品の製造方法で用いられる連続発酵装置について、図を用いて説明する。
図3は、本発明の化学品の製造方法で用いられる膜分離型連続発酵装置の例を説明するための概要側面図である。図3において、膜分離型連続発酵装置は、発酵反応槽1と膜分離モジュール2で基本的に構成されている。ここで、分離膜モジュール2には、中空糸膜が使用されている。また分離膜モジュール2は、発酵液循環ポンプ10を介して発酵反応槽1に接続されている。
【0092】
図3において、培地供給ポンプ7によって、培地を発酵反応槽1に連続的もしくは断続的に投入する。培地は、投入前に必要に応じて加熱殺菌、加熱滅菌あるいはフィルターを用いた滅菌処理を行うことができる。また、必要に応じて、気体供給装置4によって必要とする気体を供給することができる。この時、供給した気体を回収リサイクルして再び気体供給装置4で供給することができる。また必要に応じて、pHセンサ・制御装置9およびよびpH調整溶液供給ポンプ8によって発酵液のpHを調整し、また必要に応じて、温度調節器3によって発酵液の温度を調節することにより、生産性の高い発酵生産を行うことができる。
【0093】
ここでは、計装・制御装置による発酵液の物理化学的条件の調節に、pHおよび温度を例示したが、必要に応じて、溶存酸素やORPの制御、オンラインケミカルセンサーなどの分析装置により、発酵液中の化学品の濃度を測定し、発酵液中の化学品の濃度を指標とした物理化学的条件の制御を行うことができる。また、培地の連続的もしくは断続的投入は、好ましくは、上記計装装置による発酵液の物理化学的環境の測定値を指標として、培地投入量および速度を適宜調節する。
【0094】
さらに、装置内の発酵液は、発酵液循環ポンプ10によって発酵反応槽1と分離膜モジュール2を循環する。発酵生産物を含む発酵液は、分離膜モジュール2によって微生物と発酵生産物に濾過・分離され、装置系から取り出すことができる。必要に応じて、循環ポンプによって送られた培養液配管の圧力と、濾過された濾過液配管の圧力から差圧を測定し、膜ろ過運転を制御することができる。また、濾過・分離された微生物は、装置系内にとどまることで装置系内の微生物濃度を高く維持でき、生産性の高い発酵生産を可能としている。
【0095】
必要に応じて、気体供給装置4によって必要とする気体を分離膜モジュール2内に供給することができる。この時、供給した気体を回収リサイクルして再び気体供給装置4で供給することができる。分離膜モジュール2による濾過・分離は、必要に応じて、濾過ポンプ12等による吸引濾過、あるいは、装置系内を加圧することにより濾過・分離することもできる。また、培養槽で連続発酵に微生物または培養細胞を培養し、必要に応じて発酵槽内に供給することができる。培養槽で連続発酵に微生物または培養細胞を培養し、必要に応じて発酵槽内に供給することにより、常にフレッシュで化学品の生産能力の高い微生物または培養細胞による連続発酵が可能となり、高い生産性能を長期間維持した連続発酵が可能となる。
【0096】
次に、図4に示す分離膜モジュールについて説明する。分離膜モジュールは、図4に示すように、中空糸膜で構成された分離膜束22と上部樹脂封止層23、下部樹脂封止層21によって主に構成される。分離膜束は上部樹脂封止層23、および下部樹脂封止層21よって束状に接着・固定化されている。下部樹脂封止層による接着・固定化は中空糸膜の中空部を封止しており、発酵培養液の漏出を防ぐ構造になっている。一方、上部樹脂封止層23は中空糸膜の内孔を封止しておらず、集水パイプ24に透過水が流れる構造となっている。分離膜束22によって濾過された透過水は、中空糸膜の中空部を通り、集水パイプ24を介して発酵培養槽外部に取り出される。透過水を取り出すための動力として、水頭差圧、ポンプ、液体や気体等による吸引濾過、あるいは装置系内を加圧するなどの方法を用いることができる。
【0097】
本発明の化学品の製造方法で用いられる連続発酵装置の分離膜モジュールを構成する部材は、高圧蒸気滅菌操作に耐性の部材であることが好ましい。発酵装置内が滅菌可能であれば、連続発酵時に好ましくない微生物による汚染の危険を回避でき、より安定した連続発酵が可能となる。分離膜モジュールを構成する部材は、高圧蒸気滅菌操作の条件である、121℃で20分間に耐性であることが好ましい。分離膜モジュール部材は、例えば、ステンレス、アルミニウムなどの金属、ポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、PVDF、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリサルホン系樹脂等の樹脂を好ましく選定できる。
【0098】
本発明の化学品の製造方法で用いられる連続発酵装置では、膜分離槽は、高圧蒸気滅菌可能なことが望ましい。膜分離槽が高圧蒸気滅菌可能であると、雑菌による汚染回避が容易である。
【実施例】
【0099】
以下、本発明をさらに詳細に説明するために、上記化学品として、L−乳酸、エタノール、コハク酸、および核酸を選定し、それぞれの化学品を生産する能力のある微生物あるいは培養細胞による図3の概要図に示す装置を用いた連続発酵の具体的な実施形態について、実施例を挙げて説明する。
【0100】
参考例1
L−乳酸生産能力を持つ酵母株の作製L−乳酸生産能力を持つ酵母株を下記のように造成した。ヒト由来LDH遺伝子を酵母ゲノム上のPDC1プロモーターの下流に連結することでし一乳酸生産能力を持つ酵母株を造成した。ポリメラーゼ・チェーン・リアクション(PCR)には、La-Taq(宝酒造)、あるいはKOD-Plus-polymerase(東洋紡)を用い、付属の取扱説明に従って行った。ヒト乳ガン株化細胞(MCF-7)を培養回収後、TRIZOL Reagent(Invitrogen)を用いてtotalRNAを抽出し、得られたtotalRNAを鋳型としてSuper Script Choice System(lnvitrogen)を用いた逆転写反応によりcDNAの合成を行った。これらの操作の詳細は、それぞれ付属のプロトコールに従った。
【0101】
得られたcDNAを続くPCRの増幅鋳型とした。上記操作で得られたcDNAを増幅鋳型とし、配列番号1および配列番号2で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたKOD-Plus-polymeraseによるPCRによりし-1dh遺伝子のクローニングを行った。各PCR増幅断片を精製し末端をT4 Polynucleotide Kinase(TAKARA社製)によりリン酸化後、pUC118ベクター(制限酵素HincIIで切断し、切断面を脱リン酸化処理したもの)にライゲーションした。
【0102】
ライゲーションは、DNA Ligation Kit Ver.2(TAKARA社製)を用いて行った。ライゲーションプラスミド産物で大腸菌DH5αを形質転換し、プラスミドDNAを回収することにより各種L-1dh遺伝子(配列番号3)がサブクローニングされたプラスミドを得た。得られたL-1dh遺伝子が挿入されたpUC118プラスミドを制限酵素XhoIおよびNotIで消化し、得られた各DNA断片を酵母発現用ベクターpTRS11(図5)のXhoI/NotI切断部位に挿入した。このようにしてヒト由来L-ldh遺伝子発現プラスミドpL-ldh5(L-ldh遺伝子)を得た。
【0103】
なお、ヒト由来のL-ldh遺伝子発現ベクターである上記pL-ldh5は、プラスミド単独で独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1-1-1中央第6)にFERMAP-20421として寄託した。ヒト由来LDH遺伝子を含むプラスミドpL-ldh5を増幅鋳型とし、配列番号4および配列番号5で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより1.3kbのヒト由来LDH遺伝子、及びサッカロミセス・セレビセ由来のTDH3遺伝子のターミネーター配列含むDNA断片を増幅した。
【0104】
また、プラスミドpRS424を増幅鋳型として、配列番号6および配列番号7で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより1.2kbのサッカロミセス・セレビセ由来のTRP1遺伝子を含むDNA断片を増幅した。それぞれのDNA断片を 1.5% アガロースゲル電気泳動により分離、常法に従い精製した。ここで得られた1.3kb断片、1.21kb断片を混合したものを増幅鋳型とし、配列番号4および配列番号7で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCR法によって得られた産物を1.5%アガロースゲル電気泳動して、ヒト由来LDH遺伝子及びTRP1遺伝子が連結された2.5kbのDNA断片を常法に従い調整した。この2.5kbのDNA断片で出芽酵母NBRC10505株を常法に従いトリプトファン非要求性に形質転換した。
【0105】
得られた形質転換細胞がヒト由来LDH遺伝子を酵母ゲノム上のPDC1プロモーターの下流に連結されている細胞であることの確認は、下記のように行った。まず、形質転換細胞のゲノムDNAを常法に従って調製し、これを増幅鋳型とした配列番号8および配列番号9で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより0.7kbの増幅DNA断片が得られることで確認した。また、形質転換細胞が乳酸生産能力を持つかどうかは、SC培地(METHODS IN YEAST GENETICS、2000 EDITION、CSHL PRESS)で形質転換細胞を培養した培養上澄に乳酸が含まれていることを下記に示す条件でHPLC法により乳酸量を測定することで確認した。
カラム:Shim-PackSPR-H(島津社製)
移動相:5mM p−トルエンスルホン酸(流速0.8mL/min)
反応液:5mM p−トルエンスルホン酸、20mM ピストリス、0.1mM EDTA・2Na(流速0.8mL/min)
検出方法:電気伝導度
温度:45℃。
【0106】
また、L−乳酸の光学純度測定は以下の条件でHPLC法により測定した。
カラム:TSK-gel EnantioL1(東ソー社製)
移動相:1mM 硫酸銅水溶液
流速:1.O m1/min
検出方法:UV254nm
温度:30℃。
【0107】
また、L−乳酸の光学純度は次式で計算される。
光学純度(%)=100×(L-D)/(L+D)
ここで、LはL−乳酸の濃度、DはD−乳酸の濃度を表す。
【0108】
HPLC分析の結果、4g/LのL−乳酸が検出され、D−乳酸は検出限界以下であった。以上の検討により、この形質転換体がL−乳酸生産能力を持つことを確認した。得られた形質転換細胞を酵母SW-1株として、続く実施例に用いた。
【0109】
参考例2
多孔性中空糸膜の製作1
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマーとγ一ブチロラクトンとを、それぞれ38重量%と62重量%の割合で170℃の温度で溶解した。この高分子溶液をγ一ブチロラクトンを中空部形成液体として随伴させながら口金から吐出し、温度20℃のγ一ブチロラクトン80重量%水溶液からなる冷却浴中で固化して球状構造からなる中空糸膜を作製した。次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを14重量%、セルロースアセテート(イーストマンケミカル社、CA435-75S:三酢酸セルロース)を1重量%、N一メチルー2一ピロリドンを77重量%、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸ソルビタン(三洋化成株式会社、商品名イオネットT-20C)を5重量%、水を3重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して高分子溶液を調製した。
【0110】
この製膜原液を球状構造からなる中空糸膜表面に均一に塗布し、すぐに水浴中で凝固させて球状構造層の上に三次元網目構造層を形成させた中空糸膜を作製した。得られた中空糸膜は、外径1340μm、内径780μm、球状構造の平均直径30μm、三次元網目構造層の表面の平均孔径0.04μm、三次元網目構造層の平均厚み34μm、球状構造層の平均厚み246μm、純水透過性能0.6 m3/m2・hr・50kPa・25℃、阻止性能99%、破断強度8.2MPa、破断伸度88%であった。得られた中空糸膜の断面写真を図1に示す。また、表面写真を図2に示す。
【0111】
参考例3
多孔性中空糸膜の製作2
まず、参考例2と同様の方法で球状構造からなる中空糸膜を作製した。次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを14重量%、セルロースアセテート(イーストマンケミカル社、CA435-75S:三酢酸セルロース)を1重量%、N一メチルー2一ピロリドンを77重量%、水を8重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して高分子溶液を調製した。この製膜原液を球状構造からなる中空糸膜表面に均一に塗布し、すぐに水浴中で凝固させて球状構造層の上に三次元網目構造層を形成させた中空糸膜を作製した。得られた中空糸膜は、外径1340μm、内径780μm、球状構造の平均直径2.5μm、三次元網目構造層の表面の平均孔径0.02μm、三次元網目構造層の平均厚み25μm、球状構造層の平均厚み255μm、純水透過性能 0.1 m3/m2・hr・50kPa・25℃、阻止性能99%、破断強度8.4MPa、破断伸度85%であった。
【0112】
参考例4
多孔性中空糸膜の製作3
まず、参考例2と同様の方法で球状構造からなる中空糸膜を作製した。次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを15重量%、N,N一ジメチルアセトアミドとを85重量%の割合で90℃の温度で混合溶解して高分子溶液を調製した。この製膜原液を球状構造からなる中空糸膜表面に均一に塗布し、すぐに25℃の水浴中で凝固させて球状構造層の上に三次元網目構造層を形成させた中空糸膜を作製した。得られた中空糸膜は、外径1340μm、内径780μm、表面の平均孔径0.008μm、純水透過性能 0.08 m3/m2・hr・50kPa・25℃であった。
【0113】
参考例5
多孔性中空糸膜の製作4
まず、参考例2と同様の方法で球状構造からなる中空糸膜を作製した。次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを16.9重量%、N−メチルー2一ピロリドンを80重量%、水を3.1重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して高分子溶液を調製した。この製膜原液を球状構造からなる中空糸膜表面に均一に塗布し、すぐに水浴中で凝固させて球状構造層の上に三次元網目構造層を形成させた中空糸膜を作製した。得られた中空糸膜は、外径1340μm、内径780μm、表面の平均孔径0.3μm、純水透過性能 2.2 m3/m2・hr・50kPa・25℃であった。
【0114】
実施例1
酵母を用いた連続発酵によるL一乳酸の製造1
図3の連続発酵装置と表1に示す組成の酵母乳酸発酵培地を用い、L−乳酸の製造を行った。培地は高圧蒸気滅菌(121℃、15分)して用いた。分離膜モジュール部材としてはポリカーボネート樹脂の成型品を用いた。分離膜としては参考例2で作製した多孔性中空糸膜を用いた。実施例1における運転条件は、特に断らない限り、以下のとおりである。
反応槽容量:2(L)
膜分離槽容量:0.5(L)
使用分離膜:ポリフッ化ビニリデン中空糸膜
膜分離モジュール有効濾過面積:60(平方cm)
温度調整:30(℃)
反応槽通気量:0.05(L/min)
膜分離槽通気量:0.3(L/min)
反応槽攪拌速度:100(rpm)
pH調整:5NNaOHによりpH5に調整
乳酸発酵培地供給速度:50〜300m1/hrの範囲で可変制御
発酵液循環装置による循環液量:0.1(L/min)
膜透過水量制御:膜間差圧による流量制御
(連続発酵開始後〜100時間:0.1kPa以上5kPa以下で制御、100時間〜200時間:0.1kPa以上2kPa以下で制御、200時間〜300時間:0.1kPa以上20kPa以下で制御)。
【0115】
【表1】

【0116】
微生物として参考例1で造成した酵母SW-1株を用い、培地として表1に示す組成の乳酸発酵培地を用い、生産物である乳酸の濃度の評価には、参考例1に示したHPLCを用い、グルコース濃度の測定にはグルコーステストワコーC(和光純薬)を用いた。
【0117】
まず、SW-1株を試験管で5mLの乳酸発酵培地で一晩振とう培養した(前々々培養)。得られた培養液を新鮮な乳酸発酵培地100mLに植菌し、500mL容坂口フラスコで24時間、30℃で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、図3に示す連続発酵装置の1.5Lの乳酸発酵培地に植菌し、反応槽1を付属の攪拌機5によって攪拌し、反応槽1の通気量の調整、温度調整、pH調整を行い、発酵液循環ポンプ10を稼働させることなく、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、発酵液循環ポンプ10を稼働させ、前培養時の運転条件に加え、乳酸発酵培地の連続供給を行い、膜分離型連続発酵装置の発酵液量を2Lとなるよう膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるL一乳酸の製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、差圧計6により膜間差圧を測定し、上記膜透過水量制御条件で変化させることで行った。適宜、膜透過発酵液中の生産されたL一乳酸濃度および残存グルコース濃度を測定した。
【0118】
300時間の連続発酵試験を行った結果を表2に示す。図3に示す連続発酵装置を用いた本発明の化学品の製造方法により、安定したL一乳酸の連続発酵による製造が可能であった。連続発酵の全期間中の膜問差圧は、2kPa以下で推移した。
【0119】
【表2】

【0120】
実施例2
酵母を用いた連続発酵によるL−乳酸の製造2
分離膜としては参考例3で作製した多孔性中空糸膜を用い、実施例1と同様のL一乳酸連続発酵試験を行った。その結果を表2に示す。その結果、安定したL一乳酸の連続発酵による製造が可能であった。連続発酵の全期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0121】
比較例1
酵母を用いた連続発酵によるL−乳酸の製造
分離膜としては参考例4で作製した細孔径が小さく、純水透過係数が小さい多孔性中空糸膜を用い、膜透過水量制御方法を膜間差圧による流量制御(連続発酵全期間0.1kPa以上20kPa以下で制御)し、それ以外は、実施例1と同様に行った。その結果、培養開始後96時間で、膜間差圧が20kPaを超え膜の閉塞が発生したため、連続発酵を停止した。このことから、参考例4で作製した多孔性中空糸膜膜は、L−乳酸の製造に不適であることが明らかになった。
【0122】
比較例2
酵母を用いた連続発酵によるL−乳酸の製造
分離膜としては参考例5で作製した細孔径が大きく、純水透過係数が大きい多孔性中空糸膜を用い、膜透過水量制御方法を膜間差圧による流量制御(連続発酵全期問0.1kPa以上20kPa以下で制御)し、それ以外は実施例1と同様に行った。その結果、培養開始後80時間で、膜間差圧が20kPaを超え膜の閉塞が発生したため、連続発酵を停止した。このことから、参考例5で作製した多孔性中空糸膜は、L−乳酸の製造に不適であることが明らかになった。
【0123】
実施例3
連続発酵によるエタノールの製造1
図3の連続発酵装置と表3に示す組成のエタノール発酵培地を用い、エタノールの製造を行った。該培地は高圧蒸気滅菌(121℃、15分)して用いた。分離膜としては参考例2で作製した多孔性中空糸膜を用いた。本実施例における運転条件は、特に断らない限り、以下のとおりである。
反応槽容量:2(L)
膜分離槽容量:0.5(L)
使用分離膜:ポリフッ化ビニリデン中空糸膜
膜分離モジュール有効濾過面積:120(平方cm)
温度調整:30(℃)
反応槽通気量:0.05(L/min)
膜分離槽通気量:0.3(L/min)
反応槽攪拌速度:100(rpm)
pH調整:5NNaOHによりpH5に調整
エタノール発酵培地供給速度:50〜300mL/hrの範囲で可変制御
発酵液循環装置による循環液量:0.1(L/min)
膜透過水量制御:膜間差圧による流量制御
(連続発酵開始後〜100時間:0.1kPa以上5kPa以下で制御、100時間〜200時間:0.1kPa以上2kPa以下で制御、200時間〜300時間:0.1kPa以上20kPa以下で制御)。
【0124】
【表3】

【0125】
微生物としてNBRC10505株を用い、培地として表1に示す組成のエタノール発酵培地を用い、生産物であるエタノールの濃度の評価には、エタノール濃度は、ガスクロマトグラフ法により定量した。Shimadzu GC-2010 キャピラリーGC TC-1(GL science) 15 meter L. * 0.53 mm I.D., df1.5μmを用いて、水素炎イオン化検出器により検出・算出して、評価した。また、グルコース濃度の測定にはグルコーステストワコーC(和光純薬)を用いた。まず、NBRC10505株を試験管で5mLのエタノール発酵培地で一晩振とう培養した(前々々培養)。得られた培養液を新鮮なエタノール発酵培地100mLに植菌し、500mL容坂口フラスコで24時間、30℃で振とう培養した(前々培養)。
【0126】
前々培養液を、図3に示した膜分離型連続発酵装置の1.5Lのエタノール発酵培地に植菌し、反応槽1を付属の攪拌機5によって100rpmで攪拌し、反応槽1の通気量の調整、温度調整、pH調整を行い、発酵液循環ポンプ10を稼働させることなく、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、発酵液循環ポンプ10を稼働させ、前培養時の運転条件に加え、エタノール発酵培地の連続供給を行い、膜分離型連続発酵装置の発酵液量を2Lとなるよう膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるエタノールの製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、差圧計6を用いて膜間差圧を測定し、上記膜透過水量制御条件で変化させることで行った。適宜、膜透過発酵液中の生産されたエタノール濃度および残存グルコース濃度を測定した結果を表4に示す。
【0127】
【表4】

【0128】
図3に示す連続発酵装置を用いた本発明の化学品の製造方法により、安定したエタノールの連続発酵による製造が可能であった。連続発酵の期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0129】
実施例4
連続発酵によるエタノールの製造2
図3の連続発酵装置と表3に示す組成のエタノール発酵培地を用い、エタノールの製造を行った。該培地は高圧蒸気滅菌(121℃、15分)して用いた。分離膜モジュールの部材としてはポリカーボネート樹脂の成型品を用いた。分離膜としては参考例3で作製した多孔性中空糸膜を用いた。本実施例における運転条件は、特に断らない限り、以下のとおりである。
反応槽容量:2(L)
使用分離膜:ポリフッ化ビニリデン中空糸膜
膜分離モジュール有効濾過面積:120(平方cm)
温度調整:30(℃)
発酵反応槽通気量:0.05(L/min)
乳酸発酵培地供給速度:50〜300mL/hrの範囲で可変制御
発酵反応槽攪拌速度:400(rpm)
pH調整:5NNaOHによりpH5に調整
膜透過水量制御:膜間差圧による流量制御
(連続発酵開始後〜100時間:0.1kPa以上5kPa以下で制御、100時間〜200時間:0,1kPa以上2kPa以下で制御、200時間〜300時間:0.1kPa以上20kPa以下で制御)。
【0130】
滅菌:分離膜モジュールを含む培養槽、および使用培地は総て121℃、20minのオートクレーブにより高圧蒸気滅菌。
【0131】
微生物として酵母NBRC10505株を用い、培地として表2に示す組成のエタノール発酵培地を用い、生産物であるエタノールの濃度の評価には、実施例7に示したガスクロマトグラフを用い、グルコース濃度の測定にはグルコーステストワコーC(和光純薬)を用いた。
【0132】
まず、NBRC10505株を試験管で5mLのエタノール発酵培地で一晩振とう培養した(前々々培養)。得られた培養液を新鮮なエタノール発酵培地100mLに植菌し、500mL容坂口フラスコで24時間、30℃で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、図3に示した膜分離型連続発酵装置の1.5Lの乳酸発酵培地に植菌し、反応槽1を付属の攪拌機5によって400rpmで攪拌し、反応槽1の通気量の調整、温度調整、pH調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、エタノール発酵培地の連続供給を行い、膜分離型連続発酵装置の発酵液量を1.5Lとなるよう膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるエタノールの製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、差圧計6により膜間差圧を測定し、上記膜透過水量制御条件で変化させることで行った。
【0133】
適宜、膜透過発酵液中の生産されたエタノール濃度および残存グルコース濃度を測定した。また、該エタノール、及びグルコース濃度から算出された投入グルコースから算出されたエタノール対糖収率、エタノール生産速度を表4に示した。
【0134】
図3に示す連続発酵装置を用いた本発明の化学品の製造方法により、安定したエタノールの連続発酵による製造が可能であった。連続発酵の全期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0135】
実施例5
連続発酵によるコハク酸の連続製造1
図3に示す連続発酵装置を用いたコハク酸の製造を行った。コハク酸の製造におけるコハク酸およびグルコースは、特に断らない限り、以下の方法で測定した。コハク酸は、培養液の遠心上清について、HPLC(島津LC10A、RIモニター:RID-10A、カラム:アミネックスHPX-87H)で分析した。カラム温度は50℃、0.01N H2SO4でカラムを平衡化した後、サンプルをインジェクションし、0.01N H2SO4で溶出して分析を行った。グルコースは、グルコースセンサー(BF-4、王子計測機器)を用いて測定した。使用する培地は高圧蒸気滅菌(121℃、15分)して用いた。分離膜としては参考例2で作製した多孔性中空糸膜を用いた。本実施例における運転条件は、特に断らない限り、以下のとおりである。
反応槽容量:2(L)
膜分離槽容量:0.5(L)
使用分離膜:ポリフッ化ビニリデン中空糸膜
膜分離モジュール有効濾過面積:60(平方cm)
温度調整:39(℃)
反応槽CO2通気量:10(mL/min)
膜分離槽CO2通気量:100(mL/min)
反応槽攪拌速度:100(rpm)
pH調整:2M Na2CO3でpH6.4に調整
乳酸発酵培地供給速度:50〜300mL/hrの範囲で可変制御
発酵液循環装置による循環液量:0.1(L/min)
膜透過水量制御:膜間差圧による流量制御。
(連続発酵開始後〜100時間:0.1kPa以上5kPa以下で制御、100時間〜200時間:0.1kPa以上2kPa以下で制御、200時間〜264時間:0.1kPa以上20kPa以下で制御)。
【0136】
本実施例ではコハク酸の生産能力のある微生物として、アナエロビオスピリラム・サクシニシプロデュセンス(Anaerobiospirillum succiniciproducens)ATCC53488株によるコハク酸の連続製造を行った。20g/L グルコース、10g/L ポリペプトン、5g/L 酵母エキス、3g/L K2HPO4、1g/L NaCl、1g/L (NH4)2SO4、0.2g/L MgCl2、0.2g/L CaCl2・2H2Oからなる種培養用培地100mLを、125mL容三角フラスコに入れ加熱滅菌した。嫌気グローブボックス内で、30mM Na2CO3 1mLと180mM H2SO4 0.15mLを加え、さらに、0.25g/L システイン・HCl、0.25g/L Na2Sからなる還元溶液0.5mLを加えた後、ATCC53488株を接種し、39℃で一晩静置培養した(前々培養)。図3に示す連続発酵装置の1.5Lのコハク酸発酵培地(表5)に、0.25g/L システイン・HCl、0.25g/L Na2S・9H2Oからなる還元溶液5mLを加えた後、前々培養液50mLを植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって200rpmで攪拌し、発酵反応槽1のCO2通気量の調整、温度調整、pH調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。
【0137】
【表5】

【0138】
前培養完了後直ちに、コハク酸発酵培地の連続供給を行い、膜分離型連続発酵装置の発酵液量を2Lとなるよう膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるコハク酸の製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、差圧計6により膜間差圧が0.1から20kPa以内となるように設定して行った。適宜、膜透過発酵液中の生産されたコハク酸濃度および残存グルコース濃度を測定した。また、該コハク酸、及びグルコース濃度から算出されたコハク酸生産速度およびコハク酸の生成収率を、表6に示した。すべての連続発酵の全期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【0139】
【表6】

【0140】
実施例6
連続発酵による核酸の製造1
図3に示す連続発酵装置を用いた核酸の製造を行った。培地には表7に示す培地を用い、高圧蒸気滅菌処理(121℃、15分)して用いた。分離膜モジュールの部材として、ポリカーボネート樹脂の成形品を用いた。分離膜としては、参考例2で作製した多孔性中空糸膜を用いた。本実施例における運転条件は、特に断らない限り、以下の通りである。
発酵反応槽容量:2(L)
使用分離膜:ポリフッ化ビニリデン中空糸膜
膜分離モジュール有効濾過面積:120(平方cm)
温度調整:30(℃)
発酵反応槽通気量:1000(mL/min)
発酵反応槽攪拌速度:800(rpm)
滅菌:分離膜モジュールを含む培養槽、および使用培地は総て121℃、20minのオートクレーブにより高圧蒸気滅菌。
pH調整:25%アンモニア水溶液によりpH6.8に調整
膜透過水量制御:膜間差圧による流量制御
(連続発酵開始後〜100時間:0.1kPa以上5kPa以下で制御、100時間〜200時間:0.1kPa以上2kPa以下で制御、200時間〜300時間:0.1kPa以上20kPa以下で制御)。
【0141】
【表7】

【0142】
原核微生物として、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)ATCC21479株を用い、培地として表7に示す組成の核酸発酵培地を用いた。発酵液に含まれるグアノシン、およびイノシンは、下記に示す条件でHPLC法により各々の核酸量を測定することで確認した。
【0143】
カラム:Asahipak GS-220 (7.6mmID×500mmL)、緩衝液:0.2M NaH2PO4(pH3.98)リン酸にてpH調整、温度:55℃、流速:1.5mL/min、検出:UV254nm、保持時間(min):イノシン 16.1、グアノシン 20.5。
【0144】
また、グルコース濃度の測定には、“グルコーステストワコーC"(登録商標)(和光純薬社製)を用いた。
【0145】
まず、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Colynebacterium ammoniagenes)ATCC21479株を、坂口フラスコ中で表7に示す前培養培地150mLを用いて24時間、30℃の温度で振とう培養した(前々培養)。得られた前々培養液を、図3に示す連続発酵装置の1Lの前培養培地に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって800rpmで攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整と30℃の温度に温度調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、前培養時の運転条件に加え、連続発酵培地の連続供給を行い、前培養完了後直ちに、連続発酵培地の連続供給を行い、発酵液循環ポンプ10によって発酵反応槽1と膜分離モジュール2の間を循環させ、膜分離型連続発酵装置の発酵液量を2Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養することで連続発酵による核酸の製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、差圧計6により膜間差圧を測定し、上記膜透過水量制御条件で変化させることで行った。適宜、膜透過発酵液中の生産された核酸濃度および残存グルコース濃度を測定した。また、核酸およびグルコース濃度から算出された投入グルコースから算出された核酸生産速度を、表8に示した。
【0146】
【表8】

【0147】
300時間の発酵試験を行った結果、図3に示す連続発酵装置を用いた本発明の化学品の製造方法により、安定した核酸の連続発酵による製造が可能であった。連続発酵の全期間中の膜間差圧は、2kPa以下で推移した。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明は、簡便な操作方法で、長時間にわたり安定して高生産性を維持する連続発酵法による化学品の製造方法である。本発明によれば、簡便な操作条件で、長時間にわたり安定して高生産性を維持する連続発酵が可能となり、広く発酵工業において、発酵生産物である化学品を低コストで安定に生産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】三次元網目構造の一例である。
【図2】三次元網目構造の一例である。
【図3】本発明で用いられる膜分離型連続発酵装置の例を説明するための概略側面図である。
【図4】本発明で用いられる分離膜モジュールの例を説明するための概略図である。
【図5】酵母用発現ベクターpTRS11のフィジカルマップを示す図である。
【符号の説明】
【0150】
1 発酵反応槽
2 分離膜モジュール
3 温度調節器
4 気体供給装置
5 撹拌機
6 差圧計
7 培地供給ポンプ
8 pH調整溶液供給ポンプ
9 pHセンサ・制御装置
10 発酵液循環ポンプ
11 レベルセンサー
12 濾過ポンプ
21 下部樹脂封止層
22 分離膜束
23 上部樹脂封止層
24 集水パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵原料、化学品、微生物もしくは培養細胞を含む培養液を、分離膜で濾過し、濾液から化学品を回収し、さらに、未濾過液を培養液に保持または還流し、かつ、発酵原料を培養液に追加する連続発酵において、分離膜として、平均細孔径が0.02μm以上0.2μm以下、50kPa、25℃における純水透過性能が0.10m/m2・hr 以上2m/m2・hr以下、破断強度が6MPa以上、破断伸度が50%以上である多孔性中空糸膜を使用することを特徴とする連続発酵による化学品の製造方法。
【請求項2】
前記多孔性中空糸膜が、三次元網目構造および球状構造を有するフッ素樹脂系高分子分離膜であって、前記三次元網目構造がセルロースエステル、脂肪酸ビニルエステル、ビニルピロリドン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも1種の親水性高分子を含有してなる請求項1に記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【請求項3】
前記親水性高分子が主にセルロースエステルおよび/または脂肪酸ビニルエステルである請求項2に記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【請求項4】
前記球状構造の平均直径が0.1μm以上5μm以下である請求項2または3に記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【請求項5】
最表層に三次元網目構造を有してなる請求項2〜4のいずれかに記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【請求項6】
前記発酵原料が、糖類を含む請求項1〜5のいずれかに記載の連続発酵による化学品の製造方法。
【請求項7】
化学品が、有機酸またはアルコールまたは核酸である請求項1〜6のいずれかに記載の連続発酵による化学品の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−29108(P2010−29108A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194618(P2008−194618)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度新エネルギー・産業技術総合開発機構、「微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技術開発/微生物機能を活用した高度製造基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】