説明

連続鋳造ロール支持用転動部材および連続鋳造ロール支持用転がり軸受

【課題】高い耐食性を有するとともに十分な硬度、特に高温における十分な硬度を有することにより転動疲労寿命を向上させた連続鋳造ロール支持用転動部材および連続鋳造ロール支持用転がり軸受を提供する。
【解決手段】連続鋳造される鋳造物をガイドするための連続鋳造ロール11をスタンド13に対して軸支するために使用される自動調心ころ軸受20および自動調心輪付き円筒ころ軸受30に用いられる外輪、内輪、ころ、円筒ころは、0.005質量%以上0.1質量%以下の炭素と、2.0質量%以上5.0質量%以下の珪素と、0.5質量%以上2.0質量%以下のマンガンと、8.0質量%以上13.0質量%以下のクロムと、4.0質量%以上10.0質量%以下のニッケルと、1.0質量%以上5.0質量%以下の銅とを含有し、残部鉄および不可避的不純物からなる鋼から構成され、55HRC以上の硬度を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は連続鋳造ロール支持用転動部材および連続鋳造ロール支持用転がり軸受に関し、より特定的には、連続鋳造される鋳造物をガイドするための連続鋳造ロールをスタンドに対して軸支するために使用される連続鋳造ロール支持用転がり軸受に用いられる連続鋳造ロール支持用転動部材および連続鋳造ロール支持用転がり軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼などの金属の連続鋳造設備において、連続鋳造される鋳造物と接触して当該鋳造物をガイドするためのガイドロールやピンチロールなどの連続鋳造ロールを、当該連続鋳造ロールを支持するためのスタンドに対して軸支する連続鋳造ロール支持用転がり軸受は、高温環境下で使用されるだけでなく、連続鋳造ロール支持用転動部材としての軌道部材と、連続鋳造ロール支持用転動部材としての転動体との間の接触面圧の高い高接触面圧環境において使用される。また、連続鋳造ロール支持用転がり軸受は、鋳造物の表面に生成した酸化皮膜などの硬質の異物(スラッジ)が潤滑油に混入する異物混入環境において使用される。さらに、連続鋳造設備はその性質上、運転と停止とを繰返す間欠運転が実施される場合も多い。また、冷却水などが軸受内部に侵入する可能性もある。そのため、連続鋳造ロール支持用転がり軸受においては、転動体と軌道部材との間に十分な油膜が形成されないおそれがある。さらに、軸受内部に侵入した水に起因して、置き錆(運転の停止中に軸受内部に発生する接触錆)が発生するという問題点もある。
【0003】
このような苛酷な環境下において使用されるため、連続鋳造ロール支持用転がり軸受の転動疲労寿命を向上させるためには、連続鋳造ロール支持用転がり軸受を構成する連続鋳造ロール支持用転動部材は、耐食性に優れているだけでなく、硬度、特に連続鋳造ロール支持用転がり軸受の使用環境である高温環境下における硬度が高いことが求められる。
【0004】
これに対し、連続鋳造ロール支持用転がり軸受の転動疲労寿命を向上させる方策に関して多くの検討が行なわれている。そして、浸炭処理または浸炭窒化処理と材料組成の適切な選択とを組み合わせるもの(たとえば特許文献1参照)、中心偏析を抑制した素材を採用したもの(たとえば特許文献2参照)、密封手段の軸方向占有幅を縮小することで軸方向の寸法の大きい軸受を採用可能とするもの(たとえば特許文献3参照)など種々の対策が提案されている。
【特許文献1】特開平11−62946号公報
【特許文献2】特開平7−127643号公報
【特許文献3】特開2000−343190号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
連続鋳造ロール支持用転がり軸受が使用される連続鋳造ラインにおいては、連続鋳造ロール支持用転がり軸受の交換等に起因したラインの運転停止時間を抑制し、生産効率を向上させることが望まれている。そのため、連続鋳造ロール支持用転動部材および連続鋳造ロール支持用転がり軸受に対しては、一層の長寿命化の要求がある。さらに、近年、連続鋳造設備のコンパクト化やメンテナンス頻度の低減が進められており、連続鋳造ロール支持用転がり軸受の使用環境の高温化や水浸入への対策は、今後ますます重要になると考えられる。そして、上述の特許文献1〜3に記載された転がり軸受の構成では、転動部材の硬度、特に高温での硬度と耐食性とが必ずしも十分なレベルで両立しないという問題点がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、高い耐食性を有するとともに、十分な硬度、特に高温における十分な硬度を有することにより転動疲労寿命を向上させた連続鋳造ロール支持用転動部材および連続鋳造ロール支持用転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に従った連続鋳造ロール支持用転動部材は、連続鋳造される鋳造物をガイドするための連続鋳造ロールをスタンドに対して軸支するために使用される連続鋳造ロール支持用転がり軸受に用いられる連続鋳造ロール支持用転動部材である。そして、当該連続鋳造ロール支持用転動部材は、0.005質量%以上0.1質量%以下の炭素と、2.0質量%以上5.0質量%以下の珪素と、0.5質量%以上2.0質量%以下のマンガンと、8.0質量%以上13.0質量%以下のクロムと、4.0質量%以上10.0質量%以下のニッケルと、1.0質量%以上5.0質量%以下の銅とを含有し、残部鉄および不可避的不純物からなる鋼から構成されており、55HRC以上の硬度を有している。
【0008】
本発明の連続鋳造ロール支持用転動部材によれば、上記成分範囲の鋼からなることにより、高い耐食性、具体的には一般的な耐食軸受用鋼であるSUS440Cを超える耐食性を有するとともに、軸受を構成する転動部材として十分な硬度、具体的には55HRC以上が確保されている。
【0009】
ここで、本発明の連続鋳造ロール支持用転動部材を構成する鋼の成分範囲を上述の範囲に限定した理由の詳細について説明する。
【0010】
炭素:0.005質量%以上0.1質量%以下
炭素含有量が高くなると耐食性が低下するため、炭素量は少ないことが好ましい。特に、炭素量が0.1質量%を超えると、耐食性が明確に低下する。一方、炭素は、鋼の製造工程において鋼中に不可避に含有される。そのため、炭素量を0.005質量%未満にまで低下させることは、鋼の製造コストを上昇させ、転動部材の製造コスト上昇を招来する。そのため、炭素量は、0.005質量%以上0.1質量%以下である。
【0011】
珪素:2.0質量%以上5.0質量%以下
珪素は、本発明の連続鋳造ロール支持用転動部材を構成する鋼中において、微細な金属間化合物として鋼中に析出することにより、析出硬化による硬度向上、特に高温での硬度向上に寄与する重要な元素である。含有量が2.0質量%未満では、析出する金属間化合物の量が不十分であるため、上述の硬度向上の効果が十分発揮されない。一方、含有量が5.0質量%を超えると、鋼材から転動部材への加工の容易性が低下し、連続鋳造ロール支持用転動部材の製造コストが上昇する。そのため、珪素量は2.0質量%以上5.0質量%以下である。なお、特に高い硬度が要求される用途に連続鋳造ロール支持用転動部材が使用される場合、珪素量は3.5質量%以上であることが好ましい。
【0012】
マンガン:0.5質量%以上2.0質量%以下
マンガンは鋼に含有されることによって、当該鋼からなる連続鋳造ロール支持用転動部材の転動疲労寿命を向上させる。マンガン量が0.5質量%未満では、転動疲労寿命向上の効果は小さい。一方、連続鋳造ロール支持用転動部材を構成する鋼のマンガン含有量が2.0質量%を超える場合、素材の硬度が上昇し、冷間加工性が低下するため、加工コストが上昇する。そのため、マンガン量は0.5質量%以上2.0質量%以下である。
【0013】
クロム:8.0質量%以上13.0質量%以下
クロムは、本発明の連続鋳造ロール支持用転動部材において耐食性の向上を担う重要な元素である。クロム含有量が8.0質量%未満では、緻密なクロム酸化物の皮膜が連続鋳造ロール支持用転動部材の表面に十分に形成されず、耐食性を十分に向上させることができない。一方、クロムは比較的高価な合金元素であるため、クロム含有量が13.0質量%を超えると、素材のコストが一般的な連続鋳造ロール支持用転動部材の許容範囲を超えて上昇する。そのため、クロム含有量は、8.0質量%以上13.0質量%以下である。なお、耐食性を一層向上させるためには、クロム含有量は10.0質量%以上であることが好ましい。
【0014】
ニッケル:4.0質量%以上10.0質量%以下
ニッケルは、本発明の連続鋳造ロール支持用転動部材を構成する鋼に含有されることにより、当該鋼の耐食性の向上に寄与する。含有量が4.0質量%未満では、耐食性向上の効果が小さい。一方、10.0質量%を超えると、鋼材から転動部材への加工の容易性が低下し、連続鋳造ロール支持用転動部材の製造コストが上昇する。したがって、ニッケル含有量は、4.0質量%以上10.0質量%以下である。
【0015】
銅:1.0質量%以上5.0質量%以下
銅は、珪素と同様に、本発明の連続鋳造ロール支持用転動部材を構成する鋼において、析出硬化による硬度向上、特に高温での硬度向上に寄与する重要な元素である。含有量が1.0質量%未満では、上述の硬度向上の効果が十分発揮されない。一方、含有量が5.0質量%を超えると、鋼材の熱間加工性が低下する。そのため、銅量は1.0質量%以上5.0質量%以下である。なお、特に高い硬度が要求される用途に連続鋳造ロール支持用転動部材が使用される場合、銅量は3.0質量%以上であることが好ましい。また、熱間加工性と硬度とのバランスの観点から、銅量は3.5質量%以上4.5質量%以下とすることが、より好ましい。
【0016】
本発明に従った連続鋳造ロール支持用転がり軸受は、軌道部材と、軌道部材に接触し、円環状の軌道上に配置される複数の転動体とを備えている。そして、軌道部材および転動体の少なくともいずれか一方は、上述の連続鋳造ロール支持用転動部材である。
【0017】
本発明の連続鋳造ロール支持用転がり軸受によれば、高い耐食性および十分な硬度、特に高温での十分な硬度を有する上述の転動部材を備えているため、耐食性および転動疲労寿命に優れた連続鋳造ロール支持用転がり軸受を提供することができる。
【0018】
上記本発明の連続鋳造ロール支持用転動部材の製造方法は、鋼材準備工程と、成形工程と、熱処理工程とを備えている。鋼材準備工程では、0.005質量%以上0.1質量%以下の炭素と、2.0質量%以上5.0質量%以下の珪素と、0.5質量%以上2.0質量%以下のマンガンと、8.0質量%以上13.0質量%以下のクロムと、4.0質量%以上10.0質量%以下のニッケルと、1.0質量%以上5.0質量%以下の銅とを含有し、残部鉄および不可避的不純物からなる鋼から構成される鋼材が準備される。成形工程では、鋼材が成形されることにより、連続鋳造ロール支持用転動部材の概略形状に成型された鋼製部材が作製される。熱処理工程では、当該鋼製部材が熱処理される。
【0019】
そして、熱処理工程は、鋼製部材を1000℃以上1100℃以下の温度からM点以下の温度に冷却する固溶化工程と、固溶化工程においてM点以下の温度に冷却された鋼製部材を400℃以上500℃以下の温度に加熱することにより析出硬化させる析出硬化工程とを含んでいる。
【0020】
上記連続鋳造ロール支持用転動部材の製造方法によれば、上述の成分範囲の鋼が鋼材準備工程において準備される鋼材として採用されることにより、上述のように、連続鋳造ロール支持用転動部材に高い耐食性と硬度とを付与することが可能となる。そして、当該鋼材が成形工程において成形された後、熱処理工程で適切な熱処理を施されることにより、高い耐食性を有するとともに転動疲労寿命に優れた連続鋳造ロール支持用転動部材を製造することができる。
【0021】
すなわち、成形工程において作製された鋼製部材を構成する鋼の組織中には、圧延、鍛造等の際に受けた加熱および冷却の履歴に応じた種々の大きさの珪素を含む金属間化合物や銅を多く含む相(銅リッチ層)が析出している。熱処理工程に含まれる固溶化工程において、鋼製部材がA点以上の温度である1000℃以上1100℃以下の温度に加熱されることにより、珪素や銅は、オーステナイト化した鋼の素地中に固溶する。そして、当該温度域からM点以下急冷された後、析出硬化工程において400℃以上500℃以下の温度に加熱されることにより、マルテンサイト化した鋼の素地中に珪素を含む金属間化合物や銅リッチ相が微細に析出する。
【0022】
そのため、鋼が析出硬化されて、連続鋳造ロール支持用転動部材として必要な硬度である55HRC以上の硬度を確保することができる。その結果、連続鋳造ロール支持用転動部材に対して高い転動疲労強度を付与することができる。
【0023】
ここで、固溶化工程における鋼製部材の加熱温度が1000℃未満では、鋼製部材を構成する鋼が含有する珪素および銅が十分に固溶せず、これらの含有元素を十分に活用できない。そのため、当該加熱温度は1000℃以上とする必要がある。一方、1100℃を超えてさらに当該加熱温度を上昇させても、珪素および銅の固溶量はほとんど増加しないため、当該加熱を実施する加熱炉の耐久性や加熱を実施するためのコストを考慮すると、当該加熱温度が1100℃を超えることは好ましいとはいえない。
【0024】
また、析出硬化工程における加熱温度が400℃未満では、固溶化工程において鋼の素地中に固溶した珪素および銅がほとんど析出せず、析出硬化による硬度上昇の効果が十分に得られない。一方、析出硬化工程における加熱温度が上昇すると、析出した珪素を含む金属間化合物や銅リッチ相のサイズが大きくなるとともに、その数が減少する。その結果、析出した珪素を含む金属間化合物や銅リッチ相による析出硬化の効果が小さくなる。加熱温度が500℃を超えるとこのような現象が顕著となり、55HRC以上の硬度を確保することが困難となる。そのため、析出硬化工程における加熱温度は500℃以下であることが好ましい。さらに、析出した珪素を含む金属間化合物や銅リッチ相は、その直径が小さく、かつ数が多いほうが上記効果が大きいため、当該加熱温度は400℃以上450℃以下であることが、より好ましい。
【0025】
なお、上述の金属間化合物や銅リッチ相の直径は、たとえば連続鋳造ロール支持用転動部材から、薄膜試料を作成し、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)を用いて観察される当該金属間化合物や銅リッチ相の幅の最も大きい部分と最も小さい部分との平均値を直径として算出することができる。また、上述のように、金属間化合物や銅リッチ相は、数が多い(数密度が高い)ことが好ましい。具体的には、TEM観察において100万倍(視野面積10000nm)の条件でたとえば10視野観察し、直径10nm以下の金属間化合物および銅リッチ相が合計で平均50個以上(0.005個/nm以上)確認されることが、析出硬化による硬度の向上の観点から好ましい。
【0026】
さらに、連続鋳造ロール支持用転動部材を構成する鋼においては、8.0質量%以上のクロムと、4.0質量%以上のニッケルとが含有されており、かつ炭素の含有量が0.1質量%以下に抑制されている。そのため、炭素による耐食性の低下が回避されるとともに、十分な量のクロムが含有されているため、連続鋳造ロール支持用転動部材の表面に緻密なクロム酸化物の皮膜が十分に形成されて耐食性が向上し、かつニッケルを含有することにより耐食性がさらに向上している。
【0027】
また、上記製造方法においては、表面硬化処理などの製造コストを上昇させる工程が含まれていないため、連続鋳造ロール支持用転動部材の製造コストが抑制される。
【0028】
以上のように、上記連続鋳造ロール支持用転動部材の製造方法によれば、高い耐食性を有するとともに転動疲労寿命に優れた連続鋳造ロール支持用転動部材を製造することができる。
【0029】
上記本発明の連続鋳造ロール支持用転がり軸受の製造方法は、軌道部材を製造する軌道部材製造工程と、転動体を製造する転動体製造工程と、軌道部材製造工程において製造された軌道部材と、転動体製造工程において製造された転動体とを組み合わせることにより、転がり軸受を組立てる組立工程とを備えている。そして、軌道部材製造工程および転動体製造工程の少なくともいずれか一方は、上述の連続鋳造ロール支持用転動部材の製造方法により実施される。
【0030】
上記本発明の連続鋳造ロール支持用転がり軸受の製造方法によれば、上述の高い耐食性を有するとともに転動疲労寿命に優れた連続鋳造ロール支持用転動部材を製造可能な連続鋳造ロール支持用転動部材の製造方法により軌道部材製造工程および転動体製造工程の少なくともいずれか一方が実施されるため、耐食性および転動疲労寿命に優れた連続鋳造ロール支持用転がり軸受を製造することができる。なお、一層耐食性および転動疲労寿命に優れた連続鋳造ロール支持用転がり軸受を製造するためには、軌道部材製造工程および転動体製造工程の両方が上述の連続鋳造ロール支持用転動部材の製造方法により実施されることが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
以上の説明から明らかなように、本発明の連続鋳造ロール支持用転動部材および連続鋳造ロール支持用転がり軸受によれば、高い耐食性を有するとともに、転動疲労寿命に優れた連続鋳造ロール支持用転動部材および連続鋳造ロール支持用転がり軸受を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0033】
図1は、本発明の一実施の形態における連続鋳造ロール支持用転動部材を備えた連続鋳造ロール支持用転がり軸受としての自動調心ころ軸受(スフェリカル軸受)および自動調心輪付き円筒ころ軸受が配置された連続鋳造ロールの支持構造を示す概略断面図である。図1を参照して、本実施の形態に係る連続鋳造ロールの支持構造を説明する。
【0034】
図1を参照して、連続鋳造ロール11は、中央部に、連続鋳造される鋳造物に接触し、当該鋳造物をガイドするための円柱状のロール部111を有している。また、連続鋳造ロール11の一方の端部には、ロール部111よりも直径の小さい円柱状の固定端ロールネック112Aが形成されている。さらに、連続鋳造ロール11の他方の端部には、連続鋳造ロール11の熱膨張による軸方向への伸びが吸収される側のロールネックである、ロール部111よりも直径の小さい円柱状の自由端ロールネック112Bが形成されている。
【0035】
また、連続鋳造ロール11を保持するためのスタンド13は、円筒状の貫通穴であるロール保持部13Aを有している。そして、固定端ロールネック112Aおよび自由端ロールネック112Bがロール保持部13Aを貫通するように、連続鋳造ロール11およびスタンド13は配置されている。さらに、固定端ロールネック112Aの外周面とロール保持部13Aの内周面との間には、自動調心ころ軸受20が配置されている。また、自由端ロールネック112Bの外周面とロール保持部13Aの内周面との間には、自動調心輪付き円筒ころ軸受30が配置されている。これにより、連続鋳造ロール11は、スタンド13に対して軸まわりに回転自在に保持されており、連続鋳造される鋳造物をガイドすることができる。
【0036】
次に、自動調心ころ軸受20および自動調心輪付き円筒ころ軸受30について説明する。図2は、本発明の一実施の形態における連続鋳造ロール支持用転がり軸受としての自動調心ころ軸受の構成を示す概略断面図である。また、図3は、本発明の他の実施の形態における連続鋳造ロール支持用転がり軸受としての自動調心輪付き円筒ころ軸受の構成を示す概略断面図である。
【0037】
図2を参照して、本発明の一実施の形態における連続鋳造ロール支持用転がり軸受としての自動調心ころ軸受20は、連続鋳造ロール支持用転動部材としての環状の2つの外輪21と、外輪21の内側に配置された環状の内輪22と、外輪21と内輪22との間に配置され、円環状の保持器24に保持された連続鋳造ロール支持用転動部材としての樽状の形状を有する複数のころ23とを備えている。
【0038】
外輪21の内周面には外輪転走面21Aが形成されており、内輪22の外周面には内輪転走面22Aが形成されている。そして、内輪転走面22Aが、2つの外輪転走面21Aに対向するように、2つの外輪21と1つの内輪22とは配置されている。さらに、複数のころ23は、外輪転走面21Aのそれぞれに沿って、外輪転走面21Aと内輪転走面22Aとに接触し、かつ保持器24に保持されて周方向に所定のピッチで配置されることにより2列の円環状の軌道上に転動自在に保持されている。以上の構成により、自動調心ころ軸受20の外輪21および内輪22は、互いに相対的に回転可能となっている。
【0039】
また、外輪転走面21Aは、軸受中心Cを中心とする球面となっている。そのため、外輪21および内輪22は、ころ23の転走方向に垂直な断面において、軸受中心Cを中心として角度をなすことができる。その結果、図1を参照して、連続鋳造ロール11が鋳造物をガイドすることにより撓んだ場合であっても、スタンド13は、自動調心ころ軸受20を介して連続鋳造ロール11を安定して回転自在に保持することができる。
【0040】
一方、図3を参照して、本発明の他の実施の形態における連続鋳造ロール支持用転がり軸受としての自動調心輪付き円筒ころ軸受30は、連続鋳造ロール支持用転動部材としての環状の外輪31と、外輪31の内側に配置された環状の内輪32と、外輪31と内輪32との間に配置された連続鋳造ロール支持用転動部材としての円筒状の形状を有する複数の円筒ころ33と、外輪31の外周面31Bに内周面35Aにおいて接触する環状の自動調心輪35とを備えている。
【0041】
外輪31の内周面には外輪転走面31Aが形成されており、内輪32の外周面には内輪転走面32Aが形成されている。そして、内輪転走面32Aと外輪転走面31Aとが対向するように、外輪31と内輪32とは配置されている。さらに、複数の円筒ころ33は、外輪転走面31Aと内輪転走面32Aとに接触し、周方向に並べて配置されることにより円環状の軌道上に転動自在に保持されている。以上の構成により、自動調心輪付き円筒ころ軸受30の外輪31および内輪32は、互いに相対的に回転可能となっている。
【0042】
また、外輪31の外周面31Bと、自動調心輪35の内周面35Aとは、軸受中心Cを中心とする球面となっており、互いに摺動可能に構成されている。そのため、外輪31および自動調心輪35は、円筒ころ33の転走方向に垂直な断面において、軸受中心Cを中心として角度をなすことができる。その結果、図1を参照して、連続鋳造ロール11が鋳造物をガイドすることにより撓んだ場合であっても、スタンド13は、自動調心輪付き円筒ころ軸受30を介して連続鋳造ロール11を安定して回転自在に保持することができる。
【0043】
ここで、本実施の形態の連続鋳造ロール支持用転動部材である軌道部材としての外輪21,31、内輪22,32および転動体としてのころ23および円筒ころ33は、連続鋳造される鋳造物をガイドするための連続鋳造ロール11をスタンド13に対して軸支するために使用される連続鋳造ロール支持用転がり軸受としての自動調心ころ軸受20および自動調心輪付き円筒ころ軸受30に用いられる連続鋳造ロール支持用転動部材である。そして、当該連続鋳造ロール支持用転動部材は、0.005質量%以上0.1質量%以下の炭素と、2.0質量%以上5.0質量%以下の珪素と、0.5質量%以上2.0質量%以下のマンガンと、8.0質量%以上13.0質量%以下のクロムと、4.0質量%以上10.0質量%以下のニッケルと、1.0質量%以上5.0質量%以下の銅とを含有し、残部鉄および不可避的不純物からなる鋼から構成され、55HRC以上の硬度を有している。
【0044】
本実施の形態の連続鋳造ロール支持用転動部材としての外輪21,31、内輪22,32、ころ23および円筒ころ33においては、8.0質量%以上のクロムと、4.0質量%以上のニッケルとが含有されており、かつ炭素の含有量が0.1質量%以下に抑制された鋼からなっている。そのため、炭素による耐食性の低下が回避されるとともに、十分な量のクロムが含有されているため、転動部材の表面に緻密なクロム酸化物の皮膜が十分に形成されて耐食性が向上し、かつニッケルを含有することにより耐食性がさらに向上している。
【0045】
さらに、本実施の形態の連続鋳造ロール支持用転動部材としての外輪21,31、内輪22,32、ころ23および円筒ころ33は、2.0質量%以上の珪素と、1.0質量%以上の銅とを含有し、55HRC以上の硬度を有している。そのため、自動調心ころ軸受20および自動調心輪付き円筒ころ軸受30を構成する連続鋳造ロール支持用転動部材として必要な硬度が確保され、転動疲労寿命が向上している。
【0046】
以上のように、本実施の形態の連続鋳造ロール支持用転動部材としての外輪21,31、内輪22,32、ころ23および円筒ころ33は、高い耐食性を有するとともに、転動疲労寿命に優れている。
【0047】
なお、所定の転動疲労寿命を確保するためには、上述の55HRC以上の硬度は、連続鋳造ロール支持用転動部材としての外輪21,31、内輪22,32、ころ23および円筒ころ33の転走面(他の転動部材と接触する表面)において達成されていればよい。しかし、連続鋳造ロール支持用転動部材に負荷される荷重が大きい用途においては、転走面だけでなく連続鋳造ロール支持用転動部材全体(表層部および芯部)において達成されていることが好ましい。
【0048】
さらに、本実施の形態の自動調心ころ軸受20および自動調心輪付き円筒ころ軸受30は、高い耐食性を有するとともに、転動疲労寿命に優れた上述の外輪21、内輪22、ころ23および外輪31、内輪32、円筒ころ33をそれぞれ備えているため、耐食性および転動疲労寿命に優れた自動調心ころ軸受20および自動調心輪付き円筒ころ軸受30となっている。
【0049】
次に、本発明の一実施の形態における連続鋳造ロール支持用転動部材、自動調心ころ軸受20および自動調心輪付き円筒ころ軸受30の製造方法について説明する。図4は、本発明の一実施の形態における自動調心ころ軸受および自動調心輪付き円筒ころ軸受の製造方法の概略を示す図である。また、図5は、本発明の一実施の形態における自動調心ころ軸受および自動調心輪付き円筒ころ軸受の製造方法に含まれる連続鋳造ロール支持用転動部材の製造方法の概略を示す図である。
【0050】
図4を参照して、本発明の一実施の形態における自動調心ころ軸受20および自動調心輪付き円筒ころ軸受30の製造方法においては、まず、軌道部材を製造する軌道部材製造工程と、転動体を製造する転動体製造工程とが実施される。具体的には、軌道部材製造工程では、転動部材としての外輪21,31、内輪22,32などが製造される。一方、転動体製造工程では、ころ23、円筒ころ33などが製造される。
【0051】
そして、軌道部材製造工程において製造された軌道部材と、転動体製造工程において製造された転動体とを組み合わせることにより、自動調心ころ軸受20および自動調心輪付き円筒ころ軸受30を組立てる組立工程が実施される。具体的には、たとえば外輪21および内輪22と、ころ23と、別途準備された保持器24とを組み合わせることにより、自動調心ころ軸受20が組立てられる。そして、この軌道部材製造工程および転動体製造工程は、たとえば以下の連続鋳造ロール支持用転動部材の製造方法により実施される。
【0052】
図5を参照して、本発明の一実施の形態における連続鋳造ロール支持用転動部材の製造方法においては、まず、0.005質量%以上0.1質量%以下の炭素と、2.0質量%以上5.0質量%以下の珪素と、0.5質量%以上2.0質量%以下のマンガンと、8.0質量%以上13.0質量%以下のクロムと、4.0質量%以上10.0質量%以下のニッケルと、1.0質量%以上5.0質量%以下の銅とを含有し、残部鉄および不可避的不純物からなる鋼から構成される鋼材を準備する鋼材準備工程が実施される。具体的には、たとえば上記成分を有する棒鋼や鋼線などが準備される。
【0053】
次に、図5を参照して、上記鋼材を成形することにより、連続鋳造ロール支持用転動部材の概略形状に成型された鋼製部材を作製する成形工程が実施される。具体的には、たとえば上記棒鋼や鋼線などに対して鍛造、旋削などの加工が実施されることにより、外輪21,31、内輪22,32、ころ23、円筒ころ33などの概略形状に成型された鋼製部材が作製される。
【0054】
次に、上記鋼製部材を熱処理する熱処理工程が実施される。熱処理工程は、鋼製部材を1000℃以上1100℃以下の温度からM点以下の温度に冷却する固溶化工程と、固溶化工程において固溶化された鋼製部材を400℃以上500℃以下の温度に加熱することにより析出硬化させる析出硬化工程とを含んでいる。この熱処理工程の詳細については後述する。
【0055】
次に、図5を参照して、仕上げ工程が実施される。具体的には、熱処理工程が実施された鋼製部材に対して研削加工などの仕上げ加工が実施されることにより、外輪21,31、内輪22,32、ころ23、円筒ころ33などが仕上げられる。これにより、本実施の形態における連続鋳造ロール支持用転動部材としての外輪21,31、内輪22,32、ころ23、円筒ころ33などが完成する。
【0056】
次に、熱処理工程の詳細について説明する。図6は、連続鋳造ロール支持用転動部材の製造方法に含まれる熱処理工程の詳細を説明するための図である。図6において、横方向は時間を示しており右に行くほど時間が経過していることを示している。また、図6において、縦方向は温度を示しており上に行くほど温度が高いことを示している。図6を参照して、本実施の形態における連続鋳造ロール支持用転動部材の製造方法に含まれる熱処理工程の詳細について説明する。
【0057】
図6を参照して、まず、鋼製部材を1000℃以上1100℃以下の温度からM点以下の温度に冷却することにより、鋼製部材を固溶化する固溶化工程が実施される。具体的には、成形工程において作製された鋼製部材がA点以上の温度である1000℃以上1100℃以下の温度、たとえば1050℃に加熱されて、5分間以上30分間以下の時間、たとえば10分間保持される。これにより、鋼製部材を構成する鋼が含有する珪素および銅がオーステナイト化した当該鋼の素地中に固溶する。その後、鋼製部材は、水中に浸漬されることにより、1000℃以上1100℃以下の温度、たとえば1050℃からM点以下の温度に冷却される(水冷)。これにより、熱処理工程に含まれる固溶化工程が完了する。
【0058】
このとき、鋼製部材が1000℃以上1100℃以下の温度に加熱された後、急冷(水冷)されることにより、鋼の素地中に固溶した珪素および銅は、金属間化合物および銅リッチ相として析出することなく、マルテンサイト化した当該鋼の素地中に固溶した状態を保っている。
【0059】
なお、鋼の素地中に固溶した珪素および銅を金属間化合物および銅リッチ相として析出させることなく、上記冷却後においても当該鋼の素地中に固溶した状態を保つためには、鋼製部材が固溶化工程においてM点以下の温度に冷却される際に、当該金属間化合物および銅リッチ相が析出する450℃以上の温度域で急冷されている必要がある。そのため、鋼製部材が固溶化工程においてM点以下の温度に冷却される際の冷却速度は、450℃、好ましくは400℃以下になるまでの期間において、500℃/秒以上であることが好ましい。
【0060】
ここで、A点とは鋼を加熱した場合に、鋼の組織がフェライトからオーステナイトに変態を開始する温度に相当する点をいう。また、M点とはオーステナイト化した鋼が冷却される際に、マルテンサイト化を開始する温度に相当する点をいう。
【0061】
次に、図6を参照して、固溶化工程において固溶化された鋼製部材を400℃以上500℃以下の温度に加熱することにより析出硬化させる析出硬化工程が実施される。具体的には、固溶化工程において固溶化された鋼製部材がA点以下の温度である400℃以上500℃以下の温度、たとえば450℃に加熱されて、30分間以上240分間以下の時間、たとえば120分間保持された後、空気中で放冷される(空冷)。これにより、鋼製部材を構成する鋼の素地中に固溶している珪素および銅が、それぞれ金属間化合物および銅リッチ相としてマルテンサイト化した当該素地中に微細に析出する。
【0062】
このとき、鋼製部材が400℃以上500℃以下の温度に加熱されることにより析出した金属間化合物および銅リッチ相は、たとえば直径が10nm以下である。そのため、当該鋼は析出硬化され、鋼製部材は軸受として機能するために必要な硬度である55HRC以上の硬度に硬化されている。その結果、本実施の形態の連続鋳造ロール支持用転動部材の製造方法により製造された連続鋳造ロール支持用転動部材は転動疲労寿命に優れている。以上のようにして、熱処理工程に含まれる析出硬化工程が完了する。
【0063】
以上のように、本実施の形態における連続鋳造ロール支持用転動部材の製造方法によれば、8.0質量%以上のクロムと、4.0質量%以上のニッケルとが含有されており、かつ炭素の含有量が0.1質量%以下に抑制された鋼が鋼材準備工程において準備される鋼材として採用されることにより、炭素による耐食性の低下が回避されるとともに、十分な量のクロムが含有されているため、連続鋳造ロール支持用転動部材の表面に緻密なクロム酸化物の皮膜が十分に形成されて耐食性が向上し、かつニッケルを含有することにより耐食性がさらに向上している。そのため、連続鋳造ロール支持用転動部材に高い耐食性を付与することが可能となっている。
【0064】
さらに、当該鋼材が成形工程において成形された後、熱処理工程で適切な熱処理を施されることにより、大きさが10nm以下の珪素を含む金属間化合物および銅リッチ相が当該鋼の素地中に析出するため、55HRC以上の硬度を連続鋳造ロール支持用転動部材に付与することが可能となり、転動疲労寿命に優れた連続鋳造ロール支持用転動部材を製造することができる。
【0065】
なお、上記実施の形態においては、本発明の連続鋳造ロール支持用転がり軸受および連続鋳造ロール支持用転動部材の一例として自動調心ころ軸受、自動調心輪付き円筒ころ軸受およびこれらが備える転動部材について説明したが、本発明の連続鋳造ロール支持用転がり軸受および連続鋳造ロール支持用転動部材はこれらに限られず、任意の形式の連続鋳造ロール支持用転がり軸受および連続鋳造ロール支持用転動部材に適用することができる。たとえば、連続鋳造ロール支持用転動部材である転動体は、円すいころであって、連続鋳造ロール支持用転がり軸受は円すいころ軸受であってもよい。
【実施例1】
【0066】
以下、本発明の実施例1について説明する。本発明の連続鋳造ロール支持用転動部材を構成する鋼の耐食性を従来の鋼と比較する試験を行なった。試験の手順は以下のとおりである。
【0067】
まず、試験の対象となる試験片の作製方法について説明する。はじめに、表1に示す化学成分を有する鋼材を準備した。表1において、主要化学成分については、炭素(C)、珪素(Si)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)およびクロム(Cr)の含有量が質量%で示されており、記載された成分の残部は鉄および不可避的不純物である。
【0068】
【表1】

【0069】
そして、上記鋼材を試験片の概略形状に加工した。その後、表1に示すように、各材料に応じた熱処理を行なうことにより、試験片を硬化させた後、仕上げ加工を実施することにより、試験片を完成させた。完成した試験片の表面硬度が表1に示されている。なお、比較例のSUS304に関しては、通常の焼入処理では軸受用鋼として使用できる程度に硬化できないため、1100℃に加熱した後、油冷したもの以外に、550℃でタフトライド(R)処理した後850℃で浸炭窒化処理し、油冷することにより焼入硬化させた試験片も作製した。
【0070】
次に、試験条件について説明する。実施例1では耐食性試験として、湿潤試験と塩水噴霧試験とを実施した。湿潤試験では、JIS K2246の5.34に記載の試験条件に合致するように、試験装置の扉を閉めた状態で温度49℃±1℃、湿度95%の雰囲気中で20時間、試験片を保持した後、試験装置の扉を開けた状態で4時間、試験片を保持する操作を繰り返し、錆が発生するまでの時間を調査した。また、塩水噴霧試験では、JIS Z2371に記載の試験条件に合致するように、雰囲気温度35℃、塩水(塩化ナトリウム水溶液)濃度5%、湿度96%の条件で1時間保持した後、錆の発生の有無を確認するサイクルを繰り返し、錆の発生までのサイクル数を調査した。
【0071】
表2に、湿潤試験の結果を示す。表2においては、錆の発生までの時間(錆発生時間)の他、SUS440Cの錆発生時間に対する各試験片の錆発生時間の比が、各試験片の硬度とあわせて示されている。なお、SUS304については、960時間経過時においても錆が発生していなかった。
【0072】
【表2】

【0073】
表2を参照して、実施例Aおよび実施例Bは、SUS304、SUS630に次いで耐食性が優れていることがわかる。ここで、SUS304およびSUS630は、転動部材を構成する鋼として必要な硬度55HRCを確保できていない。また、硬度を確保するために硬化処理を実施したSUS304は、耐食性が大幅に低下し、実施例Aおよび実施例Bを大きく下回る耐食性となった。このことから、本発明の転動部材を構成する鋼である実施例Aおよび実施例Bは、転動部材を構成する鋼として必要な硬度を確保可能な鋼としては、極めて優秀な耐食性を有していることがわかる。
【0074】
また、表3に、塩水噴霧試験の結果を示す。表3においては、錆の発生までのサイクル数が、各試験片の硬度とあわせて示されている。
【0075】
【表3】

【0076】
表3を参照して、試験条件が湿潤試験に比べて苛酷となっており、いずれの試験片も湿潤試験に比べて短時間で錆の発生が確認されている。そして、湿潤試験の場合と同様に、軸受を構成する鋼として必要な硬度55HRCを確保している試験片では、本発明の実施例Aおよび実施例Bが最も耐食性が優れている。
【0077】
以上より、本発明の実施例Aおよび実施例Bは、転動部材に必要な硬度55HRCを確保可能でありながら、優れた耐食性を有していることが確認された。
【実施例2】
【0078】
以下、本発明の実施例2について説明する。本発明の連続鋳造ロール支持用転動部材と同様の構成を有する転動部材の転動疲労寿命を従来の鋼からなる転動部材と比較する試験を行なった。試験の条件は以下のとおりである。
【0079】
実施例1と同様の材料に同様の熱処理を施した試験片を転動疲労試験に供した。試験片の形状は直径φ12mm、長さL12mmの円筒状、試験数は10個、相手試験片はSUJ2製で直径φ20mm、長さL20mmの円筒状、接触面圧Pmaxは3.5GPa、応力の負荷速度は20400回/分、潤滑はタービン油VG68の循環給油とした。
【0080】
図7は、転動疲労寿命を評価するための試験に用いられた転動疲労寿命試験機の概略を説明するための概略側面図である。また、図8は、図7の転動疲労寿命試験機の概略正面図である。図8においては、内部構造の一部が断面図として示されている。図7および図8を参照して、実施例2において実施された転動疲労寿命試験について説明する。
【0081】
図7および図8を参照して、転動疲労寿命試験機5は、円筒状の上部ロール51と、外周面が上部ロール51の外周面に対向するように配置された下部ロール52と、上部ロール51と下部ロール52との間に配置された円筒状の駆動ロール53および支持ロール54とを備えている。円筒状の相手試験片55、55は上部ロール51および駆動ロール53の外周面に接触する位置と、下部ロール52および駆動ロール53の外周面に接触する位置とのそれぞれに配置される。そして、円筒状の試験片59は、相手試験片55、55の外周面のそれぞれと、支持ロール54の外周面とに外周面が接触するようにセットされる。
【0082】
そして、試験片59と相手試験片55、55との間に、設定された所望の接触面圧(Pmax:3.5GPa)が作用するように、上部ロール51と下部ロール52との間に所定の負荷がかけられる。その後、駆動ロール53が円周方向に回転すると、駆動ロール53に接触している相手試験片55、55がこれにより駆動されて回転する。その結果、相手試験片55、55と支持ロール54とで保持されている試験片59が相手試験片55、55と線接触しつつ、回転する。このとき、上部ロール51と駆動ロール53との間から試験片59に向けて潤滑油が供給される。そして、試験片59の外周面に剥離が発生して振動が生じると、図示しない振動センサによりこれを感知して駆動ロールを停止させる。そして、駆動ロールが停止するまでに相手試験片55、55から受けた応力の繰り返し回数をその試験片59の転動疲労寿命とした。さらに、上述のような試験を10回ずつ行ない、転動疲労寿命を統計的に解析して、10%の試験片が破損するまでの寿命(L10寿命)を算出した。
【0083】
表4に、転動疲労寿命試験の結果を示す。表4においては、SUJ2の試験片に対する各試験片のL10寿命の比が各試験片の硬度とあわせて示されている。なお、SUS304からなる試験片は、上述の浸炭窒化処理等を実施しない場合、硬度が低く、転動疲労寿命試験に供することが困難であるため、試験の対象から除外した。
【0084】
【表4】

【0085】
表4を参照して、実施例Aおよび実施例Bは、SUJ2に次いで転動疲労寿命に優れていることがわかる。ここで、SUJ2は、上述の実施例1の試験結果から、耐食性が低く、連続鋳造ロール支持用転動部材の材料としては適していないと考えられる。また、実施例Aおよび実施例Bは、SUJ2を除く他の試験片の転動疲労寿命を大幅に上回っている。このことから、本発明の連続鋳造ロール支持用転動部材と同様の構成を有する実施例Aおよび実施例Bは、耐食性および転動疲労寿命を両立する極めて優れた特性を有していることがわかる。
【実施例3】
【0086】
以下、本発明の実施例3について説明する。本発明の連続鋳造ロール支持用転動部材と同様の構成を有する転動部材の耐ピーリング性を従来の鋼からなる転動部材と比較する試験を行なった。試験の条件は以下のとおりである。なお、ピーリングとは、転がり軸受の運転時において、潤滑油の粘度が低下し、油膜切れが生じた場合や、潤滑油が不足した場合に、転動部材同士が金属接触し、転動部材の表面に小さな剥離や亀裂が発生する現象であって、進行すれば摩耗や大きな剥離に至る。また、耐ピーリング性とは、このピーリングの発生に対する抵抗性である。
【0087】
実施例1と同様の材料に同様の熱処理を施した試験片を耐ピーリング試験に供した。試験片の形状は外径φ40mm、外周面の表面粗さRt0.2μmで、軸方向の断面において外周面が平行な直線形状を有する円筒状、相手試験片は前述の試験片と同種の鋼から構成されており、外径φ40mm、外周面の表面粗さRt3μmで、軸方向の断面において外周面が曲率半径R60mmの凸形状を有する円環状とした。また、試験片と相手試験片との接触面圧Pmaxは2.1GPa、負荷速度は2000回/分、潤滑はタービン油VG46の循環給油、総負荷回数は4.8×10回とした。
【0088】
図9は、耐ピーリング性を評価するための試験に用いられた耐ピーリング試験機の概略を説明するための概略図である。図9を参照して、実施例3において実施された耐ピーリング試験について説明する。
【0089】
図9を参照して、耐ピーリング試験機6は、軸まわりに回転可能な駆動軸61と、軸まわりに回転可能な従動軸62とを備えている。駆動軸61と従動軸62とは、双方の軸が平行になるように配置されている。駆動軸61の一方の端部には、円環状の相手試験片68を保持するための駆動軸保持部61Aが形成されている。また、従動軸62の一方の端部には、円環状の試験片69を保持するための従動軸保持部62Aが形成されている。
【0090】
そして、駆動軸保持部61Aに、相手試験片68が駆動軸61の軸にその軸が一致するようにセットされる。また、従動軸保持部62Aに、試験片69が従動軸62の軸にその軸が一致するようにセットされる。これにより、相手試験片68の外周面と試験片69の外周面とが接触する。さらに、試験片69および相手試験片68に接触するようにフェルト63が配置される。
【0091】
以上のように試験の準備が完了すると、試験片69に潤滑油が滴下されつつ、駆動軸61が軸まわりに回転する。これにより、相手試験片68が回転するとともに、相手試験片68に駆動されて試験片69が相手試験片68と接触しつつ回転する。このとき、矢印Wの向きに所定の荷重が負荷される。そして、所定の回転数である4.8×10回の回転が終了したところで駆動軸61の回転が停止される。
【0092】
上述のように試験が実施された後、試験片69が取り外され、外周面に発生したピーリングの面積が調査され、当該面積の外周面の面積に対する割合(ピーリング面積率)が算出された。
【0093】
表5に、耐ピーリング試験の結果を示す。表5においては、SUJ2の試験片に対する各試験片のピーリング面積率の逆数比が各試験片の硬度とあわせて示されている。なお、SUS304からなる試験片は、上述の浸炭窒化処理等を実施しない場合、硬度が低く、耐ピーリング試験に供することが困難であるため、試験の対象から除外した。
【0094】
【表5】

【0095】
表5を参照して、ピーリング面積率の逆数比が大きいほど、耐ピーリング性に優れていることを示している。耐ピーリング性は、硬度の高い順に優れていることがわかる。ここで、SUJ2は、上述の実施例1の試験結果から、耐食性が低く、連続鋳造ロール支持用転動部材の材料としては適していないと考えられる。また、SUS440Cは、上述の実施例1の試験結果から、実施例Aおよび実施例Bに比べて耐食性において劣っている。一方、実施例Aおよび実施例Bは、SUJ2およびSUS440Cを除く他の試験片の耐ピーリング性を上回っている。このことから、本発明の連続鋳造ロール支持用転動部材と同様の構成を有する実施例Aおよび実施例Bは、耐食性と耐ピーリング性のバランスに優れていることがわかる。
【実施例4】
【0096】
以下、本発明の実施例4について説明する。本発明の連続鋳造ロール支持用転動部材を構成する鋼の高温硬度と従来の鋼の高温硬度とを比較する試験を行なった。試験の条件は以下のとおりである。
【0097】
実施例1と同様の材料に同様の熱処理を施した試験片を作製し、300℃におけるビッカース硬度を測定した。表6に、高温硬度の測定結果を示す。表6においては、300℃におけるビッカース硬度が、硬度の順位とともに示されている。なお、他の試験片に比べて著しく硬度の低いSUS304およびSUS630に関しては、試験の対象から除外した。
【0098】
【表6】

【0099】
表6を参照して、高温硬度は、本発明の実施例Bが最も高く、次いで実施例Aが高くなっており、室温において実施例Aおよび実施例Bよりも硬度の高いSUJ2およびSUS440Cを逆転している。そして、本発明の実施例Aおよび実施例Bの300℃における硬度は580HV〜600HV(54HRC〜55HRC)であり、300℃においても連続鋳造ロール支持用転動部材として使用可能な硬度を保持している。このことから、本発明の連続鋳造ロール支持用転動部材を構成する鋼は、高温環境で使用される軸受用鋼として適していることがわかる。
【0100】
以上の実施例1〜4の結果より、本発明の連続鋳造ロール支持用転動部材を構成する鋼は、耐食性および硬度を高いレベルで両立することにより、耐食性および転動疲労寿命に優れた軸受用鋼であるだけでなく、高温硬度も高く、高温環境において使用される軸受用鋼としても有望であることが確認された。その結果、当該軸受用鋼からなる本発明の連続鋳造ロール支持用転動部材は、高い耐食性および高い硬度、特に高温における高い硬度を有しており、苛酷な環境下において使用される連続鋳造ロール支持用転動部材として好適であることがわかった。
【0101】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の連続鋳造ロール支持用転動部材および連続鋳造ロール支持用転がり軸受は、高温かつ耐食性が求められる環境で使用される連続鋳造ロール支持用転動部材および連続鋳造ロール支持用転がり軸受に特に有利に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の一実施の形態における連続鋳造ロール支持用転動部材を備えた自動調心ころ軸受および自動調心輪付き円筒ころ軸受が配置された連続鋳造ロールの支持構造を示す概略断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態における連続鋳造ロール支持用転がり軸受としての自動調心ころ軸受の構成を示す概略断面図である。
【図3】本発明の他の実施の形態における連続鋳造ロール支持用転がり軸受としての自動調心輪付き円筒ころ軸受の構成を示す概略断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態における自動調心ころ軸受および自動調心輪付き円筒ころ軸受の製造方法の概略を示す図である。
【図5】本発明の一実施の形態における自動調心ころ軸受および自動調心輪付き円筒ころ軸受の製造方法に含まれる連続鋳造ロール支持用転動部材の製造方法の概略を示す図である。
【図6】連続鋳造ロール支持用転動部材の製造方法に含まれる熱処理工程の詳細を説明するための図である。
【図7】転動疲労寿命を評価するための試験に用いられた転動疲労寿命試験機の概略を説明するための概略側面図である。
【図8】図7の転動疲労寿命試験機の概略正面図である。
【図9】耐ピーリング性を評価するための試験に用いられた耐ピーリング試験機の概略を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0104】
5 転動疲労寿命試験機、6 耐ピーリング試験機、11 連続鋳造ロール、13 スタンド、13A ロール保持部、20 自動調心ころ軸受、21,31 外輪、21A 外輪転走面、22,32 内輪、22A 内輪転走面、23 ころ、24 保持器、30 自動調心輪付き円筒ころ軸受、31A 外輪転走面、31B 外周面、32A 内輪転走面、33 円筒ころ、35 自動調心輪、35A 内周面、51 上部ロール、52 下部ロール、53 駆動ロール、54 支持ロール、55 相手試験片、59 試験片、61 駆動軸、61A 駆動軸保持部、62 従動軸、62A 従動軸保持部、63 フェルト、68 相手試験片、69 試験片、111 ロール部、112A 固定端ロールネック、112B 自由端ロールネック、C,C 軸受中心。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造される鋳造物をガイドするための連続鋳造ロールをスタンドに対して軸支するために使用される連続鋳造ロール支持用転がり軸受に用いられる連続鋳造ロール支持用転動部材であって、
0.005質量%以上0.1質量%以下の炭素と、2.0質量%以上5.0質量%以下の珪素と、0.5質量%以上2.0質量%以下のマンガンと、8.0質量%以上13.0質量%以下のクロムと、4.0質量%以上10.0質量%以下のニッケルと、1.0質量%以上5.0質量%以下の銅とを含有し、残部鉄および不可避的不純物からなる鋼から構成され、
55HRC以上の硬度を有する、連続鋳造ロール支持用転動部材。
【請求項2】
軌道部材と、
前記軌道部材に接触し、円環状の軌道上に配置される複数の転動体とを備え、
前記軌道部材および前記転動体の少なくともいずれか一方は、請求項1に記載の連続鋳造ロール支持用転動部材である、連続鋳造ロール支持用転がり軸受。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−245195(P2007−245195A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−72383(P2006−72383)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】