説明

遊星歯車速度変換機

【課題】速度比が大きく、損失の少ない遊星歯車速度変換機を提供する。
【解決手段】減速機10は、サンギア38、プラネタリキャリア22に支持されサンギア38の周囲を自転すると共に公転するプラネタリギア26と、サンギア38と同軸に配置されプラネタリギア26と噛み合うリングギア42からなる遊星歯車機構を有する。サンギア38が入力軸12に結合され、プラネタリキャリア22が出力軸14に結合される。プラネタリギア26は、入力側プラネタリギア28と出力側プラネタリギア30を有する。入力側プラネタリギア28はサンギア38と共に入力側の歯車列を構成し、出力側プラネタリギア30はリングギア42と共に出力側の歯車列を構成する。各歯車列の変速比により、入力軸12は、出力軸14より高速で回転する。入力側の歯車列が磁気式歯車で構成され、出力側の歯車列が機械式歯車で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星歯車機構を用いた速度変換機、並びにこの速度変換機を用いたモータ内蔵ホイール及び車両駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
入力軸の回転速度を変換して出力軸に伝える速度変換機が知られている。入力軸の回転速度を減速して出力軸に伝えるものは減速機と呼ばれ、これとは逆に増速して出力軸に伝えるものが増速機と呼ばれる。このような速度変換機として、歯車を組み合わせた機構を用いたものが知られている。広く普及している歯車は、回転体の回転方向に沿って凹凸を配列して歯を形成し、対をなす歯車同士の歯を噛み合わせて、これらの歯車間で機械的な力により回転を伝達する。
【0003】
一方、近年磁力を用いて回転を伝達する磁気式歯車と呼ばれる伝達機構が提案されている(下記特許文献1参照)。磁気式歯車は、回転体の回転方向に沿って永久磁石をN極S極交互に配列し、対となる回転体間における磁力による相互作用により回転を伝達する。以下において、従来の凹凸を設けた歯車により回転伝達を行う歯車を機械式歯車、磁力により回転を伝達する伝達機構を磁気式歯車と記して説明する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−106940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
速度変換比が大きい速度変換機が求められている。このような速度変換機では、高速で回転する部分と、低速で回転する部分がある。機械式歯車においては、歯の接触面間ですべりが生じており、潤滑が必要であり、また摩擦による発熱も生じる。特に、回転速度が高いと、十分な潤滑が困難となり、また発熱による損失が大きくなる。一方、磁気式歯車において、大きなトルクを伝えようとすると、磁力を強めるために永久磁石を大きくする、またはより強力な磁石を用いる必要があり、コスト増や、装置の大形化を招く。
【0006】
本発明は、大きな速度変換比が実現可能である速度変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の速度変換機は、高速回転する歯車列を磁気式歯車で、低速回転する歯車列を機械式歯車で構成する。具体的には、第1軸に接続される高速側歯車列と、第1軸より低速で回転する第2軸に接続される低速側歯車列と、高速側歯車列と低速側歯車列の双方に属し、これらを接続するプラネタリ要素と、を有する遊星歯車速度変換機として構成する。そして、高速側歯車列を磁気式歯車にて構成し、低速側歯車列を機械式歯車で構成する。
【0008】
高速側歯車列を、歯車が直接接触しない磁気式歯車で構成することにより、摩擦による摩耗、発熱を抑えることができる。また、高速側歯車列においては伝達すべきトルクは小さいので、小さい永久磁石を用いることができる。一方、低速側歯車列を、機械式歯車で構成することにより、大きなトルクの伝達が可能となる。また、回転速度が低いため、摩擦損失、発熱は許容できる程度となる。
【0009】
さらに、具体化された態様として、前記高速側歯車列を、第1軸に結合されたサン要素と、キャリア要素に回転可能に支持される高速側プラネタリ要素と、を含むものとし、前記低速側歯車列を、前記キャリア要素に回転可能に支持される低速側プラネタリ要素と、固定されたリング要素と、を含むものとすることができる。キャリア要素に第2軸を結合することができる。高速側プラネタリ要素と低速側プラネタリ要素は、一体のプラネタリ要素を構成し、キャリア要素上に回転可能に支持されるようにできる。
【0010】
さらに、具体化された他の態様として、前記高速側歯車列を、第1軸に結合されたサン要素と、キャリア要素に回転可能に支持される高速側プラネタリ要素と、固定された高速側リング要素と、を含むものとし、前記低速側歯車列を、前記キャリア要素に回転可能に支持される低速側プラネタリ要素と、低速側リング要素と、を含むものとすることができる。低速側リング要素を第2軸に結合することができる。高速側プラネタリ要素と低速側プラネタリ要素は、一体のプラネタリ要素を構成し、キャリア要素上に回転可能に支持されるようにできる。
【0011】
本発明の遊星歯車速度変換機を減速機として用いてモータ内蔵ホイールを構成することができる。モータ内蔵ホイールは、車両のホイール内に収められた電動機(インホイールモータ)により当該ホイールを回転させ、車両の駆動輪を構成するものである。
【0012】
ホイール内に、電動機と、遊星歯車速度変換機を収め、遊星歯車速度変換機の高速側の軸に電動機を結合し、低速側の軸にホイールを結合する。遊星歯車速度変換機の構成は、高速側歯車列と低速側歯車列とを有し、これらの歯車列は、双方の歯車列に属し、かつこれらの歯車列を接続するプラネタリ要素を有するものとし、高速側歯車列を磁気式歯車で構成し、低速側歯車列を機械式歯車で構成する。また、上述の具体化された二つの態様の遊星歯車速度変換機の構成を採用することもできる。
【0013】
高速側歯車列を磁気式歯車で構成したことにより、電動機を高回転のものとすることができる。また、低速側歯車列は機械式歯車であるので許容トルクを大きくすることができる。
【0014】
本発明の遊星歯車速度変換機を減速機として用いて車両の駆動装置を構成することができる。動力源として電動機を用い、これを遊星歯車速度変換機の高速側の軸に接続する。一方、遊星歯車速度変換機の低速側の軸は、駆動輪に接続される。この低速側の軸は、差動装置を介して左右の駆動輪に接続されるようにできる。
【0015】
高速側歯車列を磁気式歯車で構成したことにより、電動機を高回転のものとすることができる。また、低速側歯車列は機械式歯車であるので許容トルクを大きくすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、変速比が大きく、摩擦による損失が少なく、許容トルクの大きい速度変換機が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る実施形態である速度変換機の回転軸線を含む概略断面図である。
【図2】図1に示すA−A線による断面図である。
【図3】図1に示すB−B線による断面図である。
【図4】図1に示される速度変換機の骨格図である。
【図5】本発明に係る他の実施形態である速度変換機の骨格図である。
【図6】図5の速度変換機の軸直交概略断面図である。
【図7】入力側リングギアの他の例を示す図である。
【図8】本発明の他の態様に係る実施形態であるモータ内蔵ホイールの概略構成を示す断面図である。
【図9】本発明のさらに他の態様に係る実施形態である車両駆動装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。図1は、本実施形態の速度変換機10の概略構成を示す断面図である。図2および図3は、図1に示すA−A線およびB−B線による歯車列に係る断面図である。図4は、速度変換機10の回転伝達に係る各要素を模式的に表す骨格図である。
【0019】
速度変換機10は、二つの軸12,14を有し、これらの軸の間で回転の伝達を行う。二つの軸12,14の間には、後述する歯車列が介在し、この歯車列の作用により軸12は軸14より高速で回転する。軸12を入力軸、軸14を出力軸とした場合、速度変換機10は減速機として機能し、逆に軸14を入力軸、軸12を出力軸とした場合には、増速機として機能する。以下の説明においては、速度変換機10を減速機として機能させた場合を例として説明するが、前記のように入出力軸を入れ替えることで増速機としても機能させることができ、速度変換機10は、減速機としての使用に限定されるものではない。
【0020】
減速機10は、共通の軸線Lを有する入力軸12と出力軸14を有する。入力軸12と出力軸の間には歯車列が介在し、減速機10は、この歯車列を収容するハウジング16を有する。入力軸12は、ハウジング16に軸受、特に玉軸受18を介してその軸線回りに回転可能に支持される。出力軸14も、ハウジング16に軸受、特に玉軸受20を介してその軸線回りに回転可能に支持される。出力軸14には、プラネタリキャリア22が結合され、これらは一体に出力軸14の軸線回りに回転する。また、プラネタリキャリア22は、入力軸12に、軸受、特に玉軸受24を介して回転可能に支持されている。プラネタリキャリア22は、プラネタリギア26を、軸線Lから所定の距離離れ、これと平行な軸線M回りに回転可能に支持している。プラネタリキャリア22の入力軸12に支持される部分と出力軸14に支持される部分は、分離しているが、プラネタリギア26により連結され、一体となって回転する。
【0021】
プラネタリギア26は、プラネタリキャリア22の回転に伴って入出力軸の共通軸線L回りに公転し、またプラネタリギア26自身の軸線Mの回りに自転可能である。プラネタリギアは、軸線Lの回りに4個が配置されている。プラネタリギア26は、一つの軸上に、二つの径の異なる歯車要素を有する。減速機10においては、入力軸12側の歯車要素の径が大きく、出力軸14側の歯車要素の径が小さい。減速機10は、後述するように遊星歯車機構として構成され、特に、プラネタリギア26がこの径の異なる二つの歯車要素を有すことで、いわゆるラビニヨ式遊星歯車機構が構成されている。プラネタリギア26の入力軸12側の歯車要素は、磁気式歯車からなる入力側プラネタリギア28であり、出力軸14側の歯車要素は、機械式歯車からなる出力側プラネタリギア30である。
【0022】
図2に示されるように、入力側プラネタリギア28は、全体として円筒または円板形状を有し、その周囲に、周方向に沿って極性が交互になるように複数の永久磁石32が配列されている。図において、永久磁石32は、白抜きで表されているものが外周面がS極に着磁されているもの、二重斜線で表されているものが外周面がN極に着磁されているものである。永久磁石32の内側には、円環薄板形状の磁性鋼板が軸線Mの方向に積層して形成されるプラネタリヨーク34が設けられている。入力軸12上にも永久磁石36が周方向に沿って極性が交互となるように配列され、磁気式歯車であるサンギア38が形成されている。サンギア38の永久磁石36についても、図2において、白抜き部分が外周面をS極に着磁されたもの、二重斜線で表されているものがN極に着磁されたものである。入力側プラネタリギア28とサンギア38のそれぞれの永久磁石32、36は、等しいピッチで配列されている。また、入力側プラネタリギア28とサンギア38は、わずかの隙間をもって対向しており、それぞれに配置される永久磁石32、36の間には、磁力による吸引力が作用している。
【0023】
4個の入力側プラネタリギア28の全体を囲むように、ハウジング16の内側にハウジングヨーク40が設けられている。ハウジングヨーク40は、円環薄板形状の磁性鋼板を共通軸線Lの方向に積層して構成される。一つの永久磁石32から延びる磁束は、ハウジングヨーク40を通り、別の永久磁石32を貫き、プラネタリヨーク34を通って元の永久磁石に戻る。このように、プラネタリヨーク34およびハウジングヨーク40は、永久磁石32に係る磁気回路を形成する。
【0024】
出力側プラネタリギア30は前述のように機械式歯車により構成されている。4個の出力側プラネタリギア30全体を囲んでハウジング16の内側に機械式歯車であるリングギア42が配置されている。各出力側プラネタリギア30とリングギア42は噛み合っている。
【0025】
入力軸12が回転すると、サンギア38と入力側プラネタリギア30の磁気結合により、回転が伝わり、プラネタリギア26が自転する。プラネタリギア26が自転すると、出力側プラネタリギア30がハウジング16に固定されたリングギア42に噛み合っているため、プラネタリギア26の公転運動が生じ、これによりプラネタリキャリア22が回転する。プラネタリキャリア22は、出力軸14に結合されているので、出力軸14も回転する。このようにして、入力軸12から出力軸14に回転が伝達される。
【0026】
以上のように、減速機10は、サンギア38と、プラネタリキャリア22に支持されサンギア38の周囲を自転すると共に公転するプラネタリギア26と、サンギア38に同軸配置されプラネタリギア26と噛み合うリングギア42からなる遊星歯車機構を有する。サンギア38が入力軸12に結合され、プラネタリキャリア22が出力軸14に結合される。プラネタリギア26は、二つの歯車要素、すなわち入力側プラネタリギア28と出力側プラネタリギア30を有する。入力側プラネタリギア28はサンギア38と共に入力側の歯車列を構成し、出力側プラネタリギア30はリングギア42と共に出力側の歯車列を構成する。入力側の歯車列は磁気式歯車で構成され、出力側の歯車列は機械式歯車で構成される。各歯車列の変速比により、入力軸12は、出力軸14より高速で回転する。したがって、入力側の歯車列は高速側の歯車列であり、出力側の歯車列は低速側の歯車列である。
【0027】
減速機10の減速比は、以下のようになる。各ギアの歯数(磁気式歯車にあっては永久磁石の個数)Zと、回転速度nを次のようにおく。
サンギア38(Zs1,ns1)
入力側プラネタリギア28(Zp1,np1)
出力側プラネタリギア30(Zp2,np2)
プラネタリキャリア22(nc)
リングギア42(Zr2,nr2)
【0028】
伝達基本式は次のようになる。
Zs1×ns1=Zs1×nc−Zp1×np1
Zr2×nr2=Zr2×nc−Zp2×np2
np1=np2,nr2=0
これより、サンギア38、プラネタリギア26、リングギア42、プラネタリキャリア22の速度比は、下記の表のようになる。
【0029】
【表1】

【0030】
サンギア38、入力側プラネタリギア28、出力側プラネタリギア30およびリングギア42の半径比が、
1:2.4:0.48:3.88
となるように、各ギアの歯数Zを定めると、減速機10の減速比は、20.4となる。
【0031】
図5は、他の実施形態の速度変換機または減速機50の構成を示す骨格図であり、図6は入力側の歯車列の軸直交断面図である。減速機50のより詳細な構造は、図1を参照することにより当業者とって容易に理解できるものであり、減速機50の回転軸線を含む断面図は省略する。
【0032】
入力軸52上に、磁気式歯車であるサンギア54が設けられている。サンギア54は、円筒または円板形状であり、その外周に周方向に沿って、極性が交互となるよう複数の永久磁石56が配列される。入力軸52の軸線回りに回転可能にプラネタリキャリア58が支持されている。さらに、プラネタリキャリア58上に、回転可能に4個のプラネタリギア60が支持されている。プラネタリギア60は磁気式歯車である入力側プラネタリギア62と、機械式歯車である出力側プラネタリギア64を有する。入力側および出力側プラネタリギア62,64は、一体となって公転および自転する。入力側プラネタリギア62は円筒または円板形状であり、その外周に方向に沿って、極性が交互となるように複数の永久磁石66が配列され、磁気式歯車として構成される。永久磁石66の内側には、円環板状の磁性鋼板が軸線方向に積層されたプラネタリヨーク68が設けられている。個々の入力側プラネタリギア62は、サンギア54に僅かの隙間をあけて対向し、これと磁気結合する。4個の入力側プラネタリギア62の周囲を囲うように磁気式歯車の入力側リングギア70が固定的に配置される。入力側リングギア70は、図6に示すように4個の入力側プラネタリギア62の周囲を囲む円環形状であって、その内周面に周方向に永久磁石72が配列される。配列された永久磁石の外側には、円環板形状の磁性鋼板が軸線方向に積層されたリングヨーク74が設けられている。入力側プラネタリギア62と入力側リングギア70は、僅かの隙間をあけて対向し、磁気結合する。4個の出力側プラネタリギア64の周囲を囲むように機械式歯車である出力側リングギア76が配置される。各出力側プラネタリギア64と出力側リングギア76は噛み合い、また出力側リングギア76は出力軸78に結合されている。
【0033】
サンギア54上の永久磁石56、入力側プラネタリギア62上の永久磁石66、及び入力側リングギア70上の永久磁石72は、前述のようにそれぞれ周方向に極性が交互となるよう配置される。図6中、白抜きで表されているものが外周面がS極に着磁されているもの、二重斜線で表されているものが外周面がN極に着磁されているものである。また、プラネタリヨーク68およびリングヨーク74は、永久磁石66,72に係る磁気回路を形成する。
【0034】
以上のように、減速機50は、サンギア54、プラネタリキャリア58に支持されサンギア54の周囲を自転すると共に公転するプラネタリギア60と、サンギア54と同軸に配置されプラネタリギア60と磁気結合する入力側リングギア70と、プラネタリギア60と噛み合うもう一つのリングギアである出力側リングギア76とからなる遊星歯車機構を有する。サンギア54が入力軸52に結合され、出力側リングギア76が出力軸78に結合される。プラネタリギア60は、二つの歯車要素、すなわち入力側プラネタリギア62と出力側プラネタリギア64を有する。入力側プラネタリギア62はサンギア54および入力側リングギア70と共に入力側の歯車列を構成し、出力側プラネタリギア64は出力側リングギア76と共に出力側の歯車列を構成する。入力側の歯車列は磁気式歯車で構成され、出力側の歯車列は機械式歯車で構成される。各歯車列の変速比により、入力軸52は、出力軸78より高速で回転する。したがって、入力側の歯車列は高速側の歯車列であり、出力側の歯車列は低速側の歯車列である。
【0035】
減速機50の減速比は、以下のようになる。各ギアの歯数(磁気式歯車にあっては永久磁石の個数)Zと、回転速度nを次のようにおく。
サンギア54(Zs1,ns1)
入力側プラネタリギア62(Zp1,np1)
出力側プラネタリギア64(Zp2,np2)
プラネタリキャリア58(nc)
入力側リングギア70(Zr1,nr1)
出力側リングギア76(Zr2,nr2)
【0036】
伝達基本式は次のようになる。
Zs1×ns1=Zs1×nc−Zp1×np1
Zr1×nr1=Zr1×nc−Zp1×np1
Zr2×nr2=Zr2×nc−Zp2×np2
np1=np2,nr1=0
これより、サンギア54、プラネタリギア60、入力側リングギア70、プラネタリキャリア58、出力側リングギア76の速度比は、下記の表のようになる。
【0037】
【表2】

【0038】
サンギア54、入力側プラネタリギア62、入力側リングギア70、出力側プラネタリギア64および出力側リングギア76の半径比が、
1:2.5:6:1.3:4.8
となるように、各ギアの歯数Zを定めると、減速機50の減速比は、20となる。
【0039】
前述の減速機10,50において、磁気式歯車は、対向する歯車のそれぞれに永久磁石を配置し、永久磁石間で作用する磁力により回転の伝達を行っている。これに対し、歯車対の一方の歯車を、リラクタンスの大きな部分と小さな部分を周方向に交互に配置することで、回転伝達を行うことも可能である。図7は、減速機50の入力側リングギア70を、リラクタンスの異なる部分を周方向に交互に配列した入力側リングギア80に置き換えた構成例を示す図である。入力側リングギア80は、内周に、周方向に配列された凹凸を形成することにより、リラクタンスの異なる部分を周方向に配列する構成を実現している。凸の部分(突極)82がリラクタンスの大きな部分となり、これと永久磁石が相互作用する。内周に突極82が配列された入力側リングギア80は、内周に、周方向に凹凸が形成された円環板状の磁性鋼板を積層して作製することができる。サンギアとプラネタリギアは、図6に示すものと同一のものを使用することができ、このときの入力側リングギア80の突極82の数は、入力側リングギア70の永久磁石72の数と同じである。
【0040】
図8は、モータ内蔵ホイール90の概略構成を示す断面図である。モータ内蔵ホイールのホイール部92は、リム94とディスク96を含む。ホイール部92の内側に、電気モータ(以下、単にモータと記す。)98と減速機100が内蔵されている。減速機100の構成は、例えば前述の減速機10,50の構成を採ることができ、図8において減速機100は減速機10と同じ構成のものが示されている。モータ98と減速機100は、共通のハウジング102に収められ、また、減速機100の入力軸104がモータ98の軸106と一体となっている。モータ軸106には、永久磁石が備えられたロータ108が結合され、さらにロータ108の周囲を囲んでステータ110が配置される。ステータ110は、ハウジング102に固定されている。減速機100の出力軸112には、ハブ114が設けられており、ここにホイールのディスク96が結合される。
【0041】
減速機100は、前述の減速機10,50の構成を採ることにより大きな減速比を得ることができ、このためモータ98を高回転化し、小形化することができる。このとき、減速機の入力軸104も高回転となり、入力側の歯車列に属する各ギアは高速回転する。入力側の歯車列が機械式歯車で構成される場合、噛み合っている歯の歯面同士の摩擦により摩耗、発熱が生じる。摩耗、発熱を抑えるために潤滑を行う必要があるが、高速回転しているために潤滑油が十分に歯面に供給されない。これらの理由から、機械式歯車を用いた場合、モータの高回転化は制限される。磁気式歯車は、歯車同士が非接触であるため、また接触しても、接触面における滑りがないか、または微小であるため、機械式歯車に見られる摩擦に起因する問題が生じない。減速機100において、磁気式歯車を採用することで、モータ98をより高回転、小形なものとすることができる。
【0042】
また、磁気式歯車は、対向する歯車同士は磁気結合しているので、この結合力を越えた力が作用すると、結合が切れる。つまり、歯車が滑る。しかし、モータ98を高回転化するために大きな減速比が採用されており、高速側の歯車列にて伝達されるトルクは小さく、磁気式歯車であっても滑りが生じにくい。一方で、歯車同士が滑ることが可能なので、許容値を超える過大なトルクが入力した場合に、機械的な損傷を防止することができる。
【0043】
一方、減速機100の出力側の歯車列は、機械式歯車で構成される。出力側の歯車列は、低回転であり、伝達トルクが大きいことから、歯車同士のずれが生じない機械式歯車が採用される。回転速度が低いため、摩擦による問題は、大きなものとならない。
【0044】
このように、高速側の歯車列に磁気式歯車、低速側の歯車列に機械式歯車を用いることにより、互いのデメリットを補いあって、より大きな減速比の速度変換機が実現できる。これにより、モータ内蔵ホイールにおいては、モータを小型化できる。インホイールモータの小形化は、多くのメリットをもたらす。ホイール内は、サスペンション部品、ブレーキ部品が配置されるが、モータの小形化によりこれらの部品を配置するためのより大きな空間を提供することができる。また、ばね下重量が軽減され、乗り心地の改善が期待できる。
【0045】
図7においては、ハブ114、減速機100およびモータ98が一体となってホイール92内に収められた車両の駆動装置が示されたが、モータ単独または減速機とモータを車体側に配置する構成を採ることも可能である。モータを単独で車体側に配置する場合には、モータ軸106と減速機の入力軸104を分離し、これらをユニバーサルジョイントまたは等速ジョイントとドライブシャフトにより連結する構成とすることができる。減速機とモータを車体側に配置する場合には、減速機の出力軸112と、ハブ114を分離し、これらをユニバーサルジョイント等とドライブシャフトにより連結する構成とすることができる。
【0046】
以上は、一つのホイールに対し一つのモータを備えた車両の駆動装置であるが、一つのモータで複数のホイールを駆動することも可能である。図9は、二つのホイールを一つのモータで駆動する車両駆動装置120の概略構成を示す図である。モータ122と減速機124が一体とされ、減速機124の出力が差動装置を含む終減速機126を介して左右の駆動輪128に接続されている。一体となったモータ122と減速機124は、図7に示したモータ98と減速機100と同様の構成とすることができる。減速機124は、前述の減速機10,50と同様の構成とすることができ、入力側の歯車列が磁気式歯車、出力側の歯車が機械式歯車となっている。この構成により、大きな減速比を採用することが可能となり、モータの高回転化、小形化が達成される。
【符号の説明】
【0047】
10,50,100,124 速度変換機(減速機)、12,52 入力軸、14,78 出力軸、22,58 プラネタリキャリア、26,60 プラネタリギア、28,62 入力側プラネタリギア、30,64 出力側プラネタリギア、38,54 サンギア、42 リングギア、70 入力側リングギア、76 出力側リングギア。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸に接続される高速側歯車列と、
第1軸より低速で回転する第2軸に接続される低速側歯車列と、
高速側歯車列と低速側歯車列の双方に属し、これらを接続するプラネタリ要素と、
を有する、遊星歯車速度変換機であって、
高速側歯車列は磁気式歯車で構成され、低速側歯車列は機械式歯車で構成される、
遊星歯車速度変換機。
【請求項2】
請求項1に記載の遊星歯車速度変換機であって、
高速側歯車列は、第1軸に結合されたサン要素と、前記プラネタリ要素に属し、キャリア要素に回転可能に支持される高速側プラネタリ要素と、を含み、
低速側歯車列は、前記プラネタリ要素に属し、前記キャリア要素に、高速側プラネタリ要素と一体に回転可能に支持される低速側プラネタリ要素と、固定されたリング要素と、を含み、
前記キャリア要素が第2軸に結合される、
遊星歯車速度変換機。
【請求項3】
請求項1に記載の遊星歯車速度変換機であって、
高速側歯車列は、第1軸に結合されたサン要素と、前記プラネタリ要素に属し、キャリア要素に回転可能に支持される高速側プラネタリ要素と、固定された高速側リング要素と、を含み、
低速側歯車列は、前記プラネタリ要素に属し、前記キャリア要素に、高速側プラネタリ要素と一体に回転可能に支持される低速側プラネタリ要素と、低速側リング要素と、を含み、
前記低速側リング要素が第2軸に結合される、
遊星歯車速度変換機。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載された遊星歯車速度変換機と、
前記遊星歯車速度変換機の第1軸に結合されたモータと、
前記遊星歯車速度変換機と前記モータとを中に収め、前記遊星歯車速度変換機の第2軸に結合されたホイールと、
を有するモータ内蔵ホイール。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載された遊星歯車速度変換機と、
前記遊星歯車速度変換機の第1軸に接続されたモータと、
前記遊星歯車速度変換機の第2軸に接続された駆動輪と、
を有し、モータの出力を駆動輪に伝え車両を駆動する車両駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−163186(P2012−163186A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25692(P2011−25692)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】