説明

過給機付き内燃機関の制御装置

【課題】目標スロットル開度の計算にエア逆モデルを用いる過給機付き内燃機関の制御装置において、圧力センサによるスロットル上流圧の計測値に誤差が含まれる場合であっても、その誤差の影響が要求トルクの実現精度に及ぶことがないようにする。
【解決手段】要求トルクから計算される筒内吸入空気量の要求値と圧力センサによるスロットル上流圧の計測値とに基づいてエア逆モデルを用いてスロットル開度の目標値を計算する。その一方で、エアフローメータによる吸気流量の計測値からスロットル上流圧の推定値を計算する。そして、スロットル開度の計測値とスロットル上流圧の推定値とに基づいてエアモデルを用いて筒内吸入空気量の推定値を計算する。そして、エア逆モデルを用いた計算に関係する特定の変数に関し、筒内吸入空気量の要求値に推定値を合わせるための補正値をそれらの差に基づいて学習し、学習した補正値によって特定変数を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給機付き内燃機関の制御装置に関し、詳しくは、要求トルクを実現するためのスロットル開度をエア逆モデルを用いて決定する過給機付き内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2010−053705号公報に開示されているように、エア逆モデルを用いた計算によって目標スロットル開度を決定する方法が知られている。エア逆モデルは、エアモデル、すなわち、スロットルの動作に対する吸入空気量の応答をモデル化し、それを数式で表したものの逆モデルである。要求トルクから要求筒内吸入空気量を算出し、それをエア逆モデルに入力することによって、要求トルクを実現するのに必要なスロットル開度が算出される。
【0003】
エア逆モデルには、スロットル通過流量からスロットル開度を計算するためのスロットル逆モデルが含まれている。スロットル逆モデルは下記の方程式によって表すことができる。この方程式において、TAはスロットル開度、mtはスロットル通過流量、Pmは吸気管圧、Pupはスロットル上流圧、Tupはスロットル上流温度であり、B−1及びΦはそれぞれ関数を表している。なお、この方程式を変形してスロットル通過流量mtを求める式にしたものがスロットルモデルの方程式となる。
【0004】
【数1】

【0005】
この方程式から分かるように、エア逆モデルを用いた計算ではパラメータの1つとしてスロットル上流圧が用いられる。自然吸気型の内燃機関の場合であれば、スロットル上流圧は大気圧に等しいとみなすことも可能である。しかし、過給機付き内燃機関の場合には、過給機の動作状態に応じてスロットル上流圧は大きく変化する。このため、過給機付き内燃機関の制御装置においてエア逆モデルを用いた計算を行う場合には、圧力センサによってスロットル上流圧を実際に計測し、その計測値を上記のパラメータに代入することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−053705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、スロットル上流圧を圧力センサによって計測する場合、圧力センサの出力値が常に正しい値を示しているとは限らない。経時変化によって或いは個体差によって、圧力センサの出力値には誤差が含まれる可能性がある。圧力センサの出力値に誤差が含まれる場合、その誤差の影響は要求トルクの実現精度に及ぶことになる。例えば、圧力センサの出力値が真値よりも高い値を示している場合、エア逆モデルを用いて算出される目標スロットル開度は正しい開度よりも小さい値となる。その場合の実現筒内吸入空気量は要求筒内吸入空気量に対して不足することになり、結果として要求トルクに対する実現トルクの不足が生じてしまう。逆に、圧力センサの出力値が真値よりも低い値を示している場合には、要求トルクに対して実現トルクが過剰になってしまう。
【0008】
以上述べたように、エア逆モデルを用いた目標スロットル開度の計算を過給機付き内燃機関に適用する場合には、圧力センサによるスロットル上流圧の計測値に含まれる誤差の影響を如何にして排除するかが1つの課題となる。本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、圧力センサによるスロットル上流圧の計測値に誤差が含まれる場合であっても、その誤差の影響が要求トルクの実現精度に及ぶことがないようにした過給機付き内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの形態によれば、制御装置は、要求トルクから筒内吸入空気量の要求値を計算するとともに、圧力センサによるスロットル上流圧の計測値を取得する。そして、制御装置は、筒内吸入空気量の要求値とスロットル上流圧の計測値とに基づいてエア逆モデルを用いてスロットル開度の目標値を計算し、スロットル開度の目標値に従ってスロットルを操作する。その一方で、制御装置は、スロットル開度センサによるスロットル開度の計測値を取得するとともに、エアフローメータによる吸気流量の計測値からスロットル上流圧の推定値を計算する。そして、制御装置は、スロットル開度の計測値とスロットル上流圧の推定値とに基づいてエアモデルを用いて筒内吸入空気量の推定値を計算する。
【0010】
このとき、スロットル上流圧の計測値と推定値との間にずれが無ければ、筒内吸入空気量の推定値はその要求値と等しい値になるはずである。筒内吸入空気量の要求値をエア逆モデルによってスロットル開度に変換し、それを再びエアモデルによって逆変換したものが筒内吸入空気量の推定値だからである。よって、筒内吸入空気量の推定値と要求値とに違いが生じている場合、それはスロットル開度の計測値に含まれる誤差の影響であると推測することができる。スロットル上流圧の推定値に関して言えば、それは概ね真値であるとみなすことができる。エアフローメータは自然吸気型の内燃機関でも広く用いられている実績のあるセンサであることから、それによる吸気流量の計測値の信頼性は高く、吸気流量の計測値を用いて計算されたスロットル上流圧の推定値の精度も高いと考えられるからである。
【0011】
そこで、制御装置は、筒内吸入空気量の要求値と推定値とに違いが生じている場合、エア逆モデルを用いた計算に関係する特定の変数に関し、筒内吸入空気量の要求値に推定値を合わせるための補正値をそれらの差に基づいて学習する。そして、その補正値によって特定変数の補正を行う。特定変数に対して補正値が与えられることで、エア逆モデルにより算出されるスロットル開度の目標値は与えられた補正値に応じて変化し、それに応じて筒内吸入空気量の推定値にも変化が生じる。よって、筒内吸入空気量の要求値と推定値との差がなくなるように特定変数の補正値を学習することにより、筒内吸入空気量の要求値に対して実現値に過不足が生じることは避けられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、圧力センサによるスロットル上流圧の計測値に含まれる誤差の影響を受けることなく、スロットル開度の目標値を正しく算出して要求トルクを精度良く実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態1の過給機付き内燃機関の制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図2】エア逆モデルの構成を示す機能ブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態1で実行されるスロットル上流圧の計測値の補正のための処理を示すフローチャートである。
【図4】筒内吸入空気量の要求値と推定値との誤差に対する補正値の更新量の設定の例を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態2の過給機付き内燃機関の制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態2で実行されるスロットル開度の目標値の補正のための処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1について図を用いて説明する。
【0015】
本実施の形態の制御装置の適用対象となる内燃機関は、ターボチャージャや機械式スーパーチャージャ等の過給機を備え、且つ、電子制御式スロットル(以下、単にスロットル或いは電スロと省略する)による空気量の調整によってトルクを制御することのできる4サイクルレシプロエンジンである。本制御装置は、内燃機関に備えられるECUの一機能として実現される。詳しくは、メモリに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで、ECUは制御装置として機能する。ECUが制御装置として機能する場合、ECUは、プログラムされているスロットル制御ロジックに従ってスロットルの動作を制御する。
【0016】
図1は、スロットル制御ロジックに従いECUが機能することで実現される制御装置の構成を示す機能ブロックである。この図に示すように、本制御装置は、外部から要求トルクを取得するとともに、スロットル上流圧センサ(図中にはPupセンサと表記)4とエアフローメータ(図中にはAFMと表記)6の各出力値を取得する。スロットル上流圧センサ4は吸気通路においてコンプレッサの下流で且つスロットルの上流に取り付けられている。エアフローメータ6は吸気通路の入口に取り付けられている。スロットル上流圧センサ4の出力値からはスロットル上流圧を計測することができ、エアフローメータ6の出力値からは吸気通路に取り込まれる空気の流量(以下、吸気流量)を計測することができる。
【0017】
本制御装置は要求空気量変換マップ10を備えている。要求空気量変換マップ10は、トルクと吸入空気量(或いは、それを無次元化した充填効率又は負荷率)とがエンジン回転数、点火時期及び空燃比を含む種々のエンジン状態量をキーにして関連付けられたマップである。要求空気量変換マップ10では、現在のエンジン状態量のもとで要求トルクの実現のために要求される筒内吸入空気量(以下、要求KLと表記する)が算出される。
【0018】
本制御装置はエア逆モデル20を備えている。要求KLをエア逆モデル20に入力することによって、スロットル開度の目標値(以下、目標TA)が算出される。ここで、図2を用いてエア逆モデル20の詳細について説明する。エア逆モデル20は、詳しくは、吸気弁逆モデル22、吸気管逆モデル24、スロットル逆モデル26、スロットル動作逆モデル28、スロットル動作モデル38及び簡易エアモデル30を組み合わせて構成されている。
【0019】
吸気弁逆モデル22は、筒内吸入空気量と吸気管圧力との関係について調べた実験ベースのモデルである。実験で得られた経験則により、吸気弁逆モデル22においては筒内吸入空気量と吸気管圧力との関係が直線で近似されている。要求空気量変換マップ10で得られた要求KLを吸気弁逆モデル22に入力することによって、要求KLの実現のために要求される吸気管圧(以下、要求Pmと表記する)が算出される。
【0020】
吸気管逆モデル24は、吸気管内の空気に関する保存則、具体的には、エネルギー保存則と流量保存則とに基づいて構築された物理モデルである。吸気管逆モデル24では、スロットルを通過する空気の流量と吸気管圧との関係が数式で表されている。要求Pmと現在の仮想吸気管圧(以下、仮想Pmと表記する)との差圧(以下、ΔPmと表記する)と、現在の仮想筒内吸入空気量(以下、仮想KLと表記する)と、1ステップ前の要求Pmとを吸気管逆モデル24に入力することによって、要求Pmの実現のために要求されるスロットル通過流量(以下、要求mtと表記する)が算出される。
【0021】
スロットル逆モデル26は、スロットル通過流量とスロットル開度との関係を数式で表したモデルである。前述のように、スロットル逆モデル26を用いた計算ではパラメータの1つとしてスロットル上流圧が用いられる。そして、スロットル上流圧センサ4の出力値から得られたスロットル上流圧の計測値(図2に示すPup)がそのパラメータに代入される。このスロットル逆モデル26に要求mtを入力することによって、要求mtの実現のためのスロットル開度が算出される。
【0022】
スロットル動作逆モデル28は、スロットル2の動作とその動作を生じさせる入力信号との関係を数式等で近似したモデルである。スロットル逆モデル26で算出されたスロットル開度をスロットル動作逆モデル28に入力することによって、それを実現するための入力信号、すなわち、目標TAが算出される。
【0023】
スロットル動作モデル38及び簡易エアモデル30は、上述の計算過程で用いられる仮想Pm及び仮想KLを算出するために設けられている。スロットル動作モデル38は、前述のスロットル動作逆モデル28に対応する順モデルである。スロットル動作モデル38に目標TAを入力することによって、現時点における仮想の実スロットル開度が算出される。簡易エアモデル30は、スロットルモデル32、吸気管モデル34及び吸気弁モデル36によって構成されている。このうちのスロットルモデル32は、前述のスロットル逆モデル26に対応する順モデルである。スロットルモデル32を用いた計算では、スロットル逆モデル26の場合と同様、スロットル上流圧センサ4の出力値から得られたスロットル上流圧の計測値(図2に示すPup)がスロットルモデル32のパラメータに代入される。このスロットルモデル32に仮想スロットル開度を入力することによって、現在の仮想スロットル通過流量(以下、仮想mtと表記する)が算出される。また、吸気管モデル34は前述の吸気管逆モデル24に対応する順モデルであって、仮想mtの入力により仮想Pmを算出する。吸気弁モデル36は前述の吸気弁逆モデル22に対応する順モデルであって、仮想Pmの入力によって仮想KLを算出する。前述のように、仮想PmはΔPmの計算に用いられ、仮想KLはΔPmとともに吸気管逆モデル24に入力される。
【0024】
再び図1に戻り、本制御装置の全体構成について引き続き説明する。上述のエア逆モデル20によって算出された目標TAは、スロットル2に対する入力信号となる。スロットル2はこの目標TAに従って操作される。その操作によって実際に実現されたスロットル2の開度は、図示しないスロットル開度センサによって計測される。
【0025】
本制御装置はエアモデル12を備えている。スロットル開度センサによるスロットル開度の計測値(以下、実TA)はエアモデル12に入力される。実TAをエアモデル12に入力することによって、実TAによって実現される筒内吸入空気量の推定値(以下、推定KL)が算出される。このエアモデル12は、簡易エアモデル30よりも厳密にモデル化されたエアモデルであるが、基本的には簡易エアモデル30と同様にスロットルモデル、吸気管モデル及び吸気弁モデルを備えている。エアモデル12のスロットルモデルを用いた計算では、スロットル上流圧の計測値ではなく、スロットル上流圧推定部14で計算された推定値がスロットルモデルのパラメータに代入される。
【0026】
スロットル上流圧推定部14には、エアフローメータ6の出力値から得られた吸気流量の計測値が入力される。スロットル上流圧、つまり、コンプレッサからスロットルまでの空間内の圧力は、コンプレッサを通過するガスの流量が分かればエネルギー保存則と流量保存則とを用いて正確に算出することができる。少なくとも定常状態ではコンプレッサ通過流量と吸気流量とは等しいことから、エアフローメータ6による吸気流量の計測値を得ることによってスロットル上流圧の推定値を計算することができる。
【0027】
本制御装置は、エアモデル12を用いて算出した推定KLを要求KLと比較する。比較した要求KLと推定KLとの間に違いが生じている場合には、その原因はスロットル上流圧の計測値と推定値とのずれであると推測することができる。スロットル上流圧の計測値と推定値にずれがある場合、スロットル上流圧の推定値のほうが真値を示している可能性が高い。スロットル上流圧の推定値の計算に用いられている吸気流量は、スロットル上流圧センサ4に比較してより実績のあるエアフローメータ6によって計測されたものだからである。そこで、本制御装置は、推定KLと要求KLとの差を解消するための補正値によってスロットル上流圧の計測値を補正する。この補正処理の実行手順をフローチャートで示したものが図3である。そして、この補正処理は、本制御装置が備える補正実行部16及び補正値学習部18によって実行される。以下、図3のフローチャートを参照しながら補正実行部16及び補正値学習部18の各機能について説明する。
【0028】
図3のフローチャートによれば、スロットル上流圧の計測値に対する補正を実行する条件としてステップS11,S12,S13及びS14の判定が順に行われる。これらの判定は補正実行部16により行われる。ステップS11では、補正実行部16は、スロットル2がフェール状態でないことを確認する。スロットル2がフェール状態ならば、それが推定KLと要求KLとの間に差が生じた原因であると言える。よって、スロットル2がフェール状態の場合には、補正実行部16によるスロットル上流圧の計測値の補正は行われない。なお、スロットル2がフェール状態かどうかは、例えば、目標TAの入力に対する実TAの応答から判断することができる。
【0029】
次のステップS12では、補正実行部16は、エアフローメータ6がフェール状態でないことを確認する。前述のようにエアフローメータ6は実績のあるセンサであるが、何らかの故障が生じる可能性が全くないとは言えない。もしもエアフローメータ6がフェール状態になったならば、それが推定KLと要求KLとの間に差が生じた原因であると言える。よって、エアフローメータ6がフェール状態の場合には、補正実行部16によるスロットル上流圧の計測値の補正は行われない。エアフローメータ6がフェール状態かどうかの判断には公知のOBD方法を用いることができる。例えば、エアフローメータ6の出力レベルからフェール状態かどうかを判断することができる。
【0030】
次のステップS13では、補正実行部16は、要求KLと推定KLとの差(以下、ΔKL)の大きさが所定の閾値(例えば7%)以上かどうか判定する。その閾値で定まる許容範囲内にΔKLが収まっているのであれば、スロットル上流圧の計測値と推定値との間にずれは生じていないと判断することができる。したがって、その場合には補正実行部16によるスロットル上流圧の計測値の補正は行われない。
【0031】
そして、ステップS14では、補正実行部16は、ECUによって別途行われているA/F学習制御の学習値の大きさが所定の閾値(例えば4%)以下に収まっているかどうか判定する。A/F学習制御では、排気通路に配置された空燃比センサによって排気ガスの空燃比が計測され、空燃比の計測値を目標空燃比に合わせるために必要な燃料噴射量の補正値が学習される。燃料噴射量はエアフローメータ6の出力値を用いて決定されているので、エアフローメータ6の出力値が真値からずれている場合には、それにより生じる燃料噴射量の過不足を補償するように燃料噴射量の補正が行われることになる。そして、エアフローメータ6の出力値のずれが大きいほど、学習された燃料噴射量の補正値、つまり、学習値は大きくなる。よって、A/F学習制御の学習値の大きさが所定の閾値を超えている場合には、エアフローメータ6はフェール状態ではないものの、その出力値の信頼性が低下していると判断することができる。この場合、補正実行部16によるスロットル上流圧の計測値の補正は行われない。
【0032】
以上のステップS11,S12,S13及びS14の判定結果が全て肯定であった場合、補正実行部16によりステップS15の処理が行われる。ステップS15では、補正実行部16は、スロットル上流圧の計測値に対する補正値(以下、Pup補正値)を出力する。補正実行部16が出力するPup補正値は補正値学習部18から供給される。補正実行部16から出力されたPup補正値はスロットル上流圧センサ4によるスロットル上流圧の計測値に加算され、Pup補正値で補正されたスロットル上流圧の計測値がエア逆モデル20において使用される。つまり、スロットル逆モデル26及びスロットルモデル32の各パラメータ(図2に示すPup)に代入される。
【0033】
また、ステップS15と並行して補正値学習部18によりステップS16の処理が行われる。補正値学習部18は、補正実行部16が出力するPup補正値をΔKLに基づいて学習し、その学習値をメモリに記憶する。補正値学習部18には、図4に示すようなマップが備えられている。このマップではΔKLに対するPup補正値の更新量が定められている。補正値学習部18は、ΔKLの大きさが所定の閾値を超えて拡大したとき、補正実行部16が出力しているPup補正値にΔKLに応じた更新量を加算する。そして、Pup補正値に更新量を加算することでΔKLが所定の許容範囲内(例えば±5%以内)に収まり、且つ、一定期間その状態が継続した場合、Pup補正値に更新量を加算した値を新たなPup補正値として学習する。
【0034】
以上のような補正処理が行われることにより、エア逆モデル20により算出される目標TAは与えられたPup補正値に応じて変化し、それに応じて筒内吸入空気量の実現値にも変化が生じる。Pup補正値は要求KLと推定KLとの差がなくなるように学習されているので、要求KLに対して筒内吸入空気量の実現値に過不足が生じることは避けられる。これにより、スロットル上流圧センサ4によるスロットル上流圧の計測値に誤差が含まれる場合であっても、その誤差の影響が要求トルクの実現精度に及ぶことは防止される。
【0035】
実施の形態2.
次に、本発明の実施の形態2について図を用いて説明する。
【0036】
図5は、本発明の実施の形態2の制御装置の構成を示す機能ブロック図である。本制御装置を構成する要素のうち、実施の形態1の制御装置と機能において共通する要素については同一の符号を付している。以下では、実施の形態1と共通する要素についてはその説明を省略或いは簡略し、実施の形態1と異なる要素の機能を中心に本制御装置の構成について説明する。
【0037】
本制御装置と実施の形態1の制御装置との相違点の1つは、推定KLと要求KLとの差に基づいて学習した補正値による補正対象である。本制御装置は、推定KLと要求KLとの差を解消するための補正値によって目標TAを補正する。目標TAは、エア逆モデル20を用いた計算に関係する特定の変数である点において、実施の形態1において補正対象とされているスロットル上流圧の計測値と共通している、本制御装置による補正処理の実行手順をフローチャートで示したものが図6である。そして、この補正処理は、本制御装置が備える補正実行部40及び補正値学習部42によって実行される。以下、図6のフローチャートを参照しながら補正実行部40及び補正値学習部42の各機能について説明する。
【0038】
図6のフローチャートによれば、目標TAに対する補正を実行する条件としてステップS21,S22,S23及びS24の判定が順に行われる。これらの判定は補正実行部40により行われる。ステップS21,S22,S23,S24の各判定の内容は、実施の形態1の補正処理におけるステップS11,S12,S13,S14の各判定の内容と同内容である。すなわち、ステップS21では、補正実行部40は、スロットル2がフェール状態でないことを確認する。次のステップS22では、補正実行部40は、エアフローメータ6がフェール状態でないことを確認する。次のステップS23では、補正実行部40は、要求KLと推定KLとの差であるΔKLの大きさが所定の閾値以上かどうか判定する。そして、ステップS24では、補正実行部40は、A/F学習制御の学習値の大きさが所定の閾値以下かどうか判定する。
【0039】
以上のステップS21,S22,S23及びS24の判定結果が全て肯定であった場合、補正実行部40によりステップS25の処理が行われる。ステップS25では、補正実行部40は、エア逆モデル20を用いた計算で算出される目標TAに対する補正値(以下、TA補正値)を出力する。補正実行部40が出力するTA補正値は補正値学習部42から供給される。補正実行部40から出力されたTA補正値は、詳しくは図2に示すエア逆モデル20の構成において、スロットル逆動作モデル28から出力される目標TAに加算される。TA補正値で補正された目標TAはスロットル2に入力信号として供給されるとともに、エア逆モデル20の内部の計算、具体的には、仮想Pmを算出するための計算でも用いられる。
【0040】
また、ステップS25と並行して補正値学習部42によりステップS26の処理が行われる。補正値学習部42は、補正実行部40が出力するTA補正値をΔKLに基づいて学習し、その学習値をメモリに記憶する。補正値学習部42には、ΔKLに対するTA補正値の更新量が定められたマップが備えられている。補正値学習部42は、ΔKLの大きさが所定の閾値を超えて拡大したとき、補正実行部40が出力しているTA補正値にΔKLに応じた更新量を加算する。そして、TA補正値に更新量を加算することでΔKLが所定の許容範囲内に収まり、且つ、一定期間その状態が継続した場合、TA補正値に更新量を加算した値を新たなTA補正値として学習する。
【0041】
以上のような補正処理が行われることにより、スロットル2の実現開度は目標TAに対して与えられたTA補正値に応じて変化し、それに応じて筒内吸入空気量の実現値にも変化が生じる。本実施の形態では目標TAをTA補正値によって直接補正するので、エア逆モデル20が有するモデル誤差に影響されることなく、所望の筒内吸入空気量が得られる開度にスロットル2を精度良く制御することができる。これにより、スロットル上流圧センサ4によるスロットル上流圧の計測値に誤差が含まれる場合であっても、その誤差の影響が要求トルクの実現精度に及ぶことは防止される。
【0042】
その他.
本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、Pup補正値やTA補正値の学習の方法としては、ΔKLに基づいたPI制御やPID制御を行い、その積分項を学習値として計算することでもよい。また、実施の形態1ではスロットル上流圧を補正対象としているが、スロットル上流圧と吸気管圧の比、すなわち、スロットル逆モデルの方程式におけるPup/Pmを補正対象としてもよい。また、実施の形態2ではスロットル動作逆モデル28で算出された目標TAを補正対象としているが、スロットル逆モデル26で算出されたスロットル開度を補正対象としてもよい。
【符号の説明】
【0043】
2 スロットル
4 スロットル上流圧センサ
6 エアフローメータ
10 要求空気量変換マップ
12 エアモデル
14 スロットル上流圧推定部
16 補正実行部
18 補正値学習部
20 エア逆モデル
22 吸気弁逆モデル
24 吸気管逆モデル
26 スロットル逆モデル
28 スロットル動作逆モデル
30 簡易エアモデル
32 スロットルモデル
34 吸気管モデル
36 吸気弁モデル
38 スロットル動作モデル
40 補正実行部
42 補正値学習部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
要求トルクから筒内吸入空気量の要求値を計算する手段と、
圧力センサによるスロットル上流圧の計測値を取得する手段と、
筒内吸入空気量の前記要求値とスロットル上流圧の前記計測値とに基づいてエア逆モデルを用いてスロットル開度の目標値を計算する手段と、
スロットル開度の前記目標値に従ってスロットルを操作する手段と、
スロットル開度センサによるスロットル開度の計測値を取得する手段と、
エアフローメータによる吸気流量の計測値を取得する手段と、
吸気流量の前記計測値からスロットル上流圧の推定値を計算する手段と、
スロットル開度の前記計測値とスロットル上流圧の前記推定値とに基づいてエアモデルを用いて筒内吸入空気量の推定値を計算する手段と、
前記エア逆モデルを用いた計算に関係する特定の変数に関し、筒内吸入空気量の前記要求値に前記推定値を合わせるための補正値を筒内吸入空気量の前記要求値と前記推定値との差に基づいて学習し、前記補正値によって前記特定変数の補正を行う手段と、
を備えることを特徴とする過給機付き内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記特定変数は、前記エア逆モデルを用いた計算に用いられるスロットル上流圧であることを特徴とする請求項1に記載の過給機付き内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記特定変数は、前記エア逆モデルを用いた計算で算出されるスロットル開度であることを特徴とする請求項1に記載の過給機付き内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−2387(P2013−2387A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135363(P2011−135363)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】