説明

遮熱材及び遮熱構造

【課題】遮熱性能が高く、長期にわたって遮熱効果を維持することができ、しかも、どのような色にでも着色することができる遮熱構造を提供する。
【解決手段】基材12と、基材12上に塗布されたプライマー層14と、熱エネルギー変換を有する液晶または液晶高分子と、赤外線吸収・遮断材料とが混入された樹脂塗料を前記プライマー層上に塗布した遮熱層16と、前記遮熱層上に塗布され、紫外線と反応して親水化するナノ光触媒層18とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の屋上や外壁に対する遮熱を行うのに適した遮熱材及び遮熱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化・省エネルギーへの関心は、ますます高まっている。
【0003】
その対策の1つとして、遮熱塗料を用いて建物の屋上や外壁からの熱負荷を低減させることにより、冷房などによる電力負荷を下げることができ、ヒートアイランド現象の緩和対策として有効である。
【0004】
このような遮熱塗料としては、一般に反射や断熱によって遮熱を行うようにしている。
【0005】
反射によって遮熱を行うものとしては、特許文献1に示すような白色塗料を用いたり、光沢のある塗料を用いたりして太陽光を反射することが知られている。
【0006】
また、断熱によって遮熱を行うものとしては、セラミックスバルーンなどを用いて空気断熱を行うような塗料が知られている。
【特許文献1】特許第3311664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような太陽光を反射する塗料を用いる場合には、太陽光の反射熱が近隣建物に対して悪影響を及ぼすこととなり、しかも、塗料の表面に汚れが付着して反射光が阻害され、遮熱性能が著しく低下することとなり、さらには、反射の良くない黒色など濃い色は使用できないものである。
【0008】
また、断熱性を持たせた塗料を用いる場合には、断熱材としてセラミックス等を用いるため、それが蓄熱体として働き、遮熱性能を低下させることとなるものである。
【0009】
結局、このような遮熱塗料では、それ自体が長期遮熱性能の安定性を欠く要因となっているものである。
【0010】
本発明の目的は、遮熱性能が高く、長期にわたって遮熱効果を維持することができ、しかも、どのような色にでも着色することができる遮熱材及び遮熱構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明の遮熱材は、熱エネルギー変換を有する液晶または液晶高分子と、赤外線吸収・遮断材料とが混入された樹脂塗料を有することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、赤外線は赤外線吸収・遮断材料によって吸収、遮断され、熱エネルギー変換を有する液晶または液晶高分子に紫外線があたると、棒状のトランス体からV字形のシス体に変化し、また可視光があたると元に戻るという性質から光エネルギーを運動エネルギーに変換させることによって、樹脂材料中の熱は蓄熱されることなく、ほとんど吸収されて消費され、長期にわたって高い遮熱効果を維持することができ、しかも、太陽光がほとんど反射されることがなく、太陽光の反射熱が近隣建物に対して悪影響を及ぼすことが防止できる。
【0013】
本発明の遮熱構造は、基材と、
熱エネルギー変換を有する液晶または液晶高分子と、赤外線吸収・遮断材料とが混入された樹脂塗料を前記基材上に塗布した遮熱層を有することを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、遮熱層によって樹脂材料中の熱は蓄熱されることなく、ほとんど吸収されて消費され、長期にわたって高い遮熱効果を維持することができ、しかも、太陽光がほとんど反射されることがなく、太陽光の反射熱が近隣建物に対して悪影響を及ぼすことが防止できる。
【0015】
本発明の他の遮熱構造は、基材と、
熱エネルギー変換を有する液晶または液晶高分子と、赤外線吸収・遮断材料とが混入された樹脂塗料を前記基材上に塗布した遮熱層と、
前記遮熱層上に塗布され、紫外線と反応して親水化するナノ光触媒層とを有することを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、遮熱層によって樹脂材料中の熱は蓄熱されることなく、ほとんど吸収されて消費され、長期にわたって高い遮熱効果を維持することができ、しかも、太陽光がほとんど反射されることがなく、太陽光の反射熱が近隣建物に対して悪影響を及ぼすことが防止できる。
【0017】
ナノ光触媒層に太陽光などの熱源が入射すると、紫外線が吸収されて光触媒反応を起こし親水化することにより、表面が清浄に保たれ、表面が汚れて表面温度が上昇して遮熱性能が低下するのを防止することができる。
【0018】
本発明の他の遮熱構造は、基材と、
前記基材上に塗布されたプライマー層と、
熱エネルギー変換を有する液晶または液晶高分子と、赤外線吸収・遮断材料とが混入された樹脂塗料を前記プライマー層上に塗布した遮熱層を有することを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、基材上にプライマー層を形成することで、基材表面の不陸をなくし、遮熱層の強固な接着状態を維持することができ、しかも、遮熱層によって樹脂材料中の熱は蓄熱されることなく、ほとんど吸収されて消費され、長期にわたって高い遮熱効果を維持することができ、しかも、太陽光がほとんど反射されることがなく、太陽光の反射熱が近隣建物に対して悪影響を及ぼすことが防止できる。
【0020】
本発明のさらに他の遮熱構造は、基材と、
前記基材上に塗布されたプライマー層と、
熱エネルギー変換を有する液晶または液晶高分子と、赤外線吸収・遮断材料とが混入された樹脂塗料を前記プライマー層上に塗布した遮熱層と、
前記遮熱層上に塗布され、紫外線と反応して親水化するナノ光触媒層とを有することを特徴とする。
【0021】
本発明によれば、基材上にプライマー層を形成することで、基材表面の不陸をなくし、遮熱層の強固な接着状態を維持することができ、しかも、遮熱層によって樹脂材料中の熱は蓄熱されることなく、ほとんど吸収されて消費され、長期にわたって高い遮熱効果を維持することができ、しかも、太陽光がほとんど反射されることがなく、太陽光の反射熱が近隣建物に対して悪影響を及ぼすことが防止でき、さらには、ナノ光触媒層に太陽光などの熱源が入射すると、紫外線が吸収されて光触媒反応を起こし親水化することにより、表面が清浄に保たれ、表面が汚れて表面温度が上昇して遮熱性能が低下するのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0023】
図1〜図3は、本発明の一実施の形態にかかる遮熱構造を示す図である。
【0024】
図1は、本実施の形態にかかる遮熱構造の部分断面図で、この遮熱構造10は、基材12と、この基材12の上に塗布された下塗り層としてのプライマー層14と、このプライマー層14上に塗布された中塗り層としての遮熱層16と、この遮熱層16上に塗布された上塗り層としてのナノ光触媒層18とから構成されている。
【0025】
基材12は、例えば建物に対する遮熱を行う場合には屋根や壁面がその対象とされる。
【0026】
プライマー層14は、基材12上にプライマーを塗布して形成されるもので、このプライマーとしては、例えば、水系のエポキシ樹脂系やウレタン樹脂系等を用いることができる。
【0027】
遮熱層16は、熱エネルギー変換を有する液晶または液晶高分子と、赤外線吸収・遮断材料とが混入された樹脂塗料を前記プライマー層14上に塗布して形成されるもので、樹脂塗料としては、水系のフッ素樹脂系、アクリルシリコン樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリル樹脂系等を用いることができる。
【0028】
熱エネルギー変換を有する液晶または液晶高分子は、紫外線があたると、棒状のトランス体からV字形のシス体に変化し、また可視光があたると元に戻るという性質(紫外線・可視光エネルギー変換)から光エネルギーを運動エネルギーに変換させることによって、樹脂材料中の熱は蓄熱されることなく、ほとんど吸収されて消費されることとなる。
【0029】
熱エネルギー変換を有する液晶としては、アゾベンゼンを用いることができる。
【0030】
熱エネルギー変換を有する液晶高分子としては、アゾベンゼン側鎖を有するポリシランを用いることができる。
【0031】
アゾベンゼンの光配向の変化(光異性化)の状態を図2に、ポリシランの光配向の変化(光異性化)の状態を図3(1)、(2)に示している。
【0032】
赤外線吸収・遮断材料は、赤外線の吸収・遮断を行うもので、半導体超微粒子を用いることができる。
【0033】
半導体超微粒子としては、例えば、ジルコニア、ゲルマニウム、セレン、シリコン等を用いることができる。
【0034】
この遮熱層16の樹脂塗料と、熱エネルギー変換を有する液晶または液晶高分子と、赤外線吸収・遮断材料(半導体超微粒子)との配合割合は、例えば、樹脂塗料100部(重量部)に対して、熱エネルギー変換を有する液晶または液晶高分子30〜60部(重量部)、赤外線吸収・遮断材料(半導体超微粒子)20〜50部(重量部)の割合となっている。
【0035】
ナノ光触媒層18は、太陽光線などの熱源が入射すると、ナノ光触媒によって紫外線が吸収されて光触媒反応を起こし親水化するもので、ナノ光触媒としては酸化チタンなどを採用することができる。
【0036】
ナノ光触媒の具体的なものとしては、例えば、商品名:「サンフラッシュ」HC−R・HC−X(サンフラッシュ・テクノロジー株式会社製)を採用することができる。
【0037】
このような遮熱構造10を採用することにより、ナノ光触媒層18に太陽光線などの熱源が入射すると、まず、紫外線が吸収されてナノ光触媒が光触媒反応を起こして親水化することにより、表面は清浄に保たれる。
【0038】
これによって、表面が汚れて表面温度が上昇し、遮熱性能が低下するのを防止することができる。
【0039】
次に、遮熱層16では、赤外線が赤外線吸収・遮断材料(半導体超微粒子)によって吸収・遮断される一方、熱エネルギー変換を有する液晶または液晶高分子に紫外線があたると棒状のトランス体からV字型のシス体に変化し、また、可視光があたれば元に戻る性質(紫外線・可視光エネルギー変換)によって、光エネルギーが運動エネルギーに変換され、遮熱層16内の熱はほとんど吸収されて消費される。
【0040】
したがって、防汚機能と紫外線・赤外線・可視光遮熱機能の全てを持ち、長期にわたって遮熱効果を維持することができる。
【0041】
また、空気層を取り込むためのセラミックバルーンなどを用いないので遮熱性能及び耐久性能が著しく向上することとなる。
【0042】
さらに、黒色などの色を用いて遮熱効果に影響はないので、種々の色を採用可能となる。
【0043】
また、プライマーや遮熱層16の樹脂塗料に水系のものを用いているため人体や環境にやさしいものとなる。
【0044】
本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において、種々の形態に変形可能である。
【0045】
例えば、前記実施の形態では、基材と、プライマー層と、遮熱層と、ナノ光触媒層とからなる遮熱構造について説明したが、この例に限らず、基材と、遮熱層からなる遮熱構造、基材と、遮熱層と、ナノ光触媒層とからなる遮熱構造及び基材と、プライマー層と、遮熱層とからなる遮熱構造とすることもできる。
【0046】
また、遮熱構造に限らず、熱エネルギー変換を有する液晶または液晶高分子と、赤外線吸収・遮断材料とが混入された樹脂塗料を有する遮熱材として用いることもでき、この場合シート状のものに熱エネルギー変換を有する液晶または液晶高分子と、赤外線吸収・遮断材料とが混入された樹脂塗料を塗布した遮熱材として使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施の形雷にかかる遮熱構造の部分断面図である。
【図2】アゾベンゼンの光配向の変化を示す説明図である。
【図3】(1)及び(2)はそれぞれポリシランの光配向の変化を示す説明図である。
【符号の説明】
【0048】
10 遮熱構造
12 基材
14 ポリマー層
16 遮熱層
18 ナノ光触媒層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱エネルギー変換を有する液晶または液晶高分子と、赤外線吸収・遮断材料とが混入された樹脂塗料を有することを特徴とする遮熱材。
【請求項2】
基材と、
熱エネルギー変換を有する液晶または液晶高分子と、赤外線吸収・遮断材料とが混入された樹脂塗料を前記基材上に塗布した遮熱層を有することを特徴とする遮熱構造。
【請求項3】
基材と、
熱エネルギー変換を有する液晶または液晶高分子と、赤外線吸収・遮断材料とが混入された樹脂塗料を前記基材上に塗布した遮熱層と、
前記遮熱層上に塗布され、紫外線と反応して親水化するナノ光触媒層とを有することを特徴とする遮熱構造。
【請求項4】
基材と、
前記基材上に塗布されたプライマー層と、
熱エネルギー変換を有する液晶または液晶高分子と、赤外線吸収・遮断材料とが混入された樹脂塗料を前記プライマー層上に塗布した遮熱層を有することを特徴とする遮熱構造。
【請求項5】
基材と、
前記基材上に塗布されたプライマー層と、
熱エネルギー変換を有する液晶または液晶高分子と、赤外線吸収・遮断材料とが混入された樹脂塗料を前記プライマー層上に塗布した遮熱層と、
前記遮熱層上に塗布され、紫外線と反応して親水化するナノ光触媒層とを有することを特徴とする遮熱構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−265076(P2008−265076A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−109006(P2007−109006)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【Fターム(参考)】