説明

連続鋳造スラブの中心偏析評価方法

本発明は、連続鋳造スラブの中心偏析評価方法に関する。本発明は、(A)ピクリン酸(C)、塩化第2銅(CuCl)、ナトリウムラウリルベンゼンスルホン酸(C1829SONa)、および残部蒸留水からなるエッチング液を用いて、スラブの中心偏析をイメージとして現出させる段階と、(B)前記現出したイメージをスキャンし、下記関係式に適用してスラブの中心偏析を評価する段階とを含んでなる。<関係式>は2.1+(0.15Y−8.7X)/(2.9×10)で表わす。式中、Xは中心偏析粒の面積であり、Yは中心偏析粒を除いた残りの偏析粒の面積である。本発明は、スラブ中のS含量が50ppm以下の極低硫鋼だけでなく、スラブ中のC含量が0.04wt%以下の低炭素鋼に対しても高い解像度の中心偏析イメージを現出させることが可能であり、これを定量化することができるため、鋳造の際に発生した工程上の異常を迅速に把握して対応することができるという利点がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造スラブの中心偏析評価方法に係り、より詳しくは、所定の成分からなるエッチング液を用いて高解像度の中心偏析イメージを迅速に得ることができ、スラブの偏析レベルを正確に把握することができる、連続鋳造スラブの中心偏析評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼工程において、目的の成分組成および温度で処理された液相の溶鋼は、連続鋳造設備を通過しながら冷却して固相のスラブに凝固する。
【0003】
連続鋳造設備において、溶鋼は、まず水冷モールドを通過しながら凝固シェルを形成し、ストランド(strand)を通過しながら冷却水の噴射によって残りが完全に凝固して固相のスラブとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、所定の成分からなるエッチング液を用いて高解像度の中心偏析イメージを迅速に得ることのできる、連続鋳造スラブの中心偏析評価方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、スラブ中のS含量が50ppm以下の極低硫鋼だけでなく、スラブ中のC含量が0.04wt%以下の低炭素鋼に対しても高解像度の中心偏析イメージを迅速に得ることのできる、連続鋳造スラブの中心偏析評価方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、スラブの中心偏析イメージを正確且つ迅速に得ることができると共に評価することのできる、連続鋳造スラブの中心偏析評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明のある観点によれば、所定の重量%を有するピクリン酸(C)、塩化第2銅(CuCl)、ナトリウムラウリルベンゼンスルホン酸(C1829SONa)、所定の体積%を有するエタノール(COH)、および残部蒸留水からなるエッチング液にスラブを浸漬してエッチングする段階と、エッチング済みのスラブの付着物を洗浄した後、乾燥させる段階と、乾燥後にシリコングリースを前記スラブの表面に塗布する段階と、前記シリコングリースを拭き取り、前記シリコングリースの塗布されたエッチング面を研磨する段階と、透明接着テープをエッチング面に付着させる段階と、前記透明接着テープを取り外して紙に付着させる段階と、前述のように現出した結果によって中心偏析を評価する段階とを含んでなる、連続鋳造スラブの中心偏析評価方法を提供する。
【0006】
ここで、前記ピクリン酸(C)の重量%は1.5〜2.0wt%であり、前記塩化第2銅(CuCl)の重量%は0.5〜1.0wt%であり、前記ナトリウムラウリルベンゼンスルホン酸(C1829SONa)の重量%は1.0〜3.0wt%であることを特徴とする。
【0007】
前記エタノール(COH)の体積%は0超過10Vol%以下であることを特徴とする。
【0008】
本発明の他の観点によれば、ピクリン酸(C)、塩化第2銅(CuCl)、ナトリウムラウリルベンゼンスルホン酸(C1829SONa)、および残部蒸留水からなるエッチング液にスラブサンプルを浸漬し、加熱する段階と、エッチング終了の後、スラブサンプルを洗浄し乾燥させる段階と、乾燥したスラブサンプルの表面にシリコングリースを塗布する段階と、前記シリコングリースを拭き取り、前記シリコングリースの塗布された面を研磨する段階と、透明接着テープを、研磨した面に付着させた後、取り外し、紙に付着させて凝固組織イメージを現出させる段階とを含む、連続鋳造スラブの中心偏析評価方法を提供する。
【0009】
ここで、前記ピクリン酸(C)の重量%は1.5〜2.0wt%であり、前記塩化第2銅(CuCl)の重量%は0.5〜1.0wt%であり、前記ナトリウムラウリルベンゼンスルホン酸(C1829SONa)の重量%は1.0〜3.0wt%であることを特徴とする。
【0010】
前記エッチング液の加熱温度は30〜80℃であることを特徴とする。
【0011】
前記エッチング液の加熱温度は50〜80℃であることを特徴とする。
【0012】
前記スラブは、炭素(C)含量が0.04wt%以下の低炭素鋼、または硫黄(S)含量が50ppm以下の極低硫鋼であることを特徴とする。
【0013】
本発明の別の観点によれば、(A)スラブの中心偏析をイメージとして現出させる段階と、(B)前記現出したイメージをスキャンし、下記の関係式に適用してスラブの中心偏析を評価する段階とを含む、連続鋳造スラブの中心偏析評価方法を提供する。
<関係式>
2.1+(0.15Y−8.7X)/(2.9×10
(式中、Xは中心偏析粒の面積、Yは中心偏析粒を除いた残りの偏析粒の面積をそれぞれ表わす。)
【0014】
ここで、前記(A)段階は、ピクリン酸(C)、塩化第2銅(CuCl)、ナトリウムラウリルベンゼンスルホン酸(C1829SONa)、および残部蒸留水からなるエッチング液にスラブサンプルを浸漬し、加熱する段階と、エッチング終了の後、スラブサンプルを洗浄し乾燥させる段階と、乾燥したスラブサンプルの表面にシリコングリースを塗布する段階と、前記シリコングリースを拭き取り、前記シリコングリースの塗布された面を研磨する段階と、透明接着テープを、研磨した面に付着させた後、取り外し、紙に付着させて偏析イメージを現出させる段階とを含んでなることを特徴とする。
【0015】
前記ピクリン酸(C)の重量%は1.5〜2.0wt%であり、前記塩化第2銅(CuCl)の重量%は0.5〜1.0wt%であり、前記ナトリウムラウリルベンゼンスルホン酸(C1829SONa)の重量%は1.0〜3.0wt%であることを特徴とする。
【0016】
前記エッチング液の加熱温度は30〜80℃であることを特徴とする。
【0017】
前記エッチング液の加熱温度は50〜80℃であることを特徴とする。
【0018】
前記(B)段階は、前記現出したイメージをスキャンして電子ファイルにする段階と、中心偏析粒の面積、および前記中心偏析粒を除いた残り偏析粒の面積を測定する段階とを含んでなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、スラブ中のS含量が50ppm以下の極低硫鋼に対しても高い解像度を有するイメージを得ることができるので、肉眼で中心偏析を容易に確認することができるうえ、EPMA方法に比べて10分の1以下の短い時間で偏析を評価することができ、それにより操業に迅速に対応することができるという効果がある。
【0020】
また、本発明は、スラブ中のC含量が0.04wt%以下の低炭素鋼に対しても高い解像度の凝固組織および中心偏析イメージを得ることが可能である。よって、低炭素鋼鋳造の際に発生した工程上の異常を迅速に把握して対応することができるという効果がある。
【0021】
また、本発明は、スラブ中のS含量が50ppm以下の極低硫鋼だけでなく、スラブ中の炭素含量が0.04含量wt%以下の低炭素鋼に対しても高い解像度の凝固組織および偏析イメージを得ることができ、これを定量化することができる。よって、鋳造の際に発生した工程上の異常を迅速に把握して対応することが可能なので、生産製品の信頼度が増加し且つ需要者の満足度が向上するという効果を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】スラブの厚さ中心部に発生した空隙を示す図である。
【図2】スラブの中心偏析現象を示す図である。
【図3】スラブ中のS含量が50ppm以下の極低硫鋼に対してサルファプリント方法を適用した結果を示す図である。
【図4】スラブ中のS含量が50ppm以下の極低硫鋼に対してEPMA方法を適用した結果を示す図である。
【図5】スラブ中のS含量が50ppm以下の極低硫鋼に対して本発明の第1実施例に係る中心偏析評価方法を適用した結果を示す図である。
【図6】スラブ中のS含量が200ppmの一般鋼、およびスラブ中のS含量が24ppmの極低硫鋼に対してサルファプリント方法を適用した結果を示す図である。
【図7】スラブ中のC含量が0.04wt%を超過する一般鋼のスラブの断面にマクロエッチング法を適用した結果を示す図である。
【図8】スラブ中のC含量が0.046wt%の中炭素鋼(a)およびスラブ中のC含量が0.002wt%の低炭素鋼(b)に対して、それぞれマクロエッチング法、本発明の第2実施例に係る中心偏析評価方法を適用した結果を示す図である。
【図9】スラブ中のC含量が0.046wt%の中炭素鋼(a)およびスラブ中のC含量が0.002wt%の低炭素鋼(b)に対して、それぞれマクロエッチング法、本発明の第2実施例に係る中心偏析評価方法を適用した結果を示す図である。
【図10】H−TEC指数とEPMA中心偏析指数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に添付図面を参照しながら、本発明を詳細に説明する。
【0024】
(第1実施例)
本発明の連続鋳造スラブの中心偏析評価方法は、所定の成分からなるエッチング液にスラブを浸漬してエッチングすることによりスラブの中心偏析を腐食させ、反応した表面をサンドペーパー(sand paper)で研磨して、選択的に腐食した偏析部位に研磨粉末が染み込むようにした後、透明接着テープを鋳片に接着させて研磨粉末を透明テープに付着させて偏析を現出させる方法である。
【0025】
連続鋳造工程では、スラブがストランドを介して冷却する過程で凝固が行われることにより、液相に比べて低い溶解度を有する固相で溶質元素が排出されて樹枝状晶の間に濃化する微小偏析現象が発生する。
【0026】
それにより、凝固完了時点のスラブの厚さ中心部では、図1に示すように、凝固収縮による空隙が発生し、収縮孔内の負圧によって周辺の樹枝状晶間の微小偏析吸込現象が誘発され、図2に示すように残留溶鋼中に濃縮された硫黄、リン、マンガン炭素成分などがスラブの厚さ中心部に集積される中心偏析(centerline segregation)が発生する。
【0027】
スラブに中心偏析が激しく発生すると、圧延の後に最終製品としてのコイルに残る。コイルの内部に残った中心偏析は、他の母材(matrix)より硬い組織なので、溶接性を低下させ或いは石油輸送管などの製品に加工して使用する場合、中心偏析に起因した欠陥によりクラックが発生して鋼管の破損にまで至る。
【0028】
このような中心偏析は、鋼管の水素有機亀裂および溶接亀裂の原因となるため、必ず低減させる必要がある。そのためには中心偏析のレベルを正確に把握する必要がある。
【0029】
スラブの中心偏析を評価するためには中心偏析を現出させることが必要である。中心偏析を現出させるために最も多く採用される方法としては、サルファプリント(sulfur print)方法、マクロエッチング法、EPMA(Electron Probe Macro Analyzer)方法がある。
【0030】
サルファプリント方法は、研磨されたスラブに薄い硫酸溶液を塗った印画紙を貼着した後、取り外し、この印画紙を乾燥させる方法である。サルファプリント方法は、中心部に偏析されたSが硫酸と反応してHSガスを発生させ、このガスが印画紙に感光されて黒い斑として残ることを原理とする。
【0031】
ところが、サルファプリント方法は、石油輸送管の大部分を占める硫黄含量50ppm以下の極低硫鋼では発生するHSガスの量が少ないため、中心偏析が現出せず解像度も非常に低い(図3および図6参照)。
【0032】
マクロエッチング法は、水と塩酸の1:1混合物に試片を浸漬してエッチングすることにより、凝固組織と偏析を現出させることを原理とする。
【0033】
ところが、マクロエッチング法は、塩酸(HCl)によって炭素(C)が過腐食する方法を用いるので、炭素含量0.04wt%以下の低炭素鋼の場合、現出解像も非常に低いため偏析の確認が難しい(図8参照)。
【0034】
EPMA方法は、上述した2つの方法とは異なり、スラブの中心偏析を最も正確に評価することが可能な方法である。このようなEPMA方法は、全体鋼種に対してppm単位の定量分析も可能なので、中心偏析の定量指数として使用する。
【0035】
しかし、試片の処理および分析に約12時間程度がかかるので、結果を現出させるのにあまり長い時間がかかる。
【0036】
よって、新しいエッチング液を製造して高解像度の中心偏析イメージを現出させる。
【0037】
新しいエッチング液は、スラブ中のS含量が50ppm以下の極低硫鋼およびスラブ中のC含量が0.04wt%の低炭素鋼に対しても高解像度の中心偏析イメージを迅速に現出させることができる。
【0038】
具体的にその過程を考察すると、まず、所定の成分からなるエッチング液にスラブを所定の時間浸漬してエッチングする。
【0039】
エッチング液は、所定の重量%を有するピクリン酸(C)、塩化第2銅(CuCl)、ナトリウムラウリルベンゼンスルホン酸(C1829SONa)、所定の体積%を有するエタノール(COH)、および残部蒸留水からなる。
【0040】
ここで、ピクリン酸(C)の重量%は1.5〜2.0wt%であり、塩化第2銅(CuCl)の重量%は0.5〜1.0wt%であり、ナトリウムラウリルベンゼンスルホン酸(C1829SONa)の重量%は1.0〜3.0wt%であり、エタノール(COH)の体積%は0超過10Vol%以下であることが好ましい。
【0041】
以下、本発明のエッチング液に含まれた成分の機能および含有量の限定理由について説明する。
【0042】
ピクリン酸(C):1.5〜2.0wt%
ピクリン酸の含有量が1.5wt%未満の場合にはエッチング時間が2時間以上かかるので、エッチング時間が増加し、ピクリン酸の含有量が2.0wt%超過の場合には未溶解沈殿物によって斑が発生するという問題があることを考慮し、ピクリン酸の含有量を1.5〜2.0wt%の範囲に制限する。
【0043】
塩化第2銅(CuCl):0.5〜1.0wt%
塩化第2銅の含有量が0.5wt%未満の場合にはエッチング解像度が低下し、塩化第2銅の含有量が1.0wt%超過の場合には過度なエッチングが発生するという問題があることを考慮し、塩化第2銅の含有量を0.5〜1.0wt%の範囲に制限する。
【0044】
ナトリウムラウリルベンゼンスルホン酸(C1829SONa):1.0〜3.0wt%
ナトリウムラウリルベンゼンスルホン酸(C1829SONa)は、界面活性剤であって、塩化ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウム(C2342ClN)を界面活性剤として使用した結果、粘着性反応物がエッチング面に生成されてエッチング反応を妨害することを確認することができた。
【0045】
したがって、本発明では、ナトリウムラウリルベンゼンスルホン酸(C1829SONa)は、界面活性剤として使用し、その含有量が1.0wt%未満の場合にはエッチングの速度が低下し、その含有量が3.0wt%超過の場合には過飽和して沈殿物が発生するという問題があることを考慮し、その含有量を1.0〜3.0wt%の範囲に制限する。
【0046】
エタノール(COH):0超過10Vol%以下の体積%
エタノール(COH)は、容易に蒸発する性質によりエッチング以後の痕跡を無くすのに有利であるが、10Vol%超過して添加するときにエッチングの速度が低下し、エッチング中に蒸発によりエッチング液の濃度が変化するので、その体積%を0超過10Vol%以下に制限する。
【0047】
一方、前記成分および残部蒸留水からなるエッチング液を製造した後、前記エッチング液にスラブを所定の時間浸漬してエッチングする。蒸留水は室温の蒸留水を混合する。
【0048】
スラブはグラインド処理の施されたサンプルで製作されたスラブであり、所定の時間は2時間以内とする。これは、2時間以上浸漬して過エッチングすると、解像度が急激に低下するためである。
【0049】
その後、エッチング済みのスラブの付着物をブラシを用いて水で洗浄した後、暖かい空気で乾燥させる。
【0050】
乾燥の後には、シリコングリースをスラブの表面に塗布し、エッチング液で偏析腐食させることにより形成される腐食孔にシリコングリースを満たす。
【0051】
所定の時間の後、例えば約1〜3分の後に前記シリコングリースを拭き取り、#800以上の目の細かいサンドペーパーを用いてシリコングリースの塗布されたエッチング面を均一に研磨する。
【0052】
サンドペーパーの砥石粒子の粒度(太さの度合い)に応じてサンドペーパー表面の粗い度合いが表示されるが、表面が粗ければ粗いほど解像度が低下するという問題があるので、できる限り#800以上のサンドペーパーを使用する。
【0053】
前述したような研磨工程によって微細な研磨粉末で充填すると、腐食凸凹部に充填されたグリースと研磨粉末とが混合されて明暗が与えられる。
【0054】
その後、研磨されたスラブのエッチング面に透明接着テープを付着させる。それにより、研磨粉末が透明接着テープにくっ付いて偏析が現出する。前記透明接着テープを白色紙に付着させ、前記紙をスキャンすると、後述の図5に示すように中心偏析を肉眼で確認することができる。
【0055】
結局、前述のように透明接着テープを紙に付着させてスキャンするなどの方法を介して、現出した結果によって中心偏析を容易に評価することができる。
【0056】
図3、図4および図5はスラブ中のS含量が50ppm以下の極低硫鋼に対してそれぞれサルファプリント方法、EPMA方法、本発明の実施例に係る中心偏析評価方法を適用した結果を示す図である。
【0057】
図3に示すように、サルファプリント方法によれば、極低硫鋼の場合には中心偏析のイメージを殆ど得ることができないので、肉眼で確認することが非常に困難である。
【0058】
図4に示したようなEPMA方法を適用すると、高い解像度の中心偏析のイメージを得ることができるが、試片の処理および分析に約12時間程度がかかるという問題がある。
【0059】
これに比べて、本発明の連続鋳造スラブの中心偏析評価方法の場合、図5に示すように、スラブ中のS含量が50ppm以下の極低硫鋼に対しても高い解像度を有するイメージを得ることができるので、肉眼で中心偏析を容易に確認することができるうえ、EPMA方法を使用するときにかかる時間の10分の1以下の短い時間で偏析を評価することができ、それにより操業に迅速に対応することができるという利点がある。
【0060】
(第2実施例)
本発明の他の実施例に係る連続鋳造スラブの中心偏析評価方法は、エッチング液にスラブサンプルを浸漬し加熱することによりスラブの偏析を腐食させ、反応した表面をサンドペーパーで研磨して、選択的に腐食した偏析部位に研磨粉末が染み込むようにした後、透明接着テープをスラブサンプルに接着させて研磨粉末を透明テープに付着させて中心偏析を現出させる方法である。
【0061】
本発明の第2実施例は、上述した第1実施例とは異なり、エッチング液の成分にエタノールが含まれず、エッチング液にスラブサンプルを浸漬した後に加熱する過程がさらに含まれる。
【0062】
上述した第1実施例の場合、エッチング効率を高めるためにエタノールが含まれる。ところが、第2実施例の場合にはエタノールを使用しない。これは、エタノールの沸点が65℃なので、加熱の際にその効果が相殺して意味がないためである。
【0063】
具体的にその過程を考察すると、まず、所定の成分からなるエッチング液にスラブを所定の時間浸漬し加熱してエッチングする。
【0064】
エッチング液は、所定の重量%を有するピクリン酸(C)、塩化第2銅(CuCl)、ナトリウムラウリルベンゼンスルホン酸(C1829SONa)、および残部蒸留水からなる。
【0065】
ここで、ピクリン酸(C)の重量%は1.5〜2.0wt%であり、塩化第2銅(CuCl)の重量%は0.5〜1.0wt%であり、ナトリウムラウリルベンゼンスルホン酸(C1829SONa)の重量%は1.0〜3.0wt%であることが好ましい。
【0066】
第2実施例のエッチング液に含まれた成分の機能および含有量の限定理由は、前述した第1実施例で記載されたエッチング液に含まれた成分のそれと同様なので、その記載を省略する。
【0067】
エッチング液の加熱温度は30〜80℃である。エッチング液にスラブサンプルを浸漬し加熱することはエッチング反応を向上させるためである。エッチング液の加熱温度が30℃未満であれば、エッチング反応が遅く、エッチング液の加熱温度が80℃超過であれば、有毒ガスが発生し、高温の蒸気による危険が誘発される。エッチング反応向上のための好ましいエッチング液の加熱温度は50〜80℃である。
【0068】
浸漬は炭素含量に応じて2時間以内で行う。これは2時間を超過して浸漬して過エッチングすると、解像度が急激に低下するためである。
【0069】
一方、スラブサンプルはグラインド処理が施されたものである。
【0070】
その後、エッチング済みのスラブサンプルは、流水でブラシを用いて洗浄して表面の付着物を除去した後、暖かい空気で乾燥させる。
【0071】
乾燥の後には、シリコングリースをスラブの表面に塗布して、エッチング液で偏析腐食させることにより形成された腐食孔にシリコングリースを充填する。
【0072】
所定の時間の後、例えば約1〜3分の後にスラブ表面のシリコングリースを拭き取り、目の細かい(#800以上)サンドペーパーを用いてシリコングリースの塗布されたエッチング面を均一に研磨する。
【0073】
サンドペーパーの砥石粒子の粒度(太さの度合い)によってサンドペーパーの表面粗さの度合いが表示されるが、表面が粗ければ粗いほど解像度が低下するという問題があるので、できる限り#800以上のサンドペーパーを使用する。
【0074】
前述したような研磨工程を介して微細な研磨粉末で充填すると、腐食凸凹部に充填されたグリースと研磨粉末とが混合されて明暗が与えられる。
【0075】
その後、研磨されたスリーブのエッチング面に透明接着テープを付着させる。これにより、研磨粉末が透明接着テープにくっ付いて凝固組織が現出する。前記透明接着テープを白色紙に付着させ、前記紙をスキャンすると、凝固組織イメージを肉眼で確認することができる。
【0076】
結局、前述したように透明接着テープを紙に付着させてスキャンするなどの方法によって、現出した結果に基づいて中心偏析を容易に評価することができる。
【0077】
表1はスラブ中のC含量が0.002wt%の低炭素鋼スラブサンプルに対してエッチング液の条件による中心偏析評価方法を適用した結果を示す。
【0078】
実験条件:エッチング液は70℃まで加熱し、スラブサンプルのエッチング液浸漬時間は2時間とした。
【表1】

表1に示すように、ピクリン酸の含量が高ければ、未溶解沈殿物による斑が発生し、塩化第2銅の含量が高ければ、過度なエッチングが発生した。
【0079】
また、界面活性剤としてナトリウムベンゼンスルホン酸の代わりに塩化ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムを使用すると、スラブサンプルの表面に粘着性反応物が生成された。
【0080】
ナトリウムラウリルベンゼンスルホン酸の場合、含有量が1.0〜3.0wt%を満足しなければ、解像度が低いか或いはエッチング面に斑が発生するという問題がある。
【0081】
これに比べて、発明例のエッチング液は、スラブ中のC含量が0.04wt%以下の低炭素鋼に対しても高い解像度のイメージを得ることができた。
【0082】
表2はスラブ中のC含量が0.002wt%の低炭素鋼スラブサンプルに対してエッチング液の温度条件による中心偏析評価方法を適用した結果を示す。
実験条件:ピクリン酸1.5wt%、塩化第2銅(CuCl)1.0wt%、ナトリウムラウリルベンゼンスルホン酸(C1829SONa)3.0wt%、および残部蒸留水からなるエッチング液を適用する。スラブサンプルのエッチング液浸漬時間は2時間とした。
【表2】

表2に示すように、エッチング液の加熱温度が30〜80℃の範囲では解像度が十分であり、エッチング液の加熱温度が50〜80℃の範囲では解像度がさらに高かった。
【0083】
図6はスラブ中のS含量が200ppmの一般鋼(a)とスラブ中のS含量が24ppmの極低硫鋼(b)に対してサルファプリント方法を適用した結果を示す図である。
【0084】
図6に示すように、サルファプリント方法を適用すると、スラブ中のS含量が50ppm以下の極低硫鋼では、中心偏析が現出せず、解像度も非常に低く、凝固組織の確認も不可能である。
【0085】
図7はスラブ中のC含量が0.04wt%を超過する一般鋼のスラブの断面にマクロエッチング法を適用した結果を示す図、図8および図9はスラブ中のC含量が0.046wt%の中炭素鋼(a)とスラブ中のC含量が0.002wt%の低炭素鋼(b)に対して、それぞれマクロエッチング法、本発明の第2実施例に係る中心偏析評価方法を適用した結果を示す図である。
【0086】
図7および図8に示すように、マクロエッチング法によれば、炭素含量0.04wt%超過の中炭素鋼スラブでは微かに中心偏析を確認することができるが、炭素含量0.04wt%以下の低炭素鋼スラブ(図8の(b))では中心偏析を確認することが非常に困難である。
【0087】
これに対し、図9に示すような本発明の第2実施例の中心偏析評価方法を適用すると、炭素含量0.04wt%以下の低炭素鋼スラブ(図9の(b))からも高解像度の中心偏析イメージが確認される。また、炭素含量0.04wt%超過の中炭素鋼スラブ(図9の(a))の場合もマクロエッチング法の場合よりはっきりとした中心偏析イメージが現出する。
【0088】
第1実施例と第2実施例の方法によってスラブ中のS含量が50ppm以下の 極低硫鋼だけでなく、スラブ中のC含量が0.04wt%以下の低炭素鋼に対してもスラブの中心偏析を迅速に現出させ、偏析の分析によって連続鋳造工程の異常有無を確認することができる。
【0089】
(第3実施例)
本発明の別の実施例に係る連続鋳造スラブの中心偏析評価方法は、第1実施例および第2実施例のうちいずれか一つの方法でスラブの中心偏析をイメージとして現出させた後、現出したイメージをスキャンし、下記の関係式に適用してスラブの中心偏析を評価する方法である。
本発明の第3実施例は、上述した第1実施例および第2実施例とは異なり、現出した中心偏析イメージを用いてスラブの中心偏析を評価する過程をさらに含む。
スラブの中心偏析を評価する過程は、中心偏析を定量化する過程によって偏析のレベルを正確に把握することにより、鋳造の際に発生した工程上の異常を迅速に把握することができるようにする。
〈関係式〉は中心偏析分析法(H−TEC指数)と定義する。
中心偏析分析法(H−TEC指数)は、2.1+(0.15Y−8.7X)/(2.9×10)によって算出される。ここで、Xは中心偏析粒の面積であり、Yは中心偏析粒を除いた残りの偏析粒の面積である。
【0090】
中心偏析分析法(H−TEC)は、EPMA定量指数と比較するとき、相関係数が91%(R=83)と高い。よって、EPMA方法を代替することが可能である(図10参照)。
【0091】
具体的にその過程を考察すると、まず、現出した中心偏析のイメージをスキャンして電子ファイルにする。
【0092】
スラブ中心偏析をイメージとして現出させる方法は、第1実施例および第2実施例のうちいずれか一つの方法が使用できる。第1実施例および第2実施例のうちいずれか一つの方法でスラブ中心偏析のイメージを現出させる方法は、前述した第1実施例と第2実施例に詳細に記載されているので、その重複説明を省略する。
【0093】
現出した中心偏析イメージをスキャンして電子ファイルにした後には、中心偏析粒の面積、および前記中心偏析粒を除いた残りの偏析粒の面積を測定した後、式2.1+(0.15Y−8.7X)/(2.9×10)に代入してH−TEC指数を算出する。算出されたH−TEC指数で中心偏析の定量化が可能である。
【0094】
算出されたH−TEC指数から、極低硫鋼および極低炭素鋼を含む全ての鋼種の中心偏析を確認することが可能である。
【0095】
特に、第1実施例〜第3実施例を用いた連続鋳造スラブの中心偏析評価方法は、スラブの中心偏析イメージを現出させ、現出した中心偏析イメージを定量化して評価するために2時間程度の時間であれば十分である。
【0096】
これは、高価の装備および非常に細かく研磨されたスラブを必要とし、試片の処理および分析に長時間がかかるEPMA方法に比べて6分の1以下の短い時間で中心偏析を評価することのできる効果的な方法である。
【0097】
図10はH−TEC指数とEPMA中心偏析指数との関係を示すグラフである。
【0098】
図10は第1実施例および第2実施例の方法で現出させたスラブ中心偏析イメージを中心偏析分析法(H−TEC指数)で定量化した後、EPMA定量指数と比較したものである。
【0099】
図10に示すように、現出させた中心偏析イメージを定量化した中心偏析分析法(H−TEC指数)は、EPMA定量指数と比較して相関係数が91%(R=83)と高い。
【0100】
これにより、極低硫鋼だけでなく、低炭素鋼の鋳造時に発生した工程上の異常を迅速に把握して対応することが可能であることが分かる。
【0101】
このような本発明の基本的な技術的思想の範疇内において、当該分野における通常の知識を有する者であれば、様々な変形を加えることが可能である。本発明の権利範囲は添付した特許請求の範囲に基づいて解釈されるべきであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の重量%を有するピクリン酸(C)、塩化第2銅(CuCl)、ナトリウムラウリルベンゼンスルホン酸(C1829SONa)、所定の体積%を有するエタノール(COH)、および残部蒸留水からなるエッチング液にスラブを浸漬してエッチングする段階と、
エッチング済みのスラブの付着物を洗浄した後、乾燥させる段階と、
乾燥後にシリコングリースを前記スラブの表面に塗布する段階と、
前記シリコングリースを拭き取り、前記シリコングリースの塗布されたエッチング面を研磨する段階と、
透明接着テープをエッチング面に付着させる段階と、
前記透明接着テープを取り外して紙に付着させる段階と、
前記現出した結果に基づいて中心偏析を評価する段階と
を含んでなることを特徴とする、連続鋳造スラブの中心偏析評価方法。
【請求項2】
前記ピクリン酸(C)の重量%は1.5〜2.0wt%であり、前記塩化第2銅(CuCl)の重量%は0.5〜1.0wt%であり、前記ナトリウムラウリルベンゼンスルホン酸(C1829SONa)の重量%は1.0〜3.0wt%であることを特徴とする、請求項1に記載の連続鋳造スラブの中心偏析評価方法。
【請求項3】
前記エタノール(COH)の体積%は0超過10Vol%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の連続鋳造スラブの中心偏析評価方法。
【請求項4】
ピクリン酸(C)、塩化第2銅(CuCl)、ナトリウムラウリルベンゼンスルホン酸(C1829SONa)、および残部蒸留水からなるエッチング液にスラブサンプルを浸漬し加熱する段階と、
エッチング終了の後、スラブサンプルを洗浄し乾燥させる段階と、
乾燥したスラブサンプルの表面にシリコングリースを塗布する段階と、
前記シリコングリースを拭き取り、前記シリコングリースの塗布された面を研磨する段階と、
透明接着テープを、研磨した面に付着させた後、取り外し、紙に付着させて凝固組織のイメージを現出させる段階と
を含んでなることを特徴とする、連続鋳造スラブの中心偏析評価方法。
【請求項5】
前記ピクリン酸(C)の重量%は1.5〜2.0wt%であり、前記塩化第2銅(CuCl)の重量%は0.5〜1.0wt%であり、前記ナトリウムラウリルベンゼンスルホン酸(C1829SONa)の重量%は1.0〜3.0wt%であることを特徴とする、請求項4に記載の連続鋳造スラブの中心偏析評価方法。
【請求項6】
前記エッチング液の加熱温度は30〜80℃であることを特徴とする、請求項4に記載の連続鋳造スラブの中心偏析評価方法。
【請求項7】
前記エッチング液の加熱温度は50〜80℃であることを特徴とする、請求項4に記載の連続鋳造スラブの中心偏析評価方法。
【請求項8】
前記スラブは、炭素(C)含量が0.04wt%以下の低炭素鋼、または硫黄(S)含量が50ppm以下の極低硫鋼であることを特徴とする、請求項4〜7のいずれか1項に記載の連続鋳造スラブの中心偏析評価方法。
【請求項9】
(A)スラブの中心偏析をイメージとして現出させる段階と、
(B)前記現出したイメージをスキャンし、下記関係式に適用してスラブの中心偏析を評価する段階とを含んでなることを特徴とする、連続鋳造スラブの中心偏析評価方法。
<関係式>
2.1+(0.15Y−8.7X)/(2.9×10
(式中、Xは中心偏析粒の面積、Yは中心偏析粒を除いた残りの偏析粒の面積をそれぞれ表わす。)
【請求項10】
前記(A)段階は、
ピクリン酸(C)、塩化第2銅(CuCl)、ナトリウムラウリルベンゼンスルホン酸(C1829SONa)、および残部蒸留水からなるエッチング液にスラブサンプルを浸漬し、加熱する段階と、
エッチング終了の後、スラブサンプルを洗浄し乾燥させる段階と、
乾燥したスラブサンプルの表面にシリコングリースを塗布する段階と、
前記シリコングリースを拭き取り、前記シリコングリースの塗布された面を研磨する段階と、
透明接着テープを、研磨した面に付着させた後、取り外し、紙に付着させて偏析イメージを現出させる段階とを含んでなることを特徴とする、請求項9に記載の連続鋳造スラブの中心偏析評価方法。
【請求項11】
前記ピクリン酸(C)の重量%は1.5〜2.0wt%であり、前記塩化第2銅(CuCl)の重量%は0.5〜1.0wt%であり、前記ナトリウムラウリルベンゼンスルホン酸(C1829SONa)の重量%は1.0〜3.0wt%であることを特徴とする、請求項10に記載の連続鋳造スラブの中心偏析評価方法。
【請求項12】
前記エッチング液の加熱温度は30〜80℃であることを特徴とする、請求項10に記載の連続鋳造スラブの中心偏析評価方法。
【請求項13】
前記エッチング液の加熱温度は50〜80℃であることを特徴とする、請求項10に記載の連続鋳造スラブの中心偏析評価方法。
【請求項14】
前記(B)段階は、
前記現出したイメージをスキャンして電子ファイルにする段階と、
中心偏析粒の面積、および前記中心偏析粒を除いた残り偏析粒の面積を測定する段階とを含んでなることを特徴とする、請求項9に記載の連続鋳造スラブの中心偏析評価方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6(a)】
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【図6(b)】
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【図7】
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【図8(a)】
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【図8(b)】
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【図9(a)】
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【図9(b)】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−529043(P2012−529043A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513885(P2012−513885)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【国際出願番号】PCT/KR2010/004129
【国際公開番号】WO2011/013907
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(510307299)ヒュンダイ スチール カンパニー (14)
【Fターム(参考)】