説明

運転操作装置

【課題】制動操作開始時の時間的ロスを短縮しかつ誤操作を防止した運転操作装置を提供する。
【解決手段】運転操作装置を、ドライバがステアリングホイール5を保持した状態で手指により操作可能な操作部6,7を備え、操作部への第1の操作により変速機の変速比を変化させる変速操作を行ない、操作部への第1の動作とは異なる第2の操作によりブレーキ装置10に制動力を発生させる制動操作を行なう構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のステアリングホイールに隣接して配置される運転操作装置において、ドライバがステアリングホイールから手を放すことなく変速操作及び制動操作が可能なものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば無段変速機(CVT)やプラネタリギヤセットを用いたステップAT、DCT等の自動変速機を有する自動車において、ドライバからの変速操作によって変速比を変更するマニュアル変速を可能としたものが知られている。
例えば、特許文献1には、ステアリングコラム部から左右にそれぞれ突出したパドルスイッチ式の変速操作部を設けて、各パドルをステアリングホイールのリム側へ引くことによってシフトアップ操作、シフトダウン操作を行なうようにした車両の変速制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−242944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、車両の走行中に機能するサービスブレーキの操作は、専ら足踏み式のブレーキペダルによって行なっていた。
危険回避などのための緊急ブレーキ操作においては、アクセルペダルからブレーキペダルへの踏み替え時の時間的なロスによる空走距離の増加や、ペダルを踏み誤るなどの誤操作が問題となる。
ドライバがペダルから足を放していることが多いクルーズコントロール走行中にも同様の問題が生じうる。
また、通常の走行時であっても、例えばドライバがエンジンブレーキ力の増加を意図してシフトダウン操作を行なった後、エンジンブレーキだけではドライバが意図する減速度が得られなかった場合には、あらためてブレーキペダル操作を行なう必要があり、時間的なロスが発生していた。
本発明の課題は、制動操作開始時の時間的ロスを短縮しかつ誤操作を防止した運転操作装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1の発明は、ドライバがステアリングホイールを保持した状態で手指により操作可能な操作部を備え、前記操作部への第1の操作により変速機の変速比を変化させる変速操作を行ない、前記操作部への前記第1の動作とは異なる第2の操作によりブレーキ装置に制動力を発生させる制動操作を行なうことを特徴とする運転操作装置である。
これによれば、ドライバがステアリングホイールを保持した状態で手指により操作可能な例えばパドルスイッチやステアリングホイールのスポーク部に設けられたスイッチを用いて、変速操作及び制動操作を行なうことによって、ブレーキペダルの踏み替えによる時間的ロスを短縮して即座に制動操作を行なうことができ、かつ、ペダルの踏み間違え等の誤操作を防止することができる。
【0006】
請求項2の発明は、前記操作部を初期位置から所定の変速位置まで移動させることで前記変速操作を行ない、前記操作部を前記変速位置で所定値以上の操作力で押圧することで前記制動操作を行なうことを特徴とする請求項1に記載の運転操作装置である。
請求項3の発明は、前記操作部を第1の方向へ押圧することで前記変速操作を行ない、前記操作部を前記第1の方向とは異なる第2の方向へ押圧することで前記制動操作を行なうことを特徴とする請求項1に記載の運転操作装置である。
請求項4の発明は、前記操作部は第1の操作部及び第2の操作部を有し、前記第1の操作部のみを押圧することで前記変速操作を行ない、前記第1の操作部及び前記第2の操作部を同時に押圧することで前記制動操作を行なうことを特徴とする請求項1に記載の運転操作装置である。
これらの各発明によれば、共通の操作部を用いて、適切に変速操作及び制動操作を行なうことができる。
【0007】
請求項5の発明は、前記制動操作時における前記操作部の操作力に基づいて制動力を調整することを特徴とする請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載の運転操作装置である。
これによれば、ドライバの意図に応じた適切な制動力を発生させることができる。
【0008】
請求項6の発明は、前記操作部は前記ステアリングホイールの中心軸の左右にそれぞれ設けられ、左右の前記操作部のうち前記制動操作時における前記操作力が大きい側の該操作力に基づいて制動力を調整することを特徴とする請求項5に記載の運転操作装置である。
請求項7の発明は、前記操作部は前記ステアリングホイールの中心軸の左右にそれぞれ設けられ、前記制動操作時における左右の前記操作部の前記操作力の合算に基づいて制動力を調整することを特徴とする請求項5に記載の運転操作装置である。
これによれば、左右の操作部を用いて制動操作を行なう場合に、適切な制動力設定を行なうことができる。
【0009】
請求項8の発明は、前記操作部は前記ステアリングホイールの中心軸の左右にそれぞれ設けられ、前記制動操作時における左右の前記操作部の一方の前記操作力に基づいて前輪の制動力を調整し、他方の前記操作力に基づいて後輪の制動力を調整することを特徴とする請求項5に記載の運転操作装置である。
これによれば、車両の積載状態や路面状態、旋回状態などに応じて前輪及び後輪の制動力を個別に調整することができ、効果的な制動を行なうことができる。
【0010】
請求項9の発明は、前記操作部の前記操作力に基づく制動力がブレーキペダルの操作状態に基づく制動力に対して大きい場合にのみ前記操作部の前記操作力に応じた制動力の発生を行なうことを特徴とする請求項5から請求項8までのいずれか1項に記載の運転操作装置である。
これによれば、ブレーキペダルの操作状態がドライバの制動意図を反映していない場合に操作部の操作力に基づく制動力設定を優先させることで、ブレーキペダルの踏み間違いや踏み遅れがあった場合でも良好な制動を行なうことができる。
【0011】
請求項10の発明は、前記操作部を初期位置から所定の変速位置まで移動させることで前記変速操作を行ない、前記操作部を前記変速位置からさらに移動させることで前記制動操作を行なうことを特徴とする請求項1に記載の運転操作装置である。
請求項11の発明は、前記操作部を初期位置から変速位置まで移動させる操作力に対して、前記操作部を前記変速位置から前記制動操作を行なう位置まで移動させる操作力を大きくしたことを特徴とする請求項10に記載の運転操作装置である。
請求項12の発明は、前記操作部を第1の方向に移動させることで前記変速操作を行ない、前記操作部を前記第1の方向とは異なる第2の方向へ移動させることで前記制動操作を行なうことを特徴とする請求項1に記載の運転操作装置である。
請求項13の発明は、前記操作部は第1の操作部及び第2の操作部を有し、前記第1の操作部のみを移動させることで前記変速操作を行ない、前記第1の操作部及び前記第2の操作部を同時に移動させることで前記制動操作を行なうことを特徴とする請求項1に記載の運転操作装置である。
これらの各発明によれば、共通の操作部を用いて、適切に変速操作及び制動操作を行なうことができる。
また、変速操作と制動操作とで操作力が変化するようにしたことによって、ドライバがいずれの操作が実行されているか判別しやすくなり、誤操作を防止できる。
【0012】
請求項14の発明は、前記制動操作時における前記操作部の移動量に基づいて制動力を調整することを特徴とする請求項10から請求項13までのいずれか1項に記載の運転操作装置である。
これによれば、ドライバの意図に応じた適切な制動力を発生させることができる。
【0013】
請求項15の発明は、前記操作部は前記ステアリングホイールの中心軸の左右にそれぞれ設けられ、左右の前記操作部のうち前記制動操作時における前記移動量が大きい側の該移動量に基づいて制動力を調整することを特徴とする請求項14に記載の運転操作装置である。
請求項16の発明は、前記操作部は前記ステアリングホイールの中心軸の左右にそれぞれ設けられ、前記制動操作時における左右の前記操作部の前記移動量の合算に基づいて制動力を調整することを特徴とする請求項14に記載の運転操作装置である。
これによれば、左右の操作部を用いて制動操作を行なう場合に、適切な制動力設定を行なうことができる。
【0014】
請求項17の発明は、前記操作部は前記ステアリングホイールの中心軸の左右にそれぞれ設けられ、前記制動操作時における左右の前記操作部の一方の前記移動量に基づいて前輪の制動力を調整し、他方の前記移動量に基づいて後輪の制動力を調整することを特徴とする請求項14に記載の運転操作装置である。
これによれば、車両の積載状態や路面状態、旋回状態などに応じて前輪及び後輪の制動力を個別に調整することができ、効果的な制動を行なうことができる。
【0015】
請求項18の発明は、前記操作部の前記移動量に基づく制動力がブレーキペダルの操作状態に基づく制動力に対して大きい場合にのみ前記操作部の前記移動量に応じた制動力の発生を行なうことを特徴とする請求項14から請求項17までのいずれか1項に記載の運転操作装置である。
これによれば、ブレーキペダルの操作状態がドライバの制動意図を反映していない場合に操作部の移動量に基づく制動力設定を優先させることで、ブレーキペダルの踏み間違いや踏み遅れがあった場合でも良好な制動を行なうことができる。
【0016】
請求項19の発明は、前記操作部は前記ステアリングホイールの中心軸の左右にそれぞれ設けられ、左右の前記操作部に同時に前記制動操作が行なわれた場合にのみ該制動操作に基づく制動力を発生させることを特徴とする請求項1から請求項18までのいずれか1項に記載の運転操作装置である。
これによれば、ドライバが意図せずに誤って変速操作が行なわれることを防止できる。
【0017】
請求項20の発明は、前記操作部は、ステアリングコラムから径方向に突き出して設けられ、車両後方側へ引くことによって前記変速操作を行なうパドルであることを特徴とする請求項1から請求項19までのいずれか1項に記載の運転操作装置である。
これによれば、ドライバがステアリングホイールから手を放すことなく容易に変速操作及び制動操作を行なうことができる。
【0018】
請求項21の発明は、液圧式ブレーキのフルード液圧を制御する液圧制御手段によって前記制動力を発生させることを特徴とする請求項1から請求項20までのいずれか1項に記載の運転操作装置である。
これによれば、ブレーキペダルにより操作されるマスタシリンダが発生するブレーキフルード液圧を操作部からの制動操作に応じて増減させることによって、ブレーキペダル操作による制動操作に、操作部による制動操作を適切に重畳させることができる。
【0019】
請求項22の発明は、前記操作部の前記制動操作に基づく制動力の発生時にドライバに報知する報知手段を備えることを特徴とする請求項1から請求項21までのいずれか1項に記載の運転操作装置である。
これによれば、ドライバに操作部からの制動操作に基づく制動力の発生を報知させ、ドライバに適切なフィードバックを与えることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、制動操作開始時の時間的ロスを短縮しかつ誤操作を防止した運転操作装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を適用した運転操作装置の実施例1を有する車両の構成を示す模式的ブロック図である。
【図2】実施例1の運転操作装置のパドル部周辺の構成を示す図である。
【図3】実施例1の運転操作装置におけるパドル操作による制動力制御を示すフローチャートである。
【図4】本発明を適用した運転操作装置の実施例4におけるパドル部周辺の構成を示す図である。
【図5】本発明を適用した運転操作装置の実施例5におけるパドル部周辺の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、制動操作開始時の時間的ロスを短縮しかつ誤操作を防止した運転操作装置を提供する課題を、変速操作を行なうパドルスイッチ等に対して、所定の制動操作を行なうことによって、ブレーキ装置に制動力を発生させることによって解決した。
【実施例1】
【0023】
以下、本発明を適用した運転操作装置の実施例1について説明する。
実施例1の運転操作装置は、例えば、無段変速機(CVT)等の自動変速機を有する乗用車等の自動車に設けられ、自動変速機のマニュアルモードにおける変速操作及び制動操作を行なうものである。
【0024】
図1は、実施例1の運転操作装置を有する車両の構成を示す模式的ブロック図である。
図1に示すように、車両1は、エンジン制御ユニット(E/G ECU)2、トランスミッション制御ユニット(T/M ECU)3、電動パーキングブレーキ装置(EPB)4、ステアリングホイール5、パドル6,7、コラムカバー8(図1では図示しない。図2を参照。)、ブレーキ装置10等を備えて構成されている。
【0025】
エンジン制御ユニット2は、車両1の走行用動力源である例えばガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等のエンジン及びその補機類を統括的に制御するものである。
エンジン制御ユニット2は、エンジン回転数、車速、アクセル開度(ドライバ要求トルク)等の情報をトランスミッション制御ユニット3に提供する機能を有する。
【0026】
トランスミッション制御ユニット3は、例えば無段変速機(CVT)、プラネタリギヤセットを用いたステップAT、DCT、AMT等の自動変速機を統括的に制御するものである。
トランスミッション制御ユニット3は、例えば車速、アクセル開度等に基づいて、自動変速機の変速比を自動的に変更する自動変速モードを有する。
また、トランスミッション制御ユニット3は、ドライバからの変速操作に応じて、自動変速機の変速比をステップ状に順次変化させるマニュアル変速モードを有する。
【0027】
電動パーキングブレーキ装置4は、駐停車時に車両1の動き出しを防止する機械式パーキングブレーキを、電動アクチュエータによって駆動するものである。
また、電動パーキングブレーキ装置4は、例えば液圧式のサービスブレーキであるブレーキ装置10の失陥時等に、走行中に制動力を発生するいわゆる動的制動が可能となっている。
【0028】
ステアリングホイール5は、運転席に着座したドライバの正面に設けられ、ドライバが操舵操作を行なう円環状のリム部を備えている。
【0029】
パドル6,7は、ステアリングホイール5のリム部に対して車両前方側に隣接して配置され、ドライバが自動変速機のマニュアル変速モードにおける変速操作を入力する変速操作部である。
また、パドル6,7は、変速操作とは異なる所定の制動操作を行なうことによって、ブレーキ装置10に制動力を発生させる、本発明にいう運転操作装置の操作部として機能する。
【0030】
図2は、パドル部周辺の構成を示す図であって、車幅方向左側から見た状態を示す図である。なお、パドル部周辺は、実質的に左右対称に構成されている。
パドル6,7は、ステアリングシャフトを収容するコラムカバー8から、左側及び右側に、ステアリングシャフトに対してその径方向に突き出して形成されている。
パドル6,7の先端部に設けられた操作部は、ドライバがステアリングホイール5のリム部を把持した状態で、手指によって車両後方側に引くことができるようになっている。
【0031】
パドル6,7の基部には、ドライバが操作部を引いた操作力を検出する図示しない操作力センサを備えている。
パドル6,7は、初期位置からその可動ストロークの終端部に設けられた変速位置まで引くことによって変速操作を行ない、変速位置においてさらに車両後方側へ引く操作力を与えることによって、制動操作を行なうようになっている。
【0032】
変速操作におけるシフトアップ操作は、例えば、パドル6,7の一方を変速位置まで引くことによって行なわれる。
また、シフトダウン操作は、例えば、パドル6,7の他方を変速位置まで引くことによって行なわれる。
また、制動操作は、パドル6,7を同時に変速位置よりも後方側へ、所定の閾値以上の操作力で引くことによって行なわれる。
【0033】
ブレーキ装置10は、車両1の走行中等に前後輪を制動する液圧式のサービスブレーキである。
ブレーキ装置10は、ブレーキペダル11、マスタシリンダ12、左前ブレーキ13、右前ブレーキ14、左後ブレーキ15、右後ブレーキ16、ブレーキ駆動部17、制動力制御部18等を備えて構成されている。
【0034】
ブレーキペダル11は、ドライバが足で踏み込むことによって制動操作を行なうものである。
マスタシリンダ12は、ブレーキペダル11の踏込み量や踏力に応じて、ブレーキフルードを加圧するものである。また、マスタシリンダ12には、エンジンの吸気管負圧を用いた真空倍力装置が設けられる。
マスタシリンダ12が発生したブレーキフルード液圧は、ブレーキ駆動部17を経由して、左前ブレーキ13、右前ブレーキ14、左後ブレーキ15、右後ブレーキ16に伝達される。
【0035】
左前ブレーキ13、右前ブレーキ14、左後ブレーキ15、右後ブレーキ16は、それぞれ対応する各車輪のハブ部に設けられ、車輪とともに回転するロータ及びブレーキパッドでロータを挟持するキャリパ等を備えている。
キャリパには、ブレーキフルードが供給されるホイルシリンダが設けられ、ブレーキフルードが加圧されるとホイルシリンダ内に挿入されたピストンがブレーキパッドを押し出して制動力を発生する。
【0036】
ブレーキ駆動部17は、マスタシリンダ12と左前ブレーキ13、右前ブレーキ14、左後ブレーキ15、右後ブレーキ16の間に設けられ、各車輪のホイルシリンダに供給されるブレーキフルード液圧を個別に増減可能なハイドロリックコントロールユニット(HCU)を備えている。
HCUは、ブレーキフルードを加圧するポンプ、蓄圧手段及び液圧を調節するソレノイドバルブ等を備えて構成されている。
ブレーキ駆動部17は、車両のアンダーステア、オーバーステア時等に、左右輪の制動力差を発生させてこれらの挙動を打ち消す方向のヨーモーメントを発生させる挙動制御や、ホイールロック時に間欠的に制動力を弱めてホイールを回転させるアンチロックブレーキ制御に用いられる。
また、ブレーキ駆動部17は、パドル6,7の制動操作に応じて制動力を発生させる場合にも用いられる。
【0037】
制動力制御部18は、ブレーキ駆動部17を制御して、各ホイルシリンダに供給されるブレーキフルード液圧を制御するものである。
制動力制御部18には、パドル6,7の操作力センサの出力が入力され、制動力制御部18は、パドル6,7の制動操作による目標制動力を設定する。
目標制動力は、例えば、パドル6,7の操作力のうち、いずれか大きい側の操作力に応じて大きくなるように設定される。また、これに代えて、パドル6,7の操作力の合算に基づいて目標制動力を設定するようにしてもよい。
【0038】
制動力制御部18は、目標制動力に基づいて目標ホイルシリンダ液圧を算出する。
そして、ブレーキペダル11の操作や、その他の制御により発生している現在のホイルシリンダ液圧が、目標制動力に基づく目標ホイルシリンダ液圧に満たない場合は、ホイルシリンダ液圧が目標ホイルシリンダ液圧と実質的に一致するようブレーキフルードを加圧する。
すなわち、パドル6,7の制動操作に基づく制動力の発生は、ブレーキペダル11の操作等による制動力に対して、パドル6,7の操作力に基づく目標制動力の方が大きい場合にのみ行なわれる。
【0039】
また、制動力制御部18は、パドル6,7の制動操作に基づく制動力の発生を行なった場合には、例えば計器盤に設けられたインジケータランプを点灯させたり、ブザーを鳴動させることによって、ドライバに認知させる機能を有する。
【0040】
図3は、実施例1におけるパドル操作による制動力制御を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS01:パドル同時両引き>
ドライバが左右のパドル6,7を同時に引くことによって、以下の処理が開始される。
ステップS02に進む。
【0041】
<ステップS02:パドル誤操作判断>
制動力制御部18は、ドライバによるパドル6,7の操作が誤操作であるか否かを判断する。
例えば、制動力制御部18は、左右のパドル6,7の操作力がともに所定の閾値以上であるときは誤操作ではないと判断し、その他の場合は誤操作であると判断する。
誤操作であると判断された場合はステップS01に戻ってそれ以降の処理を繰り返し、誤操作でないと判断された場合はステップS03に進む。
【0042】
<ステップS03:パドル操作力算定>
制動力制御部18は、左右のパドル6,7の操作力センサの出力に基づいて、左右のパドル6,7の操作力のうちいずれか大きい側の値、又は、左右のパドル6,7の操作力の合算値を算出する。
また、制動力制御部18は、これらの値の一方に基づいて、パドル6,7の操作に基づいた目標制動力を算定する。
その後、ステップS04に進む。
【0043】
<ステップS04:ブレーキペダル踏み込み有無判断>
制動力制御部18は、ドライバによるブレーキペダル11の踏み込み操作有無を判断する。この判断は、例えば、ブレーキペダル11に設けられ、踏み込み操作時にオンされるブレーキランプスイッチの出力に基づいて行なうことができる。また、マスタシリンダ12の液圧や、ブレーキペダル11のストローク等、他の手法に基づいて判断してもよい。
ブレーキペダル11の踏み込みがあると判断された場合はステップS05に進み、踏み込みがないと判断された場合はステップS06に進む。
【0044】
<ステップS05:パドル制動力・ペダル制動力判断>
制動力制御部18は、ブレーキペダル11の操作状態に基づいて算出される制動力と、ステップS03においてパドル6,7の操作に基づいて算定された目標制動力とを比較し、パドル6,7の操作に基づく目標制動力のほうが大きい場合はステップS06に進み、その他の場合はステップS07に進む。
【0045】
<ステップS06:パドル入力優先制動制御>
制動力制御部18は、ブレーキ装置10の制動力がパドル6,7の操作に基づく目標制動力とほぼ一致するように、ブレーキ駆動部17に制御命令を出力する。
その後、ステップS08に進む。
【0046】
<ステップS07:ブレーキペダル入力優先制動制御>
制動力制御部18は、ブレーキ装置10の制動力がブレーキペダル11の操作状態に基づいて算出される制動力とほぼ一致するように、ブレーキ駆動部17に制御命令を出力する。
すなわち、この場合、パドル6,7からの制動操作はキャンセルされる。
その後、ステップS08に進む。
【0047】
<ステップS08:ブレーキ駆動部稼動>
ブレーキ駆動部17は、制動力制御部18からの制御命令に応じて、各車輪のブレーキ13から16のホイルシリンダ液圧を増減圧し、ブレーキ装置10に所望の制動力を発生させる。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0048】
以上説明した実施例1によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ドライバがステアリングホイール5を保持した状態で手指により操作可能なパドル6,7を用いて、変速操作及び制動操作を行なうことによって、ブレーキペダル11の踏み替えによる時間的ロスを短縮して即座に制動操作を行なうことができかつペダルの踏み間違え等の誤操作を防止することができる。
また、ブレーキペダル11やマスタシリンダ12の故障時等であっても液圧式サービスブレーキの使用を可能とすることによって、車両1のフェールセーフ性を向上することができる。
(2)パドル6,7の一方を所定の変速位置まで引くことによって変速操作を行ない、パドル6,7の両方を変速位置まで引いた状態でさらに押圧して制動操作を行なうことによって、適切に変速操作及び制動操作を行なうことができ、また誤操作を防止することができる。
(3)左右のパドル6,7の操作力の大きい側又は合算値に基づいて制動力を調整することによって、ドライバの意図に応じた適切な制動力を発生させることができる。
(4)ブレーキペダル11の操作に基づく目標制動力よりもパドル6,7の操作に基づく目標制動力のほうが大きい場合にのみ、パドル6,7の操作に基づく制動力を発生させることによって、ブレーキペダルの操作状態がドライバの制動意図を反映していない場合に、操作部の移動量に基づく制動力設定を優先させることで、ブレーキペダルの踏み間違いや踏み遅れがあった場合でも良好な制動を行なうことができる。
(5)ブレーキフルードの加減圧機能を有するブレーキ駆動部17によってブレーキフルードを加圧して制動力を発生させることによって、ブレーキペダル11により操作されるマスタシリンダ12が発生するブレーキフルード液圧を、パドル6,7からの制動操作に応じて増減させて、ブレーキペダル11の操作による制動操作に、パドル6,7による制動操作を適切に重畳させることができる。
(6)パドル6,7からの制動操作に基づく制動力の発生時に、インジケータランプやブザー等によってドライバに報知することによって、ドライバに適切なフィードバックを与えることができる。
【実施例2】
【0049】
次に、本発明を適用した運転操作装置の実施例2について説明する。
なお、以下説明する各実施例において、従前の実施例と実質的に共通する箇所については同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
実施例2の運転操作装置においては、左側のパドル6への制動操作時における操作力に基づいて、左前ブレーキ13及び右前ブレーキ14の目標制動力を設定し、右側のパドル7への制動操作時における操作力に基づいて、左後ブレーキ15及び右後ブレーキ16の目標制動力を設定している。
以上説明した実施例2によれば、上述した実施例1の効果と実質的に同様の効果に加えて、車両1の積載状態や路面状態、旋回状態などに応じて前輪及び後輪の制動力を個別に調整することができ、効果的な制動を行なうことができる。
【実施例3】
【0050】
次に、本発明を適用した運転操作装置の実施例3について説明する。
実施例3の運転操作装置は、パドル6,7を用いた制動操作における制動力の設定を、パドル6,7のストロークではなく操作力(操作力)に基づいて行なうことを特徴とする。
パドル6,7の基部には、ドライバが操作部を引いたストローク(移動量)を検出する図示しないストロークセンサを備えている。
パドル6,7は、初期位置からその可動ストロークの中間部に設けられた変速位置まで引くことによって変速操作を行ない、変速位置からさらに引くことによって、制動操作を行なうようになっている。
パドル6,7を引くのに必要な操作力は、変速位置においてステップ状に増加する。すなわち、初期位置から変速位置へ引くときの操作力に対して、変速位置からさらに引くときの操作力(制動操作を行なうときの操作力)のほうが大きくなるようになっている。このため、ドライバは触感によって変速位置が感知可能となっている。
【0051】
変速操作におけるシフトアップ操作は、例えば、パドル6,7の一方を変速位置まで引くことによって行なわれる。
また、シフトダウン操作は、例えば、パドル6,7の他方を変速位置まで引くことによって行なわれる。
また、制動操作は、パドル6,7を同時に変速位置よりも後方側へ引くことによって行なわれる。
そして、パドル6,7の操作に基づく目標制動力は、パドル6,7のストロークのうち大きい側のストローク、又は、パドル6,7のストロークの合算値に基づいて設定される。
【0052】
以上説明した実施例3においても、上述した実施例1の効果と実質的に同様の効果を得ることができる。
なお、上述した実施例2と同様に、パドル6,7の一方のストロークによって前輪の制動力を調節し、他方のストロークによって後輪の制動力を調節することも可能であり、この場合は実施例2の効果と同様の効果を得ることができる。
【実施例4】
【0053】
次に、本発明を適用した運転操作装置の実施例4について説明する。
図4は、実施例4におけるパドル部周辺の構成を示す図である。
実施例4においては、パドル6と隣接してサブパドル6aを設け、パドル7と隣接してサブパドル7a(図示しないが、サブパドル6aと実質的に左右対称)を設けている。
サブパドル6a,7aがドライバの手指と接する操作部は、例えば、パドル6,7の操作部に対して内側(ステアリングシャフト側)に配置される。
【0054】
実施例4においては、変速操作は、ドライバがパドル6又はパドル7のみを後方側へ引くことによって行ない、制動操作は、ドライバが左右のパドル6,7を、サブパドル6a,7aとともに引くことによって行なう。
制動力の調整は、実施例1と同様に各パドルの操作力に基づいて行なってもよく、また、実施例2と同様に各パドルのストロークに基づいて行なってもよい。
また、実施例3のように、左右のパドルによって前後輪の制動力を独立して調整するようにしてもよい。
以上説明した実施例4においても、従前の各実施例と実質的に同様の効果を得ることができる。
【実施例5】
【0055】
次に、本発明を適用した運転操作装置の実施例5について説明する。
図5は、実施例5におけるパドル部周辺の構成を示す図である。
実施例5においては、ハドル6,7を後方側へ引いて変速操作を行ない、パドル6,7を捻ることによって制動操作を行なう構成としている。
図5に矢印で示すように、制動操作は、パドル6,7の操作部の上端部が後方側へ移動し、下端部が前方側へ移動するように、パドル6,7を捻ることによって行なう。
このとき、制動力の調整は、パドル6,7に作用する操作トルクに基づいて行なってもよく、また、パドル6,7の回転角度に基づいて行なってもよい。
また、実施例3のように、左右のパドルによって前後輪の制動力を独立して調整するようにしてもよい。
以上説明した実施例5においても、従前の各実施例と実質的に同様の効果を得ることができる。
【0056】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)各実施例では、操作部への変速操作に応じた制動力の発生を、液圧式サービスブレーキのブレーキフルードを加圧することによって行なっているが、本発明はこれに限らず、例えば、モータジェネレータを用いた電力回生ブレーキを用いたり、回生ブレーキと液圧式ブレーキとの協調制御によって行なってもよい。また、電動パーキングブレーキ装置の動的制動機能を用いてもよい。
(2)操作部がパドルである場合の制動操作の入力方法は、各実施例のものに限定されず、適宜変更することができる。例えば、パドルを引くことによって変速操作を行ない、パドルをステアリングホイールの周方向に動かすことによって制動操作を行なってもよい。
また、パドルの先端部をステアリングシャフトの軸心側に押圧するようにしてもよい。
また、パドルを変速操作とは逆方向に動かすことによって制動操作を行なってもよい。
(3)各実施例では左右のパドルで同時に制動操作を行なった場合にのみ制動力を発生させるようにしているが、片側一方のパドル操作のみで制動操作を行なえるようにしてもよい。
(4)各実施例では、操作部は例えばパドルスイッチであるが、本発明はこれに限定されない。例えば、ステアリングホイールのリム部等に設けられ、ドライバが親指などで操作するステアスイッチを用いて変速操作及び制動操作を行なうようにしてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 車両 2 エンジン制御ユニット
3 トランスミッション制御ユニット 4 電動パーキングブレーキ装置
5 ステアリングホイール
6 パドル 6a サブパドル
7 パドル 7a サブパドル
8 コラムカバー 10 ブレーキ装置
11 ブレーキペダル 12 マスタシリンダ
13 左前ブレーキ 14 右前ブレーキ
15 左後ブレーキ 16 右後ブレーキ
17 ブレーキ駆動部 18 制動力制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバがステアリングホイールを保持した状態で手指により操作可能な操作部を備え、
前記操作部への第1の操作により変速機の変速比を変化させる変速操作を行ない、
前記操作部への前記第1の動作とは異なる第2の操作によりブレーキ装置に制動力を発生させる制動操作を行なうこと
を特徴とする運転操作装置。
【請求項2】
前記操作部を初期位置から所定の変速位置まで移動させることで前記変速操作を行ない、
前記操作部を前記変速位置で所定値以上の操作力で押圧することで前記制動操作を行なうこと
を特徴とする請求項1に記載の運転操作装置。
【請求項3】
前記操作部を第1の方向へ押圧することで前記変速操作を行ない、
前記操作部を前記第1の方向とは異なる第2の方向へ押圧することで前記制動操作を行なうこと
を特徴とする請求項1に記載の運転操作装置。
【請求項4】
前記操作部は第1の操作部及び第2の操作部を有し、
前記第1の操作部のみを押圧することで前記変速操作を行ない、
前記第1の操作部及び前記第2の操作部を同時に押圧することで前記制動操作を行なうこと
を特徴とする請求項1に記載の運転操作装置。
【請求項5】
前記制動操作時における前記操作部の操作力に基づいて制動力を調整すること
を特徴とする請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載の運転操作装置。
【請求項6】
前記操作部は前記ステアリングホイールの中心軸の左右にそれぞれ設けられ、
左右の前記操作部のうち前記制動操作時における前記操作力が大きい側の該操作力に基づいて制動力を調整すること
を特徴とする請求項5に記載の運転操作装置。
【請求項7】
前記操作部は前記ステアリングホイールの中心軸の左右にそれぞれ設けられ、
前記制動操作時における左右の前記操作部の前記操作力の合算に基づいて制動力を調整すること
を特徴とする請求項5に記載の運転操作装置。
【請求項8】
前記操作部は前記ステアリングホイールの中心軸の左右にそれぞれ設けられ、
前記制動操作時における左右の前記操作部の一方の前記操作力に基づいて前輪の制動力を調整し、他方の前記操作力に基づいて後輪の制動力を調整すること
を特徴とする請求項5に記載の運転操作装置。
【請求項9】
前記操作部の前記操作力に基づく制動力がブレーキペダルの操作状態に基づく制動力に対して大きい場合にのみ前記操作部の前記操作力に応じた制動力の発生を行なうこと
を特徴とする請求項5から請求項8までのいずれか1項に記載の運転操作装置。
【請求項10】
前記操作部を初期位置から所定の変速位置まで移動させることで前記変速操作を行ない、
前記操作部を前記変速位置からさらに移動させることで前記制動操作を行なうこと
を特徴とする請求項1に記載の運転操作装置。
【請求項11】
前記操作部を初期位置から変速位置まで移動させる操作力に対して、前記操作部を前記変速位置から前記制動操作を行なう位置まで移動させる操作力を大きくしたこと
を特徴とする請求項10に記載の運転操作装置。
【請求項12】
前記操作部を第1の方向に移動させることで前記変速操作を行ない、
前記操作部を前記第1の方向とは異なる第2の方向へ移動させることで前記制動操作を行なうこと
を特徴とする請求項1に記載の運転操作装置。
【請求項13】
前記操作部は第1の操作部及び第2の操作部を有し、
前記第1の操作部のみを移動させることで前記変速操作を行ない、
前記第1の操作部及び前記第2の操作部を同時に移動させることで前記制動操作を行なうこと
を特徴とする請求項1に記載の運転操作装置。
【請求項14】
前記制動操作時における前記操作部の移動量に基づいて制動力を調整すること
を特徴とする請求項10から請求項13までのいずれか1項に記載の運転操作装置。
【請求項15】
前記操作部は前記ステアリングホイールの中心軸の左右にそれぞれ設けられ、
左右の前記操作部のうち前記制動操作時における前記移動量が大きい側の該移動量に基づいて制動力を調整すること
を特徴とする請求項14に記載の運転操作装置。
【請求項16】
前記操作部は前記ステアリングホイールの中心軸の左右にそれぞれ設けられ、
前記制動操作時における左右の前記操作部の前記移動量の合算に基づいて制動力を調整すること
を特徴とする請求項14に記載の運転操作装置。
【請求項17】
前記操作部は前記ステアリングホイールの中心軸の左右にそれぞれ設けられ、
前記制動操作時における左右の前記操作部の一方の前記移動量に基づいて前輪の制動力を調整し、他方の前記移動量に基づいて後輪の制動力を調整すること
を特徴とする請求項14に記載の運転操作装置。
【請求項18】
前記操作部の前記移動量に基づく制動力がブレーキペダルの操作状態に基づく制動力に対して大きい場合にのみ前記操作部の前記移動量に応じた制動力の発生を行なうこと
を特徴とする請求項14から請求項17までのいずれか1項に記載の運転操作装置。
【請求項19】
前記操作部は前記ステアリングホイールの中心軸の左右にそれぞれ設けられ、
左右の前記操作部に同時に前記制動操作が行なわれた場合にのみ該制動操作に基づく制動力を発生させること
を特徴とする請求項1から請求項18までのいずれか1項に記載の運転操作装置。
【請求項20】
前記操作部は、ステアリングコラムから径方向に突き出して設けられ、車両後方側へ引くことによって前記変速操作を行なうパドルであること
を特徴とする請求項1から請求項19までのいずれか1項に記載の運転操作装置。
【請求項21】
液圧式ブレーキのフルード液圧を制御する液圧制御手段によって前記制動力を発生させること
を特徴とする請求項1から請求項20までのいずれか1項に記載の運転操作装置。
【請求項22】
前記操作部の前記制動操作に基づく制動力の発生時にドライバに報知する報知手段を備えること
を特徴とする請求項1から請求項21までのいずれか1項に記載の運転操作装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−131411(P2012−131411A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286176(P2010−286176)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】