説明

遷移金属をドープしたスズリン酸塩ガラス

遷移金属をドープしたスズリン酸塩ガラス組成物及びその調製方法であって、例えば、このガラス組成物は封着用途に使用可能なものである。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、米国特許出願第12/394,269号(出願日:2009年2月27日)の優先権を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本発明は遷移金属をドープしたスズリン酸塩ガラス組成物及びその調製方法に関し、特には、例えば、封着ガラスとして有用である、遷移金属をドープしたスズリン酸塩ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0003】
化学的耐久性を有する低温ガラスは、例えば封着用途のフリット又はガラスとして有用である。このような用途の材料として、鉛ホウ酸塩ガラス及び鉛ホウケイ酸塩ガラスが従来から使用されている。しかし、環境に優しい材料に対する要求の高まりを考慮した場合、従来のガラスと同等の耐久性及び封着温度を有する無鉛ガラスが望ましい。例えば、SnZn及びVSbリン酸塩ガラスのような幾つかの種類の無鉛リン酸塩ガラスが、環境に優しい、“未焼成”フリットとして開発されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
封着ガラスとして使用可能なガラスを特定の用途に適合させる場合、できるだけ高い柔軟性を得るためには、封着用途に対しできるだけ広い範囲のガラス組成を用意し、例えば、化学的耐久性を損なうことなく、特定の基体に適合する熱膨張係数又は軟化点を選択できるようにすることが有益である。また、かかるガラス組成を無鉛とすることも有益である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のガラス組成物は、前記封着用途として有用な従来のガラス組成の欠点に取り組み以下の効果を提供するものである。即ち“未焼成”封着ガラスのガラス化領域の大幅な拡大によって、例えば、特性温度、熱膨張係数、及び/又は屈折率のような別のガラス特性を適合させる際、より大きな柔軟性が得られる。このことは特定の用途にとって有益であり、基体の特定の特性に正確に適合させる必要がある場合に特に有益である。例えば、Ti、V、Fe、及び/又はNbのような遷移金属添加物により、熱膨張のような特性を更に適合させることができる一方、このような適合性が、従来のSnZnリン酸塩ガラスに一般にみられる望ましい低特性温度を犠牲にすることなく達成できるという更なる効果が得られる。
【0006】
1つの実施の形態は、モルパーセントで示すガラス組成物であって、40〜80パーセントのSnO、12〜35パーセントのP、0〜15パーセントのZnO、及び酸化チタン、酸化バナジウム、酸化鉄、酸化ニオブ、及びこれらの組合せから選択される、0超〜40パーセントの金属酸化物を含むガラス組成物において、ZnOの含有量が6パーセント以上であって、金属酸化物が酸化チタン、酸化ニオブ、又はその組合せから成る場合、酸化チタン、酸化ニオブ、又はその組合せの含有量が5パーセントより多いことを特徴とするガラス組成物である。
【0007】
別の実施の形態は、モルパーセントで示すガラス組成物であって、0〜80パーセントのSnO、12〜35パーセントのP、0〜15パーセントのZnO、及び酸化チタン、酸化バナジウム、酸化鉄、酸化ニオブ、及びこれらの組合せから選択される、0超〜40パーセントの金属酸化物から実質的に成るガラス組成物において、ZnOの含有量が6パーセント以上であって、金属酸化物が酸化チタン、酸化ニオブ、又はその組合せから成る場合、酸化チタン、酸化ニオブ、又はその組合せの含有量が5パーセントより多いことを特徴とするガラス組成物である。
【0008】
別の実施の形態は、モルパーセントで示すガラス組成物であって、40〜80パーセントのSnO、12〜25パーセント未満のP、0〜15パーセントのZnO、及び酸化チタン、酸化バナジウム、酸化鉄、酸化ニオブ、及びこれらの組合せから選択される、0超〜40パーセントの金属酸化物を含むことを特徴とするガラス組成物である。
【0009】
別の実施の形態は、モルパーセントで示すガラス組成物であって、40〜80パーセントのSnO、12〜25パーセント未満のP、0〜15パーセントのZnO、及び酸化チタン、酸化バナジウム、酸化鉄、酸化ニオブ、及びこれらの組合せから選択される、0超〜40パーセントの金属酸化物から実質的に成ることを特徴とするガラス組成物である。
【0010】
本発明の更なる特徴及び効果は以下の詳細な説明に述べてあり、当業者にとって以下の説明によりある程度明白になり、また本明細書及びクレームに記載の本発明を実施することにより認識することができる。
前記概要説明及び本発明の実施の形態を示す以下の詳細な説明は、本発明の例示に過ぎず、特許請求した本発明の本質及び特徴を理解するための要旨及び構成の提供を意図したものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
1つの実施の形態は、モルパーセントで示すガラス組成物であって、40〜80パーセントのSnO、12〜35パーセントのP、0〜15パーセントのZnO、及び酸化チタン、酸化バナジウム、酸化鉄、酸化ニオブ、及びこれらの組合せから選択される、0超〜40パーセントの金属酸化物を含むガラス組成物において、ZnOの含有量が6パーセント以上であって、金属酸化物が酸化チタン、酸化ニオブ、又はその組合せから成る場合、酸化チタン、酸化ニオブ、又はその組合せの含有量が5パーセントより多いことを特徴とするガラス組成物である。
【0013】
本発明において、ガラス組成物成分のモルパーセントは酸化物を基準に算出したものである。
【0014】
一部の実施の形態において、ガラス組成物がモルパーセントで示す40〜80パーセント内の少数を含む任意の値、例えば、50〜80パーセント又は51.3〜79.2パーセントのSnOを含んでいる。
【0015】
一部の実施の形態において、ガラス組成物がモルパーセントで示す12〜35パーセント内の少数を含む任意の値、例えば、15〜30パーセント、16.5〜29.9パーセント、あるいは17〜28.8ルパーセントのPを含んでいる。
【0016】
一部の実施の形態において、ガラス組成物がモルパーセントで示す0〜15パーセント内の少数を含む任意の値のZnOを含んでいる。1つの実施の形態において、ZnOの含有量が0パーセントであり、別の実施の形態において、ZnOの含有量が0パーセントより多い。
【0017】
一部の実施の形態において、ガラス組成物がモルパーセントで示す0超〜40パーセント内の少数を含む任意の値、例えば、0超〜30パーセント又は0.1〜30パーセントの金属酸化物を含んでいる。別の実施の形態によれば、ガラス組成物が1〜40パーセント、例えば、1〜30パーセントの金属酸化物を含んでいる。金属酸化物は酸化チタン、酸化バナジウム、酸化鉄、酸化ニオブ、及びこれらの組合せから選択され、ZnOの含有量が6パーセント以上であって、金属酸化物が酸化チタン、酸化ニオブ、又はその組合せから成る場合、酸化チタン、酸化ニオブ、又はその組合せの含有量が5パーセントより多い。
【0018】
1つの実施の形態によれば、金属酸化物は酸化チタン、酸化バナジウム、酸化鉄、又は酸化ニオブである。別の実施の形態において、ガラス組成物が酸化チタン、酸化バナジウム、酸化鉄及び/又は酸化ニオブのうちの2つ以上から成る組合せを含んでいる。
【0019】
別の実施の形態はモルパーセントで示すガラス組成物であって、40〜80パーセントのSnO、12〜35パーセントのP、0〜15パーセントのZnO、及び酸化チタン、酸化バナジウム、酸化鉄、酸化ニオブ、及びこれらの組合せから選択される、0超〜40パーセントの金属酸化物から実質的に成るガラス組成物において、ZnOの含有量が6パーセント以上であって、金属酸化物が酸化チタン、酸化ニオブ、又はその組合せから成る場合、酸化チタン、酸化ニオブ、又はその組合せの含有量が5パーセントより多いこと特徴とするガラス組成物である。
【0020】
ガラス組成物の成分範囲は、当該範囲内のモルパーセントで示す少数を含む任意の値を含み、例えば、金属酸化物の範囲は1〜40パーセント、1〜30パーセント、あるいは1.1〜28.9パーセントである。
【0021】
別の実施の形態は、モルパーセントで示すガラス組成物であって、40〜80パーセントのSnO、12〜25パーセント未満のP、0〜15パーセントのZnO、及び酸化チタン、酸化バナジウム、酸化鉄、酸化ニオブ、及びこれらの組合せから選択される、0超〜40パーセントの金属酸化物を含むことを特徴とするガラス組成物である。
【0022】
ガラス組成物の成分範囲は、当該範囲内のモルパーセントで示す少数を含む任意の値を含み、例えば、金属酸化物の範囲は1〜40パーセント、1〜30パーセント、あるいは1.1〜28.9パーセントである。
【0023】
別の実施の形態は、モルパーセントで示すガラス組成物であって、40〜80パーセントのSnO、12〜25パーセント未満のP、0〜15パーセントのZnO、及び酸化チタン、酸化バナジウム、酸化鉄、酸化ニオブ、及びこれらの組合せから選択される、0超〜40パーセントの金属酸化物から実質的に成ることを特徴とするガラス組成物である。
【0024】
ガラス組成物の成分範囲は、当該範囲内のモルパーセントで示す少数を含む任意の値を含み、例えば、金属酸化物の範囲は1〜40パーセント、1〜30パーセント、あるいは1.1〜28.9パーセントである。
【0025】
1つの実施の形態によれば、ガラスの遷移温度が摂氏400度(400℃)以下、例えば、370℃以下である。別の実施の形態において、ガラスの遷移温度が270℃〜370℃である。これらのガラス組成物のガラス遷移温度(T)は、350℃〜425℃の封着用途に適した封着温度であることを示している。更に、Ti、V、及びNb酸化物が水耐性に優れていることを考慮すれば、本発明の遷移金属をドープしたスズリン酸塩ガラスは類似のSnZnと同等又はそれ以上の耐久性を有している。
【0026】
1つの実施の形態は本発明のいずれか1つのガラス組成物から成る物品である。物品は本発明の2つ以上のガラス組成物から成ることができる。物品は有機発光ダイオード(OLED)、光学部品、照明装置、通信装置、フラットパネル表示装置、あるいは液晶表示装置であってよい。別の実施の形態は、本発明の1つ以上のガラス組成物から成るガラスフリット又は封着ガラスである。ガラスフリットや封着ガラスは、例えば、OLED、光学部品、照明装置、通信装置、フラットパネル表示装置、あるいは液晶表示装置に使用することができる。ガラスフリットは当業者周知の方法を用いて前記ガラス組成物から製造することができる。
【0027】
1つの実施の形態は本発明のガラス組成物を調製する方法である。この方法は還元酸化状態を有する酸化物から成るバッチ材料を混合するステップ、及びバッチ材料を溶解してガラス組成物を調製するステップを有し成ることを特徴とするものである。1つの実施の形態によれば、この方法は不活性又は還元環境においてガラスを溶解するステップを更に有している。窒素又はアルゴンのような不活性ガス、フォーミングガスのような還元ガス、あるいはこれらの組合せによって不活性又は還元環境を実現することができる。
【0028】
1つの実施の形態によれば、例えば、Ti及びFeがそれぞれ三価及び二価の状態で含有されているバッチ材料のような、還元バッチ材料を使用して、ガラスの成形を向上させている。TiをTiの供給源とし, シュウ酸鉄及び/又はFeOをFeの供給源とすることができる。また、無水リン酸アンモニウム及び/又はリン酸水素二アンモニウムをPの供給源とすることができる。還元酸化状態の成分を使用することにより、ガラス生成が促進され、低ガラス遷移温度を有するガラスの生成が促進される。還元酸化状態の成分を使用することにより、溶解中における還元環境の維持に役立つ。特に、前記SnOを含有するガラス組成物において、還元酸化状態の別の成分を用いることにより、溶解中におけるSn2+からSn4+への酸化を抑制することができる。
【実施例】
【0029】
撹拌器で混合した酸化物粉末から成る500グラムのバッチを蓋付きシリカるつぼにおいて700℃〜1000℃の温度で溶解することにより、本発明の例示的なガラス組成物を調製した。800℃〜850℃の温度でバッチ材料を溶解することができる。
【0030】
ガラス組成物の実施例を表1、表2、表3、及び表4に示す。表1はガラス組成物の実施例1〜8を示している。表2はガラス組成物の実施例9〜11を示し、表3はガラス組成物の実施例12〜20を示している。更に、表4はガラス組成物の実施例21〜28を示している。
【0031】
各々の表において、行の第1グループはモルパーセント表示のガラス組成物を示している。行の第2グループは、重量パーセント表示のガラス組成物を示している。各々の表において、グラム(g)表示の実際のバッチ組成は行の第3グループに示してある。表1のガラス組成物の実施例は三元TiO−SnO−P系及びFeO±V±Nb−SnO−P系のガラス生成を示している。表2のガラス組成物の実施例は三元TiO−SnO−P系のガラス生成を示している。表3のガラス組成物の実施例はFeO±TiO±ZnO−SnO−P系のガラス生成を示している。また、表4のガラス組成物の実施例はFeO±TiO±ZnO−SnO−P系のガラス生成を示している。示差走査熱量測定(DSC)によりガラス遷移温度(T)を測定し、膨張率測定により熱膨張係数(α)を決定した。
【0032】
ガラス組成物の実施例サンプルの重量を測定すると共に、外観を観察しその結果を各表に示した。次に、表1のガラス組成物の実施例に対し、温度85℃、相対湿度85%において1000時間の耐久試験を行った。次いで、これらのサンプルの重量を測定すると共に、再度外観を観察しその結果を表1に示した。試験したガラス組成物は85/85という厳しい試験環境に耐えることができ、重量及び外観共にほとんど又は全く変化しなかった。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【0033】
本発明の精神及び範囲を逸脱せずに本発明に対し各種改良及び変更が可能であることは当業者にとって明らかである。従って、本発明は添付クレーム及びその均等物の範囲に属する改良及び変更を含むものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モルパーセントで示すガラス組成物であって、
40〜80パーセントのSnO、
12〜35パーセントのP
0〜15パーセントのZnO、及び
酸化チタン、酸化バナジウム、酸化鉄、酸化ニオブ、及びこれらの組合せから選択される、0超〜40パーセントの金属酸化物、
を含むガラス組成物において、
前記ZnOの含有量が6パーセント以上であって、前記金属酸化物が、酸化チタン、酸化ニオブ、又はその組合せから成る場合、該酸化チタン、酸化ニオブ、又はその組合せの含有量が5パーセントより多いことを特徴とする組成物。
【請求項2】
モルパーセントで示すガラス組成物であって、
40〜80パーセントのSnO、
12〜25パーセント未満のP
0〜15パーセントのZnO、及び
酸化チタン、酸化バナジウム、酸化鉄、酸化ニオブ、及びこれらの組合せから選択される、0超〜40パーセントの金属酸化物、
を含むことを特徴とするガラス組成物。
【請求項3】
モルパーセントで示すガラス組成物であって、
40〜80パーセントのSnO、
12〜25パーセント未満のP
0〜15パーセントのZnO、及び
酸化チタン、酸化バナジウム、酸化鉄、酸化ニオブ、及びこれらの組合せから選択される、0超〜40パーセントの金属酸化物、
から実質的に成ることを特徴とするガラス組成物。
【請求項4】
モルパーセントで示すガラス組成物であって、
40〜80パーセントのSnO、
12〜35パーセントのP
0〜15パーセントのZnO、及び
酸化チタン、酸化バナジウム、酸化鉄、酸化ニオブ、及びこれらの組合せから選択される、0超〜40パーセントの金属酸化物、
から実質的に成るガラス組成物において、
前記ZnOの含有量が6パーセント以上であって、前記金属酸化物が、酸化チタン、酸化ニオブ、又はその組合せから成る場合、該酸化チタン、酸化ニオブ、又はその組合せの含有量が5パーセントより多いことを特徴とする組成物。
【請求項5】
請求項1記載のガラス組成物を調製する方法であって、
還元酸化状態を有する酸化物から成るバッチ材料を混合するステップと、
前記バッチ材料を溶解して前記ガラス組成物を調製するステップと、
を有して成ることを特徴とする方法。

【公表番号】特表2012−519139(P2012−519139A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552172(P2011−552172)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/025503
【国際公開番号】WO2010/099381
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】