選択的細胞吸着除去装置およびその関連方法
本発明は、対象内の炎症性症状を治療および/または予防するシステムおよび装置ならびに関連方法に関する。より詳細には、本発明は、白血球および/または血小板を隔離し、その後それらの炎症作用を阻害するシステム、装置、および関連方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2007年8月31日に出願された米国特許仮出願第60/969,394号の恩典および優先権を主張し、この開示全体は参照により本明細書中で援用される。
【0002】
連邦支援の研究または開発に関する声明
本発明は、国立衛生研究所から与えられた助成金第DK080529号および第DK074289号の下、政府の援助と共に行われた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、対象内の炎症性症状を治療および/または予防するためのシステム、装置、ならびに方法に関する。より詳細には、本発明は、白血球および血小板のような、炎症と関連する細胞を隔離し、そしてその結果、それらの炎症性活性を低下させるシステム、装置、および関連方法に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
様々な医学的症状は、望ましくない炎症によって引き起こされ、悪化させられ、および/または特徴づけられる。感染、例えば、細菌性、ウイルス性、および真菌性感染;外傷、例えば、落下、自動車事故、銃およびナイフの創傷による外傷;心血管イベント、例えば、多くの場合手術と関連する動脈瘤や虚血性イベント;ならびに内因性の炎症反応、例えば、膵炎および腎炎は、多くの場合、心血管および免疫システムの機能の調節に関わる恒常性維持機構の深刻な機能障害をもたらす。虚血および感染のようなこれらの症状のうちのいくつかは、免疫システムの異常なまたは過剰な活性化を経て、数時間から数日かけて進行し得、心血管機能障害になり得、ある状況下では、生命を脅かし得るまたは致死的でさえあり得る。
【0005】
ある種の細胞型は、心血管および免疫システムの機能障害に対して重要な意味をもつ。例えば、白血球、特に好中球が、全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症、虚血/再灌流傷害およびARDSを含む、様々な炎症性症状の発症および進行の一因となる(例えば、Kaneider et al. (2006) FEBS J 273:4416-4424(非特許文献1); Maroszynska et al. (2000) Ann. Transplant. 5(4):5-11(非特許文献2)を参照されたい)。さらに、活性化血小板は白血球接着を増強し、かつ白血球活性化を促進する。炎症および全身性免疫反応は、ある状況において、有益であり得る一方、それらは致死的でもあり得る。
【0006】
臓器内の炎症性傷害により、血小板の活性化および凝集に加えて、白血球の活性化および凝集によって引き起こされる微小血管損傷になり得る。これらの活性化細胞は、患者の組織内に毒性化合物を放出することによって、微小血管閉塞および再灌流傷害の一因となり得る。急性の炎症において、活性化白血球および血小板は、血管内でゲル様構造として相互作用する。これは、通常毛細血管によって酸素および栄養が供給される組織の低灌流を引き起こす。さらに、活性化白血球は、内皮を越えて組織内に遊出することによって損傷を引き起こし、その場合、活性化白血球は、通常、侵入してくる微生物を破壊するかまたは壊死片を一掃するように意図された毒物を放出する。さらに、活性化血小板は、白血球の活性化および内皮移動を増強することによって損傷を引き起こす。これらの過程が制御されない場合、それらは組織傷害および死を引き起こし得る。
【0007】
SIRSは、アメリカ合衆国において、死亡の13番目の主要原因である。SIRSを伴う重篤な敗血症は、集中治療室や広範囲の抗生物質を使用したとしても、アメリカ合衆国において、30〜40%の死亡率で年間20万人の患者に生じる。SIRSは、主として、体温の上昇(発熱)または減少(低体温)、上昇した心拍(頻脈)、呼吸促迫(頻呼吸)、増加または減少した白血球数、ならびに組織および臓器の不十分な灌流のような観察された生理学的変化に基づいて診断される。血圧の低下はSIRSと関連する合併症で、その症候群の経過の後期に発症する。特に、血圧の低下はショック状態の進行を反映し得、かつ多臓器不全の一因となり得る。多臓器不全は、これらの患者において死亡の主要原因である。敗血症性ショックは、急速輸液および適切な心臓の血液排出にもかかわらず、感染および血圧降下があると臨床的に観察される症状である。類似の症状である敗血症症候群は、いかなるタイプの感染も見られない類似の生理学的シグナルを含む。敗血症に似た症状を引き起こす他の傷害は、膵炎、熱傷、虚血、多発性の外傷および組織傷害(多くの場合、手術および移植による)、出血性ショックならびに免疫介在性の臓器機能障害を含む。
【0008】
SIRSおよび敗血症性ショックに対する標準的な治療は、感染を制御するための抗生物質の投与および循環する血液量を保持するための輸液/コロイド療法を含む。ドーパミンおよびバソプレシンのような血圧を保持するのを助ける薬剤も投与されることが多い。
【0009】
心肺バイパス法(CPB)は、SIRSを強力に引き起こし、補体システムおよび凝固システムを活性化し、サイトカイン産生を刺激する。CPBの間、白血球の活性化および蓄積を制限するため、多数の治療アプローチが研究中である。実際、動物のデータおよび初期の臨床データは、CPB手術の間、白血球枯渇フィルターを使用することで、肺や腎臓の損傷が回復することを示唆している(例えば、Gu et al. (1996) J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 112:494-500(非特許文献3); Bolling et al. (1997) J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 113:1081-1090(非特許文献4); Tang et al. (2002) Ann. Thorac. Surg. 74:372-377(非特許文献5); Alaoja et al. (2006) J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 132:1339-1347(非特許文献6)を参照されたい)。しかしながら、透析は一過的な好中球減少を生じさせ得るように見える(Kaplow et al. (1968) JAMA 203:1135(非特許文献7)参照)。
【0010】
敗血症の治療におけるより標的化された療法を開発するための最近の戦略は、期待はずれである。さらに、新世代の抗敗血症剤の多数の分子はとても高価で、不都合な免疫学的反応および心血管反応を生み出し得、これらの反応のために、非菌血症性ショックのようないくつかの例では、それらの分子が禁忌となる。
【0011】
心血管ショック、敗血症、全身性炎症反応症候群およびアナフィラキシーのような炎症性症状の効果的な治療に対するニーズが依然として存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Kaneider et al. (2006) FEBS J 273:4416-4424
【非特許文献2】Maroszynska et al. (2000) Ann. Transplant. 5(4):5-11
【非特許文献3】Gu et al. (1996) J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 112:494-500
【非特許文献4】Bolling et al. (1997) J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 113:1081-1090
【非特許文献5】Tang et al. (2002) Ann. Thorac. Surg. 74:372-377
【非特許文献6】Alaoja et al. (2006) J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 132:1339-1347
【非特許文献7】Kaplow et al. (1968) JAMA 203:1135
【発明の概要】
【0013】
対象における炎症性症状は、一部は、白血球および血小板のような、炎症と関連する細胞の活性化から生じる。本発明は、白血球または血小板を隔離し、これらの炎症作用を阻害するかまたは失活させることによって、この症状を治療および/または予防するためのシステム、装置、ならびに方法に関する。本発明のシステム、装置、および方法は、体外で、白血球および血小板の一方または両方を隔離し、これらの炎症作用を阻害する。例えば、これらの細胞を失活させることができ、および/またはこれらの細胞が炎症誘発性物質を放出するのを阻害することができる。本発明を実施するための多くの方法があるが、1つのアプローチは、白血球および血小板の一方または両方を、これらの細胞が結合し得る表面を提供し、かつ細胞を失活させるおよび/または炎症誘発性物質の放出を阻害することができる薬剤を提供する装置の内部に隔離することである。1つの限定されない実施形態において、該装置は中空繊維を含み、細胞がこれらの繊維の外側と結合する。細胞を失活させるため、および/または炎症誘発性物質の放出を防ぐためにクエン酸塩が提供される。本発明のこのまたは他の実施形態を使用して行われる実験は、対象の生存を最大限にすることにおいて前例のない、驚くべき成功を提供する。これらの結果は、広範な炎症性疾患および症状に対して、本発明のシステム、装置、および方法の説得力のある有用性を実証する。
【0014】
従って、一態様では、本発明は、生体試料が装置を通って流れることができる通路を画定し、試料由来の1つまたは複数の白血球を隔離するように構成された領域を含む装置を含む、白血球を処置するシステムを提供する。該システムは、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害することができるかまたは白血球を失活させることができる薬剤も含む。
【0015】
本発明のこの態様は、1つまたは複数の以下の特徴を有し得る。白血球は活性化および/またはプライミングされ得る。該システムは、さらに、通路を画定する装置と直列の第2の装置を含み得る。該薬剤は通路の表面に結合され得る。ある状況において、該薬剤は、通路に注入され得る。該薬剤は、免疫抑制剤、セリン白血球阻害剤、一酸化窒素、多形核白血球阻害因子、分泌性白血球阻害因子、およびカルシウムキレート剤を含み得る。ここで、該カルシウムキレート剤は、クエン酸塩、ヘキサメタリン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、o-フェナントロリン、またはシュウ酸であり得る。しかしながら、該薬剤は、好ましくは、クエン酸塩のようなカルシウムキレート剤である。
【0016】
白血球を隔離するように構成された領域は、膜を含み得る。該膜は、多孔質、半多孔質、もしくは非多孔質であり得、および/または該膜は約0.2m2を超える表面積を有し得る。白血球を隔離するように構成された領域は、該領域内のせん断力が、血液または体液の別の成分よりも長く、該領域に白血球をとどめることができるのに十分低いように構成され得る。例えば、白血球を隔離するように構成された領域内のせん断力は、約1000ダイン/cm2未満であり得る。あるいはおよび/または併せて、白血球を隔離するように構成された領域は、血液または体液の別の成分よりも長く、該領域に白血球をとどめることができる細胞接着分子を含み得る。
【0017】
別の態様において、本発明は体液内に含まれる白血球を処理する方法を提供する。本方法は、(a)プライミングもしくは活性化された白血球を体外で隔離し、(b)白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させるために、白血球を処置することを含む。本発明のこの態様は、1つまたは複数の以下の特徴を有し得る。白血球は、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させるのに十分な時間、および/または長時間、および/または少なくとも1時間、隔離され得る。該方法は、ステップ(b)で生成された白血球を対象に戻すステップを、さらに含み得る。ステップ(b)において、カルシウムキレート剤は、炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させるために使用され得る。ステップ(a)は、白血球を隔離するように構成された領域を含む通路を画定する装置を使用することによって実施され得る。
【0018】
別の態様において、本発明は、炎症性症状を有するかまたは炎症性症状を発症するリスクのある対象を治療するための方法を提供する。該方法は、(a)プライミングまたは活性化された白血球を対象から体外で隔離すること、および(b)炎症性症状と関連する炎症を緩和するために、または炎症性症状と関連する炎症を発症するリスクを軽減するために、白血球を処置することを含む。本方法が治療し得る炎症性症状は、全身性炎症反応症候群(SIRS)、心肺バイパス症候群(cardiopulmonary bypass syndrome)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、敗血症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、同種移植片拒絶、喘息、慢性腎不全、心腎症候群(cardiorenal syndrome)、肝腎症候群、心筋、中枢神経系、肝臓、腎臓、または膵臓への虚血再灌流傷害による急性臓器不全、および毒性傷害、例えば、化学療法による急性臓器不全を含むが、これらに限定されない。ステップ(a)は、白血球を隔離するように構成された領域を含む通路を画定する装置を使用することによって実施され得る。
【0019】
本発明のシステム、装置、および方法は、特定の種類または性質の白血球阻害剤に限定されない。いくつかの実施形態において、白血球阻害剤は、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させることができる任意の薬剤である。白血球阻害剤の例として、免疫抑制剤、セリン白血球阻害剤、一酸化窒素、多形核白血球阻害因子、および分泌性白血球阻害剤が挙げられるが、それらに限定されない。いくつかの実施形態において、白血球阻害剤はカルシウムキレート剤(例えばクエン酸塩)である。本発明は、特定の種類または性質のカルシウムキレート剤に限定されない。このカルシウムキレート剤は、クエン酸塩、ヘキサメタリン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、o-フェナントロリン、シュウ酸などを含むがそれらに限定されない。
【0020】
本発明の任意の上記の態様または実施形態は、血小板(例えば、活性化血小板)、白血球と血小板の組み合わせ、または炎症と関連する細胞の隔離および失活または阻害に等しく適用され得るということが理解される。従って、別の態様において、本発明は、炎症性症状を有するかまたは炎症性症状を発症するリスクのある対象を治療するための方法を提供する。該方法は、(a)プライミングされたまたは活性化された、炎症と関連する細胞を対象から体外で選択的に隔離すること、および(b)炎症性症状と関連する炎症を緩和するために、または炎症性症状と関連する炎症を発症するリスクを軽減するために、該細胞を処置することを含む。いくつかの実施形態において、炎症と関連する活性化細胞は、血小板および白血球から成る群から選択され得る。いくつかの実施形態において、炎症と関連するプライミングされた細胞は白血球である。
【0021】
本発明の異なる態様の下で記載された実施形態を含む、本発明の異なる実施形態は、一般的に、本発明の全ての態様に適用可能であると意図されることが理解されるべきである。任意の実施形態は、不適切ではない限り、任意の他の実施形態と組み合わせられ得る。全ての実施例は一例であって、限定するものではない。
【0022】
本発明の前述の態様および実施形態は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲を参照することにより、より完全に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のシステムにおける装置の例示的な実施形態の断面の模式図である。図1において、(1)対象の血液由来のプライミングされた白血球は、(2)システム内の上流の装置、例えば、血液濾過装置によって活性化される。この上流の装置において、血液は中空チャンバーの内部空間を通って流れ、限外濾過液(UF)はチャンバーの壁を通って濾過される。第1の装置を出ると、血液はその後、中空繊維の外側に沿って、第2の装置、例えば、選択的細胞吸着除去抑制装置(selective cytopheresis inhibitory device、SCID)の内部に流れる一方、UFは中空繊維の内部空間を通って流れる。中空繊維の外側に沿って流れる血液は、(3)例えば、中空繊維の外部表面に接着することによって、血液中の白血球が隔離されることができる状態にさらされ、それによって(4)イオン化されたカルシウム(Cai)を減少させる白血球阻害剤、例えば、クエン酸塩を用いて白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害および/または白血球の失活を促進する。
【図2】(図2A)システム内の唯一の装置であり、両末端が蓋をされている毛細管内の空間(ICS)を含むSCID 555を含む本発明のシステムの実施形態の概略図である。(図2B)限外濾過液(UF)が、ICSの一端のみ蓋をされているSCID 655から回収されることを除いて、図2Aと類似した実施形態の概略図である。(図2C)第1の装置、例えば、血液濾過装置210、および両末端が蓋をされているICS を含むSCID555を含む本発明のシステムの実施形態の概略図である。(図2D)限外濾過液(UF)が、ICSの一端のみ蓋をされているSCID 655から回収されることを除いて、図2Cと類似した実施形態の概略図である。
【図3】ICS上に蓋のないSCID 755を含む本発明のシステムの実施形態の概略図である。
【図4】(図4A〜4F)CPB回路内で利用される本発明のシステム構成の実施形態の概略図である。図4A〜4Cにおいて両末端(図4Aと4B)が蓋をされているICSを有するSCID555、または一端が蓋をされているSCDI655によって処置された血液は、静脈の貯留槽450および酸素供給器460の前の回路の部分に再循環させられる。図4D〜4Fにおいて両末端が蓋をされているICSを有するSCID555によって処置された血液は、酸素供給器460の次の回路部分にある血液と再度組み合わせられる。HF/HCは血液フィルター/血液濃縮器を表し、Pはポンプ504を表し、UFは限外濾過液を回収するための貯留槽を表す。
【図5】両末端が蓋をされているICSを有する本発明のSCID555の実施形態の概略図を示す。
【図6】一端が蓋をされているICSを有する本発明のSCID655の実施形態の概略図を示す。
【図7】どちらも蓋がされていない、ICS入口745およびICS出口746を有する本発明のSCID755の実施形態の概略図を示す。
【図8】本発明のSCID855のさらなる実施形態を示す。
【図9】実施例1で記載されたような、本発明のシステムで処置されたブタモデル群についての動脈圧平均値を示す。
【図10】実施例1で記載されたような、本発明のシステムで処置されたブタモデル群についての心拍出量を示す。
【図11】実施例1で記載されたような、本発明のシステムで処置されたブタモデル群についてのヘマトクリット値を示す。
【図12】実施例1で記載されたような、本発明のシステムで処置されたブタモデル群についての生存曲線を示す。
【図13】実施例1で記載されたような、各動物群(各群についてn=2〜3)の細菌攻撃後のSCIDへの曝露時間と共に平均の全白血球数を示す。
【図14】(図14A〜14D)3匹の異なる動物の、H&Eで染色した中空繊維膜を含むSCIDの光学顕微鏡写真を示す。(図14A)各中空繊維の周りの接着細胞を示す低倍率の顕微鏡写真である(160×)。(図14Bおよび14C)中空繊維の外部表面に沿ってクラスターを形成している白血球を示す高倍率の顕微鏡写真である(400×)。(図14D)接着細胞クラスターの中の単核細胞と共に多形核細胞を主に示す高倍率の顕微鏡写真である(1600×)。
【図15】SCIDおよびクエン酸塩処置またはヘパリン処置のいずれかで処置された対象における生存率の違いを示すグラフである。
【図16】(図16Aおよび16B)本発明の1ポンプおよび2ポンプシステム構成における、白血球(WBC)および好中球の数をそれぞれ比較しているグラフである。
【図17】本発明のシステム構成の2つの例示的な実施形態における血小板の量を示すグラフである。
【図18】SCIDおよびクエン酸塩またはSCIDおよびヘパリンのいずれかで処置された動物における、平均ミエロペルオキシダーゼ(MPO)値を示すグラフである。
【図19】SCIDおよびクエン酸塩またはSCIDおよびヘパリンのいずれかで処置された動物における、好中球の内皮への結合に関与する好中球膜タンパク質であるCD11bの発現を示すグラフである。
【図20】SCIDおよびクエン酸塩またはSCIDおよびヘパリンのいずれかで処置された動物における、本発明によるシステムの動脈および静脈のラインに存在する好中球数を示すグラフである。
【図21】SCIDおよびクエン酸塩またはSCIDおよびヘパリンのいずれかで処置された動物における、生存している敗血症動物のパーセンテージを時間の関数として示すグラフである。
【図22】(図22A〜22F)心肺バイパス手術が施され、SCIDおよびクエン酸塩を含む本発明のシステムで処置された動物における、全身の全白血球(WBC)、好中球、リンパ球、単球、好酸球、血小板の濃度をそれぞれ示すグラフである
【図23】(図23A〜23B)心肺バイパス手術が施され、SCIDおよびクエン酸塩を含む本発明のシステムで処置された動物における、全身のCaiおよび回路Caiの示すそれぞれのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
詳細な説明
炎症と関連する細胞、例えば白血球(leukocyteまたはwhite blood cell)および血小板は、通常、感染や傷害に対して身体を守る。しかしながら、多くの病態および医療処置はこれらの細胞を活性化および/またはプライミングし得、それによって今度は、致死的になり得る望まない免疫反応および炎症反応が生じ得る。本発明は、対象内の炎症性症状を治療および/または予防するように構成されたシステムおよび装置、ならびに関連方法に関する。本発明のシステム、装置、および方法は、白血球および血小板の一方または両方を体外で隔離し、かつそれらの炎症作用を阻害する。特に、本発明は、白血球、例えば活性化および/またはプライミングされた白血球を隔離し、それらを対象に戻す前に、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させるためのシステム、装置、および方法を含む。本発明は、炎症と関連する他の種類の細胞、例えば、血小板(例えば、活性化血小板)を隔離し、それらを対象に戻す前に、これらの細胞からの炎症誘発性物質の放出を阻害するためのシステム、装置、および方法も含む。
【0025】
本発明を実施するための多くの方法があるが、1つの方法は、白血球および血小板が結合し得る表面を提供する装置の内部に、白血球および血小板の一方または両方を隔離すること、ならびにそれらの細胞を失活させることができるおよび/または炎症誘発性物質の放出を阻害することができる薬剤を提供することである。1つの限定されない実施形態において、この装置は中空繊維を含み、これらの細胞はこれらの繊維の外部と結合する。クエン酸塩は、これらの細胞を失活させるおよび/または炎症誘発性物質の放出を防ぐために提供される。本発明は本明細書で血液に関して記載されているが、本発明は、体外回路を通って流れ得る任意の生体試料、例えばこれらの細胞を含む対象の身体由来の任意の体液に適用可能である。例示的な体外回路は、例えば、米国特許第6,561,997号に記載されている。
【0026】
1.概要
本発明のシステム、装置、および方法は、特定の装置およびシステム構成が、活性化および/またはプライミングされた白血球を隔離することができるだけでなく、それらの炎症性活性を阻害し、それによって、敗血症およびSIRSのような炎症性疾患ならびに症状の多臓器への影響を低減することもできるという予期せぬ観察から生まれた。これらの急性的な影響は、末期腎疾患(ESRD)と関連する慢性の炎症誘発性状態のような慢性の炎症誘発性状態にも影響を与え得る。これらのシステム、装置、および方法は、血小板の効果的な隔離も示した。本発明の実施形態を用いて行われる実験は、対象の生存の最大化において前例のない驚くべき成功を提供し(例えば、実施例3参照)、広範な疾患および症状にわたるこれらのシステム、装置、ならびに方法の、治療用途、診断用途、および研究用途に対する説得力のある有用性を実証する。
【0027】
1つの例示的な実施形態の概略図を図1に示す。示されているように、血液は第1の装置にかけられる。その後、白血球は活性化(および/またはプライミング)されるようになる。その後、活性化(および/またはプライミング)された白血球は、一般的に選択的細胞吸着除去抑制装置(SCID)と称される装置に入り、その中で、活性化された白血球は隔離される。第1の装置によって活性化させられるというよりむしろ、白血球は、対象の一次症状の結果としてまたは他の種類の医学的介入に続発した結果として活性化(および/またはプライミング)され得るということが理解される。
【0028】
言いかえれば、SCIDの中で、血液由来の活性化(および/またはプライミング)された白血球は、例えば、SCID内部の1つまたは複数の表面に一時的に接着することによって隔離される。白血球の隔離は様々なアプローチ、例えば、白血球、例えば、活性化および/もしくはプライミングされた白血球と結合する分子とSCID内の通路または通路領域内で会合させることによって、または白血球に低いせん断応力を提供し、SCID内の1つまたは複数の表面にそれらが結合できるように装置内で血液の流れを設定することによって達成され得る。その後、これらの隔離された白血球は、白血球を失活させるまたはそれらの炎症誘発性物質の放出を阻害する薬剤、例えば、クエン酸塩にさらされる。これらのシステムおよび装置は、他の細胞型、例えば、血小板にも適用することができる。
【0029】
理論に拘束されるわけではないが、カルシウムキレート剤、例えば、クエン酸塩は、装置内に低Cai環境をもたらし、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させると考えられている。炎症誘発性物質は、白血球由来の破壊酵素および/またはサイトカインを含み得る。この阻害および/または失活は、白血球の炎症状態の改善をもたらす。このように、図1に示される例示的な実施形態(および本発明の他の実施形態)において、SCIDは白血球、例えば、好中球および単球を隔離し、ならびに、例えば、クエン酸塩および/または低いCai環境を用いて、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させる。血小板の隔離ならびに阻害および/または失活は、類似の方法で達成され得る。
【0030】
クエン酸のようなカルシウムキレート剤の、白血球を隔離する中空繊維を含むハウジング(housing)を含む本発明の装置への添加は、対象の先天性の免疫システムを改善するという予期せぬ結果を有することが実証された。従って、本発明のシステム、装置、および方法は、白血球(例えば、活性化および/もしくはプライミングされた白血球)または血小板(例えば、活性化血小板)を含む対象の血液を直接処置することによって、様々な炎症性症状(一次病態としてまたは医学的介入の結果としてのいずれか)を治療または予防することができる。処置後、血液は対象に戻される。
【0031】
さらに、白血球または血小板(例えば、活性化白血球、プライミングされた白血球、または活性化血小板)を隔離する、ならびにそのような細胞を失活させるかもしくはそのような細胞が炎症誘発性物質を放出するのを防ぐ任意の方法、装置、またはシステムが用いられ得る。従って、以下の節では、(1)炎症性症状を治療するために使用され得るシステムの構成、(2)炎症と関連する細胞が隔離され得る方法の例、(3)そのような細胞が失活され得るおよび/または炎症誘発性物質を放出しないようにさせられ得る方法の例、ならびに(4)本明細書に記載の方法、装置、およびシステムを用いて治療され得る炎症性症状について記載する。以下の節の議論は、一般的に、特定の細胞型(例えば、白血球)の隔離ならびに阻害および/または失活を記載するが、同じ原理が炎症と関連する他の細胞型(例えば、活性化血小板のような血小板)の隔離ならびに阻害および/または失活に適用されるということが理解される。
【0032】
2.システム構成
本明細書で使用されるように、「細胞吸着除去(cytopheresis)」または「選択的細胞吸着除去」という用語は、血液からの特定の粒子の隔離を表す。選択的細胞吸着除去は、特定の細胞、例えば、白血球(例えば、活性化および/もしくはプライミングされた白血球)または血小板(例えば、活性化血小板)を、そのような細胞からの炎症誘発性物質の放出の阻害および/またはそのような細胞の失活を促進する目的のために、血液から隔離するために使用される。そのような阻害および/または失活は、隔離の前、隔離の間、および/または隔離の後に起こり得ると理解されるべきである。
【0033】
「選択的細胞吸着除去装置」、「選択的細胞吸着除去抑制装置」、「SCD」、および「SCID」は、特定の細胞、例えば、白血球(例えば、活性化および/もしくはプライミングされた白血球)または血小板(例えば、活性化血小板)を隔離する本発明の実施形態を表す。これらの実施形態は、隔離の前、隔離の間、および/または隔離の後に、そのような細胞からの炎症誘発性物質の放出を失活ならびに/または阻害することもできる。
【0034】
本発明のシステムは、選択的細胞吸着除去を遂行するように構成される。基本形状において、該システムは、SCID、血液源(例えば、対象(例えば、患者))からSCIDへ血液が流れるための流体接続、およびSCIDから貯蔵所(receptacle)へ(例えば、もとの対象へ)処置された血液が流れるための流体接続を含む。該SCIDは、白血球、例えば、活性化および/またはプライミングされた白血球を隔離する、ならびに白血球からの炎症誘発性物質の放出阻害を促進するおよび/または白血球を失活するように作用する。白血球の隔離は、以下の第3節に記載される任意の技術によって達成され得る。白血球からの炎症誘発性物質の放出阻害および/または白血球の失活は、以下の第4節に記載される任意の技術によって達成され得る。
【0035】
いくつかの実施形態において、システムは、追加の処置装置なしに、任意で他の血液処置も実施することができるSCIDを含み得る。例えば、図2A〜2Bおよび図8参照。システムの他の実施形態は、血液を処置する追加の装置に加えて、任意で他の血液処置も実施することができるSCIDを含み得る。例えば、図2C〜2Dおよび図4A〜4F参照。例えば、追加の装置は、血液がSCIDに入る前または後に、血液を濾過するか、酸化するか、または別の方法で処置し得る。さらに、システム内のSCIDおよび/もしくは追加の装置は、他のまたは補足的な方法で血液を処置するための2つ以上の構成要素、例えば、多孔質フィルター、酸素ポンプ、および/または異種移植細胞もしくは同種移植細胞(例えば、尿細管細胞のような異種移植腎細胞もしくは同種移植腎細胞)を含み得る。いくつかの実施形態において、該装置または選択的細胞吸着除去を促進するシステム内の装置には、そのような追加の構成要素が含まれない。例えば、本発明のSCIDは、異種移植細胞または同種移植細胞(異種移植腎細胞または同種移植腎細胞)のような細胞が含まれなくてもよい。これらの基本原理を、以下により詳細に記載する。
【0036】
2.A.単一装置システム
述べたように、システムは、選択的細胞吸着除去、および任意でシステム内の追加の処置装置なしに、他の血液処置を遂行するためのSCIDを含み得る(図2A〜2B)。そのようなSCIDの一実施形態を、概略的に図5に示す。図5において、SCID555は、複数の多孔質膜(中空繊維552)を含む(明確にするため1つだけがラベルされている)。これらの繊維内の管腔空間は、毛細管内の空間(「ICS」)540と呼ばれる。この実施形態において、ICS入口およびICS出口は、蓋544がされている。中空繊維552を囲み、SCID555のハウジング554の内部にある空間542は、毛細管外の空間(「ECS」)と呼ばれる。白血球を含む血液はECS入口548に入り、繊維552を囲むECS542に移る(すなわち、通路に移る)。白血球は装置内、例えば、中空繊維552の外部表面で隔離され、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させることができる薬剤、例えば、クエン酸塩にさらされる。該薬剤は、ECS入口548の上流のラインに注入され得る、またはポートを通ってSCIDそれ自体に注入されてもよい。あるいは、またはさらに、該SCIDは、SCIDを使用する前に、薬剤と共に準備され得る。ECS542内の流速は、白血球を結合させる繊維552の表面で(本明細書に記載される範囲の)低いせん断力が発生するように、本明細書に記載される範囲で選択される。このようにして、白血球の阻害および/または失活は、達成または開始される。その後、ECS内の血液は、ECS出口550を通ってSCIDを出て、流出ラインに入る。
【0037】
図2Aは、本発明による回路の図5の例示的なSCID555を示す。対象由来の血液は、血液ラインに入り、ポンプ204を通ってそのラインを移動する。同じ血液ライン上に、白血球阻害剤(例えば、クエン酸塩)が、ポート206で、任意でポンプを使用して、注入され得る。その後、血液ライン内の血液はECS入口548に入り、ECS出口550でSCID555を出る。ECS入口548および出口550で血液ラインは、それぞれ、血液ラインコネクタを使用して、ロッキング機構256に取り付けられる。白血球は、中空繊維552の外部表面でECS542 内に隔離される。ECS出口550からの血液流出ラインは、血液を対象に戻す。別の薬剤、例えば、カルシウム(例えば、塩化カルシウムまたはグルコン酸カルシウム)は、対象に再入する血液を準備するために、この血液流出ライン上のポート258で注入され得る。特定の実施形態において、ICSは、さらに血液処置を助けるために各繊維のICS540の内層で単層培養された異種移植細胞または同種移植細胞、例えば、尿細管細胞を含み得る。しかしながら、別の実施形態において、ICSは細胞を含まない。図2Aの回路内において、SCID555の内腔540は、生理食塩水で満たされる。
【0038】
図2Bが図6に示されるSCID655を利用すること、および限外濾過液がこのSCID655によって生成されることを除いて、図2Bの回路は図2Aと同じ構成要素を含み、同じ方法で作動する。SCID655は、中空繊維652である多数の多孔質膜を含む。繊維内の管腔空間はICS640で、繊維652の外側にありかつSCIDハウジング654内にある周囲空間はECS642である。白血球を含む血液は、ECS入口648に入り、繊維652を囲むECS642に移動し、ECS出口650で出る。白血球の隔離ならびに阻害および/または失活は、上記のように達成され得る。しかしながら、SCID655において、ICS入口のみ蓋644がされる。ICS出口646は蓋がされない。従って、多孔質の中空繊維652の特性(例えば、透過性および細孔径)に依存して、ECS642内の血液の一部が、中空繊維652を通過し、限外濾過液(UF)としてICS640に入り得る。チューブは、廃棄物として処分される可能性のある限外濾過液(UF)を回収するために、ICS出口646に接続され得る。
【0039】
単一処置装置を有するシステムの別の実施形態において、SCIDは、図8に示されるような装置であり得る。血液はSCID855の一端810に入り、中空繊維802を通って移動し、そこを通って限外濾過液が中空の空間804に入る。中空繊維802から出てきた濾過された血液は、ECS806に入り、中空の空間804を通過した限外濾過液を含む中空繊維808を囲む。ECS内の血液は、限外濾過液で満たされた中空繊維808を超えて流れ、白血球はその上で隔離される。流速は、白血球をその繊維と結合させる限外濾過液中空繊維808の表面で、せん断力(本明細書に記載された範囲内)を生み出すように、本明細書に記載された範囲内で選択される。最終的に、血液は側面ポート812の位置で装置から出て、限外濾過液は末端ポート813を通って破棄物として出る。限外濾過液中空繊維808の内部は、任意で、尿細管細胞を含む。SCIDのこの実施形態は、図2A〜2BのSCIDについて記載されたように、回路内に配置され得る。
【0040】
図5、6、または8のSCIDを有する図2A〜2Bの回路に示される実施形態のための流速および膜特性は、以下に記載されるようなものであり得る。例えば、ECSの流速は、約100mL/分〜約500mL/分であってもよい。(例えば、図6および図8に示されるSCIDについての)限外濾過液廃棄物の流速は、例えば、約5mL/分〜約50mL/分の流速を含んでいてもよい。
【0041】
2.B.血液透析または血液濾過システムの一部としての選択的細胞吸着除去抑制装置
述べたように、いくつかの実施形態において、SCIDは血液を処置するための他の装置を有するシステムの一部である。例えば、SCIDは、システム内にSCIDとは接続していない1つまたは複数の濾過カートリッジを含む血液濾過システム、血液透析システムおよび/または血液透析濾過システムの一部であり得る。SCIDではないシステムの部分を記載する場合、「血液濾過」という用語は、血液透析、血液透析濾過、血液濾過、および/または血液濃縮を表し、ならびに「血液フィルター」は血液透析、血液透析濾過、血液濾過、および/または血液濃縮の1つまたは複数を実施するための装置(例えば、カートリッジ)を含み得る。血液濾過カートリッジは、体外の血液回路内のSCIDと並列にまたは直列になるように構成され、連結された血液ポンプおよび管は体外回路を通って血液を移動させるために使用され得る。例えば、図2Cおよび2Dに示されるように、血液は対象から血液ラインを通って流れる。血液は、ポンプ204を介して血液ラインを移動する。白血球阻害剤(例えば、クエン酸塩)は、ポート206で、任意でポンプを使用して、同じ血液ラインに注入され得る。その後、血液は従来型の血液フィルター210内の中空繊維214を通って流れる。透析液は、中空繊維214を囲みかつ血液フィルター210ハウジング内にあるECSに注入され、ならびに透析が起こり、血液フィルターの濾過膜214(中空繊維)を通って透析液の中へと血液からの「廃棄物」として溶質が取り除かれる。透析液は、血液に対して逆流する形で流れ、かつ透析液は透析液ポンプ218を使用して移動する。さらに、血液由来の分子および液体は、膜を通り抜ける細孔径に依存して、限外濾過液として血液フィルターの濾過膜214(中空繊維)を通過し得る。
【0042】
図2Cの例示的なシステムは、図5のSCID555を有する回路を示す。血液は、血液フィルター210を出て、ECS入口548でSCID555に入る。その後、血液は、SCIDを通して処理される。SCIDは、上で、図2A〜2Bについて記載されたように、中空繊維552上で白血球を隔離し、ならびに白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害し、および/または白血球を失活させる。SCID555に入る血液ラインおよびSCID555から出る血液ラインは、ロッキング機構256との接続を使用して取り付けられる。その後、血液はECS出口550から血液流出ラインを経て対象へ戻される。別の薬剤(例えば、カルシウム)は、対象に再入するための血液を準備するために、この血液流出ライン上のポート258で注入され得る。特定の実施形態において、SCIDの毛細管内の空間(ICS)は、さらに血液処置を助けるために各繊維の内腔の内層で単層培養された異種移植細胞または同種移植細胞、例えば、尿細管細胞を含み得る。しかしながら、別の実施形態において、ICSは細胞を含まない。図2Cの回路において、SCID555のICS540は生理食塩水で満たされ、ICSの両端のポートは蓋544がされる。
【0043】
図2Dが図6のSCID655を利用すること、および限外濾過液がこのSCID655によって生成されることを除いて、図2Dの回路は図2Cと同じ構成要素を含み、かつ同じ方法で作動する。SCID655を通る血液の流れは、図2Bとの関連で上で記載された。さらに、SCID655は、図2Bとの関連で上で記載されたように機能する。上記のように、SCID655は、蓋644がされたICS入口のみを有する。ICS出口646は蓋がされない。従って、多孔質中空繊維652の特性に依存して、ECS642内の血液の一部は、中空繊維652を横断して、限外濾過液(UF)としてICSに移動し得る。チューブは、廃棄物として処分される可能性のある限外濾過液(UF)を回収するために、ICS出口646へ接続され得る。
【0044】
理論に縛られることを望まないが、SCIDシステムのこれらの実施形態(ならびに図1、2A〜2B、3、および4A〜4Fに示される実施形態)における流れの形状は、白血球がSCIDのECS内の低せん断力環境で存在できるように、従って、例えば、中空繊維のようなSCID内の1つまたは複数の内部表面と結合できるようにすると考えられる。反対に、血液濾過カートリッジ(例えば、図2Cおよび2Dの回路内の第1の装置210)の典型的な使用において、中空繊維の小口径内腔を通過する血流は、白血球と中空繊維との結合および装置内の白血球の隔離を阻害する(SCID内のせん断力よりも)高いせん断力を生み出す。従って、逆の動作(すなわち、血液が中空繊維の内側ではなく中空繊維の外側を流れること)を支持する標準的な流れ回路を有する血液濾過装置は、損傷を与える可能性がありかつ循環している活性化白血球を隔離するためのSCIDとして作用し得る。これらの隔離された白血球は、白血球阻害剤(例えば、クエン酸塩)を使用して処置され得る。
【0045】
さらに、隔離された白血球の炎症反応は、隔離の前、隔離の間、および/または隔離の後に、(例えば、クエン酸塩によって引き起こされる)低いCaiが存在する中で、阻害されるおよび/もしくは失活させられると考えられる。低いCai環境は、白血球の炎症性活性を阻害し得る、または白血球を失活させ得る。
【0046】
特定の実施形態において、血液フィルター(例えば、図2Cおよび2Dの血液フィルター210)によって透析液および限外濾過液の両方が生成されるというよりもむしろ、限外濾過液のみが生成される。限外濾過の間、血液は、膜のような媒体を通って濾過された限外濾過液、および媒体を通過しない残余分に分離される。この種のシステムの一例は、図3のシステム内にある図7のSCID755である。簡潔に説明すると、このシステムにおいて、血液は、SCID755のECS入口748から、SCIDハウジング754および中空繊維752によって画定されるECS742の中に流入し、SCID755内のECS出口750から出る。さらに、血液フィルター210からの限外濾過液ライン320は、ICS入口745を介してSCID755のICS740と連絡し、限外濾過液をICS740へ提供する。濾過された血液(ECS742内)および限外濾過液(ICS740内)は離れているが、中空繊維752の膜を通って互いに相互作用し得る。ICS740内の限外濾過液およびSCID755のECS742内の濾過された血液は、並流でまたは逆流で流れ得る。処理された限外濾過液はSCID755のICS出口746でICS740を出て、廃棄物として処分され得る。従って、この実施形態において、ICS入口745およびICS出口746は蓋がされないが、別の面では、SCID755は、図5および図6に示されるものと実質的に同じである。
【0047】
より具体的には、図7によるSCID755を使用する図3のシステムにおいて、血液は対象(例えば、患者または任意の動物)から血液ラインに移動する。血液は、ポンプ204を使用して血液ラインに送り込まれる。クエン酸塩のような白血球阻害剤は、任意でポンプを使用して、ポート206で注入され得る。その後、血液は、上で図2C〜2Dについて記載されたように、血液フィルター210の中空繊維に入り、血液フィルター210のECS内に堆積する。限外濾過液は、血液フィルター210の中空繊維を通り抜けて生成され、血液フィルター210のECS内に堆積する。その後、限外濾過液は血液フィルター210から限外濾過液ライン320を通過し、ICS入口745でSCID755に入る。限外濾過液は、中空繊維752のICS740を通り抜け、ICS出口746で出る。中空繊維は多孔質、半多孔質、または非多孔質膜であり得る。
【0048】
血液フィルター210の中空繊維のICS内(すなわち、血液フィルター210内の中空繊維の内腔)に残っている濾過された血液は、血液フィルター210を出て、SCID755のECS入口748内に、ポンプ300を使用して送り込まれる。任意で、このポンプは、SCIDと対象の間の血液ライン上に設置され得る、または第3のポンプ(図示せず)がSCIDと対象の間の血液ライン上に設置され得る。血液は、中空繊維752を囲むECS742内に流れる(すなわち、通路に移動する)。白血球、例えば、活性化および/またはプライミングされた白血球は、装置内で、例えば、中空繊維752の外部表面で隔離される。その後、血液は、ECS出口750でSCID755を出て、対象に戻る。ロッキング機構を有する血液ラインコネクタ256によって、血液ラインがECS入り口748とECS出口750に取り付けられる。カルシウムのような別の薬剤は、対象に再入する血液を準備するために、対象に戻る血液流出ライン上のポート258で注入され得る。限外濾過液ポンプ304はまた、限外濾過液をICS740から廃棄物へと移動させる。しかしながら、このシステムのポンプ流速に依存して、限外濾過液が少しも中空繊維752を横断せず、ECS742内の濾過された血液に戻り得ないか、限外濾過液のいくらかが中空繊維752を横断し、ECS742内の濾過された血液に戻り得るか、または限外濾過液の全てが中空繊維752を横断し、ECS742内の濾過された血液に戻り得る。
【0049】
図3に示される回路内の図7のSCIDの使用を、SCIDおよび灌流回路と関連する予期せぬ有害事象なしに、前臨床試験で100匹の大型動物に対して、およびフェーズI、IIa、およびIIbの臨床試験で約100人の患者に対して評価した。ICSは無細胞であり得るが、このシステムは任意でICS740内に細胞、例えば、尿細管細胞も含み得るということが理解される。血流速度は、例えば、約100mL/分〜約500mL/分の血流速度での、繊維との結合による白血球の隔離を可能にするために、多孔質の中空繊維の表面での(本明細書に記載の範囲内の)十分に低いせん断力を有するように選択される。あるいは、体外回路を通る、血液フィルター210内の中空繊維の内腔を通る、およびSCID755のECS742を通る血流速度は約120mL/分であり得る。限外濾過液は、本明細書に記載の範囲内の速度、例えば、約50mL/分未満、約5mL/分〜約50mL/分、および約10mL/分〜20mL/分の流速で移動させられ得る。あるいは、限外濾過液の流速は15mL/分で維持され得る。任意で、平衡した電解質置換溶液(例えば、重炭酸塩基を含む溶液)は、生成された限外濾過液に対して1:1の体積置換で、血液ライン内に注入され得る。液体(例えば、限外濾過液)および血液(または白血球を含む液体)は同じ方向にまたは逆方向に流れ得る。
【0050】
このおよび他の実施形態において、SCIDを通る血流構成は、典型的な血液濾過カートリッジを通る血流構成と反対である。すなわち、血液は、その意図された使用において、血液濾過カートリッジの中空繊維内部を通って流れるのに対して、SCIDの中空繊維の外部周辺を流れる。SCIDを通るこの非従来型の血流構成は、血液フィルターの中空繊維の内腔内のより高いせん断力と比較して、中空繊維の外部表面のECS内のより低いせん断力を可能にし、そのため、SCIDのECS内の白血球の隔離を促進する。逆にいえば、血液フィルターの中空繊維の内部を通る血流は、中空繊維の小口径内腔を流れる血液によって生み出される高いせん断力により、白血球隔離を阻害する。例えば、血液フィルターの中空繊維の内部にある血液は1.5 x 107ダイン/cm2のせん断力を生み出すが、SCIDの特定の実施形態のECSを通る血流は5.77ダイン/cm2のせん断力、または106より小さいせん断力を生み出すと実験は示した。比較のために、典型的な動脈壁におけるせん断力は、6〜40ダイン/cm2で、典型的な静脈壁におけるせん断力は、1〜5ダイン/cm2である。そのため、毛細管壁は5ダイン/cm2未満のせん断応力を有する。
【0051】
従って、いくつかの実施形態において、本発明は、白血球をその表面と結合させて、白血球、例えば、該領域内の活性化および/またはプライミングされた白血球を隔離することができるように、白血球を隔離するように構成された通路の領域にある表面での十分に低いせん断力を使用する。例えば、いくつかの実施形態において、白血球を隔離するように構成された通路領域内の表面において、1000ダイン/cm2未満、または500ダイン/cm2未満、または100ダイン/cm2未満 、または10ダイン/cm2未満 、または5ダイン/cm2未満のせん断力が有用である。これらのせん断力は、本明細書に記載のSCIDの実施形態のいずれかにおいて役立ち得ると理解されるべきである。2つの装置、例えば、血液フィルターおよびSCIDを有する、特定の実施形態において、血液フィルター内を流れる血液とSCID内を流れる血液との間のせん断力の違いは、少なくとも1000ダイン/cm2であり得る。
【0052】
これらのおよび他の実施形態において、非従来型の流れ構成に従って、必要なせん断力を生み出す(すなわち、血液が中空繊維の内側ではなく、中空繊維の外側を流れる)限り、SCIDは、急性および慢性血液透析における使用がFDAにより承認されている従来型の0.7m2ポリスルホン血液フィルター(例えば、Model F40、Fresenius Medical Care North America、ウォーザン、マサチューセッツ州、米国)から構成され得る。同様に、このまたは任意の他の実施形態の体外灌流回路は、標準的な透析動静脈血液管を使用し得る。カートリッジおよび血液管は、現在慢性透析に使用されている任意の透析液輸送ポンプシステム(例えば、Fresenius 2008H)内に配置され得る。
【0053】
1つの例示的なシステムにおいて、該システムは、対象から通じる管(血液ライン)を、注入器によって管に注入されるクエン酸溶液の袋と共に含む。第1のF40血液フィルターカートリッジは、クエン酸塩が血液ラインに入った後のある時点で血液ラインと接続される。その後、血液ラインの血液は、カートリッジ内の中空繊維(ICS)の内部を通って、末端ポート入口から末端ポート出口に流れ、透析液は、これらの中空繊維の外側およびカートリッジ(ECS)内を、ある側面ポートから第2の側面ポートへと、血液流に関して逆流の形で流れる。第2の側面ポートから出る透析液/限外濾過液の混合液は回収される。実質的に、血液細胞、血小板、または血漿はICSからECSに横断せず、実質的に、白血球は中空繊維の内側に接着しない。中空繊維は、束にして、互いに平行に配列され、各繊維はおおよそ240マイクロメータの直径を有する。さらに、中空繊維の細孔は、約30オングストロームの分子であるアルブミンが繊維を通過するのを防ぐのに十分に小さく、該細孔は、一般的に繊維全体にわたってこの大きさである。その後、濾過された血液は、末端ポート出口から、管を通って、第2のF40カートリッジ(すなわち、SCID)の側面ポート入口へと進み続ける。血液は、第2のF40カートリッジのECSを通って流れ、側面ポート出口でカートリッジを出る。第2のF40カートリッジ内で生成される限外濾過液はすべて、ICSに入り、末端ポートを通って出る。カートリッジのもう一方の末端ポートは蓋がされている。実質的に、血液細胞、血小板、または血漿は、ECSからICSへと横断せず、白血球は、しばらくの間、中空繊維の外側に接着する。第2のF40カートリッジを出る血液は管に入り、そこでカルシウム溶液が注入器を使用して血液内に注入される。最後に、管は対象へ処理した血液を戻す。特定の実施形態において、このシステムの血流速度は500mL/分を超えず、血液は、どの時点においても、このシステム内で空気を移動させない。さらに、ポンプ速度と注入速度は、電解質および白血球数のベッドサイドでの読み取りを考慮して、手動で変化させることができる。i-STAT(登録商標)携帯用監視装置は、対象から取り出された少量の血液から、これらの読み取りを提示する。
【0054】
このようなシステムを使用するリスクは、血液透析処置と関連するリスクと同じで、例えば、灌流回路内の血液凝固、回路内への空気の侵入、カテーテルまたは血液管のねじれまたは切断、および温度調節異常を含む。しかしながら、透析の機械および関連する透析血液灌流セットは、処置中、警告システムを使用してこれらの問題を明らかにし、凝固フィルターおよび気泡トラップを使用して、対象に対するいかなる凝固または空気閉塞をも軽減するように設計されている。これらのポンプシステムおよび血液管セットは、この処置適応がFDAにより承認されている。
【0055】
上で述べたように、クエン酸塩のような白血球阻害剤の注入は、SCIDに局所的であるか、領域的であるか、またはシステム全体に及び得る。このまたは任意の実施形態において、クエン酸塩は抗凝固剤としても使用され得るが、そのような場合、このシステムの全体に及ぶ灌流が有用であろう。もし凝固が血液濾過システム内に生じる場合、それは、第1の透析カートリッジ内で始まるということが臨床的経験から示唆される。抗凝固プロトコール、例えば、全身性のヘパリンまたは局所的なクエン酸塩は、現在のところ確立されており、臨床の血液透析において通常使用されている。
【0056】
2.C.心肺バイパスシステムの一部としての選択的細胞吸着除去抑制装置
図4A〜4Fに示され、本明細書の実施例8および9に記載されているように、SCIDは、手術(例えば、バイパス手術)に続発する炎症性症状を治療および/または予防するために、心肺バイパス(CPB)回路内で使用され得る。図4A、4B、4D、4Eおよび4Fは、例示的なCPBシステムにおける図5のSCIDを示す。図4Cは例示的なCPBシステムにおける図6のSCIDを示す。CPBは心臓および肺の左側および右側両方から血液を迂回させるために使用される。これは、心臓の右側から血液を流し、動脈循環を灌流することによって達成される。しかしながら、全身から肺への側枝、全身から全身への側枝、および手術部位の出血は心臓の左側へ血液を戻すので、CPBの間、心臓の左側の特別な排出機構が必要とされる。任意で、心筋保護液が特別なポンプと管の機構を通して輸送され得る。標準的なCPBシステムは、大きく3つのサブシステムに分類され得るいくつかの特徴を有する。第1のサブシステムは、酸素を供給し、血液から二酸化炭素を取り除く、酸素送り込み-酸素供給サブシステムである。第2のサブシステムは、温度制御システムである。第3のサブシステムは、インライン監視装置および安全装置を含む。
【0057】
図4Aの実施形態において示されるように、血液は、対象から血液ライン410に、静脈カニューレ400を経て移動する。血液は、血液ライン410を通って流れ、SCID流出ライン430に接続されている再循環接合420を通過する。SCID流出ライン430は、SCID装置555によって処置される血液を含む。血液ライン410内の血液はSCIDによって処置された血液と混ざり、静脈の貯留槽450および血液に酸素が送り込まれる酸素供給器460上に進み続ける。その後、酸素が送り込まれた血液は、SCID流入ライン480を使用して、酸素供給器460から接合部470に流れる。ここで、血液ライン410内の血液の一部は、SCID555による処置のために、SCID流入ライン480を経てSCID555へと迂回させられる。SCID流入ライン480を通る血液の流れは、ポンプ504によって制御される。SCID555は、炎症と関連する選択的な細胞、例えば、白血球または血小板を隔離するように設計される。この実施形態において、白血球阻害剤は、SCID555に入る血液に加えられない。白血球を含む血液は、ECS入口548に入り、中空繊維552を囲むECS542に移動する。白血球は、装置内で、例えば、中空繊維552の外部表面で隔離される。ポンプ504での流速は、白血球をそれと結合させる繊維552の表面で(本明細書に記載される範囲の)低いせん断力が発生するように、本明細書に記載される範囲で選択され得る。ECS542内の血液は、ECS出口550を経てSCIDを出て、SCID流出ライン430に入る。接合部470において、血液ライン410内の血液の一部も、動脈カニューレ495において対象へ戻される前に、動脈フィルター/気泡トラップ490に進み続ける。
【0058】
図4B内の回路は、図4A内の回路と同じ方法で流れ、SCID流入ライン480内の血液にクエン酸塩を加えるためのクエン酸塩供給口435およびクエン酸塩ポンプ436、ならびにSCID流出ライン430内の血液にカルシウムを加えるカルシウム供給口445およびカルシウムポンプ446という追加的特徴を有する。クエン酸塩(または本明細書に記載の別の白血球阻害剤)は、白血球のような、炎症と関連する細胞を阻害するおよび/または失活させるため、クエン酸供給口435からSCID555に流入する血液へ加えられる。カルシウムを血液に戻して、対象に再入する血液を準備することができる。
【0059】
図4C内の回路は、図4B内の回路と同じ方法で機能し、血液フィルター/血液濃縮器(HF/HC)476と関連づけられる追加的特徴を有する。特に、接合部470でSCID流入ライン480を経てSCID655に向けて迂回させられる酸素が送り込まれた血液の一部は、さらに、接合部472で、SCID655へ流れる部分と、HF/HC流入ライン474を経てHF/HC476へ流れる別の部分に分けられる。該HF/HCは血液を濾過または濃縮することができ、限外濾過液は廃棄チューブ477を経て装置から出る。濾過または濃縮された血液は、接合部444においてSCID流出ライン430へ、濾過または濃縮された血液を戻すHF/HC流出ライン479を経てHF/HC476を出る。図4Cに示されるSCIDは、上で記載されたように、図6のSCIDである。血液は、SCID流入ライン480から、ECS入口648に流れ、ECSを通って、ECS出口650を出て、SCID流出ライン430に流入する。限外濾過液は、SCID内の中空繊維を横断して(ECSからICSへ)生成されてもよく、限外濾過液は、ICS出口646においてSCIDから出て、廃棄チューブ478内に入る。
【0060】
SCID655への血流はポンプ504によって制御され得る。ポンプ504は、SCID処置に続き、白血球を阻害するかまたは失活させる、クエン酸塩のような薬剤、および/またはカルシウムのような別の薬剤を注入する実施形態において、一定の流れを維持することが好ましい。あるいは、SCIDへの血流は、HF/HC流入ライン474の口径と比較して、接合部472とSCID655の間のSCID流入ライン480のより小さい口径を選択することによって制御することができ、その結果、約200mL/5L(流量の約4%)が接合部472においてSCIDへと迂回する。これは、隔離を促進し得る低いせん断力をSCID内にもたらす。
【0061】
図4D〜4Fに示される回路は、それらが回路内、例えば、再循環接合部420において血液を再循環しないという点において図4A〜4Cの回路と異なる。むしろ、図4Dに示されるように、血液は、対象から血液ライン410に、静脈カニューレ400を経て移動し、そこでは、血液は、静脈の貯留槽450へおよび酸素が送り込まれる酸素供給器460上を直接流れる。その後、酸素が送り込まれた血液は、酸素供給器460からSCID流入ライン480を有する接合部470へ流れる。ここで、血液ライン410内の血液の一部は、図4Aについて上で記載したように、SCID555によって白血球の隔離をするために、SCID流入ライン480を経てSCID555へと迂回させられる。SCID555を出る血液は、SCID流出ライン430へ入り、接合部422において酸素が送り込まれた血液と混ざる。SCIDからの血液が、血液ライン410内の血液と混ざった後、それは、動脈カニューレ495において対象へ戻される前に、血液ライン410内を動脈フィルター/気泡トラップ490へと進む。
【0062】
図4E内の回路は、図4D内の回路と同じ方法で流れ、SCID流入ライン480内の血液にクエン酸塩を加えるためのクエン酸塩供給口435およびクエン酸塩ポンプ436、ならびにSCID流出ライン430内の血液にカルシウムを加えるカルシウム供給口445およびカルシウムポンプ446という追加的特徴を有する。図4Bについて記載されたように、クエン酸塩または任意の別の白血球阻害剤は、白血球のような、炎症と関連する細胞を阻害するおよび/または失活させるため、クエン酸供給口435から血液へ加えられる。カルシウムを血液に戻して、対象に再入する血液を準備することができる。
【0063】
図4F内の回路は、図4E内の回路と同じ方法で流れるが、血液の一部を血液ライン410からSCID流入ライン480へ迂回させる接合部、およびSCIDによって処置された血液を、SCID流出ライン430を経て血流ライン410へ戻す接合部が、回路内の動脈フィルター/気泡トラップ490の後ろに配置されることを除く。これらの接合部は、それぞれ、492および494とラベルされている。図4Fは、また、上記の実施形態のいずれにおいても使用され得る他のサブシステムおよび特徴、例えば、熱交換器、追加のポンプ、ガスのメータおよび交換器、ならびにモニターを表す。さらに、図4A〜4Fに記載されるいずれの実施形態におけるSCIDも、本明細書に記載の任意の実施形態に一致する特性を有するように構成され得る(例えば、SCID、膜の特性、流速のような装置の構成)。
【0064】
2.D.選択的細胞吸着除去抑制装置の追加的特徴
いくつかの実施形態において、本発明の装置は、ある障害を治療および/または予防するために構成される。しかしながら、多数の異なる構成が特定の障害を治療および/または予防するために使用され得ると理解される。
【0065】
さらに、任意の実施形態のSCIDは水平にまたは垂直に配向され、かつ温度制御環境下に置かれ得る。細胞を含むSCIDの温度は、望ましくは、SCID内での細胞の最適な機能を保証するために、SCID作動中は、約37℃〜約38℃で維持される。例えば、加温ブランケットは、SCIDを適切な温度で保つために使用され得るが、これに限定されるわけではない。他の装置がこのシステム内で利用される場合、異なる温度が、最適性能のために必要とされてもよい。
【0066】
いくつかの実施形態において、本発明の装置およびシステムは、プロセッサー(例えば、コンピューターソフトウェア)によって制御される。そのような実施形態において、装置は対象内の活性化白血球量の変化を検出するように、およびそのような情報(例えば、白血球量および/または炎症性障害を発症する増大したリスクについての情報)をプロセッサーに提供するように構成され得る。いくつかの実施形態において、特定の活性化白血球量に達しているか、または対象が炎症性障害(例えば、SIRS)を発症する特定のリスクにあると判断される場合、対象の血液は、炎症性障害を発症する可能性を減少する目的のために、SCIDを通して処理される。いくつかの実施形態において、装置またはシステムは、これらの測定値に応答してSCIDを通して対象の血液を自動的に処理する。他の実施形態において、医療従事者は対象内の増強した白血球量または増大したリスクに対して警戒し、該従事者は処置を開始する。
【0067】
本発明の装置は様々なキットまたはシステムと共に含まれ得ると考えられる。例えば、該キットまたはシステムは、本発明の装置または様々な装置の部分、例えば、中空繊維血液フィルターカートリッジ、白血球阻害剤(例えば、クエン酸塩のようなカルシウムキレート剤)、同種移植細胞(例えば、尿細管細胞)、または他の部分を含んでもよい。さらに、該キットまたはシステムは、対象内に濾過装置を移植するために必要な様々な手術道具と組み合わせてもよい。
【0068】
3.炎症と関連する細胞の隔離
本発明のシステムおよび装置は、対象由来の白血球を隔離し、それらの炎症活性(例えば、炎症反応)を改善する(例えば、阻害する)ように構成されるべきであるが、本発明のシステム、装置、および方法は、白血球を隔離するための、ならびに白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害および/または白血球の失活を促進するための特定の設計または技術に限定されない。白血球(例えば、活性化および/またはプライミングされた白血球)の隔離は、任意のシステム、装置、またはその構成要素を使用して達成され得る。「試料」および「標本」という用語は、それらの一番広い意味で使用される。一方で、それらは、標本または培養を含むことが意図されている。他方で、それらは生体試料および環境試料の両方を含むことが意図されている。これらの用語は、ヒトおよび他の動物から得られた全ての種類の試料を包含する。これらの用語は、尿、血液、血清、血漿、糞便、脳脊髄液(CSF)、精液、および唾液、ならびに固体組織を含むが、それらに限定されない。しかしながら、これらの例は、本発明に適用できる試料の種類を制限するように解釈されるべきではない。本明細書と関連する試料という用語は、対象由来の血液を表すことが多い。「血液」という用語は、血液の任意の態様、例えば、全血、処置された血液、濾過された血液、または血液由来の任意の液体を表す。
【0069】
本発明のシステムまたは装置において、生体試料を流すための1つもしくは複数の通路、または1つもしくは複数のその領域は、白血球を隔離するための様々な方法のいずれかで構成され得る。もし2つ以上の通路が使用される場合、それらは直列におよび/または並列に置かれ得る。いくつかの実施形態において、1つまたは複数の通路は、カートリッジ、例えば、使い捨てカートリッジの中に含まれていてもよい。通路または通路領域は、任意の数の表面、例えば、1、2、3、4、5、10、20、50、100、またはそれより多くの表面によって画定され得る。表面の例として、円筒形の装置壁および平らな装置壁のような、装置の壁、ならびに/または本明細書に記載の中空繊維の外部表面が挙げられるが、それらに限定されない。
【0070】
通路または通路領域を画定する表面は、白血球を隔離する様々な形態から選択され得る。例えば、平らな表面(例えばシート)、湾曲した表面(例えば、中空のチューブもしくは繊維)、模様が付けられた表面(例えば、Z型に折り畳まれたシートもしくはくぼみが付けられた表面)、不規則に形作られた表面、または他の形状が、白血球を隔離するように構成された通路(または、その領域)内で使用され得る。これらの表面はいずれも、細孔を含み、多孔質、選択的多孔質または半多孔質であってもよい。例えば、表面は膜であり得る。「膜」という用語は、表面の両側で液体を受け取るか、または表面の一方の側で液体を、もう一方の側で気体を受け取ることのできる表面を表す。膜は、典型的には、それを通って液体または気体が流れることができるような多孔質(例えば、選択的多孔質または半多孔質)である。表面または膜について記載するために本明細書で使用される「多孔質」という用語は、一般的に、多孔質、選択的多孔質および/または半多孔質の表面または膜を含むと理解される。さらに、通路、または通路領域内の追加の表面(通路を画定してもまたはしなくてもよい)、例えば、粒子(例えば、ビーズ)表面、通路内に1つもしくは複数の突起のある表面、または流れている生体試料にさらされる1つもしくは複数の膜の表面は、白血球隔離を促進し得る。これらの追加の表面もまた、平らな表面、湾曲した表面、模様が付けられた表面、不規則に形作られた表面、および上記の他の形状ならびに下記の材料の中から選択され得る、ならびに、下記の強化物を有し得る。
【0071】
白血球を隔離するように構成された通路もしくは通路領域を画定するおよび/または該通路もしくは通路領域の一部である、通路表面もしくは通路領域表面(例えば、中空繊維の外部表面)は、特定の種類、性質または大きさに限定されず、任意の適切な材料から作られ得る。例えば、表面は、1つまたは複数のナイロン、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアリールエーテルスルホン、CUPROPHAN(銅アンモニア法によって再生されたセルロース、Enkaより入手可能)、HEMOPHAN(生体適合性が改善された修飾CUPROPHAN、Enkaより入手可能)、CUPRAMMONIUM RAYON(CUPROPHANの一種、Asahiより入手可能)、BIOMEMBRANE(Asahiより入手可能な銅アンモニアレーヨン)、けん化セルロースアセテート(例えば、テイジンまたはCD Medicalから入手可能な繊維)、セルロースアセテート(例えば、東洋紡Niproから入手可能な繊維)、セルロース(例えば、改変された銅アンモニア法またはビスコース法により再生されたもの、テルモまたはTextikombinat (Pirna、GDR)よりそれぞれ入手可能)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリスルホン、アクリル系共重合体(例えば、アクリロニトリル-NA-メタリル-スルホネート共重合体、Hospalから入手可能)、ポリカーボネート共重合体(例えば、GAMBRONE、Gambroから入手可能)、ポリメチルメタクリレート共重合体類(例えば、東レから入手可能な繊維)、およびエチレンビニル共重合体(例えば、クラレから入手可能なエチレン-ビニルアルコール共重合体である、EVAL)を含む任意の生体適合性重合体であってもよい。あるいは、表面はナイロンのメッシュ、綿のメッシュ、または織り繊維であってもよい。該表面は、一定の厚さまたは不規則な厚さを有し得る。いくつかの実施形態において、表面はシリコン、例えば、シリコン製ナノ加工膜(例えば、米国特許公開第20040124147号参照)を含み得る。いくつかの実施形態において、表面はポリスルホン繊維を含んでいてもよい。他の適切な生体適合性繊維は、当技術分野において、例えば、Salem and Mujais (1993) Dialysis Therapy 2d Ed., Ch. 5: Dialyzers, Eds. Nissensen and Fine, Hanley & Belfus, Inc., Philadelphia, PAにおいて公知である。中空繊維を含むカートリッジは、特定の大きさ(例えば、長さ、広さ、重さ、または他の大きさ)に限定されない。
【0072】
通路は、表面の任意の組み合わせを含み得る。例えば、通路または通路領域の表面は、平らな、湾曲した、模様が付けられた、および/または不規則に形作られた態様の任意の組み合わせを含み得る。さらに、通路または通路領域は、2つ以上の材料の表面によって画定され得る、またはそうでなければ2つ以上の材料の表面を含み得る。さらに、通路は2つ以上の領域を含んでいてもよい。これらの異なる領域は、同じまたは異なる表面を有し得る。
【0073】
上記で議論されたように、うまく使用されてきたSCIDの一実施形態は、中空繊維を含むハウジングを含む。血液の通路は、ハウジングの内部および中空繊維の外部によって画定される。血液由来の白血球は通路内の特定の領域と、具体的には、中空繊維の外部表面と結合する。従って、特定の実施形態において、白血球を隔離するように構成された通路領域は多孔質膜を含んでいてもよく、この多孔質膜により、より小さい分子はそれを通ることができるが、より大きな分子および/または細胞は膜に沿って流れることを余儀なくされる。さらに、特定の実施形態において、白血球を隔離するように構成された通路領域は、ハウジングの表面によって結合され、ならびに、生体試料(例えば、対象の血液または濾過された血液)がこれらの表面の上(すなわち、中空繊維の上)を流れるように構成された中空繊維の外部表面または中空繊維の表面によって結合される、およびそのような表面を含んでいてもよい。例えば、図1参照。中空繊維は多孔質、半多孔質、または非多孔質であってもよく、ならびに異なる液体(例えば、限外濾過液)は、任意で中空繊維内を流れても、または中空繊維内に存在してもよい。この繊維は、本明細書に記載の任意の適切な材料から作られ得る。
【0074】
いくつかの実施形態において、本発明のシステム、装置、および方法は、任意の所望の時間、例えば、1〜59秒、1〜59分、1〜24時間、1〜7日、1週間以上、1か月以上、または1年以上、白血球を隔離するように構成される。いくつかの実施形態において、装置は、その後の白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害および/または白血球の失活を可能にするのに十分な時間、白血球を隔離するように構成される。
【0075】
例えば、生物学的、化学的、機械的および/または物理的な技術を含む、白血球の隔離を促進する任意の技術または技術の組み合わせが使用され得る。いくつかの実施形態において、隔離のための生物学的または化学的技術が使用され得る。このような技術は、白血球を隔離するために、組織、細胞、生体分子(例えば、タンパク質もしくは核酸)、または小分子を使用することを含む。白血球が活性化されると、セレクチンが白血球によって生成される。この変化したセレクチン産生は、白血球と他の白血球との間の結合を促進し得る。次に、白血球間の結合は、さらに結合した白血球内でセレクチン産生を増大し、白血球の指数関数的な結合を生み出し得る。従って、セレクチンは隔離を増強するために役立ち得る。白血球に結合すると知られるタンパク質、タンパク質複合体、および/またはタンパク質成分として、CD11a、CD11b、CD11c、CD18、CD29、CD34、CD44、CD49d、CD54、ポドカリキシン、エンドムチン、グリコサミノグリカン細胞接着分子-1(GlyCAM-1)、粘膜アドレシン細胞接着分子-1 (MAdCAM-1)、E-セレクチン、L-セレクチン、P-セレクチン、皮膚リンパ球抗原 (CLA)、P-セレクチン糖タンパク質リガンド1 (PSGL-1)、白血球機能性抗原-1 (LFA-1)、Mac-1、白血球表面抗原p150,95、白血球インテグリンCR4、最晩期抗原-4 (VLA-4)、リンパ球パイエル板接着分子-1 (LPAM-1)、細胞内(intracellular)接着分子-1 (ICAM-1)、細胞内接着分子-2 (ICAM-2)、細胞内接着分子-3 (ICAM-3)、不活化C3b (C3bi)、フィブリノゲン、フィブロネクチン、末梢リンパ節アドレシン (PNAd)、血管内皮接着タンパク質1 (VAP-1)、フラクタルカイン、CCL19、CCL21、CCL25、およびCCL27が挙げられる。白血球に結合すると知られる他の巨大分子として、ヒアルロン酸、グリコサミノグリカン(GAG)、およびフコシルオリゴ糖、ならびにそれらの前駆体が挙げられる。特定の実施形態において、白血球を隔離するために使用される小分子または接着剤は、アミノ酸配列アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)を含むペプチドなどのペプチド類、およびシアル酸を含む分子を含み得るが、それらに限定されない。従って、任意のこれらの材料は隔離を増強するために使用され得る。
【0076】
使用に際し、任意のこれらの生物学的または化学的材料は、隔離を促進するまたは増強するために、本発明のシステムまたは装置の表面(例えば、SCIDの通路内)に結合させられてもよい。あるいは、または組み合わせて、任意のこれらの材料は、本発明のシステムまたは装置内の溶液の中に存在してもよい。この場合、該材料は、追加の技術と併せて白血球を隔離してもよい。例えば、これらの材料は溶液中の白血球に結合してもよく、たった1つの白血球の大きさと比較して、全体の大きさが増大するように白血球を凝集させる。その後、凝集した白血球は特定の細孔径を有する膜で捕獲され得る。
【0077】
いくつかの実施形態において、本発明のシステムまたは装置は、機械力の制御を通して白血球の保持を遂行する。例えば、白血球と表面の間のせん断力を最小限にし、白血球が表面に結合するのを可能にする、流速および装置構成を利用することによって、白血球は、通路もしくは通路領域の(または通路もしくは通路領域内の)1つまたは複数の表面上(例えば、多孔質中空繊維の外側)に隔離されてもよい。流れている白血球と該隔離表面との間の有用なせん断力は、1000ダイン/cm2未満、または500ダイン/cm2未満、または100ダイン/cm2未満、または10ダイン/cm2未満、または5ダイン/cm2未満のせん断力を含む。これらのせん断力を達成するのに有用な、本発明によるシステムおよび装置を通る血液の例示的な流速は、例えば、約500mL/分未満、約100mL/分〜約500mL/分、および約200mL/分〜約500mL/分を含む。
【0078】
いくつかの実施形態において、装置は、隔離される白血球の量および/または白血球が装置内に隔離される時間を増やすために、例えば、1つまたは複数の通路表面、またはその領域において、膜もしくはフィルターのような表面を使用することによって、または増大した通路表面域、例えば、約0.2m2よりも大きい、または約0.2m2〜約2.0m2、または約0.5m2〜約1.0m2、または約0.7m2の表面域へ白血球をさらすことによって白血球を物理的に保持してもよい。
【0079】
いくつかの実施形態において、システムは、白血球を隔離するように構成された領域の長さおよびその中での白血球の滞留時間を増やすために、白血球を一連の装置、例えば、各々が1つまたは複数の隔離用の通路、または通路領域を含む2、4、10、20、またはそれより多くのカートリッジ(例えば、中空繊維カートリッジ)にかけることによって隔離を達成し得る。任意の前述の実施形態において、該装置は、隔離の前、隔離の間、または隔離の後に、白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害および/または白血球の失活を可能にする方法で、白血球の隔離を遂行するように構成される。白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害および/または白血球の失活は、本発明の通路、通路領域、またはシステム全体を通って、隔離の間および輸送の間の両方において達成され得る。
【0080】
本明細書に記載の隔離技術は、血小板にも適用できると理解されるべきである。血小板の場合、上記の類似の生物学的、化学的、機械的および/または物理的な技術が、血小板を隔離するために使用されてもよい。特定の実施形態において、血小板の隔離に使用される薬剤として、糖タンパク質Ibα (GPIbα)、糖タンパク質IIb (GPIIb)、糖タンパク質IIIa (GPIIIa)、CD41、CD61、フォン・ヴィルブランド因子、β2-インテグリンマクロファージ抗原-1、セレクチン(例えば、P-セレクチン)、および細胞接着分子の1つまたは複数が挙げられる。
【0081】
4.炎症と関連する細胞の阻害および/または失活
対象内の炎症反応が予防および/もしくは軽減されるように、対象の血液中のプライミングまたは活性化された白血球のような白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/またはそのような白血球を失活させるように、本発明のシステムおよび装置は構成される、ならびに本発明の方法は設計される。様々な技術が使用され得る。例えば、いくつかの実施形態において、装置およびシステムは、白血球(例えば、隔離された、活性化および/またはプライミングされた白血球)を白血球阻害剤にさらすことによって、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害し得る、および/またはそのような白血球を失活させ得る。白血球阻害剤は、通路、例えば、中空繊維の表面に、共有結合でまたは非共有結合で結合され得る。さらにまたはあるいは、白血球阻害剤は、白血球の隔離の前、隔離の間、または隔離の後に、例えば、膜表面でまたはその周辺で、装置もしくはシステムに注入され得る。述べたように、概念を実証するためのSCIDにより、クエン酸塩を用いて白血球の処置がなされ、対象の生存期間の延長がもたらされた。
【0082】
本発明は、白血球阻害剤の特定の種類または性質に限定されない。白血球阻害剤として、例えば、抗炎症性生物剤、抗炎症性小分子、抗炎症性薬、抗炎症性細胞、および抗炎症性膜が挙げられる。いくつかの実施形態において、白血球阻害剤は、活性化白血球の活性を阻害することができる任意の材料または化合物であり、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、抗サイトカイン、メシル酸イマチニブ、ソラフェニブ、リンゴ酸スニチニブ、抗ケモカイン、免疫抑制剤、セリン白血球阻害因子、一酸化窒素、多形核白血球阻害因子、分泌性白血球阻害剤、およびカルシウムキレート剤が含まれるが、それらに限定されない。カルシウムキレート剤の例として、クエン酸塩、ヘキサメタリン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、o-フェナントロリン、シュウ酸などが挙げられるが、それらに限定されない。白血球阻害剤は、アンジオゲニン、MARCKS、MANS、補体因子D、トリプシンアンジオゲニン断片LHGGSPWPPC92QYRGLTSPC39K (SEQ ID NO: 1)を含むジスルフィドC39-C92およびその合成ホモログを含むが、それらに限定されない、白血球または免疫細胞を抑制すると知られる任意タンパク質またはペプチドであり得る。薬剤は、白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害を促進するおよび/または白血球を失活させ得る、Tschesche et al. (1994) J. Biol. Chem. 269(48): 30274-80, Horl et al. (1990) PNAS USA 87: 6353-57, Takashi et al. (2006) Am. J. Respirat. Cell and Molec. Biol. 34: 647-652, and Balke et al. (1995) FEBS Letters 371: 300-302により報告されたタンパク質、ペプチド、およびホモログでもあり得る。さらに、白血球阻害剤は、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させると知られる任意の核酸であり得る。該白血球阻害剤は溶液状態、または凍結乾燥状態であり得る。
【0083】
白血球阻害剤の任意の量または濃度が、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させるために使用され得る。白血球阻害剤は、システムの通路、通路領域、装置、装置領域、またはシステム領域に、当技術分野で公知の任意の方法によって導入され得る。例えば、白血球阻害剤は、ポートにて注入され得る。通路に注入される白血球阻害剤の量は、同じ通路内または隣接通路内に隔離された白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させるのに十分であり得る。いくつかの実施形態において、白血球阻害剤、例えば、クエン酸塩は、他の機能を実行しかつ白血球を隔離しない装置を含むシステム、システム領域、または1つもしくは複数のシステム内の装置に注入され得る。より詳細には、白血球阻害剤(例えば、クエン酸塩)は、白血球を隔離する通路の上流に、通路内に、または通路の下流に注入され得る。あるいは、白血球阻害剤は、システム内の1つもしくは複数の通路、通路領域、装置、またはシステム領域に含まれ得る。例えば、白血球阻害剤は、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/もしくは白血球を失活させるのに十分な量で、白血球を隔離するように構成された通路内、または別の通路内の表面に結合し得る。
【0084】
白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害および/もしくは白血球の失活は、白血球の隔離の前、隔離の間、ならびに/または隔離の後に一時的に生じ得る。さらに、白血球は、隔離後しばらくの間、阻害されたまままたは失活されたままの状態であり得る。特定の実施形態において、白血球が目標濃度の白血球阻害剤にさらされるかまたはクエン酸塩のような白血球阻害剤にさらされることに起因する目標濃度のCai(典型的には約0.20mmol/L〜約0.40mmol/L)にさらされる間、白血球は阻害され得るまたは失活させられ得る。白血球が目標濃度の白血球阻害剤または目標濃度のCaiにさらされる期間は、白血球が隔離される期間に先行するか、その期間を含むか、および/またはその期間に続くことができる。特定の実施形態において、白血球は、白血球阻害剤にさらされた後の期間、引き続き阻害もしくは失活させられるようになり得る、または阻害もしくは失活させられたままであり得る。
【0085】
白血球阻害剤にさらされる期間は、使用される薬剤、白血球活性化の程度、炎症誘発性物質の産生度、および/または炎症性症状が患者の健康を危険にさらす度合いに依存して変化し得る。さらされるのは、例えば、1〜59秒、1〜59分、1〜24時間、1〜7日、1週間以上、1か月以上、または1年以上であり得る。白血球阻害剤は、システムの作動前または作動中に、システムに適用され得る。特定の実施形態において、白血球阻害剤はシステムの作動中に適用され、システムに適用される白血球阻害剤の量は監視される。
【0086】
いくつかの実施形態において、白血球阻害剤はシステムの中に(例えば、図2A〜2Dおよび図3に示されるポート206で、または図4B、4C、4E、および4Fに示される供給口435およびポンプ436から)滴定され得る。滴定は、監視される血液の特性と関連して調整され得る。例えば、クエン酸塩は、血液中のCaiを特定の量、例えば約0.2〜約0.4mmol/Lの濃度のCaiに保つために、システムに滴定され得る。生物学的に適合性のある任意の種類のクエン酸塩、例えば、0.67%のクエン酸三ナトリウムまたは0.5%のクエン酸三ナトリウムが使用され得る。例えば、Tolwani et al. (2006) Clin. J. Am. Soc. Nephrol. 1: 79-87参照。いくつかの実施形態において、第2の溶液が、対象に再入する血液を再調整するために、白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害および/または白血球の失活に続いて、(例えば、図2A〜2Dおよび図3に示されるポート258で、または図4B、4C、4E、および4Fに示される供給口445およびポンプ446から)システムに加えられ得る。例えば、カルシウムキレート剤が白血球阻害剤として使用される実施形態において、カルシウムは、対象に再入する前に血液に戻され得る。
【0087】
一実施形態において、クエン酸溶液を含む1,000mLの袋、例えば、ACD-A (Baxter Fenwal, シカゴ イリノイ州; 100 mLあたりの含有量: デキストロース2.45g、クエン酸ナトリウム2.2g、クエン酸730mg、25℃におけるpH4.5〜5.5)が、注入ポンプに取り付けられ、その後、システムの動脈ライン(対象から装置への流出)へ取り付けられ得る(例えば、ポート206で;CPB状況にある対象からの流出は静脈ラインと呼ばれ、注入は、例えば、供給口435およびポンプ436から起こる)。陰圧弁は、(血液ポンプに近い陰圧域に注入する)クエン酸塩ポンプ機能を促進するために用いられる。クエン酸塩注入の初速度は、一定、例えば、血液の流速(単位mL/分)の約1.5倍(単位mL/時)である(例えば、もし血液の流速が約200mL/分であれば、クエン酸塩注入の一定の初速度は約300mL/時であり得る)。さらに、約20mg/mLの濃度での塩化カルシウム注入が、このシステムの静脈ポート近くに追加されてもよい(例えば、ポート258で;CPB状況にある類似の配置が、図4B、4C、4E、および4Fにおいて供給口445およびポンプ446として示される)。最初のカルシウム注入はクエン酸塩注入速度の10%で設定され得る(例えば、30mL/時)。Caiは連続して、または様々な間隔で、例えば、最初の8時間については2時間ごと、その後、次の16時間については4時間ごと、その後は6時間〜8時間ごとに監視され得る。監視は、例えば、クエン酸塩注入後およびカルシウム注入後に、必要に応じて増加され得る、およびシステムの2か所以上で監視され得る。
【0088】
例示的なクエン酸塩および塩化カルシウム滴定プロトコールは、それぞれ、表1および表2に示される。この実施形態において、SCIDにおける目標Caiの範囲は、約0.20mmol/L〜約0.40mmol/Lで、Cai目標濃度はクエン酸塩の注入によって達成される(例えば、ACD-Aクエン酸塩溶液)。これは動力学過程なので、クエン酸塩注入の速度は、SCID内の目標Cai範囲を達成するように変化させられる必要がある場合がある。そのようにするためのプロトコールが下記に示され、注入は上記の注入点にて起こる。
【0089】
(表1)クエン酸塩注入滴定指針
【0090】
(表2)カルシウム注入滴定指針
【0091】
本明細書に記載の失活技術は、血小板にも適用できると理解されるべきである。特定の実施形態において、血小板を失活させるおよび/または血小板からの炎症誘発性物質の放出を阻害するために使用される薬剤は、トロンビンを阻害する薬剤、抗トロンビンIII、メグラトラン(meglatran)、ヒルジン、プロテインCおよび組織因子経路阻害剤が含まれるが、それらに限定されない。さらに、いくつかの白血球阻害剤は、血小板阻害剤として作用し得る。例えば、カルシウムキレート剤、例えば、クエン酸塩、ヘキサメタリン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、o-フェナントロリン、およびシュウ酸は、血小板を失活させ得るおよび/または血小板からの炎症誘発性物質の放出を阻害し得る。
【0092】
5.適応
本発明の方法、装置、およびシステムは、炎症と関連する多くの症状を治療および/または予防するために使用され得る。本明細書で使用される場合、「炎症性症状」という用語は、生物の免疫細胞が活性化される任意の炎症性疾患、任意の炎症性障害、および/または任意の白血球により活性化される障害を含む。そのような症状は、(i)病的な続発症を有する持続性の炎症反応および/または(ii)組織破壊につながる、白血球、例えば、単核細胞および好中球の浸潤によって特徴づけられ得る。炎症性症状は、対象内で生じる一次炎症性疾患および/または医療処置への反応として生じる二次性の炎症性疾患を含む。本発明のシステム、装置、および方法は、任意の対象についての任意の炎症性症状を治療し得る。本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、特定の診断検査または処置の受給者となるべきヒト(例えば、患者)、非ヒト霊長類、げっ歯類などを含む、任意の動物(例えば、哺乳動物)を表すが、それらに限定されない。
【0093】
白血球、例えば、好中球は、全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症、虚血/再灌流傷害および急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を含む、多くの臨床的な炎症性症状の発症および進行の主要原因である。いくつかの異なるおよび様々な種類の白血球が存在する;しかしながら、それらは全て、造血幹細胞として知られる骨髄の中の多能性細胞から産生され、かつこれらの細胞から派生する。
【0094】
白血球(white blood cell)としても表される、白血球(Leukocyte)は、血液およびリンパ系内を含む、身体の至る所で見出される。顆粒球および無顆粒白血球を含むいくつかの異なる種類の白血球が存在する。顆粒球は、光学顕微鏡下で見たとき、それらの細胞質内に異なった形で染まる顆粒が存在することによって特徴づけられる白血球である。これらの顆粒は、主に、エンドサイトーシスされた粒子の消化において作用する、膜に結合した酵素を含む。顆粒球には、好中球、好塩基球、および好酸球の3種類が存在し、これらはそれらの染色特性に従って命名されている。無顆粒白血球は、それらの細胞質内に顆粒がないことよって特徴づけられる白血球であり、リンパ球、単球、およびマクロファージを含む。
【0095】
血小板(Platelet)、または血小板(thrombocyte)も、炎症性症状およびホメオスタシスの原因の1つである。活性化時、血小板は、血小板プラグを形成するために凝集し、それらはサイトカインおよびケモカインを分泌して、白血球を引きつけるおよび活性化する。血小板は身体の血液循環の至るところで見出され、巨核球から派生する。
【0096】
白血球および血小板の内皮への接着の開始に主に責任のある分子は、それぞれP-セレクチンおよびフォン・ヴィルブランド因子である。これらの分子は、内皮細胞の中でバイベル・パラーデ小体として知られる同じ顆粒内に見出される。内皮細胞の活性化時、バイベル・パラーデ小体は細胞膜へ移動し、内皮細胞表面にP-セレクチンと可溶性フォン・ヴィルブランド因子を露出させる。これは、次に白血球と血小板の活性化および凝集のカスケードを誘導する。
【0097】
従って、本発明のシステム、装置、および方法は、対象内で生じる一次炎症性疾患および/または医療処置(例えば、透析もしくは心肺バイパス)への反応として生じる二次性の炎症性疾患を含む任意の炎症性症状を、治療および/または予防し得る。炎症性疾患および/または障害を含む、適用できる炎症性症状の例として、全身性炎症反応症候群(SIRS)、心肺バイパス症候群、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、敗血症、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患、膵炎、腎炎、多発性硬化症、乾癬、同種移植片拒絶、喘息、慢性腎不全、心腎症候群、肝腎症候群、および心筋、中枢神経系、肝臓、腎臓、または膵臓への虚血再灌流傷害による急性臓器不全が挙げられるが、それらに限定されない。
【0098】
炎症性症状の追加例として、移植片(例えば、臓器移植片、急性移植片、異種移植片)または異種移植片または同種移植片(火傷治療で使用されるようなもの)の拒絶;虚血または再灌流傷害(例えば、摘出もしくは臓器移植中に起こる虚血もしくは再灌流傷害、心筋梗塞、または脳卒中);移植寛容誘導;関節炎(例えば、関節リウマチ、乾癬性関節炎、または変形性関節症);呼吸器疾患および肺疾患(慢性閉塞性肺疾患(COPD)を含むがそれに限定されない)、肺気腫、および気管支炎;潰瘍性大腸炎およびクローン病;移植片対宿主疾患;接触過敏症、遅延型過敏症、およびグルテン過敏性腸疾患(セリアック病)を含むT細胞介在性過敏性疾患;接触皮膚炎(ツタウルシによる接触皮膚炎を含む);橋本甲状腺炎;シェーグレン症候群;自己免疫性甲状腺機能亢進症(例えば、グレーブス病);アジソン病(副腎の自己免疫疾患);多腺性自己免疫疾患(多腺性自己免疫症候群としても知られる);自己免疫脱毛症;悪性貧血;白斑;自己免疫下垂体機能低下症(autoimmune hypopituatarism);ギラン・バレー症候群;他の自己免疫疾患;糸球体腎炎;血清病;じんましん(uticaria);呼吸アレルギーのようなアレルギー疾患(花粉症、アレルギー性鼻炎)もしくは皮膚アレルギー;強皮症;菌状息肉腫;急性炎症反応および急性呼吸反応(例えば、急性呼吸窮迫症候群および虚血/再灌流傷害);皮膚筋炎;円形脱毛症(alopecia greata);慢性光線性皮膚炎;湿疹;ベーチェット病;手掌足底膿疱症(Pustulosis palmoplanteris);壊疽性膿皮症(Pyoderma gangrenum);セザリー症候群;アトピー性皮膚炎;全身性硬化症;限局性強皮症;外傷(例えば、銃、ナイフ、自動車事故、落下、または戦闘による外傷);ならびに細胞療法(例えば、自己細胞置換、同種細胞置換、または異種細胞置換など)が挙げられるが、それらに限定されない。追加の炎症性症状は本明細書のどこかで記載されるか、またはそうでなければ、当技術分野で公知である。
【0099】
本明細書のシステム、装置、および方法は、また、ex vivoでの組織および臓器の開発および使用を支援するために使用されてもよい。例えば、本発明は、移植のための臓器摘出手術、組織工学利用、ex vivoでの臓器の生成、ならびに生体微小電気機械システム(MEM)の製造および使用を支援するために使用されてもよい。
【0100】
前述の記載を考慮すると、以下に提示される具体例で非限定的な実施例は例証目的のためのものであり、決して、本発明の範囲を制限するように意図されない。
【実施例】
【0101】
実施例1.動物モデルにおける急性敗血症および急性腎不全と関連する炎症の治療
この実施例は、急性敗血症および急性腎不全の症状と関連する炎症を治療するため、本発明の実施形態を評価するのに用いられた一連の実験を記載する。
【0102】
(I)背景および原理
白血球、特に好中球は、SIRS、敗血症、虚血/再灌流傷害および急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を含む、多くの臨床的な炎症性疾患の発病および進行の主要な原因である。組織破壊および疾患の進行を最小限にするために、炎症部位における白血球の活性化および組織蓄積を制限するための多くの治療アプローチが研究されている。SIRSを伴う重篤な敗血症は、集中治療室や広範囲の抗生物質を使用したとしても、アメリカ合衆国において、30〜40%の死亡率で年間20万人の患者に生じる。
【0103】
この調査の源は、急性腎不全(ARF)を治療するために、体外の装置で尿細管前駆細胞を利用する、現在行われている有望な前臨床試験および臨床試験から生じる。ARFは、最終的には多臓器不全および死に至る一連の事象における腎毒性傷害および/または虚血性尿細管細胞傷害に伴う急性尿細管壊死(ATN)から生じる。腎置換療法を必要とするATNによる死亡率は、50〜70%の範囲にある。該障害の病態生理学についての理解がより深まり、血液透析および血液濾過療法が改善したにもかかわらず、この高い死亡率はここ数十年にわたって続いている。
【0104】
これらの症状に対する治療法としての尿細管前駆細胞の利用は、尿細管細胞が、敗血症性ショックにおいて重要で免疫学的な調節的役割を果たすという論文に基づいていた。特に、重篤な敗血症性ショックは、敗血症性ショックのブタモデルにおいて菌血症の数時間以内に急性尿細管壊死(ATN)およびARFになることが示された。従って、ARFは、敗血症性ショックの時間経過の早くに発症するが、急性傷害後、血中尿素窒素および血清クレアチニンの上昇が観察されるのに数日かかるので、時間枠は臨床的には理解されていない。ARFおよびATNにおける腎臓の免疫調節性機能の喪失は、SIRS、敗血症、多臓器不全、および死亡の高リスクを発症する傾向をもたらす。最近の報告は、心臓切開手術後の術後経過中に、ARFを発症する患者において、3.3〜60%に近い敗血症事象の上昇を示した。
【0105】
合成材料および体外回路が進歩したにもかかわらず、急性血液透析または血液濾過単独では、まだATNの死亡率を50%未満に減少させていないので、ARFまたはATNの障害は、連続的な血液濾過技術との併用療法に特に適している。ATNは、主に、近位尿細管細胞の傷害および壊死により発症する。敗血症ショックと同時に発症するATNの発作の間にこれらの細胞機能を早期に置換することにより、血液濾過と併せたほぼ完全な腎臓置換療法が提供され得る。アンモニア産生およびグルタチオン再生のような代謝活動、ビタミンD3活性化のような内分泌活動、およびサイトカインホメオスタシスの追加は、追加の生理的代替活動を提供し、この疾患の進行の現在の自然経過を変え得る。
【0106】
この症状に対する尿細管前駆細胞の効果を試験するために使用された1つのシステムは、一般的に米国特許第6,561,997号に記載のように、濾過装置(従来型の高流速血液フィルター)と、それに直列に続く腎臓補助装置(RAD)からなっていた。初期の実験において、RADは、繊維の内部表面に沿って成長したヒト腎臓上皮細胞を含む標準血液濾過カートリッジを利用する体外システムと言われた。この配置は、濾過液を、調節された輸送および代謝機能のために尿細管細胞で裏打ちされた、中空繊維ネットワークの内部区画に入れることを可能にした。対象からくみ出された血液を、第1の血液フィルターの繊維に入れ、そこで限外濾過液(UF)を作り、血液フィルターのRAD下流内にある中空繊維の管腔の中に送達した。RDAから出る処理されたUFを回収し、「尿」として排出した。最初の血液フィルターから出る濾過された血液は、毛細管外の空間(ECS)ポートを通ってRADに入り、装置の繊維の中で分散した。RADを出ると、処理された血液は第3のポンプを経て対象の体に戻った。体外の血液回路は、腎不全を患う患者における、持続的または断続的な血液透析療法のために使用されるものと同一の血液ポンプシステムおよび血液管に基づいた。
【0107】
RADの尿細管前駆細胞のin vitro研究は、該細胞が、分化した能動輸送特性、分化した代謝活性、および重要な内分泌過程を保持するということを実証した。追加の研究は、RADが、体外血液灌流回路内の血液濾過カートリッジと直列に組み込まれた場合、急性尿毒症のイヌの腎臓の濾過、輸送、代謝、および内分泌機能を代替することを示した。さらに、RADは、急性尿毒症の動物において内毒素ショックを改善した。
【0108】
尿細管細胞療法の免疫調節的役割をさらに理解するために、RAD療法を施す場合および施さない場合の敗血症の組織特異的結果を、気管支肺胞洗浄検査(BAL)を用いて評価した。BAL標本を、SIRSに反応する肺の微小血管損傷および炎症を評価するために使用した。以下に詳述された予備データは、腎臓細胞療法が、損傷した血管からのタンパク質の漏出の減少および炎症の減少と関連することを実証した。
【0109】
この実験モデルシステムを用いて、全身性および組織特異的炎症過程における腎細胞療法の役割を、第2の一連の評価において、より注意深く評価することができた。それと同時に、RADを評価する臨床試験において、登録する際の障壁は、体外の血液ラインおよび透析カートリッジの血液灌流を維持するために、ヘパリンを用いる全身の抗凝固を必要とすることであった。ここ10年にわたって、連続的な腎置換療法(CRRT)回路における全身ヘパリン処置および血液灌流のより良い維持に対する必要性を取り除くために、カルシウム結合剤としてクエン酸塩を用いる局所的な抗凝固が、標準的な治療方法になった。
【0110】
従って、模擬の無細胞カートリッジおよび細胞を含むカートリッジを用いる前臨床の動物モデルにおける比較を、血液回路内のクエン酸塩および低Cai量が、全身性ヘパリン処置を用いて観察された尿細管細胞療法の有効性を減少させないことを確かめるために行った。以下に詳述するように、2つのカートリッジシステムにおけるクエン酸塩の抗凝固は、難解なおよび予期せぬ結果を示した。
【0111】
(II)実験A−動物モデルの最初の実験
最初に本発明の実施形態を評価するために、敗血症のブタモデルにおけるSIRSの確立された再現性のあるモデルを用いた(例えば、Humes et al. (2003) Crit. Care Med. 31:2421-2428参照)。
【0112】
方法および材料
健常ブタ(30〜35 kg)を、心血管パラメータおよび持続的な静静脈血液濾過(CVVH)を用いた処置を評価するために、適切なカテーテルを導入することによって準備した。その後、該ブタの腹腔内に大腸菌30×1010細菌/kg体重を入れた。細菌注入後15分以内に、該動物を、2つのカートリッジ(第1のカートリッジは血液フィルターであり、および第2のカートリッジは多孔質中空繊維を含む腎臓補助装置(RAD)である)を有するCVVH回路内に置いた。この実験について、RADは図3に示される回路内の図7に概略的に示される装置を表す。図7において、RADは中空繊維752(明確にするため1つだけがラベルされている)である複数の膜を含む。繊維内の管腔空間は、毛細管内の空間(「ICS」)740と呼ばれる。その周辺空間は、RADのハウジング754内にある毛細管外の空間(「ECS」)742と呼ばれる。活性化白血球を含む血液は、ECS入口748に入り、繊維752の周りのECS742内に移動し、ECS出口750を経てRADを出て、流出ラインに入る。この実験について、RADの中空繊維752は多孔質であり、各繊維の管腔740の内膜層で単層培養された同種移植尿細管細胞を含む。その対照は、尿細管細胞を含まないが、その他はRADと同じである模擬RADであった。
【0113】
図3に示されるように、動物から出る血液を、第1の血液フィルターの繊維に送り込み、そこで限外濾過液(UF)を作り、血液フィルターの下流のRAD中空繊維752内のICS740 に輸送した。RADを出る処理されたUFを回収し、UFポンプ304を使用して廃棄物として捨てた。最初の血液フィルターを出る濾過された血液は、毛細管外の空間(ECS)入口748を通ってRADに入り、装置の繊維752の中で分散した。ECS出口750を経てRADを出ると、処理された血液は対象の身体へ戻された。血液は、血液濾過装置の前後に置かれた血液ポンプ204および300、ならびにRADと動物の間に置かれた第3の血液ポンプ(図3に図示せず)を経てシステム中を移動した。クエン酸塩またはヘパリンを、206でシステムに加え、必要であれば、(再入する血液を準備するために)第2の薬剤を、対象に血液が再入する前に、258で加えた。
【0114】
細菌注入後の最初の1時間、動物を晶質のヘスパン80mL/kgおよびコロイドヘスパン80mL/kgからなる量を用いて蘇生させた。細菌注入後15分で、臨床状況を再現するために、動物に抗生物質のセフトリアクソン100mg/kgを入れた。どの動物にも、血管収縮薬または強心薬は入れなかった。
【0115】
結果および考察
血圧、心拍出量、心拍、肺毛細管せつ入圧、全身血管抵抗および腎臓の血流を、試験中ずっと測定した。このモデルを用いて、RAD処置は、心拍出量および腎臓の血流によって決定されるように、対照よりも良好な心血管性能を維持することが示された。改善された腎臓の血流は、対照と比べたRAD動物におけるより低い腎臓の血管抵抗に起因した。
【0116】
改善された心血管パラメータは、生存期間を延長させた。(尿細管細胞を含まない、模擬RADで処置された)対照動物はどれも、7時間以内に息を引き取ったが、全てのRAD処置動物は7時間を超えて生存した。対照の5±1時間と比較して、RAD群は10±2時間生存した(p < 0.02)。敗血症ショックにおける予後的な炎症兆候であるインターロイキン(IL-6)、およびサイトカイン炎症反応のイニシエーターであるインターフェロン-γ(IFN-γ)の血漿濃度は、対照群と比較して、RAD群ではより低かった。
【0117】
最初のデータは、ブタモデルが急性敗血症ショックの信頼できるモデルであり、RAD処置はサイトカインプロファイルの変化と関連する心血管の性能を改善し、有意な生存優位性をもたらすことを実証した。最初のデータは、RAD療法が敗血症ショックで生じる多臓器機能障害を改善することができることも実証した。
【0118】
このモデルの再現性を向上させるために、緊急輸液療法プロトコールは、細菌投与の時に晶質/コロイドボーラスを注入した後すぐに、100mL/時間から150mL/時間に増加した。この改善された蘇生プロトコールに加えて、尿細管細胞療法の免疫調節的役割をさらに理解するために、RAD療法を施す場合および施さない場合の敗血症の組織特異的結果を、気管支肺胞洗浄検査(BAL)を用いて評価した。BAL標本を、SIRSに反応する肺の微小血管損傷および炎症を評価するために使用した。腎臓細胞療法が、損傷した血管からのタンパク質の漏出の減少およびBAL液体試料の炎症の減少ならびにSIRSの他の心血管効果の改善と関連することが示された。
【0119】
緊急輸液療法を利用している上記の洗練された動物モデルは、クエン酸塩の局所的抗凝固の下でのRAD療法の有効性が、全身ヘパリン抗凝固の下でのそれと類似であるかどうかを評価するための一連の研究において使用された。従って、模擬RAD(無細胞)カートリッジおよびRAD(細胞を含む)カートリッジの前臨床動物モデルの比較を、血液回路内のクエン酸塩および低Cai量が、全身ヘパリン処置を用いて観察された尿細管細胞療法の有効性に負の影響を与えるかどうかを評価するために開始した。
【0120】
予想外に、結果は、腎臓細胞のないRADを用いたクエン酸塩抗凝固(すなわち、クエン酸塩で処置されたSCID)が、SIRSに起因する肺損傷を回復させるのに有効であり、かつ下記に詳述されるのとほぼ同じぐらい、この大型動物モデルにおける敗血症ショックに起因する心血管機能障害および死までの時間を軽減するのに有効であることを示した。
【0121】
(III)実験B−腎臓上皮細胞を利用するシステムまたはそれを欠くシステムの大型動物モデル比較
上記の敗血症ショックの改善されたブタモデルを、選択的細胞吸着除去抑制装置(SCID)と対比して、腎臓補助装置(RAD)による介入の多臓器効果を評価するために使用した。この実験において、RADおよびSCIDの両方は、上記のように、図3の回路の中の図7の装置を表す。しかしながら、RADシステムは、RAD755のICS740の中にブタ腎臓上皮細胞を含み、ヘパリン抗凝固処置を受ける。SCIDシステムは、SCID755のICS740の中に細胞を含まず、クエン酸塩処置(ヘパリンを用いない)を受ける。以下のデータは、合計で14匹の動物から得られた。7匹の動物を、ICS内のブタ腎臓上皮細胞を含まず、ヘパリン抗凝固処置を受けるRADである模擬対照(図9〜13に「模擬/ヘパリン」として表示)を用いて処置した。4匹の動物を、ブタ腎臓上皮細胞および全身ヘパリン療法を含むRAD(図9〜13に「細胞RAD」として表示)を用いて処置した。3匹の動物を、ICS内に細胞を含まず、クエン酸塩局所抗凝固を受けるSCID(図9〜13に「模擬/クエン酸塩」として表示)を用いて処置した。
【0122】
心血管パラメータの観察
図9に示されるように、腹腔内への上記の細菌投与は、全ての群において急速で、深刻で、最終的に致命的な動脈圧平均値(MAP)の減少を誘導した。初期データは、模擬/ヘパリン対照と比較して、クエン酸塩を用いたSCIDが、MAPへの効果を弱めることを示唆した。図10に、各群についての心拍出量(CO)を詳述する。COは、他の群と比較して、RAD群において十分により高かった。クエン酸塩効果は、模擬/ヘパリン対照と比較して、RAD効果よりも顕著ではないが、より多くの動物を用いて有意に達した。群間での類似の傾向が、一回拍出量において同様に観察された。
【0123】
この敗血症経過に伴って誘導される全身毛細血管漏出の近似測定として、血球容量の変化を図11に示す。図11において、模擬/ヘパリン対照は、RAD群およびSCID群の両方と比較した模擬対照群における血管内区画からのより大きい容積減少率を反映して、時間と共により高い上昇率を有した。これらの変化は、模擬/ヘパリン群と比較して、この予備の評価段階で、RAD群およびSCID群における実質的な延命効果と関連した(図12参照)。平均生存期間は、模擬/ヘパリン群については7.25±0.26時間、SCID(模擬/クエン酸塩)群については9.17±0.51時間、およびRAD(ICS空間に細胞を有する)群については9.56±0.84時間であった。これらのデータは、模擬/ヘパリン群と比較して、RAD(ICS空間に細胞を有する)、および予想外に、SCIDの両方が、心拍出量、腎臓の血流および生存期間を改善したことを示した。
【0124】
炎症パラメータの観察
ブタSIRSモデルを用いて、様々な治療的介入の効果を調べるため、気管支肺胞洗浄(BAL)液を死亡時に入手し、微小血管損傷のパラメータとしてのタンパク質含有量、様々な炎症性サイトカインおよび多形核細胞(PMN)の絶対数について評価した。表3にまとめたように、予備データは、RAD処置とSCID処置の両方が、SIRSにおける肺障害の初期段階で、血管損傷およびタンパク質漏出をより少なくし、炎症性サイトカイン放出を減少させることを示した。IL-6、IL-8および腫瘍壊死因子(TNF)-αの量は、模擬対照と比べて、治療的介入においてより低かった。IL-1およびIL-10の量に違いはなかった。各群、n=1または2であったが、模擬対照における好中球の絶対数は1000細胞/mLを越え、RAD群およびSCID群ではより低い傾向であった。
【0125】
(表3)敗血症ショックを患うブタから得た気管支肺胞洗浄(BAL)液中のタンパク質およびサイトカイン量
注釈:平均値±標準誤差。死亡時に行われたBAL。
【0126】
白血球隔離の観察
血液透析の文献は、単一カートリッジの中空繊維を通る血液循環が、一過的な1時間の好中球減少反応をもたらすと示唆する(例えば、Kaplow et al. (1968) JAMA 203:1135参照)。第2のカートリッジの体外空間を通る血流が、循環白血球のより高い接着率をもたらすかどうかを試験するために、敗血症動物における全白血球(WBC)数および差異を測定した。結果を図13に示す。
【0127】
図13に示されるように、各群は、2時間で発症し、7時間で回復する底を有する、体外回路に対する白血球減少反応を有した。これらの動物(各群n=1〜2、合計=5)におけるベースライン〜3時間の平均白血球分画を表4にまとめた。白血球の全小集団は減少し、一番顕著なのは好中球であった。
【0128】
(表4)
注釈:数値は、5匹の動物(模擬対照動物1匹、RADにより処置された動物2匹およびSCDにより処置された動物2匹)の平均である。
【0129】
SCIDにおける白血球の隔離を実証するために、図14A〜Dに、中空繊維の外部表面に接着した白血球の密度を表示する。これらの写真は、SCIDにおける白血球の隔離を示す。この処置プロトコールを受けている健常動物では、8時間の処置過程の間、それらの白血球(WBC)が9000を下回らなかった。これは、プライミングまたは活性化された白血球が、第2の膜システムに接着する必要があり得ることを示唆する。
【0130】
これらのデータは、模擬/ヘパリン対照と比較して、RADが、心拍出量、腎臓の血流(データ示さず)、および生存期間を改善することを確証する。さらに、第2の低せん断力の中空繊維カートリッジ(すなわちSCID)と組み合わせたクエン酸塩の使用は、それがICS内に細胞を含まなくても、大きな抗炎症効果を有するということを見出したのは予想外であった。
【0131】
実施例2.白血球の隔離ならびに阻害および/または失活のin vitro研究
この実施例で詳述される実験は、透析膜に接着した白血球が、クエン酸塩存在下で、阻害されるおよび/または失活することを示す。さらに、他のデータは、クエン酸塩抗凝固が、末期腎疾患(ESRD)を患う対象の血液透析の間、好中球の脱顆粒(カルシウム依存性のイベント)を無効にするということを実証した。この過程をより詳細に評価し、それを他の白血球集団およびサイトカイン放出に拡大するために、次のin vitro実験を行った。
【0132】
方法および材料
白血球を、確立された方法を使用して、健常個体から単離した。白血球(1ウェルに106細胞)を、14×14 mm平方のポリスルホン膜(Fresenius、Walnut Creek、カリフォルニア州)を含む12ウェル組織培養プレートに置き、RPMI培地中、37℃で60分間接着させた。培地を取り除き、細胞をPBSで洗浄し、取り除いた上清を細胞放出について分析した。クエン酸塩を含む(Cai=0.25mmol/L)または含まない(Cai=0.89mmol/L) RPMI培地を用いて、下記の表5に記載のCai量を得た。各カルシウム条件は、また、白血球を活性化するために、リポ多糖(LPS、1μg/mL)を含むまたは含まない培地を有した。
【0133】
好中球からのエキソサイトーシス小胞の中にあるタンパク質であるラクトフェリン(LF)およびミエロペルオキシダーゼ(MPO)、ならびに白血球から放出されるサイトカイン、IL-6およびIL-8の放出を評価するために、細胞を60秒間これらの条件にさらし、培地から取り出した。これらの化合物を、市販のElisaキット(R & D Systems、Cell Sciences、およびEMD BioSciences)を用いてアッセイした。
【0134】
結果および考察
結果を表5に示す。
【0135】
(表5)
注釈:2つの異なる正常対照からの白血球(WBC)単離;各条件を2つ組で分析した。ベースラインはLPSを含まなかった;刺激ありの条件はLPSを含んでいた(1μg/mL)。
【0136】
これらの炎症性タンパク質の実質的な増加が観察された正常Cai培地と対照的に、低いCaiを有するクエン酸塩を含む培地は、LF、MPO、IL-6、またはIL-8の増加が観察されなかった。これらの結果は、透析膜に接着した白血球集団の刺激は、培地中のCai量を下げるクエン酸塩の存在下で阻害されたおよび/または失活したということを示している。この低いCai量は、白血球内の複数の炎症性反応(例えば、炎症誘発性物質の放出)を阻害するおよび/または白血球を失活させるための細胞質カルシウム量に変化をもたらした。
【0137】
実施例3.ヒトにおける急性腎不全(ARF)と関連する炎症の治療
この実施例に記載される実験は、ヘパリンで処置されたシステム内の類似の装置を用いて処置された患者と比べて、本発明の実施形態(すなわち、クエン酸塩で処置したシステム内の中空繊維チューブを含むSCID)を用いて処置されたヒト対象において、予想外の生存率を示す。特に、この実験において、SCIDは図3の回路内の図7の装置を表す。腎臓細胞は、SCIDのICSに含まれなかった。
【0138】
背景
これまでに連続的な静静脈血液濾過(CVVH)を受けているARFおよび多臓器不全を患う10人の重病患者に対する腎臓細胞療法の安全性および有効性を、フェーズI/II臨床試験で調べた(例えば、Humes et al. (2004) Kidney Int. 66(4):1578-1588)。これらの患者の予測された病院死亡率は、平均85%を上回った。以前に報告された臨床試験で使用された装置に、腎臓(死体腎臓移植のために提供されたが、解剖学的欠陥または繊維性の欠陥のために移植に適さないことが分かった腎臓)から単離されたヒト近位尿細管細胞を播種した。この臨床試験の結果は、CVVHと併せて使用された時、この実験的処置が、最大24時間、研究プロトコール指針の下で安全に送達され得ることを実証した。臨床データは、このシステムが、臨床設定における実行可能性、耐久性、および機能性を提示し、ならびにこれらを維持することを示した。この処置と時間的に相関する増加した尿排出量によって決定されるように、患者の心血管の安定性は維持され、生来の腎臓機能を増大させた。
【0139】
以前の臨床研究におけるシステムは、分化した代謝活性および内分泌活性も実証した。4日以上の経過観察を経た一人を除く全ての処置を受けた患者は、急性の生理学的スコア(acute physiologic score)によって評価した場合、改善を示した。APACHE 3採点法を用いたこれら10人の患者についての予想された死亡率は平均で85%であったが、処置を受けた患者の10人中6人は、腎臓機能が回復し、28日を越えて生存した。血漿サイトカイン量は、この細胞療法が、患者特有の病態生理学的状態に応じて、患者における動的でかつ個別化された反応を生じさせることを示唆した。
【0140】
この好ましいフェーズI/II臨床試験の結果は、その後、この細胞療法アプローチが患者の死亡率を変化させるかどうかを決定するための、FDAに承認された、12〜15の臨床現場におけるフェーズIIのランダム化比較試験につながった。あるフェーズII研究は、58人の患者を含んでいた。このうち40人はRAD療法にランダムに割り当てられ、18人は対照群を構成し、人口統計学的なデータおよび経時的臓器不全評価(SOFA)スコアによる病気の重症度は同等であった。初期の結果は、フェーズI/IIの結果と同じくらい説得力のあるものであった。腎臓細胞療法は、28日の死亡率を、従来型の血液濾過で処置された対照群の61%から細胞で処置された群の34%まで改善した(例えば、Tumlin et al. (2005) J. Am. Soc. Nephrol. 16:46A参照)。この生存効果は、90〜180日の経過観察の間ずっと継続し(p < 0.04)、Cox比例ハザード比は、死亡リスクが従来型のCRRT群で観察されたリスクの50%であったことを示している。腎臓細胞療法を用いたこの延命効果は、様々な原因のARFについて、臓器不全数(1〜5+)または敗血症の存在に関わらず観察された。
【0141】
方法
追加の研究を、商業的な細胞製造過程およびクエン酸塩の局所的抗凝固の付加を評価するために行った。これらの患者処置群の結果は、全身性ヘパリン抗凝固またはクエン酸塩の局所的抗凝固を施してSCID(ICSに細胞を含まない)を用いて処置された患者における死亡率を比較するために分析した。これらの実験で使用した装置を、上記のような図3に示した回路の中の図7に概略的に示す。しかしながら、この実験については、第2の血液ラインポンプはSCIDと対象の間にある(図3に示されるように装置間にはない)。
【0142】
結果
表6は、SCID/クエン酸塩システムが、28日および90〜180日の時点において、顕著な生存率の増加を生み出したことを示す。
【0143】
(表6)
注釈:SOFA=経時的臓器不全評価;OF =臓器不全数;MOF =多臓器不全数
【0144】
図15は、ヘパリン(「SCID/ヘパリン」)の代わりにクエン酸塩を使用する装置(「SCID/クエン酸塩」)で処置された患者における、0〜180日の間での顕著な生存率の増加をグラフで示す。SOFAスコアおよび臓器不全数によって測定された場合に、患者群が類似の疾患の活動性を有していても、これらの生存の違いが生じた。いずれの群も、システムの第2のカートリッジのICS内に細胞を含まなかった。
【0145】
考察
この臨床的効果は予期せぬものであった。これらの結果は、患者の生存を最大限に延ばすことにおいて、前例のない、驚くべき成功を提供した。これらの臨床データはARFを患う患者から得られたが、この観察は、より一般的に、例えば、SIRS、ESRDおよび他の炎症性症状に当てはまるであろうと考えられる。潜在的メカニズムについてのさらなる評価を、クエン酸塩処置群およびヘパリン処置群における、無細胞カートリッジの組織学的評価を用いて遂行した。上記の動物モデルのデータと類似して、クエン酸塩/SCIDシステムは、第2のカートリッジの中空繊維の外部表面を有しており、このカートリッジの血液側は白血球で覆われていた。類似の結合が、ヘパリン/SCIDシステム内で観察された。
【0146】
実施例4.1装置システムを使用した炎症の治療
いくつかの例では、単一の処置装置(すなわち、他の処置装置を含まないSCID)を用いた処置システムを使用することは有益であり得る。先に議論したように、本発明の特定の実施形態は、主たる処置機能の実行に加えて、(望ましくない形で)白血球を活性化し得る体外回路の中にある第1の処置装置(例えば、血液フィルター)を利用する。SCID内で直列の第2の処置装置は、(例えば、図2Cおよび2Dに示されるような)ECSの低抵抗の区画内で、接着と体系的隔離を達成する。従って、第1の処置装置がその主たる機能を実行する必要がない場合、それを取り除き、白血球の望まない活性化を減少させることは有益であり得る。他の実施形態(例えば、敗血症)において、循環白血球はすでに活性化されている可能性があり、血流がECSの低抵抗区画を通る(例えば、図2Aおよび2Bに示されるような)単一装置SCIDシステムは、白血球の接着および隔離に適し得る。血液ライン上の1つのポンプのみがこの回路に必要とされ、治療的介入を単純化する。
【0147】
この実験は、対象(例えば、炎症反応を発症するリスクのあるまたは炎症反応を有する動物またはヒトの患者)における選択的細胞吸着除去の有効性、ならびに生存率、ならびに炎症反応を軽減および/または予防する効果を評価する。特に、この実験は、システム内にSCIDのみ含む1装置システムと、システム内にSCIDおよび血液を処置する他のシステム構成要素、例えば、1つまたは複数の血液濾過カートリッジを含む2装置システムを比較する。1装置システムは、SIRSのような症状を有するかまたは有するリスクのある対象に対して特に役立ち得る。この場合、白血球隔離ならびに、任意で、白血球失活および/または白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害が、体外回路にとって主たる処置目的である。2装置(または複数装置)システムは、体外回路を使用する2つ以上の処置の必要性のある対象に対して、例えば、腎臓透析処置と白血球隔離の両方、ならびに、任意で、白血球失活および/または白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害の必要性のある急性腎不全を患う対象に対して役立ち得る。
【0148】
第1の試験システムは、それぞれ、図2Aまたは2Bのいずれかの回路の中の図5または6の1つに示されるような単一SCIDを含む。第2の試験システムは、それぞれ、図2Cまたは2Dのいずれかの複数装置回路の中の図5または6の1つに示されるようなSCIDを含む。両方の試験システムについて、SCID中空繊維カートリッジまたはシステム全体は、クエン酸塩を含む。両システムについて、限外濾過液および細胞は、SCIDのICSに含まれない。
【0149】
2群の対象(例えば、ブタ)に、上記の実施例1に記載のように、敗血症およびSIRSを誘導するため細菌を投与する。その後、各群を試験システムの1つを用いて処置し、実施例1に記載されたような測定を行う。この2群の測定を比較する。記載された1装置および2装置システム構成に加えて、装置およびそれらの装置を含むシステムの他の構成も試験され得る。
【0150】
一過的な白血球減少症および好中球減少症の程度は、1装置システムと2装置システムの間で同等であると予想される。単一装置構成および2装置構成の両方が効果的であると予想されるが、白血球(WBC)数と、心血管および肺の機能パラメータに対する影響との関係、全身性の炎症および肺の炎症の兆候、ならびに単一装置システム対2装置システムの全域での白血球活性化マーカーの変化は、より簡素な単一装置システムまたは2装置システムが第2の処置装置を必要としない状況において有益かどうかを確かめる。
【0151】
実施例5.白血球隔離表面域の比較
この実験は、試験対象における炎症反応を予防するためにおよび生存率を上昇させるために選択的細胞吸着除去を行うことにおける、異なる白血球隔離表面域を有する1つまたは複数のSCID中空繊維カートリッジの有効性を評価する。いくつかの膜の大きさを試験する。最初の試験は、それぞれ、約0.7m2および約2.0m2の表面域を有するSCID膜の比較を含む。追加の試験群は、約0.7m2〜約2.0m2の膜表面域の比較、および/または約2.0m2を越える膜表面域の比較を含み得る。
【0152】
1つの研究において、上記のような、様々な白血球隔離表面域を有する中空繊維カートリッジを含むSCIDを用意する。図5の一般設計のSCIDを、図2Aまたは2Cの回路内に設置するか、または図6の一般設計のSCIDを、図2Bまたは2Dの回路内に設置する。対象(例えば、ブタ)に、上記の実施例1に記載のように、敗血症およびSIRSを誘導するため細菌を投与する。その後、対象群を、本明細書に記載のシステムのうちの1つまたは複数を使用して処置する。試験される各システムについて、少なくとも2つの異なるSCIDの膜表面域サイズ(例えば、0.7m2および2.0m2)を試験する。実施例1に記載のような測定を行い、各群からの測定を比較する。
【0153】
別の研究において、CPBを受けている対象(例えば、ブタまたは子ウシ)を研究する。CPBを用いた処置は、急性腎損傷(AKI)および急性肺損傷(ALI)を含む臓器機能不全を引き起こす。様々な白血球隔離表面域を有する中空繊維カートリッジを含むSCIDを、CPB回路内で試験する。
【0154】
CPBを、図4A〜4Fのいずれかに示されるような回路内に構成されたSCIDを使用して、本明細書の実施例8および9に記載の対象に対して行う。各システムについて、少なくとも2つの異なるSCIDの膜表面域サイズ(例えば、0.7m2および2.0m2)を試験する。終点測定は、本明細書に、例えば、実施例1または8に記載の測定を含む。さらに、CPBによって誘導されたAKIおよびCPBによって誘導されたALIの重症度を、SCID膜隔離表面域の関数として評価し得る。
【0155】
増大した膜表面域は、白血球結合を増強し、SCIDを使用して誘導される白血球減少症の時間間隔をより長くすることが予想される。従って、(より小さい隔離表面域と比べて)より大きい隔離表面域を有するSCIDは、(例えば、改善された生存率および/または炎症反応を軽減および/もしくは予防する改善された効果によって測定される)選択的細胞吸着除去の有効性を改善し、CPBと関連する合併症(例えば、CPBと関連する臓器傷害)を軽減することに対してより大いに有益な効果を有すると予想される(例えばAKIとALI)。
【0156】
実施例6.急性腎損傷を患う敗血症ショックモデルにおける選択的細胞吸着除去装置
この実施例に記載される実験は、SCIDを有する1ポンプおよび2ポンプシステムの前臨床試験、およびAKIを伴う敗血症ショックのブタモデルへのクエン酸塩またはヘパリンのいずれかの投与について記載する。実験は、一般的に、2つの評価に向けられた。最初に、実験は、2ポンプ回路内のSCID(例えば、図3の回路内の図7のSCID)と比べて、1ポンプ回路内のSCID(例えば、図2Dの回路内の図6のSCID)を利用することの有効性を評価した。「1ポンプ」または「2ポンプ」は、例えば、図2Dのポンプ204(1ポンプシステム)によってまたは図3のポンプ204および300(2ポンプシステム)によって示されるような回路の血液ライン上のポンプの数を表す。1ポンプ回路を使用する利点は、既存の透析機器が、ベッドサイドでのケアを提供するために、追加の訓練またはポンプシステムなしに利用できることである。さらに、この実験は、ヘパリンと対比してクエン酸塩を使用して、活性化した白血球を隔離するおよびそれらの活性化状態を阻害するためのSCIDの作用のメカニズムを評価した。
【0157】
材料および方法
2ポンプ回路と比べた1ポンプ回路内のSCIDの有効性を評価するために、以下の2つの試験システムを準備した。第1に、1ポンプ試験システムは、図2Dの回路内に図6のSCIDを含んでいた。第2に、2ポンプ試験システムは、図3の回路内に図7のSCIDを含んでいた。両方の試験システムは、また、クエン酸塩またはヘパリンを含み、SCIDのICS内に細胞を含んでいなかった。
【0158】
実施例1で記載されたように、この実施例の実験は、AKIおよび多臓器機能不全と関連する敗血症ショックの確立されたブタモデルを利用した。(例えば、Humes et al. (2003) Crit. Care Med. 31:2421-2428参照)。簡潔に説明すると、2群の対象(ブタ)に、上記実施例1に記載されたように、敗血症およびSIRSを誘導するために細菌を投与した。その後、各群を、1ポンプまたは2ポンプ試験システムの1つを使用して処置した。各1ポンプおよび2ポンプシステムは、2つの処置下位群(クエン酸塩注入またはヘパリン注入のいずれかを用いた処置群)を有した。従って、敗血症およびSIRSを有する一方の群の対象を、1ポンプシステムおよびクエン酸塩またはヘパリンのいずれかを用いて処置し、敗血症およびSIRSを有するもう一方の群の対象を、2ポンプシステムおよびクエン酸塩またはヘパリンのいずれかを使用して処置した。
【0159】
白血球、好中球、および血小板を、1ポンプおよび2ポンプシステムの相対的な有効性を評価するために測定した。さらに、ヘパリンと比べたクエン酸塩を有するSCIDによる活性化白血球の隔離および阻害のための作用のメカニズムを評価するために、いくつかのパラメータを、クエン酸塩またはヘパリンのいずれかを使用したシステム内で測定した。評価したパラメータには、好中球活性化の指標であるミエロペルオキシダーゼ(MPO)およびCD11bが含まれた。CD11bの測定のために、動物から血液試料を取得し、白血球細胞表面上で発現したCD11bタンパク質に結合する蛍光抗体を加えた。白血球を、細胞選別を用いて様々な部分集団に分け、その後、好中球ゲート内の好中球を、蛍光抗体と結合した表面上のCD11b分子の数に比例する蛍光強度によって分析した。その後、好中球集団全体を分析し、CD11b発現を伴う活性化量を蛍光強度平均値(MFI)として定量的に評価した。評価パラメータは、動物の生存期間も含んでいた。
【0160】
結果
図16A、16B、および17は、白血球数、好中球数、および血小板数に対する、1ポンプおよび2ポンプシステムの効果の結果を示す。白血球隔離(図16A)、好中球隔離(図16B)および血小板隔離(図17)は、クエン酸塩で処置されたおよびヘパリンで処置された1ポンプシステムならびにクエン酸塩で処置されたおよびヘパリンで処置された2ポンプシステムについて概して同じだったので、これらの図は、2つの2ポンプ下位群の平均と比較した場合の2つの1ポンプ下位群の平均を示す。図18〜21は、クエン酸塩で処置されたまたはヘパリンで処置されたシステムの結果を示す。図18〜21についての測定された特性は、クエン酸塩で処置された1ポンプおよび2ポンプシステムについてならびにヘパリンで処置された1ポンプおよび2ポンプシステムについて概して同じだったので、これらの図は、2つのヘパリン下位群の平均と比較した場合の2つのクエン酸塩下位群の平均を示す。
【0161】
2ポンプ対1ポンプ試験システム比較
1ポンプ回路と2ポンプ回路の間の圧力および/または流れの違いが、2つの試験システムのSCID内での白血球隔離に及ぼし得る効果を評価するために、全身の血液中の白血球(WBC)および好中球の数を調べた。白血球(WBC)および好中球の数と関連する1ポンプシステムおよび2ポンプシステムについての結果を、それぞれ図16Aおよび図16Bに示す。図の中で詳述されるように、1ポンプシステム(n=5)と2ポンプシステム(n=5)の間のこれらのパラメータに、違いは観察されなかった。
【0162】
血小板隔離
血小板数も、1ポンプシステムまたは2ポンプシステムのいずれかを使用して処置された動物について評価した。図17に示されるように、SCIDを有する1ポンプシステムおよび2ポンプシステムの両方は、SCIDを使用した処置後、少なくとも9時間、血小板数の減少を示した。これらのデータは、SCIDを有するシステムが血小板を隔離することを示す。
【0163】
好中球活性化
活性化好中球は、侵入してくる微生物または組織損傷に反応して様々な酵素を放出し、組織修復を開始する。好中球顆粒から放出される主要な酵素は、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)である。従って、MPOの全身量を、対象における好中球活性化量を示すために測定した。図18は、SCIDおよびクエン酸塩を使用して処置された動物(SCID平均; n=5)における平均MPO量は、SCIDおよびヘパリンを使用して処置された動物(ヘパリン平均; n=3)よりも低かったことを示す。また、好中球活性化量を、血液循環を出て炎症部位へ移動する最初のステップとしての内皮上への結合に関与する膜タンパク質であるCD11bの発現を測定することによって定量化した。図19に詳述されるように、敗血症誘導の6時間の時点で、全身循環血液中の好中球のMFIは、SCIDおよびクエン酸塩を使用して処置された動物(クエン酸塩(全身); n=4)に比べて、SCIDおよびヘパリンを使用して処置された動物(ヘパリン(全身); n=4)において、劇的に増加した。
【0164】
回路全体にわたる平均を得るために、回路の動脈ラインおよび静脈ライン内の好中球MFIを評価することによって、分析をさらに洗練させた。試料を、血液が対象から血液ラインに出る回路の動脈ラインから、および血液が血液ラインから出て対象に再入する回路の静脈ラインから同時に取得した。図20に示されるように、ヘパリン群(n=4)およびクエン酸塩群(n=4)におけるMFI(動脈-静脈)の違いは、3および6時間の時点で劇的に異なった。このデータは、クエン酸注入が回路に沿って好中球活性化量を抑制することを示唆し、そのことは同じ期間に全身を循環している活性化好中球が少ないことを示し得る。
【0165】
動物の生存
ヘパリンを有するSCIDと比較した場合のクエン酸塩を有するSCIDの有効性の最終的な評価は、生存効果である。図21に示されるように、一貫性のある生存期間の優位が、ヘパリン群と比較して、クエン酸塩群において観察された。クエン酸塩を有するSCIDを使用して処置された動物の平均生存期間は、8.38+/-0.64時間 (n=8)であるのに対し、ヘパリンを有するSCIDを使用して処置された動物の平均生存期間は、6.48+/-0.38時間(n=11)であった。
【0166】
さらなる評価が考えられる。例えば、局所的クエン酸塩抗凝固と比べた全身ヘパリン処置を有するSCIDの効果、または1ポンプシステムもしくは2ポンプシステムの効果を評価するためのデータセットは、1.心血管パラメータ(心拍;収縮期、弛緩期、およびMAP;心拍出量、全身の血管抵抗、一回拍出量;腎臓動脈血流;中心静脈圧;肺毛細血管せつ入圧);2.肺のパラメータ(肺動脈の収縮期および弛緩期圧、肺の血管抵抗、動脈から肺胞の酸素勾配);3.動脈血ガス(pO2、pCO2、pH、全CO2);4.全血球数(血球容量(毛細血管漏出の間接測定);白血球(WBC)および白血球分画);5.炎症指標(全身の血清のサイトカイン量(IL-6、IL-8、IL-1、INF-γ、TNF-α));ならびに6.BAL液による肺の炎症のパラメータ(タンパク質含有量(血管漏出);白血球分画を含む全細胞数;TNF-α、IL-6、IL-8、IL-1、INF-γ、好中球ミエロペルオキシダーゼおよびエラスターゼ;BAL液由来の肺胞のマクロファージ、ならびにLPS刺激後に評価されるサイトカインのベースラインおよび刺激を受けた量)を含み得る。さらに、SCID炎症パラメータ(血液フィルターの前、第2カートリッジの前後の血清における、様々なサイトカイン量(IL-6、IL-8、TNF-α、IL-1、INF-γ))ならびに好中球によりエキソサイトーシスされた化合物(ミエロペルオキシダーゼ、エラスターゼおよびラクトフェリン)が、白血球活性を評価するために測定され得、これらの要素の同時測定も、処置の進行の間に血液およびUF区画と関連づけるために、UFの第2カートリッジの前後で行われ得る。さらに、血清およびBAL液中の酸化マーカーが、様々な群内の炎症により誘導された酸化ストレスを評価するために、ガスクロマトグラフィーおよび質量分析法を使用して測定され得る。
【0167】
結論
実験から得られたデータは、SCIDおよびクエン酸塩処置を含む体外回路が、効果的に白血球を隔離し、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害することができるかまたは白血球を失活させることができることを確証する。特に、これらのデータは、白血球隔離効果が1ポンプ回路と2ポンプ回路の間で類似であることを示す。さらに、敗血症ショック動物モデルにおいて、SCIDおよびクエン酸塩処置システムは、SCIDおよびヘパリン処置システムと比較して好中球活性化量を減少させた。SCIDおよびクエン酸塩処置システムの有効性が、敗血症の致死的な動物モデルにおいて生存期間の延長をもたらした。さらに、1ポンプシステムおよび2ポンプシステムの両方は、少なくとも9時間、効果的に血小板を隔離した。このデータに基づいて、血小板の隔離ならびに血小板の失活および/または血小板からの炎症誘発性物質の放出の阻害は、本明細書および実施例の全体を通して記載されているような白血球の隔離ならびに白血球の失活および/または白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害によって達成される効果と類似の有益な効果を有し得ると考えられる。
【0168】
実施例7.ヒトにおける末期腎疾患の治療
この実施例に記載される実験は、本発明の実施形態、すなわち、ヘパリンで処置された類似のシステムと対比して、クエン酸塩で処置されたシステム内に中空繊維管を含むカートリッジを使用して処置されたヒト対象における生存率を評価するように設計されている。この実験のシステム構成は、SCIDのICSに細胞を含まない、それぞれ、図2Cまたは2Dの1つの回路内にある図5または6の1つのSCIDである。方法および観察は、SCIDカートリッジ内に追加の腎臓細胞を含まないクエン酸塩システム対ヘパリンシステムの比較を含み得る。
【0169】
背景
慢性の炎症誘発性状態と関連する疾患の1例は、末期腎疾患(ESRD)である。(例えば、Kimmel et al. (1998) Kidney Int. 54:236-244; Bologa et al. (1998) Am. J. Kidney Dis. 32:107-114; Zimmermann et al. (1999) Kidney Int. 55:648-658参照)。主要な治療法である透析は、小分子排泄物の除去および体液平衡に焦点が当てられている。しかしながら、それは、ESRDと関連する慢性の炎症に対処しない。ESRD患者において、それは、深刻な罹患率および21%にのぼる受け入れ難いほどの高い年間死亡率と関連する(例えば、USRD System, USRDS 2001 Annual data report: Atlas of end-stage renal disease in the United States, 2001, National Institutes of Health, National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases: Bethesda. p. 561参照)。
【0170】
ESRDを患う患者の平均余命は、平均すると4〜5年である。血管変性、心血管疾患、血圧の調節不良、頻繁におこる感染、慢性疲労、および骨の変性は、生活の質に重大な影響を与え、高い罹患率、度重なる入院、および高額な費用を生む。ESRD患者における死亡の主要原因は心血管疾患であり、ESRDにおける全死亡率のほぼ50%を占め、(例えば、USRD System, USRDS 2001 Annual data report: Atlas of end-stage renal disease in the United States, 2001, National Institutes of Health, National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases: Bethesda. p. 561参照)、感染イベントがそれに次ぐ。
【0171】
ESRD患者は、心血管疾患および急性の感染の合併症の両方にかかりやすくする慢性の炎症状態を発症する。ESRD患者は、適切な血液透析にもかかわらず、より感染しやすくなる。慢性の血液透析は、膜の活性化、炎症、およびクリアランスと無関係に、慢性の炎症誘発性状態に等しいサイトカインのパターンの変化を引き起こす(例えば、Himmelfarb et al. (2002) Kidney Int. 61(2):705-716; Himmelfarb et al. (2000) Kidney Int. 58(6):2571-2578参照)。これらの小さいタンパク質は血液透析され得るが、血漿量は、産生率の増加により変化しない(例えば、Kimmel et al. (1998) 上記; Bologa et al. (1998) 上記; Zimmermann et al. (1999) 上記; Himmelfarb et al. (2002) 上記; Himmelfarb et al. (2000) 上記参照)。血液透析を受けているESRD患者における酸化ストレスへの増強した曝露は、さらに免疫システムを損ない、易感染性を高める(例えば、Himmelfarb et al. (2002) 上記; Himmelfarb et al. (2000) 上記参照)。
【0172】
ESRD患者における慢性の炎症性状態は、IL-1、IL-6、およびTNF-αを含む増加した炎症誘発性サイトカイン量と共に、新たな臨床マーカーであるCRPの増加量によって明らかである。(例えば、 Kimmel et al. (1998) 上記; Bologa et al. (1998) 上記; Zimmermann et al. (1999) 上記参照)。これらのパラメータの全てが、ESRD患者における増加した死亡率と関連する。特に、IL-6は、血液透析患者における死亡率と密接に相関する単一の予測因子として同定されている。IL-6が1ミリリットル当たり1ピコグラム増加するごとに、心血管疾患の相対死亡率が4.4%ずつ上昇する(例えば、Bologa et al. (1998)上記参照)。実際、炎症誘発性状態が、ESRDを患う患者における好中球のプライミングおよび活性化に起因することを示唆する証拠が増えている(例えば、Sela et al. (2005) J. Am. Soc. Nephrol. 16:2431-2438参照)。
【0173】
方法
末期腎不全を患う患者は、血液濾過装置、SCID、およびクエン酸塩または、対照として、血液濾過装置、SCID、およびヘパリン(すなわち、クエン酸塩処置またはヘパリン処置を含む、それぞれ、図2Cまたは2Dの1つの回路内にある図5または図6の1つのSCID)を含む体外回路を使用して処置された血液を有する。該研究は、各SCID内に尿細管細胞も含み得る(それにより、該SCIDは腎臓補助装置またはRADとしても作用する)。血液は、患者から血液濾過装置へ、SCIDへと流れ、患者に戻る。患者に戻る血液の流れを促進するために、適切なポンプおよび安全フィルターも含まれ得る。
【0174】
クエン酸塩またはヘパリンを有するSCIDの効果を評価するためのデータセットは、SCID炎症パラメータ(血液濾過前、第2カートリッジの前後の血清における、様々なサイトカイン量(IL-6、IL-8、TNF-α、IL-1、INF-γ))ならびに好中球によりエキソサイトーシスされた化合物(ミエロペルオキシダーゼ、エラスターゼおよびラクトフェリン)(これらは、SCID内にある様々な構成要素カートリッジの全域の白血球活性を評価するために測定される)を含む。SCIDおよびUFを有する回路(例えば、図3の回路内にある図7のSCID)が使用される場合、これらの要素の同時測定も、処置の進行の間の血液およびUF区画と相関させるために、第2カートリッジの前後のUFにおいて行われる。
【0175】
結果および考察
SCIDおよびクエン酸塩を含む体外回路で血液が処置されたESRD患者は、SCIDおよびヘパリンを含む体外回路で処置されたESRD患者と比較して、著しくより良い結果を示す。特に、炎症誘発性マーカーは、ヘパリン処置を含むSCID処置を受けている患者と比べて、クエン酸塩処置を含むSCID処置を受けている患者において下がることが期待される。
【0176】
実施例8.心肺バイパス回路の一部としての選択的細胞吸着除去装置
この実施例に記載される実験は、SCIDとして単一血液濾過カートリッジ(例えば、図5または6に示されるSCID)を使用した。このカートリッジは、より大きい体積流量回路と並列の回路内に血流(200mL/分)を有する体外回路へ接続されていた。クエン酸塩の局所的抗凝固は、この並列回路の抗凝固およびSCID内の膜の外部表面に沿って隔離される白血球を失活させる手段の両方を改善するために使用される。
【0177】
このプロトコールは、子ウシモデルにおいて、SCIDと共に体外のCPB回路を含んでいた。各回路におけるSCIDの使用は、循環白血球、主に好中球の実質的な減少と一時的な相関関係を有した。この減少は、隔離効果の飛躍的進歩なしに、この手順の間ずっと維持された。安全性の問題なしに既存のCPB回路にSCIDを容易に組み込む回路設計を、図4Bおよび4Cに示す。
【0178】
背景
心臓手術の進歩は、CPBの技術に完全に依存している。残念なことに、全身性炎症反応はCPBと関連して生じ、手術後の多臓器機能不全を引き起こすことが認識されている。CPBの間の多くの傷害は、血液成分の人工膜活性化(膜酸素供給器)、外科手術による外傷、臓器への虚血再灌流傷害、体温変化、心臓切開吸引による血液活性化、およびエンドトキシンの放出を含む、この炎症反応を開始および拡大することが示された。これらの傷害は、白血球活性化、サイトカインの放出、補体活性化、およびフリーラジカルの生成を含む複雑な炎症反応を促進する。この複雑な炎症過程は、しばしば、ALI、AKI、出血性障害、変化した肝機能、神経機能障害、および最終的に多臓器不全(MOF)の発症の一因となる。
【0179】
肺機能障害は、CPBを必要とする手術後に非常によく起こる。この急性肺損傷は、軽症の手術後の呼吸困難から劇症のARDSにまで及び得る。ほぼ20%の患者が、CPBを必要とする心臓手術後、48時間よりも長い間、人工呼吸器を必要とする。ARDSは、50%を超える死亡率で、約1.5〜2.0%のCPB患者に発症する。AKIを伴う腎機能障害も、CPB後の成人患者によく起こる。これらの患者の最大40%が、血清クレアチニンおよびBUNの上昇を発症し、1〜5%で透析補助が必要となり、術後の死亡率は80%に近づく。
【0180】
CPB後の多臓器機能障害に関わるメカニズムは、多数で、相互に関連し、複雑であるが、CPB誘導性ポストポンプ症候群におけるARDSの発症において、循環白血球、特に、好中球の活性化における重要な役割を示唆する証拠が増えている。ARDSおよびポストポンプ症候群の両方における急性肺損傷が、肺でのPMN隔離後、主に好中球に仲介されることを支持する証拠が増えている。隔離および活性化されたPMNは肺組織に移動し、結果的に組織傷害および臓器機能障害を引き起こす。CPBの間の白血球枯渇に向けられる、当技術分野において記載される治療的介入は、前臨床動物モデルおよび早期臨床研究の両方で評価されてきた。当技術分野の白血球を枯渇させるフィルターを使用した結果は一貫性がなく、CPBの間の循環白血球数の減少はなかったが、酸素要求の軽度の改善はあった。当技術分野の白血球を減少させるフィルターを使用する選択的な冠動脈バイパス移植(CABG)を受けている患者においては、顕著な臨床的改善は見られなかった。対照的に、本発明のシステム、装置、および方法は、下記のように、有益な効果を有する。血液分離装置を使用した白血球の枯渇は、術後の肺のガス交換機能を改善し得る。
【0181】
方法および結果
手術を、SCID 102、SCID 103、およびSCID 107として識別される3匹の子ウシの各々に対して行った。各子ウシ(約100kg)を、全身麻酔下に置き、心室補助装置(VAD)を設置するためにCPB回路に接続した。CPBを、心筋保護および大動脈遮断を使用して60〜90分間遂行した。SCIDは、各動物について下記に識別されたように、図4Bまたは図4Cのいずれかに描かれた場所に設置される。3匹の動物(SCID 102、SCID 103、およびSCID 107)の結果を、図22A〜22Fおよび23A〜23Bにまとめる。
【0182】
手術の詳細および結果
SCID 102について、回路は、図4Bにあるように設置され、回路内のSCIDとしてF40 カートリッジ (Fresenius Medical Care, ドイツ)を有した。図22A〜22Fに示されるように、白血球および血小板の数に減少が観察された。図22Eに示されるように、好酸球数は減少したが、これは急性肺損傷において重要であり得る。
【0183】
SCID 103について、回路は、図4Bにあるように設置され、回路内のSCIDとしてHPH 1000血液濃縮器(Minntech Therapeutic Technologies、ミネアポリス、ミネソタ州)を有した。SCID処置は75分続き、SCID処置の終了の15分後に、追加試料を取得した。図22A〜22Eに示されるように、白血球の時間依存的な減少が観察された。SCIDが75分の時点で接続を切られると、15分以内に好中球の劇的な回復があった。凝固は観察されなかった。
【0184】
SCID 107 について、回路は、図4Cにあるように設置され、回路内のSCIDおよび血液濾過装置/血液濃縮器の各々としてHPH 1000血液濃縮器(Minntech Therapeutic Technologies、ミネアポリス、ミネソタ州)が使用された。CPBは、SCIDが組み込まれる15分前に開始され、SCID処置は45分続いた。SCID処置の終了の15分後に、追加試料を取得した。図22A〜22Fに示されるように、SCIDを回路内に組み込む前に白血球および血小板の数が減少し、単球を除き、SCIDの導入によりさらに減少した。この手術において、圧力プロファイルを取得し、50mL/分のUF流が示された。
【0185】
図23Aおよび23Bに示されるように、全身性Caiが維持され、SCID回路Caiは目標範囲内にあった。これらの手術から一般に注目すべきこととして、限外濾過液(UF)はより低いSCID圧力では観察されなかった。
【0186】
結論
この実施例に記載された実験は、体外回路(例えば、CPB回路)内へのSCID装置の組み込みが、白血球および血小板を隔離し得る、および手術中の良好な臨床転帰の可能性を高め得ることを示唆する。
【0187】
実施例9.動物モデルにおける心肺バイパスにより誘導される急性肺損傷(ALI)および急性腎損傷(AKI)と関連する炎症の治療
実施例8に記載された実験の延長として、この実施例に記載される実験が、白血球を隔離するおよびそれらの炎症作用を阻害するための本発明の装置の、CPBにより誘導されるALIおよびAKIの治療における有効性を示すように計画される。
【0188】
特に、この実施例の目的は、CPBにより誘導されるALIまたはAKIを効果的に治療するSCIDプロトコールの最適化を伴う。この目標を達成するために、動物は、図4B、4C、4E、または4Fに記載されるCPB回路のいずれかを使用して処置され得る。各回路は、SCIDおよびクエン酸塩の供給口を含む。あるいは、図4Aまたは4Dに記載されるCPB回路が試験され得る。各回路は、クエン酸塩注入のないSCIDを含む。さらに、CPBの間に使用されるSCIDは、処置が行われている間、未使用のSCIDと交換され得る、ならびに/または1つもしくは複数のSCIDが、図4A〜4Fのいずれかの「SCID」の位置に、直列にまたは並列に設置され得る。
【0189】
CPBにより誘導されるALIのメカニズムおよび治療的介入を評価するために、様々なブタモデルが文献に報告されている。例えば、実証可能なALIは、追加的な傷害により追加的に誘導され得るということが先のブタモデルにおいて実証された。それらの傷害には以下のことが含まれる。(1)60〜120分のCPBの時間;(2)虚血/再灌流傷害を引き起こす大動脈遮断および心臓の低温心筋保護(cardiac cold cardioplegia);(3)血液成分(白血球、血小板、および補体)の活性化を促進する、開放式貯留槽を用いた心臓切開吸引;ならびに(4)おそらく心臓手術および軽度の虚血/再灌流傷害後の胃腸バリアの機能障害に起因する、CPB後の検出可能なエンドトキシン量が原因で患者において観察されるSIRS反応と類似のSIRS反応を促進するCPB後のエンドトキシン注入。
【0190】
CPB後3.5時間以内および連続的なリポ多糖(LPS;60分かけて1μg/kg)後2時間以内の肺機能および気管支肺胞洗浄(BAL)液中の分子マーカーの顕著な変化を伴うCPBにより誘導されるALIの確立されたブタプロトコールが報告された。この報告されたプロトコールは、大腿骨-大腿骨低体温バイパス(femoral-femoral hypothermic bypass)術と、それに続く、CPBが中止された30分後に始まる60分のLPS注入を使用する。肺のパラメータを、これらの連続的な傷害の後2時間まで測定し、著しい傷害パラメータが観察された。CPBを用いる臨床診療をより反映しながら、4時間で測定可能なALIを引き起こすように、他のプロトコールが、開発され得る。
【0191】
この実施例は、追加の傷害を促進するための心臓切開およびCPBの間の開放式静脈貯留槽への心臓吸引とともに、ベースラインプロトコールとして、60分のCPB、大動脈遮断、および心臓の低体温心筋保護を利用する臨床的に意義のあるALIおよびAKIのモデルを使用する。これが、測定可能なALIおよびAKIを引き起こすのに十分ではない場合、その後、CPBの完了30分後に始まる30〜60分の大腸菌LPS(0.5〜1.0μg/kg)注入を加える。このCPBブタモデルに対する一般的アプローチを、以下に詳述する。
【0192】
CPBプロトコール
1つの例示的プロトコールでは、ヨークシャーブタ (30〜35kg)に、IMアトロピン(0.04mg/kg)、アザペロン(4mg/kg)、およびケタミン(25mg/kg) を前投与し、その後、5μg/kgのフェンタニルおよび5mg/kgのチオペンタールを使用して麻酔する。8-mmの気管内チューブ (Mallinckrodt Company、メキシコシティ、メキシコ)を使用して挿管した後、ブタを仰臥位に置く。麻酔を、5mg/kg/時間のチオペンタールおよび20μg/kg/時間のフェンタニルの連続的な注入により維持する。筋弛緩を、0.2mg/kgのパンクロニウムで誘導し、その後、最適な手術条件および換気条件を達成するために、0.1mg/kgのパンクロニウムを断続的に再注入する。
【0193】
換気を、従量式人口呼吸器を使用して、全量10mL/kgおよび終末呼気陽圧のない吸入気酸素比1に設定する。ポリエチレン製の監視ラインを、外頸静脈ならびに大腿動脈および大腿静脈に設置する。食道および直腸の温度プローブを挿入する。胸骨正中切開を行う。16mmまたは20mmのTransonic社製の血管周囲流プローブ(perivascular flow probe)を主肺動脈に設置し、Millar社製のマイクロチップ式圧力トランスデューサーを肺動脈および左心房に設置する。CPBを開始する前に、心拍出量の決定のために、ベースラインの肺動脈圧、流速および左心房圧力を測定する。全身ヘパリン処置(300U/kg)の後、18Fのメドトロニック社製のDLP動脈カニューレを上行大動脈に設置し、24Fのメドトロニック社製のDLP1段式静脈カニューレを左心房に設置する。
【0194】
CPB回路を、1000mLの乳酸リンゲル液および25mEqのNaHCO3を使用して刺激する。回路は、Medtronic社製のBiomedicus遠心式血液ポンプ、一体式熱交換器を有するMedtronic社製のアフィニティ中空繊維酸素供給器、および心臓切開術用の貯留槽からなる。Medtronic社製のアフィニティ38-μmフィルターを、微粒子破片を捕獲するために動脈肢に設置する。左心室は、通気ラインがSarns社製のローラーポンプおよび心臓切開術用の貯留槽に接続された12-Ga Medtronic社製の標準的な大動脈根カニューレを使用して通気される。除去された血液を心臓切開術用の吸引カテーテルを使用して回収し、また、Sarns社製のローラーポンプおよび心臓切開術用の貯留槽に接続する。心肺バイパスを開始し、換気を中断し、全身灌流を2.4L/分/m2体表面積に維持する。中等度の灌流低体温(32℃の直腸温度)を使用し、流れの変更および静脈内のフェニレフリン注入(0〜2μg/kg/分)によって、大動脈圧平均値を60〜80mmHgに保つ。上行大動脈を遮断し、血液で4:1の比に希釈したミシガン大学標準心筋保護液からなる心筋保護液を、7℃で大動脈根カニューレに送達する。該溶液は、クエン酸塩/リン酸塩/デキストロース(CPD)、トロメタミン、および塩化カリウムからなる。総用量1Lの心筋保護液を送達し、500mLを20分ごとに繰り返した。全身復温を40分後に始め、体外循環を60分後に止める(遮断時間45分)。CPBからの離脱の前に、肺を、3回の呼吸に対して10秒間、30-cm H2O気道内圧まで膨らませ、同じ人工呼吸機設定を使用して機械による換気を再開する。CPBからの離脱の間、大動脈圧を正常範囲内に維持するために、エピネフリン(0〜1μg/kg/分)注入を用量設定する。体外循環の停止から30分以内に、酸素供給器内の血液を循環に戻し、ヘパリンをプロタミン(100Uのヘパリンに対して1mg)によって無効にし、正常温度の直腸温度を達成する。生理学的測定を、CPBの前、CPBの間、およびCPBの後4時間、記録する。
【0195】
体外回路
ALIおよびAKIを反映する実質的な変化を有するCPBのブタモデルを用いて、回復中の組織傷害におけるSCIDの影響を直接試験することができる。単一カートリッジSCIDを、(例えば、図4Fに示されるように)膜酸素供給器の後の並列回路内に設置する。膜酸素供給器は循環白血球を活性化し、その後、この循環白血球はSCID内で隔離されると考えられる。並列回路の末端でのCa2+再注入を用いて、血液のイオン化Caiを目標水準、例えば、約0.2〜約0.4mMに下げるため、クエン酸塩を局所SCID並列血液回路に加える。2群の動物を評価し、比較する。第1の群はSCIDおよびヘパリン抗凝固を受け、第2の群はSCIDおよびクエン酸塩抗凝固を受ける。各群6匹を有し、各群の3匹を処置した後、2群の分析を始める。局所的クエン酸塩抗凝固を標準治療溶液および臨床プロトコールを利用して達成する。クエン酸塩は、カルシウムと結合することによって抗凝固剤として作用する。その結果、結合したカルシウムは、凝固因子を誘発するのに利用できない。十分な凝固および心臓機能を可能にする全身のCai量を元の状態に戻すために、血液が動物に戻る直前に、カルシウムを血流に加える。
【0196】
クエン酸抗凝固のための連続的腎置換療法に使用される現在の標準的なプロトコールを使用する。ACD-A クエン酸塩 IV 溶液 (Baxter Healthcare)を、クエン酸塩注入ポンプおよびSCID前のSCID血液注入ポートへのラインへ接続する。全身のカルシウムを回復させるため、注入ポートを経たSCID後の戻された血液に、カルシウムを投与する。0.2〜0.4mmol/Lのカートリッジ前Cai量を達成するために、クエン酸塩注入液の速度(mL/時間)は、血液流速(mL/分)の1.5倍である。
【0197】
SCID血液流速を200mL/分になるようにし、200mL/分の流速で設定されたSCID前の血液回路に設置されたポンプを使用して制御する。0.9〜1.2mmol/Lのシステム内Cai量(動物血流値)を達成するために、塩化カルシウム(20mg/mL、0.9% N.S.)をSCID後の血液ラインに注入する。最初のCa2+注入速度は、クエン酸塩注入速度の10%である。全身Cai量を反映させるために、ポンプシステム前のCPB回路の動脈末端およびSCID並列回路の静脈末端においてCai量を評価する。全Caiを、i-STAT(登録商標)診断装置(Abbott Labs)を使用して測定する。
【0198】
急性肺損傷(ALI)の測定
肺機能
CPB後のALIは、肺胞-動脈血酸素供給勾配、肺内シャント率、肺コンプライアンス、および肺血管抵抗の上昇をもたらす。これらのパラメータを、CPB期間後4時間、30分ごとに測定する。
【0199】
肺組織分析
ポストポンプ症候群の中のALIは肺内の好中球蓄積および間質液の増加と関連する。好中球の凝集を、BALに使用されない部分から肺組織を取得することによって、研究プロトコールの最後に評価する。組織の試料を、組織好中球浸潤を反映するミエロぺルオキシダーゼ組織活性、半定量的好中球数の組織学的処理、および肺組織における水の重量(乾燥前後で重量に違いがあり、湿重量のパーセント[(湿重量−乾燥重量) / 湿重量]として表す)のために使用する。
【0200】
BAL液体分析
20mLの通常の生理食塩水の3回の連続注入および穏やかな吸引での肺の右中葉の挿管によって、BAL液を取得する。この液体を、タンパク質含有量(微小血管損傷を反映する)ならびにサイトカイン濃度(IL-1、IL-6、IL-8、IL-10、INF-γ、およびTNF-α)について調べる。上皮、好中球、およびマクロファージ/単球を含む、様々な細胞成分の合計およびパーセンテージを提供するために、BAL液内の細胞数を、細胞学染色法を用いたサイトスピンの後に決定する。肺胞マクロファージを単離し、一晩インキュベートし、LPSに対するそれらのサイトカイン反応を次の日に調べる。マトリックスメタロプロテイナーゼ-2および-9、エラスターゼ、ならびにミエロペルオキシダーゼの液量を、組織傷害を発症させるのに重要な、活性化好中球により分泌された産物を反映するものとして定評のあるアッセイ法で測定する。
【0201】
急性腎損傷(AKI)の測定
最近の臨床データは、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)が、CPB後のAKIの早期バイオマーカーであることをはっきり実証した。CPBの2時間後における尿中および血清中のNGAL量はAKIの非常に特異的な、高感度の予測マーカーであり、血清クレアチニンおよびBUNの上昇が続いて起こる。血清および尿を、全動物のベースライン時、CPB停止時、CPBの1時間後に回収する。NGAL量は、ブタについての高感度ELISAアッセイによって決定する。NGAL量における違いは、この動物モデルにおけるAKIの度合いを反映するはずである。
【0202】
血清生化学検査を、自動化学分析器を用いて測定する。サイトカイン量を、ブタのサイトカイン(IL-1、IL-6、IL-8、IL-10、INF-γ、およびTNF-α(R & D Systems))に反応する市販のELISAアッセイキットを用いて測定する。BAL液を、細胞数および細胞型の分布、血管漏出の尺度としてのタンパク質、ならびにIL-1、IL-6、IL-8、IL-10、INF-γ、およびTNF-αを含むサイトカイン量のために取得する。
【0203】
心血管データおよび生化学データを、反復測定分散分析(ANOVA)によって分析する。様々な部分の血漿レベル、および生存期間を、必要に応じて、対応のあるまたは対応のないステューデントT-検定を利用して比較する。
【0204】
SCIDを含むCPBシステム内においてクエン酸塩局所抗凝固を受ける動物は、NGALを使用して測定された場合、肺機能障害、肺の炎症、およびAKIをあまり示さないと考えられる。好中球減少症および白血球減少症による全身の白血球(WBC)数の程度は、3時間で底を打つが、両群において同じ規模であるとも考えられる。白血球性炎症指標の放出は、ヘパリン群と比べて、クエン酸塩群において阻害されるとも考えられる。
【0205】
参照による組み込み
本明細書に言及される出版物および特許文献の各々の開示全体は、各々の個々の出版物または特許文献がそのように個々に示されるのと同程度に、全ての目的のためにその全体が参照により本明細書の中で援用される。
【0206】
同等物
本発明は、その精神または本質的特徴から逸脱することなしに、他の特定の形態で実施されてもよい。それゆえに、前述の実施形態は、あらゆる点で、本明細書に記載の本発明に対する限定ではなく、例証であるとみなされるべきである。従って、本発明の範囲は、前述の記載ではなく、添付の特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と同等の意味および範囲内で生じる全ての変更は、その中に包含されることが意図される。
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2007年8月31日に出願された米国特許仮出願第60/969,394号の恩典および優先権を主張し、この開示全体は参照により本明細書中で援用される。
【0002】
連邦支援の研究または開発に関する声明
本発明は、国立衛生研究所から与えられた助成金第DK080529号および第DK074289号の下、政府の援助と共に行われた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、対象内の炎症性症状を治療および/または予防するためのシステム、装置、ならびに方法に関する。より詳細には、本発明は、白血球および血小板のような、炎症と関連する細胞を隔離し、そしてその結果、それらの炎症性活性を低下させるシステム、装置、および関連方法に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
様々な医学的症状は、望ましくない炎症によって引き起こされ、悪化させられ、および/または特徴づけられる。感染、例えば、細菌性、ウイルス性、および真菌性感染;外傷、例えば、落下、自動車事故、銃およびナイフの創傷による外傷;心血管イベント、例えば、多くの場合手術と関連する動脈瘤や虚血性イベント;ならびに内因性の炎症反応、例えば、膵炎および腎炎は、多くの場合、心血管および免疫システムの機能の調節に関わる恒常性維持機構の深刻な機能障害をもたらす。虚血および感染のようなこれらの症状のうちのいくつかは、免疫システムの異常なまたは過剰な活性化を経て、数時間から数日かけて進行し得、心血管機能障害になり得、ある状況下では、生命を脅かし得るまたは致死的でさえあり得る。
【0005】
ある種の細胞型は、心血管および免疫システムの機能障害に対して重要な意味をもつ。例えば、白血球、特に好中球が、全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症、虚血/再灌流傷害およびARDSを含む、様々な炎症性症状の発症および進行の一因となる(例えば、Kaneider et al. (2006) FEBS J 273:4416-4424(非特許文献1); Maroszynska et al. (2000) Ann. Transplant. 5(4):5-11(非特許文献2)を参照されたい)。さらに、活性化血小板は白血球接着を増強し、かつ白血球活性化を促進する。炎症および全身性免疫反応は、ある状況において、有益であり得る一方、それらは致死的でもあり得る。
【0006】
臓器内の炎症性傷害により、血小板の活性化および凝集に加えて、白血球の活性化および凝集によって引き起こされる微小血管損傷になり得る。これらの活性化細胞は、患者の組織内に毒性化合物を放出することによって、微小血管閉塞および再灌流傷害の一因となり得る。急性の炎症において、活性化白血球および血小板は、血管内でゲル様構造として相互作用する。これは、通常毛細血管によって酸素および栄養が供給される組織の低灌流を引き起こす。さらに、活性化白血球は、内皮を越えて組織内に遊出することによって損傷を引き起こし、その場合、活性化白血球は、通常、侵入してくる微生物を破壊するかまたは壊死片を一掃するように意図された毒物を放出する。さらに、活性化血小板は、白血球の活性化および内皮移動を増強することによって損傷を引き起こす。これらの過程が制御されない場合、それらは組織傷害および死を引き起こし得る。
【0007】
SIRSは、アメリカ合衆国において、死亡の13番目の主要原因である。SIRSを伴う重篤な敗血症は、集中治療室や広範囲の抗生物質を使用したとしても、アメリカ合衆国において、30〜40%の死亡率で年間20万人の患者に生じる。SIRSは、主として、体温の上昇(発熱)または減少(低体温)、上昇した心拍(頻脈)、呼吸促迫(頻呼吸)、増加または減少した白血球数、ならびに組織および臓器の不十分な灌流のような観察された生理学的変化に基づいて診断される。血圧の低下はSIRSと関連する合併症で、その症候群の経過の後期に発症する。特に、血圧の低下はショック状態の進行を反映し得、かつ多臓器不全の一因となり得る。多臓器不全は、これらの患者において死亡の主要原因である。敗血症性ショックは、急速輸液および適切な心臓の血液排出にもかかわらず、感染および血圧降下があると臨床的に観察される症状である。類似の症状である敗血症症候群は、いかなるタイプの感染も見られない類似の生理学的シグナルを含む。敗血症に似た症状を引き起こす他の傷害は、膵炎、熱傷、虚血、多発性の外傷および組織傷害(多くの場合、手術および移植による)、出血性ショックならびに免疫介在性の臓器機能障害を含む。
【0008】
SIRSおよび敗血症性ショックに対する標準的な治療は、感染を制御するための抗生物質の投与および循環する血液量を保持するための輸液/コロイド療法を含む。ドーパミンおよびバソプレシンのような血圧を保持するのを助ける薬剤も投与されることが多い。
【0009】
心肺バイパス法(CPB)は、SIRSを強力に引き起こし、補体システムおよび凝固システムを活性化し、サイトカイン産生を刺激する。CPBの間、白血球の活性化および蓄積を制限するため、多数の治療アプローチが研究中である。実際、動物のデータおよび初期の臨床データは、CPB手術の間、白血球枯渇フィルターを使用することで、肺や腎臓の損傷が回復することを示唆している(例えば、Gu et al. (1996) J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 112:494-500(非特許文献3); Bolling et al. (1997) J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 113:1081-1090(非特許文献4); Tang et al. (2002) Ann. Thorac. Surg. 74:372-377(非特許文献5); Alaoja et al. (2006) J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 132:1339-1347(非特許文献6)を参照されたい)。しかしながら、透析は一過的な好中球減少を生じさせ得るように見える(Kaplow et al. (1968) JAMA 203:1135(非特許文献7)参照)。
【0010】
敗血症の治療におけるより標的化された療法を開発するための最近の戦略は、期待はずれである。さらに、新世代の抗敗血症剤の多数の分子はとても高価で、不都合な免疫学的反応および心血管反応を生み出し得、これらの反応のために、非菌血症性ショックのようないくつかの例では、それらの分子が禁忌となる。
【0011】
心血管ショック、敗血症、全身性炎症反応症候群およびアナフィラキシーのような炎症性症状の効果的な治療に対するニーズが依然として存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Kaneider et al. (2006) FEBS J 273:4416-4424
【非特許文献2】Maroszynska et al. (2000) Ann. Transplant. 5(4):5-11
【非特許文献3】Gu et al. (1996) J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 112:494-500
【非特許文献4】Bolling et al. (1997) J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 113:1081-1090
【非特許文献5】Tang et al. (2002) Ann. Thorac. Surg. 74:372-377
【非特許文献6】Alaoja et al. (2006) J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 132:1339-1347
【非特許文献7】Kaplow et al. (1968) JAMA 203:1135
【発明の概要】
【0013】
対象における炎症性症状は、一部は、白血球および血小板のような、炎症と関連する細胞の活性化から生じる。本発明は、白血球または血小板を隔離し、これらの炎症作用を阻害するかまたは失活させることによって、この症状を治療および/または予防するためのシステム、装置、ならびに方法に関する。本発明のシステム、装置、および方法は、体外で、白血球および血小板の一方または両方を隔離し、これらの炎症作用を阻害する。例えば、これらの細胞を失活させることができ、および/またはこれらの細胞が炎症誘発性物質を放出するのを阻害することができる。本発明を実施するための多くの方法があるが、1つのアプローチは、白血球および血小板の一方または両方を、これらの細胞が結合し得る表面を提供し、かつ細胞を失活させるおよび/または炎症誘発性物質の放出を阻害することができる薬剤を提供する装置の内部に隔離することである。1つの限定されない実施形態において、該装置は中空繊維を含み、細胞がこれらの繊維の外側と結合する。細胞を失活させるため、および/または炎症誘発性物質の放出を防ぐためにクエン酸塩が提供される。本発明のこのまたは他の実施形態を使用して行われる実験は、対象の生存を最大限にすることにおいて前例のない、驚くべき成功を提供する。これらの結果は、広範な炎症性疾患および症状に対して、本発明のシステム、装置、および方法の説得力のある有用性を実証する。
【0014】
従って、一態様では、本発明は、生体試料が装置を通って流れることができる通路を画定し、試料由来の1つまたは複数の白血球を隔離するように構成された領域を含む装置を含む、白血球を処置するシステムを提供する。該システムは、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害することができるかまたは白血球を失活させることができる薬剤も含む。
【0015】
本発明のこの態様は、1つまたは複数の以下の特徴を有し得る。白血球は活性化および/またはプライミングされ得る。該システムは、さらに、通路を画定する装置と直列の第2の装置を含み得る。該薬剤は通路の表面に結合され得る。ある状況において、該薬剤は、通路に注入され得る。該薬剤は、免疫抑制剤、セリン白血球阻害剤、一酸化窒素、多形核白血球阻害因子、分泌性白血球阻害因子、およびカルシウムキレート剤を含み得る。ここで、該カルシウムキレート剤は、クエン酸塩、ヘキサメタリン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、o-フェナントロリン、またはシュウ酸であり得る。しかしながら、該薬剤は、好ましくは、クエン酸塩のようなカルシウムキレート剤である。
【0016】
白血球を隔離するように構成された領域は、膜を含み得る。該膜は、多孔質、半多孔質、もしくは非多孔質であり得、および/または該膜は約0.2m2を超える表面積を有し得る。白血球を隔離するように構成された領域は、該領域内のせん断力が、血液または体液の別の成分よりも長く、該領域に白血球をとどめることができるのに十分低いように構成され得る。例えば、白血球を隔離するように構成された領域内のせん断力は、約1000ダイン/cm2未満であり得る。あるいはおよび/または併せて、白血球を隔離するように構成された領域は、血液または体液の別の成分よりも長く、該領域に白血球をとどめることができる細胞接着分子を含み得る。
【0017】
別の態様において、本発明は体液内に含まれる白血球を処理する方法を提供する。本方法は、(a)プライミングもしくは活性化された白血球を体外で隔離し、(b)白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させるために、白血球を処置することを含む。本発明のこの態様は、1つまたは複数の以下の特徴を有し得る。白血球は、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させるのに十分な時間、および/または長時間、および/または少なくとも1時間、隔離され得る。該方法は、ステップ(b)で生成された白血球を対象に戻すステップを、さらに含み得る。ステップ(b)において、カルシウムキレート剤は、炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させるために使用され得る。ステップ(a)は、白血球を隔離するように構成された領域を含む通路を画定する装置を使用することによって実施され得る。
【0018】
別の態様において、本発明は、炎症性症状を有するかまたは炎症性症状を発症するリスクのある対象を治療するための方法を提供する。該方法は、(a)プライミングまたは活性化された白血球を対象から体外で隔離すること、および(b)炎症性症状と関連する炎症を緩和するために、または炎症性症状と関連する炎症を発症するリスクを軽減するために、白血球を処置することを含む。本方法が治療し得る炎症性症状は、全身性炎症反応症候群(SIRS)、心肺バイパス症候群(cardiopulmonary bypass syndrome)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、敗血症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、同種移植片拒絶、喘息、慢性腎不全、心腎症候群(cardiorenal syndrome)、肝腎症候群、心筋、中枢神経系、肝臓、腎臓、または膵臓への虚血再灌流傷害による急性臓器不全、および毒性傷害、例えば、化学療法による急性臓器不全を含むが、これらに限定されない。ステップ(a)は、白血球を隔離するように構成された領域を含む通路を画定する装置を使用することによって実施され得る。
【0019】
本発明のシステム、装置、および方法は、特定の種類または性質の白血球阻害剤に限定されない。いくつかの実施形態において、白血球阻害剤は、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させることができる任意の薬剤である。白血球阻害剤の例として、免疫抑制剤、セリン白血球阻害剤、一酸化窒素、多形核白血球阻害因子、および分泌性白血球阻害剤が挙げられるが、それらに限定されない。いくつかの実施形態において、白血球阻害剤はカルシウムキレート剤(例えばクエン酸塩)である。本発明は、特定の種類または性質のカルシウムキレート剤に限定されない。このカルシウムキレート剤は、クエン酸塩、ヘキサメタリン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、o-フェナントロリン、シュウ酸などを含むがそれらに限定されない。
【0020】
本発明の任意の上記の態様または実施形態は、血小板(例えば、活性化血小板)、白血球と血小板の組み合わせ、または炎症と関連する細胞の隔離および失活または阻害に等しく適用され得るということが理解される。従って、別の態様において、本発明は、炎症性症状を有するかまたは炎症性症状を発症するリスクのある対象を治療するための方法を提供する。該方法は、(a)プライミングされたまたは活性化された、炎症と関連する細胞を対象から体外で選択的に隔離すること、および(b)炎症性症状と関連する炎症を緩和するために、または炎症性症状と関連する炎症を発症するリスクを軽減するために、該細胞を処置することを含む。いくつかの実施形態において、炎症と関連する活性化細胞は、血小板および白血球から成る群から選択され得る。いくつかの実施形態において、炎症と関連するプライミングされた細胞は白血球である。
【0021】
本発明の異なる態様の下で記載された実施形態を含む、本発明の異なる実施形態は、一般的に、本発明の全ての態様に適用可能であると意図されることが理解されるべきである。任意の実施形態は、不適切ではない限り、任意の他の実施形態と組み合わせられ得る。全ての実施例は一例であって、限定するものではない。
【0022】
本発明の前述の態様および実施形態は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲を参照することにより、より完全に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のシステムにおける装置の例示的な実施形態の断面の模式図である。図1において、(1)対象の血液由来のプライミングされた白血球は、(2)システム内の上流の装置、例えば、血液濾過装置によって活性化される。この上流の装置において、血液は中空チャンバーの内部空間を通って流れ、限外濾過液(UF)はチャンバーの壁を通って濾過される。第1の装置を出ると、血液はその後、中空繊維の外側に沿って、第2の装置、例えば、選択的細胞吸着除去抑制装置(selective cytopheresis inhibitory device、SCID)の内部に流れる一方、UFは中空繊維の内部空間を通って流れる。中空繊維の外側に沿って流れる血液は、(3)例えば、中空繊維の外部表面に接着することによって、血液中の白血球が隔離されることができる状態にさらされ、それによって(4)イオン化されたカルシウム(Cai)を減少させる白血球阻害剤、例えば、クエン酸塩を用いて白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害および/または白血球の失活を促進する。
【図2】(図2A)システム内の唯一の装置であり、両末端が蓋をされている毛細管内の空間(ICS)を含むSCID 555を含む本発明のシステムの実施形態の概略図である。(図2B)限外濾過液(UF)が、ICSの一端のみ蓋をされているSCID 655から回収されることを除いて、図2Aと類似した実施形態の概略図である。(図2C)第1の装置、例えば、血液濾過装置210、および両末端が蓋をされているICS を含むSCID555を含む本発明のシステムの実施形態の概略図である。(図2D)限外濾過液(UF)が、ICSの一端のみ蓋をされているSCID 655から回収されることを除いて、図2Cと類似した実施形態の概略図である。
【図3】ICS上に蓋のないSCID 755を含む本発明のシステムの実施形態の概略図である。
【図4】(図4A〜4F)CPB回路内で利用される本発明のシステム構成の実施形態の概略図である。図4A〜4Cにおいて両末端(図4Aと4B)が蓋をされているICSを有するSCID555、または一端が蓋をされているSCDI655によって処置された血液は、静脈の貯留槽450および酸素供給器460の前の回路の部分に再循環させられる。図4D〜4Fにおいて両末端が蓋をされているICSを有するSCID555によって処置された血液は、酸素供給器460の次の回路部分にある血液と再度組み合わせられる。HF/HCは血液フィルター/血液濃縮器を表し、Pはポンプ504を表し、UFは限外濾過液を回収するための貯留槽を表す。
【図5】両末端が蓋をされているICSを有する本発明のSCID555の実施形態の概略図を示す。
【図6】一端が蓋をされているICSを有する本発明のSCID655の実施形態の概略図を示す。
【図7】どちらも蓋がされていない、ICS入口745およびICS出口746を有する本発明のSCID755の実施形態の概略図を示す。
【図8】本発明のSCID855のさらなる実施形態を示す。
【図9】実施例1で記載されたような、本発明のシステムで処置されたブタモデル群についての動脈圧平均値を示す。
【図10】実施例1で記載されたような、本発明のシステムで処置されたブタモデル群についての心拍出量を示す。
【図11】実施例1で記載されたような、本発明のシステムで処置されたブタモデル群についてのヘマトクリット値を示す。
【図12】実施例1で記載されたような、本発明のシステムで処置されたブタモデル群についての生存曲線を示す。
【図13】実施例1で記載されたような、各動物群(各群についてn=2〜3)の細菌攻撃後のSCIDへの曝露時間と共に平均の全白血球数を示す。
【図14】(図14A〜14D)3匹の異なる動物の、H&Eで染色した中空繊維膜を含むSCIDの光学顕微鏡写真を示す。(図14A)各中空繊維の周りの接着細胞を示す低倍率の顕微鏡写真である(160×)。(図14Bおよび14C)中空繊維の外部表面に沿ってクラスターを形成している白血球を示す高倍率の顕微鏡写真である(400×)。(図14D)接着細胞クラスターの中の単核細胞と共に多形核細胞を主に示す高倍率の顕微鏡写真である(1600×)。
【図15】SCIDおよびクエン酸塩処置またはヘパリン処置のいずれかで処置された対象における生存率の違いを示すグラフである。
【図16】(図16Aおよび16B)本発明の1ポンプおよび2ポンプシステム構成における、白血球(WBC)および好中球の数をそれぞれ比較しているグラフである。
【図17】本発明のシステム構成の2つの例示的な実施形態における血小板の量を示すグラフである。
【図18】SCIDおよびクエン酸塩またはSCIDおよびヘパリンのいずれかで処置された動物における、平均ミエロペルオキシダーゼ(MPO)値を示すグラフである。
【図19】SCIDおよびクエン酸塩またはSCIDおよびヘパリンのいずれかで処置された動物における、好中球の内皮への結合に関与する好中球膜タンパク質であるCD11bの発現を示すグラフである。
【図20】SCIDおよびクエン酸塩またはSCIDおよびヘパリンのいずれかで処置された動物における、本発明によるシステムの動脈および静脈のラインに存在する好中球数を示すグラフである。
【図21】SCIDおよびクエン酸塩またはSCIDおよびヘパリンのいずれかで処置された動物における、生存している敗血症動物のパーセンテージを時間の関数として示すグラフである。
【図22】(図22A〜22F)心肺バイパス手術が施され、SCIDおよびクエン酸塩を含む本発明のシステムで処置された動物における、全身の全白血球(WBC)、好中球、リンパ球、単球、好酸球、血小板の濃度をそれぞれ示すグラフである
【図23】(図23A〜23B)心肺バイパス手術が施され、SCIDおよびクエン酸塩を含む本発明のシステムで処置された動物における、全身のCaiおよび回路Caiの示すそれぞれのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
詳細な説明
炎症と関連する細胞、例えば白血球(leukocyteまたはwhite blood cell)および血小板は、通常、感染や傷害に対して身体を守る。しかしながら、多くの病態および医療処置はこれらの細胞を活性化および/またはプライミングし得、それによって今度は、致死的になり得る望まない免疫反応および炎症反応が生じ得る。本発明は、対象内の炎症性症状を治療および/または予防するように構成されたシステムおよび装置、ならびに関連方法に関する。本発明のシステム、装置、および方法は、白血球および血小板の一方または両方を体外で隔離し、かつそれらの炎症作用を阻害する。特に、本発明は、白血球、例えば活性化および/またはプライミングされた白血球を隔離し、それらを対象に戻す前に、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させるためのシステム、装置、および方法を含む。本発明は、炎症と関連する他の種類の細胞、例えば、血小板(例えば、活性化血小板)を隔離し、それらを対象に戻す前に、これらの細胞からの炎症誘発性物質の放出を阻害するためのシステム、装置、および方法も含む。
【0025】
本発明を実施するための多くの方法があるが、1つの方法は、白血球および血小板が結合し得る表面を提供する装置の内部に、白血球および血小板の一方または両方を隔離すること、ならびにそれらの細胞を失活させることができるおよび/または炎症誘発性物質の放出を阻害することができる薬剤を提供することである。1つの限定されない実施形態において、この装置は中空繊維を含み、これらの細胞はこれらの繊維の外部と結合する。クエン酸塩は、これらの細胞を失活させるおよび/または炎症誘発性物質の放出を防ぐために提供される。本発明は本明細書で血液に関して記載されているが、本発明は、体外回路を通って流れ得る任意の生体試料、例えばこれらの細胞を含む対象の身体由来の任意の体液に適用可能である。例示的な体外回路は、例えば、米国特許第6,561,997号に記載されている。
【0026】
1.概要
本発明のシステム、装置、および方法は、特定の装置およびシステム構成が、活性化および/またはプライミングされた白血球を隔離することができるだけでなく、それらの炎症性活性を阻害し、それによって、敗血症およびSIRSのような炎症性疾患ならびに症状の多臓器への影響を低減することもできるという予期せぬ観察から生まれた。これらの急性的な影響は、末期腎疾患(ESRD)と関連する慢性の炎症誘発性状態のような慢性の炎症誘発性状態にも影響を与え得る。これらのシステム、装置、および方法は、血小板の効果的な隔離も示した。本発明の実施形態を用いて行われる実験は、対象の生存の最大化において前例のない驚くべき成功を提供し(例えば、実施例3参照)、広範な疾患および症状にわたるこれらのシステム、装置、ならびに方法の、治療用途、診断用途、および研究用途に対する説得力のある有用性を実証する。
【0027】
1つの例示的な実施形態の概略図を図1に示す。示されているように、血液は第1の装置にかけられる。その後、白血球は活性化(および/またはプライミング)されるようになる。その後、活性化(および/またはプライミング)された白血球は、一般的に選択的細胞吸着除去抑制装置(SCID)と称される装置に入り、その中で、活性化された白血球は隔離される。第1の装置によって活性化させられるというよりむしろ、白血球は、対象の一次症状の結果としてまたは他の種類の医学的介入に続発した結果として活性化(および/またはプライミング)され得るということが理解される。
【0028】
言いかえれば、SCIDの中で、血液由来の活性化(および/またはプライミング)された白血球は、例えば、SCID内部の1つまたは複数の表面に一時的に接着することによって隔離される。白血球の隔離は様々なアプローチ、例えば、白血球、例えば、活性化および/もしくはプライミングされた白血球と結合する分子とSCID内の通路または通路領域内で会合させることによって、または白血球に低いせん断応力を提供し、SCID内の1つまたは複数の表面にそれらが結合できるように装置内で血液の流れを設定することによって達成され得る。その後、これらの隔離された白血球は、白血球を失活させるまたはそれらの炎症誘発性物質の放出を阻害する薬剤、例えば、クエン酸塩にさらされる。これらのシステムおよび装置は、他の細胞型、例えば、血小板にも適用することができる。
【0029】
理論に拘束されるわけではないが、カルシウムキレート剤、例えば、クエン酸塩は、装置内に低Cai環境をもたらし、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させると考えられている。炎症誘発性物質は、白血球由来の破壊酵素および/またはサイトカインを含み得る。この阻害および/または失活は、白血球の炎症状態の改善をもたらす。このように、図1に示される例示的な実施形態(および本発明の他の実施形態)において、SCIDは白血球、例えば、好中球および単球を隔離し、ならびに、例えば、クエン酸塩および/または低いCai環境を用いて、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させる。血小板の隔離ならびに阻害および/または失活は、類似の方法で達成され得る。
【0030】
クエン酸のようなカルシウムキレート剤の、白血球を隔離する中空繊維を含むハウジング(housing)を含む本発明の装置への添加は、対象の先天性の免疫システムを改善するという予期せぬ結果を有することが実証された。従って、本発明のシステム、装置、および方法は、白血球(例えば、活性化および/もしくはプライミングされた白血球)または血小板(例えば、活性化血小板)を含む対象の血液を直接処置することによって、様々な炎症性症状(一次病態としてまたは医学的介入の結果としてのいずれか)を治療または予防することができる。処置後、血液は対象に戻される。
【0031】
さらに、白血球または血小板(例えば、活性化白血球、プライミングされた白血球、または活性化血小板)を隔離する、ならびにそのような細胞を失活させるかもしくはそのような細胞が炎症誘発性物質を放出するのを防ぐ任意の方法、装置、またはシステムが用いられ得る。従って、以下の節では、(1)炎症性症状を治療するために使用され得るシステムの構成、(2)炎症と関連する細胞が隔離され得る方法の例、(3)そのような細胞が失活され得るおよび/または炎症誘発性物質を放出しないようにさせられ得る方法の例、ならびに(4)本明細書に記載の方法、装置、およびシステムを用いて治療され得る炎症性症状について記載する。以下の節の議論は、一般的に、特定の細胞型(例えば、白血球)の隔離ならびに阻害および/または失活を記載するが、同じ原理が炎症と関連する他の細胞型(例えば、活性化血小板のような血小板)の隔離ならびに阻害および/または失活に適用されるということが理解される。
【0032】
2.システム構成
本明細書で使用されるように、「細胞吸着除去(cytopheresis)」または「選択的細胞吸着除去」という用語は、血液からの特定の粒子の隔離を表す。選択的細胞吸着除去は、特定の細胞、例えば、白血球(例えば、活性化および/もしくはプライミングされた白血球)または血小板(例えば、活性化血小板)を、そのような細胞からの炎症誘発性物質の放出の阻害および/またはそのような細胞の失活を促進する目的のために、血液から隔離するために使用される。そのような阻害および/または失活は、隔離の前、隔離の間、および/または隔離の後に起こり得ると理解されるべきである。
【0033】
「選択的細胞吸着除去装置」、「選択的細胞吸着除去抑制装置」、「SCD」、および「SCID」は、特定の細胞、例えば、白血球(例えば、活性化および/もしくはプライミングされた白血球)または血小板(例えば、活性化血小板)を隔離する本発明の実施形態を表す。これらの実施形態は、隔離の前、隔離の間、および/または隔離の後に、そのような細胞からの炎症誘発性物質の放出を失活ならびに/または阻害することもできる。
【0034】
本発明のシステムは、選択的細胞吸着除去を遂行するように構成される。基本形状において、該システムは、SCID、血液源(例えば、対象(例えば、患者))からSCIDへ血液が流れるための流体接続、およびSCIDから貯蔵所(receptacle)へ(例えば、もとの対象へ)処置された血液が流れるための流体接続を含む。該SCIDは、白血球、例えば、活性化および/またはプライミングされた白血球を隔離する、ならびに白血球からの炎症誘発性物質の放出阻害を促進するおよび/または白血球を失活するように作用する。白血球の隔離は、以下の第3節に記載される任意の技術によって達成され得る。白血球からの炎症誘発性物質の放出阻害および/または白血球の失活は、以下の第4節に記載される任意の技術によって達成され得る。
【0035】
いくつかの実施形態において、システムは、追加の処置装置なしに、任意で他の血液処置も実施することができるSCIDを含み得る。例えば、図2A〜2Bおよび図8参照。システムの他の実施形態は、血液を処置する追加の装置に加えて、任意で他の血液処置も実施することができるSCIDを含み得る。例えば、図2C〜2Dおよび図4A〜4F参照。例えば、追加の装置は、血液がSCIDに入る前または後に、血液を濾過するか、酸化するか、または別の方法で処置し得る。さらに、システム内のSCIDおよび/もしくは追加の装置は、他のまたは補足的な方法で血液を処置するための2つ以上の構成要素、例えば、多孔質フィルター、酸素ポンプ、および/または異種移植細胞もしくは同種移植細胞(例えば、尿細管細胞のような異種移植腎細胞もしくは同種移植腎細胞)を含み得る。いくつかの実施形態において、該装置または選択的細胞吸着除去を促進するシステム内の装置には、そのような追加の構成要素が含まれない。例えば、本発明のSCIDは、異種移植細胞または同種移植細胞(異種移植腎細胞または同種移植腎細胞)のような細胞が含まれなくてもよい。これらの基本原理を、以下により詳細に記載する。
【0036】
2.A.単一装置システム
述べたように、システムは、選択的細胞吸着除去、および任意でシステム内の追加の処置装置なしに、他の血液処置を遂行するためのSCIDを含み得る(図2A〜2B)。そのようなSCIDの一実施形態を、概略的に図5に示す。図5において、SCID555は、複数の多孔質膜(中空繊維552)を含む(明確にするため1つだけがラベルされている)。これらの繊維内の管腔空間は、毛細管内の空間(「ICS」)540と呼ばれる。この実施形態において、ICS入口およびICS出口は、蓋544がされている。中空繊維552を囲み、SCID555のハウジング554の内部にある空間542は、毛細管外の空間(「ECS」)と呼ばれる。白血球を含む血液はECS入口548に入り、繊維552を囲むECS542に移る(すなわち、通路に移る)。白血球は装置内、例えば、中空繊維552の外部表面で隔離され、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させることができる薬剤、例えば、クエン酸塩にさらされる。該薬剤は、ECS入口548の上流のラインに注入され得る、またはポートを通ってSCIDそれ自体に注入されてもよい。あるいは、またはさらに、該SCIDは、SCIDを使用する前に、薬剤と共に準備され得る。ECS542内の流速は、白血球を結合させる繊維552の表面で(本明細書に記載される範囲の)低いせん断力が発生するように、本明細書に記載される範囲で選択される。このようにして、白血球の阻害および/または失活は、達成または開始される。その後、ECS内の血液は、ECS出口550を通ってSCIDを出て、流出ラインに入る。
【0037】
図2Aは、本発明による回路の図5の例示的なSCID555を示す。対象由来の血液は、血液ラインに入り、ポンプ204を通ってそのラインを移動する。同じ血液ライン上に、白血球阻害剤(例えば、クエン酸塩)が、ポート206で、任意でポンプを使用して、注入され得る。その後、血液ライン内の血液はECS入口548に入り、ECS出口550でSCID555を出る。ECS入口548および出口550で血液ラインは、それぞれ、血液ラインコネクタを使用して、ロッキング機構256に取り付けられる。白血球は、中空繊維552の外部表面でECS542 内に隔離される。ECS出口550からの血液流出ラインは、血液を対象に戻す。別の薬剤、例えば、カルシウム(例えば、塩化カルシウムまたはグルコン酸カルシウム)は、対象に再入する血液を準備するために、この血液流出ライン上のポート258で注入され得る。特定の実施形態において、ICSは、さらに血液処置を助けるために各繊維のICS540の内層で単層培養された異種移植細胞または同種移植細胞、例えば、尿細管細胞を含み得る。しかしながら、別の実施形態において、ICSは細胞を含まない。図2Aの回路内において、SCID555の内腔540は、生理食塩水で満たされる。
【0038】
図2Bが図6に示されるSCID655を利用すること、および限外濾過液がこのSCID655によって生成されることを除いて、図2Bの回路は図2Aと同じ構成要素を含み、同じ方法で作動する。SCID655は、中空繊維652である多数の多孔質膜を含む。繊維内の管腔空間はICS640で、繊維652の外側にありかつSCIDハウジング654内にある周囲空間はECS642である。白血球を含む血液は、ECS入口648に入り、繊維652を囲むECS642に移動し、ECS出口650で出る。白血球の隔離ならびに阻害および/または失活は、上記のように達成され得る。しかしながら、SCID655において、ICS入口のみ蓋644がされる。ICS出口646は蓋がされない。従って、多孔質の中空繊維652の特性(例えば、透過性および細孔径)に依存して、ECS642内の血液の一部が、中空繊維652を通過し、限外濾過液(UF)としてICS640に入り得る。チューブは、廃棄物として処分される可能性のある限外濾過液(UF)を回収するために、ICS出口646に接続され得る。
【0039】
単一処置装置を有するシステムの別の実施形態において、SCIDは、図8に示されるような装置であり得る。血液はSCID855の一端810に入り、中空繊維802を通って移動し、そこを通って限外濾過液が中空の空間804に入る。中空繊維802から出てきた濾過された血液は、ECS806に入り、中空の空間804を通過した限外濾過液を含む中空繊維808を囲む。ECS内の血液は、限外濾過液で満たされた中空繊維808を超えて流れ、白血球はその上で隔離される。流速は、白血球をその繊維と結合させる限外濾過液中空繊維808の表面で、せん断力(本明細書に記載された範囲内)を生み出すように、本明細書に記載された範囲内で選択される。最終的に、血液は側面ポート812の位置で装置から出て、限外濾過液は末端ポート813を通って破棄物として出る。限外濾過液中空繊維808の内部は、任意で、尿細管細胞を含む。SCIDのこの実施形態は、図2A〜2BのSCIDについて記載されたように、回路内に配置され得る。
【0040】
図5、6、または8のSCIDを有する図2A〜2Bの回路に示される実施形態のための流速および膜特性は、以下に記載されるようなものであり得る。例えば、ECSの流速は、約100mL/分〜約500mL/分であってもよい。(例えば、図6および図8に示されるSCIDについての)限外濾過液廃棄物の流速は、例えば、約5mL/分〜約50mL/分の流速を含んでいてもよい。
【0041】
2.B.血液透析または血液濾過システムの一部としての選択的細胞吸着除去抑制装置
述べたように、いくつかの実施形態において、SCIDは血液を処置するための他の装置を有するシステムの一部である。例えば、SCIDは、システム内にSCIDとは接続していない1つまたは複数の濾過カートリッジを含む血液濾過システム、血液透析システムおよび/または血液透析濾過システムの一部であり得る。SCIDではないシステムの部分を記載する場合、「血液濾過」という用語は、血液透析、血液透析濾過、血液濾過、および/または血液濃縮を表し、ならびに「血液フィルター」は血液透析、血液透析濾過、血液濾過、および/または血液濃縮の1つまたは複数を実施するための装置(例えば、カートリッジ)を含み得る。血液濾過カートリッジは、体外の血液回路内のSCIDと並列にまたは直列になるように構成され、連結された血液ポンプおよび管は体外回路を通って血液を移動させるために使用され得る。例えば、図2Cおよび2Dに示されるように、血液は対象から血液ラインを通って流れる。血液は、ポンプ204を介して血液ラインを移動する。白血球阻害剤(例えば、クエン酸塩)は、ポート206で、任意でポンプを使用して、同じ血液ラインに注入され得る。その後、血液は従来型の血液フィルター210内の中空繊維214を通って流れる。透析液は、中空繊維214を囲みかつ血液フィルター210ハウジング内にあるECSに注入され、ならびに透析が起こり、血液フィルターの濾過膜214(中空繊維)を通って透析液の中へと血液からの「廃棄物」として溶質が取り除かれる。透析液は、血液に対して逆流する形で流れ、かつ透析液は透析液ポンプ218を使用して移動する。さらに、血液由来の分子および液体は、膜を通り抜ける細孔径に依存して、限外濾過液として血液フィルターの濾過膜214(中空繊維)を通過し得る。
【0042】
図2Cの例示的なシステムは、図5のSCID555を有する回路を示す。血液は、血液フィルター210を出て、ECS入口548でSCID555に入る。その後、血液は、SCIDを通して処理される。SCIDは、上で、図2A〜2Bについて記載されたように、中空繊維552上で白血球を隔離し、ならびに白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害し、および/または白血球を失活させる。SCID555に入る血液ラインおよびSCID555から出る血液ラインは、ロッキング機構256との接続を使用して取り付けられる。その後、血液はECS出口550から血液流出ラインを経て対象へ戻される。別の薬剤(例えば、カルシウム)は、対象に再入するための血液を準備するために、この血液流出ライン上のポート258で注入され得る。特定の実施形態において、SCIDの毛細管内の空間(ICS)は、さらに血液処置を助けるために各繊維の内腔の内層で単層培養された異種移植細胞または同種移植細胞、例えば、尿細管細胞を含み得る。しかしながら、別の実施形態において、ICSは細胞を含まない。図2Cの回路において、SCID555のICS540は生理食塩水で満たされ、ICSの両端のポートは蓋544がされる。
【0043】
図2Dが図6のSCID655を利用すること、および限外濾過液がこのSCID655によって生成されることを除いて、図2Dの回路は図2Cと同じ構成要素を含み、かつ同じ方法で作動する。SCID655を通る血液の流れは、図2Bとの関連で上で記載された。さらに、SCID655は、図2Bとの関連で上で記載されたように機能する。上記のように、SCID655は、蓋644がされたICS入口のみを有する。ICS出口646は蓋がされない。従って、多孔質中空繊維652の特性に依存して、ECS642内の血液の一部は、中空繊維652を横断して、限外濾過液(UF)としてICSに移動し得る。チューブは、廃棄物として処分される可能性のある限外濾過液(UF)を回収するために、ICS出口646へ接続され得る。
【0044】
理論に縛られることを望まないが、SCIDシステムのこれらの実施形態(ならびに図1、2A〜2B、3、および4A〜4Fに示される実施形態)における流れの形状は、白血球がSCIDのECS内の低せん断力環境で存在できるように、従って、例えば、中空繊維のようなSCID内の1つまたは複数の内部表面と結合できるようにすると考えられる。反対に、血液濾過カートリッジ(例えば、図2Cおよび2Dの回路内の第1の装置210)の典型的な使用において、中空繊維の小口径内腔を通過する血流は、白血球と中空繊維との結合および装置内の白血球の隔離を阻害する(SCID内のせん断力よりも)高いせん断力を生み出す。従って、逆の動作(すなわち、血液が中空繊維の内側ではなく中空繊維の外側を流れること)を支持する標準的な流れ回路を有する血液濾過装置は、損傷を与える可能性がありかつ循環している活性化白血球を隔離するためのSCIDとして作用し得る。これらの隔離された白血球は、白血球阻害剤(例えば、クエン酸塩)を使用して処置され得る。
【0045】
さらに、隔離された白血球の炎症反応は、隔離の前、隔離の間、および/または隔離の後に、(例えば、クエン酸塩によって引き起こされる)低いCaiが存在する中で、阻害されるおよび/もしくは失活させられると考えられる。低いCai環境は、白血球の炎症性活性を阻害し得る、または白血球を失活させ得る。
【0046】
特定の実施形態において、血液フィルター(例えば、図2Cおよび2Dの血液フィルター210)によって透析液および限外濾過液の両方が生成されるというよりもむしろ、限外濾過液のみが生成される。限外濾過の間、血液は、膜のような媒体を通って濾過された限外濾過液、および媒体を通過しない残余分に分離される。この種のシステムの一例は、図3のシステム内にある図7のSCID755である。簡潔に説明すると、このシステムにおいて、血液は、SCID755のECS入口748から、SCIDハウジング754および中空繊維752によって画定されるECS742の中に流入し、SCID755内のECS出口750から出る。さらに、血液フィルター210からの限外濾過液ライン320は、ICS入口745を介してSCID755のICS740と連絡し、限外濾過液をICS740へ提供する。濾過された血液(ECS742内)および限外濾過液(ICS740内)は離れているが、中空繊維752の膜を通って互いに相互作用し得る。ICS740内の限外濾過液およびSCID755のECS742内の濾過された血液は、並流でまたは逆流で流れ得る。処理された限外濾過液はSCID755のICS出口746でICS740を出て、廃棄物として処分され得る。従って、この実施形態において、ICS入口745およびICS出口746は蓋がされないが、別の面では、SCID755は、図5および図6に示されるものと実質的に同じである。
【0047】
より具体的には、図7によるSCID755を使用する図3のシステムにおいて、血液は対象(例えば、患者または任意の動物)から血液ラインに移動する。血液は、ポンプ204を使用して血液ラインに送り込まれる。クエン酸塩のような白血球阻害剤は、任意でポンプを使用して、ポート206で注入され得る。その後、血液は、上で図2C〜2Dについて記載されたように、血液フィルター210の中空繊維に入り、血液フィルター210のECS内に堆積する。限外濾過液は、血液フィルター210の中空繊維を通り抜けて生成され、血液フィルター210のECS内に堆積する。その後、限外濾過液は血液フィルター210から限外濾過液ライン320を通過し、ICS入口745でSCID755に入る。限外濾過液は、中空繊維752のICS740を通り抜け、ICS出口746で出る。中空繊維は多孔質、半多孔質、または非多孔質膜であり得る。
【0048】
血液フィルター210の中空繊維のICS内(すなわち、血液フィルター210内の中空繊維の内腔)に残っている濾過された血液は、血液フィルター210を出て、SCID755のECS入口748内に、ポンプ300を使用して送り込まれる。任意で、このポンプは、SCIDと対象の間の血液ライン上に設置され得る、または第3のポンプ(図示せず)がSCIDと対象の間の血液ライン上に設置され得る。血液は、中空繊維752を囲むECS742内に流れる(すなわち、通路に移動する)。白血球、例えば、活性化および/またはプライミングされた白血球は、装置内で、例えば、中空繊維752の外部表面で隔離される。その後、血液は、ECS出口750でSCID755を出て、対象に戻る。ロッキング機構を有する血液ラインコネクタ256によって、血液ラインがECS入り口748とECS出口750に取り付けられる。カルシウムのような別の薬剤は、対象に再入する血液を準備するために、対象に戻る血液流出ライン上のポート258で注入され得る。限外濾過液ポンプ304はまた、限外濾過液をICS740から廃棄物へと移動させる。しかしながら、このシステムのポンプ流速に依存して、限外濾過液が少しも中空繊維752を横断せず、ECS742内の濾過された血液に戻り得ないか、限外濾過液のいくらかが中空繊維752を横断し、ECS742内の濾過された血液に戻り得るか、または限外濾過液の全てが中空繊維752を横断し、ECS742内の濾過された血液に戻り得る。
【0049】
図3に示される回路内の図7のSCIDの使用を、SCIDおよび灌流回路と関連する予期せぬ有害事象なしに、前臨床試験で100匹の大型動物に対して、およびフェーズI、IIa、およびIIbの臨床試験で約100人の患者に対して評価した。ICSは無細胞であり得るが、このシステムは任意でICS740内に細胞、例えば、尿細管細胞も含み得るということが理解される。血流速度は、例えば、約100mL/分〜約500mL/分の血流速度での、繊維との結合による白血球の隔離を可能にするために、多孔質の中空繊維の表面での(本明細書に記載の範囲内の)十分に低いせん断力を有するように選択される。あるいは、体外回路を通る、血液フィルター210内の中空繊維の内腔を通る、およびSCID755のECS742を通る血流速度は約120mL/分であり得る。限外濾過液は、本明細書に記載の範囲内の速度、例えば、約50mL/分未満、約5mL/分〜約50mL/分、および約10mL/分〜20mL/分の流速で移動させられ得る。あるいは、限外濾過液の流速は15mL/分で維持され得る。任意で、平衡した電解質置換溶液(例えば、重炭酸塩基を含む溶液)は、生成された限外濾過液に対して1:1の体積置換で、血液ライン内に注入され得る。液体(例えば、限外濾過液)および血液(または白血球を含む液体)は同じ方向にまたは逆方向に流れ得る。
【0050】
このおよび他の実施形態において、SCIDを通る血流構成は、典型的な血液濾過カートリッジを通る血流構成と反対である。すなわち、血液は、その意図された使用において、血液濾過カートリッジの中空繊維内部を通って流れるのに対して、SCIDの中空繊維の外部周辺を流れる。SCIDを通るこの非従来型の血流構成は、血液フィルターの中空繊維の内腔内のより高いせん断力と比較して、中空繊維の外部表面のECS内のより低いせん断力を可能にし、そのため、SCIDのECS内の白血球の隔離を促進する。逆にいえば、血液フィルターの中空繊維の内部を通る血流は、中空繊維の小口径内腔を流れる血液によって生み出される高いせん断力により、白血球隔離を阻害する。例えば、血液フィルターの中空繊維の内部にある血液は1.5 x 107ダイン/cm2のせん断力を生み出すが、SCIDの特定の実施形態のECSを通る血流は5.77ダイン/cm2のせん断力、または106より小さいせん断力を生み出すと実験は示した。比較のために、典型的な動脈壁におけるせん断力は、6〜40ダイン/cm2で、典型的な静脈壁におけるせん断力は、1〜5ダイン/cm2である。そのため、毛細管壁は5ダイン/cm2未満のせん断応力を有する。
【0051】
従って、いくつかの実施形態において、本発明は、白血球をその表面と結合させて、白血球、例えば、該領域内の活性化および/またはプライミングされた白血球を隔離することができるように、白血球を隔離するように構成された通路の領域にある表面での十分に低いせん断力を使用する。例えば、いくつかの実施形態において、白血球を隔離するように構成された通路領域内の表面において、1000ダイン/cm2未満、または500ダイン/cm2未満、または100ダイン/cm2未満 、または10ダイン/cm2未満 、または5ダイン/cm2未満のせん断力が有用である。これらのせん断力は、本明細書に記載のSCIDの実施形態のいずれかにおいて役立ち得ると理解されるべきである。2つの装置、例えば、血液フィルターおよびSCIDを有する、特定の実施形態において、血液フィルター内を流れる血液とSCID内を流れる血液との間のせん断力の違いは、少なくとも1000ダイン/cm2であり得る。
【0052】
これらのおよび他の実施形態において、非従来型の流れ構成に従って、必要なせん断力を生み出す(すなわち、血液が中空繊維の内側ではなく、中空繊維の外側を流れる)限り、SCIDは、急性および慢性血液透析における使用がFDAにより承認されている従来型の0.7m2ポリスルホン血液フィルター(例えば、Model F40、Fresenius Medical Care North America、ウォーザン、マサチューセッツ州、米国)から構成され得る。同様に、このまたは任意の他の実施形態の体外灌流回路は、標準的な透析動静脈血液管を使用し得る。カートリッジおよび血液管は、現在慢性透析に使用されている任意の透析液輸送ポンプシステム(例えば、Fresenius 2008H)内に配置され得る。
【0053】
1つの例示的なシステムにおいて、該システムは、対象から通じる管(血液ライン)を、注入器によって管に注入されるクエン酸溶液の袋と共に含む。第1のF40血液フィルターカートリッジは、クエン酸塩が血液ラインに入った後のある時点で血液ラインと接続される。その後、血液ラインの血液は、カートリッジ内の中空繊維(ICS)の内部を通って、末端ポート入口から末端ポート出口に流れ、透析液は、これらの中空繊維の外側およびカートリッジ(ECS)内を、ある側面ポートから第2の側面ポートへと、血液流に関して逆流の形で流れる。第2の側面ポートから出る透析液/限外濾過液の混合液は回収される。実質的に、血液細胞、血小板、または血漿はICSからECSに横断せず、実質的に、白血球は中空繊維の内側に接着しない。中空繊維は、束にして、互いに平行に配列され、各繊維はおおよそ240マイクロメータの直径を有する。さらに、中空繊維の細孔は、約30オングストロームの分子であるアルブミンが繊維を通過するのを防ぐのに十分に小さく、該細孔は、一般的に繊維全体にわたってこの大きさである。その後、濾過された血液は、末端ポート出口から、管を通って、第2のF40カートリッジ(すなわち、SCID)の側面ポート入口へと進み続ける。血液は、第2のF40カートリッジのECSを通って流れ、側面ポート出口でカートリッジを出る。第2のF40カートリッジ内で生成される限外濾過液はすべて、ICSに入り、末端ポートを通って出る。カートリッジのもう一方の末端ポートは蓋がされている。実質的に、血液細胞、血小板、または血漿は、ECSからICSへと横断せず、白血球は、しばらくの間、中空繊維の外側に接着する。第2のF40カートリッジを出る血液は管に入り、そこでカルシウム溶液が注入器を使用して血液内に注入される。最後に、管は対象へ処理した血液を戻す。特定の実施形態において、このシステムの血流速度は500mL/分を超えず、血液は、どの時点においても、このシステム内で空気を移動させない。さらに、ポンプ速度と注入速度は、電解質および白血球数のベッドサイドでの読み取りを考慮して、手動で変化させることができる。i-STAT(登録商標)携帯用監視装置は、対象から取り出された少量の血液から、これらの読み取りを提示する。
【0054】
このようなシステムを使用するリスクは、血液透析処置と関連するリスクと同じで、例えば、灌流回路内の血液凝固、回路内への空気の侵入、カテーテルまたは血液管のねじれまたは切断、および温度調節異常を含む。しかしながら、透析の機械および関連する透析血液灌流セットは、処置中、警告システムを使用してこれらの問題を明らかにし、凝固フィルターおよび気泡トラップを使用して、対象に対するいかなる凝固または空気閉塞をも軽減するように設計されている。これらのポンプシステムおよび血液管セットは、この処置適応がFDAにより承認されている。
【0055】
上で述べたように、クエン酸塩のような白血球阻害剤の注入は、SCIDに局所的であるか、領域的であるか、またはシステム全体に及び得る。このまたは任意の実施形態において、クエン酸塩は抗凝固剤としても使用され得るが、そのような場合、このシステムの全体に及ぶ灌流が有用であろう。もし凝固が血液濾過システム内に生じる場合、それは、第1の透析カートリッジ内で始まるということが臨床的経験から示唆される。抗凝固プロトコール、例えば、全身性のヘパリンまたは局所的なクエン酸塩は、現在のところ確立されており、臨床の血液透析において通常使用されている。
【0056】
2.C.心肺バイパスシステムの一部としての選択的細胞吸着除去抑制装置
図4A〜4Fに示され、本明細書の実施例8および9に記載されているように、SCIDは、手術(例えば、バイパス手術)に続発する炎症性症状を治療および/または予防するために、心肺バイパス(CPB)回路内で使用され得る。図4A、4B、4D、4Eおよび4Fは、例示的なCPBシステムにおける図5のSCIDを示す。図4Cは例示的なCPBシステムにおける図6のSCIDを示す。CPBは心臓および肺の左側および右側両方から血液を迂回させるために使用される。これは、心臓の右側から血液を流し、動脈循環を灌流することによって達成される。しかしながら、全身から肺への側枝、全身から全身への側枝、および手術部位の出血は心臓の左側へ血液を戻すので、CPBの間、心臓の左側の特別な排出機構が必要とされる。任意で、心筋保護液が特別なポンプと管の機構を通して輸送され得る。標準的なCPBシステムは、大きく3つのサブシステムに分類され得るいくつかの特徴を有する。第1のサブシステムは、酸素を供給し、血液から二酸化炭素を取り除く、酸素送り込み-酸素供給サブシステムである。第2のサブシステムは、温度制御システムである。第3のサブシステムは、インライン監視装置および安全装置を含む。
【0057】
図4Aの実施形態において示されるように、血液は、対象から血液ライン410に、静脈カニューレ400を経て移動する。血液は、血液ライン410を通って流れ、SCID流出ライン430に接続されている再循環接合420を通過する。SCID流出ライン430は、SCID装置555によって処置される血液を含む。血液ライン410内の血液はSCIDによって処置された血液と混ざり、静脈の貯留槽450および血液に酸素が送り込まれる酸素供給器460上に進み続ける。その後、酸素が送り込まれた血液は、SCID流入ライン480を使用して、酸素供給器460から接合部470に流れる。ここで、血液ライン410内の血液の一部は、SCID555による処置のために、SCID流入ライン480を経てSCID555へと迂回させられる。SCID流入ライン480を通る血液の流れは、ポンプ504によって制御される。SCID555は、炎症と関連する選択的な細胞、例えば、白血球または血小板を隔離するように設計される。この実施形態において、白血球阻害剤は、SCID555に入る血液に加えられない。白血球を含む血液は、ECS入口548に入り、中空繊維552を囲むECS542に移動する。白血球は、装置内で、例えば、中空繊維552の外部表面で隔離される。ポンプ504での流速は、白血球をそれと結合させる繊維552の表面で(本明細書に記載される範囲の)低いせん断力が発生するように、本明細書に記載される範囲で選択され得る。ECS542内の血液は、ECS出口550を経てSCIDを出て、SCID流出ライン430に入る。接合部470において、血液ライン410内の血液の一部も、動脈カニューレ495において対象へ戻される前に、動脈フィルター/気泡トラップ490に進み続ける。
【0058】
図4B内の回路は、図4A内の回路と同じ方法で流れ、SCID流入ライン480内の血液にクエン酸塩を加えるためのクエン酸塩供給口435およびクエン酸塩ポンプ436、ならびにSCID流出ライン430内の血液にカルシウムを加えるカルシウム供給口445およびカルシウムポンプ446という追加的特徴を有する。クエン酸塩(または本明細書に記載の別の白血球阻害剤)は、白血球のような、炎症と関連する細胞を阻害するおよび/または失活させるため、クエン酸供給口435からSCID555に流入する血液へ加えられる。カルシウムを血液に戻して、対象に再入する血液を準備することができる。
【0059】
図4C内の回路は、図4B内の回路と同じ方法で機能し、血液フィルター/血液濃縮器(HF/HC)476と関連づけられる追加的特徴を有する。特に、接合部470でSCID流入ライン480を経てSCID655に向けて迂回させられる酸素が送り込まれた血液の一部は、さらに、接合部472で、SCID655へ流れる部分と、HF/HC流入ライン474を経てHF/HC476へ流れる別の部分に分けられる。該HF/HCは血液を濾過または濃縮することができ、限外濾過液は廃棄チューブ477を経て装置から出る。濾過または濃縮された血液は、接合部444においてSCID流出ライン430へ、濾過または濃縮された血液を戻すHF/HC流出ライン479を経てHF/HC476を出る。図4Cに示されるSCIDは、上で記載されたように、図6のSCIDである。血液は、SCID流入ライン480から、ECS入口648に流れ、ECSを通って、ECS出口650を出て、SCID流出ライン430に流入する。限外濾過液は、SCID内の中空繊維を横断して(ECSからICSへ)生成されてもよく、限外濾過液は、ICS出口646においてSCIDから出て、廃棄チューブ478内に入る。
【0060】
SCID655への血流はポンプ504によって制御され得る。ポンプ504は、SCID処置に続き、白血球を阻害するかまたは失活させる、クエン酸塩のような薬剤、および/またはカルシウムのような別の薬剤を注入する実施形態において、一定の流れを維持することが好ましい。あるいは、SCIDへの血流は、HF/HC流入ライン474の口径と比較して、接合部472とSCID655の間のSCID流入ライン480のより小さい口径を選択することによって制御することができ、その結果、約200mL/5L(流量の約4%)が接合部472においてSCIDへと迂回する。これは、隔離を促進し得る低いせん断力をSCID内にもたらす。
【0061】
図4D〜4Fに示される回路は、それらが回路内、例えば、再循環接合部420において血液を再循環しないという点において図4A〜4Cの回路と異なる。むしろ、図4Dに示されるように、血液は、対象から血液ライン410に、静脈カニューレ400を経て移動し、そこでは、血液は、静脈の貯留槽450へおよび酸素が送り込まれる酸素供給器460上を直接流れる。その後、酸素が送り込まれた血液は、酸素供給器460からSCID流入ライン480を有する接合部470へ流れる。ここで、血液ライン410内の血液の一部は、図4Aについて上で記載したように、SCID555によって白血球の隔離をするために、SCID流入ライン480を経てSCID555へと迂回させられる。SCID555を出る血液は、SCID流出ライン430へ入り、接合部422において酸素が送り込まれた血液と混ざる。SCIDからの血液が、血液ライン410内の血液と混ざった後、それは、動脈カニューレ495において対象へ戻される前に、血液ライン410内を動脈フィルター/気泡トラップ490へと進む。
【0062】
図4E内の回路は、図4D内の回路と同じ方法で流れ、SCID流入ライン480内の血液にクエン酸塩を加えるためのクエン酸塩供給口435およびクエン酸塩ポンプ436、ならびにSCID流出ライン430内の血液にカルシウムを加えるカルシウム供給口445およびカルシウムポンプ446という追加的特徴を有する。図4Bについて記載されたように、クエン酸塩または任意の別の白血球阻害剤は、白血球のような、炎症と関連する細胞を阻害するおよび/または失活させるため、クエン酸供給口435から血液へ加えられる。カルシウムを血液に戻して、対象に再入する血液を準備することができる。
【0063】
図4F内の回路は、図4E内の回路と同じ方法で流れるが、血液の一部を血液ライン410からSCID流入ライン480へ迂回させる接合部、およびSCIDによって処置された血液を、SCID流出ライン430を経て血流ライン410へ戻す接合部が、回路内の動脈フィルター/気泡トラップ490の後ろに配置されることを除く。これらの接合部は、それぞれ、492および494とラベルされている。図4Fは、また、上記の実施形態のいずれにおいても使用され得る他のサブシステムおよび特徴、例えば、熱交換器、追加のポンプ、ガスのメータおよび交換器、ならびにモニターを表す。さらに、図4A〜4Fに記載されるいずれの実施形態におけるSCIDも、本明細書に記載の任意の実施形態に一致する特性を有するように構成され得る(例えば、SCID、膜の特性、流速のような装置の構成)。
【0064】
2.D.選択的細胞吸着除去抑制装置の追加的特徴
いくつかの実施形態において、本発明の装置は、ある障害を治療および/または予防するために構成される。しかしながら、多数の異なる構成が特定の障害を治療および/または予防するために使用され得ると理解される。
【0065】
さらに、任意の実施形態のSCIDは水平にまたは垂直に配向され、かつ温度制御環境下に置かれ得る。細胞を含むSCIDの温度は、望ましくは、SCID内での細胞の最適な機能を保証するために、SCID作動中は、約37℃〜約38℃で維持される。例えば、加温ブランケットは、SCIDを適切な温度で保つために使用され得るが、これに限定されるわけではない。他の装置がこのシステム内で利用される場合、異なる温度が、最適性能のために必要とされてもよい。
【0066】
いくつかの実施形態において、本発明の装置およびシステムは、プロセッサー(例えば、コンピューターソフトウェア)によって制御される。そのような実施形態において、装置は対象内の活性化白血球量の変化を検出するように、およびそのような情報(例えば、白血球量および/または炎症性障害を発症する増大したリスクについての情報)をプロセッサーに提供するように構成され得る。いくつかの実施形態において、特定の活性化白血球量に達しているか、または対象が炎症性障害(例えば、SIRS)を発症する特定のリスクにあると判断される場合、対象の血液は、炎症性障害を発症する可能性を減少する目的のために、SCIDを通して処理される。いくつかの実施形態において、装置またはシステムは、これらの測定値に応答してSCIDを通して対象の血液を自動的に処理する。他の実施形態において、医療従事者は対象内の増強した白血球量または増大したリスクに対して警戒し、該従事者は処置を開始する。
【0067】
本発明の装置は様々なキットまたはシステムと共に含まれ得ると考えられる。例えば、該キットまたはシステムは、本発明の装置または様々な装置の部分、例えば、中空繊維血液フィルターカートリッジ、白血球阻害剤(例えば、クエン酸塩のようなカルシウムキレート剤)、同種移植細胞(例えば、尿細管細胞)、または他の部分を含んでもよい。さらに、該キットまたはシステムは、対象内に濾過装置を移植するために必要な様々な手術道具と組み合わせてもよい。
【0068】
3.炎症と関連する細胞の隔離
本発明のシステムおよび装置は、対象由来の白血球を隔離し、それらの炎症活性(例えば、炎症反応)を改善する(例えば、阻害する)ように構成されるべきであるが、本発明のシステム、装置、および方法は、白血球を隔離するための、ならびに白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害および/または白血球の失活を促進するための特定の設計または技術に限定されない。白血球(例えば、活性化および/またはプライミングされた白血球)の隔離は、任意のシステム、装置、またはその構成要素を使用して達成され得る。「試料」および「標本」という用語は、それらの一番広い意味で使用される。一方で、それらは、標本または培養を含むことが意図されている。他方で、それらは生体試料および環境試料の両方を含むことが意図されている。これらの用語は、ヒトおよび他の動物から得られた全ての種類の試料を包含する。これらの用語は、尿、血液、血清、血漿、糞便、脳脊髄液(CSF)、精液、および唾液、ならびに固体組織を含むが、それらに限定されない。しかしながら、これらの例は、本発明に適用できる試料の種類を制限するように解釈されるべきではない。本明細書と関連する試料という用語は、対象由来の血液を表すことが多い。「血液」という用語は、血液の任意の態様、例えば、全血、処置された血液、濾過された血液、または血液由来の任意の液体を表す。
【0069】
本発明のシステムまたは装置において、生体試料を流すための1つもしくは複数の通路、または1つもしくは複数のその領域は、白血球を隔離するための様々な方法のいずれかで構成され得る。もし2つ以上の通路が使用される場合、それらは直列におよび/または並列に置かれ得る。いくつかの実施形態において、1つまたは複数の通路は、カートリッジ、例えば、使い捨てカートリッジの中に含まれていてもよい。通路または通路領域は、任意の数の表面、例えば、1、2、3、4、5、10、20、50、100、またはそれより多くの表面によって画定され得る。表面の例として、円筒形の装置壁および平らな装置壁のような、装置の壁、ならびに/または本明細書に記載の中空繊維の外部表面が挙げられるが、それらに限定されない。
【0070】
通路または通路領域を画定する表面は、白血球を隔離する様々な形態から選択され得る。例えば、平らな表面(例えばシート)、湾曲した表面(例えば、中空のチューブもしくは繊維)、模様が付けられた表面(例えば、Z型に折り畳まれたシートもしくはくぼみが付けられた表面)、不規則に形作られた表面、または他の形状が、白血球を隔離するように構成された通路(または、その領域)内で使用され得る。これらの表面はいずれも、細孔を含み、多孔質、選択的多孔質または半多孔質であってもよい。例えば、表面は膜であり得る。「膜」という用語は、表面の両側で液体を受け取るか、または表面の一方の側で液体を、もう一方の側で気体を受け取ることのできる表面を表す。膜は、典型的には、それを通って液体または気体が流れることができるような多孔質(例えば、選択的多孔質または半多孔質)である。表面または膜について記載するために本明細書で使用される「多孔質」という用語は、一般的に、多孔質、選択的多孔質および/または半多孔質の表面または膜を含むと理解される。さらに、通路、または通路領域内の追加の表面(通路を画定してもまたはしなくてもよい)、例えば、粒子(例えば、ビーズ)表面、通路内に1つもしくは複数の突起のある表面、または流れている生体試料にさらされる1つもしくは複数の膜の表面は、白血球隔離を促進し得る。これらの追加の表面もまた、平らな表面、湾曲した表面、模様が付けられた表面、不規則に形作られた表面、および上記の他の形状ならびに下記の材料の中から選択され得る、ならびに、下記の強化物を有し得る。
【0071】
白血球を隔離するように構成された通路もしくは通路領域を画定するおよび/または該通路もしくは通路領域の一部である、通路表面もしくは通路領域表面(例えば、中空繊維の外部表面)は、特定の種類、性質または大きさに限定されず、任意の適切な材料から作られ得る。例えば、表面は、1つまたは複数のナイロン、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアリールエーテルスルホン、CUPROPHAN(銅アンモニア法によって再生されたセルロース、Enkaより入手可能)、HEMOPHAN(生体適合性が改善された修飾CUPROPHAN、Enkaより入手可能)、CUPRAMMONIUM RAYON(CUPROPHANの一種、Asahiより入手可能)、BIOMEMBRANE(Asahiより入手可能な銅アンモニアレーヨン)、けん化セルロースアセテート(例えば、テイジンまたはCD Medicalから入手可能な繊維)、セルロースアセテート(例えば、東洋紡Niproから入手可能な繊維)、セルロース(例えば、改変された銅アンモニア法またはビスコース法により再生されたもの、テルモまたはTextikombinat (Pirna、GDR)よりそれぞれ入手可能)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリスルホン、アクリル系共重合体(例えば、アクリロニトリル-NA-メタリル-スルホネート共重合体、Hospalから入手可能)、ポリカーボネート共重合体(例えば、GAMBRONE、Gambroから入手可能)、ポリメチルメタクリレート共重合体類(例えば、東レから入手可能な繊維)、およびエチレンビニル共重合体(例えば、クラレから入手可能なエチレン-ビニルアルコール共重合体である、EVAL)を含む任意の生体適合性重合体であってもよい。あるいは、表面はナイロンのメッシュ、綿のメッシュ、または織り繊維であってもよい。該表面は、一定の厚さまたは不規則な厚さを有し得る。いくつかの実施形態において、表面はシリコン、例えば、シリコン製ナノ加工膜(例えば、米国特許公開第20040124147号参照)を含み得る。いくつかの実施形態において、表面はポリスルホン繊維を含んでいてもよい。他の適切な生体適合性繊維は、当技術分野において、例えば、Salem and Mujais (1993) Dialysis Therapy 2d Ed., Ch. 5: Dialyzers, Eds. Nissensen and Fine, Hanley & Belfus, Inc., Philadelphia, PAにおいて公知である。中空繊維を含むカートリッジは、特定の大きさ(例えば、長さ、広さ、重さ、または他の大きさ)に限定されない。
【0072】
通路は、表面の任意の組み合わせを含み得る。例えば、通路または通路領域の表面は、平らな、湾曲した、模様が付けられた、および/または不規則に形作られた態様の任意の組み合わせを含み得る。さらに、通路または通路領域は、2つ以上の材料の表面によって画定され得る、またはそうでなければ2つ以上の材料の表面を含み得る。さらに、通路は2つ以上の領域を含んでいてもよい。これらの異なる領域は、同じまたは異なる表面を有し得る。
【0073】
上記で議論されたように、うまく使用されてきたSCIDの一実施形態は、中空繊維を含むハウジングを含む。血液の通路は、ハウジングの内部および中空繊維の外部によって画定される。血液由来の白血球は通路内の特定の領域と、具体的には、中空繊維の外部表面と結合する。従って、特定の実施形態において、白血球を隔離するように構成された通路領域は多孔質膜を含んでいてもよく、この多孔質膜により、より小さい分子はそれを通ることができるが、より大きな分子および/または細胞は膜に沿って流れることを余儀なくされる。さらに、特定の実施形態において、白血球を隔離するように構成された通路領域は、ハウジングの表面によって結合され、ならびに、生体試料(例えば、対象の血液または濾過された血液)がこれらの表面の上(すなわち、中空繊維の上)を流れるように構成された中空繊維の外部表面または中空繊維の表面によって結合される、およびそのような表面を含んでいてもよい。例えば、図1参照。中空繊維は多孔質、半多孔質、または非多孔質であってもよく、ならびに異なる液体(例えば、限外濾過液)は、任意で中空繊維内を流れても、または中空繊維内に存在してもよい。この繊維は、本明細書に記載の任意の適切な材料から作られ得る。
【0074】
いくつかの実施形態において、本発明のシステム、装置、および方法は、任意の所望の時間、例えば、1〜59秒、1〜59分、1〜24時間、1〜7日、1週間以上、1か月以上、または1年以上、白血球を隔離するように構成される。いくつかの実施形態において、装置は、その後の白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害および/または白血球の失活を可能にするのに十分な時間、白血球を隔離するように構成される。
【0075】
例えば、生物学的、化学的、機械的および/または物理的な技術を含む、白血球の隔離を促進する任意の技術または技術の組み合わせが使用され得る。いくつかの実施形態において、隔離のための生物学的または化学的技術が使用され得る。このような技術は、白血球を隔離するために、組織、細胞、生体分子(例えば、タンパク質もしくは核酸)、または小分子を使用することを含む。白血球が活性化されると、セレクチンが白血球によって生成される。この変化したセレクチン産生は、白血球と他の白血球との間の結合を促進し得る。次に、白血球間の結合は、さらに結合した白血球内でセレクチン産生を増大し、白血球の指数関数的な結合を生み出し得る。従って、セレクチンは隔離を増強するために役立ち得る。白血球に結合すると知られるタンパク質、タンパク質複合体、および/またはタンパク質成分として、CD11a、CD11b、CD11c、CD18、CD29、CD34、CD44、CD49d、CD54、ポドカリキシン、エンドムチン、グリコサミノグリカン細胞接着分子-1(GlyCAM-1)、粘膜アドレシン細胞接着分子-1 (MAdCAM-1)、E-セレクチン、L-セレクチン、P-セレクチン、皮膚リンパ球抗原 (CLA)、P-セレクチン糖タンパク質リガンド1 (PSGL-1)、白血球機能性抗原-1 (LFA-1)、Mac-1、白血球表面抗原p150,95、白血球インテグリンCR4、最晩期抗原-4 (VLA-4)、リンパ球パイエル板接着分子-1 (LPAM-1)、細胞内(intracellular)接着分子-1 (ICAM-1)、細胞内接着分子-2 (ICAM-2)、細胞内接着分子-3 (ICAM-3)、不活化C3b (C3bi)、フィブリノゲン、フィブロネクチン、末梢リンパ節アドレシン (PNAd)、血管内皮接着タンパク質1 (VAP-1)、フラクタルカイン、CCL19、CCL21、CCL25、およびCCL27が挙げられる。白血球に結合すると知られる他の巨大分子として、ヒアルロン酸、グリコサミノグリカン(GAG)、およびフコシルオリゴ糖、ならびにそれらの前駆体が挙げられる。特定の実施形態において、白血球を隔離するために使用される小分子または接着剤は、アミノ酸配列アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)を含むペプチドなどのペプチド類、およびシアル酸を含む分子を含み得るが、それらに限定されない。従って、任意のこれらの材料は隔離を増強するために使用され得る。
【0076】
使用に際し、任意のこれらの生物学的または化学的材料は、隔離を促進するまたは増強するために、本発明のシステムまたは装置の表面(例えば、SCIDの通路内)に結合させられてもよい。あるいは、または組み合わせて、任意のこれらの材料は、本発明のシステムまたは装置内の溶液の中に存在してもよい。この場合、該材料は、追加の技術と併せて白血球を隔離してもよい。例えば、これらの材料は溶液中の白血球に結合してもよく、たった1つの白血球の大きさと比較して、全体の大きさが増大するように白血球を凝集させる。その後、凝集した白血球は特定の細孔径を有する膜で捕獲され得る。
【0077】
いくつかの実施形態において、本発明のシステムまたは装置は、機械力の制御を通して白血球の保持を遂行する。例えば、白血球と表面の間のせん断力を最小限にし、白血球が表面に結合するのを可能にする、流速および装置構成を利用することによって、白血球は、通路もしくは通路領域の(または通路もしくは通路領域内の)1つまたは複数の表面上(例えば、多孔質中空繊維の外側)に隔離されてもよい。流れている白血球と該隔離表面との間の有用なせん断力は、1000ダイン/cm2未満、または500ダイン/cm2未満、または100ダイン/cm2未満、または10ダイン/cm2未満、または5ダイン/cm2未満のせん断力を含む。これらのせん断力を達成するのに有用な、本発明によるシステムおよび装置を通る血液の例示的な流速は、例えば、約500mL/分未満、約100mL/分〜約500mL/分、および約200mL/分〜約500mL/分を含む。
【0078】
いくつかの実施形態において、装置は、隔離される白血球の量および/または白血球が装置内に隔離される時間を増やすために、例えば、1つまたは複数の通路表面、またはその領域において、膜もしくはフィルターのような表面を使用することによって、または増大した通路表面域、例えば、約0.2m2よりも大きい、または約0.2m2〜約2.0m2、または約0.5m2〜約1.0m2、または約0.7m2の表面域へ白血球をさらすことによって白血球を物理的に保持してもよい。
【0079】
いくつかの実施形態において、システムは、白血球を隔離するように構成された領域の長さおよびその中での白血球の滞留時間を増やすために、白血球を一連の装置、例えば、各々が1つまたは複数の隔離用の通路、または通路領域を含む2、4、10、20、またはそれより多くのカートリッジ(例えば、中空繊維カートリッジ)にかけることによって隔離を達成し得る。任意の前述の実施形態において、該装置は、隔離の前、隔離の間、または隔離の後に、白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害および/または白血球の失活を可能にする方法で、白血球の隔離を遂行するように構成される。白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害および/または白血球の失活は、本発明の通路、通路領域、またはシステム全体を通って、隔離の間および輸送の間の両方において達成され得る。
【0080】
本明細書に記載の隔離技術は、血小板にも適用できると理解されるべきである。血小板の場合、上記の類似の生物学的、化学的、機械的および/または物理的な技術が、血小板を隔離するために使用されてもよい。特定の実施形態において、血小板の隔離に使用される薬剤として、糖タンパク質Ibα (GPIbα)、糖タンパク質IIb (GPIIb)、糖タンパク質IIIa (GPIIIa)、CD41、CD61、フォン・ヴィルブランド因子、β2-インテグリンマクロファージ抗原-1、セレクチン(例えば、P-セレクチン)、および細胞接着分子の1つまたは複数が挙げられる。
【0081】
4.炎症と関連する細胞の阻害および/または失活
対象内の炎症反応が予防および/もしくは軽減されるように、対象の血液中のプライミングまたは活性化された白血球のような白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/またはそのような白血球を失活させるように、本発明のシステムおよび装置は構成される、ならびに本発明の方法は設計される。様々な技術が使用され得る。例えば、いくつかの実施形態において、装置およびシステムは、白血球(例えば、隔離された、活性化および/またはプライミングされた白血球)を白血球阻害剤にさらすことによって、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害し得る、および/またはそのような白血球を失活させ得る。白血球阻害剤は、通路、例えば、中空繊維の表面に、共有結合でまたは非共有結合で結合され得る。さらにまたはあるいは、白血球阻害剤は、白血球の隔離の前、隔離の間、または隔離の後に、例えば、膜表面でまたはその周辺で、装置もしくはシステムに注入され得る。述べたように、概念を実証するためのSCIDにより、クエン酸塩を用いて白血球の処置がなされ、対象の生存期間の延長がもたらされた。
【0082】
本発明は、白血球阻害剤の特定の種類または性質に限定されない。白血球阻害剤として、例えば、抗炎症性生物剤、抗炎症性小分子、抗炎症性薬、抗炎症性細胞、および抗炎症性膜が挙げられる。いくつかの実施形態において、白血球阻害剤は、活性化白血球の活性を阻害することができる任意の材料または化合物であり、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、抗サイトカイン、メシル酸イマチニブ、ソラフェニブ、リンゴ酸スニチニブ、抗ケモカイン、免疫抑制剤、セリン白血球阻害因子、一酸化窒素、多形核白血球阻害因子、分泌性白血球阻害剤、およびカルシウムキレート剤が含まれるが、それらに限定されない。カルシウムキレート剤の例として、クエン酸塩、ヘキサメタリン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、o-フェナントロリン、シュウ酸などが挙げられるが、それらに限定されない。白血球阻害剤は、アンジオゲニン、MARCKS、MANS、補体因子D、トリプシンアンジオゲニン断片LHGGSPWPPC92QYRGLTSPC39K (SEQ ID NO: 1)を含むジスルフィドC39-C92およびその合成ホモログを含むが、それらに限定されない、白血球または免疫細胞を抑制すると知られる任意タンパク質またはペプチドであり得る。薬剤は、白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害を促進するおよび/または白血球を失活させ得る、Tschesche et al. (1994) J. Biol. Chem. 269(48): 30274-80, Horl et al. (1990) PNAS USA 87: 6353-57, Takashi et al. (2006) Am. J. Respirat. Cell and Molec. Biol. 34: 647-652, and Balke et al. (1995) FEBS Letters 371: 300-302により報告されたタンパク質、ペプチド、およびホモログでもあり得る。さらに、白血球阻害剤は、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させると知られる任意の核酸であり得る。該白血球阻害剤は溶液状態、または凍結乾燥状態であり得る。
【0083】
白血球阻害剤の任意の量または濃度が、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させるために使用され得る。白血球阻害剤は、システムの通路、通路領域、装置、装置領域、またはシステム領域に、当技術分野で公知の任意の方法によって導入され得る。例えば、白血球阻害剤は、ポートにて注入され得る。通路に注入される白血球阻害剤の量は、同じ通路内または隣接通路内に隔離された白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させるのに十分であり得る。いくつかの実施形態において、白血球阻害剤、例えば、クエン酸塩は、他の機能を実行しかつ白血球を隔離しない装置を含むシステム、システム領域、または1つもしくは複数のシステム内の装置に注入され得る。より詳細には、白血球阻害剤(例えば、クエン酸塩)は、白血球を隔離する通路の上流に、通路内に、または通路の下流に注入され得る。あるいは、白血球阻害剤は、システム内の1つもしくは複数の通路、通路領域、装置、またはシステム領域に含まれ得る。例えば、白血球阻害剤は、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/もしくは白血球を失活させるのに十分な量で、白血球を隔離するように構成された通路内、または別の通路内の表面に結合し得る。
【0084】
白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害および/もしくは白血球の失活は、白血球の隔離の前、隔離の間、ならびに/または隔離の後に一時的に生じ得る。さらに、白血球は、隔離後しばらくの間、阻害されたまままたは失活されたままの状態であり得る。特定の実施形態において、白血球が目標濃度の白血球阻害剤にさらされるかまたはクエン酸塩のような白血球阻害剤にさらされることに起因する目標濃度のCai(典型的には約0.20mmol/L〜約0.40mmol/L)にさらされる間、白血球は阻害され得るまたは失活させられ得る。白血球が目標濃度の白血球阻害剤または目標濃度のCaiにさらされる期間は、白血球が隔離される期間に先行するか、その期間を含むか、および/またはその期間に続くことができる。特定の実施形態において、白血球は、白血球阻害剤にさらされた後の期間、引き続き阻害もしくは失活させられるようになり得る、または阻害もしくは失活させられたままであり得る。
【0085】
白血球阻害剤にさらされる期間は、使用される薬剤、白血球活性化の程度、炎症誘発性物質の産生度、および/または炎症性症状が患者の健康を危険にさらす度合いに依存して変化し得る。さらされるのは、例えば、1〜59秒、1〜59分、1〜24時間、1〜7日、1週間以上、1か月以上、または1年以上であり得る。白血球阻害剤は、システムの作動前または作動中に、システムに適用され得る。特定の実施形態において、白血球阻害剤はシステムの作動中に適用され、システムに適用される白血球阻害剤の量は監視される。
【0086】
いくつかの実施形態において、白血球阻害剤はシステムの中に(例えば、図2A〜2Dおよび図3に示されるポート206で、または図4B、4C、4E、および4Fに示される供給口435およびポンプ436から)滴定され得る。滴定は、監視される血液の特性と関連して調整され得る。例えば、クエン酸塩は、血液中のCaiを特定の量、例えば約0.2〜約0.4mmol/Lの濃度のCaiに保つために、システムに滴定され得る。生物学的に適合性のある任意の種類のクエン酸塩、例えば、0.67%のクエン酸三ナトリウムまたは0.5%のクエン酸三ナトリウムが使用され得る。例えば、Tolwani et al. (2006) Clin. J. Am. Soc. Nephrol. 1: 79-87参照。いくつかの実施形態において、第2の溶液が、対象に再入する血液を再調整するために、白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害および/または白血球の失活に続いて、(例えば、図2A〜2Dおよび図3に示されるポート258で、または図4B、4C、4E、および4Fに示される供給口445およびポンプ446から)システムに加えられ得る。例えば、カルシウムキレート剤が白血球阻害剤として使用される実施形態において、カルシウムは、対象に再入する前に血液に戻され得る。
【0087】
一実施形態において、クエン酸溶液を含む1,000mLの袋、例えば、ACD-A (Baxter Fenwal, シカゴ イリノイ州; 100 mLあたりの含有量: デキストロース2.45g、クエン酸ナトリウム2.2g、クエン酸730mg、25℃におけるpH4.5〜5.5)が、注入ポンプに取り付けられ、その後、システムの動脈ライン(対象から装置への流出)へ取り付けられ得る(例えば、ポート206で;CPB状況にある対象からの流出は静脈ラインと呼ばれ、注入は、例えば、供給口435およびポンプ436から起こる)。陰圧弁は、(血液ポンプに近い陰圧域に注入する)クエン酸塩ポンプ機能を促進するために用いられる。クエン酸塩注入の初速度は、一定、例えば、血液の流速(単位mL/分)の約1.5倍(単位mL/時)である(例えば、もし血液の流速が約200mL/分であれば、クエン酸塩注入の一定の初速度は約300mL/時であり得る)。さらに、約20mg/mLの濃度での塩化カルシウム注入が、このシステムの静脈ポート近くに追加されてもよい(例えば、ポート258で;CPB状況にある類似の配置が、図4B、4C、4E、および4Fにおいて供給口445およびポンプ446として示される)。最初のカルシウム注入はクエン酸塩注入速度の10%で設定され得る(例えば、30mL/時)。Caiは連続して、または様々な間隔で、例えば、最初の8時間については2時間ごと、その後、次の16時間については4時間ごと、その後は6時間〜8時間ごとに監視され得る。監視は、例えば、クエン酸塩注入後およびカルシウム注入後に、必要に応じて増加され得る、およびシステムの2か所以上で監視され得る。
【0088】
例示的なクエン酸塩および塩化カルシウム滴定プロトコールは、それぞれ、表1および表2に示される。この実施形態において、SCIDにおける目標Caiの範囲は、約0.20mmol/L〜約0.40mmol/Lで、Cai目標濃度はクエン酸塩の注入によって達成される(例えば、ACD-Aクエン酸塩溶液)。これは動力学過程なので、クエン酸塩注入の速度は、SCID内の目標Cai範囲を達成するように変化させられる必要がある場合がある。そのようにするためのプロトコールが下記に示され、注入は上記の注入点にて起こる。
【0089】
(表1)クエン酸塩注入滴定指針
【0090】
(表2)カルシウム注入滴定指針
【0091】
本明細書に記載の失活技術は、血小板にも適用できると理解されるべきである。特定の実施形態において、血小板を失活させるおよび/または血小板からの炎症誘発性物質の放出を阻害するために使用される薬剤は、トロンビンを阻害する薬剤、抗トロンビンIII、メグラトラン(meglatran)、ヒルジン、プロテインCおよび組織因子経路阻害剤が含まれるが、それらに限定されない。さらに、いくつかの白血球阻害剤は、血小板阻害剤として作用し得る。例えば、カルシウムキレート剤、例えば、クエン酸塩、ヘキサメタリン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、o-フェナントロリン、およびシュウ酸は、血小板を失活させ得るおよび/または血小板からの炎症誘発性物質の放出を阻害し得る。
【0092】
5.適応
本発明の方法、装置、およびシステムは、炎症と関連する多くの症状を治療および/または予防するために使用され得る。本明細書で使用される場合、「炎症性症状」という用語は、生物の免疫細胞が活性化される任意の炎症性疾患、任意の炎症性障害、および/または任意の白血球により活性化される障害を含む。そのような症状は、(i)病的な続発症を有する持続性の炎症反応および/または(ii)組織破壊につながる、白血球、例えば、単核細胞および好中球の浸潤によって特徴づけられ得る。炎症性症状は、対象内で生じる一次炎症性疾患および/または医療処置への反応として生じる二次性の炎症性疾患を含む。本発明のシステム、装置、および方法は、任意の対象についての任意の炎症性症状を治療し得る。本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、特定の診断検査または処置の受給者となるべきヒト(例えば、患者)、非ヒト霊長類、げっ歯類などを含む、任意の動物(例えば、哺乳動物)を表すが、それらに限定されない。
【0093】
白血球、例えば、好中球は、全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症、虚血/再灌流傷害および急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を含む、多くの臨床的な炎症性症状の発症および進行の主要原因である。いくつかの異なるおよび様々な種類の白血球が存在する;しかしながら、それらは全て、造血幹細胞として知られる骨髄の中の多能性細胞から産生され、かつこれらの細胞から派生する。
【0094】
白血球(white blood cell)としても表される、白血球(Leukocyte)は、血液およびリンパ系内を含む、身体の至る所で見出される。顆粒球および無顆粒白血球を含むいくつかの異なる種類の白血球が存在する。顆粒球は、光学顕微鏡下で見たとき、それらの細胞質内に異なった形で染まる顆粒が存在することによって特徴づけられる白血球である。これらの顆粒は、主に、エンドサイトーシスされた粒子の消化において作用する、膜に結合した酵素を含む。顆粒球には、好中球、好塩基球、および好酸球の3種類が存在し、これらはそれらの染色特性に従って命名されている。無顆粒白血球は、それらの細胞質内に顆粒がないことよって特徴づけられる白血球であり、リンパ球、単球、およびマクロファージを含む。
【0095】
血小板(Platelet)、または血小板(thrombocyte)も、炎症性症状およびホメオスタシスの原因の1つである。活性化時、血小板は、血小板プラグを形成するために凝集し、それらはサイトカインおよびケモカインを分泌して、白血球を引きつけるおよび活性化する。血小板は身体の血液循環の至るところで見出され、巨核球から派生する。
【0096】
白血球および血小板の内皮への接着の開始に主に責任のある分子は、それぞれP-セレクチンおよびフォン・ヴィルブランド因子である。これらの分子は、内皮細胞の中でバイベル・パラーデ小体として知られる同じ顆粒内に見出される。内皮細胞の活性化時、バイベル・パラーデ小体は細胞膜へ移動し、内皮細胞表面にP-セレクチンと可溶性フォン・ヴィルブランド因子を露出させる。これは、次に白血球と血小板の活性化および凝集のカスケードを誘導する。
【0097】
従って、本発明のシステム、装置、および方法は、対象内で生じる一次炎症性疾患および/または医療処置(例えば、透析もしくは心肺バイパス)への反応として生じる二次性の炎症性疾患を含む任意の炎症性症状を、治療および/または予防し得る。炎症性疾患および/または障害を含む、適用できる炎症性症状の例として、全身性炎症反応症候群(SIRS)、心肺バイパス症候群、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、敗血症、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患、膵炎、腎炎、多発性硬化症、乾癬、同種移植片拒絶、喘息、慢性腎不全、心腎症候群、肝腎症候群、および心筋、中枢神経系、肝臓、腎臓、または膵臓への虚血再灌流傷害による急性臓器不全が挙げられるが、それらに限定されない。
【0098】
炎症性症状の追加例として、移植片(例えば、臓器移植片、急性移植片、異種移植片)または異種移植片または同種移植片(火傷治療で使用されるようなもの)の拒絶;虚血または再灌流傷害(例えば、摘出もしくは臓器移植中に起こる虚血もしくは再灌流傷害、心筋梗塞、または脳卒中);移植寛容誘導;関節炎(例えば、関節リウマチ、乾癬性関節炎、または変形性関節症);呼吸器疾患および肺疾患(慢性閉塞性肺疾患(COPD)を含むがそれに限定されない)、肺気腫、および気管支炎;潰瘍性大腸炎およびクローン病;移植片対宿主疾患;接触過敏症、遅延型過敏症、およびグルテン過敏性腸疾患(セリアック病)を含むT細胞介在性過敏性疾患;接触皮膚炎(ツタウルシによる接触皮膚炎を含む);橋本甲状腺炎;シェーグレン症候群;自己免疫性甲状腺機能亢進症(例えば、グレーブス病);アジソン病(副腎の自己免疫疾患);多腺性自己免疫疾患(多腺性自己免疫症候群としても知られる);自己免疫脱毛症;悪性貧血;白斑;自己免疫下垂体機能低下症(autoimmune hypopituatarism);ギラン・バレー症候群;他の自己免疫疾患;糸球体腎炎;血清病;じんましん(uticaria);呼吸アレルギーのようなアレルギー疾患(花粉症、アレルギー性鼻炎)もしくは皮膚アレルギー;強皮症;菌状息肉腫;急性炎症反応および急性呼吸反応(例えば、急性呼吸窮迫症候群および虚血/再灌流傷害);皮膚筋炎;円形脱毛症(alopecia greata);慢性光線性皮膚炎;湿疹;ベーチェット病;手掌足底膿疱症(Pustulosis palmoplanteris);壊疽性膿皮症(Pyoderma gangrenum);セザリー症候群;アトピー性皮膚炎;全身性硬化症;限局性強皮症;外傷(例えば、銃、ナイフ、自動車事故、落下、または戦闘による外傷);ならびに細胞療法(例えば、自己細胞置換、同種細胞置換、または異種細胞置換など)が挙げられるが、それらに限定されない。追加の炎症性症状は本明細書のどこかで記載されるか、またはそうでなければ、当技術分野で公知である。
【0099】
本明細書のシステム、装置、および方法は、また、ex vivoでの組織および臓器の開発および使用を支援するために使用されてもよい。例えば、本発明は、移植のための臓器摘出手術、組織工学利用、ex vivoでの臓器の生成、ならびに生体微小電気機械システム(MEM)の製造および使用を支援するために使用されてもよい。
【0100】
前述の記載を考慮すると、以下に提示される具体例で非限定的な実施例は例証目的のためのものであり、決して、本発明の範囲を制限するように意図されない。
【実施例】
【0101】
実施例1.動物モデルにおける急性敗血症および急性腎不全と関連する炎症の治療
この実施例は、急性敗血症および急性腎不全の症状と関連する炎症を治療するため、本発明の実施形態を評価するのに用いられた一連の実験を記載する。
【0102】
(I)背景および原理
白血球、特に好中球は、SIRS、敗血症、虚血/再灌流傷害および急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を含む、多くの臨床的な炎症性疾患の発病および進行の主要な原因である。組織破壊および疾患の進行を最小限にするために、炎症部位における白血球の活性化および組織蓄積を制限するための多くの治療アプローチが研究されている。SIRSを伴う重篤な敗血症は、集中治療室や広範囲の抗生物質を使用したとしても、アメリカ合衆国において、30〜40%の死亡率で年間20万人の患者に生じる。
【0103】
この調査の源は、急性腎不全(ARF)を治療するために、体外の装置で尿細管前駆細胞を利用する、現在行われている有望な前臨床試験および臨床試験から生じる。ARFは、最終的には多臓器不全および死に至る一連の事象における腎毒性傷害および/または虚血性尿細管細胞傷害に伴う急性尿細管壊死(ATN)から生じる。腎置換療法を必要とするATNによる死亡率は、50〜70%の範囲にある。該障害の病態生理学についての理解がより深まり、血液透析および血液濾過療法が改善したにもかかわらず、この高い死亡率はここ数十年にわたって続いている。
【0104】
これらの症状に対する治療法としての尿細管前駆細胞の利用は、尿細管細胞が、敗血症性ショックにおいて重要で免疫学的な調節的役割を果たすという論文に基づいていた。特に、重篤な敗血症性ショックは、敗血症性ショックのブタモデルにおいて菌血症の数時間以内に急性尿細管壊死(ATN)およびARFになることが示された。従って、ARFは、敗血症性ショックの時間経過の早くに発症するが、急性傷害後、血中尿素窒素および血清クレアチニンの上昇が観察されるのに数日かかるので、時間枠は臨床的には理解されていない。ARFおよびATNにおける腎臓の免疫調節性機能の喪失は、SIRS、敗血症、多臓器不全、および死亡の高リスクを発症する傾向をもたらす。最近の報告は、心臓切開手術後の術後経過中に、ARFを発症する患者において、3.3〜60%に近い敗血症事象の上昇を示した。
【0105】
合成材料および体外回路が進歩したにもかかわらず、急性血液透析または血液濾過単独では、まだATNの死亡率を50%未満に減少させていないので、ARFまたはATNの障害は、連続的な血液濾過技術との併用療法に特に適している。ATNは、主に、近位尿細管細胞の傷害および壊死により発症する。敗血症ショックと同時に発症するATNの発作の間にこれらの細胞機能を早期に置換することにより、血液濾過と併せたほぼ完全な腎臓置換療法が提供され得る。アンモニア産生およびグルタチオン再生のような代謝活動、ビタミンD3活性化のような内分泌活動、およびサイトカインホメオスタシスの追加は、追加の生理的代替活動を提供し、この疾患の進行の現在の自然経過を変え得る。
【0106】
この症状に対する尿細管前駆細胞の効果を試験するために使用された1つのシステムは、一般的に米国特許第6,561,997号に記載のように、濾過装置(従来型の高流速血液フィルター)と、それに直列に続く腎臓補助装置(RAD)からなっていた。初期の実験において、RADは、繊維の内部表面に沿って成長したヒト腎臓上皮細胞を含む標準血液濾過カートリッジを利用する体外システムと言われた。この配置は、濾過液を、調節された輸送および代謝機能のために尿細管細胞で裏打ちされた、中空繊維ネットワークの内部区画に入れることを可能にした。対象からくみ出された血液を、第1の血液フィルターの繊維に入れ、そこで限外濾過液(UF)を作り、血液フィルターのRAD下流内にある中空繊維の管腔の中に送達した。RDAから出る処理されたUFを回収し、「尿」として排出した。最初の血液フィルターから出る濾過された血液は、毛細管外の空間(ECS)ポートを通ってRADに入り、装置の繊維の中で分散した。RADを出ると、処理された血液は第3のポンプを経て対象の体に戻った。体外の血液回路は、腎不全を患う患者における、持続的または断続的な血液透析療法のために使用されるものと同一の血液ポンプシステムおよび血液管に基づいた。
【0107】
RADの尿細管前駆細胞のin vitro研究は、該細胞が、分化した能動輸送特性、分化した代謝活性、および重要な内分泌過程を保持するということを実証した。追加の研究は、RADが、体外血液灌流回路内の血液濾過カートリッジと直列に組み込まれた場合、急性尿毒症のイヌの腎臓の濾過、輸送、代謝、および内分泌機能を代替することを示した。さらに、RADは、急性尿毒症の動物において内毒素ショックを改善した。
【0108】
尿細管細胞療法の免疫調節的役割をさらに理解するために、RAD療法を施す場合および施さない場合の敗血症の組織特異的結果を、気管支肺胞洗浄検査(BAL)を用いて評価した。BAL標本を、SIRSに反応する肺の微小血管損傷および炎症を評価するために使用した。以下に詳述された予備データは、腎臓細胞療法が、損傷した血管からのタンパク質の漏出の減少および炎症の減少と関連することを実証した。
【0109】
この実験モデルシステムを用いて、全身性および組織特異的炎症過程における腎細胞療法の役割を、第2の一連の評価において、より注意深く評価することができた。それと同時に、RADを評価する臨床試験において、登録する際の障壁は、体外の血液ラインおよび透析カートリッジの血液灌流を維持するために、ヘパリンを用いる全身の抗凝固を必要とすることであった。ここ10年にわたって、連続的な腎置換療法(CRRT)回路における全身ヘパリン処置および血液灌流のより良い維持に対する必要性を取り除くために、カルシウム結合剤としてクエン酸塩を用いる局所的な抗凝固が、標準的な治療方法になった。
【0110】
従って、模擬の無細胞カートリッジおよび細胞を含むカートリッジを用いる前臨床の動物モデルにおける比較を、血液回路内のクエン酸塩および低Cai量が、全身性ヘパリン処置を用いて観察された尿細管細胞療法の有効性を減少させないことを確かめるために行った。以下に詳述するように、2つのカートリッジシステムにおけるクエン酸塩の抗凝固は、難解なおよび予期せぬ結果を示した。
【0111】
(II)実験A−動物モデルの最初の実験
最初に本発明の実施形態を評価するために、敗血症のブタモデルにおけるSIRSの確立された再現性のあるモデルを用いた(例えば、Humes et al. (2003) Crit. Care Med. 31:2421-2428参照)。
【0112】
方法および材料
健常ブタ(30〜35 kg)を、心血管パラメータおよび持続的な静静脈血液濾過(CVVH)を用いた処置を評価するために、適切なカテーテルを導入することによって準備した。その後、該ブタの腹腔内に大腸菌30×1010細菌/kg体重を入れた。細菌注入後15分以内に、該動物を、2つのカートリッジ(第1のカートリッジは血液フィルターであり、および第2のカートリッジは多孔質中空繊維を含む腎臓補助装置(RAD)である)を有するCVVH回路内に置いた。この実験について、RADは図3に示される回路内の図7に概略的に示される装置を表す。図7において、RADは中空繊維752(明確にするため1つだけがラベルされている)である複数の膜を含む。繊維内の管腔空間は、毛細管内の空間(「ICS」)740と呼ばれる。その周辺空間は、RADのハウジング754内にある毛細管外の空間(「ECS」)742と呼ばれる。活性化白血球を含む血液は、ECS入口748に入り、繊維752の周りのECS742内に移動し、ECS出口750を経てRADを出て、流出ラインに入る。この実験について、RADの中空繊維752は多孔質であり、各繊維の管腔740の内膜層で単層培養された同種移植尿細管細胞を含む。その対照は、尿細管細胞を含まないが、その他はRADと同じである模擬RADであった。
【0113】
図3に示されるように、動物から出る血液を、第1の血液フィルターの繊維に送り込み、そこで限外濾過液(UF)を作り、血液フィルターの下流のRAD中空繊維752内のICS740 に輸送した。RADを出る処理されたUFを回収し、UFポンプ304を使用して廃棄物として捨てた。最初の血液フィルターを出る濾過された血液は、毛細管外の空間(ECS)入口748を通ってRADに入り、装置の繊維752の中で分散した。ECS出口750を経てRADを出ると、処理された血液は対象の身体へ戻された。血液は、血液濾過装置の前後に置かれた血液ポンプ204および300、ならびにRADと動物の間に置かれた第3の血液ポンプ(図3に図示せず)を経てシステム中を移動した。クエン酸塩またはヘパリンを、206でシステムに加え、必要であれば、(再入する血液を準備するために)第2の薬剤を、対象に血液が再入する前に、258で加えた。
【0114】
細菌注入後の最初の1時間、動物を晶質のヘスパン80mL/kgおよびコロイドヘスパン80mL/kgからなる量を用いて蘇生させた。細菌注入後15分で、臨床状況を再現するために、動物に抗生物質のセフトリアクソン100mg/kgを入れた。どの動物にも、血管収縮薬または強心薬は入れなかった。
【0115】
結果および考察
血圧、心拍出量、心拍、肺毛細管せつ入圧、全身血管抵抗および腎臓の血流を、試験中ずっと測定した。このモデルを用いて、RAD処置は、心拍出量および腎臓の血流によって決定されるように、対照よりも良好な心血管性能を維持することが示された。改善された腎臓の血流は、対照と比べたRAD動物におけるより低い腎臓の血管抵抗に起因した。
【0116】
改善された心血管パラメータは、生存期間を延長させた。(尿細管細胞を含まない、模擬RADで処置された)対照動物はどれも、7時間以内に息を引き取ったが、全てのRAD処置動物は7時間を超えて生存した。対照の5±1時間と比較して、RAD群は10±2時間生存した(p < 0.02)。敗血症ショックにおける予後的な炎症兆候であるインターロイキン(IL-6)、およびサイトカイン炎症反応のイニシエーターであるインターフェロン-γ(IFN-γ)の血漿濃度は、対照群と比較して、RAD群ではより低かった。
【0117】
最初のデータは、ブタモデルが急性敗血症ショックの信頼できるモデルであり、RAD処置はサイトカインプロファイルの変化と関連する心血管の性能を改善し、有意な生存優位性をもたらすことを実証した。最初のデータは、RAD療法が敗血症ショックで生じる多臓器機能障害を改善することができることも実証した。
【0118】
このモデルの再現性を向上させるために、緊急輸液療法プロトコールは、細菌投与の時に晶質/コロイドボーラスを注入した後すぐに、100mL/時間から150mL/時間に増加した。この改善された蘇生プロトコールに加えて、尿細管細胞療法の免疫調節的役割をさらに理解するために、RAD療法を施す場合および施さない場合の敗血症の組織特異的結果を、気管支肺胞洗浄検査(BAL)を用いて評価した。BAL標本を、SIRSに反応する肺の微小血管損傷および炎症を評価するために使用した。腎臓細胞療法が、損傷した血管からのタンパク質の漏出の減少およびBAL液体試料の炎症の減少ならびにSIRSの他の心血管効果の改善と関連することが示された。
【0119】
緊急輸液療法を利用している上記の洗練された動物モデルは、クエン酸塩の局所的抗凝固の下でのRAD療法の有効性が、全身ヘパリン抗凝固の下でのそれと類似であるかどうかを評価するための一連の研究において使用された。従って、模擬RAD(無細胞)カートリッジおよびRAD(細胞を含む)カートリッジの前臨床動物モデルの比較を、血液回路内のクエン酸塩および低Cai量が、全身ヘパリン処置を用いて観察された尿細管細胞療法の有効性に負の影響を与えるかどうかを評価するために開始した。
【0120】
予想外に、結果は、腎臓細胞のないRADを用いたクエン酸塩抗凝固(すなわち、クエン酸塩で処置されたSCID)が、SIRSに起因する肺損傷を回復させるのに有効であり、かつ下記に詳述されるのとほぼ同じぐらい、この大型動物モデルにおける敗血症ショックに起因する心血管機能障害および死までの時間を軽減するのに有効であることを示した。
【0121】
(III)実験B−腎臓上皮細胞を利用するシステムまたはそれを欠くシステムの大型動物モデル比較
上記の敗血症ショックの改善されたブタモデルを、選択的細胞吸着除去抑制装置(SCID)と対比して、腎臓補助装置(RAD)による介入の多臓器効果を評価するために使用した。この実験において、RADおよびSCIDの両方は、上記のように、図3の回路の中の図7の装置を表す。しかしながら、RADシステムは、RAD755のICS740の中にブタ腎臓上皮細胞を含み、ヘパリン抗凝固処置を受ける。SCIDシステムは、SCID755のICS740の中に細胞を含まず、クエン酸塩処置(ヘパリンを用いない)を受ける。以下のデータは、合計で14匹の動物から得られた。7匹の動物を、ICS内のブタ腎臓上皮細胞を含まず、ヘパリン抗凝固処置を受けるRADである模擬対照(図9〜13に「模擬/ヘパリン」として表示)を用いて処置した。4匹の動物を、ブタ腎臓上皮細胞および全身ヘパリン療法を含むRAD(図9〜13に「細胞RAD」として表示)を用いて処置した。3匹の動物を、ICS内に細胞を含まず、クエン酸塩局所抗凝固を受けるSCID(図9〜13に「模擬/クエン酸塩」として表示)を用いて処置した。
【0122】
心血管パラメータの観察
図9に示されるように、腹腔内への上記の細菌投与は、全ての群において急速で、深刻で、最終的に致命的な動脈圧平均値(MAP)の減少を誘導した。初期データは、模擬/ヘパリン対照と比較して、クエン酸塩を用いたSCIDが、MAPへの効果を弱めることを示唆した。図10に、各群についての心拍出量(CO)を詳述する。COは、他の群と比較して、RAD群において十分により高かった。クエン酸塩効果は、模擬/ヘパリン対照と比較して、RAD効果よりも顕著ではないが、より多くの動物を用いて有意に達した。群間での類似の傾向が、一回拍出量において同様に観察された。
【0123】
この敗血症経過に伴って誘導される全身毛細血管漏出の近似測定として、血球容量の変化を図11に示す。図11において、模擬/ヘパリン対照は、RAD群およびSCID群の両方と比較した模擬対照群における血管内区画からのより大きい容積減少率を反映して、時間と共により高い上昇率を有した。これらの変化は、模擬/ヘパリン群と比較して、この予備の評価段階で、RAD群およびSCID群における実質的な延命効果と関連した(図12参照)。平均生存期間は、模擬/ヘパリン群については7.25±0.26時間、SCID(模擬/クエン酸塩)群については9.17±0.51時間、およびRAD(ICS空間に細胞を有する)群については9.56±0.84時間であった。これらのデータは、模擬/ヘパリン群と比較して、RAD(ICS空間に細胞を有する)、および予想外に、SCIDの両方が、心拍出量、腎臓の血流および生存期間を改善したことを示した。
【0124】
炎症パラメータの観察
ブタSIRSモデルを用いて、様々な治療的介入の効果を調べるため、気管支肺胞洗浄(BAL)液を死亡時に入手し、微小血管損傷のパラメータとしてのタンパク質含有量、様々な炎症性サイトカインおよび多形核細胞(PMN)の絶対数について評価した。表3にまとめたように、予備データは、RAD処置とSCID処置の両方が、SIRSにおける肺障害の初期段階で、血管損傷およびタンパク質漏出をより少なくし、炎症性サイトカイン放出を減少させることを示した。IL-6、IL-8および腫瘍壊死因子(TNF)-αの量は、模擬対照と比べて、治療的介入においてより低かった。IL-1およびIL-10の量に違いはなかった。各群、n=1または2であったが、模擬対照における好中球の絶対数は1000細胞/mLを越え、RAD群およびSCID群ではより低い傾向であった。
【0125】
(表3)敗血症ショックを患うブタから得た気管支肺胞洗浄(BAL)液中のタンパク質およびサイトカイン量
注釈:平均値±標準誤差。死亡時に行われたBAL。
【0126】
白血球隔離の観察
血液透析の文献は、単一カートリッジの中空繊維を通る血液循環が、一過的な1時間の好中球減少反応をもたらすと示唆する(例えば、Kaplow et al. (1968) JAMA 203:1135参照)。第2のカートリッジの体外空間を通る血流が、循環白血球のより高い接着率をもたらすかどうかを試験するために、敗血症動物における全白血球(WBC)数および差異を測定した。結果を図13に示す。
【0127】
図13に示されるように、各群は、2時間で発症し、7時間で回復する底を有する、体外回路に対する白血球減少反応を有した。これらの動物(各群n=1〜2、合計=5)におけるベースライン〜3時間の平均白血球分画を表4にまとめた。白血球の全小集団は減少し、一番顕著なのは好中球であった。
【0128】
(表4)
注釈:数値は、5匹の動物(模擬対照動物1匹、RADにより処置された動物2匹およびSCDにより処置された動物2匹)の平均である。
【0129】
SCIDにおける白血球の隔離を実証するために、図14A〜Dに、中空繊維の外部表面に接着した白血球の密度を表示する。これらの写真は、SCIDにおける白血球の隔離を示す。この処置プロトコールを受けている健常動物では、8時間の処置過程の間、それらの白血球(WBC)が9000を下回らなかった。これは、プライミングまたは活性化された白血球が、第2の膜システムに接着する必要があり得ることを示唆する。
【0130】
これらのデータは、模擬/ヘパリン対照と比較して、RADが、心拍出量、腎臓の血流(データ示さず)、および生存期間を改善することを確証する。さらに、第2の低せん断力の中空繊維カートリッジ(すなわちSCID)と組み合わせたクエン酸塩の使用は、それがICS内に細胞を含まなくても、大きな抗炎症効果を有するということを見出したのは予想外であった。
【0131】
実施例2.白血球の隔離ならびに阻害および/または失活のin vitro研究
この実施例で詳述される実験は、透析膜に接着した白血球が、クエン酸塩存在下で、阻害されるおよび/または失活することを示す。さらに、他のデータは、クエン酸塩抗凝固が、末期腎疾患(ESRD)を患う対象の血液透析の間、好中球の脱顆粒(カルシウム依存性のイベント)を無効にするということを実証した。この過程をより詳細に評価し、それを他の白血球集団およびサイトカイン放出に拡大するために、次のin vitro実験を行った。
【0132】
方法および材料
白血球を、確立された方法を使用して、健常個体から単離した。白血球(1ウェルに106細胞)を、14×14 mm平方のポリスルホン膜(Fresenius、Walnut Creek、カリフォルニア州)を含む12ウェル組織培養プレートに置き、RPMI培地中、37℃で60分間接着させた。培地を取り除き、細胞をPBSで洗浄し、取り除いた上清を細胞放出について分析した。クエン酸塩を含む(Cai=0.25mmol/L)または含まない(Cai=0.89mmol/L) RPMI培地を用いて、下記の表5に記載のCai量を得た。各カルシウム条件は、また、白血球を活性化するために、リポ多糖(LPS、1μg/mL)を含むまたは含まない培地を有した。
【0133】
好中球からのエキソサイトーシス小胞の中にあるタンパク質であるラクトフェリン(LF)およびミエロペルオキシダーゼ(MPO)、ならびに白血球から放出されるサイトカイン、IL-6およびIL-8の放出を評価するために、細胞を60秒間これらの条件にさらし、培地から取り出した。これらの化合物を、市販のElisaキット(R & D Systems、Cell Sciences、およびEMD BioSciences)を用いてアッセイした。
【0134】
結果および考察
結果を表5に示す。
【0135】
(表5)
注釈:2つの異なる正常対照からの白血球(WBC)単離;各条件を2つ組で分析した。ベースラインはLPSを含まなかった;刺激ありの条件はLPSを含んでいた(1μg/mL)。
【0136】
これらの炎症性タンパク質の実質的な増加が観察された正常Cai培地と対照的に、低いCaiを有するクエン酸塩を含む培地は、LF、MPO、IL-6、またはIL-8の増加が観察されなかった。これらの結果は、透析膜に接着した白血球集団の刺激は、培地中のCai量を下げるクエン酸塩の存在下で阻害されたおよび/または失活したということを示している。この低いCai量は、白血球内の複数の炎症性反応(例えば、炎症誘発性物質の放出)を阻害するおよび/または白血球を失活させるための細胞質カルシウム量に変化をもたらした。
【0137】
実施例3.ヒトにおける急性腎不全(ARF)と関連する炎症の治療
この実施例に記載される実験は、ヘパリンで処置されたシステム内の類似の装置を用いて処置された患者と比べて、本発明の実施形態(すなわち、クエン酸塩で処置したシステム内の中空繊維チューブを含むSCID)を用いて処置されたヒト対象において、予想外の生存率を示す。特に、この実験において、SCIDは図3の回路内の図7の装置を表す。腎臓細胞は、SCIDのICSに含まれなかった。
【0138】
背景
これまでに連続的な静静脈血液濾過(CVVH)を受けているARFおよび多臓器不全を患う10人の重病患者に対する腎臓細胞療法の安全性および有効性を、フェーズI/II臨床試験で調べた(例えば、Humes et al. (2004) Kidney Int. 66(4):1578-1588)。これらの患者の予測された病院死亡率は、平均85%を上回った。以前に報告された臨床試験で使用された装置に、腎臓(死体腎臓移植のために提供されたが、解剖学的欠陥または繊維性の欠陥のために移植に適さないことが分かった腎臓)から単離されたヒト近位尿細管細胞を播種した。この臨床試験の結果は、CVVHと併せて使用された時、この実験的処置が、最大24時間、研究プロトコール指針の下で安全に送達され得ることを実証した。臨床データは、このシステムが、臨床設定における実行可能性、耐久性、および機能性を提示し、ならびにこれらを維持することを示した。この処置と時間的に相関する増加した尿排出量によって決定されるように、患者の心血管の安定性は維持され、生来の腎臓機能を増大させた。
【0139】
以前の臨床研究におけるシステムは、分化した代謝活性および内分泌活性も実証した。4日以上の経過観察を経た一人を除く全ての処置を受けた患者は、急性の生理学的スコア(acute physiologic score)によって評価した場合、改善を示した。APACHE 3採点法を用いたこれら10人の患者についての予想された死亡率は平均で85%であったが、処置を受けた患者の10人中6人は、腎臓機能が回復し、28日を越えて生存した。血漿サイトカイン量は、この細胞療法が、患者特有の病態生理学的状態に応じて、患者における動的でかつ個別化された反応を生じさせることを示唆した。
【0140】
この好ましいフェーズI/II臨床試験の結果は、その後、この細胞療法アプローチが患者の死亡率を変化させるかどうかを決定するための、FDAに承認された、12〜15の臨床現場におけるフェーズIIのランダム化比較試験につながった。あるフェーズII研究は、58人の患者を含んでいた。このうち40人はRAD療法にランダムに割り当てられ、18人は対照群を構成し、人口統計学的なデータおよび経時的臓器不全評価(SOFA)スコアによる病気の重症度は同等であった。初期の結果は、フェーズI/IIの結果と同じくらい説得力のあるものであった。腎臓細胞療法は、28日の死亡率を、従来型の血液濾過で処置された対照群の61%から細胞で処置された群の34%まで改善した(例えば、Tumlin et al. (2005) J. Am. Soc. Nephrol. 16:46A参照)。この生存効果は、90〜180日の経過観察の間ずっと継続し(p < 0.04)、Cox比例ハザード比は、死亡リスクが従来型のCRRT群で観察されたリスクの50%であったことを示している。腎臓細胞療法を用いたこの延命効果は、様々な原因のARFについて、臓器不全数(1〜5+)または敗血症の存在に関わらず観察された。
【0141】
方法
追加の研究を、商業的な細胞製造過程およびクエン酸塩の局所的抗凝固の付加を評価するために行った。これらの患者処置群の結果は、全身性ヘパリン抗凝固またはクエン酸塩の局所的抗凝固を施してSCID(ICSに細胞を含まない)を用いて処置された患者における死亡率を比較するために分析した。これらの実験で使用した装置を、上記のような図3に示した回路の中の図7に概略的に示す。しかしながら、この実験については、第2の血液ラインポンプはSCIDと対象の間にある(図3に示されるように装置間にはない)。
【0142】
結果
表6は、SCID/クエン酸塩システムが、28日および90〜180日の時点において、顕著な生存率の増加を生み出したことを示す。
【0143】
(表6)
注釈:SOFA=経時的臓器不全評価;OF =臓器不全数;MOF =多臓器不全数
【0144】
図15は、ヘパリン(「SCID/ヘパリン」)の代わりにクエン酸塩を使用する装置(「SCID/クエン酸塩」)で処置された患者における、0〜180日の間での顕著な生存率の増加をグラフで示す。SOFAスコアおよび臓器不全数によって測定された場合に、患者群が類似の疾患の活動性を有していても、これらの生存の違いが生じた。いずれの群も、システムの第2のカートリッジのICS内に細胞を含まなかった。
【0145】
考察
この臨床的効果は予期せぬものであった。これらの結果は、患者の生存を最大限に延ばすことにおいて、前例のない、驚くべき成功を提供した。これらの臨床データはARFを患う患者から得られたが、この観察は、より一般的に、例えば、SIRS、ESRDおよび他の炎症性症状に当てはまるであろうと考えられる。潜在的メカニズムについてのさらなる評価を、クエン酸塩処置群およびヘパリン処置群における、無細胞カートリッジの組織学的評価を用いて遂行した。上記の動物モデルのデータと類似して、クエン酸塩/SCIDシステムは、第2のカートリッジの中空繊維の外部表面を有しており、このカートリッジの血液側は白血球で覆われていた。類似の結合が、ヘパリン/SCIDシステム内で観察された。
【0146】
実施例4.1装置システムを使用した炎症の治療
いくつかの例では、単一の処置装置(すなわち、他の処置装置を含まないSCID)を用いた処置システムを使用することは有益であり得る。先に議論したように、本発明の特定の実施形態は、主たる処置機能の実行に加えて、(望ましくない形で)白血球を活性化し得る体外回路の中にある第1の処置装置(例えば、血液フィルター)を利用する。SCID内で直列の第2の処置装置は、(例えば、図2Cおよび2Dに示されるような)ECSの低抵抗の区画内で、接着と体系的隔離を達成する。従って、第1の処置装置がその主たる機能を実行する必要がない場合、それを取り除き、白血球の望まない活性化を減少させることは有益であり得る。他の実施形態(例えば、敗血症)において、循環白血球はすでに活性化されている可能性があり、血流がECSの低抵抗区画を通る(例えば、図2Aおよび2Bに示されるような)単一装置SCIDシステムは、白血球の接着および隔離に適し得る。血液ライン上の1つのポンプのみがこの回路に必要とされ、治療的介入を単純化する。
【0147】
この実験は、対象(例えば、炎症反応を発症するリスクのあるまたは炎症反応を有する動物またはヒトの患者)における選択的細胞吸着除去の有効性、ならびに生存率、ならびに炎症反応を軽減および/または予防する効果を評価する。特に、この実験は、システム内にSCIDのみ含む1装置システムと、システム内にSCIDおよび血液を処置する他のシステム構成要素、例えば、1つまたは複数の血液濾過カートリッジを含む2装置システムを比較する。1装置システムは、SIRSのような症状を有するかまたは有するリスクのある対象に対して特に役立ち得る。この場合、白血球隔離ならびに、任意で、白血球失活および/または白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害が、体外回路にとって主たる処置目的である。2装置(または複数装置)システムは、体外回路を使用する2つ以上の処置の必要性のある対象に対して、例えば、腎臓透析処置と白血球隔離の両方、ならびに、任意で、白血球失活および/または白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害の必要性のある急性腎不全を患う対象に対して役立ち得る。
【0148】
第1の試験システムは、それぞれ、図2Aまたは2Bのいずれかの回路の中の図5または6の1つに示されるような単一SCIDを含む。第2の試験システムは、それぞれ、図2Cまたは2Dのいずれかの複数装置回路の中の図5または6の1つに示されるようなSCIDを含む。両方の試験システムについて、SCID中空繊維カートリッジまたはシステム全体は、クエン酸塩を含む。両システムについて、限外濾過液および細胞は、SCIDのICSに含まれない。
【0149】
2群の対象(例えば、ブタ)に、上記の実施例1に記載のように、敗血症およびSIRSを誘導するため細菌を投与する。その後、各群を試験システムの1つを用いて処置し、実施例1に記載されたような測定を行う。この2群の測定を比較する。記載された1装置および2装置システム構成に加えて、装置およびそれらの装置を含むシステムの他の構成も試験され得る。
【0150】
一過的な白血球減少症および好中球減少症の程度は、1装置システムと2装置システムの間で同等であると予想される。単一装置構成および2装置構成の両方が効果的であると予想されるが、白血球(WBC)数と、心血管および肺の機能パラメータに対する影響との関係、全身性の炎症および肺の炎症の兆候、ならびに単一装置システム対2装置システムの全域での白血球活性化マーカーの変化は、より簡素な単一装置システムまたは2装置システムが第2の処置装置を必要としない状況において有益かどうかを確かめる。
【0151】
実施例5.白血球隔離表面域の比較
この実験は、試験対象における炎症反応を予防するためにおよび生存率を上昇させるために選択的細胞吸着除去を行うことにおける、異なる白血球隔離表面域を有する1つまたは複数のSCID中空繊維カートリッジの有効性を評価する。いくつかの膜の大きさを試験する。最初の試験は、それぞれ、約0.7m2および約2.0m2の表面域を有するSCID膜の比較を含む。追加の試験群は、約0.7m2〜約2.0m2の膜表面域の比較、および/または約2.0m2を越える膜表面域の比較を含み得る。
【0152】
1つの研究において、上記のような、様々な白血球隔離表面域を有する中空繊維カートリッジを含むSCIDを用意する。図5の一般設計のSCIDを、図2Aまたは2Cの回路内に設置するか、または図6の一般設計のSCIDを、図2Bまたは2Dの回路内に設置する。対象(例えば、ブタ)に、上記の実施例1に記載のように、敗血症およびSIRSを誘導するため細菌を投与する。その後、対象群を、本明細書に記載のシステムのうちの1つまたは複数を使用して処置する。試験される各システムについて、少なくとも2つの異なるSCIDの膜表面域サイズ(例えば、0.7m2および2.0m2)を試験する。実施例1に記載のような測定を行い、各群からの測定を比較する。
【0153】
別の研究において、CPBを受けている対象(例えば、ブタまたは子ウシ)を研究する。CPBを用いた処置は、急性腎損傷(AKI)および急性肺損傷(ALI)を含む臓器機能不全を引き起こす。様々な白血球隔離表面域を有する中空繊維カートリッジを含むSCIDを、CPB回路内で試験する。
【0154】
CPBを、図4A〜4Fのいずれかに示されるような回路内に構成されたSCIDを使用して、本明細書の実施例8および9に記載の対象に対して行う。各システムについて、少なくとも2つの異なるSCIDの膜表面域サイズ(例えば、0.7m2および2.0m2)を試験する。終点測定は、本明細書に、例えば、実施例1または8に記載の測定を含む。さらに、CPBによって誘導されたAKIおよびCPBによって誘導されたALIの重症度を、SCID膜隔離表面域の関数として評価し得る。
【0155】
増大した膜表面域は、白血球結合を増強し、SCIDを使用して誘導される白血球減少症の時間間隔をより長くすることが予想される。従って、(より小さい隔離表面域と比べて)より大きい隔離表面域を有するSCIDは、(例えば、改善された生存率および/または炎症反応を軽減および/もしくは予防する改善された効果によって測定される)選択的細胞吸着除去の有効性を改善し、CPBと関連する合併症(例えば、CPBと関連する臓器傷害)を軽減することに対してより大いに有益な効果を有すると予想される(例えばAKIとALI)。
【0156】
実施例6.急性腎損傷を患う敗血症ショックモデルにおける選択的細胞吸着除去装置
この実施例に記載される実験は、SCIDを有する1ポンプおよび2ポンプシステムの前臨床試験、およびAKIを伴う敗血症ショックのブタモデルへのクエン酸塩またはヘパリンのいずれかの投与について記載する。実験は、一般的に、2つの評価に向けられた。最初に、実験は、2ポンプ回路内のSCID(例えば、図3の回路内の図7のSCID)と比べて、1ポンプ回路内のSCID(例えば、図2Dの回路内の図6のSCID)を利用することの有効性を評価した。「1ポンプ」または「2ポンプ」は、例えば、図2Dのポンプ204(1ポンプシステム)によってまたは図3のポンプ204および300(2ポンプシステム)によって示されるような回路の血液ライン上のポンプの数を表す。1ポンプ回路を使用する利点は、既存の透析機器が、ベッドサイドでのケアを提供するために、追加の訓練またはポンプシステムなしに利用できることである。さらに、この実験は、ヘパリンと対比してクエン酸塩を使用して、活性化した白血球を隔離するおよびそれらの活性化状態を阻害するためのSCIDの作用のメカニズムを評価した。
【0157】
材料および方法
2ポンプ回路と比べた1ポンプ回路内のSCIDの有効性を評価するために、以下の2つの試験システムを準備した。第1に、1ポンプ試験システムは、図2Dの回路内に図6のSCIDを含んでいた。第2に、2ポンプ試験システムは、図3の回路内に図7のSCIDを含んでいた。両方の試験システムは、また、クエン酸塩またはヘパリンを含み、SCIDのICS内に細胞を含んでいなかった。
【0158】
実施例1で記載されたように、この実施例の実験は、AKIおよび多臓器機能不全と関連する敗血症ショックの確立されたブタモデルを利用した。(例えば、Humes et al. (2003) Crit. Care Med. 31:2421-2428参照)。簡潔に説明すると、2群の対象(ブタ)に、上記実施例1に記載されたように、敗血症およびSIRSを誘導するために細菌を投与した。その後、各群を、1ポンプまたは2ポンプ試験システムの1つを使用して処置した。各1ポンプおよび2ポンプシステムは、2つの処置下位群(クエン酸塩注入またはヘパリン注入のいずれかを用いた処置群)を有した。従って、敗血症およびSIRSを有する一方の群の対象を、1ポンプシステムおよびクエン酸塩またはヘパリンのいずれかを用いて処置し、敗血症およびSIRSを有するもう一方の群の対象を、2ポンプシステムおよびクエン酸塩またはヘパリンのいずれかを使用して処置した。
【0159】
白血球、好中球、および血小板を、1ポンプおよび2ポンプシステムの相対的な有効性を評価するために測定した。さらに、ヘパリンと比べたクエン酸塩を有するSCIDによる活性化白血球の隔離および阻害のための作用のメカニズムを評価するために、いくつかのパラメータを、クエン酸塩またはヘパリンのいずれかを使用したシステム内で測定した。評価したパラメータには、好中球活性化の指標であるミエロペルオキシダーゼ(MPO)およびCD11bが含まれた。CD11bの測定のために、動物から血液試料を取得し、白血球細胞表面上で発現したCD11bタンパク質に結合する蛍光抗体を加えた。白血球を、細胞選別を用いて様々な部分集団に分け、その後、好中球ゲート内の好中球を、蛍光抗体と結合した表面上のCD11b分子の数に比例する蛍光強度によって分析した。その後、好中球集団全体を分析し、CD11b発現を伴う活性化量を蛍光強度平均値(MFI)として定量的に評価した。評価パラメータは、動物の生存期間も含んでいた。
【0160】
結果
図16A、16B、および17は、白血球数、好中球数、および血小板数に対する、1ポンプおよび2ポンプシステムの効果の結果を示す。白血球隔離(図16A)、好中球隔離(図16B)および血小板隔離(図17)は、クエン酸塩で処置されたおよびヘパリンで処置された1ポンプシステムならびにクエン酸塩で処置されたおよびヘパリンで処置された2ポンプシステムについて概して同じだったので、これらの図は、2つの2ポンプ下位群の平均と比較した場合の2つの1ポンプ下位群の平均を示す。図18〜21は、クエン酸塩で処置されたまたはヘパリンで処置されたシステムの結果を示す。図18〜21についての測定された特性は、クエン酸塩で処置された1ポンプおよび2ポンプシステムについてならびにヘパリンで処置された1ポンプおよび2ポンプシステムについて概して同じだったので、これらの図は、2つのヘパリン下位群の平均と比較した場合の2つのクエン酸塩下位群の平均を示す。
【0161】
2ポンプ対1ポンプ試験システム比較
1ポンプ回路と2ポンプ回路の間の圧力および/または流れの違いが、2つの試験システムのSCID内での白血球隔離に及ぼし得る効果を評価するために、全身の血液中の白血球(WBC)および好中球の数を調べた。白血球(WBC)および好中球の数と関連する1ポンプシステムおよび2ポンプシステムについての結果を、それぞれ図16Aおよび図16Bに示す。図の中で詳述されるように、1ポンプシステム(n=5)と2ポンプシステム(n=5)の間のこれらのパラメータに、違いは観察されなかった。
【0162】
血小板隔離
血小板数も、1ポンプシステムまたは2ポンプシステムのいずれかを使用して処置された動物について評価した。図17に示されるように、SCIDを有する1ポンプシステムおよび2ポンプシステムの両方は、SCIDを使用した処置後、少なくとも9時間、血小板数の減少を示した。これらのデータは、SCIDを有するシステムが血小板を隔離することを示す。
【0163】
好中球活性化
活性化好中球は、侵入してくる微生物または組織損傷に反応して様々な酵素を放出し、組織修復を開始する。好中球顆粒から放出される主要な酵素は、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)である。従って、MPOの全身量を、対象における好中球活性化量を示すために測定した。図18は、SCIDおよびクエン酸塩を使用して処置された動物(SCID平均; n=5)における平均MPO量は、SCIDおよびヘパリンを使用して処置された動物(ヘパリン平均; n=3)よりも低かったことを示す。また、好中球活性化量を、血液循環を出て炎症部位へ移動する最初のステップとしての内皮上への結合に関与する膜タンパク質であるCD11bの発現を測定することによって定量化した。図19に詳述されるように、敗血症誘導の6時間の時点で、全身循環血液中の好中球のMFIは、SCIDおよびクエン酸塩を使用して処置された動物(クエン酸塩(全身); n=4)に比べて、SCIDおよびヘパリンを使用して処置された動物(ヘパリン(全身); n=4)において、劇的に増加した。
【0164】
回路全体にわたる平均を得るために、回路の動脈ラインおよび静脈ライン内の好中球MFIを評価することによって、分析をさらに洗練させた。試料を、血液が対象から血液ラインに出る回路の動脈ラインから、および血液が血液ラインから出て対象に再入する回路の静脈ラインから同時に取得した。図20に示されるように、ヘパリン群(n=4)およびクエン酸塩群(n=4)におけるMFI(動脈-静脈)の違いは、3および6時間の時点で劇的に異なった。このデータは、クエン酸注入が回路に沿って好中球活性化量を抑制することを示唆し、そのことは同じ期間に全身を循環している活性化好中球が少ないことを示し得る。
【0165】
動物の生存
ヘパリンを有するSCIDと比較した場合のクエン酸塩を有するSCIDの有効性の最終的な評価は、生存効果である。図21に示されるように、一貫性のある生存期間の優位が、ヘパリン群と比較して、クエン酸塩群において観察された。クエン酸塩を有するSCIDを使用して処置された動物の平均生存期間は、8.38+/-0.64時間 (n=8)であるのに対し、ヘパリンを有するSCIDを使用して処置された動物の平均生存期間は、6.48+/-0.38時間(n=11)であった。
【0166】
さらなる評価が考えられる。例えば、局所的クエン酸塩抗凝固と比べた全身ヘパリン処置を有するSCIDの効果、または1ポンプシステムもしくは2ポンプシステムの効果を評価するためのデータセットは、1.心血管パラメータ(心拍;収縮期、弛緩期、およびMAP;心拍出量、全身の血管抵抗、一回拍出量;腎臓動脈血流;中心静脈圧;肺毛細血管せつ入圧);2.肺のパラメータ(肺動脈の収縮期および弛緩期圧、肺の血管抵抗、動脈から肺胞の酸素勾配);3.動脈血ガス(pO2、pCO2、pH、全CO2);4.全血球数(血球容量(毛細血管漏出の間接測定);白血球(WBC)および白血球分画);5.炎症指標(全身の血清のサイトカイン量(IL-6、IL-8、IL-1、INF-γ、TNF-α));ならびに6.BAL液による肺の炎症のパラメータ(タンパク質含有量(血管漏出);白血球分画を含む全細胞数;TNF-α、IL-6、IL-8、IL-1、INF-γ、好中球ミエロペルオキシダーゼおよびエラスターゼ;BAL液由来の肺胞のマクロファージ、ならびにLPS刺激後に評価されるサイトカインのベースラインおよび刺激を受けた量)を含み得る。さらに、SCID炎症パラメータ(血液フィルターの前、第2カートリッジの前後の血清における、様々なサイトカイン量(IL-6、IL-8、TNF-α、IL-1、INF-γ))ならびに好中球によりエキソサイトーシスされた化合物(ミエロペルオキシダーゼ、エラスターゼおよびラクトフェリン)が、白血球活性を評価するために測定され得、これらの要素の同時測定も、処置の進行の間に血液およびUF区画と関連づけるために、UFの第2カートリッジの前後で行われ得る。さらに、血清およびBAL液中の酸化マーカーが、様々な群内の炎症により誘導された酸化ストレスを評価するために、ガスクロマトグラフィーおよび質量分析法を使用して測定され得る。
【0167】
結論
実験から得られたデータは、SCIDおよびクエン酸塩処置を含む体外回路が、効果的に白血球を隔離し、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害することができるかまたは白血球を失活させることができることを確証する。特に、これらのデータは、白血球隔離効果が1ポンプ回路と2ポンプ回路の間で類似であることを示す。さらに、敗血症ショック動物モデルにおいて、SCIDおよびクエン酸塩処置システムは、SCIDおよびヘパリン処置システムと比較して好中球活性化量を減少させた。SCIDおよびクエン酸塩処置システムの有効性が、敗血症の致死的な動物モデルにおいて生存期間の延長をもたらした。さらに、1ポンプシステムおよび2ポンプシステムの両方は、少なくとも9時間、効果的に血小板を隔離した。このデータに基づいて、血小板の隔離ならびに血小板の失活および/または血小板からの炎症誘発性物質の放出の阻害は、本明細書および実施例の全体を通して記載されているような白血球の隔離ならびに白血球の失活および/または白血球からの炎症誘発性物質の放出の阻害によって達成される効果と類似の有益な効果を有し得ると考えられる。
【0168】
実施例7.ヒトにおける末期腎疾患の治療
この実施例に記載される実験は、本発明の実施形態、すなわち、ヘパリンで処置された類似のシステムと対比して、クエン酸塩で処置されたシステム内に中空繊維管を含むカートリッジを使用して処置されたヒト対象における生存率を評価するように設計されている。この実験のシステム構成は、SCIDのICSに細胞を含まない、それぞれ、図2Cまたは2Dの1つの回路内にある図5または6の1つのSCIDである。方法および観察は、SCIDカートリッジ内に追加の腎臓細胞を含まないクエン酸塩システム対ヘパリンシステムの比較を含み得る。
【0169】
背景
慢性の炎症誘発性状態と関連する疾患の1例は、末期腎疾患(ESRD)である。(例えば、Kimmel et al. (1998) Kidney Int. 54:236-244; Bologa et al. (1998) Am. J. Kidney Dis. 32:107-114; Zimmermann et al. (1999) Kidney Int. 55:648-658参照)。主要な治療法である透析は、小分子排泄物の除去および体液平衡に焦点が当てられている。しかしながら、それは、ESRDと関連する慢性の炎症に対処しない。ESRD患者において、それは、深刻な罹患率および21%にのぼる受け入れ難いほどの高い年間死亡率と関連する(例えば、USRD System, USRDS 2001 Annual data report: Atlas of end-stage renal disease in the United States, 2001, National Institutes of Health, National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases: Bethesda. p. 561参照)。
【0170】
ESRDを患う患者の平均余命は、平均すると4〜5年である。血管変性、心血管疾患、血圧の調節不良、頻繁におこる感染、慢性疲労、および骨の変性は、生活の質に重大な影響を与え、高い罹患率、度重なる入院、および高額な費用を生む。ESRD患者における死亡の主要原因は心血管疾患であり、ESRDにおける全死亡率のほぼ50%を占め、(例えば、USRD System, USRDS 2001 Annual data report: Atlas of end-stage renal disease in the United States, 2001, National Institutes of Health, National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases: Bethesda. p. 561参照)、感染イベントがそれに次ぐ。
【0171】
ESRD患者は、心血管疾患および急性の感染の合併症の両方にかかりやすくする慢性の炎症状態を発症する。ESRD患者は、適切な血液透析にもかかわらず、より感染しやすくなる。慢性の血液透析は、膜の活性化、炎症、およびクリアランスと無関係に、慢性の炎症誘発性状態に等しいサイトカインのパターンの変化を引き起こす(例えば、Himmelfarb et al. (2002) Kidney Int. 61(2):705-716; Himmelfarb et al. (2000) Kidney Int. 58(6):2571-2578参照)。これらの小さいタンパク質は血液透析され得るが、血漿量は、産生率の増加により変化しない(例えば、Kimmel et al. (1998) 上記; Bologa et al. (1998) 上記; Zimmermann et al. (1999) 上記; Himmelfarb et al. (2002) 上記; Himmelfarb et al. (2000) 上記参照)。血液透析を受けているESRD患者における酸化ストレスへの増強した曝露は、さらに免疫システムを損ない、易感染性を高める(例えば、Himmelfarb et al. (2002) 上記; Himmelfarb et al. (2000) 上記参照)。
【0172】
ESRD患者における慢性の炎症性状態は、IL-1、IL-6、およびTNF-αを含む増加した炎症誘発性サイトカイン量と共に、新たな臨床マーカーであるCRPの増加量によって明らかである。(例えば、 Kimmel et al. (1998) 上記; Bologa et al. (1998) 上記; Zimmermann et al. (1999) 上記参照)。これらのパラメータの全てが、ESRD患者における増加した死亡率と関連する。特に、IL-6は、血液透析患者における死亡率と密接に相関する単一の予測因子として同定されている。IL-6が1ミリリットル当たり1ピコグラム増加するごとに、心血管疾患の相対死亡率が4.4%ずつ上昇する(例えば、Bologa et al. (1998)上記参照)。実際、炎症誘発性状態が、ESRDを患う患者における好中球のプライミングおよび活性化に起因することを示唆する証拠が増えている(例えば、Sela et al. (2005) J. Am. Soc. Nephrol. 16:2431-2438参照)。
【0173】
方法
末期腎不全を患う患者は、血液濾過装置、SCID、およびクエン酸塩または、対照として、血液濾過装置、SCID、およびヘパリン(すなわち、クエン酸塩処置またはヘパリン処置を含む、それぞれ、図2Cまたは2Dの1つの回路内にある図5または図6の1つのSCID)を含む体外回路を使用して処置された血液を有する。該研究は、各SCID内に尿細管細胞も含み得る(それにより、該SCIDは腎臓補助装置またはRADとしても作用する)。血液は、患者から血液濾過装置へ、SCIDへと流れ、患者に戻る。患者に戻る血液の流れを促進するために、適切なポンプおよび安全フィルターも含まれ得る。
【0174】
クエン酸塩またはヘパリンを有するSCIDの効果を評価するためのデータセットは、SCID炎症パラメータ(血液濾過前、第2カートリッジの前後の血清における、様々なサイトカイン量(IL-6、IL-8、TNF-α、IL-1、INF-γ))ならびに好中球によりエキソサイトーシスされた化合物(ミエロペルオキシダーゼ、エラスターゼおよびラクトフェリン)(これらは、SCID内にある様々な構成要素カートリッジの全域の白血球活性を評価するために測定される)を含む。SCIDおよびUFを有する回路(例えば、図3の回路内にある図7のSCID)が使用される場合、これらの要素の同時測定も、処置の進行の間の血液およびUF区画と相関させるために、第2カートリッジの前後のUFにおいて行われる。
【0175】
結果および考察
SCIDおよびクエン酸塩を含む体外回路で血液が処置されたESRD患者は、SCIDおよびヘパリンを含む体外回路で処置されたESRD患者と比較して、著しくより良い結果を示す。特に、炎症誘発性マーカーは、ヘパリン処置を含むSCID処置を受けている患者と比べて、クエン酸塩処置を含むSCID処置を受けている患者において下がることが期待される。
【0176】
実施例8.心肺バイパス回路の一部としての選択的細胞吸着除去装置
この実施例に記載される実験は、SCIDとして単一血液濾過カートリッジ(例えば、図5または6に示されるSCID)を使用した。このカートリッジは、より大きい体積流量回路と並列の回路内に血流(200mL/分)を有する体外回路へ接続されていた。クエン酸塩の局所的抗凝固は、この並列回路の抗凝固およびSCID内の膜の外部表面に沿って隔離される白血球を失活させる手段の両方を改善するために使用される。
【0177】
このプロトコールは、子ウシモデルにおいて、SCIDと共に体外のCPB回路を含んでいた。各回路におけるSCIDの使用は、循環白血球、主に好中球の実質的な減少と一時的な相関関係を有した。この減少は、隔離効果の飛躍的進歩なしに、この手順の間ずっと維持された。安全性の問題なしに既存のCPB回路にSCIDを容易に組み込む回路設計を、図4Bおよび4Cに示す。
【0178】
背景
心臓手術の進歩は、CPBの技術に完全に依存している。残念なことに、全身性炎症反応はCPBと関連して生じ、手術後の多臓器機能不全を引き起こすことが認識されている。CPBの間の多くの傷害は、血液成分の人工膜活性化(膜酸素供給器)、外科手術による外傷、臓器への虚血再灌流傷害、体温変化、心臓切開吸引による血液活性化、およびエンドトキシンの放出を含む、この炎症反応を開始および拡大することが示された。これらの傷害は、白血球活性化、サイトカインの放出、補体活性化、およびフリーラジカルの生成を含む複雑な炎症反応を促進する。この複雑な炎症過程は、しばしば、ALI、AKI、出血性障害、変化した肝機能、神経機能障害、および最終的に多臓器不全(MOF)の発症の一因となる。
【0179】
肺機能障害は、CPBを必要とする手術後に非常によく起こる。この急性肺損傷は、軽症の手術後の呼吸困難から劇症のARDSにまで及び得る。ほぼ20%の患者が、CPBを必要とする心臓手術後、48時間よりも長い間、人工呼吸器を必要とする。ARDSは、50%を超える死亡率で、約1.5〜2.0%のCPB患者に発症する。AKIを伴う腎機能障害も、CPB後の成人患者によく起こる。これらの患者の最大40%が、血清クレアチニンおよびBUNの上昇を発症し、1〜5%で透析補助が必要となり、術後の死亡率は80%に近づく。
【0180】
CPB後の多臓器機能障害に関わるメカニズムは、多数で、相互に関連し、複雑であるが、CPB誘導性ポストポンプ症候群におけるARDSの発症において、循環白血球、特に、好中球の活性化における重要な役割を示唆する証拠が増えている。ARDSおよびポストポンプ症候群の両方における急性肺損傷が、肺でのPMN隔離後、主に好中球に仲介されることを支持する証拠が増えている。隔離および活性化されたPMNは肺組織に移動し、結果的に組織傷害および臓器機能障害を引き起こす。CPBの間の白血球枯渇に向けられる、当技術分野において記載される治療的介入は、前臨床動物モデルおよび早期臨床研究の両方で評価されてきた。当技術分野の白血球を枯渇させるフィルターを使用した結果は一貫性がなく、CPBの間の循環白血球数の減少はなかったが、酸素要求の軽度の改善はあった。当技術分野の白血球を減少させるフィルターを使用する選択的な冠動脈バイパス移植(CABG)を受けている患者においては、顕著な臨床的改善は見られなかった。対照的に、本発明のシステム、装置、および方法は、下記のように、有益な効果を有する。血液分離装置を使用した白血球の枯渇は、術後の肺のガス交換機能を改善し得る。
【0181】
方法および結果
手術を、SCID 102、SCID 103、およびSCID 107として識別される3匹の子ウシの各々に対して行った。各子ウシ(約100kg)を、全身麻酔下に置き、心室補助装置(VAD)を設置するためにCPB回路に接続した。CPBを、心筋保護および大動脈遮断を使用して60〜90分間遂行した。SCIDは、各動物について下記に識別されたように、図4Bまたは図4Cのいずれかに描かれた場所に設置される。3匹の動物(SCID 102、SCID 103、およびSCID 107)の結果を、図22A〜22Fおよび23A〜23Bにまとめる。
【0182】
手術の詳細および結果
SCID 102について、回路は、図4Bにあるように設置され、回路内のSCIDとしてF40 カートリッジ (Fresenius Medical Care, ドイツ)を有した。図22A〜22Fに示されるように、白血球および血小板の数に減少が観察された。図22Eに示されるように、好酸球数は減少したが、これは急性肺損傷において重要であり得る。
【0183】
SCID 103について、回路は、図4Bにあるように設置され、回路内のSCIDとしてHPH 1000血液濃縮器(Minntech Therapeutic Technologies、ミネアポリス、ミネソタ州)を有した。SCID処置は75分続き、SCID処置の終了の15分後に、追加試料を取得した。図22A〜22Eに示されるように、白血球の時間依存的な減少が観察された。SCIDが75分の時点で接続を切られると、15分以内に好中球の劇的な回復があった。凝固は観察されなかった。
【0184】
SCID 107 について、回路は、図4Cにあるように設置され、回路内のSCIDおよび血液濾過装置/血液濃縮器の各々としてHPH 1000血液濃縮器(Minntech Therapeutic Technologies、ミネアポリス、ミネソタ州)が使用された。CPBは、SCIDが組み込まれる15分前に開始され、SCID処置は45分続いた。SCID処置の終了の15分後に、追加試料を取得した。図22A〜22Fに示されるように、SCIDを回路内に組み込む前に白血球および血小板の数が減少し、単球を除き、SCIDの導入によりさらに減少した。この手術において、圧力プロファイルを取得し、50mL/分のUF流が示された。
【0185】
図23Aおよび23Bに示されるように、全身性Caiが維持され、SCID回路Caiは目標範囲内にあった。これらの手術から一般に注目すべきこととして、限外濾過液(UF)はより低いSCID圧力では観察されなかった。
【0186】
結論
この実施例に記載された実験は、体外回路(例えば、CPB回路)内へのSCID装置の組み込みが、白血球および血小板を隔離し得る、および手術中の良好な臨床転帰の可能性を高め得ることを示唆する。
【0187】
実施例9.動物モデルにおける心肺バイパスにより誘導される急性肺損傷(ALI)および急性腎損傷(AKI)と関連する炎症の治療
実施例8に記載された実験の延長として、この実施例に記載される実験が、白血球を隔離するおよびそれらの炎症作用を阻害するための本発明の装置の、CPBにより誘導されるALIおよびAKIの治療における有効性を示すように計画される。
【0188】
特に、この実施例の目的は、CPBにより誘導されるALIまたはAKIを効果的に治療するSCIDプロトコールの最適化を伴う。この目標を達成するために、動物は、図4B、4C、4E、または4Fに記載されるCPB回路のいずれかを使用して処置され得る。各回路は、SCIDおよびクエン酸塩の供給口を含む。あるいは、図4Aまたは4Dに記載されるCPB回路が試験され得る。各回路は、クエン酸塩注入のないSCIDを含む。さらに、CPBの間に使用されるSCIDは、処置が行われている間、未使用のSCIDと交換され得る、ならびに/または1つもしくは複数のSCIDが、図4A〜4Fのいずれかの「SCID」の位置に、直列にまたは並列に設置され得る。
【0189】
CPBにより誘導されるALIのメカニズムおよび治療的介入を評価するために、様々なブタモデルが文献に報告されている。例えば、実証可能なALIは、追加的な傷害により追加的に誘導され得るということが先のブタモデルにおいて実証された。それらの傷害には以下のことが含まれる。(1)60〜120分のCPBの時間;(2)虚血/再灌流傷害を引き起こす大動脈遮断および心臓の低温心筋保護(cardiac cold cardioplegia);(3)血液成分(白血球、血小板、および補体)の活性化を促進する、開放式貯留槽を用いた心臓切開吸引;ならびに(4)おそらく心臓手術および軽度の虚血/再灌流傷害後の胃腸バリアの機能障害に起因する、CPB後の検出可能なエンドトキシン量が原因で患者において観察されるSIRS反応と類似のSIRS反応を促進するCPB後のエンドトキシン注入。
【0190】
CPB後3.5時間以内および連続的なリポ多糖(LPS;60分かけて1μg/kg)後2時間以内の肺機能および気管支肺胞洗浄(BAL)液中の分子マーカーの顕著な変化を伴うCPBにより誘導されるALIの確立されたブタプロトコールが報告された。この報告されたプロトコールは、大腿骨-大腿骨低体温バイパス(femoral-femoral hypothermic bypass)術と、それに続く、CPBが中止された30分後に始まる60分のLPS注入を使用する。肺のパラメータを、これらの連続的な傷害の後2時間まで測定し、著しい傷害パラメータが観察された。CPBを用いる臨床診療をより反映しながら、4時間で測定可能なALIを引き起こすように、他のプロトコールが、開発され得る。
【0191】
この実施例は、追加の傷害を促進するための心臓切開およびCPBの間の開放式静脈貯留槽への心臓吸引とともに、ベースラインプロトコールとして、60分のCPB、大動脈遮断、および心臓の低体温心筋保護を利用する臨床的に意義のあるALIおよびAKIのモデルを使用する。これが、測定可能なALIおよびAKIを引き起こすのに十分ではない場合、その後、CPBの完了30分後に始まる30〜60分の大腸菌LPS(0.5〜1.0μg/kg)注入を加える。このCPBブタモデルに対する一般的アプローチを、以下に詳述する。
【0192】
CPBプロトコール
1つの例示的プロトコールでは、ヨークシャーブタ (30〜35kg)に、IMアトロピン(0.04mg/kg)、アザペロン(4mg/kg)、およびケタミン(25mg/kg) を前投与し、その後、5μg/kgのフェンタニルおよび5mg/kgのチオペンタールを使用して麻酔する。8-mmの気管内チューブ (Mallinckrodt Company、メキシコシティ、メキシコ)を使用して挿管した後、ブタを仰臥位に置く。麻酔を、5mg/kg/時間のチオペンタールおよび20μg/kg/時間のフェンタニルの連続的な注入により維持する。筋弛緩を、0.2mg/kgのパンクロニウムで誘導し、その後、最適な手術条件および換気条件を達成するために、0.1mg/kgのパンクロニウムを断続的に再注入する。
【0193】
換気を、従量式人口呼吸器を使用して、全量10mL/kgおよび終末呼気陽圧のない吸入気酸素比1に設定する。ポリエチレン製の監視ラインを、外頸静脈ならびに大腿動脈および大腿静脈に設置する。食道および直腸の温度プローブを挿入する。胸骨正中切開を行う。16mmまたは20mmのTransonic社製の血管周囲流プローブ(perivascular flow probe)を主肺動脈に設置し、Millar社製のマイクロチップ式圧力トランスデューサーを肺動脈および左心房に設置する。CPBを開始する前に、心拍出量の決定のために、ベースラインの肺動脈圧、流速および左心房圧力を測定する。全身ヘパリン処置(300U/kg)の後、18Fのメドトロニック社製のDLP動脈カニューレを上行大動脈に設置し、24Fのメドトロニック社製のDLP1段式静脈カニューレを左心房に設置する。
【0194】
CPB回路を、1000mLの乳酸リンゲル液および25mEqのNaHCO3を使用して刺激する。回路は、Medtronic社製のBiomedicus遠心式血液ポンプ、一体式熱交換器を有するMedtronic社製のアフィニティ中空繊維酸素供給器、および心臓切開術用の貯留槽からなる。Medtronic社製のアフィニティ38-μmフィルターを、微粒子破片を捕獲するために動脈肢に設置する。左心室は、通気ラインがSarns社製のローラーポンプおよび心臓切開術用の貯留槽に接続された12-Ga Medtronic社製の標準的な大動脈根カニューレを使用して通気される。除去された血液を心臓切開術用の吸引カテーテルを使用して回収し、また、Sarns社製のローラーポンプおよび心臓切開術用の貯留槽に接続する。心肺バイパスを開始し、換気を中断し、全身灌流を2.4L/分/m2体表面積に維持する。中等度の灌流低体温(32℃の直腸温度)を使用し、流れの変更および静脈内のフェニレフリン注入(0〜2μg/kg/分)によって、大動脈圧平均値を60〜80mmHgに保つ。上行大動脈を遮断し、血液で4:1の比に希釈したミシガン大学標準心筋保護液からなる心筋保護液を、7℃で大動脈根カニューレに送達する。該溶液は、クエン酸塩/リン酸塩/デキストロース(CPD)、トロメタミン、および塩化カリウムからなる。総用量1Lの心筋保護液を送達し、500mLを20分ごとに繰り返した。全身復温を40分後に始め、体外循環を60分後に止める(遮断時間45分)。CPBからの離脱の前に、肺を、3回の呼吸に対して10秒間、30-cm H2O気道内圧まで膨らませ、同じ人工呼吸機設定を使用して機械による換気を再開する。CPBからの離脱の間、大動脈圧を正常範囲内に維持するために、エピネフリン(0〜1μg/kg/分)注入を用量設定する。体外循環の停止から30分以内に、酸素供給器内の血液を循環に戻し、ヘパリンをプロタミン(100Uのヘパリンに対して1mg)によって無効にし、正常温度の直腸温度を達成する。生理学的測定を、CPBの前、CPBの間、およびCPBの後4時間、記録する。
【0195】
体外回路
ALIおよびAKIを反映する実質的な変化を有するCPBのブタモデルを用いて、回復中の組織傷害におけるSCIDの影響を直接試験することができる。単一カートリッジSCIDを、(例えば、図4Fに示されるように)膜酸素供給器の後の並列回路内に設置する。膜酸素供給器は循環白血球を活性化し、その後、この循環白血球はSCID内で隔離されると考えられる。並列回路の末端でのCa2+再注入を用いて、血液のイオン化Caiを目標水準、例えば、約0.2〜約0.4mMに下げるため、クエン酸塩を局所SCID並列血液回路に加える。2群の動物を評価し、比較する。第1の群はSCIDおよびヘパリン抗凝固を受け、第2の群はSCIDおよびクエン酸塩抗凝固を受ける。各群6匹を有し、各群の3匹を処置した後、2群の分析を始める。局所的クエン酸塩抗凝固を標準治療溶液および臨床プロトコールを利用して達成する。クエン酸塩は、カルシウムと結合することによって抗凝固剤として作用する。その結果、結合したカルシウムは、凝固因子を誘発するのに利用できない。十分な凝固および心臓機能を可能にする全身のCai量を元の状態に戻すために、血液が動物に戻る直前に、カルシウムを血流に加える。
【0196】
クエン酸抗凝固のための連続的腎置換療法に使用される現在の標準的なプロトコールを使用する。ACD-A クエン酸塩 IV 溶液 (Baxter Healthcare)を、クエン酸塩注入ポンプおよびSCID前のSCID血液注入ポートへのラインへ接続する。全身のカルシウムを回復させるため、注入ポートを経たSCID後の戻された血液に、カルシウムを投与する。0.2〜0.4mmol/Lのカートリッジ前Cai量を達成するために、クエン酸塩注入液の速度(mL/時間)は、血液流速(mL/分)の1.5倍である。
【0197】
SCID血液流速を200mL/分になるようにし、200mL/分の流速で設定されたSCID前の血液回路に設置されたポンプを使用して制御する。0.9〜1.2mmol/Lのシステム内Cai量(動物血流値)を達成するために、塩化カルシウム(20mg/mL、0.9% N.S.)をSCID後の血液ラインに注入する。最初のCa2+注入速度は、クエン酸塩注入速度の10%である。全身Cai量を反映させるために、ポンプシステム前のCPB回路の動脈末端およびSCID並列回路の静脈末端においてCai量を評価する。全Caiを、i-STAT(登録商標)診断装置(Abbott Labs)を使用して測定する。
【0198】
急性肺損傷(ALI)の測定
肺機能
CPB後のALIは、肺胞-動脈血酸素供給勾配、肺内シャント率、肺コンプライアンス、および肺血管抵抗の上昇をもたらす。これらのパラメータを、CPB期間後4時間、30分ごとに測定する。
【0199】
肺組織分析
ポストポンプ症候群の中のALIは肺内の好中球蓄積および間質液の増加と関連する。好中球の凝集を、BALに使用されない部分から肺組織を取得することによって、研究プロトコールの最後に評価する。組織の試料を、組織好中球浸潤を反映するミエロぺルオキシダーゼ組織活性、半定量的好中球数の組織学的処理、および肺組織における水の重量(乾燥前後で重量に違いがあり、湿重量のパーセント[(湿重量−乾燥重量) / 湿重量]として表す)のために使用する。
【0200】
BAL液体分析
20mLの通常の生理食塩水の3回の連続注入および穏やかな吸引での肺の右中葉の挿管によって、BAL液を取得する。この液体を、タンパク質含有量(微小血管損傷を反映する)ならびにサイトカイン濃度(IL-1、IL-6、IL-8、IL-10、INF-γ、およびTNF-α)について調べる。上皮、好中球、およびマクロファージ/単球を含む、様々な細胞成分の合計およびパーセンテージを提供するために、BAL液内の細胞数を、細胞学染色法を用いたサイトスピンの後に決定する。肺胞マクロファージを単離し、一晩インキュベートし、LPSに対するそれらのサイトカイン反応を次の日に調べる。マトリックスメタロプロテイナーゼ-2および-9、エラスターゼ、ならびにミエロペルオキシダーゼの液量を、組織傷害を発症させるのに重要な、活性化好中球により分泌された産物を反映するものとして定評のあるアッセイ法で測定する。
【0201】
急性腎損傷(AKI)の測定
最近の臨床データは、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)が、CPB後のAKIの早期バイオマーカーであることをはっきり実証した。CPBの2時間後における尿中および血清中のNGAL量はAKIの非常に特異的な、高感度の予測マーカーであり、血清クレアチニンおよびBUNの上昇が続いて起こる。血清および尿を、全動物のベースライン時、CPB停止時、CPBの1時間後に回収する。NGAL量は、ブタについての高感度ELISAアッセイによって決定する。NGAL量における違いは、この動物モデルにおけるAKIの度合いを反映するはずである。
【0202】
血清生化学検査を、自動化学分析器を用いて測定する。サイトカイン量を、ブタのサイトカイン(IL-1、IL-6、IL-8、IL-10、INF-γ、およびTNF-α(R & D Systems))に反応する市販のELISAアッセイキットを用いて測定する。BAL液を、細胞数および細胞型の分布、血管漏出の尺度としてのタンパク質、ならびにIL-1、IL-6、IL-8、IL-10、INF-γ、およびTNF-αを含むサイトカイン量のために取得する。
【0203】
心血管データおよび生化学データを、反復測定分散分析(ANOVA)によって分析する。様々な部分の血漿レベル、および生存期間を、必要に応じて、対応のあるまたは対応のないステューデントT-検定を利用して比較する。
【0204】
SCIDを含むCPBシステム内においてクエン酸塩局所抗凝固を受ける動物は、NGALを使用して測定された場合、肺機能障害、肺の炎症、およびAKIをあまり示さないと考えられる。好中球減少症および白血球減少症による全身の白血球(WBC)数の程度は、3時間で底を打つが、両群において同じ規模であるとも考えられる。白血球性炎症指標の放出は、ヘパリン群と比べて、クエン酸塩群において阻害されるとも考えられる。
【0205】
参照による組み込み
本明細書に言及される出版物および特許文献の各々の開示全体は、各々の個々の出版物または特許文献がそのように個々に示されるのと同程度に、全ての目的のためにその全体が参照により本明細書の中で援用される。
【0206】
同等物
本発明は、その精神または本質的特徴から逸脱することなしに、他の特定の形態で実施されてもよい。それゆえに、前述の実施形態は、あらゆる点で、本明細書に記載の本発明に対する限定ではなく、例証であるとみなされるべきである。従って、本発明の範囲は、前述の記載ではなく、添付の特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と同等の意味および範囲内で生じる全ての変更は、その中に包含されることが意図される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白血球を処置するシステムであって、
通路が、試料由来の白血球を隔離するために構成された領域を含む、生体試料を流すための通路を画定する装置と、
前記白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害することができるかまたは前記白血球を失活させることができる薬剤とを含む、システム。
【請求項2】
前記通路を画定する前記装置と直列である第2の装置を更に含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記薬剤が前記通路の表面と結合する、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記薬剤が前記通路に注入される、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記薬剤がカルシウムキレート剤を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記カルシウムキレート剤がクエン酸塩を含む、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記薬剤が免疫抑制剤、セリン白血球阻害剤、一酸化窒素、多形核白血球阻害因子、分泌性白血球阻害剤、およびカルシウムキレート剤を含み、前記カルシウムキレート剤が、クエン酸塩、ヘキサメタリン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、o-フェナントロリン、およびシュウ酸から成る群の1つまたは複数である、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記白血球を隔離するように構成された前記領域が膜を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記膜が多孔質である、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記膜が、約0.2m2を超える表面域を有する、請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
前記白血球を隔離するように構成された前記領域が、前記領域内のせん断力が約1000ダイン/cm2未満であるように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記白血球を隔離するように構成された前記領域が細胞接着分子を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
体液内に含まれる白血球を処理する方法であって、
(a)プライミングまたは活性化された白血球を体外で隔離するステップと、
(b)炎症誘発性物質の放出を阻害するために、または前記白血球を失活させるために、前記白血球を処置するステップとを含む、方法。
【請求項14】
前記白血球が、前記炎症誘発性物質の放出を阻害するかまたは前記白血球を失活させるのに十分な時間、隔離される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記白血球が長期間にわたって隔離される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記白血球が少なくとも1時間隔離される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ステップ(b)で生成された前記白血球を対象へ戻すステップをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
ステップ(b)において、カルシウムキレート剤が炎症誘発性物質の放出を阻害するかまたは前記白血球を失活させる、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
炎症性症状を発症するリスクがあるかまたは炎症性症状を有する対象を治療する方法であって、
(a)前記対象由来のプライミングまたは活性化された白血球を体外で隔離するステップと、
(b)前記炎症性症状と関連する炎症を発症するリスクを軽減するために、または前記炎症性症状と関連する炎症を緩和するために、前記白血球を処置するステップとを含む、方法。
【請求項20】
前記炎症性症状が、全身性炎症反応症候群(SIRS)、心肺バイパス症候群(cardiopulmonary bypass syndrome)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、敗血症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、同種移植片拒絶、喘息、慢性腎不全、心腎症候群(cardiorenal syndrome)、肝腎症候群、および心筋、中枢神経系、肝臓、腎臓、または膵臓への虚血再灌流傷害による急性臓器不全から成る群より選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ステップ(a)が、前記白血球を隔離するように構成された領域を含む通路を画定する装置を使用して実行される、請求項13または請求項19に記載の方法。
【請求項22】
血小板を処置するシステムであって、
通路が、試料由来の血小板を隔離するように構成された領域を含む、生体試料を流すための通路を画定する装置と、
前記血小板からの炎症誘発性物質の放出を阻害することができるかまたは前記血小板を失活させることができる薬剤とを含む、システム。
【請求項23】
前記通路を画定する前記装置と直列である第2の装置を更に含む、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記薬剤が前記通路に注入される、請求項22に記載のシステム。
【請求項25】
前記薬剤がカルシウムキレート剤を含む、請求項22に記載のシステム。
【請求項26】
前記カルシウムキレート剤がクエン酸塩を含む、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記血小板を隔離するように構成された前記領域が膜を含む、請求項22に記載のシステム。
【請求項28】
前記膜が多孔質である、請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
前記膜が、約0.2m2を超える表面域を有する、請求項27に記載のシステム。
【請求項30】
前記血小板を隔離するように構成された前記領域が、前記領域内のせん断力が約1000ダイン/cm2未満であるように構成される、請求項22に記載のシステム。
【請求項31】
体液内に含まれる血小板を処理する方法であって、
(a)活性化された血小板を体外で隔離するステップと、
(b)炎症誘発性物質の放出を阻害するために、または前記血小板を失活させるために、前記血小板を処置するステップとを含む、方法。
【請求項32】
前記血小板が、前記炎症誘発性物質の放出を阻害するかまたは前記血小板を失活させるのに十分な時間、隔離される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記血小板が長期間にわたって隔離される、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記血小板が少なくとも1時間隔離される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
ステップ(b)で生成された前記血小板を対象へ戻すステップをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
ステップ(b)において、カルシウムキレート剤が炎症誘発性物質の放出を阻害するかまたは前記血小板を失活させる、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
炎症性症状を発症するリスクがあるかまたは炎症性症状を有する対象を治療する方法であって、
(a)前記対象由来の活性化された血小板を体外で隔離するステップと、
(b)前記炎症性症状と関連する炎症を発症するリスクを軽減するために、または前記炎症性症状と関連する炎症を緩和するために、前記血小板を処置するステップとを含む、方法。
【請求項38】
前記炎症性症状が、全身性炎症反応症候群(SIRS)、心肺バイパス症候群、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、敗血症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、同種移植片拒絶、喘息、慢性腎不全、心腎症候群、肝腎症候群、および心筋、中枢神経系、肝臓、腎臓、または膵臓への虚血再灌流傷害による急性臓器不全から成る群より選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
ステップ(a)が、前記血小板を隔離するように構成された領域を含む通路を画定する装置を使用して実行される、請求項31または請求項37に記載の方法。
【請求項40】
炎症性症状を発症するリスクがあるかまたは炎症性症状を有する対象を治療する方法であって、
(a)前記対象由来の、炎症と関連するプライミングまたは活性化された細胞を体外で選択的に隔離するステップと、
(b)前記炎症性症状と関連する炎症を発症するリスクを軽減するために、または前記炎症性症状と関連する炎症を緩和するために、前記細胞を処置するステップとを含む、方法。
【請求項41】
炎症と関連する前記活性化された細胞が、血小板および白血球から成る群より選択される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
炎症と関連する前記プライミングされた細胞が白血球である、請求項40に記載の方法。
【請求項1】
白血球を処置するシステムであって、
通路が、試料由来の白血球を隔離するために構成された領域を含む、生体試料を流すための通路を画定する装置と、
前記白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害することができるかまたは前記白血球を失活させることができる薬剤とを含む、システム。
【請求項2】
前記通路を画定する前記装置と直列である第2の装置を更に含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記薬剤が前記通路の表面と結合する、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記薬剤が前記通路に注入される、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記薬剤がカルシウムキレート剤を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記カルシウムキレート剤がクエン酸塩を含む、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記薬剤が免疫抑制剤、セリン白血球阻害剤、一酸化窒素、多形核白血球阻害因子、分泌性白血球阻害剤、およびカルシウムキレート剤を含み、前記カルシウムキレート剤が、クエン酸塩、ヘキサメタリン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、o-フェナントロリン、およびシュウ酸から成る群の1つまたは複数である、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記白血球を隔離するように構成された前記領域が膜を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記膜が多孔質である、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記膜が、約0.2m2を超える表面域を有する、請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
前記白血球を隔離するように構成された前記領域が、前記領域内のせん断力が約1000ダイン/cm2未満であるように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記白血球を隔離するように構成された前記領域が細胞接着分子を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
体液内に含まれる白血球を処理する方法であって、
(a)プライミングまたは活性化された白血球を体外で隔離するステップと、
(b)炎症誘発性物質の放出を阻害するために、または前記白血球を失活させるために、前記白血球を処置するステップとを含む、方法。
【請求項14】
前記白血球が、前記炎症誘発性物質の放出を阻害するかまたは前記白血球を失活させるのに十分な時間、隔離される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記白血球が長期間にわたって隔離される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記白血球が少なくとも1時間隔離される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ステップ(b)で生成された前記白血球を対象へ戻すステップをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
ステップ(b)において、カルシウムキレート剤が炎症誘発性物質の放出を阻害するかまたは前記白血球を失活させる、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
炎症性症状を発症するリスクがあるかまたは炎症性症状を有する対象を治療する方法であって、
(a)前記対象由来のプライミングまたは活性化された白血球を体外で隔離するステップと、
(b)前記炎症性症状と関連する炎症を発症するリスクを軽減するために、または前記炎症性症状と関連する炎症を緩和するために、前記白血球を処置するステップとを含む、方法。
【請求項20】
前記炎症性症状が、全身性炎症反応症候群(SIRS)、心肺バイパス症候群(cardiopulmonary bypass syndrome)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、敗血症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、同種移植片拒絶、喘息、慢性腎不全、心腎症候群(cardiorenal syndrome)、肝腎症候群、および心筋、中枢神経系、肝臓、腎臓、または膵臓への虚血再灌流傷害による急性臓器不全から成る群より選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ステップ(a)が、前記白血球を隔離するように構成された領域を含む通路を画定する装置を使用して実行される、請求項13または請求項19に記載の方法。
【請求項22】
血小板を処置するシステムであって、
通路が、試料由来の血小板を隔離するように構成された領域を含む、生体試料を流すための通路を画定する装置と、
前記血小板からの炎症誘発性物質の放出を阻害することができるかまたは前記血小板を失活させることができる薬剤とを含む、システム。
【請求項23】
前記通路を画定する前記装置と直列である第2の装置を更に含む、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記薬剤が前記通路に注入される、請求項22に記載のシステム。
【請求項25】
前記薬剤がカルシウムキレート剤を含む、請求項22に記載のシステム。
【請求項26】
前記カルシウムキレート剤がクエン酸塩を含む、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記血小板を隔離するように構成された前記領域が膜を含む、請求項22に記載のシステム。
【請求項28】
前記膜が多孔質である、請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
前記膜が、約0.2m2を超える表面域を有する、請求項27に記載のシステム。
【請求項30】
前記血小板を隔離するように構成された前記領域が、前記領域内のせん断力が約1000ダイン/cm2未満であるように構成される、請求項22に記載のシステム。
【請求項31】
体液内に含まれる血小板を処理する方法であって、
(a)活性化された血小板を体外で隔離するステップと、
(b)炎症誘発性物質の放出を阻害するために、または前記血小板を失活させるために、前記血小板を処置するステップとを含む、方法。
【請求項32】
前記血小板が、前記炎症誘発性物質の放出を阻害するかまたは前記血小板を失活させるのに十分な時間、隔離される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記血小板が長期間にわたって隔離される、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記血小板が少なくとも1時間隔離される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
ステップ(b)で生成された前記血小板を対象へ戻すステップをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
ステップ(b)において、カルシウムキレート剤が炎症誘発性物質の放出を阻害するかまたは前記血小板を失活させる、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
炎症性症状を発症するリスクがあるかまたは炎症性症状を有する対象を治療する方法であって、
(a)前記対象由来の活性化された血小板を体外で隔離するステップと、
(b)前記炎症性症状と関連する炎症を発症するリスクを軽減するために、または前記炎症性症状と関連する炎症を緩和するために、前記血小板を処置するステップとを含む、方法。
【請求項38】
前記炎症性症状が、全身性炎症反応症候群(SIRS)、心肺バイパス症候群、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、敗血症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、同種移植片拒絶、喘息、慢性腎不全、心腎症候群、肝腎症候群、および心筋、中枢神経系、肝臓、腎臓、または膵臓への虚血再灌流傷害による急性臓器不全から成る群より選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
ステップ(a)が、前記血小板を隔離するように構成された領域を含む通路を画定する装置を使用して実行される、請求項31または請求項37に記載の方法。
【請求項40】
炎症性症状を発症するリスクがあるかまたは炎症性症状を有する対象を治療する方法であって、
(a)前記対象由来の、炎症と関連するプライミングまたは活性化された細胞を体外で選択的に隔離するステップと、
(b)前記炎症性症状と関連する炎症を発症するリスクを軽減するために、または前記炎症性症状と関連する炎症を緩和するために、前記細胞を処置するステップとを含む、方法。
【請求項41】
炎症と関連する前記活性化された細胞が、血小板および白血球から成る群より選択される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
炎症と関連する前記プライミングされた細胞が白血球である、請求項40に記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22A】
【図22B】
【図22C】
【図22D】
【図22E】
【図22F】
【図23A】
【図23B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22A】
【図22B】
【図22C】
【図22D】
【図22E】
【図22F】
【図23A】
【図23B】
【公表番号】特表2010−538973(P2010−538973A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523158(P2010−523158)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【国際出願番号】PCT/US2008/074804
【国際公開番号】WO2009/029801
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(510041142)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン (20)
【出願人】(310016153)イノベイティブ バイオセラピーズ インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【国際出願番号】PCT/US2008/074804
【国際公開番号】WO2009/029801
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(510041142)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン (20)
【出願人】(310016153)イノベイティブ バイオセラピーズ インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】
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