説明

配線板およびその製造法

【課題】基板表面の絶縁性と、配線板の放熱性とを十分に実現する配線板を提供する。
【解決手段】金属基板としてのアルミニウム基板1の表面に金属酸化物絶縁層としてのアルマイト層2が形成され、アルマイト層2のアルミニウム基板1と反対側の表面に熱伝導性樹脂絶縁層3が形成され、熱伝導性樹脂絶縁層3のアルマイト層2と反対側の表面に配線部7が形成されている。そしてアルマイト層2は、その表面に空孔およびクラックの少なくともいずれか一種類の凹部4a、4bを有し、熱伝導性樹脂絶縁層3は、凹部4a、4b内に入り込んだ状態で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線板およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高発熱部品の高密度実装のためには、部品が実装される配線板に高い放熱性が要求される。また、配線板の機能を実現するためには、配線部が配される基板の表面が、絶縁物で構成されている必要がある。そのため、従来から、放熱性の良好な配線板を得る一手段として、アルミニウム基板表面に絶縁物としての有機高分子材料を配する技術が知られている。しかし、有機高分子材料は、熱伝導性が低く、配線板の放熱性は十分とはならない。そこで、その有機高分子材料に金属酸化物で被覆された金属粒子を含ませる技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開昭59−204296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、アルマイト等の金属酸化物は、温度変化によりクラックが発生しやすいことが知られている。そのため、クラック発生により金属粒子が露出し、基板表面の絶縁性を長期間維持できないという問題がある。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、基板表面の絶縁性と、配線板の放熱性とを十分に実現する配線板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る配線板は、金属基板の表面に金属酸化物絶縁層が形成され、金属酸化物絶縁層の金属基板と反対側の表面に熱伝導性樹脂絶縁層が形成され、熱伝導性樹脂絶縁層の金属酸化物絶縁層と反対側の表面に配線部が形成される配線板であって、金属酸化物絶縁層は、その表面に空孔およびクラックの少なくともいずれか一種類の凹部を有し、熱伝導性樹脂絶縁層は、凹部内に入り込んだ状態で形成されている。
【0007】
本発明に係る配線板によれば、熱伝導率が高い金属酸化物絶縁層および熱伝導性樹脂絶縁層を金属基板表面に配しているため、金属基板が有する放熱性の良い特性を十分に生かし得る。また、金属酸化物絶縁層が凹部を有し、熱伝導性樹脂絶縁層は、表面空孔部内に入り込んだ状態で形成されているため、熱伝導性樹脂絶縁層が、金属酸化物絶縁層を構造的に補強することとなる。よって、温度変化等により金属酸化物絶縁層に新たにクラックが形成されるのを抑制でき、金属基板表面の絶縁性を維持できる。また、熱伝導性樹脂絶縁層の凹部部内への入り込みにより、凹部内にある空気が少なくなるため、その空気中の水分が金属酸化物絶縁層の絶縁性を低下させるのをさらに抑制できる。また、予め金属酸化物絶縁層にクラックを形成させ、そのクラックによる凹部内に樹脂が入り込んでいる場合には、そこで応力緩和しているため、温度変化の際に新たなクラックが形成され難い。
【0008】
他の本発明に係る配線板は、上述の発明に加え、金属基板がアルミニウムまたはアルミニウム基合金で構成され、金属酸化物絶縁層がアルマイトで構成されている。この構成を採用することにより、金属基板を軽量化でき、また、金属基板の陽極酸化等の簡易な手段で金属酸化物絶縁層を形成することができる。
【0009】
また、他の本発明に係る配線板は、上述の発明に加え、アルマイトを硬質アルマイトとしている。硬度の高い硬質アルマイトは、温度変化によってもクラックが形成され難いため、金属基板の絶縁性の低下をさらに抑制できる。ここで、硬質アルマイトは、硬度が250HV以上のアルマイトをいう。また、当該硬度は、アルミニウム基板にアルマイト層が付いたものの断面における、アルマイト層部分を、マイクロビッカース硬度計を用い、100gの荷重で測定したものである(以下、硬度は同じ測定方法によるものである)。
【0010】
また、他の本発明に係る配線板は、上述の発明に加え、熱伝導性樹脂絶縁層の厚みが、凹部に入り込んだ部分を除き、5μm以上50μm以下の範囲としている。熱伝導性樹脂絶縁層の厚みを5μm以上とすると、金属基板表面の絶縁性がより高まる。また、熱伝導性樹脂絶縁層の厚みを50μm以下にすると、配線板の放熱性がより高まる。
【0011】
また、他の本発明に係る配線板は、上述の発明に加え、凹部に露出する前記金属基板面が酸化処理されている。この構成を採用することにより、凹部に露出する前記金属基板面の導電性を防ぎ、金属基板表面の絶縁性をより良好にできる。
【0012】
また、他の本発明に係る配線板は、上述の発明に加え、配線部の一部が、熱伝導性樹脂絶縁層を通過して金属酸化物絶縁層に接触している。この構成を採用することにより、配線部で発生したジュール熱または高発熱電子部品から配線部へ伝達された熱の大部分を、熱伝導性樹脂絶縁層を介在させずに直接金属酸化物絶縁層に逃がすことができ、配線板の放熱性をより良好にすることができる。
【0013】
上記課題を解決するため、本発明に係る配線板の製造法は、金属基板の表面に金属酸化物絶縁層を形成する第1の工程と、金属酸化物絶縁層の金属基板と反対側の表面に熱伝導性樹脂絶縁層を形成する第2の工程と、熱伝導性樹脂絶縁層の金属酸化物絶縁層と反対側の表面に配線部を形成する第3の工程と、を有する配線板の製造法であって、第2の工程は、液状の樹脂を金属酸化物絶縁層の表面にある空孔およびクラックの少なくともいずれか一種類の凹部内に浸透させた状態で樹脂を硬化させる工程、もしくは流動状の樹脂を凹部内に圧入した状態で樹脂を硬化させる工程であることとしている。
【0014】
本発明に係る配線板の製造法によれば、第2の工程により熱伝導性樹脂絶縁層を、金属酸化物絶縁層の凹部内に入り込んだ状態で形成できる。そのため、熱伝導性樹脂絶縁層が、金属酸化物絶縁層を構造的に補強することとなる。よって、温度変化等により金属酸化物絶縁層にクラックが形成されるのを抑制でき、金属基板表面の絶縁性を維持できる。また、熱伝導性樹脂絶縁層の凹部内への入り込みにより、凹部内にある空気中の水分が少なくなるため、その水分が金属酸化物絶縁層の絶縁性を低下させるのをさらに抑制できる。さらに、熱伝導率が高い金属酸化物絶縁層および熱伝導性樹脂絶縁層を金属基板表面に配しているため、配線板は、金属基板が有する放熱性の良い特性を十分に生かし得る。
【0015】
他の本発明は、上述の配線板の製造法の発明に加え、凹部が前記クラックを含む場合において、第1の工程後、第2の工程前に、金属酸化物絶縁層にクラックを形成することとしている。この構成を採用することにより、第1の工程により形成した金属酸化物絶縁層に予めクラックを形成させ、応力緩和できる。よって、温度変化の際にも新たなクラックは形成され難い。その状態で、第2の工程により熱伝導性樹脂絶縁層をクラック(凹部)内に入り込ませているため、凹部における金属基板の露出による絶縁性低下を抑制している。
【0016】
また、他の本発明は、上述の配線板の製造法の発明に加え、第3の工程は、樹脂表面または熱伝導性樹脂絶縁層表面に、プロファイルを有する金属箔を配する過程を有し、かつ金属箔のプロファイルが、樹脂または熱伝導性樹脂絶縁層を通過して金属酸化物絶縁層に接触させる過程を経ている。この構成を採用することにより、配線部で発生したジュール熱または高発熱電子部品から配線部へ伝達された熱の大部分を、熱伝導性樹脂絶縁層を介在させずに直接金属酸化物絶縁層に逃がすことができ、配線板の放熱性を、より良好にすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、基板表面の絶縁性と、配線板の放熱性とを十分に実現する配線板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(第1の実施の形態)
まず、第1の実施の形態に係る配線板10およびその製造法について、その製造過程の一例を示す図1および製造工程の流れを示す図2を参照しながら説明する。図1において(A)から(D)に進むに従い、配線板10の製造が進行する。
【0019】
第1の実施の形態の配線板10は、図1(D)に示すように、金属基板としてのアルミニウム基板1の表面に金属酸化物絶縁層としてのアルマイト層2が形成され、アルマイト層2のアルミニウム基板1と反対側の表面に熱伝導性樹脂絶縁層3が形成され、熱伝導性樹脂絶縁層3のアルマイト層2と反対側の表面に配線部7が形成されている。そしてアルマイト層2は、その表面を含めて全域に空孔部からなる凹部4aを有し、熱伝導性樹脂絶縁層3は、凹部4a内に入り込んだ状態で形成されている。
【0020】
第1の実施の形態の配線板10の製造法は、図2に示すように、金属基板としてのアルミニウム基板1の表面に金属酸化物絶縁層としてのアルマイト層2を形成する第1の工程(ステップS101)と、アルマイト層2のアルミニウム基板1と反対側の表面に熱伝導性樹脂絶縁層3を形成する第2の工程(ステップS102)と、熱伝導性樹脂絶縁層3のアルマイト層2と反対側の表面に配線部7を形成する第3の工程(ステップS103)と、を有する。第2の工程は、液状の樹脂5をアルマイト層2の表面の空孔からなる凹部4a内に浸透させた状態で、当該樹脂5を硬化させる工程、もしくは、流動状の樹脂5をアルマイト層2の凹部4a内に圧入した状態で、当該樹脂5を硬化させる工程である。
【0021】
図1(A)は、アルミニウム基板1を示している。ここで、アルミニウム基板1は、その材料を、金属アルミニウムまたはアルミニウム基合金とするものである。アルミニウム基合金には、たとえば、Al−Cu系合金、Al−Mn系合金、Al−Si系合金、Al−Mg系合金、Al−Mg−Si系合金、Al−Zn−Mg系合金等を好適に用いることができる。
【0022】
図1(B)は、アルミニウム基板1の一方の面に、厚み20μmのアルマイト層2を形成した状態を示している。アルマイト層2の形成は、リン酸浴中でアルミニウム基板1の一方の面を陽極酸化することによる。かかる工程が第1の工程に相当する。形成されたアルマイト層2は、硬度が250HVを下回る、いわゆるリン酸アルマイトである。アルマイト層2は、その表面を含めて全域に空孔部からなる凹部4aを有している。なお、このアルマイト層2の厚みを調整するには、たとえば、その陽極酸化の際の電気量や酸化時間等を適宜調整すると良い。
【0023】
図1(C)は、第1の工程で形成したアルマイト層2の表面上に液状の樹脂5をスピンコート、カーテンコート等のコーティング手段により配した状態を示している。樹脂5は、凹部4a内に浸透している。この状態で、加熱処理により樹脂5を硬化させ、熱伝導性樹脂絶縁層3を得る。この結果、熱伝導性樹脂絶縁層3は、アルマイト層2の表面の空孔部からなる凹部4a内に入り込んだ状態となる。かかる工程が第2の工程に相当する。
【0024】
ここで、樹脂5には、市販のポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂等の印刷回路基板に用いられる絶縁性樹脂、またはこれらの樹脂にフィラーを混入したもの等を好適に用いることができる。また、熱伝導性樹脂絶縁層3の高い熱伝導性(放熱性)を実現するには、その厚みを薄くするのが良い。好適な厚みは、用いる材料によって変動するが、概ね凹部4a内に入り込んだ部分を除き50μm以下である。また、熱伝導性樹脂絶縁層3の絶縁性は、その厚みを薄くし過ぎないこと、また導電性粒子等を混入させないこと等で実現できる。好適な厚みは、用いる材料によって変動するが、凹部4a内に入り込んだ部分を除き概ね5μm以上である。但し、アルマイト層2の厚みを厚くすること、または硬質アルマイトで構成すること等で、アルミニウム基板1表面の絶縁性を十分確保できる場合には、熱伝導性樹脂絶縁層3の厚みを、凹部4a内に入り込んだ部分を除き1μm、2μm、3μm、または4μmとするのが好ましい。第1の実施の形態に係る熱伝導性樹脂絶縁層3の厚みは、凹部4a内に入り込んだ部分を除き5μmとしている。
【0025】
また、樹脂5には、接着性樹脂シートを用いることができる。接着性樹脂シートをアルマイト層2の表面に貼付し、接着性樹脂シートの上からプレスすることにより、樹脂5を凹部4a内に圧入することができる。ここで、凹部4aに圧入できる樹脂5は、流動性を有する樹脂5ということになる。その後、加熱処理により樹脂5を硬化させると、凹部4a内に入り込んだ状態の熱伝導性樹脂絶縁層3を得ることができる。アルミニウム基板1表面の、より高い絶縁性を確保する観点からは、図1に示すように、熱伝導性樹脂絶縁層3が、凹部4aに露出したアルミニウム基板1表面を被覆するように凹部4a内全域に入り込んでいることが好ましい。
【0026】
このように、熱伝導性樹脂絶縁層3が少なくとも凹部4aの入り口付近にのみ入り込んだ状態(好ましくは、凹部4a内全域に入り込んだ状態)となると、熱伝導性樹脂絶縁層3は、アルマイト層2を構造的に補強することとなる。よって、温度変化等によりアルマイト層2に、さらなるクラックが形成されるのを抑制でき、その結果、アルミニウム基板1表面の絶縁性を長期間維持できる。また、上記の状態になると、凹部4a内の空気が少なくなるため、その空気中の水分に起因して生じるアルミニウム基板1表面の絶縁性低下を、さらに抑制できる。さらに、熱伝導性樹脂絶縁層3とアルマイト層2との密着性が強固となり、熱伝導性樹脂絶縁層3の熱収縮あるいは膨張等によっても、熱伝導性樹脂絶縁層3が剥がれ難くなる。
【0027】
図1(D)は、熱伝導性樹脂絶縁層3上に配線部7を形成した状態を示している。配線部7は、配線用銅箔を熱伝導性樹脂絶縁層3上に貼付する等により配して、その後、配線パターン以外の部分をエッチングにより除去する手段により形成される。かかる工程が第3の工程に相当する。以上の工程により、第1の実施の形態に係る配線板10が完成する。
【0028】
(第2の実施の形態)
次に、第2の実施の形態に係る配線板11およびその製造法について、その製造過程の一例を示す図3を参照しながら説明する。図3において(A)から(E)に進むに従い、配線板10の製造が進行する。
【0029】
第2の実施の形態の配線板11は、図3(E)に示すように、金属基板としてのアルミニウム基板1の表面に金属酸化物絶縁層としてのアルマイト層2が形成され、アルマイト層2のアルミニウム基板1と反対側の表面に熱伝導性樹脂絶縁層3が形成され、熱伝導性樹脂絶縁層3のアルマイト層2と反対側の表面に配線部7が形成されている。アルマイト層2は、その表面を含めて全域に空孔部からなる凹部4aおよびクラックからなる凹部4bを有し、熱伝導性樹脂絶縁層3は、少なくとも凹部4a,4b内に入り込んだ状態で形成されている。
【0030】
第2の実施の形態の配線板11の製造法は、図2に示す第1の工程(ステップS101)後、図2に示す第2の工程(ステップS102)前に、アルマイト層2にクラックを形成する工程を有する以外は、第1の実施の形態の配線板11の製造法と同様である。
【0031】
図3(A)および(B)は、第1の実施の形態における図1(A)および(B)と同様の内容を示している。図3(C)は、アルマイト層2にクラックを形成した状態を示している。このクラックの形成は、たとえば配線板11の想定される使用温度を上回る温度である約270℃までの加熱と、その後に常温(約20℃)の水に入れる急冷とからなるサイクルを1回または2回以上、必要に応じて繰り返すことにより、行われる。
【0032】
図3(D)は、液状の樹脂5をアルマイト層2の表面に、第1の実施の形態と同様の手段により配した状態を示している。樹脂5は凹部4a,4b内に浸透している。この状態で、加熱処理により樹脂5を硬化させ、熱伝導性樹脂絶縁層3を得る。この結果、熱伝導性樹脂絶縁層3は、アルマイト層2の凹部4a,4b内に入り込んだ状態となる。この熱伝導性樹脂絶縁層3の厚みは、第1の実施の形態と同様に凹部4a内に入り込んだ部分を除き5μmとしている。
【0033】
図3(E)は、第1の実施の形態における図1(D)と同様の内容を示している。以上の工程で得られた第2の実施の形態の配線板11は、第1の実施の形態の配線板10で得られた効果に加え、クラックの形成により温度変化の際の応力を緩和しているため、新たなクラックが形成され難くなり、さらにアルミニウム基板1の表面の絶縁性を実現できる。
【0034】
(第3の実施の形態)
次に、第3の実施の形態に係る配線板12およびその製造法について、その製造過程の一例を示す図4を参照しながら説明する。図4において(A)から(F)に進むに従い、配線板12の製造が進行する。
【0035】
第3の実施の形態の配線板12は、図4(F)に示すように、配線部7が金属箔である配線用銅箔6により構成され、その配線用銅箔6の一部をなすプロファイル8が熱伝導性樹脂絶縁層3を通過してアルマイト層2に接触する構成を備えている。
【0036】
第3の実施の形態の配線板12の製造法は、第2の実施の形態の配線板11の製造法における第3の工程において、樹脂5表面に、プロファイル8を有する金属箔である配線用銅箔6を配する過程を有し、配線用銅箔6のプロファイル8が、樹脂5を通過して金属酸化物絶縁層であるアルマイト層2に接触させる点で第2の実施の形態の配線板11の製造法と異なる。第3の工程では、樹脂5の表面に金属箔である、プロファイル8を有する配線用銅箔6を配して、配線用銅箔6のプロファイル8が樹脂5を通過してアルマイト層2に接触するのと同時またはその後に、樹脂5を硬化させて熱伝導性樹脂絶縁層3とする。こうして、第2の工程が第3の工程中に終了する。その後、配線用銅箔6をエッチングする過程を経て配線部7を得て、第3の工程を終了させる。
【0037】
図4(A)、(B)、および(C)は、第2の実施の形態における図3(A)、(B)、および(C)と同様の内容であるため、説明を省略する。図4(D)の段階では、樹脂5を硬化させていないため、熱伝導性樹脂絶縁層3が完全に形成されておらず、まだ第2の工程は終了していない。図4(E)は、樹脂5が完全には硬化していない状態で、樹脂5の上にプロファイル8を有する配線用銅箔6を配した状態を示している。
【0038】
次いで、プロファイル8を有する配線用銅箔6が、まだ完全には硬化していない樹脂5を通過してアルマイト層2に接触するよう、樹脂5および配線用銅箔6の上から加熱プレスする。すると図4(F)に示すように、配線用銅箔6のプロファイル8が、樹脂5を通過してアルマイト層2に接触した状態となる。また、加熱プレスにより樹脂5が硬化して熱伝導性樹脂絶縁層3となり、第2の工程が終了する。その後、配線用銅箔6の配線パターン以外の部分をエッチングにより除去する手段により配線部7を形成する。こうして第3の工程が終了する。
【0039】
以上の工程で得られた第3の実施形態の配線板12は、配線用銅箔6のプロファイル8が、アルマイト層2に直接接触しているため、第2の実施形態の配線板11で得られた効果に加え、配線部7で発生したジュール熱または高発熱電子部品から配線部7へ伝達された熱の大部分を、熱伝導性樹脂絶縁層2を介在させずに直接アルマイト層2に逃がすことができる。したがって、配線板12の放熱性を、より良好にすることができる。
【0040】
第1、第2および第3の実施の形態に係るアルマイト層2は、アルミニウム基板1をリン酸溶液中で陽極酸化して形成された、リン酸アルマイトからなる。しかし、他の電解浴、たとえばリン酸溶液、硫酸溶液、しゅう酸溶液、クエン酸溶液、芳香族スルホン酸溶液、クロム酸溶液、これら2以上の混合溶液等を、適宜選択して使用することができる。そして、形成されるアルマイト層2は、いわゆる黄金色アルマイト、白アルマイト、クロム酸アルマイト等からなるものとすることができる。また、アルマイト層2として、黄金色アルマイト、リン酸アルマイト、白アルマイト、クロム酸アルマイト等とは異なる硬質アルマイトを形成する場合には、これらの電解浴の温度、濃度、通電する電流密度を適宜調整すると良い。硬度の高い硬質アルマイトは、温度変化によってもクラックが形成され難いため、アルミニウム基板1の絶縁性の低下をさらに抑制できる。クラック形成の抑制の観点から、硬質アルマイトの硬度は、300HV以上が好ましく、350HV以上がより好ましく、400HV以上がさらに好ましい。
【0041】
硬質アルマイトを形成するには、電解浴温度を0℃付近とし、通電電流密度を、通常のアルマイト(黄金色アルマイト、リン酸アルマイト、白アルマイト、クロム酸アルマイト等)を形成する場合よりも高めると良い。通電電流密度を高くすると、厚いアルマイト層を効率良く形成できる。なお、通電電流密度が高い場合、アルミニウム基板1と電解浴の界面で大きなジュール熱が発生し、当該界面における電解浴温度が高くなることがある。そのような場合には、必要に応じ、撹拌羽根等で電解浴を撹拌すると良い。このような形成方法を採用すると、通常のアルマイトよりも容易に、かつ効率的にアルマイト層を形成できる。
【0042】
以下、硬質アルマイトの形成方法の好適な例を示す。電解浴に硫酸を用いる場合には、硫酸濃度を10から20モル%とし、電解浴温度を0から10℃とし、通電電流密度を2から5A/dmとする。また、電解浴にしゅう酸を用いる場合には、しゅう酸濃度を3から8モル%とし、電解浴温度を5から15℃とし、通電電流密度を2から10A/dmとする。さらに電解浴に硫酸と、しゅう酸との混合溶液を用いる場合には、硫酸濃度を10から20モル%、しゅう酸濃度を1から2モル%とし、電解浴温度を0から15℃とし、通電電流密度を2から5A/dmとする。
【0043】
また、硬質アルマイトは、その表面が比較的硬いため、電子部品実装時の配線板の固定治具等による引っ掻き等による衝撃によっても損傷し難く、アルミニウム基板1の表面の絶縁性が低下し難いという利点を有する。
【0044】
第1、第2および第3の実施の形態では、アルマイト層2自身を溶融・再結晶(再成長化)させる方法等による、通常の封孔処理が行われていない。その理由は、熱伝導性樹脂絶縁層3が凹部4a,4b内に入り込んだ状態が形成されているため、いわゆる封孔処理が行われたのと同様の結果が得られるためである。しかし、通常の封孔処理を行った後で熱伝導性樹脂絶縁層3を形成してもよい。このことにより、アルミニウム基板1の表面の絶縁性をより高めることができる。通常の封孔処理する方法としては、たとえば、アルマイト層2を酢酸ニッケル系溶液に浸漬する方法、または酢酸ニッケル系溶液の蒸気に接触させる方法、高い耐蝕性を付与できる加圧水蒸気による蒸気封孔、耐摩耗性をあまり低下させずに耐蝕性を付与できる重クロム酸封孔、あるいは、フッ化物による低温封孔等が挙げられる。なお、このような通常の封孔処理の結果、凹部4a,4bに露出している、もしくは露出しているに等しい状態のアルミニウム基板1表面を防触することができ、さらに、比較的脆いアルマイト層2であっても補強できる。
【0045】
第1、第2および第3の実施の形態では、金属基板の一方の面に金属酸化物絶縁層を形成している。しかし、金属基板の両面に金属酸化物絶縁層を形成しても良い。その場合、金属基板両面に電子部品を実装可能な配線部を配した配線板(両面配線板)を得ることができる。両面配線板において、基板にスルーホールを有する場合には、そのスルーホール内壁面に金属酸化物絶縁層および/または熱伝導性樹脂絶縁層を形成することができる。
【0046】
第1、第2および第3の実施の形態では、熱伝導性樹脂絶縁層を用いているが、金属酸化物絶縁層の絶縁性が十分に高く確保できていれば、熱伝導性樹脂絶縁層は必ずしも必要ではない。熱伝導性樹脂絶縁層を設けなければ、配線板の放熱性がより良好となる。たとえば、そのための一つ目の手段は、第2および第3の実施の形態のように、金属酸化物絶縁層にクラックからなる凹部4bを予め形成し、凹部4bに露出した金属基板に後述の酸化処理を施して、その露出部分の絶縁性を確保する。その場合のクラックは、配線板使用時の想定できる温度変化よりも大きな温度変化により熱応力を付与して、アルマイト層2の応力緩和を十分に行わせるようにすることが好ましい。また、二つ目の手段は、金属酸化物絶縁層に、硬質アルマイト等のように温度変化によってもクラックが発生し難いものを用いる。その場合の金属酸化物絶縁層の硬度は、300HV以上であることが好ましい。
【0047】
金属酸化物絶縁層の空孔部またはクラックからなる凹部4a,4bに露出する金属基板面は、空気中の加熱処理や、再度の陽極酸化処理等の手段で酸化処理されていることが好ましい。その理由は、凹部4a,4bに露出する金属基板面に起因する導電性を防ぎ、金属基板面の絶縁性をより高めるためである。ここで、再度の陽極酸化による酸化処理を行うと、凹部4a,4bに露出する金属基板面よりも金属酸化物絶縁層表面の方が陰極との距離が近いため、金属酸化物絶縁層表面が優先的に酸化され、露出した金属基板面が酸化され難い場合がある。その場合には、金属酸化物絶縁層を形成したときよりも通電電圧を小さくし、ゆっくりと陽極酸化することで酸化領域の集中を緩和して、露出した金属基板面の酸化を促進させることが好ましい。
【0048】
第1、第2および第3の実施の形態に係る第3の工程では、配線部7をいわゆるサブトラクティブ法により形成しているが、いわゆるアディティブ法(セミアディティブ、フルアディティブ等)により配線部7を形成することもできる。
【0049】
第3の実施の形態では、配線部7の一部を、熱伝導性樹脂絶縁層3を通過してアルマイト層2に接触している構成としている。この構成は、第3の実施の形態に係る配線板12の製造法以外の手段によっても実現できる。たとえば、配線部7を構成する金属箔である配線用銅箔6の熱伝導性樹脂絶縁層3に当接する側の面を粗面化し、その粗面の凸部が硬化前の樹脂を通過して金属酸化物絶縁層に接触するようにした後で、その樹脂を硬化させる手段により実現できる。ここで、金属箔の粗面化の手段は、たとえば、金属箔をエッチング液へ浸漬したり、金属箔をレーザー照射により部分的に溶融したり、やすり等で機械的に部分的な研削をする等の手段である。また、市販の配線用銅箔6には予め樹脂との接着力向上の為にコブ処理と称するプロファイル処理されておりこれを用いることも可能である。また、配線部7をアディティブ法により形成する場合には、熱伝導性樹脂絶縁層3に金属酸化物絶縁層に通じる穴を形成し、その穴を埋めるように配線部7を形成する手段も好適である。さらに、第3の実施の形態に係る配線板12の製造法において、樹脂5を硬化した後若しくはエッチング処理等の回路加工に支障がない程度まで硬化させた後に、熱伝導性樹脂絶縁層3および配線用銅箔6の上からのプレス等の手段で、配線用銅箔6のプロファイル8が、熱伝導性樹脂絶縁層3を通過してアルマイト層2に接触した状態を形成することとしてもよい。
【0050】
第1、第2および第3の実施の形態では、金属基板にアルミニウム基板1を用い、金属酸化物絶縁層をアルマイト層2とし、配線部7を配線用銅箔6からなるものとしたが、これらの組み合せに限定されない。たとえば、金属基板にはステンレス板、亜鉛銅板、けい素銅板等を用いることができ、金属酸化物絶縁層をアルミナセラミック層等とすることができる。また、金属酸化物絶縁層に代えて、放熱性の良好な窒化アルミニウム層等の金属窒化物層を採用しても良い。配線部6は、銀粉末により導電性が付与された導電性接着剤等の導電性樹脂、放熱性の良好な厚み300μm以上の厚銅等からなるものとすることができる。ここで、ステンレス基板面に表面空孔のないアルミナセラミック板を貼付し、このアルミナセラミック板にクラックを形成した後に、熱伝導性樹脂絶縁層3をそのクラックに入り込むよう形成し、その後、熱伝導性樹脂絶縁層3のアルミナセラミック板とは反対側の面に配線部7を形成することにより、金属酸化物絶縁層表面の空孔からなる凹部4aを有しない、クラックからなる凹部4bのみを有する配線板を構成することができる。
【0051】
第1、第2および第3の実施の形態では、熱伝導性樹脂絶縁層3として、ポリイミド系樹脂あるいはエポキシ系樹脂を用いているが、これらに限定されない。たとえば、放熱性を高めるため、熱伝導性に優れる窒化アルミニウム粉末、酸化アルミニウム粉末等を混入したもの、耐熱性に優れるポリアミドイミド樹脂、ビスマレイドトリアジン樹脂等を用いることもできる。
【0052】
第2および第3の実施の形態では、金属酸化物絶縁層にクラックを形成する手段を、配線板使用時の想定できる温度変化よりも大きな温度変化の熱応力(熱衝撃)を付与する手段としている。この手段は、配線板の使用により形成されるであろう箇所へのクラックの形成を予め行うため、配線板を実際に使用したときには新たなクラックが極めて形成されにくくなる点で好ましい。しかし、それ以外のクラックを形成する手段、たとえば機械的な衝撃を付与する手段を採用できる。この機械的な衝撃によっても、応力緩和すべき箇所に優先的にクラックが形成され、熱応力の付与と同様の結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】第1の実施の形態に係る配線板の製造方法を示す図であり、(A)はアルミニウム基板を示し、(B)はアルミニウム基板の一方の面にアルマイト層を形成した状態を示し、(C)はアルマイト層の上および表面空孔部内に熱伝導性樹脂絶縁層を形成した状態を示し、(D)は熱伝導性樹脂絶縁層の上に配線部を形成した状態を示している。
【図2】第1の実施の形態に係る配線板の製造工程の流れを示すフローチャートである。
【図3】第2の実施の形態に係る配線板の製造方法を示す図であり、(A)はアルミニウム基板を示し、(B)はアルミニウム基板の一方の面にアルマイト層を形成した状態を示し、(C)は、アルマイト層にクラックを形成した状態を示し、(D)はアルマイト層の上と表面空孔部内およびクラックに熱伝導性樹脂絶縁層を形成した状態を示し、(E)は熱伝導性樹脂絶縁層の上に配線部を形成した状態を示している。
【図4】第3の実施の形態に係る配線板の製造方法を示す図であり、(A)はアルミニウム基板を示し、(B)はアルミニウム基板の一方の面にアルマイト層を形成した状態を示し、(C)は、アルマイト層にクラックを形成した状態を示し、(D)はアルマイト層の上と表面空孔部内およびクラックに液状の樹脂を配した状態を示し、(E)は液状の樹脂が完全には硬化しない段階でその樹脂の上に配線部を形成した状態を示し、(F)は配線部の配線用銅箔のプロファイルが樹脂を通過してアルマイト層に接触した状態を示している。
【符号の説明】
【0054】
1 アルミニウム基板(金属基板)
2 アルマイト層(金属酸化物絶縁層)
3 熱伝導性樹脂絶縁層
4a 凹部(アルマイト層の表面空孔部からなる凹部)
4b 凹部(アルマイト層のクラックからなる凹部)
5 樹脂
6 配線用銅箔
7 配線部
8 プロファイル
10,11,12 配線板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板の表面に金属酸化物絶縁層が形成され、上記金属酸化物絶縁層の上記金属基板と反対側の表面に熱伝導性樹脂絶縁層が形成され、上記熱伝導性樹脂絶縁層の上記金属酸化物絶縁層と反対側の表面に配線部が形成される配線板において、
上記金属酸化物絶縁層は、その表面に空孔およびクラックの少なくともいずれか一種類の凹部を有し、上記熱伝導性樹脂絶縁層は、上記凹部内に入り込んだ状態で形成されていることを特徴とする配線板。
【請求項2】
前記金属基板がアルミニウムまたはアルミニウム基合金で構成され、前記金属酸化物絶縁層がアルマイトで構成されることを特徴とする請求項1記載の配線板。
【請求項3】
前記アルマイトが硬質アルマイトであることを特徴とする請求項2記載の配線板。
【請求項4】
前記熱伝導性樹脂絶縁層の厚みが、前記凹部に入り込んだ部分を除き、5μm以上50μm以下の範囲にあることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の配線板。
【請求項5】
前記凹部に露出する前記金属基板面が酸化処理されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の配線板。
【請求項6】
前記配線部の一部が、前記熱伝導性樹脂絶縁層を通過して前記金属酸化物絶縁層に接触していることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の配線板。
【請求項7】
金属基板の表面に金属酸化物絶縁層を形成する第1の工程と、上記金属酸化物絶縁層の上記金属基板と反対側の表面に熱伝導性樹脂絶縁層を形成する第2の工程と、上記熱伝導性樹脂絶縁層の上記金属酸化物絶縁層と反対側の表面に配線部を形成する第3の工程と、を有する配線板の製造法において、
上記第2の工程は、液状の樹脂を上記金属酸化物絶縁層の表面にある空孔およびクラックの少なくともいずれか一種類の凹部内に浸透させた状態で上記樹脂を硬化させる工程、もしくは流動状の樹脂を凹部内に圧入した状態で上記樹脂を硬化させる工程であることを特徴とする配線板の製造法。
【請求項8】
前記凹部が前記クラックを含む場合において、前記第1の工程後、前記第2の工程前に、前記金属酸化物絶縁層にクラックを形成することを特徴とする請求項7記載の配線板の製造法。
【請求項9】
前記第3の工程は、前記樹脂表面または前記熱伝導性樹脂絶縁層表面に、プロファイルを有する金属箔を配する過程を有し、かつ上記金属箔のプロファイルが、前記樹脂または前記熱伝導性樹脂絶縁層を通過して前記金属酸化物絶縁層に接触させる過程を経ることを特徴とする請求項7または8記載の配線板の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−165751(P2007−165751A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−362930(P2005−362930)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(596091004)株式会社マルチ (18)
【出願人】(502273096)株式会社関東学院大学表面工学研究所 (52)
【出願人】(595068195)株式会社アイン (9)
【Fターム(参考)】