説明

過負荷検出機構及びそれを備えた産業用ロボット

【課題】可動部の回転軸にかかる過負荷を直接検出する過負荷検出機構を提供する。
【解決手段】テーパ形状の歯車で互いにかみ合う第一および第二の歯車(1)(2)と、第一の歯車(1)が周囲に嵌合されるとともに、第一の歯車(1)を軸方向に摺動可能に保持して、第一の歯車(1)とともに回転する回転軸(3)と、第一と第二の歯車のバックラッシを除去するよう第一の歯車(1)を軸方向に沿って第二の歯車(2)の方へ付勢する付勢手段(5)と、第一の歯車(1)の外周に保持された軸受(7)と、軸受(7)の外周に保持された移動板(8)と、移動板(8)の軸方向に沿った移動を検出可能なセンサ(9)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボットに使用され、特にエンドエフェクタなどを駆動する回転軸の過負荷を検出する過負荷検出機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の産業用ロボットでは、エンドエフェクタに負荷力(外力)がかかったときの過負荷検出において、エンドエフェクタに過負荷検出器を内蔵することがある。この場合、前記エンドエフェクタに対する保護としては有効であるが、エンドエフェクタを駆動する回転軸に対しての過負荷検出は正しく行なえない。また、このほか一般的な方法として、ロボットの各軸を駆動するモータから検出される電圧値をロボットのコントローラが監視することによって制御的に過負荷検出を行なっている。この場合、各軸を駆動するモータ自身が電圧値過負荷検出に使用されるため、本来、駆動部である回転軸の保護に必要な各軸の負荷力の正確さは、不確定要素を含む制御の演算式に依存することになる。そこでロボットの各軸の回転軸自体の過負荷検出が可能であるとともに、上記のような演算式の計算をなるべく含まない負荷検出方法が必要となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、従来の産業用ロボット過負荷検出では、ロボットの各軸に過負荷検出器が備わっていないため、ロボット各軸に対しての過負荷検出が正しく行なえない、あるいは、各軸の駆動モータからの検出値を用いているため、各軸の出力側への負荷力の検出は不確定要素を含む制御演算式に依存し、検出精度が良くない、という問題点がある。
そこで、本発明は、上記の問題点を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したものである。
請求項1記載の発明は、可動部の回転軸にかかる過負荷を検出する過負荷検出機構において、テーパ形状の歯車で互いにかみ合う第一および第二の歯車と、前記第一の歯車が周囲に嵌合されるとともに、該第一の歯車を軸方向に摺動可能に保持して、該第一の歯車とともに回転する前記回転軸と、前記第一と第二の歯車のバックラッシを除去するよう前記第一の歯車を前記第二の歯車の方へ付勢する付勢手段と、前記第一の歯車の外周に保持された軸受と、前記軸受の外周に保持された移動板と、前記移動板の前記軸方向に沿った移動を検出可能なセンサと、を備える過負荷検出機構とするものである。
請求項2記載の発明は、前記付勢手段が、コイルバネである請求項1記載の過負荷検出機構とするものである。
請求項3記載の発明は、前記付勢手段が、皿バネである請求項1記載の過負荷検出機構とするものである。
請求項4記載の発明は、前記センサが、前記移動板と接触することによって信号を出力するスイッチ式のセンサである請求項1記載の過負荷検出機構とするものである。
請求項5記載の発明は、前記センサが、前記移動板と接触することなく前記移動板の前記軸方向に沿った移動を検出可能な非接触式のセンサである請求項1記載の過負荷検出機構とするものである。
請求項6記載の発明は、前記センサが、前記移動板の前記軸方向に沿った移動を無段階に検出可能なセンサである請求項1記載の過負荷検出機構とするものである。
請求項7記載の発明は、請求項1乃至5いずれかに記載の過負荷検出機構を備えた産業用ロボットとするものである。
請求項8記載の発明は、請求項6記載の過負荷検出機構を備えた産業用ロボットとするものである。
請求項9記載の発明は、前記産業用ロボットのコントローラが、前記センサの出力から、前記第一の歯車に作用する前記軸方向の力、及び前記回転軸の回転トルクを演算することにより、前記回転軸のフィードバック制御が行われる請求項8記載の産業用ロボットとするものである。
請求項10記載の発明は、前記産業用ロボットのコントローラが、前記センサの初期の検出値を記憶し、前記初期の検出値と現在の前記センサの検出値とを比較することにより、前記付勢手段の経年変化を判断するこ請求項8記載の産業用ロボットとするものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、可動部の回転軸にかかる過負荷を検出する過負荷検出機構において、回転軸にモータなどの回転力を伝達する第一及び第二の歯車の形状をテーパ形状に構成し、これら二つの歯車のバックラッシを除去するよう付勢手段を備えると共に第一の歯車を回転軸に沿って摺動可能に保持したので、回転軸の過負荷時に第一の歯車に回転軸方向の力が発生し、その軸方向の力によって移動する第一の歯車によってセンサを作動させる構成をしていることから、歯車に発生する軸力、回転トルクおよびバネのバネ定数とバネ変位量の関係から、出力側の負荷トルクを検知してスイッチを作動させることが可能となり、過負荷検出による機構部保護が可能になるという効果がある。
なお、バネ変位量の変化、すなわちスイッチ板の移動量変化を無段階に検出可能なセンサをスイッチの代わりに用いることで、出力側の負荷トルク変化を検出することが可能になることから、この検出値を利用して出力軸のトルク制御を行なうことができる。
また、出力軸に静的負荷を与えた時のセンサ検出値の初期値を予め求めておくことにより、長期間使用後のバネ特性経年変化を確認することができ、バネの性能劣化による交換時期などを容易に知ることができる。
さらに付勢手段にはコイルバネのみならず弾性変形体の特性を利用した、例えば、皿バネなど、変形量または変位量と発生力の関係を定量的に求めることができるものであればあらゆるものが適用可能であり、装置の大きさや検出値の範囲および感度を考慮して選択することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0007】
第2図は、本発明の過負荷検出機構を有する産業用ロボット50の側面図である。
第2図において、(51)は固定ベース、(52)は固定ベース(51)に対して回転自在な旋回胴、(53)は第1アームで旋回胴(52)に回転自由に支持されている。(54)は第2アームであって、端部を第1アーム(53)に回転自由に支持されているとともに、(55)に旋回自由な軸を有している。第2アーム(54)のもう一方の端部には手首部(56)が回転自由に支持されており、手首部(56)の下部には手首部(6)に旋回自由な軸を有する回転軸(57)が備わっている。また、(58)は手首部56の先端に接続されたエンドエフェクタである溶接トーチであり、溶接トーチ(58)の基端側には過負荷検出器(59)が備えられている。この過負荷検出器(59)は溶接トーチ(58)に外力がかかったとき、溶接トーチ(58)への負荷を直接監視するもので、従来から備えられているものである。
【0008】
以下、本発明の過負荷検出機構を図1により説明する。本実施例では、過負荷検出機構10は上記回転軸(57)に備えられている。回転軸57を駆動するのが図1における回転軸3である。図1は回転軸57を駆動する機構の断面図を示す。
第1図において、モータと減速機(図示せず)で発生した動力が歯車(2)に伝達される。(2)は歯車の形状をテーパ形状に構成した歯車、(1)は前記(2)の歯車と互いにかみ合う歯車、(3)は前記歯車(1)の動力を伝える回転軸、(4)は前記(3)の回転軸に固定され、前記(1)の歯車が回転軸(3)の軸方向に移動可能に保持するガイド部、(5)は前記(1)の歯車を軸方向であって歯車(2)の方へ付勢する付勢手段であって、前記(1)と(2)の歯車のバックラッシを除去するためのものである。本実施例ではコイルバネ(5a)としている。(6)は前記(1)の歯車に前記(5a)のコイルバネによるバネ力を伝えるため前記(4)の回転軸の先端に取り外し可能に固定されたバネ保持部材、(7)は内輪が前記(1)の歯車に備えられている軸受、(8)は前記(7)の軸受の外輪に勘合されている移動板であり、(9)は前記(8)の移動板により作動させられるスイッチである。
【0009】
以上で構成される過負荷検出機構の作用を説明する。産業用ロボット(50)が動作し、溶接トーチ(58)に何らかの過負荷な外力がかかったとする。このとき、モータと減速機(図示せず)で発生した動力が歯車(2)に伝達され、回転軸(3)つまり回転軸57は所望の動作を実行しようとするが、これに外力がかかっているので、歯車(1)はガイド部(4)に沿って図1における左側、すなわちコイルバネ(5a)の押し付け力に逆らいながら歯車(2)から離れるように作用する。この動作に伴って、移動板(8)も歯車(2)から離れるように移動し、センサ(9)のスイッチを押下する。スイッチ(9)の信号は、図示しない産業用ロボット(50)のコントローラに伝達され、コントローラは回転軸(57)の過負荷を検出する。コントローラは例えばその信号が一定時間以上継続して検知されれば動作を停止するなどの処置をとる。
【0010】
第3図は第1図におけるスイッチ式のセンサ(9)の代わりに、移動板(8)の移動量変化を無段階に検出可能なセンサ(9a)としたときの、図である。この場合、歯車(1)の回転トルクから出力軸の負荷トルク変化を検出することが可能になり、トルク変化の検出値を利用して出力軸のトルク制御を行なうことができる。なお、センサ(9)は接触式、非接触式のどちらも適用可能であり、装置の大きさや検出感度により使い分けることができる。
また、第5図で示す実施例では、装置未使用時の初期状態で回転軸(3)に一定の静的負荷を与えた時のセンサ(9a)の検出値の初期値を予め求めておき、長期間使用後に同条件下での検出値を初期値と比較することにより、コイルバネ(5)の特性の経年変化が確認できるとともに、コイルバネ(5)の性能劣化による交換時期などを容易に知ることができる。
【0011】
第4図は第1図における付勢手段(5)のコイルバネ(5a)を皿バネ(5b)とした場合であり、コイルバネよりも小さいので装置の小型化が可能となる。なお、第4図におけるセンサ(9)の代わりに移動板(8)の移動量変化を無段階に検出可能なセンサ(9a)を適用することにより、上記のようにトルク制御が行なえる、バネの性能劣化による交換時期などを容易に知ることができることは説明したとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の過負荷検出機構を備えた回転軸の断面図。
【図2】本発明の過負荷検出機構を備えた産業用ロボットの外観側面図。
【図3】本発明の他の実施例の過負荷検出機構を備えた回転軸の断面図
【図4】本発明のさらに他の過負荷検出機構を備えた回転軸の断面図
【符号の説明】
【0013】
1 歯車
2 歯車
3 回転軸
4 ガイド部
5 付勢手段
6 バネ保持部材
7 軸受
8 移動板
9 センサ

50 産業用ロボット
51 固定ベース
52 旋回胴
53 第1アーム
54 第2アーム
55 軸
56 手首部
57 回転軸
58 溶接トーチ
59 過負荷検出器



【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動部の回転軸にかかる過負荷を検出する過負荷検出機構において、
テーパ形状の歯車で互いにかみ合う第一および第二の歯車と、前記第一の歯車が周囲に嵌合されるとともに、該第一の歯車を軸方向に摺動可能に保持して、該第一の歯車とともに回転する前記回転軸と、前記第一と第二の歯車のバックラッシを除去するよう前記第一の歯車を前記第二の歯車の方へ付勢する付勢手段と、前記第一の歯車の外周に保持された軸受と、前記軸受の外周に保持された移動板と、前記移動板の前記軸方向に沿った移動を検出可能なセンサと、を備えることを特徴とする過負荷検出機構。
【請求項2】
前記付勢手段が、コイルバネであることを特徴とする請求項1記載の過負荷検出機構。
【請求項3】
前記付勢手段が、皿バネであることを特徴とする請求項1記載の過負荷検出機構。
【請求項4】
前記センサが、前記移動板と接触することによって信号を出力するスイッチ式のセンサであることを特徴とする請求項1記載の過負荷検出機構。
【請求項5】
前記センサが、前記移動板と接触することなく前記移動板の前記軸方向に沿った移動を検出可能な非接触式のセンサであることを特徴とする請求項1記載の過負荷検出機構。
【請求項6】
前記センサが、前記移動板の前記軸方向に沿った移動を無段階に検出可能なセンサであることを特徴とする請求項1記載の過負荷検出機構。
【請求項7】
請求項1乃至5いずれかに記載の過負荷検出機構を備えたことを特徴とする産業用ロボット。
【請求項8】
請求項6記載の過負荷検出機構を備えたことを特徴とする産業用ロボット。
【請求項9】
前記産業用ロボットのコントローラが、前記センサの出力から、前記第一の歯車に作用する前記軸方向の力、及び前記回転軸の回転トルクを演算することにより、前記回転軸のフィードバック制御が行われることを特徴とする請求項8記載の産業用ロボット。
【請求項10】
前記産業用ロボットのコントローラが、前記センサの初期の検出値を記憶し、前記初期の検出値と現在の前記センサの検出値とを比較することにより、前記付勢手段の経年変化を判断することを特徴とする請求項8記載の産業用ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−61541(P2009−61541A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−230876(P2007−230876)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】