説明

運転不適状態解消システム

【課題】運転者がイライラしている心理状態であり運転に不適切な心理状態にあるときに、車高を低下させて運転者が感じるスピード感を上昇させることで、運転者による加速操作を抑制することが可能な運転不適状態解消システムを提供すること。
【解決手段】心理状態検出手段2によって検出された検出値に基づいて、運転者の心理状態が運転に不適切な状態であるか否かを判定する。運転者がイライラして運転に不適切な心理状態であると判定された場合には、車高変更手段によって車高を低下させる。このように、車高を低下させることで、運転者が感じるスピード感を上昇させる。そして、運転者の心理状態を変化させ、体感スピードを上昇させて注意喚起を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者のイライラ状態を改善する運転不適状態解消システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような分野の技術として、渋滞などによって運転者がイライラしている場合に、安全運転を促すための情報を運転者に報知する装置が知られている。下記特許文献1に記載のエージェント装置では、運転者がイライラしている心理状態にあることを検出した場合に、車間距離を空けるように促すための情報を提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−331890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、安全運転を促すための情報を提供する構成であるため、運転者が提供された情報を無視することができるという問題がある。例えば、運転者が運転に不適切な心理状態にあると判定されたときに、加速を止めるように促す情報を提供しても、運転者が提供された情報を無視して、加速を続けることが可能であるため、加速を抑止する手段として、その抑止力を充分に発揮できないおそれがある。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、運転者がイライラしている心理状態であり運転に不適切な心理状態にあるときに、車高を低下させて運転者が感じるスピード感を上昇させることで、運転者による加速操作を抑制することが可能な運転不適状態解消システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による運転不適状態解消システムは、運転者の心理状態を検出する心理状態検出手段と、当該心理状態検出手段によって検出された検出値に応じて、路面と車体との距離である車高を変化させる車高変化手段とを備えたことを特徴としている。
【0007】
このような運転不適状態解消システムによれば、心理状態検出手段によって検出された検出値に基づいて、運転者の心理状態が運転に不適切な状態であると判定された場合に、車高変更手段によって車高を低下させることができる。これにより、車高を低下させることで、運転者が感じるスピード感を上昇させることができる。そのため、運転者の心理状態を変化させ、体感スピードを上昇させて注意喚起を行い、加速操作を抑制させることが可能となる。
【0008】
また、心理状態検出手段は、運転者の生体情報を取得する生体信号取得手段であることが好ましい。これにより、運転者の生体情報を取得し、取得された生体情報に基づいて、運転者がイライラしている心理状態であるか否かを判定することができる。生体情報としては、例えば、心拍、血圧、脈拍、脳波、眼電位、眼の開閉状態、皮膚電位などを検出することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の運転不適状態解消システムによれば、運転者がイライラしている心理状態であり運転に不適切な心理状態にあるときに、車高を低下させて運転者が感じるスピード感を上昇させることで、運転者による加速操作を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係る運転不適状態解消システムを示すブロック構成図である。
【図2】実施形態に係る運転不適状態解消システムにおける処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。まず、図1を用いて、実施形態に係る運転不適状態解消システムの構成について説明する。図1は、運転不適状態解消システムの要部を示すブロック構成図である。
【0012】
図1に示す運転不適状態解消システム1は、車両に搭載され、運転者が運転に不適切な状態であると検出された場合に、運転者の運転不適状態の解消を図るための装置である。この運転不適状態解消システム1は、運転者の生体信号を検知する生体信号検知部2、自車両の車高を検知する車高検知部3、検出された生体信号に基づいて車高制御を行う車高制御コンピュータ4、および車高制御コンピュータ4からの指令信号に基づいて車両の車高を調整する車高調整機構5を備えている。
【0013】
生体信号検知部2は、運転者の生体信号を検出するためのセンサ(生体信号検出手段)を備えている。生体信号検知部2として、運転者の心拍信号を取得する心拍センサを使用することが可能である。心拍センサは、心筋収縮時に発生するパルス状の電圧(心電位)を検出する電位式心拍センサである。心拍センサは、例えば車両のステアリングホイールなどに取り付けられている電極から心電位を検出する。心拍センサは、取得した心拍信号を車高制御コンピュータ4に出力する。心拍センサは、生体信号取得手段として機能する。
【0014】
生体信号検知部2は、生体信号として、例えば、運転者の血圧、脈拍、脳波、眼電位、眼の開閉状態、皮膚電位などを検出してもよい。生体信号検知部2は、運転者がイライラしている心理状態を検出可能な生体信号を検出する。
【0015】
車高検知部3は、路面に対する車体の高さ位置(路面と車体との距離)を検出する車高センサを備えている。車高センサは、例えば、リアサスペンションのストロークから車高を計測する。また、車高検知部3は、その他のセンサでもよく、例えば路面にレーザ光を照射して、路面からの反射光を検知して、路面との変位を算出するものでもよい。
【0016】
車高制御コンピュータ(ECU)4は、車高調整機構5を制御して車高を調整する電子制御ユニットである。車高制御コンピュータ4は、演算処理を行うCPU、記憶部となるROM及びRAM、入力信号回路、出力信号回路、電源回路などにより構成されている。車高制御コンピュータ4は、生体信号検知部2、車高検知部3、および車高調整機構5と電気的に接続されている。
【0017】
車高制御コンピュータ4は、生体信号検知部2から受信した生体信号に基づいて、運転者の心理状態を判定する。車高制御コンピュータ4は、受信した生体信号の検出値と、判定基準値を比較して、運転者がイライラしている心理状態(運転不適切状態)であるか否かを判定する。車高制御コンピュータ4は、受信した生体信号に基づいて、運転者のイライラのレベルを判定する。生体信号検出部2及び車高制御コンピュータ4は、運転者の心理状態を検出する心理状態検出手段として機能する。
【0018】
車高制御コンピュータ4は、運転者が運転不適切状態である場合に、車高検知部3から受信した信号に基づいて、車高の調整量を決定する。車高制御コンピュータ4は、車高調整機構5に指令信号を送信して、車高を調整する。車高制御コンピュータ4及び車高調整機構5は、心理状態検出手段によって検出された検出値に応じて、路面と車体との距離である車高を変化させる車高変化手段としてする。
【0019】
車高調整機構5は、車高を調整するものであり、車高制御コンピュータ4からの指令信号に基づいて、油圧制御弁51を駆動して、油圧源(アキュムレータ)52から各車輪の油圧式懸架機構(ショックアブソーバ)53へ圧油を供給し車高を高く調整する。
【0020】
また、車高調整機構5は、車高制御コンピュータ4からの指令信号に基づいて、油圧制御弁51を駆動して、各車輪の油圧式懸架機構53の油をリザーバ54へ流出させて、車高を低く調整する。
【0021】
次に図2を参照して、運転不適状態解消システム1における車高制御について説明する。図2は、運転不適状態解消システム1による車高制御の処理手順を示すフローチャートである。この処理は、車高制御コンピュータ4によって行われるものであり、車高制御コンピュータ4の電源がオンされてからオフされるまでの間、所定のタイミングで繰り返し実行される。
【0022】
まず、運転不適状態解消システム1の車高制御コンピュータ4では、イライラレベル検知処理を実行する(ステップS1)。車高制御コンピュータ4は、生体信号検知部2によって検出された運転者の生体信号に基づいて、運転者の心理状態を検出し、運転者のイライラしている心理状態を検知する。
【0023】
次に、ステップS2では、車高制御コンピュータ4は、車高検知処理を実行する。車高制御コンピュータ4は、車高検知部3によって検出された検出値に基づいて、自車両の車高を算出する。
【0024】
続くステップS3では、車高制御コンピュータ4は、イライラレベルが所定レベル以上であるか否かを判定する。車高制御コンピュータ4は、ステップS1のイライラレベル検知処理の結果を参照して、イライラレベルが所定レベル以上であるか否かを判定する。運転者の心理状態がイライラしており、例えば、安全運転に悪影響を及ぼす可能性がある場合には、イライラレベルが所定レベル以上であると判定する。イライラレベルが所定レベル以上であると判定された場合には、ステップS4に進み、イライラレベルが所定レベル以上であると判定されなかった場合には、ここでの車高制御処理を終了する。なお、所定レベルを判定するための基準となるデータは、実験結果などに基づいて設定することができる。
【0025】
ステップS4では、車高制御コンピュータ4は、車高が所定値以上であるか否かを判定する。車高制御コンピュータ4は、ステップS2の車高検知処理の結果を参照して、車高が所定値以上であるか否かを判定する。車高が所定値以上であると判定された場合には、ステップS5に進み、車高が所定レベル以上であると判定されなかった場合には、ここでの車高制御処理を終了する。なお、判定基準となる所定値は、実験結果などに基づいて設定することができる。例えば、運転者が感じるスピード感と、車高との関係に基づいて決定することが可能である。
【0026】
ステップS5では、車高制御コンピュータ4は、車高調整機構5に指令信号を送信して、車高調整を実施する。車高調整機構5は、車高制御コンピュータ4からの指令信号に従い車高を低く調整する。車高が目標値まで調整されたらここでの車高制御処理を終了する。車高の目標値は、実験などによって求めることができる。例えば、運転者が感じるスピード感と、車高との関係に基づいて決定する。
【0027】
このような運転不適状態解消システム1によれば、生体信号検知部2によって検出された検出値に基づいて、運転者の心理状態が運転に不適切な状態であると判定された場合に、車高調整機構5によって車高調整が実行されて、車高が低下する。これにより、車高を低下させることで、運転者が感じるスピード感を上昇させることができる。そのため、運転者の心理状態を変化させ、体感スピードを上昇させて注意喚起を行い、加速操作を抑制させることが可能となる。体感スピードが上昇すると、運転者はブレーキ操作を行って減速操作を行い、安全運転を心がけるように心理状態が変更されるようになる。その結果、運転者がイライラ状態の場合に車速が上昇することで発生する事故のリスク(事故の発生確率、事故の影響度)を低減することができる。
【0028】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。なお、上記実施形態では、車高制御コンピュータ4において、運転者がイライラしている心理状態であるか否かを判定しているが、他の電子制御ユニット(ECU)によって、運転者がイライラしている心理状態であるか否かを判定してもよい。
【0029】
また、運転者がイライラしている心理状態である場合に、イライラレベルに応じて車高を変化させてもよい。例えば、イライラしている度合いが強い場合には、イライラしている度合いが弱い場合と比較して車高を低く調整してもよい。また、車速センサによって取得した車速に応じて車高を調整してもよい。
【0030】
また、上記実施形態では、運転者の生体信号を取得して、運転者の生体信号に基づいて、運転者がイライラしている心理状態であるか否かを判定しているが、その他の情報に基づいて、運転者がイライラしている心理状態(運転不適状態)であるか否かを判定する構成としてもよい。例えば、車速センサによる車速信号、ドライバモニタによって取得された画像情報、通信手段によって取得した渋滞情報、運転者による運転操作を検出して、運転者がイライラしている心理状態であるか否かを判定する構成としてもよい。また、これらの情報の複数を用いて運転者の心理状態を判定してもよい。これにより、運転者の心理状態の判定精度の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0031】
1…運転不適状態解消システム、2…生体信号検知部、3…車高検知部、4…車高制御コンピュータ、5…車高調整機構、51…油量制御弁、52…油圧源、53…油圧式懸架機構、54…リザーバ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の心理状態を検出する心理状態検出手段と、
前記心理状態検出手段によって検出された検出値に応じて、路面と車体との距離である車高を変化させる車高変化手段とを備えた運転不適状態解消システム。
【請求項2】
前記心理状態検出手段は、運転者の生体情報を取得する生体信号取得手段であることを特徴とする請求項1記載の運転不適状態解消システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−178315(P2011−178315A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45550(P2010−45550)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】