説明

遷移金属イミド錯体、環状オレフィン開環重合用触媒および環状オレフィン開環重合体の製造方法

【課題】
有機溶媒に対する溶解性が高く、低分子量体の生成が少ない環状オレフィン開環重合体を製造することができる複核の遷移金属イミド錯体、この遷移金属イミド錯体を含有する環状オレフィン開環重合用触媒、及びこの開環重合用触媒を用いる環状オレフィン開環重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】
周期表第6族遷移金属原子の複数個を含んでなる複核の遷移金属イミド錯体であって、該複数個の遷移金属原子が、複数個の金属イミド結合部位を有する配位子と、それぞれ金属イミド結合を形成してなる複核の遷移金属イミド錯体、周期表第6族遷移金属オキシ化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させることを特徴とする前記遷移金属イミド錯体の製造方法、この遷移金属イミド錯体を含有する環状オレフィンの開環重合用触媒、この開環重合用触媒の存在下で、環状オレフィンを開環重合することを特徴とする環状オレフィン開環重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な複核の遷移金属イミド錯体、この遷移金属イミド錯体を含有する環状オレフィン開環重合用触媒、及びこの開環重合用触媒を用いる環状オレフィン開環重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン開環重合体及びその水素化物は、耐熱性、透明性、低吸水性、耐薬品性、誘電特性、光学特性、剛性等の諸物性に優れるため、射出成形、押出成形、圧縮成形、溶剤キャスト法等の各種成形法により成形され、光学材料、医療用器材、電気絶縁材料、食品用器材等として、広範な分野で使用されている。
【0003】
かかる環状オレフィン開環重合体は、メタセシス重合触媒の存在下にジシクロペンタジエン等の環状オレフィンを開環重合することにより得ることができる。
【0004】
用いるメタセシス重合触媒としては、例えば、MoCl、WCl等の周期表第6族遷移金属のハロゲン化物と、テトラフェニルスズ、テトラ(n−ブチル)スズ等の有機スズ化合物とからなる重合用触媒;MoOCl、WOCl等の周期表第6族遷移金属のオキシハロゲン化物と、トリエチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムジクロリド等の有機アルミニウム化合物とからなる重合用触媒;等が知られている。
【0005】
しかしながら、これらの重合用触媒は高い重合活性を示すものの、重合反応を制御することが困難なものである。このため、これらの重合触媒の存在下に環状オレフィンを開環重合すると、架橋した不溶性の開環重合体が大量に生成したり、重量平均分子量が2,000以下の低分子量体が多量に生成するために、得られる重合体の耐熱性や機械的強度が劣る場合があった。
【0006】
このような問題を解決すべく、イミド配位子を有する周期表第6族遷移金属の錯体と活性化剤とからなる触媒系が報告されている。
例えば、特許文献1には、式(a):W(NR)(X4−p(OR・(L(式中、R、Rはアルキル基、フェニル基等を表し、Xは塩素原子又は臭素原子を表し、Lはドナー配位子を表し、pは0〜4の整数を表し、qは0又は1を表す。)で表されるタングステン−イミド化合物及び活性化剤からなるメタセシス重合触媒が記載されている。この文献に記載された重合触媒は、多環式シクロオレフィンを塊状開環重合することにより、残留単量体が低水準の熱硬化性樹脂成形品を製造するのに使用されるものである。
特許文献2には、式(b)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Rはアルキル基又はアリール基を表し、R、Rはアルコキシ基、アリールオキシ基等を表し、X、Xはハロゲン原子等を表し、Lはホスフィン類、エーテル類等を表し、Mは周期表第6族遷移金属を表す。)で表される有機遷移金属錯体と、有機金属化合物とからなる重合触媒の存在下に、環状オレフィンを開環メタセシス重合する開環メタセシス重合方法が記載されている。この文献記載の方法によれば、特に極性基を有する環状オレフィンを副反応を起こすことなく、収率よくメタセシス重合させることができる。
【0009】
このように、これまでにも種々のメタセシス重合触媒が提案されているが、環状オレフィン開環重合体及びその水素化物は、ますます広範な分野で使用されるようになっており、より多様な構造制御が可能で、低分子量体の生成が少ない環状オレフィン開環重合体を効率よく製造できる新しいメタセシス重合触媒の開発が要望されている。
【0010】
【特許文献1】特開平5−345817号公報
【特許文献2】特開平11−80325号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、低分子量体の生成が少ない環状オレフィン開環重合体を製造することができる新規な複核の遷移金属イミド錯体、この遷移金属イミド錯体を含有する環状オレフィン開環重合用触媒、及びこの開環重合用触媒を用いる環状オレフィン開環重合体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート等のポリイソシアネート化合物と、オキシ四塩化タングステン等の周期表第6族遷移金属オキシ化合物とを所定割合で反応させることで、複数個の遷移金属原子が、複数個の金属イミド結合部位を有する配位子と、それぞれ金属イミド結合を形成してなる複核の遷移金属イミド錯体を収率よく得ることができることを見出した。また、得られた遷移金属イミド錯体を開環重合用触媒として用いて、環状オレフィンを開環重合すると、低分子量体の生成が少ない環状オレフィン開環重合体を収率よく製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
かくして本発明の第1によれば、周期表第6族遷移金属原子の複数個を含んでなる複核の遷移金属イミド錯体であって、該複数個の遷移金属原子が、複数個の金属イミド結合部位を有する配位子と、それぞれ金属イミド結合を形成してなる複核の遷移金属イミド錯体が提供される。
本発明の遷移金属イミド錯体としては、式(1)
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、Yは2価〜6価の連結基を表し、Mは周期律表第6族遷移金属原子を表し、Lは中性配位子を表し、Xはアニオン性配位子を表す。aは0〜2の整数であり、aが2のとき、2つのLは同一でも相異なっていてもよい。bは1〜4の整数であり、bが2以上のとき、複数のXは同一でも相異なっていてもよい。cは2〜6の整数であり、複数の式:−N=M(L(Xで表される基は、同一であっても相異なっていてもよい。)で表される化合物であるのが好ましい。
【0016】
本発明の第2によれば、周期表第6族遷移金属オキシ化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させることを特徴とする本発明の遷移金属イミド錯体の製造方法が提供される。
【0017】
本発明の第3によれば、本発明の遷移金属イミド錯体を含有することを特徴とする環状オレフィンの開環重合用触媒が提供される。
本発明の開環重合用触媒においては、活性化剤をさらに含有するのが好ましく、活性化剤に加えてルイス塩基をさらに含有するのがより好ましい。
【0018】
本発明の第4によれば、本発明の開環重合用触媒の存在下で、環状オレフィンを開環重合することを特徴とする環状オレフィン開環重合体の製造方法が提供される。
本発明の環状オレフィン開環重合体の製造方法においては、前記環状オレフィンがジシクロペンタジエンであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1によれば、新規な複核の遷移金属イミド錯体が提供される。本発明の第2によれば、本発明の遷移金属イミド錯体を簡便かつ収率よく製造することができる。本発明の第3によれば、本発明の遷移金属イミド錯体を含有することを特徴とする環状オレフィンの開環重合用触媒が提供される。本発明の第4によれば、本発明の開環重合用触媒の存在下で、環状オレフィンを開環重合することを特徴とする環状オレフィン開環重合体の製造方法が提供される。得られる開環重合体は、低分子量体の生成が少ないものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
1)遷移金属イミド錯体及びその製造方法
(1)遷移金属イミド錯体
本発明の遷移金属イミド錯体は、周期表第6族遷移金属原子(以下、単に「第6族遷移金属原子」という)の複数個を含んでなる複核の遷移金属イミド錯体であって、該複数個の遷移金属原子が、複数個の金属イミド結合部位を有する配位子と、それぞれ金属イミド結合を形成してなる遷移金属複核錯体である。
【0021】
第6族遷移金属原子としては、具体的には、クロム(Cr)原子、モリブデン(Mo)原子、タングステン(W)原子が挙げられ、錯体の合成が容易で、優れた開環重合用触媒が得られることから、モリブデン(Mo)原子、タングステン(W)原子が好ましく、タングステン(W)原子が特に好ましい。
【0022】
本発明におけるイミド配位子は、分子内に、複数個の金属イミド結合部位を有する配位子である。金属イミド結合部位とは、第6族遷移金属原子(M)とイミド配位子とが、イミド配位子の窒素原子(N)を介して、金属イミド結合(M=N)を形成するイミド配位子の部分構造である。
【0023】
本発明の遷移金属イミド錯体は、第6族遷移金属原子の複数個と分子内に複数個の金属イミド結合部位を有するイミド配位子とが、前記金属イミド結合部位で金属イミド結合を形成してなる複核の遷移金属錯体であれば、特に制約はない。
このような遷移金属錯体としては、具体的には、下記式(1)で表される化合物を例示することができる。
【0024】
【化3】

【0025】
式(1)中、Mは第6族遷移金属原子を表す。具体的には、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)が挙げられる。前述したように、錯体の合成が容易で、優れた開環重合用触媒が得られることから、モリブデン(Mo)原子、タングステン(W)原子が好ましく、タングステン(W)原子が特に好ましい。
【0026】
は中性配位子を表す。中性配位子とは、中心金属から引き離されたときに中性の電荷を持つ配位子である。
中性配位子としては、特に制約はなく、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;トリエチルアミン、N,N−ジエチルアニリン等のアミン類;ピリジンやルチジン等のピリジン類;トリフェニルホスフィン等のホスフィン類;ジメチルホルムアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;シクロオクタジエン等のジエン類;水;一酸化炭素;トルエン、キシレン等のアレーン類;トリフェニルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド類;エチレンカーボネート等の炭酸エステル類;エチルアセテート等のエステル類;等が挙げられる。
これらの中でも、安定な遷移金属錯体を形成するには、エーテル類、ピリジン類、ニトリル類が好ましい。
aは0〜2の整数であり、aが2のとき、2つのLは同一でも相異なっていてもよい。
【0027】
はアニオン性配位子を表す。アニオン性配位子とは、中心金属から引き離されたときに負の電荷を持つ配位子である。
アニオン性配位子としては、特に制約はなく、例えば、ハロゲン原子、水素、アセチルアセトン、ジケトネート基、置換シクロペンタジエニル基、置換アリル基、アルケニル基、アルキル基、アリール基、アルコキシル基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルキルスルフォネート基、アリールスルフォネート基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アルキルスルホニル基、アルキルスルフィニル基等が挙げられる。
【0028】
これらの中でも、安定な遷移金属錯体を形成するには、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシル基、アリールオキシ基が好ましい。
【0029】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等が挙げられ、アリール基としてはフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられ、アルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、t−ブトキシ基等が挙げられ、アリールオキシ基としてはベンジルオキシ基等が挙げられる。
bは1〜4の整数であり、bが2以上のとき、複数のXは同一でも相異なっていてもよい。
【0030】
は、2価〜6価の連結基を表す。連結基とは、式:−N=M(L(Xで表される基を互いに連結する基である。
の2価〜6価の連結基としては、式:−N=M(L(Xで表される基を互いに連結する基であれば特に制限されないが、合成が容易で、安定な遷移金属錯体が得られることから、2価〜4価の炭化水素基が好ましい。2価〜4価の炭化水素基の炭素数は特に制限されないが、1〜20が好ましい。
【0031】
2価〜4価の炭化水素基としては、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、これらの組み合わせ等の2価の炭化水素基;アルカントリイル基等の3価の炭化水素基;等が挙げられる。これらの2価以上の炭化水素基は、アルキル基、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びケイ素原子から選ばれる原子を含む官能基を有していてもよい。
【0032】
cは2〜6の整数であり、安定な遷移金属錯体が得られることから、好ましくは2又は3、特に好ましくは2である。Yが連結する複数の式:−N=M(L(Xで表される基は、同一であっても相異なっていてもよい。
【0033】
前記式(1)で表される遷移金属錯体の具体例としては、下記式(2)、(3)、(4)で表される化合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
【化4】

【0035】
【化5】

【0036】
【化6】

【0037】
本発明の遷移金属イミド錯体は、取り扱いが容易であり、後述するように環状オレフィンの開環重合用触媒として好適に用いることができる。
【0038】
(2)遷移金属イミド錯体の製造方法
本発明の遷移金属イミド錯体の製造方法は、第6族遷移金属オキシ化合物と、ポリイソシアネートとを反応させることを特徴とする。本発明の遷移金属イミド錯体の製造方法によって、本発明の遷移金属イミド錯体を効率よく製造することができる。
【0039】
出発原料に用いる第6族遷移金属オキシ化合物としては、W、Mo、Cr等の第6族遷移金属に少なくとも1つの酸素原子が結合した化合物であれば特に制約はない。なかでも、簡便に遷移金属イミド錯体が得られることから、式:M(=O)(L(Xで表される化合物が好ましい。式中、M、L、X、a、bは、前記と同じ意味を表す。nは1〜4の整数であり、副反応を抑制できることから1又は2が好ましく、1がより好ましい。
【0040】
第6族遷移金属オキシ化合物の具体例としては、MoOCl、MoOCl、MoOCl、MoOBr、MoOF、MoOCl(OCH、MoOCl(OC、MoOBr(OCH、MoOBr(OC、MoOCl、MoOBr、MoOI、MoO、MoO、MoO等のモリブデンオキシ化合物;WOCl、WOCl、WOCl、WOBr、WOF、WOI、WOCl(OCH、WOCl(OC、WOBr(OCH、WOBr(OC、WOCl(O−t−C、WOCl(OC、WOBr(O−t−C、WOBr(OC、WOCl、WOBr、WO、WO、WO等のタングステンオキシ化合物;CrOCl、CrOBr、CrO、Cr等のクロムオキシ化合物;及びこれらの化合物に前記Lで表される中性配位子が配位した化合物;等が挙げられる。
これらの中でも、錯体を簡便に形成できることから、WOCl等のテトラハロゲノタングステンオキシ化合物、WOCl(OC等のジハロゲノジアルコキシタングステンオキシ化合物等が好ましい。
【0041】
第6族遷移金属オキシ化合物は、公知の合成法により製造することができる。例えば、WOClは、六塩化タングステン(WCl)と、シロキサン化合物、ケトン化合物等のオキシ化剤とを反応させて得ることができる(例えば、特開平5−345817号公報参照)。
【0042】
ポリイソシアネートとは、一分子中に複数のイソシアネート基(−N=C=O)を有する有機化合物である。本発明に用いるポリイソシアネートとしては、一分子中に2個のイソシアネート基を有するジイソシアネート、一分子中に3個のイソシアネート基を有するトリイソシアネートが好ましく、ジイソシアネートが特に好ましい。
本発明に用いるポリイソシアネートとしては、具体的には、式(5)
【0043】
【化7】

【0044】
で表される化合物が挙げられる。
前記式(5)中、Y及びcは前記と同じ意味を表す。
本発明に用いるポリイソシアネートとしては、より具体的には、1,4−フェニレンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート)、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート;等が挙げられる。
【0045】
本発明の遷移金属イミド錯体は、第6族遷移金属オキシ化合物とポリイソシアネートとを反応させることにより得られる。前記第6族遷移金属オキシ化合物とポリイソシアネートとの反応は、例えば、下記反応式で表すことができる。
【0046】
【化8】

【0047】
(式中、Y、M、L、X、a、b及びcは前記と同じ意味を表す。)
すなわち、式(6)で表される第6族遷移金属オキシ化合物と、式(5)で表されるポリイソシアネートとを反応させることにより、目的とする式(1)で表される本発明の遷移金属イミド錯体が得られる。
【0048】
前記第6族遷移金属オキシ化合物とポリイソシアネートとの反応は、通常、不活性ガス雰囲気下で両者を混合撹拌することにより行われる。
前記第6族遷移金属オキシ化合物とポリイソシアネートとを混合撹拌する方法は特に制約はないが、有機溶媒中で行うのが好ましい。
【0049】
用いる有機溶媒としては、前記第6族遷移金属オキシ化合物及びポリイソシアネートを溶解又は分散することができ、反応に影響しないものであれば特に限定されない。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等の含ハロゲン脂肪族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の含ハロゲン芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル等の含窒素炭化水素;ジエチルエ−テル、テトラヒドロフラン等の脂肪族エ−テル類;アニソール、フェネトール等の芳香族エーテル類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素;等が挙げられる。
【0050】
これらの中でも、前記第6族遷移金属オキシ化合物及びポリイソシアネートの溶解性に優れ、その後の開環重合反応を阻害しないので、工業的に汎用な芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素及び脂環族炭化水素が好ましい。
【0051】
第6族遷移金属オキシ化合物とポリイソシアネートとの混合割合は、第6族遷移金属オキシ化合物とポリイソシアネート中のイソシアネート基との割合(モル比)で、通常、1:1〜10:1、好ましくは1:1〜8:1、より好ましくは1:1〜5:1である。
第6族遷移金属オキシ化合物の使用量がポリイソシアネート中のイソシアネート基に対して1モル当量未満では、未反応のポリイソシアネートが残り、開環重合反応を阻害するおそれがあり、一方、10モル当量を超えると、未反応の第6族遷移金属オキシ化合物が開環重合反応に影響を及ぼし、副反応を引き起こすおそれがある。
【0052】
反応温度は特に限定されないが、通常0℃〜200℃、好ましくは20℃〜180℃、より好ましくは50℃〜150℃の範囲である。温度が低すぎると反応の進行が遅くなり、高すぎると副反応が起こったり、生成物が分解したりするので好ましくない。
また、第6族遷移金属オキシ化合物とポリイソシアネートの混合を低温で行い、その後、徐々に温度を上げて上記の温度範囲として反応させることもできる。
反応時間は特に限定されないが、通常1分〜1週間である。
【0053】
反応終了後は、通常の後処理操作を行い、目的とする遷移金属イミド錯体を単離することができる。遷移金属イミド錯体の単離方法としては、例えば、反応溶液を目的物が不溶の有機溶媒中に注いで析出させて単離する方法や、反応溶媒を留去することにより目的物を単離する方法等が挙げられる。
【0054】
また、得られる遷移金属イミド錯体を単離することなく、反応溶液をそのまま後述する環状オレフィンの開環重合用触媒として用いることもできる。
さらに、第6族遷移金属オキシ化合物を、前述のように遷移金属化合物とオキシ化剤とを反応させて合成する場合、第6族遷移金属オキシ化合物を単離することなく、得られる反応溶液にポリイソシアネートを添加して反応させて遷移金属イミド錯体を合成し、同様に遷移金属イミド錯体を単離することなく、得られる反応溶液をそのまま開環重合用触媒として用いることもできる。
【0055】
得られる本発明の遷移金属イミド錯体は、H−NMRスペクトル測定や元素分析等の公知の分析手段により、その構造を同定することができる。
【0056】
(3)開環重合用触媒
本発明の環状オレフィンの開環重合用触媒は、本発明の遷移金属イミド錯体を含有することを特徴とする。
本発明の遷移金属イミド錯体は、単独でも触媒活性を示すが、活性化剤と組み合わせることにより、より高活性な重合用触媒となり得る。
【0057】
活性化剤としては、炭素数1〜20の炭化水素基を有する、周期表第1、2、12、13、14族の金属の有機金属化合物を挙げることができる。なかでも、有機リチウム化合物、有機マグネシウム化合物、有機亜鉛化合物、有機アルミニウム化合物、有機スズ化合物が好ましく、有機リチウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機スズ化合物が特に好ましい。
【0058】
有機リチウム化合物としては、n−ブチルリチウム、メチルリチウム、フェニルリチウム、ネオペンチルリチウム、ネオフィルリチウム等が挙げられる。
有機マグネシウム化合物としては、ブチルエチルマグネシウム、ブチルオクチルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、エチルマグネシウムクロリド、n−ブチルマグネシウムクロリド、アリルマグネシウムブロミド、ネオペンチルマグネシウムクロリド、ネオフィルマグネシウムクロリド等が挙げられる。
有機亜鉛化合物としては、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジフェニル亜鉛等が挙げられる。
【0059】
有機アルミニウム化合物としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のアルキルアルミニウム;ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド等のアルキルアルミニウムハライド;ジエチルアルミニウムエトキシド、エチルアルミニウムジエトキシド等のアルミニウムオキシ化合物;これらの有機アルミニウム化合物と水との反応によって得られる従来公知のアルミノキサン;等が挙げられる。
有機スズ化合物としては、テトラメチルスズ、テトラ(n−ブチル)スズ、テトラフェニルスズ等を挙げることができる。
【0060】
活性化剤の添加量は、用いる活性化剤によるが、用いる遷移金属イミド錯体の中心金属1モルに対して、通常0.1〜1,000モル、好ましくは0.2〜500モル、より好ましくは0.5〜200モルである。添加量が0.1倍モル未満では重合活性が向上せず、1,000倍モルを超えると副反応が起こりやすくなる。
【0061】
本発明の開環重合用触媒には、重合速度や得られる開環重合体の分子量分布を制御することを目的として、さらに第三成分としてルイス塩基を添加することが好ましい。
ルイス塩基としては、特に制約はないが、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;トリエチルアミン、N,N−ジエチルアニリン等のアミン類;ピリジン、ルチジン等のピリジン類;トリフェニルホスフィン等のホスフィン類;ジメチルホルムアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;トリフェニルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド類;エチルアセテート等のエステル類;等が挙げられる。
これらの中でも、エーテル類、ピリジン類、ニトリル類が好ましい。
【0062】
ルイス塩基の添加量は、用いる遷移金属イミド錯体の中心金属1モルに対して、通常0.1〜1,000モル、好ましくは0.2〜500モル、より好ましくは0.5〜200モルである。
【0063】
2)環状オレフィンの開環重合体の製造方法
本発明の、環状オレフィンを開環重合する環状オレフィン開環重合体の製造方法は、前記本発明の遷移金属イミド錯体を含有する本発明の開環重合用触媒の存在下で行われる。
(1)環状オレフィン
開環重合に用いられる環状オレフィンは、環構造内に一つ以上の非共役の炭素−炭素二重結合を有する化合物である。例えば、単環の環状オレフィン、ノルボルネン系単量体が挙げられる。
【0064】
単環の環状オレフィンとしては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン等のシクロオレフィン類等が挙げられる。これらの単環の環状オレフィンは、一又は二以上の置換基を有していてもよい。置換基としては、特に制限されないが、メチル基等のアルキル基;フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;等が挙げられる。
ノルボルネン系単量体は、式(7)
【0065】
【化9】

【0066】
で表されるノルボルネン構造を有する化合物である。
ノルボルネン系単量体としては、分子内にノルボルネン環と縮合する環を有しないノルボルネン系単量体、及び3環以上の多環式ノルボルネン系単量体等が挙げられる。
【0067】
前記分子内にノルボルネン環と縮合する環を有しないノルボルネン系単量体の具体例としては、ノルボルネン、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン、5−ブチルノルボルネン、5−ヘキシルノルボルネン、5−デシルノルボルネン、5−シクロヘキシルノルボルネン、5−シクロペンチルノルボルネン等の無置換又はアルキル基を有するノルボルネン類;5−エチリデンノルボルネン、5−ビニルノルボルネン、5−プロペニルノルボルネン、5−シクロヘキセニルノルボルネン、5−シクロペンテニルノルボルネン等のアルケニル基を有するノルボルネン類;5−フェニルノルボルネン等の芳香環を有するノルボルネン類;5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−エトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−エトキシカルボニルノルボルネン、ノルボルネニル−2−メチルプロピオネイト、ノルボルネニル−2−メチルオクタネイト、5−ヒドロキシメチルノルボルネン、5,6−ジ(ヒドロキシメチル)ノルボルネン、5,5−ジ(ヒドロキシメチル)ノルボルネン、5−ヒドロキシ−i−プロピルノルボルネン、5,6−ジカルボキシノルボルネン、5−メトキシカルボニル−6−カルボキシノルボルネン等の酸素原子を含む極性基を有するノルボルネン類;5−シアノノルボルネン等の窒素原子を含む極性基を有するノルボルネン類;等が挙げられる。
【0068】
3環以上の多環式ノルボルネン系単量体とは、分子内にノルボルネン環と、該ノルボルネン環と縮合している1つ以上の環とを有するノルボルネン系単量体である。その具体例としては、下記に示す式(8)又は式(9)で示される単量体が挙げられる。
【0069】
【化10】

【0070】
(式(8)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子;ハロゲン原子;置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基;又はケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む置換基;を表し、互いに結合して環を形成していてもよい。Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜20の二価の炭化水素基である。)
【0071】
【化11】

【0072】
(式(9)中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子;ハロゲン原子;置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基;又はケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む置換基;を表し、RとRは互いに結合して環を形成していてもよい。mは1又は2である。)
【0073】
式(8)で示される単量体としては、具体的には、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン等が挙げられる。また、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9H−フルオレンともいう)、テトラシクロ[10.2.1.02,11.04,9]ペンタデカ−4,6,8,13−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9,9a,10−ヘキサヒドロアントラセンともいう)、等の芳香環を有するノルボルネン誘導体も挙げることができる。
【0074】
式(9)で示される単量体としては、mが1であるテトラシクロドデセン類、mが2であるヘキサシクロヘプタデセン類が挙げられる。
テトラシクロドデセン類の具体例としては、テトラシクロドデセン、8−メチルテトラシクロドデセン、8−エチルテトラシクロドデセン、8−シクロヘキシルテトラシクロドデセン、8−シクロペンチルテトラシクロドデセン等の無置換又はアルキル基を有するテトラシクロドデセン類;8−メチリデンテトラシクロドデセン、8−エチリデンテトラシクロドデセン、8−ビニルテトラシクロドデセン、8−プロペニルテトラシクロドデセン、8−シクロヘキセニルテトラシクロドデセン、8−シクロペンテニルテトラシクロドデセン等の環外に二重結合を有するテトラシクロドデセン類;8−フェニルテトラシクロドデセン等の芳香環を有するテトラシクロドデセン類;8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−ヒドロキシメチルテトラシクロドデセン、8−カルボキシテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸無水物等の酸素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−シアノテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸イミド等の窒素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−クロロテトラシクロドデセン等のハロゲン原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−トリメトキシシリルテトラシクロドデセン等のケイ素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類等が挙げられる。
【0075】
ヘキサシクロヘプタデセン類としては、前記のテトラシクロドデセン類とシクロペンタジエンとのディールズ・アルダー付加体をいずれも用いることができる。
これらのノルボルネン系単量体は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
また、これらの3環以上の多環式ノルボルネン系単量体には、エンド体とエキソ体の異性体が含まれるが、本発明に使用する単量体は、これら異性体の混合物であっても構わない。
【0076】
これらの中でも、本発明においては、機械的強度に優れた重合体が得られることから、ノルボルネン系単量体が好ましく、より機械的強度に優れる開環重合体を簡便に得られることから、ジシクロペンタジエンが特に好ましい。
【0077】
(2)開環重合の方法
開環重合は、前記遷移金属イミド錯体、所望により用いられる活性化剤、及び環状オレフィンを混合することによって行われる。
開環重合の方法としては、特に制限されず、例えば、塊状重合であっても溶液であってもよいが、本発明の開環重合触媒を使用することで、低分子量体の生成が少ない環状オレフィン重合体を製造できる利点が得られること、及び得られた開環重合体を連続的に水素化することで開環重合体水素化物を効率良く製造できること等から、溶液重合が好ましい。
【0078】
溶液重合は、前記遷移金属イミド錯体、所望により活性化剤、及び環状オレフィンを、溶媒中で混合することにより行われる。
用いる有機溶媒としては、開環重合反応に影響せず、得られる重合体が所定の条件で溶解もしくは分散できるものであれば、特に限定されないが、工業的に汎用なものが好ましい。
【0079】
例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系脂肪族炭化水素系溶媒;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系芳香族炭化水素系溶媒;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル等の含窒素炭化水素系溶媒;ジエチルエ−テル、テトラヒドロフラン等のエ−テル系溶媒;アニソール、フェネトール等の芳香族エーテル系溶媒;等が挙げられる。これらの中でも、工業的に汎用な芳香族炭化水素系溶媒や脂肪族炭化水素系溶媒、脂環族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族エーテル系溶媒が好ましい。
【0080】
前記遷移金属イミド錯体、所望により活性化剤、及び環状オレフィンを混合する順序は特に限定されない。例えば、活性化剤を用いる場合、遷移金属イミド錯体と活性化剤との混合物を環状オレフィンに添加して混合してもよいし、環状オレフィンと遷移金属イミド錯体との混合物に活性化剤を添加して混合してもよいし、環状オレフィンと活性化剤との混合物に遷移金属イミド錯体を添加して混合してもよい。第三成分としてルイス塩基を添加する場合は、上記のいずれの溶液に添加しても構わない。
【0081】
重合用触媒と環状オレフィンの使用割合は、重合用触媒中の第6族遷移金属:環状オレフィンが、モル比で、通常1:100〜1:2,000,000、好ましくは1:200〜1,000,000、より好ましくは1:500〜1:500,000である。触媒量が多すぎると触媒除去が困難となり、少なすぎると十分な重合活性が得られない。
【0082】
環状オレフィンの濃度は、溶液中1〜50重量%が好ましく、2〜45重量%がより好ましく、3〜40重量%が特に好ましい。単量体の濃度が1重量%より小さい場合は生産性が悪く、50重量%より大きい場合は重合後の溶液粘度が高くなりすぎて、取り扱いが不便となり、その後に水素化する場合、水素化反応が困難となる。
【0083】
重合温度は、特に制限はなく、通常、−30℃〜+200℃、好ましくは0℃〜180℃である。重合時間は、特に制限はなく、通常、1分間〜100時間である。
【0084】
開環重合においては、反応系に分子量調節剤を添加することができる。分子量調節剤を添加することで、得られる開環重合体の分子量を調整することができる。用いる分子量調節剤としては特に限定されず、従来公知のものが使用できる。例えば、ビニル化合物やジエン化合物が挙げられる。
【0085】
前記ビニル化合物としては、ビニル基を有する有機化合物であれば特に限定されないが、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィン類;スチレン、ビニルトルエン等のスチレン類;エチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のエーテル類;アリルクロライド等のハロゲン含有ビニル化合物;酢酸アリル、アリルアルコール、グリシジルメタクリレート等酸素含有ビニル化合物、アクリルアミド等の窒素含有ビニル化合物等を挙げることができる。
【0086】
ジエン化合物としては、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエン等の非共役ジエン;又は1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等の共役ジエン;等が挙げられる。
ビニル化合物又はジエン化合物の使用量は、目的とする開環重合体の分子量により、通常、環状オレフィンに対して、0.1〜10モル%の範囲で任意に選択することができる。
【0087】
得られる開環重合体の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量が、ポリスチレン換算で、5,000〜1,000,000であり、好ましくは7,000〜500,000、より好ましくは8,000〜400,000である。分子量が小さすぎると機械的強度が弱く、高すぎると重合溶液が高粘度となるため、取り扱いが困難となる。 また、得られる開環重合体のうち、分子量が2,000以下の成分の割合は、10%以下、好ましくは8%以下、より好ましくは5%以下である。
【0088】
得られる開環重合体は、耐熱性、透明性、低吸水性、耐薬品性、誘電特性、光学特性、剛性等の諸物性に優れるものであり、光学材料、医療用器材、電気絶縁材料、食品用器材等として、広範な分野で使用することができる。
【0089】
また、本発明の製造方法により得られる開環重合体は、さらに水素化反応に供することにより、光学材料等種々の用途に好適な、開環重合体水素化物とすることができる。
水素化反応は、開環重合体の主鎖中の炭素−炭素二重結合を飽和単結合に変換する反応で、水素化する方法としては、特に制約はなく、例えば、公知の水素化触媒の存在下に水素を導入する方法等が挙げられる。
【実施例】
【0090】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。実施例中の部及び%は、特に断りのない限り重量基準である。
なお、開環重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)、並びに分子量2,000以下の低分子量体の全重合体に対する割合は、ジクロロベンゼンを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により140℃で測定し、ポリスチレン換算値として求めた。
【0091】
[実施例1] 前記式(2)で表される化合物の合成
攪拌機付きガラス反応器に、室温で、オキシ四塩化タングステン(WOCl)1.50部と、オクタン50部を入れ、さらにジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート0.58部を添加して撹拌した。この混合物を徐々に加熱して、120℃で還流させながら24時間撹拌したところ、橙色沈殿物が生成した。
この沈殿物を濾取し、ペンタンで2回洗浄したのちに、ジエチルエーテルにて溶解・抽出し、溶液を不溶部から濾別した。得られた橙色透明溶液から溶媒を留去し、橙色粉末Aを得た。得られた橙色粉末Aの収量は2.1部であった。
【0092】
得られた橙色粉末Aの元素分析の結果は、炭素 27.6(wt%);水素 4.2(wt%);窒素 2.8(wt%);であった。
これらの元素組成は、式(2)で表される化合物の元素組成(炭素 28.1(wt%);水素 4.6(wt%);窒素 3.6(wt%))とほぼ一致した。
【0093】
以上の結果より、橙色粉末Aは、式(2)で表される化合物:ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ビス(イミドタングステン(VI)テトラクロリドジエチルエーテル)であることが確認できた。
【0094】
[実施例2] 前記式(2)で表される化合物を重合用触媒とする開環重合体の製造
攪拌機付きガラス製反応器に、実施例1で得た橙色粉末A 0.057部とシクロヘキサン1.0部を入れ、さらにジエチルアルミニウムエトキシド0.022部をヘキサン0.50部に溶解した溶液を添加して、室温で30分撹拌した。
得られた混合物に、ジシクロペンタジエン7.5部、シクロヘキサン27.0部、1−オクテン0.3部を添加し、50℃において重合反応を行った。重合反応開始後、徐々に溶液の粘度が上昇した。3時間反応後、重合反応液に大量のイソプロピルアルコールを注いで沈殿物を凝集させ、濾別洗浄後、40℃で24時間減圧乾燥した。得られた開環重合体の収量は1.7部であった。
【0095】
得られた開環重合体は、室温でシクロヘキサンに完全に溶解し、分子量は、Mn=11,000、Mw=39,000であり、分子量2,000以下の低分子量体の全重合体に対する割合は、ピーク面積比で1.0重量%であった。
【0096】
[実施例3] 前記式(3)で表される化合物の合成
ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート0.58部に代えて、イソホロンジイソシアネート0.49部を用いた他は、実施例1と同様にして反応を行った。反応後、系中に橙色沈殿物が生成していた。これを濾取し、ペンタンで2回洗浄したのちに、テトラヒドロフランにて溶解・抽出し、溶液を不溶部から濾別した。得られた橙色透明溶液から溶媒を留去し、橙色粉末Bを得た。得られた橙色粉末Bの収量は2.05部であった。
【0097】
橙色粉末Bの元素分析の結果は、炭素 23.4(wt%);水素 3.8(wt%);窒素 3.4(wt%);であった。
この元素組成は、式(3)で表される化合物の元素組成(炭素 22.5(wt%);水素 3.6(wt%);窒素 2.9(wt%))とほぼ一致した。
以上の結果より、橙色粉末Bは、式(3)で表される化合物であることが確認できた。
【0098】
[実施例4] 前記式(3)で表される化合物を重合用触媒とする開環重合体の製造
橙色粉末A 0.057部に代えて、実施例3で得た橙色粉末B 0.055部を用いたほかは、実施例2と同様にして開環重合体7.4部を得た。
得られた開環重合体は、室温でシクロヘキサンに完全に溶解し、分子量は、Mn=13,500、Mw=40,000であり、分子量2,000以下の低分子量体の全重合体に対する割合は、ピーク面積比で0.6重量%であった。
【0099】
[実施例5] 前記式(4)で表される化合物の合成
ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート0.58部に代えて、ヘキサメチレン−1,6−ジイシソアネート0.37部を用いた他は、実施例1と同様にして反応を行った。反応後、系中に橙色沈殿物が生成していた。これを濾取し、ペンタンで2回洗浄したのちに、テトラヒドロフランにて溶解・抽出し、溶液を不溶部から濾別した。得られた黄色透明溶液から溶媒を留去し、黄色粉末Cを得た。得られた黄色粉末Cの収量は1.75部であった。
【0100】
得られた黄色粉末Cの元素分析の結果は、炭素 18.9(wt%);水素 3.2(wt%);窒素 3.7(wt%);であった。
この元素組成は、式(4)で表される化合物の元素組成(炭素 18.5(wt%);水素 3.1(wt%);窒素 3.1(wt%))とほぼ一致した。
以上の結果より、黄色粉末Cは、式(4)で表される化合物であることが確認できた。
【0101】
[実施例6] 前記式(4)で表される化合物を重合用触媒とする開環重合体の製造
橙色粉末A 0.057部に代えて、実施例5で得た黄色粉末C 0.051部を用いたほかは実施例2と同様にして、開環重合体7.4部を得た。この開環重合体は、室温でシクロヘキサンに完全に溶解し、分子量は、Mn=12,000、Mw=36,000であり、分子量2,000以下の低分子量体の全重合体に対する割合は、ピーク面積比で0.6重量%であった。
【0102】
[比較例1] タングステンオキシテトラクロリドを重合用触媒とする開環重合体の製造
橙色粉末A 0.057部に代えて、タングステンオキシテトラクロリド0.023部を用いた以外は、実施例2と同様にして重合を行った。重合反応溶液を一部採取し、得られた重合体の分子量は、Mn=9,000、Mw=35,000であり、分子量2,000以下の低分子量体の全重合体に対する割合は、ピーク面積比で6.5重量%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表第6族遷移金属原子の複数個を含んでなる複核の遷移金属イミド錯体であって、該複数個の遷移金属原子が、複数個の金属イミド結合部位を有する配位子と、それぞれ金属イミド結合を形成してなる複核の遷移金属イミド錯体。
【請求項2】
式(1)
【化1】

(式中、Yは2価〜6価の連結基を表し、Mは周期律表第6族遷移金属原子を表し、Lは中性配位子を表し、Xはアニオン性配位子を表す。aは0〜2の整数であり、aが2のとき、2つのLは同一でも相異なっていてもよい。bは1〜4の整数であり、bが2以上のとき、複数のXは同一でも相異なっていてもよい。cは2〜6の整数であり、複数の式:−N=M(L(Xで表される基は、同一であっても相異なっていてもよい。)で表される化合物である請求項1に記載の複核の遷移金属イミド錯体。
【請求項3】
周期表第6族遷移金属オキシ化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させることを特徴とする請求項1または2に記載の遷移金属イミド錯体の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の遷移金属イミド錯体を含有することを特徴とする環状オレフィンの開環重合用触媒。
【請求項5】
さらに、活性化剤を含有する請求項4記載の環状オレフィンの開環重合用触媒。
【請求項6】
さらに、ルイス塩基を含有する請求項5記載の環状オレフィンの開環重合用触媒。
【請求項7】
請求項4〜6いずれかに記載の開環重合用触媒の存在下で、環状オレフィンを開環重合することを特徴とする環状オレフィン開環重合体の製造方法。
【請求項8】
前記環状オレフィンがジシクロペンタジエンである請求項7記載の環状オレフィン開環重合体の製造方法。








【公開番号】特開2006−143642(P2006−143642A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−335452(P2004−335452)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】