説明

連続鋳造機モールド内湯面レベル制御装置及び制御方法

【課題】鋳造速度加速時に発生するバルジング性湯面変動を設備投資費用を上げることなくより早い段階で抑制する。
【解決手段】連続鋳造機のモールド内の湯面レベル計と、湯面レベル信号に基づいてタンディッシュに設けられたスライディングノズルの開度指令を出力するPI制御器と、開度指令を入力しスライディングノズルの開度を調整してタンディッシュからの溶融金属流入量を調整するスライディングノズル制御器と、湯面レベルと設定湯面レベルとの偏差信号から特定周期のバルジング性湯面変動を抽出し、その位相特性を90度進ませて出力する特性を有した外乱補償器とを備えた連続鋳造機モールド内湯面レベル制御装置を用いて湯面レベルを制御する際に、湯面レベル信号及び鋳造速度を一定時間記録し、連続鋳造機の2次冷却帯ロールピッチと鋳造速度により導かれる非定常バルジング変動の予想波形と実際の湯面変動波形を比較することで非定常バルジングの発生を判定し外乱補償器を起動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造機のモールド内湯面レベルを制御する制御装置及び制御方法に関するもので、特に、鋳造速度加速時に発生するバルジング性湯面変動を、設備投資費用を上げることなく、より早い段階で抑制することが可能な連続鋳造機モールド内湯面レベル制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、連続鋳造機におけるモールド(鋳型)内の溶融金属(以下、溶鋼と称する)の湯面レベルを制御することは、安定操業上のみならず、鋳片の品質確保上も重要なことである。
【0003】
従来から、この種の連続鋳造機のモールド内湯面レベル制御としては、一般にPI制御が多く用いられている。この場合、制御系は、凝固しつつモールドから引き抜かれていく溶鋼と、スライディングノズルの開度に依存してモールドに供給される溶鋼のマスバランスを平衡させることを目的として構成される。
【0004】
モールド内の湯面変動は、このマスバランスの乱れを十分に補償できない時に発生し、主たる原因は、引抜流量変動によると考えられている。そして、この引抜流量変動の最も大きなものが、周期性の強いバルジング性湯面変動と称されるもので、引抜ピンチロールの間の鋳片の凝固シェルが振動することによって発生すると言われており、ピンチロールの引抜速度(鋳込み速度)とピンチロールの間隔とで決まる周波数を有することが知られている。
【0005】
バルジング性湯面変動を低減する方法として、特許文献1では、湯面レベル信号から特定周波数のバルジング性湯面変動を抽出し、且つその位相を90度進ませて出力する特性を有した外乱補償器からの出力信号を、PI制御器から出力される開度指令に加算して、最終的なスライディングノズルの開度指令とすることによって、バルジング性湯面変動を抑制するとしている。
【0006】
この特許文献1に記載の方法では、バルジング性湯面変動が発生していることを判定し、その周波数を外乱補償器に設定する必要があるが、その具体的な方法は記述されていない。
【0007】
また、特許文献2では、湯面レベル信号の測定時刻を測定時の鋳造速度によって補正した後、線形補間によるリサンプリングを行って周波数解析を行い、バルジング性湯面変動の周期であるバルジング周波数を検出するとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−314911号公報
【特許文献2】特開2009−160647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、周波数解析による湯面変動周波数の検出は、高速フーリエ変換(FFT)などの手法を使用したとしても計算負荷が大きいため、パソコン又は専用のマイコンなどを使用したシステムが前提となる。これは、シーケンサなど汎用工業機器のみで構成した場合に比べて、費用・信頼性の面で不利な特徴である。また、検知される周波数の精度を高めるためにサンプリング期間を長くとる必要があるため、周期性湯面変動発生から、実際に制御を開始して抑制効果を得られるまでの期間が長くなってしまう。
【0010】
モールド湯面制御系のブロック線図を図1に示す。外乱補償器42の伝達関数3は、次式で表わされる。
【数1】

【0011】
ここで、ζ、ωは、帯域通過フィルタの通過帯域の幅と中心周波数を決定するパラメータである。ζ、ωの値によって、フィルタの周波数特性は変化するため、帯域微分制御を入りにした場合の外乱から湯面レベルまでの周波数特性も、図2(ζ=0.2、ω=0.1の例)のように変化する。
【0012】
この外乱補償器42は、設定した周波数成分に関して、湯面レベル変動に対する外乱のゲインを低下させる効果を持つ。従って、湯面レベル変動を小さくするためには、外乱の周波数(バルジング周波数)を正確に知ることが重要となる。
【0013】
バルジング周波数は、過去の湯面レベル信号をFFT解析することで求めることができるが、FFT解析を行うには、繰り返し計算を含む複雑な計算処理が必要であり、汎用シーケンサに実装することが困難である。また、十分な期間のデータ及びサンプリング周期が必要である。即ち、データ点数が少ないとFFT解析の結果の周波数分解能が悪化してしまうため、正確にフィルタバラメータを設定することができなくなってしまう。逆に周波数分解能を上げるためには、サンプリング周波数を大きくするか、データ採取期間を長くする必要がある。サンプリング周波数を大きくするにはハードウエアの性能を上げる必要があるが、設備投資費用が上がってしまう。データ採取期間を長く取れば、それだけ過去長い時間のデータを使って解析を行うことになるため、湯面に非定常バルジングの影響が現れてから判定をするまでの時間が長くなってしまうという問題点を有していた。
【0014】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、鋳造速度加速時に発生するバルジング性湯面変動を、設備投資費用を上げることなく、より早い段階で抑制できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、連続鋳造機のモールド内の湯面レベルを制御する制御装置において、前記モールド内の湯面レベルを検出する湯面レベル計と、前記湯面レベル計により検出される湯面レベル信号に基づいて、タンディッシュに設けられたスライディングノズルの開度指令を出力するPI制御器と、前記PI制御器から出力される開度指令を入力し、前記スライディングノズルの開度を調整して、前記タンディッシュからの溶融金属流入量を調整するスライディングノズル制御器と、前記湯面レベルと設定湯面レベルとの偏差信号から特定周期のバルジング性湯面変動を抽出し、且つその位相特性を90度進ませて出力する特性を有した外乱補償器と、前記湯面レベル計により検出される湯面レベル信号及び鋳造速度を一定時間記録し、連続鋳造機の2次冷却帯ロールピッチと鋳造速度により導かれる非定常バルジング変動の予想波形と実際の湯面変動波形を比較することで非定常バルジングが発生していることを判定し、前記外乱補償器を起動させる機能を有する外乱補償器制御装置と、を備えることにより、前記課題を解決したものである。
【0016】
本発明は、又、連続鋳造機のモールド内の湯面レベルを検出する湯面レベル計と、前記湯面レベル計により検出される湯面レベル信号に基づいて、タンディッシュに設けられたスライディングノズルの開度指令を出力するPI制御器と、前記PI制御器から出力される開度指令を入力し、前記スライディングノズルの開度を調整して、前記タンディッシュからの溶融金属流入量を調整するスライディングノズル制御器と、前記湯面レベルと設定湯面レベルとの偏差信号から特定周期のバルジング性湯面変動を抽出し、且つその位相特性を90度進ませて出力する特性を有した外乱補償器と、を備えた連続鋳造機モールド内湯面レベル制御装置を用いて、連続鋳造機のモールド内の湯面レベルを制御する際に、前記湯面レベル計により検出される湯面レベル信号及び鋳造速度を一定時間記録し、連続鋳造機の2次冷却帯ロールピッチと鋳造速度により導かれる非定常バルジング変動の予想波形と実際の湯面変動波形を比較することで非定常バルジングが発生していることを判定し、前記外乱補償器を起動させることを特徴とする連続鋳造機モールド内湯面レベル制御方法を提供するものである。
【0017】
ここで、前記非定常バルジングの発生を、所定周波数の湯面変動の発生により判定することができる。
【0018】
また、前記所定周波数を、ピンチロールの間隔と鋳造速度により定めたものとすることできる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、鋳造速度加速時に発生するバルジング性湯面変動を、設備投資費用を上げることなく、より早い段階で抑制することができるため、湯面変動発生による鋳造速度減速等の操業アクションが不要になることで生産性向上に寄与することができる。また、操業解析を行う際の指標として、各ロールピッチに対応する非定常バルジングによる湯面変動量の振幅を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態におけるモールド湯面制御系のブロック線図
【図2】外乱から湯面変動までの周波数特性の変化の一例を示す図
【図3】本発明の実施形態によるモールド内湯面レベル制御装置を適用した連続鋳造機のモールド周辺部の構成例の正面断面の概略図
【図4】本発明の第2実施形態におけるモールド湯面制御系のブロック線図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0022】
図3は、本発明の実施形態によるモールド内湯面レベル制御装置を適用した連続鋳造機のモールド周辺部の構成例の正面断面の概略図である。
【0023】
タンディッシュ20内に満たされた溶鋼10は、スライディングノズル22及び浸漬ノズル24を経て、モールド30内に注入される。図において、16はモールドパウダである。
【0024】
モールド30内へ注入された溶鋼10は、モールド側面により冷却され、表面から凝固してシェル12を形成しつつ、ピンチロール32によって下方に引き抜かれて鋳片14となる。このとき、引抜速度は、ほぼ一定に制御される。
【0025】
モールド30内に注入される溶鋼量は、スライディングノズル22の開度により決定され、このスライディングノズル22は、スライディングノズル制御器であるアクチュエータによって駆動される。
【0026】
スライディングノズル開度は、モールド30内に注入される溶鋼量と下方へ引き抜かれる量がバランスするように制御され、その制御は、モールド湯面レベルを検知する湯面レベル計34から得られる信号と、湯面レベル設定値の偏差信号に基づいて、湯面レベルが一定になるように制御装置40のPI制御により、スライディングノズル開度設定値を変更することで実現される。
【0027】
ここで、バルジング性湯面変動は、鋳片14を引き抜くピンチロール32の間で、鋳片14が引抜方向と垂直な方向に膨らんだ状態で凝固し、膨らんだ部分が鋳片14の引抜きに伴ってピンチロール32により押し込まれることにより、モールド30内の溶鋼10のマスバランスが崩れて発生すると言われている。又、変動の特徴として、強い周期を有し、その周波数は、ピンチロール間隔と鋳造速度で定まる。
【0028】
本実施形態においては、非定常バルジングの発生する原理に着目し、特許文献2のように周波数解析を行うのではなく、特定の周波数の変動が起きているかどうかのみを判定することとした。非定常バルジングの周期fは、その発生原理より、2次冷却帯のピンチロール32のロールピッチをa[m]、鋳造速度をv[m/s]とすると、
f=a/v …(2)
という関係が成り立つ。鋳造速度は、ピンチロール32に取り付けたパイロットジェネレータPLG36などで測定が可能である。
【0029】
ロールピッチは鋳造機の設備によって決まり、一般的には複数の値(k個とする)をとる。そこで、各ロールピッチをaiとすると、発生しうる非定常バルジングの周波数は、
fi=v/ai(i=1,・・・,k) …(3)
となる。そこで、過去の湯面変動データに対し、図1に示す如く、fi周辺の周波数成分のみを通過させる帯域通過フィルタ(BPF)46をかけ、得られたデータ系列の(最大値−最小値)即ち振幅を減算器48で求めて評価値とする。この帯域通過フィルタ46は、単純な四則計算を行うことで実現できる。このとき使用する湯面変動データと採取期間は、発生すると考えられる最も長い湯面変動周期
max(1/fi) (i=1,・・・,k) …(4)
とすればよい。
【0030】
本実施形態においては、非定常バルジングの発生を、所定周波数の湯面変動の発生により判定するようにしたので、簡単な構成で判定を行うことができる。
【0031】
なお、図4に示す第2実施形態の如く、帯域通過フィルタ46と減算器48の代わりに波形比較器50を設けて、周波数だけでなく波形を比較することによって、精度を高めることができる。
【符号の説明】
【0032】
10…溶鋼
12…シェル
14…鋳片
20…タンディッシュ
22…スライディングノズル
24…浸漬ノズル
30…モールド
32…ピンチロール
34…湯面レベル計
40…制御装置
42…外乱補償器
46…帯域通過フィルタ(BPF)
48…減算器
50…波形比較器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造機のモールド内の湯面レベルを制御する制御装置において、
前記モールド内の湯面レベルを検出する湯面レベル計と、
前記湯面レベル計により検出される湯面レベル信号に基づいて、タンディッシュに設けられたスライディングノズルの開度指令を出力するPI制御器と、
前記PI制御器から出力される開度指令を入力し、前記スライディングノズルの開度を調整して、前記タンディッシュからの溶融金属流入量を調整するスライディングノズル制御器と、
前記湯面レベルと設定湯面レベルとの偏差信号から特定周期のバルジング性湯面変動を抽出し、且つその位相特性を90度進ませて出力する特性を有した外乱補償器と、
前記湯面レベル計により検出される湯面レベル信号及び鋳造速度を一定時間記録し、連続鋳造機の2次冷却帯ロールピッチと鋳造速度により導かれる非定常バルジング変動の予想波形と実際の湯面変動波形を比較することで非定常バルジングが発生していることを判定し、前記外乱補償器を起動させる機能を有する外乱補償器制御装置と、
を備えたことを特徴とする連続鋳造機モールド内湯面レベル制御装置。
【請求項2】
前記非定常バルジングの発生を、所定周波数の湯面変動の発生により判定することを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造機モールド内湯面レベル制御装置。
【請求項3】
前記所定周波数が、ピンチロールの間隔と鋳造速度により定められたものであることを特徴とする請求項2に記載の連続鋳造機モールド内湯面レベル制御装置。
【請求項4】
連続鋳造機のモールド内の湯面レベルを検出する湯面レベル計と、
前記湯面レベル計により検出される湯面レベル信号に基づいて、タンディッシュに設けられたスライディングノズルの開度指令を出力するPI制御器と、
前記PI制御器から出力される開度指令を入力し、前記スライディングノズルの開度を調整して、前記タンディッシュからの溶融金属流入量を調整するスライディングノズル制御器と、
前記湯面レベルと設定湯面レベルとの偏差信号から特定周期のバルジング性湯面変動を抽出し、且つその位相特性を90度進ませて出力する特性を有した外乱補償器と、
を備えた連続鋳造機モールド内湯面レベル制御装置を用いて、連続鋳造機のモールド内の湯面レベルを制御する際に、
前記湯面レベル計により検出される湯面レベル信号及び鋳造速度を一定時間記録し、
連続鋳造機の2次冷却帯ロールピッチと鋳造速度により導かれる非定常バルジング変動の予想波形と実際の湯面変動波形を比較することで非定常バルジングが発生していることを判定し、
前記外乱補償器を起動させることを特徴とする連続鋳造機モールド内湯面レベル制御方法。
【請求項5】
前記非定常バルジングの発生を、所定周波数の湯面変動の発生により判定することを特徴とする請求項4に記載の連続鋳造機モールド内湯面レベル制御方法。
【請求項6】
前記所定周波数が、ピンチロールの間隔と鋳造速度により定められたものであることを特徴とする請求項5に記載の連続鋳造機モールド内湯面レベル制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−99770(P2013−99770A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245969(P2011−245969)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】