説明

酵素反応試薬

【課題】室温にて安定に保存ができる酵素反応試薬、それを用いた酵素反応試薬キット及び酵素の活性維持方法の提供。
【解決手段】酵素、緩衝液またはその成分、硫酸アンモニウムが接触しないまたは高濃度で接触しない状態で保存することで、室温にて安定に保存ができる酵素反応試薬、それを用いた酵素反応試薬キットおよび酵素の活性維持方法を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性に優れた酵素反応試薬、それを用いた酵素反応測定試薬キット、及び酵素の活性維持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素反応を利用した様々な測定技術が臨床診断や検査の分野で活用されている。酵素は一般に溶液状態、特に希釈条件で長時間放置すると失活する場合が多い。そのため近年、種々の方法により酵素や補酵素等の安定性を高めた調製不要の液状試薬が開発されている。しかし、これらは低温で1年程度品質を保持する設計であり、すべての酵素に適応できる汎用技術にはなっていない(特許文献1)。このためより長期間保存する場合、依然として多くの酵素が、高濃度条件にてグリセロールなどの安定化剤を添加した状態で、−20℃で保存され、使用時に適宜、反応溶液で希釈して使用されるのが一般的である。また、保存安定性を高めるために酵素およびその他の不安定物質を凍結乾燥し、使用前に溶解液で溶解し使用することも行われる(特許文献2)。
【0003】
診断検査分野で用いられる酵素のうち、ポリメラーゼ・チェイン反応法(Polymerase Chain Reaction法)に代表される様々な核酸増幅方法で利用されているのが、配列特異的に核酸増幅を行うDNAポリメラーゼである。その利用により、遺伝子を用いた医療診断や微生物検査、各種分析が大きく伸展した(非特許文献1,2)。近年では、1回分ずつ分注されている酵素の凍結乾燥品が市販されており、室温にて保存ができ、溶液の融解や分注の必要がなく、すぐに反応が開始できるという利便性に優れたポリメラーゼ・チェイン反応試薬もある(非特許文献3,4)。
【0004】
このようなDNAポリメラーゼの酵素反応を最適化するために硫酸アンモニウムを添加することが知られており(非特許文献5,6)、特に、DNA合成における配列の正確性を特徴とするTthPlus(登録商標) DNAポリメラーゼ、Tfl DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼなどの反応溶液には、収率向上のため、硫酸アンモニウムの添加が必要である(非特許文献7,8)。また、ポリメラーゼ・チェイン反応法(Polymerase Chain Reaction法)とは原理が異なる核酸増幅法であるLAMP法(loop-mediated isothermal amplification法)に用いられる鎖置換型DNAポリメラーゼ、Bst DNAポリメラーゼの反応溶液にも硫酸アンモニウムの添加が必要である(非特許文献9)。さらに、二本鎖DNA末端の標識や平滑化に利用するT4 DNAポリメラーゼの反応溶液にも硫酸アンモニウムを添加することが多い(非特許文献10)。
【0005】
ところが、これらの反応のために硫酸アンモニウムを含む酵素反応溶液を通常の方法で凍結乾燥した場合、たとえ乾燥直後であっても、再溶解した反応溶液の酵素活性は著しく低下する。このため、硫酸アンモニウムを用いる酵素の反応試薬においては、室温にて保存ができ、溶液の融解や分注の手間がかからず、すぐに反応が開始できるという利便性に優れた試薬がない。硫酸アンモニウムを含む酵素反応溶液系でも、依然として、酵素を高濃度条件にてグリセロールなどの安定化剤を添加した状態で、-20℃で保存し、使用時に適宜、反応溶液で希釈して使用しているのが現状である。
【特許文献1】特開2003−66040号公報
【特許文献2】特許第3006889号公報
【非特許文献1】Saiki,R.K.,et.al. Science, vol.230(1985),pp1350−1354
【非特許文献2】Saiki,R.K.,et.al. Science, vol.239(1988),pp487−491
【非特許文献3】「アマシャム バイオサイエンス 総合製品カタログ2004」、アマシャム バイオサイエンス株式会社、2004年、p10-8
【非特許文献4】「RTS Amplfication Reagents パンフレット」#2004-16-MB、インビトロジェン株式会社
【非特許文献5】Technical Bulletin #MO267(9/29/04),New England Biolabs,Inc.
【非特許文献6】Kogan,S.C.,et.al. New England J Med, vol.317(1987),pp985-990
【非特許文献7】「ENZYME RESOURCE GUIDE,POYMERASE」#BR075A(10/98)、Promega,c33
【非特許文献8】「GENECRAFT Catalog 2004」GeneCraft GmbH、p4
【非特許文献9】Notomi,T.,et.al. Nucleic Acids Research, vol.28(2000),e63
【非特許文献10】「CERTIFICATE OF ANALYSIS:T4 DNA Polymerase」#EP0061 Fermentas Inc.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、硫酸アンモニウムを用いる酵素の反応試薬における上記従来技術の問題点を解消し、室温にて安定に保存ができる、酵素反応試薬、それを用いた酵素反応試薬キット及び酵素の活性維持方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、緩衝液またはその成分と硫酸アンモニウムを混合した溶液を同一の試薬収容容器に収容することが酵素活性低下の主要因であることをつきとめ、緩衝液またはその成分と硫酸アンモニウムの接触を減ずること、すなわち酵素と緩衝液またはその成分と硫酸アンモニウムとが接触しない状態または高濃度に接触しない状態で保存することで酵素の活性を維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は次のとおりの酵素反応試薬、酵素反応試薬キット及び酵素の活性維持方法(1)〜(13)に関する。
(1)少なくとも緩衝液またはその成分、酵素、硫酸アンモニウムを含む試薬からなり、緩衝液またはその成分と硫酸アンモニウムとの接触が減じられていることを特徴とする酵素反応試薬。
(2)硫酸アンモニウムと接触する緩衝液またはその成分のモル数を、硫酸アンモニウムのモル数の1/12以下とする上記(1)に記載の酵素反応試薬。
(3)緩衝液またはその成分を含む乾燥試薬球(以下、第1乾燥試薬球)と、硫酸アンモニウムを含む乾燥試薬球(以下、第2乾燥試薬球)とからなり、第2乾燥試薬球中には、緩衝液またはその成分が含まれないか、あるいは、硫酸アンモニウムのモル数の1/12以下の緩衝液またはその成分が含まれることを特徴とする上記(1)または(2)のいずれかに記載の酵素反応試薬。
(4)隔膜によって緩衝液またはその成分と硫酸アンモニウムとの接触が減じられていることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の酵素反応試薬。
(5)酵素、緩衝液またはその成分、硫酸アンモニウムを含有する試薬キットであって、該試薬キットは、緩衝液またはその成分が収容される試薬収容容器(以下、第1容器)と、硫酸アンモニウムが収容される試薬収容容器(以下、第2容器)を含み、第2容器には、緩衝液またはその成分が含まれないか、あるいは、硫酸アンモニウムのモル数の1/12以下のモル数の緩衝液またはその成分が含まれ、酵素が少なくとも第1容器あるいは第2容器のいずれかに含まれることを特徴とする試薬キット。
(6)酵素が収容される試薬収容容器内の試薬群は乾燥し、酵素が収容されない試薬収容容器内の試薬群は液状であることを特徴とする上記(5)に記載の試薬キット。
(7)酵素が収容される試薬収容容器内の試薬群は、凍結乾燥により乾燥され、球状多孔体を形成していることを特徴とする上記(6)に記載の試薬キット。
(8)酵素が収容される試薬収容容器内に、安定化剤が含まれることを特徴とする上記(5)〜(7)のいずれかに記載の試薬キット。
(9)安定化剤が糖であることを特徴とする上記(8)記載の試薬キット。
(10)酵素がDNAポリメラーゼであることを特徴とする上記(5)〜(9)のいずれかに記載の試薬キット。
(11)酵素、緩衝液またはその成分、硫酸アンモニウムを含有する試薬キットであって、該試薬キットは緩衝液またはその成分を含有する乾燥試薬球(以下、第1乾燥試薬球)と、硫酸アンモニウムを含有する乾燥試薬球(以下、第2乾燥試薬球)を含み、第2乾燥試薬球中には、緩衝液またはその成分が含まれない、あるいは硫酸アンモニウムのモル数の1/12以下の緩衝液またはその成分が含まれ、酵素が少なくとも第1乾燥試薬球あるいは第2乾燥試薬球のいずれかに含まれることを特徴とする試薬キット。
(12)酵素、緩衝液またはその成分、硫酸アンモニウムを含有する試薬キットの酵素活性を維持する方法であって、緩衝液またはその成分と硫酸アンモニウムの接触を減ずることを特徴とする酵素の活性維持方法。
(13)硫酸アンモニウムに接触する緩衝液またはその成分のモル数が、硫酸アンモニウムのモル数の1/12以下であることを特徴とする上記(12)に記載の酵素の活性維持方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、硫酸アンモニウムを用いる酵素の反応試薬において、室温にて安定に保存ができ、溶液の融解や分注の必要がなく、すぐに反応が開始できるという利便性に優れた酵素反応試薬を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の酵素反応試薬、それを用いた酵素反応試薬キット及び酵素の活性維持方法の提供にあたり、酵素反応における緩衝液またはその成分と硫酸アンモニウムとの接触を減ずることが望ましい。緩衝液またはその成分と硫酸アンモニウムは、同一の溶液中に含んでもよいが、緩衝液またはその成分のモル数を硫酸アンモニウムのモル数の1/12以下、好ましくは1/25以下、さらに好ましくは1/50以下、最も好ましくは完全に接触しない状態におくことが好ましい。
【0011】
緩衝液またはその成分と硫酸アンモニウムとの接触を減ずる方法として、種々の手段を適用することができる。例えば、緩衝液またはその成分を含む乾燥試薬と硫酸アンモニウムを含む乾燥試薬とを別々に調製するほか、破壊できる、あるいは溶解できる隔膜で仕切っておき、使用時に隔膜を破り、あるいは溶かし、緩衝液またはその成分を含む試薬と硫酸アンモニウムを含む試薬が混合されるようにしてもよい。この場合、「破壊できる隔膜」とは、例えば針のような先端のとがったもので破るか、応力をかけて破ることができる膜であって、そのような外部応力をかけない限り破れない素材として、ポリエチレン、ポリプロピレンが挙げられ、一方、「溶けやすい隔膜」とは、例えば水溶性フィルムであって、ポリビニルアルコールを主成分とするフィルムやポリエチレングリコールを素材とするフィルムなどが挙げられる。さらに、他の手段として、同一のカートリッジ内に2つのチャンバーを設け、使用時に両者をつなぐ流路を介して混合するようにしてもよく、本発明ではこのような手段でも接触が減じることができる。
【0012】
また本発明において、2種以上の試薬を含んでなる酵素反応試薬キットを提供する場合は、緩衝液またはその成分と硫酸アンモニウムをそれぞれ別個の試薬に分離して含有させることができる。例えば少なくとも酵素、基質、硫酸アンモニウム、安定化剤を含む乾燥試薬が、緩衝液またはその成分を含まないか、あるいは緩衝液またはその成分と硫酸アンモニウムを含む試薬であって、その緩衝液またはその成分が硫酸アンモニウムのモル数の12分の1以下に調整されている試薬と、緩衝液またはその成分を含む試薬とを組み合わせることで、保存性の高い、利便性に優れた形態の酵素反応試薬キットを提供することができる。このキットは、酵素を含む試薬は乾燥されていることが好ましいが、酵素を含まない試薬については、液体試薬または乾燥試薬のいずれでもよい。
【0013】
本発明において、緩衝液またはその成分と硫酸アンモニウムとの接触を減ずるように保存することで、酵素の活性維持方法、酵素反応試薬および酵素反応試薬キットを提供することができる。
【0014】
本発明で用いられる酵素は、その酵素活性を増加させるに際し硫酸アンモニウムを添加する酵素であれば特に限定されない。例えば、Bst DNAポリメラーゼ、ラージ フラグメント(Bst DNA Polymerase, Large Fragment)は、バシラス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)由来DNAポリメラーゼ蛋白の一部であり、5'→3'ポリメラーゼ活性を持ち、5'→3'ヌクレアーゼドメインを欠く酵素であるが、GC含量の多いDNAのシークエンシングやナノグラム(ng)量のDNAテンプレートの迅速なシークエンシングなどに活用することができる。また、LAMP(Loop-mediated isothermal amplification)法に用いられる鎖置換型DNAポリメラーゼも用いることができる。
【0015】
上記Bst DNAポリメラーゼの一般的な反応溶液条件は、20mM Tris-HCl (pH8.8 25℃で)、10mM KCl、10mM (NH4)2SO4、2mM MgSO4、0.1% Triton X-100である。本発明によって提供される酵素反応試薬、酵素反応試薬キットおよび酵素の活性維持方法には、この他にも、Pfu DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ、Tfl DNAポリメラーゼ、T4 DNAポリメラーゼ、Taq DNAポリメラーゼなどを使用することができる。これらの酵素では、通常、正確性を重視した反応条件において、10mM〜20mM程度の硫酸アンモニウムを添加する。
【0016】
本発明で用いられる緩衝液またはその成分としては、Tris-HCl、Tris-acetateなどの他、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、GOOD緩衝液なども用いることができる。その他酵素反応を行うにあたり必要な成分として、無機塩、界面活性剤があり、それぞれの酵素に適したものを利用することが望ましい。例えば、無機塩としては、KCl、MgSO4、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム等が用いられ、界面活性剤としては、Triton X-100、Tween20、Betaineが挙げられる。
【0017】
本発明で用いられる安定化剤としては、単糖類六単糖のグルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、単糖類五単糖のキシロース、アラビノース、二糖類のスクロース、トレハロース、マルトース、ラクトース、三糖類のマルトトリオース、ラフィノース、多糖類のデキストラン、牛血清アルブミン、キレート剤などを用いることができる。このうち、凍結乾燥において実績のあるトレハロース、ラフィノース、マルトース、マルトトリオース、ラクトース、デキストラン、およびスクロースなどが特に望ましい。安定化剤の添加量は、乾燥直前の溶液状態での添加量として、1〜20w/v%、好ましくは、5〜10w/v%である。これは、最終反応溶液中の濃度で表すと、0.25〜5w/v%、好ましくは、1.26〜2.52w/v%相当となる。本発明で用いられる酵素は、乾燥後の溶解性や形状の観点から、その保存溶液にグリセロールを含まないことが望ましく、グリセロールを含んだ場合でも、溶解後の最終反応溶液中に0.01%以下、好ましくは0.005%程度になるように調整することが望ましい。通常、高濃度の酵素溶液を50%グリセロール溶液で保存し、使用時に十分希釈することでこれを実現する。
【0018】
本発明で用いられる試薬は乾燥して用いることができる。試薬の乾燥方法としては、凍結乾燥、噴霧乾燥、ドラム乾燥、流動層造粒乾燥などがあるが、好ましくは凍結乾燥である。凍結乾燥は、真空中で氷晶点以下の温度に保持しながら乾燥する方法であり、含水物中の水分が固体から気体へ気化する昇華による乾燥である。凍結乾燥で用いられる真空領域は107Paから1Paであり、このときの水の沸点はそれぞれ-20℃から-60℃である。噴霧乾燥は、高温気流中に液を噴霧させ蒸発表面積を拡大して瞬時に乾燥する方法である。熱風中で有効に熱交換が行われるため粒子は気化熱によりそれほど高い温度にならず、噴霧条件を適切に設定することにより熱変性も問題にならない。ドラム乾燥は、加熱された回転ドラムの表面に対象物をフィルム上に塗布し、蒸発面積を拡大して迅速に連続的に乾燥させる方法である。流動層造粒乾燥は、下方から熱風を送り込んで粉末を激しく流動させてその中に結着液を噴霧しながら粒体を造粒、乾燥する方法である。
特に、凍結乾燥させた試薬は多孔質構造体となるので、短時間に少量の液体に溶解させることができ、酵素反応試薬として優れており、25μlの液体に30秒以内に溶解させることも可能である。
【0019】
本発明は上記のとおりであるが、さらに本発明の酵素反応試薬とは、次の(1)〜(11)のように例示することができる。
(1)硫酸アンモニウムを必要とする酵素の反応試薬であって、少なくとも緩衝液またはその成分、無機塩を含む第一試薬と、少なくとも酵素、基質、硫酸アンモニウム、安定化剤を含む第二試薬とからなり、第一試薬がpH7.5乃至9.0であることを特徴とする液状試薬であり、第二試薬が緩衝液またはその成分を含まないか、あるいは硫酸アンモニウムのモル数の12分の1以下に調整した乾燥試薬であって、使用直前に第一試薬にて溶解することを特徴とする酵素反応試薬である。
(2)望ましくは、第二試薬が凍結乾燥された球状多孔性構造体からなる上記(1)の酵素反応試薬。
(3)さらに望ましくは、第二試薬が30秒で25μlの第一試薬に完全に溶解することが出来る上記(1)または(2)の酵素反応試薬。
【0020】
(4)また、上記(2)の球状多孔構造体が、一体性を有する酵素反応試薬。
(5)あるいは、上記(2)の球状多孔構造体が構造的に2つに分離されている酵素反応試薬。
(6)上記(2)の球状多孔性構造体である第二試薬は、10%未満の含水量を有することが望ましい。
(7)室温保存で安定である上記(1)または(2)の第一試薬及び第二試薬。
(8)上記(1)または(2)の第二試薬に含まれる安定化剤は糖であることが望ましい。
(9)さらに、上記糖が、トレハロース、ラフィノース、マルトース、マルトトリオース、ラクトース、デキストラン、およびスクロースからなる群から選択されることが望ましい。
(10)またさらに、上記(1)、(2)、(7)、(8)のいずれかの第二試薬に含まれる酵素としてDNAポリメラーゼが例示される。
(11)望ましくは、上記DNAポリメラーゼとしてBst DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ、Tfl DNAポリメラーゼ、T4 DNAポリメラーゼ、Taq DNAポリメラーゼからなる群から選択される少なくとも1つのDNAポリメラーゼが例示される。
【0021】
本発明は上記のとおりであるが、さらに本発明の酵素反応試薬キットとは、次の(12)のように例示することができる。
(12)上記(1)、(2)、(7)、(8)、(10)のいずれかの酵素反応試薬を用い、第二試薬を予め反応容器に所定の容量を入れた状態で室温もしくは冷蔵にて保管し、室温もしくは冷蔵にて保管した第一試薬を所定量注入して酵素反応を測定する酵素反応試薬キット。
【0022】
本発明は上記のとおりであるが、さらに本発明の酵素の活性維持方法とは、次の(13)のように例示することができる。
(13)上記(1)、(2)、(7)、(8)、(10)のいずれかに記載の酵素反応試薬を用いる酵素反応測定方法。
【0023】
また、本発明は上記のとおりであるが、さらに本発明の酵素試薬または酵素反応キットの製造方法として、次の(14)〜(18)の方法を例示することができる。
(14)(a)酵素、基質、硫酸アンモニウム、安定化剤を含む第二試薬の水溶液を用意し、(b)比重1.0未満の不活性な溶媒を準備し、(c)均一にした第二試薬を上記溶媒中に分注して液滴を球状に形成させ、(d)上記溶媒及び液滴を冷却して液滴を凍結させ、そして(e)球体形状を保つのに適当な条件下で上記液滴を乾燥して酵素反応試薬球体を形成させる各工程を含んでなる酵素反応試薬球体を製造し、これを使用直前に緩衝液またはその成分、無機塩を含む第一試薬にて溶解することを特徴とする酵素反応試薬球体を製造する方法。
(15)望ましくは、第一試薬がpH7.5乃至9.0である液状試薬であり、第二試薬が緩衝液またはその成分を含まないか、もしくは第一試薬に含まれる緩衝液またはその成分の12分の1以下の濃度で調製した乾燥試薬球体となるように製造する上記(14)の方法。
(16)あるいは、酵素反応試薬球体が約10%未満の水分を含むように減圧乾燥を続ける、上記(14)の方法。
(17)もしくは、酵素反応試薬球体が、約1mm〜約5mmの直径を有する、上記(14)の方法。
(18)さらに、第二試薬に含まれる酵素がDNAポリメラーゼであり、安定化剤が糖である上記(14)の方法。
【0024】
さらに、本発明の酵素試薬または酵素反応キットの製造にあたり、酵素反応試薬球体を製造する方法およびその酵素反応試薬球体について、次の(19)〜(37)を例示することができる。
(19)そして、上記(14)の方法に従って製造される酵素反応試薬球体。
(20)また、(a)酵素、基質、安定化剤を含む水溶液、及び硫酸アンモニウムを単独で含む水溶液を用意し、(b)比重1.0未満の不活性な溶媒を準備し、(c)均一にした2種の水溶液をそれぞれ、上記溶媒中に分注して液滴を球状に形成させ、(d)上記溶媒及び液滴を冷却して液滴を凍結させ、そして(e)球体形状を保つのに適当な条件下で上記液滴を乾燥して酵素反応試薬球体を形成させる各工程を含んでなり、この2種類の酵素反応試薬球体をあわせて第二試薬とし、使用直前に緩衝液またはその成分、無機塩を含む第一試薬にて溶解することを特徴とする酵素反応試薬球体を製造する方法。
(21)望ましくは、第一試薬がpH7.5乃至9.0であり、硫酸アンモニウムを含まないことを特徴とする液状試薬である、上記(20)の方法。
(22)あるいは、酵素反応試薬球体が約10%未満の水分を含むように減圧乾燥を続ける、上記(20)の方法。
(23)もしくは、酵素反応試薬球体が、それぞれ約1mm〜約5mmの直径を有する、上記(20)の方法。
(24)さらに、第二試薬に含まれる酵素がDNAポリメラーゼであり、安定化剤が糖であることを特徴とする、上記(20)の方法。
(25)そして、(20)の方法に従って製造される酵素反応試薬球体。
【0025】
(26)また、(a)酵素、基質、硫酸アンモニウム、安定化剤を含む第二試薬の水溶液を用意し、(b)撥水性容器を準備し、(c)均一にした第二試薬を上記撥水性容器中に分注して液滴を球状に形成させ、(d)上記容器及び液滴を冷却して液滴を凍結させ、そして(e)球体形状を保つのに適当な条件下で上記液滴を乾燥して酵素反応試薬球体を形成させる各工程を含んでなり、使用直前に緩衝液またはその成分、無機塩を含む第一試薬にて溶解することを特徴とする酵素反応試薬球体を製造する方法。
(27)望ましくは、第一試薬がpH7.5乃至9.0であることを特徴とする液状試薬であり、第二試薬が緩衝液またはその成分を含まないか、もしくは第一試薬に含まれる緩衝液またはその成分の12分の1以下の濃度で調製した乾燥試薬球体となるように製造する上記(26)に記載の方法。
(28)あるいは、酵素反応試薬球体が約10%未満の水分を含むように減圧乾燥を続ける、上記(26)の方法。
(29)もしくは、酵素反応試薬球体が、約1mm〜約5mmの直径を有する、上記(26)の方法。
(30)さらに、第二試薬に含まれる酵素がDNAポリメラーゼであり、安定化剤が糖であることを特徴とする、上記(26)の方法。
(31)そして、上記(26)の方法に従って製造される酵素反応試薬球体。
【0026】
(32)また、(a)酵素、基質、安定化剤を含む水溶液、及び硫酸アンモニウムを単独で含む水溶液を用意し、(b)撥水性容器を準備し、(c)均一にした2種の水溶液をそれぞれ、上記撥水性容器中に分注して液滴を球状に形成させ、(d)上記容器及び液滴を冷却して液滴を凍結させ、そして(e)球体形状を保つのに適当な条件下で上記液滴を乾燥して酵素反応試薬球体を形成させる各工程を含んでなり、この2種類の酵素反応試薬球体をあわせて第二試薬とし、使用直前に緩衝液またはその成分、無機塩を含む第一試薬にて溶解することを特徴とする酵素反応試薬球体を製造する方法。
(33)望ましくは、第一試薬がpH7.5乃至9.0であり、硫酸アンモニウムを含まないことを特徴とする液状試薬である、上記(32)の方法。
(34)あるいは、酵素反応試薬球体が約10%未満の水分を含むように減圧乾燥を続ける、上記(32)の方法。
(35)もしくは、酵素反応試薬球体が、それぞれ約1mm〜約5mmの直径を有する、(32)の方法。
(36)さらに、第二試薬に含まれる酵素がDNAポリメラーゼであり、安定化剤が糖であることを特徴とする、上記(32)の方法。
(37)そして、上記(32)の方法に従って製造される酵素反応試薬球体。
以下、参考例、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
[参考例1]
鎖置換型DNAポリメラーゼであるBst DNAポリメラーゼを用いたLAMP(Loop-mediated isothermal amplification)法での例を示す。LAMP法の実際の手順については、例えば(非特許文献9)に詳しく、開示されている。結核菌M.tuberculosis(H37Ra)のゲノムDNA検出系をモデルケースとして説明する。
【0028】
LAMP反応用プライマーとして配列番号1から配列番号6に記載のオリゴヌクレオチドを化学的に合成した。すなわち、インナープライマーとしてFIPプライマー(配列番号1)およびBIPプライマー(配列番号2)、アウタープライマーとしてF3プライマー(配列番号3)およびB3プライマー(配列番号4)、ループプライマーとしてFLプライマー(配列番号5)およびBLプライマー(配列番号6)を準備した。次に、25μl中に、20mM Tris-HCl(pH8.8)、10mM KCl、8mM MgSO4、10mM (NH4)2SO4、0.1% Tween20、0.8M Betaine、2.8mM dGTP、2.8mM dCTP、2.8mM dATP、2.8mM dTTP、40pmol(1.6μM) FIPプライマー(配列番号1)、40pmol(1.6μM) BIPプライマー(配列番号2)、5pmol(0.2μM) F3プライマー(配列番号3)、5pmol(0.2μM) B3プライマー(配列番号4)、40pmol(1.6μM) FLプライマー(配列番号5)、40pmol(1.6μM) BLプライマー(配列番号6)、8units Bst DNA Polymerase Large Fragment(NEW ENGLAND BioLabs製)、及び10pg 結核菌M.tuberculosisゲノムDNAとなるように添加し、これを陽性標準とした(表1)。一方、陽性標準の成分のうち、10pg 結核菌M.tuberculosisゲノムDNAのみを除いたものを陰性標準とした(表1)。また、陰性標準液をそのまま凍結乾燥し、凍結乾燥終了後、直ちに10pg 結核菌M.tuberculosisゲノムDNAのみを含む25μlの蒸留水で溶解したものを乾燥試薬1とした(表1)。
凍結乾燥は、溶液を独立バイアル脱着型96穴プレートのポリプロピレン製バイヤル(株式会社ハイペップ研究所製)に溶液を入れ、容器ごとヘキサン−ドライアイスにて冷却し溶液を凍結させた後、凍結乾燥機(FD-1000型、東京理化器械株式会社製)にて16時間乾燥させた。
【0029】
【表1】

【0030】
これらサンプルをLAMP反応用0.2mlマイクロチューブ(栄研化学株式会社製)に入れ、速やかにLAMP反応専用リアルタイム濁度測定装置LA―200(テラメックス株式会社製)にセットし、64℃にて60分間反応させ、増幅反応中の濁度を測定し、酵素活性を評価した。
図1にリアルタイム濁度測定の結果を示す。乾燥試薬1の測定値は陰性標準と重なっている。また、各サンプルのLAMP反応の濁度が0.1に達した時間を表2にまとめた。このように、Tris-HClと硫酸アンモニウムを同時に含む酵素反応溶液を通常の方法で凍結乾燥すると、たとえ乾燥直後であっても、再溶解した反応溶液の酵素活性は認められなかった。
【0031】
【表2】

【0032】
[参考例2]
最終25μl中に、20mM Tris-HCl(pH8.8)、10mM KCl、8mM MgSO4、8mM (NH4)2SO4、0.1% Tween20、0.8M Betaine、1.4mM dGTP、1.4mM dCTP、1.4mM dATP、1.4mM dTTPとなるように、22μlの第一試薬を準備した。これを溶液のまま45℃の条件で保管し、保管1日後の第一試薬と保管7日後及び28日後の第一試薬を作製した。これら保管後第一試薬に対し、参考例1と同様に準備したLAMP反応用プライマーを、40pmol(1.6μM) FIPプライマー(配列番号1)、40pmol(1.6μM) BIPプライマー(配列番号2)、5pmol(0.2μM) F3プライマー(配列番号3)、5pmol(0.2μM) B3プライマー(配列番号4)、40pmol(1.6μM) FLプライマー(配列番号5)、40pmol(1.6μM) BLプライマー(配列番号6)、8units Bst DNA Polymerase Large Fragment(NEW ENGLAND BioLabs製)、及び10pg 結核菌M.tuberculosisゲノムDNAとなるように添加し、25μlとした。
これらサンプルをLAMP反応用0.2mlマイクロチューブ(栄研化学株式会社製)に入れ、速やかにLAMP反応専用リアルタイム濁度測定装置LA―200(テラメックス株式会社製)にセットし、64℃にて60分間反応させ、増幅反応中の濁度を測定した。
各サンプルのLAMP反応の濁度が0.1に達した時間を表3にまとめた。保存安定性加速試験において、45℃の条件で7日保管は、おおよそ室温(25℃)保存の2週間、もしくは4℃保存の1ヶ月程度に相当することが知られている(Shelf Life of Medical Devices; FDA, 1991)。このように、緩衝液であるTris-HCと硫酸アンモニウムを同時に含む液状第一試薬は、酵素活性の点から保存安定性が著しく悪い。
【0033】
【表3】

【実施例1】
【0034】
参考例1と同様に、LAMP反応用プライマーとして配列番号1から配列番号6に記載のオリゴヌクレオチドを化学的に合成した。次に、第二試薬2〜4を、それぞれ表4に示す成分を含むように作製した。試薬の乾燥は凍結乾燥にて行った。凍結乾燥は、溶液を独立バイアル脱着型96穴プレートのポリプロピレン製バイヤル(株式会社ハイペップ研究所製)に溶液を入れ、容器ごとヘキサン−ドライアイスにて冷却し溶液を凍結させた後、凍結乾燥機(FD-1000型、東京理化器械株式会社製)にて16時間乾燥させた。乾燥後、10pg 結核菌M. tuberculosisゲノムDNAを含む第一試薬溶液2〜4を用意し(表5)、それぞれ25μlを第二試薬2〜4に加えて溶解したものを乾燥試薬2〜4と名付けた。溶解したサンプルをLAMP反応用0.2mlマイクロチューブ(栄研化学株式会社製)に入れ、速やかにLAMP反応専用リアルタイム濁度測定装置LA―200(テラメックス株式会社製)にセットし、64℃にて60分間反応させ、増幅反応中の濁度を測定した。
【0035】
各サンプルのLAMP反応の濁度が0.1に達した時間を表6にまとめた。このように、硫酸アンモニウムを含む酵素反応溶液を乾燥することで起こる反応溶液の活性低下の主要因は、硫酸アンモニウムと緩衝液であるTris-HCl(pH8.8)を混合した溶液状態であり、例えば、乾燥試薬2のように、緩衝液またはその成分とTween20を含まない場合、使用上問題がないレベルの活性が保持される。この場合対応する第一試薬2には、LAMP反応増幅の目的対象物であるDNA以外に、緩衝液またはその成分とTween20のみが含まれていればよい。
【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
【表6】

【実施例2】
【0039】
参考例1と同様に、LAMP反応用プライマーとして配列番号1から配列番号6に記載のオリゴヌクレオチドを化学的に合成した。次に、第二試薬5〜6を、それぞれ表7に示す成分を含むように作製した。試薬の乾燥は凍結乾燥にて行った。凍結乾燥は、溶液を独立バイアル脱着型96穴プレートのポリプロピレン製バイヤル(株式会社ハイペップ研究所製)に溶液を入れ、容器ごとヘキサン−ドライアイスにて冷却し溶液を凍結させた後、凍結乾燥機(FD-1000型、東京理化器械株式会社製)にて16時間乾燥させた。
乾燥後、第二試薬5は球状の乾燥試薬となった。これをそのままLAMP反応用0.2mlマイクロチューブ(栄研化学株式会社製)に入れた。
第二試薬6は、表7に示すように2種の独立した第二試薬6−1及び第二試薬6−2で構成され、それぞれが球状の乾燥試薬となった。これら2種の球状乾燥試薬を同一LAMP反応用0.2mlマイクロチューブ(栄研化学株式会社製)に入れた。
次に表8に従い、10pg 結核菌M. tuberculosisゲノムDNAを含む第一試薬溶液5〜6を作製し、それぞれ25μlを第二試薬5〜6に加えて乾燥第二試薬が溶解する時間を計測した。その結果、第二試薬5及び6は共に30秒以内に溶解した。
【0040】
【表7】

【0041】
【表8】

【実施例3】
【0042】
参考例1と同様に、LAMP反応用プライマーとして配列番号1から配列番号6に記載のオリゴヌクレオチドを化学的に合成した。次に、第二試薬7を、表9に示す成分を含むように作製した。試薬の乾燥は凍結乾燥にて行った。凍結乾燥は、溶液を独立バイアル脱着型96穴プレートのポリプロピレン製バイヤル(株式会社ハイペップ研究所製)にヘキサンを50μlずつ分注しておき、その中に2種の水溶液をそれぞれ入れて液滴を球状に形成させ、容器全体をヘキサン−ドライアイスにて冷却し溶液を凍結させた。このとき、ヘキサンの比重は1.0未満であり、水と混ざらないためにヘキサン中に水溶液の液滴が形成され、さらにヘキサンは凍結しないため、液滴のみが球状に凍結する。その後、凍結乾燥機(FD-1000型、東京理化器械株式会社製)にて16時間乾燥させた。
乾燥後、第二試薬7は球状の乾燥試薬となった。これをそのままLAMP反応用0.2mlマイクロチューブ(栄研化学株式会社製)に入れた。次に表10に従い、10pg 結核菌M. tuberculosisゲノムDNAを含む第一試薬溶液7を作製し、25μlを第二試薬7に加えて乾燥第二試薬が溶解する時間を計測した。その結果、第二試薬7は30秒以内に溶解した。
【0043】

【表9】

【0044】
【表10】

【実施例4】
【0045】
実施例2及び実施例3にて作製した、凍結乾燥した第二試薬6〜7をLAMP反応用0.2mlマイクロチューブ(栄研化学株式会社製)に入れた状態でシールし、45℃の条件で45日保管した。その後、10pg 結核菌M. tuberculosisゲノムDNAを含む第一試薬溶液6〜7を準備してそれぞれ25μlずつ第二試薬6〜7に加えて溶解したものを乾燥試薬6〜7と名付けた。乾燥試薬6〜7を速やかにLAMP反応専用リアルタイム濁度測定装置LA―200(テラメックス株式会社製)にセットし、64℃にて60分間反応させ、増幅反応中の濁度を測定した。
各サンプルのLAMP反応の濁度が0.1に達した時間を表11にまとめた。保存安定性加速試験において、45℃の条件で45日保管は、おおよそ室温(25℃)保存の6ヶ月、もしくは4℃保存の1年に相当することが知られている(Shelf Life of Medical Devices; FDA, 1991)。すなわち、第二試薬6〜7は、室温保存で安定であることを示している。
【0046】
【表11】

【実施例5】
【0047】
参考例1と同様に、LAMP反応用プライマーとして配列番号1から配列番号6に記載のオリゴヌクレオチドを化学的に合成した。次に、第二試薬8を、実施例2における第二試薬6−1及び第二試薬6−2と同じ組成([表7]参照)、同じ
方法により2種の独立した球状の乾燥試薬を得、これを第二試薬8−1及び第二試薬8−2とした。
これら2種の球状乾燥試薬を同一LAMP反応用0.2mlマイクロチューブ(栄研化学株式会社製)に入れた。この状態でチューブをシールし、45℃の条件で100日保管した。
【0048】
一方、第一試薬8を表13に示したように調製した後、ポリプロピレン容器に入れてこちらもシールし、45℃の条件で100日保管した。
【0049】
【表12】

【0050】
100日保管後、第一試薬8の25μlに、10pg 結核菌M. tuberculosisゲノムDNAを添加し、100日保管後の第二試薬8に加えて溶解したものを乾燥試薬8と名付けた。乾燥試薬8を速やかにLAMP反応専用リアルタイム濁度測定装置LA―200(テラメックス株式会社製)にセットし、64℃にて60分間反応させ、増幅反応中の濁度を測定した。
乾燥試薬8のLAMP反応の濁度が0.1に達した時間を表14に示した。保存安定性加速試験において、45℃の条件で100日保管は、おおよそ室温(25℃)保存の1年以上、もしくは4℃保存の4年以上に相当することが知られている(Shelf Life of Medical Devices; FDA, 1991)。すなわち、第一試薬8及び第二試薬8は、室温保存で安定であることを示している。
【0051】
【表13】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明を利用することにより、硫酸アンモニウムを必要とする酵素の反応試薬において、室温にて長期的に保存ができ、溶液の融解や分注の必要がなく、すぐに反応が開始できるという利便性に優れた酵素反応試薬を提供することが可能となり、臨床診断や検査の分野で好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】参考例1のLAMP反応で得られた、リアルタイム濁度測定結果。縦軸は、650nmでの吸光度を濁度として表してある。横軸は、64℃における反応時間を表している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも緩衝液またはその成分、酵素、硫酸アンモニウムを含む試薬からなり、緩衝液またはその成分と硫酸アンモニウムとの接触が減じられていることを特徴とする酵素反応試薬。
【請求項2】
硫酸アンモニウムと接触する緩衝液またはその成分のモル数を、硫酸アンモニウムのモル数の1/12以下とする請求項1に記載の酵素反応試薬。
【請求項3】
緩衝液またはその成分を含む乾燥試薬球(以下、第1乾燥試薬球)と、硫酸アンモニウムを含む乾燥試薬球(以下、第2乾燥試薬球)とからなり、第2乾燥試薬球中には、緩衝液またはその成分が含まれないか、あるいは、硫酸アンモニウムのモル数の1/12以下の緩衝液またはその成分が含まれることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の酵素反応試薬。
【請求項4】
隔膜によって緩衝液またはその成分と硫酸アンモニウムとの接触が減じられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の酵素反応試薬。
【請求項5】
酵素、緩衝液またはその成分、硫酸アンモニウムを含有する試薬キットであって、該試薬キットは、緩衝液またはその成分が収容される試薬収容容器(以下、第1容器)と、硫酸アンモニウムが収容される試薬収容容器(以下、第2容器)を含み、第2容器には、緩衝液またはその成分が含まれないか、あるいは、硫酸アンモニウムのモル数の1/12以下のモル数の緩衝液またはその成分が含まれ、酵素が少なくとも第1容器あるいは第2容器のいずれかに含まれることを特徴とする試薬キット。
【請求項6】
酵素が収容される試薬収容容器内の試薬群は乾燥し、酵素が収容されない試薬収容容器内の試薬群は液状であることを特徴とする請求項5に記載の試薬キット。
【請求項7】
酵素が収容される試薬収容容器内の試薬群は、凍結乾燥により乾燥され、球状多孔体を形成していることを特徴とする請求項6に記載の試薬キット。
【請求項8】
酵素が収容される試薬収容容器内に、安定化剤が含まれることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の試薬キット。
【請求項9】
安定化剤が糖であることを特徴とする請求項8記載の試薬キット。
【請求項10】
酵素がDNAポリメラーゼであることを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載の試薬キット。
【請求項11】
酵素、緩衝液またはその成分、硫酸アンモニウムを含有する試薬キットであって、該試薬キットは緩衝液またはその成分を含有する乾燥試薬球(以下、第1乾燥試薬球)と、硫酸アンモニウムを含有する乾燥試薬球(以下、第2乾燥試薬球)を含み、第2乾燥試薬球中には、緩衝液またはその成分が含まれない、あるいは硫酸アンモニウムのモル数の1/12以下の緩衝液またはその成分が含まれ、酵素が少なくとも第1乾燥試薬球あるいは第2乾燥試薬球のいずれかに含まれることを特徴とする試薬キット。
【請求項12】
酵素、緩衝液またはその成分、硫酸アンモニウムを含有する試薬キットの酵素活性を維持する方法であって、緩衝液またはその成分と硫酸アンモニウムの接触を減ずることを特徴とする酵素の活性維持方法。
【請求項13】
硫酸アンモニウムに接触する緩衝液またはその成分のモル数が、硫酸アンモニウムのモル数の1/12以下であることを特徴とする請求項12記載の酵素の活性維持方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−129727(P2006−129727A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−319595(P2004−319595)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】