説明

遮熱部材、及び合わせガラス

【課題】車載通信機器に対して電波障害を起こさず、可視光に対する高い透過率を保持し、しかも優れた日射遮蔽性能を有する遮熱部材を提供する。
【解決手段】コレステリック液晶相を固定してなる1以上の層からなる、右偏光成分及び左偏光成分の少なくとも一方を反射する第1の光反射層と、有機材料及び/又は無機材料を含有する1以上の層からなる第2の光反射層とを少なくとも有する遮熱部材であって、波長400nm以上850nm未満、及び波長850nm超え1300nm以下に反射率のピークがそれぞれ存在し、波長400nm以上850nm未満の反射率の最大値A、波長850nmの反射率B、及び波長850nm超え1300nm以下の反射率の最大値Cが、C>A>Bを満足し、且つBが50%以下であることを特徴とする遮熱部材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコレステリック液晶相を固定してなる光反射層を利用した遮熱部材、及びそれを利用した合わせガラスに関する。本発明の遮熱部材及び合わせガラスは、自動車の窓用遮熱部材として有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、環境・エネルギーへの関心の高まりから省エネに関する工業製品へのニーズは高く、その一つとして住宅及び自動車等の窓ガラスの遮熱、つまり日光による熱負荷を減少させるのに効果のある、ガラス及びフィルムが求められている。日光による熱負荷を減少させるのには、太陽光スペクトルの可視光領域または赤外領域のいずれかの太陽光線の透過を防ぐことが必要である。特に、自動車用窓に対しては、安全性の面からは可視光域に対する高い透過率が求められるとともに、遮熱に対する要求も高く、米国のカリフォルニア州では、自動車のフロントガラスについて、Tts(Total solar energy transmitted through a glazing)を規制する動きもある。
【0003】
断熱・遮熱性の高いエコガラスとしてよく用いられるのがLow−Eペアガラスと呼ばれる熱放射を遮断する特殊な金属膜をコーティングした複層ガラスである。特殊な金属膜は、例えば特許文献1に開示された真空成膜法により複数層を積層することで作製できる。真空成膜よって作製される、これらの特殊な金属膜のコーティングは反射性能に非常に優れるものの、真空プロセスは生産性が低く、生産コストが高い。また、金属膜を使うと、電磁波を同時に遮蔽してしまうために携帯電話等の使用では、電波障害を引き起こしたり、自動車に使用した場合にはETCが使えないなどの問題がある。また、電波障害のみならず、自動車用窓には、安全性の観点で可視光に対する高い透過性も要求される。
電波障害の対策として、例えば特許文献2には、金属微粒子を含有する層を用いる方法が開示されている。金属微粒子を用いた膜では、可視光の透過性能は優れるものの、遮熱に効果の高い700〜1200nmの波長域の反射率が低いために遮熱性能を十分に高く出来ない。
また、可視光透過率の低下を防止し、かつ700〜800nmの日射透過率を下げる方法として、例えば、特許文献3には、赤外線吸収色素を含む層をコーティングする方法が提案されている。赤外線吸収色素を使用した場合、日射透過率は下げることが出来るものの、日射の吸収による膜面温度上昇と、その熱の再放出によって遮熱性能が低下する。
また、高い可視光透過率で、かつ700〜1200nmの波長域の反射性能が高いことを両立させる方法として、複屈折性の多層誘電膜を用いる方法が、例えば、特許文献4に開示されているが、この方法では正面の反射帯域1000nmの近赤外を超えて調整しようとすると、400nm近傍の反射が同時に強くなり着色の問題で波長の調整が難しいという問題があった。
【0004】
また、コレステリック液晶層を利用する方法がある。例えば、特許文献5に開示されているように、一方の方向の円偏光の光を1つのコレステリック液晶層をλ/2板の両面に形成することで、700〜1200nm領域の光を選択的に効率よく反射させることができる。
また、特許文献6には、コレステリック液晶層を有する赤外光反射物品が開示されている。コレステリック層を複数層積層する例としては、液晶表示装置への利用に対する試みが多く、具体的には可視光領域の光を効率的に反射させる試みが多く、例えば、特許文献7にはコレステリック層を多数重ねた例が開示されている。
【0005】
コレステリック層を複数積層する際には、塗布したコレステリック液晶材料を含むウエット膜を乾燥・加熱配向・紫外線硬化させて1層ずつ上に塗り重ねていく方法が用いられる。コレステリック液晶層を硬化させる方法については、例えば特許文献8に例示されるように、重合性液晶に紫外線を照射することによって硬化させる方法が一般的に用いられ、照射照度を一定範囲内に調整することで、広領域のコレステリック液晶フィルムを作製する方法が開示されている。また、特許文献9には積層して多層化する際に液晶分子の旋回方向が同一になるようにすることで、連続した波長域の偏光子を作製する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−263486号公報
【特許文献2】特開2002−131531号公報
【特許文献3】特開平6−194517号公報
【特許文献4】特表2002−509279号公報
【特許文献5】特許第4109914号公報
【特許文献6】特表2009−514022号公報
【特許文献7】特許第3500127号公報
【特許文献8】特許第4008358号公報
【特許文献9】特許第3745221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した通り、窓ガラス、特に車載用の窓ガラスには、遮熱性能のみならず、安全性の観点で可視光に対する高い透過性が要求され、且つVICSやNightVision等の車載用通信機器の通信において電波障害を起こさないことも要求される。
本発明は、自動車の窓ガラス等に使用した際に、VICSやNightVision等の車載通信機器の通信において電波障害を起こさず、可視光に対する高い透過率を保持し、しかも優れた日射遮蔽性能を有する遮熱部材、及び合わせガラスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
[1] コレステリック液晶相を固定してなる1以上の層をからなる、右偏光成分及び左偏光成分の少なくとも一方を反射する第1の光反射層と、有機材料及び/又は無機材料を含有する1以上の層からなる第2の光反射層とを少なくとも有する遮熱部材であって、
波長400nm以上850nm未満、及び波長850nm超え1300nm以下に反射率のピークがそれぞれ存在し、波長400nm以上850nm未満の反射率の最大値A、波長850nmの反射率B、及び波長850nm超え1300nm以下の反射率の最大値Cが、C>A>Bを満足し、且つBが50%以下であることを特徴とする遮熱部材。
[2] 波長400nm以上850nm未満に存在する反射率のピークが、第1の光反射層のコレステリック液晶相の選択反射特性に基づくことを特徴とする[1]の遮熱部材。
[3] 第1の光反射層が、右偏光成分及び左偏光成分のいずれか一方のみを反射する反射特性を有することを特徴とする[1]又は[2]の遮熱部材。
[4] 波長400nm以上850nm未満の反射率の最大値Aが、50%以下であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかの遮熱部材。
[5]波長400nm以上850nm未満の反射率の最大値Aが、10%以上であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかの遮熱部材。
[6] 波長850nm超え1300nm以下の反射率の最大値Cが、80%以上であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかの遮熱部材。
[7] 第2の光反射層が、コレステリック液晶相を固定してなる右偏光成分を反射する1以上の層、及びコレステリック液晶相を固定してなる左偏光成分を反射する1以上の層を含むことを特徴とする[1]〜[6]のいずれかの遮熱部材。
[8] コレステリック液晶相を固定してなる1以上の層からなる、右偏光成分及び左偏光成分のいずれか一方のみを反射する第1の光反射層、及び
コレステリック液晶相を固定してなる右偏光成分を反射する1以上の層、及びコレステリック液晶相を固定してなる左偏光成分を反射する1以上の層を含む第2の光反射層を有し、
波長400nm以上850nm未満に第1の光反射層のコレステリック液晶相の選択反射特性に基づく反射率のピークが存在し、波長850nm超え1300nm以下に第2の光反射層のコレステリック液晶相の選択反射特性に基づく反射率のピークが存在することを特徴とする遮熱部材。
[9] 波長400nm以上850nm未満に存在する反射率のピーク値が50%以下であり、且つ波長850nm超え1300nm以下に存在する反射率のピーク値が80%以上である[8]の遮熱部材。
[10] 第2の光反射層に含まれる右偏光成分及び左偏光成分をそれぞれ反射する層が、互いに等しい反射中心波長を有することを特徴とする[8]又は[9]の遮熱部材。
[11] 第1及び第2の光反射層を支持する基材をさらに有することを特徴とする[1]〜[10]のいずれかの遮熱部材。
[12] 第1の光反射層が、塗布によって形成されたことを特徴とする[1]〜[11]のいずれかの遮熱部材。
[13] 光学スペクトルの測定値から算出される日射反射率が18%以上であることを特徴とする[1]〜[12]のいずれかの遮熱部材。
[14] 透明部材の表面に貼付されて用いられることを特徴とする[1]〜[13]のいずれかの遮熱部材。
[15] 自動車の窓に貼付して用いられることを特徴とする[1]〜[13]のいずれかの遮熱部材。
[16] [1]〜[13]のいずれかの遮熱部材を内部に有する合わせガラス。
[17] 自動車のフロントガラスとして用いられる[16]の合わせガラス。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、自動車の窓ガラス等に使用した際に、VICSやNightVision等の車載用通信機器の通信において電波障害を起こさず、可視光に対する高い透過率を保持し、しかも優れた日射遮蔽性能を有する遮熱部材、及び合わせガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の遮熱部材が示す反射率曲線の一例である。
【図2】本発明の遮熱部材の一例の断面模式図である。
【図3】太陽光エネルギーと波長との関係を示したグラフである。
【図4】キラル剤の濃度と反射波長との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
1.遮熱部材
本発明は、コレステリック液晶相を固定してなる1以上の層からなる、右偏光成分及び左偏光成分の少なくとも一方を反射する第1の光反射層と、有機材料及び/又は無機材料を含有する1以上の層からなる第2の光反射層とを少なくとも有する反射部材に関する。本発明の遮熱部材は、波長400nm以上850nm未満、及び波長850nm超え1300nm以下に反射率のピークがそれぞれ存在し、波長400nm以上850nm未満の反射率の最大値A、波長850nmの反射率B、及び波長850nm超え1300nm以下の反射率の最大値Cが、C>A>Bを満足し、且つBが50%以下であることを特徴とする。本発明の遮熱部材が示す反射率曲線の一例を図1に示す。図1中の反射率曲線では、波長850nm超え1300nm以下の赤外線波長領域に、最大値Cの大きな反射率ピークが存在するので、当該反射特性に基づく高い遮熱効果が得られる。さらに、波長400nm以上850nm未満という、赤外光よりも高エネルギーであって、熱負荷に大きく影響する可視光域にも、最大値Aの小さな反射率ピークが存在するので、当該反射特性も、遮熱効果に大きく寄与する。なお且つ、上記波長域に2つの反射率ピークが存在している結果、波長850nm近傍が、反射率曲線の谷になっていて、具体的には、波長850nmの反射率Bが50%以下になっている。従って、VICSやNightVision等の自動車搭載通信機器に利用されている波長850nm程度の電磁波を遮蔽することなく、当該機器の通信において電波障害等の発生がない、又は少ない。
【0012】
本発明の遮熱部材では、波長400nm以上850nm未満の反射率ピークを与える波長については、前記範囲であればいずれの波長であってもよい。日射遮蔽の観点では、図3に示すグラフから明らかなように太陽光エネルギーの大きい低波長側を反射するほうが有利であるが、一方、遮熱部材の着色・色味の観点では、長波長側を反射することが望ましい。この様に、作製する商品設計に応じて、波長400nm以上850nm未満の反射率ピークを与える波長も選択されるであろう。
一方、波長850nm超え1300nm以下に反射率のピークを与える波長についても、前記範囲であればいずれの波長であってもよいが、日射遮蔽の観点では、850〜1200nmであるのが好ましく、850〜1100nmであるのがより好ましい。
【0013】
高い遮熱効果を得るとともに、可視光に対する高い透過率(好ましくは70%以上)、及び波長850nm程度の電磁波に対する遮蔽を防止するという観点では、C>A>Bを満足することを前提に、波長400nm以上850nm未満の反射率ピークの最大値Aは、50%以下であるのが好ましく、一方、波長400nm以上850nm未満に反射率ピークが存在することによる遮熱効果を得るためには、最大値Aは10%以上であるのが好ましい。最大値Aは20〜48%であるのがより好ましく、30〜48%%であるのがさらに好ましく、40〜48%であるのがよりさらに好ましい。また、波長850nmの反射率Bは、50%以下であり、同観点から、40%以下であるのが好ましく、30%以下であるのがさらに好ましく、20%以下であるのがよりさらに好ましく、10%未満であるのが特に好ましく、勿論、0%であるのが理想である。また同観点では、波長850nm超え1300nm以下の反射率ピークの最大値Cは、70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのがさらに好ましい。
【0014】
本発明の遮熱部材は、図1に示す様なC>A>Bを満足する反射率曲線を示すとともに、光学スペクトルの測定値から算出される日射反射率が、18%以上(好ましくは20%以上、より好ましくは22%以上)であるのが好ましい。ここで、自動車のフロントガラスのTts(Total solar energy transmitted through a glazing)は、ISO13837に従って、分光測色器(300〜2500nm)を用いて、該波長域の透過率/反射率を測定して算出される。反射率測定はガラスの室外側を入射光側とする。Ttsについては、米国のカリフォルニア州が自動車のフロントガラスについて、50%以下にする規制を実施する予定がある。本発明の遮熱部材は、Tts50%以下を達成可能である。
また、遮熱性の指標として、Rds(direct solar energy reducted against a glazing)も存在する。Rdsも、ISO13837に準じて、分光測色器(300〜2500nm)を用いて、該波長域の反射率を測定することで算出することができる。反射率測定はガラスの室外側を入射光側とする。
本発明の遮熱部材及び合わせガラスの反射率及び透過率も、この標準に沿って測定するものとする。実施例においても同様である。
【0015】
本発明では、波長400nm以上850nm未満に存在する反射率のピークが、第1の光反射層のコレステリック液晶相の選択反射特性に基づくことが好ましい。コレステリック液晶相は、螺旋ピッチに基づいて、特定の波長の光を反射する選択反射特性を示す。よって、コレステリック液晶相の螺旋ピッチを調整することで、波長400nm以上850nm未満に反射率のピークを示す反射特性を容易に得ることができる。さらに、本発明では、可視光に対する高い透過率を維持するためには、上記した通り、その最大値Aが、50%以下であるのが好ましい。この特性を達成するためには、前記第1の光反射層が、コレステリック液晶相を固定してなる1以上の層からなり、且つ右偏光成分及び左偏光成分のいずれか一方のみを反射する反射特性を示すのが好ましい。右偏光成分及び左偏光成分のいずれか一方のみを反射する反射特性であれば、反射率ピーク値50%以下を、容易に達成することができる。さらに層の厚みを調整することで、反射率を増減させて、種々の用途に応じた好ましい特性を得ることができる。反射中心波長は螺旋ピッチに依存するので、ピークを急峻にしたい場合は、螺旋ピッチが一様な層のみから第1の光反射層を構成すればよく、またピークを広幅化したい場合は、螺旋ピッチが異なる複数の層から第1の光反射層を構成すればよい。但し、第1の光反射層を複数の層で構成する態様では、旋光性が同一方向のコレステリック液晶相を固定した層のみを利用し、右偏光成分及び左偏光成分のいずれか一方のみを反射する特性とするのが好ましい。
【0016】
一方、波長850nm超え1300nm以下の赤外線波長領域の反射特性は、第2の光反射層に基づく特性であるのが好ましい。前記赤外線波長域に高い反射率ピークを与え、C>A>Bの条件を満足できる限り、第2の光反射層については、その材料、及び光反射の原理について、特に制限はない。材料に関しては、第1の光反射層と同様、コレステリック液晶組成物等の有機材料を利用して形成してもよいし、金属、金属酸化物等の無機材料を利用して形成してもよい。また有機材料及び無機材料の混合物を利用して形成してもよい。光反射の原理についても同様であり、第1の光反射層と同様に、コレステリック液晶相に基づく選択反射特性を利用したものであっても、また高屈折率膜と低屈折率膜との交互積層体に基づく光反射特性を利用したものであってもよい。
【0017】
第2の光反射層は、第1の光反射層と同様、コレステリック液晶相を固定してなる層を含んでいるのが好ましく、特に、コレステリック液晶相を固定してなる右偏光成分を反射する1以上の層、及びコレステリック液晶相を固定してなる左偏光成分を反射する1以上の層を含んでいるのがより好ましい。前記第2の光反射層が、前記赤外波長域の右偏光成分及び左偏光成分のそれぞれに対して選択反射特性を示す層を含むことにより、前記赤外波長域において、反射率ピーク値が80%以上を容易に達成することができる。
【0018】
図1に示す反射率曲線を示す本発明の遮熱部材の一例の断面模式図を図2に示す。図2に示す遮熱部材10は、基材12上に、コレステリック液晶相を固定してなる右偏光成分を反射する層14a、及びコレステリック液晶相を固定してなる左偏光成分を反射する層14bからなる第2の光反射層14、並びにコレステリック液晶相を固定してなる層からなる、右偏光成分及び左偏光成分のいずれか一方のみを反射する第1の光反射層16を有する。第2の光反射層14は、層14a及び14bのそれぞれのコレステリック液晶相の螺旋ピッチが同程度であって、且つ波長850nm超え1300nm以下に選択反射中心波長を有するように調整されていて、当該波長域の右偏光成分及び左偏光成分の双方を反射する結果、当該波長域に、高い反射率のピークを与える。一方、第1の光反射層16は、コレステリック液晶相の螺旋ピッチが、波長400nm以上850nm未満に選択反射中心波長を有するように調整されていて、当該波長域の右偏光成分及び左偏光成分のいずれか一方を反射する結果、当該波長域に、低い反射率のピークを与える。それぞれの波長域に反射率ピークを有する結果、波長850nmは反射率曲線の谷になっている。
【0019】
波長850nm超え1300nm以下の光に対する選択反射性は、一般的には、螺旋ピッチが500〜1350nm程度(好ましくは500〜900nm程度、より好ましくは550〜800nm程度)であり、及び厚みが1μm〜8μm程度(好ましくは3〜8μm程度)のコレステリック液晶相によって達成される。波長400nm以上850nm未満に選択性は、一般的には、螺旋ピッチが280〜550nm程度、及び厚みが1μm〜8μm(好ましくは3〜8μm程度)のコレステリック液晶相によって達成される。層の形成に用いる材料(主には液晶材料及びキラル剤)の種類及びその濃度等を調整することで、所望の螺旋ピッチの光反射層を形成することができ、また、キラル剤又は液晶材料そのものを選択することで、所望の旋光性のコレステリック液晶相とすることができる。また層の厚みは、塗布量を調整することで所望の範囲とすることができる。
【0020】
右偏光成分を反射するか、左偏光成分を反射するかは、コレステリック液晶相の旋光性によって決定される。コレステリック液晶相の旋光性は、液晶の分子構造や、液晶に添加されるキラル剤の分子構造によって決定される。例えば、層14a及び14bのうち一方を右旋回性のキラル剤を含有する液晶組成物から形成し、他方を左旋回性のキラル剤を含有する液晶組成物から形成することができる。同様のねじれ力を示すキラル剤を用いる場合は、キラル剤の添加量を多くするほど、螺旋ピッチは小さくなり、キラル剤の添加量を少なくするほど、螺旋ピッチは大きくなる。
【0021】
図2では、第2の光反射層14を2層から構成したが、この構成に限定されるものではない。螺旋ピッチが異なる層を積層することで、波長850nm超え1300nm以下の反射率ピークが広幅化し、前記赤外線領域の全般に対して高い反射率を示す第2の光反射層となる。互いに逆方向の偏光成分を反射するとともに、互いに同一の選択反射中心波長を有する2つの層を一組として、この組を複数積層することで、前記赤外線領域において、高い反射率を示す反射特性を示す様になる。また、この隣接する2層の光反射層の組を、2組以上有し、組間で螺旋ピッチが互いに異なっていると、反射される光の波長帯域が拡張し、広帯域の光反射性を示す。
【0022】
また、図2では、第1の光反射層16を単層構造としたが、この構成に限定されるものではない。螺旋ピッチが異なる層を積層することで、波長400nm以上850nm未満において、広幅な反射率ピークを有する第1の光反射層となる。但し、当該波長域の反射率の最大値Aを50%以下とするためには、第1の光反射層に含まれる層は、いずれも同一方向の偏光成分を反射する選択反射特性を示す層であることが好ましい。
【0023】
図2中、基材12は、第1の光反射層16及び第2の光反射層14を支持する機能を有する。塗布により第1の光反射層16及び第2の光反射層14を形成する場合には、形成時には必要であるが、形成後は、除去されてもよい。基材12としては、ガラス板、及びポリマー基板等が挙げられる。この様な基板を基材12として有する遮熱部材10は、自己支持性があり、それ自体を窓材として利用できる。また、基材12は、ポリマーフィルムやポリマーシートであってもよい。この様なフィルム等を基材12として有する遮熱部材10は、自己支持性がなく、窓などのガラス板の表面に貼り合わせることによって、又は合わせガラス中に組み込まれることによって用いられる。
【0024】
なお、第1の光反射層と第2の光反射層との相対的位置関係についても特に制限はない。いずれの層面から太陽光が入射しても、同様の遮熱性能が得られる。即ち、図2中、太陽光は、基材12の裏面側から入射しても、第1の光反射層16の層面側から入射してもよい。また第1の光反射層16と、第2の光反射層14とが入れ替わっていてもよい。
【0025】
次に、本発明の遮熱部材の作製に利用可能な種々の材料について説明する。
(1) 第1の光反射層
本発明の遮熱部材は、コレステリック液晶相を固定して形成された1以上の層からなる第1の光反射層を有する。前記光反射層の形成には、硬化性の液晶組成物を用いるのが好ましい。前記液晶組成物の一例は、棒状液晶化合物、光学活性化合物(キラル剤)、及び重合開始剤を少なくとも含有する。各成分を2種以上含んでいてもよい。例えば、重合性の液晶化合物と非重合性の液晶化合物との併用が可能である。また、低分子液晶化合物と高分子液晶化合物との併用も可能である。更に、配向の均一性や塗布適性、膜強度を向上させるために、水平配向剤、ムラ防止剤、ハジキ防止剤、重合性モノマー、染料、及び微粒子等の種々の添加剤から選ばれる少なくとも1種を含有していてもよい。また、前記液晶組成物中には、必要に応じて、さらに重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤等を光学的性能を低下させない範囲で添加することができる。
【0026】
(1)−1 棒状液晶化合物
本発明に使用可能な棒状液晶化合物の例は、棒状ネマチック液晶化合物である。前記棒状ネマチック液晶化合物の例には、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類及びアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。低分子液晶化合物だけではなく、高分子液晶化合物も用いることができる。
【0027】
本発明に利用する棒状液晶化合物は、重合性であっても非重合性であってもよい。重合性基を有しない棒状液晶化合物については、様々な文献(例えば、Y. Goto et.al., Mol. Cryst. Liq. Cryst. 1995, Vol. 260, pp.23-28)に記載がある。
重合性棒状液晶化合物は、重合性基を棒状液晶化合物に導入することで得られる。重合性基の例には、不飽和重合性基、エポキシ基、及びアジリジニル基が含まれ、不飽和重合性基が好ましく、エチレン性不飽和重合性基が特に好ましい。重合性基は種々の方法で、棒状液晶化合物の分子中に導入できる。重合性棒状液晶化合物が有する重合性基の個数は、好ましくは1〜6個、より好ましくは1〜3個である。重合性棒状液晶化合物の例は、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4683327号明細書、同5622648号明細書、同5770107号明細書、国際公開WO95/22586号公報、同95/24455号公報、同97/00600号公報、同98/23580号公報、同98/52905号公報、特開平1−272551号公報、同6−16616号公報、同7−110469号公報、同11−80081号公報、及び特開2001−328973号公報などに記載の化合物が含まれる。2種類以上の重合性棒状液晶化合物を併用してもよい。2種類以上の重合性棒状液晶化合物を併用すると、配向温度を低下させることができる。
【0028】
(1)−2 光学活性化合物(キラル剤)
前記液晶組成物は、コレステリック液晶相を示すものであり、そのためには、光学活性化合物を含有しているのが好ましい。但し、上記棒状液晶化合物が不斉炭素原子を有する分子である場合には、光学活性化合物を添加しなくても、コレステリック液晶相を安定的に形成可能である場合もある。前記光学活性化合物は、公知の種々のキラル剤(例えば、液晶デバイスハンドブック、第3章4−3項、TN、STN用キラル剤、199頁、日本学術振興会第142委員会編、1989に記載)から選択することができる。光学活性化合物は、一般に不斉炭素原子を含むが、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物あるいは面性不斉化合物もキラル剤として用いることができる。軸性不斉化合物または面性不斉化合物の例には、ビナフチル、ヘリセン、パラシクロファンおよびこれらの誘導体が含まれる。光学活性化合物(キラル剤)は、重合性基を有していてもよい。光学活性化合物が重合性基を有するとともに、併用する棒状液晶化合物も重合性基を有する場合は、重合性光学活性化合物と重合性棒状液晶合物との重合反応により、棒状液晶化合物から誘導される繰り返し単位と、光学活性化合物から誘導される繰り返し単位とを有するポリマーを形成することができる。この態様では、重合性光学活性化合物が有する重合性基は、重合性棒状液晶化合物が有する重合性基と、同種の基であることが好ましい。従って、光学活性化合物の重合性基も、不飽和重合性基、エポキシ基又はアジリジニル基であることが好ましく、不飽和重合性基であることがさらに好ましく、エチレン性不飽和重合性基であることが特に好ましい。
また、光学活性化合物は、液晶化合物であってもよい。
【0029】
前記液晶組成物中の光学活性化合物は、併用される液晶化合物に対して、1〜30モル%であることが好ましい。光学活性化合物の使用量は、より少なくした方が液晶性に影響を及ぼさないことが多いため好まれる。従って、キラル剤として用いられる光学活性化合物は、少量でも所望の螺旋ピッチの捩れ配向を達成可能なように、強い捩り力のある化合物が好ましい。この様な、強い捩れ力を示すキラル剤としては、例えば、特開2003−287623公報に記載のキラル剤が挙げられ、本発明に好ましく用いることができる。
【0030】
(1)−3 重合開始剤
前記光反射層の形成に用いる液晶組成物は、重合性液晶組成物であるのが好ましく、そのためには、重合開始剤を含有しているのが好ましい。前記重合性液晶組成物の一例は、紫外線照射によって重合反応を開始可能な光重合開始剤を含有する、紫外線硬化性液晶組成物である。前記光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許第2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジン及びフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)及びオキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)等が挙げられる。
【0031】
光重合開始剤の使用量は、液晶組成物(塗布液の場合は固形分)の0.1〜20質量%であることが好ましく、1〜8質量%であることがさらに好ましい。
【0032】
(1)−4 配向制御剤
前記液晶組成物中に、安定的に又は迅速にコレステリック液晶相となるのに寄与する配向制御剤を添加してもよい。配向制御剤の例には、含フッ素(メタ)アクリレート系ポリマー、及び下記一般式(X1)〜(X3)で表される化合物が含まれる。これらから選択される2種以上を含有していてもよい。これらの化合物は、層の空気界面において、液晶化合物の分子のチルト角を低減若しくは実質的に水平配向させることができる。尚、本明細書で「水平配向」とは、液晶分子長軸と膜面が平行であることをいうが、厳密に平行であることを要求するものではなく、本明細書では、水平面とのなす傾斜角が20度未満の配向を意味するものとする。液晶化合物が空気界面付近で水平配向する場合、配向欠陥が生じ難いため、可視光領域での透明性が高くなり、また赤外領域での反射率が増大する。一方、液晶化合物の分子が大きなチルト角で配向すると、コレステリック液晶相の螺旋軸が膜面法線からずれるため、反射率が低下したり、フィンガープリントパターンが発生し、ヘイズの増大や回折性を示すため好ましくない。
配向制御剤として利用可能な前記含フッ素(メタ)アクリレート系ポリマーの例は、特開2007−272185号公報の[0018]〜[0043]等に記載がある。
【0033】
以下、配向制御剤として利用可能な、下記一般式(X1)〜(X3)について、順に説明する。
【0034】
【化1】

【0035】
式中、R1、R2及びR3は各々独立して、水素原子又は置換基を表し、X1、X2及びX3は単結合又は二価の連結基を表す。R1〜R3で各々表される置換基としては、好ましくは置換もしくは無置換の、アルキル基(中でも、無置換のアルキル基又はフッ素置換アルキル基がより好ましい)、アリール基(中でもフッ素置換アルキル基を有するアリール基が好ましい)、置換もしくは無置換のアミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン原子である。X1、X2及びX3で各々表される二価の連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、二価の芳香族基、二価のヘテロ環残基、−CO−、―NRa−(Raは炭素原子数が1〜5のアルキル基又は水素原子)、−O−、−S−、−SO−、−SO2−及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。二価の連結基は、アルキレン基、フェニレン基、−CO−、−NRa−、−O−、−S−及び−SO2−からなる群より選ばれる二価の連結基又は該群より選ばれる基を少なくとも二つ組み合わせた二価の連結基であることがより好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1〜12であることが好ましい。アルケニレン基の炭素原子数は、2〜12であることが好ましい。二価の芳香族基の炭素原子数は、6〜10であることが好ましい。
【0036】
【化2】

【0037】
式中、Rは置換基を表し、mは0〜5の整数を表す。mが2以上の整数を表す場合、複数個のRは同一でも異なっていてもよい。Rとして好ましい置換基は、R1、R2、及びR3で表される置換基の好ましい範囲として挙げたものと同様である。mは、好ましくは1〜3の整数を表し、特に好ましくは2又は3である。
【0038】
【化3】

【0039】
式中、R4、R5、R6、R7、R8及びR9は各々独立して、水素原子又は置換基を表す。R4、R5、R6、R7、R8及びR9でそれぞれ表される置換基は、好ましくは一般式(XI)におけるR1、R2及びR3で表される置換基の好ましいものとして挙げたものと同様である。
【0040】
本発明において配向制御剤として使用可能な、前記式(X1)〜(X3)で表される化合物の例には、特開2005−99248号公報に記載の化合物が含まれる。
なお、本発明では、配向制御剤として、前記一般式(X1)〜(X3)で表される化合物の一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0041】
前記液晶組成物中における、一般式(X1)〜(X3)のいずれかで表される化合物の添加量は、液晶化合物の質量の0.01〜10質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましく、0.02〜1質量%が特に好ましい。
【0042】
前記第1の光反射層は、塗布方法によって作製されるのが好ましい。製造方法の一例は、
(1) 光透過性基材の表面に、硬化性の液晶組成物を塗布して、コレステリック液晶相の状態にすること、
(2) 前記硬化性の液晶組成物に紫外線を照射して硬化反応を進行させ、コレステリック液晶相を固定して光反射層を形成すること、
を少なくとも含む製造方法である。
(1)及び(2)の工程を、光透過性基材の一方の表面上で2回以上繰り返すことで、;又は(1)及び(2)の工程を、光透過性基材の双方の表面上で同時にもしくは順次、1回以上ずつ実施すること等により、前記光反射層を2層以上有する遮熱部材を作製することができる。
【0043】
前記(1)工程では、まず、光透過性基材又は下層の光反射層の表面に、前記硬化性液晶組成物を塗布する。前記硬化性の液晶組成物は、溶媒に材料を溶解及び/又は分散した、塗布液として調製されるのが好ましい。前記塗布液の塗布は、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法等の種々の方法によって行うことができる。また、インクジェット装置を用いて、液晶組成物をノズルから吐出して、塗膜を形成することもできる。
【0044】
次に、表面に塗布され、塗膜となった硬化性液晶組成物を、コレステリック液晶相の状態にする。前記硬化性液晶組成物が、溶媒を含む塗布液として調製されている態様では、塗膜を乾燥し、溶媒を除去することで、コレステリック液晶相の状態にすることができる場合がある。また、コレステリック液晶相への転移温度とするために、所望により、前記塗膜を加熱してもよい。例えば、一旦等方性相の温度まで加熱し、その後、コレステリック液晶相転移温度まで冷却する等によって、安定的にコレステリック液晶相の状態にすることができる。前記硬化性液晶組成物の液晶相転移温度は、製造適性等の面から10〜250℃の範囲内であることが好ましく、10〜150℃の範囲内であることがより好ましい。10℃未満であると液晶相を呈する温度範囲にまで温度を下げるために冷却工程等が必要となることがある。また200℃を超えると、一旦液晶相を呈する温度範囲よりもさらに高温の等方性液体状態にするために高温を要し、熱エネルギーの浪費、光透過性基材の変形、変質等からも不利になる。
【0045】
次に、(2)の工程では、コレステリック液晶相の状態となった塗膜に、紫外線を照射して、硬化反応を進行させる。紫外線照射には、紫外線ランプ等の光源が利用される。この工程では、紫外線を照射することによって、前記液晶組成物の硬化反応が進行し、コレステリック液晶相が固定されて、光反射層が形成される。
紫外線の照射エネルギー量については特に制限はないが、一般的には、100mJ/cm2〜800mJ/cm2程度が好ましい。また、前記塗膜に紫外線を照射する時間については特に制限はないが、硬化膜の充分な強度及び生産性の双方の観点から決定されるであろう。
【0046】
硬化反応を促進するため、加熱条件下で紫外線照射を実施してもよい。また、紫外線照射時の温度は、コレステリック液晶相が乱れないように、コレステリック液晶相を呈する温度範囲に維持するのが好ましい。また、雰囲気の酸素濃度は重合度に関与するため、空気中で所望の重合度に達せず、膜強度が不十分の場合には、窒素置換等の方法により、雰囲気中の酸素濃度を低下させることが好ましい。好ましい酸素濃度としては、10%以下が好ましく、7%以下がさらに好ましく、3%以下が最も好ましい。紫外線照射によって進行される硬化反応(例えば重合反応)の反応率は、層の機械的強度の保持等や未反応物が層から流出するのを抑える等の観点から、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがよりさらに好ましい。反応率を向上させるためには照射する紫外線の照射量を増大する方法や窒素雰囲気下あるいは加熱条件下での重合が効果的である。また、一旦重合させた後に、重合温度よりも高温状態で保持して熱重合反応によって反応をさらに推し進める方法や、再度紫外線を照射する(ただし、本発明の条件を満足する条件で照射する)方法を用いることもできる。反応率の測定は反応性基(例えば重合性基)の赤外振動スペクトルの吸収強度を、反応進行の前後で比較することによって行うことができる。
【0047】
上記工程では、コレステリック液晶相が固定されて、光反射層が形成される。ここで、液晶相を「固定化した」状態は、コレステリック液晶相となっている液晶化合物の配向が保持された状態が最も典型的、且つ好ましい態様である。それだけには限定されず、具体的には、通常0℃〜50℃、より過酷な条件下では−30℃〜70℃の温度範囲において、該層に流動性が無く、また外場や外力によって配向形態に変化を生じさせることなく、固定化された配向形態を安定に保ち続けることができる状態を意味するものとする。本発明では、紫外線照射によって進行する硬化反応により、コレステリック液晶相の配向状態を固定する。
なお、本発明においては、コレステリック液晶相の光学的性質が層中において保持されていれば十分であり、最終的に層中の液晶組成物がもはや液晶性を示す必要はない。例えば、液晶組成物が、硬化反応により高分子量化して、もはや液晶性を失っていてもよい。
【0048】
(2) 第2の光反射層
第2の光反射層については、その材料や、光反射の原理については特に制限されない。第1の光反射層と同様、コレステリック液晶相を固定してなる層を含んでいるのが好ましく、特に、コレステリック液晶相を固定してなる右偏光成分を反射する1以上の層、及びコレステリック液晶相を固定してなる左偏光成分を反射する1以上の層を含んでいるのがより好ましい。かかる態様では、第2の光反射層の形成に利用される好ましい材料、及び好ましい形成方法については、第1の光反射層と同様である。
また、第2の光反射層は、金属及び金属酸化物等の無機材料を含んでいてもよい。かかる態様の第2の光反射層の形成に利用可能な材料及び方法については、特開2002−131531号公報及び特開平6−194517号公報に記載があり、参照することができる。また、第2の光反射層は、特表2002−509279号公報に記載されたような、高屈折率膜と低屈折率膜との交互積層体に基づく光反射特性を利用したものであってもよく、製造方法及び使用材料については当該公報を参照することができる。
【0049】
(3) 基材
本発明の遮熱部材は、前記光反射層を支持する基材を有していてもよい。基材は、光透過性であるのが好ましい。光透過性基材の例には、ガラス板、及びプラスチック基板が含まれる。例えば、窓用のガラス板及びプラスチック基板を基材として有する態様は、そのまま遮熱性窓として利用することができる。
また、前記光透過性基材の例には合わせガラスも含まれる。例えば、前記第1及び第2の光反射層を、合わせガラス内部に組み込んで、遮熱性窓材として利用することができる。合わせガラスは、一般的には、2枚のガラス板の内面に形成された中間膜を熱接着して作製される。この合わせガラスの内部に、前記第1及び第2の光反射層を挟み込むには、いずれかの光反射層の表面を中間膜と熱接着させる。中間膜は、一般的には、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)又はエチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)を主原料として含有する。中間膜の厚みは、一般的には、380〜760μm程度である。
また、フィルム又はシート等の自己支持性のない基材上に、第1及び第2の光反射層を有する遮熱部材そのものを、合わせガラス内部に組み込んでもよい。
【0050】
本実施形態において光透過性基材として用いられるガラス板等の厚みについては特に制限はなく、用途に応じて好ましい範囲が変動する。例えば、輸送車両のフロントガラス(ウインドウシールド)の用途では、一般的には、2.0〜2.3mmの厚みのガラス板を用いるのが好ましい。また、家屋やビル等の建物用遮熱性窓材のガラス板等の光透過性基材の厚みは、一般的には、40〜300μm程度である。但し、この範囲に限定されるものではない。
【0051】
また光透過性基材の例には、ポリマーフィルムが含まれる。基材として用いるポリマーフィルムについては特に制限はない。用途によっては、可視光に対する透過性が高いポリマーフィルムが好ましく用いられるであろう。可視光に対する透過性が高いポリマーフィルムとしては、液晶表示装置等の表示装置の部材として用いられる種々の光学フィルム用のポリマーフィルムが挙げられる。より具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステルフィルム;ポリカーボネート(PC)フィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム;ポリイミドフィルム、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム、などが挙げられる。
【0052】
光透過性基材としてポリマーフィルム等を有するフィルム状又はシート状の遮熱部材は、ガラス板やプラスチック基板等の表面に貼合されて用いられてもよい。この態様では、前記遮熱部材のガラス板等との貼合面は、粘着性であるのが好ましい。本実施形態では、遮熱性部材は、ガラス板等の基板表面に貼合可能な、粘着層、易接着層等を有しているのが好ましい。勿論、非粘着性の遮熱性部材を、接着剤を利用してガラス板の表面に貼合してもよい。
【0053】
本発明の遮熱部材は、車両用又は建物用の遮熱性窓そのものとして、又は遮熱性付与を目的として、車両用又は建物用の窓に貼合されるシート又はフィルムとして、利用することができる。その他、フリーザーショーケース、農業用ハウス用材料、農業用反射シート、太陽電池用フィルム等として用いることができる。
【実施例】
【0054】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0055】
1.遮熱フィルムの作製
(1)光反射層形成用塗布液(A)及び(B)の調製
下記表に示す組成の塗布液(A)及び(B)をそれぞれ調製した。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【化4】

【0059】
【化5】

【0060】
(2)光反射層の形成
調製した塗布液(A)又は(B)を、ワイヤーバーを用いて、富士フイルム製PETフィルム上に、室温にて塗布した。乾燥後の膜の厚みは6μmとした。
次に、室温にて30秒間乾燥させた後、125℃の雰囲気で2分間加熱し、コレステリック液晶相とし、その後95℃でフュージョン製Dバルブ(ランプ90mW/cm)にて出力60%で6〜12秒間UV照射し、コレステリック液晶相を硬化させた。この様にして、光反射層を形成し、各遮熱フィルムを作製した。
なお、光反射層を2以上積層した遮熱フィルムを作製する場合には、1層目の光反射層を形成した後、室温まで冷却し、その後、上記操作を繰り返した。
【0061】
上記製造方法において、キラル剤LC−756及び/又はキラル剤化合物2の濃度を変えることで、螺旋ピッチを調整し、反射波長帯域を調整した。また、各層の厚みについては、下記表に示す通り、それぞれ変更した。表中、特に記載のない層の厚みは、上記した通り6μmである。
図4に、キラル剤濃度を横軸に、及び各濃度でキラル剤を含有する液晶組成物のコレステリック液晶相を固定して形成した層の選択反射波長を縦軸にプロットしたグラフを示す。図4のグラフ(キラル剤濃度と選択波長との関係のグラフ)から、キラル剤濃度を調整することで、第1の光反射層に要求される波長400nm以上850nm未満に反射率のピークを有する反射特性、及び第2の光反射層に要求される波長850nm超え1300nm以下に反射率のピークを有する反射特性を達成できることが理解できる。
【0062】
作製した遮熱フィルムの構成を以下の表にまとめた。
【表3】

【0063】
2.遮熱部材の評価
作製した各遮熱フィルムの光学スペクトルを測定し、当該測定値から日射反射率を算出した。また、波長850nmの信号の送受信機の間に、各遮熱フィルムを配置し、電波透過性を評価した。結果を下記表に示す。表中、電磁波特性についての「○」は、電磁波透過性があることを意味し、「×」は電磁波非透過性であることを意味し;色味についての「○」は、着色が視認されなかったことを意味し、「×」は着色が視認されたことを意味する。
【0064】
【表4】

【符号の説明】
【0065】
10 遮熱部材
12 基材
14 第2の光反射層
14a コレステリック液晶相を固定してなる右偏光成分を反射する層
14b コレステリック液晶相を固定してなる左偏光成分を反射する層
16 第1の光反射層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コレステリック液晶相を固定してなる1以上の層をからなる、右偏光成分及び左偏光成分の少なくとも一方を反射する第1の光反射層と、有機材料及び/又は無機材料を含有する1以上の層からなる第2の光反射層とを少なくとも有する遮熱部材であって、
波長400nm以上850nm未満、及び波長850nm超え1300nm以下に反射率のピークがそれぞれ存在し、波長400nm以上850nm未満の反射率の最大値A、波長850nmの反射率B、及び波長850nm超え1300nm以下の反射率の最大値Cが、C>A>Bを満足し、且つBが50%以下であることを特徴とする遮熱部材。
【請求項2】
波長400nm以上850nm未満に存在する反射率のピークが、第1の光反射層のコレステリック液晶相の選択反射特性に基づくことを特徴とする請求項1に記載の遮熱部材。
【請求項3】
第1の光反射層が、右偏光成分及び左偏光成分のいずれか一方のみを反射する反射特性を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の遮熱部材。
【請求項4】
波長400nm以上850nm未満の反射率の最大値Aが、50%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の遮熱部材。
【請求項5】
波長400nm以上850nm未満の反射率の最大値Aが、10%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の遮熱部材。
【請求項6】
波長850nm超え1300nm以下の反射率の最大値Cが、80%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の遮熱部材。
【請求項7】
第2の光反射層が、コレステリック液晶相を固定してなる右偏光成分を反射する1以上の層、及びコレステリック液晶相を固定してなる左偏光成分を反射する1以上の層を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の遮熱部材。
【請求項8】
コレステリック液晶相を固定してなる1以上の層からなる、右偏光成分及び左偏光成分のいずれか一方のみを反射する第1の光反射層、及び
コレステリック液晶相を固定してなる右偏光成分を反射する1以上の層、及びコレステリック液晶相を固定してなる左偏光成分を反射する1以上の層を含む第2の光反射層を有し、
波長400nm以上850nm未満に第1の光反射層のコレステリック液晶相の選択反射特性に基づく反射率のピークが存在し、波長850nm超え1300nm以下に第2の光反射層のコレステリック液晶相の選択反射特性に基づく反射率のピークが存在することを特徴とする遮熱部材。
【請求項9】
波長400nm以上850nm未満に存在する反射率のピーク値が50%以下であり、且つ波長850nm超え1300nm以下に存在する反射率のピーク値が80%以上である請求項8に記載の遮熱部材。
【請求項10】
第2の光反射層に含まれる右偏光成分及び左偏光成分をそれぞれ反射する層が、互いに等しい反射中心波長を有することを特徴とする請求項8又は9に記載の遮熱部材。
【請求項11】
第1及び第2の光反射層を支持する基材をさらに有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の遮熱部材。
【請求項12】
第1の光反射層が、塗布によって形成されたことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の遮熱部材。
【請求項13】
光学スペクトルの測定値から算出される日射反射率が18%以上であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の遮熱部材。
【請求項14】
透明部材の表面に貼付されて用いられることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の遮熱部材。
【請求項15】
自動車の窓に貼付して用いられることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の遮熱部材。
【請求項16】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の遮熱部材を内部に有する合わせガラス。
【請求項17】
自動車のフロントガラスとして用いられる請求項16に記載の合わせガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−158750(P2011−158750A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21050(P2010−21050)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】