遊泳型アクセス装置の姿勢安定化システム
【課題】バラストタンクのバラスト調整により遊泳型アクセス装置の上下移動だけでなく、姿勢を容易に制御することを可能にする。
【解決手段】完全に分離した複数のタンク22が集合してなるバラストタンク10と、 水中における遊泳型アクセス装置6の本体の傾斜の方向、傾斜量を計測する姿勢計測手段12と、バラストタンク10を構成するタンクのうち、任意のタンクへの注排水を実施する注排水手段と、姿勢計測手段による計測結果に基づいて、目標とする姿勢を保つのに必要な注排水を実施すべきバラストタンク10のタンク22の特定と必要とされる注排水量の演算を行い、その演算結果に従って前記注排水手段の動作を制御する制御手段14と、を設ける。
【解決手段】完全に分離した複数のタンク22が集合してなるバラストタンク10と、 水中における遊泳型アクセス装置6の本体の傾斜の方向、傾斜量を計測する姿勢計測手段12と、バラストタンク10を構成するタンクのうち、任意のタンクへの注排水を実施する注排水手段と、姿勢計測手段による計測結果に基づいて、目標とする姿勢を保つのに必要な注排水を実施すべきバラストタンク10のタンク22の特定と必要とされる注排水量の演算を行い、その演算結果に従って前記注排水手段の動作を制御する制御手段14と、を設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、原子炉内構造物の点検・補修作業の実施に用いられる遊泳型アクセス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所設備のうち、特に、原子炉内構造物においては供用期間中の予防保全の観点から、様々な点検や補修といった作業が実施されている。複雑な形状の構造物によって構成される原子炉内においては、点検や補修作業の対象位置へ向かって、遠隔操作で炉内の水中を移動する遊泳型アクセス装置が必要となる。この種の遊泳型アクセス装置は、実施する作業毎に、あるいは作業の対象部位毎に専用の作業装置を搭載して、目標位置に向かって遠隔装置により水中を自力で推進していくことができる。
【0003】
近年、作業用機構、例えば、検査用のカメラや探触子の小型化、軽量化が進み、これらを水中遊泳型アクセス装置に搭載して、点検や補修作業を実施する機会が増えてきている。水中遊泳型のアクセス装置は、原子炉内のアクセス範囲が比較的広く、しかも自由度も大きいことから、作業対象となる構造物および作業範囲を拡大することが可能である。
【0004】
この種の水中遊泳型アクセス装置では、例えば、シュラウドサポートプレートの下側で作業を行った場合、潜行、浮上といった上下方向の移動を制御することに加え、左右または前後の姿勢についても位置精度を保持した状態で姿勢を安定させることが必要となる。
【0005】
従来、水中を移動する移動体の姿勢を制御する技術として、例えば、特許文献1、2を挙げることができる。これらは、移動体に推力を与える推進機構に指令するトルク指令を演算し、移動体の姿勢に応じて推進機構の推力を加減することによって、移動体の位置や姿勢の制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−203479号公報
【特許文献2】特開2008−296875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
原子炉内構造物の検査や補修作業の実施に用いられる従来の遊泳型アクセス装置は、バラストタンクを備えており、このバラストタンクに水を注入・排出することによって、上下方向への移動を可能にしている。
【0008】
原子炉内にある遊泳型アクセス装置では、バランスが悪いと前後・左右に傾きが生じたため傾いたままの状態で、バラストの注入、排出を実施することがある。従来の遊泳型アクセス装置のバラストタンクは、単一のタンクから構成されているので、バラストタンクのバラストを調整しても、上下方向には移動は可能であるものの、傾いた姿勢を補正することはできなかった。このため、遊泳型アクセス装置を原子炉内の作業対象に接近させていながら、作業上必要な姿勢を安定して実現できないため作業を実施できないことがある。
【0009】
また、遊泳型アクセス装置に搭載する作業機構は、実施する作業内容によって異なったものが用いられる。また、同じ作業でもアクセスする作業位置によっては、形状を変更しなければアクセスできないこともある。
【0010】
遊泳型アクセス装置に搭載する作業機構は、重量、大きさ、形状からして様々であり、遊泳型アクセス装置と組み合わせる作業機構を変更すると、全体のバランスが変化してしまうため、作業機構を変更する度に、事前にバランス調整をしなければならないという欠点があった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、前記従来技術の有する問題点を解消し、バラストタンクのバラスト調整により遊泳型アクセス装置の上下移動だけでなく、姿勢を容易に制御することを可能にし、また、搭載する作業機構の重量、大きさによらず、安定した姿勢制御を実現できるようにした遊泳型アクセス装置の姿勢安定化システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するために、本発明は、原子炉内の炉水中を遠隔操作により遊泳し、原子炉構造物の水中における点検・補修作業の実施に用いられる遊泳型アクセス装置の姿勢安定化システムであって、完全に分離した複数のタンクが集合してなるバラストタンクと、水中における前記遊泳型アクセス装置本体の傾斜の方向、傾斜量を計測する姿勢計測手段と、前記バラストタンクを構成するタンクのうち、任意のタンクへの注排水を実施する注排水手段と、前記姿勢計測手段による計測結果に基づいて、目標とする姿勢を保つのに必要な注排水を実施すべき前記バラストタンクのタンクの特定と必要とされる注排水量の演算を行い、その演算結果に従って前記注排水手段の動作を制御する制御手段と、を具備したことを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態による遊泳型アクセス装置の姿勢安定化システムの構成を説明する図。
【図2】遊泳型アクセス装置の備えるバラストタンクを示す図である。
【図3】バラストタンクと接続されるバラスト制御装置の構成を説明する図である。
【図4】本発明の第1の実施形態による遊泳型アクセス装置の姿勢安定化システムの構成を説明する図。
【図5】遊泳型アクセス装置の備える注排水機構の構成を説明する図である。
【図6】遊泳型アクセス装置の備える注排水機構の動作を説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明による遊泳型アクセス装置の姿勢安定化システムの一実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
【0015】
第1実施形態
図1は、本発明をシュラウドやシュラウドサポートなどの代表的な原子炉内構造にアクセスして点検・補修する装置に適用した実施の形態を示す。
【0016】
図1において、参照番号1は原子炉圧力容器を示し、参照番号2はシュラウドやシュラウドサポートなどの原子炉内構造物を示す。原子炉圧力容器1は炉水3で満たされている。
【0017】
原子炉内構造物2の点検・補修を行う点検・補修装置4は、作業機構5の取り付けられた遊泳型アクセス装置6から構成されている。作業機構5は、例えば、図示しない補修溶接トーチや、検査用のカメラや、探触子など、作業を実施する機器と、これらを正確に動作させるためのセンサや駆動機構などを備えている。
【0018】
遊泳型アクセス装置6は、原子炉圧力容器1内を遠隔操作によって所望の作業位置に遊泳可能にするために、装置本体7には、推力を発生するプロペラなどを備えた推進機構8が設けられている。また、この遊泳型アクセス装置6は、遊泳しながら移動できることに加えて、原子炉内構造物の壁面表面に沿って移動するための移動機構9を備えている。遊泳型アクセス装置6の位置は、位置計測装置9aによって常時計測される。
【0019】
本実施形態の遊泳型アクセス装置6には、水が注排水されるバラストタンク10が搭載されており、このバラストタンク10は、後述するように、完全に相互に分離された複数のタンクから構成されており、遊泳型アクセス装置6の姿勢に応じて各タンクに注排水するバラストの量を制御することで、姿勢を補正するようになっている。遊泳型アクセス装置6は、装置本体7の傾斜の方位、角度を計測するための姿勢計測装置12を備えている。
【0020】
図1において、参照番号14は、原子炉圧力容器1の上方のフロア上に設置されている制御装置を示している。この制御装置14は、電力を供給する動力ケーブル15、センサから信号を送るセンサケーブル16を介して遊泳型アクセス装置6と接続されている。
【0021】
また、フロア上には、遊泳型アクセス装置6のバラストタンク10に注排水する手段としてバラスト制御装置18が設置されている。制御装置14とバラスト制御装置18は接続ケーブル13によって接続され、このバラスト制御装置18と遊泳型アクセス装置6は、水あるいはエアを送るチューブ20によって接続されている。
【0022】
次に、図2は、遊泳型アクセス装置6に搭載されているバラストタンク10の構造を示す。この実施形態では、バラストタンク10は、完全に分離されている、8個のタンク22から構成されている。図2(a)に示されるように、バラストタンク10を上からみると、円を上下、左右に四分割した形態になっており、図2(b)に示されるように、前後にも分割されており、合計で8個のタンク22が集合した構成になっている。図2(c)に示されるように、各タンク22には、継手を介してバラスト管路を形成するチューブとエア管路を形成するチューブが接続されている。
【0023】
図3は、バラスト制御装置18の構成を示す。この図3では、簡便のために、タンク22を二つ図示しているが、残りの6個のタンクも同様にバラスト制御装置18と接続されている。
バラスト制御装置18には、バラストタンク10を構成する各タンク22と一対一に対応させるようにして、各タンク22に注排水するバラスト貯蔵タンク24が設けられている。このバラスト貯蔵タンク24からそれぞれ延びるバラスト管路20aの末端はタンク22と接続されている。バラスト制御装置18の内部においては、バラスト管路20aの流路をそれぞれ開閉する電磁弁25が設けられている。
【0024】
また、バラスト制御装置18には、高圧エアを供給するコンプレッサ26が設けられており、このコンプレッサ26と、各タンク22とは、エア管路21aによって接続される。このエア管路21aには、それぞれエア流路21aを開閉する電磁弁27が設けられている。電磁弁27が開くと、各タンク22にはコンプレッサ26から高圧のエアが供給され、エアの圧力でタンク22の水が排出される。排出された水は、バラスト管路20aを通って各バラスト貯蔵タンク24に還流するようになっている。
【0025】
また、コンプレッサ26と、各バラスト貯蔵タンク24とはエア管路21bを介して並列に接続されている。このエア管路21bには、電磁弁29が設けられている。この電磁弁29が開くとエアの圧力で各バラスト貯蔵タンク24から水供給チューブ20aを通って水が各タンク22に供給されるようになっている。
【0026】
なお、図3において、参照番号は、28はコンプレッサ26から吐出されるエアの圧力を調整する圧力調整弁を示す。
【0027】
本実施形態による遊泳型アクセス装置の姿勢安定化システムは、以上ように構成されるものであり、次に、制御装置14のバラスト制御機能を中心に、作用並びに効果について説明する。
作業機構5と連結した遊泳型アクセス装置6を原子炉圧力容器1内で遊泳させると、作業機構5の大きさや重量およびその展開、収納の状態変化などの影響を受けて、遊泳型アクセス装置6の姿勢が変化する。例えば、図1において、作業機構5の重量が増えると、遊泳型アクセス装置6の本体は右側に傾くことになる。このような遊泳型アクセス装置6の姿勢の変化は、姿勢計測装置12によって計測され、発生した傾斜の方位、傾斜量は定量的に計測される。この計測結果は、センサケーブル16を通して制御装置14に伝送される。
【0028】
制御装置14は、計測された傾斜の方位、傾斜量に基づいて、バラストタンク10を構成する各タンク22のうち、注排水を実施すべきタンク22を特定し、およびその注排水量を計算する演算を直ちに行う。この演算結果は、接続ケーブル13を伝送してバラスト制御装置18に伝達される。
【0029】
図3において、例えば、遊泳型アクセス装置6の本体の右側が下がるように傾いていたときに姿勢を水平する場合を説明する。その傾斜方向、傾斜量から、バラストタンク10を構成する8個のタンク22のうち、左側にあるタンク22を注水すべきタンクと特定し、姿勢を水平にするために必要な注水量が演算される。
【0030】
そこで、バラスト制御装置18は、特定されたタンク22とバラスト貯蔵タンク24を接続するバラスト管路20aの電磁弁25を開き、バラスト貯蔵タンク24の水を特定されたタンク22に注水する。この間、制御装置14は注水量を監視し、演算された規定の注水量に達すると、電磁弁25を閉めて一旦注水を停止する。
【0031】
注水を停止後、直ちに、遊泳型アクセス装置6の姿勢は姿勢計測装置12によって計測され、バラストを調整した結果が制御装置14にフィードバックされる。制御装置14は、フィードバックされた姿勢の計測結果から、遊泳型アクセス装置6が水平になつているかを判別し、傾斜していれば、現在の傾斜方向、傾斜量に基づいて姿勢を水平にするために注排水すべきバラストタンク10のタンク22を特定し、注排水量を演算する。その後、演算結果にしたがって、バラスト制御装置18は特定されたタンク22に指定量だけ水を注排水する。
【0032】
このようにして、注排水を完了した後、遊泳型アクセス装置6の姿勢は、制御装置14にフィードバックされ、姿勢が水平に維持されていれば、バラストの調整は終了することになる。まだ姿勢が傾斜していれば、姿勢計測結果のフィードバック、注排水を実施するタンク22の特定、注排水量の算出、注排水実施を、姿勢が水平になるまで繰り返す。
【0033】
このように複数のタンク22の集合したバラストタンク10のバラストを調整することにより、原子炉圧力容器内での作業で要求される精度で、遊泳型アクセス装置6の姿勢を制御することが実現できる。なお、遊泳型アクセス装置6の姿勢の制御は、水平だけでなく、任意の角度、方位で傾斜した姿勢を目標にして同様に制御することが可能である。
【0034】
本実施形態によれば、バラストタンク10の集合した各タンク22への注排水量を調整することにより、遊泳型アクセス装置6を目標とする姿勢に維持することができるので、例えば、図1において、遊泳型アクセス装置6の作業機構5を原子炉内構造物2の壁面にそって移動させるというように、一方向へ平行に移動しながら点検・補修作業するような場合には、遊泳型アクセス装置6と作業機構5を含めた装置全体の姿勢を一定に維持しながら安定した作業を実施できる。また、どのような作業対象位置にある場合でも、遊泳型アクセス装置6の姿勢を容易に制御することができるので、作業対象を選ばずに、例えば、シュラウドサポートに対する点検・補修の各作業を容易に実施することができる。
【0035】
また、遊泳型アクセス装置6と作業機構5を含めた装置全体の重量と浮力のバランスをバラストタンク10への注排水量によって調整できることから、作業機構5の重量の大小、あるいは作業機構5のバランスの良否に関わらずに自在な姿勢制御を実現することができる。
【0036】
しかも、バラストタンク10内のエアによる浮力と注水による重力を均衡させた場合には、原子炉圧力容器の中で任意の深度にて遊泳型アクセス装置6を静止させる中性浮遊状態を実現することもできる。
【0037】
第2実施形態
次に、本発明の第2の実施形態について、図4を参照しながら詳細に説明する。
第1実施形態では、バラストタンク10への注排水を外部に設置したバラスト制御装置18で行っているが、この第2実施形態では、バラストタンクへ注排水する機構を遊泳型アクセス装置の本体に組み込むようにした実施の形態である。なお、図1と同一の構成要素には同一の参照符合を付して、その詳細な説明は省略する。
【0038】
図4において、参照番号30は、バラストタンク10を構成する各タンク22に注排水する機構を示している。原子炉圧力容器1の上方のフロア上には、制御装置14とコンプレッサ26が設置されており、第1実施形態のようなバラスト制御装置18は設置されていない。
【0039】
そこで、図5に、注排水機構30の構成を示す。
バラストタンク10の各タンク22は、完全に相互に分離したタンクで、集合して一つのバラストタンク10を構成する点は第1実施形態と同様であるが、この第2実施形態では、各タンク22には、水を注入し、あるいは排出させる注排水口38が形成されており、この注排水口38を通して原子炉圧力容器1の炉水が各タンク22に注排水されるようになっている。
【0040】
この注排水機構30は、バラストタンク10の各タンク22にエアを供給・排出することで、水を各タンク22に注入し、あるいは排水する機構である。コンプレッサ26とバラストタンク10とを中継する中継タンク32を備えている。この中継タンク32には、高圧のエアが充填されているとともに、バラストタンク10を構成する各タンク22にエアを供給するエア枝管路34が分岐している。それぞれエア枝管路34には、エア流路を開閉する電磁弁35が設けられている。
【0041】
また、エア枝管路34とは別に、バラストタンク10を構成する各タンク22には、エアを排出するベント管路36がそれぞれ接続されており、各ベント管路36には、電磁弁37が設けられている。
【0042】
ここで、図6は、バラストタンク10を構成する特定のタンク22への注排水の動作を説明する図である。図6(a)は注入時の電磁弁35、37の開閉状態を示し、図6(b)は、排水時の電磁弁35、37の開閉状態を示す。開いている電磁弁は白抜きで表し、閉じている電磁弁は黒塗りで表す。
図6(a)において、バラストタンク10への注水時には、コンプレッサ26から各タンク22にエアを供給するエア枝管路34の電磁弁35は全て閉じた状態にある。
【0043】
そこで、例えば、右上に配置しているタンク22へ炉水を注水する場合について説明する。
【0044】
このタンク22のベント管路36の電磁弁37を開き、ベント管路36を開放すると、タンク22内の圧力よりも水圧の方が高いので、注排水口38から直接タンク22に注水され、エアが水に置換される。この注水は、エアが完全に炉水に置換されるまで継続される。
【0045】
次に、バラストタンク10からの排水時には、図6(b)に示すように、ベント36の管路の電磁弁37はすべて閉じた状態にある。そして、排水を実施すべきタンク22のエア枝管路34の電磁弁35を開くと、中継タンク32から高圧のエアがタンク22に送られ、タンク22内の水をエアの圧力で排出させる。炉水の排出はタンク22内が完全に水に置換されるまで行われる。
【0046】
次に、以上のような第2実施形態の作用・効果について説明する。
【0047】
遊泳型アクセス装置6の姿勢は姿勢計測装置12によって計測される。制御装置14は、姿勢の計測結果から、遊泳型アクセス装置6が水平になっているかを判別し、傾斜していれば、現在の傾斜方向、傾斜量に基づいて姿勢を水平にするために注排水すべきバラストタンク10のタンク22を特定する。その後、上述した注排水方法にしたがって、特定されたタンク22に水を注排水する。
【0048】
このようにして、注排水を完了した後、遊泳型アクセス装置6の姿勢は、制御装置14にフィードバックされ、姿勢が水平に維持されていれば、バラストの調整は終了することになる。まだ、姿勢が傾斜していれば、姿勢計測結果のフィードバック、注排水を実施するタンク22の特定、注排水実施を、姿勢が水平になるまで繰り返す。
【0049】
このように複数のタンクの集合したバラストタンク10のバラストを調整することにより、原子炉圧力容器1内での作業で要求される精度で、遊泳型アクセス6の姿勢を水平に制御すること実現できる。
【0050】
本実施形態によれば、バラストタンク10に水を注排水する機構30を遊泳型アクセス装置6それ自体に内蔵させることにより、原子炉上から接続する注排水用のチューブが不要となり、取り扱い性が向上する。
【0051】
また、遊泳型アクセス装置6は常時高圧のエアが充填されている中継タンク32を備えているので、この中継タンク32のエアを利用し排水を迅速に行うことができ、姿勢補正の応答性を向上させることができる。
【0052】
しかも、中継タンク32自体が浮力体の機能を有しているため、遊泳型アクセス装置の姿勢安定化に貢献することが可能である。、
なお、本実施形態においても、遊泳型アクセス装置6の姿勢の制御は、水平だけでなく、任意の角度、方位で傾斜した姿勢を目標にして同様に制御することが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 原子炉圧力容器
2 炉内構造物
4 点検・補修装置
5 作業機構
6 遊泳型アクセス装置
10 バラストタンク
12 姿勢計測装置
14 制御装置
18 バラスト制御装置
22 タンク
24 バラスト貯蔵タンク
26 コンプレッサ
30 注排水機構
32 中継タンク
34 エア枝管路
36 ベント管路
38 注排水口
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、原子炉内構造物の点検・補修作業の実施に用いられる遊泳型アクセス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所設備のうち、特に、原子炉内構造物においては供用期間中の予防保全の観点から、様々な点検や補修といった作業が実施されている。複雑な形状の構造物によって構成される原子炉内においては、点検や補修作業の対象位置へ向かって、遠隔操作で炉内の水中を移動する遊泳型アクセス装置が必要となる。この種の遊泳型アクセス装置は、実施する作業毎に、あるいは作業の対象部位毎に専用の作業装置を搭載して、目標位置に向かって遠隔装置により水中を自力で推進していくことができる。
【0003】
近年、作業用機構、例えば、検査用のカメラや探触子の小型化、軽量化が進み、これらを水中遊泳型アクセス装置に搭載して、点検や補修作業を実施する機会が増えてきている。水中遊泳型のアクセス装置は、原子炉内のアクセス範囲が比較的広く、しかも自由度も大きいことから、作業対象となる構造物および作業範囲を拡大することが可能である。
【0004】
この種の水中遊泳型アクセス装置では、例えば、シュラウドサポートプレートの下側で作業を行った場合、潜行、浮上といった上下方向の移動を制御することに加え、左右または前後の姿勢についても位置精度を保持した状態で姿勢を安定させることが必要となる。
【0005】
従来、水中を移動する移動体の姿勢を制御する技術として、例えば、特許文献1、2を挙げることができる。これらは、移動体に推力を与える推進機構に指令するトルク指令を演算し、移動体の姿勢に応じて推進機構の推力を加減することによって、移動体の位置や姿勢の制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−203479号公報
【特許文献2】特開2008−296875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
原子炉内構造物の検査や補修作業の実施に用いられる従来の遊泳型アクセス装置は、バラストタンクを備えており、このバラストタンクに水を注入・排出することによって、上下方向への移動を可能にしている。
【0008】
原子炉内にある遊泳型アクセス装置では、バランスが悪いと前後・左右に傾きが生じたため傾いたままの状態で、バラストの注入、排出を実施することがある。従来の遊泳型アクセス装置のバラストタンクは、単一のタンクから構成されているので、バラストタンクのバラストを調整しても、上下方向には移動は可能であるものの、傾いた姿勢を補正することはできなかった。このため、遊泳型アクセス装置を原子炉内の作業対象に接近させていながら、作業上必要な姿勢を安定して実現できないため作業を実施できないことがある。
【0009】
また、遊泳型アクセス装置に搭載する作業機構は、実施する作業内容によって異なったものが用いられる。また、同じ作業でもアクセスする作業位置によっては、形状を変更しなければアクセスできないこともある。
【0010】
遊泳型アクセス装置に搭載する作業機構は、重量、大きさ、形状からして様々であり、遊泳型アクセス装置と組み合わせる作業機構を変更すると、全体のバランスが変化してしまうため、作業機構を変更する度に、事前にバランス調整をしなければならないという欠点があった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、前記従来技術の有する問題点を解消し、バラストタンクのバラスト調整により遊泳型アクセス装置の上下移動だけでなく、姿勢を容易に制御することを可能にし、また、搭載する作業機構の重量、大きさによらず、安定した姿勢制御を実現できるようにした遊泳型アクセス装置の姿勢安定化システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するために、本発明は、原子炉内の炉水中を遠隔操作により遊泳し、原子炉構造物の水中における点検・補修作業の実施に用いられる遊泳型アクセス装置の姿勢安定化システムであって、完全に分離した複数のタンクが集合してなるバラストタンクと、水中における前記遊泳型アクセス装置本体の傾斜の方向、傾斜量を計測する姿勢計測手段と、前記バラストタンクを構成するタンクのうち、任意のタンクへの注排水を実施する注排水手段と、前記姿勢計測手段による計測結果に基づいて、目標とする姿勢を保つのに必要な注排水を実施すべき前記バラストタンクのタンクの特定と必要とされる注排水量の演算を行い、その演算結果に従って前記注排水手段の動作を制御する制御手段と、を具備したことを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態による遊泳型アクセス装置の姿勢安定化システムの構成を説明する図。
【図2】遊泳型アクセス装置の備えるバラストタンクを示す図である。
【図3】バラストタンクと接続されるバラスト制御装置の構成を説明する図である。
【図4】本発明の第1の実施形態による遊泳型アクセス装置の姿勢安定化システムの構成を説明する図。
【図5】遊泳型アクセス装置の備える注排水機構の構成を説明する図である。
【図6】遊泳型アクセス装置の備える注排水機構の動作を説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明による遊泳型アクセス装置の姿勢安定化システムの一実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
【0015】
第1実施形態
図1は、本発明をシュラウドやシュラウドサポートなどの代表的な原子炉内構造にアクセスして点検・補修する装置に適用した実施の形態を示す。
【0016】
図1において、参照番号1は原子炉圧力容器を示し、参照番号2はシュラウドやシュラウドサポートなどの原子炉内構造物を示す。原子炉圧力容器1は炉水3で満たされている。
【0017】
原子炉内構造物2の点検・補修を行う点検・補修装置4は、作業機構5の取り付けられた遊泳型アクセス装置6から構成されている。作業機構5は、例えば、図示しない補修溶接トーチや、検査用のカメラや、探触子など、作業を実施する機器と、これらを正確に動作させるためのセンサや駆動機構などを備えている。
【0018】
遊泳型アクセス装置6は、原子炉圧力容器1内を遠隔操作によって所望の作業位置に遊泳可能にするために、装置本体7には、推力を発生するプロペラなどを備えた推進機構8が設けられている。また、この遊泳型アクセス装置6は、遊泳しながら移動できることに加えて、原子炉内構造物の壁面表面に沿って移動するための移動機構9を備えている。遊泳型アクセス装置6の位置は、位置計測装置9aによって常時計測される。
【0019】
本実施形態の遊泳型アクセス装置6には、水が注排水されるバラストタンク10が搭載されており、このバラストタンク10は、後述するように、完全に相互に分離された複数のタンクから構成されており、遊泳型アクセス装置6の姿勢に応じて各タンクに注排水するバラストの量を制御することで、姿勢を補正するようになっている。遊泳型アクセス装置6は、装置本体7の傾斜の方位、角度を計測するための姿勢計測装置12を備えている。
【0020】
図1において、参照番号14は、原子炉圧力容器1の上方のフロア上に設置されている制御装置を示している。この制御装置14は、電力を供給する動力ケーブル15、センサから信号を送るセンサケーブル16を介して遊泳型アクセス装置6と接続されている。
【0021】
また、フロア上には、遊泳型アクセス装置6のバラストタンク10に注排水する手段としてバラスト制御装置18が設置されている。制御装置14とバラスト制御装置18は接続ケーブル13によって接続され、このバラスト制御装置18と遊泳型アクセス装置6は、水あるいはエアを送るチューブ20によって接続されている。
【0022】
次に、図2は、遊泳型アクセス装置6に搭載されているバラストタンク10の構造を示す。この実施形態では、バラストタンク10は、完全に分離されている、8個のタンク22から構成されている。図2(a)に示されるように、バラストタンク10を上からみると、円を上下、左右に四分割した形態になっており、図2(b)に示されるように、前後にも分割されており、合計で8個のタンク22が集合した構成になっている。図2(c)に示されるように、各タンク22には、継手を介してバラスト管路を形成するチューブとエア管路を形成するチューブが接続されている。
【0023】
図3は、バラスト制御装置18の構成を示す。この図3では、簡便のために、タンク22を二つ図示しているが、残りの6個のタンクも同様にバラスト制御装置18と接続されている。
バラスト制御装置18には、バラストタンク10を構成する各タンク22と一対一に対応させるようにして、各タンク22に注排水するバラスト貯蔵タンク24が設けられている。このバラスト貯蔵タンク24からそれぞれ延びるバラスト管路20aの末端はタンク22と接続されている。バラスト制御装置18の内部においては、バラスト管路20aの流路をそれぞれ開閉する電磁弁25が設けられている。
【0024】
また、バラスト制御装置18には、高圧エアを供給するコンプレッサ26が設けられており、このコンプレッサ26と、各タンク22とは、エア管路21aによって接続される。このエア管路21aには、それぞれエア流路21aを開閉する電磁弁27が設けられている。電磁弁27が開くと、各タンク22にはコンプレッサ26から高圧のエアが供給され、エアの圧力でタンク22の水が排出される。排出された水は、バラスト管路20aを通って各バラスト貯蔵タンク24に還流するようになっている。
【0025】
また、コンプレッサ26と、各バラスト貯蔵タンク24とはエア管路21bを介して並列に接続されている。このエア管路21bには、電磁弁29が設けられている。この電磁弁29が開くとエアの圧力で各バラスト貯蔵タンク24から水供給チューブ20aを通って水が各タンク22に供給されるようになっている。
【0026】
なお、図3において、参照番号は、28はコンプレッサ26から吐出されるエアの圧力を調整する圧力調整弁を示す。
【0027】
本実施形態による遊泳型アクセス装置の姿勢安定化システムは、以上ように構成されるものであり、次に、制御装置14のバラスト制御機能を中心に、作用並びに効果について説明する。
作業機構5と連結した遊泳型アクセス装置6を原子炉圧力容器1内で遊泳させると、作業機構5の大きさや重量およびその展開、収納の状態変化などの影響を受けて、遊泳型アクセス装置6の姿勢が変化する。例えば、図1において、作業機構5の重量が増えると、遊泳型アクセス装置6の本体は右側に傾くことになる。このような遊泳型アクセス装置6の姿勢の変化は、姿勢計測装置12によって計測され、発生した傾斜の方位、傾斜量は定量的に計測される。この計測結果は、センサケーブル16を通して制御装置14に伝送される。
【0028】
制御装置14は、計測された傾斜の方位、傾斜量に基づいて、バラストタンク10を構成する各タンク22のうち、注排水を実施すべきタンク22を特定し、およびその注排水量を計算する演算を直ちに行う。この演算結果は、接続ケーブル13を伝送してバラスト制御装置18に伝達される。
【0029】
図3において、例えば、遊泳型アクセス装置6の本体の右側が下がるように傾いていたときに姿勢を水平する場合を説明する。その傾斜方向、傾斜量から、バラストタンク10を構成する8個のタンク22のうち、左側にあるタンク22を注水すべきタンクと特定し、姿勢を水平にするために必要な注水量が演算される。
【0030】
そこで、バラスト制御装置18は、特定されたタンク22とバラスト貯蔵タンク24を接続するバラスト管路20aの電磁弁25を開き、バラスト貯蔵タンク24の水を特定されたタンク22に注水する。この間、制御装置14は注水量を監視し、演算された規定の注水量に達すると、電磁弁25を閉めて一旦注水を停止する。
【0031】
注水を停止後、直ちに、遊泳型アクセス装置6の姿勢は姿勢計測装置12によって計測され、バラストを調整した結果が制御装置14にフィードバックされる。制御装置14は、フィードバックされた姿勢の計測結果から、遊泳型アクセス装置6が水平になつているかを判別し、傾斜していれば、現在の傾斜方向、傾斜量に基づいて姿勢を水平にするために注排水すべきバラストタンク10のタンク22を特定し、注排水量を演算する。その後、演算結果にしたがって、バラスト制御装置18は特定されたタンク22に指定量だけ水を注排水する。
【0032】
このようにして、注排水を完了した後、遊泳型アクセス装置6の姿勢は、制御装置14にフィードバックされ、姿勢が水平に維持されていれば、バラストの調整は終了することになる。まだ姿勢が傾斜していれば、姿勢計測結果のフィードバック、注排水を実施するタンク22の特定、注排水量の算出、注排水実施を、姿勢が水平になるまで繰り返す。
【0033】
このように複数のタンク22の集合したバラストタンク10のバラストを調整することにより、原子炉圧力容器内での作業で要求される精度で、遊泳型アクセス装置6の姿勢を制御することが実現できる。なお、遊泳型アクセス装置6の姿勢の制御は、水平だけでなく、任意の角度、方位で傾斜した姿勢を目標にして同様に制御することが可能である。
【0034】
本実施形態によれば、バラストタンク10の集合した各タンク22への注排水量を調整することにより、遊泳型アクセス装置6を目標とする姿勢に維持することができるので、例えば、図1において、遊泳型アクセス装置6の作業機構5を原子炉内構造物2の壁面にそって移動させるというように、一方向へ平行に移動しながら点検・補修作業するような場合には、遊泳型アクセス装置6と作業機構5を含めた装置全体の姿勢を一定に維持しながら安定した作業を実施できる。また、どのような作業対象位置にある場合でも、遊泳型アクセス装置6の姿勢を容易に制御することができるので、作業対象を選ばずに、例えば、シュラウドサポートに対する点検・補修の各作業を容易に実施することができる。
【0035】
また、遊泳型アクセス装置6と作業機構5を含めた装置全体の重量と浮力のバランスをバラストタンク10への注排水量によって調整できることから、作業機構5の重量の大小、あるいは作業機構5のバランスの良否に関わらずに自在な姿勢制御を実現することができる。
【0036】
しかも、バラストタンク10内のエアによる浮力と注水による重力を均衡させた場合には、原子炉圧力容器の中で任意の深度にて遊泳型アクセス装置6を静止させる中性浮遊状態を実現することもできる。
【0037】
第2実施形態
次に、本発明の第2の実施形態について、図4を参照しながら詳細に説明する。
第1実施形態では、バラストタンク10への注排水を外部に設置したバラスト制御装置18で行っているが、この第2実施形態では、バラストタンクへ注排水する機構を遊泳型アクセス装置の本体に組み込むようにした実施の形態である。なお、図1と同一の構成要素には同一の参照符合を付して、その詳細な説明は省略する。
【0038】
図4において、参照番号30は、バラストタンク10を構成する各タンク22に注排水する機構を示している。原子炉圧力容器1の上方のフロア上には、制御装置14とコンプレッサ26が設置されており、第1実施形態のようなバラスト制御装置18は設置されていない。
【0039】
そこで、図5に、注排水機構30の構成を示す。
バラストタンク10の各タンク22は、完全に相互に分離したタンクで、集合して一つのバラストタンク10を構成する点は第1実施形態と同様であるが、この第2実施形態では、各タンク22には、水を注入し、あるいは排出させる注排水口38が形成されており、この注排水口38を通して原子炉圧力容器1の炉水が各タンク22に注排水されるようになっている。
【0040】
この注排水機構30は、バラストタンク10の各タンク22にエアを供給・排出することで、水を各タンク22に注入し、あるいは排水する機構である。コンプレッサ26とバラストタンク10とを中継する中継タンク32を備えている。この中継タンク32には、高圧のエアが充填されているとともに、バラストタンク10を構成する各タンク22にエアを供給するエア枝管路34が分岐している。それぞれエア枝管路34には、エア流路を開閉する電磁弁35が設けられている。
【0041】
また、エア枝管路34とは別に、バラストタンク10を構成する各タンク22には、エアを排出するベント管路36がそれぞれ接続されており、各ベント管路36には、電磁弁37が設けられている。
【0042】
ここで、図6は、バラストタンク10を構成する特定のタンク22への注排水の動作を説明する図である。図6(a)は注入時の電磁弁35、37の開閉状態を示し、図6(b)は、排水時の電磁弁35、37の開閉状態を示す。開いている電磁弁は白抜きで表し、閉じている電磁弁は黒塗りで表す。
図6(a)において、バラストタンク10への注水時には、コンプレッサ26から各タンク22にエアを供給するエア枝管路34の電磁弁35は全て閉じた状態にある。
【0043】
そこで、例えば、右上に配置しているタンク22へ炉水を注水する場合について説明する。
【0044】
このタンク22のベント管路36の電磁弁37を開き、ベント管路36を開放すると、タンク22内の圧力よりも水圧の方が高いので、注排水口38から直接タンク22に注水され、エアが水に置換される。この注水は、エアが完全に炉水に置換されるまで継続される。
【0045】
次に、バラストタンク10からの排水時には、図6(b)に示すように、ベント36の管路の電磁弁37はすべて閉じた状態にある。そして、排水を実施すべきタンク22のエア枝管路34の電磁弁35を開くと、中継タンク32から高圧のエアがタンク22に送られ、タンク22内の水をエアの圧力で排出させる。炉水の排出はタンク22内が完全に水に置換されるまで行われる。
【0046】
次に、以上のような第2実施形態の作用・効果について説明する。
【0047】
遊泳型アクセス装置6の姿勢は姿勢計測装置12によって計測される。制御装置14は、姿勢の計測結果から、遊泳型アクセス装置6が水平になっているかを判別し、傾斜していれば、現在の傾斜方向、傾斜量に基づいて姿勢を水平にするために注排水すべきバラストタンク10のタンク22を特定する。その後、上述した注排水方法にしたがって、特定されたタンク22に水を注排水する。
【0048】
このようにして、注排水を完了した後、遊泳型アクセス装置6の姿勢は、制御装置14にフィードバックされ、姿勢が水平に維持されていれば、バラストの調整は終了することになる。まだ、姿勢が傾斜していれば、姿勢計測結果のフィードバック、注排水を実施するタンク22の特定、注排水実施を、姿勢が水平になるまで繰り返す。
【0049】
このように複数のタンクの集合したバラストタンク10のバラストを調整することにより、原子炉圧力容器1内での作業で要求される精度で、遊泳型アクセス6の姿勢を水平に制御すること実現できる。
【0050】
本実施形態によれば、バラストタンク10に水を注排水する機構30を遊泳型アクセス装置6それ自体に内蔵させることにより、原子炉上から接続する注排水用のチューブが不要となり、取り扱い性が向上する。
【0051】
また、遊泳型アクセス装置6は常時高圧のエアが充填されている中継タンク32を備えているので、この中継タンク32のエアを利用し排水を迅速に行うことができ、姿勢補正の応答性を向上させることができる。
【0052】
しかも、中継タンク32自体が浮力体の機能を有しているため、遊泳型アクセス装置の姿勢安定化に貢献することが可能である。、
なお、本実施形態においても、遊泳型アクセス装置6の姿勢の制御は、水平だけでなく、任意の角度、方位で傾斜した姿勢を目標にして同様に制御することが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 原子炉圧力容器
2 炉内構造物
4 点検・補修装置
5 作業機構
6 遊泳型アクセス装置
10 バラストタンク
12 姿勢計測装置
14 制御装置
18 バラスト制御装置
22 タンク
24 バラスト貯蔵タンク
26 コンプレッサ
30 注排水機構
32 中継タンク
34 エア枝管路
36 ベント管路
38 注排水口
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉内の炉水中を遠隔操作により遊泳し、原子炉構造物の水中における点検・補修作業の実施に用いられる遊泳型アクセス装置の姿勢安定化システムであって、
完全に分離した複数のタンクが集合してなるバラストタンクと、
水中における前記遊泳型アクセス装置本体の傾斜の方向、傾斜量を計測する姿勢計測手段と、
前記バラストタンクを構成するタンクのうち、任意のタンクへの注排水を実施する注排水手段と、
前記姿勢計測手段による計測結果に基づいて、目標とする姿勢を保つのに必要な注排水を実施すべき前記バラストタンクのタンクの特定と必要とされる注排水量の演算を行い、その演算結果に従って前記注排水手段の動作を制御する制御手段と、
を具備したことを特徴とする遊泳型アクセス装置の姿勢安定化システム。
【請求項2】
前記注排水手段は、
前記バラストタンクの各タンクと一対一に対応して配置されるバラスト貯蔵タンクと、
前記バラストタンクの各タンクに注排水するために必要な高圧エアを供給する圧縮機と、
前記圧縮機と前記各バラスト貯蔵タンクとそれぞれ接続し、前記バラスト貯蔵タンクと一対一に対応する各流路をそれぞれ開閉する電磁弁が設けられた第1のエア配管と、
前記圧縮機と前記バラストタンクの各タンクをそれぞれ接続し、前記バラストタンクの各タンクと一対一に対応する各流路をそれぞれ開閉する電磁弁が設けられた第2のエア配管と、
前記バラスト貯蔵タンクと前記バラストタンクの各タンクを一対一で接続し、流路をそれぞれ開閉する電磁弁が設けられたバラスト管路と、
からなることを特徴とする請求項1に記載の遊泳型アクセス装置の姿勢安定化システム。
【請求項3】
前記注排水手段は、
前記バラストタンクを構成し、炉水の給排水口が開口するタンクと、
前記バラストタンクの各タンクに注排水するために必要な高圧エアを供給する圧縮機と、
前記圧縮機から供給される高圧エアが充填され、前記遊泳型アクセス装置に内蔵された中継タンクと、
前記中継タンクと前記バラストタンクの各タンクを一対一で接続し、流路を開閉する電磁弁が設けられたエア配管と、
前記バラストタンクの各タンクにそれぞれ接続され、流路を開閉する電磁弁が設けられたベント配管と、
からなることを特徴とする請求項1に記載の遊泳型アクセス装置の姿勢安定化システム。
【請求項4】
原子炉内の炉水中を遠隔操作により遊泳し、原子炉構造物の水中における点検・補修作業の実施に用いられる遊泳型アクセス装置の姿勢安定化方法であって、
完全に分離した複数のタンクが集合してなるバラストタンクを前記遊泳型アクセス装置に搭載し、
水中における前記遊泳型アクセス装置本体の傾斜の方向、傾斜量を計測し、
傾斜の計測結果に基づいて、目標とする姿勢を保つのに必要な注排水を実施すべき前記バラストタンクのタンクを特定するとともに必要とされる注排水量を算出し、
前記バラストタンクを構成するタンクのうち、特定されたタンクへの注排水を実施することを特徴とする遊泳型アクセス装置の姿勢安定化方法。
【請求項5】
前記バラストタンクの各タンクと一対一に対応するバラスト貯蔵タンクを炉水面上に設置し、高圧エアを任意の前記バラスト貯蔵タンクに供給することにより、対応するタンクに注水し、前記高圧エアを前記バラストタンクの任意のタンクに供給することにより、対応するタンクから排水するようにしたことを特徴とする請求項4に記載の遊泳型アクセス装置の姿勢安定化方法。
【請求項6】
高圧エアが充填された中継タンクを前記遊泳型アクセス装置の本体に設けるとともに、前記バラストタンクを炉水の給排水口が開口するタンクから構成し、
前記中継タンクから高圧エアを前記バラストタンクの任意のタンクに供給することにより炉水を排水し、前記バラストタンクの任意のタンクから高圧エアを排気することにより、対応する炉水を注水するようにしたことを特徴とする請求項4に記載の遊泳型アクセス装置の姿勢安定化方法。
【請求項1】
原子炉内の炉水中を遠隔操作により遊泳し、原子炉構造物の水中における点検・補修作業の実施に用いられる遊泳型アクセス装置の姿勢安定化システムであって、
完全に分離した複数のタンクが集合してなるバラストタンクと、
水中における前記遊泳型アクセス装置本体の傾斜の方向、傾斜量を計測する姿勢計測手段と、
前記バラストタンクを構成するタンクのうち、任意のタンクへの注排水を実施する注排水手段と、
前記姿勢計測手段による計測結果に基づいて、目標とする姿勢を保つのに必要な注排水を実施すべき前記バラストタンクのタンクの特定と必要とされる注排水量の演算を行い、その演算結果に従って前記注排水手段の動作を制御する制御手段と、
を具備したことを特徴とする遊泳型アクセス装置の姿勢安定化システム。
【請求項2】
前記注排水手段は、
前記バラストタンクの各タンクと一対一に対応して配置されるバラスト貯蔵タンクと、
前記バラストタンクの各タンクに注排水するために必要な高圧エアを供給する圧縮機と、
前記圧縮機と前記各バラスト貯蔵タンクとそれぞれ接続し、前記バラスト貯蔵タンクと一対一に対応する各流路をそれぞれ開閉する電磁弁が設けられた第1のエア配管と、
前記圧縮機と前記バラストタンクの各タンクをそれぞれ接続し、前記バラストタンクの各タンクと一対一に対応する各流路をそれぞれ開閉する電磁弁が設けられた第2のエア配管と、
前記バラスト貯蔵タンクと前記バラストタンクの各タンクを一対一で接続し、流路をそれぞれ開閉する電磁弁が設けられたバラスト管路と、
からなることを特徴とする請求項1に記載の遊泳型アクセス装置の姿勢安定化システム。
【請求項3】
前記注排水手段は、
前記バラストタンクを構成し、炉水の給排水口が開口するタンクと、
前記バラストタンクの各タンクに注排水するために必要な高圧エアを供給する圧縮機と、
前記圧縮機から供給される高圧エアが充填され、前記遊泳型アクセス装置に内蔵された中継タンクと、
前記中継タンクと前記バラストタンクの各タンクを一対一で接続し、流路を開閉する電磁弁が設けられたエア配管と、
前記バラストタンクの各タンクにそれぞれ接続され、流路を開閉する電磁弁が設けられたベント配管と、
からなることを特徴とする請求項1に記載の遊泳型アクセス装置の姿勢安定化システム。
【請求項4】
原子炉内の炉水中を遠隔操作により遊泳し、原子炉構造物の水中における点検・補修作業の実施に用いられる遊泳型アクセス装置の姿勢安定化方法であって、
完全に分離した複数のタンクが集合してなるバラストタンクを前記遊泳型アクセス装置に搭載し、
水中における前記遊泳型アクセス装置本体の傾斜の方向、傾斜量を計測し、
傾斜の計測結果に基づいて、目標とする姿勢を保つのに必要な注排水を実施すべき前記バラストタンクのタンクを特定するとともに必要とされる注排水量を算出し、
前記バラストタンクを構成するタンクのうち、特定されたタンクへの注排水を実施することを特徴とする遊泳型アクセス装置の姿勢安定化方法。
【請求項5】
前記バラストタンクの各タンクと一対一に対応するバラスト貯蔵タンクを炉水面上に設置し、高圧エアを任意の前記バラスト貯蔵タンクに供給することにより、対応するタンクに注水し、前記高圧エアを前記バラストタンクの任意のタンクに供給することにより、対応するタンクから排水するようにしたことを特徴とする請求項4に記載の遊泳型アクセス装置の姿勢安定化方法。
【請求項6】
高圧エアが充填された中継タンクを前記遊泳型アクセス装置の本体に設けるとともに、前記バラストタンクを炉水の給排水口が開口するタンクから構成し、
前記中継タンクから高圧エアを前記バラストタンクの任意のタンクに供給することにより炉水を排水し、前記バラストタンクの任意のタンクから高圧エアを排気することにより、対応する炉水を注水するようにしたことを特徴とする請求項4に記載の遊泳型アクセス装置の姿勢安定化方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2011−232084(P2011−232084A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100952(P2010−100952)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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