説明

部分放電位置標定装置および方法

【課題】波形メモリを用いることなく安価に部分放電の発生位置を標定できる部分放電位置標定装置および方法を提供すること。
【解決手段】部分放電センサ4a,4bの出力信号をそれぞれデジタル信号に変換する高速コンパレータ6a,6bと、高速コンパレータ6a,6bの出力信号をそれぞれ同一の時間幅のパルス信号に整形する波形整形器8a,8bと、波形整形器8a,8bからそれぞれ出力されたパルス信号に対して個別に設定された遅延量に応じて各パルス信号を遅延させて出力する遅延回路10a,10bと、を備え、遅延回路10a,10bの出力する信号間の時間差が0となるように設定された各遅延量の差分に基づき、部分放電の発生位置を標定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状の金属容器内に通電導体を配置し絶縁ガスを充填したガス絶縁機器に対して、部分放電の発生位置を標定する装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の部分放電位置標定装置は、異なる2つ以上のセンサからの出力波形を波形メモリに保存し、保存された波形データから信号検出の時間差を求めることにより部分放電の発生位置を標定している(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06−118119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の部分放電位置標定装置は、センサ出力の時間差を求める際に波形メモリを使用しているため、装置が高価になるという問題点があった。
【0005】
この発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、波形メモリを用いることなく安価に部分放電の発生位置を標定できる部分放電位置標定装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る部分放電位置標定装置は、筒状の金属容器内に通電導体を配置し絶縁ガスを充填したガス絶縁機器に取り付けられた一対の部分放電センサの検出する出力信号に基づき前記金属容器内で発生した部分放電の発生位置を標定する部分放電位置標定装置であって、前記一対の部分放電センサの前記出力信号をそれぞれデジタル信号に変換する一対のコンパレータと、前記一対のコンパレータの出力信号をそれぞれ同一の時間幅のパルス信号に整形する一対の波形整形器と、前記一対の波形整形器からそれぞれ出力された前記パルス信号に対して個別に設定された遅延量に応じて前記各パルス信号を遅延させて出力する一対の遅延回路と、を備え、前記一対の遅延回路の出力する信号間の時間差が0となるように設定された前記各遅延量の差分に基づき、前記部分放電の発生位置が標定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、従来のように波形メモリを用いることなく、部分放電センサの出力時間差を一対の遅延回路にてそれぞれ設定された遅延量の差分として求めることができるので、安価に部分放電の発生位置を標定できるという効果を奏する。特に、デジタル信号の遅延回路は波形メモリと比較して非常に安価であり、したがって装置を安価に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、実施の形態1に係る部分放電位置標定装置の概略構成を示す図である。
【図2】図2は、実施の形態1における処理波形を示す図である。
【図3】図3は、実施の形態1に係る部分放電位置標定装置の変形例の概略構成を示す図である。
【図4】図4は、実施の形態2に係る部分放電位置標定装置の概略構成を示す図である。
【図5】図5は、実施の形態2における処理波形を示す図である。
【図6】図6は、実施の形態2に係る部分放電位置標定装置の変形例の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明に係る部分放電位置標定装置および方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
実施の形態1.
図1は、本実施の形態に係る部分放電位置標定装置の概略構成を示す図である。図1では、部分放電位置標定装置はガス絶縁機器に取り付けられており、このガス絶縁機器は、所定の圧力の絶縁ガス(例えば、SF6ガス)が封入され軸方向を例えば水平にして配置された筒状の金属容器1と、この金属容器1内に収納され金属容器1を軸方向に沿って貫通する通電導体としての導体2と、金属容器1の接続端部間に介装され金属容器1を仕切るとともに導体2を絶縁支持する絶縁スペーサ3a,3bと、それぞれ絶縁スペーサ3a,3bに取り付けられ部分放電を検出する部分放電センサ4a,4bと、を備えている。
【0011】
また、本実施の形態に係る部分放電位置標定装置は、高速コンパレータ6a,6bと、波形整形器8a,8bと、遅延回路10a,10bと、遅延量設定器11a,11bと、排他的論理和回路13と、積分回路15と、A/D変換回路17と、表示器18と、を備えている。
【0012】
絶縁スペーサ3aには部分放電センサ4aが、絶縁スペーサ3bには部分放電センサ4bが取り付けられている。部分放電センサ4a,4bは、それぞれ金属容器1内の部分放電発生源50から発生した部分放電を検出して電気信号5a,5bを出力するセンサである。なお、部分放電センサ4a,4bは、予めガス絶縁機器に備えられていてもよいし、あるいは部分放電計測時にガス絶縁機器に取り付けられてもよい。
【0013】
部分放電発生源50は、絶縁スペーサ3a,3b間の金属容器1内において、絶縁スペーサ3aからの距離がlで、かつ、絶縁スペーサ3bからの距離が(L−l)の位置に存在している。ここで、Lは絶縁スペーサ3a,3b間の距離である。なお、図示例では、ガス絶縁機器の構成のうち主に絶縁スペーサ3a,3b間の構成を示しているが、図示しない他の絶縁スペーサに対しても同様の方法が適用される。
【0014】
高速コンパレータ6aは、部分放電センサ4aの出力する電気信号5aと所定の電圧との比較結果に応じて2値化されたデジタル信号を出力する。すなわち、高速コンパレータ6aは、電気信号5aをデジタル信号である信号7aに変換して出力する。また、高速コンパレータ6bは、部分放電センサ4bの出力する電気信号5bと所定の電圧との比較結果に応じて2値化されたデジタル信号を出力する。すなわち、高速コンパレータ6bは、電気信号5bをデジタル信号である信号7bに変換して出力する。
【0015】
波形整形器8aは、高速コンパレータ6aの出力である信号7aの波形を一定の時間幅Tのパルス信号9aに整形する。また、波形整形器8bは、高速コンパレータ6bの出力である信号7bの波形を上記一定の時間幅Tのパルス信号9bに整形する。なお、パルス信号9a,9bはそれぞれ一定の周期で順次検出されるため、隣接するパルス信号9a間および隣接するパルス信号9b間で互いに信号が重さならないように、上記一定の時間幅Tを設定する。パルス信号9a,9bは矩形の信号である。
【0016】
遅延回路10aは、遅延量設定器11aにて設定された遅延量ΔTaに基づき、波形整形器8aから出力されたパルス信号9aを時間軸に対して遅延量ΔTa分だけ遅延させたパルス信号12aを出力する。遅延量設定器11aでは、遅延量ΔTaとして0以上の値が設定可能である。また、遅延回路10bは、遅延量設定器11bにて設定された遅延量ΔTbに基づき、波形整形器8bから出力されたパルス信号9bを時間軸に対して遅延量ΔTb分だけ遅延させたパルス信号12bを出力する。遅延量設定器11bでは、遅延量ΔTbとして0以上の値が設定可能である。
【0017】
排他的論理和回路13は、遅延回路10aからのパルス信号12aと遅延回路10bからのパルス信号12bとに対して排他的論理和(XOR)を取り、その演算結果を積分回路15に出力する。
【0018】
積分回路15は、排他的論理和回路13からの出力信号14を所定の時間積分し、その積分信号16をA/D変換回路17に出力する。表示器18では、A/D変換回路17にてデジタル信号に変換された積分信号16に基づいて積分値の表示を行う。
【0019】
次に、本実施の形態の動作について図1および図2を参照して説明する。図2は、本実施の形態における処理波形を示す図である。金属容器1内で部分放電発生源50から部分放電が発生すると、この部分放電の電磁波は絶縁スペーサ3a,3bを通過し、絶縁スペーサ3a,3bにそれぞれ取り付けられた部分放電センサ4a,4bにて電気信号5a,5bとして検出される。なお、図1では、部分放電発生源50は、絶縁スペーサ3bよりも絶縁スペーサ3aにより近い側に存在しているので、図2のS1では、電気信号5aは、電気信号5bよりも先に検出される。なお、図2の横軸は時間軸を表す。
【0020】
つづいて、この電気信号5a,5bは、それぞれ高速コンパレータ6a,6bにて2値化された信号7a,7bに変換され(図2のS2)、さらに波形整形器8a,8bにて一定の時間幅Tのパルス信号9a,9bに変換される(図2のS3)。ここで、図2のS3に示すように、パルス信号9aとパルス信号9bとの時間差はΔTであり、この時間差ΔTを求めることで部分放電位置を標定することができる。すなわち、部分放電発生源50から絶縁スペーサ3aまでの距離であるlを部分放電発生位置lとすると、部分放電発生位置lは、電磁波伝達速度をvとして、l=(L−ΔT・v)/2により求めることができる。したがって、部分放電センサ4a,4bのセンサ出力の時間差に等価な時間差ΔTを求めることで部分放電発生位置lの標定を行うことができる。なお、パルス信号9a,9bはそれぞれ波形整形器8a,8bを通過することにより同一のパルス幅を有しているので、パルス信号9bのパルス信号9aに対する時間差ΔTは明確に定義される。
【0021】
次に、波形整形器8aから出力されたパルス信号9aは、遅延量設定器11aにて設定された遅延量ΔTaの分だけ遅延回路10aにて遅延させられる。また、波形整形器8bから出力されたパルス信号9bは、遅延量設定器11bにて設定された遅延量ΔTbの分だけ遅延回路10bにて遅延させられる。図2のS4では、遅延量ΔTa≠0、遅延量ΔTb=0と設定されているので、パルス信号12aはパルス信号9aに対して遅延量ΔTa分だけ遅延しているのに対して、パルス信号12bはパルス信号9bと同じである。
【0022】
つづいて、遅延回路10aからのパルス信号12aと遅延回路10bからのパルス信号12bは排他的論理和回路13に入力される。排他的論理和回路13は、パルス信号12a,12bに対する排他的論理和を演算し、その演算結果を出力信号14として出力する(図2のS5)。ここで、ΔTa=ΔTであれば、パルス信号12aとパルス信号12bとの時間差がなくなり、出力信号14の出力が0になる。次に、出力信号14は積分回路15に入力され、この積分回路15にて一定時間だけ積分される(図2のS6)。さらに、積分回路15からの積分信号16はA/D変換回路17によりデジタル変換され、表示器18にてその積分値が表示される。
【0023】
次に、表示器18に表示された積分値が0であるか否か調べ、積分値が0である場合には、遅延量ΔTaを時間差ΔTとして出力する。これは、パルス信号12aとパルス信号12bの遅延差が0になり、同一の時間軸上で双方が一致する場合である。また、積分値が0と異なる場合には、遅延量ΔTaおよび遅延量ΔTbの再設定を行う。これにより、新たに入力された部分放電信号である電気信号5a,5bに対して、S1〜S6の処理が適用され、再度、表示器18にて積分値が表示される。そして、その積分値が0である場合には、遅延量差である(ΔTb−ΔTa)を時間差ΔTとして出力する。積分値が0でない場合は、上記処理を繰り返し、積分値が0となるように遅延量ΔTa,ΔTbの調整を行い、積分値が0となったときの遅延量ΔTa,ΔTbに関する遅延量差(ΔTb−ΔTa)を算出してこれを時間差ΔTとして出力する。
【0024】
このように、表示器18にて表示された積分値が0になるように遅延量設定器11a,11bにより遅延量ΔTa,ΔTbを調整し、これらの遅延量差によりセンサ出力の時間差に等価な時間差ΔTを決定する。なお、遅延量設定器11a,11bによる遅延量の設定制御は、例えば作業者が手動で操作して行ってもよいし、あるいは自動制御で行うようにしてもよい。また、表示器18では、遅延量ΔTa,ΔTb、時間差ΔT等を表示することができる。なお、遅延量差の算出機能は、例えば積分回路15に付与してもよいし、あるいは遅延量設定器11a,11bおよび表示器18に接続された図示しない制御部等で行うこともできる。
【0025】
部分放電の位置標定を行う際には、部分放電センサ4a,4bの出力信号の時間差をナノ秒オーダーで求める必要があるが、従来用いられているようなナノ秒オーダーの波形メモリは非常に高価である。これに対して、本実施の形態では、部分放電センサ4a,4bの出力信号を波形メモリに取り込むのではなく、高速コンパレータ6a,6bおよび波形整形器8a,8bを用いて一定の長さのパルス信号9a,9bに変換した後、遅延回路10a,10bを用いてパルス信号9aとパルス信号9bとの時間差ΔTを求めることにより、部分放電位置を標定している。したがって、本実施の形態によれば、安価に部分放電位置標定が可能である、という効果を奏する。特に、デジタル信号の遅延回路10a,10bは、波形メモリと比較して格段に安い部品であるため、装置を安く製作できる。
【0026】
また、本実施の形態では、遅延回路10a,10bをそれぞれ通過したパルス信号12a,12bに対して排他的論理を取りその積分値を出力する構成としたので、この積分値が0になるように遅延量ΔTa,ΔTbを設定することにより、時間差ΔTを求めることができる。また、本実施の形態の部分放電位置標定装置は、部分放電発生位置の検出に特化した装置であるため、例えばナノ秒オーダーの時間分解能を有するオシロスコープ等と比較すると、簡素な構成で、軽量で持ち運びも容易である。
【0027】
図3は、本実施の形態に係る部分放電位置標定装置の変形例の概略構成を示す図である。図3では、図1と比較して、遅延量設定器11a,11bを設ける代わりに、積分回路15とA/D変換回路17との間に遅延量制御部30を設ける構成である。詳細には、遅延量制御部30は、積分回路15からの積分信号16に基づき、その積分値を0にするように遅延量ΔTa,ΔTbの設定制御を自動的に行う。
【0028】
遅延量制御部30による遅延量ΔTa,ΔTbの設定制御は例えば次の通りである。遅延量制御部30は、最初に例えば遅延量ΔTa=ΔTb=0と設定し、遅延量ΔTa,ΔTbのいずれか一方を増加させる。このとき、積分値が減少する場合には、その操作を継続して積分値が0になるようた遅延量を求めればよい。一方、積分値が減少しない場合には、この一方を固定し代わりに他方を増加させることにより積分値が0になるような遅延量を求めればよい。例えば、図2の場合、遅延量ΔTbを0に固定し遅延量ΔTaを0から徐々に増加させた場合は、出力される積分値は次第に減少するので、積分値が0となる遅延量ΔTaを求めればよい。また、遅延量ΔTaを0に固定し遅延量ΔTbを0から徐々に増加させた場合は、積分値は次第に増加するので、遅延量ΔTbは固定し、前述のように遅延量ΔTaを増加させて積分値が0となる遅延量ΔTaを求めればよい。
【0029】
遅延量制御部30は、積分値が0になるような遅延量ΔTa,ΔTbを得ると、これらから遅延量差(ΔTb−ΔTa)を算出し、さらに、上記関係式l=(L−ΔT・v)/2に基づいて部分放電発生位置lを算出する。これらの遅延量差および部分放電発生位置lは、A/D変換回路17を経て、表示器18にて表示される。なお、本変形例のその他の構成、動作、および効果は、図1、図2を用いて説明したとおりである。
【0030】
実施の形態2.
図4は、本実施の形態に係る部分放電位置標定装置の概略構成を示す図、図5は、本実施の形態における処理波形を示す図である。図4に示すように、本実施の形態では、図1の排他的論理和回路13の代わりに、AND回路23が設けられている。すなわち、実施の形態1では、遅延回路10aからのパルス信号12aと遅延回路10bからのパルス信号12bとに対して排他的論理和回路13にて排他的論理和を取るようにしたが、本実施の形態では、排他的論理和を取るかわりに、AND回路23により論理積を取るようにし、さらに積分回路15による積分出力が最大となるように遅延量ΔTa,ΔTbを調整するようにしたものである。なお、図4におけるその他の構成は、図1に示す構成と同じであるので、同一の構成には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0031】
本実施の形態の動作は、図5のS1〜S4までは図2と同じであるので、S5以降の動作について説明する。遅延回路10aからのパルス信号12aと遅延回路10bからのパルス信号12bはAND回路23に入力される。AND回路23は、パルス信号12a,12bに対する論理積を演算し、その演算結果を出力信号24として出力する(図5のS5)。次に、出力信号24は積分回路15に入力され、この積分回路15にて一定時間だけ積分される(図5のS6)。さらに、積分回路15からの積分信号26はA/D変換回路17によりデジタル変換され、表示器18にてその積分値が表示される。
【0032】
さらに、表示器18に表示された積分値が最大となるような遅延量ΔTa,ΔTbの設定を行う。すなわち、積分値が増加から減少に転ずるところの遅延量ΔTa,ΔTbを求める。これは、パルス信号12aとパルス信号12bの時間差が0になり、同一の時間軸上で双方が一致する場合である。そして、最大の積分値に対して、遅延量差である(ΔTb−ΔTa)を時間差ΔTとして出力する。
【0033】
このように、表示器18にて表示された積分値が最大になるように遅延量設定器11a,11bにより遅延量ΔTa,ΔTbを調整し、これらの遅延量差によりセンサ出力の時間差に等価な時間差ΔTを決定する。なお、遅延量設定器11a,11bによる遅延量の設定制御は、例えば作業者が手動で操作して行ってもよいし、あるいは自動制御で行うようにしてもよい。
【0034】
図6は、本実施の形態に係る部分放電位置標定装置の変形例の概略構成を示す図である。図6では、図4と比較して、遅延量設定器11a,11bを設ける代わりに、積分回路15とA/D変換回路17との間に遅延量制御部30を設ける構成であり、実施の形態1の図3に対応する図である。詳細には、遅延量制御部30は、積分回路15からの積分信号26に基づき、その積分値を最大にするように遅延量ΔTa,ΔTbの設定制御を自動的に行う。
【0035】
遅延量制御部30による遅延量ΔTa,ΔTbの設定制御は例えば次の通りである。遅延量制御部30は、最初に例えば遅延量ΔTa=ΔTb=0と設定し、遅延量ΔTa,ΔTbのいずれか一方を増加させる。このとき、積分値が増加する場合には、その操作を継続して積分値が最大となる遅延量を求めればよい。一方、積分値が増加しない場合には、この一方を固定し代わりに他方を増加させることにより積分値が最大となる遅延量を求めればよい。例えば、図2の場合、遅延量ΔTbを0に固定し遅延量ΔTaを0から徐々に増加させた場合は、出力される積分値は次第に増加するので、さらに積分値が増加から減少に転ずることを確認した後に、積分値が最大となる遅延量ΔTaを求めることができる。また、遅延量ΔTaを0に固定し遅延量ΔTbを0から徐々に増加させた場合は、積分値は次第に減少するので、遅延量ΔTbは固定し、前述のように遅延量ΔTaを増加させて積分値が最大となる遅延量ΔTaを求めればよい。
【0036】
遅延量制御部30は、積分値が最大になるような遅延量ΔTa,ΔTbを得ると、これらから遅延量差(ΔTb−ΔTa)を算出し、さらに、上記関係式l=(L−ΔT・v)/2に基づいて部分放電発生位置lを算出する。
【0037】
本実施の形態によれば、実施の形態1と同様に、安価に部分放電位置標定が可能になる。すなわち、デジタル信号の遅延回路10a,10bは、波形メモリと比較して格段に安い部品であるため、装置を安く製作できる。
【0038】
また、本実施の形態では、遅延回路10a,10bをそれぞれ通過したパルス信号12a,12bに対して論理積を取りその積分値を出力する構成としたので、この積分値が最大になるように遅延量ΔTa,ΔTbを設定することにより、時間差ΔTを求めることができる。また、本実施の形態の部分放電位置標定装置は、部分放電発生位置の検出に特化した装置であるため、例えばナノ秒オーダーの時間分解能を有するオシロスコープ等と比較すると、簡素な構成で、軽量で持ち運びも容易である。なお、本実施の形態のその他の構成、動作および効果は、実施の形態1と同様である。
【0039】
実施の形態1,2では、時間差ΔTを求めるために、それぞれ排他的論理和回路13、AND回路23を用いたが、これ以外の方法で時間差ΔTを求めることにより部分放電発生位置の標定を行うこともできる。一般に、遅延回路10a,10bの出力するパルス信号12a,12b間の時間差が0となるように設定された遅延量ΔTa,ΔTbの差分から、遅延回路10a,10bを通過する前のパルス信号9a,9b間の時間差ΔTを決定し、この時間差ΔTに基づいて部分放電発生位置の標定を行うことができる。排他的論理和回路13、AND回路23は、それぞれ、遅延回路10a,10bの出力するパルス信号12a,12b間の時間差が0となる遅延量ΔTa,ΔTbを求めるための具体的な手段の例である。
【0040】
なお、上記説明では、部分放電センサ4a,4bはスペーサ部に取り付けているが、金属容器1に取り付けるいわゆるディスク型部分放電センサを利用しても同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、ガス絶縁機器の金属容器内で発生した部分放電の発生位置を標定する部分放電位置標定装置および方法として有用である。
【符号の説明】
【0042】
1 金属容器
2 導体
3a,3b 絶縁スペーサ
4a,4b 部分放電センサ
5a,5b 電気信号
6a,6b 高速コンパレータ
7a,7b 信号
8a,8b 波形整形器
9a,9b,12a,12b パルス信号
10a,10b 遅延回路
11a,11b 遅延量設定器
13 排他的論理和回路
14,24 出力信号
15 積分回路
16,26 積分信号
17 A/D変換回路
18 表示器
23 AND回路
30 遅延量制御部
50 部分放電発生源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の金属容器内に通電導体を配置し絶縁ガスを充填したガス絶縁機器に取り付けられた一対の部分放電センサの検出する出力信号に基づき前記金属容器内で発生した部分放電の発生位置を標定する部分放電位置標定装置であって、
前記一対の部分放電センサの前記出力信号をそれぞれデジタル信号に変換する一対のコンパレータと、
前記一対のコンパレータの出力信号をそれぞれ同一の時間幅のパルス信号に整形する一対の波形整形器と、
前記一対の波形整形器からそれぞれ出力された前記パルス信号に対して個別に設定された遅延量に応じて前記各パルス信号を遅延させて出力する一対の遅延回路と、
を備え、
前記一対の遅延回路の出力する信号間の時間差が0となるように設定された前記各遅延量の差分に基づき、前記部分放電の発生位置が標定されることを特徴とする部分放電位置標定装置。
【請求項2】
筒状の金属容器内に通電導体を配置し絶縁ガスを充填したガス絶縁機器に取り付けられた一対の部分放電センサの検出する出力信号に基づき前記金属容器内で発生した部分放電の発生位置を標定する部分放電位置標定装置であって、
前記一対の部分放電センサの前記出力信号をそれぞれデジタル信号に変換する一対のコンパレータと、
前記一対のコンパレータの出力信号をそれぞれ同一の時間幅のパルス信号に整形する一対の波形整形器と、
前記一対の波形整形器からそれぞれ出力された前記パルス信号に対して個別に設定された遅延量に応じて前記各パルス信号を遅延させて出力する一対の遅延回路と、
前記一対の遅延回路からそれぞれ出力された信号に対する排他的論理和を演算する排他的論理和回路と、
この排他的論理和回路の出力を一定時間積分する積分回路と、
を備え、
前記積分回路の出力する積分信号の値が0となるように設定された前記各遅延量の差分に基づき、前記部分放電の発生位置が標定されることを特徴とする部分放電位置標定装置。
【請求項3】
筒状の金属容器内に通電導体を配置し絶縁ガスを充填したガス絶縁機器に取り付けられた一対の部分放電センサの検出する出力信号に基づき前記金属容器内で発生した部分放電の発生位置を標定する部分放電位置標定装置であって、
前記一対の部分放電センサの前記出力信号をそれぞれデジタル信号に変換する一対のコンパレータと、
前記一対のコンパレータの出力信号をそれぞれ同一の時間幅のパルス信号に整形する一対の波形整形器と、
前記一対の波形整形器からそれぞれ出力された前記パルス信号に対して個別に設定された遅延量に応じて前記各パルス信号を遅延させて出力する一対の遅延回路と、
前記一対の遅延回路からそれぞれ出力された信号に対する論理積を演算する論理積回路と、
この論理積回路の出力を一定時間積分する積分回路と、
を備え、
前記積分回路の出力する積分信号の値が最大となるように設定された前記各遅延量の差分に基づき、前記部分放電の発生位置が標定されることを特徴とする部分放電位置標定装置。
【請求項4】
筒状の金属容器内に通電導体を配置し絶縁ガスを充填したガス絶縁機器に取り付けられた一対の部分放電センサの検出する出力信号に基づき前記金属容器内で発生した部分放電の発生位置を標定する部分放電位置標定方法であって、
一対のコンパレータにより、前記一対の部分放電センサの前記出力信号をそれぞれデジタル信号に変換するステップと、
一対の波形整形器により、前記一対のコンパレータの出力信号をそれぞれ同一の時間幅のパルス信号に整形するステップと、
一対の遅延回路により、前記一対の波形整形器からそれぞれ出力された前記パルス信号に対して個別に設定された遅延量に応じて前記パルス信号を遅延させて出力するステップと、
を含み、
前記一対の遅延回路の出力する信号間の時間差が0となるように前記各遅延量を設定し、前記各遅延量の差分に基づいて前記部分放電の発生位置を標定することを特徴とする部分放電位置標定方法。
【請求項5】
筒状の金属容器内に通電導体を配置し絶縁ガスを充填したガス絶縁機器に取り付けられた一対の部分放電センサの検出する出力信号に基づき前記金属容器内で発生した部分放電の発生位置を標定する部分放電位置標定方法であって、
一対のコンパレータにより、前記一対の部分放電センサの前記出力信号をそれぞれデジタル信号に変換するステップと、
一対の波形整形器により、前記一対のコンパレータの出力信号をそれぞれ同一の時間幅のパルス信号に整形するステップと、
一対の遅延回路により、前記一対の波形整形器からそれぞれ出力された前記パルス信号に対して個別に設定された遅延量に応じて前記パルス信号を遅延させて出力するステップと、
排他的論理和回路により、前記一対の遅延回路からそれぞれ出力された信号に対する排他的論理和を演算するステップと、
積分回路により、前記排他的論理和回路の出力を一定時間積分するステップと、
を含み、
前記積分回路の出力する積分信号の値が0となるように前記各遅延量を設定し、前記各遅延量の差分に基づいて前記部分放電の発生位置を標定することを特徴とする部分放電位置標定方法。
【請求項6】
筒状の金属容器内に通電導体を配置し絶縁ガスを充填したガス絶縁機器に取り付けられた一対の部分放電センサの検出する出力信号に基づき前記金属容器内で発生した部分放電の発生位置を標定する部分放電位置標定方法であって、
一対のコンパレータにより、前記一対の部分放電センサの前記出力信号をそれぞれデジタル信号に変換するステップと、
一対の波形整形器により、前記一対のコンパレータの出力信号をそれぞれ同一の時間幅のパルス信号に整形するステップと、
一対の遅延回路により、前記一対の波形整形器からそれぞれ出力された前記パルス信号に対して個別に設定された遅延量に応じて前記パルス信号を遅延させて出力するステップと、
論理積回路により、前記一対の遅延回路からそれぞれ出力された信号に対する論理積を演算するステップと、
積分回路により、前記論理積回路の出力を一定時間積分するステップと、
を含み、
前記積分回路の出力する積分信号の値が最大となるように前記各遅延量を設定し、前記各遅延量の差分に基づいて前記部分放電の発生位置を標定することを特徴とする部分放電位置標定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−122977(P2011−122977A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281908(P2009−281908)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】