遺伝子操作されたIssatchenkiaorientalis種又はその近隣種の酵母及びこの酵母を用いた発酵方法
Issatchenkia orientalis種とその近隣の酵母種を形質転換して、外来性の乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を導入した。この細胞は、乳酸を効率よく産生し、低pHや高ラクタート力価の条件に耐性を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、米国エネルギー省と契約番号DDE-FC07-021D14349の契約の下で完成された。従って、米国政府はこの発明に特定の権利を有する。
この出願は2005年6月2日出願の米国仮出願60/686,899に基づく優先権を主張する。
この発明は、ある遺伝子操作された酵母細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸のようなある種の有機酸は工業的発酵プロセスにより製造される。この発酵は種々のタイプのバクテリア種を用いて行われ、糖(主にグルコース)を消費して、これらの糖を所望の酸に変換する。
糖基質から有機酸を製造するために、酵母や真菌の生体触媒を開発することが望まれる理由としていくつかの理由が挙げられる。多くのバクテリアは、成長し効果的に糖を代謝するために必要なアミノ酸やタンパク質のいくつかを合成することが出来ない。その結果、バクテリアにしばしば栄養分のいくらか複雑なパッケージを与える必要がある。このことは、発酵をおこなうための必要経費を増大させる。この増大した培地の複雑性は、発酵産物を合理的な収率で回収することをより困難にして、このように増大した操作コスト及び資本コストは、製品回収に転化される。一方、多くの酵母種は、必要とするアミノ酸やタンパク質を無機窒素化合物から合成することができる。この酵母は、しばしば、いわゆる"特定の"培地中でよく成長し発酵させる、これは単純化され、しばしば低価格であり、製品回収操作に困難が少ない。
【0003】
有機酸製造のための生体触媒として酵母が興味を引くこの他の理由は、製品自体の性質によるものである。経済的に採算の取れるプロセスとするためには、有機酸を発酵液体培地の中に高濃度で集めなければならない。通常の毒性(発酵産物は高濃度の場合生体触媒に有毒かもしれない)への関心に加えて、発酵産物が酸の場合には酸度に関する追加的関心が必要になる。この培地は、有機酸が製造されるに従って益々酸性になる。これらの有機酸を産生するほとんどのバクテリアは、強酸性の環境ではよく機能しない。このバクテリアは、このような環境下では生き延びることはできず、またその産物をゆっくり産生するため経済的に採算が取れない。
この理由のため、商業的な酸発酵プロセスは、形成される酸を中和する試薬を添加することにより緩衝している。このことは、液体培地を中性のpH又はその近傍に維持し、バクテリアを効果的に成長させ、製造させる。しかし、このことは、酸を塩に変換するので、所望の酸の形態の産物を得るためには、分解する必要がある。
【0004】
最も一般的な緩衝剤は、カルシウム化合物であり、これは有機酸を中和して対応するカルシウム塩を形成する。発酵液体培地からこのカルシウム塩を回収した後、典型的には硫酸などの鉱酸を加えてカルシウム塩を分解し、有機酸を再生させ、その鉱酸の不溶性カルシウム塩を形成させる。したがって、このプロセスは、望まれないカルシウム塩の副産物を取扱い及び廃棄するための費用と、緩衝剤の直接経費を含む。生体触媒が低pHで効果的に成長し製造することができるならば、これらのコストを減少させ又は削減することができる。
酵母種は、このような低pH発酵用の候補として考えられてきた。多くの酵母は、自然に、ヘキソース糖を発酵させエタノールを産生するが、乳酸のような望まれる有機酸を自然に産生する酵母は少ない。乳酸を産生させることを可能にするように1又はそれ以上の遺伝子を導入して種々の酵母種を遺伝子操作する努力がなされてきた。エタノールを産生する糖代謝を乳酸を産生する糖代謝に変えるために、これらの細胞を遺伝子操作して固有のピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC)遺伝子を削除又は破壊する試みがなされてきた。この仕事は、たとえば、国際公開WO 99/14335、WO 00/71738 A1、WO 02/42471 A2、WO 03/102152 A2及びWO 03/102201 A2に開示されている。これらの公報に記載された努力の多くは、K. marxianusのようなKluyveromyces種や、C. sonorensisやC. methanosorbosaのようなCandida属に分類される種に集中している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機酸発酵プロセスのためのより良い生体触媒を提供してほしいという要望が未だにある。これらの発酵プロセス用の生体触媒は、高容積で特定の生産性のあること、発酵基質から所望の有機酸を高収率で得ること、酸性条件下で合理的効率で成長し生産する能力があること、微好気性、特に嫌気性条件下で成長し生産する能力があること、を達成することができることの望ましい。この生体触媒は単純化された特定の培地を用いてこれらの結果を達成することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ある態様において、本発明は、そのゲノムに組み込まれた少なくとも一つの外来性の乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を有する、I. orientalis/P. fermentans分岐群に属する種の遺伝子操作された酵母細胞である。
また、この発明は、上記第1の態様の遺伝子操作された酵母細胞を、発酵条件下で、発酵性糖を含む発酵液体培地で培養し、乳酸又はその塩を製造することから成る発酵方法である。
また、この発明は、更に、上記第1の態様の遺伝子操作された酵母細胞を、発酵条件下で、発酵性糖を含む発酵液体培地で培養し、乳酸又はその塩を製造することから成る発酵方法であって、前記発酵液体培地のpHが、発酵期間の少なくとも一部の期間で、約1.5〜約4.5の範囲であるこの発酵方法である。
驚くべきことに、本発明の遺伝子操作された酵母細胞は、適度に低いpHで高乳酸濃度の条件に対して優れた耐性を示し、嫌気性又は擬嫌気性条件下においてさえも、緩衝された培地で良好な速度で乳酸を産生することができる。更に、この遺伝子操作された酵母細胞は合成培地でよく成長する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の遺伝子操作された酵母細胞は、宿主酵母細胞にある遺伝子操作を施すことにより作られる。この宿主細胞は、I. orientalis/P. fermentans分岐群に属する種のものである。この分岐群は、最も末端の分岐群であって、Issatchenkia orientalis、Pichia galeiformis、Pichia sp. YB-4149 (NRRL指定番号)、Candida ethanolica、P. deserticola、P. membranifaciens及びP. fermentansの少なくとも一つの種を含む。I. orientalis/P. fermentans分岐群のメンバーは、KurtzmanとRobnettによる"Identification and Phylogeny of Ascomycetous Yeasts from Analysis of Nuclear Large Subunit (26S) Ribosomal DNA Partial Sequences"(Antonie van Leeuwenhoek 73:331-371, 1998)に記載された手法を用いて、酵母種の26SリボソームDNAの可変D1/D2ドメインの分析により特定される。詳しい手法についてはこの文献、特にその349ページを参照されたい。数百の子嚢菌綱(Ascomycetes)からの26SリボソームDNAの可変D1/D2ドメインを分析することによって、I. orientalis/P. fermentans分岐群が非常に近く関連する種を含むことが分った。I. orientalis/P. fermentans分岐群に属するメンバーの26SリボソームDNAの可変D1/D2ドメインは、この分岐群に属す他のメンバーのものに対して、この分岐群に属さない酵母種のものよりも、非常に高い類似性を示す。そのため、I. orientalis/P. fermentans分岐群の他のメンバーは、KurtzmanとRobnettの手法を用いて、それぞれの26SリボソームDNAの可変D1/D2ドメインを比較し、かつこの分岐群の他のメンバーやこの分岐群に属さず近く関連する種のものを比較することにより、特定することができる。
最初に特性を決定されたI. orientalis種はPichia kudriavzeviiと命名された。I. orientalisのアナモルフ(anamorph、無性)はCandida kruseiとして知られている。
特に適した宿主細胞は、I. orientalisの菌株ATCC 32196である。この他の適した宿主細胞は、I. orientalisの菌株ATCC PTA-6658である。
【0008】
本発明の細胞は、そのゲノムに組み込まれた少なくとも一つの機能的で外来性の乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)遺伝子を有する。LDH遺伝子は、例えば、乳酸デヒドロゲナーゼ活性を持つものなど、乳酸デヒドロゲナーゼ酵素をコードする如何なる遺伝子であってもよい。"乳酸デヒドロゲナーゼ活性"とは、ピルベート(pyruvate)からラクタート(lactate)への反応を触媒するタンパク質の活性をいう。乳酸デヒドロゲナーゼ酵素には、酵素委員会番号(Enzyme Commission number)1.1.1.27と1.1.1.28に分類されるものが含まれる(しかしこれらに限定されない)。
こういうわけで、"外来性の"とは、対象の(この場合、LDH遺伝子の)遺伝子材料が宿主菌株に固有でないことを意味する。ここで用語"固有の"は、宿主細胞の野生型細胞のゲノム内に見出される(機能に影響しないような個々の間の変異は別として)遺伝子材料(例えば、ある遺伝子、プロモーター、ターミネーターなど)に関して用いられる。
このLDH遺伝子は、遺伝子操作された酵母細胞をL−又はD−乳酸立体異性体のいずれかを産生せしめることを可能にしてもよい。本発明の遺伝子操作された酵母細胞が、L−及びD−LDH遺伝子の両方を含み、そのためにL−及びD−乳酸立体異性体の両方を産生することも可能である。しかし、L−又はD−LDH遺伝子のいずれかのみが存在して、その細胞がより光学的に純粋な乳酸製品を産生することが好ましい。
【0009】
適したLDH遺伝子として、バクテリア、真菌、酵母又は哺乳類動物から得られたものが含まれる。特定のL−LDH遺伝子の例として、Lactobacillus helveticus、L. casei、Bacillus megaterium、Pediococcus acidilactici、Rhizopus oryzae及びBos taurusのようなウシ起源から得られたものが挙げられる。特定のD−LDH遺伝子の例として、L. helveticus、L. johnsonii、L. bulgaricus、L. delbrueckii、L. plantarum、L. pentosus及びP. acidilacticiから得られたものが挙げられる。このようなL−LDH又はD−LDH遺伝子と同一の機能性遺伝子や、これら遺伝子に少なくとも35%、60%、70%又は80%の相同性を持つ機能性遺伝子が適している。これらの起源のいずれから得られた固有の遺伝子は、必要に応じて、通常の真核細胞の開始コドン(ATG)で始まる配列を提供するため、又はその他の目的のために、突然変異誘発に付されてもよい。好ましいL−LDH遺伝子は、L. helveticusから得られたもの、又はこの遺伝子に少なくとも35%、60%、70%、80%、85%、90%又は95%の相同性を持つものである。この他の好ましいL−LDH遺伝子は、B. megateriumから得られたもの、又はこの遺伝子に少なくとも35%、60%、70%、80%、85%、90%又は95%の相同性を持つものである。この他の好ましいL−LDH遺伝子は、Bos taurusから得られたもの、又はこの遺伝子に少なくとも35%、60%、70%、80%、85%、90%又は95%の相同性を持つものである。好ましいD−LDH遺伝子は、L. helveticusから得られたもの、又はこの遺伝子に少なくとも45%、60%、70%、80%、85%、90%又は95%の相同性を持つものである。
本発明の目的のためのDNA、RNA又はタンパク質の配列の相同性は、デフォルトパラメーターを用いてBLAST(version 2.2.1)を用いて計算したものである。
【0010】
特に適したLDH遺伝子は、酵素をコードし、配列番号93(国際公開WO 03/049525の配列番号45)又は配列番号94(国際公開WO 03/049525の配列番号49)の塩基配列に少なくとも60%、特に80%、85%又は95%の相同性を持つものを含む。また、特に適したLDH遺伝子は、配列番号95又は配列番号96(国際公開WO 03/049525のそれぞれ配列番号46及び50)のアミノ酸配列に少なくとも60%、80%、85%又は95%の相同性を持つアミノ酸配列を持つ酵素ををコードするものを含む。
形質転換された細胞は、単一のLDH遺伝子又は複数のLDH遺伝子、例えば、1〜10のLDH遺伝子、特に1〜5のLDH遺伝子を含んでもよい。形質転換された細胞が複数のLDH遺伝子を含む場合、各遺伝子は同じ遺伝子のコピーでもよく、又は2若しくはそれ以上の異なる遺伝子のコピーを含んでもよい。外来性のLDH遺伝子の複数コピーは宿主細胞のゲノムの単一の位置(この場合、これらは互いに隣り合う)又はいくつかの位置に組み込まれてもよい。
【0011】
外来性LDH遺伝子は、この遺伝子操作された酵母細胞において機能する一つ又はそれ以上のプロモーターと一つ又はそれ以上のターミネーターの転写制御下にある。ここで用語"プロモーター"とは、構造遺伝子(通常約1〜1000bp、好ましくは1〜500bp、特に1〜100bp)の翻訳開始コドンの上流(即ち、5’)に位置し、その構造遺伝子の転写の開始を制御する非翻訳配列をいう。同様に、用語"ターミネーター"とは、構造遺伝子(通常約1〜1000bp、より典型的には1〜500bp、特に1〜100bp)の翻訳終結コドンの下流(即ち、3’)に位置し、その構造遺伝子の転写の終結を制御する非翻訳配列をいう。プロモーター又はターミネーターは、構造遺伝子の位置に対するその位置が、そのプロモーター又はターミネーターがその転写制御を行うような位置にあれば、構造遺伝子に"機能するように連結される"という。
プロモーターとターミネーターの配列は、I. orientalisに固有であってもよく、またその宿主に外来性であってもよい。有用なプロモーターとターミネーターの配列には、特にその外来性遺伝子の導入がその細胞のゲノムの特定位置を目標にしている場合、その宿主に固有のプロモーターとターミネーターの配列のそれぞれの機能部分に対して相同性の高い(即ち、90%以上、特に95%以上、最も好ましくは99%以上の)配列が含まれる。
【0012】
適したタイプのプロモーターは、酵母遺伝子に固有のプロモーターに少なくとも90%、95%又は99%の相同性を持つ。より適したタイプのプロモーターは、宿主細胞に固有の遺伝子のためのプロモーターに少なくとも90%、95%又は99%の相同性を持つ。特に有用なプロモーターには、酵母ピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC)、グリセリン酸燐酸キナーゼ(PGK)及び転写伸長因子−1(TEF−1)遺伝子、特にI. orientalis遺伝子由来のこれらそれぞれ遺伝子のためのプロモーターが含まれる。特別に有用なプロモーターには、I. orientalis PGK遺伝子のためのプロモーターの機能部分が含まれる。
適したタイプのターミネーターは、酵母遺伝子に固有のターミネーターに少なくとも90%、95%又は99%の相同性を持つ。このターミネーターは、宿主細胞に固有の遺伝子のためのターミネーターに少なくとも90%、95%又は99%の相同性を持ってもよい。特に有用なターミネーターには、酵母ピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC)、キシロースレダクターゼ(XR)、キシリトールデヒドロゲナーゼ(XDH)、イソ−2−シトクロムc(CYC)遺伝子又は酵母遺伝子のガラクトースファミリーのターミネーター、特にいわゆるGal 10ターミネーターが含まれる。特別に好ましいターミネーターには、その宿主細胞のPDC遺伝子のためのターミネーターの機能部分が含まれる。
(宿主細胞に)固有のプロモーターとターミネーターを、それぞれ上流と下流のフランキング領域と共に、使用することにより、宿主細胞のゲノムの特定位置へLDH遺伝子を組み込むことを目標とすることができる。LDH遺伝子を組み込むと同時に、例えば、PDC遺伝子のような他の固有の遺伝子が削除される。
異なる外来性LDH遺伝子は、異なるタイプのプロモーター及び/又はターミネーターの制御下にあってもよい。
【0013】
外来性LDH遺伝子は、宿主細胞のゲノムにランダムに組み込まれてもよいし、目標とする一つ又はそれ以上の位置に挿入されてもよい。目標の位置には、削除又は破壊されることが望ましい遺伝子、例えばPDC遺伝子の位置が含まれる。このPDC位置への組み込みは、固有PDC遺伝子の削除又は破壊を伴っても、伴わなくてもよいが、通常このPDC遺伝子を削除又は破壊することが好ましく、そのため、遺伝子操作された酵母細胞はエタノールの産生が少ない。
宿主細胞は、複数のPDC遺伝子を含むかもしれない。例えば、固有I. orientalis細胞は2つのPDC遺伝子を含み、ここではこれらはIoPDC1AとIoPDC1Bと呼ばれる。ATCC PTA-6658を含むいくつかの菌株では、野生タイプのサザン分析で、これらはそれぞれ約8kbpと約10kbpのHindIIIバンドとして現れる。ATCC 32196のような他のI. orientalis菌株では、同様のサイズのバンドを示す対立遺伝子として現れる。宿主細胞が複数のPDC遺伝子を含む場合、細胞がエタノールを産生する能力を破壊するために、それらのうち少なくとも一つを削除又は破壊することが好ましく、それら全部を削除又は破壊することがより好ましい。そのため、I. orientalisにおいて、IoPDC1A又はIoPDC1Bを削除又は破壊することが好ましく、IoPDC1A及びIoPDC1Bを削除又は破壊することがより好ましい。
"削除又は破壊"とは、その遺伝子の全コード領域が削除されるか、又は遺伝子又はそのプロモーター及び/又はターミネーター領域が改変され(例えば、削除、挿入、変異により)、その遺伝子がもはや活性な酵素を産生できないこと、又は非常に減退した活性しか持たない酵素しか産生しないことを意味する。この削除又は破壊は遺伝子工学の手法、強制進化、突然変異及び/又は選択若しくはスクリーニングによって行うことができる。これを行う好ましい手段は、下記に詳細に記載するように、LDH遺伝子を含むカセットでPDC遺伝子を置換することである。
【0014】
宿主細胞の遺伝子操作は、適当なベクターをデザインして構築し、宿主細胞をこれらのベクターで形質転換することによる一つ又はそれ以上の段階を経て行われる。エレクトロポレーション及び/又は化学的(塩化カルシウム又はリチウムアセテートなど)な形質転換法を用いることができる。外来性LDH遺伝子を挿入して酵母菌株を形質転換するための方法は、国際公開WO 99/14335、WO 00/71738、WO 02/42471、WO 03/102201、WO 03/102152及びWO 03/049525に記載されており、これらの方法は、一般的に、本発明に従ってI. orientalisを形質転換するために適用可能である。ベクターは制限酵素で切断してもよいし、環状DNAとして用いてもよい。
一般的に、ベクターはLDH遺伝子並びに関連付けられたプロモーター及びターミネーター配列を含んで用意される。このベクターは直線化又は断片化のための様々なタイプの制限サイトを含んでもよい。更に、ベクターはバックボーン部分(E. coliの増殖のためなど)を含んでもよく、その多くは、商標的に入手可能な酵母やバクテリアベクターから得ることができる。
【0015】
ベクターは一つ又はそれ以上の選択マーカー遺伝子カセットを含むことが好ましい。"選択マーカー遺伝子"は、選択培養培地でこの形質転換した細胞が生存及び/又は成長するために必要なタンパク質をコードする。典型的な選択マーカー遺伝子は、(a)ゼオシン(zeocin、Streptoalloteichus hindustanus由来の遺伝子)、G418(Tn903のカナマイシン耐性遺伝子)、ハイグロマイシン(E. coliのアミノ配糖体系抗生物質耐性遺伝子)、アンピシリン、テトラサイクリン又はカナマイシンのような抗生物質やその他の毒に対する耐性を付与し、(b)その細胞の栄養要求性欠乏を補完する。栄養要求性欠乏の顕著な例として、アミノ酸ロイシン欠乏(例えば、LEU2遺伝子)又はウラシル欠乏(例えば、URA3遺伝子)がある。オロチジン−5’−ホスフェートデカルボキシラーゼ陰性(ura3-)の細胞は、ウラシルを欠く培地では成長できない。このように、URA3遺伝子は、ウラシル欠乏性の細胞のマーカーとして用いることができ、ウラシルを欠く培地上で形質転換体を成功裏に選択できる。機能的URA3遺伝子で形質転換された細胞のみが、個温容な培地でウラシルを合成できる。もし、野生型菌株がウラシル欠乏性ではない場合(例えば、I. orientalisの場合)、その菌株を選択するためのマーカーとしてURA3遺伝子を使うためには、その欠乏性を持つ栄養要求性の変異体を作らねばならない。
【0016】
好ましい選択マーカーは、ゼオシン耐性遺伝子、G418耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子及びMEL5(メリビアーゼ遺伝子)である。選択マーカーカセットは更にこの選択マーカー遺伝子が機能するように連結するプロモーター及びターミネーター配列を含み、I. orientalisで機能する。適当なプロモーターは、上記LDH遺伝子に関して記載したものを含み、このほかに、国際公開WO 99/14335、WO 00/71738、WO 02/42471、WO 03/102201、WO 03/102152及びWO 03/049525に記載されたものも含む。特別に好ましいプロモーターはその宿主細胞のPGK又はPDCプロモーター(又はその機能部分)またはPGK又はPDCプロモーターに対して少なくとも80%、85%、90%又は95%の相同性を持つ配列である。適当なターミネーターは、上記LDH遺伝子に関して記載したものを含む。これらのプロモーター若しくはターミネーター(又は両方)は、LDH遺伝子に用いられるものと同じであってもよい。
目標の組み込みは、目標遺伝子の上流(5’−)隣又は下流(3’−)隣に相同性の高い(80%以上、好ましくは95%以上、最も好ましくは100%の相同性の)領域を構築することにより行われる。これらの領域の一方又は両方は、それぞれプロモーター又はターミネーター領域の一部又は全部と共に、目標のコード領域の一部を含んでもよい。LDHカセット(プロモーターとターミネーターが標遺伝子のものと異なる場合には、関連するプロモーターとターミネーターを含む)と選択マーカー(関連するプロモーターとターミネーターが必要であってもよい)は、ベクターの、目標遺伝子の上流隣又は下流隣に相同性の高い(2つの)領域の間に位置する。既に述べたように、好ましい目標遺伝子はIoPDC1A若しくはIoPDC1B(又は両方)であって、これら遺伝子の一方又は両方が削除又は破壊されることが好ましい。しかし、他の固有遺伝子を、LDH遺伝子カセットを挿入する目標としてもよい。
【0017】
成功した形質転換体は、このマーカー遺伝子又はその他の特徴(乳酸を生産できること、エタノールを生産できないこと、または特定の基質上で成長できることなど)を有利に利用して、公知の方法で選択できる。スクリーニングは、PCR又はサザン分析法を利用して、所望の挿入又は削除が生じたことを確認することや、コピー数を確認することや、宿主ゲノムの遺伝子の組み込み地点を特定することにより、行うことができる。挿入された遺伝子がコードする酵素の活性を得たこと、及び/又は削除された遺伝子がコードする酵素の活性を失ったことは、公知の評価法により確認することができる。
LDH遺伝子の削除又は破壊は、様々な方法で行うことができ、例えば、国際公開WO 99/14335、WO 02/42471、WO 03/04525、WO 03/102152及びWO 03/102201に開示された方法に似た方法などがある。特に(I. orientalisの形質転換に関連して)興味深い方法には、(1)複数のI. orientalis PDC遺伝子の一つの5’及び3’のフランキング領域を、任意に機能的PDC遺伝子の一部と共に、クローニングすること、(2)5’及び3’のフランキング領域を含むベクターを製造すること、(3)このベクターでI. orientalis細胞を形質転換すること、などがある。相同組換えの結果、機能的PDC遺伝子が削除される。IoPDC1Aの5’及び3’のフランキング領域が、ベクター中で、IoPDC1A及びIoPDC1Bの両方を削除又は破壊することが分った。似たような方法を、本発明に有用な他の宿主細胞で、一つ又はそれ以上のPDC遺伝子を削除又は破壊するために用いてもよい。
【0018】
PDC遺伝子が削除又は破壊されたベクターは、宿主細胞のPDC遺伝子の一つの5’及び3’のフランキング部分の間に挿入された、LDH遺伝子のような機能的構造遺伝子を一つ又はそれ以上含んでもよい。この機能的遺伝子は、この機能的遺伝子に連結した機能的プロモーター及びターミネーター配列を含むことが好ましい。このアプローチは、PDC遺伝子の削除と機能的遺伝子の挿入を同時に行うことを可能にする。このベクターは、この構造遺伝子の代わりに、又はこの構造遺伝子に加えて、選択マーカー遺伝子を含んでもよい。再度、この選択マーカーは、ベクターの、目標のPDC遺伝子の5’及び3’のフランキング領域の間に位置し、機能的PDC遺伝子の位置に挿入されることになる。選択マーカーの使用は、成功した形質転換体の選択手段を導入する利点がある。しかし、そのエタノールの産生能力の減退又は削除に基づいて、成功した形質転換体を選択することも可能であり、特に、複数のPDC遺伝子(I. orientalisのIoPDC1A及びIoPDC1B遺伝子の両方など)が削除又は破壊された形質転換体においては、そうである。
【0019】
I. orientalisにおいては、宿主菌株を、いずれかの目標遺伝子の5’隣接領域、関連するプロモーターとターミネーターを含む機能的遺伝子カセット、及び/又は、関連するプロモーターとターミネーターを含む選択マーカー遺伝子、並びにいずれかの目標遺伝子の3’隣接領域から成る単一ベクターで形質転換することにより、IoPDC1A及びIoPDC1Bを一段階で削除することができる。このようなベクターの例として、実施例2BのpMI356ベクターが挙げられる。このようなベクターを用いて形質転換したI. orientalisの形質転換体は、PDC対立遺伝子の一方が削除された形質転換体と、IoPDC1A及びIoPDC1B対立遺伝子の両方が削除された形質転換体を含む。典型的には、PDC対立遺伝子の少なくとも一方が、機能的LDH遺伝子(又は他の構造遺伝子)で置換されている。再度、複数のPDC対立遺伝子を持つ他の宿主細胞に似た方法を用いてもよい。
一方、I. orientalisにおいて、IoPDC1A及びIoPDC1Bを二段階で削除することもできる。例えば、I. orientalisを上記のベクターで形質転換し、一つのPDCが削除された菌株を、同様のベクターで2度目の形質転換を行い、2つ目のPDC対立遺伝子を削除する。後記の実施例2Dと3Bはこのアプローチを例証する。
【0020】
本発明の遺伝子操作された酵母細胞は、その細胞にいくつかの所望の性質を付与するような追加の遺伝子操作を含んでもよい。得に興味深い形質転換は、その細胞にペントース糖を発酵させ、所望の発酵産物を産生する能力を付与する。このような形質転換は、(1)機能的外来性キシロース異性化酵素遺伝子の導入、(2)キシロースからキシリトールへの変換を触媒する酵素を産生する固有遺伝子の削除又は破壊、(3)機能的キシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子の削除又は破壊、及び/又は(4)その細胞に機能的キシルロキナーゼを過剰発現を引き起こす修飾、である。このような遺伝子操作を酵母細胞へ導入するための方法は、例えば、国際公開WO 04/099381に記載されているので、参照されたい。
本発明の発酵方法において、本発明の細胞は、その形質転換された細胞により発酵され得る糖を含む発酵培地で培養される。この糖として、グルコースのようなヘキソース糖、グリカン又はその他のグルコースのポリマー、マルトース、マルトトリオース及びイソマルトトリオースのようなグルコースオリゴマー、パノース、フルクトース及びフルクトースオリゴマーなどが挙げられる。もし細胞がペントース糖を発酵させる能力を付与する遺伝子操作を受けた場合、この発酵培地は、キシロース、キシラン又はその他のキシロースのオリゴマーを含んでもよい。このようなペントース糖は、ヘミセルロースを含んだバイオマスの水解物であることが適している。オリゴ糖の場合、その細胞による発酵のために、これを相当する単糖に消化するための酵素を発酵培地に添加することが必要かもしれない。
【0021】
この培地は典型的には、質素源(アミノ酸、タンパク質、アンモニアやアンモニウム塩などの無機窒素源など)や種々のビタミン、ミネラル等の特定の細胞により要求される栄養素を含むであろう。I. orientalisは、無機源から、窒素、リン及びマグネシウムの必要性を満たす能力を有し、従って、これらの要素を含む無機源を含む化学的に合成培地で成長と発酵ができる能力を有する。従って、本発明の細胞は、このような化学的に合成培地で培養することができる。しかし、また本発明の細胞を、化学的に特定されず、タンパク質、特に消化されたタンパク質、やアミノ酸のような有機窒素源を含んでもよい培地で培養することも可能である。
温度、細胞密度、基質の選択、栄養素の選択などのこの他の発酵条件は、本発明にとって決定的なものではなく、経済的なプロセスを提供するために一般的に選択される。成長段階と製造段階のそれぞれの温度は、上記の培地の凍結温度から50℃の範囲であってもよい。好ましい温度、特に製造段階の温度は、約30〜45℃である。
【0022】
製造段階において、発酵培地中の細胞の濃度は、典型的には約0.1〜20、好ましくは0.1〜5、更に好ましくは約1〜3乾燥細胞(g)/発酵培地(リットル)の範囲である。
この発酵は、好気性、微好気性又は嫌気性のいずれで行われてもよい。発酵中に酸素は添加されないが、発酵の開始段階で発酵培地に酸素が溶けている擬嫌気性条件を用いてもよい。所望ならば、プロセス制御として、国際公開WO 03/102200に記載のような特定の酸素取り込み速度を採用してもよい。本発明の細胞は、嫌気性条件下であっても、良好な容積的及び特定の生産性で、糖を発酵させて乳酸又は乳酸とエタノールの混合物を製造する良好な能力を示す。
【0023】
発酵産物が酸である場合、pHを約5.0〜約9.0、好ましくは約5.5〜約7.0に保つため、発酵の製造段階で培地を緩衝させてもよい。適当な緩衝剤は、形成される乳酸を中和する塩基物質であり、例えば、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、アンモニア、水酸化アンモニウムなどが挙げられる。一般的に、通常の発酵プロセスで用いられてきた緩衝剤もまたここで用いることができる。
緩衝された発酵において、乳酸のような酸性発酵産物は、形成されると、相当する塩に中和される。従って、この酸の回収は、フリーなその酸を再生することを含む。これは典型的には、細胞を除去し、発酵培地を硫酸のような強酸で酸性にすることにより行われる。副産物である塩(カルシウム塩を中和剤として用い、酸性にする試薬として硫酸を用いた場合には、石膏(gypsum)が形成される。)が形成され、これをその酸から分離する。そして、この酸は、T.B. Vickroy, Vol. 3, Chapter 38 of Comprehensive Biotechnology, (ed. M. Moo-Young), Pergamon, Oxford, 1985; R. Datta, et al., FEMS Microbiol. Rev., 1995; 16:221-231; 米国特許第4,275,234号, 同4,771,001号, 同5,132,456号, 同5,420,304号, 同5,510,526号, 同5,641,406号及び同5,831,122号並びに国際公開WO 93/00440に記載されているように、液−液抽出、蒸留、吸収などの技術を用いて回収される。
【0024】
しかし、発酵の終了時点の培地のpHが、酸性発酵産物のpKaと同じ又はそれ以下であるように、この発酵を行うことが好ましい。最終pHは、約1.5〜約3.5の範囲、約1.5〜約3.0の範囲、又は約1.5〜約2.5の範囲であることが適当である。開始時点のpHは、ややそれよリ高くてもよく、例えば、約3.5〜約6.0の範囲、特に約3.5〜約5.5の範囲であり、又は約1.5〜約3.5の範囲のより酸性のpHにあわせてもよい。本発明の細胞は、pHが3.5以下、3.0以下、2.5以下、及び2.0以下である酸性発酵培地においてさえも、よく成長し製造する予想外の能力を有することを示した。LDH遺伝子の挿入やIoPDC1AとIoPDC1B遺伝子の削除のような、基本的な遺伝子操作をされたI. orientalis細胞は、最初に10重量%のグルコースを含む無緩衝培地で、嫌気性条件下で、15〜20g/Lの乳酸を産生することが分った。
低pH発酵培地から乳酸を回収することは、米国特許第6,229,046号に記載の方法のような方法を用いて行うことができる。
本発明のプロセスは、連続法、バッチ法又はこれらの混合法のいずれでも行うことができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を例証するために実施例を支援すが、これらは本発明を限定することを意図するものではない。全ての「部」や「パーセント(%)」は、特記しない限り、重量基準である。
実施例1A: I. orientalis PGK(IoPGK1)プロモーター領域のクローニング;IoPGK1プロモーターとS.cerevisiae Gal10ターミネーターの制御下にあるE. coliハイグロマイシン遺伝子を持つプラスミド(pMI318、図1)の構築
C. sonorensisのゲノムDNAから、配列番号1及び2のプライマーを用いて、国際公開WO 02/042471の実施例22に記載の方法により、C. sonorensis PGK1遺伝子の920bpプローブ断片を得た。成長するI. orientalis菌株からゲノムDNAを単離し、10 mM Tris-HClと1 mM EDTA (pH 8)の混合液(TE)に再懸濁した。このI. orientalisゲノムDNAは、HindIIIで切断され、サザンブロット法が用意され、プローブとしてC. sonorensis PGK1遺伝子を用いて標準方法でハイブリダイズされた。アガロースゲルから約2kbの大きさの断片を単離し、HindIIIで切断されたプラスミドにクローンされた。PGK1プローブを用いたE. coli形質転換体のコロニーハイブリダイゼーションの結果、I. orientalis PGK(IoPGK1)タンパク質をコードする配列の大部分を含むHindIII断片が単離されたが、プロモーター配列が含まれていないことが検証された。
IoPGK1プロモーター領域を含むゲノム断片は、ライゲーションを介したPCR増幅法(Mueller, P.R. and Wold, B. 1989, "In vivo footprinting of a muscle specific enhancer by ligation mediated PCR." Science 246:780-786)により得た。配列番号3のリンカーと配列番号4のリンカーの混合物を、T4 DNA リガーゼ(New England BioLabs)を用いて、HindIIIで消化されたI. orientalisゲノムDNAに連結した。このライゲーション混合物のサンプルを、配列番号5のプライマー0.1μMと配列番号6のプライマー1μMを含むPCR反応50μlの鋳型として用いた。2 UのDynazyme EXTを加えた後に、この反応混合物を94℃で3分間加熱した。この反応を以下のように30回繰り返した:94℃で1分間、68℃で2分間及び72℃で2分間、そして最後に72℃で10分間。この最初のPCR増幅の希釈サンプルを、配列番号7のプライマー0.05μMと配列番号8のプライマー0.5μMを含むネストPCR反応(50μl)の鋳型として用いた。2 UのDynazyme EXTを加えた後に、この反応混合物を94℃で3分間加熱した。この反応を以下のように30回繰り返した:94℃で1分間、67℃で2分間及び72℃で2分間、そして最後に72℃で10分間。
【0026】
約600bpのPCR断片を単離し、配列を決定した。配列番号9と10のネストプライマーを設計し、配列番号11と12のオリゴヌクレオチドを併用して、上記のようにライゲーションを介したPCR増幅法を行った。但し、消化されたI. orientalis DNAを用い、65℃のアニーリング温度を用いた。
鋳型としてI. orientalis ゲノムDNAを用い、プライマーとして配列番号13と14を用いたPCRにより、I. orientalis PGK1プロモーターを増幅した。この断片は、Klenow酵素を用いて充填され、XbaIで切断された。633bpの断片はゲル単離され、PMI270プラスミド(国際公開WO 03/049525の図4)をXhoIで消化し、Klenow酵素とdNTP 0.1nMを用いて充填され、XbaIで消化することにより得られた4428bpの断片に連結された。pMI270プラスミドは、C. sonorensis PGK1プロモーターとS. cerevisiae GAL10ターミネーターに連結されたE. coliハイグロマイシン遺伝子を含む。得られたプラスミドをpMI318と呼ぶ(図1)。プラスミドpMI318は、C. sonorensis PGK1プロモーターとS. cerevisiae GAL10ターミネーターの制御下にあるE. coliハイグロマイシン遺伝子を含む。
【0027】
実施例1B: IoPGK1プロモーターとS.cerevisiae Gal10ターミネーターの制御下にあるハイグロマイシン遺伝子、及びIoPGK1プロモーターとS.cerevisiae CYC1ターミネーターの制御下にあるL. helveticusLDH遺伝子を含むプラスミド(pMI321、図3)の構築
鋳型としてI. orientalis ゲノムDNAを用い、プライマーとして配列番号15と16を用いたPCRにより、実施例1AのI. orientalis PGK1プロモーターを増幅した。この断片は、Klenow酵素と0.1mMのdNTPを用いて充填され、NcoIで切断された。633bpの断片はゲル単離された。
vVR1プラスミド(国際公開WO 03/049525の図7)はS.cerevisiae TFE1プロモーターとS.cerevisiae CYC1ターミネーターの制御下にあるL. helveticusLDH遺伝子を含む。vVR1プラスミドは、XhoIで消化され、Klenow酵素を用いて充填され、NcoIで切断された。vVR1プラスミドからの7386bpの断片は、633bpのIoPGKプロモーター断片にライゲートされた。その結果生成したプラスミドをpMI320(図2)と呼ぶ。プラスミドpMI320は、IoPGK1プロモーターとS.cerevisiae CYC1ターミネーターの制御下にあるL. helveticusLDH遺伝子を含む。
プラスミドpMI318(実施例1A、図1)とpMI320を、ApaIとNotIで消化した。
プラスミドpMI318からの5008bpの断片は、プラスミドpMI320からの1995bpの断片にライゲートされ、プラスミドpMI321(図3)を形成する。
ハイグロマイシン遺伝子(及びそのターミネーター)は、pMI321上のIoPGK1の2つのコピーの間に位置する。この構築物は、プラスミドpMI321で形質転換された細胞を相同組換えにより、ハイグロマイシン遺伝子とそのターミネーターを、IoPGK1の1つのコピーと共に、ループアウト(loop out)する。
【0028】
実施例1C: 野生型I. orientalisを部分的に消化されたプラスミドpMI321(図3、実施例1B)で形質転換することによる、LDH遺伝子とハイグロマイシン耐性遺伝子が挿入されたI. orientalis変異体(CD990)の産出
プラスミドpMI321を部分的にXhoIで消化し、その結果生じた線状又は環状のDNAの混合物を用いて、Gietz et al. (1992, Nucleic Acids Rs. 20:1425)に記載の標準酢酸リチウム法で、指定番号ATCC PTA-6658の野生型I. orientalis株を形質転換した。この形質転換された細胞をハイグロマイシン耐性で選別した。いくつかのハイグロマイシン耐性のコロニーを培養して、培養培地を乳酸産生について分析した。乳酸を産生するハイグロマイシン耐性のコロニーをCD990と呼ぶ。
【0029】
実施例1D: 野生型I. orientalisを部分的に消化されたプラスミドpMI321(図3、実施例1B)で形質転換することによる、LDH遺伝子とハイグロマイシン耐性遺伝子が挿入されたI. orientalis変異体の産出
プラスミドpMI321を部分的にXhoIで消化し、その結果生じた線状又は環状のDNAの混合物を用いて、上記の標準酢酸リチウム法で、指定番号ATCC-32196の野生型I. orientalis株を形質転換した。この形質転換された細胞をハイグロマイシン耐性で選別した。いくつかのハイグロマイシン耐性のコロニーを培養して、培養培地を乳酸産生について分析した。いくつかのコロニーが乳酸を産生することが分った。
【0030】
実施例1E: 野生型I. orientalisを部分的に消化されたプラスミドpMI320及び消化されたプラスミドpMI321(図2、3、実施例1B)で形質転換することによる、LDH遺伝子とハイグロマイシン耐性遺伝子が挿入されたI. orientalis変異体の産出
プラスミドpMI320を部分的にXhoIで消化した。プラスミドpMI321をSmaIとSalIで消化した。消化された材料を一緒にして、上記の標準酢酸リチウム法で、指定番号ATCC PTA-6658の野生型I. orientalis株を形質転換した。この形質転換された細胞をハイグロマイシン耐性で選別した。いくつかのハイグロマイシン耐性のコロニーを培養して、培養培地を乳酸産生について分析した。いくつかのコロニーが乳酸を産生することが分った。
【0031】
実施例1F: 野生型I. orientalisを部分的に消化されたプラスミドpMI320及び消化されたプラスミドpMI321(図2、3、実施例1B)で形質転換することによる、LDH遺伝子とハイグロマイシン耐性遺伝子が挿入されたI. orientalis変異体の産出
プラスミドpMI320を部分的にXhoIで消化した。プラスミドpMI321をSmaIとSalIで消化した。消化された材料を一緒にして、上記の標準酢酸リチウム法で、指定番号ATCC-32196の野生型I. orientalis株を形質転換した。この形質転換された細胞をハイグロマイシン耐性で選別した。いくつかのハイグロマイシン耐性のコロニーを培養して、培養培地を乳酸産生について分析した。一つのコロニーが乳酸を産生することが分った。
【0032】
実施例2A: I. orientalis PGK(IoPGK1)プロモーター領域のクローニング;IoPGK1プロモーターとS.cerevisiae Gal10ターミネーターの制御下にあるE. coliハイグロマイシン遺伝子を持つプラスミド(pMI318、図1)の構築
指定番号ATCC PTA-6658の固有I. orientalis株のゲノムライブラリーを、メーカーの指示書に従ってコスミドベクターSuperCos 1 (Stratagene)に構築した。この株のゲノムDNAからPDC様配列を、配列番号17と18のプライマーを用いてPCR法で増幅した。このゲノムライブラリーを、国際公開WO 03/049525に記載のように、ラベルPCR断片をプローブとして用いてハイブリダイズ法によりスクリーニングした。このPDC遺伝子を含むコスミドクローンを分離し、その配列を解析した。このI. orientalis PDC1AのORFの1000bp〜167bp上流の5'領域を、配列番号19と20のプライマーを用い、鋳型にI. orientalis PDCコスミドDNAを用いてPCR法で増幅した。増幅した遺伝子(開始コドンから終結コドンまで)は配列番号97の配列を有していた。この断片をSalIとSacIで消化した。836bpの断片はゲル単離され、pMI321プラスミド(実施例1B、図3)をSalIとSacIで消化することにより得られた6992bpの断片に連結された。得られたプラスミドをpMI355と呼ぶ(図4)。
【0033】
実施例2B: I. orientalis PDC(IoPDC1A)ターミネーター領域のクローニング;IoPDC1A 5'フランキング領域、IoPGK1プロモーターとS.cerevisiae Gal10ターミネーターの制御下にあるE. coliハイグロマイシン遺伝子、IoPGK1プロモーターとS.cervisiae CYC1ターミネーターの制御下にあるL. helveticus LDH遺伝子、及びIoPDC1A 3'フランキング領域を持つプラスミド(pMI356、図5,6)の構築
PDCの翻訳終結コドンの下流233bp〜872bpの配列に相当するI. orientalis PDC 3'領域を、配列番号21と22のプライマーを用い、鋳型にI. orientalis PDC1AコスミドDNA(実施例2A)を用いてPCR法で増幅した。この断片をApaIとSmaIで消化した。630bpの断片はゲル単離され、pMI355プラスミド(実施例2A、図4)をApaIとSmaIで消化することにより得られた7809bpの断片に連結された。得られたプラスミドをpMI356と呼ぶ(図5)。これは、IoPDC1A遺伝子の5'フランキング領域と3'フランキング領域の間に、pMI355プラスミドからのハイグロマイシンとLDHカセットを含む。
PDCの翻訳終結コドンの上流524bp〜下流217bpの配列に相当するI. orientalis の3'領域を、配列番号23と24のプライマーを用い、鋳型にI. orientalis PDCコスミドDNA(実施例2A)を用いてPCR法で増幅した。この断片をApaIとSmaIで消化した。764bpの断片はゲル単離され、pMI355プラスミドをApaIとSmaIで消化することにより得られた7809bpの断片に連結された。得られたプラスミドをpMI357と呼ぶ(図6)。これは、IoPDC1A遺伝子の5'フランキング領域と3'フランキング領域の間に、pMI355プラスミドからのハイグロマイシンとLDHカセットを含む。pMI37プラスミドは、pMI356プラスミドとは、IoPDC1A遺伝子の3'フランキング領域に関して異なる。
【0034】
実施例2C: 野生型I. orientalisをプラスミドpMI357(図6、実施例2B)で形質転換することによる、PDC遺伝子が欠失し、L. helveticusLDH遺伝子とハイグロマイシン耐性遺伝子が挿入されたI. orientalis変異体(ATCC/357-5)の産出
プラスミドpMI357をSacIとApaIで消化し、これを用いて、上記の標準化学法により、I. orientalis ATCC32196株を形質転換した。
ハイグロマイシン耐性のコロニーをサザン分析して、プラスミドpMI357からのLDH遺伝子が挿入され、対立遺伝子IoPDC1AとIoPDC1Bが削除されていることを確認した。LDH遺伝子を含み、対立遺伝子IoPDC1A又はIoPDC1Bの一つが欠失する形質転換体をATCC/357-5と呼ぶ。
【0035】
実施例2D: 野生型I. orientalisをプラスミドpMI356(図5、実施例2A)で形質転換することによる、PDC遺伝子が欠失し、L. helveticusLDH遺伝子とハイグロマイシン耐性遺伝子が挿入されたI. orientalis変異体(CD1027及びCD1030)の産出
プラスミドpMI356をSacIとApaIで消化し、これを用いて、上記の標準化学法により、I. orientalis ATCC PTA-6658株を形質転換した。
ハイグロマイシン耐性のコロニーを選択した。HindII-XbaIで切断されたゲノムDNAをLhLDHとPDC5'プローブを用いたサザン分析することにより、この形質転換体において、プラスミドpMI356からのLDH遺伝子が挿入され、IoPDC1B遺伝子が削除されていることを確認した。これをCD1030と呼ぶ。LDH遺伝子が挿入され、IoPDC1A遺伝子が欠失した形質転換体をCD1027と呼ぶ。
【0036】
実施例2E: 野生型I. orientalis株をプラスミドpMI356(図5、実施例2B)で形質転換することによる、IoPDC1A遺伝子が欠失し、L. helveticusLDH遺伝子とハイグロマイシン耐性遺伝子が挿入されたI. orientalis変異体(ATCC/356-23)の産出
プラスミドpMI356をSacIとApaIで消化し、これを用いて、上記の標準化学法により、I. orientalis ATCC 32196株を形質転換した。
ハイグロマイシン耐性のコロニーを選択した。HindII-XbaIで切断されたゲノムDNAをLhLDHとPDC5'プローブを用いたサザン分析することにより、この形質転換体において、プラスミドpMI356からのLDH遺伝子が挿入され、対立遺伝子IoPDC1AとIoPDC1Bのうちの一つが削除されていることを確認した。これをATCC/356-23と呼ぶ。
【0037】
実施例3A:IoPDC1A 5'フランキング領域、IoPGK1プロモーターの制御下にあるScMEL5遺伝子、IoPGK1プロモーターとSc CYC1ターミネーターの制御下にあるL. helveticus LDH遺伝子、及びIoPDC1A 3'フランキング領域を持つプラスミドpMI433(図8)の構築
鋳型としてI. orientalis ゲノムDNAを用い、配列番号25と26のプライマーを用いたPCRにより、I. orientalis PGK1プロモーターを、増幅した。この断片は、Klenow酵素と0.1mMのdNTPを用いて充填され、SphIで切断された。669bpの断片はゲル単離された。pMI233プラスミド(国際公開WO 03/049525の図23C)をXhoIで切断した。この断片は、Klenow酵素を用いて充填され、SphIで切断された。4534bpと669bpの断片はライゲートされ、その結果生成したプラスミドをプラスミドpMI319(図7)と呼ぶ。プラスミドpMI319は、S.cerevisiae MEL5(ScMEL5)遺伝子とIoPGK1プロモーター領域を含む。
プラスミドpMI319は、ApaIで切断され、T4ポリメラーゼで末端が鈍化され、NotIで切断された。これは、プラスミドpMI357(図6、実施例2B)をSalIで消化することにより得られた6498bpの断片にライゲートされ、Klenow酵素を用いて末端が鈍化され、次にNotIで切断された。その結果生成したプラスミドは、プラスミドpMI357のハイグロマイチン遺伝子の位置に、ScMEL5遺伝子(及びその固有のターミネーター)を含む。このプラスミドをpMI433(図8)と呼ぶ。
【0038】
実施例3B: 変異体株CD1027(実施例2B)をプラスミドpMI433(図8、実施例3A)で形質転換することによる、IoPDC1A及びIoPDC1B遺伝子が欠失し、L. helveticusLDH遺伝子とScMEL5遺伝子が挿入されたI. orientalis変異体(C258/433-3及びC258/433-4)の産出
変異体株CD1027を、標準化学法により、プラスミドpMI433をSacIとApaIで消化した5.9bpの断片で形質転換した。形質転換体を、種々の酵素の組み合わせで消化されたゲノムDNAをLhLDHとPDC5'プローブを用いたサザン分析することにより、この形質転換体はメリビアーゼ活性を示した。対立遺伝子IoPDC1Bを失い、LhLDHの2番目のコピーを獲得した2つの形質転換体をそれぞれC258/433-3及びC258/433-4と呼ぶ。しかし、この2つの形質転換体において、挿入は異なって行われた。即ち、2つの株において、プラスミドpMI433のLhLDHカセットに相当するLhLDH 3'バンドは異なって表れている。挿入されたLhLDH発現カセットがこれらの形質転換体において完全かどうかは明確ではない。
【0039】
実施例4: 野生型I. orientalisをプラスミドpMI356(図5、実施例2A)で形質転換することによる、一段階の対立遺伝子IoPDC1AとIoPDC1Bが欠失し、Lh LDH遺伝子が挿入されたI. orientalis変異体(CD1184)の産出
実施例3Bに記載した一般的方法により、プラスミドpMI356を用いて、I. orientalis ATCC PTA-6658株を形質転換した。ハイグロマイシンプレートで成長する形質転換株を培養した。サザン分析により、エタノールを産生しない形質転換体を選択し、この形質転換体が対立遺伝子IoPDC1A及びIoPDC1Bの両方を失い、LhLDH遺伝子の少なくとも1コピーが挿入されたことを確認した。この株をCD1184と呼ぶ。
【0040】
実施例5: 野生型I. orientalis株ATCC32196をプラスミドpMI356(図5、実施例2B)で形質転換することによる、一段階の対立遺伝子IoPDC1AとIoPDC1Bが欠失し、Lh LDH遺伝子が挿入されたI. orientalis変異体(CD1270)の産出
実施例3Bに記載した一般的方法により、プラスミドpMI356を用いて、I. orientalis ATCC 32196株を形質転換した。ハイグロマイシンプレートで成長する形質転換株を培養した。サザン分析により、エタノールを産生しない形質転換体を選択し、この形質転換体が対立遺伝子IoPDC1A及びIoPDC1Bの両方を失い、LhLDH遺伝子の1コピーが挿入されたことを確認した。この株をCD1270と呼ぶ。
【0041】
実施例6: 非緩衝合成培地における、CD990(実施例1C)、ATCC/357-5(実施例2C)、ATCC 356-23(実施例2E)、CD1030(実施例2D)、CD1184(実施例4)及びCD1270(実施例5)の各株の、微好気性振盪フラスコキャラクタリゼーション
100g/Lのグルコースで補足され、アミノ酸を含まない酵母窒素ベース(YNB)50mLを含む250mLバッフル付フラスコで、形質転換体CD990、ATCC/357-5、ATCC 356-23、CD1030、CD1184及びCD1270を別々に培養した。培養は緩衝されていないので、培地のpHは乳酸が製造されると共に下がり、最終的にそれぞれpHが2.0±0.1まで下がる。各フラスコは、酵母ペプトンプラスグスコースプレート上で成長した細胞をOD6000.2まで接種した。培養は、30℃で100rpmの振盪条件に保った。培養中に定期的にサンプルが抜き取られ、OD600が測定された。各サンプルから遠心分離により細胞が回収され、上澄み中の乳酸、グルコース及びエタノールをHPLCで分析した。
HPLC分析は、Waters 2410微分屈折計とWaters 2487 dual λ吸収検知器を備えたWaters 2690 Separation ModuleとWaters System Interfase Module液体クロマトグラフィーで行った。液体クロマトグラフィーのカラムは50x7.8mm Fast Juice カラム(Phenomenex)と100x7.8mm Fast Acid分析カラム(Bio-Rad)を用いた。これらのカラムは、60℃の水中で2.5mMの硫酸により平衡され、流量0.5ml/分の水中で2.5mMの硫酸により抽出された。Waters Millennium ソフトウエアを用いてデータが取られた。
【0042】
単一のPDC欠失株(ATCC/357-5、ATCC 356-23及びCD1030)の全てはエタノールと乳酸の両方を産生した。これら3株のグルコース消費量は、168時間の培養期間中ほぼ線状であり、約72時間後には約50%のグルコースが消費され、約168時間後にはほぼ全てのグルコースが消費された。これらの株は、それぞれ168時間後に20-24g/Lのエタノールを産生した。約96時間後に乳酸の産生はピークになり、これらの株は、それぞれ15-20g/Lの乳酸を産生した。その後、これらの株は少量の乳酸を消費した。これらの株の乳酸の収率は、約48時間後にピークになって39%を示し、その後、乳酸の消費と継続するエタノールの産生により下がった。
PDC欠失ではない株CD990は、単一のPDC欠失株に近い性能を示した。
二重のPDC欠失株(CD1184及びCD1270)は、乳酸は産生するが、エタノールは産生しない。これらの株は、他の株に比べて、グスコースをゆっくり消費し、168時間後に約48-55%のグルコースが未消費であった。CD1270株は培養の最初の96時間に渡って乳酸を産生したが、その後、乳酸力価はほんのわずかしか増えなかった。CD1270株の乳酸の収率のピークは約56%であった。CD1184株は、培養の全期間に渡って乳酸を産生し、培養の最後の乳酸力価は約31g/Lであった。この株の乳酸収率は約55%であった。
【0043】
実施例7: 緩衝合成培地における、CD990(実施例1C)、CD1030(実施例2D)、CD1184(実施例4)及びCD1270(実施例5)の各株の、微好気性振盪フラスコキャラクタリゼーション
酵母ペプトンプラス5%グスコース培地で、形質転換体CD990、CD1030、CD1184及びCD1270を別々に培養した。YNB、5%グルコース、0.5M MESを含み培地のpHが5.5の各フラスコに、これらの細胞をOD600=0.1まで接種した。これらのフラスコを、30℃で250rpmの振盪条件で一晩保温した。次に、これらの細胞を、それぞれ、YNB 50ml、10%グルコース、4gのCaCO3を含むフラスコにOD600=12まで分けて入れ、30℃で100rpmの振盪条件で5日間保温した。培養中に定期的にサンプルが抜き取られ、OD600が測定された。各サンプルから遠心分離により細胞が回収され、実施例6に記載のように、上澄み中の乳酸、グルコース及びエタノールをHPLCで分析した。
単一のPDC欠失株CD1030はエタノールと乳酸の両方を産生した。この株は、48時間で全てのグルコースを消費し、約56g/Lの乳酸を産生した。この株の乳酸収率は丁度60%下であった。この株は、約13g/Lのエタノールを産生した。この性能は、LhLDH遺伝子を持ち、いずれのPDCも欠失していないCD990の性能に極めて近い。
二重のPDC欠失株(CD1184及びCD1270)は、再び、乳酸は産生するが、エタノールは産生しなかった。CD1270株は、CD1184株よりわずかに早くグスコースを消費したが、CD1030株とほぼ同程度であった。CD1270株の乳酸力価は、50時間後に約85g/Lでピークに達し、その後グルコースが使い尽くされて乳酸を消費し始めると、わずかに下がった。
この株の乳酸収率は50時間後に約85%であった。CD1184株は、50時間後にグスコースを約90%消費し、次の72時間で残りを消費した。この乳酸力価の最高値は約73g/Lであり、乳酸収率の最高値は約80%であった。
【0044】
実施例8: 緩衝合成培地における、CD990(実施例1C)、CD1030(実施例2D)、CD1184(実施例4)及びCD1270(実施例5)の各株の、微嫌気性振盪フラスコキャラクタリゼーション
酵母ペプトンプラス2%グスコース培地で、形質転換体CD990、CD1030、CD1184及びCD1270を別々に培養した。酵母ペプトン、10%グルコースを含む各フラスコに、これらの細胞を接種し、30℃で250rpmの振盪条件で一晩保温した。次に、これらの細胞を、それぞれ、酵母ペプトン 50ml、10%グルコースを含むフラスコにOD600=13まで分けて移した。これらのフラスコは、ウォーターロックでシールされ、酵母ペプトン 50ml、10%グルコースを中の100rpmの振盪条件で30℃で約6日間保温した。しかし、フラスコの頭部のスペースから空気が除去されず、溶解した酸素を除去する手段がとられなかった。従って、これらの培養は、厳密には嫌気性ではなく、少なくとも培養の初期には、いくらかの空気が使用可能になっていた。
ブロスのpHは培養中に産生される乳酸のために3.2±0.1に下がった。
培養中に定期的にサンプルが抜き取られ、OD600が測定された。各サンプルから遠心分離により細胞が回収され、実施例6に記載のように、上澄み中の乳酸、グルコース及びエタノールをHPLCで分析した。
単一のPDC欠失株CD1030は、24時間後に約19g/Lの乳酸を産生し、72時間後に約24g/Lの乳酸を産生し、141時間後に約25g/L以上の乳酸を産生した。PDCが欠失していないCD990株は、24時間後に約20g/Lの乳酸を産生し、141時間後に約22g/Lの乳酸を産生した。CD990株とCD1030株の両者は、乳酸と同様にエタノールを産生した。
二重のPDC欠失株CD1184は、24時間後に約15g/Lの乳酸を産生し、72時間後に約18g/Lの乳酸を産生した。二重のPDC欠失株CD1270は、24時間後に約15.5g/Lの乳酸を産生し、72時間後に約14.5g/Lの乳酸を産生し、141時間後に約19.5g/Lの乳酸を産生した。
【0045】
実施例9A: pH3におけるCD1184株(実施例4)の微好気性バッチ培養
硫酸アンモニウム、リン酸一カリウム、硫酸マグネシウム、微量元素、ビタミン及び83g/Lのグルコースを含む合成培地を含む二重の単一段階バッチ培養用反応容器に1mLのCD1184株を接種した。培地のpHを細胞を入れる前に3.3に合わせた。この細胞を、300rpmの振盪及び0.1vvmのエアレーション条件で30℃で培養した。これらの条件で、2.9-3.1mmol/L/hの酸素取り込み速度になる(国際公開WO 03/102200参照)。この培養のpHは、細胞が成長し乳酸の産生を始めると共に3.0に下がる。その後、pHは、水酸化カリウムを添加して、3.0に維持される。
HPLC分析を、上記と同様に行った。この条件で、〜120時間の発酵後、微生物は67g/Lの乳酸を産生した。ラクタートの産生速度は0.62g/L/hrで、グルコースに対するラクタートの収率は0.76g/gであった。
【0046】
実施例9B: pH3におけるCD1184株(実施例4)の好気性バッチ培養
硫酸アンモニウム、リン酸一カリウム、硫酸マグネシウム、微量元素、ビタミン及び90g/Lのグルコースを含む合成培地を含む単一段階バッチ培養用反応容器に1mLのCD1184株を接種した。培地のpHを細胞を入れる前に3.3に合わせた。この培養のpHは、細胞が成長し乳酸の産生を始めると共に3.0に下がる。その後、pHは、水酸化カリウムを添加して、3.0に維持される。この細胞を、490rpmの振盪及び0.1vvmのエアレーション条件で30℃で培養した。これらの条件で、8mmol/L/hの酸素取り込み速度になる(国際公開WO 03/102200参照)。約50時間発酵した後に、追加の40g/Lのグルコースを加えた。
HPLC分析を、上記と同様に行った。この条件で、〜90時間の発酵後(約18時間の停滞期を含み、この間わずかの発酵が起こる。)、微生物は80g/Lの乳酸を産生した。全バッチ発酵に渡って、ラクタートの産生速度は1.0g/L/hrで、グルコースに対するラクタートの収率は0.71g/gであった。停滞期(18時間)の最後と、力価が70g/Lに達した時(69時間)の間の期間にわたって、ラクタートの産生速度は1.5g/L/hrで、グルコースと水酸化カリウムの添加の希釈効果を考慮すると、グルコースに対するラクタートの収率は0.75g/gであった。
【0047】
実施例10A: S.cerevisiae MEL5遺伝子カセットを同一のK. thermotoleransリピート間に含むプラスミドpMI433(pMI445、図11)の構築
固有K. marxianus株のゲノムDNAから、BamHIとSalIの制限サイトを導入して、配列番号27と28のプライマーを用いたPCRにより、プロモーターとターミネーターを含む完全K. marxianus CYB2 (KmCYB2)遺伝子カセットを、増幅した。このPCR産物を、BamHIとSalIで消化された市販のpUC18ベクター(Invitrogen Corp., Carlsbad, CA)にライゲートした。その結果のプラスミドをpMM25(図9)と呼ぶ。
K. thermotolerans 株のゲノムDNAから、SphIとSalIの制限サイトを導入して、配列番号30と31のプライマーを用いたPCRにより、配列番号29の配列(705bp)が特定された。このK. thermotolerans配列は活性なタンパク質をコードするものではない。プラスミドpMM25をSphIとSalIで消化し、これにこのK. thermotolerans配列をKmCYB2遺伝子カセットの上流(5')にライゲートし、プラスミドpMM27を形成した。
同じK. thermotolerans配列が、BamHIとXmaIの制限サイトを追加して、配列番号32と33のプライマーを用いたPCRにより増幅された。プラスミドpMM27を、BamHIとXmaIで消化し、これにこのK. thermotolerans配列をKmCYB2遺伝子カセットの下流(3')にライゲートし、プラスミドpMM28(図10)を形成した。プラスミドpMM28は、同じ方向の同一のK. thermotolerans配列のフランキング領域を持つKmCYB2カセットを含む。
プラスミドpMM28をBamHIで消化し、Klenow酵素を用いて充填され、SphIで切断された。このようにして得られた4077bpの断片を、pMI433(図8、実施例3A)をNotIで切断して得られた2317bpの断片にライゲートし、Klenow酵素を用いて充填され、SphIで切断された。得られたプラスミドをpMI445(図11)と呼ぶ。
【0048】
実施例10B: I. orientalisからCYB2相同体の分離
成長するI. orientalis株から得られたゲノムDNAライブラリーから、KmCYB2遺伝子をプローブとして用いて、CYB2相同体を分離した。このプローブは、鋳型としてK. marxianusゲノムDNAを用い、プライマーとして配列番号34と35を用いたPCRにより合成され、32Pで標識された。このようにして得られたKmCYB2遺伝子を、I. orientalisのゲノムライブラリーからI. orientalis CYB2遺伝子を分離するために用いた。6つのI. orientalisコスミドクローンから得たEcoRIで切断されたDNAと野生型I. orientalis株から得たゲノムDNAを含むサザンブロットを用意し、KmCYB2遺伝子でハイブリダイズされた。〜1.5kbpのバンドが検出され、ゲルから単離され、EcoRIで消化されたpBluescript SK(-)プラスミドにクローンされた。これらのバンドは、M13逆順プライマーを用いて配列解析された。配列特異的プライマーは得られた配列に基づいて設計された。2つのCYB2遺伝子IoCYB2AとIoCYB2Bが特定された。このコード領域と約1kbpの各クローンの5'と3'のフランキング領域が配列解析された。その結果、配列番号36と37の配列が特定された。
【0049】
実施例10C: I. orientalis PDC1Aプロモーター、K. thermotolerans配列、ScMEL1カセット、第2の同一K. thermotolerans配列、LhLDH遺伝子カセット及びI. orientalis PDC1Aターミネーターを含むプラスミド(pMI447、図14)の構築
the National Research Energy Laboratories (Golden, Colorado)からベクターpNC16を得た。このプラスミドはS.cerevisiae PDC1プロモーターとS.cerevisiae Gal10ターミネーターの制御下にあるS.cerevisiae MEL1遺伝子を含む。このMEL1遺伝子カセットは、BglIIとSacIの制限サイトを追加して、配列番号38と39のプライマーを用いたPCRにより増幅された。プラスミドpMM28(図10)をBglIIとSacIで消化し、MEL1カセットにライゲートした。得られたプラスミドをpMM31と呼ぶ。これは、繰返しK. thermotolerans配列のフランキング領域を持つMEL1カセットを含む。
KmCYB2コーディング領域の3'の〜2kbpフランキング領域を、鋳型としてゲノムDNAを用い、XmaIとSacIの制限サイトを導入して、配列番号40と41のプライマーを用いたPCRにより、増幅した。その結果得られた断片を、XmaI/SacIで消化されたpMM31プラスミドにライゲートし、それ自体はMEL1カセットの下流にあるK. thermotolerans配列の下流(3')の3'CYB2フランキング領域に挿入した。
【0050】
KmCYB2コーディング領域の5'の〜2kbpフランキング領域を、鋳型としてゲノムDNAを用い、AatIIとNarIの制限サイトを導入して、配列番号42と43のプライマーを用いたPCRにより、増幅した。その結果得られた断片を、AatII/NarIで消化されたpMM32プラスミドにライゲートした。その結果得られたプラスミド(pMM35、図12)は、順に、5'KmCYB2フランキング領域、第1の同一K. thermotolerans配列、MEL1カセット、第2の同一K. thermotolerans配列及び3'KmCYB2フランキング領域を含む。
K. thermotolerans配列は、鋳型としてpMM35プラスミドを用い、配列番号44と45のプライマーを用いたPCRにより、増幅された。このPCR産物はNotIとSpeIを用いて消化された。このようにして得られた712bpの断片を、pMI433(図8、実施例3A)をSpeIとNotIで切断して得られた8798bpの断片にライゲートした。その結果得られたプラスミドをpMI446(図13)と呼ぶ。これは、順に、I. orientalis PDCプロモーター、ScMEL5遺伝子カセット、K. thermotolerans配列、LhLDHカセット及びI. orientalis PDC1Aターミネーターを含む。
このK. thermotolerans配列は、鋳型としてpMM35プラスミドを用い、配列番号46と47のプライマーを用いたPCRにより、増幅された。このPCR産物はSalIを用いて消化された。このようにして得られた711bpの断片を、pMI446プラスミドの9510bpのSalI断片にライゲートした。その結果得られたプラスミドをpMI447(図14)と呼ぶ。これは、順に、I. orientalis PDCプロモーター、第1のK. thermotolerans繰返し配列、ScMEL5カセット、第2のK. thermotolerans繰返し配列、LhLDH遺伝子カセット及びI. orientalis PDCターミネーターを含む。
【0051】
実施例10D: K. thermotolerans配列、ScMEL5遺伝子カセット、第2の同一K. thermotolerans配列及びIoCYB2Aターミネーターを含むプラスミド(pMI448、図15)の構築
ORFの下流〜90〜676bpのIoCYB2A遺伝子の3'フランキング領域を、鋳型としてI. orientalis CYB2A遺伝子を含むコスミドクローンを用い、配列番号48と49のプライマーを用いたPCRにより、増幅した。このPCR産物はSacIとSmaIを用いて消化された。このようにして得られた607bpの断片を、pMI445(図11、実施例10A)をSacIとSmaIで切断して得られた6386bpの断片にライゲートした。その結果得られたプラスミドをpMI448(図15)と呼ぶ。
【0052】
実施例10E: I. orientalisからURA3遺伝子の分離
I. orientalis URA3遺伝子(IoURA3)を、配列番号50と51のプライマーを用いたPCRにより、固有I. orientalis株のゲノムDNAから増幅された。このようにして〜650bpの断片が得られ、その配列解析から、この断片は他の酵母のURA3遺伝子に相同性が近いことを確認した。この〜650bpの断片を、固有I. orientalis株のゲノムコスミドライブラリーから、全長遺伝子を単離するためのプローブとして用いた。一つのクローンが得られ、これは精製されて、配列解析された。このクローンは、IoURA3機能遺伝子とフランキング領域を含み、配列番号52の配列を含む。この遺伝子のORFは、262のアミノ酸から成るタンパク質をコードする。このアミノ酸配列は配列番号53で表される。
【0053】
実施例10F: IoURA3プロモーター、同一のK. thermotolerans配列の間にあるScMEL5カセット、LhLDH遺伝子カセット及びIoURA3ターミネーターを含むプラスミドpMI457(図16)の構築と、IoURA3プロモーター、同一のK. thermotolerans配列の間にあるScMEL5遺伝子カセット及びIoURA3ターミネーターを含むプラスミドpMI458(図17)の形質転換
I. orientalisのIoURA3 3'フランキング領域を、鋳型としてURA3遺伝子を含むI. orientalisコスミドクローンを用い、配列番号54と55のプライマーを用いたPCRにより、増幅した。その結果得られた630bpの断片を、SmaIとApaIで消化し、pMI447(実施例10C、図14)のSmaI/ApaI断片にライゲートし、プラスミドをpMI455を得た。プラスミドpMI455は、I. orientalis PDCプロモーター、K. thermotolerans繰返し配列の間にあるScMEL5カセット、LhLDH遺伝子カセット及びIoURA3 3'フランキング領域を含む。
I. orientalisのIoURA3 5'フランキング領域を、鋳型としてURA3遺伝子を含むI. orientalisコスミドクローンを用い、配列番号56と57のプライマーを用いたPCRにより、増幅した。その結果得られた554bpの断片を、SphIで消化し、pMI448(実施例10C、図15)の6994bpのSphI切断断片にライゲートし、プラスミドpMI456を得た。プラスミドpMI456は、IoURA3プロモーター、K. thermotolerans繰返し配列の間にあるScMEL5遺伝子カセット及びI. orientalis CYB2Aターミネーターを含む。
プラスミドpMI455をSacIとSalIで切断し、その結果の8542bp断片を、pMI456の1264bpのSacI-XhoI断片にライゲートし、プラスミドをpMI457(図16)を得た。
プラスミドpMI457をNotIとSmaIで切断し、Klenow酵素を用いて充填し、その結果の7834bp断片を、再度ライゲートし、プラスミドをpMI458(図17)を得た。
【0054】
実施例10G: 変異体CD1184(実施例4)をプラスミドpMI457(図16、実施例10F)で形質転換することによる、固有URA3遺伝子(及びURA3欠失)の位置に挿入された2コピー(CD1439)及び1コピー(CD1440)のLhLDH遺伝子とScMEL5カセットを有するI. orientalis変異体(CD1439及びCD1440)の産出
YPD + X-α-galプレート上で、実施例3Bに記載の一般的方法を用いて、変異体CD1184(実施例4)をプラスミドpMI457で形質転換した。ScMEL5遺伝子を含む形質転換体を青色で特定した。これらの形質転換体を、配列番号58と59のプライマーを用いたPCRにより、URA3の組込みを特定した。更に、EcoRV-HindIIIとNcoI-BsmIで消化されたDNAをサザン分析し、陽性の形質転換体を特定した。鋳型としてI. orientalis URA3遺伝子を含むコスミドクローンを用い、配列番号56と55のプライマーを用いて、ジゴキシゲニンで標識されたURA3プローブを合成した。予想されたバンドを示す形質転換体をCD1439と呼ぶ。CD1439株はCD1184株と同じ遺伝子背景を有するが、固有URA3遺伝子の位置に更に1コピーのLhLDH遺伝子とScMEL5カセットを有する点が異なる。
CD1440株も同様にして作られるが、プラスミドpMI458で形質転換される点が異なる。プラスミドpMI458は、LhLDHカセットを欠くが、このほかは、プラスミドpMI457と同じ効果を持つ。CD1439株とCD1440株は、LhLDHカセットの数以外は同じ遺伝子背景を有する。
【0055】
実施例11: CD1184(実施例4)、CD1439(実施例10F)及びCD1440(実施例10F)各株の、微好気性振盪フラスコキャラクタリゼーション
50mlのYP+100g/Lグルコースを含むバッフルなしのフラスコに、CD1439及びCD1440を別々にOD6000.15まで接種した。このフラスコを30℃で100rpmの振盪条件に保ち、22、47、62、91、119及び143時間後に分析評価した。
酵素活性測定のためにサンプル(5ml)を遠心分離により回収した。細胞ペレットを、2 mM EDTAを加えた10 mMの冷K2HPO4/KH2PO4 (pH 7.5)で洗浄した。洗浄したペレットを同じ緩衝液1mlに再懸濁し、-70℃に保持した。サンプルを室温で解凍し、2 mM MgCl2、1 mM DTT及びProtease Inhibitor (EDTA-free, Roche)を加えた均質化緩衝液(100 mM K2HPO4/KH2PO4 (pH 7.5))で洗浄した。洗浄したサンプルを均質化緩衝液0.5mlに再懸濁し、ホモジェナイザ(Bead Beater homogenizer)を用いて0.5mlのガラスビーズと共に30秒間均質化した。次にこのサンプルを4℃d14,00rpmで30分間遠心分離収した。その上澄みを、0.4 mM NADH、5 mM フルクトース-1,6-ジホスフェート及び2 mMピルベートを含む酢酸ナトリウム緩衝液中で、Cobas MIRA自動分析器を用いて分光学的(A340)に分析し、LDH活性を調べた。1分間に1μmolのNADHをNAD+に変換する活性量として、1Uの活性が決定された。タンパク質濃度は、タンパク質標準としてウシガンマグロブリンを用いて、Bio-Rad法により決定された。
CD1184、CD1439及びCD1440の各株全ては、ほぼ同じ速度でグルコースを消費し、全ては約55-60g/Lのラクタートを産生した。それぞれは、約0.6g/Lのピルベートと6g/Lのグリセロールを産生した。CD1439株のLDH活性は、CD1440株に比べて、LhLDHカセットの2つ目のコピーの存在のために、培養の期間中約40%高かった。
【0056】
実施例12A: 上流と下流のフランキング領域と共にI. orientalis 固有GPD1遺伝子のクローニング
いくつかの酵母株(S. cerevisiae, K. marxianus, Y. lipolytica, P. jadinii, D. hansenii及びC. glabrata)由来の公知のグリセロール-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼを並べて、種々の遺伝子の間で高度に保存されている領域を特定した。相同性の高いこれらの領域に、2セットの縮合プライマーを設計した。これらセットは、それぞれ、配列番号60と61、及び配列番号62と63である。最初のプライマーセットを用いて、鋳型にI. orientalis ゲノムDNAを用いてPCR法で増幅したところ、予想通りに、〜200bpの産物が得られた。次に、再び2番目のプライマーセットを用いて、鋳型にI. orientalis ゲノムDNAを用いてPCR法で増幅したところ、予想通りに、〜400bpの産物が得られた。これら2つのPCR産物をゲル精製し、同じプライマーを用いて配列解析を行った。このようにして得た部分配列を用いて、ゲノムウォーキングのためにプライマーを設計した。ゲノムウォーキングは、配列番号64と65のプライマーと配列番号66と67のネストプライマー(nested PCR primers)を用いて、BD Clontech Genome Walking Kitを用いてメーカーの指示書に従って行われた。上流と下流の両方のゲノムウォークから得られた配列は並べられ、以前得られた部分配列と合わされて、I. orientalis グリセロール-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼ遺伝子を形成した。
【0057】
実施例12B: I. orientalis CYB2 5'フランキング領域、K. thermotolerans直接繰返し配列の間のScMEL5遺伝子カセット及びI. orientalis CYB2 3'フランキング領域を含むプラスミド pMI449(図18)とpMI454(図19)の構築
プラスミド pMM28(図10、実施例10A)をBamHIで切断し、Klenow酵素を用いて充填し、SalIで切断した。このようにして得られた4077bpの断片を、pMI433(図8、実施例3A)のNotI(Klenow酵素を用いて充填された。)-SalI 2317bpの断片にライゲートした。その結果得られたプラスミドをpMI445と呼ぶ。
I. orientalis L-タクタート:フェリチトクロームc酸化還元酵素(IoCYB2A)遺伝子の3'フランキング領域(予想されたORFの下流90〜676bpの配列に相当する。)を、鋳型にI. orientalis CYB2-2コスミドクローンを用いて、配列番号68と69のプライマーを用いてPCR法で増幅した。この断片をSacIとSmaIで消化し、607bpの断片を、pMI445プラスミドのSacI-SmaIの6386bpの断片に連結した。得られたプラスミドをpMI448と呼ぶ。
IoCYB2A 5'フランキング領域(予想されたORFの上流913〜487bpの配列に相当する。)を、鋳型にI. orientalis CYB2-2コスミドクローンを用いて、配列番号70と71のプライマーを用いてPCR法で増幅した。この断片をSphIで消化し、454bpの断片を、pMI448を部分的に消化することにより得られた6993bpのSphI断片に連結した。得られたプラスミドをpMI449(図18)と呼ぶ。
IoCYB2A 5'フランキング領域(予想されたORFの上流446〜7bpの配列に相当する。)を、鋳型にI. orientalis CYB2-2コスミドクローンを用いて、配列番号72と73のプライマーを用いてPCR法で増幅した。この断片をSphIで消化し、493bpの断片を、pMI448を部分的に消化することにより得られた6993bpのSphI断片に連結した。得られたプラスミドをpMI453と呼ぶ。
IoCYB2A 3'フランキング領域(予想された終止コドンの上流402〜下流77bpの配列に相当する。)を、鋳型にCYB2-2コスミドクローンを用いて、配列番号74と75のプライマーを用いてPCR法で増幅した。この断片をApaIとSmaIで消化し、506bpの断片を、pMI453プラスミドのApaI-SmaIの6886bpの断片に連結した。得られたプラスミドをpMI454(図19)と呼ぶ。
【0058】
実施例12C: IoGPD1遺伝子の上流断片、第1のK. thermotolerans直接繰返し配列、MEL5遺伝子カセット、第2のK. thermotolerans直接繰返し配列及びIoGPD1遺伝子の下流断片を含むプラスミド(pBH165、図20)の構築
プラスミド pMI449(図18、実施例12B)をNdeI及びSbfIで切断し、5'CYB2Aフランキング相同体を切除した。6.8kb断片をゲル精製し、脱ホスホリル化した。実施例12AのIoGPD1遺伝子の302bp断片(その遺伝子の開始コドンから1-302bpに相当する。)を、配列番号76と77のプライマーを用いてPCR法で増幅した。このPCR産物をゲル精製し、NdeI及びSbfIで切断し、pMI449から得た6.8kbpの断片にライゲートし、プラスミド pBH164を構築した。次に、このプラスミド pBH164をXmaI及びEcoRIで切断し、3'CYB2Aフランキング相同体を切除した。6.5kb断片をゲル精製し、脱ホスホリル化した。実施例12AのIoGPD1遺伝子の346bp断片(その遺伝子の開始コドンから322-668bpに相当する。)を、配列番号78と79のプライマーを用いてPCR法で増幅した。このPCR産物をゲル精製し、XmaI及びEcoRIで切断し、pBH164から得た6.5kbpの断片にライゲートし、プラスミドpBH165を構築した。
プラスミド pBH165は、IoGPD1遺伝子の302bp断片、第1のK. thermotolerans直接繰返し配列、MEL5遺伝子カセット、第2のK. thermotolerans直接繰返し配列及びIoGPD1遺伝子の346bp断片を含む。固有IoGPD1遺伝子に位置に挿入(その遺伝子の欠失)とそれに続くMEL5遺伝子カセットのループアウトが設計されている。
【0059】
実施例12D: 変異体株CD1184(実施例4)をプラスミドpMI449(図18、実施12B)とプラスミドpMI454(図19、実施12B)で続いて形質転換し、それに続く突然変異によるI. orientalis変異体(CD1496)の産出
変異体株CD1184を、酢酸リチウム法で、プラスミドpMI449で形質転換し、YPD + X-α-galプレート上で、形質転換体(青色)をメリビアーゼ活性に基づいて選択した。いくつかの形質転換体について、CD1184株のIoCYB2A遺伝子の置換を、コロニーPCRとサザン分析により確認した。これらの形質転換体の一つから、K. thermotolerans繰返し配列を介した相同組換えによって、MEL5マーカーがループアウトされ、それはサザン分析で確認された。次に、第2のCYB2A対立遺伝子がプラスミドpMI454を用いた形質転換により欠失された。形質転換体は、1000bpのCYB2A特異的PCR産物の不存在が、コロニーPCRにより分析された。pMI454からのMEL5マーカーは、前と同様に、相同組換えによってループアウトされ、第2のCYB2A対立遺伝子が欠失された。この形質転換体をCD1436と呼ぶ。CD1436株では、CYB2A対立遺伝子の両方が欠失し(機能的L-LDH遺伝子カセットで置換され)、その2つのIoCYB2遺伝子のそれぞれが欠失する。
新鮮なYPDプレートからCD1436株の細胞を2mlのホスフェート緩衝食塩水にOD600 6まで再懸濁した。この細胞懸濁液の12試料(200μl)を12の14mlふた付きチューブに取り分けて、12個のチューブのうちの10個に8μlのエチルメタンスルホネート(EMS, Sigma Chemical Co., St. Louis, MO, catalog # M0880, 1.17g/mL溶液)を加えた。次に、残った2個のチューブを30℃で60分間振盪し(225rpm)、その細胞の90-99%を殺した。EMSに暴露後、12個のチューブの細胞をペレット化し、5.0% Na2S2O3で2度洗浄してEMSを中和し、水で一度洗浄した。変異が起きた細胞を、200μLのYP+20g/Lグルコース培地で回復させ、次に、PDA+35 g/L乳酸プレート上で培養し、30℃で一週間保温した。CD1436よりも多くの乳酸を産生し、より少なくグリセロールを産生する株をCD1496と呼ぶ。
【0060】
実施例12E: CD1196株(実施例12D)をプラスミドpBH165(図20、実施12C)で形質転換し、選択マーカーをループアウトして、CYB2A対立遺伝子の一つが欠失した形質転換体の形成
CD1496株を培養し、プラスミドpBH165をNdeIとEcoRIで切断して得た4.4kbpの断片5μgで形質転換した。形質転換体を、X-α-gal(5-bromo-4-chloro-3-indolyl-aD-galactoside)で被覆した酵母窒素ベース(YNB)+2%メリビアーゼプレート上で選択した。30℃で〜4日間培養後、青色の形質転換体が目視で確認された。8個の形質転換体を選択し、X-α-galを含むYP+20g/Lグルコースプレート上で一つのコロニーを培養した。各形質転換体について一つの青色コロニーを選択し、YP+20g/Lグルコースプレート上で培養した。この形質転換体からゲノムDNAを単離した。IoGDP遺伝子の一つの対立遺伝子が破壊されていることが、配列番号80と81のプライマーを用いたPCR法により確認された。予想された〜2kbの産物を示す一つの形質転換体をCD1657株と呼ぶ。更に、固有IoGPD1遺伝子の1コピーの破壊が、配列番号82と83のプライマーを用いたPCR法により確認された。
CD1657株は、30℃のYP+100g/Lグルコース培地で数ラウンド成長した。その希釈物をX-α-galで被覆したYP+20g/Lプレート上で培養し、30℃で一晩成長させた。白色コロニー(MEL5マーカーカセットがループアウトしたことを示す。)を選択し、YP+20g/Lグルコース+ X-α-galプレート上で画線培養した。白色コロニーを選択した。固有IoGPD1遺伝子の1つの対立遺伝子の破壊が、配列番号84と85のプライマーを用いたPCR法により確認された。この形質転換体をCD1671株と呼ぶ。
【0061】
実施例12F: CD1671株(実施例12E)をプラスミドpBH165(図20、実施12C)で形質転換し、両方のIoGPD1対立遺伝子が欠失した形質転換体の形成
CD1671株をプラスミドpBH165をNdeIとEcoRIで切断して得た4.4kbpの断片5μgで形質転換した。形質転換体を、X-α-galで被覆したYNB+2%メリビアーゼプレート上で選択した。30℃で〜4日間培養後、青色の形質転換体が目視で確認された。10個の形質転換体を選択し、X-α-galを含むYP+20g/Lグルコースプレート上で一つのコロニーを培養した。各形質転換体について一つの青色コロニーを選択し、YP+20g/Lグルコースで培養した。この形質転換体からゲノムDNAを単離した。IoGDP遺伝子の2番目の対立遺伝子が破壊されていることが、配列番号86と87のプライマーを用いたPCR法により確認された。この形質転換体をCD1690株と呼ぶ。
【0062】
実施例12G: CD1690(実施例12F)株の、微好気性振盪フラスコキャラクタリゼーション
YP+100g/Lグルコースを含む3Lバッチ発酵槽に、CD1690をOD6000.2まで接種した。この発酵槽を100rpmの振盪条件で、38-40℃で40時間保温した。培養の期間中pH5.5に緩衝された。この条件で、CD1690株は、消費された100gのグルコース当たり、88gのL-乳酸を産生した。L-乳酸の生産性は2.6g/L/hrであった。副生物の収率は、CO2:8%; バイオマス:2.4%; ピルベート:1%であった。最終OD600は6.3であった。
【0063】
実施例13A: P. membranifaciens固有PDC1遺伝子断片のクローニング
P. membranifaciensのPDC1遺伝子の一部をクローンするために1組の縮重プライマーを設計した。これらのプライマーは配列番号88と89の配列を持つ。このプライマーと、鋳型にP. membranifaciensのゲノムDNAを用いてPCR法で増幅して、〜700bpの産物を得た。この断片を市販TOPOベクターで増幅し、プラスミドPDC-72クローンと呼ぶプラスミドを作った。配列番号90と91のプライマーを用いてこの断片の配列解析を行った。この断片は、他のよく知られたPDC遺伝子配列に高度に相同であった。
【0064】
実施例13B: P. membranifaciens PDC1遺伝子断片、ハイグロマイシン発現カセット及びLhLDH発現カセットを含むプラスミドpMI464(図21)の構築
プラスミド pMI357(図6、実施例2B)をSacI及びSalIで切断し、〜7735bp断片を得た。プラスミド PDC-yクローンをSacI及びXhoIで切断し、〜700bp断片を得た。これら2つの断片を結合し、プラスミド pMI464を得た。
【0065】
実施例13C: 野生型P. membranifaciens株をプラスミドpMI464で形質転換し、LhLDH遺伝子カセットを挿入することによるCD1598の産出
NCYC2696と呼ばれる野生型P. membranifaciens株を、プラスミドpMI464をAgeIで消化して得られた断片で形質転換した。この形質転換体を、YPD + ハイグロマイシンプレート上で選択し、YPD + 200μg/mlハイグロマイシン上で画線培養した。1つのコロニーをCD1598と呼ぶ。PCRでこの株にLhLDH遺伝子カセットが存在することを確認した。
【0066】
実施例13D: CD1598(実施例13C)株の、微好気性振盪フラスコキャラクタリゼーション
振盪フラスコ中の50mlの非緩衝YP+10%グルコース培地に、CD1598株をOD6000.2まで接種した。このフラスコを100rpmの振盪条件で、38℃で7日間保温した。
CD1598株は乳酸を産生し、力価は47g/Lであった。消費されたグルコースに対する乳酸収率は70%であった。乳酸の生産速度は0.42g/L/hrであった。この株はエタノールを産生しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】pMI318プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図2】pMI320プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図3】pMI321プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図4】pMI355プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図5】pMI356プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図6】pMI357プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図7】pMI319プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図8】pMI433プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図9】pMM25プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図10】pMM28プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図11】pMI445プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図12】pMM35プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図13】pMI446プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図14】pMI447プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図15】pMI448プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図16】pMI457プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図17】pMI458プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図18】pMI449プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図19】pMI454プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図20】pBH165プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図21】pMI464プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【技術分野】
【0001】
この発明は、米国エネルギー省と契約番号DDE-FC07-021D14349の契約の下で完成された。従って、米国政府はこの発明に特定の権利を有する。
この出願は2005年6月2日出願の米国仮出願60/686,899に基づく優先権を主張する。
この発明は、ある遺伝子操作された酵母細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸のようなある種の有機酸は工業的発酵プロセスにより製造される。この発酵は種々のタイプのバクテリア種を用いて行われ、糖(主にグルコース)を消費して、これらの糖を所望の酸に変換する。
糖基質から有機酸を製造するために、酵母や真菌の生体触媒を開発することが望まれる理由としていくつかの理由が挙げられる。多くのバクテリアは、成長し効果的に糖を代謝するために必要なアミノ酸やタンパク質のいくつかを合成することが出来ない。その結果、バクテリアにしばしば栄養分のいくらか複雑なパッケージを与える必要がある。このことは、発酵をおこなうための必要経費を増大させる。この増大した培地の複雑性は、発酵産物を合理的な収率で回収することをより困難にして、このように増大した操作コスト及び資本コストは、製品回収に転化される。一方、多くの酵母種は、必要とするアミノ酸やタンパク質を無機窒素化合物から合成することができる。この酵母は、しばしば、いわゆる"特定の"培地中でよく成長し発酵させる、これは単純化され、しばしば低価格であり、製品回収操作に困難が少ない。
【0003】
有機酸製造のための生体触媒として酵母が興味を引くこの他の理由は、製品自体の性質によるものである。経済的に採算の取れるプロセスとするためには、有機酸を発酵液体培地の中に高濃度で集めなければならない。通常の毒性(発酵産物は高濃度の場合生体触媒に有毒かもしれない)への関心に加えて、発酵産物が酸の場合には酸度に関する追加的関心が必要になる。この培地は、有機酸が製造されるに従って益々酸性になる。これらの有機酸を産生するほとんどのバクテリアは、強酸性の環境ではよく機能しない。このバクテリアは、このような環境下では生き延びることはできず、またその産物をゆっくり産生するため経済的に採算が取れない。
この理由のため、商業的な酸発酵プロセスは、形成される酸を中和する試薬を添加することにより緩衝している。このことは、液体培地を中性のpH又はその近傍に維持し、バクテリアを効果的に成長させ、製造させる。しかし、このことは、酸を塩に変換するので、所望の酸の形態の産物を得るためには、分解する必要がある。
【0004】
最も一般的な緩衝剤は、カルシウム化合物であり、これは有機酸を中和して対応するカルシウム塩を形成する。発酵液体培地からこのカルシウム塩を回収した後、典型的には硫酸などの鉱酸を加えてカルシウム塩を分解し、有機酸を再生させ、その鉱酸の不溶性カルシウム塩を形成させる。したがって、このプロセスは、望まれないカルシウム塩の副産物を取扱い及び廃棄するための費用と、緩衝剤の直接経費を含む。生体触媒が低pHで効果的に成長し製造することができるならば、これらのコストを減少させ又は削減することができる。
酵母種は、このような低pH発酵用の候補として考えられてきた。多くの酵母は、自然に、ヘキソース糖を発酵させエタノールを産生するが、乳酸のような望まれる有機酸を自然に産生する酵母は少ない。乳酸を産生させることを可能にするように1又はそれ以上の遺伝子を導入して種々の酵母種を遺伝子操作する努力がなされてきた。エタノールを産生する糖代謝を乳酸を産生する糖代謝に変えるために、これらの細胞を遺伝子操作して固有のピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC)遺伝子を削除又は破壊する試みがなされてきた。この仕事は、たとえば、国際公開WO 99/14335、WO 00/71738 A1、WO 02/42471 A2、WO 03/102152 A2及びWO 03/102201 A2に開示されている。これらの公報に記載された努力の多くは、K. marxianusのようなKluyveromyces種や、C. sonorensisやC. methanosorbosaのようなCandida属に分類される種に集中している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機酸発酵プロセスのためのより良い生体触媒を提供してほしいという要望が未だにある。これらの発酵プロセス用の生体触媒は、高容積で特定の生産性のあること、発酵基質から所望の有機酸を高収率で得ること、酸性条件下で合理的効率で成長し生産する能力があること、微好気性、特に嫌気性条件下で成長し生産する能力があること、を達成することができることの望ましい。この生体触媒は単純化された特定の培地を用いてこれらの結果を達成することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ある態様において、本発明は、そのゲノムに組み込まれた少なくとも一つの外来性の乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を有する、I. orientalis/P. fermentans分岐群に属する種の遺伝子操作された酵母細胞である。
また、この発明は、上記第1の態様の遺伝子操作された酵母細胞を、発酵条件下で、発酵性糖を含む発酵液体培地で培養し、乳酸又はその塩を製造することから成る発酵方法である。
また、この発明は、更に、上記第1の態様の遺伝子操作された酵母細胞を、発酵条件下で、発酵性糖を含む発酵液体培地で培養し、乳酸又はその塩を製造することから成る発酵方法であって、前記発酵液体培地のpHが、発酵期間の少なくとも一部の期間で、約1.5〜約4.5の範囲であるこの発酵方法である。
驚くべきことに、本発明の遺伝子操作された酵母細胞は、適度に低いpHで高乳酸濃度の条件に対して優れた耐性を示し、嫌気性又は擬嫌気性条件下においてさえも、緩衝された培地で良好な速度で乳酸を産生することができる。更に、この遺伝子操作された酵母細胞は合成培地でよく成長する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の遺伝子操作された酵母細胞は、宿主酵母細胞にある遺伝子操作を施すことにより作られる。この宿主細胞は、I. orientalis/P. fermentans分岐群に属する種のものである。この分岐群は、最も末端の分岐群であって、Issatchenkia orientalis、Pichia galeiformis、Pichia sp. YB-4149 (NRRL指定番号)、Candida ethanolica、P. deserticola、P. membranifaciens及びP. fermentansの少なくとも一つの種を含む。I. orientalis/P. fermentans分岐群のメンバーは、KurtzmanとRobnettによる"Identification and Phylogeny of Ascomycetous Yeasts from Analysis of Nuclear Large Subunit (26S) Ribosomal DNA Partial Sequences"(Antonie van Leeuwenhoek 73:331-371, 1998)に記載された手法を用いて、酵母種の26SリボソームDNAの可変D1/D2ドメインの分析により特定される。詳しい手法についてはこの文献、特にその349ページを参照されたい。数百の子嚢菌綱(Ascomycetes)からの26SリボソームDNAの可変D1/D2ドメインを分析することによって、I. orientalis/P. fermentans分岐群が非常に近く関連する種を含むことが分った。I. orientalis/P. fermentans分岐群に属するメンバーの26SリボソームDNAの可変D1/D2ドメインは、この分岐群に属す他のメンバーのものに対して、この分岐群に属さない酵母種のものよりも、非常に高い類似性を示す。そのため、I. orientalis/P. fermentans分岐群の他のメンバーは、KurtzmanとRobnettの手法を用いて、それぞれの26SリボソームDNAの可変D1/D2ドメインを比較し、かつこの分岐群の他のメンバーやこの分岐群に属さず近く関連する種のものを比較することにより、特定することができる。
最初に特性を決定されたI. orientalis種はPichia kudriavzeviiと命名された。I. orientalisのアナモルフ(anamorph、無性)はCandida kruseiとして知られている。
特に適した宿主細胞は、I. orientalisの菌株ATCC 32196である。この他の適した宿主細胞は、I. orientalisの菌株ATCC PTA-6658である。
【0008】
本発明の細胞は、そのゲノムに組み込まれた少なくとも一つの機能的で外来性の乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)遺伝子を有する。LDH遺伝子は、例えば、乳酸デヒドロゲナーゼ活性を持つものなど、乳酸デヒドロゲナーゼ酵素をコードする如何なる遺伝子であってもよい。"乳酸デヒドロゲナーゼ活性"とは、ピルベート(pyruvate)からラクタート(lactate)への反応を触媒するタンパク質の活性をいう。乳酸デヒドロゲナーゼ酵素には、酵素委員会番号(Enzyme Commission number)1.1.1.27と1.1.1.28に分類されるものが含まれる(しかしこれらに限定されない)。
こういうわけで、"外来性の"とは、対象の(この場合、LDH遺伝子の)遺伝子材料が宿主菌株に固有でないことを意味する。ここで用語"固有の"は、宿主細胞の野生型細胞のゲノム内に見出される(機能に影響しないような個々の間の変異は別として)遺伝子材料(例えば、ある遺伝子、プロモーター、ターミネーターなど)に関して用いられる。
このLDH遺伝子は、遺伝子操作された酵母細胞をL−又はD−乳酸立体異性体のいずれかを産生せしめることを可能にしてもよい。本発明の遺伝子操作された酵母細胞が、L−及びD−LDH遺伝子の両方を含み、そのためにL−及びD−乳酸立体異性体の両方を産生することも可能である。しかし、L−又はD−LDH遺伝子のいずれかのみが存在して、その細胞がより光学的に純粋な乳酸製品を産生することが好ましい。
【0009】
適したLDH遺伝子として、バクテリア、真菌、酵母又は哺乳類動物から得られたものが含まれる。特定のL−LDH遺伝子の例として、Lactobacillus helveticus、L. casei、Bacillus megaterium、Pediococcus acidilactici、Rhizopus oryzae及びBos taurusのようなウシ起源から得られたものが挙げられる。特定のD−LDH遺伝子の例として、L. helveticus、L. johnsonii、L. bulgaricus、L. delbrueckii、L. plantarum、L. pentosus及びP. acidilacticiから得られたものが挙げられる。このようなL−LDH又はD−LDH遺伝子と同一の機能性遺伝子や、これら遺伝子に少なくとも35%、60%、70%又は80%の相同性を持つ機能性遺伝子が適している。これらの起源のいずれから得られた固有の遺伝子は、必要に応じて、通常の真核細胞の開始コドン(ATG)で始まる配列を提供するため、又はその他の目的のために、突然変異誘発に付されてもよい。好ましいL−LDH遺伝子は、L. helveticusから得られたもの、又はこの遺伝子に少なくとも35%、60%、70%、80%、85%、90%又は95%の相同性を持つものである。この他の好ましいL−LDH遺伝子は、B. megateriumから得られたもの、又はこの遺伝子に少なくとも35%、60%、70%、80%、85%、90%又は95%の相同性を持つものである。この他の好ましいL−LDH遺伝子は、Bos taurusから得られたもの、又はこの遺伝子に少なくとも35%、60%、70%、80%、85%、90%又は95%の相同性を持つものである。好ましいD−LDH遺伝子は、L. helveticusから得られたもの、又はこの遺伝子に少なくとも45%、60%、70%、80%、85%、90%又は95%の相同性を持つものである。
本発明の目的のためのDNA、RNA又はタンパク質の配列の相同性は、デフォルトパラメーターを用いてBLAST(version 2.2.1)を用いて計算したものである。
【0010】
特に適したLDH遺伝子は、酵素をコードし、配列番号93(国際公開WO 03/049525の配列番号45)又は配列番号94(国際公開WO 03/049525の配列番号49)の塩基配列に少なくとも60%、特に80%、85%又は95%の相同性を持つものを含む。また、特に適したLDH遺伝子は、配列番号95又は配列番号96(国際公開WO 03/049525のそれぞれ配列番号46及び50)のアミノ酸配列に少なくとも60%、80%、85%又は95%の相同性を持つアミノ酸配列を持つ酵素ををコードするものを含む。
形質転換された細胞は、単一のLDH遺伝子又は複数のLDH遺伝子、例えば、1〜10のLDH遺伝子、特に1〜5のLDH遺伝子を含んでもよい。形質転換された細胞が複数のLDH遺伝子を含む場合、各遺伝子は同じ遺伝子のコピーでもよく、又は2若しくはそれ以上の異なる遺伝子のコピーを含んでもよい。外来性のLDH遺伝子の複数コピーは宿主細胞のゲノムの単一の位置(この場合、これらは互いに隣り合う)又はいくつかの位置に組み込まれてもよい。
【0011】
外来性LDH遺伝子は、この遺伝子操作された酵母細胞において機能する一つ又はそれ以上のプロモーターと一つ又はそれ以上のターミネーターの転写制御下にある。ここで用語"プロモーター"とは、構造遺伝子(通常約1〜1000bp、好ましくは1〜500bp、特に1〜100bp)の翻訳開始コドンの上流(即ち、5’)に位置し、その構造遺伝子の転写の開始を制御する非翻訳配列をいう。同様に、用語"ターミネーター"とは、構造遺伝子(通常約1〜1000bp、より典型的には1〜500bp、特に1〜100bp)の翻訳終結コドンの下流(即ち、3’)に位置し、その構造遺伝子の転写の終結を制御する非翻訳配列をいう。プロモーター又はターミネーターは、構造遺伝子の位置に対するその位置が、そのプロモーター又はターミネーターがその転写制御を行うような位置にあれば、構造遺伝子に"機能するように連結される"という。
プロモーターとターミネーターの配列は、I. orientalisに固有であってもよく、またその宿主に外来性であってもよい。有用なプロモーターとターミネーターの配列には、特にその外来性遺伝子の導入がその細胞のゲノムの特定位置を目標にしている場合、その宿主に固有のプロモーターとターミネーターの配列のそれぞれの機能部分に対して相同性の高い(即ち、90%以上、特に95%以上、最も好ましくは99%以上の)配列が含まれる。
【0012】
適したタイプのプロモーターは、酵母遺伝子に固有のプロモーターに少なくとも90%、95%又は99%の相同性を持つ。より適したタイプのプロモーターは、宿主細胞に固有の遺伝子のためのプロモーターに少なくとも90%、95%又は99%の相同性を持つ。特に有用なプロモーターには、酵母ピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC)、グリセリン酸燐酸キナーゼ(PGK)及び転写伸長因子−1(TEF−1)遺伝子、特にI. orientalis遺伝子由来のこれらそれぞれ遺伝子のためのプロモーターが含まれる。特別に有用なプロモーターには、I. orientalis PGK遺伝子のためのプロモーターの機能部分が含まれる。
適したタイプのターミネーターは、酵母遺伝子に固有のターミネーターに少なくとも90%、95%又は99%の相同性を持つ。このターミネーターは、宿主細胞に固有の遺伝子のためのターミネーターに少なくとも90%、95%又は99%の相同性を持ってもよい。特に有用なターミネーターには、酵母ピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC)、キシロースレダクターゼ(XR)、キシリトールデヒドロゲナーゼ(XDH)、イソ−2−シトクロムc(CYC)遺伝子又は酵母遺伝子のガラクトースファミリーのターミネーター、特にいわゆるGal 10ターミネーターが含まれる。特別に好ましいターミネーターには、その宿主細胞のPDC遺伝子のためのターミネーターの機能部分が含まれる。
(宿主細胞に)固有のプロモーターとターミネーターを、それぞれ上流と下流のフランキング領域と共に、使用することにより、宿主細胞のゲノムの特定位置へLDH遺伝子を組み込むことを目標とすることができる。LDH遺伝子を組み込むと同時に、例えば、PDC遺伝子のような他の固有の遺伝子が削除される。
異なる外来性LDH遺伝子は、異なるタイプのプロモーター及び/又はターミネーターの制御下にあってもよい。
【0013】
外来性LDH遺伝子は、宿主細胞のゲノムにランダムに組み込まれてもよいし、目標とする一つ又はそれ以上の位置に挿入されてもよい。目標の位置には、削除又は破壊されることが望ましい遺伝子、例えばPDC遺伝子の位置が含まれる。このPDC位置への組み込みは、固有PDC遺伝子の削除又は破壊を伴っても、伴わなくてもよいが、通常このPDC遺伝子を削除又は破壊することが好ましく、そのため、遺伝子操作された酵母細胞はエタノールの産生が少ない。
宿主細胞は、複数のPDC遺伝子を含むかもしれない。例えば、固有I. orientalis細胞は2つのPDC遺伝子を含み、ここではこれらはIoPDC1AとIoPDC1Bと呼ばれる。ATCC PTA-6658を含むいくつかの菌株では、野生タイプのサザン分析で、これらはそれぞれ約8kbpと約10kbpのHindIIIバンドとして現れる。ATCC 32196のような他のI. orientalis菌株では、同様のサイズのバンドを示す対立遺伝子として現れる。宿主細胞が複数のPDC遺伝子を含む場合、細胞がエタノールを産生する能力を破壊するために、それらのうち少なくとも一つを削除又は破壊することが好ましく、それら全部を削除又は破壊することがより好ましい。そのため、I. orientalisにおいて、IoPDC1A又はIoPDC1Bを削除又は破壊することが好ましく、IoPDC1A及びIoPDC1Bを削除又は破壊することがより好ましい。
"削除又は破壊"とは、その遺伝子の全コード領域が削除されるか、又は遺伝子又はそのプロモーター及び/又はターミネーター領域が改変され(例えば、削除、挿入、変異により)、その遺伝子がもはや活性な酵素を産生できないこと、又は非常に減退した活性しか持たない酵素しか産生しないことを意味する。この削除又は破壊は遺伝子工学の手法、強制進化、突然変異及び/又は選択若しくはスクリーニングによって行うことができる。これを行う好ましい手段は、下記に詳細に記載するように、LDH遺伝子を含むカセットでPDC遺伝子を置換することである。
【0014】
宿主細胞の遺伝子操作は、適当なベクターをデザインして構築し、宿主細胞をこれらのベクターで形質転換することによる一つ又はそれ以上の段階を経て行われる。エレクトロポレーション及び/又は化学的(塩化カルシウム又はリチウムアセテートなど)な形質転換法を用いることができる。外来性LDH遺伝子を挿入して酵母菌株を形質転換するための方法は、国際公開WO 99/14335、WO 00/71738、WO 02/42471、WO 03/102201、WO 03/102152及びWO 03/049525に記載されており、これらの方法は、一般的に、本発明に従ってI. orientalisを形質転換するために適用可能である。ベクターは制限酵素で切断してもよいし、環状DNAとして用いてもよい。
一般的に、ベクターはLDH遺伝子並びに関連付けられたプロモーター及びターミネーター配列を含んで用意される。このベクターは直線化又は断片化のための様々なタイプの制限サイトを含んでもよい。更に、ベクターはバックボーン部分(E. coliの増殖のためなど)を含んでもよく、その多くは、商標的に入手可能な酵母やバクテリアベクターから得ることができる。
【0015】
ベクターは一つ又はそれ以上の選択マーカー遺伝子カセットを含むことが好ましい。"選択マーカー遺伝子"は、選択培養培地でこの形質転換した細胞が生存及び/又は成長するために必要なタンパク質をコードする。典型的な選択マーカー遺伝子は、(a)ゼオシン(zeocin、Streptoalloteichus hindustanus由来の遺伝子)、G418(Tn903のカナマイシン耐性遺伝子)、ハイグロマイシン(E. coliのアミノ配糖体系抗生物質耐性遺伝子)、アンピシリン、テトラサイクリン又はカナマイシンのような抗生物質やその他の毒に対する耐性を付与し、(b)その細胞の栄養要求性欠乏を補完する。栄養要求性欠乏の顕著な例として、アミノ酸ロイシン欠乏(例えば、LEU2遺伝子)又はウラシル欠乏(例えば、URA3遺伝子)がある。オロチジン−5’−ホスフェートデカルボキシラーゼ陰性(ura3-)の細胞は、ウラシルを欠く培地では成長できない。このように、URA3遺伝子は、ウラシル欠乏性の細胞のマーカーとして用いることができ、ウラシルを欠く培地上で形質転換体を成功裏に選択できる。機能的URA3遺伝子で形質転換された細胞のみが、個温容な培地でウラシルを合成できる。もし、野生型菌株がウラシル欠乏性ではない場合(例えば、I. orientalisの場合)、その菌株を選択するためのマーカーとしてURA3遺伝子を使うためには、その欠乏性を持つ栄養要求性の変異体を作らねばならない。
【0016】
好ましい選択マーカーは、ゼオシン耐性遺伝子、G418耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子及びMEL5(メリビアーゼ遺伝子)である。選択マーカーカセットは更にこの選択マーカー遺伝子が機能するように連結するプロモーター及びターミネーター配列を含み、I. orientalisで機能する。適当なプロモーターは、上記LDH遺伝子に関して記載したものを含み、このほかに、国際公開WO 99/14335、WO 00/71738、WO 02/42471、WO 03/102201、WO 03/102152及びWO 03/049525に記載されたものも含む。特別に好ましいプロモーターはその宿主細胞のPGK又はPDCプロモーター(又はその機能部分)またはPGK又はPDCプロモーターに対して少なくとも80%、85%、90%又は95%の相同性を持つ配列である。適当なターミネーターは、上記LDH遺伝子に関して記載したものを含む。これらのプロモーター若しくはターミネーター(又は両方)は、LDH遺伝子に用いられるものと同じであってもよい。
目標の組み込みは、目標遺伝子の上流(5’−)隣又は下流(3’−)隣に相同性の高い(80%以上、好ましくは95%以上、最も好ましくは100%の相同性の)領域を構築することにより行われる。これらの領域の一方又は両方は、それぞれプロモーター又はターミネーター領域の一部又は全部と共に、目標のコード領域の一部を含んでもよい。LDHカセット(プロモーターとターミネーターが標遺伝子のものと異なる場合には、関連するプロモーターとターミネーターを含む)と選択マーカー(関連するプロモーターとターミネーターが必要であってもよい)は、ベクターの、目標遺伝子の上流隣又は下流隣に相同性の高い(2つの)領域の間に位置する。既に述べたように、好ましい目標遺伝子はIoPDC1A若しくはIoPDC1B(又は両方)であって、これら遺伝子の一方又は両方が削除又は破壊されることが好ましい。しかし、他の固有遺伝子を、LDH遺伝子カセットを挿入する目標としてもよい。
【0017】
成功した形質転換体は、このマーカー遺伝子又はその他の特徴(乳酸を生産できること、エタノールを生産できないこと、または特定の基質上で成長できることなど)を有利に利用して、公知の方法で選択できる。スクリーニングは、PCR又はサザン分析法を利用して、所望の挿入又は削除が生じたことを確認することや、コピー数を確認することや、宿主ゲノムの遺伝子の組み込み地点を特定することにより、行うことができる。挿入された遺伝子がコードする酵素の活性を得たこと、及び/又は削除された遺伝子がコードする酵素の活性を失ったことは、公知の評価法により確認することができる。
LDH遺伝子の削除又は破壊は、様々な方法で行うことができ、例えば、国際公開WO 99/14335、WO 02/42471、WO 03/04525、WO 03/102152及びWO 03/102201に開示された方法に似た方法などがある。特に(I. orientalisの形質転換に関連して)興味深い方法には、(1)複数のI. orientalis PDC遺伝子の一つの5’及び3’のフランキング領域を、任意に機能的PDC遺伝子の一部と共に、クローニングすること、(2)5’及び3’のフランキング領域を含むベクターを製造すること、(3)このベクターでI. orientalis細胞を形質転換すること、などがある。相同組換えの結果、機能的PDC遺伝子が削除される。IoPDC1Aの5’及び3’のフランキング領域が、ベクター中で、IoPDC1A及びIoPDC1Bの両方を削除又は破壊することが分った。似たような方法を、本発明に有用な他の宿主細胞で、一つ又はそれ以上のPDC遺伝子を削除又は破壊するために用いてもよい。
【0018】
PDC遺伝子が削除又は破壊されたベクターは、宿主細胞のPDC遺伝子の一つの5’及び3’のフランキング部分の間に挿入された、LDH遺伝子のような機能的構造遺伝子を一つ又はそれ以上含んでもよい。この機能的遺伝子は、この機能的遺伝子に連結した機能的プロモーター及びターミネーター配列を含むことが好ましい。このアプローチは、PDC遺伝子の削除と機能的遺伝子の挿入を同時に行うことを可能にする。このベクターは、この構造遺伝子の代わりに、又はこの構造遺伝子に加えて、選択マーカー遺伝子を含んでもよい。再度、この選択マーカーは、ベクターの、目標のPDC遺伝子の5’及び3’のフランキング領域の間に位置し、機能的PDC遺伝子の位置に挿入されることになる。選択マーカーの使用は、成功した形質転換体の選択手段を導入する利点がある。しかし、そのエタノールの産生能力の減退又は削除に基づいて、成功した形質転換体を選択することも可能であり、特に、複数のPDC遺伝子(I. orientalisのIoPDC1A及びIoPDC1B遺伝子の両方など)が削除又は破壊された形質転換体においては、そうである。
【0019】
I. orientalisにおいては、宿主菌株を、いずれかの目標遺伝子の5’隣接領域、関連するプロモーターとターミネーターを含む機能的遺伝子カセット、及び/又は、関連するプロモーターとターミネーターを含む選択マーカー遺伝子、並びにいずれかの目標遺伝子の3’隣接領域から成る単一ベクターで形質転換することにより、IoPDC1A及びIoPDC1Bを一段階で削除することができる。このようなベクターの例として、実施例2BのpMI356ベクターが挙げられる。このようなベクターを用いて形質転換したI. orientalisの形質転換体は、PDC対立遺伝子の一方が削除された形質転換体と、IoPDC1A及びIoPDC1B対立遺伝子の両方が削除された形質転換体を含む。典型的には、PDC対立遺伝子の少なくとも一方が、機能的LDH遺伝子(又は他の構造遺伝子)で置換されている。再度、複数のPDC対立遺伝子を持つ他の宿主細胞に似た方法を用いてもよい。
一方、I. orientalisにおいて、IoPDC1A及びIoPDC1Bを二段階で削除することもできる。例えば、I. orientalisを上記のベクターで形質転換し、一つのPDCが削除された菌株を、同様のベクターで2度目の形質転換を行い、2つ目のPDC対立遺伝子を削除する。後記の実施例2Dと3Bはこのアプローチを例証する。
【0020】
本発明の遺伝子操作された酵母細胞は、その細胞にいくつかの所望の性質を付与するような追加の遺伝子操作を含んでもよい。得に興味深い形質転換は、その細胞にペントース糖を発酵させ、所望の発酵産物を産生する能力を付与する。このような形質転換は、(1)機能的外来性キシロース異性化酵素遺伝子の導入、(2)キシロースからキシリトールへの変換を触媒する酵素を産生する固有遺伝子の削除又は破壊、(3)機能的キシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子の削除又は破壊、及び/又は(4)その細胞に機能的キシルロキナーゼを過剰発現を引き起こす修飾、である。このような遺伝子操作を酵母細胞へ導入するための方法は、例えば、国際公開WO 04/099381に記載されているので、参照されたい。
本発明の発酵方法において、本発明の細胞は、その形質転換された細胞により発酵され得る糖を含む発酵培地で培養される。この糖として、グルコースのようなヘキソース糖、グリカン又はその他のグルコースのポリマー、マルトース、マルトトリオース及びイソマルトトリオースのようなグルコースオリゴマー、パノース、フルクトース及びフルクトースオリゴマーなどが挙げられる。もし細胞がペントース糖を発酵させる能力を付与する遺伝子操作を受けた場合、この発酵培地は、キシロース、キシラン又はその他のキシロースのオリゴマーを含んでもよい。このようなペントース糖は、ヘミセルロースを含んだバイオマスの水解物であることが適している。オリゴ糖の場合、その細胞による発酵のために、これを相当する単糖に消化するための酵素を発酵培地に添加することが必要かもしれない。
【0021】
この培地は典型的には、質素源(アミノ酸、タンパク質、アンモニアやアンモニウム塩などの無機窒素源など)や種々のビタミン、ミネラル等の特定の細胞により要求される栄養素を含むであろう。I. orientalisは、無機源から、窒素、リン及びマグネシウムの必要性を満たす能力を有し、従って、これらの要素を含む無機源を含む化学的に合成培地で成長と発酵ができる能力を有する。従って、本発明の細胞は、このような化学的に合成培地で培養することができる。しかし、また本発明の細胞を、化学的に特定されず、タンパク質、特に消化されたタンパク質、やアミノ酸のような有機窒素源を含んでもよい培地で培養することも可能である。
温度、細胞密度、基質の選択、栄養素の選択などのこの他の発酵条件は、本発明にとって決定的なものではなく、経済的なプロセスを提供するために一般的に選択される。成長段階と製造段階のそれぞれの温度は、上記の培地の凍結温度から50℃の範囲であってもよい。好ましい温度、特に製造段階の温度は、約30〜45℃である。
【0022】
製造段階において、発酵培地中の細胞の濃度は、典型的には約0.1〜20、好ましくは0.1〜5、更に好ましくは約1〜3乾燥細胞(g)/発酵培地(リットル)の範囲である。
この発酵は、好気性、微好気性又は嫌気性のいずれで行われてもよい。発酵中に酸素は添加されないが、発酵の開始段階で発酵培地に酸素が溶けている擬嫌気性条件を用いてもよい。所望ならば、プロセス制御として、国際公開WO 03/102200に記載のような特定の酸素取り込み速度を採用してもよい。本発明の細胞は、嫌気性条件下であっても、良好な容積的及び特定の生産性で、糖を発酵させて乳酸又は乳酸とエタノールの混合物を製造する良好な能力を示す。
【0023】
発酵産物が酸である場合、pHを約5.0〜約9.0、好ましくは約5.5〜約7.0に保つため、発酵の製造段階で培地を緩衝させてもよい。適当な緩衝剤は、形成される乳酸を中和する塩基物質であり、例えば、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、アンモニア、水酸化アンモニウムなどが挙げられる。一般的に、通常の発酵プロセスで用いられてきた緩衝剤もまたここで用いることができる。
緩衝された発酵において、乳酸のような酸性発酵産物は、形成されると、相当する塩に中和される。従って、この酸の回収は、フリーなその酸を再生することを含む。これは典型的には、細胞を除去し、発酵培地を硫酸のような強酸で酸性にすることにより行われる。副産物である塩(カルシウム塩を中和剤として用い、酸性にする試薬として硫酸を用いた場合には、石膏(gypsum)が形成される。)が形成され、これをその酸から分離する。そして、この酸は、T.B. Vickroy, Vol. 3, Chapter 38 of Comprehensive Biotechnology, (ed. M. Moo-Young), Pergamon, Oxford, 1985; R. Datta, et al., FEMS Microbiol. Rev., 1995; 16:221-231; 米国特許第4,275,234号, 同4,771,001号, 同5,132,456号, 同5,420,304号, 同5,510,526号, 同5,641,406号及び同5,831,122号並びに国際公開WO 93/00440に記載されているように、液−液抽出、蒸留、吸収などの技術を用いて回収される。
【0024】
しかし、発酵の終了時点の培地のpHが、酸性発酵産物のpKaと同じ又はそれ以下であるように、この発酵を行うことが好ましい。最終pHは、約1.5〜約3.5の範囲、約1.5〜約3.0の範囲、又は約1.5〜約2.5の範囲であることが適当である。開始時点のpHは、ややそれよリ高くてもよく、例えば、約3.5〜約6.0の範囲、特に約3.5〜約5.5の範囲であり、又は約1.5〜約3.5の範囲のより酸性のpHにあわせてもよい。本発明の細胞は、pHが3.5以下、3.0以下、2.5以下、及び2.0以下である酸性発酵培地においてさえも、よく成長し製造する予想外の能力を有することを示した。LDH遺伝子の挿入やIoPDC1AとIoPDC1B遺伝子の削除のような、基本的な遺伝子操作をされたI. orientalis細胞は、最初に10重量%のグルコースを含む無緩衝培地で、嫌気性条件下で、15〜20g/Lの乳酸を産生することが分った。
低pH発酵培地から乳酸を回収することは、米国特許第6,229,046号に記載の方法のような方法を用いて行うことができる。
本発明のプロセスは、連続法、バッチ法又はこれらの混合法のいずれでも行うことができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を例証するために実施例を支援すが、これらは本発明を限定することを意図するものではない。全ての「部」や「パーセント(%)」は、特記しない限り、重量基準である。
実施例1A: I. orientalis PGK(IoPGK1)プロモーター領域のクローニング;IoPGK1プロモーターとS.cerevisiae Gal10ターミネーターの制御下にあるE. coliハイグロマイシン遺伝子を持つプラスミド(pMI318、図1)の構築
C. sonorensisのゲノムDNAから、配列番号1及び2のプライマーを用いて、国際公開WO 02/042471の実施例22に記載の方法により、C. sonorensis PGK1遺伝子の920bpプローブ断片を得た。成長するI. orientalis菌株からゲノムDNAを単離し、10 mM Tris-HClと1 mM EDTA (pH 8)の混合液(TE)に再懸濁した。このI. orientalisゲノムDNAは、HindIIIで切断され、サザンブロット法が用意され、プローブとしてC. sonorensis PGK1遺伝子を用いて標準方法でハイブリダイズされた。アガロースゲルから約2kbの大きさの断片を単離し、HindIIIで切断されたプラスミドにクローンされた。PGK1プローブを用いたE. coli形質転換体のコロニーハイブリダイゼーションの結果、I. orientalis PGK(IoPGK1)タンパク質をコードする配列の大部分を含むHindIII断片が単離されたが、プロモーター配列が含まれていないことが検証された。
IoPGK1プロモーター領域を含むゲノム断片は、ライゲーションを介したPCR増幅法(Mueller, P.R. and Wold, B. 1989, "In vivo footprinting of a muscle specific enhancer by ligation mediated PCR." Science 246:780-786)により得た。配列番号3のリンカーと配列番号4のリンカーの混合物を、T4 DNA リガーゼ(New England BioLabs)を用いて、HindIIIで消化されたI. orientalisゲノムDNAに連結した。このライゲーション混合物のサンプルを、配列番号5のプライマー0.1μMと配列番号6のプライマー1μMを含むPCR反応50μlの鋳型として用いた。2 UのDynazyme EXTを加えた後に、この反応混合物を94℃で3分間加熱した。この反応を以下のように30回繰り返した:94℃で1分間、68℃で2分間及び72℃で2分間、そして最後に72℃で10分間。この最初のPCR増幅の希釈サンプルを、配列番号7のプライマー0.05μMと配列番号8のプライマー0.5μMを含むネストPCR反応(50μl)の鋳型として用いた。2 UのDynazyme EXTを加えた後に、この反応混合物を94℃で3分間加熱した。この反応を以下のように30回繰り返した:94℃で1分間、67℃で2分間及び72℃で2分間、そして最後に72℃で10分間。
【0026】
約600bpのPCR断片を単離し、配列を決定した。配列番号9と10のネストプライマーを設計し、配列番号11と12のオリゴヌクレオチドを併用して、上記のようにライゲーションを介したPCR増幅法を行った。但し、消化されたI. orientalis DNAを用い、65℃のアニーリング温度を用いた。
鋳型としてI. orientalis ゲノムDNAを用い、プライマーとして配列番号13と14を用いたPCRにより、I. orientalis PGK1プロモーターを増幅した。この断片は、Klenow酵素を用いて充填され、XbaIで切断された。633bpの断片はゲル単離され、PMI270プラスミド(国際公開WO 03/049525の図4)をXhoIで消化し、Klenow酵素とdNTP 0.1nMを用いて充填され、XbaIで消化することにより得られた4428bpの断片に連結された。pMI270プラスミドは、C. sonorensis PGK1プロモーターとS. cerevisiae GAL10ターミネーターに連結されたE. coliハイグロマイシン遺伝子を含む。得られたプラスミドをpMI318と呼ぶ(図1)。プラスミドpMI318は、C. sonorensis PGK1プロモーターとS. cerevisiae GAL10ターミネーターの制御下にあるE. coliハイグロマイシン遺伝子を含む。
【0027】
実施例1B: IoPGK1プロモーターとS.cerevisiae Gal10ターミネーターの制御下にあるハイグロマイシン遺伝子、及びIoPGK1プロモーターとS.cerevisiae CYC1ターミネーターの制御下にあるL. helveticusLDH遺伝子を含むプラスミド(pMI321、図3)の構築
鋳型としてI. orientalis ゲノムDNAを用い、プライマーとして配列番号15と16を用いたPCRにより、実施例1AのI. orientalis PGK1プロモーターを増幅した。この断片は、Klenow酵素と0.1mMのdNTPを用いて充填され、NcoIで切断された。633bpの断片はゲル単離された。
vVR1プラスミド(国際公開WO 03/049525の図7)はS.cerevisiae TFE1プロモーターとS.cerevisiae CYC1ターミネーターの制御下にあるL. helveticusLDH遺伝子を含む。vVR1プラスミドは、XhoIで消化され、Klenow酵素を用いて充填され、NcoIで切断された。vVR1プラスミドからの7386bpの断片は、633bpのIoPGKプロモーター断片にライゲートされた。その結果生成したプラスミドをpMI320(図2)と呼ぶ。プラスミドpMI320は、IoPGK1プロモーターとS.cerevisiae CYC1ターミネーターの制御下にあるL. helveticusLDH遺伝子を含む。
プラスミドpMI318(実施例1A、図1)とpMI320を、ApaIとNotIで消化した。
プラスミドpMI318からの5008bpの断片は、プラスミドpMI320からの1995bpの断片にライゲートされ、プラスミドpMI321(図3)を形成する。
ハイグロマイシン遺伝子(及びそのターミネーター)は、pMI321上のIoPGK1の2つのコピーの間に位置する。この構築物は、プラスミドpMI321で形質転換された細胞を相同組換えにより、ハイグロマイシン遺伝子とそのターミネーターを、IoPGK1の1つのコピーと共に、ループアウト(loop out)する。
【0028】
実施例1C: 野生型I. orientalisを部分的に消化されたプラスミドpMI321(図3、実施例1B)で形質転換することによる、LDH遺伝子とハイグロマイシン耐性遺伝子が挿入されたI. orientalis変異体(CD990)の産出
プラスミドpMI321を部分的にXhoIで消化し、その結果生じた線状又は環状のDNAの混合物を用いて、Gietz et al. (1992, Nucleic Acids Rs. 20:1425)に記載の標準酢酸リチウム法で、指定番号ATCC PTA-6658の野生型I. orientalis株を形質転換した。この形質転換された細胞をハイグロマイシン耐性で選別した。いくつかのハイグロマイシン耐性のコロニーを培養して、培養培地を乳酸産生について分析した。乳酸を産生するハイグロマイシン耐性のコロニーをCD990と呼ぶ。
【0029】
実施例1D: 野生型I. orientalisを部分的に消化されたプラスミドpMI321(図3、実施例1B)で形質転換することによる、LDH遺伝子とハイグロマイシン耐性遺伝子が挿入されたI. orientalis変異体の産出
プラスミドpMI321を部分的にXhoIで消化し、その結果生じた線状又は環状のDNAの混合物を用いて、上記の標準酢酸リチウム法で、指定番号ATCC-32196の野生型I. orientalis株を形質転換した。この形質転換された細胞をハイグロマイシン耐性で選別した。いくつかのハイグロマイシン耐性のコロニーを培養して、培養培地を乳酸産生について分析した。いくつかのコロニーが乳酸を産生することが分った。
【0030】
実施例1E: 野生型I. orientalisを部分的に消化されたプラスミドpMI320及び消化されたプラスミドpMI321(図2、3、実施例1B)で形質転換することによる、LDH遺伝子とハイグロマイシン耐性遺伝子が挿入されたI. orientalis変異体の産出
プラスミドpMI320を部分的にXhoIで消化した。プラスミドpMI321をSmaIとSalIで消化した。消化された材料を一緒にして、上記の標準酢酸リチウム法で、指定番号ATCC PTA-6658の野生型I. orientalis株を形質転換した。この形質転換された細胞をハイグロマイシン耐性で選別した。いくつかのハイグロマイシン耐性のコロニーを培養して、培養培地を乳酸産生について分析した。いくつかのコロニーが乳酸を産生することが分った。
【0031】
実施例1F: 野生型I. orientalisを部分的に消化されたプラスミドpMI320及び消化されたプラスミドpMI321(図2、3、実施例1B)で形質転換することによる、LDH遺伝子とハイグロマイシン耐性遺伝子が挿入されたI. orientalis変異体の産出
プラスミドpMI320を部分的にXhoIで消化した。プラスミドpMI321をSmaIとSalIで消化した。消化された材料を一緒にして、上記の標準酢酸リチウム法で、指定番号ATCC-32196の野生型I. orientalis株を形質転換した。この形質転換された細胞をハイグロマイシン耐性で選別した。いくつかのハイグロマイシン耐性のコロニーを培養して、培養培地を乳酸産生について分析した。一つのコロニーが乳酸を産生することが分った。
【0032】
実施例2A: I. orientalis PGK(IoPGK1)プロモーター領域のクローニング;IoPGK1プロモーターとS.cerevisiae Gal10ターミネーターの制御下にあるE. coliハイグロマイシン遺伝子を持つプラスミド(pMI318、図1)の構築
指定番号ATCC PTA-6658の固有I. orientalis株のゲノムライブラリーを、メーカーの指示書に従ってコスミドベクターSuperCos 1 (Stratagene)に構築した。この株のゲノムDNAからPDC様配列を、配列番号17と18のプライマーを用いてPCR法で増幅した。このゲノムライブラリーを、国際公開WO 03/049525に記載のように、ラベルPCR断片をプローブとして用いてハイブリダイズ法によりスクリーニングした。このPDC遺伝子を含むコスミドクローンを分離し、その配列を解析した。このI. orientalis PDC1AのORFの1000bp〜167bp上流の5'領域を、配列番号19と20のプライマーを用い、鋳型にI. orientalis PDCコスミドDNAを用いてPCR法で増幅した。増幅した遺伝子(開始コドンから終結コドンまで)は配列番号97の配列を有していた。この断片をSalIとSacIで消化した。836bpの断片はゲル単離され、pMI321プラスミド(実施例1B、図3)をSalIとSacIで消化することにより得られた6992bpの断片に連結された。得られたプラスミドをpMI355と呼ぶ(図4)。
【0033】
実施例2B: I. orientalis PDC(IoPDC1A)ターミネーター領域のクローニング;IoPDC1A 5'フランキング領域、IoPGK1プロモーターとS.cerevisiae Gal10ターミネーターの制御下にあるE. coliハイグロマイシン遺伝子、IoPGK1プロモーターとS.cervisiae CYC1ターミネーターの制御下にあるL. helveticus LDH遺伝子、及びIoPDC1A 3'フランキング領域を持つプラスミド(pMI356、図5,6)の構築
PDCの翻訳終結コドンの下流233bp〜872bpの配列に相当するI. orientalis PDC 3'領域を、配列番号21と22のプライマーを用い、鋳型にI. orientalis PDC1AコスミドDNA(実施例2A)を用いてPCR法で増幅した。この断片をApaIとSmaIで消化した。630bpの断片はゲル単離され、pMI355プラスミド(実施例2A、図4)をApaIとSmaIで消化することにより得られた7809bpの断片に連結された。得られたプラスミドをpMI356と呼ぶ(図5)。これは、IoPDC1A遺伝子の5'フランキング領域と3'フランキング領域の間に、pMI355プラスミドからのハイグロマイシンとLDHカセットを含む。
PDCの翻訳終結コドンの上流524bp〜下流217bpの配列に相当するI. orientalis の3'領域を、配列番号23と24のプライマーを用い、鋳型にI. orientalis PDCコスミドDNA(実施例2A)を用いてPCR法で増幅した。この断片をApaIとSmaIで消化した。764bpの断片はゲル単離され、pMI355プラスミドをApaIとSmaIで消化することにより得られた7809bpの断片に連結された。得られたプラスミドをpMI357と呼ぶ(図6)。これは、IoPDC1A遺伝子の5'フランキング領域と3'フランキング領域の間に、pMI355プラスミドからのハイグロマイシンとLDHカセットを含む。pMI37プラスミドは、pMI356プラスミドとは、IoPDC1A遺伝子の3'フランキング領域に関して異なる。
【0034】
実施例2C: 野生型I. orientalisをプラスミドpMI357(図6、実施例2B)で形質転換することによる、PDC遺伝子が欠失し、L. helveticusLDH遺伝子とハイグロマイシン耐性遺伝子が挿入されたI. orientalis変異体(ATCC/357-5)の産出
プラスミドpMI357をSacIとApaIで消化し、これを用いて、上記の標準化学法により、I. orientalis ATCC32196株を形質転換した。
ハイグロマイシン耐性のコロニーをサザン分析して、プラスミドpMI357からのLDH遺伝子が挿入され、対立遺伝子IoPDC1AとIoPDC1Bが削除されていることを確認した。LDH遺伝子を含み、対立遺伝子IoPDC1A又はIoPDC1Bの一つが欠失する形質転換体をATCC/357-5と呼ぶ。
【0035】
実施例2D: 野生型I. orientalisをプラスミドpMI356(図5、実施例2A)で形質転換することによる、PDC遺伝子が欠失し、L. helveticusLDH遺伝子とハイグロマイシン耐性遺伝子が挿入されたI. orientalis変異体(CD1027及びCD1030)の産出
プラスミドpMI356をSacIとApaIで消化し、これを用いて、上記の標準化学法により、I. orientalis ATCC PTA-6658株を形質転換した。
ハイグロマイシン耐性のコロニーを選択した。HindII-XbaIで切断されたゲノムDNAをLhLDHとPDC5'プローブを用いたサザン分析することにより、この形質転換体において、プラスミドpMI356からのLDH遺伝子が挿入され、IoPDC1B遺伝子が削除されていることを確認した。これをCD1030と呼ぶ。LDH遺伝子が挿入され、IoPDC1A遺伝子が欠失した形質転換体をCD1027と呼ぶ。
【0036】
実施例2E: 野生型I. orientalis株をプラスミドpMI356(図5、実施例2B)で形質転換することによる、IoPDC1A遺伝子が欠失し、L. helveticusLDH遺伝子とハイグロマイシン耐性遺伝子が挿入されたI. orientalis変異体(ATCC/356-23)の産出
プラスミドpMI356をSacIとApaIで消化し、これを用いて、上記の標準化学法により、I. orientalis ATCC 32196株を形質転換した。
ハイグロマイシン耐性のコロニーを選択した。HindII-XbaIで切断されたゲノムDNAをLhLDHとPDC5'プローブを用いたサザン分析することにより、この形質転換体において、プラスミドpMI356からのLDH遺伝子が挿入され、対立遺伝子IoPDC1AとIoPDC1Bのうちの一つが削除されていることを確認した。これをATCC/356-23と呼ぶ。
【0037】
実施例3A:IoPDC1A 5'フランキング領域、IoPGK1プロモーターの制御下にあるScMEL5遺伝子、IoPGK1プロモーターとSc CYC1ターミネーターの制御下にあるL. helveticus LDH遺伝子、及びIoPDC1A 3'フランキング領域を持つプラスミドpMI433(図8)の構築
鋳型としてI. orientalis ゲノムDNAを用い、配列番号25と26のプライマーを用いたPCRにより、I. orientalis PGK1プロモーターを、増幅した。この断片は、Klenow酵素と0.1mMのdNTPを用いて充填され、SphIで切断された。669bpの断片はゲル単離された。pMI233プラスミド(国際公開WO 03/049525の図23C)をXhoIで切断した。この断片は、Klenow酵素を用いて充填され、SphIで切断された。4534bpと669bpの断片はライゲートされ、その結果生成したプラスミドをプラスミドpMI319(図7)と呼ぶ。プラスミドpMI319は、S.cerevisiae MEL5(ScMEL5)遺伝子とIoPGK1プロモーター領域を含む。
プラスミドpMI319は、ApaIで切断され、T4ポリメラーゼで末端が鈍化され、NotIで切断された。これは、プラスミドpMI357(図6、実施例2B)をSalIで消化することにより得られた6498bpの断片にライゲートされ、Klenow酵素を用いて末端が鈍化され、次にNotIで切断された。その結果生成したプラスミドは、プラスミドpMI357のハイグロマイチン遺伝子の位置に、ScMEL5遺伝子(及びその固有のターミネーター)を含む。このプラスミドをpMI433(図8)と呼ぶ。
【0038】
実施例3B: 変異体株CD1027(実施例2B)をプラスミドpMI433(図8、実施例3A)で形質転換することによる、IoPDC1A及びIoPDC1B遺伝子が欠失し、L. helveticusLDH遺伝子とScMEL5遺伝子が挿入されたI. orientalis変異体(C258/433-3及びC258/433-4)の産出
変異体株CD1027を、標準化学法により、プラスミドpMI433をSacIとApaIで消化した5.9bpの断片で形質転換した。形質転換体を、種々の酵素の組み合わせで消化されたゲノムDNAをLhLDHとPDC5'プローブを用いたサザン分析することにより、この形質転換体はメリビアーゼ活性を示した。対立遺伝子IoPDC1Bを失い、LhLDHの2番目のコピーを獲得した2つの形質転換体をそれぞれC258/433-3及びC258/433-4と呼ぶ。しかし、この2つの形質転換体において、挿入は異なって行われた。即ち、2つの株において、プラスミドpMI433のLhLDHカセットに相当するLhLDH 3'バンドは異なって表れている。挿入されたLhLDH発現カセットがこれらの形質転換体において完全かどうかは明確ではない。
【0039】
実施例4: 野生型I. orientalisをプラスミドpMI356(図5、実施例2A)で形質転換することによる、一段階の対立遺伝子IoPDC1AとIoPDC1Bが欠失し、Lh LDH遺伝子が挿入されたI. orientalis変異体(CD1184)の産出
実施例3Bに記載した一般的方法により、プラスミドpMI356を用いて、I. orientalis ATCC PTA-6658株を形質転換した。ハイグロマイシンプレートで成長する形質転換株を培養した。サザン分析により、エタノールを産生しない形質転換体を選択し、この形質転換体が対立遺伝子IoPDC1A及びIoPDC1Bの両方を失い、LhLDH遺伝子の少なくとも1コピーが挿入されたことを確認した。この株をCD1184と呼ぶ。
【0040】
実施例5: 野生型I. orientalis株ATCC32196をプラスミドpMI356(図5、実施例2B)で形質転換することによる、一段階の対立遺伝子IoPDC1AとIoPDC1Bが欠失し、Lh LDH遺伝子が挿入されたI. orientalis変異体(CD1270)の産出
実施例3Bに記載した一般的方法により、プラスミドpMI356を用いて、I. orientalis ATCC 32196株を形質転換した。ハイグロマイシンプレートで成長する形質転換株を培養した。サザン分析により、エタノールを産生しない形質転換体を選択し、この形質転換体が対立遺伝子IoPDC1A及びIoPDC1Bの両方を失い、LhLDH遺伝子の1コピーが挿入されたことを確認した。この株をCD1270と呼ぶ。
【0041】
実施例6: 非緩衝合成培地における、CD990(実施例1C)、ATCC/357-5(実施例2C)、ATCC 356-23(実施例2E)、CD1030(実施例2D)、CD1184(実施例4)及びCD1270(実施例5)の各株の、微好気性振盪フラスコキャラクタリゼーション
100g/Lのグルコースで補足され、アミノ酸を含まない酵母窒素ベース(YNB)50mLを含む250mLバッフル付フラスコで、形質転換体CD990、ATCC/357-5、ATCC 356-23、CD1030、CD1184及びCD1270を別々に培養した。培養は緩衝されていないので、培地のpHは乳酸が製造されると共に下がり、最終的にそれぞれpHが2.0±0.1まで下がる。各フラスコは、酵母ペプトンプラスグスコースプレート上で成長した細胞をOD6000.2まで接種した。培養は、30℃で100rpmの振盪条件に保った。培養中に定期的にサンプルが抜き取られ、OD600が測定された。各サンプルから遠心分離により細胞が回収され、上澄み中の乳酸、グルコース及びエタノールをHPLCで分析した。
HPLC分析は、Waters 2410微分屈折計とWaters 2487 dual λ吸収検知器を備えたWaters 2690 Separation ModuleとWaters System Interfase Module液体クロマトグラフィーで行った。液体クロマトグラフィーのカラムは50x7.8mm Fast Juice カラム(Phenomenex)と100x7.8mm Fast Acid分析カラム(Bio-Rad)を用いた。これらのカラムは、60℃の水中で2.5mMの硫酸により平衡され、流量0.5ml/分の水中で2.5mMの硫酸により抽出された。Waters Millennium ソフトウエアを用いてデータが取られた。
【0042】
単一のPDC欠失株(ATCC/357-5、ATCC 356-23及びCD1030)の全てはエタノールと乳酸の両方を産生した。これら3株のグルコース消費量は、168時間の培養期間中ほぼ線状であり、約72時間後には約50%のグルコースが消費され、約168時間後にはほぼ全てのグルコースが消費された。これらの株は、それぞれ168時間後に20-24g/Lのエタノールを産生した。約96時間後に乳酸の産生はピークになり、これらの株は、それぞれ15-20g/Lの乳酸を産生した。その後、これらの株は少量の乳酸を消費した。これらの株の乳酸の収率は、約48時間後にピークになって39%を示し、その後、乳酸の消費と継続するエタノールの産生により下がった。
PDC欠失ではない株CD990は、単一のPDC欠失株に近い性能を示した。
二重のPDC欠失株(CD1184及びCD1270)は、乳酸は産生するが、エタノールは産生しない。これらの株は、他の株に比べて、グスコースをゆっくり消費し、168時間後に約48-55%のグルコースが未消費であった。CD1270株は培養の最初の96時間に渡って乳酸を産生したが、その後、乳酸力価はほんのわずかしか増えなかった。CD1270株の乳酸の収率のピークは約56%であった。CD1184株は、培養の全期間に渡って乳酸を産生し、培養の最後の乳酸力価は約31g/Lであった。この株の乳酸収率は約55%であった。
【0043】
実施例7: 緩衝合成培地における、CD990(実施例1C)、CD1030(実施例2D)、CD1184(実施例4)及びCD1270(実施例5)の各株の、微好気性振盪フラスコキャラクタリゼーション
酵母ペプトンプラス5%グスコース培地で、形質転換体CD990、CD1030、CD1184及びCD1270を別々に培養した。YNB、5%グルコース、0.5M MESを含み培地のpHが5.5の各フラスコに、これらの細胞をOD600=0.1まで接種した。これらのフラスコを、30℃で250rpmの振盪条件で一晩保温した。次に、これらの細胞を、それぞれ、YNB 50ml、10%グルコース、4gのCaCO3を含むフラスコにOD600=12まで分けて入れ、30℃で100rpmの振盪条件で5日間保温した。培養中に定期的にサンプルが抜き取られ、OD600が測定された。各サンプルから遠心分離により細胞が回収され、実施例6に記載のように、上澄み中の乳酸、グルコース及びエタノールをHPLCで分析した。
単一のPDC欠失株CD1030はエタノールと乳酸の両方を産生した。この株は、48時間で全てのグルコースを消費し、約56g/Lの乳酸を産生した。この株の乳酸収率は丁度60%下であった。この株は、約13g/Lのエタノールを産生した。この性能は、LhLDH遺伝子を持ち、いずれのPDCも欠失していないCD990の性能に極めて近い。
二重のPDC欠失株(CD1184及びCD1270)は、再び、乳酸は産生するが、エタノールは産生しなかった。CD1270株は、CD1184株よりわずかに早くグスコースを消費したが、CD1030株とほぼ同程度であった。CD1270株の乳酸力価は、50時間後に約85g/Lでピークに達し、その後グルコースが使い尽くされて乳酸を消費し始めると、わずかに下がった。
この株の乳酸収率は50時間後に約85%であった。CD1184株は、50時間後にグスコースを約90%消費し、次の72時間で残りを消費した。この乳酸力価の最高値は約73g/Lであり、乳酸収率の最高値は約80%であった。
【0044】
実施例8: 緩衝合成培地における、CD990(実施例1C)、CD1030(実施例2D)、CD1184(実施例4)及びCD1270(実施例5)の各株の、微嫌気性振盪フラスコキャラクタリゼーション
酵母ペプトンプラス2%グスコース培地で、形質転換体CD990、CD1030、CD1184及びCD1270を別々に培養した。酵母ペプトン、10%グルコースを含む各フラスコに、これらの細胞を接種し、30℃で250rpmの振盪条件で一晩保温した。次に、これらの細胞を、それぞれ、酵母ペプトン 50ml、10%グルコースを含むフラスコにOD600=13まで分けて移した。これらのフラスコは、ウォーターロックでシールされ、酵母ペプトン 50ml、10%グルコースを中の100rpmの振盪条件で30℃で約6日間保温した。しかし、フラスコの頭部のスペースから空気が除去されず、溶解した酸素を除去する手段がとられなかった。従って、これらの培養は、厳密には嫌気性ではなく、少なくとも培養の初期には、いくらかの空気が使用可能になっていた。
ブロスのpHは培養中に産生される乳酸のために3.2±0.1に下がった。
培養中に定期的にサンプルが抜き取られ、OD600が測定された。各サンプルから遠心分離により細胞が回収され、実施例6に記載のように、上澄み中の乳酸、グルコース及びエタノールをHPLCで分析した。
単一のPDC欠失株CD1030は、24時間後に約19g/Lの乳酸を産生し、72時間後に約24g/Lの乳酸を産生し、141時間後に約25g/L以上の乳酸を産生した。PDCが欠失していないCD990株は、24時間後に約20g/Lの乳酸を産生し、141時間後に約22g/Lの乳酸を産生した。CD990株とCD1030株の両者は、乳酸と同様にエタノールを産生した。
二重のPDC欠失株CD1184は、24時間後に約15g/Lの乳酸を産生し、72時間後に約18g/Lの乳酸を産生した。二重のPDC欠失株CD1270は、24時間後に約15.5g/Lの乳酸を産生し、72時間後に約14.5g/Lの乳酸を産生し、141時間後に約19.5g/Lの乳酸を産生した。
【0045】
実施例9A: pH3におけるCD1184株(実施例4)の微好気性バッチ培養
硫酸アンモニウム、リン酸一カリウム、硫酸マグネシウム、微量元素、ビタミン及び83g/Lのグルコースを含む合成培地を含む二重の単一段階バッチ培養用反応容器に1mLのCD1184株を接種した。培地のpHを細胞を入れる前に3.3に合わせた。この細胞を、300rpmの振盪及び0.1vvmのエアレーション条件で30℃で培養した。これらの条件で、2.9-3.1mmol/L/hの酸素取り込み速度になる(国際公開WO 03/102200参照)。この培養のpHは、細胞が成長し乳酸の産生を始めると共に3.0に下がる。その後、pHは、水酸化カリウムを添加して、3.0に維持される。
HPLC分析を、上記と同様に行った。この条件で、〜120時間の発酵後、微生物は67g/Lの乳酸を産生した。ラクタートの産生速度は0.62g/L/hrで、グルコースに対するラクタートの収率は0.76g/gであった。
【0046】
実施例9B: pH3におけるCD1184株(実施例4)の好気性バッチ培養
硫酸アンモニウム、リン酸一カリウム、硫酸マグネシウム、微量元素、ビタミン及び90g/Lのグルコースを含む合成培地を含む単一段階バッチ培養用反応容器に1mLのCD1184株を接種した。培地のpHを細胞を入れる前に3.3に合わせた。この培養のpHは、細胞が成長し乳酸の産生を始めると共に3.0に下がる。その後、pHは、水酸化カリウムを添加して、3.0に維持される。この細胞を、490rpmの振盪及び0.1vvmのエアレーション条件で30℃で培養した。これらの条件で、8mmol/L/hの酸素取り込み速度になる(国際公開WO 03/102200参照)。約50時間発酵した後に、追加の40g/Lのグルコースを加えた。
HPLC分析を、上記と同様に行った。この条件で、〜90時間の発酵後(約18時間の停滞期を含み、この間わずかの発酵が起こる。)、微生物は80g/Lの乳酸を産生した。全バッチ発酵に渡って、ラクタートの産生速度は1.0g/L/hrで、グルコースに対するラクタートの収率は0.71g/gであった。停滞期(18時間)の最後と、力価が70g/Lに達した時(69時間)の間の期間にわたって、ラクタートの産生速度は1.5g/L/hrで、グルコースと水酸化カリウムの添加の希釈効果を考慮すると、グルコースに対するラクタートの収率は0.75g/gであった。
【0047】
実施例10A: S.cerevisiae MEL5遺伝子カセットを同一のK. thermotoleransリピート間に含むプラスミドpMI433(pMI445、図11)の構築
固有K. marxianus株のゲノムDNAから、BamHIとSalIの制限サイトを導入して、配列番号27と28のプライマーを用いたPCRにより、プロモーターとターミネーターを含む完全K. marxianus CYB2 (KmCYB2)遺伝子カセットを、増幅した。このPCR産物を、BamHIとSalIで消化された市販のpUC18ベクター(Invitrogen Corp., Carlsbad, CA)にライゲートした。その結果のプラスミドをpMM25(図9)と呼ぶ。
K. thermotolerans 株のゲノムDNAから、SphIとSalIの制限サイトを導入して、配列番号30と31のプライマーを用いたPCRにより、配列番号29の配列(705bp)が特定された。このK. thermotolerans配列は活性なタンパク質をコードするものではない。プラスミドpMM25をSphIとSalIで消化し、これにこのK. thermotolerans配列をKmCYB2遺伝子カセットの上流(5')にライゲートし、プラスミドpMM27を形成した。
同じK. thermotolerans配列が、BamHIとXmaIの制限サイトを追加して、配列番号32と33のプライマーを用いたPCRにより増幅された。プラスミドpMM27を、BamHIとXmaIで消化し、これにこのK. thermotolerans配列をKmCYB2遺伝子カセットの下流(3')にライゲートし、プラスミドpMM28(図10)を形成した。プラスミドpMM28は、同じ方向の同一のK. thermotolerans配列のフランキング領域を持つKmCYB2カセットを含む。
プラスミドpMM28をBamHIで消化し、Klenow酵素を用いて充填され、SphIで切断された。このようにして得られた4077bpの断片を、pMI433(図8、実施例3A)をNotIで切断して得られた2317bpの断片にライゲートし、Klenow酵素を用いて充填され、SphIで切断された。得られたプラスミドをpMI445(図11)と呼ぶ。
【0048】
実施例10B: I. orientalisからCYB2相同体の分離
成長するI. orientalis株から得られたゲノムDNAライブラリーから、KmCYB2遺伝子をプローブとして用いて、CYB2相同体を分離した。このプローブは、鋳型としてK. marxianusゲノムDNAを用い、プライマーとして配列番号34と35を用いたPCRにより合成され、32Pで標識された。このようにして得られたKmCYB2遺伝子を、I. orientalisのゲノムライブラリーからI. orientalis CYB2遺伝子を分離するために用いた。6つのI. orientalisコスミドクローンから得たEcoRIで切断されたDNAと野生型I. orientalis株から得たゲノムDNAを含むサザンブロットを用意し、KmCYB2遺伝子でハイブリダイズされた。〜1.5kbpのバンドが検出され、ゲルから単離され、EcoRIで消化されたpBluescript SK(-)プラスミドにクローンされた。これらのバンドは、M13逆順プライマーを用いて配列解析された。配列特異的プライマーは得られた配列に基づいて設計された。2つのCYB2遺伝子IoCYB2AとIoCYB2Bが特定された。このコード領域と約1kbpの各クローンの5'と3'のフランキング領域が配列解析された。その結果、配列番号36と37の配列が特定された。
【0049】
実施例10C: I. orientalis PDC1Aプロモーター、K. thermotolerans配列、ScMEL1カセット、第2の同一K. thermotolerans配列、LhLDH遺伝子カセット及びI. orientalis PDC1Aターミネーターを含むプラスミド(pMI447、図14)の構築
the National Research Energy Laboratories (Golden, Colorado)からベクターpNC16を得た。このプラスミドはS.cerevisiae PDC1プロモーターとS.cerevisiae Gal10ターミネーターの制御下にあるS.cerevisiae MEL1遺伝子を含む。このMEL1遺伝子カセットは、BglIIとSacIの制限サイトを追加して、配列番号38と39のプライマーを用いたPCRにより増幅された。プラスミドpMM28(図10)をBglIIとSacIで消化し、MEL1カセットにライゲートした。得られたプラスミドをpMM31と呼ぶ。これは、繰返しK. thermotolerans配列のフランキング領域を持つMEL1カセットを含む。
KmCYB2コーディング領域の3'の〜2kbpフランキング領域を、鋳型としてゲノムDNAを用い、XmaIとSacIの制限サイトを導入して、配列番号40と41のプライマーを用いたPCRにより、増幅した。その結果得られた断片を、XmaI/SacIで消化されたpMM31プラスミドにライゲートし、それ自体はMEL1カセットの下流にあるK. thermotolerans配列の下流(3')の3'CYB2フランキング領域に挿入した。
【0050】
KmCYB2コーディング領域の5'の〜2kbpフランキング領域を、鋳型としてゲノムDNAを用い、AatIIとNarIの制限サイトを導入して、配列番号42と43のプライマーを用いたPCRにより、増幅した。その結果得られた断片を、AatII/NarIで消化されたpMM32プラスミドにライゲートした。その結果得られたプラスミド(pMM35、図12)は、順に、5'KmCYB2フランキング領域、第1の同一K. thermotolerans配列、MEL1カセット、第2の同一K. thermotolerans配列及び3'KmCYB2フランキング領域を含む。
K. thermotolerans配列は、鋳型としてpMM35プラスミドを用い、配列番号44と45のプライマーを用いたPCRにより、増幅された。このPCR産物はNotIとSpeIを用いて消化された。このようにして得られた712bpの断片を、pMI433(図8、実施例3A)をSpeIとNotIで切断して得られた8798bpの断片にライゲートした。その結果得られたプラスミドをpMI446(図13)と呼ぶ。これは、順に、I. orientalis PDCプロモーター、ScMEL5遺伝子カセット、K. thermotolerans配列、LhLDHカセット及びI. orientalis PDC1Aターミネーターを含む。
このK. thermotolerans配列は、鋳型としてpMM35プラスミドを用い、配列番号46と47のプライマーを用いたPCRにより、増幅された。このPCR産物はSalIを用いて消化された。このようにして得られた711bpの断片を、pMI446プラスミドの9510bpのSalI断片にライゲートした。その結果得られたプラスミドをpMI447(図14)と呼ぶ。これは、順に、I. orientalis PDCプロモーター、第1のK. thermotolerans繰返し配列、ScMEL5カセット、第2のK. thermotolerans繰返し配列、LhLDH遺伝子カセット及びI. orientalis PDCターミネーターを含む。
【0051】
実施例10D: K. thermotolerans配列、ScMEL5遺伝子カセット、第2の同一K. thermotolerans配列及びIoCYB2Aターミネーターを含むプラスミド(pMI448、図15)の構築
ORFの下流〜90〜676bpのIoCYB2A遺伝子の3'フランキング領域を、鋳型としてI. orientalis CYB2A遺伝子を含むコスミドクローンを用い、配列番号48と49のプライマーを用いたPCRにより、増幅した。このPCR産物はSacIとSmaIを用いて消化された。このようにして得られた607bpの断片を、pMI445(図11、実施例10A)をSacIとSmaIで切断して得られた6386bpの断片にライゲートした。その結果得られたプラスミドをpMI448(図15)と呼ぶ。
【0052】
実施例10E: I. orientalisからURA3遺伝子の分離
I. orientalis URA3遺伝子(IoURA3)を、配列番号50と51のプライマーを用いたPCRにより、固有I. orientalis株のゲノムDNAから増幅された。このようにして〜650bpの断片が得られ、その配列解析から、この断片は他の酵母のURA3遺伝子に相同性が近いことを確認した。この〜650bpの断片を、固有I. orientalis株のゲノムコスミドライブラリーから、全長遺伝子を単離するためのプローブとして用いた。一つのクローンが得られ、これは精製されて、配列解析された。このクローンは、IoURA3機能遺伝子とフランキング領域を含み、配列番号52の配列を含む。この遺伝子のORFは、262のアミノ酸から成るタンパク質をコードする。このアミノ酸配列は配列番号53で表される。
【0053】
実施例10F: IoURA3プロモーター、同一のK. thermotolerans配列の間にあるScMEL5カセット、LhLDH遺伝子カセット及びIoURA3ターミネーターを含むプラスミドpMI457(図16)の構築と、IoURA3プロモーター、同一のK. thermotolerans配列の間にあるScMEL5遺伝子カセット及びIoURA3ターミネーターを含むプラスミドpMI458(図17)の形質転換
I. orientalisのIoURA3 3'フランキング領域を、鋳型としてURA3遺伝子を含むI. orientalisコスミドクローンを用い、配列番号54と55のプライマーを用いたPCRにより、増幅した。その結果得られた630bpの断片を、SmaIとApaIで消化し、pMI447(実施例10C、図14)のSmaI/ApaI断片にライゲートし、プラスミドをpMI455を得た。プラスミドpMI455は、I. orientalis PDCプロモーター、K. thermotolerans繰返し配列の間にあるScMEL5カセット、LhLDH遺伝子カセット及びIoURA3 3'フランキング領域を含む。
I. orientalisのIoURA3 5'フランキング領域を、鋳型としてURA3遺伝子を含むI. orientalisコスミドクローンを用い、配列番号56と57のプライマーを用いたPCRにより、増幅した。その結果得られた554bpの断片を、SphIで消化し、pMI448(実施例10C、図15)の6994bpのSphI切断断片にライゲートし、プラスミドpMI456を得た。プラスミドpMI456は、IoURA3プロモーター、K. thermotolerans繰返し配列の間にあるScMEL5遺伝子カセット及びI. orientalis CYB2Aターミネーターを含む。
プラスミドpMI455をSacIとSalIで切断し、その結果の8542bp断片を、pMI456の1264bpのSacI-XhoI断片にライゲートし、プラスミドをpMI457(図16)を得た。
プラスミドpMI457をNotIとSmaIで切断し、Klenow酵素を用いて充填し、その結果の7834bp断片を、再度ライゲートし、プラスミドをpMI458(図17)を得た。
【0054】
実施例10G: 変異体CD1184(実施例4)をプラスミドpMI457(図16、実施例10F)で形質転換することによる、固有URA3遺伝子(及びURA3欠失)の位置に挿入された2コピー(CD1439)及び1コピー(CD1440)のLhLDH遺伝子とScMEL5カセットを有するI. orientalis変異体(CD1439及びCD1440)の産出
YPD + X-α-galプレート上で、実施例3Bに記載の一般的方法を用いて、変異体CD1184(実施例4)をプラスミドpMI457で形質転換した。ScMEL5遺伝子を含む形質転換体を青色で特定した。これらの形質転換体を、配列番号58と59のプライマーを用いたPCRにより、URA3の組込みを特定した。更に、EcoRV-HindIIIとNcoI-BsmIで消化されたDNAをサザン分析し、陽性の形質転換体を特定した。鋳型としてI. orientalis URA3遺伝子を含むコスミドクローンを用い、配列番号56と55のプライマーを用いて、ジゴキシゲニンで標識されたURA3プローブを合成した。予想されたバンドを示す形質転換体をCD1439と呼ぶ。CD1439株はCD1184株と同じ遺伝子背景を有するが、固有URA3遺伝子の位置に更に1コピーのLhLDH遺伝子とScMEL5カセットを有する点が異なる。
CD1440株も同様にして作られるが、プラスミドpMI458で形質転換される点が異なる。プラスミドpMI458は、LhLDHカセットを欠くが、このほかは、プラスミドpMI457と同じ効果を持つ。CD1439株とCD1440株は、LhLDHカセットの数以外は同じ遺伝子背景を有する。
【0055】
実施例11: CD1184(実施例4)、CD1439(実施例10F)及びCD1440(実施例10F)各株の、微好気性振盪フラスコキャラクタリゼーション
50mlのYP+100g/Lグルコースを含むバッフルなしのフラスコに、CD1439及びCD1440を別々にOD6000.15まで接種した。このフラスコを30℃で100rpmの振盪条件に保ち、22、47、62、91、119及び143時間後に分析評価した。
酵素活性測定のためにサンプル(5ml)を遠心分離により回収した。細胞ペレットを、2 mM EDTAを加えた10 mMの冷K2HPO4/KH2PO4 (pH 7.5)で洗浄した。洗浄したペレットを同じ緩衝液1mlに再懸濁し、-70℃に保持した。サンプルを室温で解凍し、2 mM MgCl2、1 mM DTT及びProtease Inhibitor (EDTA-free, Roche)を加えた均質化緩衝液(100 mM K2HPO4/KH2PO4 (pH 7.5))で洗浄した。洗浄したサンプルを均質化緩衝液0.5mlに再懸濁し、ホモジェナイザ(Bead Beater homogenizer)を用いて0.5mlのガラスビーズと共に30秒間均質化した。次にこのサンプルを4℃d14,00rpmで30分間遠心分離収した。その上澄みを、0.4 mM NADH、5 mM フルクトース-1,6-ジホスフェート及び2 mMピルベートを含む酢酸ナトリウム緩衝液中で、Cobas MIRA自動分析器を用いて分光学的(A340)に分析し、LDH活性を調べた。1分間に1μmolのNADHをNAD+に変換する活性量として、1Uの活性が決定された。タンパク質濃度は、タンパク質標準としてウシガンマグロブリンを用いて、Bio-Rad法により決定された。
CD1184、CD1439及びCD1440の各株全ては、ほぼ同じ速度でグルコースを消費し、全ては約55-60g/Lのラクタートを産生した。それぞれは、約0.6g/Lのピルベートと6g/Lのグリセロールを産生した。CD1439株のLDH活性は、CD1440株に比べて、LhLDHカセットの2つ目のコピーの存在のために、培養の期間中約40%高かった。
【0056】
実施例12A: 上流と下流のフランキング領域と共にI. orientalis 固有GPD1遺伝子のクローニング
いくつかの酵母株(S. cerevisiae, K. marxianus, Y. lipolytica, P. jadinii, D. hansenii及びC. glabrata)由来の公知のグリセロール-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼを並べて、種々の遺伝子の間で高度に保存されている領域を特定した。相同性の高いこれらの領域に、2セットの縮合プライマーを設計した。これらセットは、それぞれ、配列番号60と61、及び配列番号62と63である。最初のプライマーセットを用いて、鋳型にI. orientalis ゲノムDNAを用いてPCR法で増幅したところ、予想通りに、〜200bpの産物が得られた。次に、再び2番目のプライマーセットを用いて、鋳型にI. orientalis ゲノムDNAを用いてPCR法で増幅したところ、予想通りに、〜400bpの産物が得られた。これら2つのPCR産物をゲル精製し、同じプライマーを用いて配列解析を行った。このようにして得た部分配列を用いて、ゲノムウォーキングのためにプライマーを設計した。ゲノムウォーキングは、配列番号64と65のプライマーと配列番号66と67のネストプライマー(nested PCR primers)を用いて、BD Clontech Genome Walking Kitを用いてメーカーの指示書に従って行われた。上流と下流の両方のゲノムウォークから得られた配列は並べられ、以前得られた部分配列と合わされて、I. orientalis グリセロール-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼ遺伝子を形成した。
【0057】
実施例12B: I. orientalis CYB2 5'フランキング領域、K. thermotolerans直接繰返し配列の間のScMEL5遺伝子カセット及びI. orientalis CYB2 3'フランキング領域を含むプラスミド pMI449(図18)とpMI454(図19)の構築
プラスミド pMM28(図10、実施例10A)をBamHIで切断し、Klenow酵素を用いて充填し、SalIで切断した。このようにして得られた4077bpの断片を、pMI433(図8、実施例3A)のNotI(Klenow酵素を用いて充填された。)-SalI 2317bpの断片にライゲートした。その結果得られたプラスミドをpMI445と呼ぶ。
I. orientalis L-タクタート:フェリチトクロームc酸化還元酵素(IoCYB2A)遺伝子の3'フランキング領域(予想されたORFの下流90〜676bpの配列に相当する。)を、鋳型にI. orientalis CYB2-2コスミドクローンを用いて、配列番号68と69のプライマーを用いてPCR法で増幅した。この断片をSacIとSmaIで消化し、607bpの断片を、pMI445プラスミドのSacI-SmaIの6386bpの断片に連結した。得られたプラスミドをpMI448と呼ぶ。
IoCYB2A 5'フランキング領域(予想されたORFの上流913〜487bpの配列に相当する。)を、鋳型にI. orientalis CYB2-2コスミドクローンを用いて、配列番号70と71のプライマーを用いてPCR法で増幅した。この断片をSphIで消化し、454bpの断片を、pMI448を部分的に消化することにより得られた6993bpのSphI断片に連結した。得られたプラスミドをpMI449(図18)と呼ぶ。
IoCYB2A 5'フランキング領域(予想されたORFの上流446〜7bpの配列に相当する。)を、鋳型にI. orientalis CYB2-2コスミドクローンを用いて、配列番号72と73のプライマーを用いてPCR法で増幅した。この断片をSphIで消化し、493bpの断片を、pMI448を部分的に消化することにより得られた6993bpのSphI断片に連結した。得られたプラスミドをpMI453と呼ぶ。
IoCYB2A 3'フランキング領域(予想された終止コドンの上流402〜下流77bpの配列に相当する。)を、鋳型にCYB2-2コスミドクローンを用いて、配列番号74と75のプライマーを用いてPCR法で増幅した。この断片をApaIとSmaIで消化し、506bpの断片を、pMI453プラスミドのApaI-SmaIの6886bpの断片に連結した。得られたプラスミドをpMI454(図19)と呼ぶ。
【0058】
実施例12C: IoGPD1遺伝子の上流断片、第1のK. thermotolerans直接繰返し配列、MEL5遺伝子カセット、第2のK. thermotolerans直接繰返し配列及びIoGPD1遺伝子の下流断片を含むプラスミド(pBH165、図20)の構築
プラスミド pMI449(図18、実施例12B)をNdeI及びSbfIで切断し、5'CYB2Aフランキング相同体を切除した。6.8kb断片をゲル精製し、脱ホスホリル化した。実施例12AのIoGPD1遺伝子の302bp断片(その遺伝子の開始コドンから1-302bpに相当する。)を、配列番号76と77のプライマーを用いてPCR法で増幅した。このPCR産物をゲル精製し、NdeI及びSbfIで切断し、pMI449から得た6.8kbpの断片にライゲートし、プラスミド pBH164を構築した。次に、このプラスミド pBH164をXmaI及びEcoRIで切断し、3'CYB2Aフランキング相同体を切除した。6.5kb断片をゲル精製し、脱ホスホリル化した。実施例12AのIoGPD1遺伝子の346bp断片(その遺伝子の開始コドンから322-668bpに相当する。)を、配列番号78と79のプライマーを用いてPCR法で増幅した。このPCR産物をゲル精製し、XmaI及びEcoRIで切断し、pBH164から得た6.5kbpの断片にライゲートし、プラスミドpBH165を構築した。
プラスミド pBH165は、IoGPD1遺伝子の302bp断片、第1のK. thermotolerans直接繰返し配列、MEL5遺伝子カセット、第2のK. thermotolerans直接繰返し配列及びIoGPD1遺伝子の346bp断片を含む。固有IoGPD1遺伝子に位置に挿入(その遺伝子の欠失)とそれに続くMEL5遺伝子カセットのループアウトが設計されている。
【0059】
実施例12D: 変異体株CD1184(実施例4)をプラスミドpMI449(図18、実施12B)とプラスミドpMI454(図19、実施12B)で続いて形質転換し、それに続く突然変異によるI. orientalis変異体(CD1496)の産出
変異体株CD1184を、酢酸リチウム法で、プラスミドpMI449で形質転換し、YPD + X-α-galプレート上で、形質転換体(青色)をメリビアーゼ活性に基づいて選択した。いくつかの形質転換体について、CD1184株のIoCYB2A遺伝子の置換を、コロニーPCRとサザン分析により確認した。これらの形質転換体の一つから、K. thermotolerans繰返し配列を介した相同組換えによって、MEL5マーカーがループアウトされ、それはサザン分析で確認された。次に、第2のCYB2A対立遺伝子がプラスミドpMI454を用いた形質転換により欠失された。形質転換体は、1000bpのCYB2A特異的PCR産物の不存在が、コロニーPCRにより分析された。pMI454からのMEL5マーカーは、前と同様に、相同組換えによってループアウトされ、第2のCYB2A対立遺伝子が欠失された。この形質転換体をCD1436と呼ぶ。CD1436株では、CYB2A対立遺伝子の両方が欠失し(機能的L-LDH遺伝子カセットで置換され)、その2つのIoCYB2遺伝子のそれぞれが欠失する。
新鮮なYPDプレートからCD1436株の細胞を2mlのホスフェート緩衝食塩水にOD600 6まで再懸濁した。この細胞懸濁液の12試料(200μl)を12の14mlふた付きチューブに取り分けて、12個のチューブのうちの10個に8μlのエチルメタンスルホネート(EMS, Sigma Chemical Co., St. Louis, MO, catalog # M0880, 1.17g/mL溶液)を加えた。次に、残った2個のチューブを30℃で60分間振盪し(225rpm)、その細胞の90-99%を殺した。EMSに暴露後、12個のチューブの細胞をペレット化し、5.0% Na2S2O3で2度洗浄してEMSを中和し、水で一度洗浄した。変異が起きた細胞を、200μLのYP+20g/Lグルコース培地で回復させ、次に、PDA+35 g/L乳酸プレート上で培養し、30℃で一週間保温した。CD1436よりも多くの乳酸を産生し、より少なくグリセロールを産生する株をCD1496と呼ぶ。
【0060】
実施例12E: CD1196株(実施例12D)をプラスミドpBH165(図20、実施12C)で形質転換し、選択マーカーをループアウトして、CYB2A対立遺伝子の一つが欠失した形質転換体の形成
CD1496株を培養し、プラスミドpBH165をNdeIとEcoRIで切断して得た4.4kbpの断片5μgで形質転換した。形質転換体を、X-α-gal(5-bromo-4-chloro-3-indolyl-aD-galactoside)で被覆した酵母窒素ベース(YNB)+2%メリビアーゼプレート上で選択した。30℃で〜4日間培養後、青色の形質転換体が目視で確認された。8個の形質転換体を選択し、X-α-galを含むYP+20g/Lグルコースプレート上で一つのコロニーを培養した。各形質転換体について一つの青色コロニーを選択し、YP+20g/Lグルコースプレート上で培養した。この形質転換体からゲノムDNAを単離した。IoGDP遺伝子の一つの対立遺伝子が破壊されていることが、配列番号80と81のプライマーを用いたPCR法により確認された。予想された〜2kbの産物を示す一つの形質転換体をCD1657株と呼ぶ。更に、固有IoGPD1遺伝子の1コピーの破壊が、配列番号82と83のプライマーを用いたPCR法により確認された。
CD1657株は、30℃のYP+100g/Lグルコース培地で数ラウンド成長した。その希釈物をX-α-galで被覆したYP+20g/Lプレート上で培養し、30℃で一晩成長させた。白色コロニー(MEL5マーカーカセットがループアウトしたことを示す。)を選択し、YP+20g/Lグルコース+ X-α-galプレート上で画線培養した。白色コロニーを選択した。固有IoGPD1遺伝子の1つの対立遺伝子の破壊が、配列番号84と85のプライマーを用いたPCR法により確認された。この形質転換体をCD1671株と呼ぶ。
【0061】
実施例12F: CD1671株(実施例12E)をプラスミドpBH165(図20、実施12C)で形質転換し、両方のIoGPD1対立遺伝子が欠失した形質転換体の形成
CD1671株をプラスミドpBH165をNdeIとEcoRIで切断して得た4.4kbpの断片5μgで形質転換した。形質転換体を、X-α-galで被覆したYNB+2%メリビアーゼプレート上で選択した。30℃で〜4日間培養後、青色の形質転換体が目視で確認された。10個の形質転換体を選択し、X-α-galを含むYP+20g/Lグルコースプレート上で一つのコロニーを培養した。各形質転換体について一つの青色コロニーを選択し、YP+20g/Lグルコースで培養した。この形質転換体からゲノムDNAを単離した。IoGDP遺伝子の2番目の対立遺伝子が破壊されていることが、配列番号86と87のプライマーを用いたPCR法により確認された。この形質転換体をCD1690株と呼ぶ。
【0062】
実施例12G: CD1690(実施例12F)株の、微好気性振盪フラスコキャラクタリゼーション
YP+100g/Lグルコースを含む3Lバッチ発酵槽に、CD1690をOD6000.2まで接種した。この発酵槽を100rpmの振盪条件で、38-40℃で40時間保温した。培養の期間中pH5.5に緩衝された。この条件で、CD1690株は、消費された100gのグルコース当たり、88gのL-乳酸を産生した。L-乳酸の生産性は2.6g/L/hrであった。副生物の収率は、CO2:8%; バイオマス:2.4%; ピルベート:1%であった。最終OD600は6.3であった。
【0063】
実施例13A: P. membranifaciens固有PDC1遺伝子断片のクローニング
P. membranifaciensのPDC1遺伝子の一部をクローンするために1組の縮重プライマーを設計した。これらのプライマーは配列番号88と89の配列を持つ。このプライマーと、鋳型にP. membranifaciensのゲノムDNAを用いてPCR法で増幅して、〜700bpの産物を得た。この断片を市販TOPOベクターで増幅し、プラスミドPDC-72クローンと呼ぶプラスミドを作った。配列番号90と91のプライマーを用いてこの断片の配列解析を行った。この断片は、他のよく知られたPDC遺伝子配列に高度に相同であった。
【0064】
実施例13B: P. membranifaciens PDC1遺伝子断片、ハイグロマイシン発現カセット及びLhLDH発現カセットを含むプラスミドpMI464(図21)の構築
プラスミド pMI357(図6、実施例2B)をSacI及びSalIで切断し、〜7735bp断片を得た。プラスミド PDC-yクローンをSacI及びXhoIで切断し、〜700bp断片を得た。これら2つの断片を結合し、プラスミド pMI464を得た。
【0065】
実施例13C: 野生型P. membranifaciens株をプラスミドpMI464で形質転換し、LhLDH遺伝子カセットを挿入することによるCD1598の産出
NCYC2696と呼ばれる野生型P. membranifaciens株を、プラスミドpMI464をAgeIで消化して得られた断片で形質転換した。この形質転換体を、YPD + ハイグロマイシンプレート上で選択し、YPD + 200μg/mlハイグロマイシン上で画線培養した。1つのコロニーをCD1598と呼ぶ。PCRでこの株にLhLDH遺伝子カセットが存在することを確認した。
【0066】
実施例13D: CD1598(実施例13C)株の、微好気性振盪フラスコキャラクタリゼーション
振盪フラスコ中の50mlの非緩衝YP+10%グルコース培地に、CD1598株をOD6000.2まで接種した。このフラスコを100rpmの振盪条件で、38℃で7日間保温した。
CD1598株は乳酸を産生し、力価は47g/Lであった。消費されたグルコースに対する乳酸収率は70%であった。乳酸の生産速度は0.42g/L/hrであった。この株はエタノールを産生しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】pMI318プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図2】pMI320プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図3】pMI321プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図4】pMI355プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図5】pMI356プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図6】pMI357プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図7】pMI319プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図8】pMI433プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図9】pMM25プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図10】pMM28プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図11】pMI445プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図12】pMM35プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図13】pMI446プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図14】pMI447プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図15】pMI448プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図16】pMI457プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図17】pMI458プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図18】pMI449プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図19】pMI454プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図20】pBH165プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【図21】pMI464プラスミドのダイアグラムを示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの外来性の乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)遺伝子を有する、I. orientalis/P. fermentans分岐群に属する種の遺伝子操作された酵母細胞。
【請求項2】
Issatchenkia orientalis、Pichia galeiformis、Pichia sp. YB-4149 (NRRL指定番号)、Candida ethanolica、P. deserticola、P. membranifaciens及びP. fermentansのいずれかの種である請求項1に記載の酵母細胞。
【請求項3】
前記外来性のLDH遺伝子がそのゲノムに組み込まれた請求項1に記載の酵母細胞。
【請求項4】
前記外来性LDH遺伝子が、Lactobacillus helveticus、L. casei、Bacillus megaterium、Pediococcus acidilactici、Bos taurus又はRhizopus oryzaeのいずれかの種の機能的L−LDH遺伝子に少なくとも35%相同の機能的LDH遺伝子である請求項1に記載の酵母細胞。
【請求項5】
前記外来性LDH遺伝子が、Lactobacillus helveticus、L. casei、Bacillus megaterium、Pediococcus acidilactici、Bos taurus又はRhizopus oryzaeのいずれかの種の機能的L−LDH遺伝子がコードするタンパク質に少なくとも80%相同のタンパク質をコードする機能的LDH遺伝子である請求項1に記載の酵母細胞。
【請求項6】
前記外来性LDH遺伝子が、配列番号93、94、95又は96の少なくとも1つに少なくとも60%相同の機能的タンパク質をコードする請求項1に記載の酵母細胞。
【請求項7】
前記外来性LDH遺伝子が、L. helveticus、L. johnsonii、L. bulgaricus、L. delbrueckii、P. acidilactici、L. plantarum及びL. pentosusのいずれかの種の機能的D−LDH遺伝子に少なくとも45%相同の機能的D−LDH遺伝子である請求項1に記載の酵母細胞。
【請求項8】
前記外来性LDH遺伝子が、L. helveticus、L. johnsonii、L. bulgaricus、L. delbrueckii、P. acidilactici、L. plantarum及びL. pentosusのいずれかの種の機能的D−LDH遺伝子がコードするタンパク質に少なくとも45%相同のタンパク質をコードする機能的LDH遺伝子である請求項1に記載の酵母細胞。
【請求項9】
固有のピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC)遺伝子が削除又は破壊された請求項1〜8のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項10】
エタノールを産生できない請求項9に記載の酵母細胞。
【請求項11】
前記外来性LDH遺伝子が、酵母細胞に固有のプロモーターの転写調節を受ける請求項1〜8のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項12】
前記プロモーターがその宿主細胞に固有である請求項11に記載の酵母細胞。
【請求項13】
前記外来性LDH遺伝子が、固有PDC遺伝子の遺伝子座に組み込まれた請求項1〜8のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項14】
宿主細胞がI. Orientalis又はP. membranifaciensである請求項1〜8のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項15】
宿主細胞がI. Orientalis又はP. membranifaciensである請求項9に記載の酵母細胞。
【請求項16】
宿主細胞がI. Orientalis又はP. membranifaciensである請求項10に記載の酵母細胞。
【請求項17】
更に、(1)機能的外来性キシロース異性化酵素遺伝子の導入、(2)キシロースからキシリトールへの変換を触媒する酵素を産生する固有遺伝子の削除又は破壊、(3)機能的キシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子の削除又は破壊、及び/又は(4)その細胞に機能的キシルロキナーゼを過剰発現を引き起こす修飾、から選択される少なくとも一つの遺伝子操作を施された請求項1〜8のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項18】
(1)機能的外来性キシロース異性化酵素遺伝子の導入、(2)キシロースからキシリトールへの変換を触媒する酵素を産生する固有遺伝子の削除又は破壊、(3)機能的キシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子の削除又は破壊、及び/又は(4)その細胞に機能的キシルロキナーゼを過剰発現を引き起こす修飾、から選択される少なくとも一つの遺伝子操作を施された、I. orientalis/P. fermentans分岐群に属する種の酵母細胞。
【請求項19】
Issatchenkia orientalis、Pichia galeiformis、Pichia sp. YB-4149 (NRRL指定番号)、Candida ethanolica、P. deserticola、P. membranifaciens及びP. fermentansのいずれかの種である請求項18に記載の酵母細胞。
【請求項20】
請求項1に記載の遺伝子操作された酵母細胞を、発酵条件下で、発酵性糖を含む発酵液体培地で培養し、乳酸又はその塩を製造することから成る発酵方法。
【請求項21】
前記発酵性糖がグルコースを含む請求項20に記載の発酵方法。
【請求項22】
前記発酵液体培地のpHが、発酵期間の少なくとも一部の期間で、1.5〜4.5の範囲である請求項20又は21に記載の発酵方法。
【請求項23】
前記発酵液体培地のpHが、発酵期間の少なくとも一部の期間で、1.9〜3.5の範囲である請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記発酵液体培地のpHが、発酵の全期間に渡って、1.9〜3.5の範囲である請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記発酵液体培地のpHが、発酵期間の初期に3.5〜6の範囲であり、発酵期間において1.9〜3.5に下がる請求項23に記載の方法。
【請求項26】
嫌気性発酵又は微好気性発酵である請求項20又は21に記載の発酵方法。
【請求項27】
嫌気性発酵又は擬好気性発酵である請求項20又は21に記載の発酵方法。
【請求項28】
グルコースに対するラクタートの収率が0.55〜0.95g/gである請求項20又は21に記載の発酵方法。
【請求項29】
更に、前記発酵液体培地からラクタートを回収することを含む請求項20に記載の発酵方法。
【請求項30】
更に、回収されたラクタートからラクチドを製造することを含む請求項29に記載の発酵方法。
【請求項31】
更に、前記ラクチドを重合させてポリラクチドポリマーを合成することを含む請求項30に記載の発酵方法。
【請求項32】
I. orientalis/P. fermentans分岐群に属する種に固有のプロモーター配列に機能するように連結された外来性の乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を有する酵母形質転換ベクター。
【請求項33】
前記プロモーター配列が、I. orientalis、Pichia galeiformis、Pichia sp. YB-4149 (NRRL指定番号)、Candida ethanolica、P. deserticola、P. membranifaciens又はP. fermentansのいずれかの種に固有である請求項32に記載の酵母形質転換ベクター。
【請求項34】
前記外来性LDH遺伝子が、Lactobacillus helveticus、L. casei、Bacillus megaterium、Pediococcus acidilactici又はRhizopus oryzaeのいずれかの種の機能的L−LDH遺伝子に少なくとも35%相同の機能的LDH遺伝子である請求項32又は33に記載の酵母形質転換ベクター。
【請求項35】
前記外来性LDH遺伝子が、Lactobacillus helveticus、L. casei、Bacillus megaterium、Pediococcus acidilactici又はRhizopus oryzaeのいずれかの種の機能的L−LDH遺伝子がコードするタンパク質に少なくとも35%相同のタンパク質をコードする機能的LDH遺伝子である請求項32又は33に記載の酵母形質転換ベクター。
【請求項36】
前記外来性LDH遺伝子が、配列番号93、94、95又は96の少なくとも1つに少なくとも60%相同の機能的タンパク質をコードする請求項32に記載の酵母形質転換ベクター。
【請求項37】
前記外来性LDH遺伝子が、L. helveticus、L. johnsonii、L. bulgaricus、L. delbrueckii、P. acidilactici、L. plantarum及びL. pentosusのいずれかの種の機能的D−LDH遺伝子に少なくとも45%相同の機能的D−LDH遺伝子である請求項32又は33に記載の酵母形質転換ベクター。
【請求項38】
前記外来性LDH遺伝子が、L. helveticus、L. johnsonii、L. bulgaricus、L. delbrueckii、P. acidilactici、L. delbrueckii、L. plantarum及びL. pentosusのいずれかの種の機能的D−LDH遺伝子がコードするタンパク質に少なくとも45%相同のタンパク質をコードする機能的LDH遺伝子である請求項32又は33に記載の酵母形質転換ベクター。
【請求項39】
ある上流(5’)と下流(3’)の間にLDH遺伝子カセットを有する酵母形質転換ベクターであって、該LDH遺伝子カセットがI. orientalis/P. fermentans分岐群に属する少なくとも一つの酵母種においてそれぞれ機能するプロモーター及びターミネーターに機能的に連結された機能的乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含み、該上流(5’)と下流(3’)の各配列がI. orientalis/P. fermentans分岐群に属する酵母種に固有の遺伝子の上流及び下流のフランキング領域である、酵母形質転換ベクター。
【請求項40】
少なくとも一つのマーカー遺伝子カセットが前記上流(5’)と下流(3’)の配列の間に位置し、該マーカー遺伝子カセットがI. orientalis/P. fermentans分岐群に属する少なくとも一つの酵母種においてそれぞれ機能するプロモーター及びターミネーターに機能的に連結されたマーカー遺伝子を含む請求項39に記載の酵母形質転換ベクター。
【請求項41】
前記上流(5’)と下流(3’)の各配列がそれぞれI. Orientalisのピルビン酸デカルボキシラーゼ遺伝子の5’−及び3’−フランキング領域である請求項39又は40に記載の酵母形質転換ベクター。
【請求項42】
前記LDH遺伝子カセットのプロモーターがI. Orientalisに固有のプロモーターである請求項39又は40に記載の酵母形質転換ベクター。
【請求項43】
乳酸を産生する能力を有する、I. orientalis/P. fermentans分岐群に属する種の、遺伝子操作された酵母細胞。
【請求項44】
請求項43に記載の遺伝子操作された酵母細胞を、発酵条件下で、発酵性糖を含む発酵液体培地で培養し、乳酸又はその塩を製造することから成る発酵方法。
【請求項45】
I. orientalis/P. fermentans分岐群に属する種の、遺伝子操作された酵母細胞。
【請求項1】
少なくとも一つの外来性の乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)遺伝子を有する、I. orientalis/P. fermentans分岐群に属する種の遺伝子操作された酵母細胞。
【請求項2】
Issatchenkia orientalis、Pichia galeiformis、Pichia sp. YB-4149 (NRRL指定番号)、Candida ethanolica、P. deserticola、P. membranifaciens及びP. fermentansのいずれかの種である請求項1に記載の酵母細胞。
【請求項3】
前記外来性のLDH遺伝子がそのゲノムに組み込まれた請求項1に記載の酵母細胞。
【請求項4】
前記外来性LDH遺伝子が、Lactobacillus helveticus、L. casei、Bacillus megaterium、Pediococcus acidilactici、Bos taurus又はRhizopus oryzaeのいずれかの種の機能的L−LDH遺伝子に少なくとも35%相同の機能的LDH遺伝子である請求項1に記載の酵母細胞。
【請求項5】
前記外来性LDH遺伝子が、Lactobacillus helveticus、L. casei、Bacillus megaterium、Pediococcus acidilactici、Bos taurus又はRhizopus oryzaeのいずれかの種の機能的L−LDH遺伝子がコードするタンパク質に少なくとも80%相同のタンパク質をコードする機能的LDH遺伝子である請求項1に記載の酵母細胞。
【請求項6】
前記外来性LDH遺伝子が、配列番号93、94、95又は96の少なくとも1つに少なくとも60%相同の機能的タンパク質をコードする請求項1に記載の酵母細胞。
【請求項7】
前記外来性LDH遺伝子が、L. helveticus、L. johnsonii、L. bulgaricus、L. delbrueckii、P. acidilactici、L. plantarum及びL. pentosusのいずれかの種の機能的D−LDH遺伝子に少なくとも45%相同の機能的D−LDH遺伝子である請求項1に記載の酵母細胞。
【請求項8】
前記外来性LDH遺伝子が、L. helveticus、L. johnsonii、L. bulgaricus、L. delbrueckii、P. acidilactici、L. plantarum及びL. pentosusのいずれかの種の機能的D−LDH遺伝子がコードするタンパク質に少なくとも45%相同のタンパク質をコードする機能的LDH遺伝子である請求項1に記載の酵母細胞。
【請求項9】
固有のピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC)遺伝子が削除又は破壊された請求項1〜8のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項10】
エタノールを産生できない請求項9に記載の酵母細胞。
【請求項11】
前記外来性LDH遺伝子が、酵母細胞に固有のプロモーターの転写調節を受ける請求項1〜8のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項12】
前記プロモーターがその宿主細胞に固有である請求項11に記載の酵母細胞。
【請求項13】
前記外来性LDH遺伝子が、固有PDC遺伝子の遺伝子座に組み込まれた請求項1〜8のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項14】
宿主細胞がI. Orientalis又はP. membranifaciensである請求項1〜8のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項15】
宿主細胞がI. Orientalis又はP. membranifaciensである請求項9に記載の酵母細胞。
【請求項16】
宿主細胞がI. Orientalis又はP. membranifaciensである請求項10に記載の酵母細胞。
【請求項17】
更に、(1)機能的外来性キシロース異性化酵素遺伝子の導入、(2)キシロースからキシリトールへの変換を触媒する酵素を産生する固有遺伝子の削除又は破壊、(3)機能的キシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子の削除又は破壊、及び/又は(4)その細胞に機能的キシルロキナーゼを過剰発現を引き起こす修飾、から選択される少なくとも一つの遺伝子操作を施された請求項1〜8のいずれか一項に記載の酵母細胞。
【請求項18】
(1)機能的外来性キシロース異性化酵素遺伝子の導入、(2)キシロースからキシリトールへの変換を触媒する酵素を産生する固有遺伝子の削除又は破壊、(3)機能的キシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子の削除又は破壊、及び/又は(4)その細胞に機能的キシルロキナーゼを過剰発現を引き起こす修飾、から選択される少なくとも一つの遺伝子操作を施された、I. orientalis/P. fermentans分岐群に属する種の酵母細胞。
【請求項19】
Issatchenkia orientalis、Pichia galeiformis、Pichia sp. YB-4149 (NRRL指定番号)、Candida ethanolica、P. deserticola、P. membranifaciens及びP. fermentansのいずれかの種である請求項18に記載の酵母細胞。
【請求項20】
請求項1に記載の遺伝子操作された酵母細胞を、発酵条件下で、発酵性糖を含む発酵液体培地で培養し、乳酸又はその塩を製造することから成る発酵方法。
【請求項21】
前記発酵性糖がグルコースを含む請求項20に記載の発酵方法。
【請求項22】
前記発酵液体培地のpHが、発酵期間の少なくとも一部の期間で、1.5〜4.5の範囲である請求項20又は21に記載の発酵方法。
【請求項23】
前記発酵液体培地のpHが、発酵期間の少なくとも一部の期間で、1.9〜3.5の範囲である請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記発酵液体培地のpHが、発酵の全期間に渡って、1.9〜3.5の範囲である請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記発酵液体培地のpHが、発酵期間の初期に3.5〜6の範囲であり、発酵期間において1.9〜3.5に下がる請求項23に記載の方法。
【請求項26】
嫌気性発酵又は微好気性発酵である請求項20又は21に記載の発酵方法。
【請求項27】
嫌気性発酵又は擬好気性発酵である請求項20又は21に記載の発酵方法。
【請求項28】
グルコースに対するラクタートの収率が0.55〜0.95g/gである請求項20又は21に記載の発酵方法。
【請求項29】
更に、前記発酵液体培地からラクタートを回収することを含む請求項20に記載の発酵方法。
【請求項30】
更に、回収されたラクタートからラクチドを製造することを含む請求項29に記載の発酵方法。
【請求項31】
更に、前記ラクチドを重合させてポリラクチドポリマーを合成することを含む請求項30に記載の発酵方法。
【請求項32】
I. orientalis/P. fermentans分岐群に属する種に固有のプロモーター配列に機能するように連結された外来性の乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を有する酵母形質転換ベクター。
【請求項33】
前記プロモーター配列が、I. orientalis、Pichia galeiformis、Pichia sp. YB-4149 (NRRL指定番号)、Candida ethanolica、P. deserticola、P. membranifaciens又はP. fermentansのいずれかの種に固有である請求項32に記載の酵母形質転換ベクター。
【請求項34】
前記外来性LDH遺伝子が、Lactobacillus helveticus、L. casei、Bacillus megaterium、Pediococcus acidilactici又はRhizopus oryzaeのいずれかの種の機能的L−LDH遺伝子に少なくとも35%相同の機能的LDH遺伝子である請求項32又は33に記載の酵母形質転換ベクター。
【請求項35】
前記外来性LDH遺伝子が、Lactobacillus helveticus、L. casei、Bacillus megaterium、Pediococcus acidilactici又はRhizopus oryzaeのいずれかの種の機能的L−LDH遺伝子がコードするタンパク質に少なくとも35%相同のタンパク質をコードする機能的LDH遺伝子である請求項32又は33に記載の酵母形質転換ベクター。
【請求項36】
前記外来性LDH遺伝子が、配列番号93、94、95又は96の少なくとも1つに少なくとも60%相同の機能的タンパク質をコードする請求項32に記載の酵母形質転換ベクター。
【請求項37】
前記外来性LDH遺伝子が、L. helveticus、L. johnsonii、L. bulgaricus、L. delbrueckii、P. acidilactici、L. plantarum及びL. pentosusのいずれかの種の機能的D−LDH遺伝子に少なくとも45%相同の機能的D−LDH遺伝子である請求項32又は33に記載の酵母形質転換ベクター。
【請求項38】
前記外来性LDH遺伝子が、L. helveticus、L. johnsonii、L. bulgaricus、L. delbrueckii、P. acidilactici、L. delbrueckii、L. plantarum及びL. pentosusのいずれかの種の機能的D−LDH遺伝子がコードするタンパク質に少なくとも45%相同のタンパク質をコードする機能的LDH遺伝子である請求項32又は33に記載の酵母形質転換ベクター。
【請求項39】
ある上流(5’)と下流(3’)の間にLDH遺伝子カセットを有する酵母形質転換ベクターであって、該LDH遺伝子カセットがI. orientalis/P. fermentans分岐群に属する少なくとも一つの酵母種においてそれぞれ機能するプロモーター及びターミネーターに機能的に連結された機能的乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含み、該上流(5’)と下流(3’)の各配列がI. orientalis/P. fermentans分岐群に属する酵母種に固有の遺伝子の上流及び下流のフランキング領域である、酵母形質転換ベクター。
【請求項40】
少なくとも一つのマーカー遺伝子カセットが前記上流(5’)と下流(3’)の配列の間に位置し、該マーカー遺伝子カセットがI. orientalis/P. fermentans分岐群に属する少なくとも一つの酵母種においてそれぞれ機能するプロモーター及びターミネーターに機能的に連結されたマーカー遺伝子を含む請求項39に記載の酵母形質転換ベクター。
【請求項41】
前記上流(5’)と下流(3’)の各配列がそれぞれI. Orientalisのピルビン酸デカルボキシラーゼ遺伝子の5’−及び3’−フランキング領域である請求項39又は40に記載の酵母形質転換ベクター。
【請求項42】
前記LDH遺伝子カセットのプロモーターがI. Orientalisに固有のプロモーターである請求項39又は40に記載の酵母形質転換ベクター。
【請求項43】
乳酸を産生する能力を有する、I. orientalis/P. fermentans分岐群に属する種の、遺伝子操作された酵母細胞。
【請求項44】
請求項43に記載の遺伝子操作された酵母細胞を、発酵条件下で、発酵性糖を含む発酵液体培地で培養し、乳酸又はその塩を製造することから成る発酵方法。
【請求項45】
I. orientalis/P. fermentans分岐群に属する種の、遺伝子操作された酵母細胞。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公表番号】特表2008−545429(P2008−545429A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−514759(P2008−514759)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【国際出願番号】PCT/US2006/020782
【国際公開番号】WO2007/032792
【国際公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(397058666)カーギル インコーポレイテッド (60)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【国際出願番号】PCT/US2006/020782
【国際公開番号】WO2007/032792
【国際公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(397058666)カーギル インコーポレイテッド (60)
【Fターム(参考)】
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