説明

還元剤を用いためっき多層膜の製造方法

【課題】 各種の優れた特性を有する多層膜の製造方法で、スパッタリング法はコストが非常に高いという問題点がある。また電気めっき法による多層膜の作製方法は低コストであるが、従来の技術では低電流あるいは低浴電圧時に成膜速度が極端に低下するという問題点があり、電流あるいは電圧を瞬時に切り替えるための特殊な電源装置が必要であった。
【解決手段】 目的に応じた組成をもつ無電解めっき成膜可能な単一のめっき液中で、還元剤による無電解めっき成膜と外部から投入する電力による電気めっき成膜を連続して行うことで、機能性を有する多層膜を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多層膜は各種の優れた特性を持つため、GMR素子などの電子デバイスや高耐摩耗性を利用した機械材料、任意周期をもつ人工回折格子など多方面において需要がある。多層膜は一般的にスパッタリング法などの乾式成膜法により製造されている(たとえば非特許文献1参照)。また電気めっき法を用いて電流密度あるいは浴電圧を瞬間的に変化させることにより、析出する金属膜の合金組成を変化させて多層膜を作製する技術も一般に知られている(特許文献1)。無電解めっきは一般的に合金めっきとして実用化されているが、鉄属の合金めっきとして代表的なニッケル−リン膜では、成膜したままの状態でリン濃度に応じて結晶/非結晶や磁性/非磁性の転移が起こることが知られており、リン濃度を調整することで各種の応用分野に対して適切な物性を持つように調整されて用いられている。しかし無電解めっき浴を用いて成膜中にこれらの転移を起こさせるような方法は従来知られておらず、特許文献1に示される電気めっき法によってのみ、層間での転移を伴う多層構造を製造する事が可能であった。
【非特許文献1】山本良一編 多層薄膜と材料開発(普及版)シーエムシー出版2002年
【特許文献1】特開平06−49682
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
スパッタリング法はコストが非常に高いという問題点がある。電気めっき法による多層膜の作製方法は低コストであるが、電流あるいは電圧を瞬時に切り替えるための特殊な電源装置が必要であり、また低電流あるいは低浴電圧時には副次的に成膜速度が極端に低下するという問題点が生じることがある。そこで層間での結晶性や磁性の転移を伴う多層構造をもつ膜の製造方法で、成膜速度の大幅な低下がなく簡単な電源装置により実施可能な、めっき法による機能性多層膜製造方法の開発を進めた結果、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前述の課題を解決するために、本発明は無電解めっき成膜可能な、目的に応じて調整された単一のめっき液中で無電解めっき成膜と電気めっき成膜を連続して行う機能性多層膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、簡単な電源装置によるめっき法で低コストかつ高速に機能性多層膜の製造を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1に示すめっき装置を用いる。無電解めっき成膜可能なめっき液を入れためっき槽と陽極、電源からなり、電気回路にスイッチを備える。スイッチを閉じると電気めっき成膜が行われ、スイッチを開くと無電解めっき成膜が行われる。電源は関数的な波形を出力する必要はない。スイッチ部は必要に応じて設定時間毎にオン/オフを繰り返す機能を持たせておく。めっき液は電気めっき成膜時と無電解めっき成膜時で異なる膜が得られるものを使用する。これにより簡単な操作で多層膜を製造することができる。めっき液や電源、スイッチのオン/オフ周期を変更することで目的に応じた成膜条件を設定することができ、目的に則した特性を有する多層膜を作製することができる。
【実施例】
【0007】
(実施例1)下記の[めっき液の組成]に示すめっき浴を用いて、[成膜条件]に従いめっき成膜を行った。このめっき条件を用いると電流を流さない場合は無電解めっき成膜が起こり、電流を流すと電気めっき成膜が起こる。このめっき液を用いて陽極にニッケル板を用いた電気めっき装置により、図2のようなパルス状の電流を投入して銅板上に成膜をおこなった。この方法で作製された膜断面を電子顕微鏡で観察した組成像が図3で、組成の異なる多層構造をもつ膜が得られることがわかる。
【0008】
この方法で得られる膜はニッケル−リン合金であるが、ニッケル−リンめっき膜は、リン濃度が約8質量%を越えると成膜したままの状態で非晶質構造となりニッケル本来の結晶構造と強磁性を失うことが知られている。この方法で得られるめっき膜のリン濃度は、蛍光X線分析より、無電解めっき成膜では約11質量%、電気めっき成膜では約5質量%であることを確認している。図3に示す多層膜のX線回折図形を図4に示す。非晶質特有のブロードなパターンと結晶質特有の鋭いピークが加算された図形を示すことから、結晶質と非晶質からなる多層膜であることがわかり、本発明の方法で結晶/非結晶あるいは磁性/非磁性の転移を伴う多層膜を製造し得ることが分かった。
【0009】
以上は、同様な成膜特性を有するコバルト、鉄を含むめっき浴を用いた場合でも適切な組成やめっき条件を定めることにより、結晶性/非結晶性あるいは磁性/非磁性の転移を伴う多層構造を製造できる可能性があることを示している。
【0010】
[めっき液の組成]
硫酸ニッケル6水和物 0.38mol/L
ホスフィン酸ナトリウム1水和物 0.0094mol/L
[成膜条件]
めっき液温度 80℃
電流密度 0又は100A/m
陽極 電解ニッケル板
成膜基板 パラジウム触媒活性化銅板
【0011】
(実施例2)ホスフィン酸を用いて無電解めっきを行う場合、一般的に金属とリンの合金組成を有する膜が得られる。めっきしたままの状態ではリンは固溶状態になるが、膜の組成に応じた適切な熱処理を行うと、膜中に金属とリンの化合物が生じることに伴って磁性、硬さなどの物性が著しく変化することが知られている。例えばニッケル−リン合金であれば、リン濃度に応じて加熱時の硬さの変化や磁性の変化に差異があるため、多層成膜後の各層の硬さや磁性などの物性について熱処理により調整することが可能になる。この方法はコバルト−リン合金膜についても応用可能である。これにより、成膜したままの膜では実現困難な特性をもつ多層膜についても成膜後に熱処理を加えることで作製可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】めっき成膜装置の模式図
【図2】成膜時に投入する電流波形の例
【図3】多層膜の断面観察像の例
【図4】多層膜と、比較用の電気めっき膜および無電解めっき膜のX線回折図形
【符号の説明】
【0013】
1 多層膜
2 成膜基板である銅板
3 無電解めっき成膜が可能なめっき液
4 めっき槽
5 陽極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一めっき液で、無電解めっき成膜と電気めっき成膜を行ったときに、組成または結晶性の異なる膜を成膜できるめっき液を用いて、1つのめっき対象物に対して無電解めっき成膜および電気めっき成膜を同一めっき液中で切り替えながら連続して成膜することを特徴とした多層膜の製造方法。
【請求項2】
主成分としてニッケル、鉄、コバルトのうち少なくとも1つ以上と、ホスフィン酸またはその塩を主成分とするめっき液を用いて、1つのめっき対象物に対して無電解めっき成膜および電気めっき成膜を同一めっき液中で切り替えながら連続して成膜することで、合金組成の異なる膜を連続して積層することを特徴とした多層膜の製造方法。
【請求項3】
主成分としてニッケル、鉄、コバルトのうち少なくとも1つ以上と、ホスフィン酸またはその塩を主成分とするめっき液を用いて、1つのめっき対象物に対して無電解めっき成膜および電気めっき成膜を同一めっき液中で切り替えながら連続して成膜することで、結晶質膜と非結晶質膜を連続して積層することを特徴とする多層膜の製造方法。
【請求項4】
主成分としてニッケル、鉄、コバルトのうち少なくとも1つ以上と、ホスフィン酸またはその塩を主成分とするめっき液を用いて、1つのめっき対象物に対して無電解めっき成膜および電気めっき成膜を同一めっき液中で切り替えながら連続して成膜することで、磁性膜と非磁性膜を連続して積層することを特徴とする多層膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4の方法で得られろ多層膜に熱処理を加えることを特徴とした多層膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−28631(P2006−28631A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235662(P2004−235662)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(391001619)長野県 (64)
【Fターム(参考)】