説明

運動案内装置

【課題】締結手段に弾性変形を生じさせずに移動部材とテーブル部材との取付精度を向上させたまま締結することができ、締結手段の座面を確保し、締結手段による締結軸力を向上させる運動案内装置を提供する。
【解決手段】軌道台と、前記軌道台に沿って運動する移動部材と、前記移動部材に締結手段により取り付けられたテーブルとを備える運動案内装置において、前記テーブルと前記移動部材との間に第1の球面係合手段を備え、前記テーブルと前記締結手段との間に第2の球面係合手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道台に係合した移動部材が軌道台の長手方向に沿って移動することができる運動案内装置に係り、より詳細には、複数の運動案内装置が懸架する状態でテーブル部材を取り付けた運動案内装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械のワークテーブルや各種搬送装置の運動案内部では、テーブル部材を取り付けた移動部材が軌道台に沿って連続的に移動する運動案内装置が用いられている。この種の運動案内装置では、テーブル部材をボルト等の締結手段により移動部材に締結しているため、各移動部材を円滑に移動させるために、複数の軌道台の高さ位置及び傾きを精度良く管理する必要があった。
【0003】
このような従来の運動案内装置としては、下記特許文献1に記載されているように、移動部材とテーブル部材との間に隙間を形成する間隔保持座を介在させ、この間隔保持座の移動部材側及び又はテーブル部材側の面に円弧状凸面を形成し、且つ、移動部材及び又はテーブル部材の間隔保持座との当接面には上記円弧状凸面と摺接する円弧状凹面を形成し、移動部材とテーブル部材との間をテーブル部材及び間隔保持座を貫通して移動部材に結合する取付けボルトで連結し、前記軌道台の取付誤差を前記取付けボルトの弾性変形に伴う移動部材とテーブル部材との間の相対変位により吸収緩和することができるようにしたものが知られている。
【0004】
【特許文献1】特開昭62−188636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した特許文献1に記載の運動案内装置によると、軌道台の取付誤差を取付けボルトの弾性変形によって吸収緩和しているため、締結孔のタップ強度および取付けボルト自体の強度を持たせる必要があった。また、軌道台の取付誤差を円弧状の面を有する単一の間隔保持座によって吸収しているので、取付けボルトがテーブル部材に対して斜めに締結され、取付けボルトのテーブル部材との締付座面が片当たりする場合があった。このように取付けボルトがテーブル部材に対して斜めに締結された状態では、締付座面における取付けボルトの締結軸力の応力分布に傾きを生じ、締結軸力の向上を図ることが難しいといった問題があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために成されたものであって、締結手段に弾性変形を生じさせずに移動部材とテーブル部材との取付精度を向上させたまま締結することができ、締結手段の座面を確保し、締結手段による締結軸力を向上させる運動案内装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明に係る運動案内装置は、軌道台と、前記軌道台に沿って運動する移動部材と、前記移動部材に締結手段により取り付けられたテーブルとを備える運動案内装置において、前記テーブルと前記移動部材との間に第1の球面係合手段を備え、前記テーブルと前記締結手段との間に第2の球面係合手段を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る運動案内装置は、前記第1の球面係合手段は、前記テーブル又は前記移動部材のいずれか一方に形成された球面凸部と、前記テーブル又は前記移動部材のいずれか他方に形成された球面凹部とが互いに摺接して係合することによって形成され、前記第2の球面係合手段は、前記テーブル又は前記締結手段のいずれか一方に形成された球面凸部と、前記テーブルと前記締結手段のいずれか他方に形成された球面凹部とが互いに摺接して係合することによって形成されていることができる。
【0009】
また、本発明に係る運動案内装置は、前記第1の球面係合手段と前記第2の球面係合手段のいずれか一方又は両方は、一対の平板により形成され、前記平板が対向する面のいずれか一方に形成された球面凸部と、前記平板が対向する面のいずれか他方に形成された球面凹部とが互いに摺接して係合することができる。
【0010】
また、本発明に係る運動案内装置は、前記第1の球面係合手段及び前記第2の球面係合手段は、前記締結手段を挿通する貫通孔が穿孔されていることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、前記テーブルと前記移動部材との間に第1の球面係合手段を備え、前記テーブルと前記締結手段との間に第2の球面係合手段を備えているので、締結手段によりテーブルと移動部材とを締結しても、締結手段を片当たりすることなく締結することができるので、締結座面が安定し、締結軸力を確保することができる。また、軌道台の取付誤差の吸収に締結手段の弾性変形を用いないので、締結手段に弾性変形に対する強度を考慮する必要がない。
【0012】
また、第1の球面係合手段と第2の球面係合手段とにより軌道台の取付誤差の吸収をすることができるので、軌道台の取付精度にバラツキがある場合でも容易に運動案内装置を構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の各実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、各実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。なお、以下の実施形態については、運動案内装置としてリニアガイドを例に説明するが、運動案内装置であれば、リニアガイドに限定されず、転動体を備えない滑りガイドなどにも適用することができることは特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0014】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る運動案内装置の縦断面図である。さらに、図2は、球面係合手段を説明するための図である。また、図3は、第1の実施形態に係る運動案内装置の作用を説明するための断面図である。
【0015】
図1に示した第1の実施形態に係る運動案内装置は、リニアガイドとして構成されるものである。そして、第1の実施形態に係る運動案内装置1は、長手方向に転動体転走面11を有する軌道台10と、複数の転動体21を介して前記軌道台10に係合すると共に前記転動体転走面11に沿って直線状に運動する移動部材20とを備えている。なお、転動体21としては、図示の如きボールの他に、円筒状のローラも適用可能である。
【0016】
図1に示すように、軌道台10は、その表面に長手方向に延びる2条の転動体転走面11が形成された部材であり、転動体転走面11は、後述する移動部材20との間に配置された球体形状の転動体21からの負荷を受けることができるようになっている。また、この転動体転走面11は、転動体21の円滑な転走が実現できるような精度で円弧形状に形成されている。
【0017】
移動部材20には、軌道台10に形成された転動体転走面11に対向する位置に負荷転動体転走面22が形成されている。そして、転動体転走面11と負荷転動体転走面22とによって負荷転動体転走路を形成している。なお、図示はしないが、軌道台10には、上記負荷転動体戻り通路が形成されている。この無限循環路を循環する転動体21は、上記負荷転動体転走路において荷重を受ける。
【0018】
なお、本実施例では、転動体21が循環するタイプのリニアガイドを示すが、転動体が循環を伴わない、所謂有限タイプのリニアガイドであっても構わない。
【0019】
また、軌道台10に形成された転動体転走面11の円弧形状と、移動部材20に形成された負荷転動体転走面22の円弧形状との曲率は、略同一に形成されており、転動体21の曲率よりも大きく形成されている。
【0020】
さらに、移動部材20には、タップ孔24が形成されており、該タップ孔24と締結手段としてのボルト30によって、テーブル40が締結して取り付けられている。また、テーブル40は、2つのリニアガイドのそれぞれの移動部材20,20に締結して取り付けられており、2つのリニアガイドによって懸架される状態で取り付けられている。
【0021】
また、テーブル40と移動部材20との間には、移動部材20と対向する面に凸状の球面53を有する第1の凸状球面座金52が介在されている。さらに、移動部材20の第1の凸状球面座金52と対向する面には、凹状の球面51が形成されており、この凹状の球面51と凸状の球面53とが互いに摺接して係合している。この係合により、第1の球面係合手段50を形成している。またさらに、第1の凸状球面座金52には、貫通孔54が形成されており、該貫通孔54にボルト30が挿入されている。また、第1の凸状球面座金52のテーブル40とが対向する上面55は、平面に形成されている。
【0022】
テーブル40の上側面とボルト30との間には、第2の球面係合手段60が介在されている。図2に示すように、第2の球面係合手段60は、上述した第1の凸状球面座金52と同一の形状を有する第2の凸状球面座金62と、第2の凸状球面座金62に形成された凸状の球面64と対向する面に凹状の球面65が形成された第2の凹状球面座金61とにより構成されている。また、この第2の凸状球面座金62に形成された凸状の球面64と第2の凹状球面座金61に形成された凹状の球面65とは、上述した凹状の球面51と凸状の球面53との係合と同様に、互いに摺接して係合している。さらにまた、第2の球面係合手段60をなす第2の凹状球面座金61及び第2の凸状球面座金62には、各々貫通孔63a,63bが形成されており、該貫通孔63a,63bにボルト30が挿入されている。なお、第2の凸状球面座金62と第2の凹状球面座金61とが互いに対向する面の他方の端部66,67は平面に形成されている。
【0023】
次に、図3を参照して、第1の球面係合手段50及び第2の球面係合手段60の作用について説明する。
【0024】
図3に示すように、複数の軌道台10,10の高さ位置に誤差がある場合に移動部材20,20にテーブル40を懸架されるように取り付けると、テーブル40と移動部材20の上面には角度αを生じる。この状態で、ボルト30を締付けていくと、第1の凸状球面座金52は、第1の凹状の球面51と摺接しながら上面55とテーブル40とが平行になる位置に固定される。即ち、第1の凸状球面座金52の上面55が移動部材20の上面に対して角度α傾いた状態で固定される。このように、テーブル40と移動部材20とは、第1の球面係合手段50を介してボルト30により互いに締結されているので、軌道台10の高さ位置に誤差がある場合でも、第1の球面係合手段によりその誤差を吸収することが出来るようになっている。
【0025】
また、テーブル40の上側面とボルト30との間に介在する第2の球面係合手段60も上述した第1の球面係合手段50と同様に作用することで、軌道台10の高さ位置の誤差を吸収することができるようになっている。この場合、第2の凹状球面座金61の底面67とテーブル40とが平行となる位置、且つ、第2の凸状球面座金62の上面66がボルト30の軸線方向と垂直になる位置に固定されるように第2の凹状球面座金61と第2の凸状球面座金62とが互いに摺接することで、軌道台10の高さ位置に起因する誤差を吸収することができるようになっている。
【0026】
また、第1の凸状球面座金52に形成された貫通孔54、第2の凹状球面座金61及び第2の凸状球面座金62に各々形成された貫通孔63a,63b及び、テーブル40に形成された貫通孔41の孔径は、テーブル40が角度α分傾いた場合でも、ボルト30と接触しない大きさに形成されており、テーブル40の角度αを吸収するためにボルト30に負荷がかからないように形成されている。
【0027】
このように、テーブル40に傾きを生じた場合であっても、テーブル40を移動部材20に締結するボルト30が弾性変形などの負荷を受けないので、ボルト30や移動部材20に形成されたタップ孔に特別な強度を持たせる必要がない。また、第2の球面係合手段を構成する第2の凸状球面座金の上面66がボルト30の軸方向と垂直な位置に常に固定することができるので、ボルト30の座面が安定し、ボルト30の締結により生じた締結軸力を確保することができる。
【0028】
以上、第1の実施形態に係る運動案内装置1を構成する第1の球面係合手段50及び第2の球面係合手段60について説明した。この第1の実施形態に係る運動案内装置1を構成する第1の球面係合手段50は、第1の凸状球面座金52と、移動部材20の第1の凸状球面座金52と対向する面に、凹状の球面51が形成されている場合について説明をした。しかしながら、本発明に係る運動案内装置は、第1の実施形態で示した凹状の球面51に限定されない。そこで、次に、第1の実施形態と異なる形状を有する第1の球面係合手段50について説明する。また、第1の実施形態と同一又は類似する部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0029】
[第2の実施形態]
図4は、第2の実施形態に係る運動案内装置を示す図である。
【0030】
図4に示すように、第2の実施形態の第1の球面係合手段150は、第1の実施形態に係る運動案内装置1の第2の球面係合手段60に用いられた第2の凸状球面座金62及び第2の凹状球面座金61と同一の形状を有する第1の凸状球面座金52及び第1の凹状球面座金157を用いて構成されている。
【0031】
このように第1の凹状球面座金157により凹状の球面を形成すれば、移動部材20に凹状の球面を切削などにより加工する必要がなく、追加加工をすることなしに容易に既存の運動案内装置に第1の球面係合手段150を形成することができる。
【0032】
また、上述した実施形態においては、第1の球面係合手段及び第2の球面係合手段のそれぞれの上側に凸状球面を形成し、それぞれの下側に凹状の球面を形成した場合について説明したが、上側に凹状球面を形成し、下側に凸状球面を形成しても構わない。さらに、第2の球面係合手段は、第2の凸状球面座金62及び第2の凹状球面座金61とにより構成した場合について説明したが、第2の球面係合手段は、第1の実施形態に係る第1の球面係合手段のように、テーブル40に凹状球面を形成し、第2の凹状球面座金61を省略しても構わない。さらにまた、上述した実施形態においては、案内軸が直線的に形成された場合について説明したが、案内軸は曲線状に形成されていても良い。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】第1の実施形態に係る運動案内装置の縦断面図。
【図2】第2の球面係合手段を説明するための図。
【図3】第1の実施形態に係る運動案内装置の作用を説明するための断面図。
【図4】第2の実施形態に係る運動案内装置を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1 運動案内装置、 10 軌道台、 11 転動体転走面、 20 移動部材、 21 転動体、 22 負荷転動体転走面、 24 タップ孔 30 ボルト、 40 テーブル、 41,54,63a,63b 貫通孔、 50 第1の球面係合手段、 52 第1の凸状球面座金、 60 第2の球面係合手段、 61 第2の凹状球面座金、 62 第2の凸状球面座金。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道台と、
前記軌道台に沿って運動する移動部材と、
前記移動部材に締結手段により取り付けられたテーブルとを備える運動案内装置において、
前記テーブルと前記移動部材との間に第1の球面係合手段を備え、
前記テーブルと前記締結手段との間に第2の球面係合手段を備えること
を特徴とする運動案内装置。
【請求項2】
請求項1に記載の運動案内装置において、
前記第1の球面係合手段は、前記テーブル又は前記移動部材のいずれか一方に形成された球面凸部と、前記テーブル又は前記移動部材のいずれか他方に形成された球面凹部とが互いに摺接して係合することによって形成され、
前記第2の球面係合手段は、前記テーブル又は前記締結手段のいずれか一方に形成された球面凸部と、前記テーブルと前記締結手段のいずれか他方に形成された球面凹部とが互いに摺接して係合することによって形成されていること
を特徴とする運動案内装置。
【請求項3】
請求項1に記載の運動案内装置において、
前記第1の球面係合手段と前記第2の球面係合手段のいずれか一方又は両方は、一対の平板により形成され、前記平板が対向する面のいずれか一方に形成された球面凸部と、前記平板が対向する面のいずれか他方に形成された球面凹部とが互いに摺接して係合すること
を特徴とする運動案内装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の運動案内装置において、
前記第1の球面係合手段及び前記第2の球面係合手段は、前記締結手段を挿通する貫通孔が穿孔されていること
を特徴とする運動案内装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−52058(P2010−52058A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216723(P2008−216723)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】