説明

運転レイアウト検証装置

【課題】 ステアリングホイールやペダル、シート等の運転レイアウト要素を効率よく位置決め可能であって、その移動機構も好適に設置できる運転レイアウト検証装置を提供する。
【解決手段】 本発明の代表的な構成は、自動車の運転席を模擬した運転レイアウト検証装置100において、乗員に踏まれるペダルを含むペダルユニット110および乗員が把持するステアリングホイール122を含むステアリングユニット120を一体化したペダル・ステアリングユニット104と、ペダル・ステアリングユニット104を左右方向に移動させる移動機構140とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の運転席のレイアウト開発、運転姿勢や乗降性の検証等に用いられる運転レイアウト検証装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車には、様々な体格の乗員に対して快適な乗り心地を提供できるように、ステアリングホイールやペダル、シート等の位置を調整する機能が搭載されている。よく見られる例では、ステアリングホイール(ステアリングシャフト)の角度調整、シートの前後位置調整、シートの座面の上下調整等がある。以下、乗員に対するこれらの配置関係を「運転レイアウト」と称する。
【0003】
運転レイアウトをより多くの体格の乗員に適応させるには、ステアリングホイールやペダル、シート等の可動域を大きく取る必要がある。しかし、不必要に可動域を大きく取っても無駄にしかならず、車両の大型化を招いたり、車室内の美観を損なったりするおそれがある。そこで、かかる可動域について過不足のない適切な範囲を検証するために、自動車の運転席を模擬したモックアップが用いられる。
【0004】
例えば非特許文献1では、運転装置のモックアップのレイアウトを変更しながら多数の動作を測定し、これらの動作をその類似度に基づいて動作分布図としてレイアウトすることで、どのような動作がありうるかを設計者に提示する。また、動作分布図上の任意の点で動作を合成することにより、新しい設計パラメータに対応する動作を予測する。これにより、非特許文献1では、設計の初期段階において運転レイアウトに対する操作性の予見が可能となるとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】栗山繁、外1名、“自動車運転動作の行動戦略可視化”、[online]、平成21年11月30日発行、独立行政法人 産業技術総合研究所、第40頁(PDFファイル第46頁)、平成23年8月1日検索、インターネット<URL:http://www.aist.go.jp/digbook/annual_report/h20/book.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、上述したようなモックアップは、実車と同様にステアリングホイールやペダル、シート等の各運転レイアウト要素がそれぞれ独立して可動するように構成される。しかし、人間の体の特性上、身長が高ければ腕や脚は長くなり、低ければ腕や脚は短くなるので、各運転レイアウト要素の配置には相関関係がある。各運転レイアウト要素の配置に相関関係があるにも拘らず、それぞれを1つ1つ動かし位置決めするのは非効率である。
【0007】
また、各運転レイアウト要素それぞれが独立して可動するためには、各運転レイアウト要素毎に移動機構(レールやアームなど)が必要となる。しかし、各運転レイアウト要素毎に移動機構を備える場合、互いの干渉を防止しなければならないので、可動範囲が狭くなったり動作方向に制約が出たりするおそれがある。さらに、すべての運転レイアウト要素が独立して可動する場合、位置決めの際の基準がない問題もある。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、ステアリングホイールやペダル、シート等の運転レイアウト要素を効率よく位置決め可能であって、その移動機構も好適に設置できる運転レイアウト検証装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明の代表的な構成は、自動車の運転席を模擬した運転レイアウト検証装置において、乗員に踏まれるペダルを含むペダルユニットおよび乗員が把持するステアリングホイールを含むステアリングユニットを一体化したペダル・ステアリングユニットと、ペダル・ステアリングユニットを左右方向に移動させる移動機構とを備えることを特徴とする。
【0010】
かかる構成によれば、移動機構により左右方向に移動可能に、ペダルユニットおよびステアリングユニットを一体化したペダル・ステアリングユニットが備えられる。ペダルユニット、ステアリングユニットのいずれか一方を左右方向に移動させる場合、通常、他方も左右方向に移動させると考えられるが、本構成によればこれらが一体化されているため効率よく位置決めを行うことができる。また、本構成によればこれらが一体化されているため、それぞれについて独立した移動機構を設ける必要がなく、構造の簡略化、スペースの有効利用を図れる。
【0011】
ペダル・ステアリングユニットは、ペダルユニットとステアリングユニットとを一体化する上下方向に伸びる支柱を有し、ペダルユニットは、それぞれが上下方向に移動可能な複数のペダルを有し、ステアリングユニットは、ステアリングホイールに連結するステアリングシャフトと、左右方向に伸び車内側の端部でステアリングシャフトを支持し車外側の端部で支柱に直接的または間接的に連結されるステアリングシャフト基部とを有するとよい。
【0012】
かかる構成によれば、ペダルユニットとステアリングユニットとを好適に一体化することができる。とりわけ、ステアリングシャフトは前方から支持されるのではなく、ステアリングシャフト基部によって側方(左右方向)から支持される。そのため、運転席の前部のスペースを考慮する必要がなく、また運転席の前部で乗員の足元と干渉するおそれがない。
【0013】
ステアリングユニットは、ステアリングシャフト基部の車外側の端部にてステアリングシャフト基部を回転可能にまたは前後方向へ移動可能に支柱に連結するステアリングピボットをさらに有するとよい。かかる構成によれば、上位階層に属するペダル・ステアリングユニットを位置決めした後、乗員の個人差に当たる細かな部分をその下位階層に属するステアリングピボットにて調整することができる。よって、ステアリングホイールを簡便に好適な位置に位置決めすることができる。
【0014】
ステアリングシャフト基部は、左右方向に伸縮可能であるとよい。かかる構成によれば、上位階層に属するペダル・ステアリングユニットを位置決めした後、乗員の個人差に当たる細かな部分をその下位階層に属するステアリングシャフト基部にて調整することができる。よって、ステアリングホイールを簡便に好適な位置に位置決めすることができる。
【0015】
複数のペダルは、上位階層に属するペダルと、上位階層に属するペダルが上下方向に移動するとこれに連動して上下方向に移動する下位階層に属するペダルとを有するとよい。かかる構成によれば、複数のペダルの運転レイアウトを効率よく位置決め可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ステアリングホイールやペダル、シート等の運転レイアウト要素を効率よく位置決め可能であって、その移動機構も好適に設置できる運転レイアウト検証装置を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態にかかる運転レイアウト検証装置の側面図である。
【図2】図1の運転レイアウト検証装置の正面図である。
【図3】図1の運転レイアウト検証装置の上面図である。
【図4】図1の運転レイアウト検証装置の階層構造について説明するブロック図である。
【図5】図1のペダルユニットの応用例について示す図である。
【図6】図5の応用例の階層構造について説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
図1は、本実施形態にかかる運転レイアウト検証装置100の側面図である。なお、図中のX軸は前後方向、図中のY軸は左右方向、図中のZ軸は上下方向を示すものとする。
【0020】
図1に示すように、運転レイアウト検証装置100は、自動車の運転席を模擬したモックアップである。運転レイアウト検証装置100は、シート102と、乗員に踏まれるペダルを含むペダルユニット110および乗員が把持するステアリングホイール122を含むステアリングユニット120を一体化したペダル・ステアリングユニット104とを備える。シート102は、前後位置調整および座面の上下調整可能に、シャシ106上に備えられる。
【0021】
図2は、図1の運転レイアウト検証装置100の正面図である。図2に示すように、ペダル・ステアリングユニット104は、移動機構140によって左右方向に移動可能にシャシ106上に備えられる。ペダル・ステアリングユニット104としてペダルユニット110とステアリングユニット120の台座部分を共通化することで、それぞれについて独立した移動機構を設ける必要がないため、構造の簡略化およびシャシ106上のスペースの有効利用を図ることができる。したがって、複数の移動機構が互いに干渉しないように配慮する負担がなく、単一の移動機構140を好適に設置することができる。
【0022】
また、移動機構140は、前後方向および上下方向にはペダル・ステアリングユニット104を移動させず、左右方向にのみ移動させる。一方、シート102は、前後位置調整および座面の上下調整可能であるが、左右方向には移動できない。したがって、同じ方向にはペダル・ステアリングユニット104またはシート102のいずれか一方しか移動できず、必ずいずれか一方が位置決めの際の基準となるので、運転レイアウトの位置決めを好適に行うことができる。なお、移動機構140は、例えばレール等で構成される。
【0023】
図2に示すように、ペダルユニット110は、アクセルペダル112、ブレーキペダル114、クラッチペダル116を有する。ここでは、アクセルペダル112は、上下方向(z軸方向)にのみ可動に構成される。ブレーキペダル114、クラッチペダル116は、前後方向(x軸方向)、左右方向(y軸方向)、上下方向(z軸方向)に可動に構成される。
【0024】
アクセルペダル112を前後方向、左右方向に可動としないのは、冗長な可動機構(移動機構)を排除するとともに、位置決めを容易にするためである。仮にアクセルペダル112を前後方向、左右方向に可動とすると、すべてのペダルが前後方向、左右方向に可動となり位置決めの際の基準がなくなる問題が生じる。
【0025】
図3は、運転レイアウト検証装置100の上面図である。図3(a)がステアリングピボット128について説明する図であり、図3(b)がステアリングシャフト基部126について説明する図である。
【0026】
図3(a)、(b)に示すように、ステアリングユニット120は、ステアリングホイール122と、ステアリングホイール122に連結するステアリングシャフト124とを有する。また、ステアリングユニット120は、左右方向に伸び車内側の端部でステアリングシャフト124を支持するステアリングシャフト基部126と、ステアリングシャフト基部126の車外側の端部に連結するステアリングピボット128とを有する。ステアリングピボット128は、ピボット本体130と前後軸132とからなる。
【0027】
本実施形態では、ステアリングシャフト124が前方から支持されるのではなく、ステアリングシャフト基部126によって側方(左右方向)から支持される。そのため、運転席の前部のスペースを考慮する必要がなく、また運転席の前部で乗員の足元と干渉するおそれがない。
【0028】
ステアリングユニット120とペダルユニット110は、上下方向に伸びる支柱142によって一体化される。支柱142はペダルユニット110の車外側から上方へと伸び、その上部にてステアリングピボット128の前後軸132と連結する(図1参照)。前後軸132は前後方向に伸びる部材であって、上下方向に移動可能に支柱142に連結される(図1参照)。なお、支柱142は、ステアリングシャフト基部126の車外側の端部に、直接的に連結されてもよい。
【0029】
図3(a)に示すように、ピボット本体130は、前後方向へスライド可能に前後軸132に連結される。また、ピボット本体130は、ステアリングシャフト基部126を回転可能に(ステアリングホイール122の仰角を調整可能に)支持する。よって、ピボット本体130を前後方向に移動させてステアリングホイール122の位置を前後方向に調整でき、ステアリングシャフト基部126を回転させてステアリングホイール122の仰角を調整することができる。
【0030】
図3(b)に示すように、ステアリングシャフト基部126は、左右方向に伸縮可能に構成される。これにより、ステアリングホイール122の位置を左右方向に調整することができる。
【0031】
図4は、運転レイアウト検証装置100の階層構造について説明するブロック図である。図4に示すように、上述した運転レイアウト検証装置100は、シャシ106を上位階層とする階層構造を形成する。かかる階層構造では、上位階層は下位階層の変動の影響を受けないが、下位階層は上位階層の変動の影響を受ける。移動機構140を介してシャシ106上に備えられるペダル・ステアリングユニット104はシャシ106の下位階層であり、シャシ106を移動させるとペダル・ステアリングユニット104も共に移動する。
【0032】
ステアリングユニット120およびペダルユニット110は、ペダル・ステアリングユニット104の下位階層である。ペダル・ステアリングユニット104を左右方向に移動させると、当然ながらこれらは共に左右方向に移動する。また、ステアリングピボット128はステアリングユニット120の下位階層であり、ステアリングシャフト基部126はステアリングピボット128の下位階層である。また、アクセルペダル112、ブレーキペダル114、クラッチペダル116は、ペダルユニット110の下位階層である。このような階層構造を採用することで、効率よく運転レイアウトの位置決めを行うことができる。
【0033】
これは、人間の体の特性上、身長が高ければ腕や脚は長くなり低ければ腕や脚は短くなるというように、各運転レイアウト要素の配置には相関関係が存在するからである。例えば、シート102に対してステアリングホイール122を近づける場合、通常、シート102に対してアクセルペダル112、ブレーキペダル114、クラッチペダル116も近づける。本実施形態では、まず相関関係のある各運転レイアウト要素を高次の階層で調整し、低次の階層で乗員の個人差に当たる細かな部分を調整する構成のため、効率よく運転レイアウトの位置決めを行うことができる。
【0034】
また、本実施形態のような階層構造を採用すれば、下位階層の運転レイアウト要素は、上位階層の運転レイアウト要素に対しての可動域だけを確保すればよい。そのため、下位階層の運転レイアウト要素の移動機構が大きくならず、構造の簡略化、スペースの有効利用を図ることができる。
【0035】
図5は、図1のペダルユニットの応用例(以下「ペダルユニット210」と称する)について示す図である。図6は、図5の応用例の階層構造について説明するブロック図である。
【0036】
図5、図6に示すように、かかる応用例では、アクセルペダル112、ブレーキペダル114、クラッチペダル116が階層化され、上位階層であるアクセルペダル112が上下方向に移動すると、下位階層であるブレーキペダル114、クラッチペダル116がこれに連動して上下方向に移動するように構成される。また、上位階層であるブレーキペダル114が上下方向に移動すると、下位階層であるクラッチペダル116がこれに連動して上下方向に移動するように構成される。この階層化は、アクセルペダル112とブレーキペダル114を連結板144で連結し、ブレーキペダル114とクラッチペダル116を連結板146で連結することで実現される。
【0037】
アクセルペダル112、ブレーキペダル114、クラッチペダル116は、すべて乗員の足で操作するものであり、その運転レイアウトには相関関係がある。したがって、上記のように階層化することで、各ペダルを簡便に好適な位置に位置決めすることができる。なお、階層化はかかる例に限られず、例えば、ブレーキペダル114を最も高次の階層としてもよいし、アクセルペダル112とブレーキペダル114のみを階層化したりしてもよい。
【0038】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、自動車の運転席のレイアウト開発、運転姿勢や乗降性の検証等に用いられる運転レイアウト検証装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
100…運転レイアウト検証装置、102…シート、104…ペダル・ステアリングユニット、106…シャシ、110、210…ペダルユニット、112…アクセルペダル、114…ブレーキペダル、116…クラッチペダル、120…ステアリングユニット、122…ステアリングホイール、124…ステアリングシャフト、126…ステアリングシャフト基部、128…ステアリングピボット、130…ピボット本体、132…前後軸、140…移動機構、142…支柱、144、146…連結板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の運転席を模擬した運転レイアウト検証装置において、
乗員に踏まれるペダルを含むペダルユニットおよび該乗員が把持するステアリングホイールを含むステアリングユニットを一体化したペダル・ステアリングユニットと、
前記ペダル・ステアリングユニットを左右方向に移動させる移動機構とを備えることを特徴とする運転レイアウト検証装置。
【請求項2】
前記ペダル・ステアリングユニットは、前記ペダルユニットと前記ステアリングユニットとを一体化する上下方向に伸びる支柱を有し、
前記ペダルユニットは、それぞれが上下方向に移動可能な複数の前記ペダルを有し、
前記ステアリングユニットは、前記ステアリングホイールに連結するステアリングシャフトと、左右方向に伸び車内側の端部で前記ステアリングシャフトを支持し車外側の端部で前記支柱に直接的または間接的に連結されるステアリングシャフト基部とを有することを特徴とする請求項1に記載の運転レイアウト検証装置。
【請求項3】
前記ステアリングユニットは、前記ステアリングシャフト基部の車外側の端部にて該ステアリングシャフト基部を回転可能にまたは前後方向へ移動可能に前記支柱に連結するステアリングピボットをさらに有することを特徴とする請求項2に記載の運転レイアウト検証装置。
【請求項4】
前記ステアリングシャフト基部は、左右方向に伸縮可能であることを特徴とする請求項3に記載の運転レイアウト検証装置。
【請求項5】
前記複数のペダルは、上位階層に属するペダルと、該上位階層に属するペダルが上下方向に移動するとこれに連動して上下方向に移動する下位階層に属するペダルとを有することを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の運転レイアウト検証装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−53941(P2013−53941A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192620(P2011−192620)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】