説明

遊星歯車装置用キャリアの射出成形用金型

【課題】射出成形後におけるキャリアの支持軸の倒れを矯正する別部品(環状プレート)
が不要となるように、射出成形に起因するキャリアの支持軸の倒れを抑えることができる
ようにした、遊星歯車装置用キャリアの射出成形用金型を提供する。
【解決手段】ピンポイントゲートから射出された溶融状態のプラスチックは、第2キャビ
ティ部に充填された後、第1キャビティ部内に充填される。この際、第2キャビティ部の
開口部から第1キャビティ部内に流出する溶融状態のプラスチックは、第2キャビティ部
の周囲に放射状に且つ均等に流出する。その結果、射出成形用金型2で射出成形された遊
星歯車装置用キャリアは、支持軸の倒れが抑えられる。そして、第2キャビティ部内に充
填された溶融状態のプラスチックは、第3キャビティ部内に流入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車や産業機械等の動力伝達系に使用される遊星歯車装置用キャリアの
射出成形用金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、遊星歯車装置は、モータ等の動力源から伝達される回転を他の被動装置の駆動
のために都合の良い回転に変えるものである。
【0003】
図8及び図9は、このような遊星歯車装置100の一例を示すものである。これらの図
8及び図9に示すように、遊星歯車装置100は、ギヤケース101の内部に、入力軸1
02aと一体に回動する入力側太陽歯車102と、この入力側太陽歯車102に噛み合う
複数の遊星歯車103と、この遊星歯車103が入力側太陽歯車102の周囲を公転でき
るように支持するキャリア104とが収容されている。そして、キャリア104は、その
一方の側面105に、遊星歯車103を回転可能に支持する支持軸106を遊星歯車10
3と同数有している。また、キャリア104は、その他方の側面107で且つキャリア1
04の回転中心部に、他の遊星歯車108と噛み合う出力側太陽歯車110を有している
。なお、キャリア104の支持軸106で回転可能に支持された遊星歯車103は、入力
側太陽歯車102と噛み合うと共に、ギヤケース101の内周面に形成された内歯車11
1に噛み合っている。また、キャリア104の出力側太陽歯車110と噛み合う他の遊星
歯車108は、出力軸112と一体に回動する他のキャリア113の支持軸114によっ
て回転可能に支持され、ギヤケース101の内周面に形成された内歯車115にも噛み合
っている(特許文献1参照)。
【0004】
近年、このような遊星歯車装置100は、作動音の静粛性向上,全体重量の軽量化及び
製品価格の低廉化を図るために、ギヤケース101,入力側太陽歯車102,遊星歯車1
03及びキャリア104等の構成部品をプラスチックで形作る(射出成形する)場合があ
る(特許文献2参照)。
【0005】
図10は、キャリア104の射出成形用金型120の構造を模式的に示す図である。こ
の図10に示すように、射出成形用金型120は、キャリア104を形作るためのキャビ
ティ121と、このキャビティ121内に溶融状態のプラスチックを射出するためのピン
ポイントゲート122が形成されている(図8参照)。キャビティ121は、円板状のキ
ャリア本体116を形作るための第1キャビティ部123と、複数の支持軸106を形作
るための複数(支持軸106と同数)の第2キャビティ部124と、出力側太陽歯車11
0を形作るための第3キャビティ部125と、を有している(図8参照)。そして、ピン
ポイントゲート122が第1キャビティ部123の中心部分に開口するようになっている

【0006】
このような射出成形用金型120でキャリア104を射出成形すると、図11(a)〜
(b)に示すように、プラスチックの冷却時における収縮差等によって、遊星歯車103
を回転自在に支持する支持軸106が内側(キャリア104の回転中心126側)に向か
って倒れを生じ易い。なお、図11(b)において、正規の(設計上の)支持軸106を
二点鎖線で示し、倒れを生じた支持軸106を実線で示している。
【0007】
このキャリア104の支持軸106の内側に向かう倒れ(θ,ε)が大きくなると、遊
星歯車103とこれに噛み合う入力側太陽歯車102の回転中心間距離が短くなりすぎ、
遊星歯車103の歯と入力側太陽歯車102の歯がかじり合って(歯先と歯底が干渉して
)騒音を発生したり、円滑な回転伝達が不可能になったりする(図8,図11参照)。ま
た、遊星歯車103の歯と入力側太陽歯車102の歯のかじり合いに起因して、遊星歯車
103の歯と入力側太陽歯車102の歯に偏摩耗が生じ、遊星歯車装置100の耐久性の
低下を招くことになる。なお、図11(b)において、θは、支持軸106の径方向内方
側への倒れ角であって、キャリア104の回転中心線117と平行な仮想線118に対す
る支持軸106の中心線109の傾き角であり、キャリア104の回転中心線117と支
持軸106の中心線109とが平行の場合をθ=0°とする。また、図11(b)におい
て、εは、支持軸106の先端の径方向内方側への変位量を示している。
【0008】
このような不具合を解消するには、図12(a)〜(b)に示すように、キャリア10
4とは別に製造した環状プレート130の支え穴131にキャリア104の支持軸106
の先端部を嵌合させ、環状プレート130の支え穴131でキャリア104の支持軸10
6の倒れを矯正するようにした技術の適用が考えられる(特許文献3参照)。この図12
(a)〜(b)に示す環状プレート130は、支え穴131が周方向に延びる長穴であり
、矯正前の支持軸106を支え穴131の周方向の一端131a側に係合した後、支持軸
106が支え穴131の周方向の他端131b側に位置するまでキャリア104に対して
回動させられることにより、支え穴131の周方向の他端131b側において支持軸10
6の姿勢(倒れ)を矯正できるようになっている。なお、図12(a)〜(b)において
、図8の遊星歯車装置100の構成部品に対応する部分には図8の遊星歯車装置100の
構成部品と同一符号を付し、図8の遊星歯車装置100の説明と重複する説明を省略する

【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実願平01−103333号(実開平03−043148号)のマイクロフィルム(第1図,第3図参照)
【特許文献2】特開平11−132297号公報(段落番号0009の記載参照)
【特許文献3】特開2009−287674号公報(段落番号0006〜0007,0026〜0028,図8,図11,図12の記載参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、キャリア104の支持軸106の内側への倒れを矯正するために、キャ
リア104とは別に製造した環状プレート130を使用した場合には、環状プレート13
0の収容スペースをギヤケース101内に新たに確保する必要があり、遊星歯車装置10
0の大型化を招いたり、部品点数の増加に伴う遊星歯車装置100の重量増加や遊星歯車
装置100の製品価格の上昇を招くという新たな問題を生じることになる。
【0011】
そこで、本発明は、射出成形後におけるキャリアの支持軸の倒れを矯正する別部品(環
状プレート)が不要となるように、射出成形に起因するキャリアの支持軸の倒れを抑える
ことができるようにした、遊星歯車装置用キャリアの射出成形用金型の提供を目的とする

【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の発明に係る遊星歯車装置用キャリア1の射出成形用金型2は、図1乃至図7
に示すように、(1)円板状のキャリア本体3を形作るための第1キャビティ部23と、
(2)入力側太陽歯車102と噛み合う複数の遊星歯車103を回転可能に支持する前記
遊星歯車103と同数の支持軸5であって、前記キャリア本体3の一方の側面4から突出
する支持軸5を形作る第2キャビティ部26と、(3)前記キャリア本体3の他方の側面
6から突出し且つ前記キャリア本体3の回転中心8と同心に位置する出力側太陽歯車7を
形作るための第3キャビティ部32と、を有している(図8参照)。そして、前記第1キ
ャビティ部23のうちで前記キャリア本体3の前記他方の側面6を形作る部分には、前記
第1キャビティ部23内に開口するピンポイントゲート31であって、且つ、前記第2キ
ャビティ部26の前記第1キャビティ部23側の開口部に向けて溶融状態のプラスチック
を射出することができるようになっている前記ピンポイントゲート31が形成された、こ
とを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る射出成形用金型を使用して射出成形された遊星歯車装置用キャリアは、支
持軸の倒れを矯正する別部品が不要となる程度に、支持軸の倒れが抑えられる。その結果
、本発明に係る射出成形用金型を使用して射出成形された遊星歯車装置用キャリアは、遊
星歯車装置の大型化を招いたり、部品点数の増加に伴う遊星歯車装置の重量増加や遊星歯
車装置の製品価格の上昇を招くようなことがない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態に係る遊星歯車装置用キャリアの射出成形用金型の断面図である。
【図2】図1のA1−A1線に沿って切断して示す射出成形用金型の断面図である。
【図3】図1の射出成形用金型をA2−A2線(固定型と可動型の型合わせ面)に沿って分割して示す図であり、固定型の正面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る射出成形用金型で射出成形された遊星歯車装置用キャリアを示す図である。図4(a)がキャリアの正面図であり、図4(b)がキャリアの側面図であり、図4(c)が図4(a)のA3−A3線に沿って切断して示す断面図である。
【図5】図5(a)は本発明の第2実施形態に係る遊星歯車装置用キャリアの射出成形用金型の断面図であり、図5(b)は図5(a)のFで示す部分の拡大図である。
【図6】図5(a)のA4−A4線に沿って切断して示す射出成形用金型の断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る射出成形用金型で射出成形された遊星歯車装置用キャリアを示す図である。図7(a)がキャリアの正面図であり、図7(b)がキャリアの側面図であり、図7(c)が図7(a)のA5−A5線に沿って切断して示す断面図である。
【図8】従来のキャリアを使用した遊星歯車装置の縦断面図である。
【図9】図8のA6−A6線に沿って切断して示す断面図である。
【図10】従来の遊星歯車装置用キャリアを射出成形するために使用する射出成形用金型の断面図である。
【図11】従来の遊星歯車装置用キャリアの射出成形後における支持軸の変形状態(支持軸の倒れ)を示す図であり、図11(a)がキャリアの正面図であり、図11(b)がキャリアの側面図である。
【図12】図11に示したキャリアの支持軸の倒れを矯正する技術の適用例を示す図であり、図12(a)がキャリアの正面側からの図であり、図12(b)が図12(a)のA7−A7線に沿って切断して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳述する。
【0016】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る遊星歯車装置用キャリア1の射出成形用金型2を
示す断面図である。また、図2は、図1のA1−A1線に沿って切断して示す射出成形用
金型2の断面図である。また、図3は、図1の射出成形用金型2をA2−A2線(固定型
21と可動型22の型合わせ面21p、22p)に沿って分割して示す図であり、固定型
21の正面図である。そして、図4は、図1乃至図3に示した射出成形用金型2によって
射出成形されたプラスチック製の遊星歯車装置用キャリア1を示すものである。なお、図
4に示した遊星歯車装置用キャリア1は、図8の遊星歯車装置100における従来のキャ
リア104に置き換えて使用することができるものであり、説明の便宜上、図8を参照し
つつ説明する。
【0017】
(遊星歯車装置用キャリア及びその射出成形用金型)
図1乃至図3の射出成形用金型2によって射出成形された遊星歯車装置用キャリア1は
、図4に示すように、円板状のキャリア本体3と、このキャリア本体3の一方の側面4か
ら突出して遊星歯車103を回転可能に支持する丸棒状の支持軸5と、キャリア本体3の
他方の側面6から突出する出力側太陽歯車7と、を有している(図8参照)。
【0018】
このキャリア本体3と一体の支持軸5は、キャリア本体3の回転中心8を中心とする円
10の周方向に等間隔(120°の間隔)で3本形成されており、キャリア本体3の一方
の側面4から回転中心線13とほぼ平行に突出するようになっている。なお、支持軸5が
キャリア本体3の回転中心線13と平行に突出するとせずに、支持軸5がキャリア本体3
の回転中心線13とほぼ平行に突出するとしたのは、射出成形後における収縮差等に起因
する支持軸5等の変形(設計値との誤差)を考慮したものである。
【0019】
キャリア本体3と一体の出力側太陽歯車7は、中心軸15がキャリア本体3の回転中心
線13と同心となるように形成されている。そして、この出力側太陽歯車7は、回転中心
線13に沿った先端面16からキャリア本体3の他方の側面6に対応する位置まで、有底
の肉抜き穴17が回転中心線13に沿って形成されている。すなわち、肉抜き穴17は、
出力側太陽歯車7の中心軸15に沿った突出長さと同一の穴深さとなるように形成されて
いる。
【0020】
図1乃至図3に示すように、遊星歯車装置用キャリア1の射出成形用金型2は、図4に
示した遊星歯車装置用キャリア1を射出成形するためのキャビティ20が形成されている
。射出成形用金型2は、固定型21と可動型22とに大別され、固定型21と可動型22
の型合わせ面21p,22pにキャリア本体3を形作るための円板状の凹所である第1キ
ャビティ部23が形成されている。なお、固定型21と可動型22の型合わせ面21p,
22pは、キャリア本体3の一方の側面4側における外周面取り部24の上端縁25に合
致するように形成されている。
【0021】
可動型22(22a,22b)は、上述した第1キャビティ部23の一部分(キャリア
本体3の一方の側面4側に対応する部分)が形成されると共に、遊星歯車装置用キャリア
1の複数の支持軸5を形作るための第2キャビティ部26が支持軸5と同数だけ形成され
ている。第2キャビティ部26は、丸棒状の支持軸5を形作るため、第1キャビティ部2
3に開口する有底の丸穴になっている。また、第2キャビティ部26は、キャリア本体3
の回転中心線13に対応する第1キャビティ部23の中心線27と平行になるように可動
型22に形成されている。
【0022】
固定型21は、その型合わせ面21pを可動型22の型合わせ面22pに密着させた状
態(図1(a)の状態)から可動型22が離間すると、キャビティ20が外部に開放され
るようになっている。この固定型21は、その型合わせ面21p側に、キャリア本体3の
大部分を形作るための円板状の凹所である第1キャビティ部23の残部(可動型22に形
成された第1キャビティ部23の一部を除く第1キャビティ部23の残部)が形成されて
いる。また、固定型21は、出力側太陽歯車7を形作るための略円筒状の凹所である第3
キャビティ部32が第1キャビティ部23に開口するように形成されている。また、固定
型21は、出力側太陽歯車7の肉抜き穴17に対応する軸型部33が第3キャビティ部3
2に囲まれるように位置し、軸型部33の先端面33aが第1キャビティ部23の側面3
4(キャリア本体3の他方の側面6に対応する部分)と同一平面上に位置するように形成
されている。
【0023】
また、固定型21は、第1キャビティ部23の側面34(キャリア本体3の他方の側面
6を形作る部分)に、第1キャビティ部23内に開口するピンポイントゲート31であっ
て、且つ、第2キャビティ部26の第1キャビティ部23側の開口部に向けて溶融状態の
プラスチック(ポリアセタール,ポリアミド,ポリフェニレンサルファイド(PPS)等
のプラスチック、カーボン繊維等の強化繊維を混入したポリアセタール,ポリアミド,P
PS等のプラスチック)を射出することができるようになっているピンポイントゲート3
1が第2キャビティ部26と同数形成されている。このピンポイントゲート31は、その
中心線31aが第2キャビティ部26の中心線26aと同心となるように形成されており
、第1キャビティ部23の中心30を中心とする円周上に等間隔(120°間隔)で形成
されている。なお、図1において、第2キャビティ部26の中心線26aとピンポイント
ゲート31の中心線31aが同心となっているが、ピンポイントゲート31から射出され
た溶融状態のプラスチックが第2キャビティ部26内に直接充填されることを条件として
、第2キャビティ部26の中心線26aとピンポイントゲート31の中心線31aをずら
してもよい。
【0024】
また、固定型21は、可動型22が分離された後(型開き後)、第1キャビティ部23
及び第3キャビティ部32内に残った射出成形品(遊星歯車装置用キャリア1)を第1キ
ャビティ部23及び第3キャビティ部32内から押し出すためのエジェクトピン35が設
置されている。
【0025】
なお、固定型21と可動型22は、射出成形品の形状に合わせて複数のブロック(21
a,21b,22a,22b,33・・・)に分割されている。
【0026】
(遊星歯車装置用キャリアの射出成形)
遊星歯車装置用キャリア1を射出成形するには、図1に示すように、固定型21の型合
わせ面21pと可動型22の型合わせ面22pを密着させた状態で型締めし、ピンポイン
トゲート31から第2キャビティ部26に向けて溶融状態のプラスチックを射出する。
【0027】
ピンポイントゲート31から射出された溶融状態のプラスチックは、第2キャビティ部
26に充填された後、第1キャビティ部23内に流入する。この際、第2キャビティ部2
6内の溶融状態のプラスチックは、第2キャビティ部26の開口部から放射状に且つ均等
に第1キャビティ部23に流入する。その結果、ピンポイントゲート31から射出される
溶融状態のプラスチックが強化繊維を含有する場合、第2キャビティ部26内から第1キ
ャビティ部23内に流動する溶融状態のプラスチックに含まれる強化繊維の配向が第2キ
ャビティ部26の開口部の周方向に沿って揃うことになる。
【0028】
第1キャビティ部23内がピンポイントゲート31から射出された溶融状態のプラスチ
ックで充填されると、第1キャビティ部23内の溶融状態のプラスチックが第3キャビテ
ィ部32に流入し、第3キャビティ部32内が第1キャビティ部23から流入してきた溶
融状態のプラスチックで充填される。
【0029】
(本実施形態の射出成形用金型によって得られる効果)
本実施形態の射出成形用金型2を使用して射出成形した遊星歯車装置用キャリア1は、
支持軸5の倒れが従来例の射出成形用金型120(図10参照)を使用して射出成形した
キャリア104(図11参照)の支持軸106の倒れに比較して格段に小さくなった(表
1参照)。その結果、本実施形態の射出成形用金型2を使用して射出成形した遊星歯車装
置用キャリア1は、図12に示した従来例の支持軸106の倒れを矯正する別部品(環状
プレート130)が不要となり、遊星歯車装置100の大型化を招いたり、部品点数の増
加に伴う遊星歯車装置100の重量増加や遊星歯車装置100の製品価格の上昇を招くよ
うなことがない。
【0030】
表1は、本実施形態の射出成形用金型2を使用して射出成形した遊星歯車装置用キャリ
ア(本発明のキャリア)1の支持軸5の倒れを、従来例の射出成形用金型120を使用し
て射出成形したキャリア(従来例のキャリア)104の支持軸106の倒れと対比して表
したものである(図1、図4、図10、図11参照)。この表1において、本発明のキャ
リア1及び従来例のキャリア104は、繊維入りのPPSで射出成形したものである。ま
た、この表1において、支持軸(5,106)先端の径方向への変位量(ε)は、キャリ
ア(1,104)の径方向内方への変位(倒れ)の場合を+(プラス)とし、キャリア(
1,104)の径方向外方への変位(倒れ)の場合を−(マイナス)とした。
【0031】
【表1】

【0032】
なお、PPSに混入される繊維としては、ウィスカ、ガラス繊維、アラミド繊維等の繊
維状強化材が使用される。
【0033】
[第2実施形態]
図5は、本発明の第2実施形態に係る遊星歯車装置用キャリア1の射出成形用金型2を
示す断面図である。また、図6は、図5のA4−A4線に沿って切断して示す射出成形用
金型2の断面図である。そして、図7は、図5乃至図6に示した射出成形用金型2によっ
て射出成形されたプラスチック製の遊星歯車装置用キャリア1を示すものである。なお、
図7に示した遊星歯車装置用キャリア1は、図4に示した遊星歯車装置用キャリア1と同
様に、図8の遊星歯車装置100における従来のキャリア104に置き換えて使用するこ
とができるものである。また、本実施形態に係る射出成形用金型2は、第2キャビティ部
26の形状を除き、他の構成が第1実施形態に係る射出成形用金型2と同一である。また
、本実施形態に係る射出成形用金型2で射出成形された遊星歯車装置用キャリア1は、支
持軸5の形状を除き、他の構成が第1実施形態に係る射出成形用金型2で射出成形された
遊星歯車装置用キャリア1と同一である。したがって、本実施形態に係る射出成形用金型
2は、第1実施形態に係る射出成形用金型2と同一の構成部分には同一符号を付し、第1
実施形態における説明と重複する説明を省略する。また、本実施形態に係る射出成形用金
型2で射出成形された遊星歯車装置用キャリア1は、第1実施形態に係る射出成形用金型
2で射出成形された遊星歯車装置用キャリア1と同一の構成部分には同一符号を付し、第
1実施形態における説明と重複する説明を省略する。
【0034】
すなわち、本実施形態に係る射出成形用金型2は、遊星歯車装置用キャリア1の支持軸
5を中空円筒状に形成するため、第2キャビティ部26の中心線26aに沿って延びる丸
棒状の肉抜きピン37を可動型22に一体に設置してある。肉抜きピン37は、その先端
面が第2キャビティ部26の開口部よりも第2キャビティ部26内に僅かに引っ込んで位
置するように形成されている。このように肉抜きピン37を形成することにより、ピンポ
イントゲート31から射出された溶融状態のプラスチックを第2キャビティ部26内に確
実に導き入れることができる。なお、肉抜きピン37は、可動型22とは別に形成された
金属棒を可動型22に圧入又は螺合等することにより、可動型22と一体化されている。
そして、図5において、肉抜きピン37の直径をd0とすると、d0/d1を1/3〜1
/2とした。
【0035】
このような本実施形態に係る射出成形用金型2によって射出成形された遊星歯車装置用
キャリア1は、支持軸5の倒れを第1実施形態に係る遊星歯車装置用キャリア1の支持軸
5の倒れと同様に小さく抑えることができる(表1参照)。
【0036】
なお、本実施形態において、肉抜きピン37の先端面を第2キャビティ部26の開口部
よりも僅かに引っ込んで位置させる態様を例示したが、ピンポイントゲート31から射出
された溶融状態のプラスチックが第2キャビティ部内に直接充填されることを条件として
、肉抜きピン37の先端面を第2キャビティ部26の開口部と同一位置(第1キャビティ
部23に接する位置)に配置するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1……遊星歯車装置用キャリア、2……射出成形用金型、3……キャリア本体、4……
一方の側面、5……支持軸、6……他方の側面、7……出力側太陽歯車、8……回転中心
、23……第1キャビティ部、26……第2キャビティ部、31……ピンポイントゲート
、32……第3キャビティ部、102……入力側太陽歯車、103……遊星歯車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状のキャリア本体を形作るための第1キャビティ部と、
入力側太陽歯車と噛み合う複数の遊星歯車を回転可能に支持する前記遊星歯車と同数の
支持軸であって、前記キャリア本体の一方の側面から突出する前記支持軸を形作る第2キ
ャビティ部と、
前記キャリア本体の他方の側面から突出し且つ前記キャリア本体の回転中心と同心に位
置する出力側太陽歯車を形作るための第3キャビティ部と、
を有する遊星歯車装置用キャリアの射出成形用金型であって、
前記第1キャビティ部のうちで前記キャリア本体の前記他方の側面を形作る部分には、
前記第1キャビティ部内に開口するピンポイントゲートであって、且つ、前記第2キャビ
ティ部の前記第1キャビティ部側の開口部に向けて溶融状態のプラスチックを射出するこ
とができるようになっている前記ピンポイントゲートが形成された、
ことを特徴とする遊星歯車装置用キャリアの射出成形用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−135997(P2012−135997A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291480(P2010−291480)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000208765)株式会社エンプラス (403)
【Fターム(参考)】