説明

避難誘導システム、及び、避難誘導方法

【課題】地震発生時における建物内の場所に応じた適切な誘導をする。
【解決手段】
本発明の避難誘導システム1は、緊急地震速報を受信する緊急地震速報受信システム10と、ビルにおける地震の大きさを計測する建物内地震評価システム20と、ビルにおける複数のフロアーの映像を取得する映像情報監視システム30と、複数のフロアーに設けられ、避難時にビル内の人を誘導する点滅誘導システム50等と、受信された緊急地震速報の内容及び計測された地震の大きさに応じ、優先的に避難誘導を行うフロアー選択し、取得した映像に基づく誘導指令を選択したフロアーに属する点滅誘導システム50等に対して優先的に送信する避難誘導支援管理システム70を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震発生時に建物内の人を避難させるべく誘導する避難誘導システム、及び、避難誘導方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地震発生時に、高層ビル等の建物をエリア毎に区分し、地震の程度に対応したエリア毎の避難方法を音声で伝える通報システムが提案されている(例えば特許文献1を参照)。また、予測震度の受信を契機に建物の耐震度合いを求め、予測震度と耐震度合いの関係から警報レベルを定める地震管理装置も提案されている(例えば特許文献2を参照)。さらに、地震速報の受信を契機に自宅から避難場所までの避難方法及び避難経路を表する避難支援装置も提案されている(例えば特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−51386号公報
【特許文献2】特開2007−148798号公報
【特許文献3】特開2008−287477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のシステムでは、エリア毎の警報順序については考慮されていなかった。また、特許文献2の装置は、建物を単位として評価をしており、建物内の位置に応じた警報内容とはなっていなかった。さらに、特許文献3の装置では、地震発生時の情報を対象にしており、その後の状況変化に対応できるものではなかった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、地震発生時における建物内の場所に応じた適切な誘導をすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、地震発生時に建物内の人を避難誘導する避難誘導システムにおいて、
緊急地震速報を受信する速報受信部と、
前記建物における地震の大きさを計測する地震計測部と、
建物における複数のエリアの映像を取得する映像取得部と、
前記複数のエリアに設けられ、避難時に前記建物内の人を誘導する避難誘導部と、
受信された前記緊急地震速報の内容及び計測された前記地震の大きさに応じ、優先的に避難誘導を行うエリアを前記複数のエリアの中から選択するエリア選択部と、
取得した前記映像に基づく誘導指令を前記選択したエリアに属する避難誘導部に対して優先的に送信する指令送信部と、
を有することを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、地震発生時に建物内の人を避難誘導する避難誘導方法において、
緊急地震速報を受信する速報受信ステップと、
前記建物における地震の大きさを計測する地震計測ステップと、
建物における複数のエリアにおける映像を取得する映像取得ステップと、
受信された前記緊急地震速報の内容及び計測された前記地震の大きさに応じ、優先的に避難誘導を行うエリアを前記複数のエリアの中から選択するエリア選択ステップと、
取得した前記映像に基づく誘導指令を、避難時に前記建物内の人を誘導する避難誘導部であって前記選択したエリアに属する避難誘導部に対して優先的に送信する指令送信ステップと、
を行うことを特徴とする。
【0008】
なお、本発明における「建物」には、ビル、地下街、駅、スタジアム等が含まれる。
【0009】
本発明によれば、緊急地震速報の内容及び地震の大きさに応じてエリアを選択し、選択したエリアの映像に応じた誘導指令を避難誘導部に対して送信する。これにより、映像に応じた適切な誘導を、その建物内において誘導を必要とする人に対して優先的に行える。
【0010】
本発明において、前記指令送信部は、取得した前記映像から前記人の通行し難さの度合いを示す障害度を求め、当該障害度に応じた誘導指令を送信することが好ましい。このように映像から障害度を求めれば、障害度を精度良く求めることができる。
【0011】
本発明において、前記映像取得部は、前記エリアにおける通路の映像を取得し、前記指令送信部は、通路における障害物の有無に応じて前記障害度を求めることが好ましい。このように、通路における障害物の有無によって障害度を求めれば、障害度を精度良く求めることができる。
【0012】
本発明において、前記映像取得部は、前記エリアにおける通路の映像を取得し、前記指令送信部は、前記通路における人の混雑度合いを加味して前記誘導指令を送信することが好ましい。このように、人の混雑度合いを加味して誘導指令を送信すれば、建物内の人を円滑に誘導できる。
【0013】
本発明において、前記避難誘導部は、誘導方向を示す画像を表示する画像表示部又は発光によって誘導方向を示す発光部の少なくとも一方を有することが好ましい。このように、画像表示部や発光部で建物内の人に対して誘導方向を示した場合には、周囲の音が大きくても誘導方向を認識させることができる。
【0014】
本発明において、繰り返し取得した前記映像によって前記指令送信部が前記誘導指令を更新して送信した場合には、刻々と変化する状況に応じた誘導ができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、地震発生時における建物内の場所に応じた適切な誘導ができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】避難誘導システムの構成を説明する図である。
【図2】建物内ネットワークを説明するブロック図である。
【図3】ビルにおける或るフロアーの平面配置を説明する図である。
【図4】統括管理PCの記憶部に記憶される情報を説明する図である。
【図5】領域と指示内容(誘導方向)の関係を示す関係情報の説明図である。
【図6】(a)〜(c)は、誘導時において電子掲示板に表示される画像の一例を説明する図である。
【図7】記憶部に記憶される通路の映像を説明する図であり、(a)は通常時の映像を、(b)は障害発生時の映像をそれぞれ示す。
【図8】避難誘導システムの動作を説明するフローチャートである。
【図9】混雑度合いを加味した制御を説明する図であり、(a)は混雑箇所を、(b)は混雑箇所の映像をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0018】
避難誘導システムは、ビル、地下街、駅、スタジアム等の建物に対して、緊急地震速報の受信を契機に建物内の人を誘導し、避難を促すものである。本実施形態では、ビルを対象としたシステムを例に挙げる。
【0019】
図1及び図2に示すように、この避難誘導システム1は、緊急地震速報受信システム10と、建物内地震評価システム20と、映像情報監視システム30と、音声情報発信システム40と、点滅誘導システム50と、映像情報表示システム60と、避難誘導支援管理システム70とを有し、これらの各システム10〜70がルーター80を介して通信可能に接続されている。また、この避難誘導システム1は、停電時においてビルが備える非常用電源設備(図示せず)からの電力で動作する。
【0020】
緊急地震速報受信システム10は速報受信部に相当し、配信事業者を通じて気象庁から発信された緊急地震速報を、インターネット経由で受信する。この緊急地震速報受信システム10は、速報受信PC11と、表示装置12と、入力装置13と、ルーター14とを有する。速報受信PC11は速報受信コントローラ11cを有し、速報受信コントローラ11cはCPU11aと記憶部11bとを有する。CPU11aは、制御の中心となる部分であり、記憶部11bに記憶されたコンピュータプログラムに従って動作をする。記憶部11bは、コンピュータプログラムや各種データを記憶する部分であり、メモリーやハードディスクによって構成される。表示装置12は例えば液晶表示装置であり、入力装置13は例えばキーボードやマウスである。
【0021】
速報受信PC11は、緊急地震速報を受信すると、避難誘導支援管理システム70が有する統括管理PC71に対し、緊急地震速報を受信した旨を通知する。また、統括管理PC71からの要求に応じて受信内容を送信する。さらに、統括管理PC71は、受信した緊急地震速報の内容等に基づき、建物内の人への避難誘導が必要か否かの判断を行う。
【0022】
なお、建物内地震評価システム20等の他のシステムもコントローラ21c〜71c、CPU21a〜71a、及び、記憶部21b〜71bを有しているが、緊急地震速報受信システム10が有するものと同様であり、説明は省略する。
【0023】
建物内地震評価システム20は地震計測部に相当し、建物における地震の大きさを常時計測する。この建物内地震評価システム20は、地震評価PC21と、表示装置22と、入力装置23と、ルーター24と、震度計測装置25とを有する。震度計測装置25は建物内の複数エリアに配置され、配置されたエリアの震度を計測する。例えば、ビルのフロアー毎に配置されて、フロアー毎の震度を計測する。計測された震度は、ルーター24を経由して地震評価PC21へ送信される。地震評価PC21では、計測された震度を、測定場所の情報や時刻や時間(例えば地震発生からの経過時間)の情報とともに記憶部21bへ記憶する。記憶された震度の情報を解析すれば、建物におけるどこがどれくらい揺れたかを知ることができる。
この建物内地震評価システム20では、地震評価PC21が緊急地震速報の内容や震度計測装置25で計測された震度の情報から分析を行い、対象エリア別(例えばフロアー毎)の想定震度を即座に推定する。そして、地震評価PC21は、推定した想定震度等の分析関連情報を、必要に応じて統括管理PC71へ送信する。
【0024】
映像情報監視システム30は映像取得部に相当し、建物内の映像を取得する。この映像情報監視システム30は、例えばカメラサーバー31と、表示装置32と、入力装置33と、監視レコーダ34と、ビデオカメラ35とを有する。ビデオカメラ35は複数台用意され、建物内における複数の場所を撮影する。図3に示すように、本実施形態では、各フロアーに複数台のビデオカメラ35が設置され、避難路となる通路を撮影している。従って、ビデオカメラ35は、避難路に存在する障害物を撮影し得る位置に配置されている。この実施形態のビデオカメラ35は、直線状の通路における一端側から他端側と他端側から一端側のそれぞれで撮影している。監視レコーダ34は、ビデオカメラ35からの映像信号を録画する。例えば、アナログの映像信号をデジタルの映像データに変換し、記憶部の一部を構成するハードディスク等に記憶する。このとき、映像データは、撮影日時やビデオカメラ35の設置場所の情報と関連付けられた状態で記憶される。カメラサーバー31は、監視レコーダ34から映像データを取得したり、監視レコーダ34による録画の開始や停止を制御したりする。そして、カメラサーバー31は、統括管理PC71からの要求に応じ、記憶した映像データを送信する。
【0025】
音声情報発信システム40は避難誘導部を構成し、避難時に、建物内の人を音声によって誘導する。この音声情報発信システム40は、ボイスサーバー41と、表示装置42と、入力装置43と、制御ユニット44と、アナウンス装置45と、スピーカー46とを有する。スピーカー46は複数台用意され、建物内における複数の場所で音声を出力する。図3に示すように、本実施形態では、各部屋にスピーカー46が設置されている。また図示は省略したが、スピーカー46は、通路の複数箇所やエレベーターホールにも設置されている。アナウンス装置45は、音声メッセージをスピーカー46から出力させるための音声信号を出力する。本実施形態のアナウンス装置45は、音声信号の出力先となるスピーカー46を選択できる。このため、図示しない記憶部には音声メッセージの基となる音声データが複数種類記憶されている。そして、音声データを選択し、アナログ信号に変換して出力することで、選択した音声メッセージを所望のスピーカー46から出力させることができる。例えば、「ドアを出て右方向に避難してください。」とか「ドアを出て左方向に避難してください。」といった音声メッセージを出力させることができる。制御ユニット44はアナウンス装置45とボイスサーバー41との間に配置され、ボイスサーバー41からの指令に応じてアナウンス装置45を制御する。ボイスサーバー41は、統括管理PC71からの要求に応じて音声の出力を制御する。すなわち、制御ユニット44を介してアナウンス装置45を制御し、スピーカー46から音声メッセージを出力させる。
【0026】
点滅誘導システム50もまた避難誘導部を構成し、避難時に、建物内の人を発光部の発光によって誘導する。この点滅誘導システム50は、点滅誘導PC51と、表示装置52と、入力装置53と、制御ユニット54と、LED表示器55〜57とを有する。LED表示器55等は発光部に相当し、発光によって誘導方向を表す。例えば、角形LED表示器55や丸形LED表示器57では、誘導方向に沿って並んだ状態で複数個の表示器が配置される。そして、発光する表示器を順に切り替えることで誘導方向を表す。例えば、建物内の人を前方へと誘導したい場合、まず、前後方向にならんだ複数個の表示器のうち、最も手前側に位置する表示器のみを点灯させる。次に、この表示器を消灯し、手前から2番目の表示器のみを点灯させる。以後は同様に、点灯させる表示器を順次前方へと切り替えることで、光による誘導が行える。なお、最も前方の表示器まで点灯させた場合、次は最も手前の表示器のみを再度点灯させ、同じ処理を繰り返せばよい。また、矢印をかたどった矢印表示器56では、誘導させたい方向を向いた矢印表示器56を選択して点灯させればよい。このようなLED表示器55等は、例えば通路の壁面に設けられる。図3の例ではエレベータ横の壁面に丸形LED表示器57が設けられている。制御ユニット54はLED表示器55等と点滅誘導PC51との間に配置され、点滅誘導PC51からの指令に応じてLED表示器55等の点灯や消灯を制御する。点滅誘導PC51は、統括管理PC71からの要求に応じてLED表示器55等の発光状態を制御する。
【0027】
映像情報表示システム60もまた避難誘導部を構成し、避難時に、建物内の人を映像表示部に表示された映像によって誘導する。この映像情報表示システム60は、誘導制御PC61と、表示装置62と、入力装置63と、制御ユニット64と、電子掲示板65とを有する。電子掲示板65は画像表示部に相当する。この電子掲示板65は、例えば液晶表示装置によって構成され、任意の映像を表示する。例えば、通常時には広告や各種案内を表示する一方、非常時には誘導の可否を表示する。図1には非常時の表示例として、誘導可能な場合に表示される○印と誘導不可の場合に表示される×印が記載されている。図3に示すように、この実施形態において、電子掲示板65は避難誘導路の壁面等に設けられている。また、エレベーターホールには、他の電子掲示板65´が配置されている。この電子掲示板65は数十インチ程度の大きな表示画面を有しており、任意の画像を表示できる。制御ユニット64は電子掲示板65,65´と誘導制御PC61との間に配置され、誘導制御PC61からの指令に応じて電子掲示板65,65´の表示を制御する。誘導制御PC61は、統括管理PC71からの要求に応じて電子掲示板65,65´の表示を制御する。
【0028】
避難誘導支援管理システム70は避難誘導システム1における制御の中心となる部分であり、統括管理PC71、表示装置72、入力装置73を有している。統括管理PC71は、エリア選択部や指令送信部として機能する。エリア選択部として機能するとき、統括管理PC71は、ビルにおける各フロアーの中から、優先的に避難誘導を行うフロアーを選択する。本実施形態において統括管理PC71は、速報受信PC11で受信された緊急地震速報の内容、及び、建物内地震評価システム20で推定された想定震度(地震の大きさ)に応じて、優先的に避難誘導を行うフロアーを選択する。指令送信部として機能するとき、統括管理PC71は、映像情報監視システム30から取得した映像データ(映像)から誘導方向を定め、定めた誘導方向に対応する誘導指令を、音声情報発信システム40、点滅誘導システム50、及び、映像情報表示システム60に送信する。また、表示装置72や入力装置73は統括管理PC71の操作に用いられるが、通常の操作の他、目視による障害物の情報等を統括管理PC71に入力する際にも用いられる。
【0029】
上記の制御を行うため、図4に示すように統括管理PC71の記憶部71bは、その一部領域が揺れ−危険度情報記憶領域、障害領域−誘導方向情報記憶領域、構造情報データベース、平面配置情報データベース、通路映像記憶領域として用いられている。以下、各領域について説明する。
【0030】
揺れ−危険度情報記憶領域は、地震による揺れと建物における危険度の関係を示す揺れ−危険度情報を記憶する領域である。危険度とは、建物の損壊度合いを示す指標である。そして、建物の損壊度合いは様々な要素によって定まる。例えば、震度、揺れの方向、振幅、持続時間、建物の構造によって影響を受ける。
【0031】
本実施形態では、揺れ−危険度情報として、地震による揺れの大きさとこのビルにおける各フロアーの損壊度合いの関係を記憶する。地震による揺れの大きさは、受信される緊急地震速報の内容と、建物内地震評価システム20で計測される各場所での震度を指標として記憶される。また、各部の損壊度合いは、構造情報データベースに記憶されたビルの構造情報から算出される。このような揺れ−危険度情報は、地震発生時において優先的に避難誘導をするエリアを特定する際に用いられる。なお、この点については後述する。
【0032】
障害領域−誘導方向情報記憶領域は、避難上の障害が生じた領域と誘導方向(避難方向)との関係を示す障害領域−誘導方向情報を記憶する領域である。この情報は、避難時において音声情報発信システム40や点滅誘導システム50等による避難方向の特定に用いられる。
【0033】
図3に示すように、この実施形態では、ビルの各フロアーを横方向と縦方向とに分けており、各フロアーでの位置を表している。このため、縦方向の通路は領域B1〜B7で表され、横方向の通路は領域C4〜E4で表される。そして、障害発生位置も領域で特定される。例えば、符号P1で示す位置に障害が発生した場合、この障害発生位置P1は領域B2として特定される。同様に、障害発生位置P2は領域B4として、障害発生位置P3は領域D4としてそれぞれ特定される。
【0034】
障害領域−誘導方向情報は、例えば図5に示すように、部屋毎の誘導方向として与えられる。例えば、図3に示すように、領域B2に属する位置P1に障害が発生した場合、部屋RN01にいる人は、ドアを出て左側に進み非常口EX1から避難することが好ましい。このため、図5に示すように、部屋RN01の領域B2に対応する誘導方向として「左」が記憶されている。また、位置P1に障害が発生した場合、部屋RN07にいる人は、ドアを出て左側に進み非常口EX2から避難することが好ましい。このため、部屋RN07の領域B2に対応する誘導方向として「左」が記憶されている。また、領域B4に属する位置P2に障害が発生した場合、部屋RN07にいる人は、ドアを出て右側に進み非常口EX1から避難することが好ましい。このため、部屋RN07の領域B4に対応する誘導方向として「右」が記憶されている。
【0035】
このような障害領域−誘導方向情報は、避難誘導時にスピーカー46から各部屋に出力される音声メッセージを生成する際に参照される。前述したように、「ドアを出て右方向に避難してください。」とか「ドアを出て左方向に避難してください。」といった音声メッセージを出力させる際の情報として用いられる。なお、各部屋から出た通路側に、電子掲示板65が設けられている場合には、この障害領域−誘導方向情報によって電子掲示板65に誘導方向を示す矢印を表示させることもできる。同様に、各部屋にLED表示器55等が取り付けられていた場合にも、この障害領域−誘導方向情報によって、誘導方向を示す表示をLED表示器55等に行わせることができる。
【0036】
また、他の電子掲示板65´用の障害領域−誘導方向情報は、例えば、図6(a)〜(c)に示すように、通路と障害領域と誘導方向とを示す簡易的な地図の情報として与えられる。図6(a)は、障害発生位置P1に対応する表示映像を示す。この場合、通路が直線で描かれ、障害発生位置が×印で描かれ、誘導方向が矢印で描かれている。この地図を確認することで、建物内の人は、エレベーターホールから非常口EX2,EX3へ向かえばよいことを直感的に理解できる。そして、図6(b)は障害発生位置P3に対応する表示映像、図6(c)は障害発生位置P2に対応する表示映像をそれぞれ示す。このように障害発生位置に応じた誘導方向を示しているので、適切な誘導が行える。
【0037】
平面配置情報データベースは、図3のような平面配置情報をフロアー毎に記憶する。本実施形態では、平面配置情報に加えて、ビデオカメラ35の設置位置や方向、各表示器の設置位置を示す情報も記憶させている。
【0038】
通路映像記憶領域はビデオカメラ35で撮影された通路の映像を記憶する領域である。通常時には、例えば図7(a)に示すように、障害物がない通路の映像が記憶される。一方、地震発生時には、例えば図7(b)に示すように、障害物が倒れた状態の通路の映像が記憶される。そして、通常時の映像と地震発生時の映像の違いから通路上の障害物BKの有無を判断できる。統括管理PC71は、所定以上の大きさの障害物BKがあるか否かで、その通路が通れるか否かを判断する。従って、障害物BKの有無の情報は人の通行し難さの度合いを示す障害度に相当する。なお、通常時の映像は、平面配置情報データベースに記憶された平面配置情報から作成することもできる。
【0039】
次に、避難誘導システム1の動作について説明する。ここで、図8は、避難誘導システム1の動作を説明するフローチャートである。
【0040】
この避難誘導システム1では、緊急地震速報の受信及び建物内地震評価システム20からの情報に基づき、統括管理PC71が避難誘導の要否を判断する(速報受信ステップS1、判断ステップS2)。このため、速報受信PC11は、緊急地震速報を受信した旨や緊急地震速報の内容を、統括管理PC71に送信する。また、地震評価PC21は、推定した想定震度等の分析関連情報を、例えば要求に応じて統括管理PC71に送信する。上記の判断は、緊急地震速報等の内容と記憶部71bに記憶された閾値との比較によって、統括管理PC71が行う。例えば、緊急地震速報から取得した予測震度や地震評価PC21からの分析関連情報(想定震度)を閾値と比較する。そして、閾値以上であれば避難誘導が必要と判断し(S2でY)、閾値未満であれば避難誘導は不要と判断する。不要と判断した場合、避難誘導システム1の動作も終了する(S2でN)。
【0041】
避難誘導が必要な旨等を示す通知情報を統括管理PC71が発信すると、映像情報監視システム30による障害実体把握処理が行われる(S3)。この障害実体把握処理では、建物における複数のエリアにおける映像が取得される(映像取得ステップ)。この実施形態では、統括管理PC71がカメラサーバー31に対し、ビデオカメラ35による撮影と録画とを指示する。そして、撮影によって得られた映像データは統括管理PC71へ送信される。統括管理PC71では、受信した映像データをエリア毎に解析し、障害状況を把握する。この実施形態ではフロアー毎に、障害物の有無、障害物の場所や大きさといった障害状況を把握する。なお、映像データの解析や障害状況の把握をカメラサーバー31に行わせてもよい。この場合、統括管理PC71にはエリア毎の障害状況を示す情報が送信される。
【0042】
フロアー毎の障害実体を把握したならば、避難誘導支援システムによる各種制御情報の生成処理が行われる(S4)。この制御情報の生成処理では、緊急地震速報の内容とフロアー毎の震度情報とから、優先的に避難誘導を行うフロアーを、建物内の複数フロアーの中から選択する(エリア選択ステップ)。このため、統括管理PC71は、地震評価PC21に対してフロアー毎の震度情報を要求する。なお、フロアー毎の震度情報は前述の分析関連情報を構成し、複数の震度計測装置25からの震度情報を地震評価PC21が収集して分析することで取得される(地震計測ステップ)。そして、統括管理PC71は、先に受信した緊急地震速報の内容とフロアー毎の震度情報とから優先的に避難誘導を行うフロアーを特定する。言い換えれば、各フロアーについて避難誘導を行う優先順位を定める。
【0043】
この処理は、統括管理PC71が、揺れ−危険度情報記憶領域に記憶された情報を参照することで行われる。本実施形態では、危険度として各フロアーの損壊度合いが用いられている、このため、例えば、緊急地震速報の内容とフロアー毎の震度情報とから、損壊度合いが所定の判定基準値以上になるフロアーを抽出する。そして、抽出したフロアーを損壊度合いの高い順にソートする。
【0044】
避難誘導を行うフロアーを特定したならば、統括管理PC71は、特定したフロアーにおける誘導用の制御情報を生成する。制御情報の生成は、誘導制御PC61からの映像データと障害領域−誘導方向情報記憶領域に記憶された情報に基づいて行われる。例えば、映像データの解析により障害発生場所を特定し、特定した障害発生場所に応じて誘導方向情報を選択する。そして、誘導制御PC61は、選択した誘導方向情報に応じて、音声情報発信システム40用の部屋毎の誘導指令、点滅誘導システム50用の誘導指令、及び、映像情報表示システム60用の誘導指令を生成する。その後、誘導制御PC61は、生成した誘導指令を対象となるシステムへ送信する(指令送信ステップ)。
【0045】
誘導指令を受信した各システムでは誘導制御処理が行われる(誘導ステップ,S5)。この誘導制御処理では、前述したように音声や光等による誘導が行われる。すなわち、音声情報発信システム40ではスピーカー46から音声メッセージが出力され(S5a)、点滅誘導システム50ではLED表示器55等による点滅表示が行われる(S5b)。また、映像情報表示システム60では、映像表示部に誘導用の映像が表示される(S5c)。これにより、当該フロアーにいる人を適切な方向へ誘導できる。
【0046】
次に、誘導制御PC61は、誘導指令が必要な全てのフロアーに対して誘導指令を送信したか否かを判断する(S6)。ここで、未送信のフロアーが残っていた場合には(S6でY)、ステップS4の処理に戻って、次に優先度の高いフロアーについて誘導指令を送信する。一方、全てのフロアーについて送信が終了したならば(S6でN)、誘導制御PC61は、ビル内の人の誘導が完了したか否かを判断する(S7)。そして、誘導が完了するまでは(S7でY)、ステップS3の実体把握処理以降の処理を繰り返し行う。これにより、最新の情報に基づき、刻々と変化する状況に応じた誘導ができる。例えば、落下や倒壊等によって、通路上に新たな障害物が生じても、これに応じた適切な誘導が行える。
【0047】
以上説明したように、この避難誘導システム1によれば、緊急地震速報の内容及び地震の大きさに応じてフロアーを選択し、選択したフロアーの映像に応じた誘導指令を、点滅誘導システム50等の避難誘導部に対して送信している。これにより、映像に応じた適切な誘導を、その建物内において誘導を必要とする人に対して優先的に行える。そして、誘導制御PC61は、通路における障害物の有無に応じて障害度を求めているので、障害度を精度良く求めることができる。
【0048】
また、避難誘導部としての点滅誘導システム50や映像情報表示システム60は、誘導方向を示す画像を表示する電子掲示板65や発光によって誘導方向を示すLED表示器55等を有するので、建物内の人に対して誘導方向を示すことができ、周囲の音が大きくても誘導方向を認識させることができる。
【0049】
ところで、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、前述の実施形態では、通路上の障害物の有無に応じて誘導方向を決めていたが、通路における人の混雑度合いを加味して誘導方向を決めてもよい。図9(a)に示す例では、非常口EX3の付近P4で混雑が生じている。図9(b)に示すビデオカメラ35からの映像によって混雑が確認された場合、統括管理PC71は非常口EX2へ誘導するように誘導指令を送信する。このように人の混雑度合いを加味して誘導指令を送信した場合には、混雑を緩和しつつ誘導が行えるので、ビル内の人を円滑に誘導できる。
【0050】
なお、映像に基づく混雑の確認には種々の方法を用いることができる。例えば、画像内における人の画像の密集度合いで混雑を確認できる。この場合、人は非常階段へ移動しているので移動方向は一定である。このため、画面全体に占める人の画像の割合によって混雑度を判断できる。また、移動方向が一定であることから、人の画像の移動速度や非常口を通過する人の移動速度によっても混雑度を判断できる。
【0051】
前述の実施形態における避難誘導システム1は、緊急地震速報受信システム10や建物内地震評価システム20といった複数のサブシステムを有していたが、この構成に限定されない。例えば、それぞれのコントローラ11c〜71cを有する単一のシステムによって構成してもよい。
【0052】
前述の実施形態ではフロアー毎に制御をしていたが、これに限定されない。例えば、複数フロアーを単位に制御をしてもよく、1つのフロアーを複数のエリアに区切って制御をしてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 緊急地震速報受信システム
11 速報受信PC
20 建物内地震評価システム
21 地震評価PC
25 震度計測装置
30 映像情報監視システム
31 カメラサーバー
34 監視レコーダ
35 ビデオカメラ
40 音声情報発信システム
41 ボイスサーバー
45 アナウンス装置
46 スピーカー
50 点滅誘導システム
51 点滅誘導PC
55 角形LED表示器
56 矢印表示器
57 丸形LED表示器
60 映像情報表示システム
61 誘導制御PC
65,65´ 電子掲示板
70 避難誘導支援管理システム
71 統括管理PC
71b 記憶部
EX1〜3 非常口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震発生時に建物内の人を避難誘導する避難誘導システムにおいて、
緊急地震速報を受信する速報受信部と、
前記建物における地震の大きさを計測する地震計測部と、
建物における複数のエリアの映像を取得する映像取得部と、
前記複数のエリアに設けられ、避難時に前記建物内の人を誘導する避難誘導部と、
受信された前記緊急地震速報の内容及び計測された前記地震の大きさに応じ、優先的に避難誘導を行うエリアを前記複数のエリアの中から選択するエリア選択部と、
取得した前記映像に基づく誘導指令を前記選択したエリアに属する避難誘導部に対して優先的に送信する指令送信部と、
を有することを特徴とする避難誘導システム。
【請求項2】
前記指令送信部は、
取得した前記映像から前記人の通行し難さの度合いを示す障害度を求め、当該障害度に応じた誘導指令を送信することを特徴とする請求項1に記載の避難誘導システム。
【請求項3】
前記映像取得部は、
前記エリアにおける通路の映像を取得し、
前記指令送信部は、
通路における障害物の有無に応じて前記障害度を求めることを特徴とする請求項2に記載の避難誘導システム。
【請求項4】
前記映像取得部は、
前記エリアにおける通路の映像を取得し、
前記指令送信部は、
前記通路における人の混雑度合いを加味して前記誘導指令を送信することを特徴とする請求項2又は3に記載の避難誘導システム。
【請求項5】
前記避難誘導部は、
誘導方向を示す画像を表示する画像表示部又は発光によって誘導方向を示す発光部の少なくとも一方を有することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の避難誘導システム。
【請求項6】
前記指令送信部は、
繰り返し取得した前記映像によって、前記誘導指令を更新して送信することを特徴とする請求項2から5の何れか1項に記載の避難誘導システム。
【請求項7】
地震発生時に建物内の人を避難誘導する避難誘導方法において、
緊急地震速報を受信する速報受信ステップと、
前記建物における地震の大きさを計測する地震計測ステップと、
建物における複数のエリアにおける映像を取得する映像取得ステップと、
受信された前記緊急地震速報の内容及び計測された前記地震の大きさに応じ、優先的に避難誘導を行うエリアを前記複数のエリアの中から選択するエリア選択ステップと、
取得した前記映像に基づく誘導指令を、避難時に前記建物内の人を誘導する避難誘導部であって前記選択したエリアに属する避難誘導部に対して優先的に送信する指令送信ステップと、
を行うことを特徴とする避難誘導方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−257244(P2010−257244A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106769(P2009−106769)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】